WO2023113035A1 - 溶射皮膜、摺動部材及びピストンリング - Google Patents

溶射皮膜、摺動部材及びピストンリング Download PDF

Info

Publication number
WO2023113035A1
WO2023113035A1 PCT/JP2022/046542 JP2022046542W WO2023113035A1 WO 2023113035 A1 WO2023113035 A1 WO 2023113035A1 JP 2022046542 W JP2022046542 W JP 2022046542W WO 2023113035 A1 WO2023113035 A1 WO 2023113035A1
Authority
WO
WIPO (PCT)
Prior art keywords
thermal spray
powder
spray coating
sic
nicr
Prior art date
Application number
PCT/JP2022/046542
Other languages
English (en)
French (fr)
Inventor
真人 山口
光夫 伊藤
瑞成 丹野
健 相沢
Original Assignee
日本ピストンリング株式会社
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by 日本ピストンリング株式会社 filed Critical 日本ピストンリング株式会社
Priority to CN202280030300.7A priority Critical patent/CN117255872A/zh
Priority to SE2351518A priority patent/SE2351518A1/en
Priority to KR1020237037359A priority patent/KR20230162694A/ko
Publication of WO2023113035A1 publication Critical patent/WO2023113035A1/ja

Links

Images

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C23COATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; CHEMICAL SURFACE TREATMENT; DIFFUSION TREATMENT OF METALLIC MATERIAL; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL; INHIBITING CORROSION OF METALLIC MATERIAL OR INCRUSTATION IN GENERAL
    • C23CCOATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; SURFACE TREATMENT OF METALLIC MATERIAL BY DIFFUSION INTO THE SURFACE, BY CHEMICAL CONVERSION OR SUBSTITUTION; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL
    • C23C4/00Coating by spraying the coating material in the molten state, e.g. by flame, plasma or electric discharge
    • C23C4/04Coating by spraying the coating material in the molten state, e.g. by flame, plasma or electric discharge characterised by the coating material
    • C23C4/06Metallic material
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C23COATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; CHEMICAL SURFACE TREATMENT; DIFFUSION TREATMENT OF METALLIC MATERIAL; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL; INHIBITING CORROSION OF METALLIC MATERIAL OR INCRUSTATION IN GENERAL
    • C23CCOATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; SURFACE TREATMENT OF METALLIC MATERIAL BY DIFFUSION INTO THE SURFACE, BY CHEMICAL CONVERSION OR SUBSTITUTION; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL
    • C23C4/00Coating by spraying the coating material in the molten state, e.g. by flame, plasma or electric discharge
    • C23C4/04Coating by spraying the coating material in the molten state, e.g. by flame, plasma or electric discharge characterised by the coating material
    • C23C4/10Oxides, borides, carbides, nitrides or silicides; Mixtures thereof
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C23COATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; CHEMICAL SURFACE TREATMENT; DIFFUSION TREATMENT OF METALLIC MATERIAL; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL; INHIBITING CORROSION OF METALLIC MATERIAL OR INCRUSTATION IN GENERAL
    • C23CCOATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; SURFACE TREATMENT OF METALLIC MATERIAL BY DIFFUSION INTO THE SURFACE, BY CHEMICAL CONVERSION OR SUBSTITUTION; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL
    • C23C4/00Coating by spraying the coating material in the molten state, e.g. by flame, plasma or electric discharge
    • C23C4/12Coating by spraying the coating material in the molten state, e.g. by flame, plasma or electric discharge characterised by the method of spraying
    • C23C4/134Plasma spraying
    • FMECHANICAL ENGINEERING; LIGHTING; HEATING; WEAPONS; BLASTING
    • F16ENGINEERING ELEMENTS AND UNITS; GENERAL MEASURES FOR PRODUCING AND MAINTAINING EFFECTIVE FUNCTIONING OF MACHINES OR INSTALLATIONS; THERMAL INSULATION IN GENERAL
    • F16JPISTONS; CYLINDERS; SEALINGS
    • F16J9/00Piston-rings, e.g. non-metallic piston-rings, seats therefor; Ring sealings of similar construction
    • F16J9/26Piston-rings, e.g. non-metallic piston-rings, seats therefor; Ring sealings of similar construction characterised by the use of particular materials

Abstract

【課題】耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い溶射皮膜、その溶射皮膜が形成された摺動部材及びピストンリングを提供する。 【解決手段】基材2の少なくとも摺動面に溶射原料粉末を溶射して設けられる溶射皮膜であって、MoとNiCrとSiCとを有するように構成して上記課題を解決した。溶射皮膜3の成膜方法は、基材2の少なくとも摺動面に溶射原料粉末を溶射してなる溶射皮膜3を成膜する方法であって、その溶射皮膜3は、MoとNiCrとSiCとを有し、その溶射原料粉末は、前記SiCを構成するSiC粉末と、前記Moを構成するMo粉末及び前記NiCrを構成するNiCr粉末の一方又は両方とからなるようにした。

Description

溶射皮膜、摺動部材及びピストンリング
 本発明は、溶射皮膜、摺動部材及びピストンリングに関する。更に詳しくは、本発明は、耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い溶射皮膜、その溶射皮膜が形成された摺動部材及びピストンリングに関する。
 内燃機関の高出力化と高性能化に伴い、ピストンリング等の摺動部材の使用環境はますます厳しくなっており、良好な耐摩耗性、耐スカッフ性を有する摺動部材が要求されている。
 従来、内燃機関用ピストンリング等の摺動部材の耐摩耗性や耐スカッフ性を改善する手段として、例えば自動車用のピストンリングにおいては、その摺動面にPVD皮膜や窒化処理層等の表面処理が施されている。これらの表面処理のうち、特にPVD皮膜は、優れた耐摩耗性を示すことから、過酷な運転条件の下で使用されるピストンリングに対する表面処理として広く実用に供されている。また、船舶用等の大きいサイズのピストンリングにおいては、その摺動面に硬質クロムめっき皮膜やプラズマ溶射法によるセラミック皮膜等の表面処理が施されている。これらの表面処理のうち、特にプラズマ溶射法により形成した炭化クロム等の硬質セラミック相と金属相とからなるサーメット溶射皮膜は、耐摩耗性と耐スカッフ性に優れている。
 船舶用等の大きいサイズのピストンリングにおいては、その摺動面に溶射皮膜を形成する場合が多い。こうしたピストンリングにおいては、自身の摩耗が小さい特性(耐摩耗性)を有することに加え、相手材の摩耗が小さい特性(相手攻撃性が低い)を有することが重要である。特に船舶用のピストンリングでは、定期的にピストンリングを交換しながら運航するため、ピストンリング自身の耐摩耗性よりも、耐スカッフ性や相手材であるライナの摩耗を低減できることに重きがおかれる傾向がある。さらに、交換した後においては、ライナに対する初期なじみ性に優れることが要求されている。
 こうした要求に対し、特許文献1では、耐摩耗性と耐スカッフ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い溶射皮膜が形成されてなるピストンリングが提案されている。このピストンリングは、Mo粉末とNi基自溶性合金粉末とCu又はCu合金粉末とを少なくとも含む混合粉末を溶射原料粉末として溶射してなる溶射皮膜を摺動面に形成したものである。
 また、溶射被膜に含まれる硬質粒子としてのセラミック成分を増加させて耐摩耗性を高める手段が提案されている。一例として、特許文献2では、溶射被膜中のセラミックス成分を増加させた場合にピストリング外周面とライナ内面との摩耗量が増大するという問題を解決しようとしたピストンリング用の溶射被膜が提案されている。この溶射被膜は、粉末組成物をプラズマ溶射法によってピストンリング基材の外周摺動面上に溶射して得られる溶射被膜であって、粉末組成物は、モリブデン粒子、ニッケルクロム合金粒子、及び所定範囲の粒子径の炭化クロム粒子を含むものである。
 また、特許文献3では、耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い溶射皮膜が密着性よく形成されてなるピストンリングが提案されている。このピストンリングは、ピストンリング基材の少なくとも摺動面に、Mo粒子と、Ni基自溶性合金粒子と、Co合金粒子及び/又はCr粒子とを有する溶射皮膜が設けられているものである。
WO2010/098382 WO2014/091831 特開2018-165402号公報
 エンジン、特に舶用エンジンについては、今後のカーボンニュートラルに向けた社会的取り組みや、燃料油のガス化への取り組みにより、燃焼遅れに伴う油膜切れによるスカッフや異常摩耗が懸念されている。こうした懸念を解消するには、前記した従来の技術では十分に対応できないおそれがある。
 本発明は、燃焼遅れに伴う油膜切れによるスカッフや異常摩耗の発生等の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い溶射皮膜、その溶射皮膜が形成された摺動部材及びピストンリングを提供することにある。
 本発明に係る溶射皮膜は、基材の少なくとも摺動面に溶射原料粉末を溶射して設けられる溶射皮膜であって、MoとNiCrとSiCとを有する、ことを特徴とする。この発明によれば、溶射皮膜が特にSiCを含有することにより、耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い溶射皮膜とすることができ、特に燃焼遅れに伴う油膜切れによるスカッフや異常摩耗の発生等の課題を解決することができる。
 本発明に係る溶射皮膜において、前記Moと前記NiCrと前記SiCとの合計の含有割合を100質量%としたとき、前記NiCrが20質量%以上50質量%以下の範囲内であり、前記SiCが1質量%以上40質量%以下の範囲内であり、残りがMoの含有量であるように構成される。
 本発明に係る溶射皮膜において、前記溶射原料粉末が、前記SiCを構成するSiC粉末と、前記Moを構成するMo粉末及び前記NiCrを構成するNiCr粉末の一方又は両方とからなる。
 比重が小さいSiC粉末と比重の大きいMo粉末やNiCr粉末とをそれぞれ溶射原料粉末とすると、比重の小さいSiC粉末を被溶射面に安定して供給できない。この発明によれば、SiC粉末とMo粉末及びNiCr粉末の一方又は両方とからなる溶射原料粉末とすることで、SiCを含む溶射原料粉末を被溶射面に安定して供給できる。
 本発明に係る溶射皮膜において、前記溶射原料粉末は、前記SiC粉末が、前記Mo粉末及び前記NiCr粉末の一方又は両方に付着している。
 この発明によれば、SiC粉末がMo粉末及びNiCr粉末の一方又は両方に付着した溶射原料粉末を用いるので、溶射皮膜には、SiCが局所的に偏在することなく均等に分布している。その結果、溶射皮膜の面内方向及び厚さ方向のいずれにおいても、均質な特性(耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い)を実現することができる。
 本発明に係る溶射皮膜において、前記SiCの面積率が、0.5~22%の範囲内である。この発明によれば、SiCの面積率を上記範囲とすることにより、溶射皮膜に良好な耐摩耗性を付与することができるとともに、ライナ材の耐摩耗性を含めたトータルの耐摩耗性を良好なものにすることができる。なお、面積率については、溶射皮膜の摺動面の法線に平行に切断した断面を研磨し、その断面を電子顕微鏡画像で拡大した写真を撮影し、その撮影画像を画像解析して測定したものである。
 本発明に係る摺動部材は、上記本発明に係る溶射皮膜が設けられている。また、本発明に係るピストンリングは、上記本発明に係る溶射皮膜が設けられている。
 本発明に係る溶射皮膜の成膜方法は、基材の少なくとも摺動面に溶射原料粉末を溶射してなる溶射皮膜の成膜方法であって、前記溶射皮膜は、MoとNiCrとSiCとを有し、前記溶射原料粉末は、前記SiCを構成するSiC粉末と、前記Moを構成するMo粉末及び前記NiCrを構成するNiCr粉末の一方又は両方とからなる、ことを特徴とする。
 比重が小さいSiC粉末と比重の大きいMo粉末やNiCr粉末とを混合した溶射原料粉末とすると、比重の小さいSiC粉末を被溶射面に安定して供給できない。この発明によれば、SiC粉末とMo粉末及びNiCr粉末の一方又は両方とからなる溶射原料粉末とすることで、SiCを含む溶射原料粉末を被溶射面に安定して供給できる。その結果、各成分(Mo,NiCr,SiC)の元素が局所的に偏在することなく均等に分布させることができ、溶射皮膜の面内方向及び厚さ方向のいずれにおいても、均質な特性(耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い)を実現することができる。
 本発明によれば、耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い溶射皮膜、その溶射皮膜が形成された摺動部材及びピストンリングを提供することができる。特に、燃焼遅れに伴う油膜切れによるスカッフや異常摩耗の発生等の課題を解決することができる。
本発明に係るピストンリングの一例を示す断面図である。 実験1で得た各溶射原料粉末の表面にSiC粉末が付着している形態を示す模式図である。 実験2で得た溶射皮膜の電子顕微鏡画像(反射電子像)であり、(A)は試料9を用いた溶射皮膜、(B)は試料10を用いた溶射皮膜、(C)は試料11を用いた溶射皮膜、(D)は試料12を用いた溶射皮膜である。である。 実験3で得た溶射皮膜の電子顕微鏡画像(反射電子像)であり、(A)は75μm以下に篩い分けした原料粉末を用いた溶射皮膜であり、(B)は100μm以下に篩い分けした原料粉末を用いた溶射皮膜であり、(C)は150μm以下に篩い分けした原料粉末を用いた溶射皮膜であり、(D)は篩い分けしないそのままの原料粉末を用いた溶射皮膜ある。 摩耗量測定に用いた高負荷型摩耗試験機の構成原理図である。 アムスラー型摩耗試験方法の説明図である。
 以下、本発明に係る溶射皮膜、摺動部材及びピストンリングについて詳しく説明する。なお、本発明は、その要旨の範囲内であれば、以下の実施形態に限定されない。
 [溶射皮膜、摺動部材、ピストンリング]
 本発明に係る溶射皮膜3は、図1等に示すように、基材2の少なくとも摺動面に溶射原料粉末を溶射して設けられる溶射皮膜であって、MoとNiCrとSiCとを有する。この溶射皮膜3は、溶射皮膜が特にSiCを含有することにより、耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い溶射皮膜とすることができ、特に燃焼遅れに伴う油膜切れによるスカッフや異常摩耗の発生等の課題を解決することができる。
 本発明に係る摺動部材及びピストンリング1は、上記した溶射皮膜3が設けられている。
 本発明に係る溶射皮膜3の成膜方法は、基材2の少なくとも摺動面に溶射原料粉末を溶射してなる溶射皮膜3を成膜する方法であって、その溶射皮膜3は、MoとNiCrとSiCとを有し、その溶射原料粉末は、前記SiCを構成するSiC粉末と、前記Moを構成するMo粉末及び前記NiCrを構成するNiCr粉末の一方又は両方とからなる、ことを特徴とする。この溶射皮膜3では、比重が小さいSiC粉末と比重の大きいMo粉末やNiCr粉末とを混合した溶射原料粉末とすると、比重の小さいSiC粉末を被溶射面に安定して供給できない。この発明によれば、SiC粉末とMo粉末及びNiCr粉末の一方又は両方とからなる溶射原料粉末とすることで、SiCを被溶射面に安定して供給できる。その結果、各成分(Mo,NiCr,SiC)の元素が局所的に偏在することなく均等に分布させることができ、溶射皮膜3の面内方向及び厚さ方向のいずれにおいても、均質な特性(耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い)を実現することができる。
 各構成要素を以下に詳しく説明する。以下においては、溶射皮膜3は摺動部材の摺動面に設けられるものとして説明し、その摺動部材の代表例としてピストンリング1について説明する。ただし、以下の説明はピストンリング1のみに限定されない。なお、本願では、溶射を行う際の溶射原料粉末を構成するものを「粉末」という。
 <基材>
 溶射皮膜3を形成する対象となる基材2としては、ピストンリング1の基材として用いられている各種のものを挙げることができ、特に限定されない。例えば各種の鋼材、ステンレス鋼材、鋳物材、鋳鋼材等を適用することができる。これらのうち、マルテンサイト系ステンレス鋼、クロムマンガン鋼(SUP9材)、クロムバナジウム鋼(SUP10材)、シリコンクロム鋼(SWOSC-V材)等を好ましく挙げることができる。また、鋳物材としては、ボロン鋳鉄、片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、CV鋳鉄等を好ましく挙げることができる。基材2は、一般的なピストンリングを製造する手段によって作製される。
 基材2には、必要に応じて前処理を行ってもよい。前処理としては、表面研磨して表面粗さを調整する処理を挙げることができる。この表面粗さの調整は、例えば基材2の表面をダイヤモンド砥粒でラッピング加工して表面研磨する方法等を例示できる。
 <溶射皮膜>
 溶射皮膜3は、基材2の少なくとも摺動面に設けられる。この溶射皮膜3は、MoとNiCrとSiCとを有するものである。溶射皮膜3を成膜するための溶射原料粉末は、前記のSiCを構成するSiC粉末と、前記のMoを構成するMo粉末及び前記のNiCrを構成するNiCr粉末の一方又は両方とからなる溶射原料粉末が用いられる。溶射皮膜3は、その溶射原料粉末を被摺動面に溶射して成膜される。
 溶射皮膜3の成分組成は、MoとNiCrとSiCとの合計の含有割合を100質量%としたとき、NiCrが20質量%以上50質量%以下の範囲内であり、SiCが1質量%以上40質量%以下の範囲内であり、残りがMoであるように構成される。残りとなるMoの含有割合は、約40質量%以上60質量%以下の範囲内となる。含有割合は質量比であり、MoとNiCrとSiCとの合計の含有量が100質量%となるようにしてそれぞれの質量%を算出する。これら以外の成分が含まれている場合は、その成分を除いた合計を100質量%として算出する。
 溶射皮膜3は、本発明の奏する効果を阻害しない範囲内で、例えばCo,B,Si,Cu,Al,Fe等を任意に含んでいてもよい。なお、溶射皮膜3を構成する各成分と、溶射原料粉末を構成する各成分とは通常同じであるので、溶射皮膜3を構成する各成分の含有割合は、溶射原料粉末を構成する各粉末成分の含有割合と言うことができる。したがって、溶射皮膜3を構成する各成分を所望の割合とするためには、溶射原料粉末を構成する各粉末の配合量を調整することで実現できる。なお、溶射皮膜3を構成する各成分の含有量は、後方散乱測定装置を用いて定量して得ることができる。溶射原料粉末は、上記した各粉末をメカニカルアロイングしてなる粉末であってもよいし、造粒して得た造粒粉末であってもよいし、それ以外の加工手段を経て得られた粉末であってもよい。後述する実施例では造粒して得た造粒粉末を溶射原料粉末として用いているが、本発明はそれに限定されない。溶射皮膜3を構成する各成分の含有量は、溶射原料粉末を構成する各粉末成分の配合量と通常は一致するので、溶射皮膜3の各成分の含有量を測定することによって、溶射原料粉末を構成する各粉末の配合割合を特定することができる。
 (Mo)
 Moは、溶射皮膜3を構成する主要成分である。Moは、NiCrとSiCとを合計した含有量を100%とした場合に、NiCrとSiC以外の残りの含有量として算出でき、例えば40質量%以上、60質量%以下の範囲内で含まれる。高融点金属であるMoが上記範囲で含まれることにより、耐摩耗性及び耐スカッフ性に優れ、基材2との密着性に優れた溶射皮膜3を得ることができる。Moの含有量が40質量%未満では、得られた溶射皮膜3の耐摩耗性と耐スカッフ性が劣ることがある。一方、Moの含有量が60質量%を超えると、コスト高の原因になる。
 溶射皮膜3を構成するMoの面積率は、35~65%であることが好ましい。Moがこの範囲の面積率であることにより、上記のように、耐摩耗性及び耐スカッフ性に優れ、基材2との密着性に優れた溶射皮膜3を得ることができる。なお、耐スカッフ性の観点からは、45~55%であることがより好ましい。
 溶射皮膜3を構成するMoは電子顕微鏡の二次電子像や反射電子像からわかるように、層状のMoがうねりながら重なり合う溶射皮膜特有の形態として溶射皮膜3内に存在している。Moのビッカース硬度は320~420HV0.01の範囲内である。なお、本願でのビッカース硬度は、マイクロビッカース硬度計(株式会社アカシ製)を用い、荷重0.01kgfでランダムに5箇所を測定し、得られた結果の平均値で表した。
 Moを形成するためのMo粉末の平均粒径は、例えば造粒焼結してなるMo粉末においては、10μm以上、50μm以下の範囲内であることが好ましく、20μm以上、40μm以下の範囲内が密着性の観点からより好ましい。本願では、このMo粉末や後述する他の粉末の平均粒径は、粒子径分布測定装置(例えばマイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300EXII)で測定したD50の値で表している。なお、Mo粉末の形状等は特に限定されず、Mo粉末を造粒焼結してなるMo粉末であってもよい。造粒焼結してなるMo粉末は、造粒していない小径のMo粉末を造粒したのち、加熱して焼結させることにより得られる。造粒に用いられる小径のMo粉末の平均粒径は、例えば1~10μmである。
 (NiCr)
 NiCrは、溶射皮膜3を構成する主要要素であり、NiCrであれば、NiCr自溶性合金でも、自溶性合金ではないNiCr合金のいずれでもよい。なお、NiCr自溶性合金は、NiとCrの合金がBやSi等のフラックス成分を含有するものであり、一例としては、14~18質量%のCrと、2~4質量%のBと、3~4.5質量%のSiと、2~5質量%のFeと、微量の不可避不純物と、残りのNiを含む。自溶性合金ではないNiCr合金は、上記例のような所定量のBやSiやFeを含まず、一例としては、19~22質量%のCrと、微量の不可避不純物と、残りのNiを含む。NiCr自溶性合金とNiCr合金との違いは、NiCr自溶性合金にはBやSi等が所定の割合で含まれた合金相となっていることから、BやSi等が所定の割合で含まれていないNiCr合金とは、蛍光X線による分析で両者を判別することができる。
 NiCrは、MoとNiCrとSiCとの合計の含有割合を100質量%としたとき、20質量%以上、50質量%以下の範囲内で含まれることが好ましい。この範囲とすることにより、良好な耐摩耗性が得られるとともに、NiCrはベース金属であるMoのバインダーとしても作用して密着力を高めることができる。NiCrの含有量が20質量%未満では、耐摩耗性や密着性の効果が低下することがある。一方、NiCrの含有量が50質量%を超えると、耐スカッフ性が低下することがある。より好ましい含有量は、25質量%以上、45質量%以下の範囲内であり、耐摩耗性、密着性及び耐スカッフ性を向上させることができる。
 溶射皮膜3を構成するNiCrの面積率は、30~65%であることが好ましい。NiCrがこの範囲の面積率であることにより、上記のように、溶射皮膜3に良好な密着性と耐摩耗性を付与することができる。なお、密着性や耐摩耗性の観点からは、45~55%であることがより好ましい。
 溶射皮膜3を構成するNiCrは電子顕微鏡の二次電子像や反射電子像からわかるように、層状のNiCrがうねりながら重なり合う溶射皮膜特有の形態として溶射皮膜3内に存在している。NiCrのビッカース硬度は、Moのビッカース硬度と同様に測定できる。NiCrがNiCr自溶性合金である場合のビッカース硬度は700~850HV0.01の範囲内であり、NiCrが自溶性合金ではないNiCr合金の場合のビッカース硬度は400~550HV0.01の範囲内である。
 NiCr粉末の平均粒径は、例えば15μm以上、53μm以下の範囲内であることが好ましく、15μm以上、30μm以下の範囲内が耐摩耗性の観点からより好ましい。NiCr粉末の平均粒径も、Mo粉末の場合と同様、粒子径分布測定装置(例えばマイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300EXII)で測定したもので表している。なお、NiCr粉末の形状等も特に限定されず、造粒焼結粉末であってもよい。
 (SiC)
 SiCは、溶射皮膜3を構成する主要要素である。SiCは、MoとNiCrとSiCとの合計の含有割合を100質量%としたとき、1質量%以上、40質量%以下の範囲内で含まれることが好ましい。本発明では、SiCをこの範囲とすることにより、耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い溶射皮膜3とすることができ、特に燃焼遅れに伴う油膜切れによるスカッフや異常摩耗の発生等の課題を解決することができた。SiCの含有量が1質量%未満では、耐摩耗性が低下することがある。一方、SiCの含有量が40質量%を超えると、相手攻撃性が悪化することがある。より好ましい含有量は、3質量%以上、20質量%以下の範囲内であり、上記作用効果をより安定して高めることができ、特に耐摩耗性、詳しくは溶射皮膜3の耐摩耗性を良好で安定したものにすることができるとともに、ライナ材の耐摩耗性を含めたトータルの耐摩耗性を良好で安定したものにすることができる。
 溶射皮膜3を構成するSiCの面積率は、0.5~22%である。SiCの面積率がこの範囲であることにより、溶射皮膜3の耐摩耗性を良好なものにすることができるとともに、ライナ材の耐摩耗性を含めたトータルの耐摩耗性を良好なものにすることができる。トータルの耐摩耗性をより良好なものにすることができるSiCの面積率は1.5~18%であり、より好ましくは1.5~12%である。
 溶射皮膜3を構成するSiCは電子顕微鏡の二次電子像や反射電子像からわかるように、層状のMoと層状のNiCrとがうねりながら重なり合う溶射皮膜特有の形態の溶射皮膜3内に、均等に点在して分布している。なお、SiCは、MoやNiCrのように層状に存在していないのでビッカース硬度は測定できないが、一般的に知られているバルクでのSiCのビッカース硬度と同様であれば、2000~2500HV0.05程度である。
 SiCは比重が小さいので、比重が小さいSiC粉末と比重の大きいMo粉末やNiCr粉末とをそれぞれ溶射原料粉末とすると、SiC粉末として被溶射面に安定して供給できない。本発明では、SiC粉末とMo粉末及びNiCr粉末の一方又は両方とからなる溶射原料粉末とすることで、SiCを含む溶射原料粉末を被溶射面に安定して供給した点に特徴がある。
 SiC粉末の平均粒径は、例えば1μm以上、4μm以下の範囲内であることが好ましく、2μm以上、3μm以下の範囲内が相手攻撃性の観点からより好ましい。SiC粉末の平均粒径も、Mo粉末やNiCr粉末の場合と同様、粒子径分布測定装置(例えばマイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300EXII)で測定したもので表している。
 溶射原料粉末は、SiC粉末が、Mo粉末及びNiCr粉末の一方又は両方に付着している。本発明では、SiC粉末がMo粉末及びNiCr粉末の一方又は両方に付着した粉末を溶射原料粉末として用いるので、溶射皮膜3には、SiCが局所的に偏在することなく均等に分布している。その結果、溶射皮膜3の面内方向及び厚さ方向のいずれにおいても、均質な特性(耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い)を実現することができる。なお、「付着」とは、SiC粉末がMo粉末やNiCr粉末の表面の一部又は全部に存在していることを意味している。付着形態は特に限定されず、化学的作用での付着、物理的作用での付着、機械的作用での圧着のいずれであってもよい。こうした付着形態には、例えば既述したメカニカルアロイングを経た機械的作用での圧着による付着形態等も含まれ、金属粉、合金粉や酸化物を混合分散し、粉砕と圧着を繰り返してSiC粉末をMo粉末やNiCr粉末の表面の一部又は全部に刺さり込ませることで、金属を合金化したり、粒子を均一に分布させたりするような場合も含まれる。
 (他の元素)
 溶射原料粉末は、他の成分等として、Cr粉末や、Cu粉末等を本発明の効果を阻害しない程度で必要に応じて任意に含んでいてもよい。また、Fe,C,Mn,S等のその他の成分を、本発明の効果を阻害しない程度に含んでいてもよい。なお、前記その他の成分は、不純物として不可避的に含むことがある。
 (溶射皮膜の成膜手段)
 溶射皮膜3は、プラズマ溶射によってピストンリング1の摺動面に形成されている。プラズマ溶射は、プラズマ溶射ガンで生じるプラズマジェットを用いて上記した溶射原料粉末を用い、その溶射原料粉末を加熱・加速し、溶融又はそれに近い状態にして基材2に吹き付ける溶射のことである。原理は公知のとおりであるが、陰極と陽極との間に電圧をかけて直流アークを発生させると、後方から送給される作動ガス(アルゴンガス等)が電離し、プラズマを発生する。そのプラズマフレーム中に溶射原料粉末をアルゴンガス等で送給し、基材2に吹き付けることによって溶射皮膜3が基材2上に形成される。本発明に係る溶射皮膜3はこうしたプラズマ溶射で形成されたものであり、HVOF溶射に比べて溶射原料粉末が融点に近い温度で溶射するので、本発明特有の効果を奏することができる。摺動面としては、ピストンリング1がシリンダライナ(図示しない)に接触して摺動する外周摺動面を挙げることができるが、その他の面に設けられていてもよい。
 なお、本発明を構成する溶射皮膜3の形成手段ではないが、HVOF(High Velocity Oxygen Fuelの略)溶射は、酸素と燃料を使用した高速度ジェットフレームの溶射のことである。具体的には、高圧の酸素及び燃料の混合ガスを燃焼室内で燃焼させ、その燃焼炎がノズルにより絞られ、大気に出た瞬間に急激なガス膨張が発生し、超音速のジェットとなる。高い加速エネルギーにより加速された溶射原料粉末は、ほとんど酸化や組成変化せず、高密度の溶射皮膜3が基材2上に形成される。このHVOF溶射は、成膜スピードは速いものの、温度を高くしないので、溶射原料粉末はあまり溶融せずに溶射される。そのため、溶射原料粉末としては、小さな微細粒が用いられている。
 溶射皮膜3の厚さは特に限定されないが、例えば200μm以上、600μm以下の範囲内であることが好ましい。これらの厚さ範囲を有することにより、本発明特有の効果を奏することができる。
 (応用例)
 応用例としては、溶射表面層(図示しない)を溶射皮膜3の上に任意に設けてもよい。溶射表面層は特に限定されないが、例えばAl,Fe,Cuを含有する層、等を挙げることができる。溶射表面層は、相手攻撃性をより一層低下させること、初期なじみ性を向上させること、等を目的として設けてもよい。こうした溶射表面層も、溶射皮膜3と同様のプラズマ溶射やアーク溶射、ガス溶射等によって溶射皮膜3上に形成することができる。
 [溶射皮膜の成膜方法]
 本発明に係る溶射皮膜3の成膜方法は、基材2の少なくとも摺動面に溶射原料粉末を溶射してなる溶射皮膜3を成膜する方法であって、その溶射皮膜3は、MoとNiCrとSiCとを有し、その溶射原料粉末は、前記SiCを構成するSiC粉末と、前記Moを構成するMo粉末及び前記NiCrを構成するNiCr粉末の一方又は両方とからなる、ことを特徴とする。
 成膜された溶射皮膜3では、比重が小さいSiC粉末と比重の大きいMo粉末やNiCr粉末とを混合した溶射原料粉末とすると、比重の小さいSiC粉末を被溶射面に安定して供給できない。この発明によれば、SiC粉末とMo粉末及びNiCr粉末の一方又は両方とからなる溶射原料粉末とすることで、SiCを被溶射面に安定して供給できる。その結果、各成分(Mo,NiCr,SiC)の元素が局所的に偏在することなく均等に分布させることができ、溶射皮膜3の面内方向及び厚さ方向のいずれにおいても、均質な特性(耐摩耗性、耐スカッフ性及び初期なじみ性に優れ、かつ相手攻撃性の低い)を実現することができる。また、本発明に係る摺動部材やピストンリング1は、摺動面に溶射皮膜3を成膜して製造される。
 実験例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
 [実験1/溶射原料粉末の作製]
 実験1は、異なる成分組成の溶射原料粉末(試料1~14)を作製した。この溶射原料粉末は、平均粒径が44μmのMo粉末と、平均粒径が44μmのNiCr粉末(NiCr自溶性合金粉末を使用)と、平均粒径が3μmのSiC粉末とを、有機バインダーの存在下で造粒した造粒粉末を用いた。表1には、試料1~14の溶射原料粉末を構成する各粒子の配合量(重量%)を示した。なお、比較試料の溶射原料粉末は、平均粒径が31μmのMo粉末(50質量%)と、平均粒径が22μmのNiCr粉末(15質量%)と、平均粒径が13μmの炭化クロム粉末(35質量%)との混合粉末を有機バインダーの存在下で造粒した造粒粉末を用いた。なお、試料1~14及び比較試料の溶射原料粉末の平均粒径は、いずれもおよそ45~55μmの範囲内であった。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
 なお、NiCr粉末の成分組成は、Ni:71質量%、Cr:17質量%、Si:4質量%、B:3質量%、Fe:4質量%、残:不可避不純物であった。成分組成の分析は、後方散乱測定装置(株式会社NHVコーポレーション製)を用いて定量した値であり、平均粒径は、粒子径分布測定装置(例えばマイクロトラック・ベル株式会社製のMT3300EXII)で測定したD50の値で表している。
 (粉末形態)
 図2は、この実験1で得た各溶射原料粉末の表面にSiC粉末が付着している形態を示す模式図である。各試料の溶射原料粉末において、比重の小さいSiC粉末は、比重の大きいMo粉末とNiCr粉末からなる造粒粉末に付着して存在していることを電子顕微鏡観察により確認した。溶射原料粉末の各成分組成は、各粉末の含有量を変えることで容易に調製でき、溶射原料粉末の平均粒径は、造粒条件や造粒後の篩い分けにより容易に調製できることが確認できた。
 [実験2/各成分の面積率]
 実験1で得られた試料1~14及び比較試料の溶射原料粉末を用い、以下の条件でプラズマ溶射し、ボロン鋳鉄からなる基材2の摺動面に厚さ300μmの溶射皮膜3を形成した。プラズマ溶射は、エリコンメテコ社製のF4MB-XLプラズマ溶射ガンを用いて行い、電圧60~80V、電流500~600Aで溶射した。得られた溶射皮膜3の成分組成は、上記同様、後方散乱測定装置(株式会社NHVコーポレーション製)を用いて定量したところ、溶射原料粉末の組成と同じであった。
 (反射電子像)
 図3は、この実験2で得た溶射皮膜3の電子顕微鏡画像(反射電子像)であり、(A)は試料9を用いた溶射皮膜、(B)は試料10を用いた溶射皮膜、(C)は試料11を用いた溶射皮膜、(D)は試料12を用いた溶射皮膜である。図3の反射電子像に示すように、Moは薄い灰色で示される部分であり、NiCrは濃い灰色で示される部分であり、それらMoとNiCrはいずれも層状であり、層状のMoと層状のNiCrとがうねりながら重なり合う溶射皮膜特有の形態を示しているのが確認された。一方、SiCは、白色で示される部分であり、溶射皮膜内に均等に分布しているのが確認された。
 (SiCの面積率)
 SiCの面積率を測定した。面積率は、得られた溶射皮膜の摺動面の法線に平行(又はリング軸方向)に切断した断面を研磨し、その断面を電子顕微鏡画像で500倍に拡大した写真を撮影し、その撮影画像を画像解析ソフトで解析してSiCの面積率(「断面面積率」という。)を測定した。前記の研磨は、180番、240番、320番、600番、800番、1200番と粒度を順次小さくした研磨紙で行い、最後にアルミナ(酸化アルミニウム)の1.0μm粉末を用いて20秒間バフ研磨し、得られた研磨面を面積率の観察試料とした。表2に面積率の結果を示した。
 表2の結果、図3の結果及び後述の図4の結果からわかるように、SiCの面積率の大小にかかわらず、SiCの分布の程度は同程度に均一であることがわかった。分布したSiCの大きさを、マッピング画像から測定したSiC画像の長径と短径のうち、長径の平均値で評価したところ、3~30μmであった。SiCの面積率が大きいほど長径の平均値は大きく、SiCの面積率が小さいほど長径の平均値は小さくなった。具体的には、SiCの面積率が0.5~1.5%の範囲ではSiCの長径の平均値は3~8μmであり、SiCの面積率が1.5~12%の範囲ではSiCの長径の平均値は5~15μmであり、SiCの面積率が12~18%の範囲ではSiCの長径の平均値は10~30μmであった。なお、平均値は、分散しているSiC画像を無作為に10箇所測定したものの平均値である。
 (耐摩耗性)
 摩耗試験により溶射皮膜の耐摩耗性及び相手材の耐摩耗性を評価した。摩耗試験は、図5に示す高負荷型摩耗試験機6を使用し、試料1~14で得た溶射皮膜を設けた固定片である供試材7を用い、供試材7(固定片)と、回転片である相手材8とを接触させ、荷重Pを負荷して行った。ここでの供試材7は、片状黒鉛鋳鉄からなる3本のピン(φ5mm、58.9mm)と外径57mmの円盤とを一体型とし、円盤は外径57mm、厚さはピンを含め12mmとした。また、相手材8(回転片)は、外径57mm、厚さ12mmのボロン鋳鉄である。摩耗試験条件は、潤滑油:ディーゼルエンジン用基油相当品、油温:160℃、周速:1.65m/秒、接触面圧:76.4MPa、試験時間:24時間の条件下で行った。
 溶射皮膜の耐摩耗性及び相手材の耐摩耗性は、試料1~14で得た溶射皮膜の摩耗量を、比較試料の摩耗量を100(基準)とし、その相対比として比較し、耐摩耗性指数とした。各供試材の耐摩耗性指数が100より小さいほど、比較試料に対して摩耗量が小さいことを意味する。表2に、溶射皮膜の耐摩耗指数、相手材の耐摩耗指数、合計(溶射皮膜と相手材)の耐摩耗指数の結果を示した。SiCを含む供試材(溶射皮膜)の耐摩耗指数は、SiCを含まない比較試料に比べて、耐摩耗指数が小さく、溶射皮膜自身の摩耗を小さくしていることがわかった。また、SiCを含む供試材(溶射皮膜)は、SiCを含まない比較試料に比べて、相手材の耐摩耗指数が小さくなっており、相手材の摩耗を小さくしていることがわかった。また、溶射皮膜の摩耗と相手材の摩耗についてのトータルの摩耗についても、SiCを含む供試材の耐摩耗指数は、SiCを含まない比較試料に比べて、トータルの耐摩耗指数が小さく、摩耗を小さくしていることがわかった。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 表2の結果より、耐摩耗性の結果を踏まえてSiCの面積率を評価した。試料1~14のうち試料1~3,5~14は、比較試料に比べて、耐摩耗性が良好(耐摩耗指数が小さい)であり且つ相手材の耐摩耗性を含めたトータルの耐摩耗性が良好であった。このときのSiCの面積率は0.5~22%であった。特にSiCの面積率が1.5~18%の範囲では、耐摩耗性がより良好であり且つ相手材の耐摩耗性を含めたトータルの耐摩耗性がより良好であった。さらにSiCの面積率が1.5~12%の範囲では、それらの耐摩耗性がさらに良好になった。
 (密着性)
 密着力の測定は、JISH8402:2004(ISO14916)に準拠し、溶射皮膜3を形成した円筒試験片の端面と、溶射皮膜3を形成していない円筒試験片の端面とを熱硬化性樹脂で接着して一体化し、その筒の両端を引張試験機の上下のチャックで固定して引張試験を行った。引張試験は、引張速度を1mm/分とし、溶射皮膜3がボロン鋳鉄の界面から剥がれたとき又は溶射皮膜3内で層間剥離したときの荷重を測定し、その荷重を円筒端面の面積で除した値を求めた。ここでは試料1~3について評価した。上記した比較試料の溶射皮膜の値を100(基準)とし、試料1~3で得た溶射皮膜の密着力を相対評価し、密着力指数として表した。密着力指数が大きいほど、密着力に優れていた。なお、硬化性樹脂との界面での剥離や硬化性樹脂層内での層間剥離は評価から除外した。供試材(溶射皮膜)の密着力指数は、試料1は120、試料2は129、試料3は130であり、比較試料に比べていずれも密着力が良いことがわかった。
 (耐スカッフ性指数)
 耐スカッフ性指数は、図6に示すアムスラー型摩耗試験機30によりスカッフ限界荷重を測定した。ここでは試料1~3について評価した。試料1~3で得た溶射皮膜を設けた固定片である供試材31を用い、供試材31に潤滑油を付着させ、供試材31(固定片)と、回転片である相手材32とを接触させ、スカッフ発生まで荷重Pを負荷して行った。ここでの供試材31は、片状黒鉛鋳鉄からなる供試材(7mm×8mm×5mm)を固定片とし、回転片である相手材32にはドーナツ状(外径40mm、内径16mm、厚さ10mm)のボロン鋳鉄である。スカッフ試験条件は、潤滑油:クリセフH8(1号スピンドル油相当品)、周速:1m/秒、の条件下で行った。
 耐スカッフ性は、比較試料のスカッフ発生荷重を100とし、試料1~3で得た溶射皮膜のスカッフ発生荷重を耐スカッフ性指数として相対比較した。したがって、各試料の耐スカッフ性指数が100より大きいほど、スカッフ発生荷重が大きくなり、比較試料よりも耐スカッフ性に優れることとなる。試験試料の耐スカッフ指数は、試料1では105、試料2では101、試料3では102であり、耐スカッフ性は比較試料と同レベルであることがわかった。
 [実験3]
 実験3では、粉末の粒度を調製して、SiCの面積率を調整した。この実験3では、上記した試料3の造粒粉末を用い、各サイズで篩い分けした造粒粉末を用いて溶射皮膜を得た。図4は、溶射皮膜の電子顕微鏡画像(反射電子像)であり、図4(A)は試料3の造粒粉末を75μm以下に篩い分けしたもの、図4(B)は試料3の造粒粉末を100μm以下に篩い分けしたもの、図4(C)は試料3の造粒粉末を150μm以下に篩い分けしたもの、図4(D)は試料3の造粒粉末を篩い分けしないそのままのもの、である。
 (SiCの面積率)
 実験2と同様にしてSiCの面積率を測定した。面積率の結果は、試料3の造粒粉末を75μm以下に篩い分けしたものは1.8%、試料3の造粒粉末を100μm以下に篩い分けしたものは3.0%、試料3の造粒粉末を150μm以下に篩い分けしたものは3.8%であった。なお、試料3の造粒粉末を篩い分けしないそのままのものは実験2の結果と同じ5.8%である。
 (耐摩耗性)
 耐摩耗性及び相手材耐摩耗性を実験2と同様にして評価した。供試材(溶射皮膜)の耐摩耗指数の結果は、試料3の造粒粉末を75μm以下に篩い分けしたものは84、試料3の造粒粉末を100μm以下に篩い分けしたものは68、試料3の造粒粉末を150μm以下に篩い分けしたものは67であった。なお、試料3の造粒粉末を篩い分けしないそのままのものは実験2の結果と同じ62である。いずれも摩耗量を低減できることがわかった。また、相手材(ライナ材)の相手材耐摩耗指数の結果は、試料3の造粒粉末を75μm以下に篩い分けしたものは75、試料3の造粒粉末を100μm以下に篩い分けしたものは41、試料3の造粒粉末を150μm以下に篩い分けしたものは43であった。なお、試料3の造粒粉末を篩い分けしないそのままのものは実験2の結果と同じ41である。
 1 ピストンリング
 2 基材
 3 溶射皮膜
 4 溶射表面層
 6 高負荷型摩耗試験機
 7 供試材
 8 回転片
 P 荷重
 30 アムスラー型摩耗試験機
 31 供試材
 32 相手材

Claims (8)

  1.  基材の少なくとも摺動面に溶射原料粉末を溶射して設けられる溶射皮膜であって、MoとNiCrとSiCとを有する、ことを特徴とする溶射皮膜。
  2.  前記Moと前記NiCrと前記SiCとの合計の含有割合を100質量%としたとき、前記NiCrが20質量%以上50質量%以下の範囲内であり、前記SiCが1質量%以上40質量%以下の範囲内であり、残りがMoの含有量であるように構成される、請求項1に記載の溶射皮膜。
  3.  前記溶射原料粉末が、前記SiCを構成するSiC粉末と、前記Moを構成するMo粉末及び前記NiCrを構成するNiCr粉末の一方又は両方とからなる、請求項1又は2に記載の溶射皮膜。
  4.  前記溶射原料粉末は、前記SiC粉末が、前記Mo粉末及び前記NiCr粉末の一方又は両方に付着している、請求項1又は2に記載の溶射皮膜。
  5.  前記SiCの面積率が、0.5~22%の範囲内である、請求項1又は2に記載の溶射皮膜。
  6.  請求項1又は2に記載の溶射皮膜が設けられている、ことを特徴とする摺動部材。
  7.  請求項1又は2に記載の溶射皮膜が設けられている、ことを特徴とするピストンリング。
  8.  基材の少なくとも摺動面に溶射原料粉末を溶射してなる溶射皮膜の成膜方法であって、前記溶射皮膜は、MoとNiCrとSiCとを有し、前記溶射原料粉末は、前記SiCを構成するSiC粉末と、前記Moを構成するMo粉末及び前記NiCrを構成するNiCr粉末の一方又は両方とからなる、ことを特徴とする溶射皮膜の成膜方法。
PCT/JP2022/046542 2021-12-16 2022-12-16 溶射皮膜、摺動部材及びピストンリング WO2023113035A1 (ja)

Priority Applications (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
CN202280030300.7A CN117255872A (zh) 2021-12-16 2022-12-16 喷镀被膜、滑动构件及活塞环
SE2351518A SE2351518A1 (en) 2021-12-16 2022-12-16 Thermal spray coating, sliding member, and piston ring
KR1020237037359A KR20230162694A (ko) 2021-12-16 2022-12-16 용사 피막, 슬라이딩 부재 및 피스톤 링

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2021204490 2021-12-16
JP2021-204490 2021-12-16

Publications (1)

Publication Number Publication Date
WO2023113035A1 true WO2023113035A1 (ja) 2023-06-22

Family

ID=86774494

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
PCT/JP2022/046542 WO2023113035A1 (ja) 2021-12-16 2022-12-16 溶射皮膜、摺動部材及びピストンリング

Country Status (4)

Country Link
KR (1) KR20230162694A (ja)
CN (1) CN117255872A (ja)
SE (1) SE2351518A1 (ja)
WO (1) WO2023113035A1 (ja)

Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2004510050A (ja) * 2000-09-21 2004-04-02 フェデラル−モーグル ブルシャイト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング 機械的合金化した粉末のピストンリング用熱塗布コーティング
JP2015518085A (ja) * 2012-03-13 2015-06-25 テルミコ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシヤフト 冶金学的に結合されたコーティングを有する部材
US20150284833A1 (en) * 2012-02-23 2015-10-08 Industrial Technology Research Institute Coating layer with protection and thermal conductivity

Family Cites Families (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2010098382A1 (ja) 2009-02-26 2010-09-02 日本ピストンリング株式会社 ピストンリング
EP2933535B1 (en) 2012-12-11 2020-11-25 Kabushiki Kaisha Riken Piston ring with sprayed coating and method for producing piston ring with sprayed coating
JP6985961B2 (ja) 2017-03-28 2021-12-22 日本ピストンリング株式会社 ピストンリング及びその製造方法

Patent Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2004510050A (ja) * 2000-09-21 2004-04-02 フェデラル−モーグル ブルシャイト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング 機械的合金化した粉末のピストンリング用熱塗布コーティング
US20150284833A1 (en) * 2012-02-23 2015-10-08 Industrial Technology Research Institute Coating layer with protection and thermal conductivity
JP2015518085A (ja) * 2012-03-13 2015-06-25 テルミコ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシヤフト 冶金学的に結合されたコーティングを有する部材

Also Published As

Publication number Publication date
CN117255872A (zh) 2023-12-19
SE2351518A1 (en) 2023-12-27
KR20230162694A (ko) 2023-11-28

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5689735B2 (ja) ピストンリング
Li et al. Influence of heat treatments on the microstructure as well as mechanical and tribological properties of NiCrAlY-Mo-Ag coatings
JPWO2004035852A1 (ja) ピストンリング及びそれに用いる溶射皮膜、並びに製造方法
JP2010529389A (ja) ピストンリング
JP5514187B2 (ja) ピストンリング
KR100501985B1 (ko) 미끄럼 부재용 내마모성 용사피막
JP2019066024A (ja) ピストンリング
WO2023113035A1 (ja) 溶射皮膜、摺動部材及びピストンリング
JP6411875B2 (ja) ピストンリング及びその製造方法
JP2005155711A (ja) 溶射ピストンリング及びその製造方法
JP6985961B2 (ja) ピストンリング及びその製造方法
JP2007032758A (ja) 組合せ摺動部材、及びこれを用いた内燃機関及びすべり軸受機構
JP3547583B2 (ja) シリンダーライナー
JP2004307975A (ja) 摺動部材
JP4247882B2 (ja) 耐摩耗溶射皮膜
JP3962285B2 (ja) 複合めっき皮膜
CN1705765A (zh) 活塞环、用于活塞环的喷镀膜及制造方法
JP6723681B2 (ja) 摺動用皮膜、摺動部品およびそれらの製造方法
Gok et al. Effect of abrasive particle sizes on abrasive wear of ceramic coatings sprayed by plasma process
JP2003336742A (ja) ピストンリング及びその製造方法
JPS60125362A (ja) 摺動部材

Legal Events

Date Code Title Description
121 Ep: the epo has been informed by wipo that ep was designated in this application

Ref document number: 22907557

Country of ref document: EP

Kind code of ref document: A1

ENP Entry into the national phase

Ref document number: 20237037359

Country of ref document: KR

Kind code of ref document: A

WWE Wipo information: entry into national phase

Ref document number: 2351518-2

Country of ref document: SE