JP2001204461A - リパーゼの安定化方法およびリパーゼ組成物 - Google Patents

リパーゼの安定化方法およびリパーゼ組成物

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(57)【要約】 【課題】試薬組成中においても優れた安定性を維持する
ことができるリパーゼの安定化方法ならびにリパーゼ組
成物を提供する。 【解決手段】リパーゼにN−メチルグルカミド系界面活
性剤、グルコシド系界面活性剤、エマルゲン430、B
rij98、Brij700及びCHAPSよりなる群
から選ばれる界面活性剤を1種類以上配合せしめること
を特徴とするリパーゼの安定化方法及びリパーゼ組成
物。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、リパーゼの安定化
方法および特に試薬組成中においても安定化されたリパ
ーゼ組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】産業上、リパーゼほどその機能が多岐方
面で有用視されている酵素はないと考えられる。その利
用分野は、例えば、光学分割等の化学合成プロセスへの
適用用途、油脂加工、洗剤等の工業用途、医薬品用途、
および診断薬用途などが挙げられるが、詳細に見れば更
に多様な展開がなされている酵素である。
【0003】診断薬用途においては、リパーゼは動脈硬
化症や高カイロミクロン血症などの指標となる中性脂肪
(トリグリセライド)の測定用酵素として広く利用され
ている。元来、血液中のトリグリセライド測定法の流れ
は、アルカリ鹸化による化学的加水分解法を経てグリセ
ロールを生じ、さらに酸化、比色反応を経由するクロモ
トロープ酸法やアセチルアセトン法に代表される化学的
な測定法から、簡便性、精度、正確性においてすぐれた
特性を有するリパーゼを用いた酵素法が広く普及してき
ている。
【0004】リパーゼを用いるトリグリセライド測定法
には多くの報告があるが、リパーゼにより生成したグリ
セロールを更にグリセロールデヒドロゲナーゼまたはグ
リセロール 3−リン酸デヒドロゲナーゼを用いた紫外
部測定系とグリセロール 3−リン酸オキシダーゼ、ペ
ルオキシダーゼを用いた可視部測定系に大別される。現
在は後者が主流となっている。診断薬用途のリパーゼに
求められる品質としては、血清、血漿トリグリセイドに
対する作用性は言うまでもなく、最近の液状試薬の流れ
の中で、以前にも増して酵素の安定性に対する要求が高
くなっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】診断薬用途のリパーゼ
については、市場に既に数種類が流通されており、その
反応性や安定性等の品質面も一定水準以上にある。また
リパーゼの安定性は緩衝液、防腐剤、界面活性剤、添加
剤等の組成に依存することが大きい。従来知られている
安定化剤であるグリセロール、グリシン(Methods Enz
ymol.129,691(1986))、メルカプトエタノール(J.Bio
l.Chem.,247,6212(1972))、トリトンX−100(Enzy
me Handbook,3, Springer-Verlag, Berlin Heiderb
erg(1991))、トリトンN−101、デオキシコール酸
(Methods Enzymol.129,716(1986))、Mg2+、BSA
(東洋紡績(株)酵素カタログ)、塩類(特開平1−6
0381号公報)等では試薬組成中では求められる安定
性を維持するのに十分な性能を有していなかった。また
診断薬用途におけるリパーゼの使用に際しては、界面活
性剤の使用が器材やラインへの吸着回避、妨害物質の影
響回避のために必須であるが、上記化合物を添加しても
十分な安定性を保つことができないことが多かった。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的
を達成するために種々検討した結果、リパーゼに特定種
類の界面活性剤を配合することによりリパーゼの安定化
の実現が可能であることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。 (1)リパーゼにN−メチルグルカミド系界面活性剤、
グルコシド系界面活性剤、エマルゲン430、Brij
98、Brij700及びCHAPSよりなる群から選
ばれる界面活性剤を1種類以上配合せしめることを特徴
とするリパーゼの安定化方法。 (2)N−メチルグルカミド系界面活性剤がMEGA−
8、MEGA−9、MEGA−10よりなる群から選ば
れたいずれかである(1)の安定化方法。 (3)グルコシド系界面活性剤がオクチル−β−グルコ
シド、オクチル−β−チオグルコシドよりなる群から選
ばれたいずれかである(1)の安定化方法。 (4)リパーゼにN−メチルグルカミド系界面活性剤、
グルコシド系界面活性剤、エマルゲン430、Brij
98、Brij700及びCHAPSよりなる群から選
ばれる界面活性剤を1種類以上配合されてなることを特
徴とするリパーゼ組成物。 (5)N−メチルグルカミド系界面活性剤がMEGA−
8、MEGA−9、MEGA−10よりなる群から選ば
れたいずれかである(4)のリパーゼ組成物。 (6)グルコシド系界面活性剤がオクチル−β−グルコ
シド、オクチル−β−チオグルコシドよりなる群から選
ばれたいずれかである(4)のリパーゼ組成物。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明の一実施態様として、リパ
ーゼを含む緩衝液中に、N−メチルグルカミド系界面活
性剤、グルコシド系界面活性剤、エマルゲン430、B
rij98、Brij900及びCHAPSの群から選
ばれる界面活性剤を1種類以上配合せしめることによる
リパーゼの安定化方法がある。
【0008】従来から用いられている緩衝液としては、
トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、GOOD
緩衝液などが挙げられる。なかでも、トリス緩衝液、リ
ン酸緩衝液は濃度、温度によって変動しやすいが、安価
であるという利点がある。一方、GOOD緩衝液にはM
ES、Bis−Tris、ADA、PIPES、ACE
S、BES、MOPS、TES、HEPES、Tric
ine、Bicine、POPSO、TAPS、CHE
S、CAPSなどが例示される。いずれも高価ではある
が、液状診断薬には有用である。該緩衝液のpHは、
5.0〜9.0の範囲で使用目的に応じて調整される。
【0009】本発明において用いられるリパーゼとは、
EC3.1.1.3に分類される以下の反応を触媒する
酵素である。 トリグリセリド+H2O→ジグリセリド(モノグリセリ
ド)+脂肪酸 本発明において、上記酵素は、例えば、ペニシリウム
(Penicillium)属、スタフィロコッカス(Staphylococ
cus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ヒューミ
コラ(Humicola)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、
リゾプス(Rhizopus)属、ロドトルラ(Rhodotorula)
属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、アシネト
バクター(Acinetobacter)属などの微生物から採取さ
れるもの、またはこれらの遺伝子を他の微生物に組み込
まれた遺伝子組換え微生物より製造されたものなどがあ
り、また、遺伝子的に性質を改変したものを含有する。
【0010】また、本発明のリパーゼには、EC、3.
1.1.34に分類される以下の反応を触媒する酵素も
含まれる。 トリグリセライド+H2O→モノグリセリド(又はジグ
リセリド)+脂肪酸 本発明において、上記酵素は、例えば、シュードモナス
(Pseudomonas)属,リゾプス(Rhizopus)属などの微
生物から採取されるもの、またはこれらの遺伝子を他の
微生物に組み込まれた遺伝子組換え微生物より製造され
たものなどがあり、また、遺伝子的に性質を改変したも
のを含有する。リパーゼを含む緩衝液中のリパーゼの濃
度は、酵素の起源によっても異なるが、通常約0.1〜
20U/mlの範囲で好適に用いられる。
【0011】本発明において用いられる界面活性剤とし
ては、例えば、N−メチルグルカミド系界面活性剤、グ
ルコシド系界面活性剤、エマルゲン430(Polyoxyeth
ylene;花王製)、Brij98(Polyoxyethylene(20)
oleylether;シグマ製)、Brij700Polyoxyethy
lene(100) stearylether;シグマ製)及びCHAPS
(3-[(cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propane s
ulfonate;ロシュ製)が挙げられる。N−メチルグルカ
ミド系界面活性剤としては、MEGA−7(Heptanoyl-
N-methylglucamide)、MEGA−8(Octanoyl−N-met
hylglucamide)、MEGA−9(Nonanoyl-N-methylglu
camide)、MEGA−10(Decanoyl-N-methylglucami
de)等が挙げられる。なかでも、MEGA−8、MEG
A−9、MEGA−10が好ましい。グルコシド系界面
活性剤としては、オクチル−β−グルコシド、オクチル
α−グルコシド、オクチル−β−チオグルコシド、オ
クチル β−チオガラクトシド等が挙げられる。なかで
も、オクチル−β−グルコシド、オクチル−β−チオグ
ルコシドが好ましい。
【0012】リパーゼを含む緩衝液のの濃度は特に限定
されるものではないが、好ましくは0.005%以上、
特に好ましくは0.01〜0.3%の範囲で使用され
る。本発明において、リパーゼ溶液には、さらに防腐
剤、他の界面活性化剤などをリパーゼの反応に特に悪い
影響を及ぼさないような範囲で添加してもよい。防腐剤
としては、アジ化ナトリウム、キレート剤、抗生物質、
防菌剤、防黴剤などが挙げられる。界面活性化剤として
は、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰
イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性化剤などが挙
げられる。また、該緩衝液中にはトリグリセライド測定
に必要な他の試薬が含まれていても良い。
【0013】トリグリセライド測定試薬としては、一般
にリパーゼの他、グリセロール測定試薬が含有される。
グリセロール測定試薬としては、紫外部測定試薬と可視
部測定試薬が含有される。紫外部測定試薬としては、グ
リセロールデヒドロゲナーゼ、NAD(P)+が含有さ
れるが、グリセロールキナーゼ、ATP,グリセロール
−3−リン酸デヒドロゲナーゼを含有する試薬の方が正
確性が高い。可視部測定試薬としては、グリセロールオ
キシダーゼ、ペルオキシダーゼ、色源体が含有される
が、グリセロールオキシダーゼ、ATP、グリセロール
−3−リン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、色源体
を含有する試薬の方が正確性が高い。
【0014】本発明における上記安定剤を含むリパーゼ
組成物は、安価に、しかも他の組成物に悪影響を与える
ことなく、良好に活性保持ができる。また、いずれの起
源のリパーゼにも応用可能である。
【0015】リパーゼ活性の測定は以下の測定条件で行
うのが好ましい。 <試薬> A.オリーブ油エマルジョン液 B.発色試薬 5%トリトンX−100溶液 4.0ml、N,N−ジ
エチル−m−トルイジン 0.04ml、アミノアンチ
ピリン 4mg、ATP 24.2mg、塩化マグネシ
ウム 40,7mg、グリセロールキナーゼ 200単
位、L−αーグリセロリン酸オキシダーゼ 500単
位、ペルオキシダーゼ 300単位を50mM MES
緩衝液(pH6.5)200mlに溶解する。 <測定条件> (1)オリーブ油エマルジョン液2mlを試験管に採
り、37℃で約5分間予備加温する。 (2)酵素溶液0.2mlを加え、反応を開始する。 (3)37℃で正確に15分間反応させた後、0.2M
TCA(トリクロロ酢酸)溶液2.0mlを加えて反
応を停止する。 (4)生成する不溶物を濾紙濾過で除く。 (5)濾液の0.05mlを試験管に採り、発色試薬
3.0mlを加えて混合した後、37℃にて15分間加
温し、545nmにおける吸光度を測定する。 (6)盲検はオリーブ油エマルジョン液2.0mlを3
7℃で15分間放置後、TCA溶液2.0mlを加えて
調製し、以下上記同様に操作して吸光度を測定する。
【0016】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
る。なお、本発明は実施例により特に限定されるもので
はない。
【0017】(実施例1)シュードモナス属由来のリパ
ーゼ(東洋紡績製LPL−311)1U/mlを0.1
mM 塩化カルシウムを含む50mM PIPES緩衝
液に添加し、各種界面活性剤を0.05%添加後、40
℃で7日間保温し、活性残存率(すなわち、溶解直後の
活性値に対する活性値の割合)を調べた。緩衝液中での
活性残存率(すなわち、安定性)を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】一般的に使用される界面活性剤トリトンX
−100を共存させることにより安定性は低下した。他
の界面活性剤(MEGA−8)も同様であった。一方、
MEGA−8(物質名:Octanoyl-N-methylglucamide)
はリパーゼを安定化させる効果があり、無添加時より活
性残存率は高かった。また該界面活性剤を用いた時のリ
パーゼの反応性も良好であった。
【0020】(実施例2)シュードモナス属由来のリパ
ーゼ(東洋紡績製LPL−311)1U/mlを0.1
mM 塩化カルシウムを含む50mM PIPES緩衝
液に添加し、N−メチルグルカミド系界面活性剤、グル
コシド系界面活性剤、その他配糖体系界面活性剤を0.
05%添加後、40℃で7日間保温し、活性残存率(す
なわち、溶解直後の活性値に対する活性値の割合)を調
べた。緩衝液中での活性残存率(すなわち、安定性)を
表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】表2に示されるようにMEGA−8、ME
GA−9(Nonanoyl-N-methylglucamide)、MEGA−
10(Decanoyl-N-methylglucamide)のN−メチルグル
カミド類、オクチル−βーグルコシド、オクチル−βー
チオグルコシドのグルコシド類で安定化効果が認められ
た。 また、以上の界面活性剤を用いた時のリパーゼの
反応性も良好であった。
【0023】(実施例3)シュードモナス属由来のリパ
ーゼ(東洋紡績製LPL−311)1U/mlを0.1
mM 塩化カルシウムを含む50mM PIPES緩衝
液に添加し、実施例1、2以外の界面活性剤を0.05
%添加後、40℃で7日間保温し、活性残存率(すなわ
ち、溶解直後の活性値に対する活性値の割合)を調べ
た。緩衝液中での活性残存率(すなわち、安定性)を表
3に示す。
【0024】
【表3】
【0025】上記において検討した界面活性剤の全てに
おいて安定化効果が認められた。しかしながら、リパー
ゼの反応性に対してはコール酸ナトリウムを除いて効果
がなかった。コール酸ナトリウムを組み合わせて添加す
ることによって、反応性は回復した。
【0026】
【発明の効果】上述したように、本発明においては、リ
パーゼを含む組成物中に特定種類の界面活性剤を共存せ
しめることより、従来よりはるかに安定な組成物が得ら
れる。

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 リパーゼにN−メチルグルカミド系界面
    活性剤、グルコシド系界面活性剤、エマルゲン430、
    Brij98、Brij700及びCHAPSよりなる
    群から選ばれる界面活性剤を1種類以上配合せしめるこ
    とを特徴とするリパーゼの安定化方法。
  2. 【請求項2】 N−メチルグルカミド系界面活性剤がM
    EGA−8、MEGA−9、MEGA−10よりなる群
    から選ばれたいずれかである請求項1記載の安定化方
    法。
  3. 【請求項3】 グルコシド系界面活性剤がオクチル−β
    −グルコシド、オクチル−β−チオグルコシドよりなる
    群から選ばれたいずれかである請求項1記載の安定化方
    法。
  4. 【請求項4】 リパーゼにN−メチルグルカミド系界面
    活性剤、グルコシド系界面活性剤、エマルゲン430、
    Brij98、Brij700及びCHAPSよりなる
    群から選ばれる界面活性剤を1種類以上配合されてなる
    ことを特徴とするリパーゼ組成物。
  5. 【請求項5】 N−メチルグルカミド系界面活性剤がM
    EGA−8、MEGA−9、MEGA−10よりなる群
    から選ばれたいずれかである請求項4記載のリパーゼ組
    成物。
  6. 【請求項6】 グルコシド系界面活性剤がオクチル−β
    −グルコシド、オクチル−β−チオグルコシドよりなる
    群から選ばれたいずれかである請求項4記載のリパーゼ
    組成物。
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