JP7462395B2 - フェライト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼の製造方法 - Google Patents

フェライト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼の製造方法 Download PDF

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Description

本願はフェライト系ステンレス鋼及びその製造方法を開示する。特にマルテンサイト系ステンレス鋼を製造する場合の材料として適したフェライト系ステンレス鋼を開示する。
SUS420J1やSUS420J2に代表されるマルテンサイト系ステンレス鋼は、C、Nなどの侵入型固溶強化元素を多量に固溶することが可能な高温でのオーステナイト相の安定領域から、冷却をともなう熱処理、所謂、焼き入れによって、過飽和なC、Nの固溶強化を一因とする硬質なマルテンサイト組織に調整される。マルテンサイト組織は、室温を含む比較的低温域での加熱保持により炭化物、窒化物を析出することで、軟質で加工が可能なフェライト相に変化する。なお、粗大な窒化物が析出した場合、熱間加工性が著しく劣化するため、侵入型固溶強化元素としては一般的にCが活用される。
このため、熱間圧延後に室温まで冷却し、バッチ式のボックス炉での再加熱により比較的低温域のフェライト相の安定領域での焼き鈍しを行い(非特許文献1)、炭化物、窒化物を析出させることで、軟質で圧延等の加工が可能なフェライト相を主体とする組織とされる。次いで、最終製品に近い形状に加工され、その後に焼き入れ、硬さ他の特性の調整を目的とする焼き戻しの熱処理によりマルテンサイトを主体とする組織を得る。マルテンサイト系ステンレス鋼は非常に硬質であるため、炭化物、窒化物の分散した軟質なフェライト相を主体とするフェライト系ステンレス鋼を得て、当該フェライト系ステンレス鋼を成形加工後にマルテンサイトを主体とする組織とするのが合理的であり、一般的であると考える。
このため、焼き入れ前のフェライト相を主体とするフェライト系ステンレス鋼に求められる特性としては焼き入れ性が良いことが挙げられる。具体的には、「焼き入れ後の硬度が高いこと」と「適正焼き入れ温度範囲が広いこと」が挙げられる。前者は主に成分が影響するため、これまでに特許文献1及び2のように成分を限定して高硬度を得る技術が知られている。
一方、後者の「適正焼き入れ温度範囲が広いこと」は、所定の硬度以上が得られる温度範囲が広いこと、それがより短時間で達成されることを意味する。焼き入れにより高硬度とするのは、その後に実施する焼き戻しにより所定の硬度へ調整、安定した値とするためである。マルテンサイト系ステンレス鋼の焼き入れは、高硬度が得られる適正温度範囲内、適正時間範囲内で行う。ただし、所定の硬度に達しない場合、炭化物、窒化物を形成する侵入型固溶強化元素の固溶の促進を目的とする高温及び/又は長時間での加熱後、再度の焼き入れが必要となる。すなわち、焼き入れ後の特性を安定に保つには適正焼き入れ温度範囲が広いこと、それがより短時間で達成されることが望まれる。しかし、このような観点での素材開発は行われて来なかった。
なお、焼き入れ方法は、金型焼き入れ、空冷、水冷等の方法があり、冷却速度は、金型の材質にも依存するが、空冷<金型焼き入れ<水冷である。ここでは、焼き入れ後の冷却速度が大きく、速いほど、加熱保持中に固溶した強化元素が析出すること無く、より多く固溶した状態を維持し、焼き入れ後の硬度が高まるものと考える。
ステンレス鋼便覧第3版、ステンレス協会編(1995)、829頁
特開2000-109957号公報 特開2008-231517号公報
以上のように、マルテンサイト系ステンレス鋼は非常に硬質であり成形加工が容易でないことから、軟質なフェライト相を主体とするフェライト系ステンレス鋼を得て、当該フェライト系ステンレス鋼を成形加工後、焼き入れ熱処理によりマルテンサイトを主体とする組織に調整される。このため、焼き入れ後の硬さを安定に保つには、フェライト系ステンレス鋼の適正な焼き入れ温度範囲が広いことが望まれる。
上記の課題に鑑み、本願は、マルテンサイト系ステンレス鋼を製造するにあたっての適正な焼き入れ温度範囲が広いフェライト系ステンレス鋼を開示する。
本発明者らは、フェライト相を主体とするフェライト系ステンレス鋼から焼き入れ及び焼き戻しによりマルテンサイト系ステンレス鋼を製造する際に、所定の硬度が得られる焼き入れ温度の範囲ΔTを調査した。その結果、焼き入れ前の金属組織、特に炭化物の析出量、大きさ及び密度によりΔTが大きく変化することが判明した。特にCの大半を微細な炭化物として析出させたうえで、当該微細な炭化物密度を高めることにより、適正な焼き入れ温度の範囲ΔTを拡大可能であることを見出した。
上記知見に基づき、本願は上記課題を解決するための手段の一つとして以下の技術を開示する。
[1]質量%で、C:0.14%以上0.45%以下、Si:0.01%以上1.00%以下、Mn:0.01%以上1.00%以下、Cr:11.5%以上14.5%以下、Ni:0%以上0.80%以下、N:0.002%以上0.070%以下、P:0%以上0.040%以下、S:0%以上0.0300%以下、を含み、直径0.9μm以下の炭化物が0.8個/μm以上存在し、ビッカース硬度が160HV以上300HV以下であり、下記(1)式を満足する、フェライト系ステンレス鋼。
Cp/Ct≧0.90・・・(1)
(式(1)において、Cpは鋼材中に析出物として存在するC量、Ctは鋼材中に存在する総C量である。)
[2]質量%で、Al:0%以上0.30%以下、Nb:0%以上0.07%以下、B:0%以上0.0030%以下、Ti:0%以上0.07%以下、Mo:0%以上0.75%以下、V:0%以上0.30%以下、Sn:0%以上0.12%以下、Cu:0%以上0.40%以下、W:0%以上1.0%以下、Co:0%以上0.50%以下、Zr:0%以上0.50%以下、Ca:0%以上0.0050%以下、Mg:0%以上0.0050%以下、Y:0%以上0.10%以下、Hf:0%以上0.20%以下、REM:0%以上0.10%以下、Sb:0%以上0.15%以下、のうちの1種又は2種以上を含む、[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼。
[3]質量%で、C:0.14%以上0.45%以下、Si:0.01%以上1.00%以下、Mn:0.01%以上1.00%以下、Cr:11.5%以上14.5%以下、Ni:0%以上0.80%以下、N:0.002%以上0.070%以下、P:0%以上0.040%以下、S:0%以上0.0300%以下、を含む鋼片を、1150℃以上に加熱したうえで熱間圧延を行い、前記熱間圧延における仕上げ圧延を850℃以上900℃以下で終了して、熱間圧延板を得ること、及び、前記仕上げ圧延に引き続いて、前記熱間圧延板を炉に装入して700℃以上800℃以下の温度で30分以上24時間以下の加熱保持を行って、加熱保持後圧延板を得ること、を含む、フェライト系ステンレス鋼の製造方法。
[4]前記加熱保持後圧延板を冷却して酸洗して酸洗後圧延板を得ること、前記酸洗後圧延板に対して冷間圧延を行って冷間圧延板を得ること、及び、前記冷間圧延板に対して700℃以上800℃以下の熱処理を行うこと、を含む、[3]に記載のフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
本開示の技術によれば、マルテンサイト系ステンレス鋼を製造するにあたっての焼き入れ温度範囲が広いフェライト系ステンレス鋼を得ることができる。
1.フェライト系ステンレス鋼
本開示のフェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.14%以上0.45%以下、Si:0.01%以上1.00%以下、Mn:0.01%以上1.00%以下、Cr:11.5%以上14.5%以下、Ni:0%以上0.8%以下、N:0.002%以上0.070%以下、P:0%以上0.040%以下、S:0%以上0.0300%以下、を含み、直径0.9μm以下の炭化物が0.8個/μm以上存在し、ビッカース硬度が160HV以上300HV以下であり、下記(1)式を満足する。以下、本開示のフェライト系ステンレス鋼の要件について詳しく説明する。
Cp/Ct≧0.90・・・(1)
(式(1)において、Cpは鋼材中に析出物として存在するC量、Ctは鋼材中に存在する総C量である。)
1.1 成分
まず、本開示のフェライト系ステンレス鋼に含まれる成分について説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(C:0.14%以上0.45%以下)
Cはマルテンサイトの硬度を確保するために重要な元素である。C含有量が低すぎると高強度が得られない上に、十分な量の炭化物を析出させることができず、適正な焼き入れ温度範囲が狭くなる虞がある。そのため、C含有量は0.14%以上とする。一方、C含有量が高すぎると炭化物が粗大化して適正焼き入れ温度範囲が狭くなるうえに耐食性が劣化する虞がある。そのため、C含有量は0.45%以下とする。C含有量は、0.17%以上であってもよいし、0.20%以上であってもよく、0.38%以下であってもよいし、0.35%以下であってもよい。
(Si:0.01%以上1.00%以下)
Siは耐酸化性を向上する元素である。Si含有量が低すぎると十分な耐酸化性が得られない虞がある。また、Si含有量の過度の低下は原料コストの増加を招く。そのため、Si含有量は0.01%以上とする。一方、Si含有量が高すぎると製造時の割れを助長する虞がある。そのため、Si含有量は1.00%以下とする。Si含有量は、0.05%以上であってもよいし、0.10%以上であってもよいし、0.15%以上であってもよく、0.85%以下であってもよいし、0.60%以下であってもよいし、0.50%以下であってもよい。
(Mn:0.01%以上1.00%以下)
MnもSi同様に脱酸元素として用いられる。安定製造性の観点から、Mn含有量は0.01%以上とする。一方、Mn含有量が高すぎると硫化物等の化合物を形成して耐食性の低下を招く虞がある。そのため、Mn含有量は1.00%以下とする。Mn含有量は0.05%以上であってもよいし、0.10%以上であってもよいし、0.20%以上であってもよく、0.80%以下であってもよいし、0.70%以下であってもよいし、0.60%以下であってもよい。
(Cr:11.5%以上14.5%以下)
Crは耐食性を向上する元素である。十分な耐食性を得る観点から、Cr含有量は11.5%以上とする。一方、Cr含有量が高すぎると製造性の低下を招く虞がある。そのため、Cr含有量は14.5%以下とする。安定製造性(歩留まり、圧延疵等)の点から、Cr含有量は、12.0%以上であってもよいし、12.5%以上であってもよく、14.0%以下であってもよいし、13.5%以下であってもよい。
(Ni:0%以上0.80%以下)
Niはマルテンサイト組織とした際の靭性を向上する元素であり、必要に応じて添加してもよい。但し、Ni含有量が高すぎると、成形性の低下を招くばかりでなく合金コストの上昇や製造性を阻害することに繋がる虞がある。そのため、Ni含有量は0.80%以下とする。Ni含有量は0%以上であってもよいし、0.01%以上であってもよく、0.60%以下であってもよいし、0.50%以下であってもよい。
(N:0.002%以上0.070%以下)
Nは、C同様、マルテンサイトの硬度を確保するための元素である。十分な硬度を確保するため、N含有量は0.002%以上とする。一方、N含有量が高すぎると、精錬中に窒素ガスを発生し易くなる。そのため、N含有量は0.070%以下とする。安定製造の点から、N含有量は、0.009%以上であってもよいし、0.011%以上であってもよく、0.060%以下であってもよいし、0.050%以下であってもよい。
(P:0%以上0.040%以下)
Pは成形性及び耐食性を低下させる元素であり、その含有量は低い方が好ましい。そのため、P含有量は0.040%以下とする。下限は特に限定されず0%であってもよい。但し、P含有量を過度に低下させる場合、製造コストが上昇する。そのため、P含有量は0.005%以上であってもよい。成形性と製造コストの両者を考慮した場合、P含有量は、0.007%以上であってもよいし、0.010%以上であってもよく、0.030%以下であってもよいし、0.025%以下であってもよい。
(S:0%以上0.0300%以下)
Sは不可避的不純物元素であり、製造時の割れを助長する。そのため、S含有量は0.0300%以下とする。S含有量は低いほど好ましく、0.0100%以下であってもよいし、0.0030%以下であってもよい。下限は特に限定されず0%であってもよい。但し、S含有量を過度に低下させる場合、製造コストが上昇する。この観点から、S含有量は、0.0003%以上であってもよい。
本開示のフェライト系ステンレス鋼は、上記の基本組成に加えて、質量%で、Al:0%以上0.30%以下、Nb:0%以上0.07%以下、B:0%以上0.0030%以下、Ti:0%以上0.07%以下、Mo:0%以上0.75%以下、V:0%以上0.30%以下、Sn:0%以上0.12%以下、Cu:0%以上0.40%以下、W:0%以上1.0%以下、Co:0%以上0.50%以下、Zr:0%以上0.50%以下、Ca:0%以上0.0050%以下、Mg:0%以上0.0050%以下、Y:0%以上0.10%以下、Hf:0%以上0.20%以下、REM:0%以上0.10%以下、Sb:0%以上0.15%以下、のうちの1種又は2種以上を選択的に含んでいてもよい。
(Al:0%以上0.30%以下、Nb:0%以上0.07%以下、B:0%以上0.0030%以下、Ti:0%以上0.07%以下)
Al、Nb、B及びTiはフェライト系ステンレス鋼の成形性を向上し、熱間圧延時の疵を抑制する元素であり、必要に応じて添加してもよい。すなわち、Al、Nb、B及びTiの各々の含有量は0%以上であってもよい。一方、Al含有量は0.30%以下とし、Nb含有量は0.07%以下とし、B含有量は0.030%以下とし、Ti含有量は0.07%以下とする。
(Mo:0%以上0.75%以下、V:0%以上0.30%以下、Sn:0%以上0.12%以下、Cu:0%以上0.40%以下、W:0%以上1.0%以下、Co:0%以上0.50%以下、Zr:0%以上0.50%以下)
Mo、V、Sn、Cu、W、Co及びZrは耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加してもよい。すなわち、Mo、V、Sn、Cu、W、Co及びZrの各々の含有量は0%以上であってもよい。一方、Mo含有量は0.75%以下とし、V含有量は0.30%以下とし、Snが入寮は0.12%以下とし、Cu含有量は0.40%以下とし、W含有量は1.0%以下とし、Co含有量は0.50%以下とし、Zr含有量は0.50%以下とする。
(Ca:0%以上0.0050%以下、Mg:0%以上0.0050%以下、Y:0%以上0.10%以下、Hf:0%以上0.20%以下、REM:0%以上0.10%以下、Sb:0%以上0.15%以下)
Ca、Mg、Y、Hf、REM及びSbは酸化物や硫化物等の介在物を変化させて熱間圧延疵を抑制する元素であり、必要に応じて添加してもよい。すなわち、Ca、Mg、Y、Hf、REM及びSbの各々の含有量は0%以上であってもよい。一方、Ca含有量は0.0050%以下とし、Mg含有量は0.0050%以下とし、Y含有量は0.10%以下とし、Hf含有量は0.20%以下とし、REM含有量は0.10%以下とし、Sb含有量は0.15%以下とする。尚、本願において「REM」とは、原子番号57~71に帰属する元素(ランタノイド)を指し、例えば、Ce、Pr、Nd等である。
本開示のフェライト系ステンレス鋼は、上述の各元素に加えて、Fe及び不純物(不可避的不純物を含む)からなり、上記課題を解決できる範囲で、上述の各元素以外の元素を含有していてもよい。例えば、Bi、Pb、Se、H、Ta等を含有させてもよいが、これらの元素の含有量は可能な限り低減することが好ましい。これらの元素は、上記課題を解決できる限度において、その含有割合が制御され、例えば、Bi≦100ppm、Pb≦100ppm、Se≦100ppm、H≦100ppm、Ta≦500ppmの1種以上を含有してもよい。
1.2 組織
次に本開示のフェライト系ステンレス鋼の金属組織について述べる。
1.2.1.炭化物の大きさ及び密度
本開示のフェライト系ステンレス鋼においては、固溶強化元素であるCを炭化物として析出させておき、フェライト系ステンレス鋼の強化に寄与させないようにすることがポイントである。具体的には、本開示のフェライト系ステンレス鋼は、直径0.9μm以下の炭化物が0.8個/μm以上存在していることが重要である。
本開示のフェライト系ステンレス鋼は、マルテンサイト系ステンレス鋼を製造する際、焼き入れによって上記炭化物を固溶させて必要な硬度を得る。すなわち、炭化物は焼き入れの際に固溶可能な大きさである必要がある。本発明者の知見では、炭化物の直径が0.9μm以下であれば、当該炭化物を焼き入れの際に容易に固溶させることができる。炭化物の直径は0.8μm以下であってもよい。一方、本発明者の知見では、フェライト系ステンレス鋼において炭化物が微細且つ多数分散している場合に所望の効果が得られ易い。すなわち、炭化物の直径の下限値は特に限定されるものではない。例えば、炭化物の直径は50nm以上であってもよい。
本開示のフェライト系ステンレス鋼は、このような直径0.9μm以下の微細な炭化物が0.8個/μm以上の高密度にて存在している。本発明者の知見によれば、当該炭化物の密度が0.8個/μm以上である場合、適正な焼き入れ温度範囲が顕著に拡大する。炭化物の密度が大きくなるほど炭化物の平均サイズが小さくなり、加熱時に固溶し易くなるためと考えられる。当該炭化物の密度は1.0個/μm以上であってもよい。一方、密度の上限は特に限定されるものではない。例えば、当該炭化物の密度は、10.0個/μm以下であってもよいし、5.0個/μm以下であってもよい。
フェライト系ステンレス鋼における炭化物の状態は以下の通り特定するものとする。すなわち、フェライト系ステンレス鋼の断面を研磨後に王水腐食してSEMにて観察することにより、フェライト系ステンレス鋼に含まれる炭化物の直径や密度を特定する。SEMにおける断面二次画像において、元素マッピング等によって炭化物の存在領域を特定し、当該存在領域の「円相当直径」を算出することで、各々の炭化物の直径を特定する。また、SEMの断面二次画像の単位面積当たりに含まれる炭化物の個数を測定することで、炭化物の密度を特定する。ここで、測定範囲は板厚1/4位置を中心として200μm×400μm以上とする。また、炭化物の観察及び測定にあたっては板厚1/2位置を避けることとする。この位置には偏析等の影響により炭化物が連なって存在する、いわゆる「炭化物バンド」が存在する場合があるためである。SEMの倍率は5000倍以上とし、測定面積の総和として上述の範囲以上とする。なお、炭化物の組成はEDAXを用いて炭素の有無を検出すればよい。本開示のフェライト系ステンレス鋼に含まれ得る炭化物は、例えば、(Cr,Fe)23が大半で一部が(Cr,Fe)であってもよいが、これらに限られず、いずれの組成でも構わない。
上述したように、本開示のフェライト系ステンレス鋼においては、微細な炭化物が高密度にて存在していることが重要である。本開示のフェライト系ステンレス鋼においては、直径が0.9μmを超えるような粗大な炭化物は必要とされない。言い換えれば、本開示のフェライト系ステンレス鋼は、直径0.9μm超の炭化物を実質的に含まなくてもよい。例えば、本開示のフェライト系ステンレス鋼において、直径0.9μm超の炭化物は0.01個/μm以下であってもよい。
1.2.2 炭化物を構成する炭素の割合
上述の通り、本開示のフェライト系ステンレス鋼においては、固溶強化元素であるCを炭化物として析出させておき、フェライト系ステンレス鋼の強化に寄与させないようにすることがポイントである。すなわち、フェライト系ステンレス鋼における固溶炭素が少ない。この点、本開示のフェライト系ステンレス鋼は、下記(1)式を満足する。
Cp/Ct≧0.90・・・(1)
(式(1)において、Cpは鋼材中に析出物として存在するC量、Ctは鋼材中に存在する総C量である。)
上記(1)式のように、本開示のフェライト系ステンレス鋼においては、Cの大半を炭化物として析出させておくとよい。本発明者の知見では、Cp/Ctが0.90未満であると焼き入れ温度適正範囲ΔTが20℃以下と小さくなる傾向がある。また、変形強度が増加し、成形加工が難しくなる虞がある。この観点から、Cp/Ctは0.90以上であってもよく、0.92以上であってもよく、0.93以上であってもよく、0.94以上であってもよく、0.95以上であってもよい。なお、Cp/Ctの最大値は1.00であり、これはすべてのCが析出物となっている状態を示す。逆に、Cp/Ctが0の場合、すべてのCが固溶している状態となる。この値が大きいほど炭化物析出量が多い、すなわち固溶炭素量が少ないことを意味しており、フェライト系ステンレス鋼の強度など特性のばらつきが小さくなる。
Cp及びCtの各々の分析方法については次のようにする。すなわち、Cpは電解抽出残渣法で測定する。電解液は10%アセチルアセトン-1%テトラメチルアンモニウム-メタノール液であり、残渣の回収にはメッシュサイズ0.2μmの銀フィルターを用いる。残渣についてガス分析してCpを定量する。一方、Ctはフェライト系ステンレス鋼をそのままガス分析して定量する。
1.2.3 フェライト相、並びに、その他の相及び組織
本開示のフェライト系ステンレス鋼の金属組織は、室温においてフェライト相と極一部の割合にとどまる、多数かつ微細な炭化物により構成される。ただし、本開示のフェライト系ステンレス鋼においては、多少であれば、母材(母相)におけるフェライト相以外の相や組織の存在を許容できる。例えば、本開示のフェライト系ステンレス鋼は、室温にて、フェライト相以外の相や組織(例えば、オーステナイト相やマルテンサイト組織)が、面積率(体積率)にて、合計で5%以下含まれていてもよい。FCC構造のオーステナイト相の有無はEBSDを用いて相同定を行うことで判断できる。BCC構造のフェライト相とマルテンサイトの区別は、例えば、残存する歪に対応するKAM値等によりEBSDで推定される。具体的には、詳細な組織の観察と物理分析機器による組成と構造の分析にて実施される。本開示のフェライト系ステンレス鋼は、室温にて、例えば、フェライト相の割合が、面積率(体積率)にて、90%以上であってもよいし、92%以上であってもよいし、95%以上であってもよい。
1.2.4 ビッカース硬度
マルテンサイト組織の存在の影響は、数多くの組織観察と物理機器による組成と構造の分析の結果の解析より、ビッカース硬度で判断することが可能である。本開示のフェライト系ステンレス鋼は、上述した組成範囲において、フェライト相を主体とする組織のビッカース硬度が160HV以上300HV以下の範囲となる。なお、マルテンサイトを主体とする組織では350HV超となる。すなわち、フェライト系ステンレス鋼に含まれる相や組織は、ビッカース硬度で区別することが可能である。本開示のフェライト系ステンレス鋼は、ビッカース硬度が160HV以上300HV以下であり、フェライト相が主体となる。本開示のフェライト系ステンレス鋼のビッカース硬度は、280HV以下であってもよいし、260HV以下であってもよい。尚、本願において、ビッカース硬度はJIS Z2244:2009に準拠するとともに、ビッカース硬度計にて500gfの荷重でビッカース圧子を押し込むことで測定した値であり、測定10回の平均値である。
1.3 形状
本開示のフェライト系ステンレス鋼の形状は特に限定されるものではない。上記の組成及び組織を満たす限り、いかなる形状であっても所望の効果を得ることができる。下記に例示するように、フェライト系ステンレス鋼は板状(鋼板)であってもよい。
2.フェライト系ステンレス鋼の製造方法
本開示のフェライト系ステンレス鋼は、例えば、以下の方法によって製造することができる。すなわち、本開示のフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、質量%で、C:0.14%以上0.45%以下、Si:0.01%以上1.00%以下、Mn:0.01%以上1.00%以下、Cr:11.5%以上14.5%以下、Ni:0%以上0.80%以下、N:0.002%以上0.070%以下、P:0%以上0.040%以下、S:0%以上0.0300%以下、を含む鋼片を1150℃以上に加熱したうえで熱間圧延を行い、前記熱間圧延における仕上げ圧延を850℃以上900℃以下で終了して、熱間圧延板を得ること、及び、前記仕上げ圧延に引き続いて、前記熱間圧延板を炉に装入して700℃以上800℃以下の温度で30分以上24時間以下の加熱保持を行って、加熱保持後圧延板を得ること、を含む。
2.1 鋼片
本開示のフェライト系ステンレス鋼の製造方法においては、例えば、上記の基本組成を有する鋼を、一般的なステンレス鋼と同様にして溶解した後、インゴット鋳造や連続鋳造によって鋼片を得ることができる。鋼片は上記基本組成に加えて、上述したAl等の選択成分を含んでいてもよい。なお、鋳造により鋼片を得た後で、鋼片を冷却する前に熱処理を加えても良く、30%以下の加工を加えても良い。
2.2 熱間圧延
本開示のフェライト系ステンレス鋼の製造方法においては、上述のようにして得られた鋼片を1150℃以上に加熱したうえで熱間圧延を行い、熱間圧延板を得る。鋼片の加熱は、熱間圧延における変形荷重を抑えることと内部の均質化とを目的としている。1150℃未満であると、圧延末期での温度低下により変形荷重が高くなり板厚制御が困難となる。さらに、著しく低下した低温での圧延となった場合、圧延時の耳割れが発生する。このため、1150℃以上に加熱することとする。熱間圧延における仕上げ圧延は850℃以上950℃以下で終了することとする。850℃未満であると圧延荷重が高くなり所定の板厚が得られない場合がある。逆に、950℃超であると、粗大な炭化物が破砕されること無く残存し、その後の適正焼き入れ温度範囲が小さくなる虞がある。
2.3 加熱保持
本開示のフェライト系ステンレス鋼の製造方法においては、仕上げ圧延に引き続いて、上述のようにして得られた熱間圧延板を炉に装入して700℃以上800℃以下の温度で30分以上24時間以下の加熱保持を行う。「仕上げ圧延に引き続いて・・・炉に装入」とは、仕上げ圧延工程と、炉への装入工程との間に意図的な冷却工程が含まれないことを意味する。熱間圧延後に一旦冷却してから改めて熱処理を行った場合は、フェライト系ステンレス鋼中の炭化物の密度が少なく、粗大になり、適正な焼入れ温度範囲が狭くなる虞がある。この点、仕上げ圧延に引き続いて熱間圧延板を炉内に装入する際、熱間圧延板の温度が600℃以下にならないようにする。尚、従来公知の製造工程では熱間圧延板を室温まで冷却して搬送するのが通常であるところ、本開示のフェライト系ステンレス鋼の製造方法においては、仕上げ圧延から炉内へと熱間圧延板の温度履歴を制御することがポイントの一つといえる。
熱間圧延板を炉内で加熱保持することで、熱間圧延によるひずみを保持したまま炭化物の析出状態を制御することができる。炉温が700℃未満であると炭化物の密度が著しく低くなり、フェライト変態が十分に進まずに熱延板にマルテンサイト組織が残存して硬質化する虞がある。また、Cp/Ctも小さな値となり、適正な焼き入れ温度範囲が狭くなる虞がある。一方、800℃を超えると炭化物が凝集粗大化し、適正な焼き入れ温度範囲が狭くなる虞がある。また、炉内における加熱保持時間が30分未満であると、炭化物の密度が著しく低く、冷却後に多量のマルテンサイトを含む組織となり、硬質化する虞がある。また、24時間を超えて保持すると炭化物が凝集粗大化し、適正な焼き入れ温度範囲が狭くなる虞がある。炉内での加熱保持後の冷却速度については特に限定されるものではない。例えば、0.05℃/秒以上の冷却速度としてもよいし、空冷してもよい。
2.4 その他の工程
本開示のフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、さらに、上記した炉内における加熱保持後の圧延板を冷却して酸洗して酸洗後圧延板を得ること、前記酸洗後圧延板に対して冷間圧延を行って冷間圧延板を得ること、及び、前記冷間圧延板に対して700℃以上800℃以下の熱処理を行うことを含んでいてもよい。
2.4.1 酸洗
酸洗は表面スケールを除去する工程であり、条件を特に規定するものではないが、例えば、ショットブラストやサンドブラスト等のスケール破壊工程と硫酸や硝フッ酸等に浸漬する工程とを組み合わせるのが効率的である。酸液の濃度や温度は工程の長さによって適宜調整すればよい。
2.4.2 冷間圧延
冷間圧延は所定の板厚を得る工程であり、ゼンジミア、クラスター、タンデム等いずれの圧延方法でも構わない。本開示のフェライト系ステンレス鋼の製造方法においては、冷間圧延素材がマルテンサイト組織を殆ど含まない、軟質なフェライト相を主体とする組織となっており、圧延荷重は特に限定されない。
2.4.3 熱処理
最終熱処理は冷間圧延で導入された歪を開放し、再結晶させる工程である。オーステナイト域まで上げない温度範囲で熱処理することが重要であり、フェライト温度域である700℃以上800℃以下とする。熱処理温度は720℃以上であってもよいし、790℃以下であってもよい。熱処理後に酸洗やスキンパスを行っても構わない。2回以上の冷延、同様の熱処理を行っても効果は変わらない。いずれにせよ、熱処理時に高温のオーステナイト域に入れないことが重要である。熱処理時にオーステナイトは生成しないため、その後の冷却速度については特に限定されるものではない。例えば、0.05℃/秒以上の冷却速度としてもよいし、空冷してもよい。
3.推定メカニズム及び効果
本開示のフェライト系ステンレス鋼において、適正焼き入れ温度範囲が広くなる機構については、種々の調査の結果、次のように考えている。マルテンサイト系ステンレス鋼は、前述のように熱間圧延後に一般的に一旦室温まで冷却し、バッチ式ボックス炉での再加熱により、700~800℃程度のフェライト相の安定領域で焼き鈍しされる。この際、マルテンサイトは、粗大な炭化物を析出し、フェライト相に変化する。この焼き鈍しは固溶強化元素Cを充分に析出させ、その後の加工、例えば、板の場合は冷間圧延による減厚を効率的に行うため、通常2~3日程度行われ、炭化物が更に粗大になる。本発明者らの調査では、この時点で炭化物が約1μmの大きさとなり、冷間圧延や700℃以上800℃以上のフェライト温度域での熱処理後もその大きさは変わらない。これを製品に近い形状に成形加工後、オーステナイト温度域である1050℃程度、10min程度の保持後の空冷の焼き入れを行うことで、マルテンサイト組織となり硬質となるが、この時点においても金属組織中には約0.5μmサイズの炭化物が残存する。すなわち、添加したCのすべてがマルテンサイトの強化に使われているわけではない。単純計算になるが、87.5%(=100×(1.0-0.5)/1.0)が固溶するものの、残部の12.5%は未固溶の炭化物として残存する。
一方、熱間圧延後に冷却することなく、続けて700~800℃程度で熱処理を行う場合、オーステナイト相からフェライト相への変態と炭化物の析出粗大化が起こる。また、仕上げ圧延終了温度を850℃~950℃の範囲に制御することで熱延での歪を残存させて、析出核を増加させることで、多数の微細な炭化物を析出させることが可能である。その後の冷却時も、それらの多数の微細な炭化物の成長が進むこととなり、室温への冷却後も多数かつ微細な炭化物が分布することとなる。
これらにより、炭化物は多数かつ微細に分散し、良好な焼入れ性が得られると考えられる。このような炭化物の析出状態は、熱間圧延後に一旦室温に冷却させること無く、続けて実施する熱処理で形成される。すなわち、従来プロセスのように熱延板を一旦室温まで冷却した後、バッチ式ボックス炉での再加熱によりフェライト相中で焼き鈍す工程では得られない。
以上の通り、本開示のフェライト系ステンレス鋼は、軟質で加工が容易であり、マルテンサイト系ステンレス鋼を製造するにあたっての適正な焼入れ温度範囲も広い。すなわち、本開示のフェライト系ステンレス鋼によれば、刃物などに適用される硬質なマルテンサイト系ステンレス鋼を興行的に安定して生産することが容易となる。
4.補足
尚、焼入れ後のマルテンサイト組織の硬度はC量によって異なることが知られている。例えば、焼き入れ後の硬度とC量の関係は下記(2)式で表すことができる。
H = 1150×[Ct]+240・・・(2)
((2)式において、Hは焼き入れ後の硬度(HV)、Ctは添加C量(重量%)である。)
また、適正な焼き入れ温度範囲ΔTは、焼き入れ温度を10℃ごとに変化させて焼き入れたのちの硬度が上記H以上となる温度の最低温度Tminと最高温度Tmaxの差より求める。具体的には下記(3)式の通りである。
ΔT = Tmax-Tmin・・・(3)
次に実施例を示しつつ本開示のフェライト系ステンレス鋼による効果についてさらに詳細に説明するが、実施例での条件は、本開示の技術の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎず、本開示の技術は、以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例に示す条件以外にも、上記課題を解決できる限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
下記表1に示す組成を有する素材をラボ溶製し、100mmの板厚を有する鋼片を得た。得られた鋼片を下記表1に示す条件で熱間圧延した。熱間圧延の仕上げ圧延に引き続いて、下記表1に示す条件で炉内での熱処理を行った。熱処理の後は空冷とした。空冷後の圧延板の厚みは3.0mmである。その後、硫酸酸洗、1.0mm厚まで冷間圧延し、780℃で2分間、最終熱処理を行った。なお、比較のため一部は、熱間圧延後、炉内熱処理前に室温まで冷却するものとした。最終熱処理後のL断面をSEMで観察し、炭化物の同定、円相当直径が0.9μmを超える大きさの炭化物の存在有無を調査するとともに、円相当直径が0.9μm以下の炭化物の密度算出を行った。また、電解抽出残渣の分析により、析出しているC量を算出した。
最終熱処理板について、L断面の1/4t厚みにおけるビッカース硬度を測定し、金属組織において主体となる相を特定した。荷重は500gfでn=10の平均値を用いた。なお、主体となる相は、160~300HVの場合をフェライト相、300HV超の場合をマルテンサイト相とした。
最終熱処理板を用いて、900~1100℃の温度範囲で10℃ごとに焼き入れを行った。焼き入れはT℃、10間での加熱保持の後、空冷を行うものとした。前述の(3)式により適正な焼き入れ温度範囲ΔTを算出した。適正温度範囲が30℃以上である場合に合格(〇)、30℃未満である場合に不合格(×)と判断した。尚、焼き入れ前加熱の炉は、燃焼条件を同じにしても外気温や湿度等で炉内温度が15℃程度変化する場合があり、このような場合は炉温を校正する必要がある。表中の「〇」は焼き入れ温度が±15℃変わっても焼き戻し後の硬度が目標値を達成し、「×」は目標未達であることを意味する。ΔTが30℃以上である場合は上述のような校正を行うことなく適正な硬度のマルテンサイト系ステンレス鋼が得られ、ΔTが30℃未満である場合と比べて製品歩留まりが高くなるという大きなメリットがある。
また、焼き入れ後の鋼板について耐食性を評価した。尚、ステンレス鋼の耐食性は、一般的に固溶するCrの量に対応し、炭化物に起因するクロム欠乏相で劣化するため、マルテンサイト系ステンレス鋼として必要な特性を確認した。表面を#600で研磨し、JIS Z2371準拠の塩水噴霧試験を実施した。4h保持後に表面に赤錆が認められるか否かで耐食性を判断した。赤錆が認められない場合を合格(〇)、認められる場合を不合格(×)とした。
実施例及び比較例の各々の製造条件及び評価結果を下記表2に示す。
Figure 0007462395000002
表2に示す結果から明らかなように、成分、熱延条件及びその後の熱処理条件のいずれもが所定の範囲内である実施例1~7では、冷延焼鈍後の炭化物の析出量、大きさ及び密度が所定の範囲内となっており、その後の焼き入れ処理をした際に、高硬度が得られる適正な焼入れ温度範囲が顕著に拡大した。また、実施例1~7に係るフェライト系ステンレス鋼は良好な耐食性を示すことも分かった。これに対し、成分、熱延条件及びその後の熱処理条件のいずれか一つが所定範囲外である比較例1~12では、炭化物の密度が小さく、適正な焼き入れ温度範囲が顕著に狭くなった。また、C含有量を過剰とした比較例10及び11については、焼き入れ性評価だけでなく、耐食性評価も不良であった。また、比較例13では炭化物析出量Cp/Ctが0.54であり、所定範囲外に小さく、炭素の固溶強化により最終熱処理板の硬度が300HVを超え、範囲外に高かった。そのため成形加工が不可能であり、焼き入れ試験は実施しなかった。
以上の実施例・比較例から、(1)鋼中の成分含有量が所定であること、(2)鋼に含まれる炭化物のサイズ及び密度が所定であること、(3)鋼のビッカース硬度が160~300HVであること、及び、(4)鋼に含まれる炭化物の析出量Cp/Ctが0.90以上であること、を満たす場合に、マルテンサイト系ステンレス鋼を製造するにあたっての焼き入れ温度範囲が広いフェライト系ステンレス鋼を得ることができるといえる。
本開示のフェライト系ステンレス鋼は、軟質で加工が容易であり、マルテンサイト系ステンレス鋼を製造するにあたっての適正な焼入れ温度範囲も広い。すなわち、本開示のフェライト系ステンレス鋼によれば、刃物などに適用される硬質なマルテンサイト系ステンレス鋼を興行的に安定して生産することが容易となる。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.14%以上0.45%以下、
    Si:0.01%以上1.00%以下、
    Mn:0.01%以上1.00%以下、
    Cr:11.5%以上14.5%以下、
    Ni:0%以上0.80%以下、
    N:0.002%以上0.070%以下、
    P:0%以上0.040%以下、
    S:0%以上0.0300%以下、
    残部:Fe及び不純物
    からなり
    直径0.9μm以下の炭化物が1.24個/μm2以上存在し、
    ビッカース硬度が160HV以上300HV以下であり、
    下記(1)式を満足する、
    フェライト系ステンレス鋼。
    Cp/Ct≧0.90・・・(1)
    (式(1)において、Cpは鋼材中に析出物として存在するC量、Ctは鋼材中に存在する総C量である。)
  2. 質量%で、
    Al:0%以上0.30%以下、
    Nb:0%以上0.07%以下、
    B:0%以上0.0030%以下、
    Ti:0%以上0.07%以下、
    Mo:0%以上0.03%以下、
    V:0%以上0.30%以下、
    Sn:0%以上0.12%以下、
    Cu:0%以上0.40%以下、
    W:0%以上0.03%以下、
    Co:0%以上0.50%以下、
    Zr:0%以上0.50%以下、
    Ca:0%以上0.0050%以下、
    Mg:0%以上0.0050%以下、
    Y:0%以上0.10%以下、
    Hf:0%以上0.20%以下、
    REM:0%以上0.10%以下、
    Sb:0%以上0.15%以下、
    のうちの1種又は2種以上を含む、
    請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
  3. 請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼を製造する方法であって、
    請求項1又は2に記載の成分を含む鋼片を、1150℃以上に加熱したうえで熱間圧延を行い、前記熱間圧延における仕上げ圧延を850℃以上900℃以下で終了して、熱間圧延板を得ること、及び
    前記仕上げ圧延に引き続いて、前記熱間圧延板を炉に装入して700℃以上800℃以下の温度で30分以上24時間以下の加熱保持を行って、加熱保持後圧延板を得ること、
    を含む、フェライト系ステンレス鋼の製造方法。
  4. 前記加熱保持後圧延板を冷却して酸洗して酸洗後圧延板を得ること、
    前記酸洗後圧延板に対して冷間圧延を行って冷間圧延板を得ること、及び
    前記冷間圧延板に対して700℃以上800℃以下の熱処理を行うこと、
    を含む、請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
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