JP2000229078A - 血管病変診断システムおよび診断プログラム記憶媒体 - Google Patents

血管病変診断システムおよび診断プログラム記憶媒体

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JP2000229078A
JP2000229078A JP11032380A JP3238099A JP2000229078A JP 2000229078 A JP2000229078 A JP 2000229078A JP 11032380 A JP11032380 A JP 11032380A JP 3238099 A JP3238099 A JP 3238099A JP 2000229078 A JP2000229078 A JP 2000229078A
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浩 金井
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 頸動脈などの血管について、血管壁の局所的
な厚さの拍動に伴う微小な変化や破れやすさなどの物理
的特性を、超音波を用いて連続して精密に計測できるよ
うにする。 【解決手段】 血管の大振幅運動における初期位置が拍
動ごとに元に戻るように正規化して、連続する拍動間で
生じる位置の揺れの除去を図っている。超音波ビームを
体内の血管に向けて放射し、血管壁から反射された超音
波信号を検出して検波出力する超音波計測部と、出力さ
れた検波信号に基づいて血管の特性を解析するデータ解
析処理部とからなる。データ解析処理部は、心臓拍動に
基づく血管壁の内面および外面の各大振幅変位運動を精
密にトラッキングして大振幅変位運動に重畳されている
微小振動の運動速度を求め、さらに血管壁の内面および
外面における微小振動の運動速度の差から弾性率を算出
する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、超音波を用いて、
体内の動脈等の血管の病変を、非侵襲的計測によって診
断する血管病変診断システムおよび診断プログラム記憶
媒体に関するものであり、心臓の拍動による血管の大振
幅運動に重畳している微小な運動の速度波形を計測し
て、血管内の粥腫(アテローム)のような局所的病変を
精度良く検出可能にする手段を提供する。
【0002】心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などは、これま
で、アテロームという血管内腔の狭窄病変の進行による
と考えられてきたが、現在、世界中で使用されている高
脂血症薬の臨床的検討から、アテロームの中味が破れや
すいか、破れにくいかが問題であることが明らかになっ
てきている。実際、上記薬剤の投与では、血管の狭窄の
程度がほとんど変化しないにもかかわらず、生存率の向
上や心筋梗塞の予防に劇的な効果が生じている。これ
は、これらの薬剤がアテロームの中味を組織的に安定化
するからであると考えられている。このようなことか
ら、アテロームの中味の破れやすさを調べる方法が求め
られたが、X線CT、MRI、血管造影などの従来法で
は、それは不可能であった。本発明は、超音波を用いて
任意の局所の血管壁の弾性率を遠隔計測することによ
り、アテロームの中味の破れやすさを診断可能にするも
のである。
【0003】
【従来の技術】近年の動脈硬化症診療の急速な発展のき
っかけとなった報告の一つは、アテローム(粥腫)によ
る冠動脈の狭窄が、血清脂質を強力に低下させることに
よって改善出来たという〔参考文献1〕に示す1990
年の臨床的な報告であろう。その後の大規模臨床試験に
よると、ほぼ2,3年間程度の強力な高コレステロール
症の治療によって、冠動脈狭窄の減少が得られ、心臓死
等の発症率の低下が認められるとされている。これは医
療現場への大きなインパクトとなり、最近の高脂血症に
対する投薬量の増加は、わが国における医療費支出急増
の一因とさえなってきている。
【0004】しかしながら脂質を低下させるというこの
治療法により得られる動脈硬化巣の変化は数10ミクロ
ンレベル程度の微妙なものであり、血管病変の変化を正
確に把握することは臨床的には困難であった。
【0005】これに対して心筋梗塞や突然死など、冠動
脈疾患イベントについては、この治療法によって発症が
大幅に減少することがわかっている。これは、冠動脈狭
窄自体の改善が僅かなものであるという事実との間に食
い違いがあるかのように見える。しかし最近の解釈で
は、心筋梗塞などの発症は、アテロームによる直接的な
冠動脈の閉塞に起因するよりも、脂質に富んだアテロー
ムに何らかの原因によって亀裂が入り、その部分への血
栓形成が、一時的に血管内腔を狭窄/閉塞することによ
るのだろうと考えられている。つまり脂質低下治療法の
ポイントは、このアテロームを破れにくく安定化させる
ことにあるというものである。
【0006】したがって、現段階における動脈硬化症の
治療目標をまとめると、1)血管の狭窄をきたすアテロ
ームの進展予防、退縮を確認しながら最良の治療法を選
択すること、2)このアテロームが破裂しないように安
定化させること、そして3)日本人に多い血管攣縮に対
しては、血清脂質の是正により異常な血管緊張(トーヌ
ス)の改善を期待すること、であるといえる。
【0007】このように、動脈硬化症についての最近の
知見に基づく治療法では、血管局所の動脈硬化およびア
テローム病変を、非侵襲的に、繰り返し、しかもミクロ
ンオーダで高精度に計測する手段のあることが不可欠で
あり、それがあって初めて、臨床上有効なものとなる。
しかし動脈硬化の測定についての従来技術としては、
1)血管内腔の狭窄を血流のイメージで表現する血管造
影検査、MRアンギオグラフィーや、2)動脈硬化の程
度を脈波速度から算出する方法などが報告されている
が、局所病変たるアテロームについてその特性について
充分な精度で非観血的に測定し得るものはいまだに報告
されていない。
【0008】一方、超音波診断に関する従来技術には次
のようなものがある。
【0009】RF信号に対するゼロクロス点検出法 心臓壁や内部組織の振動の体表面から超音波を用いて計
測する方法が報告されている。超音波の対象からの反射
波のRF(Radio frequency)信号のゼロクロス点の移動
時間から、対象の変位の計測を行なう。回路のクロック
周波数を fCLKと表すと、その値に依存して、速度推定
には量子化誤差が生じる。変位波形は、速度波形をロー
パスフィルタリングしたものであるから、変位波形に関
しては従来計測できていて誤差が目立たないとしても、
速度波形に変換して考えると、計測誤差が大きいことに
なる。また、変位波形には、数〜十数Hz程度の成分ま
でしか含まれないから、速度波形のように周波数スペク
トル解析を行なっても意味がない。
【0010】組織ドプラ法 この技術に関しては、〔参考文献2〕を挙げることがで
きる。この文献は、被検体に向けて発射した超音波パル
スの反射波を受信しこの反射波に基づいた超音波画像を
表示する超音波動態自動計測装置であって、反射波の任
意時点における位相を検出する位相検出手段と、反射波
の任意位置のサンプル点を定めるサンプル点指定手段
と、反射波のサンプル点における位相差を検出しこの位
相差に対応する距離だけサンプル点を移動するサンプル
移動手段と、サンプル点の移動を追跡することにより被
検体の動態を自動計測しディスプレイに表示する動態計
測表示手段と、を備えた超音波動態自動計測装置を明ら
かにしている。
【0011】この装置では、反射波のサンプル点におけ
る位相差を検出しこの位相差に対応する距離だけサンプ
ル点を移動しているが、サンプル点の間隔は数百mμm
であり、3.5MHzの超音波の生体内での波長が約50
0μmであるから、それ以上にサンプル点を細かくして
もあまり意味がない。いずれにしてもサンプル点間の距
離が数百μmであるから、この場合の変位計測の粗さ
は、このオーダになり、非常に粗いものとなる。
【0012】この変位計測による変位波形は、速度波形
をローパスフィルタリングしたものである。変位波形に
関しては従来計測できていたとしても、速度波形に変換
して考えると、計測誤差が大きいことになる。また、変
位波形には、数〜十数Hz程度の成分までしか含まれな
いから、速度波形のように周波数スペクトル解析を行な
っても意味がない。
【0013】またこの装置では、速度波形を計測する際
に、超音波パルスを数個から十数個(N個とする)送信
して得られた反射波をまとめて、その間の平均的ドプラ
シフトを求めている。従って、得られた速度波形の時間
分解能が悪く、パルス送信周波数PRFのN分の1の標
本化周波数で標本化した速度波形しか得られないことに
なる。
【0014】パルス送波の位相偏移検出によるトラッキ
ング法 従来の血流速度のドプラ計測では、超音波プローブから
対象反射体までの距離が一定であるが、心臓壁振動の計
測では、拍動に伴って、壁位置が十mm以上動くため
に、超音波プローブとの距離が時間とともに大きく変化
する。これは心臓壁振動の計測に影響して、誤差の要因
になっていた。
【0015】このため本発明者らは、〔参考文献3〕に
示す先の特許出願において、一定間隔で超音波パルスを
送出し、対象物から反射されたパルスの位相偏移を検出
して、これから拍動によって変動する対象物の位置を高
精度にトラッキングする発明を提示した。
【0016】これにより、振幅10mm以上の拍動に伴
う大振幅変位運動上の微小振動を数百Hzまでの周波数
帯域において10拍程度連続して十分再現性良く高精度
に計測することが可能となった。 〔参考文献1〕Brown G, Albers JJ, Fisher LD, Schae
fer SM, Lin JT, Kaplan G, Zhao XQ,Bisson BD, Fitzp
atrick VF, Dodge HT., ”Regression of coronary art
erydisease as a result of intensive lipid-lowering
therapy in men with highlevels of apolipoprotei
n," B. N. Engl. J Med., Vol, 323, pp. 1289-1298,19
90. 〔参考文献2〕特開昭62−266040号公報(出願
人:株式会社東芝) 〔参考文献3〕特開平10−5226号公報(出願人:
科学技術振興事業団)
【0017】
【発明が解決しようとする課題】血管には、血圧の変化
に起因して微小振動が生じる。この微小振動は、血管壁
の内側から外側へ伝播する。そこで血管壁または血管壁
を構成する各層の内面および外面で振動を検出し、解析
することにより、血管壁の厚さの時間変化と弾性率を求
めることができる。つまりアテローム(粥腫)のような
血管の局所的病変部の破れやすさ/破れにくさを不安定
性/安定性で表現すると、血管壁の弾性率が小さければ
不安定、大きければ安定であると診断できる。このよう
な血管壁の弾性率は、血管壁の厚みの時間変化を解析す
ることによって求められる。すなわち血管壁の内側に生
じた微小振動の運動波形は、血管壁の弾性率を含む媒体
特性に応じた振幅、位相で血管壁の外側へ伝達されるか
ら、任意の局所血管壁について、その内側および外側に
おける微小振動の運動波形を計測して、それぞれの運動
波形の振幅、位相がわかれば、その部位の血管壁の弾性
率を求めることができる。
【0018】ところで血管は、心臓の拍動に応じて大振
幅で運動しており、血流により生じる微小振動の運動
は、その大振幅運動に重畳されている。しかも微小振動
の振幅は、数十ミクロン以下であると考えられている。
そのため、従来のBモードやMモードの超音波診断装置
によっては、微小振動の運動を直接計測することは実際
上不可能である。そこで本発明者らは、前述した参考文
献3の特許出願において、超音波パルスドプラ方式によ
り血管に向けて放射した超音波信号の反射波信号を検波
するとともに、その検波信号の振幅、位相を解析して、
まず大振幅で運動している血管の逐次的位置を決定する
トラッキング処理を行い、次にその決定された大振幅運
動の逐次的位置を基準にして、微小振動の運動を精密に
検出することを可能にした。
【0019】しかしこのトラッキング処理により各拍動
における血管の大振幅運動の逐次的位置を決定していっ
た場合、雑音や累積誤差により連続する拍動間で位置が
揺れてしまう現象が生じ、長時間連続して安定した計測
を行うことができなかった。
【0020】本発明の目的は、体内の冠動脈などの血管
について、血管壁の局所的な厚さの拍動に伴う微小な変
化や破れやすさなどの物理的特性を、超音波を用いて連
続して精密に計測できる血管病変診断システムを提供す
ることにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明は、血管の大振幅
運動における拍動ごとの初期位置が拍動ごとに元に戻る
ような正規化を行うことにより、連続する拍動間で生じ
る位置の揺れの除去を図るものであり、それによる本発
明の血管病変診断システムおよび診断プログラム記憶媒
体は次のように構成される。 〔1〕本発明の超音波病変診断システムは、超音波ビー
ムを体内の血管に向けて放射し、血管壁から反射された
超音波信号を検出して検波出力する超音波計測部と、出
力された検波信号に基づいて血管の特性を解析するデー
タ解析処理部とからなり、該データ解析処理部は、上記
検波信号の振幅及び位相を用いて血管壁の内面および外
面の各瞬時的な位置を決定し、心臓拍動に基づく血管壁
の内面および外面の各大振幅変位運動を精密にトラッキ
ングする大振幅変位運動解析手段と、上記大振幅変位運
動解析手段により得られた血管壁の内面および外面にお
けるそれぞれの大振幅変位運動の順次の位置に基づき、
該血管壁の内面および外面における大振幅変位運動に重
畳されている微小振動の運動速度を求める微小振動解析
手段と、上記微小振動解析手段により得られた血管壁の
内面および外面における微小振動の運動速度の差に基づ
き、血管壁厚の時間変化を求める壁厚解析手段とを備
え、上記大振幅変位運動解析手段は、血管壁の内面およ
び外面の各々について大振幅変位運動の一拍での変位の
和が零となる制約条件で解析することを特徴とするもの
である。 〔2〕さらに本発明の血管病変診断システムは、前項
〔1〕において、壁厚解析手段により得られた血管壁厚
の時間変化に基づき該血管壁の弾性率を求める壁弾性率
解析手段を備えていることを特徴とするものである。 〔3〕さらに本発明の血管病変診断システムは、前項
〔2〕において、壁厚解析手段は血管壁を構成する複数
の層の各々ごとにその内面および外面の微小振動の運動
速度の差により弾性率を求めるものであることを特徴と
するものである。 〔4〕さらに本発明の血管病変診断システムは、前項
〔1〕ないし〔3〕において、超音波ビームの放射位置
を連続的に変化させて、血管壁厚の変化の断層像を作成
する断層像作成手段を備えていることを特徴とするもの
である。 〔5〕本発明の診断プログラム記憶媒体は、超音波を体
内の血管に向けて放射し、血管壁から反射される超音波
信号を検波して得られる検波信号の振幅および位相を用
いて血管壁の内面および外面の各瞬時的な位置を決定
し、心臓拍動に基づく血管壁の内面および外面の各大振
幅変位運動を精密にトラッキングし、その際、血管壁の
内面および外面の各大振幅運動の一拍の変位の和が零と
なるように補正する大振幅変位運動解析機能と、上記大
振幅変位運動解析機能により得られた血管壁の内面およ
び外面におけるそれぞれの大振幅変位運動の順次の位置
に基づき、該血管壁の内面および外面における大振幅変
位運動に重畳されている微小振動の運動速度を求める微
小振動解析機能と、上記微小振動解析機能により得られ
た血管壁の内面および外面における微小振動の運動速度
に基づき、その差をとって時間積分し、血管壁厚の時間
変化を求める壁厚解析機能と、上記壁厚解析機能により
得られた血管壁厚の時間変化に基づき、該血管壁の弾性
率を求める壁弾性率解析機能と、を含むプログラムを記
憶媒体に格納したものである。
【0022】図1に、本発明の基本構成を示す。
【0023】図1において、1は、人体である。
【0024】2は、体表である。
【0025】3は、計測対象の動脈などの血管であり、
血管壁の厚さh(t)、内腔の径d(t)をもち、運動
速度v(t)で振動している。
【0026】3aは、血管の前壁である。
【0027】3bは、血管の後壁である。
【0028】3cは、血管3に生じているアテロームな
どの病変部である。
【0029】4は、超音波ビームの放射方向を変更して
一定範囲を走査可能な超音波プローブである。
【0030】5は、超音波計測部であり、超音波信号発
生器6、直交検波器7、低域フィルタ8、高速A/D変
換器9を含む。超音波信号発生器6により一定の時間間
隔ΔTで角周波数ω0 の送信信号Vin(t)を発生して
超音波プローブ4を駆動し、超音波プローブ4が検出し
た反射波の受信信号Vout (t)を直交検波器7でω0
の原信号により直交検波し、低域フィルタLPF8を通
すことにより、検波信号Vm(t)を得る。検波信号V
m(t)はさらに高速A/D変換器9によりデジタル信
号形式に変換されて出力される。
【0031】10は、コンピュータなどのデータ解析処
理部であり、超音波計測部5から出力されたデジタル信
号形式の検波信号Vm(t)を解析処理して血管3の大
振幅変位、微小振動、血管壁厚の時間変化、弾性率等を
求め、処理結果を断層像等で画像出力する。
【0032】11は、大振幅変位運動解析手段であり、
超音波計測部5から出力された検波信号Vm(t)の振
幅と位相とを解析して、心臓拍動に伴う、血管壁の内面
と外面あるいは血管壁を構成する各層の面の大振幅変位
運動の軌跡を決定、つまりトラッキングを行う。このと
き血管壁各層の微小振動の変位運動は、画像を安定化す
るため、心臓の一拍ごとに元の位置に戻るように、一拍
内の変位の累積を零とする制約のもとで解析される。
【0033】12は、微小振動解析手段であり、血管壁
の内面と外面あるいは各層の面の大振幅変位運動に重畳
されている微小振動の運動速度を、位相の変動に基づい
て解析する。
【0034】13は、壁厚解析手段であり、血管壁の内
面と外面あるいは各層の面の微小振動の運動速度の差を
とって、血管壁あるいは各層ごとの厚さの時間変化を求
める。
【0035】14は、壁弾性率解析手段であり、血管壁
あるいは各層ごとの厚さの時間変化に基づいて、血管壁
あるいは各層ごとの弾性率を算出する。
【0036】15は、断層像作成手段であり、超音波プ
ローブ4による超音波ビームの放射方向を制約して所定
の空間を走査し、血管壁あるいは各層の厚さや弾性率に
ついて、断層像あるいは立体像を作成し、16の表示装
置に表示出力する。
【0037】図2は、超音波プローブによる空間走査方
法を例示したものである。図2の(a)は超音波ビーム
を平行移動するように制御して走査を行うものであり、
図2の(b)は超音波ビームを扇形に振るように制御す
るものである。これらの走査方法を適宜利用することに
より、血管を含む任意の空間を走査することができる。
【0038】図1の表示装置16の画面には、このよう
にして血管を超音波ビームにより走査して得られた断層
像の例が表示されている。本発明により解析された結果
の血管の各部位の組織の硬さ(弾性率)が、そのレベル
に応じたカラーで容易に識別可能にされている。
【0039】次に本発明による血管の変位運動解析処理
の基本原理について詳述する。 (1)反射波の位相偏移検出によるトラッキング法 本発明では、送信超音波パルスに対する受信超音波パル
スのパルス位相偏移を検出して、対象物の変位量を求め
る。図3に、本発明による血管壁の微小変位変化波形計
測の概略を示す。
【0040】図3において、超音波プローブ4はΔTの
周期の超音波パルスにより駆動されて、超音波ビームを
体表2から体内に向けて放射する。放射された超音波ビ
ームは、速度v(t)で振動している血管3で反射さ
れ、反射波は超音波プローブ4で受信される。受信され
た反射波の超音波信号は超音波計測部5内で増幅された
あと直交検波され、検波信号はサンプリング周期Tsで
A/D変換されたあと、断層データを示す検波波形y
(x;t)としてデータ解析処理部10に入力される。
【0041】データ解析処理部10では、時刻tにおけ
る対象物からの反射波の直交検波波形y(x;t)と、
ΔT秒後のパルス送信波に対する反射波のl直交検波波
形y(x;t+ΔT)に関して、その間の位相偏移Δθ
(t+ΔT/2)を検出し、対象物が、ΔT秒間に移動
した距離を算出する。ここで、(t+ΔT/2)は、二
つの時刻tとt+ΔTの中間の時刻を示すが、この区間
の平均値をこの中間時点の値で代表させることを意味す
る。
【0042】移動距離が波長λのときに、ちょうど位相
が±2πだけ偏移するから、位相偏移がΔθ(t+ΔT
/2)に対応した移動距離Δx(t+ΔT/2)は次式
で算出できる。
【0043】
【数1】
【0044】なお2行目の式は、媒質中での超音波の波
長λが、音速cを超音波周波数f0で割った値で表され
ることによっている。 (2)位相偏移の高精度検出 心臓壁の一拍の中での変位の大きさは、数mm〜十数m
mであり、動脈壁においても、大きい個所では、数mm
ある。しかし、例えば、頸動脈における壁の一拍での厚
み変化は、健常者の場合数十μmしかなく、高齢者・動
脈硬化症患者ではさらに厚み変化が小さい。
【0045】例えば、超音波周波数f0 =7. 5MH
z、音速c=1500m/sとすれば、波長λ=2 00
μmとなる。したがって、移動距離Δx(t+ΔT/
2)が100μmあれば、その二つのパルス間の位相差
は、180度あることになるが、頸動脈では、一拍の中
での最大の厚み変化が数μmであるから、一拍での位相
偏移の和は、18度以下である。一拍を1秒間とみなす
と、その間に数千回のパルスを送信受信してから、1回
当たりの位相偏移は、18度のさらに数千分の1しかな
い。そのため、位相偏移は、高精度に検出する必要があ
り、位相偏移を求める際に、雑音に対して強くするため
に、時刻tと時刻t+ΔTの2つの波形が、振幅は変化
せず位相と反射波位置のみが変化するという制約の下
で、後述する数2の式(2)以下に述べる式の最小2乗
整合を行なって、その間の位相偏移Δθ(t+ΔT/
2)を検出する。 (3)血管壁の微小変位と速度波形の計測 図3に示すように、時刻tにおける対象物からの反射波
の直交検波波形y(x;t)と、ΔT秒後のパルス送波
に対する反射波の直交検波波形y(x;t+ΔT)に関
して、二つの波形y(x;t)とy(x;t+ΔT)間
の差の二乗平均値(整合誤差)を考える。反射波の検波
波形(複素波形)のモデルを図4の例のように考えたと
きに、図5は、それらに関する整合誤差の値が波形間の
ずれΔx(t+ΔT/2)=δx について変化する様子
を示している。通常の整合誤差の定義では、整合の際
に、位相と振幅の両方が変化することを許しているた
め、図5(a)に示すように真値δx =−5以上の値に
対して、いたるところ最小値をとってしまう。そこで、
整合の際に、位相の変化だけを許すことにする。これに
よって、図5(b)に示すように、真値δx =−5での
み唯一の最小値をとるようになる。これは二つの波形間
の変化の自由度を減らすという点で、雑音に対しても強
くしている。以下、図4、図5について詳述する。
【0046】図4において、(a)は時刻tの信号y
(x;t)を示し、(b)は時刻(t+ΔT)における
次の信号y(x;t+ΔT)を示している。また、□マ
ークは実数成分、×マークは虚数成分を示す。
【0047】検波波形y(x;t)に対して、ΔT秒後
には対象が、δx だけ移動したと仮定すると、検波波形
y(x;t)とy(x+δx ;t+ΔT)に関して、振
幅は変化せず位相のみが、Δθ(δx )だけ変化したも
のとすれば、2つの波形間の整合をとったときの整合誤
差α(Δθ(δx );δx )は、次式で与えられる。
【0048】
【数2】
【0049】ここで、x∈Rは、領域Rの範囲のxに関
して和を計算する意味である。この整合誤差α(Δθ
(δx );δx )を最小にするδx を求める必要がある
が、δxだけ波形y(x;t+ΔT)を移動させたとき
に、波形の区間R内に含まれるパワーが変化してしまう
かも知れない。したがってそのパワーを正規化するため
に、数1(式(1))の右辺は、分母の2つの波形の平
均パワーで割っている。
【0050】次に図5は整合誤差の値のδx に関する変
化の様子を示す。図中の(a)は、整合の際に位相と振
幅の両方が変化することを許した場合であり、真値δx
=−5以上の値に対して、いたるところで最小値をとっ
てしまう。また図中の(b)は、整合の際に位相の変化
だけを許した場合であり、真値δx =−5で唯一の最小
値をとる。
【0051】あるδx に対して、式(1)を最小にする
Δθ(δx )を求めるために、α(Δθ(δx );
δx )を、Δθ(δx )で偏微分した式を零とおくこと
によって、α(Δθ(δx );δx )を最小にする最適
なΔθ(δx )は、 exp{jΔθ( δx ) }= exp(j∠C(δx ) ) (2a) と得られる。ここで、C(δx )は次式で与えられる。
【0052】
【数3】
【0053】また、∠C(δx )は、複素数C(δx
の位相を表す。*は複素共役を表す。
【0054】さらに上記の演算を、ある範囲内でδx
変更してその都度求め、その中で最小の整合誤差となる δx と、そのときの Δθ(δx ) を算出する。その結果得られた Δθ(δx ) を用いると、この区間ΔTでの平均的速度 v(t+ΔT/2) を次式によって算出できる。
【0055】
【数4】
【0056】ここでΔTはパルス送信間隔、ωo =2π
o は送信した超音波の角周波数、cは音の伝搬速度を
表す。
【0057】さらにこの速度値 v(t+ΔT/2) にΔTを掛けることによって、時間ΔTにおける対象物
の変位量 Δx(t+ΔT/2) を求める。
【0058】
【数5】
【0059】この変位量
【0060】
【数6】
【0061】を前の時刻tにおける対象物の位置x(t)
に加えることによって、次の時刻における対象物の位置
を仮想的に予測できる。
【0062】
【数7】
【0063】これが、トラッキング軌跡x(t) となる。
速度が0.001m/s、ΔT=160μsのとき、変位
幅は0.16μmとなり、従来のゼロクロス点検出によ
る手法の場合が約15μm程度であるのにくらべて、空
間分解能を数十倍以上に向上できる。 (4)位相差の算出の高精度化 このようにして、二つの波形について『振幅は変化せず
位相と反射波位置のみが変化する』という制約の下で最
小二乗整合を行って、その間の位相偏移Δθ(t+ΔT
/2)を高精度に検出するための処理を次に説明する。
【0064】図3と図4に示すように、検波波形y
(x;t)に対して、ΔT秒後には対象が、Δx(t+
ΔT/2)だけ移動したと仮定する。y(x;t)を、
i番目の送信波に対する受信波形の検波波形の中で、直
前の対象物の位置を中心とする幅±Δの区間の成分と
し、簡単に複素ベクトルy′i と表す。同様に、(i+
1)番目の送信波に対する受信波形の検波波形y(x;
t+ΔT)の中で、直前の対象物の位置を中心とする幅
±Δの区間の成分を、複素ベクトルy′i+1 と表す。
【0065】検波波形y′i とy′i+1 に関して、振幅
は変化せず位相のみが、Δθi だけ変化したものとすれ
ば、二つの波形間の整合をとったときの整合誤差α
i は、次式で与えられる。
【0066】
【数8】
【0067】ここで、左辺の第1項目と2項目の分母
は、各ベクトルの長さ(ノルム)を表し、各々の項を単
位長さのベクトル(単位ベクトル)にして、波形に含ま
れるパワー正規化している。数8(式(7a))を最小
にするΔθi は、αi を、Δθ i で偏微分した式を零と
おくことによって決定できる。したがって、i番目のパ
ルスと(i+1)番目のパルス間の位相偏移Δθi を用
いて、その間の変位Δx i は、数1(式(1))によっ
て、
【0068】
【数9】
【0069】で与えられる。 (5)一拍での累積変位を零にする制約の導入 2回のパルス送受信で算出される位相偏移が、前述した
ように小さい場合には、18度のさらに数千分の1しか
ない。したがって、一拍の中で、これらの値に関して数
千回の和をとることによって得られる変位変化波形や厚
み変化波形には誤差が入りやすく、画面上で波形がぶれ
て見にくくなる原因となる。
【0070】例えば、図6に示すように、心電図のR波
から次の拍のR波までの計測で、超音波プローブと計測
部位の位置関係が全く変わらなければ、一拍の中の変位
や厚み変化は、元の値に戻る必要がある。頸動脈などの
壁の変位は、一拍中で数mm程度であるが、壁の内膜側
の変位波形x1 (t)と外膜側の変位波形x2 (t)と
の間にはほとんど差がなく、その間の差、すなわち、厚
み変化Δh(t)は、一拍中で最大十数ミクロン程度し
かない。
【0071】頸動脈などでは、数μmの厚み変化Δh
(t)の計測を行う必要が生じるから、上記の累積誤差
が混入したときに、一拍の変位の和や厚み変化の累積に
よりサブミクロンのオーダの精度で元の位置に戻さなけ
ればならない。したがって雑音を低減するためにも、一
拍での変位変化波形・厚み変化の累積が、必ず零になる
ように計測する必要がある。このような計測方法は、ト
ラッキングを行わないこれまでの装置には必要のないこ
とであった。
【0072】このため本発明では、変位運動の解析に際
して一拍での累積変位を零にする制約を導入する。これ
は、一拍の中でのパルスの送信回数をF回とすると、i
番目の変位Δxi に関する一拍全体での和で与えられる
F番目までの変位xF が零になることで表される。
【0073】
【数10】
【0074】したがって、この制約を入れて、式(2)
を用いたときの、F個の各パルスに関する位相偏移決定
の整合誤差αi の総和αを次式で定義する。
【0075】
【数11】
【0076】ここで、γ′は、ラグランジェ未定乗数で
あり、上記の制約を右辺第2項目に示している。
【0077】
【数12】
【0078】を改めて2γとおき直し、また、
【0079】
【数13】
【0080】を、改めて単位ベクトル
【0081】
【数14】
【0082】
【数15】
【0083】を、改めて単位ベクトル
【0084】
【数16】
【0085】とおくことによって、次のように簡単に表
される。
【0086】
【数17】
【0087】ここで、* は複素共役、T はベクトルの転
置を表す。この式のαを、F個の{Δθi }とγに関し
て最小化することによって、一拍全体にわたる最適な位
相偏移が一度に決定できると同時に、変位波形が得られ
る。
【0088】数17(式(7e))の中の
【0089】
【数18】
【0090】を、複素定数Ai とおくと、
【0091】
【数19】
【0092】は、A* i である。ただし、
【0093】
【数20】
【0094】は各々は単位ベクトルであるから、|Ai
|=1である。これらを用いると、αは、
【0095】
【数21】
【0096】と簡単に表される。数21(式(7f))
を最小にするF個の{Δθi }を求めるために、αを、
Δθi とγで偏微分した式をそれぞれ零とおく。
【0097】
【数22】
【0098】数22(式(8))の両辺に
【0099】
【数23】
【0100】を掛けて、さらに、
【0101】
【数24】
【0102】をXi とおくことによって、
【0103】
【数25】
【0104】というXi に関する2次方程式が得られ
る。この解Xi は、
【0105】
【数26】
【0106】と得られる。ここで、Ai はノルム1の複
素定数である(|Ai 2 =1)から、
【0107】
【数27】
【0108】とおくと、
【0109】
【数28】
【0110】ここでは、二つの解が得られているが、そ
の各々を数21(式(7f))に代入してみる。
【0111】
【数29】
【0112】であるから、
【0113】
【数30】
【0114】が得られる。これらの関係を用いると、数
21(式(7f))のαは、
【0115】
【数31】
【0116】と表される。したがって、数28(式(1
2))の2解の中で、上側の解のみが、整合誤差を最小
化できることがわかる。
【0117】
【数32】
【0118】さらに、数22の式(9)の制約を用い
る。この式の両辺の虚数の指数を計算すると、
【0119】
【数33】
【0120】この式の左辺に、数32(式(16))の
解を代入することによって、
【0121】
【数34】
【0122】となる。ここで左辺第2項の複素数
【0123】
【数35】
【0124】を、その位相角をΩで表して、exp(jΩ)
と記述すると、
【0125】
【数36】
【0126】であるから、
【0127】
【数37】
【0128】が成り立ち、
【0129】
【数38】
【0130】と得られる。ここで、∠Ai は、複素数A
i の位相角を表す。この式から、数16(式(7f))
の制約付き最小二乗整合における、Ωまたは、ラグラン
ジェ未定乗数γを一意に決定できる。このΩを用いれ
ば、数32(式(16))の
【0131】
【数39】
【0132】は、
【0133】
【数40】
【0134】で決定できる。したがって、数9(式(7
b))の変位Δxi は、
【0135】
【数41】
【0136】で与えられる。この数41の式(22)
は、一拍中での瞬時変位{Δxi }、(i=1,2,・
・・,F)の和が零となるように、すなわち、そのバイ
アスが零となるように位相偏移を決定することによっ
て、制約付き最小二乗整合が達成できることを意味して
いる。
【0137】また、ΔTをパルス送信間隔とすると、そ
の間の対象物の平均的速度
【0138】
【数42】
【0139】を次式(23)によって算出できる。
【0140】
【数43】
【0141】i番目とi+1番目のパルス間の変位を
【0142】
【数44】
【0143】で決定できるから、i番目パルス送信時点
における位置
【0144】
【数45】
【0145】に、この微小変位
【0146】
【数46】
【0147】を加えることによって、i+1番目パルス
送信時点における対象物の仮想的位置
【0148】
【数47】
【0149】が予測できる。
【0150】
【数48】
【0151】これが、トラッキング軌跡x(t) となる。 (6)血管の内径、厚みの時間変化算出の処理 図6に示すように、血管壁の厚みh(t) における厚み変
化Δh(t) は、外膜(adventitia)側の変位xad(t) と
内膜(intima)側の変位xin(t) の差 xin(t) −xad(t) で表される。したがって、血管壁の外膜側、内膜側それ
ぞれについて瞬時変位変化波形Δxad(t) ,Δxin(t)
を算出し、それらの差をとることにより、血管壁の厚み
変化Δh(t) が次式によって求められる。
【0152】 Δh(t) =xin(t) −xad(t) (25) 同様に血管内腔直径d(t) の変化Δd(t) は、血管前壁
(anterior wall)内腔面の変位xa (t) =xin(t) と血
管後壁(posterior wall)内腔面の変位xp (t) の差で
表される。したがって、血管前壁内腔面、血管後壁内腔
面の瞬時変位変化波形Δxa (t) =Δxin(t) とΔxp
(t) をそれぞれ計測し、その差を求めることにより、血
管内腔直径変化Δd(t) は次式で算出できる。
【0153】 Δd(t) =xp (t) −xa (t) (26) 式(25)の厚み変化Δh(t) は, 拡張期末期における
値を0と設定すると、収縮期に圧力波が到来し、血管内
腔が膨らんで壁の肉厚が薄くなるにつれて負の値とな
る。また、厚み変化Δh(t) はその振幅が十数μm程度
であること、時間的に変化していることなどから、超音
波診断装置におけるBモード像またはMモード像を用い
て計測することは不可能である。 (7)血管壁の弾性率Eの算出の処理 次に、図7を用いて、血管壁の弾性率Eの算出処理を説
明する。
【0154】まず、超音波診断装置のBモード像もしく
はMモード像から拡張期末期における最低血圧時の壁厚
d を計測し、(3)式によって求められた血管壁の厚
み変化Δh(t) のhd に対する比の値によって、径方向
の増分ひずみΔεr (t) を次式(27)で算出できる。
【0155】
【数49】
【0156】一般に、弾性率E(t) は、ひずみ量をε
(t) 、応力をp(t) とすると、次式(28)で表され
る。
【0157】
【数50】
【0158】応力p(t) は単位面積当たりの力で、血管
内圧に相当し、上腕カフ圧を用いる。これは、時刻tに
おける瞬時の弾性率E(t) であるが、非侵襲的に内圧を
計測する手法がないため、本手法では、拡張期末期の血
圧pd が最小となる時点と収縮期の血圧ps が最大とな
る時点の間で平均的な弾性率Eを次式(29)で算出す
る。
【0159】
【数51】
【0160】ここで、Δεmax は、ひずみ量の最大値で
ある。この弾性率Eは、血管壁が硬くなれば大きくなる
ため、壁の弾性的特性を評価するための指標となる。
【0161】また、本計測によって得られる血管長軸方
向の空間分解能は超音波ビームの焦域におけるビーム
幅、つまり2〜3mm程度であるので、数mm〜十数m
mといわれる動脈硬化の初期病変を診断するに十分な空
間分解能を有していると言える。したがって、本計測に
よって得られる弾性率Eは、動脈硬化早期診断の指標と
して期待できる。 (8)本発明診断システムによる計測の具体例 図8は、本発明診断システムを用いて30歳代〜60歳
代の健常者の頸動脈を計測した結果を例示したものであ
る。
【0162】図8の(a)のグラフは前述した数51
(式(29))の弾性率Eと年齢の関係を示す。このグ
ラフから、年齢の増加とともに弾性率も増加し、血管壁
が硬くなっていることがわかる。このことは、臨床的な
結果とも良く一致している。また、ここで算出した弾性
率の最低値は0.5MPa程度であり、ヒト頸動脈の正常
組織の弾性率に関する文献値(0.31±0.22MPa)
(〔参考文献4〕参照)とよく一致し、この結果が妥当
であるといえる。
【0163】図8の(b)のグラフは、ステイフネスパ
ラメータβと年齢の関係を示す。ステイフネスパラメー
タβは、従来から血管壁の弾性的特性を評価する指標と
して提案されているものの一つである(〔参考文献5〕
参照)。ステイフネスパラメータβは次式で示される。
【0164】
【数52】
【0165】ここで、ps ,pd ,ds ,dd はそれぞ
れ、最高血圧、最低血圧、動脈直径の最大値、動脈直径
の最小値である。このステイフネスパラメータβは、血
管径の変化とそのときの内圧変化をもとに算出される。
つまり、血管内圧が変化したときにどれだけ血管壁が円
周方向に伸びるかという血管壁の伸展性を表している。
図8の(b)のグラフは、30歳代〜60歳代の正常者
において血管径の変化を前述した式(4)から算出し、
そのときの内圧変化からステイフネスパラメータβを算
出した結果を示している。その結果、ステイフネスパラ
メータβも年齢とともに上昇する。したがってステイフ
ネスパラメータβも図8の(a)の弾性率Eのデータと
類似した傾向を示し、本結果は妥当であると考えられ
る。しかし、このステイフネスパラメータβは血管径の
変化をもとに算出されるため、血管壁の円周全体の平均
的な特性を評価していることになり、アテローム等によ
り血管内腔が著しく変形した場合等には誤差が大きくな
ると考えられる。一方、提案した弾性率Eでは、動脈壁
の厚みの変化を直接計測するため、局所的な評価が可能
で、血管壁が変形した場合にも適用できると考えられ
る。
【0166】また、動脈壁の厚み変化を算出する際に血
管径の変化Δd(t) を同時に算出し、次式によりポアソ
ン比νの算出も行なった。
【0167】
【数53】
【0168】ここで、Δdm ,dd ,Δhm ,hd はそ
れぞれ、動脈直径変化の最大値、拡張期末期の動脈直
径、動脈壁厚変化の最大値、拡張期末期の動脈壁厚であ
る。図8の(c)のグラフは、30歳代〜60歳代の同
じ正常者に関してポアソン比νを算出した結果を示す。
グラフから明らかなように、ポアソン比は年齢とともに
低下するという傾向がみられた。ポアソン比は壁が硬く
なると小さくなるため、この傾向は妥当であると考えら
れる。頸動脈のポアソン比は、腹部大動脈のポアソン比
に比べ小さい値となっているが、この傾向はラットにお
いても確認されており、動脈壁の組成の違い等により生
じると考えられる。しかし、このポアソン比も血管径の
変化の項を含むため、変形した動脈壁の評価の際には局
所的な評価が困難となる可能性がある。
【0169】〔参考文献4〕R.T.Lee, A.J.Grodzinsky,
E.H.Frank, et al: ”Structure-dependent dynamicme
chanical benavior of fibrous caps from human ather
oacleresic plaque?,"Circulation vol.83,pp.1764-177
0, 1991. 〔参考文献5〕F.Hansen, P.Mengell, B.Smesson, et a
l: ”Diameter and compliance in thehuman common ca
rotid artery-variation with age and sex," Ultrasou
nd inMedicine and Biology, vol.21,1995;1-9. 図9は、さらに動脈硬化性向についての何らかの危険因
子を有する被験者群(有危険因子群)を対象として頸動
脈の局所弾性率を計測した結果を示している。図9の
(a)は、46名の有危険因子群について各被験者の動
脈硬化危険率の値に対する頸動脈壁弾性率Eの分布を調
べたもので、両者の間に有意の相関があることがわか
る。図9の(b)は、血管壁に特に顕著な肥厚が認めら
れない46名の有危険因子群と対照のための10名の健
常群について、年齢別の頸動脈壁弾性率Eの分布を調べ
たもので、有危険因子群と健常群との間に有意の差があ
ることがわかる。このように、血管壁厚について従来の
診断法では何らの異常も認められなかったとしても、本
発明システムでは異常を検出することが可能になる。
【0170】また本発明システムによれば、表1に例示
するように、血管壁の各層ごとの局所的弾性率を計測す
ることが容易であるため、血管壁内の粥腫(アテロー
ム)の存在およびその位置と硬さや大きさなどを検出す
ることができ、的確な診断を可能にする。
【0171】 表1:アテロームの内腔面からの各深さごとの弾性率 内腔からの深さ(mm) 弾性率(MPa) 0.00−0.75 3.47 ← 内側 0.75−1.50 0.51 1.50−2.25 0.61 2.25−3.00 0.32 3.00−3.75 0.37 3.75−4.50 1.39 ← 外側 (9)血管病変診断システムの実施例構成 本発明による血管病変診断システムを実現できる好適な
ハードウエア構成の一例を図10に示す。 図10にお
いて、21は超音波診断システム、22は周波数変換
器、23はRF信号発生器、24はプローブ選択器、2
5はフレーム識別信号発生器、26はB/M−mode
選択器、27はサンプル位置発生器、28はトラックボ
ール、29は増幅器、30は直交検波器、31はB−m
odeイメージ表示装置、32は動脈壁用超音波プロー
ブ、33は心臓壁用超音波プローブ、34はサンプリン
グ信号発生器、35はオシロスコープ、36はリアルタ
イムシステム、37,38はシグナルプロセッサDS
P,39はワークステーションEWS,40はA/Dコ
ンバータ・デジタルI/O、41はD/Aコンバータ、
M−modeイメージ表示装置、43はキーボード、4
4はハードディスク装置HDDである。
【0172】図示のシステムは大きく分けると、超音波
により血管を走査して、血管微小振動の情報を含む断層
信号を取得する超音波診断システム21と、断層信号を
実時間で解析して、血管壁の局部的な弾性率変化等の特
性を検出し、画像化して表示するリアルタイムシステム
36の二つからなっている。超音波診断システム21
は、従来からある超音波診断システムの機構と基本的に
は同じものである。リアルタイムシステム36が本発明
の要部であり、超音波診断システム21が取得した断層
信号を実時間で解析処理して、血管の局部的な微小振動
変位の違いから血管壁内の組織の硬さ分布を求め、その
分布を示すカラー画像をB/M−modeやECG,P
CGなどの画像と同時に表示して、病変部の診断を容易
にする。
【0173】超音波診断システム21において、周波数
変換器22は、40MHzのmain clockから
フレームトリガと10MHzのclockを生成する。
フレームトリガによりRF信号発生器23が駆動され、
バースト状の超音波信号が発生される。発生された超音
波信号は、プローブ選択器24により選択されている超
音波プローブ32または33へ出力される。超音波プロ
ーブ32または33は、超音波ビームを被験者の体内に
向けて放射するとともに、その反射波を受信する。受信
された超音波信号は、増幅器29により増幅されてか
ら、直交検波器30で直交検波され、同相信号と直交信
号を生じる。同相信号と直交信号は、アナログ信号形式
でリアルタイムシステム36へ出力される。またフレー
ム識別信号発生器25からは、B/M−mode選択器
26で選択されたmodeに応じたフレーム識別信号が
発生され、リアルタイムシステム36へ出力される。
【0174】サンプル位置発生器27からは、トラック
ボール28の操作に応じて設定されるサンプル取り出し
タイミング位置を規定するサンプル位置信号が発生さ
れ、10MHzのclockとともにサンプリング信号
発生器34に供給される。サンプリング信号発生器34
は、T0 の期間内において、サンプル位置信号が規定す
る中間のタイミング位置により1MHzのサンプリング
クロックを発生し、リアルタイムシステム36のA/D
コンバータ・デジタルI/O40に供給する。
【0175】リアルタイムシステム36においては、A
/Dコンバータ・デジタルI/O40とDSP37が入
力信号処理を行い、DSP38とD/Aコンバータ41
が出力信号処理を行う。DSP37,38とEWS39
がVME−busによって結合されており、EWS39
によって、血管の大振幅変位運動と微小振動、血管壁厚
の時間変化、弾性率等を求める本発明のデータ解析処理
が行われる。これらのデータ解析処理を実行するための
プログラムは、HDD44あるいはメインメモリに格納
されるが、CD−ROMやMOなどのリムーバブル記憶
媒体によってインストールされたり、ネットワーク上の
ファイル装置からダウンロードされるようにすることが
できる。
【0176】B−modeイメージとM−modeイメ
ージはそれぞれ表示装置31と42に表示され、血管壁
の硬さ分布イメージなどはオシロスコープ35を用いて
カラー画像表示される。
【0177】
【発明の効果】本発明によれば、血管運動の振幅数ミク
ロンで数百Hzまでの速い振動成分を高精度に計測でき
るため、血管壁の厚み変化や歪みを数ミクロンのオーダ
ーで計測することを可能にする。この結果、従来不可能
であった動脈壁及び粥腫病変部の弾性特性の定量計測を
高精度に行って、その空間分布をリアルタイムで画像表
示することが可能になり、動脈硬化や狭窄病変の退縮、
粥腫の易破裂性と安定性などを、臨床的に短時間で繰り
返し評価して、的確な診断治療を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本構成図である。
【図2】超音波プローブによる空間走査方法の説明図で
ある。
【図3】血管壁の微小変位変化波形計測処理説明図であ
る。
【図4】反射波の検波波形の(複素波形)のモデルの説
明図である。
【図5】位相の変化だけを許す場合の整合誤差の変化の
説明図である。
【図6】一拍での累積変位を零にする制約の必要性の説
明図である。
【図7】血管壁の弾性率算出法説明図である。
【図8】30才代〜60才代の健常者の頚動脈での計測結
果を示すグラフである。
【図9】頚動脈の局所弾性率についての健常群と有危険
因子群の分布を示すグラフである。
【図10】血管病変診断システムの実施例構成図であ
る。
【符号の説明】
1:人体 2:体表 3:血管 3a:血管の前壁 3b:血管の後壁 3c:病変部 4:超音波プローブ 5:超音波計測部 6:超音波信号発生器 7:直交検波器 8:低域フィルタ 9:高速A/D変換器 10:データ解析処理部 11:大振幅変位運動解析手段 12:微小振動解析手段 13:壁厚解析手段 14:壁弾性率解析手段 15:断層像作成手段

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 超音波ビームを体内の血管に向けて放射
    し、血管壁から反射された超音波信号を検出して検波出
    力する超音波計測部と、出力された検波信号に基づいて
    血管の特性を解析するデータ解析処理部とからなり、該
    データ解析処理部は、 上記検波信号の振幅及び位相を用いて血管壁の内面およ
    び外面の各瞬時的な位置を決定し、心臓拍動に基づく血
    管壁の内面および外面の各大振幅変位運動を精密にトラ
    ッキングする大振幅変位運動解析手段と、 上記大振幅変位運動解析手段により得られた血管壁の内
    面および外面におけるそれぞれの大振幅変位運動の順次
    の位置に基づき、該血管壁の内面および外面における大
    振幅変位運動に重畳されている微小振動の運動速度を求
    める微小振動解析手段と、 上記微小振動解析手段により得られた血管壁の内面およ
    び外面における微小振動の運動速度の差に基づき、血管
    壁厚の時間変化を求める壁厚解析手段とを備え、 上記大振幅変位運動解析手段は、血管壁の内面および外
    面の各々について大振幅変位運動の一拍での変位の和が
    零となる制約条件で解析することを特徴とする血管病変
    診断システム。
  2. 【請求項2】 請求項1において、壁厚解析手段により
    得られた血管壁厚の時間変化に基づき該血管壁の弾性率
    を求める壁弾性率解析手段を備えていることを特徴とす
    る血管病変診断システム。
  3. 【請求項3】 請求項2において、壁厚解析手段は血管
    壁を構成する複数の層の各々ごとにその内面および外面
    の微小振動の運動速度の差により弾性率を求めるもので
    あることを特徴とする血管病変診断システム。
  4. 【請求項4】 請求項1ないし請求項3において、超音
    波ビームの放射位置を連続的に変化させて、血管壁厚の
    変化の断層像を作成する断層像作成手段を備えているこ
    とを特徴とする血管病変診断システム。
  5. 【請求項5】 超音波を体内の血管に向けて放射し、血
    管壁から反射される超音波信号を検波して得られる検波
    信号の振幅および位相を用いて血管壁の内面および外面
    の各瞬時的な位置を決定し、心臓拍動に基づく血管壁の
    内面および外面の各大振幅変位運動を精密にトラッキン
    グし、その際、血管壁の内面および外面の各大振幅運動
    の一拍の変位の和が零となるように補正する大振幅変位
    運動解析機能と、 上記大振幅変位運動解析機能により得られた血管壁の内
    面および外面におけるそれぞれの大振幅変位運動の順次
    の位置に基づき、該血管壁の内面および外面における大
    振幅変位運動に重畳されている微小振動の運動速度を求
    める微小振動解析機能と、 上記微小振動解析機能により得られた血管壁の内面およ
    び外面における微小振動の運動速度に基づき、その差を
    とって時間積分し、血管壁厚の時間変化を求める壁厚解
    析機能と、 上記壁厚解析機能により得られた血管壁厚の時間変化に
    基づき、該血管壁の弾性率を求める壁弾性率解析機能
    と、を含むプログラムを格納した診断プログラム記憶媒
    体。
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