JP2019157203A - 耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼とその製造方法 - Google Patents

耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼とその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】屋外で使用可能な優れた耐食性を有するとともに、高強度を維持しつつ低耐力を備え、加工時のスプリングバック量を低減して良好な形状凍結性を有する、耐食性および加工性に優れる高強度の複相ステンレス鋼を提供することを目的とする。【解決手段】本発明は、質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.05〜1.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Ni:1.5〜3.0%、Cr:17.5〜22.0%、Cu:0.3〜2.0%、N:0.040%以下、Al:0.2%以下、O:0.004%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、体積率で40〜60%のマルテンサイト相を有し、ビッカース硬さが230〜330HVであり、0.2%耐力と引張強さとの比である降伏比が0.4〜0.6である、耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼である。【選択図】図1

Description

本発明は、耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼とその製造方法に関するものである。
高強度と高耐食性を兼ね備えた材料として、圧延等により加工硬化させたステンレス鋼、析出硬化型ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、マルテンサイトとフェライト相またはオーステナイト相との複相ステンレス鋼などが知られている。
加工硬化により高強度を達成し、かつ耐食性に優れるステンレス鋼として、加工誘起マルテンサイトを生じる準安定オーステナイト系のSUS301が挙げられる。しかし、高価なNiを7%程度含有するため、原料コストが高いという問題がある。フェライト系ステンレス鋼に調質圧延を施して加工硬化による高強度を得ることは可能である。しかし、フェライト系ステンレス鋼は、加工誘起マルテンサイトを生じないため、著しく伸びが低下し、加工性が問題となる。
マルテンサイト系ステンレス鋼としては、SUS403やSUS420J2の焼入れ材が挙げられる。これらは、硬質なマルテンサイト相を生成することにより高強度を達成する材料である。しかし、Cr含有量が低く、他の高強度ステンレス鋼と比較して耐食性が低いため、屋外で用いられる建材等の用途への適用は困難である。また、延性が低いため、加工性が劣るという問題がある。
析出硬化型ステンレス鋼としては、SUS630やSUS631が挙げられる。これらは、熱処理により硬質なマルテンサイト相を生成し、さらに析出相を微細分散させることにより高強度を達成する材料である。これらも加工硬化型のSUS301と同様に高価な添加元素を多く含むため、原料コストが高いという問題がある。
複相組織ステンレス鋼としては、フェライトとマルテンサイト、またはフェライトとオーステナイトといった2相系のステンレス鋼が挙げられる。これらは、複相組織となることに伴う結晶粒微細化により高強度を達成する材料である。フェライトとマルテンサイトの2相とする場合、結晶粒微細化に加えて、硬質なマルテンサイト相を含むため、さらに高い強度が得ることができる。フェライトとオーステナイトの2相とする場合、延性に富むオーステナイト相を含むため、加工性が向上する。
上記の複相ステンレス鋼の場合、熱処理を施した際にフェライトと他の相との複相組織となるように成分設計が行われる。成分設計の基本は、フェライト生成元素であるCr、Si、Moの含有量と、オーステナイト生成元素であるC、N、Mn、Ni、Cuの含有量を調整することにある。また、一般に、添加元素の量が多いほど、オーステナイト相の安定度が高くなり、フェライトとマルテンサイトの2相ではなく、フェライトとオーステナイトの2相となる傾向にある。したがって、フェライトとオーステナイトの2相とする場合、NiやCuなどの高価な添加元素が多く含有されることになり、原料コストが高くなる問題がある。
これらの問題への解決策として、低コストで高強度と適度な加工性を兼ね備えたフェライトとマルテンサイトの複相ステンレス鋼に、さらに高耐食性を付加した材料として、特許文献1〜4が報告されている。
特開平11−286852号公報 特開2003−328083号公報 特開2011−225970号公報 特開2015−101763号公報
近年、薄肉化・軽量化ニーズの増大を背景として、高強度ステンレス鋼の使用用途は、多岐にわたり、既存鋼より安価かつ優れた耐食性が求められるようになった。それに加え、増大した各種用途での加工を行う際の加工性が重視されるようになった。一般に高強度ステンレス鋼は、耐力が高く、形状凍結性が劣るため、加工性の点で問題があった。
特許文献1〜4の高強度ステンレス鋼は、いずれも耐力が高いため、それに応じて加工装置の付加荷重を上げる必要があり、設備負荷が大きくなる。さらに、加工後のスプリングバック量が大きく、形状凍結性に劣るため、加工精度が悪い。その結果、設備投資の増大、メンテナンス頻度の増加、加工工程の追加などが必要となり、最終製品の製造コストを増大させるという問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みて考案されたものである。屋外で使用可能な優れた耐食性を有するとともに、高強度を維持しつつ低耐力を備え、加工時のスプリングバック量を低減して良好な形状凍結性を有する、耐食性および加工性に優れる高強度の複相ステンレス鋼を提供することを目的とする。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
(1)本発明は、質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.05〜1.0%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Ni:1.5〜3.0%、Cr:17.5〜22.0%、Cu:0.3〜2.0%、N:0.040%以下、Al:0.2%以下、O:0.004%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、体積率で40〜60%のマルテンサイト相を有し、ビッカース硬さが230〜330HVであり、0.2%耐力と引張強さとの比である降伏比が0.4〜0.6である、耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼。
(2)本発明は、さらに、質量%で、Mo:1.0%以下およびSn:0.20%以下からなる群から選択された1種以上を含有する、(1)に記載の耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼である。
(3)本発明は、さらに、質量%で、Nb:0.50%以下、Ti:0.30%以下、V:0.50%以下およびW:0.50%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有する、(1)または(2)に記載の耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼である。
(4)本発明は、さらに、質量%で、B:0.001〜0.01%を含有する、請求項(1)〜(3)のいずれかに記載の耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼である。
(5)本発明は、(1)〜(4)のいずれかに記載の複相ステンレス鋼からなる熱延板に、700〜850℃で10min以上の加熱処理を施した後、室温まで冷却する第1の熱処理を施して熱延焼鈍板を得ること、次いで、当該熱延焼鈍板を冷間圧延して得られた冷延板に、フェライトおよびオーステナイトの2相域である800〜1150℃の加熱処理を施した後、室温まで冷却する第2の熱処理を施して、フェライトおよびマルテンサイトの複相組織を形成することを含む、耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼の製造方法である。
(6)本発明は、さらに、前記冷延板に対し、圧延率が1〜5%の調質圧延処理、または250〜450℃の時効熱処理の少なくとも一方の処理を行うことを含む、(5)に記載の耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼の製造方法である。
本発明によれば、各種用途で幅広く用いられるSUS304と同程度の耐食性を有しているので、屋外で使用可能な耐食性を維持できる。合わせて、高強度を有しているので、素材板厚を減少させて、材料コスト低減や軽量化に寄与する。本発明に係る複相ステンレス鋼は、高強度ステンレス鋼に比べて耐力が相対的に低く、良好な形状凍結性を有する。そのため、加工に要する設備負荷が抑制され、加工コストを低減できる。
実施例における本発明例のステンレス鋼の組織を示す図である。 実施例における比較例のステンレス鋼の組織を示す図である。
以下、本発明に係る実施形態について説明する。本発明の技術思想は、以下の説明に限定されるものではない。
本実施形態に係る複相ステンレス鋼は、高Cr量を含有するので、屋外で使用可能な優れた耐食性を有する。そして、特定の組成及び熱処理によりマルテンサイト相の分布形態が調整されて、耐力と強度との割合(降伏比)を適正な範囲で有する。これらの組成および特性を備えることにより、加工時のスプリングバック量が低減され、形状凍結性が向上し、耐食性および加工性に優れる複相ステンレス鋼を提供できる。
ステンレス鋼の耐食性を向上する代表的な手法として、Cr量の増大、Moの添加により、不働態皮膜の形成を促進し、耐孔食性を改善することが挙げられる。また、Ni、Nの各元素は、酸環境での溶解速度を低減するので、腐食起点が生じた際のピット成長を抑制するとともに再不働態化を促進し、耐食性向上に寄与する。複相ステンレス鋼の場合、Cr、Moは、フェライト生成元素であり、Ni、Nは、オーステナイト生成元素であるため、これらの元素の添加については、形成される金属組織の相バランスに留意する必要がある。また、フェライト相とマルテンサイト相の間に大きな耐食性差が生じないように、金属組織の相分配を考慮して、上記の各元素を添加する必要がある。さらに、一般に、複相ステンレス鋼には複相化させる熱処理が施される。そのため、熱処理時の炭窒化物の生成による耐食性低下を避ける必要がある。本発明の複相ステンレス鋼におけるCr、Mo、Ni、Nの成分範囲は、上記の事情を考慮して決定された。
フェライト相およびマルテンサイト相を有する複相ステンレス鋼の引張強さと0.2%耐力(以下、単に「耐力」ということもある。)は、フェライト相および硬質相(マルテンサイト相)の硬さ、硬質相の体積率が関係する。このうち、引張強さと体積率は、一般に混合則にしたがい、硬質相の体積率に比例して複相ステンレス鋼の引張強さが上昇する関係にある。
複相ステンレス鋼の耐力についても、総体的には、硬質相の体積率が大きいほど高くなる関係にある。しかし、混合則から推定される値より低い場合があり、硬質相の体積比が50%近傍では、特にその傾向が顕著となる。
また、硬質相の分布形態は、機械的性質に影響する。例えば、硬質相が棒状または板状の形態で分布する場合は、複相ステンレス鋼の耐力が高くなるとともに、機械的性質の異方性が大きくなる傾向にある。この棒状または板状の形態が細かく分断された形態、すなわち、島状の形態で分布する部分が増えると、耐力が低下し、機械的性質の異方性も小さくなると考えられる。なお、本明細書においては、棒状または板状の形態が分断された形態を、以下、「島状」の形態と称する。
また、高強度ステンレス鋼のスプリングバック量は、その耐力および引張強さに影響を受け、比較的軽度の加工の場合は、特に耐力の影響が大きい。高強度ステンレス鋼は、一般的なステンレス鋼と比較して延性に劣る傾向にあるため、比較的軽度の加工が施されて成形される場合が多く、実用上は、耐力による影響が重要となると考えられる。さらに、スプリングバック量は、高強度ステンレス鋼の強度レベルにも依存するため、耐力と引張強さとの比である「降伏比」として、規格化した上で整理することが好ましい。
以上のことから、本発明者等は、複相ステンレス鋼のマトリクッスにおけるマルテンサイト相の体積率を中程度とするとともに、当該マルテンサイト相の形態において島状の分布組織を含むようにすることにより、複相ステンレス鋼の降伏比を下げることができると考えた。さらに、フェライト相とマルテンサイト相の強度と延性とを適正な範囲に調整するように成分設計を行うことにより、複相ステンレス鋼において高い強度及び適度な加工性を両立して付与することができると考えた。
しかし、前述のとおり、耐食性を向上する元素の多くは、複相ステンレス鋼におけるフェライト相とマルテンサイト相との分布バランスや相の安定性に影響を与えるとともに、実際の製造ラインの製造性及び製造時の熱処理による影響についても考慮する必要があった。そこで、本発明者等は、鋭意研究の結果、CrとNiを含む成分系において、屋外用途に適用できる耐食性を確保した上で、Mn含有量を調整し、特定の2段階焼鈍を行うことにより、高い強度と適度な延性を有する複相ステンレス鋼が得られ、目的とする高耐食性と低降伏比の各特性が得られることを見出した。
本発明に係る複相ステンレス鋼に含まれる合金成分ならびに製造条件について、説明する。以下の化学組成の%表示は、質量%を意味する。
(成分)
C(炭素)は、オーステナイト生成元素であり、金属組織中のマルテンサイト相の体積率を増大する作用を有する。また、固溶強化により、フェライト相およびマルテンサイト相の強度を高める作用を有し、特にマルテンサイト相の強度に大きな影響を与える。この観点から、Cの含有量は0.03%以上が好ましく、より好ましくは、0.04%以上である。他方、C含有量が多いほど、複相化熱処理後の冷却過程で、主として粒界にCr炭化物が析出し、その近傍にCr欠乏層が形成されて耐食性が低下する鋭敏化現象を招く。さらに、過剰なC含有は、フェライト相及びマルテンサイト相の体積率に関するバランスの調整を困難にし、フェライト相とマルテンサイト相との強度差を助長して延性の低下を招くので、C含有量は、0.07%以下が好ましく、より好ましくは、0.06%以下である。なお、本明細書は、フェライト相及びマルテンサイト相の体積率に関するバランスを、「相バランス」ということもある。
Siは、製鋼工程での脱酸剤として有効な元素である。また、フェライト相に多く固溶し、フェライト相の強度を上昇させる作用を有する。これらの効果を得るため、Siの含有量は、0.05%以上が好ましく、より好ましくは、0.1%である。他方、過剰なSi含有は、複相ステンレス鋼として好適な相バランスが維持できなくなるとともに、ステンレス鋼の靭性低下を招き、製造性を低下させるため、Si含有量は、1.0%以下が好ましく、より好ましくは、0.75%以下である。
Mnは、オーステナイト生成元素であり、複相ステンレス鋼において適切なマルテンサイト相の体積率を得るために有効な元素である。また、フェライト相中に比較的多く固溶して強度の上昇に寄与するため、フェライト相とマルテンサイト相の強度差を減少して延性を改善する効果を有する。さらに、オーステナイト相が安定な温度範囲を拡大し、後述する熱処理によって、島状の形態を含むマルテンサイト相の分布組織を生成する際に重要な元素である。これらの効果を得るため、Mn含有量は、1.0%以上が好ましい。他方、過剰にMnを含有させると、オーステナイト相(マルテンサイト相)が増大するので、相バランスを調整するために、Ni含有量やCu含有量を低減させるため耐食性の低下を招く。この観点から、Mn含有量は、3.0%以下が好ましく、より好ましくは、1.8%以下である。
Pは、固溶強化に寄与する元素である一方で、耐食性や靭性を低下させる。そのため、P含有量は、低いほど好ましい。しかし、製造工程の脱P処理は、製造コストの上昇を招くため、P含有量は、0.040%以下の範囲で許容される。
Sは、主としてMnおよびCaと硫化物系介在物を形成し、耐食性を低下させる。また、オーステナイト粒界にSが偏析した場合、熱間加工性が低下する。そのため、S含有量は、低いほど好ましい。しかし、製造工程の脱硫処理は、製造コストの上昇を招くため、S含有量は、0.010%以下の範囲で許容される。
Niは、オーステナイト生成元素であり、複相ステンレス鋼において適切なマルテンサイト相の体積率を得るために有効な元素である。また、Niがマルテンサイト相に相対的に多く分配されるので、マルテンサイト相の耐食性が向上し、Crが相対的に多く分配されるフェライト相との耐食性差を低減できる。このような効果を得るために、Ni含有量を1.5%以上であることが好ましく、1.7%以上がより好ましい。他方、Niは、高価な元素であり、過度の添加は、原料コストの増大を招く。さらに、Ni含有量が過多であると、相バランスを調整する観点で、Mn、C、Nの各元素の含有量と調整する必要が生じる。C及びNの含有量を低減すると、マルテンサイト相の強度が低下する。また、Mnの含有量を低減すると、島状のマルテンサイト相を得るのが困難になる。これらの観点から、Ni含有量は、3.0%以下であることが好ましく、2.5%以下がより好ましい。
Crは、ステンレス鋼の表面に不働態皮膜を形成して耐食性を発現する主要な添加元素である。さらに、オーステナイト相の安定な温度範囲が低温側に拡大し、島状の形態を含むマルテンサイト相の分布組織を形成するために必要な元素である。複相ステンレス鋼において、Crは、フェライト相に相対的に多く分配されるため、マルテンサイト相中のCr濃度は、平均組成より低くなる傾向にある。当該マルテンサイト相に対して屋外用途に適用可能な程度の耐食性を付与するため、Cr含有量は、17.5%以上が好ましく、18.0%以上がより好ましい。他方、Crを過剰に添加すると、相バランスを調整するためにNi等のオーステナイト生成元素を多く添加する必要が生じる。そのため、原料コストの増大を招くとともに、ステンレス鋼の靭性低下を招き、製造性を低下させる。よって、Cr含有量は、22.0%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
Cuは、オーステナイト生成元素であり、複相ステンレス鋼において、適量のマルテンサイト相の体積率を得るために有効な元素である。また、材料の耐酸性を改善し、耐孔食性を向上させる作用を有する。Cuは、マルテンサイト相に相対的に多く分配され、当該マルテンサイト相の耐食性を改善することから、Cu含有量は、0.3%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましい。他方、過剰なCu添加は、析出物の形成及びCuイオンの溶出に起因して、耐食性低下を招く場合があるため、Cu含有量は、2.0%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
N(窒素)は、Cと同様に、高い固溶強化能を示すオーステナイト生成元素であり、複相ステンレス鋼において、マルテンサイト相の体積率と強度に影響を与える元素である。また、固溶Nは、ステンレス鋼の耐食性を向上する作用も有する。他方、Nは、ステンレス鋼に含まれるAlと結合してAl窒化物を形成する。そのため、一定量以上のNを添加しても、相バランスや機械的強度へ寄与する程度が飽和することに加えて、形成されたAl窒化物の増加により加工性の低下を招く。このような観点から、N含有量は、0.040%以下で含有してもよい。
Alは、製鋼工程での脱酸剤として有効な元素であり、O含有量を0.004%以下に制御するために用いることができる。他方、過剰なAlの添加は、溶接性の低下及び製造性の低下を招く。このような観点から、Al含有量は、0.2%以下が好ましく、0.15%以下がより好ましい。
O(酸素)は、ステンレス鋼中に不可避に混入される元素であり、製鋼工程でSiおよびAlによる脱酸が行われるが、最終製品には、一般的に0.001〜0.010%程度のOが残存する。鋼中に残存したOは、鋼中のSi、Mn、Alと結合して介在物を形成し、加工性を低下させる。そのため、O含有量は、低いほど好ましい。他方、製造工程における脱酸作業の負荷増大は、製造コストを上昇させる。よって、O含有量は、0.004%以下の範囲で許容される。より好ましくは、0.0035%以下である。
Moは、必要に応じて添加されて、耐食性の向上に寄与する元素である。他方、フェライト相に相対的に多く含有して、フェライト相とマルテンサイト相の耐食性差を拡大させる場合がある。また、Moは、高価な元素であり、原料コストが上昇する。そのため、Mo含有量は、1.0%以下であることが好ましい。
Snは、必要に応じて添加されて、耐食性の向上に寄与する元素である。過剰に含有させると、熱間加工性を低下させる。そのため、Sn含有量は、0.20%以下が好ましい。
Nb、Ti、V、Wは、必要に応じて添加される元素であり、本実施形態に係る複相ステンレス鋼に1種または2種以上を含有することができる。当該元素は、いずれも耐食性を改善する作用を有する一方で、介在物を形成して製造性を低下させる場合があり、また高価な元素である。そのため、Nb含有量は、0.50%以下が好ましく、Ti含有量は、0.30%以下が好ましく、V含有量は、0.50%以下が好ましく、W含有量は、0.50%以下が好ましい。
Bは、必要に応じて添加される元素であり、熱間加工性を高める作用を有する。B含有量が0.001%未満であると、その効果が十分でない。そのため、B含有量は、0.001%以上が好ましい。他方、過度なBの添加は、溶接性を低下させるとともに、硼化物を形成して耐食性を低下させる場合がある。そのため、B含有量は、0.01%以下が好ましく、0.006%以下がより好ましい。
(マルテンサイト相の体積率)
本実施形態に係るステンレス鋼は、マルテンサイト相の体積率が40〜60%であることが好ましい。マルテンサイト相の体積率は、40%未満であると、ステンレス鋼の強度が低下する一方で、60%を超えると、ステンレス鋼の延性が低下する。
マルテンサイト相の体積率は、化学成分及び熱処理温度によって制御できる組織的特性である。化学成分としては、下記の式(1)で表されるγ値が有効な指標となる。このγ値は、1100℃でのオーステナイト相比率の最大値を表す指標であり、γ値が40〜60の範囲に含まれるように成分調整することが好ましい。
γ=420×〔C〕−11.5×〔Si〕+7×〔Mn〕+23×〔Ni〕−11.5×〔Cr〕−12×〔Mo〕+9×〔Cu〕−49×〔Ti〕−52×〔Al〕+470×〔N〕+189・・・式(1)
ここで、〔 〕は、各元素の含有量を質量%で表した値を意味する。
(ビッカース硬さ)
本実施形態に係る複相ステンレス鋼は、ビッカース硬さが230HV以上、330HV以下の範囲であることが好ましい。ビッカース硬さが230HV未満であると、十分な強度が得られない。他方、ビッカース硬さが330HVを超えると、加工性が著しく低下する。化学成分および相バランス(マルテンサイト相の体積率)を制御することにより、所定のビッカース硬さを得ることができる。
(降伏比)
本実施形態に係る複相ステンレス鋼は、耐力と引張強さとの比である降伏比が0.4以上、0.6以下の範囲であることが好ましい。降伏比が0.4未満であると、耐力が低すぎるため、建材として用いた場合の施工が困難となる場合がある。降伏比が0.6を超えると、耐力が高くなり、加工時のスプリングバック量が大きく、形状凍結性が低下する。降伏比については、化学成分、マルテンサイト相の体積率及び分布形態を制御し、引張り強さ及び耐力を調整することにより、所定の範囲の降伏比が得られる。また、調質圧延や時効熱処理によって耐力を上昇させて、所定の降伏比とすることもできる。
(熱処理方法)
本実施形態に係る複相ステンレス鋼を製造する場合、上記の特定範囲の組成を有するステンレス鋼に対して2回の熱処理を施すことが好ましい。第1の熱処理においては、ステンレス鋼に700〜850℃の温度範囲で10min以上保持した後、室温まで冷却する。第2の熱処理においては、800〜1150℃の温度範囲まで加熱した後、室温まで冷却する。これらの熱処理が施されたステンレス鋼は、フェライト相に島状のマルテンサイト相が分散した組織を形成し、低耐力及び低降伏比の各特性を得ることができる。これらの熱処理における冷却速度は、一般的に用いられる空冷の程度でよく、10℃/s以上であると好ましい。また、これらの熱処理工程の間において冷間圧延工程、研磨工程や酸洗工程を必要に応じて加えることができる。さらに、第1の熱処理と第2の熱処理との間に、圧延による加工硬化の影響を除去するための中間熱処理を行っても良い。
通常、複相ステンレス鋼は、鋳造スラブや熱延板の時点でフェライトとマルテンサイトの2相組織を有している。その2相組織は、硬すぎて、後の工程における取扱いが難しくなるため、マルテンサイト相を消去して軟質化させる目的で、1回目の熱処理が行われる。当該熱処理によって軟質化された鋼材は、その後、必要に応じて所定の板厚まで加工される。次いで、複相化を目的とする2回目の熱処理を施されることにより、高強度のフェライトとマルテンサイトの複相組織が得られる。
従来の複相ステンレス鋼は、1回目の熱処理により、マルテンサイト相のほぼ全てがフェライト相と炭化物に分解する。そして、2回目の熱処理において、上記の分散した炭化物近傍においてオーステナイト相が生成され、その後の冷却時にマルテンサイト変態することにより、フェライト相とマルテンサイト相の複相組織が形成される。上記の1回目の熱処理後における金属組織は、当該熱処理前の鋼組織に影響されて、熱延組織やMnの偏析線が反映されるため、炭化物は、主に線状に分布した組織を呈する。2回目の熱処理によって得られるオーステナイト相は、上記炭化物の近傍で生成した後、炭化物が線状の形態で分散した線状方向に沿って成長する。そのため、当該オーステナイト相は、棒状または板状に分布した状態で形成され、その結果、室温まで冷却した際に得られるマルテンサイト相は、棒状または板状に分布した状態で形成される。
(第1の熱処理)
本実施形態に係る第1の熱処理により、熱延板に含まれるマルテンサイト相が分解するため、ステンレス鋼が軟質化されて、後の工程においてステンレス鋼の取り扱いを容易にする。それに加えて、第1の熱処理の終了時には、フェライト相中において、炭化物を含むとともに、島状に分散する形態を含む少量のマルテンサイト相が残存した組織が形成される。そのような組織が形成される機構については、十分に解明されていない。次のように推測される。
本実施形態に係る複相ステンレス鋼は、CrやMnなどの元素を多く含む。Mnは、オーステナイト生成元素である。また、Cr含有の場合、炭素やMnを含む鋼組成においては、オーステナイト相形成領域(γループ)が高Cr濃度域まで延びている。その点で、これらの元素は、オーステナイト相の安定な温度域を、低温側に拡大する作用を有するといえる。第1の熱処理を700〜850℃の温度域で行うことにより、熱延板の複相ステンレス鋼は、フェライト+炭化物+オーステナイトの三相域で保持される。そのため、熱延板に含まれるマルテンサイト相は、分解されてフェライト相及び炭化物を生成する。それとともに、当該生成されたフェライト相及び炭化物の近傍では少量のオーステナイト相が分散して生成し、当該オーステナイト相が冷却時にマルテンサイト変態してマルテンサイト相に移行すると推測される。その結果、フェライト相中において、炭化物を含むとともに、島状に分散する形態を含む少量のマルテンサイト相の残存した組織が形成されると考えられる。
熱処理温度が700℃未満の場合、熱延板の複相ステンレス鋼は、フェライト相の安定な温度域に保持されるため、マルテンサイト相が分解されてフェライト相と炭化物を生成した組織が得られる一方で、オーステナイト相を含む組織が得られない。他方、熱処理温度が850℃を超えると、オーステナイト相の安定な温度域に保持されるため、冷却後の2相組織においてマルテンサイト相の量が多くなり、十分に軟質化できない。よって、第1の熱処理の温度域は、700〜850℃であることが好ましく、より好ましくは、下限が730℃であり、また、上限が830℃である。また、熱処理時間は、十分にマルテンサイト相の分解を進めるために、10min以上とするのが好ましい。
(第2の熱処理)
上記の第1の熱処理が施されて得られたステンレス鋼に対して、第2の熱処理として、900〜1150℃で焼鈍した後、室温に冷却を行う複相化処理が施される。フェライト及びオーステナイトの2相域に保持されることにより、当該第2の熱処理前に島状を含む形態で分散していたマルテンサイト相は、逆変態して、島状の形態を含むオーステナイト相の分散組織を形成する。そのほかの領域においても、炭化物の近傍でオーステナイト相が生成される。このオーステナイト相についても、発生箇所となる炭化物の分布量が比較的少ないため、相成長が抑制されて島状の形態を含む分散組織となる。その結果、冷却時に得られるマルテンサイト相は、島状で微細に分布した形態を含む組織を呈する。
第2の熱処理の温度が900℃未満である場合、または1150℃を超える場合は、フェライト及びオーステナイトの2相域から外れるので、オーステナイト相の生成量が低減する。そのため、冷却後の複相組織におけるマルテンサイト相の生成量が不足して十分な強度が得られない。よって、第2の熱処理の温度域は、900〜1150℃が好ましい。適用する熱処理温度は、この温度範囲の中で各元素の組成比に応じて適宜変更できる。熱処理時間は、例えば1〜10minでよい。また、所定の温度に到達後、直ちに冷却してもよい。冷却速度は、特に限定されないが、10℃/s以上が好ましい。
第1の熱処理と第2の熱処理との間で、必要に応じて、冷間圧延、研磨、酸洗等の処理を行うことができる。第1の熱処理後のステンレス鋼組織に含まれるマルテンサイト相は、フェライト相に比べて硬質であるので、冷間圧延処理を受けても変形する程度が小さく、マクロ組織として見た場合の分散状態がほぼ維持される。また、研磨や酸洗等の処理は、ステンレス鋼の表面に大きな影響を与える一方で、バルクの金属組織に及ぼす影響が小さい。よって、第1の熱処理の後にこれらの処理を施しても、マルテンサイト相の分布状態がほぼ保持されるので、第2の熱処理後において島状の形態を含むマルテンサイト相が分散した組織が得られる。
(調質圧延)
本実施形態に係る複相ステンレス鋼に対して調質圧延を施してもよい。調質圧延により、当該複相ステンレス鋼の表面肌を整えたり、耐力を向上させるとともに、降伏比を調整することができるという効果が得られる。調質圧延の圧延率が1%未満であると、上記の効果が十分に得られない。他方、圧延率が5%を超えると、加工性が低下するとともに、低い降伏比の鋼材を得るのが困難である。そのため、調質圧延の圧延率は、1〜5%であることが好ましい。
(時効熱処理)
本実施形態に係る複相ステンレス鋼に対して、250~450℃の時効熱処理を施してもよい。当該時効熱処理により、当該複相ステンレス鋼の耐力を上昇させるとともに、降伏比を調整することができる。フェライト相中に棒状または板状の形態でマルテンサイト相が分布する従来の複相ステンレス鋼に比べて、本実施形態に係る当該複相ステンレス鋼は、フェライト相中にマルテンサイト相が島状に分布する形態を含んでいるため、当該時効熱処理による耐力の上昇する程度が小さく、耐力および降伏比の調整は容易である。また、250~450℃の温度域で拡散接合によりクラッド鋼とすることもできる。その場合でも、低い耐力と高い形状凍結性が維持されるため、クラッド鋼の素板として好適である。
(製造方法)
本実施形態に係る複相ステンレス鋼の製造方法について説明する。熱処理を施す工程に用いられるステンレス鋼は、上記の特定の組成を有するものであれば、特に限定されない。例えば、連続鋳造によって製造したスラブを加熱した後に抽出し、熱間圧延した後、公知の方法で2回の熱処理と酸洗を施して、製造することができる。前述のとおり、2回の熱処理の間に、必要に応じて、冷間圧延、研磨、酸洗工程を追加して製造することができる。
上記の製造方法で得られたステンレス鋼は、さらに必要に応じて、形状矯正を目的としたレベラー通板、高光沢を得るためのスキンパス通板、または、酸洗、研磨等の公知の処理を施してもよい。
以下、実施例について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〈ステンレス鋼板の作製〉
表1に示す化学組成を有するNo.A1〜A5及びNo.B1〜B7の各ステンレス鋼(以下、それぞれ「鋼No.A1」のように表記する。)を、真空溶解炉で溶製して30kgのインゴットを鋳造した。化学組成の値は、質量%での含有量を示し、残部はFeおよび不可避的不純物である。得られたインゴットを切削加工によりスラブに分塊した。スラブを1200℃に加熱した後、抽出し、仕上温度が約920℃となるように熱間圧延を施して、板厚約3mmの熱延板を得た。
次に、上記の熱延板に、750℃または650℃で均熱12hの熱処理を施した後、炉冷して熱延焼鈍板を得た。この熱延焼鈍板を酸洗した後、冷間圧延により板厚1mmの冷延板を得た。得られた冷延板に、1050℃で均熱1minの複相化処理を施した。得られた鋼板を供試材とし、以下の評価試験を行った。
〈マルテンサイト相の体積率〉
マルテンサイト相の体積率(相比)の測定方法は、次のとおりである。供試材から切削加工で幅10mm(板幅方向)×長さ20mm(圧延方向)の断面観察用試験片を作製した。当該試験片は、熱間樹脂材に埋めた後、試験片の表面をエッチングしてマルテンサイト相を優先的に腐食させた。このエッチングには、47%弗酸水溶液、60%硝酸水溶液およびグリセリンを、1:1:1の比率で混合したエッチング液を用いた。エッチングされた試験片を水洗及び乾燥した後、光学顕微鏡観察(倍率:400倍)に供した。試験片の表面において任意に5箇所を選択して400倍の視野で撮影した。撮影画像は、画像処理によって二値化してピクセル数を計測した。計測値からフェライト相及びマルテンサイト相の各面積を算出し、マルテンサイト相の面積率を求めた。本発明に係る複相ステンレス鋼は、5箇所の視野で得られたマルテンサイト相の面積率の平均値を、マルテンサイト相の体積率とした。
〈ビッカース硬さ〉
ビッカース硬さは、JIS Z2244に準じ、荷重30kgfで表面硬さを測定した。上記の断面観察用試験片を用いて、その表面で任意に10箇所を選定してビッカース硬さ(HV)を測定した。得られた測定値における最大値および最小値を除く8箇所の平均値として求めた。
〈降伏比〉
供試材を切削加工して、JIS Z2201の13B号試験片を作製し、JIS Z2241に準じた引張試験を行い、0.2%耐力と引張強さを測定した。クロスヘッド速度は、3mm/minとした。0.2%耐力を引張強さで除して降伏比を算出した。
〈耐食性試験〉
耐食性については、「塩水噴霧、乾燥、湿潤」を繰り返す塩乾湿繰返し試験を用いた。供試材を切削加工により50mm(板幅方向)×100mm(圧延方向)の矩形に切り出した。耐食性評価に用いる端面(以下、「評価面」という。)を#600まで湿式研磨した後、端面をシリコンシーラントで被覆し、ベークライトの台座に固定して耐食試験用の試験片とした。作製した試験片を塩乾湿繰返し試験に供した。塩乾湿繰返し試験の試験条件は、塩水噴霧(5%NaCl水溶液)を15min、乾燥(温度60℃、相対湿度35%)を1h、湿潤(温度50℃、相対湿度95%)を3hという処理を1サイクルとして、10サイクル行った。この試験を行った後、評価面において発銹面積率を測定した。発銹面積率は、試験後の外観を撮影し、発銹した部分の面積を評価面全体の面積で除して求めた。発銹面積率が20%以下のものを良好(○)と評価し、20%を超えるものを不適(×)と評価した。
〈加工性〉
得られた各鋼板の加工性を評価するため、JIS Z2248に準じたV字曲げ試験を実施した。試験片は、供試材を幅30mm(圧延方向)×長さ60mm(板幅方向)の矩形に切削加工し、端面を研摩したものである。先端R3.0mm、先端角90°のV型治具および受台を用いて、曲げ稜線が圧延方向に平行になるようにセットし、曲げ試験を行った。曲げ試験の後、試験片のV字部の角度を測定し、V型治具の先端角である90°を差し引いて戻り角(°)を求めた。各条件で曲げ試験を3回ずつ行い、戻り角の平均値をその条件におけるスプリングバック量とした。形状凍結性の観点から、スプリングバック量が2°以下の場合は、加工性が良好(○)であると評価し、2°を超える場合は、加工性が不適(×)であると評価した。また、曲げ試験時に試験片にネッキングが生じた場合は、曲げ加工性に乏しいことから、加工性が不適(×)であると評価した。
表2に、第1の熱処理温度(℃)、マルテンサイト相の体積率(%)、ビッカース硬さ(HV)、降伏比、耐食性および加工性に関する試験結果を示す。
(耐食性に関する結果)
鋼No.A1〜A10は、本発明の範囲に含まれる成分組成、体積率、ビッカース硬さ、降伏比を備えた複相ステンレス鋼であり、いずれも、良好な耐食性を示した。
それに対し、比較例の鋼No.B1は、Cr含有量が17.5%未満であり、鋼No.B2は、Ni含有量が1.5%未満であるため、いずれも十分な耐食性が得られず、発銹面積率が大きかった。
(形状凍結性に関する結果)
鋼No.A1〜A10は、本発明の範囲に含まれる成分組成、体積率、ビッカース硬さ、降伏比を備えた複相ステンレス鋼であり、いずれもスプリングバック量が2°以下であり、良好な形状凍結性を示した。
それに対し、比較例の鋼No.B1、鋼No.B3及び鋼No.B4は、いずれも降伏比が0.6を超えていたため、スプリングバック量が増大し、加工性が不適であった。これらの鋼は、複相化を目的とした第2の熱処理後の金属組織において、フェライト相中にマルテンサイト相が島状の形態を含む分布形態で分散した2相組織が十分に得られず、その結果、耐力が過大となって降伏比が高くなったと考えられる。
すなわち、鋼No.B1は、Cr含有量が17.5%未満であり、鋼No.B3は、Mn含有量が1%未満であり、Cr量またはMn量が十分に含有されていなかったため、第1の熱処理後の金属組織において、マルテンサイト相の多くは、棒状または板状の形態で分布し、島状の形態のマルテンサイト相がほとんど含まれていなかった。また、鋼No.B4は、第1の熱処理温度が700℃未満であったため、第1の熱処理時において、ほぼ全てのマルテンサイト相がフェライト相と炭化物に分解し、島状の形態を含むマルテンサイト相の分散組織が得られなかったと考えられる。
比較例の鋼No.B5は、マルテンサイト相の体積率が60%を超えていたため、耐力が過大となって降伏比が高くなり、スプリングバック量が増大した。比較例の鋼No.B7は、ビッカース硬度が330を超えていたため、延性に乏しく、曲げ試験においてネッキングが生じた。そのため、鋼No.B5及び鋼No.B7は、加工性が不適であった。
比較例の鋼No.B6は、マルテンサイト相の体積率が40%未満であり、硬質相の含有割合が少なかった。そのため、ビッカース硬さが220HV未満であり、十分な強度も得られなかった。
(組織観察)
上記のマルテンサイト相の体積率の測定に用いられた試験片について、その金属組織を光学顕微鏡で撮影した画像の一例を図1、図2に示す。図1は、本発明例の鋼No.A1の金属組織を示したものである。図2は、比較例の鋼No.B1の金属組織を示したものである。マルテンサイト相は、図における白色部分に相当する。図1に示すように、本発明例の鋼No.A1は、マルテンサイト相が細かく分断された形態を多く含む分布組織を有していた。
その一方で、図2の比較例の鋼No.B1は、Cr量が17.5%未満であり、本発明の範囲を下回るものである。図2に示すように、マルテンサイト相が棒状に連結し、その周囲にも枝を伸ばしたような形態で分布した組織を有していた。第1の熱処理時にマルテンサイトがほぼ全て分解してフェライト相及び炭化物となり、当該炭化物が棒状に分布していたことに起因し、2回目の熱処理後のマルテンサイト相が棒状の分布組織に至ったものと考えられる。
以上のとおり、本発明に係る複相ステンレス鋼は、屋外用途に適用可能な高い耐食性と、優れた形状凍結性を有することが確認できた。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.03〜0.07%、
    Si:0.05〜1.0%、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.040%以下、
    S:0.010%以下、
    Ni:1.5〜3.0%、
    Cr:17.5〜22.0%、
    Cu:0.3〜2.0%、
    N:0.040%以下、
    Al:0.2%以下、
    O:0.004%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    体積率で40〜60%のマルテンサイト相を有し、ビッカース硬さが230〜330HVであり、0.2%耐力と引張強さとの比である降伏比が0.4〜0.6である、耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼。
  2. さらに、質量%で、Mo:1.0%以下およびSn:0.20%以下からなる群から選択された1種以上を含有する、請求項1に記載の耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼。
  3. さらに、質量%で、Nb:0.50%以下、Ti:0.30%以下、V:0.50%以下およびW:0.50%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有する、請求項1または2に記載の耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼。
  4. さらに、質量%で、B:0.001〜0.01%を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の複相ステンレス鋼からなる熱延板に、700〜850℃で10min以上の加熱処理を施した後、室温まで冷却する第1の熱処理を施して熱延焼鈍板を得ること、次いで、当該熱延焼鈍板を冷間圧延して得られた冷延板に、フェライトおよびオーステナイトの2相域である800〜1150℃の加熱処理を施した後、室温まで冷却する第2の熱処理を施して、フェライトおよびマルテンサイトの複相組織を形成することを含む、耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼の製造方法。
  6. さらに、前記冷延板に対し、圧延率が1〜5%の調質圧延処理、または250〜450℃の時効熱処理の少なくとも一方の処理を行うことを含む、請求項5に記載の耐食性および加工性に優れた複相ステンレス鋼の製造方法。
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