JP2002241838A - 二相ステンレス鋼管の製造方法 - Google Patents
二相ステンレス鋼管の製造方法Info
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Abstract
性および靱性に優れる高強度二相ステンレス鋼管の製造
方法の提供。 【解決手段】C、N、Si、Mn、Ni、Co、Cr、Moを所定の
含有量に調整し、かつ下記の(1)式で表されるPIが35以
上である二相ステンレス鋼を熱間で製造した素管に、断
面減少率で10%以上の冷間加工等を施し、600〜900℃の
温度の昇温速度が下記の(2)式を満足する条件(但し、2
0≦R≦220)であり、1,020〜1,180℃の温度範囲で1分
以上均熱・急冷する固溶化熱処理を施す。 PI=10C+16N+Si+1.2Mn+Ni+Co+Cr+3Mo …(1) 60−20G≦R≦260−20G …(2) 但し、上記の(2)式中のGは、G=T(D−T)/D
〔T:肉厚(mm)、D:外径(mm)〕
Description
管の製造方法に係り、特に、軽量化や経済性のため高い
強度が求められる用途、化学工業用やガス・油井用の鋼
管・配管等として高い耐食性が求められる用途、海底等
の低温下での高い延性および靱性が求められる用途、加
えて、薄肉の鋼管を工業的に安定して製造するのに必要
な高い熱間加工性が求められる用途に好適な二相ステン
レス鋼管の製造方法に関する。
ーステナイト相が均等に分散しているので、オーステナ
イトステンレス鋼またはフェライトステンレス鋼に比較
して高強度の材料である。従って、材料の薄肉化を容易
に行うことができ、経済性を有する工業材料として古く
から広範囲に使用されている。特に、高Cr、高Moの二相
ステンレス鋼は、優れた耐食性を有するため、熱交換器
用、石油・化学工業用のプロセス鋼管・配管用途として
多分野に適用されている。
ステンレスとも呼ばれる固溶強化能を有するCr、Mo、N
等の元素を高含有した鋼であって、耐海水性に優れた高
強度二相ステンレス鋼が開示されている。特開平5-1327
41号公報および特開平8-170153号公報には、上記のCr、
Mo、Nに加え、Wを高含有することによって、さらに耐
食性を向上させた高強度二相ステンレス鋼が開示されて
いる。
は、従来の二相ステンレス鋼よりも耐食性を向上するた
め、Cr、Mo、WおよびNを増量したものであるが、鋼の
CrおよびMo含有量を増加させると硬くて脆い金属間化合
物 (σ相、χ相等) が生成しやすく、またNの増量は窒
化物の生成やブローホールの発生による機械的性質の劣
化を招くことが知られている。加えて、製品完成後の溶
接条件および応力除去焼鈍等の熱処理条件に関して厳し
い管理が必要となるため、配管施工等の作業能率が低下
するという問題も生じる。
な、熱的安定性に優れた合金を得るため含有成分の変更
や含有量の限定、あるいはオーステナイト相とフェライ
ト相の量比率の限定の外に、固溶化熱処理後の冷却速度
を管理し、有害な炭化物、窒化物、金属間化合物等の析
出を防止する多くの技術が開示されている。
組成に調整した二相ステンレス鋼管を900〜1,150℃に加
熱した後、750〜1,000℃の仕上げ温度で圧延し、その後
ミスト等で急冷する方法が開示されている。この方法
は、熱間加工時に高温で十分材料を加熱して有害な析出
物(炭化物、窒化物、σ相等の金属間化合物)を完全に
固溶させた後に熱間成形を行い、導入された熱間加工歪
みが回復しないうちに急冷する直接溶体化プロセスであ
る。
成に調整した二相ステンレス鋼管に断面減少率で5〜50
%の冷間加工を施した後、100〜350℃の温度で30分間以
上加熱する方法が開示されている。特開平7-207337号公
報には、所定の化学組成に調整した二相ステンレス鋼管
を断面減少率で35%以上の冷間加工を施した後、50℃/s
ec以上の昇温速度で800〜1150℃の温度域まで加熱した
後、急冷し、300〜700℃で温間加工を施した後、冷間加
工する方法が開示されている。これらの方法は、Nまた
はCuを多量に含む鋼に冷間加工または更に温間加工した
後、特定の熱処理を組み合わせる加工熱処理プロセスで
ある。
化学組成に調整した二相ステンレス鋼を800〜900℃の温
度域に5〜30分間保持する時効熱処理を施すことによっ
て、フェライト相中に金属間化合物が微細分散析出した
組織とする方法が開示されている。この方法は、N、Cu
およびWを多量に含む鋼に対して固溶化熱処理後に時効
熱処理を施し微細析出物を分散析出させる析出強化法で
ある。
よる歪みを付与すると強度は容易に向上するが、溶接施
工等による熱影響を受ける場合には、有害な炭窒化物や
金属間化合物が析出し、耐食性のみならず靭性、延性等
の加工性の劣化が生じて二相ステンレス鋼本来の性能が
損なわれる。従って、従来、冷間加工を付与された高強
度二相ステンレス鋼管の適用は、溶接施工が必要のな
い、例えば、ねじ継ぎ手を使用する油井管に限定されて
いる。
出物が固溶化熱処理された二相ステンレス鋼に比較する
と、熱間・温間・冷間加工の歪みが残存する場合には溶
接施工等による熱影響を受けると有害な析出物の生成が
促進される。加えて時効熱処理による微細析出物は溶接
施工等による熱影響を受けた場合に、有害な析出物の核
として作用すると考えられる。
合には、溶接施工等による熱影響を受けると有害な析出
物の生成が促進されるので性能低下は無視できず、その
適用は限定されている。
熱処理による組織細粒化技術についても超塑性現象と関
連した研究成果の報告がなされている(熱処理39巻1号
「二相ステンレス鋼の加工熱処理による組織制御」参
照)。同報告では、例えばFe−25%Cr−7%Ni−3%Mo合
金を、一旦フェライト単相となる1,300℃の温度におい
て60分加熱し水冷する固溶化熱処理を施し、その後加工
度90%の強冷間圧延し1,000℃、30分の時効熱処理を実
施する方法や、Fe−26%Cr−8%Ni合金の熱間鍛造材を
直接85%冷間圧延した後、1,000℃で60秒の短時間焼鈍
するだけで超塑性を有する細粒組織が得られると報告さ
れている。
対象にして、熱処理の昇温時に析出する炭化物、窒化
物、金属間化合物を積極的にコントロールし、固溶化熱
処理時の組織粗大化を防止した、即ち、製品の機械的性
質および耐食性に有害な析出物が十分に固溶化された高
強度の二相ステンレス鋼管を提供する技術は認められな
い。
に鑑みなされたものであって、溶接熱影響部における優
れた耐食性を有し、延性および靱性の低下の原因である
熱間加工、温間加工および冷間加工の歪みが残存するこ
となく、また、時効熱処理等による炭窒化物、金属間化
合物が析出することがない完全に固溶化された微細組織
を有する高強度の二相ステンレス鋼管の製造方法を提供
することを目的とする。
二相ステンレス鋼管の製造方法である。質量%で、C:
0.005〜0.04%、N:0.1〜0.4%、Si:0.1〜1%、Mn:
0.2〜2%、NiおよびCoの合計:4.5〜10%、Cr:21〜32
%、Mo:0.5〜5%を含有し、残部がFeおよび不純物から
なり、不純物としてP:0.05%以下、S:0.01%以下、
O:0.01%以下であり、かつ下記の(1)式で表されるPI
が35以上である二相ステンレス鋼からなる熱間で製造さ
れた素管に、断面減少率で10%以上の冷間加工または温
間加工を施し、その後、600〜900℃の温度範囲の平均昇
温速度R(℃/min)が下記の(2)式を満足する条件(但
し、20≦R≦220)で昇温した後、1,020〜1,180℃の温
度範囲で1分以上均熱した後、急冷する固溶化熱処理を
施すことを特徴とする二相ステンレス鋼管の製造方法。
(質量%)を示す。また、上記の(2)式中のGは、G=
T(D−T)/D〔T:管の肉厚(mm)、D:管の外径(m
m)〕である。
おいて、二相ステンレス鋼は、上記の成分に加え、下記
のイ群および/またはロ群の元素を含有し、且つ上記の
(1)式で表されるPIが35以上である二相ステンレス鋼で
あっても良い。
V:0.05〜0.5%から選択される1種以上の元素。
下、Mg:0.01%以下、B:0.01%以下、Ti+Nb+Zr:0.
5%以下および希土類元素:0.5%以下から選択される1
種以上の元素。
含有量(ロ群の元素の含有量の合計)が(S+O/2)
以上となるように調整する必要がある。
は、上記の構成を有するので、昇温中に炭化物、窒化
物、σ相等の金属間化合物の析出物を均一に析出させて
組織の分断微細化をすると同時に粗大化を抑制すること
ができる。
る二相ステンレス鋼の化学組成の限定理由を説明する。
なお、含有量を表す%は全て質量%を表す。
効果とともに、熱処理における昇温時に炭化物を析出さ
せて微細組織を得る効果を有する元素である。これらの
効果を得るためには、その含有量を0.005%以上とする
必要がある。一方、その含有量が0.04%を超えると、熱
処理における昇温時または製品完成後に施工現場等にお
いてなされる溶接時などの熱影響により炭化物の析出が
過剰となり、鋼の耐食性および加工性を劣化させる。従
って、Cの含有量を0.005〜0.04%とした。
テンレス鋼の熱的安定性と耐食性の向上に有効な元素で
ある。また、Cと同等にオーステナイト相を安定させて
強度を向上させる効果とともに、熱処理における昇温時
に窒化物を析出させて微細組織を得る効果を有する元素
でもある。これらの効果を得るためには、その含有量を
0.1%以上とする必要がある。一方、その含有量が0.4%
を超えると、熱処理における昇温時または製品完成後に
施工現場等においてなされる溶接時の熱影響により窒化
物の析出が過剰となり、鋼の耐食性および加工性を劣化
させる。従って、Nの含有量を0.1〜0.4%とした。 Si:0.1〜1% Siは、二相ステンレス鋼の溶製時に脱酸成分として有効
な元素である。また、熱処理における昇温時に金属間化
合物を析出させて微細組織を得る効果を有する元素でも
ある。これらの効果を得るためには、その含有量を0.1
%以上とする必要がある。一方、その含有量が1%を超
えると熱処理における昇温時または製品完成後において
施工現場等においてなされる溶接時の熱影響により金属
間化合物の析出が過剰となり、鋼の耐食性および加工性
を劣化させる。従って、Siの含有量を0.1〜1%とした。
によって、鋼の熱間加工性を向上させる効果を有する元
素である。また、鋼中のNの溶解度を大きくする効果と
ともに、オーステナイト相を安定させる効果を有する元
素でもある。更に、熱処理における昇温時に金属間化合
物を析出させて微細組織を得る効果を有する元素でもあ
る。これらの効果を得るためには、その含有量を0.2%
以上とする必要がある。一方、含有量が2%を超える
と、塩化物環境での耐食性を劣化させ、また、熱処理に
おける昇温時あるいは製品完成後の施工現場等において
なされる溶接時の熱影響により金属間化合物の析出が過
剰となり、鋼の耐食性および加工性を劣化させる。従っ
て、Mnの含有量を0.2〜2%とする。
ために必須の基本成分である。特にCoは、固溶強化能に
優れた元素である。いずれの元素も二相ステンレス鋼に
おいて金属間化合物の析出を促進する効果を有する元素
であって、熱処理における昇温時に金属間化合物を析出
させて微細組織を得る効果を有する元素である。これら
の効果を得るためには、NiおよびCoの合計の含有量を4.
5%以上とする必要がある。一方、NiおよびCoの合計の
含有量が10%を超えると熱処理における昇温時または製
品完成後の施工現場等においてなされる溶接時の熱影響
により金属間化合物の析出が過剰となり、鋼の耐食性お
よび加工性を劣化させる。従って、NiおよびCoの合計の
含有量を4.5〜10%とした。
て鋼の強度を向上させる効果が顕著な元素である。ま
た、Coは、通常、二相ステンレス鋼中に不純物として0.
15%以下程度含まれ、このような不純物レベルでもNiと
同時に作用し、上記の効果を発揮するが、高価な元素で
あるため、その含有量を5%以下とするのが望ましい。
基本成分である。また、熱処理における昇温時に炭窒化
物および金属間化合物を析出させて微細組織を得る効果
を有する元素である。これらの効果を得るためには、そ
の含有量を21%以上とする必要がある。一方、その含有
量が32%を超えると熱処理における昇温時または製品完
成後の施工現場等においてなされる溶接時の熱影響によ
り金属間化合物の析出が過剰となり、鋼の耐食性及び加
工性を劣化させる。従って、Crの含有量を21〜32%とし
た。
相ステンレス鋼の基本成分である。また、Cr、Wおよび
Nと同様に耐食性、特に孔食および隙間腐食への抵抗性
を向上させる効果を有する元素である。これらの効果を
得るためには、その含有量を0.5%以上とする必要があ
る。一方、Moは、金属間化合物の析出および安定成長を
促進する作用が強い元素であるため、その含有量が5%
を超えると熱処理における昇温時または製品完成後の施
工現場等においてなされる溶接時の熱影響による金属間
化合物の析出が過剰となり、鋼の耐食性および加工性を
劣化させる。従って、Moの含有量を0.5〜5%とした。さ
らに好ましい範囲は、1.5〜5%である。
ス鋼は、上記の各元素を含有し、残部がFeおよび不純物
からなるが、この不純物中に含まれる各元素についての
限定理由を下記に述べる。
鋼の熱間加工性を低下させ、また耐食性および靱性をも
低下させる。従って、その含有量は、できるだけ少ない
のが望ましく、0.05%以下とした。
しく劣化させる。また、硫化物は、孔食の発生起点とな
り耐孔食性を損なう。これらの悪影響を避けるため、S
の含有量を0.01%以下とした。好ましくは、0.005%以
下である。
耐食性および靱性の低下を抑制する必要がある本発明の
場合には、できるだけ少ないのが望ましく、その含有量
を0.01%以下とした。
s、Sn、Pb、Sb、Bi等が知られているが、これらの元素
の合計の含有量は、0.05%以下であるのが望ましい。
ス鋼は、上記の成分に加え、下記のイ群および/または
ロ群の元素を含有しても良い。以下、イ群およびロ群に
掲げる各元素の限定理由を述べる。
V:0.05〜0.5%から選択される1種以上の元素。
硫化水素環境での鋼の耐食性を向上するのに有効な元素
であり、その効果を得るためには、その含有量を0.2%
以上とする必要がある。しかし、Cuの多量添加は、鋼の
熱間加工性を劣化させる。従って、Cuを含有させる場合
には、その含有量を0.2〜5%とすればよい。
しい腐食環境で安定な酸化物を形成し耐食性を向上させ
る元素であり、特に、孔食および隙間腐食への抵抗性を
向上させる元素である。また、固溶強化の作用が強い元
素でもある。その効果を得るためには、その含有量を0.
2%以上とする必要がある。しかし、5%を超えて含有さ
せても、その効果は飽和する。従って、Wを含有させる
場合には、その含有量を0.2〜5%とすればよい。なお、
Wは、Moと異なり金属間化合物の析出を加速する作用は
顕著に認められないため、本発明で規定する(1)式、即
ち、析出指数PIの要素としなかった。
その効果を得るためには、その含有量を0.05%以上とす
る必要がある。しかし、その含有量が0.5%を超える
と、粗大な炭窒化物が析出し通常の熱処理では固溶せ
ず、熱間加工性および靭性低下を生じる。従って、Vを
含有させる場合には、その含有量を 0.05〜0.5%とすれ
ばよい。
下、Mg:0.01%以下、B:0.01%以下、Ti+Nb+Zr:0.
5%以下および希土類元素:0.5%以下から選択される1
種以上の元素。
を鍛造、圧延、熱間押出し等の工程により管を製造する
場合は、熱間加工性が優れていることが望ましい。いず
れも熱間加工性を阻害するOあるいはSを低減・固定し
熱間加工性を向上させる作用を有する上記のロ群に掲げ
る元素から選択した1種以上の元素を必要に応じて含有
させればよい。その効果を得るためには、総含有量(ロ
群の元素の含有量の合計)が(S+O/2)以上となる
ように調整する必要がある。
とそれらの酸化物、硫化物の非金属介在物が増加し、孔
食の起点となり耐食性の劣化を招き、さらに靱性等の劣
化のみならず熱間加工時の延性低下を招く。さらに、A
l、Ti、NbおよびZrは、窒化物や炭窒化物を生成し、耐
食性の向上に有用な固溶Nを低下させ、さらには熱処理
における昇温時に有用な微細Cr炭窒化物の分散析出を阻
害させる。従って、ロ群に掲げる元素を含有させる場合
には、それぞれの元素の含有量を、Sol.Al:0.05%以
下、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、B:0.01%以
下、Ti+Nb+Zr:0.5%以下および希土類元素:0.5%以
下とすればよい。
ス鋼は、上記の各元素を基本成分とし、かつ下記の(1)
式で表される析出指数PIが35以上となるように調整する
必要がある。 PI=10C+16N+Si+1.2Mn+Ni+Co+Cr+3Mo…(1) 但し、(1)式中の元素記号は、各元素の含有量(質量
%)を示す。
数として、一般に、 PSI(Phase Stability Index)=Cr+3.3Mo+3Si≦40 が知られているが、この式にはC、N、Mn、NiおよびCo
は含まれていない。しかし、前記の化学組成の限定理由
で述べたように、これらの元素はいずれも、熱処理にお
ける昇温時に炭窒化物および金属間化合物を析出させて
微細組織を得る効果があるため、析出指数PIを規定する
際には、これらの元素を含んだ総合的な指数とする必要
がある。
物、窒化物、金属間化合物の析出挙動を詳細に調査した
結果、上記の(1)式で表される各合金成分の総合的な作
用により、適切な昇温速度の範囲を選択すれば、組織の
分断微細化と同時に粗大化の抑制に必要十分な析出物が
得られ、続く固溶化熱処理時の温度と時間を最低限に限
定することにより微細組織を有した高強度の二相ステン
レス鋼管の製造が可能であることを見いだした。
は、熱間製管後に固溶化したものの強度よりも優れるこ
とが知られているが、上記の(1)式で表されるPIが35未
満であると、熱処理時の昇温中に組織粗大化を抑制する
ために十分な炭化物、窒化物、および金属間化合物の析
出が認められず、微細組織にならないので、熱間製管後
に固溶化したものの強度に比較して、冷間加工後に固溶
化したものの強度向上は認められない。
PIを40以上とすることが好ましい。一方、熱処理におけ
る昇温時または製品完成後の施工現場等においてなされ
る溶接時の熱影響による金属間化合物の析出が過多とな
り、鋼の耐食性および加工性の低下を抑制するためには
PIを50%以下とすることが好ましい。
管について、PIとYS(0.2%耐力値)との関係を示す図
である。図中の◆印は、熱間押出管を本発明範囲に規定
する条件を外れる条件で製造した場合(比較例)を示
し、■は、後述する本発明法による冷間加工と固溶化熱
処理を組合わせた条件で製造した場合(本発明例)を示
す。同図からわかるように、比較例であっても、PIが大
きくなるほどYSが高くなる。しかし、本発明例の場合
は、PIが35以上であれば、PIが50の比較例のものと同等
のYSが得られる。
組成を調整した二相ステンレス鋼を熱間製管した後に、
各種の処理を行うこととしている。
ることなく、素管の組織を微細化できる製管方法が好ま
しい。微細組織を有する素管を製造するのに適当な形状
の鋼塊あるいは鋳片型を選択し、ビレットの凝固時の冷
却速度を向上させ、凝固時の組織粗大化を防止するのが
望ましい。また、ビレットの成形時には、特に素管の熱
間加工時に疵が発生しない範囲で低温加熱あるいは高加
工度を施す方法、または粉末冶金法を適用するのがよ
い。更に、後述する熱処理昇温時の炭化物、窒化物ある
いは金属間化合物を均一に微細に析出させる、即ち、凝
固時に生成する成分偏析を低減するために、例えば、鋼
塊、鋳片またはビレットを成形する途中過程において1,
150〜1,300℃の温度範囲で2時間以上のいわゆる均質化
熱処理を実施することが望ましい。このようにして製造
されたビレットから熱間押出法、熱間穿孔圧延法などの
一般的な熱間製管法によって素管を製造すればよい。
で製造された素管に、断面減少率で10%以上の冷間加工
または温間加工を施すこととしている。
の範囲にある二相ステンレス鋼を使用するので、熱処理
における昇温時に容易に炭化物、窒化物あるいは金属間
化合物が析出する。従って、素管を直接熱処理した場合
にも、Cr、Mo、W、Ni、Co、およびNを多く含有してい
る場合には高強度が得られる。しかし、冷間加工を施さ
ずに熱処理する場合にはオーステナイト相とフェライト
相の境界あるいはフェライト粒界に主に析出が認められ
る。
以上の冷間加工または温間加工を施せば、上記の析出サ
イトに加え、冷間加工により導入される転位等の格子欠
陥の作用によりオーステナイト相内、フェライト相内お
よび相境界の区別なく均一に析出が認められるため、よ
り一層の組織微細化が可能となる。なお、上記の素管
に、断面減少率で10%未満の冷間加工または温間加工を
施しても、上記の格子欠陥の作用が十分ではなく、組織
の微細化を十分に図ることができない。
率の上限は、特に規定しないが、冷間加工または温間加
工による疵が発生しないように、80%程度とするのがよ
い。また冷間加工または温間加工は、抽伸法または圧延
法の何れを採用しても良いが、肉厚方向にも均一に加工
歪みが加わるように外面、内面から同時に加工すること
が望ましい。
な最低の冷間加工歪みとして、冷間加工前後の硬さ変化
がロックウェルCスケール(HRC)で3以上の硬化を
確保すればよい。また工業的には加工度を大きく設定す
る方が合理的であるので、材料の変形抵抗を下げるため
温間加工(300℃以下)を施してもよい。
記の冷間加工または温間加工が施された後に、析出が生
じる600〜900℃の温度範囲の平均昇温速度R(℃/min)
が下記の(2)式を満足する条件(但し、20≦R≦220)で
昇温することとしている。 60−20G≦R≦260−20G …(2) 但し、上記の(2)式中のGは、G=T(D−T)/D
〔T:管の肉厚(mm)、D:管の外径(mm)〕である。
に一般的に用いられる寸法パラメーターであり、このG
の値が大きいものは大径厚肉の鋼管を示し、Gの値が小
さいものは小径薄肉の鋼管を示す。
00℃の温度範囲での昇温速度が60−20G(℃/min)未満
であると、炭窒化物、特に金属間化合物の析出・成長が
過剰に進行し、均一な微細析出状態が得られず管の組織
が凝集粗大化する。即ち、固溶化熱処理温度まで昇温し
た際に、析出物の固溶とともに粗大な二相組織となり強
度の上昇は認められない。従って、Rの下限値を60−20
G(℃/min)とした。但し、あまり遅く加熱すると昇温
中の析出物が凝集・粗大化し組織の微細化が図れないた
め、Rの下限値は、20(℃/min)以上とする必要があ
る。
が260−20G(℃/min)を超えると、管の二相組織を分
断あるいは固溶化温度に到達するまでに粒成長を抑制す
るために、十分な炭窒化物または金属間化合物の析出・
成長が認められない。即ち、基本的には素管の組織単位
を継承し、細粒化が得られず強度の上昇は期待できな
い。従って、Rの上限値を260−20G(℃/min)とし
た。但し、あまり早く加熱すると組織微細化に有効な析
出が得られないため、Rの上限値は、220(℃/min)以
下とする必要がある。
は、加熱時間または送管速度を予め調査しておき、この
加熱時間または送管速度を管理することにより達成する
ことができる。また、900℃から後述する1,020〜1,180
℃の固溶化熱処理温度までの昇温速度は、特に規定しな
いが、極端に遅い場合は所望の細粒組織が得られないた
め、20〜220℃/min程度の昇温速度であればよい。
で昇温した後、1,020〜1,180℃の温度範囲で1分以上均
熱した後、急冷する固溶化熱処理を施すこととしてい
る。
について 固溶化熱処理温度は、二相ステンレス鋼の特性(機械的
性質、耐食性)を維持するために施されるものであっ
て、フェライト相が60%以上に増加しないように適切な
温度範囲を設定する必要がある。本発明においては、昇
温中に析出する金属間化合物、炭窒化物を十分固溶させ
優れた耐食性と延性・靱性に優れた加工性の良好な管を
得るために、1,020℃以上の固溶化熱処理温度が必要で
ある。一方、固溶化熱処理温度が1,180℃を超えると、
フェライトが過剰に増加する。従って、固溶化熱処理を
1,020〜1,180℃の温度範囲で行うこととした。
れば問題がなく、上限値は、特に規定しないが、高温か
つ長時間の固溶化熱処理を実施すると、フェライト相の
増加に加え、前記の昇温中に得られた微細二相組織が凝
集粗大化する。これに伴い、必要な高強度・高耐食性能
が得られないので、固溶化温度が1,180℃の場合は10分
以下とするのがよい。
熱処理における冷却方法は、特に規定しないが、一般的
に有害な炭化物、窒化物あるいは金属間化合物の析出を
防止するために、十分早い冷却速度を確保する必要があ
る。これは、前記のように成分を特定した二相ステンレ
ス鋼管についても同様である。特に、600〜900℃の温度
範囲においては、上記の化合物の析出が容易であり、僅
かな析出であっても、高強度化された鋼管の場合、靱
性、延性の低下や耐食性の劣化が激しくなるからであ
る。従って、冷却速度を250℃/min以上とすることがで
きる冷却方法であるのが望ましい。
影響が使用時に問題とならない場合には、本発明の製造
方法によって製造された二相ステンレス鋼管に冷間加工
を付与してさらに強度を向上させてもよい。また、本発
明の製造方法によって製造された二相ステンレス鋼管に
曲り取り等による不可避的な冷間加工による歪みが付与
されても、本発明の製造方法によって製造された二相ス
テンレス鋼管は、本質的に細粒組織を有するので、有害
な析出物がオーステナイト相とフェライト相の境界に連
続して析出することが低減され、溶接部においても十分
な性能を確保できる。さらなる高強度化を図るために
は、上記の条件による冷間加工または温間加工および固
溶化熱処理を繰返し施せばよい。
への影響を検証するために、所定の化学組成に調整した
二相ステンレス鋼から作製した鋼板について下記の基礎
的実験を行った。
ス鋼を真空溶解炉で溶製して20kgのインゴットとし、こ
のインゴットを1,200℃に加熱して3時間保持した後、鍛
造により厚さ50mm、幅150mmの厚板に仕上げた。その
後、1,100℃に再加熱し熱間圧延機によって厚さ20mmの
鋼板とした。
は、150kgのインゴットとし、このインゴットを1,200℃
に加熱して3時間保持した後、外径180mmのビレットに鍛
造する際に、厚さ50mm、幅150mmの厚板を採取した。
加工を付与するため、厚さ12mmとなるように冷間圧延加
工した。この冷延鋼板の肉厚方向中央部から直径8mmの
棒状試験材を採取し、プログラム制御した高周波誘導加
熱試験機を使用して、外径100mm、肉厚8mmの管の熱処理
を想定し(即ち、G=7.36、20≦R≦113)、600〜900
℃の温度範囲の平均昇温速度を100℃/minに設定し、室
温から1,110℃まで加熱し、その温度で10分間均熱後に
ガス噴射により強制冷却した。
の棒状試験片を採取して、JIS Z 2241に規定される方法
に従って引張試験を実施した。また、上記の熱処理を施
した棒状試験材の中心から5mm角、長さ30mmの試験片を
採取して、JIS G 0578に規定される方法に従って腐食試
験を実施した。各試験の結果を表2に示す。
且つPIが35以上の実施例1〜16の鋼はいずれも、YS(0.2
%耐力値)が600MPa以上の高強度を有し、更に、PIが40
以上である実施例3〜16の鋼はいずれも、650MPa以上の
高強度を有していた。一方、実施例17〜24の鋼は、化学
組成が本発明で規定する範囲外であるか、PIが本発明で
規定する範囲外であるため、実施例1〜16の鋼に比較し
てYSが低かった。
40MPa以上を確保していたのに対し、化学組成が本発明
で規定する範囲外である実施例19〜22の鋼は、TSが840M
Pa未満であった。実施例23および24の鋼は、TSが840MPa
以上であったが、PI値がほぼ等しい実施例7および14の
鋼と比較すると低かった。
度が1.5g/m2hr以下、80℃における腐食速度が3.9g/m2
hr以下であり、優れた耐食性を示した。特に、耐食性を
向上させる第1群の元素を添加した実施例3、5、7〜9お
よび11〜16の鋼は、50℃において孔食が発生せず、80℃
でも腐食速度は0.37g/m2hr以下であり、耐食性が良好
であった。これに対して、実施例17〜21の鋼では、50℃
における腐食速度が1.5g/m2hrを超え、実施例1〜16の
鋼と比較して耐食性が劣っていた。
ス鋼のうちNo.2、6、9、12、15および17の鋼について、
150kgのインゴットを作製し、このインゴットを1,200℃
に加熱して3時間保持した後、外径180mmに鍛造し、機械
加工によって製造したビレットを通常の熱間押出法によ
って下記の表3に示す寸法の素管を製造した。これらの
素管をそのまま、または、これらの素管に冷間抽伸ある
いは冷間圧延によって表3に示す寸法の製品管とした
後、同表に示す各条件で熱処理を実施した。
からは管状の試験片(JIS Z 2201で規定される11号試験
片)を採取し、外径が40mmを超える管からは弧状試験片
(JIS Z 2201で規定される12A号試験片)を採取して、J
IS Z 2241に規定される方法に従って引張試験を実施し
た。また、耐食性の評価をするため、製品管の外径が40
mm以下の管からは管状の試験片(長さ40mm)を採取し、
外径が40mmを超える管からは弧状試験片(幅25mm長さ40
mm)を採取して、JIS G 0578に規定される方法に従って
腐食試験を実施した。さらに、一部の鋼管について靱性
を調査するため、JIS G 2002に準じて5mm幅のVノッチ
試験片を長手方向から採取し、試験温度0℃でJIS Z 224
2に規定される方法に従って衝撃試験を実施した。各試
験の結果を表4に示す。
にあるNo.2、6、9、12または16の鋼を使用した実施例25
〜44では、化学組成およびPIが本発明の範囲を外れるN
o.17の鋼を使用した実施例45〜49に比較して全般的に高
強度を有する。
る化学組成の範囲およびPIの範囲にある鋼(鋼No.2、
6、9、12および16)からなる素管に対して、種々の処理
を施したものである。しかし、冷間加工を施さなかった
実施例25および43、冷間加工における断面減少率が本発
明で規定する範囲に満たない実施例29、33および37、60
0〜900℃の温度範囲における平均昇温速度が本発明で規
定する範囲内にない実施例26、30、34、35、38および3
9、ならびに固溶化温度が本発明で規定する温度に満た
ない実施例27、31および41はいずれも、YS値が最大でも
625MPaと低く、十分な強度が得られない。
る範囲に満たない実施例31および41については比較的YS
が高いが、EI(伸び率)の低下が認められるので小Rの
曲げ加工等の加工を加えると割れが発生する危険性があ
る。
36、40、42および44は、YSが最低でも639MPaであり、十
分な強度が得られた。また、実施例45〜49については、
素管として使用した鋼(鋼No.17)が本発明で規定する
化学組成およびPIの範囲内にないため、本発明で規定す
る範囲内の冷間加工条件および固溶化熱処理条件で処理
した実施例49であっても、YSが523MPaと低く、十分な強
度が得られなかった。
れた二相ステンレス鋼管が、施工現場等において溶接が
なされた場合の耐食性について検証するため、一部の実
施例について、溶接を想定した750℃、3分間の鋭敏化
熱処理を実施した後、前記と同様の腐食試験を行った結
果を表5に示す。
例25および37の鋼管に、更に断面減少率で5%の冷間加
工ひずみを付与したものである。
は、冷間加工ひずみを付与したのでYSは本発明例(実施
例28および40)のレベルにまで達しているが、鋭敏化処
理後には極端に耐食性が劣化した。一方、本発明例(実
施例28および40)では、耐食性の劣化がほとんど見られ
なかった。
用されている二相ステンレス鋼に比較して、より一層の
安定した高強度を有する二相ステンレス鋼管を製造でき
る。特に、完全に固溶化されているため、従来よりも溶
接等の熱影響による耐食性の劣化が少なく、また、微細
組織を特徴とするため加工性が良好であるので、高強度
の利点を活かした薄肉軽量化に極めて有用な鋼管を製造
できる。更に、優れた耐食性をも具備しているので、例
えば、海洋環境あるいは腐食性のガスを含む石油・天然
ガスの採掘、輸送等に使用される設備や機器類の材料全
般に大幅な適用拡大が可能であり、特に長距離間の施設
が必要な配管等の全体重量低減に好適な二相ステンレス
鋼管を製造できる。
る。
Claims (1)
- 【請求項1】質量%で、C:0.005〜0.04%、N:0.1〜
0.4%、Si:0.1〜1%、Mn:0.2〜2%、NiおよびCoの合
計:4.5〜10%、Cr:21〜32%、Mo:0.5〜5%を含有
し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物としてP:
0.05%以下、S:0.01%以下、O:0.01%以下であり、
かつ下記の(1)式で表されるPIが35以上である二相ステ
ンレス鋼からなる熱間で製造された素管に、断面減少率
で10%以上の冷間加工または温間加工を施し、その後、
600〜900℃の温度範囲の平均昇温速度R(℃/min)が下
記の(2)式を満足する条件(但し、20≦R≦220)で昇温
した後、1,020〜1,180℃の温度範囲で1分以上均熱した
後、急冷する固溶化熱処理を施すことを特徴とする二相
ステンレス鋼管の製造方法。 PI=10C+16N+Si+1.2Mn+Ni+Co+Cr+3Mo …(1) 60−20G≦R≦260−20G …(2) 但し、上記の(1)式中の元素記号は、各元素の含有量
(質量%)を示す。また、上記の(2)式中のGは、 G=T(D−T)/D 〔T:管の肉厚(mm)、D:管の
外径(mm)〕 である。
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