JP2000297344A - 靭性と耐硫化物応力腐食割れ性に優れる油井用鋼およびその製造方法 - Google Patents
靭性と耐硫化物応力腐食割れ性に優れる油井用鋼およびその製造方法Info
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Abstract
Sが110ksi級以上の高強度油井用鋼とその安価な
製造方法を提供する。 【解決手段】C:0.15〜0.3%、Cr:0.2〜1.5%、Mo:0.
1〜1%、V:0.05〜0.3%、Nb:0.003〜0.1%を含む低合
金鋼で、析出している炭化物の総量が1.5〜4%、炭化物
の総量に占めるMC型炭化物の割合が5〜45%、M23C6型炭
化物の割合が製品肉厚をtとした時(200/t)%以下の
鋼、この鋼は上記の化学組成を有す鋼を1150℃以上に加
熱して終了温度1000℃以上の熱間加工した後、900℃以
上からの直接焼入れと、550℃以上、AC1変態点以下の焼
戻しを施し、次いで850〜1000℃の再加熱焼入れと、650
℃以上、AC1変態点以下の焼戻しを少なくとも1回施す
ことで製造可能である。
Description
割れ性に優れる低合金鋼に関し、より詳しくは、油井や
ガス井用のケーシングやチュービング、掘削用のドリル
パイプおよびこれらの管のカップリングなどで、降伏応
力(YS)が110ksi以上であり、肉厚が20mm
以上というような厚肉品の素材として用いて特に好適な
靭性と耐食性が良好な低合金鋼とその製造方法に関す
る。
化水素を含む原油や天然ガスの掘削、輸送、貯蔵などを
必要とする情勢になっている。特に、油井の深井戸化、
輸送効率の向上、さらには低コスト化のためにこの分野
で用いられる材料についてはこれまで以上に高強度化が
要求されている。
が80〜95ksi級の鋼管が広く用いられていたが、
最近では、110ksi級が使用されるようになり、1
25ksi以上級や140ksi以上級の要求も高まり
つつある。
性という)に優れる従来鋼としては、(a) 80〜90%
以上のマルテンサイト組織鋼、(b) 粗大な炭化物を含ま
ない鋼、(c) 非金属介在物の少ない清浄鋼、(d) 高温焼
戻し鋼、(e) 細粒組織鋼、(f) 高降伏比鋼、(g) 低Mn
−低P−低S鋼、(h) 不溶性窒化物を多く含む鋼、(i)
Zr添加鋼がある。
を得るための方法には種々の方法があり、その代表的な
方法としては、急速加熱法(特開昭54−117311
号公報、同61−9519号公報)や短時間焼戻し法
(特開昭58−25420号公報)などがある。
大な炭化物を含まない鋼は、「鉄と鋼、76(1990)、p.13
64」にも示されるように、粗大な炭化物がSSCの起点
となる点を考慮し、粗大な炭化物を含まない鋼として開
発された鋼である。
は、粗大な炭化物が残存したり、析出成長しないよう
に、種々の成分設計を施したCrを含む低合金鋼を用
い、焼入れ後主として短時間焼戻し処理を施すことによ
り製造可能とされている。
は、一般に、焼入れによってCの固溶したマルテンサイ
ト組織とし、その後焼戻し処理を施して微細な炭化物を
析出させる。このため、素材鋼には、通常、焼入性を高
めるためにCrを添加した低合金鋼が用いられる。
が旧オーステナイト粒界に膜状に析出するので、これを
防ぐために適量のMoを添加した低合金鋼を用い、高温
焼戻しすることも行われている。
長いと成長して粗大化するので、より短時間に焼戻しす
るために誘導加熱手段を用いることも行われている。
化しやすい傾向にあるので、炭化物の分散を図るため
に、種々の細粒化手段も採られている。
いるCrとMoを含む低合金鋼の炭化物は、M3C 型、
M7C3型およびM23C6 型として析出する。そのうちの
M23C6 型は、粗大化しやすい炭化物である。熱力学的
には、M23C6型が最も安定で、M7C3型、M3C型の順
に不安定であるので、CrとMoを含む焼入れ焼戻し鋼
では、最終平衡相として粗大なM23C6 型の炭化物がど
うしても析出する。また、Mo量がきわめて高い場合に
は、M2C 型も析出する。このM2C 型の炭化物は、針
状であり、応力集中係数が高いので、耐SSC性を低下
させる。
制方法としては、短時間焼戻し処理が最も効果的であ
り、このため、従来はこの短時間焼戻し処理法が主とし
て用いられてきたことは前述した通りである。しかし、
この短時間焼戻し処理法は、誘導加熱設備の設置が必須
であり、過大な設備投資を必要とする。
熱処理を2回以上施したり、焼入れ温度を低くしたりす
る必要がある。その結果、熱処理コストが高くなるだけ
でなく、合金元素の固溶量が少なくなるために、合金元
素の添加量を増やす必要があって材料コストが上昇す
る。
るので、マルテンサイト組織を確保するためには高速冷
却が必須になり、特別な冷却装置の設置が必要となって
過大な設備投資を必要とする。
り、厚肉品になると靭性が低下し、油井用鋼に要求され
る靭性が確保できないという問題もあった。
粗大な炭化物を含まない、耐SSC性に優れた油井用
鋼、具体的には降伏応力(YS)が110ksi(96
5MPa)以上級で、かつ規格最小降伏応力(SMY
S)の80%の応力付加時に硫化水素濃度を調整したN
ACE TM0177浴中でSSCを生じず、しかも製
品がカップリングなどの厚肉品であっても靭性が良好な
油井用鋼と、この油井用鋼を、合金元素の増量は勿論、
誘導加熱設備や特別な冷却装置を用いることなく、比較
的簡単な熱処理を施すだけで得ることが可能な製造方法
を提供することにある。
(1)の靭性と耐硫化物応力腐食割れ性に優れる高強度
油井用鋼と、下記(2)のその製造方法にある。
5〜0.3%、Cr:0.2〜1.5%、Mo:0.1
〜1%、V:0.05〜0.3%、Nb:0.003〜
0.1%を含む低合金鋼からなり、析出している炭化物
の総量が1.5〜4質量%であり、炭化物の総量に占め
るMC型炭化物の割合が5〜45質量%、M23C6 型炭
化物の割合が製品の肉厚をt(mm)とした時(200
/t)質量%以下である靭性と耐硫化物応力腐食割れ性
に優れる油井用鋼。
5〜0.3%、Cr:0.2〜1.5%、Mo:0.1
〜1%、V:0.05〜0.3%、Nb:0.003〜
0.1%を含む低合金鋼を1150℃以上に加熱した
後、熱間加工を1000℃以上で終了し、引き続いて9
00℃以上の温度から焼入れし、その後550℃以上、
AC1変態点以下で焼戻した後、さらに850〜1000
℃に再加熱して焼入れし、次いで650℃以上、AC1変
態点以下で焼戻す焼入れ焼戻し処理を少なくとも1回施
す上記(1)に記載の靭性と耐硫化物応力腐食割れ性に
優れる油井用鋼の製造方法。
成させた。すなわち、本発明者らは、炭化物には、前述
したM3C 型、M7C3型、M23C6 型およびM2C 型の
他にMC型があり、このMC型炭化物は、これらの炭化
物のうち最も微細で粗大化しにくいことである。
S)の80%の付加応力時における硫化水素濃度を調整
したNACE TM0177浴中での耐SSC性は確保
できないが、例えば、文献「Metallurgical Transactio
ns A, Volume 16A, May 1985,P935”Sulfide Stress Cr
acking of High Strength Modified Cr-Mo Steels”」
にも示されるように、耐SSC性の改善には0.1%程
度のV添加が有効なことに注目した。
の化学組成と炭化物が耐SSC性と靭性に及ぼす影響を
詳細に調査した結果、次のことを知見した。
って耐SSC性が低下する。これは、次の理由によるも
のと考えられる。
炭化物に比べ、単位体積当たりではマトリックスとの界
面積が広くなり、水素のトラップ量が増加して耐SSC
性が低下するものと考えられる。実際、MC型の炭化物
量が上記の範囲を外れる耐SSC性の劣る鋼の吸蔵水素
濃度は、MC型の炭化物量が上記の範囲内の鋼よりも高
いことが確認された。
場合に耐SSC性が低下する理由も上記と同様と考えら
れる。
合、MC型炭化物を増やしても粗大なM23C6 型炭化物
が多く存在すると油井用鋼に要求される靭性が確保され
ない。具体的には、製品の肉厚をt(mm)とした時、
析出している炭化物の総量に占めるM23C6 型炭化物の
割合が(200/t)質量%超であると、シャルピー衝
撃試験での遷移温度が−10℃以下の靭性が確保されな
いだけでなく、耐SSC性も確保されない。このこと
は、後述する実施例の結果を示す図1と図2からも明ら
かであり、その理由は次によるものと考えられる。
破壊の起点となって靭性と耐SSC性を低下させるが、
肉厚が20mm以上になると、加工度の減少に伴って結
晶粒径が粗大化し、この現象がより顕著になるためと考
えられる。
%に制限した上で、総炭化物中に占めるMC型炭化物の
割合を5〜45質量%、M23C6 型炭化物の割合を上記
の(200/t)質量%以下にすれば、耐SSC性と靭
性が飛躍的に向上し、規格最小降伏応力(SMYS)の
80%の付加応力時における硫化水素濃度を調整したN
ACE TM0177浴中での耐SSC性と油井用鋼に
要求される靭性が確保される。
量%で、C:0.15〜0.3%、Cr:0.2〜1.
5%、Mo:0.1〜1%、V:0.05〜0.3%、
Nb:0.003〜0.1%を必須成分として含む化学
組成を有する鋼を用いる必要がある。これは、次の理由
による。
物は、それだけ吸蔵水素濃度の増加を招いて耐SSC性
を低下させたり、粒界に析出して粒界破壊の起点となっ
て耐SSC性と靭性を低下させる。しかし、CとCrの
含有量がそれぞれ上記の上限値の0.3%と1.5%を
超えると、炭化物の総量とM23C6 型炭化物の割合がそ
れぞれ上記の上限値の4%と製品の肉厚tが20mmの
時の上限値10%を超え、Vの含有量が上記の上限値の
0.3%を超えると、MC型炭化物の割合が上記の上限
値の45%を超えるようになる。
あるが、CrやMoおよびNbも含まれ、特に、Moと
NbはVと共存しやすい。このうち、Moの共存量が多
いMC型炭化物は、M3C 型やM23C6 型の炭化物に比
べれば微細ではあるが、Moの共存量が少ないMC型炭
化物に比べて粗大で、水素をトラップする界面積が増加
して吸蔵水素濃度の増加を招き、耐SSC性を低下させ
るが、Nbを添加するとこのMoの共存量が多いMC型
炭化物の粗大化が抑制されることが判明した。
を超えると、Moの共存量が極端に多いMC型炭化物と
なって粗大化する。また、Nb含有量が上記の上限値の
0.1%超であると、焼入れ時に未固溶の粗大なMC炭
化物が増加し、たとえそのMC型炭化物量が上記の範囲
内の5〜45%であっても、要求される靭性と耐SSC
性が確保されない。
戻軟化抵抗を高める目的で高Mo化が進めれてきたが、
V、Nb添加鋼においては逆で、低Mo化した方が耐S
SC性が向上するという、全く予想外の結果が得られる
ことを意味している。
の割合およびM23C6 型炭化物の割合は、上記の化学組
成を有する鋼に、終了温度が1000℃以上の熱間加工
を施し、この熱間加工終了後、900℃以上の温度から
焼入れし、次いで550℃以上、AC1変態点以上で焼戻
した(インライン焼入れ焼戻し処理)後、さらに850
〜1000℃に再加熱して焼入れし、次いで650℃以
上、AC1変態点以下で焼戻す(オフライン焼入れ焼戻し
処理)を少なくとも1回施すという、比較的簡単な焼入
れ焼戻し熱処理を施せば確保されることも判明した。
えることで調整される。
造方法について詳細に説明する。なお、以下において、
「%」は「質量%」を意味する。
し鋼においては、析出強化に欠かすことができないが、
その総量が1.5%未満であると、YSが110ksi
以上の強度を確保することが困難になる。逆に、その総
量が4%を超えると、水素をトラップする界面積が増加
し、吸蔵水素濃度の増大を招いて耐SSC性が低下す
る。このため、炭化物の総量は、1.5〜4%と定め
た。望ましい範囲は、2〜3%である。
合:MC型炭化物は、炭化物の粗大化を防ぎ、耐SSC
性の改善に効果がある。しかし、総炭化物量中に占める
MC型炭化物の割合が5%未満では、その効果に乏し
い。逆に、その割合が45%を超えると、MC型炭化物
は微細なだけに水素をトラップする界面積が増加し、吸
蔵水素濃度の増大を招いて耐SSC性が低下する。この
ため、総炭化物量中に占めるMC型炭化物の割合は、5
〜45%と定めた。望ましい範囲は、15〜35%であ
る。
割合:M23C6 型炭化物は、粒界に析出して粒界破壊の
起点となり、靭性と耐SSC性を低下させる。そして、
その割合が、製品の肉厚をt(mm)とした時、(20
0/t)%を超えると靭性と耐SSC性の低下が著しく
なり、所望の靭性と耐SSCが確保できなくなる。この
ため、総炭化物量中に占めるM23C6 型炭化物の割合は
(200/t)%以下と定めた。望ましくは、肉厚tの
如何にかかわらず1%以下であり、低ければ低いほどよ
い。
めるMC型炭化物の割合とM23C6型炭化物の割合は、
それぞれ次に述べる方法によって求められる値である。
量W1 の試験片を、電解液(10%アセチルアセトン−
1%塩化テトラメチルアンモニウム−残部メタノール)
中に浸漬して電流密度20mA/cm2 の条件で所定の
時間電気分解する。そして、抽出終了後の試験片重量W
2 を求める一方、濾過径0.2μmのフィルターで濾過
して得られた抽出残さ(炭化物)の重量W3 を求め、こ
の重量W3 を重量(W1−W2)で除して求める。
出方法:上記の抽出残さ(炭化物)を粉砕した試料を対
象にX線回折を行い、M3C 型炭化物、MC型炭化物お
よびM23C6 型炭化物の特定の回折線の面積から、全炭
化物中のMC型炭化物とM23C6 型炭化物の質量割合と
を求める。
な元素である。しかし、その含有量が0.15%未満で
は、焼入性が不足して所望の強度(YS≧110ks
i)が得られない。逆に、その含有量が0.3%を超え
ると、炭化物の総量増加に伴ってトラップされる水素が
増加する結果、耐SSC性が低下する。このため、C含
有量は、0.15〜0.3%とした。望ましい範囲は、
0.19〜0.23%である。
させるとともに耐SSC性を向上させる元素である。し
かし、その含有量が0.2%未満では、焼入性が不足し
て所望の強度(YS≧110ksi)が得られない。逆
に、その含有量が1.5%を超えると、炭化物の総量と
炭化物総量中のM23C6 型炭化物割合が増加し、これに
伴ってトラップされる水素が増加して耐SSC性が低下
するだけでなく、所望の靭性が確保できなくなる。ま
た、硫化水素を含む環境においては、腐食速度の増加と
それに伴う吸蔵水素濃度の増加を招く。このため、Cr
含有量は、0.2〜1.5%とした。望ましい範囲は、
0.3〜0.7%である。
上させて高強度を得るとともに、焼戻軟化抵抗を高めて
耐SSC性を向上させる元素である。しかし、その含有
量が0.1%未満であると、上記の効果が得られない。
逆に、その含有量が1%を超えると、MC型炭化物の粗
大化を招いて水素のトラップ量を増加させるだけでな
く、粗大なM23C6 型炭化物が析出して耐SSC性が低
下する。このため、Mo含有量は、0.1〜1%とし
た。望ましい範囲は、0.2〜0.4%である。
素である。Vは、焼戻し時に微細なSSCの起点となり
にくいMC型炭化物として優先的に析出する。その結
果、Cを固定するので、SSCの起点となりやすいM23
C6 型炭化物の析出を防止する。しかし、その含有量が
0.05%未満では、上記の効果が得られない。一方、
その含有量が0.3%を超えると、MC型炭化物の量が
多くなりすぎて、トラップされる水素が増加して耐SS
C性が低下する。このため、Vの含有量は、0.05〜
0.3%とした。望ましい範囲は、0.08〜0.25
%である。
素で、MC炭化物中に固溶し、MC型炭化物の粗大化を
防ぎ、靭性と耐SSC性を向上させるほか、細粒化にも
大きく寄与する。しかし、その含有量が0.003%未
満では、上記の効果が得られない。一方、その含有量が
0.1%を超えると上記の効果が飽和し、逆に焼入れ時
に粗大な未固溶MC型炭化物が析出して靭性と耐SSC
性が低下する。このため、Nbの含有量は、0.003
〜0.1%とした。望ましい範囲は、0.003〜0.
03%である。
成分と含む低合金鋼であればよく、他の成分については
特に制限されない。しかし、工業的に製造するうえで
は、必要に応じて下記の任意添加成分を含むものである
ことが好ましい。
述するAlやMnなどの他の脱酸剤を用いない場合に
は、0.05%以上含有させるのがよい。また、Siに
は、脱酸作用の他に焼戻軟化抵抗を高めて耐SSC性を
向上させる作用もあり、その効果は0.1%以上で顕著
になる。しかし、0.5%を超えて含有させると、靭性
が低下する。このため、添加する場合のSi含有量は、
0.05〜0.5%とするのよい。好ましい上限は0.
3%である。
の脱酸剤を用いない場合、熱間加工性を向上させる場合
などには、少なくとも0.05%以上含有させるのがよ
い。しかし、1%を超えて含有させると靭性が低下す
る。このため、添加する場合のMn含有量は、0.05
〜1%とするのがよい。好ましい上限は0.5%であ
る。
の脱酸剤を用いない場合には、少なくとも0.005%
以上含有させるのがよい。しかし、0.1%を超えて含
有させると介在物が多くなって靱性が低下する。また、
油井管には、その管端に接続用のねじ切り加工が施され
ることが多いが、Alが多いとねじ切り部に介在物起因
の欠陥が発生しやすくなる。このため、添加する場合の
Al含有量は、0.005〜0.1%とするのがよい。
好ましい上限は0.05%である。なお、本明細書でい
うAlとは、いわゆるsol.Al(酸可溶Al)のこ
とである。
加すれば、鋼中に不純物として存在するNをTiNとし
て固定するので、焼入性向上の目的で添加される場合の
後述するBがBNになるのを防ぎ、焼入性の向上に有効
な固溶状態でBを存在させる作用がある。また、NをT
iNとして固定する以上のTiには、焼入れ時は固溶状
態で存在し、焼戻し時に炭化物などの化合物として微細
に析出して焼戻軟化抵抗を高める作用があり、これらの
効果は0.005%以上の含有量で顕著になる。しか
し、0.05%を超えて含有させると、靱性が低下す
る。このため、添加する場合のTi含有量は、0.00
5〜0.05%とするのがよい。好ましい上限は0.0
3%である。
たように、添加すれば、焼入性を向上さる作用があり、
特に厚肉材の焼入性を改善するのに有効であり、0.0
001%以上の含有量でその効果が顕著になる。しか
し、0.005%を超えて含有させると、靱性が低下す
る。このため、添加する場合のB含有量は、0.000
1〜0.005%とするのがよい。好ましい上限は0.
002%である。
加すれば、上記のTiと同様に、鋼中に不純物として存
在するNを窒化物として固定し、Bの焼入性向上効果を
十分に発揮させる作用があり、0.005%以上の含有
量でその効果が顕著になる。しかし、0.1%を超えて
含有させると、介在物が増加して靱性が低下する。この
ため、添加する場合のZr含有量は、0.005〜0.
1%とするのがよい。好ましい上限は0.03%であ
る。
れば、前述のMoと同様に、焼入性を高めて強度の向上
に寄与するとともに、焼戻軟化抵抗を高めて耐SSC性
を向上させる作用があり、これらの効果は0.1%以上
の含有量で顕著になる。しかし、その効果は1%で飽和
し、これ以上含有させるとコストが上昇するだけであ
る。このため、添加する場合のW含有量は、0.1〜1
%とするのがよい。好ましい上限は0.5%である。
加しなくてもよいが、添加すれば、鋼中に不純物として
存在するSと反応して硫化物を形成して介在物の形状を
改善し、耐SSC性を向上させる作用があり、いずれの
元素も0.0001%以上の含有量でその効果が顕著に
なる。しかし、いずれの元素も0.01%を超えて含有
させると、靱性および耐SSC性が低下するだけでな
く、鋼表面に欠陥が多発しやすくなる。このため、添加
する場合のこれら元素の含有量は、いずれも0.000
1〜0.01%とするのがよい。好ましい上限は、いず
れも0.003%である。
加または2種以上の複合添加であってもよい。また、上
記の効果は、Sの含有量によってその度合いが異なり、
脱酸が十分でない場合には、かえって耐SSC性が低下
するので、その含有量はS含有量と脱酸の程度に応じて
調整することが肝要である。
その含有量が0.025%を超えると、結晶粒界に偏析
して耐SSC性を低下させる。このため、その含有量
は、0.025%以下とするのがよい。なお、Pの含有
量は、低ければ低いほど好ましいが、過度の低減は製造
コストの上昇を招く。Pは、0.01%程度含んでも実
用上差し支えない。
避的に存在するが、その含有量が0.01%を超える
と、結晶粒界に偏析するとともに、硫化物系の介在物を
生成して耐SSC性を低下させる。このため、その含有
量は、0.01%以下とするのがよい。なお、Sの含有
量は、上記のPと同様に、低ければ低いほど好ましい
が、過度の低減は製造コストの上昇を招く。Sは、0.
002%程度含んでも実用上差し支えない。
不可避的に存在するが、その含有量が0.01%を超え
ると、靱性および焼入性が低下する。このため、その含
有量は、0.01以下とするのがよい。なお、Nの含有
量は低ければ低いほど好ましい。 O(酸素):Oは、上記のP、S、Nと同様に、鋼中に
不可避的に存在するが、その含有量が0.01%を超え
ると、靱性が低下する。このため、その含有量は0.0
1%以下とするのがよい。なお、Oの含有量も低ければ
低いほど好ましい。
用鋼は、上記の化学組成を有する低合金鋼を常法にした
がって溶製し、得られた素材鋼を1150℃以上に加熱
してから熱間加工を施して1000℃以上で加工を終了
し、引き続いて、900℃以上の温度から焼入れし、次
いで550℃以上、AC1変態点以上で焼戻した後、さら
に850〜1000℃に再加熱して焼入れし、次いで6
50℃以上、AC1変態点以下で焼戻すことで製造するこ
とができる。
ては、マンネスマン−プラグミル方式やマンネスマン−
マンドレルミル方式に代表される熱間圧延継目無製管
法、ユジーンセジェルネ法に代表される熱間押出し継目
無製管法、エルハルト−プッシュベンチ方式に代表され
る熱間押抜き継目無製管法を挙げることができる。な
お、上記の方法は、製品が鋼管以外の鋼板や棒鋼などで
も同じである。
理由について説明する。
炭化物が析出するが、このNbを含むMC型炭化物を完
全に固溶させないと、焼入れ時に粗大な未固溶MC型炭
化物が析出する。しかし、加熱温度が1150℃未満で
あると、Nbを含むMC型炭化物が完全に固溶しない。
このため、素材鋼の加熱温度は1150℃以上とした。
なお、加熱温度の上限は、1150℃以上であればよい
ので定める必要はなく、融点未満であればよい。
℃未満で終了すると、この時点で粗大なMC型炭化物が
析出する。この粗大なMC型炭化物は、その後にどのよ
うな熱処理を施しても消滅せず、所望の耐SSC性と靭
性が確保できなくなる。このため、熱間加工の終了温度
は1000℃以上とした。なお、上限温度は素材鋼の加
熱温度との関係で決まるので定める必要はない。
0℃以上で加工を終了しても、加工終了後の被加工材温
度が900℃未満になると、上記と同様に、粗大なMC
型炭化物が析出し、その後にどのような熱処理を施して
も消滅せず、所望の耐SSC性と靭性が確保できなくな
る。このため、熱間加工終了に引き続く焼入温度、すな
わち直接焼入温度は900℃以上とした。なお、加工終
了後の被加工材は、再加熱炉や保熱炉に挿入してその温
度を900℃以上に保持するようにしてもよい。その
際、再加熱炉や保熱炉には、900℃以上の状態で挿入
するのが好ましいが、900℃未満になってから挿入し
てもよい。また、その上限値は、熱間加工の終了温度の
場合と同様に、熱間加工終了温度との関係で決まるので
定める必要はない。
れ後に焼戻し処理を施すのは、この時点で微細なMC型
炭化物を析出させ、次工程の再加熱焼入れにおける加熱
時に結晶粒が粗大化するのを防ぐためである。しかし、
その焼戻温度が550℃未満であると、MC型炭化物の
析出速度は遅いので、商業的に実施可能な15分程度の
焼戻時間では十分あるいは量のMC型炭化物が析出しな
い。また、焼戻温度がAC1変態点を超えると、オーステ
ナイト相が析出し、所望の強度が確保できなくなる。こ
のため、直接焼入れ後の焼戻温度は、550℃以上、A
C1変態点以下とした。
程の焼戻し処理は、上記の焼入れ焼戻し処理で析出させ
たMC型炭化物を再固溶させることによってより微細な
MC型炭化物を析出させるために施す。しかし、その再
加熱焼入温度が850℃未満であると、MC型炭化物が
完全に再固溶しない。また、1000℃を超えて再加熱
すると、結晶粒が粗大化して靭性と耐SSC性が低下す
る。このため、再加熱焼入温度は850〜1000℃と
した。好ましい温度範囲は900〜980℃である。
後の焼戻温度が650℃未満であると、十分な量のMC
型炭化物が析出しないだけでなく、粒界にフィルム状の
M3C 型炭化物やM23C6 型炭化物が残存して靭性と耐
SSC性が低下する。また、焼戻温度がAC1変態点を超
えると、上記の焼戻し処理の場合と同様に、オーステナ
イト相が析出し、所望の強度が確保できなくなる。この
ため、再加熱焼入れ後の焼戻温度は、650℃以上、A
C1変態点以下とした。
し処理は、1回に限らず2回以上施してもよい。この場
合には、結晶粒がより微細になって靭性と耐SSC性が
より一層向上する。
10ksi以上であり、125ksi以上級や140k
si以上級も得られるが、125ksi以上級や140
ksi以上級の製品を得るには焼戻し温度を変えればよ
い。また、上記の元素に加えて任意添加元素のうちから
強度の向上に寄与する元素を添加することで所望の強度
を確保するようにしてもよ。
金鋼からなる150kg丸インゴットを準備した。次い
で、各丸インゴットは、熱間鍛造を施して断面寸法が1
50mm×150mmの圧延用素材に成形した後、実際
のマンネスマン−マンドレルミル方式による継目無製管
法を模擬し、表2に示す種々条件の熱間圧延と熱処理を
施してYSが140〜155ksi以上の厚さ20〜6
0mmの板材に仕上げた。
と、総炭化物量中に占めるMC型炭化物の割合を、それ
ぞれ前述した方法によって調べた。また、得られた各板
材の板厚中心部から、長手方向が圧延方向(L方向)
で、平行部の寸法が外径6.35mm、長さ25.4m
mのNACE TM0177 Method A に規
定される丸棒引張試験片を採取し、下記のSSC試験に
供した。
7 Method Aに規定される方法に準じた方法
で、通常は1気圧の硫化水素を飽和させるのであるが、
高強度であることから、0.05気圧の硫化水素を飽和
させた25℃の0.5%酢酸+5%食塩水溶液を用い、
この水溶液中に各板材のYSの80%の応力を負荷した
試験片を720時間浸漬保持する定荷重試験とした。
験時間720時間中に試験片が破断しなかったものを耐
SSC性が良好「○」、破断したものを耐SSC性が不
芳「×」とした。
から、長手方向が圧延方向(L方向)のJIS Z22
02に規定される4号試験片と、JIS Z2201に
規定される4号試験片を採取し、シャルピー衝撃試験に
供して破面遷移温度を調べる一方、引張試験に供して実
際のYSとTSを調べた。
試験し、延性破面率が50%となる破面遷移温度(vT
rs(℃))を求めた。
の肉厚t、炭化物の総量に占めるM23C6 型炭化物の割
合、靭性および耐SSC性との関係を、図1と図2に整
理して示した。
例の試番1、2、4、5,7〜10および12〜15
は、炭化物の総量、総炭化物量中に占めるMC型炭化物
の割合およびM23C6 型炭化物の割合がいずれも本発明
で規定する範囲内であり、靭性および耐SSC性が良好
であった。
規定する範囲内であるが、素材鋼の加熱温度、熱間加工
の終了温度および熱間加工に引き続く直接焼入温度のい
ずれかが本発明で規定する範囲を外れる比較例の試番
3、6および11は、総炭化物量は本発明で規定する範
囲内であったが総炭化物量中に占めるMC型炭化物の割
合とM23C6 型炭化物の割合が本発明で規定する範囲を
外れていて、靭性と耐SSC性が悪かった。
条件と熱処理条件は本発明で規定する範囲内であるが、
素材鋼のC、Cr、V、NbおよびMoの含有量のいず
れか1つ以上が本発明で規定する範囲を外れる比較例の
試番16〜19は、総炭化物量、総炭化物量中に占める
MC型炭化物の割合およびM23C6 型炭化物の割合のい
ずれか1つ以上が本発明で規定する範囲を外れていて、
靭性と耐SSC性が悪かった。
炭化物の総量に占めるM23C6 型炭化物の割合が(20
0/t)%超であると所望の靭性と耐SSC性は確保さ
れないが、(200/t)%以下であれば所望の靭性と
耐SSC性が確保されることがわかる。
温度を高めてYSを110ksi級や125ksi級に
したものは、靭性と耐SSC性のレベルが数段高かっ
た。また、製品の肉厚tにかかわらず、炭化物の総量に
占めるM23C6 型炭化物の割合が少ないものほど、靭性
と耐SSC性が良好であった。
食割れ性に優れたYSが110ksi以上の厚肉材用に
適した高強度油井用鋼を提供することができる。また、
この油井用鋼は、所定の化学組成を有する鋼に少なくと
も2回の焼入れ焼戻し処理を施すだけで得られるので、
比較的安価に製造することができる。
物の総量に占めるM23C6 型炭化物の割合および靭性と
の関係を示す図である。
物の総量に占めるM23C6 型炭化物の割合および耐SS
C性との関係を示す図である。
Claims (2)
- 【請求項1】少なくとも、質量%で、C:0.15〜
0.3%、Cr:0.2〜1.5%、Mo:0.1〜1
%、V:0.05〜0.3%、Nb:0.003〜0.
1%を含む低合金鋼からなり、析出している炭化物の総
量が1.5〜4質量%であり、炭化物の総量に占めるM
C型炭化物の割合が5〜45質量%、M23C6 型炭化物
の割合が製品の肉厚をt(mm)とした時(200/
t)質量%以下であることを特徴とする靭性と耐硫化物
応力腐食割れ性に優れる油井用鋼。 - 【請求項2】少なくとも、質量%で、C:0.15〜
0.3%、Cr:0.2〜1.5%、Mo:0.1〜1
%、V:0.05〜0.3%、Nb:0.003〜0.
1%を含む低合金鋼を1150℃以上に加熱した後、熱
間加工を1000℃以上で終了し、引き続いて900℃
以上の温度から焼入れし、その後550℃以上、AC1変
態点以下で焼戻した後、さらに850〜1000℃に再
加熱して焼入れし、次いで650℃以上、AC1変態点以
下で焼戻す焼入れ焼戻し処理を少なくとも1回施すこと
を特徴とする請求項1に記載の靭性と耐硫化物応力腐食
割れ性に優れる油井用鋼の製造方法。
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