JP2020045511A - 刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼 - Google Patents

刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】切れ味を従来鋼に比較してより長く持続できる刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼を提供すること【解決手段】質量%で、C:0.50〜1.20%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、P:0.008%以下、S:0.010%以下、Cr:13.00〜18.00%と、Ni:0.01〜1.20%、Mo:0.01〜1.20%、V:0.01〜1.20%の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼。【選択図】図4

Description

本発明は、使用者が研ぎ直しながら使用する刃物に用いられるマルテンサイト系ステンレス鋼であって、特に包丁やナイフ等の刃物に用いた場合に、一度研ぎ直しをすれば、その後、従来の刃物用鋼よりも切れ味を長期に持続することを可能にする刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼に関する。
例えば、水を用いる環境で使用され、使用者が研ぎ直しを繰り返しながら使用する刃物を考えた場合、調理に用いる包丁や農業用のハサミ、漁業用のナイフ、食品工場で用いられるカッター等、多数挙げることができる。
このうち、剃刀やカッターナイフ等の刃が小さい刃物は、繰り返しの切断行為により刃先が摩耗したり、発錆等により変形し、切れ味が低下した場合には、切れ味が低下した部分の刃を廃棄し、新しいものを用いても大きな不経済とはならないが、包丁等の刃物は刃が大きいため、切れ味が低下する毎に廃棄することは、極めて不経済である。そのため、包丁等の比較的大きい刃物では、切れ味が低下した場合でも、砥ぎ直しにより、再度、鋭利なクサビ形状の刃先を得て、切れ味を回復させることが、経済性の観点から重要である。
しかしながら、砥ぎ直しは手間のかかる工程であり、時間を要することから、なるべくなら、切れ味が長く持続することで砥ぎに要する手間を減らしたり、容易に切れ味鋭く研げることができたりすることが、望ましい。
よって、水を用いる環境で使用され、使用者が研ぎ直しながら使用する包丁等の刃物は、一度研ぎ直しをすれば、優れた切れ味を容易に回復できると共に、切断する行為を繰り返した後においても切れ味の低下が少なく、良好な切れ味が長く持続することが求められる。さらには、切れ味の持続性の観点のみならず、水を用いる使用環境において、錆び難い耐食性を有していることが求められる。
上記の観点から、従来、包丁やナイフ等に用いられる刃物用ステンレス鋼においては、JISのステンレス鋼の中でも高い硬さが得られ、優れた耐摩耗性が得られるとともに、調理作業等の水を用いる環境で錆が発生しない耐食性を有しているSUS420J2やSUS440C等が一般的に用いられてきた。
すなわち、上記のJISに規定された刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼は、切れ味を維持するのに必要な耐摩耗性を得るのに十分な硬さが確保でき、かつ前記した刃物の使用環境において、発錆が生じない程度の優れた耐食性を十分に有しているため、砥ぎ直しを繰り返すことにより、発錆を発生することなく、問題のない切れ味を維持しつつ使用することができるからである。
また、JISの刃物用ステンレス鋼の性能をさらに改善しようとする試みも、行われており、例えば特許文献1、2に記載の鋼が提案されている。この2種類の提案に共通して言えることは、前記と同様に高い硬さを達成可能としつつ、必要な耐食性を確保可能とした点にある。
特許第3894373号 特表2018−521215号
前記の通り、従来のJISのステンレス鋼で用いられていたSUJ420J2等の刃物用ステンレス鋼は、切れ味維持のため、高い硬さを確保しつつ、水回りの使用の際に必要な耐食性を確保できる成分設計がされており、一度砥ぎ直しすれば、ある程度の期間使用を繰返すことができる性能を有していた。
また、前記したように、JIS鋼以外にも刃物として使用時における性能改善の試みがされ、特許文献1、2に記載の鋼が提案されているが、基本的に従来の刃物用ステンレス鋼の試みは、「切れ味」の代用特性として高い硬さを得ることを重視した検討がされているだけであり、1度研ぎ直した後の切れ味の変化に影響する硬さ以外の要因については、ほとんど検討がされていない。
例えば、特許文献1の発明は、粉末法による高C、高Cr鋼について、W,Moおよび特にVの添加量を適正値に規制することで達成した鋼に関するものであるが、刃物としての切れ味に関係する評価特性としては、硬さの値が示されているのみであり、切れ味の推移については、全く検討されていない。
また、特許文献2の発明は、窒素を添加することで炭素の添加量を抑えつつ、高い耐食性と被研磨性及び硬度をバランスさせたマルテンサイトステンレススチールに関する発明であり、被研磨性と、硬さ、耐食性に着目している発明であるが、特許文献1と同様に、研ぎ直した後の使用回数による切れ味変化の推移については、何らの検討結果も示されていない。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、一度研ぎ直した後において、従来のJIS鋼やJIS鋼以外で提案されている刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼と比較して、より長期間切れ味を大きく低下することなく維持することができる刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼を新規に提案可能とすることを目的とする。
本発明者等は、「硬さ」以外の条件と研ぎ直し後の切れ味変化推移との関係について、多数の条件について繰返し実験を繰返した結果、鋼中に不可避不純物として含有し、従来切れ味との関係について全く注目も検討もされてこなかったPの含有率と切れ味の変化について詳細にデータを収集した結果、従来全く知られていなかった新しい知見を得た。すなわち、鋼の製造上、Pは特別な低減対策を行わなければ、含有が避けられない不純物であり、通常0.020%程度含有している。Pは従来から不可避不純物として含有することは知られていたが、刃物の切れ味特性との関係は、全く関係がないと思われていた。しかし、本発明者等が、多数の条件で詳細にデータ収集を繰返した結果、Pを極力低減し0.008%以下まで低減した場合には、従来焼入処理によりマルテンサイト組織が得られることが知られているP以外の幅広い成分を含有する鋼において、研ぎ直し後の切れ味持続性を大きく改善することができることを新規に見出したものである。
ここで、本発明においては、Pを極力低減する必要があるが、Pは1度混入してしまうと、精錬で取り除くことが難しい成分であるので、製造時にその点を考慮した対応が必要である。
特に、電気炉溶解で従来から広く行われているスクラップを原料とし溶解し、スラグにより行う精錬方法では、Pは0.010%程度までの低減が限界であり、本発明であるPが0.008%以下の刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼を製造することは困難である。従って、別にP含有率が極めて低い原料を用いる必要がある。
具体的に言うと、原料鉄を電解することで製造される電解鉄を利用するのが良い。電解鉄のP含有率は、通常0.004%以下、極めて低いものは0.001%以下であり、この電解鉄を用いることにより、Pの含有率を0.008%以下に抑えることが可能になる。
例えば、真空誘導溶解炉を用いて製造するには、Pが0.010%以下である高炉で溶製された純鉄に、前記した電解鉄を混合し、さらにCr等の成分調整の際には、P含有率が低い合金鉄を用いるようにすることで、本発明鋼の製造が可能になる。
また、電気炉において製造する場合にも、P含有率が0.008%以下となるように、用いる原料中の電解鉄の混合割合を調整することで、溶製による製造を可能にすることができる。
なお、通常、刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れ焼戻しを行って必要な硬さ等の特性を得た上で刃物に用いられる。本発明鋼は、基本的にPを極力低減している点を除けば、他のC、Si、Mn等の基本成分は、従来鋼と特に差異はなく、従来の基本成分が同じマルテンサイト系ステンレス鋼と同様の熱処理を行うことにより、高い硬さと刃物の使用において問題のない耐食性を得ることができる。具体的には、950〜1150℃程度の温度で焼入れを行った後、100〜200℃程度の温度内で必要な硬さが得られる条件を選択し、焼戻し(空冷)を行うことにより、必要な特性を得ることができる。マルテンサイト系ステンレス鋼は用途によっては600℃以上の高温で焼戻しして使用される場合もあるが、本発明では刃物を用途とし、HRC40以上の高い硬さを得る必要があるので、前記した低温(180℃を推奨)で焼戻しする必要がある。
なお、焼入れ時の高温加熱によって、脱炭層が生じることがあるが、この脱炭層を焼戻し処理後、刃物への加工前に除去するのが好ましいという点については、従来の刃物製造時と全く同様である。
以上の検討の結果、成された本発明は、質量%で、C:0.50〜1.20%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、P:0.008%以下、S:0.010%以下、Cr:13.00〜18.00%と、Ni:0.10〜1.20%、Mo:0.10〜1.20%、V:0.10〜1.20%の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼である。
上記の刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼は、P以外の成分を刃物用として必要となる硬さと耐食性を確保するための所定の範囲に制限した上で、さらに鋼の製造上、少量の含有が避けられないPの含有率を通常の製造で含有する0.020〜0.030%程度に比較して、前記した電解鉄を用いる等、P含有率の低い原料を優先的に用いて製造することにより、意図的に低くしている。これにより、Pを通常量含有する鋼に比較して、砥ぎ直しした後に良好な切れ味を、従来の刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた刃物と比較して、長期間維持することができる。
切れ味試験の試験片形状を説明する図 切れ味試験中の荷重‐ストローク曲線の一例を示す図 実施例13の切れ味試験片の刃先先端の組織写真 図3をさらに拡大した組織写真 比較例19の切れ味試験片の刃先先端の組織写真 図5をさらに拡大した組織写真
以下に、本発明の刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼における化学成分組成の限定理由を説明する。
C:0.50〜1.20%
Cは、鋼に焼入れ性を付与する元素であり、焼入れ焼戻し処理により硬いマルテンサイト組織を得るために必須の元素である。また、炭化物を形成することで硬さを高める元素でもある。良好な切れ味を確保するには、従来知見の如く硬さは重要な要素であり、焼入れ焼戻し状態でHRC40以上の硬さが必要であることからC含有率の下限を0.50%とした。一方で、多量の添加はクロム炭化物の形成量が多くなり、鋼中の固溶クロム濃度が低下することで、耐食性を損ない錆び易くなることから、上限を1.20%とした。
Si:0.10〜1.00%
Siは、脱酸剤として有効な元素であるとともに、鋼中に固溶し、焼戻し軟化抵抗性を高め、鋼の硬さを高める元素であり、少量の添加が必要であるので、その下限を0.10%とした。しかしながら、Siは、強力なフェライト安定化元素であるため、含有率が高くなると、焼入れ直前の状態において、オーステナイト組織にフェライト組織が混ざるようになり、前記した効果とは逆に、焼入れ後の硬さひいては、焼入れ焼戻し後の硬さが低下し、切れ味低下の原因となるおそれがあるため、その上限を1.00%とした。
Mn:0.10〜1.00%
Mnは、焼入れ性を向上させるとともに、脱酸剤として有効な元素であるため、そのために少量の含有が必要であり、含有率の下限を0.10%とした。一方で、多量に添加すると溶解作業中に酸化し、ヒュームを多く発生させるため生産性を阻害する。また、Sと結合し水や酸に溶け易いMnSを形成することで、錆びを助長し耐食性を損なう元素でもあるため、上限を1.00%とした。
P:0.008%以下
Pは、本発明のポイントとなる元素である。Pは、一度含有してしまうと、取り除くことが難しい元素であり、鋼の製造では、少量の含有が避けられない不可避不純物として知られている。Pは、通常の鋼では、0.020%程度含有しているが、従来の多くの鋼種開発においては、得られる特性に大きな影響はないと考えられ、特に注目されておらず、今回開発した刃物用ステンレス鋼における切れ味持続性についても同様であった。そんな中で、本発明者等は、切れ味持続性の改善に関し、あえて不純物元素であるPの影響に注目し、複数条件で実験を繰返した結果、Pを極力低減すると、切れ味持続性が大きく改善することを見出し、本発明の完成に到ったものである。
具体的に説明すると、本発明者等は、切れ味とは切断時の抗力の低さであることに着目し、切れ味試験機を作製し、切断時の荷重‐ストローク曲線を測定して、荷重と鋼材成分、特にPを含めた不純物成分との関係を調査した結果、Pの含有率を極めて低く抑えることで、刃付け加工後の初回切断時の最大荷重を抑え、かつ、初回切断時の最大荷重よりも、繰り返し切断した後の切断の最大荷重が低くなる現象が生じることを見出したものである。
その詳細なメカニズムは解明に至っていないが、Pの極力低減を図り、切れ味の改善を確認できた鋼について、走査型電子顕微鏡を用いた刃先の観察や後方散乱電子回折(EBSD)分析を行ったところ、砥ぎにより刃先を形成する際にバリや表面欠けの抑制された良好なクサビ形状の断面を得やすくなっていることを確認した。さらに、詳細は後述するが、刃付けを行うための湿式研削時において、刃先の最先端領域における組織変化について調査を行ったところ、Pを極力低減した鋼では、Pを通常量含む鋼に比べると、マルテンサイト組織中にフェライト組織が生じ難くなっていることを確認することができた。従って、P含有率低減による研ぎ直し性改善効果と、刃先のマルテンサイト組織の安定性向上効果が、切れ味持続性改善効果につながったものと推定される。
以上説明した通り、刃物の切れ味持続性を改善するために、Pの含有率を低く抑えることは、非常に重要であり、かつ低減するほど性能が改善するので、上限を0.008%とした。より望ましくは、上限を0.006%とするのがよい。
S:0.010%以下
Sは、鋼中のMnと結合し、介在物であるMnSを形成する元素である。MnSは水や食品に含まれる酸に溶け易く、刃物として使用時の耐食性を低下させ、錆が発生しやすくなる原因となる。そこで、本発明ではその含有率の上限を0.010%とした。
Cr:13.00〜18.00%
Crは、ステンレス鋼にとって、耐食性を確保するための基本元素であり、所定量のCrを含有させることにより、表面にnmオーダーの不働態皮膜を形成し、必要な耐食性を確保することができる。また、炭素と結合し炭化物となることで、硬さを高める効果も有する。そのため、その含有率を13.00%以上とした。一方で、多量に添加しすぎると、フェライトを形成しやすくなり、焼入れ焼戻し状態の硬さが低下するおそれがあるため、その上限を18.00%とした。
以上説明した必須元素以外にNi、Mo、Vについては、以下に示す理由で、1種又は2種以上を含有させることで、さらに性能の向上を図ることができる。以下、それぞれの元素の成分範囲限定理由について、説明する。
Ni:0.01〜1.20%
Niは、焼入れ性を高める効果のある元素であり、その効果を得るのに0.01%以上の含有が必要である。その一方で、ニッケル溶出が生じた際に、金属アレルギーを引き起こしやすい元素として知られている。刃物は使用者における使用の環境が定義し難いことから、溶出抑制に配慮する必要があるので、そのために含有率の上限を厳しく規制する必要があり、上限を、1.20%とした。
Mo:0.01〜1.20%
Moは、炭化物形成元素であり、炭化物を形成し、焼入れ焼戻し後の硬さ向上に寄与する元素である。前記効果を得るには、0.01%以上の含有が必要である。また、Moは、耐食性を改善する効果も有する。任意添加元素であるため、特に下限は限定しないが、前記効果を確実に得るには、0.10%以上の含有が望ましい。しかしながら、強力なフェライト形成元素でもあり、フェライトが形成した場合、前記効果とは逆に硬さが低下するおそれがあるため、その上限を1.20%とした。
V:0.01〜1.50%
Vは、Moと同様に炭化物形成元素であり、同様に焼入れ焼戻し後の硬さ向上に寄与する元素である。任意添加元素であるため、特に下限は限定しないが、前記効果を確実に得るには、0.10%以上の含有が望ましい。しかしながら、添加量を多くすると、形成する炭化物が大きくなり、その影響で前記の硬さ向上効果が薄れるため、その上限を1.50%とした。
以上説明した本発明である刃物用ステンレス鋼により得られる効果を明らかにするための実施例について、以下に説明する。
(供試材の準備)
後述の試験を行うため、表1に示す成分を有する供試材を準備した。このうち、A〜H鋼が、本発明の成分の条件を満足する鋼であり、I〜M鋼は、JIS鋼ではないが、従来刃物用として開発され、用いられていたマルテンサイト系ステンレス鋼であり、N、O鋼は、従来鋼であるJISのSUS440A、SUS440Cである。なお、表1中で−と記載したのは、未添加で不純物としての含有であることを意味する。
まず溶製により、表1に示す化学成分に調整された鋼塊を得た。この溶製の際に、本発明鋼であるA〜H鋼については、前記の通り原料としてP含有率の低い電解鉄を用い、真空誘導溶解炉を用いて製造した。他の鋼種については、既に量産されている鋼から鋼塊を入手した。
次に、得られた鋼塊に熱間加工を施し、厚さ約22mmの鋼材板を得た。さらに、焼きなまし状態の鋼材板より、機械加工によりおよそ30mm×40mm×5mmの小片を得て、後述の表2に示す熱処理温度で焼入れ焼戻し処理を施した。その後、研削盤を用いて、いずれの試験片も同様に湿式研削加工を施し、この小片の脱炭層を除去すると共に、図1に示す形状の刃物形状の試験片を得た。試験片は、中性洗剤で水洗い後、アセトン中にて超音波洗浄を施し、自然乾燥してから試験に用いた。
(切れ味試験)
前記の刃物形状の試験片を用い、以下の方法により、切れ味試験を行った。
切れ味試験は、日本計測システム(株)製の自動縦型サーボスタンドJSV−H1000にハンディデジタルフォースゲージHF−10を組みあわせた圧縮試験機を用いて行った。被切断物としては、付箋の束を用いた。試験機のステージに固定した付箋に、ストローク速度0.5mm/秒で試験片を押し込むことで、付箋の束を切断し、その際のストロークに対する荷重変化を測定することにより、切れ味を評価した。図2に測定した荷重−ストローク曲線の例を示す。図2の例から明らかなように、荷重−ストローク曲線をみると、ある程度押し込んだ時点で荷重がピークとなり、その後荷重が若干低下しつつ前記ピーク荷重を超えない荷重で上下するという曲線を示すことがわかる。そこで、ピーク荷重が確認できる直前と直後に試験を途中で止めて、被切断物である付箋の束を確認した結果、ピーク荷重が付箋の1枚目の切断が始まる荷重に対応していることを確認した。すなわち、このピーク荷重が低いほど、付箋が低い荷重で切れ始めることを意味し、切断時の抗力が低く、切れ味に優れていると評価できる。
また、試験片を試験機に組み付けたままで、切断毎に付箋を新品に取り替え、40回の繰り返し切断を行ない、1回目とピーク荷重の値を比較することで、切れ味の持続性を定量評価することとした。
なお、包丁等の刃物で付箋の束を切断することは現実の用途として考え難いにもかかわらず、今回の切れ味試験における被切断物に付箋を用いた理由について、以下に説明する。まず付箋は、被切断物として見た場合に、野菜等と比較して硬いため、刃の塑性変形が起こりやすく、少ない切断回数で効率よく試験評価可能な加速試験となる。また、水分や油分を含まないため潤滑効果が無いことからも、包丁等の実際の用例と比較して加速側の試験となる。さらに、薄い紙の束であるため、切られた1枚1枚の各紙は刃に押されて横に移動することができ、切られた被切断物が、試験片である刃を挟み込んで拘束することがないため、切り進みやすい。よって、刃先に刃を被切断物に押し込む荷重が集中し、刃先を酷使して評価することができる。以上の点が付箋を被切断物に用いた理由である。尚、付箋は潤滑効果の影響を避けるため、試験に使用する前に十分に乾燥させてから用いている。
また、繰り返しの切断回数として40回を選択した理由について説明する。まず、前記したように、包丁等が実際に用いられる状況と比較して加速試験となる付箋を被切断物として試験しているため、40回の切断でも刃先にとっては十分に大きな負担であることが挙げられる。また、切れ味は切断荷重が低い方が優れていると判断できるが、複数の試験片を使って40回をはるかに超える切断試験を行って、ピーク荷重の推移を確認したところ、1回目の切断から20回目の切断までは、切断荷重の大小で評価した試験片の序列が変化するものの、20回目の切断以降は、ピーク荷重の大小で評価した試験片の順序が逆転することがなく、40回までの切断によるピーク荷重の測定を行えば、十分に切れ味持続性の評価が可能であることを確認したことが理由である。そこで、切れ味持続性の評価については、1回目の切断時のピーク荷重と40回目の切断時のピーク荷重の比較を行うことにより評価することとした。具体的には、40回目の切断時のピーク荷重を1回目の切断時のピーク荷重で除した値を求め、1.00以下の場合を合格とし、○で表示し、そうでない場合を不合格とし、×で表示した。
しかし、切れ味が持続しても、得られる切れ味のレベルが低い場合には、優れた刃物とはいえない。そこで、切れ味試験の結果、1回目と40回目の両方について、切断ピーク荷重が210N以下であったものを合格とし、後述の表2に○で表示し、不合格のものを×で示した。
(耐食性の評価)
水回りに用いられることの多い刃物は、前記した通り、切れ味だけでなく使用中に錆が発生しないレベルの耐食性を有していることが必要である。そこで、切れ味試験に用いた試験片を用いて塩水噴霧試験を行い、耐食性の指標として腐食減量を評価した。塩水噴霧試験は、スガ試験機(株)製の複合サイクル試験機を用い、試験片に1%NaCl水溶液を35℃で120時間噴霧した後、試験片を取り出し、腐食減量を測定するという方法により行った。具体的には、前記の通り塩水噴霧を行なった後、試験片の腐食生成物を除去するため、「75℃のクエン酸水素二アンモニウムに30分間漬けた後アクリルブラシで30秒間ブラシがけし質量を測定する」工程を、質量減少が無くなるまで繰り返し行い、腐食前と腐食生成物除去後の質量から腐食減量を測定した。そして、腐食減量が0.02mg/mm2以下のものを合格とし○で表示し、そうでない試験片を×で示した。なお、本発明自体は、Pの極力低減による切れ味持続性の改善が目的であり、耐食性については、従来鋼に対し同等以上の性能であれば良く、特に改善することを目的としているわけではない。従って、P含有率の変更に伴い耐食性への悪影響がないことのみ確認できれば、目的は達成できるので、評価は、本発明鋼のみについて実施した。
その他、必要な硬さが得られているかの確認のため、硬度測定を行った。試験結果を表2に示す。
表2の結果から明らかなように、本発明の実施例である発明鋼A〜H鋼は、各種熱処理条件全てにおいて、切断時のピーク荷重が全て基準値より低い良好な結果(1回目:112〜209N)を示しているとともに、切断回数を繰返すことにより切れ味が悪くなって切断荷重が増加するのではなく、逆に低下し、全ての試験片について、40回目切断時のピーク荷重は、1回目切断時のピーク荷重より低い値(40回目:105〜175N、1回目ピーク荷重に対する比率:0.80〜0.96)を示していた。また、耐食性も刃物として問題のない良好な結果を示した。A〜H鋼は、P以外の成分であるC、Si、Mn、Cr、Mo等の含有率を鋼種により変更しているが、その変更に関係なく、Pを極力低減した本発明鋼A〜H鋼は、優れた切れ味持続性と問題のない耐食性を示すことが確認できた。従って、この結果より、Pの低減による効果は、P以外の成分を幅広く変化させた場合にも、同様に得られることが確認できた。
これに対し、Pを極力低減しておらず、通常レベルで含有する比較鋼、従来鋼を用いて準備した切れ味試験片を用いて行った結果をみると、切断時のピーク荷重では、一部の試験片で、基準以下の優れた値を示す場合がみられたものの、全ての試験片で40回目切断時のピーク荷重が1回目切断時のピーク荷重を上回る結果(40回目ピーク荷重の1回目ピーク荷重に対する比率:1.05〜1.51)となった。このことは、Pを極力低減するか、通常レベルで含有するかの違いによって、切れ味持続性に大きな違いが生じることを意味するものである。
このように切れ味持続性で大きな違いが生じている理由は、定かではないが、何らかの手がかりをつきとめるため、刃先のEBSD観察を行ったところ、以下の知見を得た。すなわち、Pを通常レベルで含有する鋼は、刃先を研ぐための湿式研削加工により刃先の厚みが極めて薄くなる稜線近傍数10μmの領域で、研削中に刃先が変形して研削模様が他の領域と異なる様相になり、刃先の稜線がぎざぎざとなり、幅が広くなる傾向がみられた。これに対し、Pを極力低減した鋼は、湿式研削加工により滑らかな肌が得られており、研削模様は刃の稜線まで一定であり、直線的な刃の稜線が得られ、稜線の幅が狭くなる傾向が認められた。稜線の幅が狭いため、切断時に被切断物(今回の試験では付箋を使用)に対して局所的な応力集中を生み出し、切れ味が向上したと考えられる。
また、Pの含有率の違いにより、刃先の組織に変化が生じていないかを調査したところ、図3〜6に示す注目する結果が得られた。このうち、図3、4は、本発明である実施例13の刃先先端の写真であり、図5、6は、比較例19の刃先先端の写真である。写真は、最先端部分に限定した高倍率の写真(図4、6)と、少し範囲を広く撮影した低倍率の写真(図3、5)の2種類を示す。今回試験評価した鋼は、全てマルテンサイト系ステンレス鋼であり、基本的には焼入れ処理によりマルテンサイト組織が得られるはずであり、図3、5の低倍率の方の写真から明らかなように、刃先の最先端以外の部分については、マルテンサイト組織からなることが確認できた。しかし、刃先の最先端部分に限定すると、Pを極力含有した実施例13については、図4に示すように、軟質なフェライト組織が全く認められなかったにもかかわらず、Pを通常量含有する比較例19の試験片の刃先先端には、図6に示すように、軟質なフェライト組織が存在していることが認められた。刃先先端は、先端以外の部分に比べ研削加工時に温度が大きく上昇していることが予測され、その熱影響がP含有率の違いによって、組織変化として現れ、切れ味に影響が生じている可能性が考えられる。なお、図3〜6には、一部の試験片についてしか記載していないが、他の試験片についても同様の組織が確認できたことを付言しておく。

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.50〜1.20%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%、P:0.008%以下、S:0.010%以下、Cr:13.00〜18.00%と、Ni:0.01〜1.20%、Mo:0.01〜1.20%、V:0.01〜1.20%の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼。
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