JP5796549B2 - 耐候性ボルト用鋼材 - Google Patents
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各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」は、「質量%」を意味する。
Cは、焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。十分な焼入れ性を得るためには、0.20%以上のCを含有させる必要がある。しかしながら、0.55%を超える量のCを含有させると焼割れの可能性が高まる。したがって、C含有量は、0.20〜0.55%とする。なお、C含有量が0.30%を超える場合には、焼入れは油焼入れ等の焼割れを防止できる徐冷であることが望ましい。経済性の観点からは焼入れは水焼入れが望ましく、この場合には、焼き割れ防止の観点からC含有量は、0.30%以下とすることが望ましい。
Siは、脱酸ならびに焼入れ性および強度の向上に有効な元素である。しかしながら、1.0%を超えて含有させてもその効果は飽和し、また冷間鍛造する場合のボルトや部品への成形性が著しく低下する。したがって、Si含有量は、1.0%以下とする。Si含有量は、0.30%以下であるのが望ましい。なお、上記の効果を得るためには、0.05%以上含有させることが望ましい。
Mnは、焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。しかしながら、2.0%を超えて含有させると粒界に偏析し、粒界割れ型の遅れ破壊を促進するため、Mn含有量は、2.0%以下とする。Mn含油量は、1.5%以下とすることが望ましく、1.0%以下とすることがより望ましい。なお、上記の効果を得るためには、0.5%以上含有させることが望ましく、0.6%以上含有させることがより望ましい。
Pは、粒界に偏析し、靱性および耐遅れ破壊性を低下させ、特に、その含有量が0.030%を超えると、靱性や耐遅れ破壊性を低下が顕著になる。したがって、P含有量は、0.030%以下とする。P含有量は、0.020%以下であることが望ましく、0.015%以下であることがより望ましい。
Sは、Pと同様に粒界に偏析し、耐遅れ破壊性を低下させ、特に、その含有量が0.030%を超えると、耐遅れ破壊性の低下が顕著になる。したがって、S含有量は、0.030%以下とする。S含有量は、0.020%以下であることが望ましく、0.010%以下であることがより望ましい。
Alは、鋼の脱酸に有効な元素である。しかしながら、0.10%を超えて含有させてもその効果は飽和し、またフェライト相の生成が促進され耐遅れ破壊性が低下するため、Al含有量は、0.10%以下とする。上記の効果を十分に確保するためには、0.005%以上含有させることが望ましい。なお、本発明のAl含有量とは酸可溶Al(いわゆる「sol.Al」)を指す。
Crは、焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。この観点から0.10%以上のCrを含有させる必要がある。しかしながら、0.50%を超える量のCrを含有させると塩害環境における腐食を促進し、特に、Sn含有鋼においては、Snの大気腐食抑制・水素侵入抑制効果を低減させる。そのため、Cr含有量は、0.10〜0.50%とする。Cr含有量は、0.20%以上であることが望ましく、0.35%以下であることが望ましい。
Nbは、焼入れ時に微細なNb系炭窒化物を形成し、旧オーステナイト粒径を微細化し、耐遅れ破壊性を改善する効果を有する。この効果を得るためには、0.005%以上のNbを含有させる必要がある。しかしながら、0.10%を超える量のNbを含有させてもその効果は飽和し、かつ、過剰なNb系炭窒化物の生成により冷間鍛造性が低下する。そのため、Nb含有量は、0.005〜0.10%とする。Nb含有量は、0.01%以上であることが望ましく、0.04%以下であることが望ましい。
Bは、焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。この観点から0.0003%以上のBを含有させる必要がある。しかしながら、0.0030%を超える量のBを含有させてもその効果は飽和し、かつ、粒界に粗大なM23(C,B)6(Mは、Fe、CrまたはMo)を生成し、耐遅れ破壊性を低下させる。そのため、B含有量は、0.0003〜0.0030%とする。B含有量は、0.0010%以上であることが望ましく、0.0020%以下であることが望ましい。
Snは、本発明において最も重要な元素であり、塩化物環境において鋼の腐食を低減し、かつ水素侵入を抑制する効果を発現する。この効果を得るためには、0.05%以上のSnを含有させる必要がある。しかしながら、0.50%を超える量のSnを含有させてもその効果は飽和し、かつ、冷間鍛造性の低下の問題が生じる。そのため、Sn含有量は、0.05〜0.50%とする。Sn含有量は、0.07%以上であることが望ましく、0.25%以下であることが望ましい。
Oは、不純物として鋼に不可避的に存在し、Alと結びついて酸化物を形成する。過剰に酸化物が生成すると鋼材の靭性が低下するなどの問題が起こる。したがって、O含有量は、0.010%以下とする。O含有量は、極力少ない方が望ましい。
Nは、不純物として鋼に不可避的に存在し、Ti、ZrまたはBと結びついて窒化物を形成する。Nを過剰に含むと、TiおよびZrで固定しきれないNがBと結びついてB窒化物(BN)を形成し、Bが焼入れ性の向上に有効に働かなくなる。したがって、N含有量は、0.010%以下とする。N含有量は、極力少ない方が望ましい。
MoおよびVは、焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。さらに焼戻し軟化抵抗を高め、焼入れ後の焼戻し温度を高めることで耐遅れ破壊性を改善する効果を有するため、本発明では重要な元素であり、少なくともどちらか一方を含有させる必要がある。しかしながら、MoおよびVは、過剰に含有させてもその効果は飽和し、かつ、鋼材のコスト上昇の要因となる。そのため、MoおよびVの含有量は、Mo:1.00%以下およびV:0.50%以下とする。MoまたはVの一方を含有させる場合、Moは0.10%以上、Vは0.05%以上含有させる必要がある。また、MoおよびVの両方を含有させる場合、Mo+2V:0.10〜1.00%を満足する範囲で含有させる必要がある。Mo+2Vは、0.15%以上であることが望ましく、0.80%以下であることが望ましい。Moを含有させる場合、その含有量は、0.15%以上であることが望ましい。また、Mo含有量は、0.80%以下であることが望ましく、0.50%以下であることがより望ましい。後述のV系炭化物またはV−Mo系炭化物を析出させるためには、Vを含有させるのが望ましく、その場合、V含有量は、0.05%以上であることが望ましく、0.08%以上であることがより望ましい。また、V含有量は、0.30%以下であることが望ましく、0.20%以下であることがより望ましい。
TiおよびZrは、窒素を炭窒化物として固定し、Bが窒化物(BN)として消費されるのを防ぎ、鋼材の焼入れ性を確保するのに有効な元素である。また、焼入れ時に微細な炭化物を形成し旧オーステナイト結晶粒径を微細化して、耐遅れ破壊性を改善する効果を有する。そのため、TiおよびZrの少なくともどちらか一方を含有させる必要がある。しかしながら、TiおよびZrは、過剰に含有させてもその効果は飽和し、また、過剰なTi系炭窒化物およびZr系窒化物の生成により冷間鍛造性が低下する。そのため、TiおよびZrの含有量は、Ti:0.10%以下およびZr:0.20%以下とする。TiまたはZrの一方を含有させる場合、Tiは0.005%以上、Zrは0.010%以上含有させる必要がある。また、TiおよびZrの両方を含有させる場合、Ti+0.5Zr:0.005〜0.10%を満足する範囲で含有させる必要がある。Ti+0.5Zrは、0.010%以上であることが望ましく、0.020%以下であることが望ましい。Tiを含有させる場合、その含有量は、0.010%以上であることが望ましい。また、Ti含有量は、0.020%以下であることが望ましく、0.016%以下であることがより望ましい。Zrを含有させる場合、その含有量は、0.020%以上であることが望ましい。また、Zr含有量は、0.040%以下であることが望ましく、0.030%以下であることがより望ましい。
Niは、腐食生成物による保護効果を強化し、Snほどではないが水素侵入を抑制する効果を有するので、必要に応じて含有させても良い。しかしながら、3.0%を超える量のNiを含有させてもその効果は飽和し、また、コスト上昇を招くおそれがある。したがって、Niを含有させる場合、3.0%以下とする。Ni含有量は、1.0%以下とすることがより望ましい。上記の効果を得るためには、Ni含有量は、0.2%以上であることが望ましい。
Cuは、Niと同様に、腐食生成物による保護効果を強化し、水素侵入を抑制する効果を有するので、必要に応じて含有させても良い。しかしながら、1.0%を超える量のCuを含有させてもその効果は飽和し、また、冷間鍛造性が低下するおそれがある。したがって、Cuを含有させる場合、1.0%以下とする。Cu含有量は、0.5%以下とすることがより望ましい。上記の効果を得るためには、Cu含有量は、0.05%以上であることが望ましい。
Caは、鋼中のSと結合して硫化物を形成し、鋼の熱間加工性を改善させる効果を有するので、必要に応じて含有させても良い。しかしながら、0.01%を超える量のCaを含有させてもその効果は飽和し、また、溶解性のCa系酸化物が過剰に生成し、孔食の起点となって耐遅れ破壊性が低下するおそれがある。したがって、Caを含有させる場合、0.01%以下とする。Ca含有量は、0.003%以下であることがより望ましい。上記の効果を得るためには、Ca含有量は、0.0003%以上であることが望ましい。
Mgは、Caと同様に、鋼中のSと結合して硫化物を形成し、鋼の熱間加工性を改善させる効果を有するので、必要に応じて含有させても良い。しかしながら、0.01%を超える量のMgを含有させてもその効果は飽和し、また、溶解性のMg系酸化物が過剰に生成し、孔食の起点となって耐遅れ破壊性が低下するおそれがある。したがって、Mgを含有させる場合、0.01%以下とする。Mg含有量は、0.003%以下であることがより望ましい。上記の効果を得るためには、Mg含有量は、0.0003%以上であることが望ましい。
本発明の耐候性ボルト用鋼材は、V系炭化物またはV−Mo系炭化物を断面観察において10個/μm2以上含有する組織を有することが望ましい。Vは、微細なV系炭化物を形成し、Moとともに含有させた場合には、微細なV−Mo系炭化物を形成する。薄膜法による電子顕微鏡観察で、1μm2の広さの視野中に10個以上の微細なV系炭化物またはV−Mo系炭化物を含有させれば、十分な耐遅れ破壊性改善効果を得ることができるため望ましい。ここで、V系炭化物またはV−Mo系炭化物とは、VおよびC、またはV、MoおよびCを主体とするNaCl構造のMX型炭化物を意味する。Mを構成する主要合金元素はVおよびMoであるが、その一部の極微量がNb、Ti、Zrで置換されていても良い。また、Xを構成する主要元素はCであるが、その一部がNで置換されていても良い。
本発明に係る耐候性ボルト用鋼材を製造するに際し、十分な強度および均一な組織を得るためには、焼入れ焼戻しの熱処理を行うことが望ましい。焼入れ時にMo、V等の炭化物生成元素を十分固溶させ、その後、微細炭化物として析出させるためには、焼入れのための加熱温度は、880℃以上とすることが望ましい。
・湿潤:50℃、相対湿度100%、6時間
・塩分付着:0.5質量%NaCl、0.1質量%CaCl2、0.075質量%NaHCO3水溶液浸漬、0.25時間
・乾燥:60℃、相対湿度50%、17.75時間
の合計24時間とした。
Claims (5)
- 化学組成が、質量%で、C:0.20〜0.55%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.10%以下、Cr:0.10〜0.50%、Nb:0.005〜0.10%、B:0.0003〜0.0030%、Sn:0.05〜0.50%、O:0.010%以下、N:0.010%以下を含有するとともに、Mo:1.00%以下およびV:0.50%以下から選択される1種または2種をMo+2V:0.10〜1.00%を満足する範囲で含有し、かつ、Ti:0.10%以下およびZr:0.20%以下から選択される1種または2種をTi+0.5Zr:0.005〜0.10%を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする1000〜1200MPaの引張強さを有する耐候性ボルト用鋼材。
- 化学組成が、質量%で、C:0.20〜0.55%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.10%以下、Cr:0.10〜0.50%、Nb:0.005〜0.10%、B:0.0003〜0.0030%、Sn:0.05〜0.50%、O:0.010%以下、N:0.010%以下を含有するとともに、V:0.05〜0.50%、またはV:0.05〜0.50%およびMo:1.00%以下を、Mo+2V:0.10〜1.00%を満足する範囲で含有し、かつ、Ti:0.10%以下およびZr:0.20%以下から選択される1種または2種をTi+0.5Zr:0.005〜0.10%を満足する範囲で含有し、残部がFeおよび不純物からなり、V系炭化物またはV−Mo系炭化物を断面観察において10個/μm2以上含有することを特徴とする1000〜1200MPaの引張強さを有する耐候性ボルト用鋼材。
- 化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、さらにNi:3.0%以下およびCu:1.0%以下から選択される1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の1000〜1200MPaの引張強さを有する耐候性ボルト用鋼材。
- 化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、さらにCa:0.01%以下およびMg:0.01%以下から選択される1種または2種を含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の1000〜1200MPaの引張強さを有する耐候性ボルト用鋼材。
- 旧オーステナイト結晶粒度番号が11.0以上であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の1000〜1200MPaの引張強さを有する耐候性ボルト用鋼材。
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