JP2016216816A - 二相ステンレス鋼材、二相ステンレス鋼管及び二相ステンレス鋼材の表面処理方法 - Google Patents

二相ステンレス鋼材、二相ステンレス鋼管及び二相ステンレス鋼材の表面処理方法 Download PDF

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潤一郎 衣笠
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Abstract

【課題】耐食性に優れた二相ステンレス鋼材とその二相ステンレス鋼管と二相ステンレス鋼材の表面処理方法を提供する。【解決手段】フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材1であって、5.0原子%以上のSを含有する硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度が表面積1mm2あたり100個以下であり、{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度の比が0.6以下である二相ステンレス鋼材。また、当該二相ステンレス鋼材からなる鋼管。また、二相ステンレス鋼材を電解液に浸漬し、パルス電位Ppで介在物4をアノード溶解し、休止電位Pc(カソード側)で不働態皮膜6を再生し、パルスを繰り返し印加する二相ステンレス鋼材の表面処理方法。【選択図】図1

Description

本発明は、二相ステンレス鋼材、二相ステンレス鋼管及び二相ステンレス鋼材の表面処理方法に関するものである。
ステンレス鋼材は、不働態皮膜と呼ばれるCrの酸化物を主体とする安定な表面皮膜を自然に形成して、耐食性を発現する材料である。特に、フェライト相とオーステナイト相からなる二相ステンレス鋼材は、強度特性がオーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼に対して優れ、耐孔食性と耐応力腐食割れ性が良好である。このような特徴のため、二相ステンレス鋼材は、建築材料、アンビリカルチューブ、海水淡水化プラント、LNG気化器、油井管、各種化学プラントなどの構造材料として広く使用されている。
しかしながら、塩化物、硫化水素(HS)、炭酸ガス(CO)などの腐食性物質が含まれる環境(以下、腐食環境と称することがある)においては、二相ステンレス鋼材中の介在物や不働態皮膜の欠陥などを起点として、二相ステンレス鋼材に局部腐食、いわゆる孔食が発生する場合がある。また、二相ステンレス鋼材の配管やフランジ等の構造的にすきまを形成する部分においては、すきま内部では塩化物イオンなどの腐食性物質が濃縮してより厳しい腐食環境が生じる。さらに、すきま外部と内部との間で酸素濃淡電池を形成して、すきま内部の局部腐食がより促進され、いわゆるすきま腐食が発生する場合がある。また、孔食やすきま腐食などの局部腐食は、応力腐食割れ(SCC)の起点となる場合がある。
このような問題の対策として、たとえば、特許文献1には、Cr、Mo、N、Wの含有量の制御により耐孔食性指数PREWを40以上とすることで、耐食性を改善した二相ステンレス鋼が開示されている。また、特許文献2には、Cr、Mo、W、Nの含有量の制御に加え、BやTa等の含有量を制御することによって、耐食性および熱間加工性に優れた二相ステンレス鋼が開示されている。
また、非特許文献1には、ステンレス鋼において鋼中介在物のMnSが局部腐食(孔食)の起点になっていることが実験的に示されている。特許文献3では、熱間加工性や耐食性に悪影響を及ぼす鋼中の硫化物系介在物を低減させるため、S量を3ppm以下まで低減した二相ステンレス鋼が開示されている。
さらに、特許文献4には、孔食の起点となる酸化物系介在物を制御する技術として、Ca量やMg量、S量を制御し、さらに介在物形態や密度を調整した二相ステンレス鋼が開示されている。
腐食を抑制するために、ステンレス鋼の表面処理方法も開示されている。例えば、特許文献5では、硝酸やクロム酸を含む水溶液で、陽極電解処理および陰極電解処理を行うことで、不働態皮膜強化と金属クロムの電着作用により、ステンレス鋼の耐食性を向上させている。
また、特許文献6には、アルカリ性水溶液にステンレス鋼を浸漬することで、不働態皮膜を強化させた耐食性に優れたステンレス鋼が開示されている。
さらに、非特許文献2には、強酸や強酸化剤、アルカリ性水溶液を用いることなく、弱酸の硫酸ナトリウム水溶液にステンレス鋼を浸漬し、定電位を印加することで、表面に存在するMnSを除去し、ステンレス鋼の耐食性を向上させる方法が開示されている。
特開平5−132741号公報 特開平8−170153号公報 特開平3−291358号公報 国際公開第2005/014872号 特開平9−184096号公報 特開2005−126743号公報
武藤泉ら、ふぇらむVol.17(2012),No.12,pp.858−863 N. Hara, K. Hirabayashi, Y. Sugawara, and I. Muto, International Journal of Corrosion, Volume 2012, Article ID 482730
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、厳しい腐食環境において、必ずしも十分な耐食性を確保できるとは言えないものである。また、特許文献2に記載の発明は、Bが鋼中のNと結合してBNを生成することによって、耐食性に寄与するN濃度を低下させてしまうおそれがある。また、特許文献1や特許文献2に記載の発明は、Cr、Mo、Wといった合金元素の添加量を増やすことで、二相ステンレス鋼の耐食性を高めることができるが、これらは高価な元素であるため、添加量が増えるほど、コスト高になることが懸念される。
特許文献3に記載の発明では、Sを3ppm以下とするのは工業的に負荷が大きいため、コスト高になる。また、特許文献4に記載の発明では、CaやMgを添加して介在物を制御しても、これらが凝集することで局部腐食や割れ起点になることが懸念される。また、当該発明は基本的に従来の孔食起点となる介在物を低減させるものであり、その形成源であるOやSを極微量に低減させることは、工業的に負荷が大きくコスト高になる。
また、特許文献5に記載の発明では、硝酸やクロム酸等の酸を使用するため、操業上、溶液の濃度管理が困難であり、またクロム酸は有害であるため環境負荷が大きい。
これらの発明に対して、特許文献6に記載の発明では、強酸や強酸化剤を用いることなくステンレス鋼の不働態皮膜を強化して、耐食性を向上させているが、高温のアルカリ性水溶液を使用するため、操業上、溶液の管理が困難である。
さらに、非特許文献2に記載の方法は、孔食起点箇所であるMnSの除去効率にばらつきがあり、耐食性向上効果が不十分である。また、耐食性を向上させるためには印加する電位を高くすることが有効との記載があるが、高い電位を長時間印加すると、MnSだけでなくステンレス鋼の母材までも溶解し、表面外観が損なわれる恐れがある。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の二相ステンレス鋼材と異なる構成によって、優れた耐食性を発現する二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管を提供することである。また、優れた耐食性を発現する二相ステンレス鋼材を簡便に得ることができる二相ステンレス鋼材の表面処理方法を提供することである。
ステンレス鋼材は、鋼材表面にCrの酸化物を主体とする不働態皮膜を形成することによって耐食性を発現する材料である。二相ステンレス鋼材は一般的に、フェライト相とオーステナイト相から構成されているため、これら異相界面で不連続性を有している。そのため、フェライト相とオーステナイト相との界面、または鋼中に不可避的に形成される介在物(酸化物、硫化物)と母材金属との界面において、不働態皮膜の連続性が低下することによって、不働態皮膜が不安定になる傾向が強い。その結果、塩化物イオンによる不働態皮膜の破壊作用を受けやすくなり、局部腐食が発生しやすくなる。
そこで、本発明者らは、製造面や諸特性を阻害しない範囲内において、二相ステンレス鋼材の不働態皮膜の安定性および保護性を強化することに着目し、これら局部腐食の原因となる介在物について鋭意検討を進めた。
ステンレス鋼材では、鋼中の介在物であって、鋼材の特性や耐食性に悪影響を与える代表的なものとして、MnSやCaSが挙げられる。MnSは、非特許文献1に記載の様に、他の酸化物系介在物と比較して水溶性が高く溶出しやすいことから、局部腐食の起点になりやすいことが知られている。しかし、Mnは、オーステナイト形成元素であり、鋼材強度を高める効果もあることから、一定量を含有させなければならない。またSは、鋼中の不純物元素として含有されており、含有量はできるだけ低い方が好ましいが、前述の通りSの含有量の低減には工業的に限度がある。
また、陽極酸化処理やアルカリ処理による不働態皮膜形成などの表面処理法が開示されているが、その多くは硝酸やクロム酸などの酸またはアルカリ溶液が使用されており、前述の通り、操業上の浴管理が困難であった。
そのため本発明者らは、鋼中のMnやSを低減させることなく、局部腐食の起点となる鋼材表面の硫化物系介在物を選択的に除去することを着想し、さらに浴管理が簡便かつ安価である溶液を用いた処理方法を鋭意検討した。
その結果、電気伝導性を有する電解液中にて、鋼材にパルス電位を繰り返し印加し、溶液の濃度、温度、パルス電位、パルス電位の印加時間、休止電位および休止電位の保持時間を適切に制御することによって、介在物を選択的に除去できることを見出した。そして、二相ステンレス鋼材において、鋼材表面の局部腐食の起点となる介在物を減少させ、不働態皮膜の連続的な形成を図ることによって、耐食性を向上させることができることを見出した。
本発明は、前記課題を解決するために、上記のような検討を重ねることによって、完成するに至ったものである。すなわち、本発明に係る二相ステンレス鋼材は、フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、5.0原子%以上のSを含有する硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度が表面積1mmあたり100個以下であり、{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度の比が0.6以下であることを特徴としている。
このような構成であれば、鋼材表面に存在する硫化物系介在物を起点とする局部腐食が低減して、耐食性の向上を図ることが可能となる。
また、本発明に係る二相ステンレス鋼材は、前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、C:0.10%質量以下、Si:0.1〜2.0質量%、Mn:0.1〜3.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.001〜0.05質量%、Ni:1.0〜10.0質量%、Cr:20.0〜28.0質量%、Mo:0.05〜6.0質量%、N:0.05〜0.5質量%、O:0.030質量%以下であって、残部がFeおよび不可避的不純物であることが好ましい。
このような構成であれば、耐食性に加えて、熱間加工性や強度に優れた二相ステンレス鋼材とすることができる。
また、本発明に係る二相ステンレス鋼材は、前記成分組成が、さらにCo:0.1〜2.0質量%、Cu:0.1〜2.0質量%、V:0.01〜0.50質量%、Ti:0.01〜0.50質量%、Nb:0.01〜0.50質量%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
このような構成であれば、耐食性がさらに向上する。また、Co、Cuは、オーステナイト相の安定化に効果がある。V、Ti、Nbは、強度特性や加工性の向上に効果がある。
また、本発明に係る二相ステンレス鋼材は、前記成分組成が、さらにCa:0.0005〜0.020質量%を含有し、5.0原子%以上のCaを含有する酸化物系介在物の鋼材最表面における個数密度が表面積1mmあたり100個以下であることが好ましい。
このような構成であれば、鋼材表面に存在する酸化物系介在物を起点とする局部腐食が低減して、耐食性の向上を図ることが可能となる。また、Caは、熱間加工性の向上に効果がある。
また、本発明に係る二相ステンレス鋼材は、前記成分組成が、さらにMg:0.0005〜0.020質量%、REM:0.0005〜0.10質量%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
このような構成であれば、耐食性がさらに向上する。また、Mgは、熱間加工性の向上に効果がある。
また、本発明に係る二相ステンレス鋼材は、さらにB:0.0005〜0.010質量%を含有することが好ましい。
このような構成であれば、熱間加工性がさらに向上する。
また、本発明に係る二相ステンレス鋼材は、さらにZr:0.01〜0.50質量%、Ta:0.01〜0.50質量%のうちの1種または2種を含有することが好ましい。
このような構成であれば、耐食性がさらに向上する。
また、本発明に係る二相ステンレス鋼材は、さらにW:0.01〜1.00質量%、Sn:0.01〜0.10質量%のうちの1種または2種を含有することが好ましい。
このような構成であれば、耐食性がさらに向上する。
本発明に係る二相ステンレス鋼管は、前記の二相ステンレス鋼材からなることを特徴とする。前記のように、二相ステンレス鋼管は、鋼菅を二相ステンレス鋼材で構成することによって、局部腐食の起点となる介在物が低減され、耐食性が向上する。
本発明に係る二相ステンレス鋼材の表面処理方法は、フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材を電解液に浸漬し、パルス電位と休止電位を繰り返し印加する二相ステンレス鋼材の表面処理方法であって、得られた二相ステンレス鋼材は、5.0原子%以上のSを含有する硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度が表面積1mmあたり100個以下であり、得られた二相ステンレス鋼材は、{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度の比が0.6以下であることを特徴としている。
このような構成であれば、浴管理が簡便かつ安価な溶液を用いた処理とすることができる。
本発明に係る二相ステンレス鋼材の表面処理方法は、前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、C:0.10%質量以下、Si:0.1〜2.0質量%、Mn:0.1〜3.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.001〜0.05質量%、Ni:1.0〜10.0質量%、Cr:20.0〜28.0質量%、Mo:0.05〜6.0質量%、N:0.05〜0.5質量%、O:0.030質量%以下であって、残部がFeおよび不可避的不純物であることが好ましい。
このような構成であれば、耐食性に加えて、熱間加工性や強度に優れた二相ステンレス鋼材とすることができる。
本発明の二相ステンレス鋼材は、耐食性に優れている。また、本発明の二相ステンレス鋼管によれば、優れた耐食性を発現するので、アンビリカルチューブ、海水淡水化プラント、LNG気化器、油井菅、各種化学プラントなどの構造材料として使用することが可能である。また、本発明の二相ステンレス鋼材の表面処理方法は、浴管理が簡便かつ安価な溶液を用いた処理方法であり、二相ステンレス鋼材に耐食性を付与することができる。
パルス電位の表面処理方法を行った際の二相ステンレス鋼材表面の不働態皮膜と硫化物系介在物の状況を示す模式的断面図である。 腐食環境下における二相ステンレス鋼材の不働態皮膜と硫化物系介在物と局部腐食の発生状況の経時変化を示す模式的断面図である。 腐食環境下における本発明の二相ステンレス鋼材の経時変化を示す模式的断面図である。
本発明に係る二相ステンレス鋼材の実施形態について説明する。
<二相ステンレス鋼材>
二相ステンレス鋼材は、CrやMoなどのフェライト相安定化元素と、Niなどのオーステナイト相安定化元素を含有するものである。二相ステンレス鋼材の耐孔食性の目安として、Crの含有量(質量%、以下同様)を[Cr]、Moの含有量を[Mo]、Nの含有量を[N]としたときに、[Cr]+3.3[Mo]+16[N]で計算される耐孔食性指数PRE(Pitting Resistance Equivalent)が知られている。また、さらにWを含む場合は、Wの含有量を[W]としたときに、[Cr]+3.3([Mo]+0.5[W])+16[N]で計算される耐孔食性指数PREWが知られている。二相ステンレス鋼材は、これらの指数の数値に基づいて、リーン、スタンダード、スーパーといった等級に分類されることが一般的に知られている。本発明は、二相ステンレス鋼であれば、いずれの等級の二相ステンレス鋼材に対しても適用することが可能である。
例えば、スーパー二相ステンレス鋼に分類される、ASTM規格 UNS S32750、S32760、スタンダード二相ステンレス鋼に分類される、ASTM規格 UNS S32205、S31803、リーン二相ステンレス鋼に分類される、ASTM規格 UNS S32101、S32304をはじめ、その他の二相ステンレス鋼にも好適に適用することができる。
フェライト相とオーステナイト相からなる二相ステンレス鋼材においては、CrやMoなどのフェライト相安定化元素はフェライト相に濃縮し、NiやNなどのオーステナイト相安定化元素はオーステナイト相に濃縮する傾向にある。このとき、オーステナイト相に対するフェライト相の面積率が30%未満または70%を超える場合には、Cr、Mo、Ni、Nなどの耐食性に寄与する元素のフェライト相とオーステナイト相における濃度の差異が大きくなりすぎる。その結果、フェライト相とオーステナイト相のいずれか耐食性に劣る側が選択的に腐食されて耐食性が低下する傾向が大きくなる。したがって、フェライト相とオーステナイト相との比率も最適化することが推奨される。
オーステナイト相に対するフェライト相の面積率は、耐食性の観点から30〜70%が好ましい。40%以上あるいは60%以下が更に好ましい。このようなフェライト相とオーステナイト相の面積率は、フェライト相安定化元素とオーステナイト相安定化元素の含有量を調整することによって適正化することが可能である。
また、本発明の二相ステンレス鋼材は、フェライト相とオーステナイト相以外にσ相やCrの炭窒化物などの異相も耐食性や機械特性などの諸特性を害さない程度に許容できる。フェライト相とオーステナイト相の面積率の合計は、鋼材の全相(全組織)に対して95%以上とすることが好ましく、97%以上とすることがさらに好ましい。
(局部腐食の発生の分析)
二相ステンレス鋼材の耐食性低下の大きな原因として、鋼材中に存在する硫化物系介在物がある。例えば、鋼材中にはS成分が微量ながら存在する。このS成分は、鋼材中に含有されるMnと会合して、MnSのような硫化物系介在物を生成する。
図2は、腐食環境下における二相ステンレス鋼材の不働態皮膜と硫化物系介在物と局部腐食の発生状況を示す模式的断面図である。図2(a)、(b)、(c)は、腐食環境下における、局部腐食の発生状況の経時変化を示している。
例えば、鋼材に腐食性を有する電解液が付着していたり、図2のように、鋼材自体が電解液3中に浸漬していると、MnSのような硫化物系介在物4は比較的溶解し易いため、電解液3中に溶出し、硫化物系介在物4が存在していた箇所に孔食9が発生する。当該孔食9は、不働態皮膜2が形成されていない箇所(新生面)に生成しているため、孔食内の二相ステンレス鋼材1が溶液中に次第に溶出していき、その結果、成長した孔食10が形成される。
本発明者らは、局部腐食の起点となる鋼材表面の硫化物系介在物4を除去する方法として、パルス電位を印加する方法の有効性について検討を重ねた。その結果、特定の印加条件でパルス電位を印加することによって、局部腐食の起点となる鋼材表面の硫化物系介在物4を選択的に除去し、さらに、硫化物系介在物4が存在していた箇所に新たに不働態皮膜を形成できることを見出した。このような処理方法を以下、パルス電位の表面処理方法と記載する。
図3は、腐食環境下における、本発明の二相ステンレス鋼の経時変化を示す模式的断面図である。本発明の二相ステンレス鋼は、腐食起点となる硫化物系介在物が少ないため、腐食性溶液中においても、孔食が発生しにくい。
図1は、パルス電位の表面処理方法を行った際の二相ステンレス鋼材表面の不働態皮膜と硫化物系介在物の状況を示す模式的断面図である。
二相ステンレス鋼材1に対してプラス側にパルス電位を印加すると、MnSのような硫化物系介在物4の溶解を促進する。そのため、鋼材表面に硫化物系介在物4が存在すると、それらの硫化物系介在物4は、選択的に電解液3中に溶出する。その結果、二相ステンレス鋼材の一部の表面5が電解液3中に露出する(図1(b))。
次に、二相ステンレス鋼材1に対してマイナス側にパルス電位を印加すると、生じた新生面からの溶出が抑制され、さらに、露出した二相ステンレス鋼材の一部の表面5に不働態皮膜6が形成される。そのため、孔食は不働態皮膜2、6で保護され、その後孔食が大きく成長することは抑制される(図1(c))。さらに、二相ステンレス鋼材にかけるパルス電位をプラス側とマイナス側で繰り返すことによって、硫化物系介在物4が溶出した後の孔食部の二相ステンレス鋼材の一部の表面7は、不働態皮膜8が形成されることによって保護される(図1(d)、(e))。すなわち、導電性を有する電解液中にてパルス電位を印加することで、ステンレス鋼材の表面に存在するMnSなどの硫化物系介在物を選択的に除去し、かつ不働態皮膜を形成して孔食の成長を抑制し、耐局部腐食性を向上させている。
このように、本発明のパルス電位の表面処理方法では、硫化物系介在物のみを除去し、その抜けた孔は新たに生成した不働態皮膜によってふさがれるため、孔が成長することはなく、二相ステンレス鋼材の外観を損ねることなく、耐局部腐食性を保持することが可能となる。
ここで、パルス電位を印加する際に二相ステンレス鋼材を浸漬する溶液は、電解液であることが必要である。具体的には、中性電解液、弱酸性電解液またはアルカリ性電解液等を挙げることができる。中でも、塩化ナトリウム水溶液や硫酸ナトリウム水溶液などの中性の金属塩を溶解した水溶液は、浴管理が簡便かつ安価であり、好ましい。
(硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度)
上記のパルス電位を印加することによって硫化物系介在物の除去を行ったとしても、すべての硫化物系介在物を除去することができる訳ではなく、パルス電位の表面処理を行った後に鋼材表面に硫化物系介在物が残存することがある。特に、鋼材表面にS含有量の高い硫化物系介在物が多数存在する場合には、パルス電位を印加することによって硫化物系介在物の除去を行ったとしても、硫化物系介在物が多数残存し、その大きさによらず、耐食性の低下を招くことがある。
そこで、耐食性を保持するために、鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度を管理することが必要となる。本発明では、5.0原子%以上のSを含有する硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度を表面積1mmあたり100個以下とする。好ましくは90個以下であり、より好ましくは80個以下である。なお、5.0原子%以上のSを含有する硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度は低ければ低いほど耐食性が向上するため、下限は特に定めない。すなわち、0個であっても良い。このような硫化物系介在物の個数密度は、パルス電位を印加する際の溶液の温度と組成、またパルス電位、パルス電位の印加時間、休止電位、休止電位の保持時間を制御することによって達成される。
ここで、硫化物系介在物として、5.0原子%以上のSを含有する硫化物系介在物に限定しているのは、S含有量の高い硫化物系介在物は、溶出し易いため孔食を発生し易く、耐食性に与える影響が大きいからである。
(鋼材内部の硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面の硫化物系介在物の個数密度の比)
鋼材最表面と鋼材内部の硫化物系介在物の個数密度の比は、本発明を特徴づける値である。鋼材最表面の硫化物系介在物は耐食性の低下を招くため、従来技術であるSの低減は耐食性向上に効果的である。しかし、鋼材中のSの低減は工業的に負荷が大きく、コスト高につながる。そこで、本発明では、鋼材中のMnやSを低減させることなく、鋼材最表面の硫化物系介在物の個数密度を低減させることによって、耐食性を向上させている。
すなわち、本発明は、鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度を低減させることによって、鋼材内部と比べて鋼材最表面の硫化物系介在物が少ないという特徴を有したものとなっている。鋼材内部の硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面の硫化物系介在物の個数密度の比が小さいほど、耐食性に悪影響を及ぼす硫化物系介在物の存在量が減り、二相ステンレス鋼材の耐食性を向上させることができる。
具体的には、鋼材内部の硫化物系介在物の個数密度の代表値として、鋼材厚さの1/4の厚さの部分における硫化物系介在物の個数密度を規定する。鋼材厚さの1/4の厚さの部分を「{(鋼材厚さ)/4}部」と記載する。鋼材厚さの1/4の厚さの部分としたのは、鋼材内部の物性を評価するときに、平均的な物性を示す位置であるからである。
本発明において、{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度の比は、0.6以下である。好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.4以下である。鋼材最表面と鋼材内部の硫化物系介在物の個数密度の比は低ければ低いほど好ましい。すなわち、0であっても良い。
本発明の効果をより有効に発揮させて、耐食性に加えて、熱間加工性や強度においても優れた性能を有した二相ステンレス鋼材とするためには、二相ステンレス鋼材の成分組成において、好ましい成分組成が存在する。
二相ステンレス鋼材の好ましい成分組成の数値範囲とその理由について以下に説明する。
(C:0.10質量%以下)
Cは、鋼材中でCr等との炭化物を形成して耐食性を低下させる元素である。そのため、C含有量の上限は、0.10質量%以下であることが好ましい。C含有量は、できる限り少ない方が良いため、より好ましくは0.08質量%以下であり、さらに好ましくは0.06質量%以下である。また、Cは鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良い。
(Si:0.1〜2.0質量%)
Siは、脱酸とフェライト相の安定化のために有用な元素である。このような効果を得るために、Si含有量の下限は、0.1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.15質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上である。しかし、過剰にSiを含有させると加工性が低下することから、Si含有量の上限は、2.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
(Mn:0.1〜3.0質量%)
Mnは、Siと同様に脱酸効果があり、さらに強度確保のために有用な元素である。このような効果を得るために、Mn含有量の下限は、0.1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.15質量%以上であり、さらに好ましくは0.20質量%以上である。しかし、過剰にMnを含有させると粗大なMnSを形成して耐食性が低下することから、Mn含有量の上限は、3.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは2.7質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
(P:0.05質量%以下)
Pは、不純物として不可避的に混入し、耐食性を低下させる元素であり、溶接性や加工性も低下させる元素である。そのために、P含有量の上限は、0.05質量%以下であることが好ましい。P含有量は、できる限り少ない方が良く、好ましくは0.04質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以下である。また、Pは、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良いが、P含有量の過度の低減は、製造コストの上昇をもたらすので、P含有量の実操業上の下限は、0.01質量%程度である。
(S:0.01質量%以下)
Sは、Pと同様に不純物として不可避的に混入し、Mn等と結合して硫化物系介在物(MnS)を形成して、耐食性や熱間加工性を低下させる元素である。そして、Sを過剰に含有させると、パルス電位印加による除去が不十分となり、耐食性が低下する。そのため、S含有量の上限は、0.01質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以下であり、さらに好ましくは0.003質量%以下である。なお、Sは、その含有量は低ければ低いほど好ましく、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良い。しかし、S含有量の過度の低減は、製造コストの上昇をもたらすので、適切なパルス電位印加の制御を行えば、S含有量は、0.001質量%を超えて含有されていても問題はない。
(Al:0.001〜0.05質量%)
Alは、脱酸元素であり、溶製時のO量およびS量の低減に有用な元素である。このような効果を得るために、Al含有量の下限は、0.001質量%以上であることが好ましい。しかし、過剰にAlを含有させると酸化物系介在物を生成させて、耐孔食性に悪影響を及ぼすことから、Al含有量の上限は0.05質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.02質量%以下である。
(Ni:1.0〜10.0質量%)
Niは、耐食性向上に有用な元素であり、特に、塩化物環境における局部腐食抑制に効果が大きい。また、Niは、低温靱性を向上させるのにも有効であり、さらにオーステナイト相を安定化させるためにも有用な元素である。こうした効果を得るためには、Ni含有量の下限は、1.0質量%以上であることが好ましい。より好ましくは2.0質量%以上であり、さらに好ましくは3.0質量%以上である。しかし、過剰にNiを含有させると、オーステナイト相が多くなりすぎて、強度が低下することから、Ni含有量の上限は、10.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは9.5質量%以下であり、さらに好ましくは9.0質量%以下である。
(Cr:20.0〜28.0質量%)
Crは、不働態皮膜の主要成分であり、ステンレス鋼材の耐食性発現の基本元素である。また、Crは、フェライト相を安定化させる元素である。そのため、フェライトとオーステナイトの二相組織を維持して、耐食性、強度を両立させるためには、Cr含有量の下限は、20.0質量%以上であることが好ましい。より好ましくは21.0質量%以上であり、さらに好ましくは21.5質量%以上である。Cr含有量が下限未満であると耐食性が低下する。しかし、過剰にCrを含有させると、加工性を低下させることから、Cr含有量の上限は、28.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは27.5質量%以下であり、さらに好ましくは27.0質量%以下である。
(Mo:0.05〜6.0質量%)
Moは、溶解時にモリブデン酸を生成して、インヒビター作用により耐局部腐食性を向上させる効果を発揮し、耐食性を向上させる元素である。また、Moは、フェライト相を安定化させる元素であり、鋼材の耐孔食性・耐割れ性を改善させる効果がある。このような効果を得るためには、Mo含有量の下限は、0.05質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上である。しかし、過剰にMoを含有させると、σ相等の金属間化合物の生成を助長し、耐食性および熱間加工性が低下することから、Mo含有量の上限は、6.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは5.5質量%以下であり、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
(N:0.05〜0.5質量%)
Nは、強力なオーステナイト相を安定化させる元素であり、σ相の生成感受性を増加させずに耐食性を向上させる効果がある。さらに、Nは、鋼の高強度化にも有効な元素であるため、本発明では積極的に活用する。このような効果を得るためには、N含有量の下限は、0.05質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上である。しかし、過剰にNを含有させると、窒化物が形成され、靭性や耐食性が低下する。また、熱間加工性を低下させ、鍛造・圧延時に耳割れや表面欠陥を生じさせる。そのため、N含有量の上限は、0.5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.45質量%以下であり、さらに好ましくは0.40質量%以下である。
(O:0.030質量%以下)
Oは、溶製時に混入する不純物であり、SiやAl等の脱酸元素と結合することで鋼中に酸化物として析出し、二相ステンレス鋼の加工性および靭性を低下させる元素である。そのため、O含有量の上限は、0.030質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.015質量%以下であり、さらに好ましくは0.010質量%以下である。なお、O含有量は、低ければ低いほど好ましいが、極微量にOを低減するのはコストアップに繋がるため、その下限は、おおよそ0.0005質量%程度である。
(Co:0.1〜2.0質量%、Cu:0.1〜2.0質量%、V:0.01〜0.50質量%、Ti:0.01〜0.50質量%、Nb:0.01〜0.50質量%よりなる群から選ばれる1種以上)
CoおよびCuは、耐食性の向上およびオーステナイト相を安定化させる元素である。このような効果を得るために、Co、Cuを含有させるときは、Co含有量およびCu含有量の下限は、それぞれ0.1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.2質量%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、熱間加工性を低下させることから、Co含有量およびCu含有量の上限は、それぞれ2.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくはそれぞれ1.5質量%以下である。
V、Ti、Nbは、耐食性を向上させ、強度特性や熱間加工性を向上させる元素である。このような効果を得るために、V、Ti、Nbを含有させるときは、V含有量、Ti含有量、Nb含有量の下限は、それぞれ0.01質量%以上であることが好ましい。より好ましくはそれぞれ0.05質量%以上である。しかし、これら元素を過剰に含有させると、粗大な炭化物や窒化物を形成して靱性を低下させる。そのため、V含有量、Ti含有量、Nb含有量の上限は、それぞれ0.50質量%以下であることが好ましい。より好ましくはそれぞれ0.4質量%以下である。また、Co、Cu、V、Ti、Nbの含有量の合計は、耐食性および熱間加工性を考慮して、0.02〜1.00質量%が好ましい。
(Ca:0.0005〜0.020質量%)
Caは、鋼中に不純物として含まれるSと結合して局部腐食の起点となりやすいMnSの形成を抑制して、耐局部腐食性を向上させる元素である。また、Caは、鋼中のSやOと結合して、これらの介在物が粒界に偏析するのを抑制して熱間加工性を向上させる元素である。このような効果を得るために、Caを含有させるときは、Ca含有量の下限は、0.0005質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.0020質量%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、酸化物系介在物の増加を招き、耐食性、加工性が低下する。そのため、Ca含有量の上限は、0.020質量%以下であることが好ましい。
(Ca含有酸化物系介在物の鋼材最表面における個数密度)
一方、Caは、AlおよびOと結合して酸化物系介在物を形成する。このCaを含有する酸化物系介在物(「Ca含有酸化物系介在物」と略記する。)は、他の酸化物系介在物と比較して水溶性が高く、溶出しやすいことから、局部腐食の起点になりやすい。そこで、本発明者らは、Ca含有酸化物系介在物について、パルス電位の表面処理方法の有効性について検討を加えた。その結果、Ca含有酸化物系介在物においても、硫化物系介在物のときと同様に、パルス電位の表面処理方法によって、鋼材表面のCa含有酸化物系介在物を選択的に除去して、Ca含有酸化物系介在物が存在していた箇所に新たに不働態皮膜を形成することができることを見出した。
但し、硫化物系介在物の場合と同様に、パルス電位を印加する方法によってCa含有酸化物系介在物の除去を行ったとしても、すべてのCa含有酸化物系介在物を除去することができる訳ではない。パルス電位の表面処理を行った後に鋼材表面にCa含有酸化物系介在物が残存することがある。特に、鋼材表面にCa含有量の高い酸化物系介在物が多数存在する場合には、パルス電位を印加することによってCa含有酸化物系介在物の除去を行ったとしても、Ca含有酸化物系介在物が多数残存し、その大きさによらず、耐食性の低下を招くことがある。
そこで、硫化物系介在物の場合と同様に、耐食性を保持するために、鋼材最表面におけるCa含有酸化物系介在物の個数密度を管理することが必要となる。本発明では、5.0原子%以上のCa含有酸化物系介在物の鋼材最表面における個数密度を表面積1mmあたり100個以下とする。好ましくは90個以下であり、より好ましくは80個以下である。なお、5.0原子%以上のCaを含有する酸化物系介在物の鋼材最表面における個数密度は低ければ低いほど耐食性が向上するため、下限は特に定めない。すなわち、0個であっても良い。このような酸化物系介在物の個数密度は、パルス電位を印加する際の溶液の温度と組成、またパルス電位、パルス電位の印加時間、休止電位、休止電位の保持時間を制御することによって達成される。
ここで、酸化物系介在物として、5.0原子%以上のCaを含有する酸化物系介在物に限定しているのは、Ca含有量の高い酸化物系介在物は、溶出し易いため孔食を発生し易く、耐食性に与える影響が大きいからである。
上記のように、Caを含有する二相ステンレス鋼材の場合には、硫化物系介在物に加えてCa含有酸化物系介在物についても、パルス電位の表面処理方法によって、鋼材最表面から除去することが可能である。そして、鋼材最表面における両介在物の個数密度を表面積1mmあたり100個以下に管理することによって、硫化物系介在物だけを除去したときよりもさらに高いレベルでの局部腐食に対する耐食性を付与することが可能となる。
(Mg:0.0005〜0.020質量%、REM:0.0005〜0.10質量%の1種以上)
Mgは、鋼中に不純物として含まれるSと結合して局部腐食の起点となりやすいMnSの形成を抑制して、耐局部腐食性を向上させる元素である。また、Mgは、鋼中のSやOと結合して、これらの介在物が粒界に偏析するのを抑制して熱間加工性を向上させる元素である。このような効果を得るために、Mgを含有させるときは、Mg含有量の下限は、0.0005質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.0020質量%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、酸化物系介在物の増加を招き、耐食性、加工性が低下する。そのため、Mg含有量の上限は、0.020質量%以下であることが好ましい。また、Mgおよび上記のCaの含有量の合計は、耐食性および熱間加工性を考慮して、0.001〜0.020質量%が好ましい。
REMは、耐食性に悪影響を及ぼす硫化物系介在物を、REMを含有する酸硫化物系複合介在物に改質することで、耐食性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、REM含有量の下限を、0.0005質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.002質量%以上とする。しかし、過剰にREMを含有させると粗大な介在物を生成して熱間加工性が乏しくなることから、REM含有量の上限を0.10質量%以下、好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.07質量%以下とする。本発明において、REMとは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびScとYを含む意味である。上記の効果および価格上の観点から、軽希土類、特にLa、CeあるいはYを添加することが好ましく、より好ましくはLaまたはCeを添加するのがよい。なお、REMの添加に当たっては、他のランタノイド元素を含む、例えばジジムやミッシュメタルなどの混合物を使用してもよい。
(B:0.0005〜0.010質量%)
Bは、熱間加工性の向上に効果がある元素である。このような効果を得るためには、B含有量の下限を0.0005質量%以上、好ましくは0.0010質量%以上とする。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、熱間加工時に割れが発生し、鋼中のNと結合してBNを生成することで、耐食性に寄与するN濃度を低下させ、耐食性が低下してしまうおそれがある。そのため、B含有量の上限を、0.010質量%以下、好ましくは0.005質量%以下、更に好ましくは0.002質量%以下とする。
(Zr:0.01〜0.50質量%、Ta:0.01〜0.50質量%の1種以上)
Ta、Zrは、耐食性に悪影響を及ぼす硫化物系介在物をTa、Zrを含有する酸硫化物系複合介在物に改質することで、耐食性への悪影響を抑制する元素である。また、これらの元素はOと結合することで、Cr系酸化物の生成を抑制する元素であり、鋼材の実質的なCr濃度向上に寄与する効果がある。このような効果を得るためには、Ta含有量およびZr含有量の下限を、0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上とする。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、鋼中のNと結合することで窒化物として析出してしまい、靱性、熱間加工性およびNの有効濃度を低減させてしまう。また、Ta、Zrで改質された酸硫化物系複合介在物が多数析出してしまい、熱間加工性を低下させる。そのため、Ta含有量およびZr含有量の上限を、0.50質量%以下、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下とする。
(W:0.01〜1.00質量%、Sn:0.01〜0.10質量%の1種以上)
Wは、耐食性を向上させる元素であり、このような効果を得るために、0.01質量%以上含有させることができる。しかし、過剰に含有させると、フェライトの割合を過剰に増加させてしまうため、1.00質量%を超えての添加は好ましくない。好ましくは0.80質量%以下、より好ましくは0.60質量%以下とする。Snは、耐酸性を向上させる元素であり、このような効果を得るために、0.01質量%以上含有させることができる。一方で、過剰に含有させると、熱間加工性が低下するので、上限は0.10質量%以下とすることが好ましい。
(Feおよび不可避的不純物)
二相ステンレス鋼材を構成する成分組成の基本成分は前記のとおりであり、残部成分はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物は、溶製時に不可避的に混入する不純物であり、鋼材の諸特性を害さない範囲で許容される。また、鋼材の成分組成は、本発明の鋼材の効果に悪影響を与えない範囲で、前記成分に加えて、さらに他の元素を積極的に含有させても良い。
(PRE)
二相ステンレス鋼材のCr含有量(質量%)を[Cr]、Mo含有量(質量%)を[Mo]、N含有量(質量%)を[N]としたとき、耐孔食性指数(PRE)は、[Cr]+3.3[Mo]+16[N]で表わされる。厳しい耐食性環境にあっては、PRE≧40であると、組織中のCr量、Mo量、N量のバランスが適切なものとなり、鋼材の耐食性および強度をさらに向上させることができるため、好ましい。
<二相ステンレス鋼材の製造方法>
本発明の二相系ステンレス鋼材は、通常のステンレス鋼の量産に用いられている製造設備および製造方法によって製造することができる。鋼中の不純物としてのOを低減するためには、SiやAl等のOとの親和力の大きい元素を多めに添加して脱酸を行い、さらに、真空脱ガスやアルゴンガス攪拌などの二次精錬の時間を長時間化したり、複数回行うことによって酸化物系介在物を除去することができる。
例えば、転炉あるいは電気炉にて溶解した溶鋼に対して、AOD法やVOD法などによる精錬を行って成分調整した後、連続鋳造法や造塊法などの鋳造方法で鋼塊とする。得られた鋼塊を1000〜1200℃程度の温度域にて熱間加工を行い、次いで冷間加工を行って所望の寸法形状にすることができる。また、熱間加工時の総加工比(元鋼塊の断面積/加工後の断面積)は、通常通り10〜50程度とする。
本発明においては、機械特性に有害な析出物を低減させるため、必要に応じて固溶化熱処理を施して急冷することが好ましい。固溶化熱処理の温度は、1000〜1100℃が好ましく、保持時間は10〜30分が好ましく、急冷は10℃/秒以上の冷却速度で冷却することが好ましい。また、必要に応じてスケール除去などの表面調整のための酸洗を行うことができる。
(パルス電位の印加条件)
本発明では、二相ステンレス鋼材に耐食性を付加するために、上記の二相ステンレス鋼材を塩化ナトリウム水溶液や人工海水などの電解液に浸漬し、パルス電位と休止電位を繰り返し印加することにより、耐食性低下の原因となる硫化物系介在物およびCa含有酸化物系介在物を除去する。
図1(a)は、パルス電位の印加の条件を示す図である。縦軸はパルスの電位を示し、横軸は時間を示している。パルスを印加したときの飽和カロメル電極(SCE)に対するパルス電位をP(V)とし、パルスを印加していないときの飽和カロメル電極(SCE)に対する電位(休止電位)をP(V)としている。また、パルス電位の印加時間をt(秒)とし、パルスとパルスの間のパルスを印加していない時間(休止電位の保持時間)をt(秒)としている。
二相ステンレス鋼材の最表面の硫化物系介在物およびCa含有酸化物系介在物を除去するためには、パルス電位Pは、二相ステンレス鋼材を浸漬したときの自然電位に対して+200mV〜+1000mVの電圧が好ましく、パルス電位の印加時間tは0.05〜10秒が好ましい。
パルス電位Pの値が高すぎたり、パルス電位の印加時間tが長すぎたりすると、硫化物系介在物およびCa含有酸化物系介在物の溶解だけでなく、母材金属の溶解が顕著になり、鋼材表面に腐食ピットが形成され、すきま腐食が発生しやすくなり、耐食性が低下する。
また、パルス電位Pの値が低すぎたり、パルス電位の印加時間tが短すぎたりすると、硫化物系介在物およびCa含有酸化物系介在物の除去が十分に行われず、耐食性が低下する。また、休止電位Pは、自然電位に対し+200mV以下の電圧が好ましく、休止電位の保持時間tは0.1秒以上が好ましい。休止電位Pが高すぎたり、休止電位の保持時間tが短すぎたりすると、パルス電位印加により硫化物系介在物およびCa含有酸化物系介在物が除去されて現れた母材金属の新生面の再不働態化が十分に行われず、繰り返し印加されたパルス電位によって母材金属が溶解するため、鋼材表面のピット発生が顕著になり、耐食性が低下する。
休止電位Pの下限は特にないが、休止電位Pが低すぎる場合は、溶液の分解に伴う水素発生等が進行し、母材金属の再不働態化の電流効率が低下することから、自然電位に対して−1000mV以上が好ましい。休止電位の保持時間tの上限は特にないが、休止電位の保持時間tが長すぎると、硫化物系介在物およびCa含有酸化物系介在物の除去に長時間を要してしまうため、生産性が低下する。そのため、休止電位の保持時間tは10秒以下が好ましい。
また、パルス回数は3回以上が好ましい。パルス回数が少ない場合は、硫化物系介在物およびCa含有酸化物系介在物の除去が十分でなく、耐食性が低下する。パルス回数の上限は特にないが、パルス回数が多すぎる場合は、硫化物系介在物およびCa含有酸化物系介在物の除去に長時間を要してしまうため、生産性が低下する。そのため、パルス回数は1000回以下が好ましい。
また、ここで用いる電解液は、鋼材に電位を印加するのに十分な導電性を有しておればよく、電解質および温度に特別な制限はない。すなわち、酸性またはアルカリ性溶液を使用することができるが、操業上の浴管理簡便化や環境負荷低減の観点から、中性溶液を使用することが好ましい。また、電解質に塩化物を使用する場合は、電解液の塩化物濃度が高いとパルス電位印加時に孔食発生しやすくなるため、孔食が発生しやすい(すなわちPREが低い)鋼種では、低い塩化物濃度であるほうが好ましい。そのため、リーン二相ステンレス鋼に分類される、ASTM規格 UNS S32304では、電解液の塩化物イオン濃度が10質量%以下であることが好ましい。
上記のように、二相ステンレス鋼材を電解液に浸漬し、適切な条件で、パルス電位と休止電位を繰り返し印加する二相ステンレス鋼材の表面処理を行うことによって、二相ステンレス鋼材の表面における硫化物系介在物およびCa含有酸化物系介在物の個数密度を制御することができる。すなわち、5.0原子%以上のSまたはCaを含有する硫化物系介在物またはCa含有酸化物系介在物の鋼材最表面における個数密度を表面積1mmあたり100個以下とすることができる。また、{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物またはCa含有酸化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面における硫化物系介在物またはCa含有酸化物系介在物の個数密度の比をそれぞれ0.6以下とすることができる。その結果、二相ステンレス鋼材の耐食性を向上させることが可能となる。
以上の製造方法によって製造された二相ステンレス鋼材は、優れた耐食性を発現すると共に、二相ステンレス鋼材の成分組成を適切に選択することによって、強度、靭性、熱間加工性などに優れたものとなる。
<二相ステンレス鋼管>
本発明に係る二相ステンレス鋼管の実施形態について説明する。
二相ステンレス鋼管は、前記二相ステンレス鋼材からなるもので、通常のステンレス鋼管の量産に用いられる製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、丸棒を素材とした押出製管やマンネスマン製管、板材を素材として成形後に継ぎ目を溶接する溶接製管などによって、所望の寸法にすることができる。また、二相ステンレス鋼管の寸法は、鋼管が使用される油井管、化学プラント、アンビリカルチューブ等に応じて適宜設定することができる。なお、二相ステンレス鋼管は、海水淡水化プラント、LNG気化器等にも使用することができる。
<実施例1>(試験No.1〜27)
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
(鋼材の作製)
小型溶解炉(容量53kg/1ch)によって、表1に示す成分組成の鋼を溶製し、角鋳型(本体:約120角×約350mm長)を用いて鋳造した。なお、表1の鋼材No.A1〜A20およびB1〜B5は、全てASTM規格 UNS S32750に相当する鋼材である。また、各鋼について、PRE=[Cr]+3.3[Mo]+16[N]の算出結果についても表2に示した。なお、表1の成分組成欄において、空欄は該当成分が含有されていないことを示し、残部はFeおよび不可避的不純物である。凝固した鋼塊を1200℃まで加熱し、同温度で熱間鍛造(鍛造温度:1000〜1200℃)を施し、その後切断した。次に冷間圧延と1100℃で30分保持の固溶化熱処理を施し、冷速12℃/秒で水冷後に切断し、300×120×50mmの鋼材に仕上げた(鋼材No.A1〜A20、B1〜B5)。
(試料の作製)
次に、前記鋼材から加工方向に平行に切断して、20mm×30mm×2mmtの寸法の試料を採取した。これらの試料を用いて、以下に示す手順で、パルス電位の表面処理を行った。
(パルス電位の表面処理)
スポット溶接で試料に導線の取り付けを行い、80℃に保持した20%NaCl水溶液中に浸漬した。その後、対極に白金電極、作用極に飽和カロメル電極(SCE)を用いて、各試料(鋼材No.A1〜A20、B2〜B5)に対して、表2に示した条件で、パルス電位を繰り返し印加した。
前記各試料について、加工方向と垂直な断面を埋め込み、鏡面研磨し、シュウ酸水溶液中で電解エッチングを行った。その後、倍率100倍の光学顕微鏡観察を行い、各試料の組織を観察した。その結果、いずれの試料もフェライト相とオーステナイト相の二相からなるものであり、オーステナイト相に対するフェライト相の面積率は30〜70%であった。
また、パルス電位の表面処理を行った各試料の一部について、鋼材厚さ2mmの1/4に相当する部分である、最表面から0.5mm深さの部分が表面に出るように切断加工を行った。
パルス電位の表面処理を行った各試料について、以下に示す方法で、成分組成、鋼材最表面と{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度およびS含有量を測定した。
(成分組成、硫化物系介在物の個数密度およびS含有量の測定)
個数密度およびS含有量は、次の手順で測定できる。即ち、試料の表面について、SEM−EPMA(走査型電子顕微鏡−電子線プローブマイクロアナライザー、日本電子株式会社製「JXA−8900RL」、「XM−Z0043T」、「XM−87562」)による画像解析を行い、観察される介在物の成分組成をEDX(エネルギー分散型X線検出器)で分析した。分析対象元素は、Si、Mn、P、S、Al、Ni、Cr、Mo、N、O、Co、Cu、V、Ti、Nb、Ta、Zr、REM(La、Ce、Nd、Dy、Y)、Mg、Ca、Bとした。既知物質を用いて各元素のX線強度と元素濃度の関係を予め検量線として求めておき、次いで、前記介在物から得られたX線強度と前記検量線からその介在物の元素濃度を定量した。なお、EDXによる成分組成の分析は、長径が0.25μm以上の介在物を対象として行い、介在物の重心位置を1点につき10秒程度で自動分析すればよい。
硫化物系介在物の個数密度およびS含有量の測定については、上記の手順で自動EPMAにて観察し、測定面積3mmにおいて観察される長径が0.25μm以上の硫化物系介在物について、個数密度およびそれぞれの介在物のS含有量を測定した。5.0原子%以上のSを含有する介在物を、硫化物系介在物と認定した。硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度は、表面積1mmあたりの平均値として求めた。
その結果、硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度と、{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度の比を求めた。結果を表2に示した。
(成分組成、Ca含有酸化物系介在物の個数密度およびCa含有量の測定)
酸化物系介在物の個数密度およびCa含有量の測定については、硫化物系介在物の場合に準じて、上記の手順で自動EPMAにて観察し、測定面積3mmにおいて観察される長径が0.25μm以上の酸化物系介在物について、個数密度およびそれぞれの介在物のCa含有量を測定した。5.0原子%以上のCaを含有する介在物を、Ca含有酸化物系介在物と認定した。Ca含有酸化物系介在物の鋼材最表面における個数密度は、表面積1mmあたりの平均値として求めた。結果を表2に示した。表2において、Ca含有酸化物系介在物の個数密度の欄の「−」は未測定であることを示している。
(耐孔食性の評価)
耐孔食性の評価はJIS G0577に記載の方法を参考にして評価した。試料表面をSiC#600研磨紙で湿式研磨し、超音波洗浄した後、スポット溶接で試料に導線の取り付けを行い、試料表面の試験面(10mm×10mm)の部分以外をエポキシ樹脂で被覆した。その試料を80℃に保持した20%NaCl水溶液中に10分間浸漬した後、20mV/minの掃引速度でアノード分極を行い、電流密度が0.1mA/cmを超えた時点の電位を孔食電位(V100)とした。その結果を表3に示した。同表において、孔食電位400mV(vs.SCE)を基準とし、孔食電位が400mV(vs.SCE)を超えるものをA(良)と表示した。また、同表において、孔食電位900mV(vs.SCE)を基準とし、孔食電位が900mVを超えるものをAA(優)と表示した。
Figure 2016216816
Figure 2016216816
Figure 2016216816
表3において、本発明の表面処理方法を適用し、本発明の要件を満たす試験No.1〜22については、耐孔食性が向上して、基準を満たしており、本発明の表面処理方法を適用していない試験No.23〜27と対比して、優れた耐食性を有していることを確認した。
試験No.19、20、21は、いずれもCaを含有する鋼材No.A19を用いて、パルス電位を500mV、700mV、800mVと順次増大させる条件でパルス電位の表面処理を行ったものである。その結果、パルス電位が500mVから700mV以上に増大させると、硫化物系介在物の個数密度が減少することが分かった。また、パルス電位を増大させるに従って、Ca含有酸化物系介在物の個数密度が大きく減少する傾向にあることが分かった。その結果、試験No.20と試験No.21の孔食電位は、900mVを超えて、AAランクの極めて優れた耐孔食性を示すことが分かった。
試験No.23は、パルス電位の表面処理による硫化物系介在物の除去がなされておらず、硫化物系介在物の最表面における個数密度が上限を超えるため、耐孔食性が基準を満たさなかった。
試験No.24〜26は、パルス電位の印加条件が適切ではないため、パルス電位の表円処理による硫化物系介在物の除去が十分でなく、硫化物系介在物の最表面における個数密度が上限を超えるため、耐孔食性が基準を満たさなかった。
試験No.27は、S含有量が上限を超え、硫化物系介在物の最表面における個数密度が上限を超えるため、耐孔食性が基準を満たさなかった。
<実施例2>(試験No.28〜30)
(鋼材の作製)
小型溶解炉(容量53kg/1ch)によって、表1のC1に示す成分組成の鋼を溶製し、角鋳型(本体:約120角×約350mm)を用いて鋳造した。なお、表1のC1に示す鋼は、ASTM規格 UNS S32304に相当する鋼材である。以下、実施例1と同様の条件で加工を行って、鋼材に仕上げた。
(試料の作製)
次に、前記鋼材から加工方向に平行に採取した試料(20mm×30mm×2mmt)を用いて、実施例1と同様に、以下に示す手順で、パルス電位の表面処理を行うと共に、硫化物系介在物の個数密度およびS含有量を測定し、耐孔食性を評価した。その結果を表2に示した。
また、前記試料を加工方向と垂直な断面を埋め込み、鏡面研磨し、シュウ酸水溶液中で電解エッチングを行った後、倍率100倍の光学顕微鏡観察を行い、各試料の組織を観察した。その結果、いずれの試料もフェライト相とオーステナイト相の二相からなるものであった。
(パルス電位の表面処理)
スポット溶接で試料に導線の取り付けを行い、80℃に保持した3.5%人工海水中に浸漬した後、対極に白金電極、作用極に飽和カロメル電極(SCE)を用いて、鋼材(鋼材No.C1)に対して、表2に示すパルス電位を繰り返し印加した。
パルス電位の表面処理を行った各試料について、実施例1と同様の手順によって、鋼材最表面と{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度およびS含有量を測定した。耐孔食性の評価はJIS G0577に記載の方法を参考にして評価した。
(硫化物系介在物の個数密度およびS含有量の測定)
個数密度およびS含有量は、実施例1と同様の手順で測定を行った。
(耐孔食性の評価)
耐孔食性の評価はJIS G0577に記載の方法を参考にして評価した。試料表面をSiC#600研磨紙で湿式研磨し、超音波洗浄した後、スポット溶接で試料に導線の取り付けを行い、試料表面の試験面(10mm×10mm)の部分以外をエポキシ樹脂で被覆した。実施例2の鋼材に対しては、80℃に保持した3.5%人工海水中に10分間浸漬した後、20mV/minの掃引速度でアノード分極を行い、電流密度が0.1mA/cm2を超えた時点の電位を孔食電位(VC‘100)とした。その結果を表4に示した。同表において、孔食電位が400mV(vs.SCE)を超えるものを基準とし、Aと表示した。
Figure 2016216816
表4において、本発明の表面処理方法を適用し、本発明の要件を満たす試験No.28については、耐孔食性が向上し、本発明の表面処理方法を適用していない試験No.29、No.30と対比して、優れた耐食性を有していることを確認した。
試験No.29は、パルス電位の表面処理による硫化物系介在物の除去がなされておらず、硫化物系介在物の最表面における個数密度が上限を超えるため、耐孔食性が基準を満たさなかった。
試験No.30は、パルス電位の印加条件が適切ではないため、パルス電位の表面処理による硫化物系介在物の除去が十分でなく、硫化物系介在物の最表面における個数密度が上限を超えるため、耐孔食性が基準を満たさなかった。
以上のように、本発明の二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管について説明したが、本発明は実施形態および実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含されるものである。
1 二相ステンレス鋼材
2、6、8 不働態皮膜
3 電解液
4 硫化物系介在物
5、7 二相ステンレス鋼材の一部の表面
9 孔食
10 成長した孔食

Claims (11)

  1. フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、
    5.0原子%以上のSを含有する硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度が表面積1mmあたり100個以下であり、
    {(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度の比が0.6以下であること
    を特徴とする二相ステンレス鋼材。
  2. 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、
    C:0.10%質量以下、
    Si:0.1〜2.0質量%、
    Mn:0.1〜3.0質量%、
    P:0.05質量%以下、
    S:0.01質量%以下、
    Al:0.001〜0.05質量%、
    Ni:1.0〜10.0質量%、
    Cr:20.0〜28.0質量%、
    Mo:0.05〜6.0質量%、
    N:0.05〜0.5質量%、
    O:0.030質量%以下であって、
    残部がFeおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼材。
  3. 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
    Co:0.1〜2.0質量%、
    Cu:0.1〜2.0質量%、
    V:0.01〜0.50質量%、
    Ti:0.01〜0.50質量%、
    Nb:0.01〜0.50質量%
    よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項2に記載の二相ステンレス鋼材。
  4. 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
    Ca:0.0005〜0.020質量%を含有し、
    5.0原子%以上のCaを含有する酸化物系介在物の鋼材最表面における個数密度が表面積1mmあたり100個以下であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の二相ステンレス鋼材。
  5. 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
    Mg:0.0005〜0.020質量%、
    REM:0.0005〜0.10質量%
    よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材。
  6. 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
    B:0.0005〜0.010質量%
    を含有することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材。
  7. 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
    Zr:0.01〜0.50質量%、
    Ta:0.01〜0.50質量%
    のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材。
  8. 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、さらに
    W:0.01〜1.00質量%、
    Sn:0.01〜0.10質量%
    のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材。
  9. 請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼材からなることを特徴とする二相ステンレス鋼管。
  10. フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材を電解液に浸漬し、パルス電位と休止電位を繰り返し印加する二相ステンレス鋼材の表面処理方法であって、
    得られた二相ステンレス鋼材は、5.0原子%以上のSを含有する硫化物系介在物の鋼材最表面における個数密度が表面積1mmあたり100個以下であり、
    得られた二相ステンレス鋼材は、{(鋼材厚さ)/4}部における硫化物系介在物の個数密度に対する鋼材最表面における硫化物系介在物の個数密度の比が0.6以下であること
    を特徴とする二相ステンレス鋼材の表面処理方法。
  11. 前記二相ステンレス鋼材の成分組成が、
    C:0.10%質量以下、
    Si:0.1〜2.0質量%、
    Mn:0.1〜3.0質量%、
    P:0.05質量%以下、
    S:0.01質量%以下、
    Al:0.001〜0.05質量%、
    Ni:1.0〜10.0質量%、
    Cr:20.0〜28.0質量%、
    Mo:0.05〜6.0質量%、
    N:0.05〜0.5質量%、
    O:0.030質量%以下であって、
    残部がFeおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項10に記載の二相ステンレス鋼材の表面処理方法。
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