JP2002194504A - クロム系ステンレス鋼箔およびその製造方法 - Google Patents
クロム系ステンレス鋼箔およびその製造方法Info
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Abstract
れたばね特性を有した安価なクロム系ステンレス鋼箔と
その製造方法の提供。 【解決手段】マルテンサイト相と残留オ−ステナイト相
からなる二相混合組織またはマルテンサイト相と残留オ
−ステナイト相に加え、75体積%以下のフェライト相
を含む三相混合組織からなるクロム系ステンレス鋼箔、
および冷延鋼板を窒素含有雰囲気で雰囲気中の窒素を吸
収させる製造方法
Description
器および精密電子機器等の部品に好適なばね特性に優れ
たクロムステンレス鋼箔およびその製造方法に関する。
ッシュボタンを支えるばね等の各種ボタンおよびスイッ
チばねがある。これらは、いずれもばね特性に優れた板
厚が0.1mm以下のばね用ステンレス鋼箔が使用され
ている。
301LやSUS304に代表されるオ−ステナイト系
ステンレス鋼が使用されている。
工誘起変態で生じるマルテンサイト相により強度を高め
てばね特性を得たもので、素材メ−カ−から冷間圧延さ
れた状態で出荷され、加工メ−カ−において所望形状に
加工される。加工後に、ばね特性の向上を目的として時
効熱処理が施される場合もある。
は、高強度でありながら良好な加工性を有する優れた鋼
である。しかしながら、高価なNiを多量に含有するこ
とから鋼材コストが高く経済性を損なうという問題があ
る。
るには、加工誘起変態で生じるマルテンサイト相の生成
により圧延負荷が非常に高くなり、生産性を損なうとと
もに良好な形状と所望の板厚を得るのが困難であるとい
う問題もある。さらに、冷間圧延によるばね特性の上昇
は、箔の圧延方向(L方向)に比べ、圧延方向に対し直
角方向(T方向)の方が大きく、冷間圧延率が高まると
ともに両者の差が大きくなって、いわゆる面内異方性が
大きくなるという欠点がある。
成が質量%で、C:0.02〜0.2%,Si:0.1
〜2%,Mn:0.1〜2%,S≦0.006%,N
i:6〜10.5%,Cr:16〜20%,Al≦0.
01%,O≦0.01%,Mg≦0.01%,Ca:
0.0001〜0.005%,N:0.01〜0.2%
からなるオ−ステナイト系ステンレス鋼を、冷間圧延と
焼鈍を繰り返して最終板厚0.1mm以下とし、介在物
の大きさを7μm以下とする疲労特性に優れたステンレ
ス鋼箔の製造方法が開示されている。このステンレス鋼
箔は、介在物が微細化されているのでばね疲労特性が改
善されている。
Cr窒化物を析出分散させた制振特性に優れたばね用ス
テンレス鋼箔およびその製造方法が開示されている。こ
のテンレス鋼箔は、板厚0.1mm以下のオ−ステナイ
ト系ステンレス鋼が対象とされており、光輝焼鈍時の窒
化を制御して表層にCr窒化物を析出分散させ、次いで
約50%の調質圧延をおこない、必要に応じて時効熱処
理を施すことにより製造される。上記の各公報に開示さ
れている技術は、オ−ステナイト系ステンレス鋼箔のば
ね特性の向上を目的としたものある。したがって、上述
したばね用オ−ステナイト系ステンレス鋼箔の経済性お
よび生産性の改善には至っていない。。他方、クロム系
ステンレス鋼は、殆どNiを含有しないことから鋼材コ
ストが安価で経済性に優れている。さらに、クロム系ス
テンレス鋼の中でフェライト系ステンレス鋼は軟質であ
り、オ−ステナイト系ステンレス鋼に比べ加工硬化が小
さいことから箔の製造も容易であり生産性に優れてい
る。しかしながら、上記クロム系ステンレス鋼箔では、
オ−ステナイト系ステンレス鋼箔に匹敵するばね特性を
得るのが困難であるという問題を有していた。
含有しないか、含有しても2%以下である安価なクロム
系ステンレス鋼箔でありながら、オ−ステナイト系ステ
ンレス鋼箔に匹敵するばね特性を有するクロム系ステン
レス鋼箔とその製造方法を提供することにある。
ステンレス鋼のばね特性を改善すべく、金属組織のばね
特性に及ぼす影響について種々実験、検討を重ねた結果
以下の知見を得るに至った。
ナイト相を含む金属組織とすることにより、加工性が改
善されるうえ、加工を受けると加工誘起変態を生じ組織
を強靱にし、強度を高めてばねの疲労特性を改善するこ
とができ、オーステナイト系ステンレス鋼と同等以上の
ばね特性が得られる。 b)残留オーステナイト相を生成させるためには、窒素
を含有する雰囲気中でクロムステンレス鋼を加熱して窒
素を吸収させて冷却すればよい。
されたもので、その要旨は以下の通りである。
留オ−ステナイト相とを含む二相混合組織あまたはマル
テンサイト相、残留オ−ステナイト相および75体積%
以下のフェライト相とを含む三相混合組織からなるクロ
ム系ステンレス鋼箔。
%、Cr:10〜20%,N:0.05〜0.5%、S
i:2%以下、Al:0.05%以下、Ni:2%以
下、Mn:2%以下、Cu:2%以下を含有し、残部F
eおよび不純物からなる上記(1)に記載のクロム系ス
テンレス鋼箔。
を0.001〜0.02%含有する上記(2)に記載の
クロム系ステンレス鋼箔。 (4)Feの一部に代えて、質量%でNbを0.01〜
0.1%含有する上記(2)〜(3)に記載のクロム系
ステンレス鋼箔。 (5)Feの一部に代えて、質量%でMoを0.1〜2
%含有する上記(2)〜(4)のいずれかに記載のクロ
ム系ステンレス鋼箔。
0.05〜0.3%含有する上記(2)〜(5)のいず
れかに記載のクロム系ステンレス鋼箔。 (7)Feの一部に代えて、質量%で希土類元素を0.
005〜0.1%含有する上記(2)〜(6)のいずれ
かに記載のクロム系ステンレス鋼箔。
上記(2)〜(7)のいずれかに記載の化学組成を有す
るクロム系ステンレス冷延鋼板を窒素含有雰囲気中で加
熱し、前記窒素含有雰囲気中の窒素を吸収させたのち、
1℃/秒の冷却速度で冷却することを特徴とするクロム
系ステンレス鋼箔の製造方法。
度域で10秒以上の時効熱処理をおこなう上記(8)に
記載のクロム系ステンレス鋼箔の製造方法。
率5%以下の調質圧延をおこなう上記(9)に記載のク
ロム系ステンレス鋼箔の製造方法。
られたもので、その代表的な試験について以下に説明す
る。
ンレス鋼を溶製し、熱間加工後冷間圧延して板厚0.0
5mmの箔とした。
秒間加熱保持する熱処理を施し、窒素含有量が0.03
〜0.2質量%となるように窒素を吸収させ、マルテン
サイト相と残留オ−ステナイト相の総和が10〜100
体積%で残部がフェライト相からなるクロム系ステンレ
ス鋼箔を製造した。
(L方向)および圧延直角方向(T方向)の曲げ試験片
を採取し、450℃で均熱60秒の時効処理を施し、ば
ね限界値Kb、ばね疲労特性に及ぼす金属組織の影響を
検討した。 なお、ばね限界値Kbは、JIS H 37
32に規定される曲げによる表面最大応力が36.25
GPaとなるときの弾性変形と同等の永久変形を生じさ
せる表面最大応力と定義される。
を用い、所定の曲げ応力を付与して破壊に至るまでの繰
り返し曲げ回数を求めた。ここで、繰り返し曲げ回数の
上限は107回とした。
を示したもので、マルテンサイトと残留オーステナイト
相からなる2相組織とフェライト相からなっている。
イトの占める量とばね限界値Kbとの関係で整理した図
である。同図には、従来のばね用オ−ステナイト系ステ
ンレス鋼箔SUS301L(板厚0.06mm)の時効
熱処理材および非時効熱処理材のばね限界値Kbを併せ
て示す。
相と残留オ−ステナイト相の総和が25体積%を超える
クロム系ステンレス鋼箔は、L方向とT方向とでほとん
ど差がなく面内異方性は極めて小さく、従来鋼であるS
US301L非時効熱処理材を上回るばね限界値Kb
(L、T方向平均値)であった。これは、マルテンサイ
ト相における固溶元素(C、N)が、時効処理により微
細析出し、鋼の弾性比例限が向上したことに起因すると
考えられる。
60%のクロム系ステンレス鋼箔のばね疲労特性を示し
たものである。同図に示すように、マルテンサイト相と
残留オ−ステナイト相の総和が約60体積%のクロム系
ステンレス鋼箔は、比較鋼であるSUS301L時効熱
処理材を上回る極めて優れたばね疲労特性を示した。こ
れは、上記マルテンサイト相の析出硬化に加え、C、N
を過飽和に固溶した残留オ−ステナイト相が繰り返し曲
げ試験により加工誘起変態して強靱な組織となりばね疲
労特性の向上に作用したものと考えられる。
いて具体的に説明する。なお、化学組成の%表示は質量
%を示す。
サイト相と残留オ−ステナイト相からなる二相混合組織
あるいはマルテンサイト相、残留オ−ステナイト相およ
び75体積%以下のフェライト相からなる三相混合組織
であるクロム系ステンレス鋼であればよく、特に化学組
成を限定するものではないが、好ましい化学組成を以下
に示す。
素であり、また、マルテンサイト硬化能に大きく影響す
る元素である。オ−ステナイト系ステンレス鋼に相当す
るばね特性を得るために、C含有量を0.01%以上と
するのが望ましい。C含有量を過度に増加させるとマル
テンサイト相の割合が過大になるとともに、マルテンサ
イト相の硬さが増加し、熱間加工性および製品の加工性
が低下する。さらに、窒素含有雰囲気熱処理の冷却過程
において鋭敏化現象起こし易くなり耐食性が劣化する。
これらの不都合を避けるためにC含有量を0.2%以下
とするのが望ましい。
共に、耐食性を確保するために必要な元素である。さら
に、窒素含有雰囲気中でクロム系ステンレス鋼を熱処理
した際に、雰囲気中の窒素を吸収して、オ−ステナイト
相を安定化させる作用を有する。ばね疲労特性向上のた
めに残留オ−ステナイト相を生成させ、耐食性を確保す
るには、Cr含有量を10%以上とするのがよい。他
方、Cr量を過剰に含有させると鋼材コストが高価にな
るばかりでなく、オ−ステナイト相を安定化させる温度
が1200℃超となり、鋼の高温強度不足により熱処理
することが困難になるなどの操業上の問題が生じる場合
がある。これを避けるために、Cr含有量を20%以下
とするのがよい。より望ましくは12〜7%である。
イト形成元素であり、ばね疲労特性の向上に効果的な元
素である。しかしながら、鋼の溶製時にNを大量に含有
させるのは通常の方法では困難であるうえに、Nを大量
に含有した鋼は熱間加工性が悪く、熱間圧延時に耳割れ
等の表面疵の発生原因となる。したがって、窒素含有雰
囲気熱処理以前の段階においては特に限定する必要はな
く、通常の製造方法で得られる0.001〜0.04%
程度の含有量でよい。
処理することにより鋼にNを吸収させる。これによりオ
−ステナイト相を安定化させ、冷却過程における鋭敏化
現象の発生を抑制し、また、冷却後の金属組織をマルテ
ンサイト相に加え残留オ−ステナイト相を含有する混合
組織とする。
ナイト相の比率の増加により、ばね疲労特性をさらに向
上させるために0.05%以上とするのがよい。より望
ましくは0.1%以上である。他方、N含有量を増加さ
せるには、熱処理時間を長くする必要があり、生産性を
阻害するという問題が生じる。従って、その上限は0.
5%とするとよい。
化学組成は、上記の3元素を含み残部がFeおよび不純
物からなるステンレス鋼であり、さらに必要により下記
の元素を含有させることができる。
れもオ−ステナイト形成元素であり、熱処理後のマルテ
ンサイト相の量と硬さを調整するのに有効な元素であ
る。また、これらの元素を含有させることにより、(C
+N)含有量を低減することができるので、マルテンサ
イト相を軟質なものとすることができる。よって、鋼の
加工性を向上させるのに好適である。
ないが、上記の効果を得るために含有させても構わな
い。含有させる場合は、それぞれ0.3%以上含有させ
るのがよい。他方、NiおよびCuを過剰に含有させる
と経済性を損なうので、含有させる場合でもその上限を
それぞれ2.0%とするのがよい。Mnは、窒素含有雰
囲気熱処理時の窒素吸収能を高める作用がるが、過剰に
含有させると経済性を損なううえ、耐食性を低下させる
作用があるので、含有させる場合でもその上限を2%と
するのがよい。これらの元素を積極的に添加しない場合
は、不純物としてNiは0.3未満程度、Cuは0.0
01%程度混入してくる。また、Mnは脱酸剤としても
有効であり、脱酸剤として使用すれば0.1%程度含
む。
とともに、窒素含有雰囲気熱処理において結晶粒の粗大
化を防止し、さらに冷却過程で生じる鋭敏化現象を抑制
する作用を有する。したがって、必須元素ではないが、
上記の効果を得るために含有させても構わない。
有させるのがよい。他方、Tiを過剰に含有させると経
済性を損なうだけでなく、鋼中のC、Nを固定して強度
低下の原因となるので、含有させる場合でもその上限は
0.02%とするのがよい。
とともに、窒素含有雰囲気熱処理後の冷却過程で生じる
鋭敏化現象を抑制し、さらに、オ−ステナイト相(冷却
後にはマルテンサイト相と残留オ−ステナイト相)に固
溶し、強度を上昇させる作用もある。従って、必須元素
ではないが、上記の効果を得るために含有させても構わ
ない。含有させる場合には0.01%以上含有させるの
がよい。他方、Nbを過剰に含有させると鋼中のC、N
元素を固定して強度低下の原因となるので、含有させる
場合でもその上限は0.1%とするのがよい。Mo:M
oは必須元素ではないが、フェライト形成元素であると
ともに、耐食性を著しく向上させる作用があるので、C
r含有量が少ない場合でもMoを含有させることにより
耐食性を得ることができる。含有させる場合には0.1
%以上含有させるのがよい。しかしながら、Moは高価
であり過剰に含有させると経済性を損なうので、含有さ
せる場合でもその上限は2.0%とするのがよい。
に効果的な元素であるため、含有させてもよい。含有さ
せる場合には0.05%以上含有させるのがよい。しか
しながら、上記効果は0.3%を越えると飽和するの
で、含有させる場合でも0.3%以下とするのがよい。
素であるうえ、強度を高める作用もあるので含有させて
もよい。しかしながら、過剰に含有させると鋼の靱性を
損なうので、含有させる場合でもその上限は2%とする
のがよい。脱酸剤として使用すれば0.1%以上で含有
する。
素であるので含有させてもよい。しかしながら、Alは
窒化物を形成するため、過剰に含有させると窒素含有雰
囲気熱処理時の固溶窒素量を減少させる作用がある。従
って、含有させる場合でもその上限は0.05%とする
のがよい。
ないが、鋼の耐酸化性を向上させる作用があるので含有
させてもよい。しかしながら、合計量で0.1%を超え
て含有させると効果が飽和するうえコストが高くなるの
で含有させる場合でも0.1%以下とするのがよい。
ては、マルテンサイト相と残留オ−ステナイト相とから
なる二相混合組織あるいはマルテンサイト相と残留オ−
ステナイト相に加え、75体積%以下のフェライト相を
含む三相混合組織である。
めるうえに、時効熱処理を施して固溶元素(C、N)を
析出させることにより鋼の弾性比例限を高めてばね特性
を向上させる。この効果を得るにはマルテンサイト相の
比率を25体積%以上とするのが好ましい。より好まし
くは50%以上である。
くすると鋼の延性が低下し、加工性が損なわれるので、
マルテンサイト比率は95体積%以下とするのが好まし
い。より好ましくは90%以下である。
相に比べて軟質で加工性に富むうえ、加工を受けた際に
加工誘起変態して組織を極めて強靱にする。また、加工
誘起変態して得られる強靱な組織により、鋼の強度を高
めてばね疲労特性を向上させる。これら効果を得るため
に残留オ−ステナイト相の比率は2体積%以上とするの
が好ましい。
サイトと残留オーステナイトの2相組織にさらにフェラ
イト相があると加工性改善効果がある。しかしながら、
フェライト相の比率が高くなると強度が低下してばね特
性が損なわれるので、フェライト相を含有する場合の上
限は75体積%以下とする。
およびフェライト相の体積比率は、これらの総和が10
0%を超えない範囲である。なお、金属組織の体積%は
金属組織観察面における面積%にも相当する。
一般の方法で製造する。例えば、転炉や電気炉で鋼を溶
解した後、真空脱ガス処理を施し、連続鋳造鋳片やイン
ゴットにした後、分塊圧延するなどの方法でスラブを製
造する。
て熱間圧延鋼板を製造し、常法にしたがって焼鈍し、酸
洗などの方法でその表面の酸化スケ−ルを除去する。
る。冷間圧延は中間焼鈍を含む複数回おこなって目標の
板厚とする。ばね部品としての用途には最終板厚が0.
1mm以下の鋼箔とするのがよい。得られた鋼箔を窒素
含有雰囲気中で加熱し、雰囲気中の窒素を吸収させ、1
℃/秒以上の冷却速度で冷却する熱処理を施す。
率を効率よくおこなわせるために、以下のようにするこ
とが望ましい。
体積%以上とすることが好ましい。鋼表面に酸化皮膜が
形成されると窒素含有雰囲気からの窒素吸収が阻害され
るが、雰囲気中の水素濃度を上記範囲とし、かつ露点を
低くすることにより酸化皮膜の生成を抑制することがで
きる。より望ましくは50〜80体積%である。酸化皮
膜の厚さは100Å以下に抑えるのがよい。
体積%以上とすることが好ましい。より望ましくは20
〜50体積%である。
が100Åを超える緻密な酸化皮膜が鋼表面に形成さ
れ、鋼箔への窒素吸収率が低下するため、窒素含有雰囲
気の露点は−30℃以下にすることが好ましい。より望
ましくは−40℃以下である。
表面酸化作用のないArガス等の不活性ガスや窒化反応
を促進させるNH3等の触媒が含まれていても差し支え
ない。上記熱処理の鋼箔の表面温度は900℃以上とす
るのがよい。表面温度は加熱炉内に輻射温度計を配置し
て測定することができる。酸素ポテンシャルが低い低露
点雰囲気中で鋼箔の表面温度を900℃以上とすると、
鋼表面の酸化被膜が還元されるので、鋼表面の酸化皮膜
を100Å未満まで薄くすることができる。また、上記
温度域では酸化皮膜中および鋼中の窒素原子の拡散速度
が速く、鋼の窒素固溶量も大きくなるなどの相乗効果
で、鋼箔への窒素吸収が促進される。他方、鋼箔の表面
温度が1200℃を超えると、鋼箔の高温強度が低下
し、均熱作業に支障が生じることがあるので、熱処理の
均熱過程における鋼箔の表面温度は1200℃以下とす
るのがよい。
温度を900℃以上とする時間(以下、「均熱時間」と
もいう)を10秒以上とするのが望ましい。均熱時間が
10秒未満では、所期のばね特性を得るのに必要なマル
テンサイト相と残留オ−ステナイト相が得られない場合
がある。均熱時間の上限は特に限定しないが、連続熱処
理炉にて熱処理をおこなう場合には、生産性の低下を抑
制するために、2分以下とするとよい。
るために1℃/秒以上の冷却速度で冷却をおこなう必要
がある。冷却速度が1℃/秒未満では、冷却過程におけ
る鋭敏化現象の発生を充分に抑制できない場合がある。
冷却速度の上限は特に限定しないが、冷却速度を100
0℃/秒超とすることは実質的に困難であるので、10
00℃/秒以下とするとよい。
箔として使用してもよいが、ばね特性の向上を目的とし
た時効熱処理などの熱処理を施してもよい。
おこなう場合には、時効熱処理温度を100〜600℃
とすることが望ましい。
よるばね特性の向上が不充分となる場合がある。また、
時効温度が600℃超では前記窒素含有雰囲気熱処理に
より固溶したC、Nが数μmに及ぶ粗大な析出物を形成
して、結晶粒界および結晶粒内に析出し、耐食性および
材料強度を低下させる場合がある。より望ましくは、2
00〜00℃である。時効熱処理時間は、10秒以上と
することが望ましい。時効処理時間が10秒未満では、
時効処理によるばね特性の向上が不充分となる場合があ
る。時効処理時間の上限は特に限定する必要はないが、
本発明の窒素含有雰囲気熱処理後のクロム系ステンレス
鋼箔についての時効処理は、短時間でその効果を発揮す
ることから、バッチ式熱処理炉以外に連続熱処理炉にお
いてもおこなうことが可能であり、時効熱処理時間を5
分超としても上記効果が飽和する傾向を示すことから、
連続熱処理炉において時効処理をおこなう場合には5分
以下にするとよい。
の諸特性に殆ど影響を及ぼさないことから、時効処理後
の冷却には任意の冷却方式を適用することができる。
(平坦度)修正を目的として、時効熱処理後に調質圧延
をおこなうとよい。また、前記窒素含有雰囲気中で加
熱、冷却後に調質圧延を施してもよい。
ステナイト相の加工誘起変態を活用することが好ましい
が、この場合の調質圧延の圧下率は5%以下とするのが
望ましい。調質圧延の圧下率が5%超では、鋼箔の延性
が低下し加工性が損なわれる場合があるからである。
ステンレス鋼連続鋳造スラブを1150〜1200℃に
加熱し、仕上げ温度900〜950℃で熱間圧延を終了
して、厚さ3.2mmの熱延鋼帯を得た。これら熱延鋼
帯を750〜850℃での熱延板焼鈍を施した後、ショ
ットブラストと硝弗酸酸洗を施して脱スケ−ルした後、
中間焼鈍を挟む冷間圧延を施して厚さが0.05mmの
鋼箔とし、さらに以下に述べる条件で窒素含有雰囲気で
の熱処理を施した。
た。均熱雰囲気は窒素25体積%、水素75体積%と
し、雰囲気露点は−40℃以下に制御した混合ガスを使
用した。均熱時の鋼表面温度は800〜1100℃とし
た。均熱時間は10〜90秒の範囲とし、均熱後の冷却
速度は5〜40℃/秒と変化させた。
調質圧延を施した。
および窒素含有雰囲気熱処理後に調質圧延を施した鋼箔
の一部には、温度:200〜600℃,熱処理時間:1
0〜180秒とした時効処理を連続光輝焼鈍炉を用いて
おこなった。比較鋼として、市販のオ−ステナイト系ば
ね用鋼箔SUS301L−0.06mm厚,SUS30
4−0.05mm厚を準備した。
観察あるいはSEM観察によりマルテンサイト相および
残留オ−ステナイト相と識別できる。したがって、フェ
ライト相の体積率は、試験片断面を常法により研磨し腐
食させた金属組織観察面を顕微鏡観察して測定した。
X線回折法によりα−Feとγ−Feの積分強度を測定
することにより求めた。これより、マルテンサイト相の
体積率は、100−(フェライト相の体積率+残留オ−
ステナイト相の体積率)[%]より求めた。鋼箔の窒素含
有量は、化学分析(ガス分析法)により定量した。
とを共に示す。
カ−ス硬さ試験法により、0.98N荷重の条件にて測
定した。
直方向(T方向)の試験片を使用し、平面曲げ試験機に
よりJIS H 3732に規定されているばね限界値K
bとばね疲労限を測定した。Kbは、曲げによる表面最
大応力が36.25GPaとなるときの弾性変形と同等
の永久変形を生じさせる表面最大応力と定義される。
返し曲げ試験において107回を上限として試験片が破
断に至らなかった最大応力を測定した。
塩水を192時間噴霧した後の腐食面積率レイティング
No.(No.10:発銹なし,Noが小さい程腐食面
積率大)を測定した。
す。
ずれもマルテンサイト相と残留オ−ステナイト相に加
え、75体積%以下のフェライト相を含む三相混合組織
を有し、符号2Aの鋼箔はマルテンサイト相と残留オ−
ステナイト相からなる二相混合組織である。他方、符号
1Cの鋼箔はマルテンサイト相と残留オ−ステナイト相
に加え、75体積%を越えるフェライト相を含む三相混
合組織を有し、符号2Cの鋼箔は残留オ−ステナイト相
が無いマルテンサイト相とフェライト相からなる二相混
合組織である。
よび7の鋼箔は、いずれも表面硬さがHv500を超え
ており、比較鋼であるSUS301L鋼箔に相当する優
れたばね限界値およびばね疲労限が得られた。試番8の
鋼箔は、比較鋼であるSUS304鋼箔に相当する良好
なばね限界値およびばね疲労限を有した。
であり、目標のばね限界値、ばね疲労限が得られなかっ
た。
安価なクロム系ステンレス鋼箔でありながら、オ−ステ
ナイト系ステンレス鋼箔に匹敵する優れたばね特性を有
する鋼箔が得られ、ばね部品、ばね性を必要とする通信
機器、音響機器および精密電子機器等の部品のばね、特
に携帯電話のプッシュボタンを支えるばね部品に用い優
れた効果を発揮する。
示す図である。
イトの体積率との関係を示す図である。
図である。
Claims (10)
- 【請求項1】金属組織が、マルテンサイト相と残留オ−
ステナイト相とを含む二相混合組織またはマルテンサイ
ト相、残留オ−ステナイト相および75体積%以下のフ
ェライト相を含む三相混合組織からなることを特徴とす
るクロム系ステンレス鋼箔。 - 【請求項2】質量%で、C:0.01〜0.2%、C
r:10〜20%,N:0.05〜0.5%、Si:2
%以下、Al:0.05%以下、Ni:2%以下、M
n:2%以下、Cu:2%以下を含有し、残部Feおよ
び不純物からなることを特徴とする請求項1に記載のク
ロム系ステンレス鋼箔。 - 【請求項3】Feの一部に代えて、質量%でTiを0.
001〜0.02%含有する請求項2に記載のクロム系
ステンレス鋼箔。 - 【請求項4】Feの一部に代えて、質量%でNbを0.
01〜0.1%含有する請求項2または3記載のクロム
系ステンレス鋼箔。 - 【請求項5】Feの一部に代えて、質量%でMoを0.
1〜2%含有する請求項2〜4のいずれかに記載のクロ
ム系ステンレス鋼箔。 - 【請求項6】Feの一部に代えて、質量%でVを0.0
5〜0.3%含有する請求項2〜5のいずれかに記載の
クロム系ステンレス鋼箔。 - 【請求項7】Feの一部に代えて、質量%で希土類元素
を0.005〜0.1%含有する請求項2〜6のいずれ
かに記載のクロム系ステンレス鋼箔。 - 【請求項8】請求項1の金属組織または請求項2〜7に
記載の化学組成を有するクロム系ステンレス冷延鋼板を
窒素含有雰囲気中で加熱し、前記窒素含有雰囲気中の窒
素を吸収させたのち、1℃/秒の冷却速度で冷却するこ
とを特徴とするクロム系ステンレス鋼箔の製造方法。 - 【請求項9】冷却した後、100〜600℃の温度域で
10秒以上の時効熱処理をおこなうことを特徴とする請
求項8に記載のクロム系ステンレス鋼箔の製造方法。 - 【請求項10】時効熱処理をおこなった後、圧下率5%
以下の調質圧延をおこなうことを特徴とする請求項9に
記載のクロム系ステンレス鋼箔の製造方法。
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