JP7436821B2 - 二相ステンレス鋼材 - Google Patents

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Description

本発明は、二相ステンレス鋼材に関する。
油田及びガス田から産出される石油及び天然ガスは、随伴ガスを含有する。随伴ガスは、炭酸ガス(CO)及び硫化水素(HS)等の腐食性ガスを含有する。ラインパイプは、上述の腐食性ガスを含有する石油や天然ガスを輸送する。そのため、ラインパイプでは、硫化物応力腐食割れ(Sulfide Stress Cracking:SSC)、及び、肉厚減少の原因となる全面腐食割れが問題になる。
SSCは、割れの進展速度が大きく、発生から短時間でラインパイプを貫通する。そのためラインパイプ用の材料には、耐食性のうち、特に耐SSC性が要求される。二相ステンレス鋼は、高い耐食性を有するため、ラインパイプ用の材料として利用されている。
鋼管を高強度化すれば、ラインパイプ用鋼管を薄肉化でき、製造コストを削減することができる。そのため、ラインパイプ用途の二相ステンレス鋼の高強度化が要求されている。特開2003-171743号公報(特許文献1)、特開平5-132741号公報(特許文献2)、特許第5206904号公報(特許文献3)、及び特許第5170351号公報(特許文献4)は、高強度を有する二相ステンレス鋼を提案する。
特許文献1の二相ステンレス鋼は、Moを2.00%以上含有し、かつ、Wを含有する。Mo及びWの固溶強化によって、二相ステンレス鋼の強度が高まる。同公報の二相ステンレス鋼はさらに、Crを22.00~28.00%含有し、Niを3.00~5.00%含有する。これによって、二相ステンレス鋼の耐食性が高まる。
特許文献2の二相ステンレス鋼は、Moを2.0%以上含有し、かつWを含有する。さらに、PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16Nを40以上にする。Mo及びWを含有することによって、二相ステンレス鋼の強度が高まる。さらに、PREWを40以上にすることによって、二相ステンレス鋼の耐食性が高まる。
特許文献3は、フェライト率を50%以上にする。これによって、降伏強度550MPa(80ksi)以上の高強度が得られるとしている。同公報ではさらに、Crを20.0~28.0%、Niを4.00~8.00%、Moを0.50~2.00%、Cuを2.00%を超えて4.00%以下、Nを0.100~0.350%含有し、2.2Cr+7Mo+3Cu>66を満たすことで、二相ステンレス鋼の耐食性を確保する。
特許文献4は、Mnの含有量を5.0%よりも高く10%以下とする。これによって、降伏強度550MPa以上の高強度が得られるとしている。
特開2003-171743号公報 特開平5-132741号公報 特許第5206904号公報 特許第5170351号公報
特許文献1及び2に開示された二相ステンレス鋼は、Mo含有量が高い。Mo含有量が高い場合、シグマ相(σ相)が発生しやすくなる。シグマ相は、製造時及び溶接施工時に析出する。シグマ相は硬くてもろいため、二相ステンレス鋼の靱性及び耐食性を低下させる。ラインパイプは、ラインパイプが配置される現地にて溶接されるため、ラインパイプ用の二相ステンレス鋼では特に、シグマ相の析出が抑制されることが好ましい。
特許文献3に開示された二相ステンレス鋼は、降伏強度550MPa以上にするためにフェライト率を50%以上に限定している。通常、溶接施工時に発生する溶接熱影響部(Heat Affected Zone:HAZ部)のフェライト率は母材よりも高くなる。母材のフェライト率が50%以上の場合、HAZ部の靱性は母材よりも低下することが懸念されるので、フェライト率50%未満であっても、降伏強度550MPa以上の高強度が得られるようにできることが好ましい。
また、上述のとおり、炭酸ガス及び硫化水素を含有する随伴ガスを含む環境では、高い耐SSC性が要求される。近年開発される油田及びガス田は、深層に位置する。深層の油田及びガス田は、80~150℃という高温で炭酸ガス及び硫化水素を含有する環境を有する。二相ステンレス鋼では、90℃付近でSSC感受性が高くなると言われている。したがって、ラインパイプ用の二相ステンレス鋼では、高温の炭酸ガス及び硫化水素を含有する環境においても優れた耐SSC性が求められる。
特許文献4に開示された二相ステンレス鋼は、Mn含有量が高い。そのため、NaCl濃度が10%以上の高濃度のNaCl水溶液かつ硫化水素を含んだ環境での溶接部の耐SSC性が不十分になることが懸念される。
本発明の目的は、降伏強度が550MPa以上の高強度を有し、高塩化物イオン濃度(以下では、「高Cl濃度」ともいう。)かつ高温の炭酸ガス及び硫化水素を含有する環境においても優れた耐SSC性を有し、かつ、シグマ相の析出が抑制される、二相ステンレス鋼材を供給することである。
本発明の一実施形態による二相ステンレス鋼材は、化学組成が、質量%で、C:0.04%以下、Si:0.10~0.90%、Mn:0.20~0.70%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Cu:1.00~3.00%、Ni:4.00~8.00%、Cr:28.00~35.00%、Mo:0.50~1.40%、V:0.03~0.20%、N:0.350%よりも高く0.700%以下、Al:0.030%以下、Co:0.05~0.50%、B:0.0005~0.0040%、Ca:0~0.0040%、Mg:0~0.0040%、残部:Fe及び不純物であり、550MPa以上の降伏強度を有する。
本発明によれば、降伏強度が550MPa以上の高強度を有し、高Cl濃度かつ高温の炭酸ガス及び硫化水素を含有する環境においても優れた耐SSC性を有し、かつ、シグマ相の析出が抑制される、二相ステンレス鋼材が得られる。
図1Aは、溶接継手作製のための板材の平面図である。 図1Bは、溶接継手作製のための板材の正面図である。 図2Aは、実施例で作製した溶接継手の平面図である。 図2Bは、実施例で作製した溶接継手の正面図である。 図3は、SSC試験用の試験片の斜視図である。 図4は、シャルピー衝撃試験片の採取箇所を模式的に示す図である。
本発明者は、上述した課題を解決するため、種々の検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
(1)高強度化
一般的に、二相ステンレス鋼の耐SSC性を良好に保ちながら高強度化するため、Mo及びWを添加することが行われている。しかし、Mo及びWの含有量を高くすると、シグマ相が析出しやすくなる。シグマ相の析出を抑制するためには、Mo及びWによらずに高強度化することが好ましい。
そこで、Cr含有量を28.00質量%以上にし、かつ、CoとCuとを複合添加する。Cr、Co、及びCuは、いずれもNの固溶量を増加させる元素である。これによって、0.350%を超える高N含有を可能にし、Mo及びWによらずに降伏強度550MPa以上の高強度を得ることができる。
(2)シグマ相析出抑制
一方、Cr含有量を28.00質量%以上にすると、通常の二相ステンレス鋼に比べて、溶接時にHAZ部でシグマ相が析出しやすくなる。シグマ相の析出を抑制するため、Moの含有量を1.40質量%以下に制限する。
また、VとCoとを複合添加することで、シグマ相の析出をさらに抑制することができる。VとCoとを適正量添加することによって、シグマ相に代わってCr-V-Coを主成分とする別の相で核生成が生じる。その結果として、シグマ相の核生成を律速する元素であるCrの供給を遅らせることができ、シグマ相の析出を抑制することができる。
(3)耐SSC性
上述のとおり、Mn含有量を高くすると、NaCl濃度が10%以上の高濃度のNaCl水溶液及び硫化水素を含んだ環境での溶接部の耐SSC性が不十分になることが懸念される。この対策として、オーステナイト生成元素であるNi、Cu、及びCoを複合添加し、Mn含有量を抑制しつつ高N含有を達成する。さらに、V添加によって耐食性を向上させる。これによって、高Cl濃度かつ高温の炭酸ガス及び硫化水素を含有する環境においても、優れた耐SSC性を確保することができる。
以上の知見に基づいて、本発明による二相ステンレス鋼材は完成された。以下、本発明の一実施形態による二相ステンレス鋼材を詳述する。
[化学組成]
本実施形態による二相ステンレス鋼材は、以下に説明する化学組成を有する。以下の説明において、元素の含有量の「%」は、質量%を意味する。
C:0.04%以下
炭素(C)は、窒素と同様に、鋼中のオーステナイト相を安定化する。一方、C含有量が高すぎると粗大な炭化物が析出しやすくなり、鋼の耐食性、特に耐SSC性が低下する。したがって、C含有量は0.04%以下である。C含有量は、上限の観点では、好ましくは0.03%以下であり、さらに好ましくは0.03%未満である。C含有量の下限は、好ましくは0.01%である。
Si:0.10~0.90%
シリコン(Si)は、二相ステンレス鋼同士を溶接する場合に、溶接金属の流動性を確保し、溶接欠陥の発生を抑制する。一方、Si含有量が高すぎると、シグマ相に代表される金属間化合物が生成される。したがって、Si含有量は0.10~0.90%である。Si含有量の下限は、好ましくは0.12%であり、さらに好ましくは0.15%である。Si含有量の上限は、好ましくは0.65%であり、さらに好ましくは0.50%である。
Mn:0.20~0.70%
マンガン(Mn)は、脱硫及び脱酸効果によって鋼の熱間加工性を向上させる。一方、Mn含有量が高すぎると、溶接部の耐SSC性が低下する。したがって、Mn含有量は、0.20~0.70%である。Mn含有量の下限は、好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.40%である。Mn含有量の上限は、好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.58%であり、さらに好ましくは0.55%である。
P:0.040%以下
燐(P)は不純物である。Pは、鋼の耐食性及び靱性を低下させる。したがって、P含有量はなるべく低い方が好ましい。P含有量は0.040%以下である。ただし、P含有量の過剰な低減は、製鋼工程の精錬コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮すれば、P含有量の下限は、好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.003%である。P含有量は、上限の観点では、好ましくは0.040%未満であり、さらに好ましくは0.030%以下である。
S:0.010%以下
硫黄(S)は不純物である。Sは、鋼の熱間加工性を低下させる。Sはさらに、孔食の発生起点となる硫化物を形成する。したがって、S含有量はなるべく低い方が好ましい。S含有量は0.010%以下である。ただし、S含有量の過剰な低減は、製鋼工程の精錬コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮すれば、S含有量は、下限の観点では、好ましくは0%超であり、さらに好ましくは0.001%以上である。S含有量は、上限の観点では、好ましくは0.010%未満であり、さらに好ましくは0.007%以下である。
Cu:1.00~3.00%
銅(Cu)は、窒素の固溶量を増加させて鋼の強度を高める。さらに、炭酸ガス及び硫化水素を含有する環境において不動態皮膜を強化し、鋼の耐SSC性を高める。特に、Ni、Co、及びVと複合添加することで、高Cl濃度の環境での耐SSC性を高める。Cuはさらに、フェライト相とオーステナイト相との境界におけるシグマ相の生成を抑制する。具体的には、大入熱溶接時において、Cuはマトリクス中に極微細に析出する。析出したCuはシグマ相の核生成サイトになり、本来のシグマ相の核生成サイトであるフェライト相とオーステナイト相との境界と競合する。その結果、フェライト相とオーステナイト相との境界におけるシグマ相の析出が抑制される。一方、Cu含有量が高すぎると、鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は1.00~3.00%である。Cu含有量の下限は、好ましくは1.40%であり、さらに好ましくは1.60%である。Cu含有量の上限は、好ましくは2.80%であり、さらに好ましくは2.50%である。
Ni:4.00~8.00%
ニッケル(Ni)は、鋼中のオーステナイト相を安定化する。Niはさらに、鋼の耐食性を高める。特に、Cu、Co、及びVと複合添加することで、高Cl濃度の環境での耐SSC性を高める。一方、Ni含有量が高すぎると、二相ステンレス鋼中のフェライト相の割合が減少する。さらに、シグマ相に代表される金属間化合物が顕著に析出する。したがって、Ni含有量は4.00~8.00%である。Ni含有量は、下限の観点では、好ましくは4.50%超であり、さらに好ましくは5.00%超である。Ni含有量は、上限の観点では、好ましくは8.00%未満であり、さらに好ましくは7.50%以下である。
Cr:28.00~35.00%
クロム(Cr)は、鋼の耐食性、特に耐SSC性を高める。また、高強度化に重要な窒素の固溶量を高くする。一方、Cr含有量が高すぎると、シグマ相に代表される金属間化合物が顕著に析出し、鋼の熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、Cr含有量は28.00~35.00%である。Cr含有量は、下限の観点では、好ましくは28.00%超であり、さらに好ましくは28.50%以上であり、さらに好ましくは29.00%以上であり、さらに好ましくは30.00%以上である。Cr含有量の上限は、好ましくは34.00%であり、さらに好ましくは33.00%である。
Mo:0.50~1.40%
モリブデン(Mo)は、耐SSC性を顕著に高める。一方、Mo含有量が高すぎると、シグマ相に代表される金属間化合物が顕著に析出する。したがって、Mo含有量は0.50~1.40%である。Mo含有量は、下限の観点では、好ましくは0.50%超であり、さらに好ましくは0.70%以上であり、さらに好ましくは0.80%以上である。Mo含有量の上限は、好ましくは1.30%であり、さらに好ましくは1.20%である。
V:0.03~0.20%
バナジウム(V)は、鋼の耐食性を高める。上述のとおり、Ni、Cu、及びCoと複合添加することで、高Cl濃度の環境での耐SSC性を高める。さらに、Coと複合添加することにより、シグマ相の析出も抑制する。VとCoとを適正量添加することによって、シグマ相に代わってCr-V-Coを主成分とする別の相で核生成が生じる。その結果として、シグマ相の核生成を律速する元素であるCrの供給を遅らせることができ、シグマ相の析出を抑制することができる。V含有量が0.03%以上であれば、上記の効果が得られる。しかし、このシグマ相に代わる相も成長すれば靱性及び耐食性に悪影響を与えるため、過剰な添加は却って逆効果となる。また、V含有量が高すぎると、鋼中のフェライト相の割合が過度に増大し、鋼の靱性及び耐食性が低下する。したがって、V含有量は0.03~0.20%である。V含有量の下限は、好ましくは0.04%である。V含有量の上限は、好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.15%である。
N:0.350%よりも高く0.700%以下
窒素(N)は、強いオーステナイト形成元素であり、二相ステンレス鋼の高強度化に重要な元素である。Nはさらに、耐食性、特に耐孔食性を高める。一方、N含有量が高すぎると、溶接欠陥であるブローホールが発生しやすくなる。さらに、溶接時の熱影響により粗大な窒化物が発生し、鋼の靱性及び耐食性が低下する。したがって、N含有量は0.350%よりも高く0.700%以下である。N含有量の下限は、好ましくは0.360%であり、さらに好ましくは0.370%である。N含有量の上限は、好ましくは0.650%であり、さらに好ましくは0.600%である。
Al:0.030%以下
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。一方、Al含有量が高すぎると、鋼中のNと結合してAlNを形成し、鋼の耐食性及び靱性が低下する。したがって、Al含有量は0.030%以下である。Al含有量の下限は、好ましくは0.002%である。Al含有量の上限は、好ましくは0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。なお、本明細書にいうAl含有量は、「酸可溶Al」、つまり、sol.Alの含有量を意味する。
Co:0.05~0.50%
コバルト(Co)は、窒素の固溶量を増加させて鋼の強度を高める。また、Ni、Cu、及びVと複合添加することで、高Cl濃度の環境での耐SSC性を高める。さらに、Vと複合添加することにより、シグマ相の析出も抑制する。Co含有量が0.05%以上であれば、これらの効果が得られる。一方、Co含有量が高すぎると、鋼の靱性が低下する。したがって、Co含有量は0.05~0.50%である。Co含有量の下限は、好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Co含有量の上限は、好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.30%である。
B:0.0005~0.0040%
ボロン(B)は、鋼の熱間加工性を高める。例えば傾斜圧延法によって継目無鋼管を製造する場合、高い熱間加工性が要求される。B含有量が0.0005%以上であれば、この効果が得られる。一方、B含有量が高すぎると、鋼中の酸化物、硫化物等の非金属介在物が増加する。これらの非金属介在物は孔食の起点となるため、鋼の耐食性が低下する。したがって、B含有量は0.0005~0.0040%である。B含有量の下限は、好ましくは0.0006%であり、さらに好ましくは0.0010%である。B含有量の上限は、好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
本実施形態による二相ステンレス鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼を工業的に製造する際に、原料として利用される鉱石やスクラップから混入する元素、又は製造過程の環境等から混入する元素を意味する。
本実施形態において、Wは不純物である。Wはシグマ相や炭化物を形成して、鋼の靱性を低下させる。W含有量は、好ましくは0.10%以下であり、さらに好ましくは0.05%以下である。
本実施形態による二相ステンレス鋼材の化学組成は、上述のFeの一部に代えて、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。Ca及びMgは、いずれも選択元素である。すなわち、本実施形態による二相ステンレス鋼材の化学組成は、Ca及びMgのいずれか又は両方を含有していなくてもよい。
Ca:0~0.0040%
カルシウム(Ca)は、Bと同様に、鋼の熱間加工性を高める。Caが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、Ca含有量が高すぎると、鋼中の酸化物、硫化物等の非金属介在物が増加する。これらの非金属介在物は、孔食の起点となって鋼の耐食性を低下させる。したがって、Ca含有量は0~0.0040%である。Ca含有量の下限は、好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Ca含有量の上限は、好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
Mg:0~0.0040%
マグネシウム(Mg)は、Bと同様に、鋼の熱間加工性を高める。Mgが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、Mg含有量が高すぎると、鋼中の酸化物、硫化物等の非金属介在物が増加する。これらの非金属介在物は、孔食の起点となって鋼の耐食性を低下させる。したがって、Mg含有量は0~0.0040%である。Mg含有量の下限は、好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Mg含有量の上限は、好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
[組織]
本実施形態による二相ステンレス鋼材は、フェライトとオーステナイトとの二相組織からなる。本実施形態による二相ステンレス鋼材の組織は、これに限定されないが、例えばフェライト率が30~70%である。
一般的に、フェライト率が高くなると、強度は高くなる一方、靱性は低下する。本実施形態による二相ステンレス鋼材のフェライト率の下限は、好ましくは40%である。本実施形態による二相ステンレス鋼材のフェライト率は、上限の観点では、好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは50%未満である。本実施形態による二相ステンレス鋼材は、フェライト率が50%未満であっても、550MPa以上の降伏強度が得られる。
[機械的特性]
本実施形態による二相ステンレス鋼材は、550MPa以上の降伏強度を有する。本実施形態による二相ステンレス鋼材の降伏強度の下限は、好ましくは560MPaであり、さらに好ましくは570MPaである。
[製造方法]
以下、本実施形態による二相ステンレス鋼材の製造方法を説明する。以下に説明する製造方法は例示であり、本実施形態による二相ステンレス鋼材の製造方法を限定するものではない。
まず、上述した化学組成を有する二相ステンレス鋼を溶製する。二相ステンレス鋼は、電気炉によって溶製してもよいし、Ar-O混合ガス底吹き脱炭炉(AOD炉)によって溶製してもよい。二相ステンレス鋼はまた、真空脱炭炉(VOD炉)によって溶製してもよい。溶製した二相ステンレス鋼は、造塊法によってインゴットにしてもよいし、連続鋳造法によってスラブ、ブルーム、又はビレットにしてもよい。
製造されたインゴット、スラブ、ブルーム、又はビレットを用いて二相ステンレス鋼材を製造する。二相ステンレス鋼材は例えば、二相ステンレス鋼板や二相ステンレス鋼管である。
二相ステンレス鋼板は例えば、インゴット又はスラブを熱間加工して製造することができる。熱間加工は例えば熱間鍛造や熱間圧延である。
二相ステンレス鋼管は、継目無鋼管であってもよいし、溶接鋼管であってもよい。継目無鋼管は例えば、インゴット、スラブ、若しくはブルームを熱間加工して製造したビレット、又は連続鋳造法によって製造したビレットを熱間加工して製造することができる。ビレットの熱間加工は、例えばマンネスマン法による穿孔圧延や、熱間押出、熱間鍛造や熱間圧延である。溶接鋼管は例えば、上述した二相ステンレス鋼板に曲げ加工を実施してオープンパイプにした後、オープンパイプの長手方向の両端面をサブマージアーク溶接法等の周知の溶接法によって溶接して製造することができる。
製造された二相ステンレス鋼材に対して、固溶化熱処理を実施する。具体的には、二相ステンレス鋼材を熱処理炉に装入し、所定の固溶化熱処理温度で熱処理する。固溶化熱処理温度は、これに限定されないが、例えば900~1200℃である。一般的に、固溶化熱処理温度が高い程、フェライト率が高くなる。固溶化熱処理温度で熱処理した後、二相ステンレス鋼材を水冷等により急冷する。
以上、本発明の一実施形態による二相ステンレス鋼材及びその製造方法を説明した。本実施形態によれば、降伏強度が550MPa以上の高強度を有し、高Cl濃度かつ高温の炭酸ガス及び硫化水素を含有する環境においても優れた耐SSC性を有し、かつ、シグマ相の析出が抑制される、二相ステンレス鋼材が得られる。本実施形態による二相ステンレス鋼材は、ラインパイプ用鋼管として特に好適である。本実施形態による二相ステンレス鋼材また、ラインパイプ用の継目無鋼管として特に好適である。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
[母材]
表1に示す化学組成を有する試験番号1~22の溶鋼を、真空溶解炉を用いて製造した。製造された溶鋼からインゴットを製造した。表1の「-」は、該当する元素の含有量が不純物レベルであることを意味する。各インゴットの質量は150kgであった。
Figure 0007436821000001
インゴットを1250℃に加熱し、熱間鍛造して厚さ40mmの鋼板を製造した。この鋼板を1250℃に加熱し、熱間圧延して厚さ15mmの鋼板を製造した。製造された鋼板に対して固溶化熱処理を実施した。具体的には、鋼板を固溶化熱処理温度1080℃で30分間加熱した後、水冷した。以上の工程によって供試鋼板を製造した。
[引張試験]
各試験番号の供試鋼板から丸棒引張試験片を採取した。丸棒引張試験片の平行部の直径は4mmであり、長さは20mmであった。丸棒引張試験片の長手方向は、供試鋼板の圧延方向に対して垂直であった。丸棒引張試験片を用いて、常温(25℃)で引張試験を実施し、降伏強度を測定した。0.2%耐力を降伏強度と定義した。
[シグマ相の面積率測定試験]
一般的に、シグマ相が析出する温度は850~900℃と言われている。そこで、次の方法により、各試験番号の供試鋼板のシグマ相感受性を評価した。供試鋼板を熱処理温度900℃で10分間熱処理した。熱処理後の供試鋼板から、供試鋼板の圧延方向と垂直な面を観察面とする試験片を採取した。採取した試験片の観察面を鏡面研磨及びエッチングした。
500倍の光学顕微鏡を用いて、4つの視野において画像解析を行った。画像解析に利用した各視野の面積は約40000μmであった。画像解析により、各視野内のシグマ相の面積率(%)を求めた。4つの視野で得られた面積率(%)の平均を、その試験番号の供試鋼板のシグマ相の面積率(%)と定義した。シグマ相の面積率が1%以上である場合、シグマ相が析出したと判断した。シグマ相の面積率が1%未満である場合、シグマ相が析出していないと判断した。
[フェライト率測定試験]
各供試鋼板から組織観察用の試験片を採取した。採取された試験片の観察面を鏡面研磨した後、10質量%シュウ酸溶液中で電解エッチングした。エッチングした面を400倍の光学顕微鏡で観察し、フェライト相の面積率をASTM E562:2019に準拠したポイントカウント法で求めた。観察面の面積は約2000μmであった。
表2にこれらの評価結果を示す。
Figure 0007436821000002
試験番号1~11、及び16~19の供試鋼板は、550MPa以上の降伏強度を有し、シグマ相も析出していなかった。
試験番号12~14の供試鋼板は、降伏強度が550MPa未満であった。これは、これらの供試鋼板では、Cr、Co、及びCuの含有量の1つ以上が低すぎたことによって、N含有量が低くなったためと考えられる。
試験番号15の供試鋼板には、シグマ相が析出してした。これは、供試鋼板のMo含有量が高すぎたためと考えられる。
試験番号20~22の供試鋼板には、シグマ相が析出していた。これは、これらの供試鋼板では、Co及びVの含有量のいずれか又は両方が低すぎたためと考えられる。
[溶接継手]
表1の供試鋼板から溶接継手を作製し、溶接部の耐SSC性及びHAZ部靱性を評価した。耐SSC性の評価は、降伏強度が550MPa以上であったものに対してのみ行った。
[溶接継手の作製]
各試験番号の供試鋼板から、図1A及び図1Bに示すように、厚さ12mm、幅100mm、長さ200mmであって、長辺の端部にベベル角度30°(開先角度60°)のV開先を有する板材10を機械加工によって作製した。図2A及び図2Bに示すように、同じ組成の板材10を突き合わせて、片側からティグ溶接により多層溶接して溶接継手20を作製した。溶接条件は、一般的な二相ステンレス鋼の溶接施工としては特に高能率となる入熱量(大きな入熱量)である25kJ/cmとした。溶接材料には、25Cr-9Ni-3Mo-2W-0.3Nからなる外径2mmの溶接材料を全ての供試鋼板に共通に用いた。
[SSC試験]
得られた溶接継手20の初層側(図2BのAA側)から、裏波ビード及び溶接時のスケールを残したまま、溶接金属30の中央を対称軸として、溶接線に直行する方向が試験片の長手方向となり、かつ、10mm×75mmの面が圧延面と平行になるように、図3に示す厚さ2mm、幅10mm、長さ75mmのSSC試験用の試験片40を採取した。
ASTM G39:2016に準拠して、試験片40に与えられる引張応力が各試験片の0.2%耐力に等しくなるように、4点曲げによる撓みを付与した。
3MPaのCO及び0.005MPaのHSを封入した90℃のオートクレーブを準備した。上述の撓みを付与した試験片40をオートクレーブ中で、10質量%のNaCl水溶液に720時間浸漬した。720時間経過後、各試験片に割れが発生しているか否かを評価した。具体的には、試験片40の引張ひずみ付加部分の断面を100倍の光学顕微鏡で観察して割れの有無を評価した。割れのないものを「良」、割れのあったものを「不可」と評価した。
[HAZ部靱性試験]
得られた溶接継手20の厚さ方向の中央から、図4に示すように、幅10mm、厚さ10mm、長さ55mm、ノッチ深さ2mmのフルサイズの試験片50を採取した。溶接継手20の厚さをTとすると、試験片50は、ノッチNの中心が厚さT/2の位置で溶融線と接するように採取した。採取された試験片50を用いて、JIS Z2242:2018に基づいて、-30℃でシャルピー衝撃試験を実施、吸収エネルギーを求めた。吸収エネルギーが30J以上のものを「良」、30J未満のものを「不可」と評価した。
結果を表3に示す。
Figure 0007436821000003
試験番号1~11の供試鋼板から作製した溶接継手は、SSC試験で割れが発生せず、かつ、-30℃の吸収エネルギーが30J以上であった。
試験番号15及び20~22の供試鋼板から作製した溶接継手は、SSC試験で割れが発生した。また、-30℃の吸収エネルギーが30J未満であった。これは、溶接時の熱サイクルでHAZ部にシグマ相が発生したためと考えられる。
試験番号16の供試鋼板から作製した溶接継手は、SSC試験で割れが発生した。これは、試験番号16の供試鋼板のCu含有量が低すぎたためと考えられる。
試験番号17及び18の供試鋼板から作製した溶接継手は、SSC試験で割れが発生した。これは、試験番号17及び18の供試鋼板のMn含有量が高すぎたためと考えられる。試験番号18の供試鋼板は、Cu及びCoに代えてMn含有量を高くすることでN含有量を高くしたものであるが、この方法では高Cl濃度の環境での耐SSC性を確保できないことが分かる。
試験番号19の供試鋼板から作製した溶接継手は、SSC試験で割れが発生した。これは、試験番号19の供試鋼板のV含有量が高すぎたためと考えられる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。

Claims (3)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C :0.04%以下、
    Si:0.10~0.90%、
    Mn:0.20~0.70%、
    P :0.040%以下、
    S :0.010%以下、
    Cu:1.00~3.00%、
    Ni:4.00~8.00%、
    Cr:28.00~35.00%、
    Mo:0.50~1.40%、
    V :0.03~0.20%、
    N :0.350%よりも高く0.700%以下、
    Al:0.030%以下、
    Co:0.05~0.50%、
    B :0.0005~0.0040%、
    Ca:0~0.0040%、
    Mg:0~0.0040%、
    残部:Fe及び不純物であり、
    550MPa以上の降伏強度を有する、二相ステンレス鋼材。
  2. 請求項1に記載の二相ステンレス鋼材であって、
    前記化学組成が、質量%で、
    Ca:0.0005~0.0040%、及び
    Mg:0.0005~0.0040%、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、二相ステンレス鋼材。
  3. 請求項1又は2に記載の二相ステンレス鋼材であって、
    前記鋼材は、ラインパイプ用鋼管である、二相ステンレス鋼材。
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