JP5347925B2 - 高強度ボルト用鋼 - Google Patents

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本発明は、高強度ボルト用鋼に関し、詳しくは、1350MPa以上の引張強さを有するとともに耐遅れ破壊性に優れ、自動車、各種産業機械および建築構造物などに使用するのに好適な高強度ボルトの素材となる鋼に関する。
ボルト用鋼、すなわちボルトの素材となる鋼としては、例えば、JIS G 4053(2008)に規定されたSCM440などのクロムモリブデン鋼が用いられ、一般に、ボルトの強度は引張強さで1000MPa程度に調整されていた。これは、引張強さが1200MPaを超えると、ボルトの破壊が発生し易くなるためである。
上記の破壊は「遅れ破壊」と呼ばれ、静荷重下に置かれた鋼が、一定時間経過後に脆性的に破断する現象であり、腐食により鋼中に侵入した水素による水素脆化の一種と考えられている。そして、この「遅れ破壊」が、ボルトを高強度化するうえでの最大の障害となっていた。
一方、近年、自動車および各種産業機械の軽量化、また、建築構造物の大型化に伴い、高い締め付け力に耐える高強度ボルトへの要望が高まっており、このため、1200MPa以上の引張強さを有するボルト用鋼、なかでも1350MPa以上の引張強さを有するボルト用鋼の開発が急務となってきた。
そこで、引張強さが1200MPa以上の高強度鋼の耐遅れ破壊性を改善するために、種々の検討がなされ、例えば、特許文献1〜7には、Cr、MoおよびVを含有させて焼入れ性と焼戻し軟化抵抗を向上させた高強度ボルト用鋼が開示されている。
また、特許文献8〜10には、微量のBを含有させることにより粒界を清浄化し、粒界の結合力を高めて耐遅れ破壊性を改善した高強度ボルト用鋼が開示されている。
さらに、特許文献11〜14には、微量のBを含有させることに加えてTiを含有させることにより微細なTi系析出物を生成させ、これを水素のトラップサイトとして耐遅れ破壊性を改善する技術が開示されている。
特許第2670937号公報 特開平7−126799号公報 特開平7−278735号公報 特開平8−120408号公報 特開平8−225845号公報 特開2000−328191号公報 特開2001−32044号公報 特開平5−171356号公報 特開平8−295979号公報 特開平9−111399号公報 特開平10−17985号公報、 特開平10−36940号公報 特開平11−293401号公報 特開2003−268495号公報
大村朋彦、櫛田隆弘、中里福和、渡部了、小山田巌:「高力ボルトの大気曝露における水素吸蔵挙動と耐遅れ破壊性評価」(鉄と鋼、91(2005)、p.478) T.Omura、T.Kudo and S.Fujimoto:「Environmental Factors Affecting Hydrogen Entry into High Strength Steel due to Atomospheric Corrosion」(Materials Transactions、47(2006)、p.2596)
前述の特許文献1〜14で提案された技術の思想はいずれも、高温での焼戻しまたは粒界清浄化などによる組織の改善、あるいは微細分散させた析出物に水素をトラップさせるなど、鋼中に水素が侵入した後で、遅れ破壊を防止するというものである。そして、上記各公報で開示されている高強度ボルト用鋼の場合には、前述のJIS G 4053(2008)に規定されたSCM440などの従来鋼を単に高強度化した場合に比べて、耐遅れ破壊性が改善されることが示されている。
しかしながら、上記の各公報で行われた遅れ破壊の評価はいずれも、酸浸漬試験あるいは陰極チャージ試験などによる鋼材間の相対評価であって、実環境の過酷度を正確に再現した評価法とはいい難いものである。
例えば、実際の沿岸環境では、飛来塩による激しい腐食が生じるので、自動車、各種産業機械および建築構造物は、上述の各公報における実験室評価よりも厳しい環境にさらされることになる。
このため、上述の各公報で提案された高強度ボルト用鋼であっても、沿岸地域などの過酷な環境で使用した場合には、腐食に伴う水素侵入量が多くなって、特に、その引張強さが1350MPa以上になると、遅れ破壊の発生を抑止することができるというものではなかった。
本発明は、引張強さが1350MPa以上の高強度であっても十分な耐遅れ破壊性を有し、海岸あるいはそれに近い沿岸地域のような過酷な環境におかれた自動車、各種産業機械、建築構造物などにも好適に使用できる高強度ボルト用鋼、つまり、上記の特性を有する高強度ボルトの素材となる鋼を提供することを目的とする。
「遅れ破壊」は実環境から鋼材中に侵入した水素により引き起こされると考えられてきたが、大気環境からの水素侵入量はごく微量であるため、従来、遅れ破壊に及ぼす大気環境からの水素侵入の影響については明らかにされていなかった。
このような状況の下に、本発明者のうちの一人である大村らは、非特許文献1において、代表的な高強度ボルトを用いて、実環境における遅れ破壊挙動と鋼材中への水素侵入挙動の相関を詳細に調査し、大気環境に曝された高強度ボルト中には遅れ破壊を起こし得る量の水素が吸蔵され、その吸蔵水素濃度の最大値は電気化学的水素透過法で測定した値で約0.1μA/cmであることを明らかにした。
さらに、本発明者のうちの一人であるT.Omuraらは、非特許文献2において、実大気環境における水素侵入を実験室的に再現する乾湿サイクル水素透過試験法を考案し、水素侵入に影響する環境因子の作用機構を調査して、実大気環境を再現または過酷化した実験条件を見出し、水素侵入の促進因子が付着塩分や温度湿度のサイクリックな変化であることを明らかにした。なお、上記付着塩分の作用機構は、水膜中に塩化物イオンとして濃化することにより、鉄イオンの加水分解反応を促進し、水膜のpHを低下させることであると推定されている。
そこで、本発明者らは、前記の知見を基礎として、実大気環境からの水素侵入量を低減して遅れ破壊を安定かつ確実に防止するために、上述した乾湿サイクル水素透過試験法を用いて、鋼材への水素侵入量を効果的に抑制できる成分元素について種々の検討を実施した。その結果、Snが水素侵入の抑制に絶大な効果を発現するという極めて重要な事項が明らかになった。
上記のSnについては、従来、耐酸性に有効な元素であるといわれていたものの、Snが大気腐食に及ぼす影響、さらには、大気環境における水素侵入および遅れ破壊に及ぼす影響についてはこれまで全く知見がなかったものである。なお、Snが水素侵入の抑制に絶大な効果を発現する機構に関しては未だ不明な点が多いが、SnがSn2+として溶解し、水膜のpHが低下するのを防止する作用を有するためと考えられる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記の(1)〜(6)に示す高強度ボルト用鋼にある。
(1)質量%で、C:0.30%を超えて0.55%以下、Si:0.3%以下、Mn:0.6%以下、P:0.025%以下、S:0.030%以下、Al:0.005〜0.10%、Cr:1.0〜2.5%、Mo:0.25〜2.0%、N:0.030%以下およびSn:0.05〜0.50%を含有し、下記の(1)式で表されるfnが1.4以上であって、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする高強度ボルト用鋼。
fn=Cr+Mo・・・(1)
ただし、(1)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
(2)質量%で、さらに、V:0.50%以下を含有することを特徴とする上記(1)に記載の高強度ボルト用鋼。
(3)質量%で、さらに、Ti:0.10%以下およびZr:0.10%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の高強度ボルト用鋼。
(4)質量%で、さらに、Ca:0.01%以下およびMg:0.01%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする上記(1)から(3)までのいずれかに記載の高強度ボルト用鋼。
(5)質量%で、さらに、Ni:3.0%以下を含有することを特徴とする上記(1)から(4)までのいずれかに記載の高強度ボルト用鋼。
(6)質量%で、さらに、Ni:3.0%以下およびCu:0.3〜1.0%を含有することを特徴とする上記(1)から(4)までのいずれかに記載の高強度ボルト用鋼。
「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石やスクラップあるいは環境などから混入するものを指す。
以下、上記(1)〜(6)に示す高強度ボルト用鋼に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」〜「本発明(6)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
本発明の高強度ボルト用鋼は、引張強さが1350MPa以上の高強度であっても十分な耐遅れ破壊性を有するので、海岸あるいはそれに近い沿岸地域のような過酷な環境におかれた自動車、各種産業機械および建築構造物などに使用される高強度ボルトの素材として好適である。
実施例で用いた乾湿サイクル水素透過試験法を模式的に説明する図である。 実施例で用いた比較例の鋼2について、乾湿サイクル水素透過試験結果を水素透過係数JLの時間的変化として示す図である。 実施例で用いた本発明例の鋼Iについて、乾湿サイクル水素透過試験結果を水素透過係数JLの時間的変化として示す図である。 実施例で用いた陰極チャージ定荷重試験法を模式的に説明する図である。 実施例で用いた陰極チャージ水素透過試験法を模式的に説明する図である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
C:0.30%を超えて0.55%以下
Cは、焼入れ性を高めて強度を向上させる作用を有する。十分な焼入れ性を得て1350MPa以上の引張強さを安定かつ確実に得るためには、0.30%を超える量のCを含有させる必要がある。しかしながら、0.55%を超える量のCを含有させてもその効果は飽和し、また、冷間加工性が低下するので、冷間鍛造法によるボルトへの成形が困難となる。したがって、Cの含有量を0.30%を超えて0.55%以下とした。なお、Cの強度向上作用を十分に発揮させるためには、C含有量の下限を0.35%とすることが望ましく、この場合には1400MPa以上の引張強さを安定かつ確実に確保することができる。より一層高い引張強さを確保するためには、C含有量の下限を0.38%とすることが望ましい。一方、冷間加工性の低下を抑えて冷間鍛造法でのボルト成形を容易にするためには、C含有量の上限を0.52%とすることが望ましい。
Si:0.3%以下
Siは、鋼中に不純物として含有され、その量が0.3%を超えると、冷間鍛造法によるボルトへの成形性が著しく低下する。したがって、Siの含有量を0.3%以下とした。冷間鍛造法でのボルト成形を容易にするためには、Si含有量の上限を0.25%とすることが望ましい。
Mn:0.6%以下
Mnは、鋼中に不純物として含有され、粒界に偏析して粒界割れ型の遅れ破壊の発生を招き、さらに、Mn系の硫化物を形成して鋼中への水素侵入を促進してしまう。特に、Mnの含有量が0.6%を超えると、粒界割れ型の遅れ破壊の発生および鋼中への水素侵入が顕著となる。したがって、Mnの含有量を0.6%以下とした。なお、Mn含有量の上限は0.5%とすることが望ましい。
P:0.025%以下
Pは、鋼中に不純物として含有され、粒界に偏析して靱性および耐遅れ破壊性を低下させ、特に、その含有量が0.025%を超えると、靱性および耐遅れ破壊性の低下が顕著になる。したがって、Pの含有量を0.025%以下とした。Pの含有量は極力低い方が望ましい。
S:0.030%以下
Sは、鋼中に不純物として含有され、通常、上述したMnとともにMn硫化物として存在し、腐食に伴って溶解する際に硫化水素を発生することで水素侵入を促進し、耐遅れ破壊性を低下させる。特に、Sの含有量が0.030%を超えると、水素侵入による耐遅れ破壊性の低下が著しくなる。したがって、Sの含有量を0.030%以下とした。さらに良好な耐遅れ破壊性を確保するためには、望ましくは0.015%以下であり、さらに望ましくは0.010%以下である。
Al:0.005〜0.10%
Alは、鋼の脱酸に有効な元素であり、この効果を十分に確保するためには、0.005%以上含有させる必要がある。一方、Alを0.10%を超えて含有させても前記の効果は飽和し、また、フェライト相の生成が促進されて耐遅れ破壊性が低下する。したがって、Alの含有量を0.005〜0.10%とした。Alの脱酸作用をより十分に発揮させるためには、Al含有量の下限を0.02%とすることが望ましい。また、フェライト相の生成を抑止して良好な耐遅れ破壊性を確保するためには、Al含有量の上限を0.05%とすることが望ましい。なお、本発明のAl含有量とは酸可溶Al(いわゆる「sol.Al」)を指す。
Cr:1.0〜2.5%
Crは、耐遅れ破壊性を低下させることなく焼入れ性を高めて強度を向上させる作用を有する。1350MPa以上の引張強さを得るためには、Crを1.0%以上含有させる必要がある。しかしながら、Crを2.5%を超えて含有させてもその効果は飽和してコストが嵩み、また、「M」をFe、CrおよびMoの1種または2種以上として、旧オーステナイト粒界に粗大なM236型炭化物が析出して耐遅れ破壊性が低下する。したがって、Crの含有量を1.0〜2.5%とした。良好な耐遅れ破壊性を確保するためには、Cr含有量の上限を1.5%とすることが望ましい。
なお、Crの含有量は上記の範囲において、前記の(1)式で表されるfnがfn≧1.4である必要がある。
Mo:0.25〜2.0%
Moは、Crと同様に、耐遅れ破壊性を低下させることなく焼入れ性を高めて強度を向上させる作用を有する。MoにはVとともに微細なMo−V系炭化物を形成することによって析出強化に寄与し、焼戻し温度を下げることなく強度を向上させる作用もある。1350MPa以上の引張強さを得るためには、Moを0.25%以上含有させる必要がある。しかしながら、Moを2.0%を超えて含有させてもその効果は飽和してコストが嵩み、また、「M」をFe、MoおよびCrの1種または2種以上として、旧オーステナイト粒界に粗大なM236型炭化物が析出して耐遅れ破壊性が低下する。したがって、Moの含有量を0.25〜2.0%とした。なお、Moの強度向上作用を十分に発揮させるためには、Mo含有量の下限を0.5%とすることが望ましく、この場合には1400MPa以上の引張強さを確実に確保することができる。良好な耐遅れ破壊性を確保するためには、Mo含有量の上限を1.0%とすることが望ましい。
なお、Moの含有量は上記の範囲において、前記の(1)式で表されるfnがfn≧1.4である必要がある。
N:0.030%以下
Nは、鋼中に不純物として存在し、その含有量が過剰になると溶製時に窒素ブローホールが生成して加工時の疵発生の原因となる。特に、Nの含有量が0.030%を超えると、ブローホールの生成が著しくなって加工時に疵を発生しやすい。したがって、Nの含有量を0.030%以下とした。N含有量の上限は0.020%とすることが望ましい。
Sn:0.05〜0.50%
Snは、本発明において最も重要な元素であり、実大気環境からの水素侵入量を大きく低減する効果を有する。しかしながら、Snの含有量が0.05%未満では上記の効果は不十分であるため、0.05%以上含有させる必要がある。一方、0.50%を超えてSnを含有させてもその効果が飽和することに加えて、冷間加工性が低下して冷間鍛造法によるボルトへの成形が困難となる。したがって、Snの含有量を0.05〜0.50%とした。Sn含有量の望ましい下限は0.07%であり、また、望ましい上限は0.25%である。
fn:1.4以上
耐遅れ破壊性に対して、CrとMoの双方の含有量の合計が影響を及ぼす。すなわち、各元素単独の含有量のみの調整では効果が少なく、それぞれの含有量が適正な範囲にあり、しかも、前記の(1)式で表されるfn、つまり、〔Cr+Mo〕が1.4以上であることが必要である。fnが1.4未満の場合には、十分な焼入れ性が確保できない。fnは、CrおよびMoの含有量がそれぞれの上限値である2.5%および2.0%の場合の4.5であっても構わないが3.0以下であることが望ましい。
上記の理由から、本発明(1)に係る高強度ボルト用鋼は、上述した範囲のCからSnまでの元素を含有し、前記の(1)式で表されるfnが1.4以上であって、残部がFeおよび不純物からなることと規定した。
なお、本発明に係る高強度ボルト用鋼は、必要に応じてさらに、V、Ti、Zr、Ca、MgおよびNiの中から選ばれた1種以上の元素を含有するものであってもよい。また、本発明に係る高強度ボルト用鋼は、必要に応じてさらに、NiとCuを複合して含有するものであってもよい。
以下、上記の任意元素に関して説明する。
V:0.50%以下
Vは、Moとともに焼戻し時に微細なMo−V炭化物を形成することによって析出強化に寄与し、焼戻し温度を下げることなく強度を向上させる作用を有する。このため、上記の効果を得るためにVを含有してもよい。しかしながら、0.50%を超えてVを含有させてもその効果は飽和してコストが嵩み、しかも、過剰なV系炭化物が生成することにより吸蔵水素濃度が増加して耐遅れ破壊性の低下を招く。したがって、Vの含有量を0.50%以下とした。なお、過剰なV系炭窒化物の生成を防止して耐遅れ破壊性の低下を抑止するためには、Vの含有量の上限は0.25%とすることが望ましい。
一方、前記したVの強度向上効果を十分に得るためには、V含有量の下限を0.05%とすることが望ましく、この場合には1400MPa以上の引張強さを確実に確保することができる。なお、V含有量の望ましい下限は0.25%である。
TiおよびZrは、いずれも、微細な炭化物を形成して結晶粒を微細化し、耐遅れ破壊性を改善する作用を有する。このため、より優れた耐遅れ破壊性を得たい場合には以下の範囲で含有してもよい。
Ti:0.10%以下
Tiは、微細な炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、耐遅れ破壊性を改善する作用を有するので、この効果を得るためにTiを含有してもよい。しかしながら、0.10%を超えてTiを含有させても上記の効果は飽和してコストが嵩み、しかも、過剰でまた粗大なTi系炭窒化物が生成することにより冷間加工性が低下するので、冷間鍛造法によるボルトへの成形が困難となる。したがって、Tiの含有量を0.10%以下とした。なお、Ti含有量の上限は0.04%とすることが望ましい。
一方、前記したTiの結晶粒微細化による耐遅れ破壊性改善効果を確実に得るためには、Ti含有量の下限を0.005%とすることが望ましく、0.01%とすれば一層望ましい。
Zr:0.10%以下
Zrは、微細な炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、耐遅れ破壊性を改善する作用を有するので、この効果を得るためにZrを含有してもよい。しかしながら、0.10%を超えてZrを含有させても上記の効果は飽和してコストが嵩み、しかも、過剰でまた粗大なZr系炭窒化物が生成することにより冷間加工性が低下するので、冷間鍛造法によるボルトへの成形が困難となる。したがって、Zrの含有量を0.10%以下とした。なお、Zr含有量の上限は0.04%とすることが望ましい。
一方、前記したZrの結晶粒微細化による耐遅れ破壊性改善効果を確実に得るためには、Zr含有量の下限を0.005%とすることが望ましく、0.01%とすれば一層望ましい。
なお、上記のTiおよびZrは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種の複合で含有することができる。これらの元素の合計含有量は0.20%であっても構わないが、0.10%以下であることが好ましい。
CaおよびMgは、鋼中のSと結合して硫化物を形成し、鋼の熱間加工性を改善する作用を有する。このため、より良好な熱間加工性を確保したい場合には以下の範囲で含有してもよい。
Ca:0.01%以下
Caは、鋼中のSと結合して硫化物を形成し、鋼の熱間加工性を改善する作用を有するので、この効果を得るためにCaを含有してもよい。しかしながら、Caを0.01%を超えて含有させても上記の効果は飽和してコストが嵩み、また、溶解性のCa系酸化物が過剰に生成して孔食の起点となり、耐遅れ破壊性の低下を招く。したがって、Caの含有量を0.01%以下とした。なお、Ca含有量の上限は0.003%とすることが望ましい。
一方、前記したCaの熱間加工性改善効果を確実に得るためには、Ca含有量の下限を0.0003%とすることが望ましい。
Mg:0.01%以下
Mgは、鋼中のSと結合して硫化物を形成し、鋼の熱間加工性を改善する作用を有するので、この効果を得るためにMgを含有してもよい。しかしながら、Mgを0.01%を超えて含有させても上記の効果は飽和してコストが嵩み、また、溶解性のMg系酸化物が過剰に生成して孔食の起点となり、耐遅れ破壊性の低下を招く。したがって、Mgの含有量を0.01%以下とした。なお、Mg含有量の上限は0.003%とすることが望ましい。
一方、前記したMgの熱間加工性改善効果を確実に得るためには、Mg含有量の下限を0.0003%とすることが望ましい。
なお、上記のCaおよびMgは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種の複合で含有することができる。これらの元素の合計含有量は0.02%であっても構わないが、0.01%以下であることが好ましい。
Ni:3.0%以下
Niは、靱性を高める作用を有する。Niには、腐食生成物の保護性向上による水素侵入抑制効果を発現し、Snほどではないが水素侵入を抑制する作用もある。したがって、上述した効果を得るためにNiを含有してもよい。なお、鋼が後述する量のCuを含む場合には、Cuに起因する熱間での割れを防止するために、Niを複合して含有させることが必要である。しかしながら、Niを3.0%を超えて含有させても上記の効果は飽和してコストが嵩む。したがって、Niの含有量を3.0%以下とした。なお、Ni含有量の上限は1.0%とすることが望ましい。
一方、前記したNiの効果を確実に得るためには、Ni含有量の下限を0.2%とすることが望ましい。
Cu:0.3〜1.0%
Cuは、腐食生成物の保護性向上による水素侵入抑制効果を発現し、Snほどではないが水素侵入を抑制する作用を有するので、この効果を得るためにCuを0.3%以上含有してもよい。しかしながら、Cuを1.0%を超えて含有させても上記の効果は飽和してコストが嵩み、また、冷間加工性が低下するので、冷間鍛造法によるボルトへの成形が困難となる。したがって、Cuの含有量を0.3〜1.0%とした。なお、Cuについては、含有量の上限を0.5%とすることが望ましい。
なお、Cuを含有させる場合には、Cuに起因する熱間での割れを防止するために、前記した量のNiを複合して含有させることが必要である。
上記の理由から、本発明(2)に係る高強度ボルト用鋼は、本発明(1)の高強度ボルト用鋼に、さらに、V:0.50%以下を含有することと規定した。
また、本発明(3)に係る高強度ボルト用鋼は、本発明(1)または本発明(2)の高強度ボルト用鋼に、さらに、Ti:0.10%以下およびZr:0.10%以下のうちの1種または2種を含有することと規定した。
本発明(4)に係る高強度ボルト用鋼は、本発明(1)から本発明(3)までのいずれかの高強度ボルト用鋼に、さらに、Ca:0.01%以下およびMg:0.01%以下のうちの1種または2種を含有することと規定した。
本発明(5)に係る高強度ボルト用鋼は、本発明(1)から本発明(4)までのいずれかの高強度ボルト用鋼に、さらに、Ni:3.0%以下を含有することと規定した。
本発明(6)に係る高強度ボルト用鋼は、本発明(1)から本発明(4)までのいずれかの高強度ボルト用鋼に、さらに、Ni:3.0%以下およびCu:0.3〜1.0%を含有することと規定した。
本発明の高強度ボルト用鋼を素材とする高強度ボルトは、通常の方法、すなわち転炉や電気炉で溶製した鋳片や鋼塊を分塊圧延により鋼片とし、熱間圧延で線材とし、必要に応じ球状化焼鈍を施し、その後伸線を経て、冷間鍛造にて製造すればよく、特にこのようなボルトの製造方法について限定する必要はない。
しかしながら、1350MPa以上という高い引張強さを安定かつ確実に得るとともに、組織の均一性を確保するために、ボルト形状に成形加工した後、焼入れ−焼戻しの熱処理を施すことが最も望ましい。
なお、通常のボルト用鋼を素材とするボルトの場合には、焼入れの加熱温度は900℃未満の温度とすることが多いが、本発明の高強度ボルト用鋼を素材とする場合には、焼入れ時にCr、MoおよびVなどの炭化物生成元素をマトリックスに十分固溶させるために、焼入れの加熱温度は900℃以上とすることが望ましく、910℃以上とすれば一層望ましい。一方、焼入れの加熱温度が1000℃を超えると組織が粗粒化して耐遅れ破壊性が低下する。したがって、本発明の高強度ボルト用鋼を素材とするボルトを焼入れする場合の加熱温度は、900〜1000℃とすることが望ましく、910〜1000℃とすることが一層望ましい。
焼戻しは、焼入れ時に導入された転位密度を低減し、かつ炭化物を球状化して耐遅れ破壊性を向上させるために、その温度は極力高くすること望ましく、引張強さが1350MPa以上の高強度ボルトの耐遅れ破壊性を向上させるためには500℃以上の温度で焼戻しすることが、また、引張強さが1400MPa以上の高強度ボルトの耐遅れ破壊性を向上させるためには600℃以上の温度で焼戻しを行うことが望ましい。
なお、焼戻し温度が鋼のAc1変態点を超えると、引張強さおよび耐遅れ破壊性性などボルト特性に大きなばらつきが生じるので、焼戻しは常法どおりAc1変態点以下の温度とする。
また、熱処理時にいわゆる「浸P現象」が生じることを防止して、良好な耐遅れ破壊性を安定かつ確実に確保するために、冷間加工用の潤滑剤としては、Pを含まないものを用いることが望ましい。
以下、実施例によって、本発明の作用効果についてさらに具体的に説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Zおよび鋼1〜5の31種の鋼を実験室溶製し、得られた鋼塊を1250℃に加熱し、熱間鍛造および熱間圧延を行って直径20mmの丸鋼および厚さ20mmの鋼板とした。
なお、表1における鋼A〜Uは、化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼である。
一方、鋼V〜Zおよび鋼1〜5は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。
次いで、上記直径20mmの丸鋼および厚さ20mmの鋼板を表2に示す温度に45分保持した後油焼入れし、さらに、表2に示す温度で1時間保持した後、大気中で放冷して焼戻しを行った。
Figure 0005347925
Figure 0005347925
上記の焼入れ−焼戻し処理を行った熱処理丸鋼から、平行部の直径が6mm、平行部の長さが40mmの丸棒引張試験片を採取し、室温での引張強さを測定した。
また、熱処理鋼板の板厚中央部から、直径が70mmで厚さが0.5mmの円板試験片を採取し、図1にその試験法を模式的に示す乾湿サイクル水素透過試験を行って、鋼材中への水素侵入特性を調査した。図1においては上記の「円板試験片」を「薄板試験片(0.5mm)」と表記した。
なお、乾湿サイクル水素透過試験は、具体的には次のようにして実施した。
まず、上記円板試験片の両面を600番エメリー紙で研磨後、片面にNiめっきを施した。
次いで、Niめっきを施した面(以下、「Niめっき面」という。)が図1に示す1N(1規定)のNaOH水溶液を満たしたセル側に来るように円板試験片をセットし、Niめっき面は参照電極に対して0V(ゼロボルト)に定電位保持した。なお、参照電極として「銀−塩化銀電極」を用いた。
また、外部環境曝露面、つまり、図1で「外部環境」と表記した側のNiめっきしていない面には、0.5mg/cm2となる量の人工海水を付着させてから完全に乾燥させ、その後さらに、下記(A)〜(D)の条件を順に繰り返して「外部環境」での曝露を行った。この際、条件(A)と(B)との間隔、条件(B)と(C)との間隔、条件(C)と(D)との間隔および条件(D)と(A)との間隔は、それぞれ20分、5分、5分および20分とした。なお、外部環境曝露面およびNiめっき面の試験面積はいずれも、23.7cm2であった。
(A)温度10℃、相対湿度60%、期間3時間、
(B)温度60℃、相対湿度40%、期間3時間、
(C)温度60℃、相対湿度60%、期間3時間、
(D)温度60℃、相対湿度90%、期間3時間。
上記のようにしてセットした円板試験片の外部環境曝露面が腐食して水素が発生すると、水素原子が円板試験片を透過して試験セル内に放出されるので、この円板試験片を透過してくる水素原子を水素イオンに酸化する電流値を測定し、その測定値を上記の試験面積で除して水素透過電流J(μA/cm2)を求めた。
次いで、上記のようにして求めた水素透過電流Jに円板試験片の厚さLとしての0.05cmを乗じて水素透過係数JL(μA/cm)を算出し、この環境から侵入してくる水素に関する水素透過係数JLの最大値(以下、「環境水素透過係数JLenv」という。)を水素侵入速度の指標として、各鋼の環境からの水素侵入特性を比較した。
図2および図3に、上記のようにして算出した水素透過係数JLの一例を示す。
図2は、試験番号28の比較例の鋼2について水素透過係数JLの時間的変化を示すものであり、この図2からわかるように、水素透過係数JLの最大値、つまり、環境水素透過係数JLenvは0.16μA/cmである。また、鋼Yについては、環境水素透過係数JLenvは0.26μA/cmである。鋼Yは、本発明者のうちの一人である大村らが、「鋼中の水素侵入に影響する環境因子」(材料と環境、54(2005)、p.61)において、日本国内では最も過酷な環境と考えられる沖縄県名護市の実沿岸環境において水素侵入特性を評価して、環境水素透過係数JLenvが0.1μA/cm程度であることを報告した従来鋼である「低炭素ボロン鋼」である。したがって、本実施例における前述の乾湿サイクル水素透過試験では、実環境の2倍程度過酷な条件で評価がされていると想定される。
一方、図3は、試験番号9の本発明例の鋼Iについて水素透過係数JLの時間的変化を示すものであり、水素透過係数JLの最大値、つまり、環境水素透過係数JLenvは、この図3からわかるように、約0.02μA/cmである。したがって、鋼Iの水素侵入特性は前記の鋼2および鋼Yに比べると著しく低減されていることが明らかである。すなわち、本発明例の鋼Iは、実環境以上に過酷な乾湿サイクル試験においても水素侵入の抑制効果が大きく、耐遅れ破壊性に優れることが期待される。
表2に、前記のようにして求めた引張強さおよび環境水素透過係数JLenvを併せて示す。
表2から、本発明例の鋼A〜Uを用いた試験番号1〜21の場合、1350MPa以上の引張強さが得られている。また、環境水素透過係数JLenvは0.05μA/cm以下であり、十分な水素侵入抑制効果が得られていることが明らかである。
これに対して、比較例の鋼のうちで鋼V〜Xおよび鋼Zを用いた試験番号22〜24および26の場合、目標とする1350MPa以上の引張強さが得られていない。
また、比較例の鋼のうちで鋼Yおよび鋼1〜5を用いた試験番号25および27〜31の場合は、環境水素透過係数JLenvは0.14μA/cm以上の大きな値であり、水素侵入抑制効果を有していないことが明らかである。
比較例の鋼のうちで鋼4は、耐候性に効果があるといわれるCuおよびNiを含有する鋼であるため、この鋼を用いた試験番号30の場合、環境水素透過係数JLenvは上記の鋼1〜3および5を用いた試験番号27〜29および31の場合に比べると小さいものの、その効果は十分とはいえないものである。
比較例の鋼のうちで鋼2は、Tiを多量に含有させて硫化物を不溶性のTi系硫化物として固定することによって水素侵入抑制効果を狙ったものであるが、この鋼を用いた試験番号28の場合も環境水素透過係数JLenvは0.16μA/cmという大きな値であり、十分な水素侵入抑制効果を有していない。
比較例の鋼のうちで鋼1は、Snを含有しているもののその含有量が本発明で規定する値を下回るものであるため、この鋼を用いた試験番号27の場合も環境水素透過係数JLenvは0.15μA/cmという大きな値であり、十分な水素侵入抑制効果が得られていない。
なお、鋼材の耐遅れ破壊性を評価するためには、上述した環境水素透過係数JLenvに比べて、鋼材が水素脆化による破壊を起こすことのない限界環境を示す限界水素透過係数JLthが十分に大きいことを確認すること、すなわち、環境から侵入する水素量に比べて、その鋼材の水素脆化に対する耐久性が十分に大きいことを確認しておく必要がある。
そこで、前記焼入れ−焼戻し処理を行った直径20mmの丸鋼から、平行部の直径が6.56mm、平行部の長さが25.4mmで、平行部長さの中央部に深さ1.42mmで0.1mmRの切欠きを設けた切欠き付き丸棒引張試験片を採取し、実環境よりも過酷な陰極チャージ定荷重試験を実施した。なお、上記の切欠き付き丸棒引張試験片は、ボルトのねじ底の応力集中を模擬した試験片であり、切欠き底の応力集中係数は5である。
なお、陰極チャージ定荷重試験は図4の模式図に示すように、3%食塩水中で応力を負荷しつつ、銀−塩化銀参照電極に対して定電位を負荷した状態で200時間保持し、試験片の破断の有無を確認することで実施した。このときの負荷応力は、高強度ボルトの使用条件を考慮し、各鋼について表2に示した引張強さの90%とした。そして、この時の負荷電位を−0.8V(ボルト)から−1.5V(ボルト)の範囲で変え、試験片が破断しない限界の負荷電位をまず求めた。
一方、上記の陰極チャージ定荷重試験で負荷した電位は材料にかかわらず水素侵入の観点からの環境の厳しさ(すなわち、その環境における水素透過係数)に一義的に対応することがわかっている。
そこで、上記の陰極チャージ定荷重試験で試験片が破断した時の負荷電位に対応する水素透過係数JLthを求めるために、次の陰極チャージ水素透過試験を行った。
前記焼入れ−焼戻し処理を行った厚さ20mm鋼板の板厚中央部から、直径が70mmで厚さが0.5mmの円板試験片を採取し、図5に示すいわゆる「ダブルセル型」の陰極チャージ水素透過試験装置を用いて試験を行った。
図5の左側のセル、すなわち3%NaCl水溶液を充填したセルでは、円板試験片の電位を銀−塩化銀参照電極に対してマイナスの定電位に保持した場合、試験片表面では水素が発生する。発生した水素の一部は水素原子として試験片を透過し、右側セルである1N(1規定)のNaOH水溶液を充填したセル内で水素イオンに酸化され、その酸化電流値が右側のセルのポテンショスタットで測定される。右側のセルでは試験片を参照電極(銀−塩化銀電極)に対して0V(ゼロボルト)に定電位保持し、透過した水素原子を水素イオンにすべて酸化する。測定された酸化電流値を試験面積(23.7cm2)で除して水素透過電流J(μA/cm2)を求め、Jに円板試験片の厚さL(0.05cm)を乗じて水素透過係数JL(μA/cm)を算出した。そして、この時の負荷電位を−0.8V(ボルト)から−1.5V(ボルト)の範囲で変えて試験を行い、負荷電位と水素透過係数の相関を求め、前述の陰極チャージ定荷重試験で試験片が破断しない限界の負荷電位に対応する水素透過係数を限界水素透過係数JLthとした。
表2に、上記のようにして求めた限界水素透過係数JLthを併せて示した。
表2から、本発明例の鋼A〜Uを用いた試験番号1〜21の場合、限界水素透過係数JLthは0.10〜0.17μA/cmであって、環境水素透過係数JLenvの0.02〜0.05μA/cmに比べて十分大きいことがわかる。すなわち、鋼A〜Uの場合には、水素脆化を起こす水素濃度JLthが環境から侵入する水素濃度JLenvよりも十分大きく、このため、実環境で遅れ破壊を起こす危険性のないことが明らかである。
これに対して、比較例の鋼Yおよび鋼1〜5を用いた試験番号25および試験番号27〜31の場合、限界水素透過係数JLthは0.08〜0.12μA/cmであって、上記本発明例の鋼A〜Uを用いた試験番号1〜21の場合に比べて必ずしも低いとはいえないものの、環境水素透過係数JLenvが各試験番号におけるJLthを上回っているため、極めて過酷な環境下で長期間使用した場合には遅れ破壊を起こす危険性があると考えられる。
なお、上述の実施例は、焼入れ−焼戻し処理を行った熱処理丸鋼および熱処理鋼板から採取した試験片を用いたものである。
一方、既に述べたように、本発明の高強度ボルト用鋼を素材とする高強度ボルトは、通常の方法で製造すればよく、特にボルトの製造方法について限定する必要はない。
しかしながら、1350MPa以上という高い引張強さを安定かつ確実に得るとともに、組織の均一性を確保するためには、ボルト形状に成形加工した後、焼入れ−焼戻しの熱処理を施すことが最も望ましい。
そして、焼入れ−焼戻しの熱処理を施す場合には、最終的な実ボルトにおける組織および強度特性は、鋼の化学組成および焼入れ−焼戻しの条件で決定され、ボルト製造の途中工程にはほとんど影響を受けない。
このため、今回の実施例における試験結果は、焼入れ−焼戻しによって製造した実際のボルトの性能と同程度であるとみてよい。
本発明の高強度ボルト用鋼は、引張強さが1350MPa以上の高強度であっても十分な耐遅れ破壊性を有するので、海岸あるいはそれに近い沿岸地域のような過酷な環境におかれた自動車、各種産業機械および建築構造物などに使用される高強度ボルトの素材として好適である。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.30%を超えて0.55%以下、Si:0.3%以下、Mn:0.6%以下、P:0.025%以下、S:0.030%以下、Al:0.005〜0.10%、Cr:1.0〜2.5%、Mo:0.25〜2.0%、N:0.030%以下およびSn:0.05〜0.50%を含有し、下記の(1)式で表されるfnが1.4以上であって、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする高強度ボルト用鋼。
    fn=Cr+Mo・・・(1)
    ただし、(1)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を表す。
  2. 質量%で、さらに、V:0.50%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度ボルト用鋼。
  3. 質量%で、さらに、Ti:0.10%以下およびZr:0.10%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度ボルト用鋼。
  4. 質量%で、さらに、Ca:0.01%以下およびMg:0.01%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の高強度ボルト用鋼。
  5. 質量%で、さらに、Ni:3.0%以下を含有することを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の高強度ボルト用鋼。
  6. 質量%で、さらに、Ni:3.0%以下およびCu:0.3〜1.0%を含有することを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の高強度ボルト用鋼。
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