JP4055689B2 - 連続鋳造方法 - Google Patents
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従来より、鋳片の凝固組織の制御、あるいは凝固末期に鋳片の表面から厚さ方向に機械的な圧下を加えることにより、前記のマクロ偏析欠陥を低減する方法が開示されている。
例えば、特許文献1には、鋳片の軸心部を含む20%以上の領域の鋳造組織を、電磁攪拌によって等軸晶化し、V偏析開始位置から凝固完了までの範囲において、鋳片を圧下する方法が開示されている。ここで開示された方法により等軸晶化する理由は、凝固組織をできる限り球状に近い形に制御することにより、結晶が互いに凝着合体するのを抑制し、流動性を高めることができるからである。この方法は、圧下を加えることにより、鋳片内部の熱収縮および凝固収縮を外部から補償し、マクロ偏析の根本的な原因を除去しようとするものである。上記の特許文献1のように鋳片内部の凝固収縮を補償する程度の鋳片の未凝固圧下法は、軽圧下法と称され、連続鋳造方法において広く適用されている。
一方、本発明者らは、上記の軽圧下法における圧下量を単に大きくする場合に発生する鋳片の内部割れの問題を解決し、未凝固部が存在する鋳片を鋳片厚さの5〜25%バルジングさせた後、等軸晶の生成開始前に、バルジング相当量の厚さを一対のロールにより圧下する方法ならびにその方法により得られる鋳片および厚鋼板を、特許文献2として提案した。
ここで、「板厚断面における曲げ変形能」とは、板厚方向に引張応力または圧縮応力が作用する曲げ変形を生じさせたときの変形能を意味する。
(a)スラブ鋳片の厚さ中心部の等軸晶の充填度を高く保ち、かつ、鋳片の厚さ中心部におけるC、Mn、PおよびSのそれぞれの成分含有率と鋳込み時の溶鋼の上記それぞれの成分の平均含有率との比(以下、「偏析比」という)が1以下となるように鋳造した場合には、そのスラブを圧延して得られる鋼板は、板厚断面における優れた曲げ変形特性を有する。
(b)上記(a)に示される鋳片は、湾曲型または垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて、未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後に、未凝固溶鋼を電磁攪拌し、さらに電磁攪拌位置よりも下流側で圧下ロールを用いて未凝固部を含む鋳片を圧下する連続鋳造方法により製造することができる。
「未凝固部厚さ」とは、鋳片内の未凝固部(固相率が0.8未満)の領域の鋳片厚さ方向の寸法をいう。
「上面等軸晶率」とは、鋳片の厚さ方向断面において、厚さ中心より上面側における等軸晶部分の占める面積率を百分率により表した値をいう。
1)対象とする連続鋳造機の型式
本発明の連続鋳造方法が湾曲型または垂直曲げ型連続鋳造機を対象とする理由について説明する。いわゆるスラブと称される横断面形状が矩形の鋳片を鋳造する連続鋳造機は、大別して、垂直型、湾曲型および垂直曲げ型の3種類が知られている。このうち、垂直型は鋳造機の機高が高く、工場建家を含めた設備費が過大となり、現在では一般的ではない。
また、本発明の方法は、鋳片上面側の等軸晶の生成を促進することをも狙っている。この観点では、鋳片に上面側および下面側が存在し、また、それらの領域において等軸晶の生成度合いに相違が発生するのは、湾曲型または垂直曲げ型連続鋳造機を用いて矩形断面の鋳片を鋳造する場合である。一方、垂直型連続鋳造機による鋳造の場合には、鋳片には上面側も下面側も存在せず、また、等軸晶の生成度合いも鋳片横断面内で、ほぼ均一である。
「電磁攪拌を、圧下ロールよりも上流の連続鋳造機の湾曲部または曲げ部で、かつ、前記湾曲部または曲げ部を形成する円弧の接線と水平面とのなす角度が30度以上となる位置において実施する理由」について以下に述べる。
本発明では、スラブ鋳片厚さの中心部に等軸晶を十分に形成させ、これを充填させることが重要である。その理由は下記のとおりである。すなわち、溶鋼は鋳型内に注入されて冷却され、鋳型に接する部分は凝固シェルを形成するが、凝固シェル間の溶鋼は、冷却によりスーパヒート(溶鋼温度から液相線温度を減じた温度差)が減じられるので、その溶鋼内には等軸晶の核または初晶が形成され、これらが浮遊している。この等軸晶の核または初晶は、溶鋼よりもわずかに密度が大きいため、時間の経過とともに溶鋼内を沈降して行く。
このときに電磁攪拌を実施しなければ、等軸晶は鋳片の下面側に沈降し、鋳片上面での等軸晶の充填度は低くなる。また、電磁攪拌のタイミングが遅い場合には、鋳片の下面側に沈降した等軸晶が下面側の凝固シェルに固着するので、等軸晶を残溶鋼内に分散させることはできなくなる。種々の試験を繰り返した結果、本発明において上面側の等軸晶の充填度を効果的に向上させるためには、連続鋳造機の湾曲部または曲げ部を形成する円弧の接線と水平面とのなす角度が30度以上となる位置で電磁攪拌を実施すべきであることが判明した。
上記円弧の接線と水平面とのなす角度が30度未満では、鋳片は水平に近くなり、等軸晶の充填度を十分に確保できなくなる。上記角度の上限は、垂直曲げ型連続鋳造機においては、垂直部における90度であり、湾曲型連続鋳造機では、それに近い値となる。しかしながら、その場合には、いずれも鋳型に近い位置における攪拌となり、鋳造後の攪拌のタイミングが早期過ぎることから、電磁攪拌により一旦は鋳片内に分散された等軸晶が再度沈降する可能性がある。したがって、上記角度は60度程度以内とするのが好ましい。
なお、後述するとおり、上記角度が30度以上の場合には、鋳片の鋳片の上面等軸晶率は10%以上になることが判明した。
3)鋳片のバルジング後の圧下および水平部への圧下ロールの配置
「鋳片を鋳造中に一旦バルジングさせた後に圧下する理由」は、鋳片を一旦バルジングさせることにより、圧下ロールが短辺の凝固シェルを潰すことなく圧下が可能となり、比較的小さな圧下力により大きな圧下効果を得ることができるからである。
圧下ロールを連続鋳造機内の水平部に配置する理由は、下記のとおりである。すなわち、第1の理由は、中心部固相率が0.1〜0.6となる凝固末期において圧下を実施するためには、連続鋳造機の下流側に配置する必要があるからである。また、第2の理由は、大きな力を必要とする鋳片圧下の反力をセグメントを通して設備の基礎部により支持するためには、圧下ロールを水平部に配置する方が、湾曲部や垂直部に配置するよりも安価で、かつ、設備構造的にも無理を生じないからである。
なお、水平部に配置する圧下ロールは、上下一対の圧下ロール対とするのが好ましい。偏析の集積を効果的に回避できるからである。複数の圧下ロール対を用いてもよいが、その場合には、圧下ロール対で圧下する毎に、本発明の連続鋳造方法で規定する圧下条件を満たすこととする。
「鋳片の中心部固相率が0.1〜0.6の領域において、圧下量D1と未凝固部厚さD2との比である圧下比(D1/D2)の値を0.2〜0.6の範囲に調整して圧下する理由」について下記に説明する。なお、未凝固部厚さは、鋳片内の固相率が0.8未満の領域の鋳片厚さ方向の寸法をいう。
中心部固相率が0.6を超えて高くなると完全凝固に近い状態となるので、中心部の残溶鋼を絞り出すには過大な力が必要となり、前記の絞り出しは事実上困難となる。一方、中心部固相率が0.1未満では、中心部の流動性は良好で圧下は容易であるが、圧下後に再度、厚さ中心部に成分偏析が生成する。
また、圧下比(D1/D2)が0.2未満では、圧下量が不十分であり、成分偏析が残存する。他方、圧下比が0.6を超えて大きくなると、負偏析の程度が大きくなり過ぎ、後述するとおり、鋼板の曲げ加工性などがかえって悪化する。
ここで、圧下比が0.2〜0.6の範囲は、凝固界面(固相率が0.8となる面)が圧着する条件ではないが、併せて圧下時の中心部固相率を0.1〜0.6とすることにより、未凝固液相中に分散する等軸晶が、上下の凝固界面が近づくにつれて、あたかもクッション材のように応力伝達の媒体的役割を演じ、両凝固界面内が圧縮されて適度に残溶鋼が絞り出される状態となる。この適度な状態が、圧延後に得られる鋼板に良好な加工性を与える。そこで、鋳片圧下時の中心部固相率の適正範囲を0.1〜0.6とし、かつ、圧下比の適正範囲を0.2〜0.6とした。
5)鋳片および鋼板の厚さ中心部のC、Mn、PおよびSの偏析比
前記の鋳片を圧延することにより得られた「鋼板の板厚中心部におけるC、Mn、PおよびSの偏析比が1以下である鋼板」の意義について述べる。
従来の通常の鋼板では、鋳片中心部にもともと存在した中心偏析やV偏析が圧延方向に延伸した帯状の偏析となって存在している。このような鋼板に例えば、建築材料用途として曲げ加工を加えた場合には、偏析部分と他の部分の強度差から偏析境界に応力集中が発生し、割れが発生する場合がある。また、鋼中のMnとSとによって鋳片段階で生成した粗大なMnSの介在物が残存して割れの起点となり易い。
一方、中心部の成分が本発明で規定する範囲内に調整されている場合には、鋼板中心部は軽い負偏析となり、通常の鋼板のような帯状の偏析は無く、曲げ加工性は良好である。これらの成分元素の偏析比が1以下であることは、成分の濃化溶鋼がデンドライト樹間から排出された結果、顕著なマクロ偏析が存在しないことを示している。
「鋳片の厚さ中心部を挟む上面側および下面側の合計で、少なくとも10mmの範囲内とする理由」は、上記の上面側および下面側の合計値が10mm未満では、厚さ中心部を挟むその範囲内の成分元素の偏析比が1以下であっても、鋳片の段階で大きな偏析が発生した場合には、鋼板におよぼす負偏析の効果が小さくなるからである。厚さ中心部を挟む上面側および下面側の合計値の上限は特に規定しないが、未凝固圧下は凝固末期に実施される必要があることから受ける制約があるので、好ましくは、30mm以内である。
「鋳片の上面等軸晶率を10%以上とする理由」は下記のとおりである。すなわち、残溶鋼中に分散された等軸晶は、鋳片厚さ中央部の中心偏析やV偏析を、連結したものでなく厚さ方向に分散させ不明瞭化させるのに効果的であり、かつ、前記4)の条件で未凝固圧下された時に分散した偏析が排出される効果も加わって、鋳片における偏析の集積を回避するのに効果を発揮する。鋳片の上面等軸晶率が10%未満では、中心偏析やV偏析を形成する濃化溶鋼が充分に分散されずに部分的に集積することにより、偏析粒であるセミマクロ偏析を形成しやすくなり、上記の効果が得られない。そこで、上面等軸晶率の適正範囲を10%以上とした。このように鋳片における偏析の集積を回避することにより、鋼板の曲げ加工時の偏析部への歪みの集中およびそれに基く割れを回避することが可能となる。
(試験方法)
1)鋳造方法
図1に、本試験に用いた連続鋳造装置の縦断面を模式的に示す。鋳造試験には垂直曲げ型の連続鋳造機を用い、鋳片厚さが235mmで、成分組成が質量%で、C:0.15%、Mn:0.5%、P:0.018%およびS:0.004%の500N/mm2級鋼を鋳造した。鋳片幅は一律に1800mmとし、鋳造速度は0.75〜0.95m/minとし、二次冷却の比水量は1.5リットル/kg−steelとした。
浸漬ノズル1を経て鋳型3に注入された溶鋼4は、鋳型3および、その下方の図示しない二次冷却スプレーノズル群から噴射されるスプレー水により冷却されて凝固シェル5を形成し鋳片8となる。このとき、鋳片8は、その内部に未凝固部10を保持したまま、ガイドロール群6により支持され、圧下ロール7により圧下されて、ピンチロール群11により引き抜かれる。圧下口一ル7はメニスカスから21mの位置に配置され、圧下ロールの直径は450mm、圧下力はロール当たり最大3.43×106Nである。図1には、本発明の連続鋳造方法を垂直曲げ型連続鋳造機に適用する場合を示したが、本発明の方法は、同様に湾曲型連続鋳造機などにも適用できる。
ガイドロール群6は、同図中のB1−B2間の矢印で示す範囲において、その鋳片厚さ方向の間隔を引抜方向に段階的に増加できるように配置されており(以下、「バルジングゾーン」と称する)、この区間において、内部に未凝固部10が存在する鋳片をバルジングさせる。さらに、その下流側に配置された圧下ロール7により、鋳片の前記バルジング相当分を圧下する。なお、バルジング量は、ガイドロール群6の厚さ方向の間隔を制御することにより調整可能である。本試験においては、バルジングの開始位置は一律にメニスカスから約9mの位置とし、バルジング量は25mmに設定した。
また、タンディッシュ内の溶鋼の過熱度(△T)は、40〜50℃の範囲で、ほぼ一定とし、圧下時の中心固相率および末凝固厚さは、鋳造速度を変えることにより調整した。
図2は鋳片のマクロ組織および成分偏析状況の調査用サンプルの採取方法を示す図である。各鋳造試験により得られた鋳片から鋳造方向に長さ1mのサンプルを切り出し、長さ方向の両端部および中央部から3枚の横断面マクロ観察用の板サンプル12を切り出して調査に供した。それぞれの板サンプル12について鋳片幅方向の端部からの凝固部約250mmを除去し、鋳片上面側の等軸晶部分の占める面積率を調査し、その面積率の平均値を求めて上面等軸晶率とした。
長さ8mの鋳片を採取し、通常の加熱炉で1200℃に加熱した後、圧延温度1200〜700℃の間で熱間圧延を行って厚さ30mmの厚鋼板とした。その鋼板横断面の板幅中央(以下、「C」と記す)、板幅の1/4の位置(以下、「1/4W」と記す)および板幅の3/4の位置(以下、「3/4W」と記す)から、それぞれ鋼板の全板厚を含む板厚方向(サンプル長さ)30mm×板幅方向(サンプル幅)32mm×板の圧延方向(サンプル厚さ)9mmの板厚断面のスライスサンプルを合計3個切り出した。
また、鋼板の長手方向の板厚断面についても、同様にして、鋼板の長手方向を4等分した中央側の3箇所の位置(以下、「1/4L」、「1/2L」および「3/4L」と記す)で、板幅方向中央部から板厚断面のスライスサンプルを合計3個切り出した。
図3は、板厚断面からの採取サンプルの曲げ試験方法を示す図である。前記の板厚断面スライスサンプル14の板厚方向(サンプル長さ)の両端に幅32mm、長さ60mmおよび厚さ9mmのC含有率が0.2質量%の均質化処理を行った鋼板15を溶接した。この両端を固定して、サンプルの板厚中心部に曲率半径が1.5mmの円弧を有する幅32mmの金具を押し当て、サンプルが金具の円弧形状に沿うまで、紙面に垂直な方向にサンプル全体を曲げ、このときの割れの発生の有無を調査した。
なお、割れ発生の有無については、割れの発生がない場合を「割れの発生なし」として○印により、割れ長さの合計が5mm未満の場合を「軽微な割れ発生」として△印により、そして、割れ長さの合計が5mm以上の場合を「割れ発生」として×印により区分した。
(試験結果)
上述の試験条件および試験結果をまとめて表1に示した。ここで、中心部固相率は、圧下開始時の中心固相率を示した。
比較例5および6の試験では圧下量を大きくし、圧下比の値を0.6超えとした。その結果、鋳片ではマクロ偏析の残存は無く、鋼板の板厚断面サンプルにおいても板厚中心部に明瞭な負偏析の帯が観察された。その結果、このサンプルの板厚断面曲げ試験を行ったところ、板厚中心部の負偏析帯では延性が大きいことから割れは発生せずに、負偏析帯とその外側との境界部に割れが集中した。
比較例10および12の試験では、鋳片圧下時の中心部固相率が0.1未満と小さかったので、成分偏析が残存した。これは、圧下時の鋳片中心部の液相量が多かったために、圧下後も液相部分が残存し、それがさらに凝固するときに成分偏析を発生したためと考えられる。その結果、鋼板の板厚断面曲げ試験においては、サンプルの板厚中心部に割れが発生した。
以上の試験結果により本発明の優れた効果が確認された。
2:メニスカス、
3:鋳型、
4:溶鋼、
5:凝固シェル、
6:ガイドロール、
7:圧下ロール、
8:スラブ鋳片、
9:電磁攪拌装置、
10:未凝固部、
11:ピンチロール
12:横断面マクロ観察用の板サンプル、
13:マッピング分析(MA)用サンプル、
14:板厚断面スライスサンプル、
15:鋼板
Claims (2)
- 湾曲型または垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて横断面形状が矩形の鋳片を鋳造する際に、鋳片内部の未凝固溶鋼を電磁攪拌するとともに、未凝固部を含む鋳片をバルジングさせた後に、圧下ロールを用いて未凝固部を含む鋳片を圧下する連続鋳造方法であって、
前記連続鋳造機の湾曲部または曲げ部を形成する円弧の接線と水平面とのなす角度が30度以上となる湾曲部または曲げ部の位置において、鋳片内部の未凝固溶鋼を電磁攪拌するとともに、
電磁攪拌を行う位置よりも下流側で前記連続鋳造機の水平部に圧下ロールを配置し、
鋳片の中心部固相率が0.1〜0.6の領域において、圧下量D1(mm)と圧下時の未凝固部厚さD2(mm)との比である圧下比(D1/D2)の値を0.2〜0.6の範囲に調整して未凝固部を含む鋳片を圧下することを特徴とする連続鋳造方法。 - 連続鋳造された鋳片の上面等軸晶率が10%以上で、
鋳片の厚さ中心部を挟む上面側および下面側の合計で、少なくとも10mmの範囲内におけるC、Mn、PおよびSの偏析比がいずれも1以下であり、かつ、
該鋳片を熱間圧延して得られた鋼板の板厚断面における曲げ試験で割れが発生しないことを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造方法。
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