JP2008231517A - 刃物用ステンレス鋼材およびその製造法 - Google Patents
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Abstract
【課題】腐食環境下での切れ味持続性を顕著に改善した比較的低廉な刃物用素材を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:10〜16%、さらに必要に応じてTi、Nb、V、WおよびMoの1種以上:合計1%以下、残部Feおよび不可避的不純物の組成を有し、マトリクスがマルテンサイト相であり、炭化物の析出量が2質量%以下であり、硬さが450HV以上である焼戻し処理された刃物用ステンレス鋼材。この鋼材は、1000〜1150℃で保持したのち急冷する焼入れ処理を施し、その後、200〜240℃で保持する焼戻し処理を施すことにより製造される。
【選択図】なし
【解決手段】質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:10〜16%、さらに必要に応じてTi、Nb、V、WおよびMoの1種以上:合計1%以下、残部Feおよび不可避的不純物の組成を有し、マトリクスがマルテンサイト相であり、炭化物の析出量が2質量%以下であり、硬さが450HV以上である焼戻し処理された刃物用ステンレス鋼材。この鋼材は、1000〜1150℃で保持したのち急冷する焼入れ処理を施し、その後、200〜240℃で保持する焼戻し処理を施すことにより製造される。
【選択図】なし
Description
本発明は、包丁、ナイフ、はさみ、機械刃物等として刃付けを施して使用される刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼材およびその製造法に関する。
従来より、上記のような用途の刃物素材にはC含有量が高いSUS440系をはじめとする高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼が使用されている。一般に、刃物の切れ味は硬さが高いほど優れるとされる。特許文献1には、刃物の耐食性と切れ味持続性に優れた材料として、C含有量を0.7%以上確保し、炭化物粒径を5μm以下にすることで切れ味持続性を付与し、Moを1%以上添加することで耐食性を改善した刃物用マルテンサイト系ステンレス鋼が記載されている。
一方、特許文献2には、Ti、Nb、Zr、V、Wの炭化物の総析出量を0.1質量%以上に調整することによってアブレッシブな摩耗(材料相互の接触面に存在する硬質な粒子により摺動過程で擦過・研削される摩耗)に対する抵抗力を高めたマルテンサイト系ステンレス鋼が記載されている。この析出状態を得る手段として1100℃に15分間加熱保持した後、室温まで空冷する熱処理により仕上げる例が示されている。特許文献3には、焼入れ後に400℃以下の温度で焼戻すことにより靭性を確保したドア部品用マルテンサイト系ステンレス鋼が記載されており、焼戻し温度を250℃とした例が示されている。特許文献4には、焼入れ後に500℃以下の温度で焼戻すことにより450HV以上の硬さとしたダイシングソーテープフレーム用マルテンサイト系ステンレス鋼が記載されており、焼戻し温度を300℃とした例が示されている。
素材にステンレス鋼が適用されるような用途の刃物には、従来から、切れ味が良好であることに加え、耐食性が良好であることが要求されている。しかし、昨今ではさらに優れた耐食性レベルが求められるようになっており、特に腐食環境で使用されたときの切れ味持続性についても重要視されるようになってきた。
従来一般的なSUS440系の鋼は耐食性についての高い要求に対応し得るものではない。特許文献1の鋼はC含有量が高く、腐食環境下での切れ味持続性については昨今の厳しい要求に対応できない。また1%以上のMo含有を必須としており鋼材コストが高くなる。特許文献2に開示の炭化物析出状態は焼入れ時の空冷によって得られるものであり、焼戻し処理によって得られる金属組織とは異質のものである。析出量が規定されている炭化物はCr炭化物以外の種類であり、腐食環境下での切れ味持続性については配慮されていない。特許文献3、4に開示の鋼材は比較的低温で焼戻しが行われているが、本発明者らの調査によると、これらの鋼材の耐食性レベルは必ずしも十分ではなく、特に腐食環境下での切れ味持続性については更なる向上が望まれる。
これまで、刃物用素材の開発に際して、腐食環境で使用された場合の切れ味持続性については特に考慮されてこなかった。本発明は、比較的低廉な鋼組成において、腐食環境下での切れ味持続性を顕著に改善した刃物用素材を提供することを目的とする。なお、本明細書でいう「腐食環境」は、JIS G4305に規定されるSUS440Aの焼入れ・焼戻し材に錆が発生する環境である。
上記目的は、質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:10〜16%、さらに必要に応じてTi、Nb、V、WおよびMoの1種以上:合計1%以下、残部Feおよび不可避的不純物の組成を有し、マトリクスがマルテンサイト相であり、炭化物の析出量が2質量%以下であり、硬さが450HV以上である焼戻し処理された刃物用ステンレス鋼材によって達成される。
また、前記刃物用ステンレス鋼材の製造法として、上記の組成を有する焼鈍された鋼材に対し、1000〜1150℃で保持したのち急冷する焼入れ処理を施し、その後、200〜240℃で保持する焼戻し処理を施す製造法が提供される。
本発明によれば、腐食環境で使用した際の切れ味持続性を顕著に改善した刃物用鋼材が提供された。この鋼材は比較的低廉な鋼組成を有しており、包丁、ナイフ、はさみ、機械刃物等の素材としてコストパフォーマンスが極めて高い。
発明者らは詳細な研究の結果、以下の(i)(ii)の組み合わせによってマルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性レベルを大幅に引き上げることが可能になることを見出した。
(i)C含有量が0.05〜0.5質量%と比較的低いマルテンサイト系ステンレス鋼を用いること。
(ii)焼入れ処理時にはできるだけ炭化物が析出しないように急冷を行い、かつ焼戻し処理を200〜240℃という低温で行うこと。
(i)C含有量が0.05〜0.5質量%と比較的低いマルテンサイト系ステンレス鋼を用いること。
(ii)焼入れ処理時にはできるだけ炭化物が析出しないように急冷を行い、かつ焼戻し処理を200〜240℃という低温で行うこと。
そして、この耐食性レベルの向上が腐食環境で使用された場合の切れ味持続性に大きく寄与することを発見した。その要因について詳細に検討したところ、上記(i)(ii)の手法によってCr炭化物の生成が抑制され、それによってマトリクス中の有効Cr量が炭化物近傍においても高く維持されることが、腐食の発生を顕著に抑制しているものと推察される。また刃物の切れ味は、目視では観測されない程度の僅かな錆(腐食生成物)が発生しても劣化してくると考えられ、鋼材の耐食性を向上させることは腐食環境で使用された場合の切れ味低下の抑制に極めて有効に作用するものと推察される。上記(i)(ii)の手法によれば、刃物として要求される硬さと靭性も十分に維持することができる。以下、本発明を特定するための事項について説明する。
《化学組成》
Cは、焼入れ処理によりマルテンサイト組織(マトリクスがマルテンサイト相である組織)を得るために、0.05質量%以上含有させる必要があり、0.2質量%以上の含有量を確保することがより好ましい。しかし、多量のC含有は共晶炭化物の多量発生を招き熱間加工性を阻害する。また本発明では耐食性を向上させるためにCr炭化物の生成を抑制することが重要である。これらの点を考慮するとC含有量は0.5質量%以下の範囲に制限され、0.4質量%以下とすることがより好ましい。
Cは、焼入れ処理によりマルテンサイト組織(マトリクスがマルテンサイト相である組織)を得るために、0.05質量%以上含有させる必要があり、0.2質量%以上の含有量を確保することがより好ましい。しかし、多量のC含有は共晶炭化物の多量発生を招き熱間加工性を阻害する。また本発明では耐食性を向上させるためにCr炭化物の生成を抑制することが重要である。これらの点を考慮するとC含有量は0.5質量%以下の範囲に制限され、0.4質量%以下とすることがより好ましい。
SiおよびMnは、鋼の脱酸に有効な元素であるが、過剰の添加は製造コストの増大要因となる。このため、Si、Mnの含有量は、いずれも1質量%以下に制限される。
Crは、耐食性を付与するために必須の元素である。本発明の対象となる刃物が使用される環境を考慮すると、少なくとも10質量%以上のCr含有が必要であり、12質量%以上を確保することがより好ましい。ただし、過剰のCr含有はコスト増を招くので、耐食性とコストのバランスからCr含有量の上限は16質量%とする。使用条件に応じてCr含有量を15質量%以下の範囲に制限することもできる。
Ti、Nb、V、WおよびMoは、強度(硬さ)の向上に寄与する炭化物を形成する元素であり、これらの元素の炭化物が生成しても、Cr炭化物の場合とは異なり、耐食性を特に阻害することはない。このため、本発明では必要に応じてこれらの元素を1種以上含有させることができる。これらの元素を添加する場合は、その合計含有量が0.05質量%以上となるようにすることがより効果的である。ただし、これらの元素を過剰に含有させると、金属間化合物の生成量が増大し、靱性の低下を招く場合があるので、これらの合計含有量は1質量%以下とする。
《金属組織》
本発明の鋼材のマトリクス(鋼素地)はマルテンサイト相である。これにより刃物に必要な硬さが確保される。また、焼戻し処理を受けていることが必要である。焼入れされたままの状態では、刃物としての靭性が不足する。
本発明の鋼材のマトリクス(鋼素地)はマルテンサイト相である。これにより刃物に必要な硬さが確保される。また、焼戻し処理を受けていることが必要である。焼入れされたままの状態では、刃物としての靭性が不足する。
このマトリクス中には焼戻し処理により生じた炭化物が不可避的に存在するが、Cr炭化物の生成はできる限り抑制されていることが望ましい。Ti、Nb、V、WおよびMoの1種以上が添加されている場合は、それらの元素の炭化物がCr炭化物よりも優先的に生成する傾向があるが、添加されたTi、Nb、V、W、Moの全量が炭化物となってCを消費したと仮定しても、Crと結合するCはまだ十分に存在するため、結果的に全炭化物のうちCr炭化物が最も多くを占めることになる。発明者らの詳細な検討の結果、Ti、Nb、V、W、Moを添加していない鋼において、炭化物(すなわちほぼ全量がCr炭化物であると見てよい)の析出量が2質量%以下に抑えられていれば、本発明で規定する化学組成を満たす限り、顕著な耐食性改善効果が得られることがわかった。そしてこのとき、腐食環境下での切れ味持続性が大幅に向上する。Ti、Nb、V、W、Moの炭化物はいずれも耐食性を基本的に阻害しないので、Ti、Nb、V、WおよびMoの1種以上を合計1質量%以下の範囲で添加した場合であっても、全炭化物の析出量が2質量%以下に抑えられていれば、本発明で規定する化学組成を満たす限り、安定して顕著な耐食性改善効果が得られることになる。多くの実験の結果、実際にそのことが確かめられた。したがって本発明では、Ti、Nb、V、W、Moの添加有無にかかわらず、全炭化物の析出量が2質量%以下であることを要件としている。本発明でいう「炭化物の析出量」は上記「全炭化物の析出量」を意味する。炭化物の析出量は鋼材のマトリクスを溶解させた後に残った抽出残渣の乾燥質量を測定することにより求めることができる。鋼材1gから抽出される残渣の量が20mg以下である場合、炭化物の析出量が2質量%以下であると判定される。
《硬さ》
刃物としての優れた切れ味を得るために、450HV以上の硬さを有していることが要求される。硬さの測定は、鋼材の表面(圧延面)について荷重98NでJIS Z2244に準拠したビッカース硬さ試験を行うことによって求めることができる。
刃物としての優れた切れ味を得るために、450HV以上の硬さを有していることが要求される。硬さの測定は、鋼材の表面(圧延面)について荷重98NでJIS Z2244に準拠したビッカース硬さ試験を行うことによって求めることができる。
《製造法》
本発明の刃物用ステンレス鋼材は、一般的なマルテンサイト系ステンレス鋼板の製造プロセスを利用して焼鈍鋼板(例えば板厚1〜5mm程度)を製造し、その鋼板から所定形状の鋼材をプレス打抜きなどによって採取し、焼入れ処理、および焼戻し処理を施すことによって製造することができる。ただし、焼入れ処理、焼戻し処理は以下のような条件で行う。
本発明の刃物用ステンレス鋼材は、一般的なマルテンサイト系ステンレス鋼板の製造プロセスを利用して焼鈍鋼板(例えば板厚1〜5mm程度)を製造し、その鋼板から所定形状の鋼材をプレス打抜きなどによって採取し、焼入れ処理、および焼戻し処理を施すことによって製造することができる。ただし、焼入れ処理、焼戻し処理は以下のような条件で行う。
〔焼入れ処理〕
焼鈍された状態の鋼材を1000〜1150℃で保持したのち、急冷することによりマルテンサイト組織とする。急冷は、空冷以外の冷却手段により急速に冷却することを意味する。例えば油浴中に浸漬する「油冷」や冷却媒体に水を使う「水冷」が好適に採用できる。マルテンサイト系ステンレス鋼の場合は普通鋼と異なりパーライト変態が生じないので、空冷でもマルテンサイト組織が得られるが、ここでは焼入れ時の冷却過程でCr炭化物ができるだけ生じないように急冷を行う。保持温度が1000℃より低いとマトリクス中のCr炭化物の固溶が十分でない。一方、1150℃を超えるような高温としてもマトリクス中のCr炭化物の固溶状態はほとんどかわらず、不経済となる。また、1000〜1150℃の保持時間は5〜30分程度とすればよい。
焼鈍された状態の鋼材を1000〜1150℃で保持したのち、急冷することによりマルテンサイト組織とする。急冷は、空冷以外の冷却手段により急速に冷却することを意味する。例えば油浴中に浸漬する「油冷」や冷却媒体に水を使う「水冷」が好適に採用できる。マルテンサイト系ステンレス鋼の場合は普通鋼と異なりパーライト変態が生じないので、空冷でもマルテンサイト組織が得られるが、ここでは焼入れ時の冷却過程でCr炭化物ができるだけ生じないように急冷を行う。保持温度が1000℃より低いとマトリクス中のCr炭化物の固溶が十分でない。一方、1150℃を超えるような高温としてもマトリクス中のCr炭化物の固溶状態はほとんどかわらず、不経済となる。また、1000〜1150℃の保持時間は5〜30分程度とすればよい。
〔焼戻し処理〕
焼戻し処理は、焼入れ処理で得た鋼材をAc1点より低い温度に加熱し、マルテンサイト組織に靭性を付与するものである。また、Ti、Nb、V、WおよびMoの1種以上を添加した場合は強度に寄与する析出物を生成させるためにも有効である。ただし、焼戻し処理ではCr炭化物の生成も不可避的に生じてしまう。本発明では焼戻し処理を200〜240℃という低い温度域で行う。240℃以下の範囲であれば、炭化物の析出量を2質量%以下に抑えることが可能である。ただし、200℃を下回ると回復が不十分となって靭性が改善されない場合がある。200〜240℃の保持時間は30〜120分程度とすればよい。
焼戻し処理は、焼入れ処理で得た鋼材をAc1点より低い温度に加熱し、マルテンサイト組織に靭性を付与するものである。また、Ti、Nb、V、WおよびMoの1種以上を添加した場合は強度に寄与する析出物を生成させるためにも有効である。ただし、焼戻し処理ではCr炭化物の生成も不可避的に生じてしまう。本発明では焼戻し処理を200〜240℃という低い温度域で行う。240℃以下の範囲であれば、炭化物の析出量を2質量%以下に抑えることが可能である。ただし、200℃を下回ると回復が不十分となって靭性が改善されない場合がある。200〜240℃の保持時間は30〜120分程度とすればよい。
このようにして得られた本発明の鋼材は、その後、刃付けの処理を行って刃物とされる。
表1に示す組成の鋼を真空溶解炉で溶製し、熱間圧延を経て板厚3.0mmの熱延鋼板とした。各熱延板を780℃で7時間保持した後、炉冷し、酸洗し、冷間圧延によって板厚0.9mmの冷延鋼板とし、これを780℃で1分加熱することにより焼鈍し、酸洗することにより焼鈍鋼板を得た。
各焼鈍鋼板から刃物形状に打ち抜いた鋼材を採取し、表2に示す焼入れ温度で10分間保持したのち油浴中に浸漬する「油冷」を行うことにより焼入れ処理を施した。次いで、表2に示す焼戻し温度で60分間保持したのち空冷して、「刃物用ステンレス鋼材」を得た。その後、鋼材の表面を研磨し、さらに長手方向の1端面を湿式研磨する方法で刃付けを行い、供試材(刃物)を得た。
各供試材について、前述の方法でビッカース硬さを測定した。また、耐食性試験、通常の切れ味持続性を評価する試験、腐食環境下での切れ味持続性を評価する試験を以下のようにして実施した。さらに供試材から採取したサンプルについて炭化物析出量を以下のようにして測定した。
〔耐食性試験〕
供試材(刃物)の表面を脱脂洗浄した後、JIS Z2371に準拠した方法でキャス試験に供した。試験温度は50℃、試験時間(噴霧に曝す時間)は48時間とした。試験液は以下のとおりである。
試験液:酢酸でpH3に調整した5質量%塩化ナトリウム+0.026質量%塩化第二銅の混合水溶液
試験後の供試材表面を目視観察し、発銹が全く認められなかったものを○(良好)、発銹が認められたものを×(不良)と評価し、○評価のものを合格と判定した。
供試材(刃物)の表面を脱脂洗浄した後、JIS Z2371に準拠した方法でキャス試験に供した。試験温度は50℃、試験時間(噴霧に曝す時間)は48時間とした。試験液は以下のとおりである。
試験液:酢酸でpH3に調整した5質量%塩化ナトリウム+0.026質量%塩化第二銅の混合水溶液
試験後の供試材表面を目視観察し、発銹が全く認められなかったものを○(良好)、発銹が認められたものを×(不良)と評価し、○評価のものを合格と判定した。
〔通常の切れ味持続性を評価する試験〕
各供試材(刃物)を本多式切れ味試験機を用いて切れ味試験に供した。切れ味の測定条件は以下のとおりである。
測定環境:常温の室内、試験紙:上質用紙、紙形状:厚さ0.038mm×幅8mm/枚、紙束:400枚/束、負荷荷重:500g、摺動速度:20mm/g、測定方法:試験紙を固定し、紙束を1往復させ、そのときに切断された紙の枚数を測定する
各供試材(刃物)を本多式切れ味試験機を用いて切れ味試験に供した。切れ味の測定条件は以下のとおりである。
測定環境:常温の室内、試験紙:上質用紙、紙形状:厚さ0.038mm×幅8mm/枚、紙束:400枚/束、負荷荷重:500g、摺動速度:20mm/g、測定方法:試験紙を固定し、紙束を1往復させ、そのときに切断された紙の枚数を測定する
一般に、従来の刃物用鋼について上記の測定を繰り返したとき、切断回数が増加するに従い切断枚数(切れ味)の変化が緩やかになり、通常、80回目の段階ではすでに切断枚数の変化はほとんど見られなくなるという(特許文献1)。ここでは80回目の切断枚数が10枚以上であったものを◎(極めて良好)、6〜9枚であったものを○(良好)、5枚以下であったものを×(不良)と評価し、○評価以上のものを「通常の切れ味持続性」について合格と判定した。ここで「通常の」とは、上記の測定を繰り返す際に、各切断回数の間で刃物には特別の処理を加えないことを意味する。
〔腐食環境下での切れ味持続性を評価する試験〕
各供試材(刃物)を上記と同様の測定条件で切れ味試験に供した。ただしここでは、各切断回数の切れ味測定を行う前に、供試材に上記と同様のキャス試験を1時間施して洗浄、乾燥する処理を加えた。そして、切断回数24回目(キャス試験のトータル時間:24時間)の切断枚数が15枚以上であったものを○(良好)、6〜14枚であったものを△(やや不良)、5枚以下であったものを×(不良)と評価し、○評価以上のものを「腐食環境下での切れ味持続性」について合格と判定した。
各供試材(刃物)を上記と同様の測定条件で切れ味試験に供した。ただしここでは、各切断回数の切れ味測定を行う前に、供試材に上記と同様のキャス試験を1時間施して洗浄、乾燥する処理を加えた。そして、切断回数24回目(キャス試験のトータル時間:24時間)の切断枚数が15枚以上であったものを○(良好)、6〜14枚であったものを△(やや不良)、5枚以下であったものを×(不良)と評価し、○評価以上のものを「腐食環境下での切れ味持続性」について合格と判定した。
〔炭化物析出量の測定〕
なす型フラスコにヨウ素を10.5g入れ、これにメタノールを加えてヨウ素を溶解させ、溶液の全量を75mLとすることにより14%ヨウ素アルコール溶液を作成した。この溶液の中に鋼材サンプル1gを入れ、これを水温55℃の恒温水槽中で超音波発振器により振動を加えた状態で16時間保持した。この操作により、各サンプルとも完全な溶解が認められた。得られた液を0.05μmのフィルターで吸引ろ過し、抽出残渣を回収し、これを乾燥させ、乾燥後の抽出残渣の質量を測定した。この方法によって得られた抽出残渣は別途X線回折および元素分析の結果、Cr炭化物を主体とした炭化物で構成されることが判っている。したがって、測定された抽出残渣の質量(g)をサンプル量1gで除してパーセンテージに直したものを炭化物の析出量(質量%)とした。
これらの結果を表2に示す。
なす型フラスコにヨウ素を10.5g入れ、これにメタノールを加えてヨウ素を溶解させ、溶液の全量を75mLとすることにより14%ヨウ素アルコール溶液を作成した。この溶液の中に鋼材サンプル1gを入れ、これを水温55℃の恒温水槽中で超音波発振器により振動を加えた状態で16時間保持した。この操作により、各サンプルとも完全な溶解が認められた。得られた液を0.05μmのフィルターで吸引ろ過し、抽出残渣を回収し、これを乾燥させ、乾燥後の抽出残渣の質量を測定した。この方法によって得られた抽出残渣は別途X線回折および元素分析の結果、Cr炭化物を主体とした炭化物で構成されることが判っている。したがって、測定された抽出残渣の質量(g)をサンプル量1gで除してパーセンテージに直したものを炭化物の析出量(質量%)とした。
これらの結果を表2に示す。
表2から、本発明例のステンレス鋼材はいずれも、炭化物の析出量が2質量%以下、かつ硬さが450HV以上であり、通常の切れ味持続性に加え、腐食環境下での切れ味持続性についても良好に改善された。
これに対し、比較例であるNo.6〜8はC含有量が多すぎたことにより炭化物の析出量が多くなり、耐食性および腐食環境下での切れ味持続性に劣った。No.9はCr含有量が不足したために耐食性が悪く、結果的に腐食環境下での切れ味持続性が十分に改善されなかった。No.10は焼入れ温度が低すぎたことにより硬さが低下し、通常の切れ味持続性に劣った。また、Cr炭化物の析出量が多くなり、耐食性および腐食環境での切れ味持続性に劣った。No.11は焼戻し温度が高すぎたことにより炭化物の析出量が多くなり、耐食性および腐食環境下での切れ味持続性に劣った。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.05〜0.5%、Si:1%以下、Mn:1%以下、Cr:10〜16%、残部Feおよび不可避的不純物の組成を有し、マトリクスがマルテンサイト相であり、炭化物の析出量が2質量%以下であり、硬さが450HV以上である焼戻し処理された刃物用ステンレス鋼材。
- さらに、Ti、Nb、V、WおよびMoの1種以上を合計1%以下の範囲で含有する組成を有する請求項1に記載の刃物用ステンレス鋼材。
- 焼鈍された鋼材に対し、1000〜1150℃で保持したのち急冷する焼入れ処理を施し、その後、200〜240℃で保持する焼戻し処理を施す請求項1または2に記載の刃物用ステンレス鋼材の製造法。
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