JP2001145826A - 多孔質膜の製造方法および多孔質膜 - Google Patents

多孔質膜の製造方法および多孔質膜

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 本発明の目的は、簡単な操作で膜断面に貫通
孔を有し且つ表面に緻密層が実質的に存在しないポリイ
ミド前駆体多孔質膜およびポリイミド多孔質膜の製造方
法を提供することである。 【解決手段】 ポリイミド前駆体0.3〜60重量%お
よびポリイミド前駆体の良溶媒60〜95重量%と非溶
媒5〜40重量%とからなる混合溶媒40〜99.7重
量%からなる溶液をフィルム状に流延し、次いで凝固溶
媒に接触させるポリイミド前駆体多孔質膜の製造方法を
提供する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、多孔質膜の製造方
法および多孔質膜に関し、特に、膜断面方向に関通孔を
有し且つ表面に緻密層が存在しないポリイミド多孔質膜
の製造方法およびポリイミド多孔質膜に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より耐熱性、耐薬品性、機械的強度
に優れたポリイミド多孔質膜として、高性能のガス分離
用途のものが知られている。このガス分離用ポリイミド
多孔質膜は、例えば、特開昭49−45152号公報に
記載されているように、芳香族テトラカルボン酸二無水
物と芳香族ジアミンとの重合反応によって得られたポリ
アミック酸の溶液を液状の薄膜に流延し、該薄膜を非溶
媒中でイミド化しながら析出する、芳香族ポリイミドガ
ス分離膜の製造方法によって得られる。また、テトラカ
ルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重縮合反応で得
られたポリアミック酸の溶液を調製し、そのポリアミッ
ク酸の溶液で液状の薄膜を形成し、その薄膜を非溶媒中
で析出し、最後にそのポリアミック酸の半透膜を製造す
る方法よって得られる。さらに、ポリアミック酸の溶液
で薄膜を形成しながら一部イミド化を進めて、その薄膜
を非溶媒中で析出し、最後にそのポリアミック酸−イミ
ドの半透膜を加熱してイミド化を完結させてポリイミド
の半透膜を製造する方法が知られている。また、ポリア
ミック酸の液状の薄膜を、イミド化剤含有非溶媒中で、
イミド化しながら析出し、得られたイミド膜を加熱する
方法が知られている。そして、溶媒中に溶解したポリア
ミック酸をフィルム状に流延した後、非溶媒と接触させ
てポリアミック酸の相分離析出を誘起する方法が知られ
ている。
【0003】これらの製造法によるガス分離膜は、非溶
媒と接触する少なくとも一方の面に緻密層が形成され、
且つフィルム内部に数μm〜数10μmの孔が存在した
不均一構造を有する多孔質膜となる。フィルム表面に形
成された上記緻密層はガスの分離能を発現するが、この
ようなガス分離膜は、上記緻密層の存在及び独立気泡主
体の孔構造のために高い透気性、透液性の実現が要求さ
れる例えば電池セパレ−タなどの用途に際しては大きな
障壁となる。
【0004】一方、ポリイミドを用いて、フィルム断面
方向に貫通孔を有し且つ表面に緻密層の存在しない多孔
質膜を得ることで、電池セパレ−タ用多孔質フィルムを
製造する方法がこの出願人によって平成11年3月に出
願されている。この貫通孔を有するポリイミド多孔膜で
は、ポリイミド前駆体溶液を基板上に流延し、溶媒置換
速度調整材を介して凝固溶媒に接触させることによっ
て、上記貫通孔を有したポリイミド前駆体の多孔体を析
出させている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記の手法で
は溶媒置換速度調整材が必要であり、更に上記置換速度
調整材を流延後の溶液表面に積層させる工程と、ポリイ
ミド前駆体の多孔体析出後に上記置換速度調整材を上記
ポリイミド前駆体多孔質膜から剥離除去する複雑な工程
が必要であった。本発明の目的は、簡単な操作で膜断面
に貫通孔を有し且つ表面に緻密層が実質的に存在しない
ポリイミド前駆体多孔質膜およびポリイミド多孔質膜の
製造方法を提供することである。また、本発明の他の目
的は、簡単な操作で得られる貫通孔を有するポリイミド
前駆体多孔質膜およびポリイミド多孔質膜、さらにこれ
らの多孔質膜を構成要素として含む単層または複層の多
孔質膜を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、ポリイミド前
駆体0.3〜60重量%およびポリイミド前駆体の良溶
媒60〜95重量%と非溶媒5〜40重量%とからなる
混合溶媒40〜99.7重量%からなる溶液をフィルム
状に流延し、次いで凝固溶媒に接触させて引張強さが1
0kgf/cm2以上のポリイミド前駆体多孔質膜の製
造方法に関する。また、本発明は、上記のポリイミド前
駆体多孔質膜を熱処理するポリイミド多孔質膜の製造方
法に関する。また、本発明は、上記の製造方法によって
得られるポリイミド前駆体多孔質膜を構成要素として含
む単層または複層の多孔質膜に関する。さらに、本発明
は、上記の製造方法によって得られるポリイミド多孔質
膜を構成要素として含む単層または複層の多孔質膜に関
する。
【0007】
【発明の実施の形態】以下に本発明の好ましい態様を列
記する。 1)混合溶媒に用いるポリイミド前駆体の良溶媒及び非
溶媒の溶解度パラメ−タ−の差が5MPa1/2以下であ
る上記のポリイミド前駆体多孔質膜の製造方法。 2)混合溶媒に用いるポリイミド前駆体の良溶媒及び凝
固溶媒の溶解度パラメ−タ−の差が5MPa1/2以下で
ある上記のポリイミド前駆体多孔質膜の製造方法。 3)ポリイミド前駆体の非溶媒あるいは凝固溶媒の沸点
が150℃より高い場合には、熱処理の前に非溶媒を除
去した後にポリイミド前駆体多孔質膜を熱処理する上記
のポリイミド多孔質膜の製造方法。 4)ポリイミド前駆体の非溶媒あるいは凝固溶媒の沸点
が150℃より高い場合には、沸点が150℃以下であ
ってポリイミド前駆体の非溶媒と置換した後にポリイミ
ド前駆体多孔質膜を熱処理する上記のポリイミド多孔質
膜の製造方法。 5)ポリイミド前駆体多孔質膜の熱処理を化学イミド化
剤の存在下に行う上記のポリイミド多孔質膜の製造方
法。
【0008】本発明においては、ポリイミド前駆体0.
3〜60重量%およびポリイミド前駆体の良溶媒60〜
95重量%と非溶媒5〜40重量%とからなる混合溶媒
40〜99.7重量%からなる溶液をド−プ液として使
用することが必要であり、多孔質膜の引張強さは10k
gf/cm2以上であることが必要である。また、本発
明においては、前記のド−プ液をフィルム状に流延す
る。
【0009】前記のポリイミド前駆体とは、テトラカル
ボン酸成分とジアミン成分の好ましくは芳香族化合物に
属するモノマ−を重合して得られたポリアミック酸或い
はその部分的にイミド化したものであり、熱処理或いは
化学処理することで閉環してポリイミド樹脂とすること
ができる。ポリイミド樹脂とは、後述のイミド化率が約
50%以上の耐熱性ポリマ−である。
【0010】テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成
分とを、有機溶媒中に大略等モル溶解、重合して、ポリ
アミック酸であるポリイミド前駆体が製造される。ま
た、重合を約80℃以上の温度で行った場合に、部分的
に閉環してイミド化したポリイミド前駆体が製造され
る。このポリイミド前駆体は、溶液粘度が10〜100
00ポイズ、特に40〜3000ポイズであるものが好
ましい。溶液粘度が10ポイズより小さいと多孔質膜を
作製した際のフィルム強度が低下するので適当でなく、
10000ポイズより大きいとフィルム状に流延するこ
とが困難となるので、上記範囲が好適である。前記のポ
リイミド前駆体を製造するための有機溶媒としては、パ
ラクロロフェノ−ル、N−メチル−2−ピロリドン(N
MP)、ピリジン、N,N−ジメチルアセトアミド(D
MAc)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルス
ルホキシド、テトラメチル尿素、フェノ−ル、クレゾ−
ルなどが挙げられる。
【0011】前記のテトラカルボン酸成分としては、
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無
水物(以下、s−BPDAと略記することもある)、
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無
水物(以下、a−BPDAと略記することもある)など
のビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましいが、
2,3,3’,4’−又は3,3’,4,4’−ビフェ
ニルテトラカルボン酸、あるいは2,3,3’,4’−
又は3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸
の塩またはそれらのエステル化誘導体であってもよい。
ビフェニルテトラカルボン酸成分は、上記の各ビフェニ
ルテトラカルボン酸類の混合物であってもよい。
【0012】また、上記のテトラカルボン酸成分は、前
述のビフェニルテトラカルボン酸類のほかに、テトラカ
ルボン酸として、ピロメリット酸、3,3’,4,4’
−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2−ビス
(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス
(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス
(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル、ビス
(3,4−ジカルボキシフェニル)チオエ−テル、ブタ
ンテトラカルボン酸、あるいはそれらの酸無水物、塩ま
たはエステル化誘導体などのテトラカルボン酸類であっ
てもよく、これらが全テトラカルボン酸成分中10モル
%以下、特に5モル%以下の割合で含有するものが好ま
しい。
【0013】前記の芳香族ジアミンとしては、例えば、
次式 H2N−Bz(R1m−[A−(R2nBz]l−NH2 (ただし、前記一般式において、Bzはベンゼン環で、
1またはR2は、水素、低級アルキル、低級アルコキシ
などの置換基で、Aは、独立に直接結合、O、S、C
O、SO2、SO、CH2、C(CH32などの二価の基
であり、lは0または1〜2の整数、mまたはnは1〜
4の整数である。)で示される芳香族ジアミン化合物が
好ましい。
【0014】前記式で示される芳香族ジアミンの具体的
な化合物としては、4,4’−ジアミノジフェニルエー
テル(以下、DADEと略記することもある)、3,
3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエ−テ
ル、3,3’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェ
ニルエ−テルパラ−フェニレンジアミン(PPD)など
が挙げられる。また上記各化合物の混合物であってもよ
い。あるいは、芳香族ジアミン成分としては、ジアミノ
ピリジンであってもよく、具体的には、2,6−ジアミ
ノピリジン、3,6−ジアミノピリジン、2,5−ジア
ミノピリジン、3,4−ジアミノピリジンなどが挙げら
れる。
【0015】前記のようにして得られるポリイミド前駆
体、好適には対数粘度(30℃、濃度;0.5g/10
0mL NMP)が0.3以上、特に0.5〜7である
ポリイミド前駆体を重合溶液から分離して良溶媒と非溶
媒との混合溶媒に加えるか、あるいは重合溶液に直接あ
るいは重合溶液を濃縮した後に非溶媒を加えて、ポリイ
ミド前駆体0.3〜60重量%および良溶媒60〜95
重量%と非溶媒5〜40重量%とからなる混合溶媒40
〜99.7重量%からなる溶液を調整する。
【0016】前記のポリイミド前駆体の良溶媒として
は、パラクロロフェノ−ル、N−メチル−2−ピロリド
ン(NMP)、ピリジン、N,N−ジメチルアセトアミ
ド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメ
チルスルホキシド、テトラメチル尿素、フェノ−ル、ク
レゾ−ルなどが挙げられる。
【0017】前記のポリイミド前駆体の非溶媒として
は、エタノ−ル、1−ブタノ−ル、1−ペンタノ−ル、
1−ヘキサノ−ルなどのアルコ−ル類、メチルエチルケ
トン(以下、MEKと略記することもある)、アセトン
などが挙げられる。特に、非溶媒として、次式に従って
求められる非溶媒の溶解度パラメ−タ−とポリイミド前
駆体の良溶媒の溶解度パラメ−タ−との差が5MPa
1/2以下であるものが好適である。非溶媒と良溶媒との
溶解度パラメ−タ差が5MPa1/2より大きくなると、
緻密層が形成されやすくなる。
【0018】d=[(H−RT)/V]1/2 [ここに、dは溶解度パラメ−タ−(MPa1/2)であ
り、Hは凝固溶液に接触させるときの温度(K)、Hは
該溶媒1モルを上記温度Tにて等温気化させるのに必要
なエンタルピ−(J/mol)、Rはガス定数(J/K
・mol)、Vは該溶媒のモル体積(cm3/mol)
をそれぞれ表わす。]
【0019】溶媒の溶解度パラメ−タ−は、公知の文献
(J.Brandrup.E.H.Immergut,E.A.Grulke,Polymer Handb
ook,4th ed.,John Wiley&Sons,New York,1999)などに
より容易に知ることができる。例えば、NMP:23.
1MPa1/2、DMAc:22.1MPa1/2、シクロヘ
キサン:16.8MPa1/2、テトラヒドロフラン:1
8.6MPa1/2、MEK:19.0MPa1/2、アセト
ン:20.3MPa1/2、1−ヘプタノ−ル:21.7
MPa1/2、1−ヘキサノ−ル:21.9MPa1/2、1
−ペンタノ−ル:22.3MPa1/2、1−ブタノ−
ル:22.3MPa1/2、1−プロパノ−ル:24.3
MPa1/2、エタノ−ル:26.0MPa1/2、メタノ−
ル:29.7MPa1/2、エチレングリコ−ル:32.
9MPa1/2、水:47.9MPa1/2である。
【0020】特に、前記の非溶媒と良溶媒との溶解度パ
ラメ−タ差が0.2〜4.5MPa 1/2の範囲であるこ
とが好ましい。溶解度パラメ−タ差が0.2MPa1/2
より小さくなると凝固溶媒に接触させたときに溶媒置換
に要する時間が長くなるため好ましくなく、溶解度パラ
メ−タ−差が4.5MPa1/2より大きくなると膜表面
の開口部分が不均一に閉塞しやすくなるため好ましくな
い。
【0021】本発明においては、前記のようにして得ら
れたポリイミド前駆体0.3〜60重量%、好ましくは
1%〜30重量%および良溶媒60〜95重量%と非溶
媒5〜40重量%とからなる混合溶媒40〜99.7重
量%からなる溶液を流延する。前記ポリイミド前駆体の
割合が0.3重量%より少ないと多孔質膜を作製した際
のフィルム強度が低下するので適当でなく、60重量%
より多いとポリイミド前駆体が均一な溶液になりにくい
のでこの範囲が適当である。また、混合溶媒中の非溶媒
の割合が5重量%より少ないと非溶媒添加の効果が失わ
れて緻密層が形成されやすくなるので適当ではなく、4
0重量%より多くなると均一な溶液を調整することが困
難になるので適当ではない。
【0022】前記の流延用のド−プ溶液には、界面活性
剤、難燃剤、着色剤、或いはガラス繊維、ケイ素系繊維
等の補強材が含まれても良い。これらの添加剤及び補強
材は上記ポリイミド前駆体重合溶液に添加してもよく、
あるいは流延用のド−プ溶液に添加してもよい。
【0023】ポリイミド前駆体溶液を流延して流延膜を
得る方法としては特に制限はないが、該ポリイミド前駆
体溶液を基台となるガラス等の基板上或いは可動式のベ
ルト上に流延する方法、該ポリイミド前駆体溶液をT型
ダイスから押出す方法などの手法を用いることができ
る。
【0024】上記流延工程で形成されたポリイミド前駆
体溶液膜は、凝固溶媒と接触させることでポリイミド前
駆体の析出、多孔質化を行う。ポリイミド前駆体の凝固
溶媒としては、ポリイミド前駆体溶液に用いたポリイミ
ド前駆体の非溶媒が好適であるが、エタノ−ル、メタノ
−ル等のアルコ−ル類、アセトン、水等のポリイミド前
駆体の非溶媒またはこれら非溶媒99.9〜50重量%
と前記ポリイミド前駆体の溶媒0.1〜50重量%との
の混合溶媒を用いることもできる。
【0025】前記のようにして得られる多孔質化された
ポリイミド前駆体フィルは引張強さが10kgf/cm
2以上であり良好な作業性を有している。多孔質化され
たポリイミド前駆体フィルの引張強さが10kgf/c
2より小さいと後段の工程において膜の破損が生じや
すくなるため適当ではない。このポリイミド前駆体フィ
ルは、ついで熱処理して溶媒除去とともにイミド化され
る。イミド化は熱イミド化でもあるいは化学イミド化で
も行うことができる。熱処理を施す場合、ポリイミド前
駆体溶液あるいは凝固溶媒に用いたポリイミド前駆体の
非溶媒の沸点が約150℃より高いときは、熱処理の前
に上記非溶媒をポリイミド前駆体膜から除去することが
好ましい。前記の非溶媒を除去する方法としては真空乾
燥などによる溶媒の比較的低温での蒸発によって行うこ
とが好ましい。あるいは、前記の非溶媒の除去を、約1
50℃以下に沸点を有するポリイミド前駆体の非溶媒と
置換することなどによって好適に行うことができる。
【0026】ポリイミド前駆体多孔質膜の熱処理は、ポ
リイミド前駆体多孔質膜(フィルム)をピン、チャック
或いはピンチロ−ル等を用いて熱収縮が生じないように
固定し、大気中あるいは不活性雰囲気下にて、温度範囲
280〜500℃で、5〜60分間程度行われる。
【0027】ポリイミド前駆体多孔質膜(フィルム)の
化学イミド化は、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物を脱
水剤として用い、トリエチルアミン等の第三級アミンを
触媒として行われる。また、特開平4−339835の
ように、イミダ−ル、ベンズイミダゾ−ル、もしくはそ
れらの置換誘導体を用いても良い。
【0028】複層ポリイミド多孔質膜は、ポリイミド前
駆体溶液流延物を析出、多孔質化し、得られた前駆体多
孔質膜を複層化し、最後に熱処理してイミド化処理を行
うことで複層ポリイミド多孔質膜を製造することができ
る。
【0029】このようにして製造される多孔質ポリイミ
ド膜は、引張強さが30kgf/cm2以上であり、前
記製造条件の選択によっても多少異なるが、好適には空
孔率が15〜80%、さらに好適には平均孔径(A側、
B側いずれも)が0.01〜5μm、特に0.05〜1
μmで、最大孔径10μm以下であり、透気度が30秒
/100cc〜2000秒/100ccである。
【0030】また、前記多孔質ポリイミド膜は単層ある
いは複層いずれの構成であってもよく膜全体の膜厚が5
〜100μm、透気度30秒/100cc〜2000秒
/100ccで、ポリイミド多孔質層の耐熱温度が20
0℃以上、105℃で8時間熱処理した際の熱収縮率は
±1%以下であるものが好ましい。
【0031】本発明によれば、前記のようにして得られ
る多孔質ポリイミド膜(フィルム)が表面に緻密層の存
在しない貫通孔を有する多孔質膜、特に多孔質ポリイミ
ド膜を含んだ基板を構成することができる。これによっ
て、比誘電率が小さい低誘電率ポリイミド絶縁フィルム
あるいは基板を得ることができる。さらに、本発明によ
れば、電子機器基板材料として、低誘電率で耐熱温度2
00℃以上のものを簡便に得ることができる。この構成
では、ポリイミド材料中に、固体部分に比較して誘電率
の非常に小さい気体を有する空間部分が存在するため
に、フィルムあるいは基板の誘電率はポリイミドのバル
クの誘電率より低くなる。
【0032】また、基板からの放熱特性は、放熱部分の
面積が広くなる程多量の熱量を放出することができる。
特に、本発明によって得られる多孔質ポリイミド膜(フ
ィルム)は、微細な屈曲した非直線性連続孔を有する内
部構造を持つことにより表面積が通常の緻密な膜と比較
して数倍以上になることから、放熱特性が著しく向上す
る。
【0033】本発明によって得られる多孔質ポリイミド
膜は、導体部と接触した状態においても、一方の表面と
他方の表面が直線的な孔構造を持たないために、コロナ
放電などの現象が生じにくく、絶縁破壊等による絶縁劣
化を起こしにくい特性を持つ。
【0034】本発明によって得られる多孔質ポリイミド
膜は、実装に際しては単独あるいは多孔質ポリイミド膜
の複数層を積層し、さらには新たに緻密なポリイミドフ
ィルムを該多孔質ポリイミド膜(フィルム)に積層して
用いることが可能である。また例えばポリイミドフィル
ム、シリコン基板やガラス基板やカ−ボン基板などやア
ルミニウム基板などの有機、無機あるいは金属の基板に
直接あるいは膜状の耐熱性接着剤を介して多孔質ポリイ
ミド膜を積層することもできる。
【0035】また、本発明によって得られる多孔質ポリ
イミド膜の片面あるいは両面に、熱可塑性ポリイミドや
ポリイミドシロキサン−エポキシ樹脂などの耐熱性でフ
ィルム状の接着剤層を積層し、さらにその上に芳香族ポ
リイミド、芳香族ポリエステル、ポリエチレン、ポリプ
ロピレン、ポリブテン−1などの樹脂フィルムからなる
保護フィルムを設けて、積層体を得ることができる。こ
の積層体によって埃の付着を防止して運搬が容易にな
り、使用時に保護フィルムを引き剥がして、電解銅箔、
圧延銅箔、圧延アルミニウム箔などそれ自体公知の電子
回路用の導電性金属箔を積層して回路基板を容易に得る
ことができる。
【0036】また、本発明によって得られる多孔質ポリ
イミド膜の片面あるいは両面に耐熱性でフィルム状の接
着剤層を積層し、次いでその上に電子回路用の導電性金
属箔を積層して積層体を得ることができる。あるいは、
前記の電子回路用の導電性金属箔の片面に多孔質化した
ポリイミド前駆体多孔質フィルムを重ね合わせた後、加
熱乾燥してイミド化を完了させることによって積層体を
得ることができる。
【0037】また、本発明によって得られる多孔質ポリ
イミド膜の片面とポリイミドフィルム、シリコン基板、
ガラス基板やカ−ボン基板などの無機基板あるいはアル
ミニウム基板などの金属基板との片面とを、耐熱性でフ
ィルム状の接着剤層で挟んで重ねて、加熱圧着し、次い
でこの積層体の多孔質絶縁材料である多孔質ポリイミド
フィルムの他の面と導電性金属箔とを耐熱性でフィルム
状の接着剤層耐熱性の接着剤層で挟んで重ねて、加熱圧
着して積層基板である積層体を得ることができる。さら
に、本発明によって得られる多孔質ポリイミド膜の片面
に耐熱性接着剤を介してシリコン基板などの無機、有機
あるいは金属の基板が、他の面に直接あるいは耐熱性接
着剤を介して緻密なポリイミド層、そしてその上にさら
に回路用の導電性金属層が設けられた積層体としてもよ
い。この場合、回路用の導電性金属層としては金属箔を
使用してもよく、あるいは銅、ニッケル、クロム、アル
ミニウムなどのそれ自体公知の金属を蒸着法(真空蒸着
あるいはスパッタ)−メッキ(無電解メッキ、電気メッ
キ)の各種組み合わせによって回路用の導電性金属層を
形成してもよい。なお、本発明によって得られる多孔質
ポリイミド膜は、環境によっては連続孔によって含まれ
る水分を真空および/または加熱乾燥して除去した後に
使用してもよい。
【0038】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明す
るが、本発明はこれらに限定されない。以下の各例にお
いて、多孔質膜(フィルム)について以下の物性を測定
し評価した。
【0039】引張強さ JIS K7127に準じて測定した。テンシロン万能
試験機(東洋ボ−ルドウイン社製)を使用し、引張速度
10mm/分で測定した。 透気度 JIS P8117に準じて測定した。測定装置として
B型ガ−レ−デンソメ−タ−(東洋精機社製)を使用し
た。試料片を直径28.6mm、面積645mm2の円
孔に締付ける。内筒重量567gにより、筒内の空気を
試験円孔部から筒外へ通過させる。空気100ccが通
過する時間を測定し、透気度(ガ−レ−値)とした。
【0040】空孔率 所定の大きさに切取った多孔質フィルムの膜厚及び重量
を測定し、目付重量から空孔率を次の式によって求め
た。式中のSは多孔質フィルムの面積、dは膜厚、Wは
測定した重量、Dはポリイミドの密度を意味し、ポリイ
ミドの密度は1.34g/m3とした。 空孔率(%)=100−100×(W/D)/(S×
d)
【0041】平均孔径 多孔質フィルム表面の走査型電子顕微鏡写真より、任意
の50点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面
積の平均値から次式に従って孔形状が真円であるとした
際の平均直径を計算より求めた。次式のSは孔面積の平
均値を意味する。 平均孔径=2×(S/π)1/2 平均孔径は凝固溶媒と直接接触させた側(A側)と流延
した基板に接触した側(B側)の各々の面で測定した。
【0042】突刺強度 試料を直径11.28mm、面積1cm2の円孔ホルダ
−に固定し、先端形状が0.5R、直径1mmφのニー
ドルを2mm/secの速度で下降させ突刺し、貫通荷
重を測定した。
【0043】熱収縮率 所定の長さに目盛りを記した試料を、無拘束状態で10
5℃に設定したオ−ブン中で8時間静置し、取出した後
の寸法を測定した。熱収縮率は次式に従う。次式のL1
はオーブンから取出した後のフィルム寸法を意味し、L
0は初期のフィルム寸法を意味する。 熱収縮率(%)=[1−(L1/L0)]×100
【0044】実施例1 テトラカルボン酸成分としてs−BPDAを、ジアミン
成分としてDADEを用い、s−BPDAに対するDA
DEのモル比が0.994で且つ該モノマ−成分の合計
重量が18重量%になるようにNMPに溶解し、40℃
で6時間重合を行ってポリイミド前駆体溶液を得た。
【0045】前記のポリイミド前駆体溶液にMEKを添
加し、前記ポリイミド前駆体が約14重量%、NMPが
57重量%、MEKが29重量%であるド−プ溶液を調
製した。このド−プ溶液の両溶媒の溶解度パラメ−タ−
は、NMPが23.1MPa 1/2で、MEKが19.0
1MPa1/2であり、溶解度パラメ−タ−差が4.1M
Pa1/2である。
【0046】前記のド−プ溶液をガラス板上に厚みが約
150μmになるように流延し、引き続いて室温のアセ
トン中に15分間浸漬し、溶媒置換を行ってポリイミド
前駆体の析出、多孔質化を行った。析出したポリイミド
前駆体多孔質フィルムを水中に15分間浸漬した後、ガ
ラス板から剥離し、ピンテンタ−に固定した状態で、大
気中にて300℃で20分間熱処理を行って、ポリイミ
ド多孔質膜を得た。なお、ピンテンタ−に固定したポリ
イミド前駆体多孔質フィルムは十分な強度を有してお
り、異常は見られなかった。
【0047】得られたポリイミド多孔質膜は、膜断面の
走査型顕微鏡観察によって、膜断面方向に貫通孔(連続
微細孔)を有し緻密層の存在しないものであることが確
認された。また上記多孔質膜の表面を走査型電子顕微鏡
観察すると、表面に微小開口部が均一に分布した構造を
有していた。多孔質膜の膜厚、透気度、空孔率、平均孔
径、熱収縮率、突刺強度の測定結果を以下に示す。な
お、A側、B側とも10μm以上の孔径のものはないこ
とが確認された。
【0048】評価結果 ポリイミド前駆体多孔質膜 引張強度 179kgf/cm2 ポリイミド多孔質膜 引張強度 306kgf/cm2 膜厚 47μm 透気度 90秒/100cc 空孔率 72% 平均孔径 A側0.69μm、B側0.59μm 熱収縮率 0.3% 突刺強度 233gf
【0049】実施例2 ポリイミド前駆体溶液に1−ブタノ−ルを添加し、前記
ポリイミド前駆体が約14重量%、NMPが57重量
%、1−ブタノ−ルが29重量%であるド−プ溶液を調
製し、ド−プ溶液をガラス板上に厚みが約150μmと
なるように流延し、引き続いて室温に保った1−ブタノ
−ル浴中に15分間浸漬して溶媒置換を行った他は実施
例1と同様にして、膜断面方向に貫通孔(連続微細孔)
を有し緻密層が存在せず表面に微小開口部が均一に分布
した構造を有する多孔質ポリイミド膜を得た。なお、こ
のド−プ溶液の両溶媒の溶解度パラメ−タ−は、NMP
が23.1MPa1/2で、1−ブタノ−ルが23.3M
Pa1/2であり、溶解度パラメ−タ−差が0.2MPa
1/2である。得られたポリイミド前駆体多孔質膜とポリ
イミド多孔質膜の引張強度およびポリイミド多孔質膜の
突刺強度は実施例1と同等であった。得られたポリイミ
ド多孔質膜の膜厚、透気度、空孔率、平均孔径、熱収縮
率の測定結果を以下に示す。なお、A側、B側とも10
μm以上の孔径のものはないことが確認された。
【0050】評価結果 膜厚 51μm 透気度 75秒/100cc 空孔率 71% 平均孔径 A側0.089μm、B側0.59μm 熱収縮率 0.3%
【0051】実施例3 ポリイミド前駆体溶液に1−ペンタノ−ルを添加し、前
記ポリイミド前駆体が約14重量%、NMPが57重量
%、1−ペンタノ−ルが29重量%であるド−プ溶液を
調製し、ド−プ溶液をガラス板上に厚みが約150μm
となるように流延し、引き続いて室温に保った1−ペン
タノ−ル浴中に15分間浸漬して溶媒置換を行った他は
実施例1と同様にして、膜断面方向に貫通孔(連続微細
孔)を有し緻密層が存在せず表面に微小開口部が均一に
分布した構造を有する多孔質ポリイミド膜を得た。な
お、このド−プ溶液の両溶媒の溶解度パラメ−タ−は、
NMPが23.1MPa1/2で、1−ペンタノ−ルが2
2.3MPa1/2であり、溶解度パラメ−タ−差が0.
8MPa1/2である。得られたポリイミド前駆体多孔質
膜とポリイミド多孔質膜の引張強度およびポリイミド多
孔質膜の突刺強度は実施例1と同等であった。得られた
ポリイミド多孔質膜の膜厚、透気度、空孔率、平均孔
径、熱収縮率の測定結果を以下に示す。なお、A側、B
側とも10μm以上の孔径のものはないことが確認され
た。
【0052】評価結果 膜厚 45μm 透気度 69秒/100cc 空孔率 69% 平均孔径 A側0.13μm、B側0.67μm 熱収縮率 0.3%
【0053】実施例4 ポリイミド前駆体溶液に1−ヘキサノ−ルを添加し、前
記ポリイミド前駆体が約14重量%、NMPが57重量
%、1−ヘキサノ−ルが29重量%であるド−プ溶液を
調製し、ド−プ溶液をガラス板上に厚みが約150μm
となるように流延し、引き続いて室温に保った1−ヘキ
サノ−ル浴中に15分間浸漬して溶媒置換を行った他は
実施例1と同様にして、膜断面方向に貫通孔(連続微細
孔)を有し緻密層が存在せず表面に微小開口部が均一に
分布した構造を有する多孔質ポリイミド膜を得た。な
お、このド−プ溶液の両溶媒の溶解度パラメ−タ−は、
NMPが23.1MPa1/2で、1−ヘキサノ−ルが2
1.9MPa1/2であり、溶解度パラメ−タ−差が1.
2MPa1/2である。得られたポリイミド前駆体多孔質
膜とポリイミド多孔質膜の引張強度およびポリイミド多
孔質膜の突刺強度は実施例1と同等であった。得られた
ポリイミド多孔質膜の膜厚、透気度、空孔率、平均孔
径、熱収縮率の測定結果を以下に示す。なお、A側、B
側とも10μm以上の孔径のものはないことが確認され
た。
【0054】評価結果 膜厚 47μm 透気度 35秒/100cc 空孔率 72% 平均孔径 A側0.12μm、B側0.92μm 熱収縮率 0.3%
【0055】比較例1 ポリイミド前駆体溶液をそのままにガラス板上に厚みが
約150μmとなるように流延した他は実施例1と同様
にして、多孔質ポリイミド膜を得た。この多孔質ポリイ
ミド膜の表面及び断面を電子顕微鏡観察すると、緻密層
が形成されていた。この膜の透気度は2000秒/10
0ccより大であった。
【0056】
【発明の効果】本発明によると、耐熱性、耐薬品性及び
機械的強度に優れるポリイミドを用いた膜断面方向に貫
通孔を有し且つ表面に緻密層の存在しない多孔質膜を製
造することが可能となった。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C08J 9/28 101 C08J 9/28 101 // C08L 79:08 C08L 79:08 Fターム(参考) 4D006 GA41 HA42 JA02A JA02C MA03 MA08 MA22 MA24 MA31 MB03 MB11 MB15 MB16 MB17 MC58 MC58X MC89 NA05 NA10 NA45 NA51 NA62 NA64 PB17 PC01 4F073 AA07 BA31 BB01 BB04 EA31 GA01 4F074 AA74A CB34 CB43 CC04Z CC29Y DA49 4J043 PA04 QB31 SA06 SA72 TA23 UA122 UA131 UA132 UB012 UB122 UB152 UB282 UB302

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ポリイミド前駆体0.3〜60重量%お
    よびポリイミド前駆体の良溶媒60〜95重量%と非溶
    媒5〜40重量%とからなる混合溶媒40〜99.7重
    量%からなる溶液をフィルム状に流延し、次いで凝固溶
    媒に接触させて引張強さが10kgf/cm2以上のポ
    リイミド前駆体多孔質膜の製造方法。
  2. 【請求項2】 混合溶媒に用いるポリイミド前駆体の良
    溶媒及び非溶媒の溶解度パラメ−タ−の差が5MPa
    1/2以下である請求項1記載のポリイミド前駆体多孔質膜
    の製造方法。
  3. 【請求項3】 混合溶媒に用いるポリイミド前駆体の良
    溶媒及び凝固溶媒の溶解度パラメ−タ−の差が5MPa
    1/2以下である請求項1記載のポリイミド前駆体多孔質膜
    の製造方法。
  4. 【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載のポリイ
    ミド前駆体多孔質膜を熱処理するポリイミド多孔質膜の
    製造方法。
  5. 【請求項5】 ポリイミド前駆体の非溶媒あるいは凝固
    溶媒の沸点が150℃より高い場合には、熱処理の前に
    非溶媒を除去した後にポリイミド前駆体多孔質膜を熱処
    理する請求項4に記載のポリイミド多孔質膜の製造方
    法。
  6. 【請求項6】 ポリイミド前駆体の非溶媒あるいは凝固
    溶媒の沸点が150℃より高い場合には、沸点が150
    ℃以下であってポリイミド前駆体の非溶媒と置換した後
    にポリイミド前駆体多孔質膜を熱処理する請求項4に記
    載のポリイミド多孔質膜の製造方法。
  7. 【請求項7】 ポリイミド前駆体多孔質膜の熱処理を化
    学イミド化剤の存在下に行う請求項4〜6のいずれかに
    記載のポリイミド多孔質膜の製造方法。
  8. 【請求項8】 請求項1〜3のいずれかに記載の製造方
    法によって得られるポリイミド前駆体多孔質膜を構成要
    素として含む単層または複層の多孔質膜。
  9. 【請求項9】 請求項4〜7のいずれかに記載のポリイ
    ミド多孔質膜を構成要素として含む単層または複層の多
    孔質膜。
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