JP2002069608A - 複層組織Cr系ステンレス鋼の製造方法 - Google Patents

複層組織Cr系ステンレス鋼の製造方法

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JP2002069608A
JP2002069608A JP2000268897A JP2000268897A JP2002069608A JP 2002069608 A JP2002069608 A JP 2002069608A JP 2000268897 A JP2000268897 A JP 2000268897A JP 2000268897 A JP2000268897 A JP 2000268897A JP 2002069608 A JP2002069608 A JP 2002069608A
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nitrogen
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based stainless
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Masaharu Hatano
正治 秦野
Shinji Tsuge
信二 柘植
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Sumitomo Metal Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 Cr系ステンレス鋼の耐食性を向上させる製
造方法を提供する。また、ばね用途へ適用した場合に、
オーステナイト系ばね用鋼板と同等の加工性(例えば曲
げ性)とばね特性を具備し、マルテンサイト系ばね鋼よ
りも優れた耐食性を備えるCr系ステンレス鋼の製造方
法を提供する。 【解決手段】 質量%でCr:10〜20%を含有する
Cr系ステンレス鋼を窒素含有雰囲気中で均熱し、前記
窒素含有雰囲気中の窒素を吸収させることにより表層部
をオーステナイト単相としたのち、900〜500℃の
温度域を1℃/秒以上の冷却速度で冷却する複層化熱処
理を行う。ばね用途へ適用する場合には、さらに100
〜650℃の温度域で20秒以上の時効処理を行う。ま
たは前記時効処理の前に圧下率20%以下の調質圧延を
行う。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、良好な耐食性を示
すCr系ステンレス鋼の製造方法に関し、特にばね用途
へ適用した場合には、良好なばね特性、加工性および耐
食性を示すCr系ステンレス鋼の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ばね用ステンレス鋼帯または鋼板(以
下、単に「鋼板」という。)には、例えばJIS−G4
313に規定されているように、オーステナイト系とし
てSUS301−CSPおよびSUS304−CSP、
マルテンサイト系としてSUS420J2−CSP、析
出硬化系としてSUS631−CSPがある。
【0003】オーステナイト系ばね用鋼板は、冷間圧延
による加工硬化により強度を高めてばね特性を得るもの
で、冷間圧延率の変更により得られる3〜4種類の硬さ
レベルのものが規定されている。上記鋼板は、素材メー
カから冷間圧延状態で出荷され、加工メーカにおいて所
望形状に加工される。加工後には、ばね特性向上を目的
として時効熱処理が施される場合が多い。
【0004】オーステナイト系ばね用鋼板は、良好な耐
食性と加工性を有するのでばね用鋼板として優れた鋼板
である。しかしながら、高価なNiを多量に含有するも
のであることから鋼材コストが高いという問題がある。
また、厚さが0.3mm以下の極薄鋼板を製造する場合
には、冷間圧延時の圧延負荷が高くなり、良好な形状の
鋼板を得るのが困難であるという問題がある。
【0005】マルテンサイト系ばね用鋼板は、その化学
組成がCr系であるのでオーステナイト系ばね用鋼板に
比較すると鋼材コストが安価である。上記鋼板は焼き入
れまたは焼き入れ−焼き戻し処理後の高強度状態では加
工が困難であるため、通常は鋼板メーカから焼き鈍し状
態で出荷され、加工メーカで各種の形状に加工された後
に、焼き入れ−焼き戻し処理が施される。この焼き入れ
−焼き戻し処理により、鋼板の強度が高められ、所期の
ばね特性が得られる。しかしながら、加工後に焼き入れ
−焼き戻し処理を行うため、最終製品のコストが高くな
るという問題がある。また、Cr含有量が12〜14%
と低いために耐食性が不充分な場合が生じるという問題
がある。
【0006】析出硬化系ばね用鋼板は、固溶化熱処理を
施して出荷されるSUS631−CSP−0を除き、オ
ーステナイト系ばね用鋼板と同様に鋼板メーカから冷間
圧延状態で出荷され、加工メーカにおいて所望形状に加
工された後、析出硬化熱処理が施される。上記鋼板は、
Niを多量に含有するために鋼材コストが高価であると
いう問題がある。また、加工硬化が大きいために冷間圧
延時の圧延負荷が高く、例えば0.3mm以下の極薄鋼
板を製造する場合には形状が良好な鋼板を得るのが困難
であるという問題がある。
【0007】上述したマルテンサイト系ばね用鋼板等の
Cr系ステンレス鋼の課題である、加工後の焼き入れ−
焼き戻し処理等の熱処理によるコスト上昇の抑制を目的
として、特開昭63−7338号公報には、化学組成が
重量%でC:0.10%以下、Cr:10.0〜18.
0%を含有する冷間圧延鋼板を、800℃超1100℃
以下のフェライト+オーステナイトの2相域に加熱後急
冷することにより、面内異方性の小さい高延性高強度の
複相組織Cr系ステンレス鋼板を製造する方法が開示さ
れている。
【0008】上記公報に開示されている方法は、2相域
への加熱とその後の急冷処理により、鋼の組織を軟質な
フェライト相と硬質なマルテンサイト相とからなる複相
組織として、高強度と加工性とを兼ね備えさせる製造方
法である。
【0009】このような複相組織Cr系ステンレス鋼板
の性能の向上を図ったものとして、さらに以下の製造方
法が開示されている。特開平3−56621号公報に
は、質量%でCr:10〜20%、C:0.01〜0.
15%、Ni、MnまたはCuのうち1種または2種以
上を0.1〜4%含有する冷間圧延鋼板を複相化熱処理
して、その結晶組織をフェライト+マルテンサイトの混
合組織とし、その後必要により調質圧延を施し、次いで
時効処理を施す高強度ばね用ステンレス鋼板の製造方法
が開示されている。
【0010】また、特開平8−319519号公報に
は、質量%でC:0.01〜0.15%、Cr:10〜
20%、Ni、MnまたはCuのうち1種または2種以
上を合計で0.3〜5.0%含み、マルテンサイトが3
0〜90体積%、残部がフェライトからなり、目標硬さ
に応じて冷間圧延の圧下率を設定することにより、Hv
300以上で反動幅が小さく面内異方性が小さいばね特
性を有する複相組織ステンレス鋼板の製造方法が開示さ
れている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】例えば、特開平3−5
6621号公報に開示されている製造方法に基づいて、
オーステナイト系ばね用鋼板のH仕様材と同等の高いば
ね特性を有する鋼板を得るには、Ni含有量を増加させ
て複相化熱処理時に生じるマルテンサイト相の比率を増
加させるとともに、Cおよび/またはN含有量を増加さ
せてマルテンサイト相を高強度化する必要がある。
【0012】しかしながら、マルテンサイト相の比率を
増加させ、かつこれを高強度化すると、熱間加工性が劣
化し熱間圧延の際に耳割れ等の欠陥を生じる場合があ
る。また、Niを増加させることにより鋼材コストが高
くなるという問題もある。さらに、複相化熱処理時の鋭
敏化現象により耐食性が劣化するという欠点を有し、こ
れを回避するために設備の冷却能力を高める必要が生
じ、このため設備改造に多額のコストを要する場合があ
るという問題がある。
【0013】フェライト+マルテンサイトの2相組織ス
テンレス鋼では、高い強度を得るためにオーステナイト
形成元素の含有量を増加させてマルテンサイト相の比率
を高めることが行われているが、マルテンサイト相の比
率を高めると鋼の熱間加工性が損なわれて熱間圧延が困
難となる。また、マルテンサイト相の比率を高めるため
にCやN含有量を増加させると鋼の耐食性も損なわれる
という問題もある。
【0014】特開平8−319519号公報に開示され
ている製造方法は、このような悪影響を回避するため
に、鋼中のCおよびNの含有量を低く制限し、これによ
る複相化熱処理ままの鋼板の強度低下を、目標強度に応
じた冷間圧延を施すことにより補償し、所期の強度と耐
食性を得るものである。しかしながらこの方法では、冷
間圧延により鋼板の延性が低下し、加工性が劣化すると
いう問題が生じる。
【0015】以上述べたように、これまでに開示されて
いる複相組織Cr系ステンレス鋼は、加工性、耐食性、
ばね特性および経済性等において要求される性能を総合
的に満たすものではなかった。
【0016】本発明の目的は、Cr系ステンレス鋼の耐
食性を向上させる製造方法と、ばね用途へ適用した場合
に、オーステナイト系ばね用鋼板と同等の加工性(例え
ば曲げ性)とばね特性とを具備し、マルテンサイト系ば
ね鋼よりも優れた耐食性を備えるCr系ステンレス鋼の
製造方法とを提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、Cr系ス
テンレス鋼に関する上記のような各種の性能を改善すべ
く、鋼の結晶組織の影響等種々研究を重ねることによ
り、特願平11−324652号において、鋼表層部が
マルテンサイト相と残留オーステナイト相とを含有する
混合組織からなり、内層部がフェライト相とマルテンサ
イト相との混合組織からなる複層組織Cr系ステンレス
鋼を提案している。
【0018】上記複層組織Cr系ステンレス鋼は、鋼表
層部に残留オーステナイト相を有することにより、以下
の優れた効果を奏する。第一に、加工時に生じる残留オ
ーステナイト相の加工誘起変態に伴う変形能の向上によ
り、加工時の破断の起点となる表面割れ(ミクロクラッ
ク)の発生を抑制して、鋼の加工性を向上させることが
できる。
【0019】第二に、従来フェライト系ステンレス鋼や
フェライト−マルテンサイト2相組織ステンレス鋼で観
察されている鋭敏化現象を抑制でき、優れた耐食性が得
られる。これは、表層部にC、Nなどの吸収能の大きい
残留オーステナイト相を配することにより、溶接時や熱
処理時に鋭敏化現象の原因となるCやNを吸収し、粒界
への析出を防ぐ作用によるものと推察される。
【0020】第三に、ばね用途へ適用するために調質圧
延を行う場合には、表層部の残留オーステナイト相の加
工誘起変態による強度上昇とばね特性の向上が期待でき
る。本発明者らは、上記のような複層組織Cr系ステン
レス鋼について、さらに耐食性を向上させる製造方法に
ついて検討を行った。そして、ばね特性をさらに向上さ
せる製造方法についても検討を行った。その結果、以下
の新たな知見を得た。
【0021】(A)均熱過程において窒素含有雰囲気中
(以下、単に「雰囲気中」ともいう。)の窒素を鋼に吸
収させて鋼の表層部をオーステナイト単相とし、その後
の冷却過程において900〜500℃の温度域を1℃/
秒以上の冷却速度で冷却する複層化熱処理を行うことに
より、冷却過程における鋭敏化現象の発生を効果的に抑
制することができ、これによりさらに耐食性を向上させ
ることができる。
【0022】ここで、表層部とは、雰囲気中から吸収し
た窒素が鋼内部を拡散することにより形成した鋼表面近
傍の高窒素濃度領域をいい、表層部の厚さは、EPMA
装置により鋼の表面から窒素濃度のプロファイルを測定
することによって、あるいは断面を腐食した後にSEM
観察等することによって求めることができる。そして、
表層部の組織は、上記高窒素濃度領域の組織をもって決
定され、内層部の組織は、鋼内部の低窒素濃度領域の組
織をもって決定される。
【0023】鋭敏化現象は、均熱後の冷却過程の炭窒化
物が析出する温度域(900〜500℃)において生じ
る。この現象は、均熱過程で鋼中に固溶したCやNが、
その後の冷却過程の上記温度域において、CやNの固溶
限が小さく且つ拡散速度が速いフェライト相の結晶粒界
に炭窒化物として優先的に析出することに起因する。こ
の現象を、複層化熱処理の均熱過程で雰囲気中の窒素を
鋼に吸収させて鋼表層をオーステナイト単相とすること
により、その後の冷却過程の上記温度域における鋭敏化
現象の発生を実操業可能な冷却速度条件下で抑制できる
ことを見出した。
【0024】(B)上記複層化熱処理の後に、100℃
以上650℃以下の温度域で20秒以上の時効処理を行
うことにより、ばね特性および延性を向上させることが
できる。
【0025】(C)上記時効処理の前に、圧延率20%
以下の調質圧延を行うことにより、さらにばね特性を向
上させることができる。 (D)上記複層化熱処理の均熱過程における窒素含有雰
囲気(以下、単に「雰囲気」ともいう。)を、水素:1
0体積%以上、窒素:10体積%以上90体積%未満を
含有し、露点:−30℃以下の窒素含有低露点雰囲気と
することにより、鋼表面における酸化皮膜の生成を抑制
して、鋼への窒素の吸収を効率よく行うことができる。
【0026】(E)上記複層化熱処理の均熱過程におけ
る鋼の表面温度を900℃以上とすることにより、酸化
皮膜および鋼中における窒素の拡散速度を高め、鋼中の
窒素の固溶限を高め、さらに低露点雰囲気中では鋼の表
面における酸化皮膜の膜厚を低減させて、鋼への窒素の
吸収を効率よく行うことができる。
【0027】(F)上記複層化熱処理において鋼の表層
部(以下、「鋼表層部」ともいう。)に吸収させる窒素
量を0.01質量%以上とすることにより、複層化熱処
理後の鋼表層部における残留オーステナイト相の比率の
増加により、耐食性と加工性をさらに向上させることが
できる。
【0028】本発明はこれらの知見に基づいて完成され
たものであり、その要旨は下記(1)〜(6)項に記載
の複層組織Cr系ステンレス鋼の製造方法にある。 (1)質量%でCr:10〜20%を含有するCr系ス
テンレス鋼を窒素含有雰囲気中で均熱し、前記窒素含有
雰囲気中の窒素を吸収させることにより表層部をオース
テナイト単相としたのち、900〜500℃の温度域を
1℃/秒以上の冷却速度で冷却する複層化熱処理を行う
ことを特徴とする複層組織Cr系ステンレス鋼の製造方
法。
【0029】(2)質量%でCr:10〜20%を含有
するCr系ステンレス鋼を窒素含有雰囲気中で均熱し、
前記窒素含有雰囲気中の窒素を吸収させることにより表
層部をオーステナイト単相としたのち、900〜500
℃の温度域を1℃/秒以上の冷却速度で冷却する複層化
熱処理を行い、次いで100〜650℃の温度域で20
秒以上の時効処理を行うことを特徴とする複層組織Cr
系ステンレス鋼の製造方法。
【0030】(3)質量%でCr:10〜20%を含有
するCr系ステンレス鋼を窒素含有雰囲気中で均熱し、
前記窒素含有雰囲気中の窒素を吸収させることにより表
層部をオーステナイト単相としたのち、900〜500
℃の温度域を1℃/秒以上の冷却速度で冷却する複層化
熱処理を行い、次いで圧下率20%以下の調質圧延を行
い、さらに100〜650℃の温度域で20秒以上の時
効処理を行うことを特徴とする複層組織Cr系ステンレ
ス鋼の製造方法。
【0031】(4)前記窒素含有雰囲気は、水素:10
体積%以上、窒素:10体積%以上90体積%未満を含
有し、露点:−30℃以下であることを特徴とする上記
(1)〜(3)項の何れかに記載の複層組織Cr系ステ
ンレス鋼の製造方法。
【0032】(5)前記複層化熱処理において、均熱過
程における前記Cr系ステンレス鋼の表面温度を900
〜1200℃とすることを特徴とする上記(1)〜
(4)項の何れかに記載の複層組織Cr系ステンレス鋼
の製造方法。
【0033】(6)窒素含有雰囲気中から前記Cr系ス
テンレス鋼の表層部へ吸収させる窒素量が、0.01〜
1.0質量%であることを特徴とする上記(1)〜
(5)項の何れかに記載の複層組織Cr系ステンレス鋼
の製造方法。
【0034】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態につ
いて具体的に説明する。なお、以下に述べる化学組成の
%表示は質量%を意味する。
【0035】a.化学組成 Cr:Crはフェライト相を形成すると共に、耐食性を
確保するために必要な元素である。さらに、900℃以
上の温度域で均熱を施した際に、窒素含有雰囲気中の窒
素を吸収して鋼表層部のオーステナイト相を安定化させ
る作用を有する。
【0036】鋼表層部にオーステナイト相を生成させ、
耐食性を確保するために、Cr含有量を10%以上とす
る。他方、Crを過剰に含有させると鋼材コストが高価
になるばかりでなく、オーステナイト相を安定化させる
温度が1200℃超となり、鋼の高温強度不足により均
熱を行うことが困難になるなどの操業上の問題が生じる
場合がある。これを避けるために、Cr含有量を20%
以下とする。より望ましくは12%以上17%以下であ
る。
【0037】C:Cは代表的なオーステナイト形成元素
であり、また、マルテンサイト硬化能に大きく影響す
る。ばね用鋼を製造する場合には、オーステナイト系ば
ね用鋼板のH仕様材相当のばね特性を得るために、C含
有量を0.01%以上とするのが望ましい。C含有量を
過度に増加させるとマルテンサイト相の割合が過大にな
るとともに、マルテンサイト相の硬度が増加し、熱間加
工性および製品の加工性が低下する。さらに、複層化熱
処理の冷却過程において鋭敏化現象を起こし易くなり耐
食性が劣化する。これらの不都合を避けるためにC含有
量を0.15%以下とするのが望ましい。
【0038】N:NはCと同様に代表的なオーステナイ
ト形成元素であり、ばね特性の向上に効果的な元素であ
る。しかしながら、鋼の溶製時にNを大量に含有させる
のは通常の方法では困難であるうえに、Nを大量に含有
した鋼は熱間加工性が悪く、熱間圧延時における耳割れ
等の表面疵の発生原因となる。したがって、複層化熱処
理以前の段階においては特に限定する必要はなく、通常
の製造方法で得られる0.01〜0.05%程度の含有
量でよい。
【0039】本発明においては、窒素含有雰囲気中で均
熱を行うことにより鋼表層部にNを吸収させる。これに
よりオーステナイト相を安定化させ、冷却過程における
鋭敏化現象の発生を抑制し、また、冷却後の鋼表層部の
結晶組織をマルテンサイト相に加え残留オーステナイト
相を含有する混合組織とする。
【0040】複層化熱処理において鋼表層部に吸収させ
るN量は、複層化熱処理後の鋼表層における残留オース
テナイト相の比率の増加により耐食性と加工性とをさら
に向上させるために0.01%以上とする。より望まし
くは0.1%以上である。複層化熱処理において鋼表層
部に吸収させるN量の上限は特に限定しないが、N吸収
量を増加させるには均熱時間を長くする必要があり、連
続熱処理炉において複層化熱処理を行う場合には、均熱
後の冷却速度を鋭敏化抑制可能な程度にすることが困難
になるなどの生産上の問題が生じるので、その上限を
1.0%とするとよい。
【0041】Ni、Mn、Cu:これらは、いずれもオ
ーステナイト形成元素であり、均熱後のマルテンサイト
相の量と硬さを調整するのに有効な元素である。また、
これらの元素を含有させることにより、(C+N)含有
量を低減することができるので、マルテンサイト相を軟
質なものとすることができる。よって、鋼の加工性を向
上させるのに好適である。
【0042】したがって、これらの元素は必須元素では
ないが、上記の効果を得るために含有させても構わな
い。鋼中に含有させる場合は、それぞれを0.3%以上
含有させるのがよい。他方、NiまたはCuを過剰に含
有させると経済性を損なうだけでなく、複層化熱処理時
の窒素吸収能を低下させる作用があるので、含有させる
場合でもその上限をそれぞれ2.0%とするのがよい。
Mnは複層化熱処理時の窒素吸収能を高める作用がある
が、過剰に含有させると経済性を損なううえに、耐食性
を低下させる作用があるので、含有させる場合でもその
上限を2.0%とするのがよい。
【0043】Nb:Nbはフェライト形成元素であると
ともに、複層化熱処理後の冷却過程で生じる鋭敏化現象
を抑制し、さらに、オーステナイト相(冷却後にはマル
テンサイト相と残留オーステナイト相となる)に固溶
し、加工性を然程低下させることなく強度を上昇させる
作用がある。したがって、必須元素ではないが、上記効
果を得るために含有させても構わない。含有させる場合
には0.01%以上含有させるのがよい。他方Nbを過
剰に含有させると鋼中のCおよびNを固定して強度低下
の原因となるので、含有させる場合でも0.1%以下と
するのがよい。
【0044】Mo:Moは必須元素ではないが、フェラ
イト形成元素であるとともに、耐食性を著しく向上させ
る作用があるので、Cr含有量が少ない場合でもMoを
含有させることにより目標とする耐食性を得ることがで
きる。含有させる場合には0.1%以上含有させるのが
よい。しかしながら、Moは高価であり過剰に含有させ
ると経済性を損なうので、含有させる場合でもその上限
は2.0%とするのがよい。
【0045】V:必須元素ではないが、強度を得るため
に効果的な元素であるため、含有させても構わない。含
有させる場合には0.05%以上含有させるのがよい。
しかしながら、上記効果は0.3%を超えると飽和する
ので、含有させる場合でも0.3%以下とするのがよ
い。
【0046】希土類元素:通常は含有させないが、鋼の
耐酸化性を向上させる作用があるので含有させても構わ
ない。しかしながら、合計量で0.1%を超えて含有さ
せると効果が飽和するうえに、コストが高くなるので含
有させる場合でも0.1%以下とするのがよい。
【0047】Si:Siは鋼の脱酸剤として有効な元素
であるうえに、強度を高める作用もあるので含有させて
も構わない。しかしながら、過剰に含有させると鋼の靭
性を損なうので、含有させる場合でもその上限は2.0
%とするのがよい。
【0048】Al:Alは鋼の脱酸剤として有効な元素
であるので含有させてもよい。しかしながら、Alは窒
化物を形成するため、過剰に含有させると複層化熱処理
時の固溶窒素量を減少させる作用がある。したがって、
含有させる場合でもその上限は0.05%とするのがよ
い。
【0049】残部はFeおよび不可避的不純物である。 b.製造方法 本発明の複相組織Cr系ステンレス鋼の製造方法を製品
が冷間圧延鋼板である場合を例にとって説明する。
【0050】a項で述べた化学組成範囲に調整した鋼の
スラブを公知の方法、例えば、転炉や電気炉で鋼を溶解
した後、真空脱ガス処理を施し、連続鋳造法や、鋼塊に
した後に分塊圧延するなどの方法でスラブを製造する。
得られたスラブを公知の方法で熱間圧延して熱間圧延鋼
板を製造する。この熱間圧延鋼板を常法にしたがって焼
鈍し、酸洗など公知の方法でその表面のスケールを除去
する。
【0051】その後、公知の方法で冷間圧延して冷間圧
延鋼板を製造する。冷間圧延は、中間焼鈍を含む複数回
の冷間圧延で行ってもよいし、中間焼鈍を含まない冷間
圧延としてもよい。冷間圧延鋼板の寸法は特に限定する
ものではなく、通常使用されている厚さ(例えば、0.
1〜2.0mm)とすればよい。
【0052】最終の冷間圧延を施した後、冷間圧延鋼板
を窒素含有雰囲気中で均熱し、雰囲気中の窒素を吸収さ
せることにより冷間圧延鋼板の表層をオーステナイト単
相とし、その後900〜500℃の温度域を1℃/秒以
上の冷却速度で冷却する複層化熱処理を施す。
【0053】上記窒素含有雰囲気は、複層化熱処理にお
ける鋼材への窒素吸収を効率よく行わせるために、以下
のようにすることが望ましい。上記窒素含有雰囲気中の
水素濃度は、10体積%以上とすることが好ましい。鋼
材表面に酸化皮膜が形成されると窒素含有雰囲気からの
窒素吸収が阻害されるが、雰囲気中の水素濃度を上記範
囲とし、かつ、露点を低くすることにより酸化皮膜の生
成を抑制することができる。より望ましくは50体積%
以上である。酸化皮膜の厚さは100Å未満にするのが
よい。
【0054】上記窒素含有雰囲気中の窒素濃度は、10
体積%以上とすることが好ましい。より望ましくは20
体積%以上である。上記窒素含有雰囲気の露点が高い
と、厚さが100Åを超える緻密な酸化皮膜が鋼材表面
に形成され、鋼材への窒素吸収効率が低下するため、窒
素含有雰囲気の露点は−30℃以下にすることが好まし
い。より望ましくは−40℃以下である。
【0055】なお、上記窒素含有雰囲気中には、鋼材の
表面酸化作用のないArガス等の不活性ガスや窒化反応
を促進させるNH3等の触媒が含まれていても差し支え
ない。
【0056】上記複層化熱処理の均熱過程における鋼材
の表面温度は900℃以上とする。鋼材の表面温度は均
熱を行う加熱炉内に輻射温度計を配置して測定すること
ができる。酸素ポテンシャルが低い低露点雰囲気中で鋼
材の表面温度を900℃以上として均熱を行うと、鋼材
表面の酸化皮膜が還元されるので、鋼材表面の酸化皮膜
を100Å未満まで薄くすることができる。また、上記
温度域では酸化皮膜中および鋼中の窒素原子の拡散速度
が速く、鋼の窒素固溶量も大きくなるなどの相乗効果
で、鋼材への窒素吸収が促進される。他方、鋼材の表面
温度が1200℃を超えると、鋼材の高温強度が低下
し、均熱作業に支障が生じることがあるので、上記複層
化熱処理の均熱過程における鋼材の表面温度は1200
℃以下とするのがよい。
【0057】本発明の製造方法による複層組織Cr系ス
テンレス鋼をばね用途へ適用する場合には、上記複層化
熱処理の均熱過程において鋼材の表面温度を900℃以
上とする時間(以下、「均熱時間」ともいう。)を5秒
以上とするのが望ましい。均熱時間が5秒未満では、所
期のばね特性を得るのに必要な表層部の厚さが得られな
い場合がある。均熱時間の上限は特に限定しないが、連
続熱処理炉にて複層化熱処理を行う場合には、生産性の
低下および均熱後の冷却速度低下に伴う鋭敏化現象の発
生を抑制するために、3分以下とするとよい。また、連
続熱処理炉にて複層化熱処理を行う場合には、通常の熱
処理炉の昇温能力により均熱過程の鋼材の表面温度を9
00℃以上とするために、均熱時間を10秒以上とする
とよい。
【0058】上記均熱後は、鋭敏化現象の発生を抑制す
るために900〜500℃の温度域を1℃/秒以上の冷
却速度で冷却を行う。冷却速度が1℃/秒未満では、複
層化熱処理の冷却過程における鋭敏化現象の発生を充分
に抑制できない場合がある。冷却速度の上限は特に限定
しないが、冷却速度を1000℃/秒超とすることは実
質的に困難であるので、1000℃/秒以下とするとよ
い。
【0059】上記複層化熱処理後の鋼板は、そのままば
ね用鋼としても使用することができる。ばね用鋼として
使用する場合には、ばね特性の向上を目的としてさらに
時効熱処理などの熱処理を施しても構わない。
【0060】ばね特性および延性を向上させるために時
効処理を行う場合には、時効処理温度を100℃以上6
50℃以下とすることが望ましい。時効処理温度が10
0℃未満では、時効処理によるばね特性および延性の向
上が不充分となる場合がある。また、時効処理温度が6
50℃超では、複層化熱処理により表層部に固溶した
C、Nが数μmに及ぶ析出物を形成して、結晶粒界およ
び結晶粒内に析出し、表面硬さやばね特性を低下させ、
さらに耐食性を低下させる場合がある。より望ましく
は、200℃以上500℃以下である。
【0061】時効処理時間は、20秒以上とすることが
望ましい。時効処理時間が20秒未満では、時効処理に
よるばね特性および延性の向上が不充分となる場合があ
る。時効処理時間の上限は特に限定する必要はないが、
本発明の複層化熱処理後の複層組織Cr系ステンレス鋼
についての時効処理は、短時間でその効果を発揮するこ
とから、バッチ式熱処理炉以外に連続熱処理炉において
も行うことが可能であり、時効処理時間を5分超として
も上記効果が飽和する傾向を示すことから、連続熱処理
炉において時効処理を行う場合には5分以下にするとよ
い。
【0062】時効処理後の冷却速度は、ばね特性や他の
諸特性に殆ど影響を及ぼさないことから、時効処理後の
冷却には任意の冷却方式を適用することができる。ま
た、ばね特性および表面硬さを向上させるためには、上
記時効処理の前に調質圧延を行うことにより、表層部の
残留オーステナイト相の加工誘起変態を活用することが
好ましいが、この場合の調質圧延の圧下率は20%以下
とするのが望ましい。調質圧延の圧下率が20%超で
は、表層部の残留オーステナイト相が全て加工誘起変態
し、時効処理後の延性が低下し加工性が損なわれる場合
がある。
【0063】以上の説明において、本発明の複層組織C
r系ステンレス鋼の製造方法を、鋼材の形状が鋼板であ
る場合について説明したが、本発明の製造方法は鋼板以
外の形状の鋼材についても適用することができる。例え
ば、線材、条鋼、管状などである。
【0064】また、ばね用鋼板の製造方法に関して主と
して説明したが、本発明はばね用鋼材以外の用途の鋼材
へも適用することができる。例えば、複相組織Cr系ス
テンレス鋼の耐食性を改善するために本発明の複層化熱
処理を適用してもよい。
【0065】本発明の複層化熱処理および時効処理は、
鋼材の払出機から巻取機に至る間に加熱帯、均熱帯、冷
却帯を有する連続熱処理炉に、鋼材を通す連続熱処理方
式で行うことができる。例えば、鋼材の形状が鋼板であ
る場合には、ステンレス鋼板用の連続光輝焼鈍炉や連続
焼鈍酸洗炉、普通鋼板用の連続焼鈍炉により行うことが
できる。特に、複層化熱処理の後に調質圧延を行わない
で時効処理を行う場合には、均熱帯と過時効帯とを有す
る普通鋼用の連続焼鈍炉を用いることにより、1回の通
板で一連の処理を完了することができる。
【0066】c.金属組織 本発明の製造方法により得られる鋼の金属組織は特に限
定しない。以下においては、ばね用鋼として好適な金属
組織について説明する。
【0067】ばね用鋼として好適な金属組織としては、
表層部はマルテンサイト相と残留オーステナイト相とを
含有する混合組織であり、内層部はフェライト相とマル
テンサイト相とからなる2相混合組織もしくはマルテン
サイト単相組織である。
【0068】マルテンサイト相は、鋼の強度と硬さを高
めるうえに、時効熱処理を施して固溶元素(C、N)を
析出させることにより鋼の弾性比例限を高めてばね特性
を向上させる。この効果を得るにはマルテンサイト相の
比率を40体積%以上とするのが好ましい。より好まし
くは50体積%以上である。他方マルテンサイト相の比
率を過度に高くすると鋼の延性が低下し、加工性が損な
われるので、表層部のマルテンサイト比率は95体積%
以下とするのが好ましい。より好ましくは90%以下で
ある。
【0069】残留オーステナイト相は、マルテンサイト
相に比べて軟質で加工性に富むうえに、加工を受けた際
に加工誘起変態して組織を極めて強靭にする。また、複
層化熱処理後の鋼の靭性を増加させる。さらに、加工誘
起変態して得られる強靭な組織を時効熱処理して固溶元
素を時効析出させることにより、鋼の弾性比例限を高め
てばね特性を向上させる。これらの効果を得るために表
層部におけるオーステナイト相の比率は5体積%以上と
するのが好ましい。より好ましくは10体積%以上であ
る。
【0070】表層部には、上記2相以外に、鋼の特性に
悪影響を及ぼさない範囲で、素材の偏析等に起因して不
可避的に混入するフェライト相があっても差し支えな
い。フェライト相は、耐食性およびばね特性の低下を招
くため、フェライト相が混入する場合であってもその上
限は5体積%未満であることが望ましい。
【0071】表層部におけるマルテンサイト相、残留オ
ーステナイト相の体積比率は、これらの総和が100%
を超えない範囲である。なお、金属組織の比率は、体積
%に替えて金属組織観察面における面積%で近似するこ
とができる。
【0072】鋼の表層部をマルテンサイト相と残留オー
ステナイト相とを含有する混合組織とすることにより、
加工性、ばね特性および耐食性を改善できる。上記表層
部の厚さは、より有効な効果を得るために、鋼材の厚さ
の(線材や条鋼である場合にはその直径の)3%以上と
するのが望ましい。鋼板であればその表裏面それぞれに
おいて鋼板厚さの3%以上である。
【0073】表層部の厚さが厚くなるにつれてばね特性
は向上するが、過度に厚くすると鋼の加工性が損なわれ
る場合があり、また、複層化熱処理に要する時間が長く
なり生産性の低下を招く場合がある。したがって、表層
部の厚さは、好ましくは鋼材の厚さの(線材や条鋼であ
る場合にはその直径の)30%以下とする。
【0074】内層部の金属組織は、フェライト相とマル
テンサイト相からなる2相混合組織もしくはマルテンサ
イト単相組織とする。その理由は、鋼の内層部では曲げ
加工などによる加工変形量が小さく、残留オーステナイ
ト相があっても加工誘起変態による強度向上が期待でき
ないからである。さらに、内層部に残留オーステナイト
相を生成させるには、複層化熱処理に要する時間が長く
なり生産性の低下を招く場合があるからである。
【0075】内層部のフェライト相の含有は必須ではな
いが、フェライト相を含有させることにより加工性の改
善効果が得られるので含有させてもよい。しかしなが
ら、フェライト相比率が増加すると、強度が低下してば
ね特性や疲労強度が損なわれるので、フェライト相を含
有する場合であってもその上限は90体積%以下とする
ことが好ましい。より好ましくは80体積%以下であ
る。内層部におけるフェライト相とマルテンサイト相の
体積比率は、これら2相の和が100体積%を超えない
範囲である。
【0076】
【実施例】(実施例1)表1に示す化学組成を有する板
厚:0.25mmのCr系ステンレス鋼の冷間圧延鋼板
を、窒素含有低露点雰囲気中(水素:75体積%、窒
素:25体積%、露点:−45℃)にて加熱し、温度1
000℃で1分間の保持し、次いで20℃/秒の冷却速
度で冷却を行う複層化熱処理を行い、鋼板表層部に0.
2質量%の窒素を吸収させて、表層部が75体積%のマ
ルテンサイト相と25体積%の残留オーステナイト相と
の混合組織で、内層部が70体積%のフェライト相と3
0体積%のマルテンサイト相との混合組織である複層組
織ステンレス鋼板を製造した。ここで、表層部は鋼板表
面からの深さが15μmの領域であり、表層部の組織は
当該領域における組織である。
【0077】
【表1】 上記複層組織ステンレス鋼板と、上記複層組織ステンレ
ス鋼板に圧延率10%の調質圧延を施した複層組織ステ
ンレス鋼板とから、圧延方向(L方向)および圧延直角
方向(T方向)の試験片を採取し、300〜600℃で
均熱時間1分間の時効処理を行い、時効処理材および非
時効処理材とについて、ばね限界値Kb、表面硬さ、機
械特性を調査した。なお、ばね限界値Kbは、JIS−
H3732に規定される曲げによる表面最大応力が3
6.25GPaとなるときの弾性変形と同等の永久変形
を生じさせる表面最大応力と定義される。
【0078】図1は、複層化熱処理材および複層化熱処
理材の調質圧延材について、時効処理材および非時効処
理材のばね限界値Kbを示すグラフである。なお、グラ
フ中には、各試験材の表面硬さ(単位:Hv)を添字で
示す。また、グラフ中には、オーステナイト系ばね用鋼
板SUS301−CSP(H仕様材)の時効処理材およ
び非時効処理材のばね限界値Kbを併せて示す。
【0079】同図に示すように、本発明の製造方法によ
り得られた複層化熱処理材および複層化熱処理材の調質
圧延材は、時効前においては、SUS301−CSP
(H仕様材)と同程度のばね限界値Kbを示し、300
〜600℃の短時間の時効処理後においては、表面硬さ
が上昇し、SUS301−CSP(H仕様材)のT方向
のばね限界値Kbを上回る優れたばね特性を示した。こ
れは、上記複層化熱処理材および複層化熱処理材の調質
圧延材の表層部のマルテンサイト相における固溶元素
(C、N)が、時効処理により微細に析出し、鋼板の表
面硬度およびばね限界値Kbが向上したことに起因する
と考えられる。さらに、複層化熱処理材の調質圧延材に
ついては、表層部の残留オーステナイトが加工誘起変態
した強靭な組織において、時効処理による固溶元素の析
出により、表面硬度およびばね限界値Kbが向上したも
のと考えられる。
【0080】図2は、複層化熱処理材および複層化熱処
理材の調質圧延材について、時効処理材および非時効処
理材の伸びを示すグラフである。グラフ中には、オース
テナイト系ばね用鋼板SUS301−CSP(H仕様
材)の時効処理材および非時効処理材のばね限界値Kb
を併せて示す。
【0081】同図に示すように、SUS301−CSP
(H仕様材)は短時間の時効処理により表面硬さの上昇
に伴い伸びが低下するが、本発明の製造方法により得ら
れた複層化熱処理材および複層化熱処理材の調質圧延材
は、短時間の時効処理により表面硬さの上昇に伴い伸び
が向上する。上記複層化熱処理材等にみられる挙動につ
いての原因は明らかではないが、表層部の残留オーステ
ナイト相の加工誘起変態に伴う変形能が短時間の時効処
理により向上したものと考えられる。
【0082】図1および図2に示すように、本発明の複
層化熱処理材の時効処理材および複層化熱処理材の調質
圧延材の時効処理材は、オーステナイト系ばね用鋼板S
US301−CSP(H仕様材)の時効処理材よりも優
れたばね特性と延性を示す。 (実施例2)表2に示す種々の化学組成を有するCr系
ステンレス鋼スラブを1150〜1200℃に加熱し、
仕上温度900〜950℃で熱間圧延を終了して、厚さ
が3.2mmの熱間圧延鋼板を得た。
【0083】
【表2】 これらの熱間圧延鋼板に750〜850℃での熱延板焼
鈍を施した後、ショットブラストと硝弗酸酸洗を施して
脱スケールした後、中間焼鈍を挟む冷間圧延を施して厚
さが0.25mmの冷間圧延鋼板とし、さらに以下に述
べる条件で複層化熱処理施した。また、一部については
さらに調質圧延と時効処理を施した。
【0084】複層化熱処理は、連続光輝焼鈍炉を用いて
行い、均熱雰囲気として、窒素:25体積%、水素:7
5体積、露点:−40℃以下に制御した混合ガスを使用
した。均熱時の鋼板表面温度は850〜1050℃と
し、均熱時間を10〜60秒の範囲とし、均熱後の90
0〜500℃の領域における冷却速度は5〜40℃/秒
とした。
【0085】調質圧延は、複層化熱処理後の鋼板に圧下
率5〜30%の範囲で行った。時効処理は、複層化熱処
理後の鋼板および複層化熱処理後に調質圧延を施した鋼
板に、時効処理温度:200〜600℃、時効処理時
間:30〜180秒として、連続光輝焼鈍炉を用いて行
った。
【0086】比較として、複層化熱処理における均熱雰
囲気の露点以外の条件を上記と同一として、露点を+5
0℃とした熱処理についても連続焼鈍酸洗炉を用いて行
った。
【0087】さらに、比較として、市販のオーステナイ
ト系ばね鋼板SUS301−CSP(H仕様材)、マル
テンサイト系ばね鋼板SUS420J2−CSP(焼入
れ・焼き戻し材)を準備した。
【0088】表層部の厚さは、腐食した試験片の断面を
SEM観察して測定した。表層部の残留オーステナイト
相の比率は、X線回折法によりα−Feとγ−Feの積
分強度を測定し、γ−Feの積分強度値/(α−Feの
積分強度値+γ−Feの積分強度値)×100により求
めた。表層部のマルテンサイト相とフェライト相の比率
は、鋼板表面を常法により研磨し腐食させた試料を顕微
鏡観察して測定した。
【0089】内層部のマルテンサイト相とフェライト相
の体積率は、常法により腐食させた試験片の断面をSE
Mおよび顕微鏡観察して測定した。表層部の窒素含有量
は、窒素測定専用の分光結晶LAD(人工多層膜)を有
するEPMA装置により試験片の断面を定量して求め
た。表層部の窒素吸収量(ΔN)は、複層化熱処理前後
における表層部の窒素含有量の差分から求めた。
【0090】表3に各鋼板の金属組織を複層化熱処理条
件と共に示す。
【0091】
【表3】 硬さは、ビッカ−ス硬さ試験法により、1kg荷重の条
件にて測定した。ばね特性は圧延方向(L方向)と圧延
直角方向(T方向)の試験片を使用し、平面曲げ試験機
によりJIS−H3732に規定されているばね限界値
(Kb)とばね疲労限を測定した。Kbは、曲げによる
表面最大応力が36.25GPaとなるときの弾性変形
と同等の永久変形を生じさせる表面最大応力と定義され
る。ばね疲労限は、30Hzの一定振幅の繰り返し曲げ
試験において107回を上限として試験片が破断に至ら
なかった最大応力を測定した。曲げ加工性は、L方向と
T方向の試験片にJIS−Z2248に規定されている
V曲げ試験を行い、曲げ加工可能な最小曲げ半径の鋼板
厚さに対する比(R/t)を測定した。
【0092】耐食性は、Cl濃度を0.5質量%に調整
したpH4の45℃のNaCl水溶液に100時間浸漬
した後、発銹状況を目視観察し、発銹のない場合を合格
(○)と判断した。さらに、鋭敏化現象の詳細を調べる
ために透過型電子顕微鏡を用いて表層部の結晶粒界を観
察し、Cr炭窒化物の粒界析出の有無を確認した。
【0093】表4に各鋼板の試験結果を示す。
【0094】
【表4】 表3に示すように、符号1A、2Aおよび3Aの鋼板
は、いずれも表層部にマルテンサイト相と残留オーステ
ナイト相とからなる混合組織を備え、内層部はフェライ
ト相とマルテンサイト相の2相混合組織を備えている。
符号1B、1C、2Cおよび3Bの鋼板は、何れも表層
部に残留オーステナイト相を有しないものである。
【0095】表4に示すように、試番1、2、3、7、
8、10および11の鋼板は、何れも比較鋼であるSU
S301−CSP(H仕様材)と同等以上のばね特性を
示した。また、曲げ加工性と耐発銹性については、何れ
もSUS420J2−CSPより優れており、SUS3
01−CSPと同等であった。また、透過型電子顕微鏡
観察結果においてもCr炭窒化物の粒界析出も観察され
なかった。
【0096】試番4、5、6、9および12では、ばね
特性、曲げ加工性、耐発銹性の内の何れかの性能が劣っ
ていた。試番4は調質圧延の圧下率が25%と高く、残
留オーステナイト相がすべて加工誘起変態したために、
時効後の延性回復がなく充分な曲げ加工性が得られなか
った。試番5、12は、フェライト−マルテンサイト複
相組織であり、バネ特性と加工性に優れるが、複層化熱
処理時の鋭敏化現象により耐発銹性が不充分であった。
試番6は、フェライト単相組織であり、加工性と耐発銹
性に優れるが、硬さ不足のため充分なばね特性が得られ
なかった。
【0097】
【発明の効果】本発明によれば、均熱過程に続く冷却過
程における鋭敏化現象の発生を抑制することにより、鋼
材コストの安価な複相組織Cr系ステンレス鋼の耐食性
を向上させることができる。
【0098】また、適切な調質圧延や時効処理を施すこ
とにより、オーステナイト系ばね用鋼(例えばSUS3
01−CSP(H仕様材))と同等の加工性、およびそ
れを上回る優れたばね特性を具備させることができる。
そして、マルテンサイト系ばね用鋼(例えばSUS42
0J2−CSP)より優れた耐食性を具備させることが
できる。
【0099】また、本発明の複層組織Cr系ステンレス
鋼の製造方法は、新規設備導入や設備増強によるコスト
上昇を伴うことなく、既存の設備において実施すること
ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】複層化熱処理材および複層化熱処理材の調質圧
延材について、時効処理材および非時効処理材のばね限
界値Kbを示すグラフである。
【図2】複層化熱処理材および複層化熱処理材の調質圧
延材について、時効処理材および非時効処理材の伸びを
示すグラフである。

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%でCr:10〜20%を含有する
    Cr系ステンレス鋼を窒素含有雰囲気中で均熱し、前記
    窒素含有雰囲気中の窒素を吸収させることにより表層部
    をオーステナイト単相としたのち、900〜500℃の
    温度域を1℃/秒以上の冷却速度で冷却する複層化熱処
    理を行うことを特徴とする複層組織Cr系ステンレス鋼
    の製造方法。
  2. 【請求項2】 質量%でCr:10〜20%を含有する
    Cr系ステンレス鋼を窒素含有雰囲気中で均熱し、前記
    窒素含有雰囲気中の窒素を吸収させることにより表層部
    をオーステナイト単相としたのち、900〜500℃の
    温度域を1℃/秒以上の冷却速度で冷却する複層化熱処
    理を行い、次いで100〜650℃の温度域で20秒以
    上の時効処理を行うことを特徴とする複層組織Cr系ス
    テンレス鋼の製造方法。
  3. 【請求項3】 質量%でCr:10〜20%を含有する
    Cr系ステンレス鋼を窒素含有雰囲気中で均熱し、前記
    窒素含有雰囲気中の窒素を吸収させることにより表層部
    をオーステナイト単相としたのち、900〜500℃の
    温度域を1℃/秒以上の冷却速度で冷却する複層化熱処
    理を行い、次いで圧下率20%以下の調質圧延を行い、
    さらに100〜650℃の温度域で20秒以上の時効処
    理を行うことを特徴とする複層組織Cr系ステンレス鋼
    の製造方法。
  4. 【請求項4】 前記窒素含有雰囲気は、水素:10体積
    %以上、窒素:10体積%以上90体積%未満を含有
    し、露点:−30℃以下であることを特徴とする請求項
    1〜3の何れかに記載の複層組織Cr系ステンレス鋼の
    製造方法。
  5. 【請求項5】 前記複層化熱処理において、均熱過程に
    おける前記Cr系ステンレス鋼の表面温度を900〜1
    200℃とすることを特徴とする請求項1〜4の何れか
    に記載の複層組織Cr系ステンレス鋼の製造方法。
  6. 【請求項6】 窒素含有雰囲気中から前記Cr系ステン
    レス鋼の表層部へ吸収させる窒素量が、0.01〜1.
    0質量%であることを特徴とする請求項1〜5の何れか
    に記載の複層組織Cr系ステンレス鋼の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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