JP2016216816A - 二相ステンレス鋼材、二相ステンレス鋼管及び二相ステンレス鋼材の表面処理方法 - Google Patents
二相ステンレス鋼材、二相ステンレス鋼管及び二相ステンレス鋼材の表面処理方法 Download PDFInfo
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Abstract
Description
このような構成であれば、鋼材表面に存在する硫化物系介在物を起点とする局部腐食が低減して、耐食性の向上を図ることが可能となる。
このような構成であれば、耐食性に加えて、熱間加工性や強度に優れた二相ステンレス鋼材とすることができる。
このような構成であれば、耐食性がさらに向上する。また、Co、Cuは、オーステナイト相の安定化に効果がある。V、Ti、Nbは、強度特性や加工性の向上に効果がある。
このような構成であれば、鋼材表面に存在する酸化物系介在物を起点とする局部腐食が低減して、耐食性の向上を図ることが可能となる。また、Caは、熱間加工性の向上に効果がある。
このような構成であれば、耐食性がさらに向上する。また、Mgは、熱間加工性の向上に効果がある。
このような構成であれば、熱間加工性がさらに向上する。
このような構成であれば、耐食性がさらに向上する。
このような構成であれば、耐食性がさらに向上する。
このような構成であれば、浴管理が簡便かつ安価な溶液を用いた処理とすることができる。
このような構成であれば、耐食性に加えて、熱間加工性や強度に優れた二相ステンレス鋼材とすることができる。
<二相ステンレス鋼材>
二相ステンレス鋼材は、CrやMoなどのフェライト相安定化元素と、Niなどのオーステナイト相安定化元素を含有するものである。二相ステンレス鋼材の耐孔食性の目安として、Crの含有量(質量%、以下同様)を[Cr]、Moの含有量を[Mo]、Nの含有量を[N]としたときに、[Cr]+3.3[Mo]+16[N]で計算される耐孔食性指数PRE(Pitting Resistance Equivalent)が知られている。また、さらにWを含む場合は、Wの含有量を[W]としたときに、[Cr]+3.3([Mo]+0.5[W])+16[N]で計算される耐孔食性指数PREWが知られている。二相ステンレス鋼材は、これらの指数の数値に基づいて、リーン、スタンダード、スーパーといった等級に分類されることが一般的に知られている。本発明は、二相ステンレス鋼であれば、いずれの等級の二相ステンレス鋼材に対しても適用することが可能である。
二相ステンレス鋼材の耐食性低下の大きな原因として、鋼材中に存在する硫化物系介在物がある。例えば、鋼材中にはS成分が微量ながら存在する。このS成分は、鋼材中に含有されるMnと会合して、MnSのような硫化物系介在物を生成する。
図1は、パルス電位の表面処理方法を行った際の二相ステンレス鋼材表面の不働態皮膜と硫化物系介在物の状況を示す模式的断面図である。
上記のパルス電位を印加することによって硫化物系介在物の除去を行ったとしても、すべての硫化物系介在物を除去することができる訳ではなく、パルス電位の表面処理を行った後に鋼材表面に硫化物系介在物が残存することがある。特に、鋼材表面にS含有量の高い硫化物系介在物が多数存在する場合には、パルス電位を印加することによって硫化物系介在物の除去を行ったとしても、硫化物系介在物が多数残存し、その大きさによらず、耐食性の低下を招くことがある。
鋼材最表面と鋼材内部の硫化物系介在物の個数密度の比は、本発明を特徴づける値である。鋼材最表面の硫化物系介在物は耐食性の低下を招くため、従来技術であるSの低減は耐食性向上に効果的である。しかし、鋼材中のSの低減は工業的に負荷が大きく、コスト高につながる。そこで、本発明では、鋼材中のMnやSを低減させることなく、鋼材最表面の硫化物系介在物の個数密度を低減させることによって、耐食性を向上させている。
二相ステンレス鋼材の好ましい成分組成の数値範囲とその理由について以下に説明する。
Cは、鋼材中でCr等との炭化物を形成して耐食性を低下させる元素である。そのため、C含有量の上限は、0.10質量%以下であることが好ましい。C含有量は、できる限り少ない方が良いため、より好ましくは0.08質量%以下であり、さらに好ましくは0.06質量%以下である。また、Cは鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良い。
Siは、脱酸とフェライト相の安定化のために有用な元素である。このような効果を得るために、Si含有量の下限は、0.1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.15質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上である。しかし、過剰にSiを含有させると加工性が低下することから、Si含有量の上限は、2.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
Mnは、Siと同様に脱酸効果があり、さらに強度確保のために有用な元素である。このような効果を得るために、Mn含有量の下限は、0.1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.15質量%以上であり、さらに好ましくは0.20質量%以上である。しかし、過剰にMnを含有させると粗大なMnSを形成して耐食性が低下することから、Mn含有量の上限は、3.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは2.7質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
Pは、不純物として不可避的に混入し、耐食性を低下させる元素であり、溶接性や加工性も低下させる元素である。そのために、P含有量の上限は、0.05質量%以下であることが好ましい。P含有量は、できる限り少ない方が良く、好ましくは0.04質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以下である。また、Pは、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良いが、P含有量の過度の低減は、製造コストの上昇をもたらすので、P含有量の実操業上の下限は、0.01質量%程度である。
Sは、Pと同様に不純物として不可避的に混入し、Mn等と結合して硫化物系介在物(MnS)を形成して、耐食性や熱間加工性を低下させる元素である。そして、Sを過剰に含有させると、パルス電位印加による除去が不十分となり、耐食性が低下する。そのため、S含有量の上限は、0.01質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以下であり、さらに好ましくは0.003質量%以下である。なお、Sは、その含有量は低ければ低いほど好ましく、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良い。しかし、S含有量の過度の低減は、製造コストの上昇をもたらすので、適切なパルス電位印加の制御を行えば、S含有量は、0.001質量%を超えて含有されていても問題はない。
Alは、脱酸元素であり、溶製時のO量およびS量の低減に有用な元素である。このような効果を得るために、Al含有量の下限は、0.001質量%以上であることが好ましい。しかし、過剰にAlを含有させると酸化物系介在物を生成させて、耐孔食性に悪影響を及ぼすことから、Al含有量の上限は0.05質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.02質量%以下である。
Niは、耐食性向上に有用な元素であり、特に、塩化物環境における局部腐食抑制に効果が大きい。また、Niは、低温靱性を向上させるのにも有効であり、さらにオーステナイト相を安定化させるためにも有用な元素である。こうした効果を得るためには、Ni含有量の下限は、1.0質量%以上であることが好ましい。より好ましくは2.0質量%以上であり、さらに好ましくは3.0質量%以上である。しかし、過剰にNiを含有させると、オーステナイト相が多くなりすぎて、強度が低下することから、Ni含有量の上限は、10.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは9.5質量%以下であり、さらに好ましくは9.0質量%以下である。
Crは、不働態皮膜の主要成分であり、ステンレス鋼材の耐食性発現の基本元素である。また、Crは、フェライト相を安定化させる元素である。そのため、フェライトとオーステナイトの二相組織を維持して、耐食性、強度を両立させるためには、Cr含有量の下限は、20.0質量%以上であることが好ましい。より好ましくは21.0質量%以上であり、さらに好ましくは21.5質量%以上である。Cr含有量が下限未満であると耐食性が低下する。しかし、過剰にCrを含有させると、加工性を低下させることから、Cr含有量の上限は、28.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは27.5質量%以下であり、さらに好ましくは27.0質量%以下である。
Moは、溶解時にモリブデン酸を生成して、インヒビター作用により耐局部腐食性を向上させる効果を発揮し、耐食性を向上させる元素である。また、Moは、フェライト相を安定化させる元素であり、鋼材の耐孔食性・耐割れ性を改善させる効果がある。このような効果を得るためには、Mo含有量の下限は、0.05質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上である。しかし、過剰にMoを含有させると、σ相等の金属間化合物の生成を助長し、耐食性および熱間加工性が低下することから、Mo含有量の上限は、6.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは5.5質量%以下であり、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
Nは、強力なオーステナイト相を安定化させる元素であり、σ相の生成感受性を増加させずに耐食性を向上させる効果がある。さらに、Nは、鋼の高強度化にも有効な元素であるため、本発明では積極的に活用する。このような効果を得るためには、N含有量の下限は、0.05質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上である。しかし、過剰にNを含有させると、窒化物が形成され、靭性や耐食性が低下する。また、熱間加工性を低下させ、鍛造・圧延時に耳割れや表面欠陥を生じさせる。そのため、N含有量の上限は、0.5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.45質量%以下であり、さらに好ましくは0.40質量%以下である。
Oは、溶製時に混入する不純物であり、SiやAl等の脱酸元素と結合することで鋼中に酸化物として析出し、二相ステンレス鋼の加工性および靭性を低下させる元素である。そのため、O含有量の上限は、0.030質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.015質量%以下であり、さらに好ましくは0.010質量%以下である。なお、O含有量は、低ければ低いほど好ましいが、極微量にOを低減するのはコストアップに繋がるため、その下限は、おおよそ0.0005質量%程度である。
CoおよびCuは、耐食性の向上およびオーステナイト相を安定化させる元素である。このような効果を得るために、Co、Cuを含有させるときは、Co含有量およびCu含有量の下限は、それぞれ0.1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.2質量%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、熱間加工性を低下させることから、Co含有量およびCu含有量の上限は、それぞれ2.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくはそれぞれ1.5質量%以下である。
Caは、鋼中に不純物として含まれるSと結合して局部腐食の起点となりやすいMnSの形成を抑制して、耐局部腐食性を向上させる元素である。また、Caは、鋼中のSやOと結合して、これらの介在物が粒界に偏析するのを抑制して熱間加工性を向上させる元素である。このような効果を得るために、Caを含有させるときは、Ca含有量の下限は、0.0005質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.0020質量%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、酸化物系介在物の増加を招き、耐食性、加工性が低下する。そのため、Ca含有量の上限は、0.020質量%以下であることが好ましい。
一方、Caは、AlおよびOと結合して酸化物系介在物を形成する。このCaを含有する酸化物系介在物(「Ca含有酸化物系介在物」と略記する。)は、他の酸化物系介在物と比較して水溶性が高く、溶出しやすいことから、局部腐食の起点になりやすい。そこで、本発明者らは、Ca含有酸化物系介在物について、パルス電位の表面処理方法の有効性について検討を加えた。その結果、Ca含有酸化物系介在物においても、硫化物系介在物のときと同様に、パルス電位の表面処理方法によって、鋼材表面のCa含有酸化物系介在物を選択的に除去して、Ca含有酸化物系介在物が存在していた箇所に新たに不働態皮膜を形成することができることを見出した。
Mgは、鋼中に不純物として含まれるSと結合して局部腐食の起点となりやすいMnSの形成を抑制して、耐局部腐食性を向上させる元素である。また、Mgは、鋼中のSやOと結合して、これらの介在物が粒界に偏析するのを抑制して熱間加工性を向上させる元素である。このような効果を得るために、Mgを含有させるときは、Mg含有量の下限は、0.0005質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.0020質量%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、酸化物系介在物の増加を招き、耐食性、加工性が低下する。そのため、Mg含有量の上限は、0.020質量%以下であることが好ましい。また、Mgおよび上記のCaの含有量の合計は、耐食性および熱間加工性を考慮して、0.001〜0.020質量%が好ましい。
Bは、熱間加工性の向上に効果がある元素である。このような効果を得るためには、B含有量の下限を0.0005質量%以上、好ましくは0.0010質量%以上とする。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、熱間加工時に割れが発生し、鋼中のNと結合してBNを生成することで、耐食性に寄与するN濃度を低下させ、耐食性が低下してしまうおそれがある。そのため、B含有量の上限を、0.010質量%以下、好ましくは0.005質量%以下、更に好ましくは0.002質量%以下とする。
Ta、Zrは、耐食性に悪影響を及ぼす硫化物系介在物をTa、Zrを含有する酸硫化物系複合介在物に改質することで、耐食性への悪影響を抑制する元素である。また、これらの元素はOと結合することで、Cr系酸化物の生成を抑制する元素であり、鋼材の実質的なCr濃度向上に寄与する効果がある。このような効果を得るためには、Ta含有量およびZr含有量の下限を、0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上とする。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、鋼中のNと結合することで窒化物として析出してしまい、靱性、熱間加工性およびNの有効濃度を低減させてしまう。また、Ta、Zrで改質された酸硫化物系複合介在物が多数析出してしまい、熱間加工性を低下させる。そのため、Ta含有量およびZr含有量の上限を、0.50質量%以下、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下とする。
Wは、耐食性を向上させる元素であり、このような効果を得るために、0.01質量%以上含有させることができる。しかし、過剰に含有させると、フェライトの割合を過剰に増加させてしまうため、1.00質量%を超えての添加は好ましくない。好ましくは0.80質量%以下、より好ましくは0.60質量%以下とする。Snは、耐酸性を向上させる元素であり、このような効果を得るために、0.01質量%以上含有させることができる。一方で、過剰に含有させると、熱間加工性が低下するので、上限は0.10質量%以下とすることが好ましい。
二相ステンレス鋼材を構成する成分組成の基本成分は前記のとおりであり、残部成分はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物は、溶製時に不可避的に混入する不純物であり、鋼材の諸特性を害さない範囲で許容される。また、鋼材の成分組成は、本発明の鋼材の効果に悪影響を与えない範囲で、前記成分に加えて、さらに他の元素を積極的に含有させても良い。
二相ステンレス鋼材のCr含有量(質量%)を[Cr]、Mo含有量(質量%)を[Mo]、N含有量(質量%)を[N]としたとき、耐孔食性指数(PRE)は、[Cr]+3.3[Mo]+16[N]で表わされる。厳しい耐食性環境にあっては、PRE≧40であると、組織中のCr量、Mo量、N量のバランスが適切なものとなり、鋼材の耐食性および強度をさらに向上させることができるため、好ましい。
本発明の二相系ステンレス鋼材は、通常のステンレス鋼の量産に用いられている製造設備および製造方法によって製造することができる。鋼中の不純物としてのOを低減するためには、SiやAl等のOとの親和力の大きい元素を多めに添加して脱酸を行い、さらに、真空脱ガスやアルゴンガス攪拌などの二次精錬の時間を長時間化したり、複数回行うことによって酸化物系介在物を除去することができる。
本発明では、二相ステンレス鋼材に耐食性を付加するために、上記の二相ステンレス鋼材を塩化ナトリウム水溶液や人工海水などの電解液に浸漬し、パルス電位と休止電位を繰り返し印加することにより、耐食性低下の原因となる硫化物系介在物およびCa含有酸化物系介在物を除去する。
本発明に係る二相ステンレス鋼管の実施形態について説明する。
二相ステンレス鋼管は、前記二相ステンレス鋼材からなるもので、通常のステンレス鋼管の量産に用いられる製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、丸棒を素材とした押出製管やマンネスマン製管、板材を素材として成形後に継ぎ目を溶接する溶接製管などによって、所望の寸法にすることができる。また、二相ステンレス鋼管の寸法は、鋼管が使用される油井管、化学プラント、アンビリカルチューブ等に応じて適宜設定することができる。なお、二相ステンレス鋼管は、海水淡水化プラント、LNG気化器等にも使用することができる。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
小型溶解炉(容量53kg/1ch)によって、表1に示す成分組成の鋼を溶製し、角鋳型(本体:約120角×約350mm長)を用いて鋳造した。なお、表1の鋼材No.A1〜A20およびB1〜B5は、全てASTM規格 UNS S32750に相当する鋼材である。また、各鋼について、PRE=[Cr]+3.3[Mo]+16[N]の算出結果についても表2に示した。なお、表1の成分組成欄において、空欄は該当成分が含有されていないことを示し、残部はFeおよび不可避的不純物である。凝固した鋼塊を1200℃まで加熱し、同温度で熱間鍛造(鍛造温度:1000〜1200℃)を施し、その後切断した。次に冷間圧延と1100℃で30分保持の固溶化熱処理を施し、冷速12℃/秒で水冷後に切断し、300×120×50mmの鋼材に仕上げた(鋼材No.A1〜A20、B1〜B5)。
次に、前記鋼材から加工方向に平行に切断して、20mm×30mm×2mmtの寸法の試料を採取した。これらの試料を用いて、以下に示す手順で、パルス電位の表面処理を行った。
スポット溶接で試料に導線の取り付けを行い、80℃に保持した20%NaCl水溶液中に浸漬した。その後、対極に白金電極、作用極に飽和カロメル電極(SCE)を用いて、各試料(鋼材No.A1〜A20、B2〜B5)に対して、表2に示した条件で、パルス電位を繰り返し印加した。
個数密度およびS含有量は、次の手順で測定できる。即ち、試料の表面について、SEM−EPMA(走査型電子顕微鏡−電子線プローブマイクロアナライザー、日本電子株式会社製「JXA−8900RL」、「XM−Z0043T」、「XM−87562」)による画像解析を行い、観察される介在物の成分組成をEDX(エネルギー分散型X線検出器)で分析した。分析対象元素は、Si、Mn、P、S、Al、Ni、Cr、Mo、N、O、Co、Cu、V、Ti、Nb、Ta、Zr、REM(La、Ce、Nd、Dy、Y)、Mg、Ca、Bとした。既知物質を用いて各元素のX線強度と元素濃度の関係を予め検量線として求めておき、次いで、前記介在物から得られたX線強度と前記検量線からその介在物の元素濃度を定量した。なお、EDXによる成分組成の分析は、長径が0.25μm以上の介在物を対象として行い、介在物の重心位置を1点につき10秒程度で自動分析すればよい。
酸化物系介在物の個数密度およびCa含有量の測定については、硫化物系介在物の場合に準じて、上記の手順で自動EPMAにて観察し、測定面積3mm2において観察される長径が0.25μm以上の酸化物系介在物について、個数密度およびそれぞれの介在物のCa含有量を測定した。5.0原子%以上のCaを含有する介在物を、Ca含有酸化物系介在物と認定した。Ca含有酸化物系介在物の鋼材最表面における個数密度は、表面積1mm2あたりの平均値として求めた。結果を表2に示した。表2において、Ca含有酸化物系介在物の個数密度の欄の「−」は未測定であることを示している。
耐孔食性の評価はJIS G0577に記載の方法を参考にして評価した。試料表面をSiC#600研磨紙で湿式研磨し、超音波洗浄した後、スポット溶接で試料に導線の取り付けを行い、試料表面の試験面(10mm×10mm)の部分以外をエポキシ樹脂で被覆した。その試料を80℃に保持した20%NaCl水溶液中に10分間浸漬した後、20mV/minの掃引速度でアノード分極を行い、電流密度が0.1mA/cm2を超えた時点の電位を孔食電位(VC‘100)とした。その結果を表3に示した。同表において、孔食電位400mV(vs.SCE)を基準とし、孔食電位が400mV(vs.SCE)を超えるものをA(良)と表示した。また、同表において、孔食電位900mV(vs.SCE)を基準とし、孔食電位が900mVを超えるものをAA(優)と表示した。
試験No.24〜26は、パルス電位の印加条件が適切ではないため、パルス電位の表円処理による硫化物系介在物の除去が十分でなく、硫化物系介在物の最表面における個数密度が上限を超えるため、耐孔食性が基準を満たさなかった。
試験No.27は、S含有量が上限を超え、硫化物系介在物の最表面における個数密度が上限を超えるため、耐孔食性が基準を満たさなかった。
(鋼材の作製)
小型溶解炉(容量53kg/1ch)によって、表1のC1に示す成分組成の鋼を溶製し、角鋳型(本体:約120角×約350mm)を用いて鋳造した。なお、表1のC1に示す鋼は、ASTM規格 UNS S32304に相当する鋼材である。以下、実施例1と同様の条件で加工を行って、鋼材に仕上げた。
次に、前記鋼材から加工方向に平行に採取した試料(20mm×30mm×2mmt)を用いて、実施例1と同様に、以下に示す手順で、パルス電位の表面処理を行うと共に、硫化物系介在物の個数密度およびS含有量を測定し、耐孔食性を評価した。その結果を表2に示した。
また、前記試料を加工方向と垂直な断面を埋め込み、鏡面研磨し、シュウ酸水溶液中で電解エッチングを行った後、倍率100倍の光学顕微鏡観察を行い、各試料の組織を観察した。その結果、いずれの試料もフェライト相とオーステナイト相の二相からなるものであった。
スポット溶接で試料に導線の取り付けを行い、80℃に保持した3.5%人工海水中に浸漬した後、対極に白金電極、作用極に飽和カロメル電極(SCE)を用いて、鋼材(鋼材No.C1)に対して、表2に示すパルス電位を繰り返し印加した。
個数密度およびS含有量は、実施例1と同様の手順で測定を行った。
耐孔食性の評価はJIS G0577に記載の方法を参考にして評価した。試料表面をSiC#600研磨紙で湿式研磨し、超音波洗浄した後、スポット溶接で試料に導線の取り付けを行い、試料表面の試験面(10mm×10mm)の部分以外をエポキシ樹脂で被覆した。実施例2の鋼材に対しては、80℃に保持した3.5%人工海水中に10分間浸漬した後、20mV/minの掃引速度でアノード分極を行い、電流密度が0.1mA/cm2を超えた時点の電位を孔食電位(VC‘100)とした。その結果を表4に示した。同表において、孔食電位が400mV(vs.SCE)を超えるものを基準とし、Aと表示した。
試験No.30は、パルス電位の印加条件が適切ではないため、パルス電位の表面処理による硫化物系介在物の除去が十分でなく、硫化物系介在物の最表面における個数密度が上限を超えるため、耐孔食性が基準を満たさなかった。
2、6、8 不働態皮膜
3 電解液
4 硫化物系介在物
5、7 二相ステンレス鋼材の一部の表面
9 孔食
10 成長した孔食
Claims (11)
- フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、
5.0原子%以上のSを含有する硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度が表面積1mm2あたり100個以下であり、
{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度の比が0.6以下であること
を特徴とする二相ステンレス鋼材。 - 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、
C:0.10%質量以下、
Si:0.1〜2.0質量%、
Mn:0.1〜3.0質量%、
P:0.05質量%以下、
S:0.01質量%以下、
Al:0.001〜0.05質量%、
Ni:1.0〜10.0質量%、
Cr:20.0〜28.0質量%、
Mo:0.05〜6.0質量%、
N:0.05〜0.5質量%、
O:0.030質量%以下であって、
残部がFeおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼材。 - 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
Co:0.1〜2.0質量%、
Cu:0.1〜2.0質量%、
V:0.01〜0.50質量%、
Ti:0.01〜0.50質量%、
Nb:0.01〜0.50質量%
よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項2に記載の二相ステンレス鋼材。 - 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
Ca:0.0005〜0.020質量%を含有し、
5.0原子%以上のCaを含有する酸化物系介在物の鋼材最表面における個数密度が表面積1mm2あたり100個以下であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の二相ステンレス鋼材。 - 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
Mg:0.0005〜0.020質量%、
REM:0.0005〜0.10質量%
よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材。 - 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
B:0.0005〜0.010質量%
を含有することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材。 - 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
Zr:0.01〜0.50質量%、
Ta:0.01〜0.50質量%
のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材。 - 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
W:0.01〜1.00質量%、
Sn:0.01〜0.10質量%
のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材。 - 請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼材からなることを特徴とする二相ステンレス鋼管。
- フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材を電解液に浸漬し、パルス電位と休止電位を繰り返し印加する二相ステンレス鋼材の表面処理方法であって、
得られた二相ステンレス鋼材は、5.0原子%以上のSを含有する硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度が表面積1mm2あたり100個以下であり、
得られた二相ステンレス鋼材は、{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度の比が0.6以下であること
を特徴とする二相ステンレス鋼材の表面処理方法。 - 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、
C:0.10%質量以下、
Si:0.1〜2.0質量%、
Mn:0.1〜3.0質量%、
P:0.05質量%以下、
S:0.01質量%以下、
Al:0.001〜0.05質量%、
Ni:1.0〜10.0質量%、
Cr:20.0〜28.0質量%、
Mo:0.05〜6.0質量%、
N:0.05〜0.5質量%、
O:0.030質量%以下であって、
残部がFeおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項10に記載の二相ステンレス鋼材の表面処理方法。
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