JP6745373B1 - 耐食性に優れたステンレス鋼およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ステンレス鋼の自然電位が高い環境でも高い耐食性を持つステンレス鋼を提供する。【解決手段】質量%で、C:0.1%以下、Si:0.01〜5.0%、Mn:0.01〜8.0%、P:0.1%以下、S:0.05%以下、Ni:1.0〜30.0%、Cr:15.0〜30.0%、Mo:0.01〜8.0%、Cu:0.01〜5.0%を含有し、残部はFeおよび不純物であり、酸化皮膜中のFe、Cr、Niの分率が、原子比で、Fe、Cr、Niの総量に対してFe:0.40以上、Cr:0.15〜0.30、Ni:0.05〜0.40であり、酸化皮膜の厚さが100nm以下である耐食性に優れたステンレス鋼を採用する。【選択図】図1

Description

本発明は、耐食性に優れたステンレス鋼およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、自然海水、次亜塩素酸水、オゾン水のような環境で利用される耐食性に優れたステンレス鋼およびその製造方法に関する。
ステンレス鋼は、その水環境における優れた耐食性から、海洋構造体、水処理施設のタンク、配管、及び水道水や工業用水の貯水タンクに利用されている。従来からCr、Ni、Mo等の合金元素を多く添加することで、高い耐食性を持つステンレス鋼が開発されてきた。一方で近年、原料価格の高騰によりCr、Ni、Mo等の合金元素を多く含有するステンレス鋼の価格も上昇し、より安価で高い耐食性を有するステンレス鋼の開発が求められ、様々な表面処理によって耐食性を高める方法が検討されている。
それに加えて、ステンレス鋼が使用される環境も過酷になってきている。例えば、近年水の安全性に対する関心が高まっており、飲料水の殺菌、有害物質除去の目的で過酸化水素、次亜塩素酸、オゾンなどの酸化剤を水処理に活用することが増えてきている。
これらの酸化剤が水中に溶存すると、この電位を高くすることが知られている。水中に前述の様な過酸化水素、次亜塩素酸、オゾンなどの酸化剤が水中に存在すると、酸化剤の種類、量によって水中における自然電位(ESP)が決まる。ステンレス鋼はその合金成分、組織などによって、使用出来得る限界の電位が存在する。この限界の電位は、JISで規定された「ステンレス鋼の孔食電位測定方法」(JIS G 0577)により測定することができる。この孔食電位が使用環境での電位と比べ、低ければ孔食が発生する可能性がある。このように、酸化剤を含有する水中は、ステンレス鋼にとって過酷な腐食環境であると言える。
そのため、近年では、ステンレス鋼において酸化剤含有水中での耐食性を向上させるために、様々な合金元素に頼らない耐食性向上方法が検討されている。
特許文献1は、不働態皮膜中の成分が(Cr+Ni)/Feが1以上の燃料電池用ステンレス鋼分離板及びその製造方法を提案している。
特許文献2は、EDXで測定した表面の成分について、Cr、Ni、Feの総量に占めるCrの比率が10.0%以上かつNiの比率が5.0〜50.0%、皮膜厚さが1.5〜5.0μmとなる表面改質ステンレス鋼板の製造方法を提案している。
特許文献3は、表面酸化皮膜内のCr/Feが0.5以上の耐発銹性と加工性に優れた光輝焼鈍仕上げフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提案している。
特許文献4は、表面にFe:70%以下、Cr:28%以上の不働態皮膜が形成されたステンレス鋼製ループ循環水系を提案している。
このように、これまでに、ステンレス鋼表面の皮膜を制御することで、耐食性の高いステンレス鋼を提供する技術は提案されている。
しかしながら、特許文献1〜4の方法は、酸化剤が存在する様なステンレス鋼の自然電位が高い環境での耐食性については考慮されておらず、水中の酸化力が高い場合は耐食性が発揮しない。
このように、従来の技術でステンレス鋼の耐食性を向上させても、酸化剤が存在する様なステンレス鋼の自然電位が高い環境で高い耐食性を発揮させることはできない。このため、ステンレス鋼の自然電位が高い環境でも効果が発揮する耐食性向上方法が望まれている。
特許第5591302号公報 特許第6091145号公報 特許第4963043号公報 特許第3984903号公報
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、ステンレス鋼の自然電位が高い環境でも高い耐食性を持つステンレス鋼を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る耐食性に優れたステンレス鋼およびその製造方法は、下記の要件を有する。
[1] 質量%で、
C:0.1%以下、
Si:0.01〜5.0%、
Mn:0.01〜8.0%、
P:0.1%以下、
S:0.05%以下、
Ni:1.0〜30.0%、
Cr:15.00〜30.00%、
Mo:0.01〜8.0%、
Cu:0.01〜5.0%
を含有し、残部はFeおよび不純物であり、
鋼表面に酸化皮膜を有し、
前記酸化皮膜中のFe、Cr、Niの分率が、原子比で、Fe、Cr、Niの総量に対してFe:0.40以上、Cr:0.15〜0.30、Ni:0.05〜0.40であり、
前記酸化皮膜の厚さが100nm以下であることを特徴とする耐食性に優れたステンレス鋼。
[2] Ni及びCrの含有量がそれぞれ、質量%で、
Ni:1.0〜10.0%、
Cr:20.0〜30.0%、
であることを特徴とする[1]に記載の耐食性に優れたステンレス鋼。
[3] 更に、以下の群より選択される1種以上を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の耐食性に優れたステンレス鋼。
第1群:質量%で、N:0.05〜0.8%。
第2群:質量%で、Al:1.0%以下、Ti:0.01〜0.40%、Nb:0.01〜0.40%、V:0.01〜0.50%、W:0.01〜1.0%、Ta:0.001〜0.10%、Sn:0.001〜0.50%、Sb:0.001〜0.50%、及びGa:0.001〜0.50%から選択される1種以上。
第3群:質量%で、B:0.0002〜0.0050%、Ca:0.0002〜0.0050%、Mg:0.0002〜0.0050%、及びREM:0.001〜0.10%から選択される1種以上
] 海洋構造体、または、次亜塩素酸若しくはオゾンを用いた浄水場設備に用いられることを特徴とする[1]乃至[]の何れか一項に記載の耐食性に優れたステンレス鋼。
] [1]乃至[3]の何れか一項に記載の化学成分を有する酸洗後のステンレス鋼に対して、
pH6.0〜8.0の電解質水溶液中において、0.55〜0.65V vs SHEで10.0〜60.0min定電位電解する第1電解工程と、0.75〜0.85V vsSHEで1.0〜5.0min定電位電解する第2電解工程とを順次行うことを特徴とする耐食性に優れたステンレス鋼の製造方法。
本発明の一態様によれば、Cr、Ni、Mo等の合金元素を多量に含有することなく、ステンレス鋼の自然電位が高い環境でも優れた耐食性を有するステンレス鋼を提供できる。
図1は、自然電位上昇速度と孔食発生数との関係を示す図である。
以下、本実施形態のステンレス鋼の一実施形態について詳述する。
本発明者らは、まず、酸化剤によるステンレス鋼の自然電位の上昇(貴化)とステンレス鋼の孔食発生について鋭意調査した。その結果、水中に酸化剤が存在してステンレス鋼の自然電位が上昇する場合、この自然電位の上昇速度が遅いほど孔食が発生しにくくなることを明らかにした。更に、自然電位の上昇速度を遅くするためには、ステンレス鋼の皮膜中のFe濃度が高いほど自然電位の上昇速度が遅くなる。一方、ステンレス鋼中のCr濃度が高いほど自然電位の上昇速度が速くなる。一方で、ステンレス鋼の皮膜のFe濃度が高いと皮膜の保護性が低く、ステンレス鋼の自然電位が高い環境で孔食が発生しやすくなる。そこで、本発明者らはステンレス鋼の皮膜のFe濃度が高くても孔食が発生しにくくなる方法を鋭意調査した結果、ステンレス鋼の皮膜のNi濃度が高いと皮膜のFe濃度が高くても孔食が発生しにくいことを明らかにした。またステンレス鋼の皮膜のNi濃度は自然電位の上昇速度には影響しないことを明らかにした。以上の結果から、本発明者らはステンレス鋼の皮膜のFeおよびNi濃度が高く、かつCr濃度が低いことがステンレス鋼の自然電位が高い環境で高い耐食性を持つ条件であることを明らかにした。以上の様な皮膜をステンレス鋼表面に形成させるには以下の条件でステンレス鋼を処理することが必要である。
(処理条件)
まず、pH6.0〜8.0の水溶液中において0.55〜0.65V vs SHEで10〜60min定電位電解する(電解工程1)。次いで同液中において0.75〜0.85V vs SHEで1.0〜5.0min定電位電解する(電解工程2)
なお、電解工程1では皮膜中にFe、Niを濃化させ、電解工程2では皮膜中のCrを低下させるために行う。これにより、ステンレス鋼の耐孔食性を向上させることができる。この耐孔食性が向上する効果は、前述の通りステンレス鋼の皮膜のFe、Ni、Cr濃度を制御することで、ステンレス鋼の自然電位が上昇する速度を低下させることが出来るためであると考えられる。なお、従来の方法ではステンレス鋼の皮膜のCr濃度が高く、Ni濃度が低いため、ステンレス鋼の自然電位が高い環境で高い耐孔食性を発揮することが出来ない。
本実施形態のステンレス鋼は、上述した知見に基づいて得られた。
本発明の実施形態は、電解工程1および電解工程2による処理を施した状態のステンレス鋼に係る。
本実施形態のステンレス鋼は、母材と、母材の表面に設けられた酸化皮膜とを具備する。
本実施形態のステンレス鋼(母材)の金属組織は問わず、オーステナイト単相もしくはフェライト相およびオーステナイト相の2相からなるものでもよい。
まず、本実施形態のステンレス鋼の全体における各成分元素の量の限定範囲とその理由について説明する。なお、鋼の成分を示す%については、特に断らない限り質量%を意味する。
C:Cは、ステンレス鋼の耐食性を確保するため、C量を0.1%以下に制限する。0.1%を超えてCを含有させると、Cr炭化物が生成して、耐食性が劣化する。一方で、Cは、二相組織を構成するオーステナイトを形成する元素である。このため、C量の下限は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。C量の上限は、好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは0.05%以下である。
Si:Siは脱酸のため0.01%以上の量で含有させる。Si量の下限は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.3%以上である。しかしながら、5.0%を超えてSiを含有させると、σ相の析出が促進される。そのため、Si量の上限を5.0%以下に限定する。Si量の上限は、好ましくは2.0%以下であり、より好ましくは0.6%以下である。
Mn:Mnは、脱酸材および二相組織にするためのオーステナイト安定化元素として、0.01%以上含有させる。Mn量の下限は、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは1.5%以上である。しかしながら、8.0%を超えてMnを含有させると耐食性が劣化する。そのため、Mn量の上限を8.0%以下に限定する。Mn量の上限は、好ましくは5.0%以下であり、より好ましくは4.0%以下である。
P:Pは熱間加工性および靭性を劣化させるため、P量を0.1%以下に制限する。P量は、好ましくは0.05%以下であり、より好ましくは0.035%以下である。一方、過度にP量を低減させると精錬コストが高くなるため、好ましくは0.005%以上が望ましい。
S:Sは熱間加工性、靭性および耐食性を劣化させるため、S量を0.05%以下に制限する。S量は、好ましくは0.01%以下であり、より好ましくは0.001%以下である。一方、過度にS量を低減させると原料コストと精錬コストが高くなるため、好ましくは0.0003%以上が望ましい。
Ni:Niは、ステンレス鋼の皮膜に含有されることで、皮膜のFe濃度が高い場合に孔食発生を抑制する効果と、腐食が生じた際の腐食進展を抑制する効果を有する。Ni量が1.0%未満では、十分な耐食性を得ることが出来ない。Ni量が30.0%を超えると、皮膜のCr濃度が低下しすぎるため十分な耐食性を得ることが出来ない。よって、Ni量を1.0〜30.0%の範囲にする必要がある。Ni量の下限は、好ましくは2.0%以上であり、より好ましくは4.0%以上である。Ni量の上限は、好ましくは15.0%以下であり、より好ましくは10.0%以下であり、更に好ましくは7.0%以下である。
Cr:Cr量が15.00%未満の場合、十分な耐食性を得ることが出来ない。Cr量が30.00%を超えると、皮膜中のCr濃度が高くなりステンレス鋼の自然電位が高い環境で十分な耐食性を得ることが出来ない。またσ相の析出が多くなり、耐食性、熱間製造性が劣化する。従ってCr量を15.00〜30.00%の範囲にする必要がある。Cr量の下限は、好ましくは18.0%以上であり、より好ましくは20.0%以上であり、更に好ましくは21.0%以上である。Cr量の上限は、好ましくは28.0%以下であり、より好ましくは25.0%以下である。
Mo:Moは、耐食性を向上させる元素であり、0.01%以上の含有で効果が発揮する。8.0%以下であればMoを含有してもよいが、Mo量が4.0%を超えると、熱間加工時にσ相が析出し易くなる。このため、Mo量の下限は、0.01%以上であり、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは1.0%以上である。Mo量の上限は、8.0%以下であり、好ましくは4.0%以下であり、より好ましくは1.5%以下である。
Cu:0.01%以上のCuを含有させると、腐食が生じた際の腐食進展を抑制する効果が得られる。5.0%以下の量であればCuを含有してもよい。Cu量が3.0%を超えると、鋳造時に割れが発生し易くなる。このため、Cu量の下限は、0.01%以上であり、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.20%以上である。Cu量の上限は、5.0%以下であり、好ましくは3.0%以下であり、より好ましくは0.5%以下である。
本実施形態においては、前述の元素に加えて、鋼の諸特性を調整する目的で、以下の合金元素が含有されていてもよい。
N:0.05%以上のNを含有させると、耐食性が向上し、Nは耐食性を高める有効な元素である。0.8%以下であればNを含有してもよい。0.3%超のNを含有させると、鋳造時に気泡が発生し易くなる。このため、N量の下限は、0.05%以上であり、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.12%以上である。N量の上限は、0.8%以下であり、好ましくは0.3%以下であり、更に好ましくは0.18%以下である。
Al:Alは脱酸元素として有用であるが、加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではない。Al量の上限を1.0%以下に制限するのがよい。Al量の好ましい範囲は、0.5%以下である。Al量の下限は0.01%以上である。
Ti,Nb,V,W,Sn,Sb,Gaは、耐食性を向上する元素であり、以下の範囲で1種または2種以上含有してもよい。
Ti:0.01〜0.40%、Nb:0.01〜0.40%、V:0.01〜0.50%、W:0.01〜1.0%、Sn:0.001〜0.50%、Sb:0.001〜0.50%、Ga:0.001〜0.50%。
Ti、Nb:TiおよびNbは、C、Nを炭窒化物として固定して耐食性、特に粒界腐食を抑制する作用を有する。このため、TiとNbの一方又は両方を含有させてもよい。しかし、過剰に含有させても効果は飽和するため、TiとNbの各々の含有量の上限を0.40%以下とする。ここにおいて、TiとNbの少なくとも一方の含有量が0.01%以上であれば、効果を発揮することができる。なお、Ti、Nbの適正な含有量としては、TiとNbの合計量がCとNの合計含有量の5倍量以上かつ30倍量以下がよい。好ましくは、TiとNbの合計含有量が、CとNの合計含有量の10倍以上、25倍以下とするのがよい。
V、W:V、Wは、耐食性、特に耐すき間腐食性を改善するため、必要に応じて含有してもよい。ただし、VやWの過度の量の含有は、加工性を低下させ、かつ耐食性を向上させる効果も飽和するため、V、Wのそれぞれの量の下限を0.01%以上とし、V量の上限を0.50%以下とし、W量の上限を1.0%以下とする。V量の下限は、好ましくは0.04%以上であり、V量の上限は、好ましくは0.30%以下である。W量の下限は、好ましくは0.04%以上であり、W量の上限は、好ましくは0.50%以下である。
Sn、Sb:微量のSn又はSbを含有させると、耐食性が向上する。このため、Sn,Sbは、耐食性を向上させるのに有用な元素であり、廉価性を損なわない範囲で含有させる。Sn又はSbの量が0.001%未満では、耐食性を向上させる効果は発現されず、Sn又はSbの量が0.50%を超えると、コスト増が顕在化すると共に加工性も低下するので、Sn、Sbのそれぞれの量の適正範囲を0.001〜0.50%とする。Sn、Sbのそれぞれの量の下限は、好ましくは0.01%以上であり、Sn、Sbのそれぞれの量の上限は、好ましくは0.30%以下である。
Ga:Gaは、耐食性および加工性向上に寄与する元素であり、0.001〜0.50%の範囲で含有させることができる。Ga量の下限は、好ましくは0.015%以上であり、Ga量の上限は、好ましくは0.30%以下である。
Ta:Taは、介在物の改質により耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有してもよい。0.001%以上のTaの含有によって、効果が発揮されるため、Ta量の下限を0.001%以上とする。Ta量が0.10%超の場合、常温延性の低下や靭性の低下を招くため、Ta量の上限は、好ましくは0.10%以下であり、より好ましくは0.050%以下である。少量のTa量で効果を発現させる場合には、Ta量を0.020%以下とすることが好ましい。
B、Ca、Mg、REMは、熱間加工性を改善する元素であり、その目的で1種または2種以上を含有させてもよい。B、Ca、Mgの効果は0.0002%以上の量で発現することから、B、Ca、Mgのそれぞれの量の下限を0.0002%以上とする。REMの場合は、下限を0.001%以上とする。
しかしながら、いずれも過剰な量の含有は、逆に熱間加工性を低下するため、その含有量の上下限を次のように設定することが好ましい。すなわち、B、Ca、Mgのそれぞれの量は0.0002〜0.0050%であり、REMの量は0.001〜0.10%である。
B、Ca、Mgのそれぞれの量の下限は、好ましくは0.0005%以上である。B、Ca、Mgのそれぞれの量の上限は、好ましくは0.0015%以下である。REM量の下限は、好ましくは0.005%以上であり、REM量の上限は、好ましくは0.030%以下である。
ここで、REM(希土類元素)は一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で含有させてもよいし、混合物であってもよい。REM量は、これら元素の合計量である。
本実施形態のステンレス鋼は、上述してきた元素以外の残部は、Fe及び不純物であるが、以上説明した各元素の他にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
次に、本実施形態に係るステンレス鋼の酸化皮膜について説明する。
母材の表面に設けられた酸化皮膜は、以下の要件(1)と(2)を同時に満たすものである。
(1)酸化皮膜中のFe、Cr、Niの分率が、原子比で、Fe、Cr、Niの総量に対してFe:0.40以上、Cr:0.15〜0.30、Ni:0.05〜0.40である。
(2)酸化皮膜の厚さが100nm以下である。
前述したように、酸化皮膜中のFe、Cr、Niの濃度比により、ステンレス鋼の自然電位の上昇する速度が変化し、このステンレス鋼の自然電位の上昇速度を抑制することでステンレス鋼の自然電位が高い環境でも高い耐食性が発揮される。
酸化皮膜中のFe分率が高いほど、ステンレス鋼の自然電位の上昇速度が遅くなる。これはFe自体の自然電位が低い為と考えられる。ステンレス鋼の自然電位の上昇速度を遅くするため、酸化皮膜中のFe分率は0.40以上とする必要がある。酸化皮膜中のFe分率の好ましい下限は0.50以上、より好ましい下限は0.60以上である。
酸化皮膜中のCr分率が高いほど、ステンレス鋼の自然電位の上層速度が速くなる。これはCr自体の自然電位が高い為と考えられる。ステンレス鋼の自然電位の上昇速度を遅くするため、酸化皮膜中のCr分率は0.30以下とする必要がある。一方、酸化皮膜中のCr分率を過度に低下させると酸化皮膜の保護性が低下して耐食性が劣化するため、酸化皮膜中のCr分率は0.15以上とする必要がある。従って、酸化皮膜中のCr分率は0.15〜0.30とする必要がある。酸化皮膜中のCr分率の好ましい範囲は0.15〜0.25、更に好ましい範囲は0.16〜0.20である。
酸化皮膜中のNi分率は、ステンレス鋼の自然電位の上層速度にほとんど影響しないが、前述の通り、酸化皮膜中のFe分率が高いとステンレス鋼の自然電位の上昇速度が遅くなるが、酸化皮膜中のFe分率が高いと皮膜の保護性が低いため腐食が発生する。酸化皮膜中のNi分率が高いと皮膜の保護性が高くなり、酸化皮膜中のFe分率が高くても腐食が発生しにくくなる。これはNiが酸化物として安定であるためと考えられる。このため酸化皮膜中のNi分率は0.05以上とする必要がある。一方、酸化皮膜中のNi分率を過度に高くなると相対的に酸化皮膜中のFe分率が低くなり、自然電位の上昇速度が高くなって腐食が発生しやすくなる。このため酸化皮膜中のNi分率は0.40以下とする必要がある。酸化皮膜中のNi分率の好ましい範囲は0.05〜0.30、更に好ましい範囲は0.05〜0.10である。
酸化皮膜はステンレス鋼母材と環境を遮断する効果があるが、酸化皮膜厚さが過度に厚いと保護性が低下する。このため、酸化皮膜厚さは100nm以下とすることが好ましい。酸化皮膜厚さの好ましい上限は50nm以下、更に好ましい上限は25nm以下である。酸化皮膜厚さが過度に薄いと電解処理の制御が難しく製造コストが高くなるため、好ましい下限は3nm以上である。
酸化皮膜の分析方法について説明する。供試材に対して表面に加工および化学処理を施さないまま、供試材を分析装置に入る形状に切断し、AES(オージェ電子分光分析装置)を用いて分析する。試料表面を最表層からArガスでスパッタして深さ方向のプロファイル分析を行う。スパッタリングの終了位置は、最表層からO(酸素)がピーク値の半値になるまでの位置とする。最表面からこの位置までの距離を酸化皮膜の厚みとする。そして、スパッタリングしない再表層におけるFe、Cr、Niのカチオン分率から、酸化皮膜中の各元素の比率を求める。各元素の比率は原子%の比率になる。
次に、本実施形態に係るステンレス鋼の自然電位上昇速度について説明する。
電解処理で母材の表面に前述の酸化皮膜が形成された本実施形態のステンレス鋼は、酸化剤が存在する環境での自然電位上昇速度が、以下の要件(1)を満たす。
(1)溶存オゾン濃度を1.0mg/Lに制御したpH7の0.1モル/LのNaSO水溶液にステンレス鋼を浸漬した際の0.50V vs SHEの電位におけるステンレス鋼の自然電位上昇速度αが1.0〜10.0mV/minである。
ステンレス鋼が高電位環境で腐食するのは、電位の上昇に伴いステンレス鋼の表面で酸化と溶解を繰り返して酸化皮膜形成をする中で、皮膜形成が間に合わず酸化皮膜が破壊されるためである。自然電位上昇速度が遅いと電位が上昇しても酸化皮膜が形成される時間が十分あるため、腐食が発生しにくい。オゾンは高い酸化力を持ち、水中に溶存した場合にステンレス鋼の自然電位を上昇させることが知られている。溶存オゾン濃度1.0mg/Lの水中での0.50V vs SHEにおける自然電位上昇速度が10.0mV/minを超えると酸化皮膜形成中に皮膜破壊が生じて十分な耐食性が発揮されない。このため、溶存オゾン濃度1.0mg/Lの水中での自然電位上昇速度は10.0mV/min以下とする必要がある。好ましい自然電位上昇速度は5.0mV/min以下、より好ましくは4.0mV/min以下である。一方、自然電位上昇速度が低すぎると皮膜形成が遅いため十分な耐食性を発揮することが出来ない。このため、自然電位上昇速度は1.0mg/L以上とする必要がある。自然電位上昇速度の好ましい下限は2.0mg/L以上、より好ましい下限は2.5mg/L以上である。
自然電位上昇速度αの測定方法は、以下の通りとする。
ステンレス鋼を浸漬する水溶液として0.1mol/L NaSO水溶液を用意する。NaSO水溶液のpHは、HSOまたはNaOHにより7.0に調整する。NaSO水溶液にステンレス鋼を浸漬する前に、湿式#600研磨して酸化皮膜を除去する。この研磨は浸漬前60min以内に行う。NaSO水溶液にオゾンガスをバブリングさせ、溶存オゾン濃度1.0mg/Lとなるように制御する。溶存オゾン濃度1.0mg/Lの水溶液中で浸漬したステンレス鋼の自然電位を参照電極により測定し、0.50V vs SHEにおける自然電位上昇速度を求める。測定ではステンレス鋼を作用極とし、参照電極を参照極とする。また、自然電位上昇速度の測定の始点は0.45Vとし、終点は0.55Vとし、始点から終点までの間の電位の平均変化速度を自然電位上昇速度とする。
次に、本実施形態に係るステンレス鋼の製造方法について説明する。
本実施形態のステンレス鋼は、基本的にはステンレス鋼を製造する一般的な工程を適用して製造される。例えば、電気炉で上記の化学組成を有する溶鋼とし、AOD炉やVOD炉などで精練する。連続鋳造法又は造塊法で鋼片とし、次いで、熱間圧延、熱延板の焼鈍(溶体化熱処理)を施す。薄板を製造する場合(例えば、3mm程度の厚さの鋼板)には、前述の溶体化熱処理後に、冷間圧延を施し、次いで、再度焼鈍(溶体化熱処理)を施す。更にこれを酸洗して薄板が製造される。
酸洗の後に、以下の条件で電解処理を施す。
(電解処理の条件)
pH6.0〜8.0の電解質水溶液中において0.55〜0.65V vs SHEで10〜60min定電位電解してFe、Niを濃縮させる電解工程1と、同液中において0.75〜0.85V vs SHEで.01〜5.0min定電位電解して皮膜中のCrを低下させる電解工程2を実施する。
電解質水溶液は、酸化皮膜中のFe、Cr、Ni量を電解により調整可能であれば、電解質水溶液に含まれる電解質の種類や濃度は特に限定されない。そのような電解質として例えば、NaSOを用いることができる。NaSOを電解質として用いた場合の濃度は、例えば、0.05〜1.0モル/Lがよい。電解質水溶液のpHは、酸性側になると酸化皮膜中でFeが濃縮せずにCrが過剰に濃縮し、一方、アルカリ性側になると酸化皮膜中にCrが濃縮しない。このため電解質水溶液のpHは6.0〜8.0とする必要がある。電解質水溶液のpHの好ましい範囲は6.2〜7.8、更に好ましい範囲は6.5〜7.5である。pHの調製は、硫酸または水酸化ナトリウムを用いるとよい。電解中は、pHを6.0〜8.0の範囲に維持することが好ましい。この範囲内であれば、電解中においてpHが変動してもよい。
前述の通り、電解処理は電解工程1、電解工程2の2段階で実施される。以下で各電解工程の条件について述べる。
(電解工程1)
電解工程1は酸化皮膜中にFe、Niをともに濃縮させる工程である。ステンレス鋼の表面に大気中や水中で形成される一般的な酸化皮膜はCrを主体とし、残りはFeで構成され、Niは殆ど含有されない。本発明の製造方法では酸化皮膜中にFe、Niをともに濃縮させるため、Crが溶解する電位域で電解処理を行う。このため電解工程1では0.55〜0.65V vs SHEで定電位電解する必要がある。電解電位の好ましい範囲は0.58〜0.62V vs SHE、より好ましい範囲は0.59〜0.61V vs SHEである。電解工程1中は、電位を一定に保つことが好ましい。
処理時間が60.0minを超えると過度にCrが低下して酸化皮膜の耐食性が劣化する。また、処理時間が過剰に長いと酸化皮膜の厚みが増大するおそれがある。また処理時間が10.0min未満になると酸化皮膜中にFe、Niが濃化せず、ステンレス鋼の自然電位の上昇速度が高くなって耐食性が向上しない。このため、酸化皮膜中にFe、Niをともに濃縮させるためには、前述の条件で10.0〜60.0minの範囲の時間で電解する必要がある。処理時間の好ましい範囲は20.0〜50.0min、更に好ましい範囲は25.0〜40.0minである。
電解工程1の処理温度は規定しないが、好ましい範囲は15.0〜90.0℃、より好ましい範囲は25.0〜60.0℃である。
(電解工程2)
電解工程2は電解工程1で形成された酸化皮膜中のCr比率を低下させる工程である。なお、電解工程1を実施せず電解工程2のみを実施した場合、酸化皮膜中のCr比率を低下させることは出来るが、Feのみが濃縮してNiが濃縮しないため、ステンレス鋼の自然電位の上昇速度が高くなり、十分な耐食性が発揮されない。電解工程2では、電解工程1によって形成されてFe、Niがともに濃縮された状態の酸化皮膜のCr比率を低下させる。Fe、Niは酸化物の状態で酸化皮膜中に安定して存在しているため、電解工程1より更に溶解しやすい条件である電解工程2を行うことで、Crを優先的に溶解させる。このため電解工程2では、0.75〜0.85V vs SHEの電解電位で定電位電解する必要がある。電解電位の好ましい範囲は0.78〜0.82V vs SHE、より好ましい範囲は0.79〜0.81V vs SHEである。電解工程2中は、電位を一定に保つことが好ましい。
処理時間が5.0minを超えると、過度に酸化皮膜中のCr比率が低下して酸化皮膜の耐食性が劣化する。また処理時間が1.0min未満になると、酸化皮膜中のCr比率が十分に低下せず、ステンレス鋼の自然電位の上昇速度が高くなったままとなり、耐食性が向上しない。このため、酸化皮膜中のCr比率を低下させるために、前述の条件で1.0〜5.0minの範囲の時間で電解する必要がある。処理時間の好ましい範囲は1.5〜4.0min、更に好ましい範囲は2.0〜3.5minである。
電解工程2の処理温度は規定しないが、好ましい範囲は15.0〜90.0℃、より好ましい範囲は25.0〜60.0℃である。
以上により、上記の要件(1)及び(2)を満たす酸化皮膜が形成される。
本実施形態のステンレス鋼によれば、Cr、Ni、Mo等の合金元素を多量に含有することなく、ステンレス鋼の自然電位が高い環境でも優れた耐食性を発揮できる。
以下に、本発明の効果を確認するため、以下の実施例を行った。なお、本実施例は本発明の一実施例を示すものであり、本発明は、以下の構成に限定されない。本発明は、本発明の要件を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
なお、表中の下線は本実施形態の範囲から外れているものを示す。
表1A及び表1Bに示す化学成分を有するステンレス鋼を真空誘導溶解炉にて溶製し、鋳造した。その後、1200℃に均熱し、次いで熱間鍛造した。厚さ6mmまで熱間圧延し、焼鈍・酸洗を施した。その後、厚さ1mmまで冷間圧延し、更に焼鈍・酸洗、電解処理を施した。以上によりステンレス鋼板を製造した。
電解処理は、以下の条件で行った。
まず、以下の電解質水溶液を用意した。
電解質水溶液はNaSOを溶質とし、0.1mol/L NaSO水溶液を調整した。電解質水溶液のpHはHSOとNaOHを用いて、pH5.5、6.0、7.0、8.0、8.5に調整した。電解中のpHは一定に保つようにした。
電解質水溶液の温度は50.0±5.0℃とした。
電解は以下の条件で実施した。詳細を表1C及び表1Dに示す。
(電解工程1)
電解電位は、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70V vs SHEとした。電解時間は、8.0、10.0、30.0、60.0、65.0minとした。電解工程1中は、電位を一定に保った。
(電解工程2)
電解電位は、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90V vs SHEとした。電解時間は、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、5.0、6.0minとした。電解工程2中は、電位を一定に保った。
電解処理後のステンレス鋼板の分析を以下の方法により行った。
電解処理後のステンレス鋼鈑を、鋼板表面に加工および化学処理を施さずに、分析装置に入る形状に切断した。次いで、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)にて酸化皮膜及び母材を分析した。最表面にArをスパッタしながら深さ方向(厚さ方向)の元素の濃度プロファイルを測定した。最表面とは、スパッタリングを行っていない酸化皮膜の表面のことである。酸化皮膜の厚さは、最表面からO(酸素)がピーク値の半値になる位置までの距離とした。また、スパッタリングしない再表層におけるFe、Cr、Niのカチオン分率から、各元素の比率を求めた。各元素の比率は原子%の比率である。
ステンレス鋼の自然電位上昇速度の測定は以下の方法により行った。
ステンレス鋼を浸漬する水溶液は0.1mol/L NaSO水溶液とし、pHをHSO、NaOHにより7.0に調整した。電解質の種類、濃度は特に問わないが、塩化物イオン濃度が高いと電位上昇中に腐食が発生するため、水溶液中の塩化物イオン濃度は低いことが望ましい。水溶液にステンレス鋼を浸漬する前に湿式#600研磨して酸化皮膜を除去した。この研磨は浸漬前60min以内に行った。水溶液にオゾンガスをバブリングさせ、溶存オゾン濃度1.0mg/Lとなるように制御した。溶存オゾン濃度1.0mg/Lの水溶液中で浸漬したステンレス鋼の自然電位を参照電極により測定し、0.50V vs SHEにおける自然電位上昇速度を求めた。測定ではステンレス鋼を作用極とし、参照電極を参照極とした。また、自然電位上昇速度の測定の始点は0.45Vとし、終点は0.55Vとし、始点から終点までの間の電位の平均変化速度を自然電位上昇速度とした。
腐食試験:腐食試験は、電解処理後のステンレス鋼の耐孔食性を評価するために行った。
電解処理後の試験片の表面に3.5%NaClの液滴100μLを12か所付着させた。液滴を付着させた試験片を液滴が流れ落ちないように水平に容積5.0Lの試験槽に設置し、試験槽に蓋をしてオゾン濃度1.0g/Nmのガスを1.0L/minの速度で常時流入させた。試験槽内の温度は30.0℃、湿度は90%RHで、試験期間は48hとした。試験後に試験片を試験槽から取り出し、12か所の液滴の内で腐食が生じた液滴の数を孔食発生数とした。この孔食発生数が5個以上だと耐食性が不十分と評価した。このため孔食発生数が5個未満を合格とした。
酸化皮膜の分析、自然電位上昇速度測定、および腐食試験の結果を表1C〜表1F及び図1に示す。図1は、横軸を自然電位上昇速度とし、縦軸を孔食発生数とし、自然電位上昇速度と孔食発生数の関係を示すグラフである。
本発明例はいずれも、自然電位上昇速度が1.0〜10.0mV/minであり、酸化皮膜のFe分率が0.40以上、Cr分率が0.15〜0.30、Ni分率が0.05〜0.40であり、孔食発生数が5未満と良好な耐食性を示した。
一方、比較例No.1、2では、Niが1.00%未満であり、電解処理後に酸化皮膜にNiが濃化しなかったため、Fe比率が高く酸化皮膜の保護性が低下し、耐食性が不十分になった。
比較例No.3、4では、Niが30.00%を超えており、電解処理後の酸化皮膜に過剰にNiが濃化したため、酸化皮膜中のFe分率が低くなり自然電位上昇速度が上昇して10.0mV/minを越え、耐食性が不十分になった。
比較例No.5、6では、Crが15.0%未満であり、電解処理後に酸化皮膜にCrが濃化しなかったため、酸化皮膜自体の耐食性が低下し、耐食性が不十分になった。
比較例No.7、8では、Crが30.00%を超えており、電解処理後の酸化皮膜に過剰にCrが濃化したため、自然電位上昇速度が10.0mV/minを超えてしまい、耐食性が不十分であった。
比較例No.9では、電解液のpHが6.0未満であり、電解処理後の酸化皮膜にCrが過剰に濃化したため、自然電位上昇速度が10.0mV/minを超えてしまい、耐食性が不十分であった。
比較例No.10では、電解液のpHが8.0を超えており、電解処理後の酸化皮膜にCrが濃化しなかったため、酸化皮膜自体の耐食性が低下し、耐食性が不十分であった。
比較例No.11では、電解工程1の電位E1が0.55V vs SHE未満であったため、電解処理後の酸化皮膜にFe、Niがともに濃化しなかった。このため、耐食性が不十分になった。
比較例No.12では、電解工程1の電位E1が0.65V vs SHEを超えており、電解処理後の酸化皮膜に過剰にFe、Niがともに濃化したことで酸化皮膜のCr分率が低下し、酸化皮膜自体の耐食性が低下し、耐食性が不十分になった。
比較例No.13では、電解工程1の時間t1が10.0min未満であり、電解処理後の酸化皮膜にFe、Niがともに濃化しなかったため、耐食性が不十分になった。
比較例No.14では、電解工程1の電位t1が60.0minを超えており、電解処理後の酸化皮膜の厚さが100.0nmを超えたため、耐食性が不十分であった。
比較例No.15では、電解工程2の電位E2が0.75V vs SHE未満であるため、電解処理後の酸化皮膜のCr分率が高くなり、自然電位上昇速度が10.0mV/minを超えたため耐食性が不十分であった。
比較例No.16では、電解工程2の電位E2が0.85V vs SHEを超えており、電解処理後の酸化皮膜のCr分率が低なり、酸化皮膜の耐食性が低下し、耐食性が不十分であった。
比較例No.17では、電解工程2の時間t2が1.0min未満であり、電解処理後の酸化皮膜のCr分率が高くなり、自然電位上昇速度が10.0mV/minを超えたため耐食性が不十分であった。
比較例No.18では、電解工程2の電位t2が5.0minを超えており、電解処理後の酸化皮膜のCr分率が低くなり、酸化皮膜の耐食性が低下し、耐食性が不十分であった。
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本実施形態のステンレス鋼は、塩化物イオンを含む環境、特に生物の生体反応に起因するものも含む過酸化水素やオゾン等の酸化剤が含まれる環境において優れた耐食性を有する。このため、本実施形態のステンレス鋼は、微生物が存在する海洋環境の構造体、過酸化水素のタンク、過酸化水素を用いる水処理設備のタンク、配管、フランジ、オゾンを用いえる水処理設備のタンク、配管、フランジの材料として適用可能である。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C:0.1%以下、
    Si:0.01〜5.0%、
    Mn:0.01〜8.0%、
    P:0.1%以下、
    S:0.05%以下、
    Ni:1.0〜30.0%、
    Cr:15.00〜30.00%、
    Mo:0.01〜8.0%、
    Cu:0.01〜5.0%
    を含有し、残部はFeおよび不純物であり、
    鋼表面に酸化皮膜を有し、
    前記酸化皮膜中のFe、Cr、Niの分率が、原子比で、Fe、Cr、Niの総量に対してFe:0.40以上、Cr:0.15〜0.30、Ni:0.05〜0.40であり、
    前記酸化皮膜の厚さが25nm以下であることを特徴とする耐食性に優れたステンレス鋼。
  2. Ni及びCrの含有量がそれぞれ、質量%で、
    Ni:1.0〜10.0%、
    Cr:20.0〜30.0%、
    であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性に優れたステンレス鋼。
  3. 更に、以下の群より選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐食性に優れたステンレス鋼。
    第1群:質量%で、N:0.05〜0.8%。
    第2群:質量%で、Al:1.0%以下、Ti:0.01〜0.40%、Nb:0.01〜0.40%、V:0.01〜0.50%、W:0.01〜1.0%、Ta:0.001〜0.10%、Sn:0.001〜0.50%、Sb:0.001〜0.50%、及びGa:0.001〜0.50%から選択される1種以上。
    第3群:質量%で、B:0.0002〜0.0050%、Ca:0.0002〜0.0050%、Mg:0.0002〜0.0050%、及びREM:0.001〜0.10%から選択される1種以上。
  4. 海洋構造体、または、次亜塩素酸若しくはオゾンを用いた浄水場設備に用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項の何れか一項に記載の耐食性に優れたステンレス鋼。
  5. 請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の化学成分を有する酸洗後のステンレス鋼に対して、
    pH6.0〜8.0の電解質水溶液中において、0.55〜0.65V vs SHEで10.0〜60.0min定電位電解する第1電解工程と、0.75〜0.85V vsSHEで1.0〜5.0min定電位電解する第2電解工程とを順次行うことを特徴とする耐食性に優れたステンレス鋼の製造方法。
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