WO2019188107A1

WO2019188107A1 - 車両用シート構造

Info

Publication number: WO2019188107A1
Application number: PCT/JP2019/009239
Authority: WO
Inventors: 真也黒田; 章成古賀
Original assignee: マツダ株式会社
Priority date: 2018-03-26
Filing date: 2019-03-08
Publication date: 2019-10-03
Also published as: EP3738823A1; CN111867882B; US20200376994A1; EP3738823A4; JP6604489B2; CN111867882A; US11273744B2; JP2019167024A; EP3738823B1

Abstract

シートバック（２０）は、少なくとも着座乗員の上部胸椎下部に対応した部位を支持する上部胸椎支持部（２０ａ）と、上部胸椎支持部（２０ａ）よりも前側に配置され且つ着座乗員の下部胸椎に対応した部位を支持する下部胸椎支持部（２０ｂ）とを有する。着座乗員に対して後向きの慣性力が作用したときに着座乗員の上部胸椎が前方に傾動するように、下部胸椎支持部（２０ｂ）は上部胸椎支持部（２０ａ）よりも大きく後方変位するように構成される。

Description

車両用シート構造

　本発明は、車両用シート構造に関する。

　従来より、車両の操作性向上等を狙いとして、シートに着座した乗員の姿勢保持機能、所謂ホールド性を改善するための様々な技術が提案されている。

　特許文献１の車両用シートでは、シート幅方向の外側ほど高さが高くなる左右一対の傾斜面（左部傾斜面及び右部傾斜面）がクッションパンに設けられており、シートに着座した乗員の左右の座骨に左部傾斜面及び右部傾斜面の双方から反力が作用するようになっている。この左右の座骨に作用する反力により、左右方向に揺動した着座乗員の骨盤がシートクッションの幅方向中央側に戻される。

　また、シートバックに凭れ掛る着座乗員の胸椎及び腰椎を支持することにより、シートのホールド性を確保する技術も提案されている。

　特許文献２の車両用シートでは、着座乗員の肩甲骨付近に対応した回転中心がシートバックフレームに設定され、乗員の背部を支持するバックレスト部が、シートバックフレームに設定された回転中心回りに回動可能に吊り下げられている。

　これにより、乗員は、横力の作用方向の体幹側方筋を伸ばすと共に、横力の作用方向と反対側の体幹側方筋を縮めることができ、結果としてシートのホールド性が向上する。

　シートに着座した乗員の頭部は、頚椎、胸椎及び腰椎を含む脊椎（背骨）を介してシートに支持される。

　頚椎は、上から順に第１～第７頚椎を有し、胸椎は、上から順に第１～第１２胸椎を有し、腰椎は、上から順に第１～第５腰椎を有する。一般に、第７頚椎から第２胸椎までが頚胸椎移行部、第１０胸椎から第２腰椎までが胸腰椎移行部と称される。

　歩行状態や立位状態にあるときの人の脊椎（背骨）は、側面視にてＳ字状のカーブ（脊柱湾曲）を描く。このＳ字状のカーブを生理的前弯といい、頚椎が約－１０～３０度（平均４．７度）前弯し、胸椎が約５～４５度（平均２４．１度）後弯し、腰椎が約１５～６０度（平均３５．６度）前弯することによって形成される。

　着座状態においても歩行状態と同様の乗員の生理的前弯を維持できれば、骨格における椎間板の負担が最小化されて乗員の違和感が軽減され、無理のない長時間の走行（車両操作）が可能になると考えられる。このため、シートバックの形状を生理的前弯に沿うような形状にすることも行われている。

　前述の如くシートバックを生理的前弯に沿うように形成した場合、車両の定速走行時や停車時においては乗員の脊柱湾曲を維持できるものの、特定の走行状態において乗員が違和感を覚える虞がある。

　屈曲、伸展、回旋動作を行う脊椎のうち、胸郭臓器保護を主目的としている胸椎は、胸骨、肩甲骨等に間接的に接する特殊構造であり、可動域が少ない部位である。特に、胸骨、肩甲骨等に囲まれた上部胸椎（第１～第７胸椎）は、最も可動域が少ない部分であり、換言すれば、最も力学的に安定した部分を構成している。

　そして、車両が急加速する場合、乗員の頭部は、頚胸椎移行部（具体的には第７頚椎及び第１胸椎）を支点として後傾し、乗員の上半身は、上部胸椎下端（具体的には第７胸椎）を支点として後傾する。すなわち、車両の急加速時における乗員の姿勢は、頭部が大きく後傾するような仰け反った姿勢となる。このため、車両の加速走行時、乗員は、車両の実際の加速度よりも大きな加速感を知覚し、自己の体感と実際の車両挙動との不一致に起因した違和感を覚えることがある。

　ここで、車両の加速走行時に乗員の上半身の後傾を抑制するため、加速に伴い上部胸椎下端を後方に平行移動させるべく、シートバックのばね定数を低下させることが考えられる。

　しかしながら、シートバックのばね定数を低下させると、シートのホールド性が低下する上、依然として頭部による頚胸椎移行部回りの後傾が生じることから、違和感の軽減は難しい。すなわち、ホールド性を確保しつつ乗員の違和感を軽減するためには、更なる改善の余地が残されている。

特開２０１６－０１６７１５号公報特開２０１６－００５９３８号公報

　本発明の目的は、ホールド性を確保しつつ乗員の違和感を軽減することが可能な車両用シート構造を提供することである。

　前記目的を達成するためのものとして、本発明は、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シート構造において、前記シートバックは、少なくとも着座乗員の上部胸椎下部に対応した部位を支持する上部胸椎支持部と、前記上部胸椎支持部よりも前側に配置され且つ着座乗員の下部胸椎に対応した部位を支持する下部胸椎支持部とを有し、着座乗員に対して後向きの慣性力が作用したときに着座乗員の上部胸椎が前方に傾動するように、前記下部胸椎支持部が前記慣性力に応じて前記上部胸椎支持部よりも大きく後方変位するように構成された、ことを特徴とするものである。

本発明の第１実施形態に係る車両用シートの概略構成図である。車両用シートに着座した乗員の骨格構造を示す説明図である。車両の加速走行時における乗員の頭部の状態を示す図である。車両の加速度が発生する前後における乗員の上半身の状態を示すモデル図である。乗員の骨格の背面図である。車両用シートの分解斜視図である。シートバックの正面図である。図７のVIII-VIII線断面図である。表皮材を省略したシートバックの部分背面図である。本発明の効果を検証するために行った実験の結果を示すグラフである。本発明の第２実施形態に係る車両用シートの分解斜視図である。表皮材を省略したシートバックの部分背面図である。

　以下、本発明を実施するための好ましい形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。

　＜第１実施形態＞
　本発明の第１実施形態について図１～図１０に基づいて説明する。

　図１に示すように、第１実施形態の車両用シート１は、その主な構成要素として、着座した乗員Ｄの頭部を受けるヘッドレスト２と、シート１を車室床面に固定する脚機構３と、着座乗員Ｄの坐骨に対応した部位（臀部）を支持するシートクッション１０と、着座乗員Ｄの脊椎（背骨）に対応した部位（背部）を支持するシートバック２０とを備えている。

　なお、以下の説明において、「前」「後」「左」「右」とは、いずれも、車両用シート１に正規の姿勢（図１に示す姿勢）で着座した着座乗員Ｄを基準としたものであり、車両の「前」「後」「左」「右」と同義である。

　まず、本発明の基本的な考え方について説明する。

　図２に示すように、シートクッション１０は、大腿骨を下方から支持する前側部分と、前側部分よりも後側に位置し且つ坐骨を下方から支持する後側部分とを有している。

　シートバック２０は、寛骨（腸骨、恥骨、坐骨）及び腰椎を後方から支持する下側部分と、下側部分よりも上側に位置し且つ下部胸椎を後方から支持する中段部分と、中段部分よりも上側に位置し且つ上部胸椎を後方から支持する上側部分とを有している。

　なお、本実施形態では、説明の便宜上、乗員ＤがＡＭ５０（米国成人男性の５０パーセンタイルのダミー人形）と同じ寸法を有するものとする。

　人間の脊椎は、上から順に、第１～第７頚椎と、第１～第１２胸椎と、第１～第５腰椎とを有する。最も上側に位置する第１頚椎は頭部に連なっている。ここで、医学の分野では、第１頚椎、第２頚椎、…第７頚椎のことをＣ１，Ｃ２，…Ｃ７と略称し、第１胸椎、第２胸椎、‥‥第１２胸椎のことをＴ１，Ｔ２，‥‥Ｔ１２と略称し、第１腰椎、第２腰椎、‥‥第５腰椎のことをＬ１，Ｌ２，‥‥Ｌ５と略称することがある。このため、以下の説明では、脊椎の各部にこの略称を付すことにする。例えば、第１頚椎Ｃ１、第１胸椎Ｔ１、第１腰椎Ｌ１などと称する。

　着座乗員Ｄの椎間板の負担を最小化すると共に長時間の走行を可能にするため、車両の定速走行時又は停車時、車両用シート１のシートバック２０は、側面視にて、頚椎が約２０度前弯し、胸椎が約２０～４０度後弯し、腰椎が約３５～６０度前弯するように、つまり乗員の脊椎の生理的前弯に沿うように形成されている。

　また、着座した乗員Ｄの窮屈感（圧迫感）の解消を目的として、図２に示すように、上部胸椎（第１～第７胸椎Ｔ１～Ｔ７）の下端である第７胸椎Ｔ７よりも上側において、乗員Ｄとシートバック２０との前後方向の隙間が上側ほど大きくなるように設定されている。なお、上部胸椎である第１～第７胸椎Ｔ１～Ｔ７は、脊椎の中で最も可動域が少ない部分である。

　図３に実線で示すように、車両が加速走行しているとき、乗員Ｄの上半身には後向きの慣性力が作用するため、頭部を含む上半身が上部胸椎の下端である第７胸椎Ｔ７を支点として後傾する。さらに、頭部に後向きの慣性力が作用するため、頚胸椎移行部である第７頚椎Ｃ７及び第１胸椎Ｔ１を支点として頭部が後傾する。なお、慣性力とは、質量が慣性を持つために現れる見かけ上の力である。

　これらの相乗作用により、乗員Ｄの姿勢は、頭部が大きく後傾するような仰け反った姿勢となる。これにより、乗員Ｄは、車両の実際の加速度よりも大きな加速感を知覚するので、自己の体感と実際の車両挙動との不一致に起因した違和感を覚えるおそれがある。

　また、車両が旋回走行する場合、上半身のうち旋回外側に位置する旋回外側部分に作用する後向きの慣性力は、上半身のうち旋回内側に位置する旋回内側部分に作用する後向きの慣性力よりも大きくなる。さらに、旋回外側の腕に作用するステアリングホイールからの操舵反力は、旋回内側の腕に作用するステアリングホイールからの操舵反力よりも大きくなる。

　これらの相乗作用により、上半身の旋回外側部分に相当する左右いずれか一方の肩甲骨およびその周辺部（旋回外側の上腕部）がシートバック２０を押し潰しながら後方移動する。このことは、旋回外側の上腕部の支持点をシートバック２０上に形成できないことを意味する。これにより、円滑なステアリングホイールの舵角操作が阻害されるおそれがある。

　そこで、本発明者は、図４のチャート（ａ）（ｂ）に示すように、着座乗員Ｄの頭部を含む上半身を、頭部、上部胸椎、下部胸椎、腰椎に相当する４つの領域に分割した人体モデルを作成し、前向きの加速度に起因した各部位の動きについて検討を行った。

　頭部重量をｍ１、上部胸椎部重量をｍ２（ｍ１＜ｍ２）、下部胸椎部重量をｍ３（ｍ１＜ｍ３）、腰椎部重量をｍ４（ｍ３＜ｍ４）、車両の前向きの加速度をαとしたとき、加速度の発生後は発生前（静止状態）に比べて、頭部、上部胸椎、下部胸椎に、－ｍ１×α、－ｍ２×α、－ｍ３×α、－ｍ４×αで表される後向きの慣性力がそれぞれ作用すると見做すことができる。

　以上を踏まえ、本実施形態では、上記各領域における乗員Ｄの骨格部位に対し個別に後方移動量を調整可能な後方移動調整機構をシートバック２０に適用している。詳細は後述するが、後方移動調整機構は、ばね定数が異なるように形成されたシートバック２０の複数の支持部（２０ａ～２０ｅ）の組合せにより構成されている。

　後方移動調整機構の第１の機能は、頭部傾動抑制機能である。

　図５に示すように、後方移動調整機構は、乗員Ｄに対して後向きの慣性力が作用したときに、第１１胸椎Ｔ１１を含む下部胸椎に対応した部位Ｘｂを、第７胸椎Ｔ７を含む上部胸椎に対応した部位Ｘａよりも大きく後方移動させるように構成されている。

　これにより、上部胸椎が前方に傾動し、乗員Ｄの頭部に前方への回転モーメント（図４参照）が付与される。すると、付与された当該回転モーメントによって、車両の加速走行時に、頚胸椎移行部を支点とする乗員Ｄの頭部の後傾が抑制される。これが頭部傾動抑制機能である。

　後方移動調整機構の第２の機能は、上腕支持部形成機能である。

　後方移動調整機構は、乗員Ｄに対して後向きの慣性力が作用したときに、上部胸椎に対応した部位Ｘａの後方移動を、下部胸椎に対応した部位Ｘｂの後方移動、及び第５腰椎Ｌ５を含む腰椎に対応した部位Ｘｃの後方移動のいずれよりも制限するように構成されている。

　上記のような構成の後方移動調整機構は、車両の旋回走行時、乗員Ｄの上半身における旋回外側の肩甲骨およびその周辺部（旋回外側の上腕部）の後方移動を抑制する。このことは、旋回外側の上腕部を支持する支持点をシートバック２０上に形成できたことを意味する。これにより、旋回外側の上腕部に作用する慣性力及び当該上腕部に作用するステアリングホイールからの操舵反力が確実に支持され、ステアリングホイールの操作性が確保される。これが上腕支持部形成機能である。

　ここで、車両用シート１の説明に戻る。

　図１、図６に示すように、脚機構３は、車両床面に直接固定されている。脚機構３と床面との間に、実質的にクッション性を与える部材は配設されていない。

　脚機構３は、床面に対してシートクッション１０及びシートバック２０を前後方向にスライド可能に支持するスライド機構を備えている。このスライド機構は、車両用シート１を前後方向に移動させる機能と、乗員Ｄが所望する位置で車両用シート１を保持する機能とを有している。

　なお、以下では、車両用シート１の状態が、リフト、チルト、リクライニング等の姿勢調整を行う機構が一切操作されていない初期状態であることを前提として説明を進める。

　図６に示すように、シートクッション１０は、シートクッション１０に構造的強度を付与する金属製のフレーム部材１１と、ウレタン製のクッション部材１２と、金属製の弾性部材１３と、これら各要素１１～１３を覆う表皮材とを備えている。

　フレーム部材１１は、平面視で略Ｕ字状を呈する強度部材であり、前後方向に延びる左右一対の横フレーム部と、両横フレーム部の前端部どうしを連結する前フレーム部とを有している。

　弾性部材１３は、複数の金属製の板ばねを有している。弾性部材１３は、その前後両端部がフレーム部材１１に固定されることにより、シートクッション１０の内部において上下方向に弾性変形可能に取り付けられている。乗員Ｄが着座したとき、弾性部材１３は、下方に弾性変形しつつ乗員Ｄの臀部を下方から支持する。

　クッション部材１２は、フレーム部材１１及び弾性部材１３に支持され、これらを覆うように配設されている。このクッション部材１２は、弾性変形特性（ばね特性）と振動減衰特性とを有している。乗員Ｄが着座したとき、クッション部材１２は、圧縮変形されつつ、弾性部材１３と協働して乗員Ｄの臀部を支持する。圧縮変形されたクッション部材１２は、乗員Ｄが離席するのに伴って元の形状に復帰する。

　図６～図９に示すように、シートバック２０は、シートバック２０に構造的強度を付与する金属製のフレーム部材２１と、ウレタン製のクッション部材２２と、金属製の弾性部材２３と、これら各要素２１，２２，２３を覆う表皮材とを備えている。

　フレーム部材２１は、正面視で略Ｕ字状を呈する強度部材であり、シートクッション１０用のフレーム部材１１の後端部から斜め上方に延びる左右一対の横フレーム部２１ａと、両横フレーム部２１ａの上端部どうしを連結する上フレーム部２１ｂとを有している。上フレーム部２１ｂよりもやや下方の高さ位置と、フレーム部材２１の下端部近傍の高さ位置とには、上下一対の被係止バー２１ｃが、両横フレーム部２１ａどうしを左右に連結するように設けられている。

　弾性部材２３は、上下方向に延びる複数（例えば３本）の金属ワイヤ製のＳばね２３ａ～２３ｃ（特に図９参照）を有している。弾性部材２３は、各Ｓばね２３ａ～２３ｃの上下両端部がフレーム部材２１の上下の被係止バー２１ｃに固定されることにより、シートバック２０の内部において前後方向に弾性変形可能に取り付けられている。

　図６～図８に示すように、クッション部材２２は、その左右両側縁部に、中央部分よりも前方に突出した外縁部２２ａを有している。クッション部材２２は、弾性部材２３の前側に配置され、フレーム部材２１を部分的に覆う状態でフレーム部材２１に支持されている。クッション部材２２は、弾性変形特性（ばね特性）と振動減衰特性とを有している。

　図７に示すように、シートバック２０は、正面視にて、上部胸椎に対応した部位Ｘａを支持する略矩形状の上部胸椎支持部２０ａと、この上部胸椎支持部２０ａよりも下側に配置され且つ下部胸椎（Ｔ８～Ｔ１２）に対応した部位Ｘｂを支持する略矩形状の下部胸椎支持部２０ｂと、この下部胸椎支持部２０ｂよりも下側に配置され且つ腰椎（Ｌ１～Ｌ５）に対応した部位Ｘｃを支持する略矩形状の腰椎支持部２０ｃと、これら各支持部２０ａ～２０ｃのシート幅方向の外側に配置された左右一対の縦長状の外縁支持部２０ｄとを備えている。ここで、シートバック２０は、初期状態において、その下端部を中心に後方にやや傾いた（リクライニングした）姿勢で配置される。このため、下部胸椎支持部２０ｂの方が上部胸椎支持部２０ａよりも前側に位置しており、腰椎支持部２０ｃの方が下部胸椎支持部２０ｂよりも前側に位置している。

　上部胸椎支持部２０ａ、下部胸椎支持部２０ｂ、腰椎支持部２０ｃ、及び外縁支持部２０ｄのばね定数をｋａ，ｋｂ，ｋｃ，ｋｄ（Ｎ／ｍ）としたとき、各支持部２０ａ～２０ｄは、次式（１ａ）の条件を満たすように構成されている。

　ｋｂ＜ｋｃ≦ｋａ＜ｋｄ　　　‥‥（１ａ）

　ばね定数が低いことは、外力により変形し易いことを意味する。すなわち、乗員Ｄに対して後向きの慣性力が作用したとき、ばね定数が低い支持部は、ばね定数が高い支持部に比べて大きく後方に変位（変形）する。上記式（１ａ）によれば、最小のばね定数ｋｂを有する下部胸椎支持部２０ｂの後方への変位量が最も大きくなる。逆に、ばね定数が高い支持部（例えば最大のばね定数ｋｄを有する外縁支持部２０ｄ）の後方への変位量は小さくなる。言い換えると、ばね定数が高い支持部は、対向する乗員Ｄの骨格部位の後方移動を阻止する後方移動阻止領域を形成している。

　上部胸椎支持部２０ａは、その内側領域に、上部胸椎の下端である第７胸椎Ｔ７の近傍部を支持する下端支持部２０ｅを有している。より詳しくは、下端支持部２０ｅは、第７胸椎Ｔ７およびその周辺部を支持するために、上部胸椎支持部２０ａのシート幅方向中央部における下端寄りの領域に形成されている。下端支持部２０ｅの左右両端部は、乗員Ｄの左右の肩甲骨領域にそれぞれ対向している。

　上部胸椎支持部２０ａの下端支持部２０ｅのばね定数をｋｅとし、上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅ以外の部分のばね定数をｋａ’とすると、両者の間には次式（２）の関係が成立する。

　１０≦ｋａ’－ｋｅ　　‥‥（２）

　上記式（２）のように、上部胸椎支持部２０ａは、その下端支持部２０ｅ（中央下部）のばね定数ｋｅの方が他の部位のばね定数ｋａ’よりも小さくなるように構成されている。このことは、乗員Ｄに後向きの慣性力が作用したときに、下端支持部２０ｅが相対的に大きく後方に変位することを意味する。これにより、下端支持部２０ｅに生じる窪みが周囲よりも僅かに大きくなるので、この窪んだ下端支持部２０ｅが第７胸椎Ｔ７をシートバック２０上に位置決めする機能を発揮し、シートのホールド性が向上する。

　上記式（２）を上記式（１ａ）にあてはめると、式（１ａ）は次式（１）に書き換えられる。

　ｋｂ＜ｋｃ≦ｋｅ＜ｋａ’＜ｋｄ　　　‥‥（１）

　ここで、本実施形態では、上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅが、腰椎支持部２０ｃのばね定数ｋｃと略等しい（ｋｃと同一かｋｃよりわずかに大きい）ものとする。

　また、下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅは、下部胸椎支持部２０ｂのばね定数ｋｂとの関係において、次式（３）の条件を満たすように設定されている。

　２０≦ｋｅ－ｋｂ　　　　　　　　
　５／４≦ｋｅ／ｋｂ≦７／４　　　　‥‥（３）

　これにより、車両の加速走行時、頚胸椎移行部（Ｃ７，Ｔ１）を支点とする乗員Ｄの頭部の後傾を確実に抑制することができる。

　図７に示すように、上部胸椎支持部２０ａと下部胸椎支持部２０ｂとの間には、略矩形状の上部中間支持部２０ｆが形成されている。下部胸椎支持部２０ｂと腰椎支持部２０ｃとの間には、略矩形状の下部中間支持部２０ｇが形成されている。下部胸椎支持部２０ｂ、下部中間支持部２０ｇ及び腰椎支持部２０ｃと、左右の外縁支持部２０ｄとの間には、左右一対の略三角形状の中間支持部２０ｈが形成されている。

　上部中間支持部２０ｆ及び下部中間支持部２０ｇの各々のばね定数をｋｆ，ｋｇとしたとき、各支持部２０ｆ，２０ｇは、次式（４）の条件を満たすように構成されている。

　ｋｂ＜ｋｆ＜ｋａ
　ｋｂ＜ｋｇ＜ｋｃ　　　‥‥（４）

　なお、上記式（４）のうちｋｆ＜ｋａとは、上部中間支持部２０ｆのばね定数ｋｆが、上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅと、上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅ以外の部分のばね定数ｋａ’とのいずれよりも小さいことを表している。

　上記式（４）は、上部中間支持部２０ｆのばね定数ｋｆがその上下の支持部（上部胸椎支持部２０ａ及び下部胸椎支持部２０ｂ）のばね定数ｋａ，ｋｂの中間値に設定され、かつ下部中間支持部２０ｇのばね定数ｋｇがその上下の支持部（下部胸椎支持部２０ｂ及び腰椎支持部２０ｃ）のばね定数ｋｂ，ｋｃの中間値に設定されていることを意味する。これにより、シートバック２０の上部胸椎支持部２０ａから腰椎支持部２０ｃに亘ってばね定数の変化が緩やかになり、乗員の違和感が軽減される。また、シートバック２０のばね特性が、鳩尾に対応した第１１胸椎Ｔ１１を境にして上下に略対称的な円弧状特性に設定されるので、多少の体格差に拘らずホールド性が確保され、その意味でも乗員の違和感が軽減される。

　左右一対の中間支持部２０ｈは、頂点が第１１胸椎Ｔ１１の高さと略一致するように形成されている。各中間支持部２０ｈは、その幅寸法が下側ほど増大するように形成されている。

　中間支持部２０ｈのばね定数をｋｈとしたとき、中間支持部２０ｈは、次式（５）の条件を満たすように構成されている。

　ｋｃ＜ｋｈ＜ｋｄ　　　‥‥（５）

　ここで、フレーム部材２１とクッション部材２２と弾性部材２３とは、あるばね特性（弾性変形特性）をもった単一のばね構造体と見做すことができる。上記各支持部２０ａ～２０ｈのばね定数ｋａ（ｋａ’，ｋｅ），ｋｂ，ｋｃ，ｋｄ，ｋｆ，ｋｇ，ｋｈは、この単一のばね構造体が乗員Ｄを支持しているとの仮定の下で演算される。具体的には、上記各支持部２０ａ～２０ｈが受け持つ乗員Ｄの各部（上部胸椎部、下部胸椎部、腰椎部等）の重量を上記単一のばね構造体が支持する構造モデルを想定し、当該構造モデルを用いて各支持部２０ａ～２０ｈのばね定数ｋａ～ｋｈを演算する。

　なお、具体的なばね定数の演算については、本出願人が既に出願している特許出願（例えば特願２０１７－１４５３４０）を含め種々の手法が存在するため、詳細な説明を省略する。

　本実施形態において、ばね定数は、各支持部内において略一定であるものとする。例えば、上部胸椎支持部２０ａの下端支持部２０ｅは、そのいずれの位置においても略同一のばね定数を有し（その代表値がｋｅ）、上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅ以外の部分は、そのいずれの位置においても略同一のばね定数を有する（その代表値がｋａ’）。また、下部胸椎支持部２０ｂは、そのいずれの位置においても略同一のばね定数を有する（その代表値がｋｂ）。このことは、腰椎支持部２０ｃ、外縁支持部２０ｄ、上部中間支持部２０ｆ、下部中間支持部２０ｇ、及び中間支持部２０ｈでも同様である。

　図９に示すように、弾性部材２３のＳばね２３ａ～２３ｃは、複数の連結部材２４ａ～２４ｃを介してフレーム部材２１の左右の横フレーム部２１ａに固定されている。また、各Ｓばね２３ａ～２３ｃは、その上下両端部がフレーム部材２１の上下の被係止バー２１ｃに固定されている。Ｓばね２３ａ～２３ｃは左からこの順に並んでおり、以下では適宜、左側Ｓばね２３ａ、中間Ｓばね２３ｂ、右側Ｓばね２３ｃと称する。

　連結部材２４ａ～２４ｃは、上述した各支持部２０ａ～２０ｃに対応（正面視で重複）する位置に設けられている。各支持部２０ａ～２０ｃのばね定数ｋａ～ｋｃの相違をつくり出すため、連結部材２４ａ～２４ｃの張力は互いに相違するように設定されている。

　左側Ｓばね２３ａは、上部胸椎支持部２０ａ、下部胸椎支持部２０ｂ、及び腰椎支持部２０ｃにそれぞれ対応する高さ位置に、左方（左側の外縁支持部２０ｄ側）に張り出した複数の張出部ａ１～ａ３を有している。

　中間Ｓばね２３ｂは、左側Ｓばね２３ａと同様の形状を有している。すなわち、中間Ｓばね２３ｂは、上部胸椎支持部２０ａ、下部胸椎支持部２０ｂ、及び腰椎支持部２０ｃにそれぞれ対応する高さ位置に、左方（左側の外縁支持部２０ｄ側）に張り出した張出部ｂ１～ｂ３を有している。

　右側Ｓばね２３ｃは、中間Ｓばね２３ｂ（または左側Ｓばね２３ａ）と左右対称になるように形成されている。すなわち、右側Ｓばね２３ｃは、上部胸椎支持部２０ａ、下部胸椎支持部２０ｂ、及び腰椎支持部２０ｃにそれぞれ対応する高さ位置に、右方（右側の外縁支持部２０ｄ側）に張り出した張出部ｃ１～ｃ３を有している。

　左右一対の連結部材２４ａは、左側及び右側Ｓばね２３ａ，２３ｃの各上部をフレーム部材２１の両側部に連結している。具体的に、左側の連結部材２４ａは、上部胸椎支持部２０ａに対応した左側Ｓばね２３ａの張出部ａ１と、フレーム部材２１の左側の横フレーム部２１ａの中段上部とを連結している。同様に、右側の連結部材２４ａは、上部胸椎支持部２０ａに対応した右側Ｓばね２３ｃの張出部ｃ１と、フレーム部材２１の右側の横フレーム部２１ａの中段上部とを連結している。

　左右一対の連結部材２４ｂは、左側及び右側Ｓばね２３ａ，２３ｃの各中央部をフレーム部材２１の両側部に連結している。具体的に、左側の連結部材２４ｂは、下部胸椎支持部２０ｂに対応した左側Ｓばね２３ａの張出部ａ２と、フレーム部材２１の左側の横フレーム部２１ａの中段中央部とを連結している。同様に、右側の連結部材２４ｂは、下部胸椎支持部２０ｂに対応した右側Ｓばね２３ｃの張出部ｃ２とフレーム部材２１の右側の横フレーム部２１ａの中段中央部とを連結している。

　左右一対の連結部材２４ｃは、左側及び右側Ｓばね２３ａ，２３ｃの各下部をフレーム部材２１の両側部に連結している。具体的に、左側の連結部材２４ｃは、腰椎支持部２０ｃに対応した左側Ｓばね２３ａの張出部ａ３と、フレーム部材２１の左側の横フレーム部２１ａの中段下部とを連結している。同様に、右側の連結部材２４ｃは、腰椎支持部２０ｃに対応した右側Ｓばね２３ｃの張出部ｃ３とフレーム部材２１の右側の横フレーム部２１ａの中段下部とを連結している。

　図９に示すように、各Ｓばね２３ａ～２３ｃは、上部中間支持部２０ｆ（上部胸椎支持部２０ａと下部胸椎支持部２０ｂとの間）、及び下部中間支持部２０ｇ（下部胸椎支持部２０ｂと腰椎支持部２０ｃとの間）にそれぞれ対応する高さ位置において、上下一対の結束部材２３ｄを介して互いに結束されている。具体的に、上側の結束部材２３ｄは、左側Ｓばね２３ａにおける張出部ａ１，ａ２の間の部分と、中間Ｓばね２３ｂにおける張出部ｂ１，ｂ２の間の部分と、右側Ｓばね２３ｃにおける張出部ｃ１，ｃ２の間の部分とを互いに結束している。同様に、下側の結束部材２３ｄは、左側Ｓばね２３ａにおける張出部ａ２，ａ３の間の部分と、中間Ｓばね２３ｂにおける張出部ｂ２，ｂ３の間の部分と、右側Ｓばね２３ｃにおける張出部ｃ２，ｃ３の間の部分とを互いに結束している。

　連結部材２４ａ～２４ｃは、上記式（１）～（４）の条件を満たすように各々の連結張力が調整されている。

　なお、上部胸椎支持部２０ａの下端支持部２０ｅと、上部中間支持部２０ｆと、下部中間支持部２０ｇとの各ばね定数については、連結部材２４ａ～２４ｃによる連結張力の調整に加えて、クッション部材２２のばね特性の変更により調整されている。

　次に、上記車両用シート１の作用効果について説明する。

　作用効果を検証するために、ＣＡＥ（Computer Aided Engineering）による実験を行った。この検証実験では、比較モデルＭ１，Ｍ２及び本件モデルＭ３を準備するとともに、第５腰椎Ｌ５を基準として、２種類の加速度（３Ｇ，６Ｇ）が作用した場合における頭部、第７胸椎Ｔ７、及び第１１胸椎Ｔ１１の後方変位量を演算した。なお、第７胸椎Ｔ７は乗員Ｄの肩位置に相当し、第１１胸椎Ｔ１１は乗員Ｄの腰位置に相当する。

　本件モデルＭ３は、上部胸椎支持部２０ａの下端支持部２０ｅ、上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅ以外の部分、及び下部胸椎支持部２０ｂの各ばね定数が、上記式（１）～（３）により規定されるｋｅ，ｋａ’，ｋｂに設定されたモデルである。

　比較モデルＭ１は、上部胸椎支持部２０ａ（下端支持部２０ｅおよびそれ以外の部分）のばね定数が本件モデルＭ３における下部胸椎支持部２０ｂのばね定数ｋｂと同等に設定され、且つ下部胸椎支持部２０ｂのばね定数が本件モデルＭ３における下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅと同等に設定されたモデルである。この比較モデルＭ１において、上部胸椎支持部２０ａの下端支持部２０ｅのばね定数をｋｅ１、上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅ以外の部分のばね定数をｋａ１’、下部胸椎支持部２０ｂのばね定数をｋｂ１とすると、これらの大小関係は次式（６）で表される。

　ｋｅ１＝ｋａ１’＜ｋｂ１　　　‥‥（６）

　比較モデルＭ２は、上部胸椎支持部２０ａ（下端支持部２０ｅおよびそれ以外の部分）及び下部胸椎支持部２０ｂのばね定数が、いずれも本件モデルＭ３における下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅの２倍相当に設定されたモデルである。すなわち、この比較モデルＭ２において、上部胸椎支持部２０ａの下端支持部２０ｅのばね定数をｋｅ２、上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅ以外の部分のばね定数をｋａ２’、下部胸椎支持部２０ｂのばね定数をｋｂ２とすると、これらの大小関係は次式（７）で表される。

　ｋｅ２＝ｋａ２’＝ｋｂ２　　　‥‥（７）

　以下、図１０のチャート（ａ）～（ｃ）を用いて検証結果を説明する。

　図１０のチャート（ａ）に示すように、比較モデルＭ１では、第５腰椎Ｌ５よりも上側の椎骨ほど後方移動量が大きいことから、乗員Ｄの頭部がかなり大きく後傾している（仰け反り量が過剰である）ことが分かる。しかも、第７胸椎Ｔ７の後方移動量が大きく、肩甲骨及びその周辺部（肩甲骨領域）を支持する支持点が十分に形成されていないことが分かる。

　図１０のチャート（ｂ）に示すように、比較モデルＭ２では、比較モデルＭ１よりも後傾量は少ないものの、やはり第５腰椎Ｌ５よりも上側の椎骨ほど後方移動量が大きいという傾向が見られることから、乗員Ｄの頭部の後傾が十分に抑制されていないことが分かる。また、比較モデルＭ１に比べて第７胸椎Ｔ７の後方移動量は抑えられているが、各支持部の沈み込み量（変位量）がいずれも少ないため、着座快適性の確保が困難な上に、旋回走行時に乗員Ｄの姿勢を保持するホールド性の確保が困難である。

　図１０のチャート（ｃ）に示すように、本件モデルＭ３では、加速度が増加するのに従い、第１１胸椎Ｔ１１から上側の部分において、上側の椎骨ほど後方移動量が小さくなる傾向（前傾傾向）が顕著になる。すなわち、乗員Ｄの頭部に前方への回転モーメントが付与されて当該頭部の後傾が抑制されている。しかも、上記式（２）に示したように、第７胸椎Ｔ７に直接対応する（正面視で重複する）位置に形成された下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅが、下端支持部２０ｅの左右両側の領域（上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅ以外の部分）のばね定数ｋａ’よりも小さい、言い換えると、第７胸椎Ｔ７から左右にずれた位置で肩甲骨領域が実質的に支持されるように構成されているので、第７胸椎Ｔ７が後方移動しても乗員Ｄは圧迫による痛みを感じ難い。

　以上説明したとおり、上記第１実施形態の車両用シート１のシートバック２０は、少なくとも着座乗員Ｄの第７胸椎Ｔ７（上部胸椎下部）を含む上部胸椎に対応した部位Ｘａを支持する上部胸椎支持部２０ａと、上部胸椎支持部２０ａよりも前側に配置され且つ着座乗員Ｄの下部胸椎に対応した部位Ｘｂを支持する下部胸椎支持部２０ｂとを有するため、上部胸椎支持部２０ａと下部胸椎支持部２０ｂとの支持特性を独立して設定することができる。また、着座乗員Ｄに対して後向きの慣性力が作用したときに、下部胸椎支持部２０ｂが上部胸椎支持部２０ａよりも大きく後方変位可能であるため、上部胸椎を前方へ傾動させるような回転モーメントを生じさせることができ、着座乗員Ｄの頭部が後方に傾動するのを抑制することができる。すなわち、当該前方への回転モーメントによって、車両の加速走行時に、頚胸椎移行部を支点とする乗員Ｄの頭部の後傾を抑制し、着座乗員Ｄの生理的前弯を維持することができる。

　上記第１実施形態におけるシートバック２０は、下部胸椎支持部２０ｂよりも前側に配置され且つ着座乗員Ｄの腰椎に対応した部位Ｘｃを支持する腰椎支持部２０ｃをさらに有するため、上部胸椎支持部２０ａ及び下部胸椎支持部２０ｂに加え、腰椎支持部２０ｃの支持特性を独立して設定することができる。また、着座乗員Ｄに対して後向きの慣性力が作用したときに、下部胸椎支持部２０ｂが腰椎支持部２０ｃよりも大きく後方変位可能であるため、車両挙動に拘らず乗員Ｄの生理的前弯を維持することができる。

　上記第１実施形態では、下部胸椎支持部２０ｂのばね定数ｋｂが、上部胸椎支持部２０ａのばね定数ｋａ（ｋａ’，ｋｅ）及び腰椎支持部２０ｃのばね定数ｋｃよりも低いため、簡単な構成で、下部胸椎支持部２０ｂを上部胸椎支持部２０ａ及び腰椎支持部２０ｃよりも大きく後方変位させることができる。

　上記第１実施形態におけるシートバック２０は、上部胸椎支持部２０ａと下部胸椎支持部２０ｂとの間に配設された上部中間支持部２０ｆと、下部胸椎支持部２０ｂと腰椎支持部２０ｃとの間に配設された下部中間支持部２０ｇとをさらに有し、上部中間支持部２０ｆのばね定数ｋｆは、上部胸椎支持部２０ａのばね定数ｋａと下部胸椎支持部２０ｂのばね定数ｋｂとの中間値に設定され、下部中間支持部２０ｇのばね定数ｋｇは、下部胸椎支持部２０ｂのばね定数ｋｂと腰椎支持部２０ｃのばね定数ｋｃとの中間値に設定されているため、ばね定数の変化を緩やかにして乗員Ｄの違和感を軽減することができる。また、シートバック２０のばね特性が、下部胸椎支持部２０ｂを境にして上下に略対称的な円弧状特性に設定されるため、多少の体格差に拘らず、ホールド性を確保しつつ乗員Ｄの違和感を軽減することができる。

　上記第１実施形態では、上部胸椎支持部２０ａの下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅが、腰椎支持部２０ｃのばね定数ｋｃと略同一に設定されているため、下部胸椎支持部２０ｂを中心とした対称的な支持特性をシートバック２０に付与することができる。

　上記第１実施形態では、上部胸椎支持部２０ａの下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅが、下部胸椎支持部２０ｂのばね定数ｋｂよりも２０Ｎ／ｍ以上大きいため、車両の加速走行時に、頚胸椎移行部を支点とする乗員Ｄの頭部の後傾を確実に抑制することができる。

　上記第１実施形態では、上部胸椎支持部２０ａの下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅが、下部胸椎支持部２０ｂのばね定数ｋｂの５／４～７／４の範囲に設定されるため、乗員Ｄの快適性を担保しつつ、車両の加速走行時に、頚胸椎移行部を支点とする乗員Ｄの頭部の後傾を確実に抑制することができる。

　＜第２実施形態＞
　次に、本発明の第２実施形態に係る車両用シート１Ａついて図１１，図１２に基づいて説明する。

　第１実施形態と第２実施形態との主な相違点は、第１実施形態では、Ｓばね２３ａ～２３ｃと連結部材２４ａ～２４ｃとを用いて各支持部２０ａ～２０ｃのばね定数ｋａ～ｋｃを調整していたのに対し、第２実施形態では、パネル材２５ａ，２５ｂと張力部材２６ａ，２６ｂとを用いてばね定数を調整していることである。以下、第２実施形態について詳しく説明するが、第１実施形態と同様の部材には同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。

　図１１に示すように、シートバック２０Ａは、シートバック２０Ａに構造的強度を付与する金属製のフレーム部材２１と、ウレタン製のクッション部材２２と、合成樹脂製のパネル材２５ａ，２５ｂと、張力部材２６ａ，２６ｂと、これら各要素を覆う表皮材とを備えている。

　パネル材２５ａ，２５ｂ及び張力部材２６ａ，２６ｂは、フレーム部材２１の左右の横フレーム部２１ａどうしを連結するように設けられている。

　上側のパネル材２５ａは、上部胸椎支持部２０ａに対応（正面視で重複）する位置に配設されている。下側のパネル材２５ｂは、上側のパネル材２５ａから下方に離間し且つ下部胸椎支持部２０ｂに対応する位置に配設されている。

　図１２に示すように、上側の張力部材２６ａは、所定の弾性特性を備えた３本の紐状線材２６ｘ～２６ｚから構成されている。

　紐状線材２６ｘ，２６ｙは、上部胸椎支持部２０ａの四隅近傍位置でフレーム部材２１（横フレーム部２１ａ）に固定され、上部胸椎支持部２０ａの中央で交差するように配設されている。紐状線材２６ｚは、上部胸椎支持部２０ａの中央よりも上側において紐状線材２６ｘ，２６ｙの途中部（両者の交差位置よりも上側の部分）どうしを左右に連結するように配設されている。

　紐状線材２６ｘ，２６ｙが交差する交差点は、下端支持部２０ｅ（図７）の直上部に位置している。このように、下端支持部２０ｅの上方に紐状線材２６ｘ，２６ｙの交差点及び紐状線材２６ｚが配置されることにより、加速走行時には、第７胸椎Ｔ７に対応した下端支持部２０ｅを周囲に比べて僅かに窪ますことができる。また、旋回走行時、紐状線材２６ｘ，２６ｙの下部によって乗員Ｄの肩甲骨の下部を支持することにより、乗員Ｄによるステアリング操作を容易化することができる。

　下側の張力部材２６ｂは、所定の弾性特性を備えた単一の紐状線材から構成されている。この張力部材２６ｂは、腰椎支持部２０ｃの中央よりも若干上側の位置において左右に延びるように配設されている。

　これにより、腰椎支持部２０ｃのばね定数ｋｃは、腰椎支持部２０ｃの中央よりも若干上側の位置（つまり張力部材２６ｂが配設される位置）で最も大きくなる。また、ばね定数ｋｃは、張力部材２６ｂの位置から上側又は下側に離れるほどリニアに低くなる。

　また、腰椎支持部２０ｃのばね定数ｋｃは、下部胸椎支持部２０ｂのばね定数ｋｂよりも高くなるように設定され、上部胸椎支持部２０ａのばね定数ｋａよりも低くなるように設定されている。

　なお、上部中間支持部２０ｆ及び下部中間支持部２０ｇの各ばね定数については、パネル材２５ａ，２５ｂ及び張力部材２６ａ，２６ｂの調整に加えて、クッション部材２２のばね特性の変更により調整されている。

　＜変形例＞
　次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。

　〔１〕前記第１実施形態では、上部胸椎支持部２０ａの一部（中央下部）に下端支持部２０ｅを設定し、この下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅをその他の部分（上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅ以外の部分）のばね定数ｋａ’よりも小さくした例を説明したが、ばね定数ｋｅとばね定数ｋａ’とを同じ値に設定してもよい。

　〔２〕また、前記第１実施形態とは逆に、上部胸椎支持部２０ａの下端支持部２０ｅのばね定数ｋｅを、上部胸椎支持部２０ａにおける下端支持部２０ｅ以外の部分のばね定数ｋａ’よりも大きい値に設定してもよい。この場合、上述した式（１）は、次の式（１０）に書き換えられる。

　ｋｂ＜ｋｃ≦ｋａ’＜ｋｅ＜ｋｄ　　　‥‥（１０）

　前記のようにばね定数ｋｅをばね定数ｋａ’よりも大きくした場合には、乗員Ｄに後向きの慣性力が作用したときに、相対的に高いばね定数ｋｅを有する下端支持部２０ｅによって乗員Ｄの第７胸椎Ｔ７の後方移動が十分に抑制されるとともに、相対的に低いばね定数ｋａ’を有する部分（下端支持部２０ｅの周りの部分）により乗員の肩甲骨の後方移動が許容され易くなる。これにより、乗員Ｄの第７胸椎Ｔ７をシートバック２０上で安定的に支持しつつ、乗員Ｄによるステアリング操作の自由度を確保することができる。

　〔３〕前記第１実施形態では、上部胸椎支持部２０ａのばね定数ｋａ（ｋａ’，ｋｅ）を腰椎支持部２０ｃのばね定数ｋｃ以上に設定した例について説明したが（ｋｃ≦ｋａ）、ｋａとｋｃとの大小関係は逆であってもよい。すなわち、ｋａ（ｋａ’，ｋｅ）≦ｋｃの関係が成立するように上部胸椎支持部２０ａおよび腰椎支持部２０ｃを形成してもよい。このようにすれば、乗員Ｄの頭部の後傾が抑制されて、当該頭部の挙動がより平行移動に近い挙動となる。

　〔４〕前記第１実施形態では、左右一対の中間支持部２０ｈのばね定数ｋｈを腰椎支持部２０ｃのばね定数ｋｃよりも大きくし、かつ左右一対の外縁支持部２０ｄのばね定数ｋｄを左右一対の中間支持部２０ｈのばね定数ｋｈよりも大きくした例について説明したが（ｋｃ＜ｋｈ＜ｋｄ）、ｋｃとｋｈとの大小関係は逆であってもよい。すなわち、ｋｈ＜ｋｃ＜ｋｄの関係が成立するように上記各部２０ｃ，２０ｄ，２０ｈを形成してもよい。このようにすれば、シート１の座り心地が向上するとともに、車両の旋回時における乗員Ｄの姿勢が安定する。

　〔５〕前記第１・第２実施形態では、下部胸椎支持部２０ｂのばね定数ｋｂが当該支持部内において一定に設定された例を説明したが、下側ほど定数ｋｂが低くなるように設定してもよい。

　〔６〕前記第２実施形態では、パネル材２５ａ，２５ｂ及び張力部材２６ａ，２６ｂにより各支持部のばね定数を調整した例を説明したが、これらの要素と、前記第１実施形態で用いたＳばね２３ａ～２３ｃとを併用することによりばね定数を調整してもよい。また、Ｓばねを併用する場合、適宜、前記第１実施形態で用いた連結部材２４ａ～２４ｃを追加で使用することも可能である。

　〔７〕前記第１・第２実施形態では、後方移動調整機構の第１，第２の機能（頭部傾動抑制機能、上腕支持部形成機能）を各支持部のばね定数の調整によって実現した例を説明したが、少なくとも、乗員Ｄの骨格部位毎に後方移動が調整できればよく、例えば、各支持部を独立変位可能に構成すると共に各支持部を前後方向に変位させる駆動部を設け、走行状態に合わせて各支持部の後方変位量を制御してもよい。この場合、フレームとクッションと弾性部材とを一体に動かすために、以下の構造を採用することが考えられる。

（ｉ）シートバックのフレーム部材を、外側フレームと内側フレームとを有する２重構造とする。
（ii）側突時に乗員を保護するため、外側フレームを移動不能に構成する。
（iii）内側フレームにクッションと弾性部材とを直接支持させる。
（iv）内側フレームとクッションと弾性部材とを、支持部毎に分割し、支持部毎に駆動部により前後移動させる。

　〔８〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で前記実施形態に種々の変更を付加したり、各実施形態を組み合わせることが可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。

　＜実施形態のまとめ＞
　前記実施形態をまとめると以下のとおりである。

　第１の局面にかかる車両用シート構造は、シートクッションとシートバックとを備える。前記シートバックは、少なくとも着座乗員の上部胸椎下部に対応した部位を支持する上部胸椎支持部と、前記上部胸椎支持部よりも前側に配置され且つ着座乗員の下部胸椎に対応した部位を支持する下部胸椎支持部とを有する。着座乗員に対して後向きの慣性力が作用したときに着座乗員の上部胸椎が前方に傾動するように、前記下部胸椎支持部は前記慣性力に応じて前記上部胸椎支持部よりも大きく後方変位するように構成される。

　この第１の局面にかかる車両用シート構造では、上部胸椎下部に対応した部位を支持する上部胸椎支持部と、下部胸椎に対応した部位を支持する下部胸椎支持部とがシートバックに備わるため、上部胸椎支持部と下部胸椎支持部との支持特性を独立して設定することができる。

　また、着座乗員に対して後向きの慣性力が作用したときに、前記下部胸椎支持部が前記上部胸椎支持部よりも大きく後方変位可能であるため、上部胸椎を前方へ傾動させるような回転モーメントを生じさせることができ、着座乗員の頭部が後方に傾動するのを抑制することができる。すなわち、当該前方への回転モーメントによって、車両の加速走行時に、頚胸椎移行部を支点とする着座乗員の頭部の後傾を抑制し、着座乗員の生理的前弯を維持することができる。

　好ましくは、前記シートバックは、前記下部胸椎支持部よりも前側に配置され且つ着座乗員の腰椎に対応した部位を支持する腰椎支持部を有する。前記下部胸椎支持部は、着座乗員に対して後向きの慣性力が作用したときに、前記腰椎支持部よりも大きく後方変位するように構成される。

　この構成によれば、上部胸椎支持部と下部胸椎支持部に加え、腰椎支持部の支持特性を独立して設定することができる。また、車両挙動に拘らず乗員の生理的前弯を維持することができる。

　第２の局面にかかる車両用シート構造は、シートクッションとシートバックとを備える。前記シートバックは、少なくとも着座乗員の上部胸椎下部に対応した部位を支持する上部胸椎支持部と、前記上部胸椎支持部よりも前側に配置され且つ着座乗員の下部胸椎に対応した部位を支持する下部胸椎支持部と、前記下部胸椎支持部よりも前側に配置され且つ着座乗員の腰椎に対応した部位を支持する腰椎支持部とを有する。前記下部胸椎支持部のばね定数は、前記上部胸椎支持部及び腰椎支持部のばね定数よりも低い。

　この第２の局面にかかる車両用シート構造によれば、前記第１の局面にかかる車両用シート構造による効果に加え、簡単な構成で、下部胸椎支持部を上部胸椎支持部及び腰椎支持部よりも大きく後方変位させられるという効果を奏する。

　好ましくは、前記車両用シート構造は、前記上部胸椎支持部と下部胸椎支持部との間に配設された上部中間支持部と、前記下部胸椎支持部と腰椎支持部との間に配設された下部中間支持部とをさらに備える。前記上部中間支持部のばね定数は、前記上部胸椎支持部のばね定数と下部胸椎支持部のばね定数との中間値に設定される。前記下部中間支持部のばね定数は、前記下部胸椎支持部のばね定数と腰椎支持部のばね定数との中間値に設定される。

　この構成によれば、ばね定数の変化を緩やかにして乗員の違和感を軽減することができる。また、シートバックのばね特性が、下部胸椎支持部を境にして上下に略対称的な円弧状特性に設定されるため、多少の体格差に拘らず、ホールド性を確保しつつ乗員の違和感を軽減することができる。

　好ましくは、前記上部胸椎支持部は、ばね定数が前記腰椎支持部と略同一に設定された部分を有する。

　この構成によれば、下部胸椎支持部を中心とした対称的な支持特性をシートバックに付与することができる。

　前記構成において、より好ましくは、前記上部胸椎支持部は、前記下部胸椎支持部よりもばね定数が２０Ｎ／ｍ以上大きい部分を有する。

　この構成によれば、車両の加速走行時に、頚胸椎移行部を支点とする乗員の頭部の後傾を確実に抑制することができる。

　好ましくは、前記上部胸椎支持部は、ばね定数が前記下部胸椎支持部のそれの５／４～７／４の範囲に設定された部分を有する。

　この構成によれば、乗員の快適性を担保しつつ、車両の加速走行時に、頚胸椎移行部を支点とする乗員の頭部の後傾を確実に抑制することができる。

Claims

　シートクッションとシートバックとを備えた車両用シート構造において、
　前記シートバックは、少なくとも着座乗員の上部胸椎下部に対応した部位を支持する上部胸椎支持部と、前記上部胸椎支持部よりも前側に配置され且つ着座乗員の下部胸椎に対応した部位を支持する下部胸椎支持部とを有し、
　着座乗員に対して後向きの慣性力が作用したときに着座乗員の上部胸椎が前方に傾動するように、前記下部胸椎支持部が前記慣性力に応じて前記上部胸椎支持部よりも大きく後方変位するように構成された、ことを特徴とする車両用シート構造。
　前記シートバックは、前記下部胸椎支持部よりも前側に配置され且つ着座乗員の腰椎に対応した部位を支持する腰椎支持部を有し、
　前記下部胸椎支持部は、着座乗員に対して後向きの慣性力が作用したときに、前記腰椎支持部よりも大きく後方変位するように構成された、ことを特徴とする請求項１に記載の車両用シート構造。
　シートクッションとシートバックとを備えた車両用シート構造において、
　前記シートバックは、少なくとも着座乗員の上部胸椎下部に対応した部位を支持する上部胸椎支持部と、前記上部胸椎支持部よりも前側に配置され且つ着座乗員の下部胸椎に対応した部位を支持する下部胸椎支持部と、前記下部胸椎支持部よりも前側に配置され且つ着座乗員の腰椎に対応した部位を支持する腰椎支持部とを有し、
　前記下部胸椎支持部のばね定数は、前記上部胸椎支持部及び腰椎支持部のばね定数よりも低い、ことを特徴とする車両用シート構造。
　前記上部胸椎支持部と下部胸椎支持部との間に配設された上部中間支持部と、
　前記下部胸椎支持部と腰椎支持部との間に配設された下部中間支持部とをさらに備え、
　前記上部中間支持部のばね定数は、前記上部胸椎支持部のばね定数と下部胸椎支持部のばね定数との中間値に設定され、
　前記下部中間支持部のばね定数は、前記下部胸椎支持部のばね定数と腰椎支持部のばね定数との中間値に設定された、ことを特徴とする請求項２又は３に記載の車両用シート構造。
　前記上部胸椎支持部は、ばね定数が前記腰椎支持部と略同一に設定された部分を有する、ことを特徴とする請求項２～４の何れか１項に記載の車両用シート構造。
　前記上部胸椎支持部は、前記下部胸椎支持部よりもばね定数が２０Ｎ／ｍ以上大きい部分を有する、ことを特徴とする請求項５に記載の車両用シート構造。
　前記上部胸椎支持部は、ばね定数が前記下部胸椎支持部のそれの５／４～７／４の範囲に設定された部分を有する、ことを特徴とする請求項１～６の何れか１項に記載の車両用シート構造。