JP7239085B1 - 二相ステンレス鋼材 - Google Patents

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Abstract

超臨界CO2ガスにSOXガス及びO2ガスが含有されている超臨界腐食環境において、優れた耐全面腐食性及び耐孔食性を有する、二相ステンレス鋼材を提供する。本開示の二相ステンレス鋼材は、明細書に記載の化学組成を有し、各元素含有量が明細書に記載の範囲内であることを前提として、式(1)で定義されるFnが57.0以上であり、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物及び円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の1mm2当たりの総個数が0.50個/mm2以下である。Fn=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N+2Ni+Cu+2Co+10Sn (1)ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。

Description

本開示は二相ステンレス鋼材に関し、さらに詳しくは、二酸化炭素の回収・利用・貯留技術(CCUS)に適用可能な二相ステンレス鋼材に関する。
現在、地上での二酸化炭素の濃度上昇が世界的に問題となっている。そして、二酸化炭素の排出を抑制する取り組みが進んでいる。二酸化炭素の排出を抑制する取り組みの中で、特に、CCUSが注目されている。
CCUSは、Carbon Dioxide Capture,Utilization and Storageの略称である。上述のとおり、CCUSは、二酸化炭素の回収、利用、貯留の3つの技術を含む。このうち、二酸化炭素を貯留する技術として、発電所や工場等の産業施設から排出された二酸化炭素を回収し、鋼管を利用して枯渇油井に二酸化炭素を圧入及び貯蔵する技術が注目されている。このような貯留技術に利用される鋼管は、枯渇油井等の腐食環境で利用される。そのため、このような貯留技術に利用される鋼管には、腐食環境での優れた耐食性が求められる。
腐食環境での耐食性に優れる鋼材として、フェライト及びオーステナイトの二相組織を有する二相ステンレス鋼材が知られている。二相ステンレス鋼は例えば、特開平5-132741号公報(特許文献1)、及び、特開平9-195003号公報(特許文献2)に開示されている。
特許文献1に開示されている二相ステンレス鋼材は、質量%で、C:0.03%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.5%以下、P:0.040%以下、S:0.008%以下、sol.Al:0.040%以下、Ni:5.0~9.0%、Cr:23.0~27.0%、Mo:2.0~4.0%、W:1.5超~5.0%、N:0.24~0.32%、残部がFe及び不可避不純物からなる化学組成を有し、PREW(=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N)が40以上である。
特許文献2に開示されている二相ステンレス鋼材は、質量%で、C:0.12%以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、Ni:3~12%、Cr:20~35%、Mo:0.5~10%、W:3超~8%、Co:0.01~2%、Cu:0.1~5%、N:0.05~0.5%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなる。
特許文献1及び特許文献2に開示されている二相ステンレス鋼材では、化学組成を調整することにより、耐食性を高めている。
特開平5-132741号公報 特開平9-195003号公報
ところで、上述の二酸化炭素の貯留技術では、枯渇油井にCOを注入するために、鋼管内に注入するCOを圧縮及び昇圧して、COを超臨界状態にする。発電所や工場等の産業施設から回収されたCOには、SO及びOが含まれている。SOは水に溶解して硫酸を形成し、鋼材表面に全面腐食を発生させる。また、Oは孔食を発生させる。したがって、SO及びOが含まれた超臨界COは、極めて厳しい腐食環境を形成する。本明細書では、SO及びOが含まれた超臨界COを「超臨界腐食環境」という。
超臨界腐食環境で使用される鋼材では、従来の腐食環境よりもさらに優れた耐全面腐食性及び耐孔食性が求められる。特許文献1及び2に開示された二相ステンレス鋼材は、このような超臨界腐食環境での使用を想定されていない。
本開示の目的は、超臨界腐食環境において、優れた耐全面腐食性及び優れた耐孔食性を有する、二相ステンレス鋼材を提供することである。
本開示による二相ステンレス鋼材は、
質量%で、
C:0.050%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:0.80%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:25.00~27.00%、
Cu:0.10~2.50%、
Ni:5.00~8.50%、
Mo:2.00~4.50%、
W:1.50~3.00%、
N:0.150~0.350%、
Co:0.10~1.00%、
Sn:0.001~0.050%、
sol.Al:0.050%以下、
V:0.01~0.50%、
Ti:0.001~0.050%、
Ca:0.0010~0.0100%、
B:0.0020~0.0050%、
O:0.0100%以下、
Mg:0~0.0100%、
希土類元素:0~0.0100%、
Zr:0~0.0100%、
Nb:0~0.500%、
As:0~0.0500%、
Zn:0~0.0100%、
Pb:0~0.0100%、
Sb:0~0.0100%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記各元素含有量が上述の範囲内であることを前提として、式(1)で定義されるFnが57.0以上であり、
前記二相ステンレス鋼材中において、
Mn含有量が質量%で10%以上であり、S含有量が質量%で10%以上であり、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物、及び、
Ca含有量が質量%で20%以上であり、S含有量が質量%で10%以上であり、Mn含有量が質量%で10%未満であり、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物、の1mm当たりの総個数が、0.50個/mm以下である。
Fn=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N+2Ni+Cu+2Co+10Sn (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
本開示による二相ステンレス鋼材は、超臨界腐食環境において、優れた耐全面腐食性及び優れた耐孔食性を有する。
図1は、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である二相ステンレス鋼材でのFnと、耐全面腐食性の指標である腐食速度(mm/年)との関係を示す図である。
本発明者らは、超臨界COガスにSOガス及びOガスが含有されている超臨界腐食環境において、優れた耐全面腐食性及び耐孔食性を有する二相ステンレス鋼材について、検討を行った。
本発明者らは初めに、超臨界腐食環境において優れた耐全面腐食性及び優れた耐孔食性を有する鋼材を、化学組成の観点から検討した。その結果、質量%で、C:0.050%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.80%以下、P:0.050%以下、S:0.0050%以下、Cr:25.00~27.00%、Cu:0.10~2.50%、Ni:5.00~8.50%、Mo:2.00~4.50%、W:1.50~3.00%、N:0.150~0.350%、Co:0.10~1.00%、Sn:0.001~0.050%、sol.Al:0.050%以下、V:0.01~0.50%、Ti:0.001~0.050%、B:0.0020~0.0050%、O:0.0100%以下、Mg:0~0.0100%、希土類元素:0~0.0100%、Zr:0~0.0100%、Nb:0~0.500%、As:0~0.0500%、Zn:0~0.0100%、Pb:0~0.0100%、Sb:0~0.0100%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼材であれば、超臨界腐食環境において優れた耐全面腐食性及び優れた耐孔食性が得られる可能性があると考えた。
しかしながら、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内である二相ステンレス鋼材であっても、超臨界腐食環境における耐全面腐食性が低い場合があった。そこで本発明者らは、超臨界腐食環境における耐全面腐食性を高める手段について、さらに検討を行った。
ここで、本発明者らは、化学組成中の各元素の作用に注目した。従来から、Cr、Mo、W及びNは、海水等の塩化物を含有する通常の腐食環境において、耐全面腐食性を高めることが知られている。そこで、本発明者らは、これらの元素は、超臨界腐食環境においても、耐全面腐食性を高めると考えた。
本発明者らさらに、Cr、Mo、W及びN以外に、超臨界腐食環境での耐全面腐食性を高める元素を調査した。その結果、超臨界腐食環境では、Cr、Mo、W、Nだけでなく、Ni、Cu、Co及びSnも、超臨界腐食環境での耐全面腐食性を高めることが、本発明者らの調査で初めて判明した。
そこで、本発明者らは、二相ステンレス鋼材中のCr、Mo、W、N、Ni、Cu、Co及びSnの含有量と、超臨界腐食環境での耐全面腐食性との関係についてさらに調査を行った。その結果、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である二相ステンレス鋼材において、さらに、式(1)で定義されるFnが57.0以上であれば、超臨界腐食環境において、優れた耐全面腐食性が得られることが判明した。
Fn=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N+2Ni+Cu+2Co+10Sn (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
図1は、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である二相ステンレス鋼材でのFnと、耐全面腐食性の指標である腐食速度(mm/年)との関係を示す図である。図1は後述の実施例で得られたデータにより作成した。図1を参照して、Fnが57.0未満の場合の腐食速度は0.100mm/年よりも速い。一方、Fnが57.0以上の場合の腐食速度は、Fnが57.0未満の場合の腐食速度と比較して、顕著に遅い。したがって、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である二相ステンレス鋼材において、Fnを57.0以上とすることにより、超臨界腐食環境での耐全面腐食性が顕著に高まる。
しかしながら、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、かつ、Fnが57.0以上である二相ステンレス鋼材であっても、超臨界腐食環境での優れた耐全面腐食性が得られるものの、耐孔食性が低くなる場合があった。そこで、本発明者らは超臨界腐食環境での優れた耐全面腐食性と優れた耐孔食性との両立について、さらに検討を行った。
ここで、本発明者らは、化学組成の観点からのアプローチではなく、発想を転換して、二相ステンレス鋼材中の介在物に注目した。
一般的に、Cr含有量が2.00%以下の低合金鋼材では、通常の腐食環境において、鋼材中の介在物(酸化物、硫化物、窒化物等)が割れの起点となり、孔食が発生する場合があることが知られている。これに対して、Cr含有量が10.00%以上の高合金鋼材では、Cr含有量が高い。そのため、低合金鋼材と比較して、高合金鋼材の表面には、強固な不働態皮膜が形成される。そのため、従来、高合金鋼材では、介在物を起点とする孔食は発生しにくいと考えられてきた。
しかしながら、通常の腐食環境と異なる超臨界腐食環境では、高合金鋼材であっても、以下のメカニズムにより、介在物を基点とした孔食が発生することが判明した。
超臨界腐食環境では、高温高圧の超臨界COガスにSOガス及びOガスが含有されている。二相ステンレス鋼材の表層にMn硫化物が存在する場合、超臨界腐食環境中のSOガス及びOガスの水への溶解により、二相ステンレス鋼材の表層の介在物が溶解する。介在物が溶解すれば、表面には凹みが形成される。粗大な介在物が溶解して形成された凹みは、超臨界腐食環境での孔食の起点となりやすい。
本発明者らのさらなる調査の結果、超臨界腐食環境では、二相ステンレス鋼材の表層に存在する粗大な介在物(酸化物、硫化物、窒化物等)の全てが孔食の起点となるのではなく、Mn硫化物が溶解して鋼材表面に凹みが形成されることにより、孔食が発生することが判明した。
以上のとおり、本発明者らは、超臨界腐食環境での二相ステンレス鋼材では、通常の腐食環境での低合金鋼材の場合とは異なるメカニズムにより、孔食が発生する場合があることを突き止めた。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である二相ステンレス鋼材の場合、粗大なMn硫化物の生成を抑えることで、Mn硫化物の溶解に起因した表面の凹みを抑制し、超臨界腐食環境での耐孔食性を高めることができると考えた。
そこで、本発明者らは、上記化学組成にさらに、質量%で、0.0010~0.0100%のCaを含有すれば、粗大なMn硫化物の生成を抑制できると考えた。つまり、質量%で、C:0.050%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.80%以下、P:0.050%以下、S:0.0050%以下、Cr:25.00~27.00%、Cu:0.10~2.50%、Ni:5.00~8.50%、Mo:2.00~4.50%、W:1.50~3.00%、N:0.150~0.350%、Co:0.10~1.00%、Sn:0.001~0.050%、sol.Al:0.050%以下、V:0.01~0.50%、Ti:0.001~0.050%、Ca:0.0010~0.0100%、B:0.0020~0.0050%、O:0.0100%以下、Mg:0~0.0100%、希土類元素:0~0.0100%、Zr:0~0.0100%、Nb:0~0.500%、As:0~0.0500%、Zn:0~0.0100%、Pb:0~0.0100%、Sb:0~0.0100%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成の二相ステンレス鋼材であれば、粗大なMn硫化物の生成を抑制することができると考えた。具体的には、Caを含有することにより、CaがSと結合してCa硫化物を形成する。Ca硫化物の形成により、Mnと結合するSが減少する。そのため、粗大なMn硫化物の生成が抑制される。
そこで、本発明者らは、上記化学組成の二相ステンレス鋼材を製造して、超臨界腐食環境での耐孔食性について調査した。その結果、粗大なMn硫化物の生成を抑制できたものの、依然として、優れた耐孔食性が得られない場合があることが判明した。そこで、本発明者らは、耐孔食性が十分に得られない要因について、さらに調査及び検討を行った。その結果、上述の含有量のCaを含有した場合、次の新たなメカニズムにより、超臨界腐食環境において優れた耐孔食性が得られなくなる場合があることを本発明者らは突き止めた。
鋼材の化学組成において、上述の含有量のCaを含有した場合、Ca硫化物が形成されて、粗大なMn硫化物の生成が抑制される。しかしながら、超臨界腐食環境では、Ca硫化物自体も、Mn硫化物と同様に溶解しやすい。そのため、鋼材の表層に粗大なCa硫化物が存在すれば、Mn硫化物と同様に、Ca硫化物が溶解して鋼材表面に凹みが形成される。このCa硫化物起因の表面の凹みにより、超臨界腐食環境において孔食が発生する場合がある。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である二相ステンレス鋼材において、粗大なMn硫化物の生成を抑制するだけでなく、粗大なCa硫化物の生成も抑制できれば、超臨界腐食環境であっても、優れた耐全面腐食性と優れた耐孔食性との両立が可能であると考えた。
そこで、本発明者らは、粗大なMn硫化物、及び、粗大なCa硫化物の単位面積当たりの総個数をどの程度に抑えれば、超臨界腐食環境における優れた耐全面腐食性及び優れた耐孔食性が得られるか、さらに検討を行った。その結果、二相ステンレス鋼材中の介在物のうち、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物と、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物との合計が0.50個/mm以下であれば、超臨界COガスにSOガス及びOガスが含有されている超臨界腐食環境であっても、優れた耐全面腐食性及び優れた耐孔食性を両立できることが判明した。
以上の技術思想に基づいて完成した本実施形態の二相ステンレス鋼材は、次の構成を有する。
[1]
二相ステンレス鋼材であって、
質量%で、
C:0.050%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:0.80%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:25.00~27.00%、
Cu:0.10~2.50%、
Ni:5.00~8.50%、
Mo:2.00~4.50%、
W:1.50~3.00%、
N:0.150~0.350%、
Co:0.10~1.00%、
Sn:0.001~0.050%、
sol.Al:0.050%以下、
V:0.01~0.50%、
Ti:0.001~0.050%、
Ca:0.0010~0.0100%、
B:0.0020~0.0050%、
O:0.0100%以下、
Mg:0~0.0100%、
希土類元素:0~0.0100%、
Zr:0~0.0100%、
Nb:0~0.500%、
As:0~0.0500%、
Zn:0~0.0100%、
Pb:0~0.0100%、
Sb:0~0.0100%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
前記各元素含有量が上述の範囲内であることを前提として、式(1)で定義されるFnが57.0以上であり、
前記二相ステンレス鋼材中において、
Mn含有量が質量%で10%以上であり、S含有量が質量%で10%以上であり、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物、及び、
Ca含有量が質量%で20%以上であり、S含有量が質量%で10%以上であり、Mn含有量が質量%で10%未満であり、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物、の1mm当たりの総個数が、0.50個/mm以下である、
二相ステンレス鋼材。
Fn=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N+2Ni+Cu+2Co+10Sn (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[2]
[1]に記載の二相ステンレス鋼材であって、
Mg:0.0001~0.0100%、
希土類元素:0.0001~0.0100%、
Zr:0.0001~0.0100%、
Nb:0.001~0.500%、
As:0.0001~0.0500%、
Zn:0.0001~0.0100%、
Pb:0.0001~0.0100%、及び、
Sb:0.0001~0.0100%、からなる群から選択される1種以上を含有する、
二相ステンレス鋼材。
[3]
[1]又は[2]に記載の二相ステンレス鋼材であって、
前記二相ステンレス鋼材は、鋼管である、
二相ステンレス鋼材。
以下、本実施形態の二相ステンレス鋼材について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[本実施形態の二相ステンレス鋼材の特徴]
本実施形態の二相ステンレス鋼材は、次の特徴を有する。
(特徴1)
化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である。
(特徴2)
特徴1を満たすことを前提として、式(1)で定義されるFnが57.0以上である。
Fn=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N+2Ni+Cu+2Co+10Sn (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
(特徴3)
円相当径が1.0μm以上のMn硫化物、及び、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の1mm当たりの総個数が、0.50個/mm以下である。
以下、各特徴1~3について説明する。
[(特徴1)化学組成について]
本実施形態の二相ステンレス鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.050%以下
炭素(C)は不可避に含有される。つまり、C含有量は0%超である。Cは結晶粒界にCr炭化物を形成し、粒界での腐食感受性を高める。そのため、C含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性が低下する。
したがって、C含有量は0.050%以下である。
C含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、C含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、C含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%である。
C含有量の好ましい上限は0.048%であり、さらに好ましくは0.046%であり、さらに好ましくは0.044%であり、さらに好ましくは0.042%である。
Si:1.00%以下
シリコン(Si)は不可避に含有される。つまり、Si含有量は0%超である。Siは鋼を脱酸する。しかしながら、Si含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靭性及び熱間加工性が低下する。
したがって、Si含有量は1.00%以下である。
Si含有量の好ましい下限は0.15%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.25%である。
Si含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
Mn:0.80%以下
マンガン(Mn)は不可避に含有される。つまり、Mn含有量は0%超である。Mnは鋼材の焼入れ性を高めて鋼材の強度を高める。しかしながら、Mn含有量が高すぎれば、Mnは、粗大なMn硫化物を多数形成する。超臨界腐食環境において、鋼材の表面近傍に存在する粗大なMn硫化物は溶解する。その結果、鋼材表面に凹みが形成される。この凹みが孔食の起点となり、超臨界腐食環境において孔食が発生する。Mn含有量が0.80%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記凹みが生成し、超臨界腐食環境での耐孔食性が低下する。
したがって、Mn含有量は0.80%以下である。
Mn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.35%である。
Mn含有量の好ましい上限は0.78%であり、さらに好ましくは0.75%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.65%である。
P:0.050%以下
燐(P)は不純物である。すなわち、P含有量は0%超である。Pは粒界に偏析して、鋼材の靭性を低下させる。
したがって、P含有量は0.050%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%である。
P含有量の好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.035%であり、さらに好ましくは0.030%である。
S:0.0050%以下
硫黄(S)は不純物である。すなわち、S含有量は0%超である。Sは粒界に偏析して、鋼材の靭性及び熱間加工性を低下させる。
したがって、S含有量は0.0050%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。
S含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0015%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
Cr:25.00~27.00%
クロム(Cr)は超臨界腐食環境における鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性を高める。具体的には、Crは酸化物として鋼材の表面に不動態皮膜を形成する。その結果、鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性が高まる。Cr含有量が25.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Cr含有量が27.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、フェライトの体積率が高くなりすぎる。この場合、鋼材の靱性が低下する。
したがって、Cr含有量は25.00~27.00%である。
Cr含有量の好ましい下限は25.05%であり、さらに好ましくは25.10%であり、さらに好ましくは25.50%であり、さらに好ましくは26.00%である。
Cr含有量の好ましい上限は26.80%であり、さらに好ましくは26.60%であり、さらに好ましくは26.40%であり、さらに好ましくは26.20%である。
Cu:0.10~2.50%
銅(Cu)は超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性を高める。Cu含有量が0.10%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Cu含有量が2.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Cu含有量は0.10~2.50%である。
Cu含有量の好ましい下限は0.15%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは1.00%である。
Cu含有量の好ましい上限は2.45%であり、さらに好ましくは2.30%であり、さらに好ましくは2.10%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは1.90%である。
Ni:5.00~8.50%
ニッケル(Ni)は鋼材中のオーステナイトを安定化させる。Niはさらに、超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性を高める。Ni含有量が5.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ni含有量が8.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、オーステナイトの体積率が高くなりすぎる。この場合、鋼材の強度が低下する。
したがって、Ni含有量は5.00~8.50%である。
Ni含有量の好ましい下限は5.10%であり、さらに好ましくは5.20%であり、さらに好ましくは5.30%であり、さらに好ましくは5.40%であり、さらに好ましくは5.50%である。
Ni含有量の好ましい上限は8.30%であり、さらに好ましくは8.00%であり、さらに好ましくは7.70%であり、さらに好ましくは7.60%である。
Mo:2.00~4.50%
モリブデン(Mo)は超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性を高める。Mo含有量が2.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mo含有量が4.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Mo含有量は2.00~4.50%である。
Mo含有量の好ましい下限は2.10%であり、さらに好ましくは2.20%であり、さらに好ましくは2.30%であり、さらに好ましくは2.40%であり、さらに好ましくは2.50%である。
Mo含有量の好ましい上限は4.40%であり、さらに好ましくは4.30%であり、さらに好ましくは4.20%であり、さらに好ましくは4.10%であり、さらに好ましくは4.00%である。
W:1.50~3.00%
タングステン(W)は超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性を高める。W含有量が1.50%以上であれば、超臨界腐食環境において優れた耐全面腐食性及び耐孔食性が高まる。
一方、W含有量が3.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎる。この場合、鋼材の靭性が低下する。
したがって、W含有量は1.50~3.00%である。
W含有量の好ましい下限は1.55%であり、さらに好ましくは1.60%であり、さらに好ましくは1.65%であり、さらに好ましくは1.70%であり、さらに好ましくは1.75%であり、さらに好ましくは1.80%である。
W含有量の好ましい上限は2.95%であり、さらに好ましくは2.90%であり、さらに好ましくは2.85%であり、さらに好ましくは2.75%である。
N:0.150~0.350%
窒素(N)は鋼材中のオーステナイトを安定化させる。Nはさらに、超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性を高める。N含有量が0.150%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、N含有量が0.350%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靭性及び熱間加工性が低下する。
したがって、N含有量は0.150~0.350%である。
N含有量の好ましい下限は0.180%であり、さらに好ましくは0.200%であり、さらに好ましくは0.220%であり、さらに好ましくは0.240%であり、さらに好ましくは0.260%である。
N含有量の好ましい上限は0.340%であり、さらに好ましくは0.330%であり、さらに好ましくは0.320%であり、さらに好ましくは0.310%であり、さらに好ましくは0.300%である。
Co:0.10~1.00%
コバルト(Co)は超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性を高める。Coは特に、鋼材の耐孔食性を高める。Coはさらに、鋼材の焼入性を高め、鋼材の強度を高める。Co含有量が0.10%未満であれば、上記効果が十分に得られない。
一方、Co含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、製造コストが極端に高まる。
したがって、Co含有量は0.10~1.00%である。
Co含有量の好ましい下限は0.15%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.25%である。
Co含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
Sn:0.001~0.050%
スズ(Sn)は、超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性を高める。Snは特に、鋼材の耐孔食性を高める。Sn含有量が0.001%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Sn含有量が0.050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても製造コストが極端に高まる。
したがって、Sn含有量は0.001~0.050%である。
Sn含有量の好ましい下限は0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.004%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。
sol.Al:0.050%以下
アルミニウム(Al)は不可避に含有される。つまり、sol.Al含有量は0%超である。
Alは鋼を脱酸する。しかしながら、sol.Al含有量が0.050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物が生成する。粗大な酸化物は鋼材の靭性を低下する。
したがって、sol.Al含有量は0.050%以下である。
sol.Al含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。
sol.Al含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。なお、sol.Al含有量とは、酸可溶Alの含有量を意味する。
V:0.01~0.50%
バナジウム(V)は炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。V含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、V含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎる。この場合、鋼材の靭性が低下する。
したがって、V含有量は0.01~0.50%である。
V含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.04%である。
V含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Ti:0.001~0.050%
チタン(Ti)は炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Ti含有量が0.001%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ti含有量が0.050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎる。この場合、鋼材の靭性が低下する。
したがって、Ti含有量は0.001~0.050%である。
Ti含有量の好ましい下限は0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.004%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.007%である。
Ca:0.0010~0.0100%
カルシウム(Ca)は、鋼材中のSと結合してCa硫化物を生成し、Mn硫化物の生成を抑制する。
鋼材の表層に、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物が存在する場合、超臨界腐食環境において、表層のMn硫化物が溶解する。Mn硫化物の溶解により、鋼材表面に凹みが形成される。鋼材表面に形成されるこの凹みが、超臨界腐食環境において、孔食の起点となりやすい。
CaはMn硫化物の生成を抑制し、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物の個数密度(個/mm)を低下させる。その結果、超臨界腐食環境での鋼材の耐孔食性が高まる。
Ca含有量が0.0010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ca含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物が過剰に生成する。円相当径が2.0μm以上のCa硫化物が鋼材の表層に存在する場合、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物は、上述の粗大なMn硫化物と同様に、超臨界腐食環境において溶解する。そのため、鋼材表面に凹みが形成される。この凹みにより、鋼材の耐孔食性が低下する。
したがって、Ca含有量は0.0010~0.0100%である。
Ca含有量の好ましい下限は0.0013%であり、さらに好ましくは0.0016%であり、さらに好ましくは0.0019%である。
Ca含有量の好ましい上限は0.0090%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
B:0.0020~0.0050%
ホウ素(B)は鋼材中のSの粒界への偏析を抑制し、鋼材の熱間加工性を高める。B含有量が0.0020%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、ボロン窒化物(BN)が生成する。ボロン窒化物は鋼材の靭性を低下させる。
したがって、B含有量は0.0020~0.0050%である。
B含有量の好ましい下限は0.0022%であり、さらに好ましくは0.0024%であり、さらに好ましくは0.0026%である。
B含有量の好ましい上限は0.0046%であり、さらに好ましくは0.0044%であり、さらに好ましくは0.0042%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0038%であり、さらに好ましくは0.0036%であり、さらに好ましくは0.0034%である。
O:0.0100%以下
酸素(O)は不可避に含有される不純物である。つまり、O含有量は0%超である。
Oは酸化物を形成して、鋼材の靭性を低下させる。O含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の靭性が顕著に低下する。
したがって、O含有量は0.0100%以下である。
O含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、O含有量を過剰に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、工業生産を考慮すれば、O含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。
O含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
本実施形態による二相ステンレス鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、二相ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、意図的に含有されるものではなく、本実施形態による二相ステンレス鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素(Optional Elements)について]
本実施形態の二相ステンレス鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、
Mg:0~0.0100%、
希土類元素:0~0.0100%、
Zr:0~0.0100%、
Nb:0~0.500%、
As:0~0.0500%、
Zn:0~0.0100%、
Pb:0~0.0100%、及び、
Sb:0~0.0100%、からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
以下、各任意元素について説明する。
[第1群:Mg及び希土類元素(REM)]
本実施形態の二相ステンレス鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Mg及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の熱間加工性を高める。以下、Mg及びREMについて説明する。
Mg:0~0.0100%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Mg含有量が0%超である場合、Mgは介在物の形態を制御して、鋼材の熱間加工性を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mg含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中の酸化物が粗大化する。この場合、鋼材の靭性が低下する。
したがって、Mg含有量は0~0.0100%であり、含有される場合、0.0100%以下である。
Mg含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0008%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
Mg含有量の好ましい上限は0.0090%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%であり、さらに好ましくは0.0060%である。
希土類元素:0~0.0100%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、REM含有量が0%超である場合、REMは介在物の形態を制御して、鋼材の熱間加工性を高める。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、REM含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中の酸化物が粗大化する。この場合、鋼材の靭性が低下する。
したがって、REM含有量は0~0.0100%であり、含有される場合、0.0100%以下である。
REM含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0006%である。
REM含有量の好ましい上限は0.0090%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
本明細書におけるREMとは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)、及び、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)からなる群から選択される1種以上の元素を意味する。本明細書におけるREM含有量とは、これらの元素の合計含有量である。
[第2群:Zr及びNb]
本実施形態の二相ステンレス鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Zr及びNbからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の強度を高める。以下、Zr及びNbについて説明する。
Zr:0~0.0100%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Zr含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Zr含有量が0%超である場合、Zrは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Zrが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Zr含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎる。この場合、鋼材の靭性が低下する。
したがって、Zr含有量は0~0.0100%であり、含有される場合、0.0100%以下である。
Zr含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
Zr含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
Nb:0~0.500%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超である場合、Nbは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Nb含有量が0.500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎる。この場合、鋼材の靭性が低下する。
したがって、Nb含有量は0~0.500%であり、含有される場合、0.500%以下である。
Nb含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.008%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
[第3群:As、Zn、Pb及びSb]
本実施形態の二相ステンレス鋼材はさらに、Feの一部に代えて、As、Zn、Pb及びSbからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の耐全面腐食性を高める。以下、As、Zn、Pb及びSbについて説明する。
As:0~0.0500%
ヒ素(As)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、As含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、As含有量が0%超である場合、Asは、超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性を高める。Asが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、As含有量が0.0500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Asが粒界に偏析する。この場合、超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性が低下する。
したがって、As含有量は0~0.0500%であり、含有される場合、0.0500%以下である。
As含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。
As含有量の好ましい上限は0.0300%であり、さらに好ましくは0.0100%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
Zn:0~0.0100%
亜鉛(Zn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Zn含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Zn含有量が0%超である場合、Znは、超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性を高める。Znが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Zn含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性及び耐孔食性が低下する。
したがって、Zn含有量は0~0.0100%であり、含有される場合、0.0100%以下である。
Zn含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。
Zn含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
Pb:0~0.0100%
鉛(Pb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Pb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Pb含有量が0%超である場合、Pbは、超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性を高める。Pbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Pb含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、熱間加工後の鋼材表面に多数の疵が発生する。
したがって、Pb含有量は0~0.0100%であり、含有される場合、0.0100%以下である。
Pb含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。
Pb含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
Sb:0~0.0100%
アンチモン(Sb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Sb含有量が0%超である場合、Sbは、超臨界腐食環境での鋼材の耐全面腐食性を高める。Sbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sb含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、製造コストが極端に高まる。
したがって、Sb含有量は0~0.0100%であり、含有される場合、0.0100%以下である。
Sb含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
Sb含有量の好ましい上限は0.0090%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
[(特徴2)Fnについて]
本実施形態の二相ステンレス鋼材ではさらに、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、つまり、特徴1を満たすことを前提として、次の特徴2を満たす。
(特徴2)
式(1)で定義されるFnが57.0以上である。
Fn=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N+2Ni+Cu+2Co+10Sn (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
Fnは、超臨界腐食環境での二相ステンレス鋼材の耐全面腐食性の指標である。上述のとおり、超臨界COガスにSOガス及びOガスが含有されている超臨界腐食環境では、特徴1を満たす二相ステンレス鋼材中の元素のうち、Cr、Mo、W及びNだけでなく、Ni、Cu、Co及びSnも、耐全面腐食性の向上に寄与する。
Fnは、特徴1を満たす二相ステンレス鋼材において、超臨界腐食環境での各元素の耐全面腐食性への寄与度を考慮して設定されたパラメータ式である。図1を参照して、Fnが57.0未満である場合、超臨界腐食環境での耐全面腐食性の指標である腐食速度が速い。つまり、Fnが57.0未満である場合、特徴1及び特徴3を満たしていても、超臨界腐食環境における耐全面腐食性が低い。一方、Fnが57.0以上である場合、腐食速度が顕著に遅くなる。つまり、Fnが57.0以上である場合、超臨界腐食環境での耐全面腐食性が顕著に高まる。したがって、Fnは57.0以上である。
Fnの好ましい下限は57.5であり、さらに好ましくは58.0であり、さらに好ましくは58.5であり、さらに好ましくは59.0である。
[(特徴3)総個数密度NDについて]
本実施形態の二相ステンレス鋼材ではさらに、特徴1及び特徴2を満たし、さらに、次の特徴3を満たす。
(特徴3)
円相当径が1.0μm以上のMn硫化物、及び、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の1mm当たりの総個数が、0.50個/mm以下である。
ここで、二相ステンレス鋼材中の介在物のうち、Mn硫化物、及び、Ca硫化物を次のとおり定義する。
Mn硫化物:介在物の質量%を100%とした場合に、質量%でMn含有量が10%以上であり、S含有量が10%以上である介在物
Ca硫化物:介在物の質量%を100%とした場合に、質量%でCa含有量が20%以上であり、S含有量が10%以上であり、Mn含有量が10%未満である介在物
本実施形態の二相ステンレス鋼材では、鋼材中の介在物のうち、超臨界腐食環境で溶解して表層に凹みを形成しやすいサイズのMn硫化物及びCa硫化物の単位面積当たりの総個数密度(個/mm)を低くする。
二相ステンレス鋼材中のMn硫化物は、二相ステンレス鋼材の長手方向(圧延方向)に延びている。一方、二相ステンレス鋼材中のCa硫化物は球状である。そのため、Mn硫化物とCa硫化物とでは、孔食の起点となる凹みを形成しやすいサイズが異なる。
Mn硫化物及びCa硫化物の面積を円に換算したときの直径を円相当径と定義する。化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内の二相ステンレス鋼材である場合、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物の単位面積(1mm)当たりの個数と、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物との単位面積(1mm)当たりの個数とが、超臨界腐食環境での耐孔食性と強く相関する。
本明細書において、鋼材中の複数のMn硫化物及び複数のCa硫化物のうち、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物の単位面積(1mm)当たりの個数と、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の単位面積(1mm)当たりの個数との合計(総個数)を、「総個数密度ND」(単位は個/mm)と定義する。
この場合、本実施形態の鋼材では、総個数密度NDが0.50個/mm以下である。換言すれば、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物及び円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の1mm当たりの総個数が0.50個/mm以下である。
総個数密度NDが0.50個/mmを超えれば、二相ステンレス鋼材が特徴1及び特徴2を満たしても、超臨界腐食環境において、鋼材表層のMn硫化物及びCa硫化物が溶解しやすい。その結果、二相ステンレス鋼材の表面に、孔食の起点となる凹みが生成しやすい。そのため、超臨界腐食環境において、二相ステンレス鋼材の耐孔食性が低下する。
総個数密度NDが0.50個/mm以下であれば、二相ステンレス鋼材が特徴1及び特徴2を満たすことを前提として、超臨界腐食環境で溶解しやすいサイズのMn硫化物及びCa硫化物の総個数密度が十分に低い。そのため、超臨界腐食環境において、二相ステンレス鋼材の表層に、Mn硫化物及びCa硫化物の溶解に起因する凹みが生成しにくい。その結果、超臨界腐食環境において、二相ステンレス鋼材の耐孔食性が十分に高まる。
総個数密度NDの好ましい上限は0.49個/mmであり、さらに好ましくは0.48個/mmであり、さらに好ましくは0.47個/mmであり、さらに好ましくは0.46個/mmであり、さらに好ましくは0.45個/mmであり、さらに好ましくは0.44個/mmであり、さらに好ましくは0.43個/mmであり、さらに好ましくは0.42個/mmである。
総個数密度NDはなるべく少ない方が好ましい。しかしながら、総個数密度NDの過剰な低減は、製造コストを顕著に高める。したがって、製造コストを考慮した場合、総個数密度NDの好ましい下限は0.01個/mmであり、さらに好ましくは0.05個/mmであり、さらに好ましくは0.10個/mmであり、さらに好ましくは0.15個/mmであり、さらに好ましくは0.20個/mmである。
[総個数密度NDの測定方法]
円相当径が1.0μm以上のMn硫化物及び円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の総個数密度NDは次の方法により測定できる。
初めに、二相ステンレス鋼材において、次の試験片採取位置から試験片を採取する。
鋼材が鋼管である場合、肉厚中央位置から試験片を採取する。鋼材が丸鋼(Round Steel Bar)である場合、R/2位置から試験片を採取する。丸鋼とは、軸方向に垂直な断面が円形状である中実の鋼材である。R/2位置とは、丸鋼の軸方向に垂直な断面において、半径Rの中央位置を意味する。鋼材が鋼板である場合、板厚中央位置から試験片を採取する。
採取した試験片を樹脂埋めする。鋼材が鋼管である場合、試験片の表面のうち、管軸方向及び肉厚方向を含む面を観察面とする。鋼材が丸鋼である場合、試験片の表面のうち、軸方向及び径方向を含む面を観察面とする。鋼材が鋼板である場合、圧延方向及び板厚方向を含む面を観察面とする。
樹脂埋めされた鋼材の観察面を研磨する。研磨後の観察面のうち、任意の10視野を観察する。各視野の面積は36mm(6mm×6mm)とする。
各視野において、介在物の個数を求める。具体的には、視野中の各介在物について、元素濃度分析(EDS分析)を実施して、介在物の種類を特定する。EDS分析では、加速電圧を20kVとし、分析対象の元素をN、O、Mg、Al、Si、P、S、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Cu、Zr、Nbとする。
各介在物のEDS分析結果に基づいて、その介在物がMn硫化物であるか、Ca硫化物であるかを特定する。
質量%でMn含有量が10%以上であり、かつ、S含有量が10%以上である場合、その介在物を「Mn硫化物」と特定する。
質量%でCa含有量が20%以上であり、S含有量が10%以上であり、さらに、Mn含有量が10%未満である場合、その介在物を「Ca硫化物」と特定する。
10視野で特定されたMn硫化物のうち、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物の総個数を求める。さらに、10視野で測定されたCa硫化物のうち、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の総個数を求める。円相当径が1.0μm以上のMn硫化物の総個数と、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の総個数と、10視野の総面積とに基づいて、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物及び円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の単位面積当たりの総個数密度ND(個/mm)を求める。
総個数密度NDの測定は、走査電子顕微鏡に組成分析機能が付与された装置(SEM-EDS装置)を用いて行うことができる。SEM-EDS装置として例えば、FEI(ASPEX)社製の介在物自動分析装置である商品名:Metals Quality Analyzerを用いることができる。
[ミクロ組織(Microstructure)]
本実施形態の二相ステンレス鋼材のミクロ組織は、フェライト及びオーステナイトからなる。本明細書において、「フェライト及びオーステナイトからなる」とは、フェライト及びオーステナイト以外の相が無視できるほど少ないことを意味する。例えば、本実施形態による二相ステンレス鋼材のミクロ組織において、析出物や介在物の面積率は、フェライト及びオーステナイトの面積率と比較して、無視できるほど小さい。つまり、本実施形態による二相ステンレス鋼材のミクロ組織には、フェライト及びオーステナイト以外に、析出物や介在物等が少量含有されている。
本実施形態の二相ステンレス鋼材のミクロ組織中のフェライトの面積率、及び、オーステナイトの面積率は特に限定されない。二相ステンレス鋼材が特徴1を満たす場合、ミクロ組織中のフェライトの面積率及びオーステナイトの面積率はある程度の範囲内に自ずと決まる。本実施形態の二相ステンレス鋼材のミクロ組織中のフェライトの面積率は例えば、30~70%である。オーステナイトの面積率は例えば、30~70%である。
[ミクロ組織観察方法]
本実施形態において、二相ステンレス鋼材のフェライトの面積率及びオーステナイトの面積率は、次の方法で求めることができる。
二相ステンレス鋼材の以下の試験片採取位置から試験片を採取する。鋼材が鋼管である場合、肉厚中央位置から試験片を採取する。鋼材が丸鋼である場合、R/2位置から試験片を採取する。鋼材が鋼板である場合、板厚中央位置から試験片を採取する。
採取した試験片を樹脂埋めする。鋼材が鋼管である場合、試験片の表面のうち、管軸方向及び肉厚方向を含む面を観察面とする。鋼材が丸鋼である場合、試験片の表面のうち、軸方向及び径方向を含む面を観察面とする。鋼材が鋼板である場合、圧延方向及び板厚方向を含む面を観察面とする。
樹脂埋めされた鋼材の観察面を研磨する。鏡面研磨された観察面を7%水酸化カリウム腐食液中で電解腐食して、ミクロ組織を現出させる。ミクロ組織が現出された観察面を、光学顕微鏡を用いて10視野観察する。各視野の面積は特に限定されないが、例えば、6.25×10μm(倍率400倍)である。
各視野において、コントラストに基づいて、フェライト及びオーステナイトを特定する。特定したフェライト及びオーステナイトの面積率を求める。特定したフェライト及びオーステナイトの面積率を求める方法は特に限定されず、周知の方法でよい。例えば、画像解析によっても求めることができる。本実施形態では、全ての視野で求めた、フェライトの面積率の算術平均値を、フェライトの面積率(%)と定義する。そして、以下の式に基づいて、オーステナイトの面積率を求める。
オーステナイトの面積率(%)=100-フェライトの面積率(%)
[本実施形態の二相ステンレス鋼材の効果]
以上の説明のとおり、本実施形態の二相ステンレス鋼材は、特徴1~特徴3を満たす。
(特徴1)
化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である。
(特徴2)
式(1)で定義されるFnが57.0以上である。
Fn=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N+2Ni+Cu+2Co+10Sn (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
(特徴3)
円相当径が1.0μm以上のMn硫化物及び円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の総個数密度NDが、0.50個/mm以下である。
これらの特徴を満たすことにより、本実施形態の二相ステンレス鋼材は、超臨界腐食環境において、優れた耐全面腐食性及び優れた耐孔食性を有する。
[超臨界腐食環境での耐全面腐食性について]
本明細書において、超臨界腐食環境において優れた耐全面腐食性を示す、とは、後述する超臨界腐食環境での耐食性試験において、腐食速度が0.100mm/年以下になることを意味する。
[超臨界腐食環境での耐孔食性について]
本明細書において、超臨界腐食環境において優れた耐孔食性を示す、とは、後述する超臨界腐食環境での耐食性試験を実施した後の二相ステンレス鋼材(試験片)の表面に孔食が確認されないことを意味する。
[超臨界腐食環境での耐食性試験]
超臨界腐食環境での耐食性試験は次の方法で実施する。
二相ステンレス鋼材の次に示す試験片採取位置から試験片を採取する。二相ステンレス鋼材が鋼管である場合、肉厚中央位置から試験片を採取する。二相ステンレス鋼材が丸鋼である場合、R/2位置から試験片を採取する。二相ステンレス鋼材が鋼板である場合、板厚中央位置から試験片を採取する。試験片のサイズは特に限定されないが、例えば、長さ:30mm、幅:20mm、厚さ:2mmとする。
体積%で0.25%のSOガスと体積%で4.0%のOガスとを飽和させた5質量%のNaCl(塩化ナトリウム)水溶液を、試験液として準備する。オートクレーブ内に試験液を収納する。試験液中に試験片を浸漬し、オートクレーブ内に、全圧130bar、100℃のCOガス(超臨界ガス)を加圧封入して、腐食試験を開始する。試験時間は96時間とする。また、試験中のオートクレーブ内の温度を100℃に維持する。
試験時間経過後の試験片の質量を測定する。試験開始前の試験片の質量、試験時間経過後の試験片の質量、試験片の密度、試験片の表面積、及び、試験時間に基づいて、腐食速度(mm/年)を求める。腐食速度が0.100mm/年以下である場合、超臨界腐食環境での耐全面腐食性に優れると判定する。
さらに試験終了後の試験片の表面を、拡大率が10倍のルーペで観察して、孔食の有無を確認する。ルーペ観察で孔食が疑われる箇所がある場合、孔食が疑われる箇所の断面を100倍の光学顕微鏡で観察して、孔食の有無を確認する。試験片の全表面において孔食が確認されない場合、超臨界腐食環境において耐孔食性に優れると判定する。
[二相ステンレス鋼材の形状及び用途]
本実施形態による二相ステンレス鋼材は、鋼管、丸鋼(中実材)、又は鋼板である。鋼管は継目無鋼管であってもよいし、溶接鋼管であってもよい。本実施形態の二相ステンレス鋼材は例えば、CCUSの貯留技術用途に適する。
[製造方法]
本実施形態の二相ステンレス鋼材の製造方法の一例を説明する。なお、以下に説明する製造方法は一例であって、本実施形態の二相ステンレス鋼材の製造方法はこれに限定されない。つまり、上述の構成を有する本実施形態の二相ステンレス鋼材が製造できれば、以下に説明する製造方法に限定されない。ただし、以下に説明する製造方法は、本実施形態の二相ステンレス鋼材を製造する好適な製造方法である。
本実施形態の鋼材の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)製鋼工程
(工程2)熱間加工工程
(工程3)溶体化処理工程
以下、各工程について説明する。
[(工程1)製鋼工程]
製鋼工程は、次の工程を含む。
(工程11)溶鋼を製造する工程(精錬工程)
(工程12)溶鋼を用いて鋳造法により素材を製造する工程(素材製造工程)
[(工程11)精錬工程]
精錬工程では初めに、Crを含有する溶鋼を取鍋に収納して、取鍋内の溶鋼に対して、大気圧下で脱炭処理を実施する(粗脱炭精錬工程)。粗脱炭精錬工程での脱炭処理により、スラグが生成する。粗脱炭精錬工程後の溶鋼の液面には、脱炭処理により生成したスラグが浮上している。粗脱炭精錬工程において、溶鋼中のCrが酸化してCrが生成する。Crはスラグ中に吸収される。そこで、取鍋に脱酸剤を添加して、スラグ中のCrを還元し、Crを溶鋼中に回収する(Cr還元処理工程)。
粗脱炭精錬工程及びCr還元処理工程は例えば、電気炉法、転炉法、又は、AOD(Argon Oxygen Decarburization)法により実施する。Cr還元処理工程後、溶鋼からスラグを除滓する(除滓処理工程)。
二相ステンレス鋼材のように、Crを多量に含有する鋼材の場合、Crにより溶鋼中のC活量が低下する。そのため、溶鋼での脱炭反応が抑制されてしまう。そこで、除滓処理工程後の溶鋼に対してさらに、仕上げの脱炭処理を実施する(仕上げ脱炭精錬工程)。仕上げ脱炭精錬工程では、減圧下において脱炭処理を実施する。減圧下で脱炭処理を実施すれば、雰囲気中のCOガス分圧(PCO)が低くなり、溶鋼中のCrの酸化が抑制される。そのため、減圧下で脱炭処理を実施すれば、Crの酸化を抑制しつつ、溶鋼中のC濃度をさらに下げることができる。仕上げ脱炭精錬工程後、溶鋼に脱酸剤を添加して、スラグ中のCrを還元するCr還元処理を再び実施する(Cr還元処理工程)。
仕上げ脱炭精錬工程、及び、仕上げ脱炭精錬工程後のCr還元処理工程は例えば、VOD(Vacuum Oxygen Decarburization)法により実施してもよく、RH(Ruhrstahl-Heraeus)法により実施してもよい。
Cr還元処理工程後、取鍋中の溶鋼に対して最終の成分調整と素材製造工程前の溶鋼の温度調整とを実施する(成分調整工程)。成分調整工程は例えば、LT(Ladle Treatment)により実施する。成分調整工程の後半で、溶鋼中にCaを添加する。ここで、Caを添加してから溶鋼内にCaが均一に分散するまでの時間を「均一混合時間」τと定義する。均一混合時間τは次の式(A)により求めることができる。
τ=800×ε-0.4 (A)
ここで、εはLTにおける溶鋼の撹拌動力密度であり、式(B)により定義される。
ε=28.5(Q/W)×T×log(1+H/1.48) (B)
ここで、Qは上吹きガス流量(Nm/min)である。Wは溶鋼質量(t)である。Tは溶鋼温度(K)である。Hは取鍋内の溶鋼の深さ(鋼浴深さ)(m)である。
成分調整工程において、取鍋中の溶鋼温度を1500~1700℃に保持する。さらに、Caを溶鋼内に投入し、均一混合時間τが経過してからの保持時間を「保持時間t」(秒)と定義する。この場合、本実施形態では、均一混合時間τが経過してからの保持時間tを60秒以上とする。
保持時間tが60秒未満である場合、溶鋼に添加したCaが、溶鋼中のMn硫化物を十分に改質できない。この場合、粗大なMn硫化物が多数鋼材中に残存してしまう。そのため、二相ステンレス鋼材中において、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物の単位面積当たりの個数が過剰に多くなる。そのため、総個数密度NDが0.50個/mmを超えてしまう。又は、Mn硫化物がCaと反応して改質が進み、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物の単位面積当たりの個数は少なくなるものの、Sと結合して生成した粗大なCa硫化物がスラグに十分に吸収されずに溶鋼中に残存してしまう。その結果、総個数密度NDが0.50個/mmを超えてしまう。
一方、保持時間tが60秒以上である場合、溶鋼に添加したCaが、溶鋼中のMn硫化物を十分に改質する。その結果、粗大なMn硫化物の個数が低減する。そのため、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物の単位面積当たりの個数が十分に少なくなる。さらに、Sと結合して生成した粗大なCa硫化物が、溶鋼中を浮上してスラグに吸収される時間を十分に確保できる。そのため、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の単位面積当たりの個数も十分に少なくなる。その結果、総個数密度ND(個/mm)が0.50個/mm以下となる。
以上のとおり、本実施形態の成分調整工程では、均一混合時間τが経過してからの保持時間tを60秒以上とする。なお、本実施形態の成分調整工程において、均一混合時間τが経過してからの保持時間tの上限は特に限定されないが、例えば、3600秒である。
[(工程12)素材製造工程]
上述の精錬工程により製造された溶鋼を用いて、素材(鋳片又はインゴット)を製造する。具体的には、溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片を製造する。鋳片はスラブでもよいし、ブルームでもよいし、ビレットでもよい。又は、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットとしてもよい。鋳片又はインゴットに対してさらに、分塊圧延等を実施して、ビレットを製造してもよい。以上の工程により、素材を製造する。
[(工程2)熱間加工工程]
熱間加工工程では、素材を熱間加工して中間鋼材を製造する。二相ステンレス鋼材が鋼管である場合、中間鋼材は素管に相当する。初めに、素材を加熱炉で加熱する。加熱温度は特に限定されないが、例えば、1100~1300℃である。
加熱炉から抽出された素材であるビレットに対して熱間加工を実施して、中間鋼材である素管(継目無鋼管)を製造する。熱間加工の方法は、特に限定されず、周知の方法でよい。例えば、熱間加工としてマンネスマン法を実施し、素管を製造する。この場合、穿孔機によりビレットを穿孔圧延する。穿孔圧延する場合、穿孔比は特に限定されないが、例えば、1.0~4.0である。
穿孔圧延されたビレットをさらに、マンドレルミル、レデューサ、サイジングミル等により熱間圧延して素管にする。熱間加工工程での累積の減面率は例えば、20~70%である。
熱間加工として熱間押出を実施する場合、例えば、ユジーン・セジュルネ法、又は、エルハルトプッシュベンチ法を実施して、素管を製造してもよい。なお、熱間加工は1回のみ実施してもよく、複数回実施してもよい。例えば、素材に対して上述の穿孔圧延を実施した後、上述の熱間押出を実施してもよい。
鋼材が丸鋼である場合、初めに、素材を加熱炉で加熱する。加熱温度は特に限定されないが、例えば、1100~1300℃である。加熱炉から抽出された素材に対して熱間加工を実施して、中間鋼材である丸鋼を製造する。熱間加工は例えば、分塊圧延機による分塊圧延、及び/又は、連続圧延機による熱間圧延である。連続圧延機は、上下方向に並んで配置された一対の孔型ロールを有する水平スタンドと、水平方向に並んで配置された一対の孔型ロールを有する垂直スタンドとが交互に配列されている。
鋼材が鋼板である場合、初めに、素材を加熱炉で加熱する。加熱温度は特に限定されないが、例えば、1100~1300℃である。加熱炉から抽出された素材に対して、分塊圧延機、及び、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、中間鋼材である鋼板を製造する。
熱間加工により製造された中間鋼材は常温まで冷却されてもよい。熱間加工により製造された中間鋼材は、常温まで冷却せずに、熱間加工後に補熱(再加熱)した後、次工程の溶体化処理を実施してもよい。
[(工程3)溶体化処理工程]
溶体化処理工程では、上記熱間加工工程で製造された中間鋼材に対して、溶体化処理を実施する。溶体化処理の方法は、特に限定されず、周知の方法でよい。例えば、中間鋼材を熱処理炉に装入し、所望の温度で保持した後、急冷する。なお、中間鋼材を熱処理炉に装入し、所望の温度で保持した後、急冷して溶体化処理を実施する場合、溶体化処理を実施する温度(溶体化温度)とは、溶体化処理を実施するための熱処理炉の温度(℃)を意味する。この場合さらに、溶体化処理を実施する時間(溶体化時間)とは、中間鋼材が溶体化温度で保持される時間を意味する。
好ましくは、本実施形態の溶体化処理工程における溶体化温度を900~1200℃とする。この場合、溶体化処理後の二相ステンレス鋼材に析出物(例えば、金属間化合物であるσ相等)が残存しにくい。
中間鋼材を熱処理炉に装入し、所望の温度で保持した後、急冷して溶体化処理を実施する場合、溶体化時間は特に限定されず、周知の条件で実施すればよい。溶体化時間は例えば、5~180分である。急冷方法は、例えば、水冷である。
[その他の工程]
本実施形態による二相ステンレス鋼材の製造方法では、上記以外の製造工程を含んでもよい。例えば、熱間加工工程の後、溶体化処理工程の前の中間鋼材に対して、冷間加工を実施してもよい。冷間加工は、例えば、冷間引抜であってもよく、冷間圧延であってもよい。また、溶体化処理工程の後の中間鋼材に対して、冷間加工を実施してもよい。
溶体化処理工程の後に、酸洗処理を実施してもよい。この場合、酸洗処理は、周知の方法で実施されればよく、特に限定されない。酸洗処理を実施する場合、製造された二相ステンレス鋼材の表面に不動態皮膜が形成される。
以上の工程により、本実施形態による二相ステンレス鋼材を製造できる。
実施例により本実施形態の二相ステンレス鋼材の一態様の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の二相ステンレス鋼材の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の二相ステンレス鋼材はこの一条件例に限定されない。
表1-1及び表1-2に示す化学組成を有する二相ステンレス鋼材(継目無鋼管)を、次の方法で製造した。
Figure 0007239085000001
Figure 0007239085000002
表1-1及び表1-2中の「化学組成」欄の「-」は、対応する元素含有量が、実施形態に規定の有効数字(最小桁までの数値)において、0%であることを意味する。換言すれば、対応する元素含有量において、上述の実施形態で規定の有効数字(最小桁までの数値)での端数を四捨五入した場合に0%であることを意味する。
各試験番号の溶鋼は次のとおり製造した。Crを含有する溶鋼を取鍋に収納して、AOD法により周知の粗脱炭精錬工程及びCr還元処理工程を実施した。Cr還元処理工程後、溶鋼からスラグを除滓する除滓処理工程を実施した。さらに、VOD法により、周知の仕上げ脱炭精錬工程及びCr還元処理工程を実施した。
VOD法によるCr還元処理工程後、LTにより、取鍋中の溶鋼に対して最終の成分調整と素材製造工程前の溶鋼の温度調整とを実施した。溶鋼温度はいずれも1500~1700℃であった。さらに、溶鋼中にCaを添加した。Caを添加した後、均一混合時間τ経過後の保持時間t(秒)を表2に示すとおり調整した。以上の工程により、各試験番号の溶鋼を製造した。
Figure 0007239085000003
溶鋼を用いて、外径310mmのビレットを製造した。製造したビレットを1250℃に加熱した後、マンネスマン法により熱間圧延し、外径244.48mm、肉厚13.84mmの素管(継目無鋼管)を製造した。
素管に対して溶体化処理を実施した。溶体化温度は1080℃であり、溶体化時間は15分とした。溶体化時間経過後の素管を水冷した。以上の工程により、各試験番号の鋼材(継目無鋼管)を製造した。
[評価試験]
各試験番号の鋼材に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)ミクロ組織観察試験
(試験2)総個数密度ND測定試験
(試験3)超臨界腐食環境での耐食性試験
以下、各試験について説明する。
[(試験1)ミクロ組織観察試験]
各試験番号の二相ステンレス鋼材のミクロ組織観察を、上述の[ミクロ組織観察方法]に基づいて実施した。10視野の各視野の面積は6.25×10μmとした。その結果、全ての試験番号の鋼材のミクロ組織はフェライト及びオーステナイトからなるミクロ組織であった。また、ミクロ組織中のフェライト面積率はいずれの試験番号においても、30~70%であった。
[(試験2)総個数密度ND測定試験]
各試験番号の二相ステンレス鋼材の総個数密度NDの測定を、上述の[総個数密度NDの測定方法]に基づいて実施した。得られた総個数密度ND(個/mm)を表2の「総個数密度ND(個/mm)」欄に示す。
[(試験3)超臨界腐食環境での耐食性試験]
各試験番号の二相ステンレス鋼材に対して、上述の[超臨界腐食環境での耐食性試験]に記載の耐食性試験を実施し、腐食速度(mm/年)を求めた。なお、試験片のサイズは、長さ:30mm、幅:20mm、厚さ:2mmとした。得られた腐食速度(mm/年)を表2中の「腐食速度(mm/年)」欄に示す。さらに、上述の方法により、耐食性試験後の試験片の表面の孔食の有無を確認した。孔食の有無の判定結果を表2中の「孔食有無」欄に示す。「無し」は試験片の表面に孔食が確認されなかったことを意味する。「有り」は試験片の表面のいずれかに孔食が確認されたことを意味する。なお、腐食速度が0.100mm/年を超えた場合、鋼材表面で全面腐食が進行しているため、孔食の有無の確認が困難となる。そのため、腐食速度が0.100mm/年を超えた試験番号の二相ステンレス鋼材については、孔食の有無を確認しなかった。表2中の「孔食有無」欄において、「-」は孔食の有無を確認しなかったことを意味する。
[評価結果]
表1-1、表1-2及び表2を参照して、試験番号1~20の二相ステンレス鋼材では、化学組成中の各元素含有量が適切であった。さらに、Fnが57.0以上であった。さらに、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物及び円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の総個数密度NDが0.50個/mm以下であった。その結果、超臨界腐食環境での耐食性試験において、腐食速度が0.100mm/年以下であり、超臨界腐食環境において優れた耐全面腐食性を示した。さらに、試験後の試験片の表面に孔食が確認されず、超臨界腐食環境において優れた耐孔食性を示した。
一方、試験番号21~24では、二相ステンレス鋼材の化学組成において、式(1)で定義されるFnが57.0未満であった。そのため、超臨界腐食環境での耐食性試験において、腐食速度が0.100mm/年よりも速く、超臨界腐食環境での耐全面腐食性が低かった。
試験番号25では、二相ステンレス鋼材の化学組成において、Co含有量が低すぎた。そのため、超臨界腐食環境での耐食性試験において、試験後の試験片の表面に孔食が確認され、超臨界腐食環境での耐孔食性が低かった。
試験番号26では、二相ステンレス鋼材の化学組成において、Sn含有量が低すぎた。そのため、超臨界腐食環境での耐食性試験において、試験後の試験片の表面に孔食が確認され、超臨界腐食環境での耐孔食性が低かった。
試験番号27では、二相ステンレス鋼材の化学組成において、Cr含有量が低すぎた。そのため、超臨界腐食環境での耐食性試験において、腐食速度が0.100mm/年よりも速く、超臨界腐食環境での耐全面腐食性が低かった。
試験番号28では、二相ステンレス鋼材の化学組成において、Cu含有量が低すぎた。そのため、超臨界腐食環境での耐食性試験において、腐食速度が0.100mm/年よりも速く、超臨界腐食環境での耐全面腐食性が低かった。
試験番号29~32では、鋼材の製造工程において、均一混合時間τ経過後の保持時間tが短すぎた。その結果、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物及び円相当径が2.0μm以上のCa硫化物の総個数密度NDが0.50個/mmを超えた。その結果、超臨界腐食環境での耐食性試験において、試験後の試験片の表面に孔食が確認され、超臨界腐食環境での耐孔食性が低かった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
本実施形態の二相ステンレス鋼材の要旨は、次のとおり記載することもできる。
[1]
二相ステンレス鋼材であって、
質量%で、
C:0.050%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:0.80%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:25.00~27.00%、
Cu:0.10~2.50%、
Ni:5.00~8.50%、
Mo:2.00~4.50%、
W:1.50~3.00%、
N:0.150~0.350%、
Co:0.10~1.00%、
Sn:0.001~0.050%、
sol.Al:0.050%以下、
V:0.01~0.50%、
Ti:0.001~0.050%、
Ca:0.0010~0.0100%、
B:0.0020~0.0050%、及び、
O:0.0100%以下、を含有し、残部がFe及び不純物、からなり、
前記各元素含有量が上述の範囲内であることを前提として、式(1)で定義されるFnが57.0以上であり、
前記二相ステンレス鋼材中において、
Mn含有量が質量%で10%以上であり、S含有量が質量%で10%以上であり、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物、及び、
Ca含有量が質量%で20%以上であり、S含有量が質量%で10%以上であり、Mn含有量が質量%で10%未満であり、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物、の1mm当たりの総個数が、0.50個/mm以下である、
二相ステンレス鋼材。
Fn=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N+2Ni+Cu+2Co+10Sn (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[2]
二相ステンレス鋼材であって、
質量%で、
C:0.050%以下、
Si:1.00%以下、
Mn:0.80%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cr:25.00~27.00%、
Cu:0.10~2.50%、
Ni:5.00~8.50%、
Mo:2.00~4.50%、
W:1.50~3.00%、
N:0.150~0.350%、
Co:0.10~1.00%、
Sn:0.001~0.050%、
sol.Al:0.050%以下、
V:0.01~0.50%、
Ti:0.001~0.050%、
Ca:0.0010~0.0100%、
B:0.0020~0.0050%、及び、
O:0.0100%以下、を含有し、
さらに、第1群~第3群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記各元素含有量が上述の範囲内であることを前提として、式(1)で定義されるFnが57.0以上であり、
前記二相ステンレス鋼材中において、
Mn含有量が質量%で10%以上であり、S含有量が質量%で10%以上であり、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物、及び、
Ca含有量が質量%で20%以上であり、S含有量が質量%で10%以上であり、Mn含有量が質量%で10%未満であり、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物、の1mm当たりの総個数が、0.50個/mm以下である、
二相ステンレス鋼材。
[第1群]
Mg:0.0100%以下、及び、
希土類元素:0.0100%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
Zr:0.0100%以下、及び、
Nb:0.500%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
As:0.0500%以下、
Zn:0.0100%以下、
Pb:0.0100%以下、及び、
Sb:0.0100%以下、からなる群から選択される1元素以上
Fn=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N+2Ni+Cu+2Co+10Sn (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[3]
[2]に記載の二相ステンレス鋼材であって、
前記第1群を含有する、
二相ステンレス鋼材。
[4]
[2]又は[3]に記載の二相ステンレス鋼材であって、
前記第2群を含有する、
二相ステンレス鋼材。
[5]
[2]~[4]のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材であって、
前記第3群を含有する、
二相ステンレス鋼材。
[6]
[1]~[5]のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材であって、
前記二相ステンレス鋼材は、鋼管である、
二相ステンレス鋼材。

Claims (3)

  1. 二相ステンレス鋼材であって、
    質量%で、
    C:0.050%以下、
    Si:1.00%以下、
    Mn:0.80%以下、
    P:0.050%以下、
    S:0.0050%以下、
    Cr:25.00~27.00%、
    Cu:0.10~2.50%、
    Ni:5.00~8.50%、
    Mo:2.00~4.50%、
    W:1.50~3.00%、
    N:0.150~0.350%、
    Co:0.10~1.00%、
    Sn:0.001~0.050%、
    sol.Al:0.050%以下、
    V:0.01~0.50%、
    Ti:0.001~0.050%、
    Ca:0.0010~0.0100%、
    B:0.0020~0.0050%、
    O:0.0100%以下、
    Mg:0~0.0100%、
    希土類元素:0~0.0100%、
    Zr:0~0.0100%、
    Nb:0~0.500%、
    As:0~0.0500%、
    Zn:0~0.0100%、
    Pb:0~0.0100%、
    Sb:0~0.0100%、及び、
    残部がFe及び不純物からなり、
    前記各元素含有量が上述の範囲内であることを前提として、式(1)で定義されるFnが57.0以上であり、
    前記二相ステンレス鋼材中において、
    Mn含有量が質量%で10%以上であり、S含有量が質量%で10%以上であり、円相当径が1.0μm以上のMn硫化物、及び、
    Ca含有量が質量%で20%以上であり、S含有量が質量%で10%以上であり、Mn含有量が質量%で10%未満であり、円相当径が2.0μm以上のCa硫化物、の1mm当たりの総個数が、0.50個/mm以下である、
    二相ステンレス鋼材。
    Fn=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N+2Ni+Cu+2Co+10Sn (1)
    ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
  2. 請求項1に記載の二相ステンレス鋼材であって、
    Mg:0.0001~0.0100%、
    希土類元素:0.0001~0.0100%、
    Zr:0.0001~0.0100%、
    Nb:0.001~0.500%、
    As:0.0001~0.0500%、
    Zn:0.0001~0.0100%、
    Pb:0.0001~0.0100%、及び、
    Sb:0.0001~0.0100%、からなる群から選択される1種以上を含有する、
    二相ステンレス鋼材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の二相ステンレス鋼材であって、
    前記二相ステンレス鋼材は、鋼管である、
    二相ステンレス鋼材。
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