JP2003310153A - 野菜用鮮度保持剤 - Google Patents

野菜用鮮度保持剤

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JP2003310153A JP2003039820A JP2003039820A JP2003310153A JP 2003310153 A JP2003310153 A JP 2003310153A JP 2003039820 A JP2003039820 A JP 2003039820A JP 2003039820 A JP2003039820 A JP 2003039820A JP 2003310153 A JP2003310153 A JP 2003310153A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】カット野菜、冷凍野菜、調理野菜などの鮮度を
保持し、簡便性、合理性、経済性を高めるため、加工調
理に適合する野菜用鮮度保持剤を提供することを目的と
する。 【解決手段】白コショウ冷浸抽出物と水を含水エタノー
ル水溶液に溶解してなり、全重量に対して、白コショウ
成分0.1〜75%(重量)、含水エタノールが25〜99.9%で
あることを特徴とする野菜用鮮度保持剤。本発明によれ
ば、野菜の鮮度保持に関して静菌、除菌効果に優れ、風
味においても食品等に影響を及ぼさず、同時に変色防止
にも優れた鮮度保持剤を提供することができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は白コショウ冷浸抽出物を
含有する野菜用鮮度保持剤及びこの野菜用鮮度保持剤を
用いた野菜の鮮度保持方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年の食生活においては、おいしさを求
めると同時に、買いやすさ、扱いやすさといった利便性
へのニーズが高まっている。野菜においても、カット野
菜、冷凍野菜、発酵野菜、レトルト野菜加工品、野菜缶
詰等の加工された野菜製品を求める傾向が強くなってき
ている。しかし、加熱していない野菜類は、流通過程に
おける腐敗や変色といった鮮度低下が早く、長期間の保
存が大きな問題となっている。
【0003】従来、加熱していない野菜類における腐敗
や変色防止のためにエタノール製剤が多く使用されてい
る。しかし、エタノールをそのまま野菜に利用すると、
風味に対する影響、食品の物性に及ぼす影響、揮散性な
どの問題があり、エタノールの添加量は制限されてい
た。そのために野菜における腐敗や変色防止の効果が満
足に得られないことがあった。
【0004】食品の風味影響等を及ぼさない範囲のエタ
ノールの添加量で満足しうる効果を発揮させるために、
エタノールと種々の物質を併用するエタノール製剤が、
従来より提供されている。これらのエタノール製剤の例
として、例えば、エタノール濃度60%容量以上で、クエ
ン酸をはじめとする有機酸や無機酸などの酸性物質の併
用(特許文献1)、エタノール、酸性物質、脂肪酸エス
テルとの併用(特許文献2)、エタノール、酸性物資、
脂肪酸の併用(特許文献3)、エタノール、ポリリジ
ン、ビタミンB1エステルとの併用(特許文献4)、リゾ
チーム300〜500ppmを含有するエタノール水溶液(特許
文献5)、エタノール50%水溶液、リゾチーム、低級脂
肪酸エステルを併用する方法(特許文献6)等が挙げら
れる。上記の物質以外にもアジピン酸、イタコン酸、グ
ルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フィチン酸、フマ
ル酸などの有機酸およびその塩類、食塩、炭酸ガス、窒
素ガス、グリシン、カプリン酸、カプリル酸、ラウリル
酸などの低級脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルや
ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの乳化剤、リゾチー
ム、ポリリジン、しらこたん白、プロピレングリコー
ル、グリセリン、糖アルコールなどの糖類などさまざま
な種類の組合せが検討されたが、効果のある菌の種類が
制限されていたり、微生物抑制の目的に限定されてお
り、変色防止には充分な効果を得られなかったりと満足
すべきものではなかった。
【0005】また、野菜の変色防止剤としては、例え
ば、L-アスコルビン酸ナトリウムとクエン酸ナトリウム
を併用するもの(特許文献7)、L-アスコルビン酸と有
機酸及び塩化ナトリウム等を併用するもの(特許文献
8)、コウジ酸、食塩及びミョウバンを併用するもの
(特許文献9)等を使用することが知られている。上記
に記載した方法では、変色防止の効果は充分ではなかっ
たり、野菜における変色防止効果に関しては非常に高い
効果を有しているが、微生物を抑制する日持ち向上に関
しては満足な効果を有するものではなかった。
【0006】一方、コショウは古くから食品の腐敗防止
のために使用され、その抗菌作用は辛味成分の一つであ
るピペリンに起因すると考えられてきた。しかし、コシ
ョウ抽出物の抗菌作用は他の香辛料と比較して顕著なも
のではなく、抗菌作用が示される菌の種類も限定されて
いた。また、抽出の条件としては加熱抽出が一般的であ
り、抽出方法と抗菌作用との関係については研究されて
いないという問題があった。
【0007】例えば、シナモンやユーカリプトスが広範
囲の微生物に対して抗菌作用を示すのに対して、黒コシ
ョウの精油はSarcina luteaに対してのみ抑制効果を有
し、糸状菌(例えば、Saccharomyces cerevisiae, Cand
ida krurei, Rhizopus nigricans, Mucor mucedo, Peni
cillium digitatumなど)には抑制効果を示さなかった
(非特許文献1)。また、黒コショウの精油は乳酸菌(L
actobacillus casei(非特許文献2)およびLactobacillu
s plantarum(非特許文献3))に対しても抑制効果を示
さなかった。微生物の生育に対するコショウ抽出物の抑
制効果の他の例としては、Streptococcus pygenes, Hae
mophillus influenzae, Moraxella catarrhalisに対す
る黒コショウの精油及びオレオレジンの抗菌活性(微生
物生育阻止濃度100μg/g)(非特許文献4)、黒コショ
ウおよび白コショウを含水アルコールでインフージョン
(煮出し)濃縮した抽出物の、酵母(Saccharomyces ce
revisiae、Debaryomyces hansenii、Candida utilis、C
ephalosporium spp.、Scopulariopsis brevicaulis)に
対する抗菌効果(非特許文献3)、ならびに、室温でエ
タノール抽出して得た白コショウ抽出液のボツリヌス菌
に対する阻害効果(発育阻害濃度125μg/g)(非特許文
献5)が報告されているが、これらはいずれも広範囲の
微生物に対して抑制効果を有するものではなく、また抽
出方法と微生物抑制効果との間の関係を明らかにするも
のでないという問題があった。
【0008】一般的には精油の調製方法は水蒸気蒸留、
アルコール熱還流方法、有機溶剤抽出、超臨界抽出法な
どが知られており、例えば、コショウ、ナツメグ、チリ
ペッパーを超臨界二酸化炭素抽出したときのコショウに
含まれるピペリン、精油、水分などの数値が示されてい
る(非特許文献6)が、これらの数値は香りの特長を記
述するものであり、野菜の鮮度保持のために最適な調製
方法を検討した事例は報告されていない。冷浸抽出法に
ついては抽出温度−20℃〜5℃でアルコール性溶媒を用
いアリウム属植物のエキスを抽出する方法が開示されて
いる(特許文献10)。しかし、この報告は、オニオン
などの野菜の抽出物を濃縮して得たものについて、風味
が改善された記述が見られるものの、カレーやシチュー
などの加工食品に利用することに限定されており、新鮮
な野菜及びその野菜加工品を対象に鮮度の保持効果を検
討した事例報告されていないのが現状である。このよ
うに、コショウ抽出方法と鮮度の保持効果との関係につ
いての詳細は知られていなかった。
【0009】さらに、これまでのコショウ抽出物の研究
には黒コショウ加熱抽出物の事例が多く、白コショウの
抽出物に着目した例は少なく、また冷浸抽出物の効果に
ついても知られていなかった。それゆえ、従来のコショ
ウ抽出物では、効果のある菌の種類が制限されていた
り、変色防止には充分な効果を得られなかったり、また
はコショウ独特の臭気の問題等があり、野菜の鮮度保持
剤としては満足すべきものではなかった。
【0010】
【特許文献1】 特公昭58-2668号公報
【特許文献2】 特開昭58-111669号公報
【特許文献3】 特公昭59-45643号公報
【特許文献4】 特開平5-219925号公報
【特許文献5】 特公昭60-35104号公報
【特許文献6】 特公平6-6049号公報
【特許文献7】 特開平3-277230号公報
【特許文献8】 特開平6-181684号公報
【特許文献9】 特開平9-75033号公報
【特許文献10】 特開2002-186449号公報
【非特許文献1】 芝崎 勲、笹島正秋、天然物による
食品の保蔵技術、食品化学新聞社、80-82、1985
【非特許文献2】 Subrahmanyan et al:J.Sci.Res.,Se
ct.C.16,240(1957)
【非特許文献3】 Galli, A., Franzetti,.and Brigug
lio, D. : Industrie alimentrai,468 (1985))
【非特許文献4】 田中康雄ら、日本食品化学学会誌、
Vol.9(2),67-76(2002)
【非特許文献5】 Huhtanen,c.N.,J.Food Prot.,43,19
5-200(1980)
【非特許文献6】 Hubert et al:Angew.Chem.,Int.Ed.
Engl.,17,710(1978)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、加熱してい
ない野菜向けに、広範囲の微生物に対する生育抑制効果
に優れ、風味においてもその野菜を含む食品等に影響を
及ぼさず、同時に変色防止にも優れた鮮度保持剤を提供
することを目的とする。
【0012】
【課題を達成するための手段】本発明者は、鋭意研究を
重ねたところ、白コショウ冷浸抽出物が、広範囲の微生
物に対して静菌、除菌効果を有し、野菜の変色を有意に
防止することを確認した。本発明は、これらの知見に基
づいて完成された野菜用鮮度保持剤に関するものであ
る。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明は、白コショウ冷浸抽出物
を含有することを特徴とする鮮度保持剤に関する。本発
明の野菜用鮮度保持剤とは、冷蔵庫(1℃〜15℃)
から室温(15〜30℃付近)にそのままあるいは食
塩、ドレッシング、マヨネーズ、調味料などとの使用、
不使用に関わらず、保存されたときに、野菜に付着する
微生物を抑制する、または、野菜の腐敗や変敗を防止
し、かつ野菜の本来の色調を保持し、野菜の風味を向
上し、変色を防止するものである。それゆえ、本発明の
鮮度保持剤は、特定の微生物に限定されることなく、広
範囲の微生物の生育を抑制する作用を有する一方、野菜
そのものの風味や色調に影響を与える成分を含有しない
ものである。野菜の種類としては、アブラナ科(ダイコ
ン、キャベツ、ハクサイ、ワサビ)、キク科(レタス、
菊花)、セリ科(ニンジン、金時ニンジン、セロリ、パ
セリ)、ナス科(トマト、トウガラシ、パプリカ、ジャ
ガイモ、ナス)、アオザ科(ホウレンソウ)、ユリ科
(タマネギ、らっきょう、ニンニク、ネギ、ニラ)、ウ
リ科(キユウリ)、等の野菜が挙げられる。中でも、ア
ブラナ科の野菜はその効果の点より望ましい。
【0014】本発明の野菜用鮮度保持剤は、上記に記載
した科の野菜が含まれている、鮮度低下を防止する必要
のある野菜に使用することができる。具体的には、加熱
工程を経ていないレタス、キャベツ、タマネギ、刺身用
大根のツマ等のカット野菜、サラダ野菜や弁当、朝食な
どの付け合わせ野菜、小皿料理などの簡便調理野菜、凍
結野菜、浅漬け等の野菜が挙げられる。本発明の野菜用
鮮度保持剤を用いて鮮度低下防止処理を行った野菜は、
様々な食品に使用することができ、例えば、野菜が含ま
れている飲料や栄養強化飲料、スポーツドリンク、果汁
入り野菜飲料、炭酸飲料等の野菜入り飲料類、シャーベ
ット、アイスクリーム等の氷菓・冷菓類、スナック菓
子、和菓子、洋菓子等の菓子類、製パン、惣菜パン、水
畜・畜産練り製品、しゅうまい、ぎょうざ、煮豆等、レ
トルトカレー、レトルト加工野菜、レトルト煮物野菜等
の各種野菜加工品が挙げられる。
【0015】本発明に使用する白コショウはコショウ科
(Piperaceae)コショウ(Piper nigrum LINNE)の実の完
熟果(黄〜赤色)を用いる。この完熟果を2〜3日間湿
潤状態で積み重ねるか、または麻袋に詰めて、約1週間
流水に浸漬し、外皮を除去し、灰色の内皮に包まれた果
実を水洗し、数日乾燥させたものである。
【0016】本発明の冷浸抽出は、1〜20℃で1〜1
0時間、好ましくは1〜10℃で2〜5時間、最も好ま
しくは4℃で3時間、白コショウを溶媒に浸漬して行
う。この冷浸抽出によって、従来多く用いられている加
熱還流抽出とは異なる成分を抽出することができる。冷
浸抽出によって抽出される成分には、抗菌作用に関わる
成分が含まれ、またこの成分には食品の風味を損なうよ
うな成分は含まれていない。抽出に使用される溶媒とし
ては、含水エタノール、ならびにプロピレングリコー
ル、グリセリン、キシリトール、ソルビトールなどの糖
アルコール、およびこれらの水溶液等が挙げられるが、
本発明の野菜用鮮度保持剤としての効果の点より、含水
エタノールが特に好ましい。含水エタノールとしては、
水・エタノールの混合物の他、ウォッカ、焼酎等の蒸留
酒や清酒を利用することができる。含水エタノール中の
エタノールの配合量は10〜60%の範囲が望ましい。10%
より少ないと含水エタノールの抗菌効果は乏しく、60%
より多くてもコショウからの有効成分の抽出効率な成分
量などの効果は変わらず、またエタノール製剤の取り扱
いに注意が必要となるからである。具体的な抽出方法と
して、例えば、白コショウの乾燥物を適当な大きさに裁
断または粉砕したものを含水エタノールに投入して浸漬
し、さらにホモジナイザー、ミキサーなどの溶解、撹拌
装置を用いて分散、混れんあるいは乳化させた後、ろ紙
やフィルターろ過、遠心分離等により固液分離する方法
が採用される。又、抽出は通常常温常圧の条件下で行う
が減圧や加圧状態あるいは、適切な温度条件下で行うこ
ともできる。このようにして得られる抽出液は抽出液を
含むそのまま状態のままで用いることができるが、濃縮
液として、あるいはケイソウ土、活性炭処理などでコシ
ョウに由来する不要な色素を除去したものを使用する方
がより好ましい。必要によりクロマトグラフィーを用い
てさらに分離精製抽出することもできる。
【0017】本発明の野菜用鮮度保持剤は、白コショウ
抽出物を0.1〜75%(乾固物換算重量)、含水エタノー
ルを25〜99.9%含有する。好ましくは、本発明の野菜用
鮮度保持剤は、白コショウ抽出物を1〜50%(乾固物換
算重量)、含水エタノールを30〜80%含有する。より好
ましくは、本発明の野菜用鮮度保持剤は、白コショウ抽
出物を10〜20%(乾固物換算重量)、含水エタノールを
40〜60%含有する。
【0018】本発明の野菜用鮮度保持剤の添加量は、野
菜全体に対して0.025〜75重量%、好ましくは0.05〜50重
量%である。0.025重量%未満では抗菌効果が十分に発揮
できず、50重量%より多く配合した場合、野菜の風味よ
りもコショウの風味が強くなり、添加したコショウに期
待する鮮度保持効果は増大しない。
【0019】本発明の鮮度保持剤に併用する添加物は、
コショウの効果を妨げない範囲において、砂糖、果糖、
ぶどう糖、デキストリン、環状オリゴ糖などの糖質、ソ
ルビトールなどの糖アルコール、グリセリン脂肪酸エス
テル、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤、リゾチー
ム、ポリリジン、しらこたん白などのたんぱく質系保存
料、キトサン、キサンタンガムなどのガム質、ソーマチ
ン、スクラロース、アリテームなどの甘味料、清酒、焼
酎などの蒸留酒、油脂、グリシン、酢酸ナトリウムなど
製造用剤を添加してもよい。また、本発明の鮮度保持剤
の形態は、錠剤、顆粒、粉末状、液状、ペースト状等い
ずれの形態で使用しても良い。例えは、デキストリン、
シクロデキストリン、糖アルコールなどの賦形剤を加
え、凍結乾燥、噴霧乾燥、凍結粉砕などの手法を用いて
粉末化して使用することもできる。
【0020】本発明の野菜用鮮度保持剤を食品へ添加す
る方法については、特に制限はなく直接食品に添加、練
りこみ、噴霧あるいは浸漬する方法等、従来公知の方法
を使用することができる。添加時期に関しては、生野菜
あるいは野菜をカットした状態などの調理加工、あるい
は食品加工の前処理段階で使用することができる。
【0021】
【実施例】以下、本発明の内容を以下の実験例及び実施
例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に
何ら限定されるものではない。
【0022】
【実験例1】白コショウ冷浸抽出物の調製方法 乾燥した白コショウ500gを粉砕し、これに95%エタノー
ルと水とを1:1の割合で混合し調製した含水エタノー
ルを600ml添加し、冷蔵庫(4℃)で3時間抽出を行う。こ
れにケイソウ土100gを加えろ過した後、約400mlの淡黄
色清澄なろ液を得る。このろ液の固形分はBx15(アタゴ
社製糖度計による測定値)であった。この白コショウ冷
浸抽出物の風味は白コショウ特有の香りを有し、イオン
交換水で約100分の1に希釈した溶液の味、風味は刺激
臭が少なく、まろやかな淡白なものであった。
【0023】
【実験例2】白コショウ冷浸抽出物の香気成分分析 白コショウ冷浸抽出物の香気成分を分析する目的で、実
験例1の白コショウ冷浸抽出物100gを量りとり、エーテ
ル500mlに分配した後、エーテルをエバポレーターで留
去し、精油0.25gを取得した。この精油を下記条件のガ
スクロマトグラフィーにかけた。結果を図1に示す。な
お、比較対照として、白コショウ500gを用いて、これに
95%エタノール600mlを添加し、アスピレーターで減
圧濃縮をしながら、80℃の温度条件下で加熱しながら還
流する抽出方法を用いて、得た白コショウ還流抽出物10
0gを用いて、上段と同じ方法で精油成分を分離して、同
様にGC-MS分析を行った。結果を図2に示す。
【0024】<ガスクロマトグラフの測定条件> 使用した機器:HP6890GC、HP5973MSシステム カラム:J&W DB-WAXキャピラリー 径60.0mm×長さ250
μm、膜厚0.25μm 温度:開始温度50℃5分間保持(3℃/min上昇)→220℃
(75min) 注入量:1μl-splitless 分析結果から、本実験例で調製した白コショウ冷浸抽出
物は、リナルール(linalool)、p−シメン-8-オール
(p-cymen-8-ol)、p-メンタ-1,5-ジエン-8-オール(p-
mentha-1,5-dien-8-ol)等のテルペンアルコール類、ベ
ルベノン(verbenone)、2,6,6-トリメチル-2,4-シクロ
ヘプタジエン-1-オン(2,6,6-trimethyl-2, 4-cyclohept
adien-1-one)等ケトン類及びheliotropine等のアルデ
ヒド類が多く見受けられた。特にシトラス、フローラル
香りを持つ、リナルールと甘いスパイシ、フローラル香
りを持つヘリオトリピン(heliotropine)が比較対照の
熱還流抽出物に2倍程多く検出され、清涼で刺激の少な
い香気の特長を有していた。一方、比較対照に用いた白
コショウ熱還流抽出物は、テルペン類、アルファーピネ
ン(alpha-pinene)、β-ピネン(beta-pinene),デルタ-
3-カレン(delta-3-carene)、リモネン(limonene)、
β-カリオフレイン(beta-caryophyllene)及び酸類(ブ
チリン酸(butyric acid)、バレリック酸(valeric ac
id)、ヘキサノイック酸(hexanoic acid)が白コショ
ウ冷浸抽出物より多く見受けられる。特に熱還流抽出物
の不快臭に寄与していると思われる酸類は白コショウ冷
浸抽出物に検出されなかった。このため、野菜の鮮度保
持には、冷浸抽出方法による白コショウ冷浸抽出物が好
ましい特長を与えることがわかった。
【0025】
【実験例3】実験例1に記載する方法で取得した白コシ
ョウ冷浸抽出物を用いて、下記の抗菌・防カビ試験を行
った。具体的には、細菌類として、ブドウ球菌(Staphy
lococcus aureus)、ミクロコッカス菌(Micrococcus l
uteus)、乳酸菌(Lactobacillus brevis, Lactobacill
us plantarum、Leuconostoc mesenteroides)、緑膿菌
(Pseudomonas aeruginosa)、及び腸内細菌(Proteus
vulgaris)を用い、真菌類としては、麹カビ(Aspergil
lus属[Aspergillus niger])、毛カビ(Mucor属[Muc
or recemensus f.sp.spharosporous])及び黒色真菌
(Cladosporium属[Cladosporium colocasiae])のカ
ビ類、並びにカンジダ菌(Candida属[Candida utili
s])、ピキア菌(Pichia属[Pichia anomala])、サッカ
ロミセス菌(Saccharomyces 属[Saccharomyces cerevis
iae])の酵母菌を用いた。試験方法は以下の通りとし
た。
【0026】<抗微生物試験方法>各種菌は、予め、被
検菌(グラム陽性菌、陰性菌)(表1中、1)〜4))
はニュートリエントブロスを用い、被検菌(乳酸菌)
(表3中、1)〜3))はMRS培地を用いてそれぞれ3
5℃で1日間の前培養を行った。また被検菌(酵母)
(表1中、5)〜7))はMRS培地を用い、25℃で1
日間の前培養を行った。次いで各菌前培養に使用した培
地と同じ組成成分に白コショウ冷浸抽出物を系列希釈し
て配合して調製した培地(白コショウ冷浸抽出物添加配
合濃度;100、200、400、800及び1600μg/ml培地)に、
上記の前培養した各種菌を103〜104個/mlとなるように
添加(1ml/シャーレ)した。次いで、被検菌(グラム
陽性菌、陰性菌)(表1中、1)〜4))は35℃で、被
検菌(乳酸菌)(表3中、1)〜3))は嫌気ジャー内3
5℃で、及び被検菌(酵母)(表1中、5)〜7))は25
℃で、それぞれ24〜96時間培養し、各種菌の生育状況を
調べ、最小阻止濃度(MIC)を求めた。なお、菌の生育
を阻害するために必要な白コショウ冷浸抽出物の培地濃
度(μg/ml)を、最小生育阻止濃度とした。結果を表1
に示す。白コショウ冷浸抽出物は実験に用いたグラム陰
性菌、グラム陽性菌、および酵母に対して生育を阻害し
た。一方、黒コショウ抽出物(加熱抽出)では、これら
の種類に属する微生物に対して生育阻害を示さなかった
(非特許文献1及び非特許文献2)。
【0027】表1.各種微生物と酵母の阻止濃度
【0028】
【実験例4】カビについては、下記のようなろ紙法によ
る殺胞子活性測定方法を用いた。すなわち、ろ紙法によ
る白コショウ冷浸抽出物蒸気の殺胞子活性の測定による
判定は次のように行った。カビ(表2 1)−3))の
胞子懸濁液を調製し、滅菌した10×10mmのろ紙4枚に、
胞子の懸濁液をそれぞれ0.01mlずつ滴下し、乾燥させ
る。滅菌した30×30mmのろ紙に試料2をそれそれの添加
量の段階(100、200、400、800及び1600μlの段階的に
2倍量で調製させる)で付着させる。実験例1で調製し
た白コショウ冷浸抽出物をしみ込ませたろ紙をシャーレ
の中央に置き、その周囲に胞子のついたろ紙を置き、ふ
たをかぶせ、テープでシールし、水分の蒸発を防止す
る。次に27℃に保温し、1日、4日及び7日目に胞子の
付着したろ紙を取り出し、ポテトデキストロース寒天培
地の上に貼り付けて培養し、7日後にカビの発育の有無
を観察し、最小殺胞子量を求める方法に準じた。本試験
では4日めのデータを用い、表2に示した。
【0029】結果 表2.抗カビ試験結果
【0030】本願の白コショウ冷浸抽出物は、カビに対
して、強い抑制効果を示した。このことは、野菜に付着
するかびを抑え、野菜の鮮度保持に寄与することを示
す。一方、黒コショウ抽出物(加熱抽出)では、カビに
対して生育阻害を示さなかった(非特許文献2)。
【0031】
【実験例5】上記の実験例3で用いた白コショウ冷浸抽
出物を用いて、野菜の鮮度に影響を与える乳酸菌につい
て、抗菌活性試験を行い、菌の抑制効果の有無を検討し
た。試験方法は実験例3と同じ条件にて、菌の種類を変
えて検討した結果を表3に示す。
【0032】結果 表3.乳酸菌の種類と阻止濃度
【0033】生野菜、漬物などの発酵初期に見られる乳
酸球菌を抑えることができる添加量は1600μg/gまでの
範囲では見出せなかった。一方、乳酸桿菌は700〜800μ
g/gで抑制することができた。このことは、本発明の白
コショウ冷浸抽出物は、濃度の違いによって乳酸菌の種
類に応じて選択的な抗菌作用を有することがわかった。
そのため、白コショウ冷浸抽出物の添加量を調整するこ
とによって、漬物などの発酵食品の初期過程で増殖する
乳酸球菌を抑制せず、漬物の香りを改良することがで
き、また発酵の後期過程で増殖する乳酸桿菌の発育
制し、これに伴う乳酸桿菌からの酢酸などの酸味が強く
ならず、乳酸球菌の菌数を維持することで、エタノール
発酵などの風味に関与する香気成分を多く維持すること
ができるので、香りのよい食品を必要とする場合には有
効であると考えられる。一方、黒コショウ抽出物(非冷
浸処理)では、乳酸菌(L.plantarum)に対して生育阻害
を示さなかった(非特許文献5)。
【0034】
【実験例6】 カット野菜における鮮度保持の検討 乾燥した白コショウ150gを粉砕し、これにエタノール含
量42%の含水エタノールを1500ml添加し、冷蔵庫(4℃)
で13時間抽出を行う。これをろ紙(東洋ろ紙NO.101)ろ
過した後、約1200mlの淡黄色清澄なろ液を得る。このろ
液の固形分はBx19(アタゴ社製糖度計による測定値)で
あった。この白コショウ抽出液の風味は白コショウ特有
の香りを有し、イオン交換水で約100分の1に希釈した
溶液の味、風味は刺激臭が少なく、まろやかなものであ
った。
【0035】この白コショウ抽出液を用いて、カットし
た野菜(ダイコンの葉、レタス、白菜)の重量に対し
て、0.2%(重量)添加したときの野菜の色調、風味につ
いて、評価した結果を以下に示す。 添加方法は、白コ
ショウ抽出液を計量し、これにイオン交換水で10倍に希
釈し、野菜にふりかけた。その後、ポリエチレン製の容
器に野菜を密閉し、室温(15℃)に3日間保管した。対
照にはイオン交換水のみを同重量添加した。結果を表4
に示す。
【0036】表4.風味と着色度 備考:風味は野菜の好ましい風味を5、発酵した風味を
1とした5段階評価法とした。着色度は本来の新鮮な色
を5、黄色あるいは褐色に変色したものを1とした。腐
敗は用いた野菜の葉の枚数に対して、葉先や縁から変色
した枚数の割合を記載した。使用した野菜、ダイコンの
葉(アブラナ科ダイコン属)、レタス(キク科)、白菜
(アブラナ科)の風味や着色度は良好な結果を得、微生
物による野菜の腐敗が進行せず、野菜の風味、味を変化
させない効果が見出された。なお、実験例2で調製した
コショウ熱還流アルコール抽出物はピペリンなどのコシ
ョウ特有の味と香りが強いため、本試験での風味の改善
には寄与しないものであった。
【0037】以上のことから、本願白コショウ冷浸抽出
物は、鮮度を保持するため、原料となる白コショウ冷浸
抽出物の香りを優れたものにし、しおれや褐変などの色
調要因の原因となる微生物を選択的に抑制して、好まし
い香りに寄与する微生物の生育を維持し、野菜に直接間
接投与した場合には、風味がよく、着色度を黄色に変化
させず、腐敗を導入しない特長を付与することができる
ことがわかった。
【0038】(実施例1)カットレタス レタス(キク科)100部を水道水で洗浄後、包丁で適度
な大きさにカットし、これに、野菜用鮮度保持剤0.1部
(内訳、白コショウ冷浸抽出物(実験例1で得られたエ
キス、以下同じ)0.1部)を混合し、35℃72時間保温し
たとき、菌の発育が抑制され、風味が良好で、レタスの
変色やしおれが抑制されたカットレタスを得ることがで
きた。
【0039】(実施例2)ダイコンおろし ダイコン(アブラナ科)8部をおろし器でダイコンおろ
しに調整し、これに野菜用鮮度保持剤0.5部(内訳、実
験例1の白コショウ冷浸抽出物0.4部、マルチトール0.1
部の混合物)を添加し、ポリエチレン製の容器に充填
し、30℃4日間保管したとき、ダイコンおろしの色は褐
変せず、菌の発育を抑制した、ダイコンの辛味の効いた
異味異臭のない風味の良好なダイコンおろしを得ること
ができた。
【0040】(実施例3)ポテトサラダ ゆでた皮むきジャガイモ(ナス科)64部に、生のきゅう
り(ウリ科)10部、にんじん(セリ科)10部を添加し、
これにハム2.5部、マヨネーズ13部、食塩0.3部、レモン
汁0.1部及び野菜用鮮度保持剤1.4部(内訳、実験例1の
白コショウ冷浸抽出物0.2部、リンゴ酸0.1部、グリセリ
ン脂肪酸エステル0.1部、グリセリン0.3部、D-ソルビト
ール0.4部)を添加混合し、所定のポリ容器に充填し、2
5℃3日間保管したとき、野菜の変色や状態変化は見られ
ず、菌の発育を抑制し、風味のよいポテトサラダを得る
ことができた。尚、上記ポテトサラダを調理加工すると
きに利用する包丁、まな板、混合のための容器に野菜用
鮮度保持剤0.3部(内訳、実験例1の白コショウ冷浸抽
出物0.3部)を噴霧して、25℃3日間保管したとき、ふ
き取った調理器具の表面に微生物の発育は観察されなか
ったことが確認された。
【0041】(実施例4)キャベツの千切り 市販のキャベツ(アブラナ科)200gをフードプロセッサ
ーにかけて千切り状にし、これに実験例1の白コショウ
冷浸抽出物0.4部を噴霧し、10℃保存したとき、キャベ
ツ千切りの色調は2週間経過したとき、そのままの淡緑
色を保ち、茶色に変色することはなかった。またキャベ
ツの風味も保持され、新鮮な風味で食することができ
た。
【0042】
【発明の効果】本発明によれば、野菜の鮮度保持に関し
て静菌、除菌効果に優れ、風味においても食品等に影響
を及ぼさず、同時に変色防止にも優れた鮮度保持剤を提
供することができる。
【0043】
【図面の簡単な説明】
【図1】 実験例2のコショウ冷浸抽出物のGC−MS
データである。
【図2】 実験例2のコショウ加熱還流抽出物のGC−
MSデータである。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 白コショウ冷浸抽出物を含有することを
    特徴とする野菜用鮮度保持剤。
  2. 【請求項2】 白コショウ冷浸抽出物が、白コショウを
    含水エタノールで冷浸抽出したものである請求項1記載
    の野菜用鮮度保持剤。
  3. 【請求項3】 アブラナ科、キク科、セリ科、ナス科、
    アオザ科、ユリ科またはウリ科の野菜用の野菜用鮮度保
    持剤である請求項1及び2記載の野菜用鮮度保持剤。
  4. 【請求項4】 白コショウ冷浸抽出物を非加熱状態の野
    菜に添加することを特徴とする野菜の鮮度保持方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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