JP2000239596A - フッ素樹脂被覆物及びその製造方法 - Google Patents

フッ素樹脂被覆物及びその製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 耐摩耗性、耐傷性、耐食性、耐ブリスター性
などに優れたフッ素樹脂被覆物とその製造方法を提供す
ること。 【解決手段】 基材上に1層または2層以上のフッ素樹
脂層が被覆されたフッ素樹脂被覆物において、その最外
層が、ASTM−D−3307に規定されるメルトフロ
ーレートが0.2〜10g/10分のテトラフルオロエ
チレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体
(PFA)をPFA全量中に20〜100重量%の割合
で含有するPFAからなる厚み10〜90μmのPFA
層であることを特徴とするフッ素樹脂被覆物、及びその
製造方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フッ素樹脂被覆物
とその製造方法に関し、さらに詳しくは、耐摩耗性、耐
傷性、耐食性、耐ブリスター性などに優れたフッ素樹脂
被覆物とその製造方法に関する。また、本発明は、前記
諸特性に優れたフッ素樹脂被覆物を製造するのに好適な
フッ素樹脂塗料に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、金属基材等の基材上にフッ素
樹脂を被覆したフッ素樹脂被覆物は、非粘着性の表面を
有するため、鍋、釜、フライパン、ジャー炊飯器内釜な
どの調理器具;ホットプレート、グリルパン、オートベ
ーカリー、餅つき器などの家電調理器具;オイルポット
などとして、広範な分野に応用されている(特開昭60
−234618号公報、特公平7−55182号公
報)。フッ素樹脂としては、一般に、耐熱性に優れたポ
リテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオ
ロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重
合体(PFA)などが使用されている。
【0003】フッ素樹脂被覆物は、通常、基材上にフッ
素樹脂塗料を塗布し、焼き付けて、フッ素樹脂塗膜を形
成することにより製造されている。フッ素樹脂被覆物を
鍋、釜、フライパン、ジャー炊飯器内釜などの容器形状
に成形する場合には、基材として金属基材を使用してフ
ッ素樹脂被覆物を作製し、必要に応じて円板状などの所
定の形状に打ち抜き加工した後、プレス加工などにより
所望の形状に成形加工している。予め円板状などの所定
の形状に打ち抜き加工した金属基材を用いて、フッ素樹
被覆物を作製してもよい。フッ素樹脂層は、1層または
2層以上に形成する。フッ素樹脂被覆物は、非粘着性、
耐熱性、耐食性の表面を有しており、調理食品のこびり
つきがないため、特に調理器具の分野に適している。
【0004】ところが、従来のフッ素樹脂被覆物は、耐
摩耗性や耐傷性が必ずしも充分ではなく、繰り返し使用
するうちに、摩耗したり、傷がついたりしやすいという
問題があった。その原因としては、フッ素樹脂被膜の機
械的強度や耐ストレスクラック性が充分ではないことに
あると推定される。従来、フッ素樹脂としては、塗膜へ
の加工性の観点から、比較的分子量の高いPTFEを微
小粒子分散液として塗布加工して使用するか、あるいは
比較的低分子量のPFAを比較的大きな粒径の乾式の静
電粉体塗料として使用していた。機械的強度や耐ストレ
スクラック性などを改善するためには、使用するフッ素
樹脂の分子量をさらに高めることが考えられるが、超高
分子量のPTFEや高分子量PFAは、塗装により均一
で平滑な塗膜を形成することが極めて困難である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、耐摩
耗性、耐傷性、耐食性、耐ブリスター性などに優れたフ
ッ素樹脂被覆物とその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、このような諸特性に優れたフッ素
樹脂塗膜を形成することができるフッ素樹脂塗料を提供
することにある。
【0006】本発明者らは、前記従来技術の問題点を克
服するために鋭意研究した結果、メルトフローレート
(MFR)が小さな高分子量テトラフルオロエチレン/
パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PF
A)を用いても、平均粒径が5〜40μm(大粒径)の
PFA粒子と平均粒径0.1〜0.5μm(小粒径)の
PFA粒子とを組み合わせることにより、実用性に優れ
た塗膜を容易に形成することができ、それによって、機
械的強度や耐ストレスクラック性に優れた塗膜を形成で
きることを見いだした。大粒径のPFA粒子と小粒径の
PFA粒子として、いずれも高分子量PFA粒子を使用
することができるが、小粒径のPFA粒子として従来の
MFRが大きな低分子量PFA粒子としてもよい。ま
た、粉体塗装法を採用し、平均粒径を選択するなどすれ
ば、高分子量PFA単独でも、実用性のある塗膜を形成
することが可能である。
【0007】フッ素樹脂塗膜を形成するためのフッ素樹
脂塗料としては、大粒径のPFA粒子からなる粉体でも
よいが、大粒径のPFA粒子と小粒径のPFA粒子とを
液状媒体中に分散させたディスーパンジョン形態のフッ
素樹脂塗料が塗料としての安定性と塗膜成形性に優れ、
同時にこれだけで平滑化効果があるので、特に好まし
い。このようなPFA塗膜を基材上に直接または少なく
とも1層のフッ素樹脂層を介して、最外層として形成す
ることにより、耐摩耗性と耐傷性が顕著に改善され、耐
食性や耐ブリスター性も良好なフッ素樹脂被覆物を得る
ことができる。
【0008】また、基材上に少なくとも3層のフッ素樹
脂層を形成し、中間層に、顔料や充填材などの添加材を
特定の割合で含有するフッ素樹脂層を配置することによ
り、耐摩耗性や耐傷性を高めることができる。また、該
中間層を模様や目盛り、文字などのパターン状に形成す
ることにより、フッ素樹脂被覆物に意匠性や指示機能性
などを付与することができる。本発明は、これらの知見
に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、基材上
に1層または2層以上のフッ素樹脂層が被覆されたフッ
素樹脂被覆物において、その最外層が、ASTM−D−
3307に規定されるメルトフローレートが0.2〜1
0g/10分のテトラフルオロエチレン/パーフルオロ
アルキルビニルエーテル共重合体(PFA)をPFA全
量中に20〜100重量%の割合で含有するPFAから
なる厚み10〜90μmのPFA層であることを特徴と
するフッ素樹脂被覆物が提供される。
【0010】また、本発明によれば、基材上に1層また
は2層以上のフッ素樹脂層が被覆されたフッ素樹脂被覆
物の製造方法において、該基材上に直接または少なくと
も1層のフッ素樹脂層を介して、ASTM−D−330
7に規定されるメルトフローレートが0.2〜10g/
10分のPFAをPFA全量中に20〜100重量%の
割合で含有するPFAからなるフッ素樹脂を塗布し、焼
き付けて、厚み10〜90μmのPFA層からなる最外
層を形成することを特徴とするフッ素樹脂被覆物の製造
方法が提供される。
【0011】さらに、本発明によれば、平均粒径5〜4
0μmでASTM−D−3307に規定されるメルトフ
ローレート0.2〜10g/10分のPFA粒子と平均
粒径0.1〜0.5μmでASTM−D−3307に規
定されるメルトフローレート0.2〜40g/10分の
PFA粒子とが重量比20:80〜80:20で液状媒
体中に分散されてなるフッ素樹脂塗料が提供される。
【0012】さらにまた、本発明によれば、基材上にフ
ッ素樹脂層が被覆されたフッ素樹脂被覆物において、
(1)フッ素樹脂被覆層が、基材に接するベースコート
層、少なくとも1層の中間層、及び最外層からなる3層
以上のフッ素樹脂層から形成され、かつ、(2)少なく
とも1層の中間層が、有機顔料、無機顔料、有機充填
材、及び無機充填材からなる群より選ばれる少なくとも
1種の添加材を0.5〜10重量%の割合で含有するフ
ッ素樹脂組成物から形成されていることを特徴とするフ
ッ素樹脂被覆物が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明のフッ素樹脂被覆物は、基
材上に1層または2層以上のフッ素樹脂層が被覆された
フッ素樹脂被覆物である。基材としては、アルミニウム
やアルミニウム合金などのアルミニウム系基材、磁性ま
たは非磁性ステンレス基材、あるいはアルミニウム−S
US等のこれらの複合基材などの各種金属基材を使用す
ることができる。また、基材として、セラミック基材や
ガラス基材などを用いることもできる。これらの基材の
中でも、調理器具の用途には、熱伝導性や成形加工性が
良好であることから、アルミニウム系基材が好ましい。
【0014】本発明のフッ素樹脂被覆物において、最外
層をASTM−D−3307に規定されるMFRが0.
2〜10g/10分のPFAを20〜100重量%の割
合で含有するPFAからなるPFA層とする場合には、
PFAに顔料や充填材を添加してもよいが、耐摩耗性や
耐傷性、塗膜形成性などの観点から、PFAのみである
ことが好ましい。本発明で使用するMFRが0.2〜1
0g/10分のPFAは、高分子量のPFAである。こ
のMFRが0.2g/10分未満では、コーティング加
工性が悪くなり、均一で平滑な塗膜を形成することが困
難となる。MFRが10g/10分を越えると、耐摩耗
性や耐傷性の改善効果が小さく、従来品と大差がなくな
り、充分な耐久性を得ることができない。MFRは、好
ましくは0.5〜5g/10分、より好ましくは1〜4
g/10分である。
【0015】ところで、従来、フッ素樹脂被覆物の技術
分野で使用されているPFAは、MFRが10g/10
分超過、40g/10分以下程度の比較的低分子量のも
のである。例えば、三井デュポンフロロケミカル社製の
PFA(商品名MP102)は、MFRが13g/10
分で、溶融粘度が380℃で4×104 Poiseであ
り、分子量が約50万と推定される。また、三井デュポ
ンフロロケミカル社製のPFA(商品名MP10)は、
MFRが16で、溶融粘度がMP102と同等の380
℃で4×104 Poiseであり、分子量も約50万と
推定される。同等のレベルの分子量のPFAは、ダイキ
ン工業や旭硝子からも市販され、この技術分野で実用に
供されている。これらのPFAは、球状もしくは粉砕さ
れた異形の粉体や、ディスパージョンとして供給され
る。ディスパージョンでは、分子量が約20万程度と推
定されるPFAがダイキン工業から市販されており、M
FRが16〜35で、溶融粘度が380℃で1.5×1
4 Poiseと言われている。しかしながら、これら
のPFAを用いたのでは、コーティング加工性が良好で
あるものの、得られたフッ素樹脂被覆物の耐摩耗性が不
充分となる。
【0016】これに対して、本発明では、MFRが0.
2〜10g/10分の高分子量PFAを特定の割合で使
用する。このような高分子量PFAとしては、市販品を
好適に使用することができる。市販品としては、例え
ば、デュポン社から製造販売されているPFA(商品名
MP103)が挙げられる。このMP103は、MFR
が約2程度と小さく、溶融粘度が380℃で3×105
Poiseと高く極めて高いため、加工が困難である。
そのため、このような高分子量PFAは、ジャー炊飯器
内釜や鍋、釜、フライパンなどの厨房調理器具へのコー
ティング用途には使用が困難であった。一方、このPF
Aは、分子量が約90万以上とみられ、機械的強度や耐
ストレスクラック性に優れるため、これをフッ素樹脂被
覆物の技術分野に適用することができるならば、摩耗耐
久性や耐傷性等に優れた塗膜の得られることが期待され
る。本発明者らは、このような高分子量PFAを用い
て、圧縮成形により試験片を製造したところ、従来のP
FA成形品の2倍以上の摩耗耐久性の得られることが確
認された。
【0017】しかしながら、このようなMFRが小さな
高分子量のPFAは、その粒子を液状媒体中に分散させ
たディスパージョン塗料として塗装しても、あるいは粉
体塗装しても、緻密で塗膜欠陥のない、均一な厚みの塗
膜を形成することが困難である。この問題を解決する方
法としては、例えば、高分子量PFAの平均粒径を大き
くして、粉体塗装する方法が考えられる。また、本発明
者らは、さらに検討を行った結果、平均粒径5〜40μ
mでMFRが0.2〜10g/10分のPFA粒子と、
平均粒径0.1〜0.5μmでMFRが0.2〜40g
/10分のPFA粒子とを重量比20:80〜80:2
0で含有するフッ素樹脂塗料を用いることにより、加工
性が良好で、塗膜欠陥のない塗膜を形成することがで
き、さらには、該塗膜を平滑化しやすいことを見いだし
た。平均粒径0.1〜0.5μmの小粒径のPFA粒子
としては、MFRが0.2〜10g/10分の高分子量
PFA粒子を使用してもよいが、MFRが10g/10
分超過40g/10分以下の低分子量PFA粒子を使用
することが好ましい。ここで、平均粒径5〜40μmの
大粒径のPFA粒子の配合割合が小さすぎると塗膜形成
性に劣り、大きすぎると湿式塗料(ディスパージョン)
とした場合に安定性が低下する。大粒径のPFA粒子と
小粒径のPFA粒子の配合割合は、好ましくは50:5
0〜80:20である。
【0018】本発明で使用するPFA粒子を含有するフ
ッ素樹脂塗料は、粉体塗料であってもよいが、前記2種
類のPFA粒子を液状媒体中に分散させたディスパージ
ョン(湿式塗料)として使用することが、塗膜の粒子間
隙がパッキングされやすく、平滑化も容易であるため好
ましい。また、大粒径のPFA粒子と小粒径のPFA粒
子のいずれを高分子量PFA粒子にしてもよいが、大粒
子径のPFA粒子として、MFRが小さく高分子量のP
FA粒子を使用すると、加工性がより良好となり、塗膜
欠陥の発生を抑制しやすくなるので好ましい。MFRが
小さな高分子量PFA粒子の全PFA粒子中に占める割
合は、20〜100重量%であるが、加工性と諸物性と
をバランスさせる上で、好ましくは20〜80重量%、
より好ましくは50〜80重量%とすることが望まし
い。この割合を20重量%以上とすることにより、塗膜
の耐摩耗性を顕著に改善することができる。
【0019】前記PFA粒子を含有するフッ素樹脂塗料
は、例えば、粉体静電塗装、ディスパージョンのスプレ
ーコーティング、転写、フローコート、スクリーンコー
ト他の印刷手法、スピンコート、ロールコート等などに
より塗装することができる。これらの塗装法の中でも、
ディスパージョンのスプレーコーティングは、塗膜欠陥
がなく、平滑化が容易な塗膜が得られやすいので好まし
い。
【0020】最外層をPFA塗膜(PFA層)により形
成する場合、その膜厚を10〜90μmの範囲とするこ
とが必要である。フッ素樹脂被覆物は、耐摩耗性(摩耗
耐久性)の他、実用上必要な特性として、耐食性と耐ブ
リスター性(ブリスター耐久性)を備えていることが求
められる。耐食性は、食物等を調理した際に、塗膜の微
小な欠陥等から侵入する塩や有機物により基材の金属が
腐食されるのに耐える耐久性である。ブリスター耐久性
は、繰り返し調理を行う実使用中に、塗膜間や塗膜と基
材の間にブリスターと呼ばれる剥離やフクレが発生しな
いように耐える性能である。ブリスターは、塗膜内部や
塗膜間や塗膜と基材の間にたまった水分が調理等の急速
加熱時にガスとして抜ける際に、接着力を上回って塗膜
を押し上げるために発生すると推定される。実験の結
果、最外層のPFA層の平均厚みが90μmを越える
と、ブリスター発生頻度が高くなることがわかった。摩
耗耐久性を高めるには、PFA層の膜厚は厚いほど好ま
しいが、ブリスター耐久性の観点からは薄い方が好まし
い。PFA層の膜厚が小さすぎると、塗膜を貫通するピ
ンホールなどの塗膜欠陥が生じやすくなり、耐食性が低
下する。そこで、ブリスター耐久性と耐食性とのバラン
スをとる上で、最外層の膜厚を10〜90μmとする
が、15〜60μmとすることが好ましい。
【0021】本発明のフッ素樹脂被覆物は、基材上に直
接または少なくとも1層のフッ素樹脂層を介して、平均
粒径が5〜40μmでMFRが0.2〜10g/10分
のPFA粒子と平均粒径が0.1〜0.5μmでMFR
が0.2〜40g/10分のPFA粒子とを重量比2
0:80〜80:20で含有するフッ素樹脂塗料を塗布
し、焼き付けることにより製造することができる。この
製造方法により、MFRが0.2〜10g/10分のP
FAをPFA全量中に20〜100重量%の割合で含有
するPFAからなる塗膜(PFA層)が形成される。最
外層のPFA層の厚みは、10〜90μmの範囲とす
る。焼き付け条件などは、通常のPFA塗膜の形成方法
に従って適宜定めることができる。
【0022】本発明のフッ素樹脂被覆物には、必要に応
じて、平滑化処理を施すことができる。平滑化は、大粒
径のPFA粒子と小粒径のPFA粒子とを含有する湿式
塗料のコーティングでも達成することができ、後述の加
熱加圧でも可能であり、これらを単独で行ってもよい
が、組み合わせるとさらによい。本発明のフッ素樹脂被
覆物は、最外層を前述の特定のPFA層により形成して
いるため、表面の平滑化処理を容易に行うことができ
る。この平滑化処理は、PFA層からなる最外層を形成
した後、PFAの結晶融点未満の温度に加熱しながら、
最外層の表面に直角方向に加圧することにより行う。加
圧方法は、室温以上に加熱しながら、ピンチロールやレ
ベラー等の圧着しているロール間を通過させる方法や、
異種金属の接合等に用いるホットプレス法などにより、
加熱すると同時に塗装面に直角方向に加圧する方法を挙
げることができる。ホットプレス法で平滑化処理行う場
合、通常150℃〜300℃、好ましくは220〜28
0℃の加熱下で、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガ
ス雰囲気中、常圧下もしくは大気中の1.5気圧以下の
減圧下で、通常200〜1,000kgf/cm2 、好
ましくは300〜800kgf/cm2 のプレス圧力
で、通常5〜60分間、好ましくは10〜30分間プレ
スするのが一般的である。
【0023】本発明のフッ素樹脂被覆物の表面の平滑性
は、塗装条件や平滑化処理条件などにもよるが、表面粗
度Raが約0.1μm〜約5μmの範囲に仕上げること
が可能である。諸条件の選択により、ジャー炊飯器内釜
や調理器具等の用途に好適な0.2〜3μmの範囲の表
面粗度とすることも可能である。
【0024】金属基材などの基材には、予めプライマー
を塗布して、フッ素樹脂塗膜との間の密着性を高めるこ
とができる。金属基材の場合には、化学的または電気化
学的なエッチング処理により、金属基材の表面に微細な
凹凸を形成して、フッ素樹脂塗膜との間の密着性を高め
ることが好ましい。エッチング処理を施した金属基材を
用いると、板材にフッ素樹脂塗膜を形成した後、任意の
形状に成形加工が可能であり、また、湿式塗料での塗装
や加圧による平滑化処理が行いやすい。比較的低濃度の
接着剤を配合したプライマーをエッチング処理面にコー
トするような、接着剤方式とエッチング処理などによる
物理的接着方式との混合方式も好適に用いられる。プラ
イマー処理やエッチング処理などは、常法に従って行う
ことができる。
【0025】本発明のフッ素樹脂被覆物は、所望によ
り、基材と最外層との間に1層以上のフッ素樹脂層を形
成したものであってもよい。このようなフッ素樹脂層
は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PF
A、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレ
ン(FEP)などのフッ素樹脂をそれぞれ単独で、ある
いは2種以上を組み合わせて塗装することにより形成す
ることができる。下層に使用するフッ素樹脂塗料の種類
や塗布、焼き付けなどの諸条件は、常法に従って適宜選
択することができる。下層に使用するPFAとしては、
最外層と同種のものであってもよいが、従来のMFRが
大きな低分子量PFAを使用してもよい。フッ素樹脂層
を2層以上とすることにより、ピンホールなどの塗膜欠
陥をなくし、耐摩耗性をより一層向上させることができ
る。また、下層のフッ素樹脂層を着色したり、模様など
を形成させることにより、意匠性などの機能を付加する
こともできる。下層にフッ素樹脂層を配置する場合は、
層数は、特に限定されないが、通常1〜3層程度とし、
その厚みの合計は、通常5〜100μm、好ましくは1
0〜60μm程度とする。
【0026】本発明によれば、基材上にフッ素樹脂層が
被覆されたフッ素樹脂被覆物において、フッ素樹脂被覆
層を、基材に接するベースコート層、少なくとも1層の
中間層、及び最外層からなる3層以上のフッ素樹脂層か
ら形成し、かつ、少なくとも1層の中間層として、有機
顔料、無機顔料、有機充填剤、及び無機充填剤からなる
群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を0.5〜10
重量%の割合で含有するフッ素樹脂組成物から形成した
フッ素樹脂層を配置することにより、耐摩耗性などに優
れたフッ素樹脂被覆物を得ることができる。この場合、
最外層は、必ずしも前述のPFA塗膜から形成されたも
のである必要はない。各層を形成するフッ素樹脂として
は、PTFE、PFA、FEPなどを挙げることができ
る。
【0027】中間層は、1層でもよいが、2層以上の多
層であってもよい。中間層は、ピンホール等の塗膜欠陥
の補修、耐摩耗性の補強、意匠性や指示機能性の付与に
利用することができる。ピンホール等の塗膜欠陥の補修
のためだけであれば、中間層に敢えて添加剤を含有させ
る必要はないが、耐摩耗性の補強、意匠性や指示機能性
の付与には添加剤を配合することが必須であり、中間層
の少なくとも1層には有機顔料、無機顔料、有機充填
剤、及び無機充填剤からなる群より選ばれる少なくとも
1種の添加剤を0.5〜10重量%の割合で含有させ
る。
【0028】有機の添加剤としては、例えば、ポリアミ
ドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエー
テルスルホン、ポリスルホン、ポリベンズイミダゾー
ル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテル
ケトンなどのエンジニアリングプラスチックを挙げるこ
とができる。これらの有機の添加剤は、通常、サブミク
ロン以下の微細粒子から数十ミクロンの比較的大きな粒
子状で配合する。無機の添加剤としては、例えば、チタ
ン白、チタン黄、カーボンブラック、ベンガラ、群青等
を代表とする顔料;マイカ、顔料被覆マイカ、金属薄
粉、ガラス薄粉、グラファイト、フッ化カーボン等を代
表とする鱗片状顔料類;ガラス粒子、金属粒子、金属酸
化物粒子、セラミック粒子等の補強用充填剤などが挙げ
られる。ただし、添加剤は、上記のものに限定されず、
入手可能なあらゆる添加剤を適宜使用することができ
る。添加剤の配合割合が小さすぎると、上記のような作
用効果を得ることが困難となり、大きすぎると、塗膜強
度をかえって低下させたり、層間の接着力やピンホール
等の塗膜欠陥を発生させることがあるので好ましくな
い。添加剤の配合割合は、目的に応じて適宜設定できる
が、一般には、1〜5重量%が好ましい。
【0029】中間層の形成方法は、スクリーン印刷、ス
タンプ印刷、インクジェットプリント、スプレーコー
ト、スピンコート、ロールコートなどの任意のコート法
や印刷法を適用することができる。中間層を全面コート
せずに部分コートにする場合には、スクリーン印刷、ス
タンプ印刷、インククジェットプリント等の印刷手段を
用いるのが好適である。
【0030】フッ素樹脂被覆物がホットプレート、グリ
ルパン、オートベーカリー、餅つき器などに代表される
家電調理器具、鍋、釜、フライパン等の一般的調理器
具、ジャー炊飯器内釜などの用途に使用される場合に
は、調理や洗米等において、摩滅したり、傷つきやすい
箇所に中間層を部分的に配置することができる。特に、
炊飯器内釜や鍋、釜、フライパンなどの容器形状に成形
されたフッ素樹脂被覆物の場合には、容器状成形物の内
側の底面もしくは底面と側面の下半分の位置に中間層を
形成することが好ましい。中間層は、他の部分にもあっ
てもよいが、加工度の厳しい側面中部、側面上部、フラ
ンジ部近傍には、添加剤を含有する中間層がない方が塗
膜欠陥を生じにくく、耐食性の点で好ましい場合が多
い。添加剤を含有する中間層を形成する部分の位置やデ
ザインは、フッ素樹脂被覆物の用法、用途、機能、見ば
え等に応じて適宜決定されるが、一般には、容器状成形
物に形成したときの側面の高さ中央近傍以下から底面ま
で中間層を配置するのがよい。耐久性が高いという性能
を意匠で印象づけて示せる点でも、充填剤を含有する中
間層を配置することが好ましい。
【0031】添加剤を含有するフッ素樹脂組成物からな
る中間層は、パターン状に形成することができる。パタ
ーンとしては、特に限定されず、各種模様や文字、目盛
りなどを挙げることができる。意匠性の点では、幾何学
模様や人物、風景、静物等のイラスト、絵画、写真、書
画、あるいはキャラクターデザイン、紋章等の記号、企
業他のロゴマーク、メッセージ等を中間層としてパター
ン状に形成するのが好ましい。形成場所は、どこでもよ
いが、図柄が変形を嫌う場合は、底面に形成する方が生
産上有利である。勿論、側面やフランジ近傍にもパター
ンを成形可能であるが、その場合は、プレス成形等の後
加工による変形を予め見込んだパターン形状の設計が必
要である。
【0032】目盛りは、ジャー炊飯器等で水位を示す目
盛りを印字する例や、その説明を表示する例等がある。
また、オイルポット等に表示する例として、オイルの劣
化色が分かりやすいインジケーターを明色で表示した
り、グラデーション等の錯視を利用して、オイル劣化レ
ベルが一目で判るようにすることが可能となる。
【0033】上記の充填剤を含有する中間層を有するフ
ッ素樹脂被覆物の場合、最外層を形成するフッ素樹脂の
種類は、任意であり、PTFE、PFA、FEP、ある
いはこれらの混合物でもよく、顔料や充填剤等の添加剤
材を含んでもよい。非粘着性や耐食性を重視する場合
は、最外層は、顔料等の添加剤を含まないことが好まし
い。また、最外層を、MFRが0.2〜10g/10分
のPFAをPFA全量中に20〜100重量%の割合で
含有するPFAからなる厚み10〜90μmのPFA層
とすることができ、それによって、耐久性を高めること
ができる。ベースコート層は、PTFE、PFA、FE
P、あるいはこれらの混合物から形成し、その厚みは、
通常5〜100μm、好ましくは10〜60μm程度と
する。中間層の厚みは、特に限定されず、通常5〜10
0μm、好ましくは10〜60μm程度とする。
【0034】このように、本発明のフッ素樹脂被覆物
は、耐摩耗性、耐傷性、耐食性、耐ブリスター性などに
優れ、また、中間層の配置を工夫することにより、耐摩
耗性などをさらに向上させ、さらには、意匠性や指示機
能性などを付加することができる。本発明のフッ素樹脂
被覆物は、基材にフッ素樹脂層を形成したままで、ある
いはプレス加工等により各種形状の成形物に成形するこ
とにより、調理器具の分野をはじめとして、広範な分野
に適用することができる。
【0035】
【実施例】以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明に
ついてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実
施例のみに限定されるものではない。なお、物性の測定
法法は、次の通りである。 (1)表面粗度 JIS−B−0601に規定されている中心線平均粗さ
(Ra)の測定法に従って、表面粗度を測定した。単位
は、μmである。 (2)ピンホール度 フッ素樹脂被覆物を2.5重量%塩化ナトリウム水溶液
に浸漬し、そして、フッ素樹脂被覆物の金属基材を陰極
とし、水溶液中に電極を入れて陽極とし、10Vで5秒
間通電したときピンホール部分から流れる電流(mA)
を単位面積当たりに換算して求めた。単位は、mA/c
2 である。 (3)スコッチブライト耐摩耗テスト フッ素樹脂被覆物層の表面にスコッチイブライトを接触
させた状態で回転させて、その際の摩耗量を厚み1μm
のPFA層が削られるのに要する回転数で示した。単位
は、103 回転/μmである。 (4)耐食性 おでんの素(ハウス食品工業製)25gを1リットルの
水に溶解した試験液中にテストピースを浸漬して、90
〜100℃に保温し、塗膜面に腐食が発生するまでの時
間を測定する。
【0036】[実施例1]アルミニウム基材として板厚
1.2mmのアルミニウム円板(住友軽金属工業社製、
MG−110)を用いた。まず、このアルミニウム円板
を陽極として、塩化アンモニウム水溶液中、25クーロ
ン/cm2 の電気量で電気化学的エッチング処理を行
い、アルミニウム円板表面に微細な凹凸を形成させた。
この微細な凹凸面に、充填剤を含まないPTFEディス
パージョン(ダイキン工業社製、D−1F)をスピンコ
ーティングし、次いで、水分を乾燥させた後、400℃
で10分間焼き付け、厚み25μmの塗膜(第1層)を
形成した。次に、平均粒径15μm、メルトフローレー
ト1.6g/10分のPFA粉体(デュポン社製、MP
−103)33.3重量%を、水34.8重量%、フッ
素系界面活性剤(ダイキン工業製ユニダイン、DS−4
01)1.0重量%、及び炭化水素系界面活性剤(日本
油脂製ノニオン K−204)0.5重量%を混合して
なる液状媒体中に分散させ、これに、平均粒径0.4μ
m、メルトフローレート約25g/10分のPFA球状
粒子47重量%、界面活性剤6重量%、水47重量%か
らなるPFA分散液(ダイキン工業社製、AD−2C
R)30.4重量%を加え充分に混合してフッ素樹脂塗
料を調製した。平均粒径15μmのPFA粒子と平均粒
径0.4μmのPFA粒子の重量比は、70:30であ
った。前記第1層の上に、このフッ素樹脂塗料をスピン
コーティングし、次いで、水分を乾燥させた後、390
℃で30分間焼き付け、厚み15μmの塗膜(第2層)
を形成した。結果を表1に示す。
【0037】[比較例1]実施例1において、第2層を
形成するフッ素樹脂塗料として、2種類のPFA粒子を
平均粒径13μm、メルトフローレート13g/10分
のPFA粒子に置き換えたものを使用したこと以外は、
実施例1と同様にして、フッ素樹脂被覆物を作製した。
結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】表1に示すようにPFA粒子として、MF
Rが大きいMP−102を使用したもの(比較例1)に
比べ、MFRが小さなMP−103を使用したもの(実
施例1)は、耐摩耗性が約2倍に改善されていることが
わかる。
【0040】[実施例2]実施例1で得られたフッ素樹
脂被覆物の最外層(第2層)の表面粗度Raは、2.3
〜2.5μmであった。このフッ素樹脂被覆物の上面
に、表面粗度Raが1.0μmのSUS板を重ね、27
0℃の加熱下、大気中0.5気圧の減圧下でプレス圧力
500kgf/cm2 で20分間ホットプレスを実施し
たところ、表面粗度Raが1.2〜1.5μmで平滑性
が改善された表面を得た。
【0041】[実施例3]アルミニウム基材として板厚
1.2mmのアルミニウム円板(住友軽金属工業製、M
G−110)を用いた。まず、このアルミニウム円板を
陽極として、塩化アンモニウム水溶液中、25クーロン
/cm2 の電気量で電気化学的エッチング処理を行い、
アルミニウム円板表面に微細な凹凸を形成させた。平均
粒径15μm、メルトフローレートが1.6g/10分
のPFA粉体(デュポン社製、MP−103)33.3
重量%を、水34.8重量%、フッ素系界面活性剤(ダ
イキン工業製ユニダイン DS−401)1.0重量
%、及び炭化水素系界面活性剤(日本油脂製ノニオン
K−204)0.5重量%を混合してなる液状媒体中に
分散させ、これに、平均粒径0.4μm、メルトフロー
レート約25g/10分のPFA球状粒子47重量%、
界面活性剤6重量%、水47重量%からなるPFA分散
液(ダイキン工業社製、AD−2CR)30.4重量%
を加えて充分に混合してフッ素樹脂塗料を調製した。平
均粒径15μmのPFA粒子と平均粒径0.4μmのP
FA粒子の重量比は、70:30であった。このフッ素
樹脂塗料を前記のアルミニウム円板の微細な凹凸面にス
ピンコーティングし、水分を乾燥させた後、390℃で
30分間焼き付けて、厚み25μm塗膜を形成した。こ
の塗膜を形成したサンプルを鍋形状にプレス成形して、
耐食性評価を行った。その結果、90時間の耐食試験
で、ほとんど腐食は見られず実用に供し得るものが得ら
れた。
【0042】[比較例2]実施例3において、2種類の
PFA粒子を平均粒径13μm、メルトフローレート1
3g/10分のPFA粒子(MP102)に置き換えた
こと以外は、実施例3と同様にフッ素樹脂被覆物を作製
し、同様に評価した。その結果、90時間の耐食試験
で、ほとんど腐食は見られず実用に供し得るものが得ら
れた。すなわち、比較例2との対比で、実施例3のフッ
素樹被覆物により、従来品に匹敵する耐食性が達成でき
たことが分かる。
【0043】[実施例4]アルミニウム基材として板厚
1.2mm、直径360mmのアルミニウム円板(住友
軽金属工業社製、MG−110)を用いた。まず、この
アルミニウム円板を陽極として、塩化アンモニウム水溶
液中、25クーロン/cm2 の電気量で電気化学的エッ
チング処理を行い、アルミニウム円板表面に微細な凹凸
を形成させた。この微細な凹凸面に、充填剤を含まない
PTFEディスパージョン(ダイキン工業社製、D−1
F)をスピンコーティングし、水分を乾燥させた後、4
00℃で10分間焼き付け、厚み25μmの塗膜(第1
層)を形成した。PFA球状粒子47重量%、界面活性
剤6重量%、水47重量%からなるPFA分散液(ダイ
キン工業社製、D−2CR)25.4重量%に、PFA
粉体(デュポン社製、MP−103)を28.1重量
%、顔料被覆マイカ(メルクジャパン製、IRIODI
N503)4.4重量%、界面活性剤(ダイキン工業製
ユニダイン、DS−401;及び三洋化成製オクタポー
ル80)42.1重量%を混合して、充填剤を含有する
フッ素樹脂塗料を調製した。このフッ素樹脂塗料を前記
の第1層の上にスクリーン印刷で円板の中央から直径1
80mmの範囲内に塗装した後、390℃で15分間焼
き付け、厚み5μmの塗膜(第2層)を形成した。平均
粒径15μm、メルトフローレートが1.6g/10分
のPFA粉体(デュポン社製、MP−103)33.3
重量%を、水34.8重量%、フッ素系界面活性剤(ダ
イキン工業製ユニダイン DS−401)1.0重量
%、及び炭化水素系界面活性剤(日本油脂製ノニオン
K−204)0.5重量%を混合してなる液状媒体中に
分散させ、これに平均粒径0.4μm、メルトフローレ
ート約25g/10分のPFA球状粒子47重量%、界
面活性剤6重量%、水47重量%からなるPFA分散液
(ダイキン工業社製、AD−2CR)30.4重量%を
加え充分に混合してフッ素樹脂塗料を調製した。平均粒
径15μmのPFA粒子と平均粒径0.4μmのPFA
粒子の重量比は、70:30であった。このフッ素樹脂
塗料を前記第2層の上にスピンコーティングし、水分を
乾燥させた後、390℃で30分間焼き付け、厚み15
μmの塗膜(第3層)を形成した。こうして得られたフ
ッ素樹脂被覆物のスコッチブライト耐摩耗テストで、ア
ルミニウムの下地が見えるまでに必要な回転数を調査し
た。結果を表2に示す。なお、表2には、比較例1及び
実施例1で得られたフッ素樹脂被覆物についても、この
測定法による評価結果を示す。
【0044】
【表2】
【0045】また、実施例4のフッ素樹脂被覆物を鍋形
状にプレス成形することにより、底面部全体が顔料被覆
マイカを含む第2層目のフッ素樹脂層(中間層)で覆わ
れ、底面部と側面部の色調が異なるという従来品にない
特徴的な外観が得られた。
【0046】[実施例5]実施例4において、第2層目
のフッ素樹脂塗料を用いてスクリーン印刷により円板の
中央から直径200mmの範囲内にあらかじめ設計され
た規定の位置に目盛り、文字を塗装し、390℃で15
分間焼き付けし、次いで、第3層目のフッ素樹脂被覆を
施したこと以外は、実施例4と同様にしてフッ素樹脂被
覆物を作製した。得られたフッ素樹脂被覆物を天ぷら鍋
にプレス成形した。この天ぷら鍋を使用すると、油の汚
れ具合により、文字の見え方が変わり、中間層の目盛り
や文字が油汚れインジケーターの役割を果たすことがわ
かった。
【0047】
【発明の効果】本発明によれば、耐摩耗性、耐傷性、耐
食性、耐ブリスター性などに優れたフッ素樹脂被覆物と
その製造方法が提供される。また、本発明によれば、こ
のような諸特性に優れたフッ素樹脂塗膜を形成すること
ができるフッ素樹脂塗料が提供される。本発明のフッ素
樹脂被覆物は、鍋、釜、フライパン、ジャー炊飯器内釜
などの調理器具;ホットプレート、グリルパン、オート
ベーカリー、餅つき器などの家電調理器具;オイルポッ
トなどとして、広範な分野に適用することができる。
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成12年4月6日(2000.4.6)
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正内容】
【書類名】 明細書
【発明の名称】 フッ素樹脂被覆物及びその製造方法
【特許請求の範囲】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フッ素樹脂被覆物
とその製造方法に関し、さらに詳しくは、耐摩耗性、耐
傷性、耐食性、耐ブリスター性などに優れたフッ素樹脂
被覆物とその製造方法に関する。また、本発明は、前記
諸特性に優れたフッ素樹脂被覆物を製造するのに好適な
フッ素樹脂塗料に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、金属基材等の基材上にフッ素
樹脂を被覆したフッ素樹脂被覆物は、非粘着性の表面を
有するため、鍋、釜、フライパン、ジャー炊飯器内釜な
どの調理器具;ホットプレート、グリルパン、オートベ
ーカリー、餅つき器などの家電調理器具;オイルポット
などとして、広範な分野に応用されている(特開昭60
−234618号公報、特公平7−55182号公
報)。フッ素樹脂としては、一般に、耐熱性に優れたポ
リテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオ
ロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重
合体(PFA)などが使用されている。
【0003】フッ素樹脂被覆物は、通常、基材上にフッ
素樹脂塗料を塗布し、焼き付けて、フッ素樹脂塗膜を形
成することにより製造されている。フッ素樹脂被覆物を
鍋、釜、フライパン、ジャー炊飯器内釜などの容器形状
に成形する場合には、基材として金属基材を使用してフ
ッ素樹脂被覆物を作製し、必要に応じて円板状などの所
定の形状に打ち抜き加工した後、プレス加工などにより
所望の形状に成形加工している。予め円板状などの所定
の形状に打ち抜き加工した金属基材を用いて、フッ素樹
被覆物を作製してもよい。フッ素樹脂層は、1層または
2層以上に形成する。フッ素樹脂被覆物は、非粘着性、
耐熱性、耐食性の表面を有しており、調理食品のこびり
つきがないため、特に調理器具の分野に適している。
【0004】ところが、従来のフッ素樹脂被覆物は、耐
摩耗性や耐傷性が必ずしも充分ではなく、繰り返し使用
するうちに、摩耗したり、傷がついたりしやすいという
問題があった。その原因としては、フッ素樹脂被膜の機
械的強度や耐ストレスクラック性が充分ではないことに
あると推定される。従来、フッ素樹脂としては、塗膜へ
の加工性の観点から、比較的分子量の高いPTFEを微
小粒子分散液として塗布加工して使用するか、あるいは
比較的低分子量のPFAを比較的大きな粒径の乾式の静
電粉体塗料として使用していた。機械的強度や耐ストレ
スクラック性などを改善するためには、使用するフッ素
樹脂の分子量をさらに高めることが考えられるが、超高
分子量のPTFEや高分子量PFAは、塗装により均一
で平滑な塗膜を形成することが極めて困難である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、耐摩
耗性、耐傷性、耐食性、耐ブリスター性などに優れたフ
ッ素樹脂被覆物とその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、このような諸特性に優れたフッ素
樹脂塗膜を形成することができるフッ素樹脂塗料を提供
することにある。
【0006】本発明者らは、前記従来技術の問題点を克
服するために鋭意研究した結果、メルトフローレート
(MFR)が小さな高分子量テトラフルオロエチレン/
パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PF
A)を用いても、平均粒径が5〜40μm(大粒径)の
PFA粒子と平均粒径0.1〜0.5μm(小粒径)の
PFA粒子とを組み合わせることにより、実用性に優れ
た塗膜を容易に形成することができ、それによって、機
械的強度や耐ストレスクラック性に優れた塗膜を形成で
きることを見いだした。大粒径のPFA粒子と小粒径の
PFA粒子として、いずれも高分子量PFA粒子を使用
することができるが、小粒径のPFA粒子として従来の
MFRが大きな低分子量PFA粒子としてもよい
【0007】フッ素樹脂塗膜を形成するためのフッ素樹
脂塗料としては、大粒径のPFA粒子と小粒径のPFA
粒子とを液状媒体中に分散させたディスーパンジョン形
態のフッ素樹脂塗料が塗料としての安定性と塗膜成形性
に優れ、同時にこれだけで平滑化効果がある。このよう
なPFA塗膜を基材上に直接または少なくとも1層のフ
ッ素樹脂層を介して、最外層として形成することによ
り、耐摩耗性と耐傷性が顕著に改善され、耐食性や耐ブ
リスター性も良好なフッ素樹脂被覆物を得ることができ
る。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至っ
たものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、基材上
に1層または2層以上のフッ素樹脂層が被覆されたフッ
素樹脂被覆物において、その最外層が、平均粒径5〜4
0μmのテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキ
ルビニルエーテル共重合体(PFA)粒子と平均粒径
0.1〜0.5μmのPFA粒子とが重量比20:80
〜80:20で液状媒体中に分散されたフッ素樹脂塗料
を用いて形成された、ASTM−D−3307に規定さ
れるメルトフローレートが0.2〜10g/10分の
FAをPFA全量中に20〜100重量%の割合で含有
するPFAからなる厚み10〜90μmのPFA層であ
ることを特徴とするフッ素樹脂被覆物が提供される。
【0009】また、本発明によれば、基材上に1層また
は2層以上のフッ素樹脂層が被覆されたフッ素樹脂被覆
物の製造方法において、該基材上に直接または少なくと
も1層のフッ素樹脂層を介して、平均粒径5〜40μm
のPFA粒子と平均粒径0.1〜0.5μmのPFA粒
子とが液状媒体中に分散された、ASTM−D−330
7に規定されるメルトフローレートが0.2〜10g/
10分のPFAをPFA全量中に20〜100重量%の
割合で含有するPFAからなるフッ素樹脂塗料を塗布
し、焼き付けて、厚み10〜90μmのPFA層からな
る最外層を形成することを特徴とするフッ素樹脂被覆物
の製造方法が提供される。
【0010】さらに、本発明によれば、平均粒径5〜4
0μmでASTM−D−3307に規定されるメルトフ
ローレート0.2〜10g/10分のPFA粒子と平均
粒径0.1〜0.5μmでASTM−D−3307に規
定されるメルトフローレート0.2〜40g/10分の
PFA粒子とが重量比20:80〜80:20で液状媒
体中に分散されてなるフッ素樹脂塗料が提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明のフッ素樹脂被覆物は、基
材上に1層または2層以上のフッ素樹脂層が被覆された
フッ素樹脂被覆物である。基材としては、アルミニウム
やアルミニウム合金などのアルミニウム系基材、磁性ま
たは非磁性ステンレス基材、あるいはアルミニウム−S
US等のこれらの複合基材などの各種金属基材を使用す
ることができる。また、基材として、セラミック基材や
ガラス基材などを用いることもできる。これらの基材の
中でも、調理器具の用途には、熱伝導性や成形加工性が
良好であることから、アルミニウム系基材が好ましい。
【0012】本発明のフッ素樹脂被覆物において、最外
層をASTM−D−3307に規定されるMFRが0.
2〜10g/10分のPFAを20〜100重量%の割
合で含有するPFAからなるPFA層とする場合には、
PFAに顔料や充填材を添加してもよいが、耐摩耗性や
耐傷性、塗膜形成性などの観点から、PFAのみである
ことが好ましい。本発明で使用するMFRが0.2〜1
0g/10分のPFAは、高分子量のPFAである。こ
のMFRが0.2g/10分未満では、コーティング加
工性が悪くなり、均一で平滑な塗膜を形成することが困
難となる。MFRが10g/10分を越えると、耐摩耗
性や耐傷性の改善効果が小さく、従来品と大差がなくな
り、充分な耐久性を得ることができない。MFRは、好
ましくは0.5〜5g/10分、より好ましくは1〜4
g/10分である。
【0013】ところで、従来、フッ素樹脂被覆物の技術
分野で使用されているPFAは、MFRが10g/10
分超過、40g/10分以下程度の比較的低分子量のも
のである。例えば、三井デュポンフロロケミカル社製の
PFA(商品名MP102)は、MFRが13g/10
分で、溶融粘度が380℃で4×104 Poiseであ
り、分子量が約50万と推定される。また、三井デュポ
ンフロロケミカル社製のPFA(商品名MP10)は、
MFRが16で、溶融粘度がMP102と同等の380
℃で4×104 Poiseであり、分子量も約50万と
推定される。同等のレベルの分子量のPFAは、ダイキ
ン工業や旭硝子からも市販され、この技術分野で実用に
供されている。これらのPFAは、球状もしくは粉砕さ
れた異形の粉体や、ディスパージョンとして供給され
る。ディスパージョンでは、分子量が約20万程度と推
定されるPFAがダイキン工業から市販されており、M
FRが16〜35で、溶融粘度が380℃で1.5×1
4 Poiseと言われている。しかしながら、これら
のPFAを用いたのでは、コーティング加工性が良好で
あるものの、得られたフッ素樹脂被覆物の耐摩耗性が不
充分となる。
【0014】これに対して、本発明では、MFRが0.
2〜10g/10分の高分子量PFAを特定の割合で使
用する。このような高分子量PFAとしては、市販品を
好適に使用することができる。市販品としては、例え
ば、デュポン社から製造販売されているPFA(商品名
MP103)が挙げられる。このMP103は、MFR
が約2程度と小さく、溶融粘度が380℃で3×105
Poiseと高く極めて高いため、加工が困難である。
そのため、このような高分子量PFAは、ジャー炊飯器
内釜や鍋、釜、フライパンなどの厨房調理器具へのコー
ティング用途には使用が困難であった。一方、このPF
Aは、分子量が約90万以上とみられ、機械的強度や耐
ストレスクラック性に優れるため、これをフッ素樹脂被
覆物の技術分野に適用することができるならば、摩耗耐
久性や耐傷性等に優れた塗膜の得られることが期待され
る。本発明者らは、このような高分子量PFAを用い
て、圧縮成形により試験片を製造したところ、従来のP
FA成形品の2倍以上の摩耗耐久性の得られることが確
認された。
【0015】しかしながら、このようなMFRが小さな
高分子量のPFAは、その粒子を液状媒体中に分散させ
たディスパージョン塗料として塗装しても、あるいは粉
体塗装しても、緻密で塗膜欠陥のない、均一な厚みの塗
膜を形成することが困難である。この問題を解決する方
法としては、例えば、高分子量PFAの平均粒径を大き
くして、粉体塗装する方法が考えられる。また、本発明
者らは、さらに検討を行った結果、平均粒径5〜40μ
mでMFRが0.2〜10g/10分のPFA粒子と、
平均粒径0.1〜0.5μmでMFRが0.2〜40g
/10分のPFA粒子とを重量比20:80〜80:2
0で含有するフッ素樹脂塗料を用いることにより、加工
性が良好で、塗膜欠陥のない塗膜を形成することがで
き、さらには、該塗膜を平滑化しやすいことを見いだし
た。平均粒径0.1〜0.5μmの小粒径のPFA粒子
としては、MFRが0.2〜10g/10分の高分子量
PFA粒子を使用してもよいが、MFRが10g/10
分超過40g/10分以下の低分子量PFA粒子を使用
することが好ましい。ここで、平均粒径5〜40μmの
大粒径のPFA粒子の配合割合が小さすぎると塗膜形成
性に劣り、大きすぎると湿式塗料(ディスパージョン)
とした場合に安定性が低下する。大粒径のPFA粒子と
小粒径のPFA粒子の配合割合は、好ましくは50:5
0〜80:20である。
【0016】本発明で使用するPFA粒子を含有するフ
ッ素樹脂塗料は、前記2種類のPFA粒子を液状媒体中
に分散させたディスパージョン(湿式塗料)として使用
することが、塗膜の粒子間隙がパッキングされやすく、
平滑化も容易であるため好ましい。また、大粒径のPF
A粒子と小粒径のPFA粒子のいずれを高分子量PFA
粒子にしてもよいが、大粒子径のPFA粒子として、M
FRが小さく高分子量のPFA粒子を使用すると、加工
性がより良好となり、塗膜欠陥の発生を抑制しやすくな
るので好ましい。MFRが小さな高分子量PFA粒子の
全PFA粒子中に占める割合は、20〜100重量%で
あるが、加工性と諸物性とをバランスさせる上で、好ま
しくは20〜80重量%、より好ましくは50〜80重
量%とすることが望ましい。この割合を20重量%以上
とすることにより、塗膜の耐摩耗性を顕著に改善するこ
とができる。
【0017】前記PFA粒子を含有するフッ素樹脂塗料
は、例えば、ディスパージョンのスプレーコーティン
グ、転写、フローコート、スクリーンコート他の印刷手
法、スピンコート、ロールコート等などにより塗装する
ことができる。これらの塗装法の中でも、ディスパージ
ョンのスプレーコーティングは、塗膜欠陥がなく、平滑
化が容易な塗膜が得られやすいので好ましい。
【0018】最外層をPFA塗膜(PFA層)により形
成する場合、その膜厚を10〜90μmの範囲とするこ
とが必要である。フッ素樹脂被覆物は、耐摩耗性(摩耗
耐久性)の他、実用上必要な特性として、耐食性と耐ブ
リスター性(ブリスター耐久性)を備えていることが求
められる。耐食性は、食物等を調理した際に、塗膜の微
小な欠陥等から侵入する塩や有機物により基材の金属が
腐食されるのに耐える耐久性である。ブリスター耐久性
は、繰り返し調理を行う実使用中に、塗膜間や塗膜と基
材の間にブリスターと呼ばれる剥離やフクレが発生しな
いように耐える性能である。ブリスターは、塗膜内部や
塗膜間や塗膜と基材の間にたまった水分が調理等の急速
加熱時にガスとして抜ける際に、接着力を上回って塗膜
を押し上げるために発生すると推定される。実験の結
果、最外層のPFA層の平均厚みが90μmを越える
と、ブリスター発生頻度が高くなることがわかった。摩
耗耐久性を高めるには、PFA層の膜厚は厚いほど好ま
しいが、ブリスター耐久性の観点からは薄い方が好まし
い。PFA層の膜厚が小さすぎると、塗膜を貫通するピ
ンホールなどの塗膜欠陥が生じやすくなり、耐食性が低
下する。そこで、ブリスター耐久性と耐食性とのバラン
スをとる上で、最外層の膜厚を10〜90μmとする
が、15〜60μmとすることが好ましい。
【0019】本発明のフッ素樹脂被覆物は、基材上に直
接または少なくとも1層のフッ素樹脂層を介して、平均
粒径が5〜40μmでMFRが0.2〜10g/10分
のPFA粒子と平均粒径が0.1〜0.5μmでMFR
が0.2〜40g/10分のPFA粒子とを重量比2
0:80〜80:20で含有するフッ素樹脂塗料を塗布
し、焼き付けることにより製造することができる。この
製造方法により、MFRが0.2〜10g/10分のP
FAをPFA全量中に20〜100重量%の割合で含有
するPFAからなる塗膜(PFA層)が形成される。最
外層のPFA層の厚みは、10〜90μmの範囲とす
る。焼き付け条件などは、通常のPFA塗膜の形成方法
に従って適宜定めることができる。
【0020】本発明のフッ素樹脂被覆物には、必要に応
じて、平滑化処理を施すことができる。平滑化は、大粒
径のPFA粒子と小粒径のPFA粒子とを含有する湿式
塗料のコーティングでも達成することができ、後述の加
熱加圧でも可能であり、これらを単独で行ってもよい
が、組み合わせるとさらによい。本発明のフッ素樹脂被
覆物は、最外層を前述の特定のPFA層により形成して
いるため、表面の平滑化処理を容易に行うことができ
る。この平滑化処理は、PFA層からなる最外層を形成
した後、PFAの結晶融点未満の温度に加熱しながら、
最外層の表面に直角方向に加圧することにより行う。加
圧方法は、室温以上に加熱しながら、ピンチロールやレ
ベラー等の圧着しているロール間を通過させる方法や、
異種金属の接合等に用いるホットプレス法などにより、
加熱すると同時に塗装面に直角方向に加圧する方法を挙
げることができる。ホットプレス法で平滑化処理行う場
合、通常150℃〜300℃、好ましくは220〜28
0℃の加熱下で、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガ
ス雰囲気中、常圧下もしくは大気中の1.5気圧以下の
減圧下で、通常200〜1,000kgf/cm2 、好
ましくは300〜800kgf/cm2 のプレス圧力
で、通常5〜60分間、好ましくは10〜30分間プレ
スするのが一般的である。
【0021】本発明のフッ素樹脂被覆物の表面の平滑性
は、塗装条件や平滑化処理条件などにもよるが、表面粗
度Raが約0.1μm〜約5μmの範囲に仕上げること
が可能である。諸条件の選択により、ジャー炊飯器内釜
や調理器具等の用途に好適な0.2〜3μmの範囲の表
面粗度とすることも可能である。
【0022】金属基材などの基材には、予めプライマー
を塗布して、フッ素樹脂塗膜との間の密着性を高めるこ
とができる。金属基材の場合には、化学的または電気化
学的なエッチング処理により、金属基材の表面に微細な
凹凸を形成して、フッ素樹脂塗膜との間の密着性を高め
ることが好ましい。エッチング処理を施した金属基材を
用いると、板材にフッ素樹脂塗膜を形成した後、任意の
形状に成形加工が可能であり、また、湿式塗料での塗装
や加圧による平滑化処理が行いやすい。比較的低濃度の
接着剤を配合したプライマーをエッチング処理面にコー
トするような、接着剤方式とエッチング処理などによる
物理的接着方式との混合方式も好適に用いられる。プラ
イマー処理やエッチング処理などは、常法に従って行う
ことができる。
【0023】本発明のフッ素樹脂被覆物は、所望によ
り、基材と最外層との間に1層以上のフッ素樹脂層を形
成したものであってもよい。このようなフッ素樹脂層
は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PF
A、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレ
ン(FEP)などのフッ素樹脂をそれぞれ単独で、ある
いは2種以上を組み合わせて塗装することにより形成す
ることができる。下層に使用するフッ素樹脂塗料の種類
や塗布、焼き付けなどの諸条件は、常法に従って適宜選
択することができる。下層に使用するPFAとしては、
最外層と同種のものであってもよいが、従来のMFRが
大きな低分子量PFAを使用してもよい。フッ素樹脂層
を2層以上とすることにより、ピンホールなどの塗膜欠
陥をなくし、耐摩耗性をより一層向上させることができ
る。また、下層のフッ素樹脂層を着色したり、模様など
を形成させることにより、意匠性などの機能を付加する
こともできる。下層にフッ素樹脂層を配置する場合は、
層数は、特に限定されないが、通常1〜3層程度とし、
その厚みの合計は、通常5〜100μm、好ましくは1
0〜60μm程度とする。
【0024】このように、本発明のフッ素樹脂被覆物
は、耐摩耗性、耐傷性、耐食性、耐ブリスター性などに
れる。本発明のフッ素樹脂被覆物は、基材にフッ素樹
脂層を形成したままで、あるいはプレス加工等により各
種形状の成形物に成形することにより、調理器具の分野
をはじめとして、広範な分野に適用することができる。
【0025】
【実施例】以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明に
ついてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実
施例のみに限定されるものではない。なお、物性の測定
法法は、次の通りである。 (1)表面粗度 JIS−B−0601に規定されている中心線平均粗さ
(Ra)の測定法に従って、表面粗度を測定した。単位
は、μmである。 (2)ピンホール度 フッ素樹脂被覆物を2.5重量%塩化ナトリウム水溶液
に浸漬し、そして、フッ素樹脂被覆物の金属基材を陰極
とし、水溶液中に電極を入れて陽極とし、10Vで5秒
間通電したときピンホール部分から流れる電流(mA)
を単位面積当たりに換算して求めた。単位は、mA/c
2 である。 (3)スコッチブライト耐摩耗テスト フッ素樹脂被覆物層の表面にスコッチイブライトを接触
させた状態で回転させて、その際の摩耗量を厚み1μm
のPFA層が削られるのに要する回転数で示した。単位
は、103 回転/μmである。 (4)耐食性 おでんの素(ハウス食品工業製)25gを1リットルの
水に溶解した試験液中にテストピースを浸漬して、90
〜100℃に保温し、塗膜面に腐食が発生するまでの時
間を測定する。
【0026】[実施例1]アルミニウム基材として板厚
1.2mmのアルミニウム円板(住友軽金属工業社製、
MG−110)を用いた。まず、このアルミニウム円板
を陽極として、塩化アンモニウム水溶液中、25クーロ
ン/cm2 の電気量で電気化学的エッチング処理を行
い、アルミニウム円板表面に微細な凹凸を形成させた。
この微細な凹凸面に、充填剤を含まないPTFEディス
パージョン(ダイキン工業社製、D−1F)をスピンコ
ーティングし、次いで、水分を乾燥させた後、400℃
で10分間焼き付け、厚み25μmの塗膜(第1層)を
形成した。
【0027】次に、平均粒径15μm、メルトフローレ
ート1.6g/10分のPFA粉体(デュポン社製、M
P−103)33.3重量%を、水34.8重量%、フ
ッ素系界面活性剤(ダイキン工業製ユニダイン、DS−
401)1.0重量%、及び炭化水素系界面活性剤(日
本油脂製ノニオン K−204)0.5重量%を混合し
てなる液状媒体中に分散させ、これに、平均粒径0.4
μm、メルトフローレート約25g/10分のPFA球
状粒子47重量%、界面活性剤6重量%、水47重量%
からなるPFA分散液(ダイキン工業社製、AD−2C
R)30.4重量%を加え充分に混合してフッ素樹脂塗
料を調製した。平均粒径15μmのPFA粒子と平均粒
径0.4μmのPFA粒子の重量比は、70:30であ
った。前記第1層の上に、このフッ素樹脂塗料をスピン
コーティングし、次いで、水分を乾燥させた後、390
℃で30分間焼き付け、厚み15μmの塗膜(第2層)
を形成した。結果を表1に示す。
【0028】[比較例1]実施例1において、第2層を
形成するフッ素樹脂塗料として、2種類のPFA粒子を
平均粒径13μm、メルトフローレート13g/10分
のPFA粒子に置き換えたものを使用したこと以外は、
実施例1と同様にして、フッ素樹脂被覆物を作製した。
結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】表1に示すようにPFA粒子として、MF
Rが大きいMP−102を使用したもの(比較例1)に
比べ、MFRが小さなMP−103を使用したもの(実
施例1)は、耐摩耗性が約2倍に改善されていることが
わかる。
【0031】[実施例2]実施例1で得られたフッ素樹
脂被覆物の最外層(第2層)の表面粗度Raは、2.3
〜2.5μmであった。このフッ素樹脂被覆物の上面
に、表面粗度Raが1.0μmのSUS板を重ね、27
0℃の加熱下、大気中0.5気圧の減圧下でプレス圧力
500kgf/cm2 で20分間ホットプレスを実施し
たところ、表面粗度Raが1.2〜1.5μmで平滑性
が改善された表面を得た。
【0032】[実施例3]アルミニウム基材として板厚
1.2mmのアルミニウム円板(住友軽金属工業製、M
G−110)を用いた。まず、このアルミニウム円板を
陽極として、塩化アンモニウム水溶液中、25クーロン
/cm2 の電気量で電気化学的エッチング処理を行い、
アルミニウム円板表面に微細な凹凸を形成させた。平均
粒径15μm、メルトフローレートが1.6g/10分
のPFA粉体(デュポン社製、MP−103)33.3
重量%を、水34.8重量%、フッ素系界面活性剤(ダ
イキン工業製ユニダイン DS−401)1.0重量
%、及び炭化水素系界面活性剤(日本油脂製ノニオン
K−204)0.5重量%を混合してなる液状媒体中に
分散させ、これに、平均粒径0.4μm、メルトフロー
レート約25g/10分のPFA球状粒子47重量%、
界面活性剤6重量%、水47重量%からなるPFA分散
液(ダイキン工業社製、AD−2CR)30.4重量%
を加えて充分に混合してフッ素樹脂塗料を調製した。平
均粒径15μmのPFA粒子と平均粒径0.4μmのP
FA粒子の重量比は、70:30であった。
【0033】このフッ素樹脂塗料を前記のアルミニウム
円板の微細な凹凸面にスピンコーティングし、水分を乾
燥させた後、390℃で30分間焼き付けて、厚み25
μm塗膜を形成した。この塗膜を形成したサンプルを鍋
形状にプレス成形して、耐食性評価を行った。その結
果、90時間の耐食試験で、ほとんど腐食は見られず実
用に供し得るものが得られた。
【0034】[比較例2]実施例3において、2種類の
PFA粒子を平均粒径13μm、メルトフローレート1
3g/10分のPFA粒子(MP102)に置き換えた
こと以外は、実施例3と同様にフッ素樹脂被覆物を作製
し、同様に評価した。その結果、90時間の耐食試験
で、ほとんど腐食は見られず実用に供し得るものが得ら
れた。すなわち、比較例2との対比で、実施例3のフッ
素樹被覆物により、従来品に匹敵する耐食性が達成でき
たことが分かる。
【0035】
【発明の効果】本発明によれば、耐摩耗性、耐傷性、耐
食性、耐ブリスター性などに優れたフッ素樹脂被覆物と
その製造方法が提供される。また、本発明によれば、こ
のような諸特性に優れたフッ素樹脂塗膜を形成すること
ができるフッ素樹脂塗料が提供される。本発明のフッ素
樹脂被覆物は、鍋、釜、フライパン、ジャー炊飯器内釜
などの調理器具;ホットプレート、グリルパン、オート
ベーカリー、餅つき器などの家電調理器具;オイルポッ
トなどとして、広範な分野に適用することができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) B32B 33/00 B32B 33/00 (72)発明者 大賀 武 大阪府泉南郡熊取町大字野田950番地 住 友電気工業株式会社熊取製作所内 Fターム(参考) 4D075 AE03 BB05Z BB26Z BB92Z BB93Z CA02 CA33 DA07 DA34 DB02 DC38 EA07 EB18 EB56 EB57 4F042 AA02 AA11 AA20 AA22 BA19 BA25 DA03 DB01 4F100 AA00C AB01A AB10 AH00C AK17B AK17C AK17D AK18B AK18J AL01B AT00A BA03 BA04 BA07 BA10A BA10B BA10D CA13C CA23C CC00B DD07A EH462 EJ172 EJ482 GB90 JA06B JA20B JB02 JK09 JK20 YY00B 4J038 CD121 CD122 CE051 CE052 GA12 MA14 NA03 NA04 NA11 PA19 PB02 PC02

Claims (13)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基材上に1層または2層以上のフッ素樹
    脂層が被覆されたフッ素樹脂被覆物において、その最外
    層が、ASTM−D−3307に規定されるメルトフロ
    ーレートが0.2〜10g/10分のテトラフルオロエ
    チレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体
    (PFA)をPFA全量中に20〜100重量%の割合
    で含有するPFAからなる厚み10〜90μmのPFA
    層であることを特徴とするフッ素樹脂被覆物。
  2. 【請求項2】 最外層のPFA層が、平均粒径5〜40
    μmのPFA粒子と平均粒径0.1〜0.5μmのPF
    A粒子とが重量比20:80〜80:20で液状媒体中
    に分散されたフッ素樹脂塗料を用いて形成されたもので
    ある請求項1記載のフッ素樹脂被覆物。
  3. 【請求項3】 平均粒径5〜40μmのPFA粒子のA
    STM−D−3307に規定されるメルトフローレート
    が0.2〜10g/10分であり、かつ、平均粒径0.
    1〜0.5μmのPFA粒子のASTM−D−3307
    に規定されるメルトフローレートが0.2〜40g/1
    0分である請求項2記載のフッ素樹脂被覆物。
  4. 【請求項4】 基材上に1層または2層以上のフッ素樹
    脂層が被覆されたフッ素樹脂被覆物の製造方法におい
    て、該基材上に直接または少なくとも1層のフッ素樹脂
    層を介して、ASTM−D−3307に規定されるメル
    トフローレートが0.2〜10g/10分のPFAをP
    FA全量中に20〜100重量%の割合で含有するPF
    Aからなるフッ素樹脂を塗布し、焼き付けて、厚み10
    〜90μmのPFA層からなる最外層を形成することを
    特徴とするフッ素樹脂被覆物の製造方法。
  5. 【請求項5】 PFAからなるフッ素樹脂が、平均粒径
    5〜40μmでASTM−D−3307に規定されるメ
    ルトフローレート0.2〜10g/10分のPFA粒子
    と平均粒径0.1〜0.5μmでASTM−D−330
    7に規定されるメルトフローレート0.2〜40g/1
    0分のPFA粒子とを重量比20:80〜80:20で
    含有するフッ素樹脂塗料である請求項4記載のフッ素樹
    脂被覆物の製造方法。
  6. 【請求項6】 フッ素樹脂塗料が、平均粒径5〜40μ
    mのPFA粒子と平均粒径0.1〜0.5μmのPFA
    粒子とが液状媒体中に分散されたフッ素樹脂塗料である
    請求項5記載のフッ素樹脂被覆物の製造方法。
  7. 【請求項7】 PFA層からなる最外層を形成した後、
    PFAの結晶融点未満の温度に加熱しながら、最外層の
    表面に直角方向に加圧して平滑化処理を行う請求項4な
    いし6のいずれか1項に記載のフッ素樹脂被覆物の製造
    方法。
  8. 【請求項8】 基材として化学的または電気化学的なエ
    ッチング処理により表面に微細な凹凸を形成した板状の
    金属基材を使用し、PFA層からなる最外層を形成した
    後、所望の形状に成形加工する請求項4ないし7のいず
    れか1項に記載のフッ素樹脂被覆物の製造方法。
  9. 【請求項9】 平均粒径5〜40μmでASTM−D−
    3307に規定されるメルトフローレート0.2〜10
    g/10分のPFA粒子と平均粒径0.1〜0.5μm
    でASTM−D−3307に規定されるメルトフローレ
    ート0.2〜40g/10分のPFA粒子とが重量比2
    0:80〜80:20で液状媒体中に分散されてなるフ
    ッ素樹脂塗料。
  10. 【請求項10】 基材上にフッ素樹脂層が被覆されたフ
    ッ素樹脂被覆物において、(1)フッ素樹脂被覆層が、
    基材に接するベースコート層、少なくとも1層の中間
    層、及び最外層からなる3層以上のフッ素樹脂層から形
    成され、かつ、(2)少なくとも1層の中間層が、有機
    顔料、無機顔料、有機充填剤、及び無機充填剤からなる
    群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を0.5〜10
    重量%の割合で含有するフッ素樹脂組成物から形成され
    ていることを特徴とするフッ素樹脂被覆物。
  11. 【請求項11】 添加剤を含有するフッ素樹脂組成物か
    らなる中間層が、容器形状に成形されたフッ素樹脂被覆
    物の内側の底面もしくは底面と側面の下半分の位置に形
    成されている請求項10記載のフッ素樹脂被覆物。
  12. 【請求項12】 添加剤を含有するフッ素樹脂組成物か
    らなる中間層が、パターン状に形成されている請求項1
    0記載のフッ素樹脂被覆物。
  13. 【請求項13】 最外層が、ASTM−D−3307に
    規定されるメルトフローレートが0.2〜10g/10
    分のPFAをPFA全量中に20〜100重量%の割合
    で含有するPFAからなる厚み10〜90μmのPFA
    層である請求項10ないし12のいずれか1項に記載の
    フッ素樹脂被覆物。
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