WO2021153488A1 - インサート焼結部品及びその製造方法 - Google Patents

Abstract

固定型及び前記固定型とのパーティング面に沿って移動する可動型を有する成形用金型を用いて、前記パーティング面に沿って前記可動型を移動することにより、前記可動型と前記固定型との間で焼結部品を押圧して保持し、前記固定型及び前記可動型に当接する前記焼結部品の各部位を除く領域の周囲に前記成形用金型によりキャビティを形成し、前記キャビティに外装部品となる溶融材料を充填して、前記焼結部品と前記外装部品とをインサート成形により一体化する。

Description

インサート焼結部品及びその製造方法

　本発明は、焼結軸受等の焼結部品と外装部品とを一体化したインサート焼結部品及びその製造方法に関する。本願は、２０２０年１月３１日に出願された特願２０２０－０１４４７３号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。

　焼結軸受は、焼結体の内部にあらかじめ含浸させておいた潤滑油が軸の回転によるポンプ作用と摩擦熱による熱膨張とによりしみ出ることによって摩擦面を潤滑することができ、無給油で長期間使用できることから、自動車や家電製品、音響機器等の回転軸の軸受として広く採用されている。

　このような焼結軸受は、インサート成形により筐体等の外装部品と一体化され、自動車等の構造体に組み込まれる。この場合、焼結軸受にラジアル荷重とスラスト荷重が作用するため、外装部品に対する回転と軸方向の脱落とを防止する必要がある。

　例えば特許文献１では、焼結軸受（焼結部品）の外周面において互いに軸方向に一致しない位置に、その両端面からそれぞれの端面にかかり軸方向に沿ってその途中まで延びる有底溝を形成したものが開示されている。この焼結軸受の外周部にインサート成形により樹脂部品（外装部品）を一体に成形すると、有底溝内に樹脂が入り込んだ状態となるため、回転止めと軸方向の脱落防止ができると記載されている。

　特許文献２では、焼結軸受（焼結部品）の外周面に、軸方向に延びる溝部と、周方向に延びる拡径部とが形成され、溝部が拡径部の周方向の延びを分断したものが開示されている。この焼結軸受の外周部にインサート成形により樹脂部品を一体に成形すると、溝部内に樹脂が入り込むことにより樹脂部品に対して焼結軸受が回転止めされるとともに、拡径部が樹脂部分に食い込むように一体化されることにより焼結軸受の軸方向へ抜け止めがなされる。

特開２００３－１５９７２０号公報 特開２００３－１９３１１３号公報

　このような焼結軸受等の焼結部品を樹脂部品にインサート成形する場合、成形用金型内に配置した焼結部品の外周部に空間（キャビティ）を形成し、そのキャビティ内に溶融樹脂（溶融材料）を射出して充填することにより、焼結部品の外周部は樹脂部品で覆われる。キャビティは、両端面を成形用金型に当接させた焼結部品の周囲に形成される。

　しかしながら、同じ寸法の焼結部品を高さのバラツキなく製造することは難しい。例えば、焼結部品の高さが設定された寸法よりも低い場合、焼結部品の端面と成形用金型との間に隙間が生じ、溶融材料が隙間内に入り込み焼結部品の端面に膜を形成する。一方、焼結部品の高さが設定された寸法よりも高い場合、焼結部品により押圧されて成形用金型が閉じられずパーティングラインに隙間が生じ、その隙間から溶融材料がはみ出してバリとなる。

　本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、焼結軸受等の焼結部品の高さにバラツキがある場合でも、焼結部品と樹脂部品等の外装部品とをインサート成形により適切に一体化することを目的とする。

　本発明のインサート焼結部品の製造方法は、第１端部及び第２端部を有する焼結部品を粉末成形により形成する焼結部品形成工程と、前記焼結部品の外周部に外装部品を一体化したインサート焼結部品を形成するインサート成形工程と、を有し、前記インサート成形工程に用いられる成形用金型は、固定型及び可動型を有し、前記固定型と前記可動型とが当接するパーティング面は前記可動型の移動方向に沿って形成されており、前記インサート成形工程では、前記固定型と前記可動型との間に前記焼結部品を保持し、前記パーティング面に沿わせて前記可動型を移動させ、前記可動型により前記焼結部品を前記固定型に向けて押圧することにより、前記第１端部における前記固定型に当接する部位、及び前記第２端部における前記可動型に当接する部位を除く前記焼結部品の領域の周囲を前記成形用金型により間隔をあけて覆って前記焼結部品の周囲にキャビティを形成する型組み工程と、前記型組み工程の後に前記キャビティに前記外装部品となる溶融材料を充填する充填工程とを有する。

　本発明のインサート焼結部品は、第１端部及び第２端部を有する焼結部品と、前記焼結部品の外周部に一体に形成された外装部品とを有し、前記第１端部及び前記第２端部のいずれか一方の端部側に位置する前記外装部品の端面と前記外装部品の外周面とが交差する稜線にパーティングラインを有する。

　本発明によれば、成形用金型のパーティング面に沿って可動型が移動する構成であるため、焼結部品の高さにバラツキが生じた場合でも可動型により焼結部品を固定型に向けて押圧して固定型及び可動型を確実に焼結部品に当接させることができる。このため、パーティング面が外装部品の材料により膜状に覆われること、及びバリが生じることが防止される。

　また、外装部品の外周面や端面ではなく、稜線にパーティングラインが形成されるので、インサート焼結部品の外観を向上できる。さらに、焼結部品の外周部に溝又は凸条が形成されている場合には、焼結部品及び外装部品が焼結部品の溝又は凸条により回転止めされた状態で一体化される。

　本発明に係るインサート焼結部品の製造方法の一つの実施態様として、前記焼結部品形成工程では、前記第１端部及び前記第２端部の少なくともいずれか一方の端部の外周面にその端面に向かうにしたがって漸次縮径する外側傾斜面を形成し、前記固定型及び前記可動型の少なくとも一方に前記外側傾斜面に当接する第１テーパ面を有する凹部が形成されており、前記型組み工程で前記第１テーパ面を前記外側傾斜面に当接させるとよい。

　この場合、焼結部品は、第１端部及び第２端部を貫通する１つの貫通孔を有する焼結軸受であるとよい。

　本発明に係るインサート焼結部品の製造方法の他の一つの実施態様として、前記焼結部品形成工程では、前記第１端部及び前記第２端部を貫通する１つの貫通孔を形成するとともに、前記貫通孔に前記第１端部及び前記第２端部の少なくともいずれか一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次拡径する内側傾斜面を形成し、前記固定型及び前記可動型の少なくとも一方には、前記内側傾斜面に当接する第２テーパ面を有する凸部が形成されており、前記型組み工程では、前記第２テーパ面を前記内側傾斜面に当接させるとよい。この場合、焼結部品は、焼結軸受であるとよい。

　上記各態様では、焼結部品の外周面に設けられた外側傾斜面が第１テーパ面に覆われる、もしくは、焼結部品の貫通孔に設けられた内側傾斜面が第２テーパ面により覆われるので、少なくとも第１端部及び第２端部のいずれか一方の端部が外装部品の材料により膜状に覆われることをより確実に防止できる。また、焼結部品が焼結軸受である場合には、貫通孔（軸受孔）が外装部品の材料により膜状に覆われることを防止できる。

　インサート焼結部品の一つの実施態様として、前記焼結部品の前記第１端部及び前記第２端部の少なくともいずれか一方の端部は、前記外装部品から突出しており、前記焼結部品の前記一方の端部の外周面に前記一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次縮径する外側傾斜面が設けられているとよい。この場合、焼結部品は、前記第１端部及び前記第２端部を貫通する１つの貫通孔を有する焼結軸受であるとよい。

　インサート焼結部品の他の一つの実施態様として、前記焼結部品は、前記第１端部及び前記第２端部を貫通する１つの貫通孔を有し、前記貫通孔に前記第１端部及び前記第２端部の少なくともいずれか一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次拡径する内側傾斜面が設けられているとよい。この場合、焼結部品は、焼結軸受であるとよい。

　インサート焼結部品の一つの実施態様として、前記焼結部品の外周部に溝又は凸条が形成されているとよい。

　インサート焼結部品の他の一つの実施態様として、前記焼結部品の前記外周部に前記一方の端部よりも外径が大きい大径部が形成されるとともに、前記大径部の外周面に軸方向に沿う溝又は凸条、及び前記大径部の端面に半径方向に沿う前記溝又は凸条の少なくともいずれかが形成されているとよい。

　本発明は、焼結軸受等の焼結部品の高さにバラツキがある場合でも、焼結部品と樹脂部品等の外装部品とをインサート成形により適切に一体化できる。

本発明の第１実施形態のインサート軸受を示す縦断面図である。 図１のインサート軸受に用いられている焼結軸受の縦断面図である。 図２の焼結軸受を軸方向に第１端部側から視た端面図である。 第１実施形態のインサート軸受の製造工程を示すフローチャートである。 成形工程で成形体を形成している状態を示す縦断面図である。 矯正工程において、左半分が焼結体を矯正している状態、右半分が矯正金型から焼結体を取り出した状態を示す縦断面図である。 インサート成形工程において、型締め工程時の状態を示す縦断面図である。 本発明の第２実施形態の焼結軸受の縦断面図である。 図８の焼結軸受を軸方向に第１端部側から見た端面図である。 図８の焼結軸受の型締め工程時の状態を示す縦断面図である。 本発明の第３実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受の縦断面図である。 図１１の焼結軸受を軸方向に第１端部側から視た端面図である。 本発明の第４実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受の型締め工程時の状態を示す縦断面図である。 本発明の変形例に係るインサート焼結部品に用いられる焼結部品の型締め工程時の状態を示す縦断面図である。

　以下、本発明の実施形態について説明する。以下の各実施形態では、焼結軸受（焼結部品）に樹脂部品（外装部品）を射出成形（インサート成形）によって一体化する。

［第１実施形態］
　まず、第１実施形態のインサート軸受（インサート焼結部品）１について説明する。この実施形態では、インサート軸受１に用いられる焼結軸受（焼結部品）１０の外周部の一方の端部を除く領域に焼結軸受１０の一方の端部より外径が大きい大径部１３が設けられる例について説明する。

　このインサート軸受１は、図１に示すように、金属粉末の焼結体により形成された筒状の焼結軸受１０と、この焼結軸受１０の外周部に一体に成形された樹脂部品２０（本発明の外装部品に相当）とを有している。

　焼結軸受１０は、図２及び図３に示すように、中心を貫通する軸受孔（貫通孔）１１と、軸受孔１１の上端部側に位置する第１端部１２と、軸受孔１１の下端部側に位置する第２端部１５とを備えている。つまり、軸受孔１１は、第１端部１２及び第２端部１５を貫通する１つの貫通孔である。

　焼結軸受１０は、第１端部１２よりも外径が大きく軸方向中間部分から第２端部１５まで延びる大径部１３を有している。焼結軸受１０の第２端部１５側の端面（第２端面１０ｂ）は、段差のない平面状に形成されている。

　第１端部１２は、焼結軸受１０の第１端部１２側の端面（第１端面１０ａ）から大径部１３に向かって漸次拡径するテーパ状に形成されている。このテーパ面（外側傾斜面１２ａ）は、その勾配が例えば１５°（テーパ角３０°）に形成され、その一部が樹脂部品２０から突出している。

　軸受孔１１の両端部は面取りされ、第１端面１０ａ及び第２端面１０ｂに向かうにしたがって漸次外径を大きくしたテーパ面１１ａ，１１ｂが形成されている。テーパ面１１ａ，１１ｂは、本発明の内側傾斜面に相当し、後述する成形工程又は矯正工程や、矯正工程後の機械加工（切削加工）等により形成される。

　大径部１３の外周面には、軸方向に沿う複数（４本）の溝１４が大径部１３の全長にわたって、すなわち第１端面１０ａから第２端面１０ｂまで形成されている。大径部１３の両端は、それぞれ面取りされている。これら４本の溝１４は、図３に示すように、９０°間隔で形成されている。これら溝１４は、その最深部が凹円弧面に形成され、その両側が凸円弧面により大径部１３の外周面に繋がる形状である。

　なお、本実施形態では、溝１４のみが形成されている例を示したが、例えば、大径部１３に半径方向に突出する凸条が軸方向に沿って形成されていてもよい。

　焼結軸受１０は、図１に示すように、第１端部１２の先端部（第１端面１０ａ近傍）を除く領域の外周部が樹脂部品２０に埋め込まれている。つまり、樹脂部品２０は、焼結軸受１０の外周部に、第１端部１２の先端部を露出させ、第１端部１２の基端部（付け根の部分）及び大径部１３を覆って設けられている。

　すなわち、樹脂部品２０の軸受保持部２１が、焼結軸受１０の外周部に一体に固定されている。軸受保持部２１は、焼結軸受１０の全体高さと略同じ高さに形成され、焼結軸受１０の第１端部１２の軸方向の途中位置から大径部１３の全体が埋めこまれている。したがって、大径部１３の両端面は軸受保持部２１により覆われている。樹脂部品２０は、軸受保持部２１と一体に形成されて他の部分と連結されるブラケット２２も有している。

　このように形成されたインサート軸受１を製造する方法（インサート焼結部品の製造方法）について説明する。

　このインサート軸受１を製造する場合、図４のフローチャートに示すように、粉末成形により焼結軸受１０を形成する焼結部品形成工程と、焼結部品形成工程で形成された焼結軸受１０を射出成形金型６０（本発明の成形用金型に相当）内に配置し、射出成形により焼結軸受１０の外周部に一体に樹脂部品２０を形成するインサート成形工程とを経て、製造される。以下、工程順に詳述する。

＜焼結部品形成工程＞
　焼結部品形成工程は、焼結軸受１０となる成形体１０Ｐを形成する成形工程と、成形体１０Ｐを焼結して焼結体（図示略）を形成する焼結工程と、その焼結体を矯正する矯正工程（サイジング工程）とを有する。

（成形工程）
　成形体１０Ｐを形成するための成形金型４０は、図５に示すように、円形の貫通孔４１が形成されたダイ４２と、その貫通孔４１内に配置されるコアロッド４３と、貫通孔４１とコアロッド４３との間に配置される外側の第１上側パンチ４４及び内側の第２上側パンチ４６と、これら第１上側パンチ４４及び第２上側パンチ４６に対向する第１下側パンチ４５とが設けられている。これらパンチ４４～４６は、コアロッド４３を中心とする同心円の筒状に形成される。

　ダイ４２とコアロッド４３、及び第１下側パンチ４５により形成した空間内に粉末を充填し、これを上下の各パンチ４４～４６で圧縮することにより、成形体１０Ｐを形成する。このとき、第１上側パンチ４４の先端を図５に示すような傾斜面を有する形状とし、第１下側パンチ４５と第１上側パンチ４４との距離よりも第１下側パンチ４５と第２上側パンチ４６間の距離を大きくすることにより、外周部に大径部１３Ｐを備える成形体１０Ｐが形成される。また、コアロッド４３により軸受孔１１Ｐが貫通状態に形成される。

（焼結工程）
　得られた成形体１０Ｐを加熱して粉末を焼結させ、焼結体を形成する。

（矯正工程）
　焼結体を矯正金型８０により矯正（サイジング）する。この矯正工程では、外形を最終寸法に仕上げつつ、大径部１３の外周部に溝１４を形成する。

　矯正金型８０は、図６に示すように、円形の貫通孔８１が形成されたダイ８２と、その貫通孔８１内に配置されるコアロッド８３と、貫通孔８１とコアロッド８３との間に配置される外側の第１上側パンチ８４および第１下側パンチ８５と、内側の第２上側パンチ８６および第２下側パンチ８７が、それぞれ上下組をなすように設けられている。

　このダイ８２の貫通孔８１の内周面に、軸方向に沿って貫通する複数の凸条８８が周方向に間隔をおいて形成されている。これら凸条８８に対応して、第１上側パンチ８４及び第１下側パンチ８５の外周部に、凸条８８がスライド自在に嵌合する溝部８９が周方向に間隔をおいて形成されている。

　両第１パンチ８４，８５および両第２パンチ８６，８７により焼結体を軸方向に加圧しながらダイ８２とコアロッド８３との間に押し込むことにより、焼結体を矯正する。この矯正金型８０に焼結体を配置して矯正することにより、ダイ８２の各凸条８８に対応して、大径部１３の外周部に軸方向に沿う溝１４が周方向に間隔をおいて形成される。

　軸受孔１１のテーパ面１１ａ，１１ｂは、矯正工程後の機械加工（切削加工）等により形成される。

　なお、本実施形態では溝１４を焼結部品形成工程の矯正工程において形成するが、これに限らず、成形工程において溝１４を形成してもよい。また、軸受孔１１のテーパ面１１ａ，１１ｂも、成形工程又は矯正工程において形成してもよい。さらに、外側傾斜面１２ａも、成形工程、矯正工程、矯正工程後の機械加工等のいずれで形成してもよい。

＜インサート成形工程＞
　以上のように形成した焼結軸受１０を、インサート成形工程により樹脂部品２０と一体成形する。このインサート成形工程は、焼結軸受１０の外側にキャビティ６１を形成した状態で射出成形金型６０内に配置する型締め工程（本発明の型組み工程に相当）と、そのキャビティ６１内に樹脂部品２０となる溶融樹脂（本発明の溶融材料に相当）を射出する射出工程（本発明の充填工程に相当）とを有する。

（型締め工程）
　射出成形金型６０は、図７に示すように固定型６２と可動型６３とを有し、固定型６２と可動型６３とを閉じる（型締する）ことにより、固定型６２と可動型６３との間に焼結軸受１０が保持されるとともに、キャビティ６１が形成される。固定型６２と可動型６３とのパーティング面６２０は、可動型６３の移動方向（図７の縦方向）に沿って形成されている。固定型６２と可動型６３との間に焼結軸受１０が保持され、その焼結軸受１０の外周部に溶融樹脂が充填されるキャビティ６１が形成される。

　固定型６２には、焼結軸受１０の外側傾斜面１２ａに当接する第１テーパ面６４１を有する凹部６４が形成されている。

　可動型６３がパーティング面６２０に沿って移動することにより、可動型６３により焼結軸受１０が固定型６２に向けて押圧される。このため、焼結軸受１０の高さにバラツキが生じた場合でも、第１端部１２の長さ方向の途中位置までが固定型６２の凹部６４内に嵌合状態に保持される。これにより、凹部６４の第１テーパ面６４１を含む内周面が焼結軸受１０の外側傾斜面１２ａに全周にわたって当接する。

　第２端面１０ｂ（第２端部１５側の端面）には、可動型６３の内面から突出する突出部６５の端面が当接する。キャビティ６１は、焼結軸受１０の外周を囲むように形成された軸受保持空間６６と、この軸受保持空間６６に連通する連通部６７とを備える。焼結軸受１０は、軸受保持空間６６内において、大径部１３の外周面及び端面、第１端部１２の基端部（大径部１３近傍）を露出させて保持される。キャビティ６１に、溶融樹脂が供給されるスプルー６８がゲート６９を介して接続され、スプルー６８に溶融樹脂を射出するためのプランジャー（図示略）が接続される。

（射出工程）
　型締めした射出成形金型６０のキャビティ６１内に、溶融樹脂を射出する。このとき、固定型６２の凹部６４に焼結軸受１０の第１端部１２の先端部が嵌合されるとともに、第２端面１０ｂが突出部６５に当接している。キャビティ６１内には射出圧がかかるが、第１端部１２の先端部がキャビティ６１内に露出しないので、射出圧は焼結軸受１０の第１端部１２の先端部を除く外面に作用する。このため、焼結軸受１０の第１端面１０ａには溶融樹脂が漏れ出ることはない。

　射出圧が高まりパーティング面６２０から溶融樹脂が漏れ出すと、外装部品２０の外周面にパーティングライン（図示省略）が形成されるが、金型６０のパーティング面６２０は図７に示すように可動型６３の移動方向に沿って形成されているため、樹脂部品２０のパーティングラインは外周面と端面との交差稜線に形成され、樹脂部品２０の外観にほぼ影響を及ぼすことがない。

　パーティング面６２０に沿って可動型６３が移動する構成であるため、焼結軸受１０の高さにバラツキが生じた場合でも、焼結軸受１０に固定型６２及び可動型６３を当接させることができる。これにより、固定型６２と可動型６３との当接部位が溶融材料により膜状に覆われること及びパーティングラインにバリが生じることが防止される。

　このように形成されるインサート軸受１は、図１に示すように、焼結軸受１０の第１端部１２の先端部を除き大径部１３を含む中央部分が樹脂部品２０により囲まれており、焼結軸受１０と樹脂部品２０とが溝１４により回転止めされるとともに、大径部１３の両端を樹脂部品２０が覆うことにより軸方向に抜け止めされた状態で一体化している。そして、従来技術で述べたような焼結軸受とは異なり両端面に樹脂膜が形成されず、パーティングラインが上記稜線に形成されるため、外観を損なうことがなく、また、他の部品と干渉することも抑制される。

［第２実施形態］
　図８及び図９は第２実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受１１０を示す図である。図１０は、第２実施形態のインサート軸受の製造工程における型締め工程時の状態を示す図である。この実施形態の焼結軸受１１０は、第１実施形態の焼結軸受１０に設けられていた大径部１３を有していない筒状に形成される。なお、この第２実施形態以降の各実施形態において、第１実施形態と共通する要素には同一符号を付して説明を簡略化する。

　焼結軸受１１０は、図８及び図９に示すように、中心を貫通する軸受孔（貫通孔）１１１と、軸受孔１１１の上端部側に位置する第１端部１１２と、軸受孔１１１の下端部側に位置する第２端部１１５とを備えている。この軸受孔１１１の両端部は面取りされ、第１端部１１２の端面１１０ａ及び第２端部１１５の端面１１０ｂに向かうにしたがって漸次外径を大きくしたテーパ面１１１ａ，１１１ｂが形成されている。テーパ面１１１ａ，１１１ｂは、本発明の内側傾斜面に相当し、成形工程又は矯正工程や、矯正工程後の機械加工（切削加工）等により形成される。

　焼結軸受１１０の外周面には、軸方向に沿う複数（４本）の溝１１４が形成されている。具体的には、焼結軸受１１０の高さの半分より短い４本の溝１１４が、上記外周面の第１端部１１２側に形成されている。これら溝１１４は、その最深部が凹円弧面に形成され、その両側が焼結軸受１１０の外周面に繋がる形状である。これら４本の溝１１４は、図９に示すように、９０°間隔で形成されている。

　第２実施形態に係るインサート軸受の製造方法は、上記第１実施形態のインサート軸受１の製造方法と略同じであるが、型締め工程及びインサート成形工程に用いられる射出成形金型の形状が一部異なっている。以下詳しく説明する。

　射出成形金型６０Ａは、図１０に示すように固定型６２Ａと可動型６３Ａとを有し、固定型６２Ａと可動型６３Ａとを閉じる（型締する）ことにより、固定型６２Ａと可動型６３Ａとの間に焼結軸受１１０が保持され、その焼結軸受１１０の外周部に溶融樹脂が充填されるキャビティ６１が形成される。

　焼結軸受１１０は、軸受孔１１１の第２端部１１５側に可動型６３Ａの第２突出部６５Ａが嵌まり込むことにより、第２突出部６５Ａの第２テーパ面６５１が軸受孔１１１のテーパ面１１１ｂに全周にわたって当接する。第１端面１１０ａには、固定型６２Ａの内面から突出する第１突出部６４Ａの端面が当接する。

　キャビティ６１は、焼結軸受１１０の外周を囲むように形成された軸受保持空間６６と、この軸受保持空間６６に連通する連通部６７とを備える。焼結軸受１１０は、軸受保持空間６６内において、外周面、第１端面１１０ａの一部および第２端面１１１ｂを露出させて保持される。キャビティ６１に、溶融樹脂が供給されるスプルー６８がゲート６９を介して接続され、スプルー６８に溶融樹脂を射出するためのプランジャー（図示略）が接続される。

　型締めした射出成形金型６０Ａのキャビティ６１内に、溶融樹脂を射出する。このとき、可動型６３Ａの第２突出部６５Ａが焼結軸受１１０の第２端部１１５側の軸受孔１１１内に嵌まり込み、第２突出部６５Ａの先端部が嵌合されるとともに、第１端部１１２が第１突出部６４Ａに当接する。キャビティ６１内には射出圧が作用するが、第２端部１１５側の軸受孔１１１のテーパ面１１１ｂと第２突出部６５Ａの第２テーパ面６５１とが当接しており、当該部位がキャビティ６１内に露出しないので、射出圧は焼結軸受１１０の軸受孔１１１のテーパ面１１１ｂを除く外面に作用する。

　このため、焼結軸受１１０の軸受孔１１１における第２端部１１５側の部位には溶融樹脂が漏れ出ることはない。射出圧が高まりパーティング面６２０から溶融樹脂が漏れ出すと、外装部品の外周面にパーティングライン（図示省略）が形成されるが、金型６０Ａのパーティング面６２０は図１０に示すように可動型６３Ａの移動方向に沿って形成されているため、樹脂部品のパーティングラインは外周面と端面との交差稜線に形成され、樹脂部品の外観にほぼ影響を及ぼすことがない。

［第３実施形態］
　図１１及び図１２は第３実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受２１０を示している。

　この実施形態の焼結軸受２１０は、図１１及び図１２に示すように、上記第２実施形態と同様に、中心を貫通する軸受孔（貫通孔）２１１と、軸受孔２１１の上端部側に位置する第１端部２１２と、軸受孔２１１の下端部側に位置する第２端部２１５とを備えている。この軸受孔２１１の両端部には、テーパ面（内側傾斜面）２１１ａ，２１１ｂが成形工程時又は矯正工程時や、矯正工程後の機械加工（切削加工）等により形成されている。

　この焼結軸受２１０に形成される溝２１４は、図１１及び図１２に示すように、第１端部２１２の端面に、半径方向に延びる形状で９０°間隔で４本形成されている。これら溝２１４は、その最深部が平面に形成され、最深部から上側に向かうにしたがって漸次拡径する傾斜面を有している。

　この実施形態における焼結軸受２１０は、溝２１４の形状のみが第２実施形態と異なるため、上記第２実施形態と同一の射出成形金型６０Ａが用いられて、インサート軸受となる。このため、本実施形態においても、上記第２実施形態と同様の効果を奏することができる。

［第４実施形態］
　図１３は第４実施形態のインサート軸受の製造工程における型締め工程時の状態を示す図である。

　第４実施形態の焼結軸受３１０は、第１～３実施形態とは異なり、中実状に形成されたピボット軸受であって、図１３に示すように、第１端部３１２と、第２端部３１５と、第１端部３１２よりも外径が大きい大径部３１３とを有している。

　第１端部３１２は、大径部３１３から端面に向かうにしたがって漸次外径を小さくしたテーパ状に形成されている。このテーパ面（外側傾斜面３１２ａ）の勾配は、例えば１５°（テーパ角３０°）に形成されている。

　この焼結軸受３１０は、射出成形金型６０Ｃ内に収容されてインサート軸受とされる。可動型６３がパーティング面６２０に沿って移動することにより、可動型６３により焼結軸受３１０が固定型６２Ｃに向けて押圧される。このため、焼結軸受３１０の高さにバラツキが生じた場合でも、第１端部３１２の長さ方向の途中位置までが固定型６２Ｃの凹部６４Ｃ内に嵌合状態に保持される。

　これにより、凹部６４Ｃの第１テーパ面６４１Ｃを含む内周面が焼結軸受３１０の外側傾斜面３１２ａに全周にわたって当接する。第２端部３１５の端面には、可動型６３の内面から突出する突出部６５の端面が当接する。

　型締めした射出成形金型６０Ｃのキャビティ６１内に、溶融樹脂を射出する。このとき、固定型６２Ｃの凹部６４Ｃに焼結軸受３１０の第１端部３１２の先端部が嵌合されるとともに、第２端部３１５が突出部６５に当接している。キャビティ６１内には射出圧が作用するが、第１端部３１２の先端部がキャビティ６１内に露出していないので、射出圧は焼結軸受３１０の第１端部３１２の先端部を除く外面に作用する。

　金型６０Ｃのパーティング面６２０は図１３に示すように可動型６３の移動方向に沿って形成されているため、樹脂部品のパーティングラインは外周面と端面との交差稜線に形成され、樹脂部品の外観にほぼ影響を及ぼすことがない。

　このため、焼結軸受３１０が軸受孔を有していない場合でも、上記各実施形態と同様の効果を奏することができる。

　その他、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。

　例えば、第１実施形態では、第１端部１２の外側傾斜面１２ａを固定型６２の凹部６４内に収容し、第２端部１５には可動型６３の突出部６５を当接させる構成（金型のテーパ面が軸受孔の一方のテーパ面に当接し、他方のテーパ面には当接しない構成）としたが、これに限らず、第２実施形態のように、軸受孔１１１のテーパ面１１１ｂに第２テーパ面６５１を当接させる構成（金型のテーパ面が軸受孔の両方のテーパ面に当接する構成）としてもよい。この場合、両側から軸受孔内に樹脂材料が侵入することを確実に抑制できる。

　第１～４各実施形態では、焼結軸受の端面や外周面、大径部に溝を形成する例を示したが、溝に代えて凸条を形成してもよい。これら溝や凸条は、周方向に間隔をおいて複数形成するのがよいが、１本のみ形成したものでもよい。

　さらに、樹脂を射出成形して外装部品を形成する実施形態を説明したが、アルミニウム合金等の金属を鋳造して外装部品を形成する場合にも本発明を適用することができる。その場合、鋳型（成形用金型）内に焼結部品を配置して型組みし（型組み工程）、その周囲のキャビティに外装部品となる溶融金属（溶融材料）を充填する（充填工程）ことにより、焼結軸受と金属の外装部品とが一体化する。

　第１～４実施形態では、焼結部品として焼結軸受を例示し、インサート焼結部品としてインサート軸受を例示したが、焼結部品は軸受に限らず、バルブシートやブッシュ等であってもよい。つまり、本発明は、焼結軸受に限らず、焼結部品であれば適用でき、この焼結部品を外装部品で一体化した全ての製品に適用できる。

　例えば、焼結部品は、図１４に示すような矩形板状の焼結部品４１０であってもよい。この場合、射出成形金型６０Ｄにおいて、焼結部品４１０の第１端部４１２が固定型６２Ｄの第１突出部６４Ｄに当接し、第２端部４１５が可動型６３の第２突出部６５Ｄに当接する構成であればよい。つまり、焼結部品に外側傾斜面や内側傾斜面が形成されていないものも本発明の権利範囲である。

　焼結軸受等の焼結部品の高さにバラツキがある場合でも、焼結部品と樹脂部品等の外装部品とをインサート成形により適切に一体化できる。

１　インサート軸受（インサート焼結部品）
１０，１１０，２１０，３１０　焼結軸受（焼結部品）
４１０　焼結部品
１０Ｐ　成形体
１１，１１１，２１１　軸受孔（貫通孔）
１１ａ，１１ｂ，１１１ａ，１１１ｂ，２１１ａ，２１１ｂ　テーパ面（内側傾斜面）
１２，１１２，２１２，３１２，４１２　第１端部
１５，１１５，２１５，３１５，４１５　第２端部
１２ａ，３１２ａ　外側傾斜面
１３，３１３　大径部
１４，１１４，２１４　溝
２０　樹脂部品（外装部品）
２１　軸受保持部
４０　成形金型
８０　矯正金型
６０，６０Ａ，６０Ｃ，６０Ｄ　射出成形金型（成形用金型）
６１　キャビティ
６２，６２Ａ，６２Ｃ，６２Ｄ　固定型
６３，６３Ａ　可動型
６４，６４Ｃ　凹部
６４１，６４１Ｃ　第１テーパ面
６４Ａ，６４Ｄ　第１突出部
６５　突出部
６５Ａ，６５Ｄ　第２突出部
６５１　第２テーパ面
６６　軸受保持空間
６７　連通部
６８　スプルー
６９　ゲート

Claims (12)

1. 　第１端部及び第２端部を有する焼結部品を粉末成形により形成する焼結部品形成工程と、前記焼結部品の外周部に外装部品を一体化したインサート焼結部品を形成するインサート成形工程と、を有し、
   　前記インサート成形工程に用いられる成形用金型は、固定型及び可動型を有し、前記固定型と前記可動型とが当接するパーティング面は前記可動型の移動方向に沿って形成されており、
   　前記インサート成形工程では、前記固定型と前記可動型との間に前記焼結部品を保持し、前記パーティング面に沿わせて前記可動型を移動させ、前記可動型により前記焼結部品を前記固定型に向けて押圧することにより、前記焼結部品の第１端部における前記固定型に当接する部位、及び前記焼結部品の第２端部における前記可動型に当接する部位を除く前記焼結部品の領域の周囲を前記成形用金型により間隔をあけて覆って前記焼結部品の周囲にキャビティを形成する型組み工程と、前記型組み工程の後に前記キャビティに前記外装部品となる溶融材料を充填する充填工程とを有することを特徴とするインサート焼結部品の製造方法。
2. 　前記焼結部品形成工程では、前記第１端部及び前記第２端部の少なくともいずれか一方の端部の外周面にその端部の端面に向かうにしたがって漸次縮径する外側傾斜面を形成し、
   　前記固定型及び前記可動型の少なくとも一方に前記外側傾斜面に当接する第１テーパ面を有する凹部が形成されており、前記型組み工程で前記第１テーパ面を前記外側傾斜面に当接させることを特徴とする請求項１に記載のインサート焼結部品の製造方法。
3. 　前記焼結部品形成工程では、前記第１端部及び前記第２端部を貫通する１つの貫通孔を形成するとともに、前記貫通孔に前記第１端部及び前記第２端部の少なくともいずれか一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次拡径する内側傾斜面を形成し、
   　前記固定型及び前記可動型の少なくとも一方には、前記内側傾斜面に当接する第２テーパ面を有する凸部が形成されており、
   　前記型組み工程では、前記第２テーパ面を前記内側傾斜面に当接させることを特徴とする請求項１に記載のインサート焼結部品の製造方法。
4. 　前記焼結部品は、焼結軸受であることを特徴とする請求項３に記載のインサート焼結部品の製造方法。
5. 　前記焼結部品は、前記第１端部及び前記第２端部を貫通する１つの貫通孔を有する焼結軸受であることを特徴とする請求項１又は２に記載のインサート焼結部品の製造方法。
6. 　第１端部及び第２端部を有する焼結部品と、前記焼結部品の外周部に一体に形成された外装部品とを有し、
   　前記第１端部及び前記第２端部のいずれか一方の端部側に位置する前記外装部品の端面と前記外装部品の外周面とが交差する稜線にパーティングラインを有することを特徴とするインサート焼結部品。
7. 　前記焼結部品の前記第１端部及び前記第２端部の少なくともいずれか一方の端部は、前記外装部品から突出しており、
   　前記焼結部品の前記一方の端部の外周面に前記一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次縮径する外側傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項６に記載のインサート焼結部品。
8. 　前記焼結部品は、前記第１端部及び前記第２端部を貫通する１つの貫通孔を有し、前記貫通孔に前記第１端部及び前記第２端部の少なくともいずれか一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次拡径する内側傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項６に記載のインサート焼結部品。
9. 　前記焼結部品は、焼結軸受であることを特徴とする請求項８に記載のインサート焼結部品。
10. 　前記焼結部品は、前記第１端部及び前記第２端部を貫通する１つの貫通孔を有する焼結軸受であることを特徴とする請求項６又は７に記載のインサート焼結部品。
11. 　前記焼結部品の外周部に溝又は凸条が形成されていることを特徴とする請求項６、８及び９のいずれか一項に記載のインサート焼結部品。
12. 　前記焼結部品の前記外周部に前記一方の端部よりも外径が大きい大径部が形成されるとともに、前記大径部の外周面に軸方向に沿う溝又は凸条、及び前記大径部の端面に半径方向に沿う前記溝又は凸条の少なくともいずれかが形成されていることを特徴とする請求項７に記載のインサート焼結部品。

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