WO2014181523A1 - ポリマーとその製造方法 - Google Patents
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Abstract
四員環以上の環構造部を複数個含むコア部と、コア部の環構造部からそれぞれ延びる直鎖部を含むシェル部と、よりなり、直鎖部はカルボキシル基を有する酸モノマーの重合体からなる。スターポリマーに匹敵する特性をもち、製造が容易なポリマーをRAFT重合法によって容易かつ精密に合成することができる。
Description
本発明は、蓄電池の電極用バインダなどに用いられるポリマーとその製造方法に関するものである。
リチウムイオン二次電池は、充放電容量が高く、高出力化が可能な二次電池である。現在、主として携帯電子機器用の電源として用いられており、更に、今後普及が予想される電気自動車用の電源として期待されている。
リチウムイオン二次電池は、リチウム(Li)を挿入および脱離することができる活物質を正極及び負極にそれぞれ有する。そして、両極間に設けられた電解液内をリチウムイオンが移動することによって動作する。
これらリチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質としては、高電位での単位重量あたりの充放電容量が大きいコバルト酸リチウムに代表される金属酸化物系化合物が使用され、負極活物質としてはリチウム(Li)に近い卑な電位で単位重量あたりの充放電容量が大きい黒鉛に代表される炭素材料が用いられている。
例えば負極活物質としては天然黒鉛、人造黒鉛、低結晶性炭素材料、非晶質炭素材料、表面被覆炭素材料、メソフェーズピッチ系炭素繊維、及びホウ素等の異種元素をドーピングさせた炭素材料等が用いられてきた。中でも天然黒鉛は、高い電池容量が得られることで注目されたが、電解液の分解反応が激しいためにサイクル寿命が短いという問題があり、実用化が難しかった。
一方、コークス等を原料として熱処理することにより得られる人造黒鉛は、比較的サイクル特性が良好なため、現在負極活物質として広く使用されている。そして容量とサイクル特性をさらに向上させるために、負極活物質の開発が現在でも盛んに検討されている。例えば、結晶性の高い黒鉛質材料に機械的処理を行うことで造粒、若しくは球状に加工した粒状黒鉛、負極活物質表面の反応性を抑制するために、表面をピッチや樹脂で被覆し、熱処理を施した処理黒鉛などが検討されている。
また負極活物質として、高容量なケイ素またはケイ素酸化物も検討されている。ケイ素を負極活物質として用いることにより、炭素材料を用いるよりも高容量の電池とすることができる。しかしながらケイ素は、充放電時のリチウムの吸蔵・放出に伴う体積変化が大きい。そのためケイ素が微粉化して集電体から脱落または剥離し、電池の充放電サイクル寿命が短いという問題点がある。そこでケイ素酸化物を負極活物質として用いることにより、ケイ素よりも充放電時のリチウムの吸蔵・放出に伴う体積変化を抑制することができる。
例えば、負極活物質として、酸化ケイ素(SiOx:xは0.5≦x≦1.5程度)の使用が検討されている。SiOxは熱処理されると、SiとSiO2とに分解することが知られている。これは不均化反応といい、固体の内部反応によりSi相とSiO2相の二相に分離する。分離して得られるSi相は非常に微細である。また、Si相を覆うSiO2相が電解液の分解を抑制する働きをもつ。したがって、SiとSiO2とに分解したSiOxからなる負極活物質を用いた二次電池は、サイクル特性に優れる。
これら負極活物質を含む負極は、例えば、負極活物質とバインダとを含むスラリーを集電体に塗布し、乾燥することにより作製される。このため活物質粒子どうしの結着と、活物質と集電体との結着とを担うバインダの性能が、負極の性能に大きく影響する。例えば上述の酸化ケイ素からなる負極活物質を用いた負極であっても、充放電反応時のリチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化が避けられない。
すなわちバインダには大きな応力が作用するため、バインダの結着力が低い場合には、使用時に活物質粒子どうしの密着性及び活物質と集電体との密着性が次第に低下し、集電性が次第に低下してしまう。 したがってバインダには強い結着力が求められている。例えば下記の特許文献1には、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸よりなる群から選ばれるポリマーを含有し、そのポリマーは酸無水物基を含むリチウムイオン二次電池用負極が記載されている。
また下記の特許文献2には、アクリル酸とメタクリル酸とを共重合させて得られるポリマーを負極用バインダ又は正極用バインダとして用いることが記載されている。
さらに下記の特許文献3には、アクリルアミドとアクリル酸とイタコン酸とを共重合させて得られるポリマーを負極用バインダ又は正極用バインダとして用いることが記載されている。
従来使用されている負極用バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などの含フッ素系ポリマー、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの水溶性セルロース誘導体、ポリアクリル酸などの水溶性ポリマーなどが挙げられる。しかしこれらのポリマーを負極用バインダとして用いると、集電体への活物質の結着力がまだ不十分であるために、充放電サイクルの進行に伴う電極の膨潤、収縮などによって、活物質が電極から徐々に脱落し、十分なサイクル特性が得られないという問題があった。
そこで本願発明者らは、以下のような所謂スターポリマーを開発した。すなわちそのスターポリマーは、コア部と、コア部から伸びるポリマー鎖からなるアーム部とを有するポリマーであって、コア部は四員環以上の環構造を有し、アーム部はカルボキシル基を有する酸モノマーの重合体からなり、アーム部は3本以上でありコア部の環構造を構成する3個以上の炭素原子からそれぞれ伸び、それぞれのアーム部の一端はコア部の環構造を構成する炭素原子に単結合あるいはエーテル基、エステル基、カルボニル基、アルキレン基又はこれらを組み合わせた二価の基を介して結合している。
このスターポリマーは、接着性、結着性に優れ、蓄電装置の電極用バインダとして好適である。ところがこのスターポリマーは合成するのが難しく、工業的な製造コストが高いという問題があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、上記したスターポリマーに匹敵する特性をもち、製造が容易なポリマーを提供することを解決すべき課題とする。
上記課題を解決する本発明のポリマーの特徴は、粒子状をなすコア-シェル型のポリマーであって、四員環以上の環構造部を複数個含むコア部と、コア部の環構造部からそれぞれ延びる直鎖部を含むシェル部と、よりなり、直鎖部はカルボキシル基を有する酸モノマーの重合体であることにある。
そして本発明のポリマーを製造できる本発明の製造方法の特徴は、溶媒中にてRAFT剤の存在下で酸モノマーを重合してポリカルボン酸型マクロRAFT剤を形成する第一工程と、乳化重合にて前記ポリカルボン酸型マクロRAFT剤の存在下で四員環以上の環構造部を有するモノマー又はオリゴマーを重合する第二工程と、を含むことにある。
本発明のポリマーによれば、四員環以上の環構造部を含むコア部によって剛性が発現され、カルボキシル基を有する直鎖部を含むシェル部によって接着性と柔軟性が発現される。そのため各種物質との密着性に優れ、リチウムイオン二次電池の電極用バインダなどとしてきわめて有用である。
そして本発明のポリマーの製造方法によれば、本発明のポリマーを容易かつ安定して製造することができ、工数も小さいため安価に製造することができる。
そして本発明のポリマーをリチウムイオン二次電池の負極用バインダとして用いれば、Grotthus機構によるプロトンホッピング伝導のような現象が起こり、リチウムイオンがアーム部のカルボキシル基を介してホッピングして移動し易くなると考えられ、高い放電容量と高い導電性が発現されると推察される。
本発明のポリマーは、コア部と、コア部から延びる直鎖部を含むシェル部と、よりなる。コア部は四員環以上の環構造部を複数個含むものであり、炭素のみからなる単素環式化合物から派生したものであってもよいし、炭素以外の元素を含む複素環式化合物から派生したものであってもよい。四員環の単素環式化合物としては、シクロブタン、シクロブテン、シクロブタジエンが例示され、四員環の複素環式化合物としては、アゼチジン、オセキタン、アゼト、トリメチレンスルフィドなどが例示される。
五員環の単素環式化合物としてはシクロペンタンが代表的なものであり、五員環の複素環式化合物としては、ヘテロ原子として窒素を含むアゾリジン、アゾール、イミダゾール、ピラゾール、イミダゾリン、ピロール、ヘテロ原子として酸素を含むオキソラン、オキソール、ヘテロ原子として窒素を含むチオール、ヘテロ原子として窒素と酸素を含むオキサゾール、ヘテロ原子として窒素と硫黄を含むチアゾールなどが例示される。
六員環の単素環式化合物としてはベンゼン、シクロヘキサンが挙げられ、六員環の複素環式化合物としては、ヘテロ原子として窒素を含むピペリジン、ピリジン、ピラジン、ヘテロ原子として酸素を含むテトラヒドロピラン、ヘテロ原子として硫黄を含むチアン、チアピラン、ヘテロ原子として窒素と酸素を含むモルホリン、ヘテロ原子として窒素と硫黄を含むチアジンなどが例示される。
七員環の単素環式化合物としては、シクロヘプタン、シクロヘプテンが挙げられ、七員環の複素環式化合物としては、ヘテロ原子として窒素を含むヘキサメチレンイミン(アゼバン)、アザトロピリデン(アゼピン)、ヘテロ原子として酸素を含むヘキサメチレンオキシド(オキセバン)、オキシシクロヘプタトリエン(オキセピン)、ヘテロ原子として硫黄を含むチオトロピリデン(チエピン)などが例示される。
八員環の単素環式化合物としては、シクロオクタン、シクロオクテンが挙げられる。八員環以上の単素環式化合物あるいは複素環式化合物から派生したコア部であってもよい。
環構造部は、一つの環のみであってもよいし、複数の環からなる多環構造をなしていてもよい。例えば六員環の単素環式化合物が複数結合したものとしては、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、コランヌレン、コロネン、オバレンなどがある。
シェル部を構成する直鎖部はコア部の環構造部から伸びるポリマー鎖であり、カルボキシル基を有する酸モノマーの重合体からなる。酸モノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、フマル酸、(無水)マレイン酸などが例示される。直鎖部は、これらの酸モノマーから選ばれる一種のモノマーのホモポリマーであってもよいし、複数のモノマーの共重合体であってもよい。例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体、アクリル酸-マレイン酸共重合体、メタクリル酸-マレイン酸共重合体、アクリル酸-フマル酸共重合体、メタクリル酸-フマル酸共重合体、アクリル酸-イタコン酸共重合体、メタクリル酸-イタコン酸共重合体、アクリル酸-メタクリル酸-マレイン酸共重合体、アクリル酸-メタクリル酸-フマル酸共重合体、アクリル酸-メタクリル酸-イタコン酸共重合体などが例示される。共重合体の場合は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれでもよい。
また酸モノマーの一部を、スチレン、スチレン誘導体、ブチレン、イソブチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、酢酸ビニルなど他のモノマーに代えて共重合した共重合体でもよい。
少なくとも1本の直鎖部は、ポリアクリル酸骨格を含むことが望ましい。またイタコン酸など、分子中に二個以上のカルボキシル基を含む酸モノマーの重合体骨格を含むことがさらに望ましい。直鎖部にカルボキシル基を多く含むことで結着力がさらに高まり、リチウムイオン二次電池など蓄電装置の電極用バインダとして有用である。
直鎖部を構成するポリマーの分子量は、それぞれ数平均分子量(Mn)で1,000~100,000、さらには1,000~50,000、1,000~10,000の範囲が好ましい。直鎖部の分子量が1,000より小さいと柔軟性と付着性が不足し、直鎖部の分子量が100,000より大きくなると溶媒に溶解しにくくなる。直鎖部の分子量が50,000~100,000の場合にはゲル化する可能性があり、バインダとして用いた場合ネットワーク的な密着性がある。また、直鎖部の分子量が1,000~50,000の場合には、鎖の分布が安定するため、分散性が高い。なお各直鎖部の分子量は、それぞれ同等であってもよいし異なっていてもよい。
シェル部はコア部を覆うように形成され、環構造部からそれぞれ延びる複数の直鎖部の集合体からなる。直接に顕微鏡観察することは現時点では不可能であるが、無数の直鎖部がコア部から外方へ四方八方に延びてシェル部を構成している構造と考えられる。
TEM画像から算出されたシェル部の厚さが10~500nmであることが好ましく、TEM画像から算出されたコア部の直径が3~200nm、3~150nmであることが好ましく、TEM画像から算出されたコア部の直径が3~100nmであることがより好ましい。シェル部の厚さが500nmより大きくなると炭素粒子の分散性が低下する可能性があり、コア部の直径が200nmより大きくなるとN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶媒への溶解性が低下する。
本発明のポリマーを合成するには、Atom Transfer Radical Polymerization(ATRP)法、Reversible Addition Fragmentation Transfer(RAFT)法、Nitoroxide-Mediated radical Polymerization(NMP)法などのリビングラジカル重合法を用いることができる。中でも、RAFT法は、モノマー、RAFT剤、開始剤のみで進行し、重金属を使用せずリビング重合でき、精密に分子設計ができるという利点がある。すなわちRAFT法は、コア-シェル型高分子微粒子の精密合成に適している。
RAFT法にて本発明のポリマーを合成する本発明の製造方法は、溶媒中にてRAFT剤の存在下で酸モノマーを重合してポリカルボン酸型マクロRAFT剤を形成する第一工程と、乳化重合にてポリカルボン酸型マクロRAFT剤の存在下で四員環以上の環構造部を有するモノマー又はオリゴマーを重合する第二工程と、を含む。
第一工程では、溶媒中にて酸モノマーのRAFT重合が行われる。酸モノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、酢酸ビニルなどが例示され、これらのうちの一種のみを用いてもよいし、これらから選択された複数種を用いることもできる。酸モノマーの一部を、スチレン、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩などのスチレン誘導体、ブチレン、イソブチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリルなどのモノマーに置き換えて用いてもよい。本発明のポリマーを二次電池の電極用バインダとして用いる場合には、少なくともアクリル酸を用いるのが好ましい。またアクリル酸とイタコン酸の両方を用いることも好ましい。
連鎖移動剤であるRAFT剤としては、一般式を化1に示すジチオエステル、一般式を化2に示すジチオカルバメート、一般式を化3に示すトリチオカルボナート、一般式を化4に示すキサンタート、などのチオカルボニルチオ化合物が用いられる。
RAFT重合に当たっては、重合開始剤を使用するのが一般的である。この重合開始剤としては特に制限なく、アゾ系、過酸化物系、レドックス系など一般的に使用される重合開始剤を用いることができる。
酸モノマーとRAFT剤の組み合わせによっては、バルク重合ではゲル化する場合がある。したがって本発明では、溶媒中で重合させる溶液重合法を採用している。用いる溶媒は、酸モノマー、RAFT剤、重合開始剤の全てを溶解可能なものを用いることが望ましい。このような溶媒として、例えば酢酸エチルがある。しかし酢酸エチルは沸点が77.1℃であるので、それ以上の温度で反応させることはできない。この沸点以下の温度で反応させると、RAFT剤の開裂温度が高いためか、酢酸エチルによる連鎖移動が生じ、得られるポリカルボン酸の分子量が小さくなってしまう。したがって溶媒としては、RAFT剤の開裂温度より高い沸点をもつものが好ましく、かつ酸モノマーを溶解し易い飽和カルボン酸が好ましい。ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの低級カルボン酸を用いるのが好ましく、酢酸が特に好ましい。
第一工程で得られるポリカルボン酸型マクロRAFT剤は、合成に用いたRAFT剤由来の基が片末端に導入されていると考えられ、化1~化4式に示した(R)の部位にポリカルボン酸ブロックが形成されている。第一工程に用いる酸モノマーに対するRAFT剤の組成比を小さくするほど、ポリカルボン酸ブロックの分子量を大きくすることができ、この組成比を調整することで任意の分子量のポリカルボン酸型マクロRAFT剤を精密に合成することができる。
得られたポリカルボン酸型マクロRAFT剤は、片末端に導入されたRAFT部位が疎水性であり、ポリカルボン酸ブロックが親水性であるので、乳化剤としても機能する。そこで第二工程では、ポリカルボン酸型マクロRAFT剤と四員環以上の環構造部を有するモノマー又はオリゴマーとを、乳化重合にて重合する。乳化剤が不要となるため、合成後の洗浄工程を不要とすることができる。
四員環以上の環構造部を有するモノマー又はオリゴマーとしては、炭素のみからなる単素環式化合物から派生したもの、あるいは炭素以外の元素を含む複素環式化合物から派生したものを用いることができる。入手が容易なベンゼン環を有するものとしては、スチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、トリフルオロビニルナフタレン、2-ヒドロキシ-6-ビニルナフタレン、5,8-ジブロモ-2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ジビニルベンゼン、1,2‐ビス(トリフルオロビニル)ナフタレン、ジビニルアントラセン、2,6-ジビニル-9,10-ジヒドロアントラセン、9,10-ジビニル-9,10-ジヒドロ-9,10-ジビスマスアントラセン、トリビニルベンゼンなどから選ばれる一種又は複数種のモノマー、あるいはこれらモノマーが一部重合したオリゴマーなどを用いることができる。
第二工程における溶媒は、水のみでもよいが、重合後の反応溶液に析出物が生成するなど、重合反応の進行が安定しない場合がある。そこでアルコールなど、水に溶解する有機溶媒を少量添加することも好ましい。例えば1-ブタノールをアルコール分率が10%以下となるように添加すれば、得られるポリマーの粒径の分散を安定させることができる。
第二工程では、加熱によって四員環以上の環構造部を有するモノマー又はオリゴマーの重合反応とポリカルボン酸型マクロRAFT剤の反応が進行し、コア-シェル型のポリマー粒子が得られる。コア部は、用いたモノマー又はオリゴマーどうしの反応物、あるいはモノマー又はオリゴマーとポリカルボン酸型マクロRAFT剤との反応物が集合したゲルからなり、四員環以上の環構造部の集合体となっている。そしてポリカルボン酸型マクロRAFT剤のポリカルボン酸ブロックがそのコア部から四方八方へ延びてシェル部を構成している。
したがって第二工程におけるポリカルボン酸型マクロRAFT剤とモノマー又はオリゴマーの配合比によってコア部の直径を制御することができ、ポリカルボン酸ブロックの長さ(分子量)によってシェル部の厚さを制御することができる。例えばポリカルボン酸型マクロRAFT剤に対するモノマー又はオリゴマーの配合比を重量比で1/100以下とすれば、コア部の直径を26nm近傍とすることができ、得られるポリマーの流体力学的直径(Dh)を約250nm近傍に揃えることができる。
本発明のポリマーは、非水二次電池の電極用バインダとして単独で使用することができる。また、バインダとしての特性を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリブロックイソシアナート、ポリオキサゾリン、ポリカルボジイミド等の硬化剤、エチレングリコール、グリセリン、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルオリゴマー、フタル酸エステル、ダイマー酸変性物、ポリブタジエン系化合物等の各種添加剤を単独で又は二種以上組み合わせて配合してもよい。
本発明のポリマーをバインダとして用いて、例えば非水系二次電池の負極を作製するには、負極活物質粉末と、炭素粉末などの導電助剤と、本発明のポリマーと、適量の有機溶剤を加えて混合しスラリーにしたものを、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの方法で集電体上に塗布し、乾燥させることによって作製することができる。
バインダは、なるべく少ない量で活物質等を結着させることが求められるが、その添加量は活物質、導電助剤、及びバインダを合計したものの0.5wt%~50wt%が望ましい。バインダが0.5wt%未満では電極の成形性が低下し、50wt%を超えると電極のエネルギー密度が低くなる。
集電体は、放電或いは充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体のことである。集電体は箔、板等の形状を採用することができるが、目的に応じた形状であれば特に限定されない。集電体として、例えば銅箔やアルミニウム箔を好適に用いることができる。
負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、球状黒鉛、ハードカーボン、ケイ素、炭素繊維、スズ(Sn)、酸化ケイ素など公知のものを用いることができる。中でも天然黒鉛、人造黒鉛、球状黒鉛、あるいはSiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物が特に好ましい。このケイ素酸化物粉末の各粒子は、不均化反応によって微細なSiと、Siを覆うSiO2とに分解したSiOxからなる。xが下限値未満であると、Si比率が高くなるため充放電時の体積変化が大きくなりすぎてサイクル特性が低下する。またxが上限値を超えると、Si比率が低下してエネルギー密度が低下するようになる。0.5≦x≦1.5の範囲が好ましく、0.7≦x≦1.2の範囲がさらに望ましい。
一般に、酸素を断った状態であれば800℃以上で、ほぼすべてのSiOが不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性のSiO粉末を含む原料酸化ケイ素粉末に対して、真空中または不活性ガス中などの不活性雰囲気中で800~1200℃、1~5時間の熱処理を行うことで、非結晶性のSiO2相および結晶性のSi相の二相を含むケイ素酸化物粉末が得られる。
またケイ素酸化物として、SiOxに対し炭素材料を1~50質量%で複合化したものを用いることもできる。炭素材料を複合化することで、サイクル特性が向上する。炭素材料の複合量が1質量%未満では導電性向上の効果が得られず、50質量%を超えるとSiOxの割合が相対的に減少して負極容量が低下してしまう。炭素材料の複合量は、SiOxに対して5~30質量%の範囲が好ましく、5~20質量%の範囲がさらに望ましい。SiOxに対して炭素材料を複合化するには、CVD法などを利用することができる。
ケイ素酸化物粉末は平均粒径が1μm~10μmの範囲にあることが望ましい。平均粒径が10μmより大きいと非水系二次電池の充放電特性が低下し、平均粒径が1μmより小さいと凝集して粗大な粒子となるため同様に非水系二次電池の充放電特性が低下する場合がある。
また、ケイ素原子で構成された六員環が複数連なった構造をなし組成式(SiH)nで示される層状ポリシランを熱処理することで製造されたナノシリコン材料を用いることも好ましい。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)等を単独でまたは二種以上組み合わせて添加することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、活物質100質量部に対して、20~100質量部程度とすることができる。導電助剤の量が20質量部未満では効率のよい導電パスを形成できず、100質量部を超えると電極の成形性が悪化するとともにエネルギー密度が低くなる。なお炭素材料が複合化されたケイ素酸化物を活物質として用いる場合は、導電助剤の添加量を低減あるいは無しとすることができる。
スラリー作製時の溶剤としては、水を用いることが望ましい。本発明のポリマーは水溶性であり、かつケッチェンブラックなどの導電助剤の分散性に優れている。水に代えて、N-メチル-2-ピロリドン及びN-メチル-2-ピロリドンとエステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等)あるいはグライム系溶媒(ジグライム、トリグライム、テトラグライム等)の混合溶媒を用いてもよい。あるいはアルコール、アセトン、THFなどの水溶性有機溶剤と水との混合溶剤を用いることもできる。
リチウムイオン二次電池の場合、負極を構成するケイ素酸化物には、リチウムがプリドーピングされていることもできる。負極にリチウムをドープするには、例えば対極に金属リチウムを用いて半電池を組み、電気化学的にリチウムをドープする電極化成法などを利用することができる。リチウムのドープ量は特に制約されない。
リチウムイオン二次電池の場合、特に限定されない公知の正極、電解液、セパレータを用いることができる。正極は、非水系二次電池で使用可能なものであればよい。正極は、集電体と、集電体上に結着された正極活物質層とを有する。正極活物質層は、正極活物質と、バインダとを含み、さらには導電助剤を含んでも良い。正極活物質、導電助材およびバインダは、特に限定はなく、非水系二次電池で使用可能なものであればよい。
正極活物質としては、金属リチウム、LiCoO2、Li[Mn1/3Ni1/3Co1/3]O2、Li2MnO3、硫黄などが挙げられる。集電体は、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼など、リチウムイオン二次電池の正極に一般的に使用されるものであればよい。導電助剤は上記の負極で記載したものと同様のものが使用できる。
電解液は、有機溶媒に電解質であるリチウム金属塩を溶解させたものである。電解液は、特に限定されない。有機溶媒として、非プロトン性有機溶媒、たとえばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる一種以上を用いることができる。また、溶解させる電解質としては、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiI、LiClO4、LiCF3SO3等の有機溶媒に可溶なリチウム金属塩を用いることができる。
例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの有機溶媒にLiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3等のリチウム金属塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。
セパレータは、非水系二次電池に使用されることができるものであれば特に限定されない。セパレータは、正極と負極とを分離し電解液を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜を用いることができる。
非水系二次電池の形状に特に限定はなく、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状を採用することができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後、この電極体を電解液とともに電池ケースに密閉して電池となる。
以下、実施例及び比較例によって本発明の実施形態を具体的に説明する。
(実施例1)
<第一工程>
(実施例1)
<第一工程>
100mlのナスフラスコに、RAFT剤としてのS-(チオベンゾイル)チオグリコール酸213.0mgと、重合開始剤としての4,4'-アゾビスシアノ吉草酸(純度98.0%)85.3mgと、酢酸20.0gとを入れて溶解した。そこへ蒸留精製されたアクリル酸5.0gを加え、10分間窒素で置換した。脱気した後、系を閉じ80℃で6時間加熱して反応させた。
反応後、反応液に約200mlのアセトンを加えてポリマーを沈殿させ、これを約100mlのアセトンで3回洗浄して残留するRAFT剤、重合開始剤及び酢酸を除去した。得られた精製ポリマーを真空オーブンにて40℃で乾燥させ、淡赤色のポリアクリル酸型マクロRAFT剤を得た。化5に反応式を示す。
GPCによる分子量の測定にあたり、THFに溶解可能とするために、またカルボキシル基による悪影響を回避するために、ポリアクリル酸型マクロRAFT剤のカルボキシル基をエステル化した。
15mlの試験管に得られたポリアクリル酸型マクロRAFT剤約0.3gを精秤し、約5mlのメタノールを入れて溶解した。次にトリメチルシリルジアゾメタン約3mlを発泡がなくなるまで徐々に滴下し、一昼夜撹拌した。反応後、沈殿したポリアクリル酸メチルエステルを濾過回収し、真空乾燥機で乾燥させた。得られたポリマーをポリマー濃度0.1重量%となるようにTHFに溶解させ、GPC測定を行った。GPC曲線を図1に示す。図1から、このポリアクリル酸型マクロRAFT剤は単峰性のピークを示し、ほぼ均一な分子量分布を有していることがわかる。
<第二工程>
<第二工程>
イオン交換水5mlに1-ブタノール0.5mlを溶解させ、そこへ第一工程で得られたポリアクリル酸型マクロRAFT剤0.5gと、ジビニルベンゼン0.05gを混合した(表1に示すXw=10/100)。これに50kHzの超音波を照射して乳化させた後、9.3Paの減圧雰囲気にて80℃に加熱して8時間反応させた。反応前に乳化していた溶液は、加熱によって透明になり、反応後も透明な状態で安定していた。
化6に反応途中までの反応式を示す。化6における未反応のジビニルベンゼンの二重結合がさらに反応することで、コポリマーが形成され、粒子が形成される。
反応後の溶液を完全に乾燥させ、乾燥した反応物を濃度0.002g/10mlとなるようにイオン交換水に溶解した。紫外可視分光光度計(日本分光製「JASCO V-530」)を用い、リファレンスにイオン交換水を用いて、UV-vis測定を行った。また第一工程で得られたポリアクリル酸型マクロRAFT剤(PAAマクロRAFT剤)も同様に測定した。結果の一部を図2に示す。図2から、第二工程を行ったことで240~250nmのベンゼン環由来の吸収ピークが増加していることが明らかであり、これはポリアクリル酸型マクロRAFT剤とジビニルベンゼンが反応したことを意味している。
また266nmの吸光度を測定し、重合したジビニルベンゼンのベンゼン環の吸収を求め、生成物中のジビニルベンゼンの組成(重量%)を算出した。266nmのベンゼン環のモル吸光係数にはキシレンのモル吸収係数(ε=2.89L/(mol・cm))を用いた。結果をDVB濃度として表1に示す。
反応後の溶液をイオン交換水で大希釈し、マイクログリッドにスプレーしてTEM観察を行った。ジビニルベンゼン由来の部位の染色にRuO4を用いている。TEM画像を図3に示す。
図3には、濃灰色のコア部1の周辺を淡灰色のシェル部2が取り囲むコア-シェル型のポリマー微粒子が観察される。このポリマー粒子は、図4に模式的に示されるように、強く染色されたコア部1がジビニルベンゼン由来のベンゼン環とRAFT剤としてのS-(チオベンゾイル)チオグリコール酸由来のベンゼン環とのポリマーゲルからなり、淡く染色されたシェル部2がポリアクリル酸ブロックからなる本発明のポリマーが形成されている。またTEM画像からコア部1の径とシェル部2の厚さを測定し、それぞれの結果を平均値で表1に示す。
(実施例2~4)
(実施例2~4)
実施例1の第一工程と同様に形成されたポリアクリル酸型マクロRAFT剤を用い、ジビニルベンゼンの仕込み量を0.025g、0.012g、0.005gに変更したこと以外は実施例1と同様にして第二工程を行い、それぞれのポリマーを得た。
得られた各ポリマーについて、実施例1と同様にしてUV-vis測定とTEM観察を行い、結果を図2、図5~7及び表1に示す。表1には、ポリアクリル酸型マクロRAFT剤の仕込み量に対するジビニルベンゼンの仕込み量の重量比をXwで示している。また実施例1~4について、第二工程終了後の溶液をイオン交換水で希釈し、動的光散乱(DLS)測定により粒度分布を測定し、結果を図8に示す。さらに、TEM画像からコア部1の径とシェル部2の厚さを測定し、それぞれの結果を平均値で表1に示す。
図8より、実施例1では粒径が約1000nmの単分散の微粒子が得られた。また、ポリアクリル酸型マクロRAFT剤の仕込み量に対するジビニルベンゼンの仕込み量の重量比(Xw)が小さくなるにつれて粒径が小さくなる傾向が認められる。また表1より、Xwの変動は、シェル部の厚さにはほとんど影響しないが、コア部の径に大きく影響することがわかる。したがって図8におけるXwの低減による粒径の減少は、コア部の径が小さくなることによるものである。すなわち、ポリアクリル酸型マクロRAFT剤の仕込み量に対するジビニルベンゼンの仕込み量の重量比(Xw)を調整することで、得られるポリマーの粒径を精密に制御することができる。なお表1におけるポリマー粒子径は、水で大希釈した状態の粒子径であるので、コア部とシェル部の値とは相対的な比較しかできない。
(実施例5)
(実施例5)
表2に示すように、RAFT剤と重合開始剤の仕込み量を変化させたこと以外は実施例1と同様にして第一工程を行った。実施例5で得られたポリアクリル酸型マクロRAFT剤の1H-NMR測定の結果を図9に示す。なお表2には、実施例4,6,11で合成されたポリアクリル酸型マクロRAFT剤の数値も示している。
図9より、1.5~2.5ppm付近にポリアクリル酸由来のピークが確認され、RAFT剤のベンゼン環のプロトンも見られた(7.5~8.0ppm)。よってRAFT重合が進行したと考えられる。RAFT剤は片末端に導入されたものと仮定して、このピークから数平均分子量(Mn-NMR)(表2参照)を算出し、アクリル酸モノマーとRAFT剤との比から算出した理論値と比較した結果を図10に示す。理論値に近い値が得られたので、RAFT重合が順調に進行したと考えられる。なお1H-NMR測定はNMR spectrometer(JEOL,GSX,400MHz)によって行い、積算回数は32回、室温とした。
イオン交換水5mlに1-ブタノール0.5mlを溶解させ、そこへ上記のポリアクリル酸型マクロRAFT剤0.5gと、ジビニルベンゼン0.005gを混合した(表3に示すXw=1/100)こと以外は実施例4と同様にして第二工程を行い、ポリマー溶液を得た。このポリマー溶液をイオン交換水で希釈し、動的光散乱(DLS)測定により粒度分布を測定した。結果を図11に示す。また表2に示した数平均分子量(Mn-NMR)からポリアクリル酸型マクロRAFT剤のモル量を算出し、表3に示す。
(実施例6)
(実施例6)
表2に示すように、RAFT剤と重合開始剤の仕込み量を変化させたこと以外は実施例1と同様にして第一工程を行った。得られたポリアクリル酸型マクロRAFT剤を用いたこと以外は実施例5と同様にして第二工程を行い、ポリマー溶液を得た。このポリマー溶液をイオン交換水で希釈し、動的光散乱(DLS)測定により粒度分布を測定した。結果を図11に示す。また表2に示した数平均分子量(Mn-NMR)からポリアクリル酸型マクロRAFT剤のモル量を算出するとともに、実施例1と同様にしてDVB濃度を測定し、結果を表3に示す。
いずれの実施例でも粒径が約250nmの小さい粒子と、約1000nmの大きな粒子が測定され、ポリアクリル酸型マクロRAFT剤の分子量がポリマー粒径へ及ぼす影響は認められなかった。しかし、ジビニルベンゼンのビニル基とポリアクリル酸型マクロRAFT剤との当量比の観点からすると、ジビニルベンゼンのビニル基が多くなるほど径の大きな粒子が増加している。これはコア部の径が大きくなるほどポリマー粒子の粒径が大きいという実施例1~4の結果を裏付けている。
(実施例7~9)
(実施例7~9)
表4に示すように、第二工程における溶媒中の水と1-ブタノールの比率を変化させたこと以外は実施例5と同様にしてポリマー溶液を得た。これらのポリマー溶液をイオン交換水で希釈し、動的光散乱(DLS)測定により粒度分布を測定した。結果を図12に示す。
(実施例10)
イオン交換水5mlに1-ブタノール1.0mlを溶解させ、そこへ実施例6の第一工程で得られたポリアクリル酸型マクロRAFT剤0.59gと、スチレン0.23gと、ジビニルベンゼン0.23gを混合したこと以外は実施例1の第二工程と同様にしてポリマー溶液を得た。安定に乳化した状態で重合が進行した。得られたポリマー溶液を絶乾し、得られたポリマーをFT-IR測定した。結果を図13に示す。698cm-1、902cm-1、987cm-1に芳香環のピークが見られ、ジビニルベンゼンにスチレンを混合した系においても本発明のポリマーが得られることがわかる。
[比較例]
<第一工程>
[比較例]
<第一工程>
100mlのナスフラスコに、RAFT剤としてのS-(チオベンゾイル)チオグリコール酸108.9mgと、重合開始剤としての2,2'-azobis[2-(2-imidazolin-2-yl)propane]dihydrochloride(AIBI)49.8mgと、酢酸エチル5.15gとを入れて溶解した。そこへ蒸留精製されたアクリル酸5.0gを加え、10分間窒素で置換した。脱気した後、系を閉じ60℃で6時間加熱した。
得られた溶液を絶乾し、生成物をFT-IR測定した。しかしRAFT剤のベンゼン環由来のピークが認められず、ポリアクリル酸型マクロRAFT剤は得られなかった。すなわち、第一工程の溶媒には酢酸が最適であり、酢酸エチルは用いられない。
[試験例]
[試験例]
実施例4のポリマーを0.01wt%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に混合した。このポリマー溶液100gに対し、分散剤を含まないケッチェンブラック粉末0.01gを混合し、50kHzの超音波を照射して分散させた。一方、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)100gに対して分散剤を含まないケッチェンブラック粉末0.01gを混合し、50kHzの超音波を照射して分散させた。
これらの溶液について、動的光散乱(DLS)測定により粒度分布を測定した。結果を図14に示す。実施例4のポリマーのみ、及びケッチェンブラックのみでは出現しない30nm近傍のピークが、実施例4のポリマー溶液にケッチェンブラックを混合した場合にのみ出現している。
すなわち実施例4のポリマーにケッチェンブラックを混合することでケッチェンブラックの分散性が向上したことがわかり、本発明のポリマーはケッチェンブラックなどの導電助剤を含む電極用のバインダとして有効である。
(実施例11~14)
(実施例11~14)
RAFT剤と重合開始剤の仕込み量を変化させたこと以外は実施例1と同様にして第一工程を行い、数平均分子量(Mn-NMR)が22,000のポリアクリル酸型マクロRAFT剤を合成した。
このポリアクリル酸型マクロRAFT剤を用い、ジビニルベンゼン(DVB)の仕込み量を0.005g、0.012g、0.025g、0.05gに変更したこと以外は実施例1と同様にして第二工程を行い、それぞれのポリマーを得た。
得られた各ポリマーをそれぞれイオン交換水で希釈し、動的光散乱(DLS)測定によりポリマーの平均粒子径を測定した。結果を表5に示す。表5には、ポリアクリル酸型マクロRAFT剤の仕込み量に対するジビニルベンゼンの仕込み量の重量比をXwで示している。
100mlのナスフラスコに、RAFT剤としてのS-(チオベンゾイル)チオグリコール酸555.0mgと、重合開始剤としての4,4'-アゾビスシアノ吉草酸(純度98.0%)222mgと、酢酸52.0gと、イタコン酸1.95gを入れて溶解した。そこへ蒸留精製されたアクリル酸11.1gを加え、10分間窒素で置換した。脱気した後、系を閉じ80℃で6時間加熱して反応させた。
反応後、反応液を約100mlのアセトンに滴下し傾斜法で沈殿物を回収した。これを約100mlのアセトンで2回洗浄して残留するRAFT剤、重合開始剤及び酢酸を除去した。得られた精製ポリマーを真空オーブンにて室温で乾燥させ、アクリル酸-イタコン酸共重合型マクロRAFT剤を得た。得られたアクリル酸-イタコン酸共重合型マクロRAFT剤の1H-NMR測定の結果を図15に示す。
図15より、1.5ppm~2.5ppm付近にアクリル酸-イタコン酸共重合型ポリマー由来のピークが確認され、RAFT剤のベンゼン環のプロトンも見られた(7.5ppm~8.0ppm)。よってRAFT重合が進行したと考えられる。また、アクリル酸モノマー及びイタコン酸モノマー共通の構造由来のピーク(a+b)とアクリル酸モノマー固有の構造由来のピーク(c)の面積比(a+b):Cが136.77:37.95であるため、アクリル酸が84.7mol%、イタコン酸が15.3mol%の組成の共重合体であると考えられる。なお1H-NMR測定はNMR spectrometer(JEOL,GSX,400MHz)によって行い、積算回数は32回、室温とした。またGPCによって測定された重量平均分子量は11,700であった。反応途中の反応式を[化7]に示す。
100mlナスフラスコに第一工程で得られたアクリル酸-イタコン酸共重合型マクロRAFT剤5.0gを秤量し、ジビニルベンゼン0.053gと1-ブタノール5.0mlを添加した。これを攪拌しながら、イオン交換水50mlを少量ずつ滴下し、50kHzの超音波を照射して乳化させた。アクリル酸-イタコン酸共重合型マクロRAFT剤が完全に溶解後、9.3Paの減圧雰囲気にて100℃に加熱して8時間反応させた。反応前に乳化していた溶液は、加熱によって透明になり、反応後も透明な状態で安定していた。重合後、真空乾燥機にて反応溶液を35℃で乾燥させた。
<ポリマーの解析>
<ポリマーの解析>
収率は88.2%であり、UV-vis測定(266nm,ε=2.89L/(mol・cm))によるジビニルベンゼン含有量は0.61重量%であった。
[試験例]
[試験例]
得られたポリマーを二次電池の負極用バインダとして用いることを想定し、イオン交換水又はN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中における導電助剤の分散性を調査した。得られたポリマーを2.2ml試料瓶に秤量し、溶媒(イオン交換水又はNMP)を添加して超音波を20分間照射し溶解させた。ポリマー濃度は20重量%とした。別の2.2ml試料瓶にケッチェンブラック(KB)又はアセチレンブラック(AB)を秤量し、そこへポリマー溶液を滴下し、スパチュラを用いて10秒攪拌した。その後、重量比(ポリマー/溶媒)が0.0001となるようにポリマー溶液と同一の溶媒を添加し、スパチュラを用いて10秒攪拌して試料とした。試料の重量比(KB/溶媒)は0.000033であり、重量比(AB/溶媒)は0.0001である。
また比較のために、ケッチェンブラック(KB)又はアセチレンブラック(AB)を秤量し、そこへポリマーを含まない溶媒のみを上記と同様の濃度となるように添加し同様に攪拌したものも試料とした。
これらの試料を用い、動的光散乱(DLS)測定により粒度分布を測定した。結果を図16~図19に示す。各図から、本発明のポリマーを負極用バインダとして用いる場合には、溶媒としてNMPよりイオン交換水を用いることで、ケッチェンブラック(KB)又はアセチレンブラック(AB)の分散性が向上していることがわかる。
(実施例16~19)
(実施例16~19)
アクリル酸、イタコン酸、RAFT剤としてのS-(チオベンゾイル)チオグリコール酸、重合開始剤としての4,4'-アゾビスシアノ吉草酸、及び酢酸の仕込み量を表6に示すように変化させ、それぞれ実施例15と同様にして第一工程を行った。1H-NMR測定の結果、いずれの例もアクリル酸-イタコン酸共重合型マクロRAFT剤が得られた。表6には、実施例15の仕込み量も示している。
(実施例20~24)
実施例16のアクリル酸-イタコン酸共重合型マクロRAFT剤を用い、ジビニルベンゼン(DVB)の仕込み量を0.005g、0.012g、0.025g、0.05gに変更したこと以外は実施例1と同様にして第二工程を行い、それぞれのポリマーを得た。得られた各ポリマーをそれぞれイオン交換水で希釈し、動的光散乱(DLS)測定によりポリマーの平均粒子径を測定した。結果を表7に示す。表7には、アクリル酸-イタコン酸共重合型マクロRAFT剤の仕込み量に対するジビニルベンゼンの仕込み量の重量比をXwで示している。
実施例16のアクリル酸-イタコン酸共重合型マクロRAFT剤を用い、ジビニルベンゼン(DVB)の仕込み量を0.005g、0.012g、0.025g、0.05gに変更したこと以外は実施例1と同様にして第二工程を行い、それぞれのポリマーを得た。得られた各ポリマーをそれぞれイオン交換水で希釈し、動的光散乱(DLS)測定によりポリマーの平均粒子径を測定した。結果を表7に示す。表7には、アクリル酸-イタコン酸共重合型マクロRAFT剤の仕込み量に対するジビニルベンゼンの仕込み量の重量比をXwで示している。
表7より、アクリル酸-イタコン酸共重合型マクロRAFT剤に対するジビニルベンゼンの量を調整することで、得られるポリマーの平均粒子径を制御できることがわかる。
得られた各ポリマーをそれぞれイオン交換水で希釈し、動的光散乱(DLS)測定により粒度分布を測定した。結果を図20に示す。図20から、各実施例のポリマーの粒度分布がシャープであることがわかる。
(実施例25~28)
(実施例25~28)
実施例1の第一工程で合成されたポリアクリル酸型マクロRAFT剤を用い、ジビニルベンゼン(DVB)の仕込み量を0.005g、0.012g、0.025g、0.05gに変更したこと以外は実施例1と同様にして第二工程を行い、それぞれのポリマーを得た。
得られた各ポリマーをそれぞれイオン交換水で希釈し、動的光散乱(DLS)測定によりポリマーの平均粒子径を測定した。結果を表8に示す。表8には、ポリアクリル酸型マクロRAFT剤の仕込み量に対するジビニルベンゼンの仕込み量の重量比をXwで示している。
表5,7,8をグラフ化したものを図21に示す。図21からはマクロRAFT剤に対するジビニルベンゼンの量には最適範囲があることが示唆される。
本発明のポリマーは、容易かつ安定して安価に製造できるので、需要が高まりつつある非水系二次電池の電極用バインダとして最適である。
1:コア部 2:シェル部 20:ポリアクリル酸ブロック
Claims (11)
- 粒子状をなすコア-シェル型のポリマーであって、四員環以上の環構造部を複数個含むコア部と、該コア部の該環構造部からそれぞれ延びる直鎖部を含むシェル部と、よりなり、該直鎖部はカルボキシル基を有する酸モノマーの重合体であることを特徴とするポリマー。
- TEM画像から算出された前記シェル部の厚さが10~500nmであり、TEM画像から算出された前記コア部の直径が3~200nmである請求項1に記載のポリマー。
- 前記コア部はジビニルベンゼン由来のベンゼン環を含む請求項1又は請求項2に記載のポリマー。
- 前記直鎖部はポリアクリル酸骨格を含む請求項1~3のいずれかに記載のポリマー。
- 前記直鎖部はアクリル酸ーイタコン酸共重合体骨格を含む請求項1~3のいずれかに記載のポリマー。
- 請求項1~5のいずれかに記載のポリマーの製造方法であって、
溶媒中にてRAFT剤の存在下で酸モノマーを重合してポリカルボン酸型マクロRAFT剤を形成する第一工程と、
乳化重合にて該ポリカルボン酸型マクロRAFT剤の存在下で四員環以上の環構造部を有するモノマー又はオリゴマーを重合する第二工程と、を含むことを特徴とするポリマーの製造方法。 - 前記第一工程における溶媒は酢酸である請求項6に記載のポリマーの製造方法。
- 前記第二工程における四員環以上の環構造部を有するモノマー又はオリゴマーは、分子中に複数のビニル基を有する請求項6に記載のポリマーの製造方法。
- 前記第二工程では前記ポリカルボン酸型マクロRAFT剤が乳化剤として作用する請求項6~8のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
- 前記第二工程における溶媒は水と1-ブタノールとからなり、アルコール分率が10%以下である請求項6~9のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
- 前記第二工程における前記モノマー又はオリゴマーに対する前記ポリカルボン酸型マクロRAFT剤の配合比は重量比で1/100以下である請求項6~10のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
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