JP6200851B2 - 二相ステンレス鋼材および二相ステンレス鋼管 - Google Patents
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前記のように、二相ステンレス鋼管は、鋼菅を二相ステンレス鋼材で構成することによって、局部腐食の起点となる介在物が改質され、耐食性が向上する。
本発明に係る二相ステンレス鋼材の実施形態について説明する。
本発明の二相ステンレス鋼材は、フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、二相ステンレス鋼材の成分組成が、所定量のC、Si、Mn、P、S、Al、Cr、Ni、Mo、N、Ta、Oを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
また、二相ステンレス鋼材は、成分組成が、所定量のCu、Co、V、Ti、Nbよりなる群から選ばれる1種以上をさらに含有することが好ましい。
さらに、二相スレンレス鋼材は、成分組成が、所定量のMg、Caの1種または2種をさらに含有することが好ましい。
そして、二相ステンレス鋼材は、鋼材中の介在物のうちの、所定のTa含有量および長径を有する硫・酸化物系複合介在物が、所定の個数密度であることが特徴である。
以下、各構成について説明する。
本発明の二相系ステンレス鋼材は、フェライト相とオーステナイト相の二相からなるものである。フェライト相とオーステナイト相からなる二相系ステンレス鋼材においては、CrやMoなどのフェライト相安定化元素はフェライト相に濃縮し、NiやNなどのオーステナイト相安定化元素はオーステナイト相に濃縮する傾向にある。このとき、フェライト相のオーステナイト相に対する面積率が30%未満または70%を超える場合には、Cr、Mo、Ni、Nなどの耐食性に寄与する元素のフェライト相とオーステナイト相における濃度差異が大きくなりすぎて、フェライト相とオーステナイト相のいずれか耐食性に劣る側が選択腐食されて耐食性が劣化する傾向が大きくなる。したがって、フェライト相とオーステナイト相との比率も最適化することが推奨され、フェライト相のオーステナイト相に対する面積率は、耐食性の観点から30〜70%が好ましく、40〜60%がさらに好ましい。このようなフェライト相とオーステナイト相の面積率は、フェライト相安定化元素とオーステナイト相安定化元素の含有量を調整することによって適正化することが可能である。
(C:0.10質量%以下)
Cは、鋼材中でCr等との炭化物を形成して耐食性を低下させる有害な元素である。そのために、C含有量を、0.10質量%以下とする。なお、C含有量は、できる限り少ない方が良いため、好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.06質量%以下とする。また、Cは鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良い。
Siは、脱酸とフェライト相の安定化のために必要な元素である。このような効果を得るために、Si含有量を、0.1質量%以上、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上とする。しかし、過剰にSiを含有させると加工性が劣化することから、Si含有量を、2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下とする。
Mnは、Siと同様に脱酸効果があり、さらに強度確保のために必要な元素である。このような効果を得るために、Mn含有量を、0.1質量%以上、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.20質量%以上とする。しかし、過剰にMnを含有させると粗大なMnSを形成して耐食性が劣化する。また、過剰にMnを含有させると酸化物系介在物の生成を助長し、熱間加工性を劣化させることから、Mn含有量を、2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下とする。
Pは、不純物として不可避的に混入し、耐食性に有害な元素であり、溶接性や加工性も劣化させる元素である。そのために、P含有量を、0.05質量%以下とする。なお、P含有量は、できる限り少ない方がよく、好ましくは0.04質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下とする。なお、Pは、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良いが、P含有量の過度の低減は、製造コストの上昇をもたらすので、P含有量の実操業上の下限は、0.010質量%程度である。
Sは、Pと同様に不純物として不可避的に混入し、Mn等と結合して硫化物系介在物(MnS)を形成して、耐食性や熱間加工性を劣化させる元素である。そして、Sを過剰に含有させると、硫・酸化物系複合介在物のTaによる改質が不十分となり、耐食性が低下する。そのために、S含有量を、0.01質量%以下、好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.003質量%以下とする。なお、Sは、背景技術に記載のように、その含有量が低ければ低いほど好ましく、鋼材中に含有されていない、すなわち、0質量%であっても良いが、S含有量の過度の低減は、製造コストの上昇をもたらすので、適切なTa含有量およびO含有量の制御を伴えば、S含有量は、0.001質量%を超えて含有されていても問題は無い。
Alは、脱酸元素であり、溶製時の酸素量の低減に必要な元素である。このような効果を得るために、Al含有量を、0.001質量%以上とする。しかし、過剰にAlを含有させると酸化物系介在物を生成して耐孔食性に悪影響を及ぼすことから、Al含有量を0.05質量%以下、好ましくは0.02質量%以下とする。
Crは、不働態皮膜の主要成分であり、ステンレス鋼材の耐食性発現の基本元素である。また、Crは、フェライト相を安定化させる元素である。そのため、フェライト相とオーステナイト相の二相組織を維持して、耐食性、強度を両立させるためには、Cr含有量を、22.0質量%以上、好ましくは23.0質量%以上、より好ましくは24.0質量%以上とする。しかし、過剰にCrを含有させると、加工性を劣化させることから、Cr含有量を、28.0質量%以下、好ましくは27.5質量%以下、より好ましくは27.0質量%以下とする。
Niは、耐食性向上に必要な元素であり、特に、塩化物環境における局部腐食抑制に効果が大きい。また、Niは、低温靱性を向上させるのにも有効であり、さらにオーステナイト相を安定化させるためにも必要な元素である。こうした効果を得るためには、Ni含有量を、1.0質量%以上、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上とする。しかし、過剰にNiを含有させると、オーステナイト相が多くなりすぎて、強度が低下することから、Ni含有量を、10.0質量%以下、好ましくは9.5質量%以下、より好ましくは9.0質量%以下とする。
Moは、溶解時にモリブデン酸を生成して、インヒビター作用により耐局部腐食性を向上させる効果を発揮し、耐食性を向上させる元素である。また、Moは、フェライト相を安定化させる元素であり、鋼材の耐孔食性・耐割れ性を改善させる効果がある。このような効果を得るためには、Mo含有量を、2.0質量%以上、好ましくは2.2質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上とする。しかし、過剰にMoを含有させると、σ相等の金属間化合物の生成を助長し、耐食性および熱間加工性が低下することから、Mo含有量を、6.0質量%以下、好ましくは5.5質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下とする。
Nは、強力なオーステナイト相を安定化させる元素であり、σ相の生成感受性を増加させずに耐食性を向上させる効果がある。さらに、Nは、鋼の高強度化にも有効な元素であるため、本発明では積極的に活用する。このような効果を得るためには、N含有量を、0.2質量%以上、好ましくは0.22質量%以上、より好ましくは0.25質量%以上とする。しかし、過剰にNを含有させると、窒化物が形成され靭性や耐食性が低下する。また、熱間加工性を劣化させ、鍛造・圧延時に耳割れや表面欠陥を生じさせる。そのため、N含有量を、0.5質量%以下、好ましくは0.45質量%以下、より好ましくは0.40質量%以下とする。
Taは、耐食性に悪影響を及ぼす硫化物系介在物(MnS)を、Taを含有する硫・酸化物系複合介在物に改質することで、耐食性を向上させる元素である。また、Taは、Oと結合することで、Cr系酸化物の生成を抑制する元素であり、鋼材の実質的なCr濃度向上に寄与する効果がある。このような効果を得るためには、Ta含有量を、0.01質量%以上、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上とする。しかし、過剰にTaを含有させると、鋼中のNと結合することで窒化物として析出してしまい、靱性、熱間加工性を低下させ、Nの有効濃度を低減させてしまい、耐食性が低下する。また、Taで改質された硫・酸化物系複合介在物が多数析出してしまい、熱間加工性を低下させる。そのため、Ta含有量を、0.50質量%以下、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下とする。
Oは、溶製時に混入する不純物であり、SiやAl等の脱酸元素と結合することで鋼中に酸化物として析出し、二相ステンレス鋼の加工性および耐食性を低下させる元素である。そして、Oを過剰に含有させると、硫・酸化物系複合介在物のTaによる改質が不十分となると共に、硫・酸化物系複合介在物が多数析出するため、耐食性および熱間加工性が低下する。そのため、O含有量を、0.030質量%以下、好ましくは0.028質量%以下、より好ましくは0.025質量%以下、さらに好ましくは0.024質量%以下とする。なお、O含有量は、低ければ低いほど好ましいが、過剰にOを低減するのはコストアップに繋がるため、その下限は、おおよそ0.0005質量%程度である。
CuおよびCoは、耐食性の向上およびオーステナイト相を安定化させる元素である。そのため、Cu含有量、Co含有量を、それぞれ0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上とする。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、熱間加工性を劣化させることから、Cu含有量、Co含有量を、それぞれ2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とする。
MgおよびCaは、鋼中に不純物として含まれるSと結合して局部腐食の起点となりやすいMnSの形成を抑制して、耐局部腐食性を向上させる元素である。また、MgおよびCaは、鋼中のSやOと結合して、これらの介在物が粒界に偏析するのを抑制して熱間加工性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、Mg含有量、Ca含有量を、0.0005質量%以上、好ましくは0.0020質量%以上とする。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、酸化物系介在物の増加を招き、耐食性、加工性が劣化する。そのため、Mg含有量、Ca含有量を、0.020質量%以下とする。また、MgおよびCaの含有量の合計は、耐食性および熱間加工性を考慮して、0.001〜0.02質量%が好ましい。
二相ステンレス鋼材を構成する成分組成の基本成分は前記のとおりであり、残部成分はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物は、溶製時に不可避的に混入する不純物であり、鋼材の諸特性を害さない範囲で含有される。
また、鋼材の成分組成は、本発明の鋼材の効果に悪影響を与えない範囲で、前記成分に加えて、さらに他の元素を積極的に含有させても良い。
本発明では、Taを添加し精錬することで、通常のステンレス鋼に含有される硫化物系介在物(MnS)を、Taを含有する硫・酸化物系複合介在物に改質する。そして、このTaを含有する硫・酸化物系複合介在物によって、耐局部腐食性を向上させている。
また、このような硫・酸化物系複合介在物のTa含有量および個数密度は、二相ステンレス鋼材のTa含有量およびO含有量を制御し、かつ、鋼材製造の際の熱加工条件を制御することによって達成される。
[Cr]+3.3[Mo]+16[N]は、鋼材の耐食性を表す指標として従来知られている孔食性指数(PRE:Pitting Resistance Equivalent)である。本発明では、PRE≧40とすることによって、組織中のCr量、Mo量、N量のバランスが適切なものとなり、鋼材の耐食性および強度が向上する。
本発明の二相系ステンレス鋼材は、通常のステンレス鋼の量産に用いられている製造設備および製造方法によって製造することができる。鋼中の不純物としてのOを低減するためには、SiやAl等のOとの親和力の大きい元素を多めに添加して脱酸を行い、さらに、真空脱ガスやアルゴンガス攪拌などの二次精錬の時間を長時間化したり、複数回行ったりすることにより酸化物系介在物を除去する。
本発明に係る二相ステンレス鋼管の実施形態について説明する。
二相ステンレス鋼管は、前記二相ステンレス鋼材からなるもので、通常のステンレス鋼管の量産に用いられる製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、丸棒を素材とした押出製管やマンネスマン製管、板材を素材として成形後に継ぎ目を溶接する溶接製管などによって、所望の寸法にすることができる。また、二相ステンレス鋼管の寸法は、鋼管が使用される油井管、化学プラント、アンビリカルチューブ等に応じて適宜設定することができる。なお、二相ステンレス鋼管は、海水淡水化プラント、LNG気化器等にも使用できる。
(鋼材の作製)
電極アーク加熱機能を備える溶鋼処理設備によって、表1に示す成分組成の鋼(鋼記号:A1〜A23、B1〜B11)をそれぞれ溶製し、50kgの丸鋳型(本体:約φ140×320mm)を用いて鋳造した。また、各鋼について、PRE=[Cr]+3.3[Mo]+16[N]の算出結果についても表1に示す。なお、表1の成分組成欄において、空欄は該当成分が含有されていないことを示し、残部はFeおよび不可避的不純物である。凝固した鋼塊を1200℃まで加熱し同温度で熱間鍛造(鍛造温度:1000〜1200℃)を施し、その後切断した。次に冷間圧延と1100℃で30分保持の固溶化熱処理を施し、冷速12℃/秒で水冷後に切断し、300×120×10mmの鋼材(No.1〜34)に仕上げた。
次に、前記鋼材から加工方向に平行に採取した試料(20mm×30mm×2mmt)を用いて、以下に示す手順で、硫・酸化物系複合介在物の個数密度およびTa含有量を測定すると共に、耐孔食性および熱間加工性を評価した。その結果を表2に示す。
介在物の長径、個数密度およびTa含有量は、次の手順で測定できる。即ち、上記組織観察に用いた試料に対し、試料の表面について、SEM−EPMA(走査型電子顕微鏡−電子線プローブマイクロアナライザー、日本電子株式会社製「JXA−8900RL」、「XM−Z0043T」、「XM−87562」)による画像解析を行い、観察される介在物の成分組成をEDX(エネルギー分散型X線検出器)で分析する。EDXによる成分組成の分析は、長径が1μm以上の介在物を対象として行い、介在物の重心位置を1点につき10秒程度で自動分析すればよい。長径が1μm未満の介在物は、耐局部腐食性に悪影響を及ぼす度合いが低い。したがって、本発明では、測定効率を向上させるために、長径が1μm未満の介在物は測定対象から除外する。
耐孔食性の評価は、JIS G 0577:2005に記載の方法を参考にして評価した。試料表面をSiC#600研磨紙で湿式研磨し、超音波洗浄した後、スポット溶接で試料に導線の取り付けを行い、試料表面の試験面(10mm×10mm)の部分以外をエポキシ樹脂で被覆した。その試料を80℃に保持した20%NaCl水溶液中に10分間浸漬した後、20mV/minの掃引速度でアノード分極を行い、電流密度が0.1mA/cm2を超えた時点の電位を孔食電位(VC‘100)とした。耐孔食性の評価は孔食電位が500mV(vs.SCE(飽和カロメル電極))を超えるものを良好(○)、100〜500mV(vs.SCE)までのものをやや不良(△)、100mV(vs.SCE)未満のものを不良(×)として評価した。
前記試料の表面を目視にて観察し、表面欠陥の有無(◎:欠陥なし、○:わずかに欠陥あり、△:欠陥多発、×:割れ発生)を観察した。その結果を表2に示す。
それに対して、本発明の要件を満たさない比較例(鋼材No.24〜34)については、以下の不具合を有している。
比較例(鋼材No.27)は、Ta含有量が上限を超えるため、硫・酸化物系複合介在物の改質はなされたものの、個数密度が上限を超え、同時に粗大な窒化物も析出したため、耐孔食性および熱間加工性に劣っていた。
比較例(鋼材No.29)は、S含有量が上限を超えるため、硫・酸化物系複合介在物のTa含有量が下限未満となり、同時に、硫化物系介在物(MnS)が多数析出したため、耐孔食性および熱間加工性に劣っていた。
比較例(鋼材No.30)は、Mn含有量が上限を超えるため、MnSの析出抑制が不十分となり、耐孔食性および熱間加工性に劣っていた。
比較例(鋼材No.32)は、Mo含有量が下限未満であるため、耐孔食性に劣っていた。
比較例(鋼材No.33)は、N含有量が下限未満であるため、耐孔食性に劣っていた。
比較例(鋼材No.34)は、O含有量が上限を超えたため、耐孔食性および熱間加工性に劣っていた。
Claims (4)
- フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼材であって、前記二相ステンレス鋼材の成分組成は、
C:0.10%質量以下、
Si:0.1〜2.0質量%、
Mn:0.1〜2.0質量%、
P:0.05質量%以下、
S:0.01質量%以下、
Al:0.001〜0.050質量%、
Cr:22.0〜28.0質量%、
Ni:1.0〜10.0質量%、
Mo:2.0〜6.0質量%、
N:0.2〜0.5質量%、
Ta:0.01〜0.50質量%、
O:0.030質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
前記二相ステンレス鋼材の介在物のうち、長径が1μm以上であるTaを含有する硫・酸化物系複合介在物が、加工方向に垂直な断面1mm2あたり500個以下であり、前記硫・酸化物系複合介在物のTa含有量が5原子%以上であることを特徴とする二相ステンレス鋼材。 - 前記成分組成が、さらにCu:0.1〜2.0質量%、Co:0.1〜2.0質量%、V:0.01〜0.5質量%、Ti:0.01〜0.5質量%、Nb:0.01〜0.5質量%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼材。
- 前記成分組成が、さらにMg:0.0005〜0.020質量%、Ca:0.0005〜0.020質量%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の二相ステンレス鋼材。
- 請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載された前記二相ステンレス鋼材からなることを特徴とする二相ステンレス鋼管。
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