JP4430559B2 - 耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼及び高強度ボルト - Google Patents

耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼及び高強度ボルト Download PDF

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Description

本発明は、耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼及び高強度ボルトに関するものであり、特に、耐遅れ破壊性に優れた引張強度:1300N/mm2以上の高強度ボルト、及び該高強度ボルトの製造に用いられる鋼に関するものである。
一般のボルト用鋼として、特にSCM435やSCM440等のJIS規定鋼が汎用されているが、これらの鋼材では、引張強度が約1200N/mm2を超えると、一定期間後に突然脆性破壊するいわゆる遅れ破壊が生じ易くなる。そこで遅れ破壊特性の改善を目的に、焼戻し軟化抵抗の向上を図った高強度ボルト用鋼が提案されている。特許文献1や特許文献2には、Moを増量させ、焼戻し軟化抵抗を向上させることで高温焼戻しを可能にして遅れ破壊特性を向上させることが示されている。また特許文献3には、Mo、Vを複合添加してFe3C(セメンタイト)の析出を抑制し、Mo2C等のMo炭化物を析出させることで、高温焼戻しを可能にして遅れ破壊特性を高めている。特許文献4にも、Mo及びVを添加して高温焼戻し時に炭化物を析出させることで、軟化抵抗を増大させる旨示されている。また特許文献5には、Moを含む鋼材を用いてボルト形状に成形加工後、焼入れ処理し、引続き400℃以上で繰り返し焼戻し処理することによって、炭窒化物を微細に析出させて拡散性水素をトラップすることが提案されている。
上記の通り、炭窒化物を多量に析出させて焼戻し軟化抵抗を増加させる等の手段により、耐遅れ破壊性をある程度向上させることはできる。しかし、耐遅れ破壊性をより確実に高めるには不十分であり、更なる改善が必要であると考えられる。
特開平5−148576号公報 特開平5−148580号公報 特許第2739713号公報 特許第2670937号公報 特開平7−126799号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、引張強度が1300N/mm2以上と高強度であって耐遅れ破壊性の著しく高められた高強度ボルト、及び該高強度ボルトの製造に用いられる鋼を提供することにある。
本発明に係る高強度ボルト用鋼とは、C:0.30〜0.45%(質量%の意味)、Si:0.2%以下(0%を含まない)、Mn:0.30〜0.80%、Mo:0.20〜0.60%、V:0.03〜0.25%、Ti:0.03〜0.25%、Cr:0.80〜1.2%、Al:0.5%以下(0%を含まない)、P:0.02%以下(0%を含まない)、S:0.02%以下(0%を含まない)、N:0.02%以下(0%を含まない)、残部:Feおよび不純物であって、
Cr/C≧2.3
を満たすと共に、Mo、V及びTiが下記式(1)を満たすところに特徴がある。
4.0 ≦(10[Mo]+25[V]+30[Ti])≦14.0 …(1)
[式(1)中、[Mo]、[V]、[Ti]は、それぞれMo、V、Tiの含有量
(質量%)を示す]
本発明のボルト用鋼は、更に、Cu及び/又はNiを合計で1%以下(0%を含まない)含んでいてもよい。また、Zr、W及びNbよりなる群から選択される1種以上を合計で0.5%以下(0%を含まない)、更には、Bを0.0050%以下(0%を含まない)含んでいてもよい。
本発明は、前記ボルト用鋼を用いて得られる高強度ボルトであって、前記成分組成を満たし、旧オーステナイト結晶粒度番号が10.0以上、かつ引張強度が1300N/mm2以上であるところに特徴を有する耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルトも含む。
尚、本発明における上記優れた耐遅れ破壊性とは、後述する実施例で示す通り、環状Vノッチ(Vノッチ角度60°、深さ2mm、ノッチ底半径0.03mm)を有する直径10mmの丸棒状試験片を、塩酸水溶液(HCl濃度:35質量%)に15分間浸漬し、水洗・乾燥した後、大気中で少なくとも1800N/mm2の応力を100時間に亘って負荷し続けても破断しない特性をいう。
本発明の鋼を用いれば、鋼材の耐食性が高められて侵入する水素量が低減し、耐遅れ破壊性の高められた引張強度が1300N/mm2以上の高強度ボルトを製造することができ、過酷な環境下でも遅れ破壊の極めて生じ難い自動車等に使用される高強度ボルトを供給することができる。
鋼中へ侵入する水素は、鋼材の腐食反応により発生するものが主であり、図1に示す通り、鋼材の腐食反応による腐食減量[{(初期質量−試験後質量)/初期質量}×100]の増加に伴い鋼中への侵入水素量(水素濃度)が増加することが知られている。本発明者らは、この腐食反応を抑制、即ち鋼材の耐腐食性を高めて腐食減量を低減し、鋼中への侵入水素量を低減すれば耐遅れ破壊性を更に向上できると考えた。
ところで、ボルト形状に成形加工後、試料を880℃〜920℃で焼入れし、次いで550℃以上で焼戻したときに1300N/mm2以上の引張強さを得ることのできる良好な焼戻し軟化抵抗を実現するには、Mo、V等を添加することが上述の通り知られている。しかし、これらの添加量が増加して焼戻し時に析出する炭窒化物の析出量(個数)が増加すると、耐腐食性は低下する傾向にある。この様に耐腐食性が低下するのは、Mo、V等の炭窒化物が多量に析出すると、結果として炭窒化物と母相の界面(面積)が増加するが、該界面は非常に腐食され易いため、腐食減量が増加して上記図1に示す通り侵入水素量(水素濃度)も増加することによる。
以上のことから、Mo、V等といった焼戻し軟化抵抗を高める元素の多量添加は、焼戻し軟化抵抗を高めて遅れ破壊特性を向上できる一方、炭窒化物の増加に起因する侵入水素量の増加を招き、結果として耐遅れ破壊性が低下するため、確実に耐遅れ破壊性を高めることが難しい。
そこで本発明者らは、鋼中への水素侵入の原因である腐食反応を抑制すると共に、良好な焼戻し軟化抵抗を確保して、高強度域(1300N/mm2以上)における耐遅れ破壊性の十分に高められたボルトを得るべく検討を重ねた。その結果、用いる鋼材の成分におけるMo、V及びTiが特に下記式(1)を満たすように制御すれば、良好な焼戻し軟化抵抗と腐食反応の抑制を同時に実現でき、耐遅れ破壊性を飛躍的に高め得ることを見出した。
4.0 ≦(10[Mo]+25[V]+30[Ti])≦14.0 …(1)
[式(1)中、[Mo]、[V]、[Ti]はそれぞれMo、V、Tiの含有量(質量%)
を示す]
上記式(1)における(10[Mo]+25[V]+30[Ti])は、焼戻し時に析出する炭化物の析出量(炭化物の個数)を表す指標として規定したものである。即ち、Tiは、析出物の中で最も微細かつ多量に分散するTi系炭窒化物を形成するため、母相と析出物の界面面積を増加させる傾向が最も強い元素であるといえる。例えばMo、V、Tiの焼入れ時の母相への固溶量が同量であり、かつ550℃以上と同条件で焼戻した場合、Ti系の炭窒化物が最も多く析出する。Tiに次いでV炭窒化物の析出量が多く、次にMoの析出量が多いことから、本発明ではTi、V、Moの順に係数を実験データから決定して制御因子(10[Mo]+25[V]+30[Ti])を確定した。
図2に、上記(10[Mo]+25[V]+30[Ti])と鋼中への侵入水素量及び遅れ破壊強度との関係を示す。この図2から明らかなように、(10[Mo]+25[V]+30[Ti])の増加に伴い鋼中への侵入水素量が指数的に増加している。これは、(10[Mo]+25[V]+30[Ti])の増加に伴い析出物が多量に析出し、結果として、腐食されやすい炭窒化物と母相の界面が増加することで、上述の通り侵入水素量が増加することによる。また図2から、遅れ破壊強度が(10[Mo]+25[V]+30[Ti])の増加に伴い低下しているが、これは、上記侵入水素量の増加が原因で耐遅れ破壊性が劣化したことによる。
ところで図3は、鋼材の遅れ破壊強度と下記実体曝露試験における破断本数の関係を示したグラフであり、次の様な方法で求めたものである。即ち、鋼種と熱処理条件を変えて種々の強度の鋼材を用意し、環状切欠き付き試験片を作成して、酸性水溶液中に浸漬(35%HCl×15分)し、水洗・乾燥させた後、大気中で種々のレベルの応力を負荷し、100時間に亘って負荷し続けても破断しない最高負荷応力を「遅れ破壊強度」としてそれぞれ求めた。また、この様にして遅れ破壊強度を測定した鋼材を用いて実体曝露試験を行なった。具体的には、上記種々の強度の鋼材を用いてM22×90mmLの六角ボルトを作成し、該ボルトを用いて板厚25mmの鋼板2枚を設計軸力の10%増しで締め付け、田園地帯、工場海岸地帯、淡水中及び海水中にそれぞれ20本ずつ(1遅れ破壊強度につき合計80本)3年間放置した。そして、破断の有無を1週間ごとに確認し3年間で破断したボルトの本数を求めた。
この図3から、破断本数の限りなく少ない、即ち、遅れ破壊発生率の極めて小さい遅れ破壊強度の下限を1800N/mm2とすると、前記図2から、1800N/mm2以上の遅れ破壊強度を達成するには、前記(10[Mo]+25[V]+30[Ti])を14.0以下に抑える必要があることがわかる。より優れた耐遅れ破壊性を得るには、(10[Mo]+25[V]+30[Ti])を12.0以下とすることが好ましく、より好ましくは11.0以下、更に好ましくは10.0以下である。
一方、上記(10[Mo]+25[V]+30[Ti])の下限は、良好な焼戻し軟化抵抗を得る観点から、4.0以上とする必要があることを実験で確認した。より良好な焼戻し軟化抵抗を得て、880℃〜920℃で焼入れし、次いで550℃以上で焼戻したときに1300N/mm2以上の引張強度を容易に確保するには、(10[Mo]+25[V]+30[Ti])が5.0以上であることが好ましく、より好ましくは6.0以上、更に好ましくは7.0以上である。
上記Ti、V、Moの析出物(炭素含有析出物)量をコントロールするにあたっては、Crが、鋼中の固溶C量及び上記Mo、V及びTiの炭化物生成に非常に大きな影響を及ぼす。これは、Cr系炭化物が焼戻し時に析出物の中で最も早く析出し、またCrとCの親和力が、その他の炭化物生成元素(MoやV、Ti等)とCとの親和力と同等もしくはそれ以上だからである。
そこで本発明では、ある一定量以上のCrを含有させて、Cr系炭化物をMo、V、Ti等の析出物よりも早期に析出させ、固溶C量を低減することでMo、V、Ti等の炭化物が多量に析出するのを抑制し、耐遅れ破壊性を高めた。この場合、C量を予め低減しておくことも考えられるが、Cは、後述の通り焼入れ時の強度確保や焼入性の確保に必要であることから、Cr量をC量に合わせて制御することとした。本発明者らが様々な調査を行ったところ、[Cr(質量%)/C(質量%)]の値を2.3以上とする必要があることがわかった。
そして上記C量との関係から、Crを、C量の下限:0.30%の2.3倍を超える少なくとも0.80%存在させることとした。Cr量の下限は、好ましくはC量の下限の3倍にあたる0.90%であり、より好ましくは0.95%以上である。
一方、Crが過剰になると、粒界酸化を助長させたり、焼入性を高めすぎて鋼材やボルト等の製造時の不良(圧延時の割れ、焼割れ等)発生原因となるので、Cr量の上限を1.2%とした。好ましくはCr量を1.10%以下、より好ましくは1.05%以下である。
本発明は、上記の通り、式(1)を満たすよう特にMo量、V量及びTi量の関係、及びCr量とC量の関係を制御し、良好な軟化抵抗を実現すると共に侵入水素量を抑制することによって、高強度域での耐遅れ破壊性を向上させる点に特徴があるが、上記式(1)の制御による耐遅れ破壊性の向上を確実に達成すると共に、ボルトとして必要なその他の特性を確保するには、下記の通り成分組成を満足させる必要がある。
〈C:0.30〜0.45%〉
Cは、鋼の焼入性と強度確保のために必要な元素である。特に本発明の鋼は、後述する通り、Mo,V、Tiといった析出硬化型元素を高温焼入れによって固溶させた後、高温焼戻しによって必要量の炭素含有析出物を析出させる必要があるため、Cを0.30%以上、好ましくは0.33%以上含有させる必要がある。一方、C量が過剰になると、鋼の靭性劣化により遅れ破壊特性が低下する。そのためC量の上限を0.45%以下とした。好ましくは0.40%以下であり、より好ましくは0.38%以下である。
〈Si:0.2%以下(0%を含まない)〉
Siは、脱酸剤として添加される元素であるが、残存するSi量が過剰になると焼入れ等の熱処理時に粒界酸化が助長され、遅れ破壊が生じ易くなる。よってSi量は0.2%以下に抑える。好ましくは0.10%以下、より好ましくは0.07%以下である。
〈Mn:0.30〜0.80%〉
Mnは、焼入性向上元素であり高強度を達成するのに有用な元素である。この様な効果を発現させるにはMnを0.30%以上含有させる必要がある。好ましくは0.40%以上であり、より好ましくは0.45%以上である。一方、Mn量が過剰になると、粒界への偏析が助長され粒界強度が低下するため、遅れ破壊が生じ易くなる。よってMn量は0.80%以下に抑える。好ましくは0.60%以下であり、より好ましくは0.55%以下である。
〈Mo:0.20〜0.60%〉
Moは、焼入性向上元素であり、かつ析出硬化型元素でもあるため強度確保に有用である。また、Moは粒界酸化抑制作用を有しており、上述した様にTi及びVとバランスよく添加することで耐遅れ破壊性を向上させる。よって本発明では、Moを0.20%以上含有させる。好ましくは0.35%以上である。一方、Moが過剰になると、炭化物の増量・増大を招き、侵入水素量が増加して耐遅れ破壊性が劣化するだけでなく、コストアップの原因にもなるので、Mo量の上限を0.60%とした。好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.45%以下である。
〈V:0.03〜0.25%〉
Vは、結晶粒を微細化すると共に、析出硬化により高強度を達成するのに有用な元素である。これらの作用を発揮させるには、V量を0.03%以上とする必要がある。好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.08%以上、更に好ましくは0.09%以上である。しかしV量が過剰になると、鋼の溶製時に生成するV炭化物が増量又は粗大化し、結果として侵入水素量が増大し遅れ破壊特性が劣化する。またVの巨大炭化物が焼入れの加熱の際に十分固溶せず、鋼の靭性を劣化させる場合がある。更には冷間加工性の低下やコストアップの原因ともなるので、V量は0.25%以下とする。好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.10%以下である。
〈Ti:0.03〜0.25%〉
Tiも、Vと同様に結晶粒を微細化すると共に、析出硬化により高強度を達成するのに有用な元素である。この様な効果を発現させるためTi量を0.03%以上とする。好ましくは0.04%以上、より好ましくは0.045%以上である。しかしTi量が過剰になると、上記Vの場合と同様に、鋼の溶製時に生成するTi炭化物が増量又は粗大化し、結果として侵入水素量が増大し遅れ破壊特性が劣化する。またTiの巨大炭化物が焼入れの加熱の際に十分固溶せず、鋼の靭性を劣化させる場合がある。更には冷間加工性の低下やコストアップの原因にもなるので、Ti量は0.25%以下とする。好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは0.06%以下である。
〈Al:0.5%以下(0%を含まない)〉
Alは、脱酸剤として添加される元素であり、また、さび緻密化による耐食性の向上作用を期待できる元素でもある。脱酸剤としての利用を考慮すると、現実的には0%を超えており、耐食性向上作用を発揮させる観点からは0.01%以上存在させることが好ましい。より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.03%以上である。一方、Al量の増加に伴い酸化物系介在物量が増大して、耐遅れ破壊性が低下し易くなる。よってAl量は0.5%以下に抑える。好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.10%以下、更に好ましくは0.05%以下に抑える。
〈P:0.02%以下(0%を含まない)〉
Pは、粒界偏析による粒界破壊を助長して耐遅れ破壊性を劣化させる元素であるため、低い方が望ましく、その上限を0.02%とする。好ましくは0.009%以下に抑える。
〈S:0.02%以下(0%を含まない)〉
Sは、鋼中でMnSを形成し、該MnSが応力負荷時に応力集中箇所となり、遅れ破壊の起点となり得る。従って、耐遅れ破壊性の改善にはS量を減少させる必要があり、本発明では0.02%以下に抑える。好ましくは0.009%以下である。
〈N:0.02%以下(0%を含まない)〉
Nは、耐遅れ破壊性を劣化させる有害な元素であるため、極力低減する必要があり、本発明では0.02%以下に抑える。好ましくは0.015%以下、更に好ましくは0.010%以下であり、特に好ましくは0.007%以下である。
本発明で規定する含有元素は上記の通りであり、残部成分は実質的にFeであるが、鋼中に、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物として、0.0030%以下のO(酸素)等が含まれることが許容されるのは勿論のこと、前記本発明の作用に悪影響を与えない範囲で、下記の如く、更に他の元素を積極的に含有させることも可能である。
〈Cu及び/又はNi:合計で1%以下(0%を含まない)〉
Cuは、耐食性を高めて水素の侵入を抑制するのに有効な元素である。またNiは、鋼の靱性および焼入性を高める作用があると共に、Cuと同様、耐食性を向上させて水素侵入を抑制するのに有効な元素である。これらの効果を十分に発揮させるには、Cu及び/又はNiを合計で0.2%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.3%以上である。一方、Cuを過剰に添加しても効果が飽和し、靭性が却って劣化する。また、Niを過剰に添加した場合も効果が飽和してコストアップを招く。従って、Cu及び/又はNiは合計で1%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.7%以下であり、更に好ましくは0.5%以下である。
〈Zr、W及びNbよりなる群から選択される1種以上
:合計で0.5%以下(0%を含まない)〉
Zr、W、Nbは、前記Tiと同様に、微細な炭窒化物を形成して遅れ破壊特性の向上に寄与する元素である。またこれらの元素の窒化物及び炭化物は結晶粒の微細化に有効に作用する。これらの効果を発揮させるには、Zr、W及びNbよりなる群から選択される1種以上を合計0.1%以上含有させることが好ましい。しかしこれらの元素を過剰に添加しても効果が飽和するため、コストを抑える観点から合計で0.5%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.4%以下、更に好ましくは0.3%以下である。
〈B:0.0050%以下(0%を含まない)〉
Bは、鋼の焼入れ性向上及び結晶粒界の清浄化に有用な元素であり、これらの効果を発現させるには、0.0003%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.0004%以上である。しかしB量が過剰になると却って靭性が低下するため、上限を0.0050%とするのがよい。
上記化学成分を有する鋼は、潜在的に優れた強度特性及び耐遅れ破壊性を有しているが、該鋼を用いて強度特性及び耐遅れ破壊性の十分に優れた高強度鋼部品(高強度ボルト)を得るには、所定のボルト形状に加工後、焼入れ焼戻しを適切な条件で行うことが推奨される。適量のMo、V、Tiの微細炭化物は、強度向上のみならず、耐遅れ破壊性の向上にも有用であり、本発明において、Mo、V、Ti等の析出硬化型元素を焼入れ加熱時に鋼中へ固溶させ、焼戻し時に微細炭化物として析出させることが必要だからである。また優れた耐遅れ破壊性を実現するには、焼入れ時の結晶粒粗大化を防止することも必要だからである。
具体的には、焼入れ時の加熱温度を880℃以上とすることが推奨される。これより低いと前記析出硬化型元素が鋼中に固溶せず、焼戻しを行なっても十分な析出物を確保できない。また焼入れ前の組織に球状化炭化物が存在する場合には、該球状化炭化物が溶け残り所定の引張強度が得られ難くなる。好ましくは加熱温度を900℃以上とする。一方、焼入れ時の加熱温度が高すぎると、焼ムラ、結晶粒粗大化等の不具合が生じたり、設備改善等のコストアップを招く原因となる。よって、焼入れ時の加熱温度は920℃以下とするのがよい。より好ましくは910℃以下である。
次に焼戻しであるが、焼入れ加熱時に固溶したMo、V、Ti等の析出硬化型元素を、微細な析出物として析出させるには、550℃以上の温度で焼戻すことが推奨される。これより低い温度で焼戻しを行っても微細炭化物が析出し難く、焼戻し軟化抵抗が得られないため遅れ破壊特性を十分に改善することができない。より好ましくは焼戻し時の加熱温度を570℃以上とする。一方、焼戻し温度が高すぎると軟化抵抗の効果が薄れて、十分な軟化抵抗が得られず、所望の強度が得られなくなるため600℃以下とすることが推奨される。より好ましくは580℃以下である。
また焼入れ・焼戻しにおける上記以外の条件は、上記加熱温度と析出硬化型元素の特性を考慮して設定することができ、例えば下記の条件を採用することができる。
[焼入れ条件]
・加熱の保持時間:10分以上(好ましくは20分以上)
1時間以下(好ましくは40分以下)
・冷却条件:油冷または水冷
[焼戻し条件]
・加熱の保持時間:30分以上(好ましくは70分以上)
3時間以下(好ましくは2時間以下)
・冷却条件:油冷、水冷または空冷
本発明は、その他の製造条件についても規定するものではなく、上記成分組成を満たす鋼材を用いて、例えば熱間圧延後、必要に応じて球状化焼鈍を行った後に伸線し、その後冷間圧造、冷間鍛造等の冷間加工を行ってボルト形状とすることができる。
上述のようにして焼入れ焼戻された本発明のボルトは、引張強度が1300N/mm2以上と高強度を示すことに加え、旧オーステナイト結晶粒が、結晶粒度番号:10.0以上と微細であるため高負荷応力下や高温下での耐遅れ破壊性にも優れている。より好ましくは旧オーステナイト結晶粒度番号が11.0以上のものである。
本発明の高強度ボルトとしては、ハイテンションボルト、トルシア型ボルト、溶融亜鉛めっき高力ボルト、防錆処理高力ボルト、耐火鋼高力ボルト等が挙げられ、自動車分野、建築分野、産業機械分野等で用いられる高強度かつ耐腐食性及び耐遅れ破壊性に優れたボルトとして最適である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1,2に記載の成分組成からなる供試鋼をφ12まで熱間圧延した後、鋼材を表3に示す条件で焼入れ焼戻した。焼入れは各温度で30分間保持した後油冷し、焼戻しは各温度で90分間加熱した後水冷して行った。この様にして得られた各試料の旧オーステナイト結晶粒度番号、引張強度(TS)及び耐遅れ破壊性を下記要領で夫々調べた。
[旧オーステナイト結晶粒度番号の測定]
焼入れ焼戻しを行った試験片の横断面のD/4部(Dは直径)を観察し、JIS G 0551に規定の「鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法」で旧オーステナイト結晶粒度番号を測定した。
[引張強度の測定]
上記旧オーステナイト結晶粒度番号の測定後、図4に示す引張試験片を切削加工により作製して引張試験を行った。そして、引張強度が1300N/mm2以上のものを十分な焼戻し軟化抵抗と引張強度を示すと評価した。
[遅れ破壊強度の測定]
上記旧オーステナイト結晶粒度番号の測定後、図5に示す遅れ破壊試験片を切削加工により作製して遅れ破壊試験を行った。遅れ破壊試験は、上記遅れ破壊試験片を酸性水溶液中に浸漬(35%HCl×15分)し、水洗・乾燥させた後、大気中で種々のレベルの応力を負荷し、100時間に亘って負荷し続けても破断しない最高負荷応力を「遅れ破壊強度」として求めた。そして該遅れ破壊強度が、遅れ破壊の実際に生じる確率が極めて小さい遅れ破壊強度:1800N/mm2以上のものを、耐遅れ破壊性に優れると評価した。
これらの結果を表3に示す。
Figure 0004430559
Figure 0004430559
Figure 0004430559
表1〜3から次の様に考察することができる。本発明で規定する要件を満たすNo.1〜24は、1300N/mm2以上の高強度を示し、かつ過酷な環境下での耐遅れ破壊性にも優れている。これに対し、本発明の規定を満足しないNo.25〜43は、夫々、以下の不具合を有している。
即ちNo.25は、C量が少なすぎるため鋼材の焼入性が低く、焼入れが不十分となり所望の引張強度を確保できなかった。No.26は、C量が多すぎるため靭性が低下し、耐遅れ破壊性が劣化した。
No.27はMn量が少なすぎるため鋼材の焼入性が低く、焼入れが不十分となり所望の引張強度を確保できなかった。またNo.28は、Mn量が過剰であるため粒界偏析が助長され、耐遅れ破壊性が劣化した。
No.29は、P及びSが共に規定の上限を超えているため粒界が脆化し、耐遅れ破壊性が劣化した。
No.30及び31は、上記式(1)を満たすがCr量が不足してCr/C値が低くなったため、MoやV、Tiの炭化物が増量・粗大化して水素侵入量が多くなり、耐遅れ破壊性が劣化した。
No.32は、C量を低減してCr/C値を高めているが、C量が少なすぎるため、焼戻し後の引張強度を十分確保できなかった。
No.33は、Cr/C値及び式(1)を満たしているがCrが過剰であるため、引張強度や耐遅れ破壊性に優れているが、圧延割れや加工性の低下、焼割れ等の不具合が生じ易く製造性の観点から好ましくない。
No.34〜40は、いずれもMo、V及びTiの1種以上が過剰に含まれているため、式(1)を満たさず、炭窒化物が増量・粗大化して水素侵入量が多くなり、耐遅れ破壊性が劣化する結果となった。
No.41は、従来鋼のSCM435を用いて行った例であるが、Ti及びVを含まず本発明で規定する式(1)も満足していないため、所望の引張強度を確保できていない。
No.42は、Mo、V及びTiを全て含んでいるが、Mo量とTi量が少なく式(1)も満足していないため、所望の引張強度が得られなかった。
No.43は、Cr及びCは規定範囲内にあるが、Cr/C値が本発明の範囲を満たしていないため、耐遅れ破壊性が劣化した。
腐食減量と水素濃度の関係を示すグラフである。 式(1)における(10[Mo]+25[V]+30[Ti])と、鋼中への侵入水素量及び遅れ破壊強度との関係を示すグラフである。 遅れ破壊強度と実体曝露試験における破断本数の関係を示すグラフである。 実施例で用いた引張試験片の概略側面図である。 実施例で用いた遅れ破壊試験片の概略側面図である。

Claims (5)

  1. C :0.30〜0.45%(質量%の意味、以下同じ)、
    Si:0.2%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.30〜0.80%、
    Mo:0.20〜0.60%、
    V :0.03〜0.25%、
    Ti:0.03〜0.25%、
    Cr:0.80〜1.2%、
    Al:0.5%以下(0%を含まない)、
    P :0.02%以下(0%を含まない)、
    S :0.02%以下(0%を含まない)、
    N :0.02%以下(0%を含まない)、
    残部:Feおよび不純物であって、
    Cr/C≧2.3
    を満たすと共に、Mo、V及びTiが下記式(1)を満たすことを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼。
    4.0 ≦(10[Mo]+25[V]+30[Ti])≦14.0 …(1)
    [式(1)中、[Mo]、[V]、[Ti]は、それぞれMo、V、Tiの含有量
    (質量%)を示す]
  2. 更に、Cu及び/又はNiを合計で1%以下(0%を含まない)含む請求項1に記載の高強度ボルト用鋼。
  3. 更に、Zr、W及びNbよりなる群から選択される1種以上を合計で0.5%以下(0%を含まない)含む請求項1または2に記載の高強度ボルト用鋼。
  4. 更に、Bを0.0050%以下(0%を含まない)含む請求項1〜3のいずれかに記載の高強度ボルト用鋼。
  5. 前記請求項1〜4のいずれかに記載の成分組成を満たし、旧オーステナイト結晶粒度番号が10.0以上であり、かつ引張強度が1300N/mm2以上であることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト。

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