WO2013054513A1 - ボールねじの製造方法、ボールねじ - Google Patents

Abstract

　この発明のボールねじの製造方法は、ボールねじのナット（２）の軸方向端部に設けた取付部（２４）に、固定部材（５）を使用してリング状のシール（４）を固定するシール固定工程を有する。前記取付部は、前記ナットの螺旋溝が形成されている内周面より径が大きな内周面を有する。前記取付部に外周面から内周面まで径方向に貫通する貫通穴（２５ａ～２５ｃ）を設ける。前記シール固定工程では、前記固定部材を前記貫通穴に通して前記シールの外周部に係合することにより前記シールに径方向外向きの力を生じさせて、前記シールを前記ナットに固定する。

Description

ボールねじの製造方法、ボールねじ

　この発明は、例えばステアリング装置や重量物移動用装置、加工用機械、精密位置決め装置などの機械要素として使用されるボールねじと、その製造方法に関する。

　ボールねじ（ボールねじ装置）は、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動する装置である。

　このようなボールねじは、ナットの内部に潤滑剤を供給して使用される。また、ねじ軸に付着した塵埃や摩耗粉などの異物がナット内に入り込むと、ボールや螺旋溝に焼付きなどの損傷が生じる原因となるため、ナット内部への異物の侵入を防ぐ必要がある。そのため、ナット内部に供給された潤滑剤の外部への排出防止とナット内部への異物の侵入防止を目的として、ナットの軸方向端部にリング状のシール（防塵部品）が取り付けられている。
　シールを備えたボールねじの従来例（特許文献１の図４）を図２４に示す。このボールねじでは、リング状のシール４０が、頭部を有さない止めネジ６０により、ナット２０の軸方向端部の内周面に固定されている。

　このボールねじのシール固定方法を図２５を用いて説明する。
　先ず、ナット２０の軸方向端部に貫通孔２８をドリル等で形成する。図２５（ａ）はこの状態を示す。次に、この貫通孔２８にねじ切り加工を施して雌ねじ穴２９とする。図２５（ｂ）はこの状態を示す。次に、シール４０の外周面をナット２０の内周面に嵌め込んだ状態で、雌ねじ穴２９にドリルを通してシール４０の外周面に下穴４０２を形成する。図２５（ｃ）はこの状態を示す。

　次に、ナット２０の雌ねじ穴２９に止めネジ６０を螺合し、止めねじ６０の先端の軸部をシール４０の下穴４０２に入れることで、シール４０をナット２０に固定する。このシール固定方法では、貫通穴２８にねじ切り加工を施す工程や加工後にバリを除去する工程などが必要である。
　ナット２０のシール取付部である軸方向端部には、フランジが形成されてない場合（図２４で示した端部）と、フランジが形成されている場合がある。また、ナットのシール取付部の厚さ（径方向寸法）は、ナットの外径およびフランジの外径を顧客の要求に合わせて製作しているため、製品毎に異なる。

　図２６（ａ）に示すように、ナット２０のシール取付部の肉厚ＴＮが薄い場合は、シール取付部に雌ねじ穴２９のみが形成される。図２６（ｂ）に示すように、ナット２０のシール取付部の肉厚ＴＮが厚い場合は、外周側にキリ穴２９ａを設けることで、タップ加工にかかる時間を短縮している。
　また、ボールねじは生産ロットが小さく、寸法が様々である。このため、シール４０の下穴４０２とナット２０の貫通孔２８およびキリ穴２９ａの加工形成は、専用治具を用いず、手動のボール盤を用いて行っている。さらに下穴４０２の加工形成においては、各下穴４０２の深さを等しくするために、図２７（ａ）～（ｄ）に示すような作業を行っている。

　この作業の説明を、軸方向一端部にフランジが形成され、他端部にはフランジが形成されていないナットを例にとって説明する。この例では、図２７（ａ）に示すように、ナット２０の軸方向一端部では、フランジ２２に雌ねじ穴２９とキリ穴２９ａからなる貫通穴２９０が設けられている。
　先ず、この貫通穴２９０に、図２７（ｂ）に示すように、回転駆動していないドリル７１をドリル刃７２の先端がシール４０の外周面に達するまで挿入し、ドリル７１にドリル７１の進行を規制するストッパ１７０を装着する。

　次に、ドリル刃７２の周囲または近傍のナット２０の外周面上に、シール４０に加工する下穴４０２の深さ寸法と同じ寸法の厚さを有するゲージ１７３を配置し、ストッパ１７０をゲージ１７３上に接するようにセットする。その後、図２７（ｃ）に示すように、ゲージ１７３を抜き取り、ドリル刃７２を回転駆動させ、ドリル加工により下穴４０２の加工形成を行う。ドリル７１は、ストッパ１７０によって進行が規制されるまで、シール４０を外周面側から内方に向かって削孔する。

　このような加工により、図２７（ｄ）に示すように、シール４０に下穴４０２が形成される。各下穴４０２をこのような加工で形成することにより、シール４０の外周面側に、常にゲージ厚と同じ深さの下穴４０２を形成することが出来る。つまり、形成される下穴４０２の深さの管理が出来る。
　この作業を、ナット２０の軸方向他端部でも行う。ナット２０の軸方向他端部にはフランジが形成されていないため、雌ねじ穴２９のみが形成されている。この雌ねじ穴２９を貫通穴２９０と見做して上述の作業を行う。また、ゲージ１７３およびストッパ１７０による下穴４０２の深さの調節は、ナット２０のシール取付部の厚さに対応させて行う。

特開２００２－３４９６６４号公報

　上記従来のシール固定方法では、止めねじを締め付け過ぎると、シールがねじ軸に押し付けられて、シールとねじ軸との摩擦が大きくなり、発熱が生じる恐れがある。この発熱はねじ軸を膨張させる原因になるため、これを防止する必要がある。
　この発明の課題は、ナットの軸方向端部に設けた取付部に、固定部材を使用してリング状のシールを固定するシール固定工程で、シールとねじ軸との摩擦に起因する発熱が生じないようにすることである。

　上記課題を解決するために、この発明の第１態様は、ナットの軸方向端部に設けた取付部に、固定部材を使用してリング状のシールを固定するシール固定工程を有するボールねじの製造方法であって、下記の構成(1-1) ～(1-2) を有することを特徴とする。
(1-1) 前記取付部は、前記ナットの螺旋溝が形成されている内周面より径が大きな内周面を有し、前記取付部に外周面から内周面まで径方向に貫通する貫通穴を設ける。
(1-2) 前記シール固定工程では、前記固定部材を前記貫通穴に通して前記シールの外周部に係合することにより前記シールに径方向外向きの力を生じさせて、前記シールを前記ナットに固定する。

  この発明の第２態様は、ナットの軸方向端部に設けた取付部に、固定部材を使用してリング状のシールを固定するシール固定工程を有するボールねじの製造方法であって、前記構成(1-1) と下記の構成(1-3) ～(1-5) を有することを特徴とする。
(1-3) 前記固定部材として、頭部を有するねじを用いる。
(1-4) 前記貫通穴は前記ねじの頭部を受ける座面を有する。
(1-5) 前記シール固定工程では、前記ねじを前記貫通穴に通して前記シールの外周部に係合することにより、前記頭部が前記座面を押圧する力で前記シールに径方向外向きの力を生じさせて、前記シールを前記ナットに固定する。

　第２態様のボールねじの製造方法は、更に下記の構成(1-6) を有することができる。
(1-6) 前記シールに外周面から径方向に延びる取付穴を設け、前記シール固定工程で、前記取付穴と前記貫通穴を合わせて、前記ねじを前記貫通穴に通して前記取付穴に係合する。

　第２態様のボールねじの製造方法が前記構成(1-6) と下記の構成(1-7) (1-8) を有する場合、下記の構成(1-9) (1-10)を有することが好ましい。
(1-7) 前記取付穴は、前記シールの外周面から径方向に延びる凹部である。
(1-8) 前記貫通穴は、外周側の大径部と、内周側の小径部と、これらを連通させる円錐部とからなり、前記大径部の直径は前記ねじの頭部の直径より大きく、前記小径部の直径は前記ねじの雄ねじ部の外径より大きく、前記円錐部の斜面が前記頭部を受ける座面である。

(1-9) シャンク部の先端に刃部を有し、前記刃部の直径は前記シャンク部の直径よりも小さく、前記シャンク部の直径は前記貫通穴の前記小径部の直径よりも大きくかつ前記大径部の直径よりも小さく、前記シャンク部の前記刃部との境界部に前記貫通穴の前記斜面に対応する斜面を有するドリルを使用する。
(1-10)前記シールを前記取付部に配置し、前記シャンク部の前記斜面が前記貫通穴の前記斜面に当接する位置まで、前記ドリルを前記貫通穴に挿入することで、前記シールに前記凹部を形成する。

　この発明の第３態様は、下記の構成(1-11)～(1-13)を有することを特徴とするボールねじである。
(1-11)内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、前記ナットの螺旋溝と前記ねじ軸の螺旋溝とで形成される軌道の間に配置されたボールと、前記ナットの軸方向端部に設けた取付部に固定されたリング状のシールと、頭部を有するねじと、を有する。

(1-12)前記取付部は、前記ナットの螺旋溝が形成されている内周面より径が大きな内周面を有し、前記取付部は、外周面から内周面まで径方向に貫通する貫通穴を有し、前記貫通穴は前記ねじの頭部を受ける座面を有する。
(1-13)前記ねじを前記貫通穴に通して前記シールの外周部に係合することにより、前記頭部が前記座面を押圧する力で前記シールに径方向外向きの力を生じさせて、前記シールが前記ナットに固定されている。

　第３態様のボールねじでは、前記ねじの前記シールの外周部に対する係合中に、前記シールの外周面が前記ナットの取付部に接触してシールに径方向外向きの力が生じると、前記ねじの締め付けトルクが変化する。この変化で前記シールが前記ナットに固定された状態を認識できるため、前記ねじの締め付けトルクを管理することで、シールのナットへの固定完了を判断することができる。
　第１～第３態様における係合には、タッピングねじやドリルねじの雄ねじ部によるねじ切り状態での結合、雌ねじと雄ねじの螺合などが含まれる。

　第３態様のボールねじは、さらに、下記の構成(1-14)または(1-15)を有することができる。
(1-14)前記ねじはタッピングねじであり、前記シールは、外周面から径方向に延びる取付穴を前記貫通穴に対応する位置に有し、前記取付穴は、穴径が前記タッピングねじの雄ねじ部の谷径以下で、雌ねじが形成されていない下穴であり、前記貫通穴を通った前記タッピングねじの雄ねじ部が、前記シールの前記下穴の位置にねじ切り状態で結合されている。
(1-15)前記ねじはドリルねじ（セルフタッピングねじ）であり、前記貫通穴を通った前記ドリルねじの雄ねじ部が、前記シールの外周部にねじ切り状態で結合されている。

［第４～５態様］
　この発明の第４態様はボールねじ装置の製造方法であって、そのボールねじ装置は下記の構成(2-1) ～ (2-2)を有し、この方法は下記の構成(2-3) ～(2-5) を有することを特徴とする。
(2-1) 外周面に螺旋状の溝が形成されたねじ軸と、前記螺旋状の溝に対向する溝を内周面に有し、該溝と前記螺旋状の溝との間に配置された複数の転動体を介して前記ねじ軸に係合するナットと、前記ナットの内径側に設けられ、前記ナットと前記ねじ軸との隙間をシールするための防塵部品とを備える。

(2-2) 前記ナットの軸方向端部には該ナットの外周面から内周面まで貫通する径方向の貫通孔が複数設けられ、前記複数の貫通孔のそれぞれには前記防塵部品を前記ナットに固定するための固定部材が配置され、前記防塵部品の外周面側には、前記複数の貫通孔のそれぞれに対応して前記固定部材が係合する複数の凹部が設けられている。
(2-3) 前記ナットの外周面側に前記固定部材の径よりも大きな径を有する大径部と、前記ナットの内周面側に前記固定部材が係合する小径部と、前記大径部と前記小径部との間の段部とからなるように前記貫通孔を形成する。

(2-4) シャンク部と該シャンク部の先端に設けられた刃部とから構成され、前記刃部は前記シャンク部よりも小さい径を有し、前記シャンク部は前記小径部よりも大きくかつ前記大径部よりも小さい径を有するドリルにより、前記複数の凹部を加工形成する。
(2-5) 前記凹部の前記加工形成の際、前記シャンク部が前記貫通孔の前記段部に当接する位置まで、前記ドリルを前記貫通孔に挿入する。

　第４態様のボールねじ装置の製造方法は、好適には、前記凹部の前記加工形成の際、前記段部は、前記シャンク部が該段部に当接することで前記ドリルの進行を規制するとともに、前記複数の凹部の前記加工形成後における深さが全て同じになるように前記ドリルの前記防塵部品に対する加工距離を規定することを特徴とする。
　第４態様のボールねじ装置の製造方法は、好適には、前記小径部の深さ寸法を、何れの前記貫通孔においても同一となるように形成することを特徴とする。

　第４態様のボールねじ装置の製造方法は、好適には、前記刃部の長さが、前記小径部の深さ寸法と前記加工形成後の前記凹部の深さ寸法とを合計した寸法を有する前記ドリルにより前記複数の凹部を加工形成することを特徴とする。
　第４態様のボールねじ装置の製造方法を実施するためのドリルは、シャンク部と該シャンク部の先端に設けられた刃部とから構成され、前記刃部は前記シャンク部よりも小さい径を有し、前記シャンク部は前記小径部よりも大きくかつ前記大径部よりも小さい径を有することを特徴とする。

　第４態様のボールねじ装置の製造方法を実施するためのドリルは、好適には、前記刃部の長さが、前記小径部の深さ寸法と前記加工形成後の前記凹部の深さ寸法とを合計した寸法を有することを特徴とする。
　第４態様によれば、防塵部品の取付け作業の所要時間を短縮することが出来るボールねじ装置の製造方法、ボールねじ装置、およびボールねじ装置の製造方法に用いる工具を提供することができる。
　第５態様のボールねじ装置は、第４態様のボールねじ装置の製造方法によって得られることを特徴とする。

［第６～７態様］
　この発明の第６態様は下記の構成(3-1) ～ (3-2)を有する防塵部品である。
(3-1) ナットと、該ナット内に挿通したねじ軸と、前記ナットと前記ねじ軸との間を転動する転動体とを有するボールねじ装置に用いられ、前記ナットの軸方向の端部内周に嵌合され、前記ナットの径方向外側から径方向内側へ向かってねじ止めされ、前記ナットと前記ねじ軸との隙間を塞ぐ環状の防塵部品である。
(3-2) 径方向内側に形成された環状の本体と、該本体の外周面から径方向外方へ突出して円周方向に延在した一対のねじ受け用突起部と、を有し、該一対のねじ受け用突起部が、前記ねじの螺入を許すように軸方向に隙間を空けて配置されている。

　第６態様の防塵部品において、好ましくは、前記隙間の軸方向の幅は、前記ねじの雄ねじ部の谷の径以下である。また好ましくは、前記隙間のうち径方向内側の部分の軸方向の幅は、前記ねじの雄ねじ部の谷の径以下であって、前記隙間のうち径方向外側の部分の軸方向の幅は、前記径方向内側の部分の軸方向の幅方向の幅よりも広い。
　第６態様の防塵部品において、さらに好ましくは、前記隙間のうち最も幅の広い部分の幅は、前記ねじの雄ねじ部の外径以下、かつ、前記ねじの雄ねじ部の谷の径以上の幅である。さらに好ましくは、前記ねじ受け用突起部が前記本体の外周面の全周にわたって形成されている。第６態様の防塵部品は、さらに好ましくは、エラストマーから形成されている。

　第７態様のボールねじ装置は、ナットと、該ナット内に挿通したねじ軸と、前記ナットと前記ねじ軸との間を転動する転動体とを有するボールねじ装置において、上記いずれかの第６態様の防塵部品を備えることを特徴とする。
　第６および第７態様によれば、防塵部品の組付けにかかる手間を軽減する防塵部品及び該防塵部品を備えたボールねじ装置を提供することができる。

［第８～９態様］
　この発明の第８態様は下記の構成(4-1) ～ (4-2)を有する防塵部品である。
(4-1) ナットと、該ナット内に挿通したねじ軸と、前記ナットと前記ねじ軸との間を転動する転動体とを有するボールねじ装置に用いられ、前記ナットの軸方向の端部に於いて、前記ナットの径方向外側から径方向内側へ向かってねじ止めされ、前記ナットと前記ねじ軸との隙間を塞ぐ防塵部品である。

(4-2) 径方向内側に形成されたドーナツ状の本体と、該本体の外周面から径方向外方へ突出して軸方向に延在したねじ受け用突起部と、前記本体の外周面から径方向外方へ突出して円周方向に延在した遮蔽部と、を有し、前記ねじ受け用突起部が、前記本体の外周面の円周方向に隙間を空けて多数形成してあり、前記遮蔽部は、前記ねじ受け用突起部及び前記隙間の軸方向の端部に形成されている。

　第８態様の防塵部品において、好ましくは、前記隙間の円周方向の幅は、前記ねじの雄ねじ部の谷の径以下である。また好ましくは、前記ねじ受け用突起部が前記本体の外周面の全周にわたって形成されている。第８態様の防塵部品は、さらに好ましくは、エラストマーから成形されている。
　第９態様のボールねじ装置は、ナットと、該ナット内に挿通したねじ軸と、前記ナットと前記ねじ軸との間を転動する転動体とを有するボールねじ装置において、上記いずれかの第８態様の防塵部品を備えることを特徴とする。

　第８および第９態様によれば、防塵部品の組付けにかかる手間を軽減する防塵部品及び該防塵部品を備えたボールねじ装置を提供することができる。
　なお、第６および第８態様の防塵部品は、第１および第２態様のボールねじの製造方法のシールや、第３態様のボールねじを構成するシールとして使用できる。

　この発明の方法によれば、ナットの軸方向端部に設けた取付部に、固定部材を使用してリング状のシールを固定するシール固定工程で、シールに径方向外向きの力を生じさせてシールをナットに固定することにより、シールがねじ軸に押し付けられないため、シールとねじ軸との摩擦に伴う発熱が防止される。

第１～３態様の実施形態に係るボールねじを示す図であって、ナットとシールが断面で示されている。 図１の部分断面図であって、シールの固定前の状態（ａ）と固定後の状態（ｂ）を示す。 図１のボールねじに取り付けるシールを示す図であって、正面図（ａ）と断面図（ｂ）である。 タッピングねじに代えてドリルねじを使用した例を示す図であって、シールの固定前の状態（ａ）と固定後の状態（ｂ）を示す。 第４～５態様の実施形態に係るボールねじ装置をねじ軸の径方向から見た状態を示す部分断面図である。 第４～５態様の実施形態に係る防塵部品を示す図であって、ねじ軸の軸方向から見た状態の外観図（ａ）と、ねじ軸の径方向から見た状態の断面図（ｂ）と、（ｂ）の部分拡大図（ｃ）である。 第４～５態様の実施形態に係るボールねじ装置の製造に用いるドリルの外観図である。 第４～５態様の実施形態で、製造中のボールねじ装置の要部の部分断面図である。 第４～５態様の実施形態で、製造中のボールねじ装置の要部の部分断面図およびドリルを示す図であり、ナットに貫通孔が形成された状態を示している。 第４～５態様の実施形態で、製造中のボールねじ装置の要部の部分断面図であり、タップ加工用下穴が形成された状態を示している。 第６～９態様の課題に対応する、ボールねじ装置の防塵部品の組付け方法の前半の工程を示す断面図であって、（ａ）はナットのインロー部に防塵部品を仮嵌めする工程を、（ｂ）は防塵部品にねじ穴を穿設する工程を、（ｃ）はナット、ねじ軸及び防塵部品を分解する工程を示している。 第６～９態様の課題に対応する、ボールねじ装置の防塵部品の組付け方法の後半の工程を示す断面図であって、（ａ）はエアブローによって削り屑を吹き飛ばす工程を、（ｂ）はタッピングねじによって防塵部品をナットに固定する工程を、（ｃ）はノギスによってタッピングねじの固定状態を確認する工程を示している。 第６～７態様の第１実施形態に係るボールねじ装置の断面図である。 第６～７態様の第１実施形態に係るボールねじ装置に用いる防塵部品を示す平面図（ａ）と、（ａ）のＡ－Ａ断面図（ｂ）と、拡大断面図（ｃ）である。 第６～７態様の第１実施形態に係るボールねじ装置の防塵部品を組付ける工程を示す断面図であって、（ａ）はナットの端部に防塵部品を嵌め込む工程を、（ｂ）はタッピングねじによって防塵部品をナットに固定する工程を、（ｃ）はノギスによってタッピングねじの固定状態を確認する工程を示している。 第６～７態様の第２実施形態に係るボールねじ装置に用いる防塵部品を示す平面図（ａ）と、（ａ）のＢ－Ｂ断面図（ｂ）と、拡大断面図（ｃ）である。 第６～７態様の第３実施形態に係るボールねじ装置に用いる防塵部品を示す平面図（ａ）と、（ａ）のＣ－Ｃ断面図（ｂ）と、拡大断面図（ｃ）である。 第６～７態様の第４実施形態に係るボールねじ装置に用いる防塵部品を示す平面図（ａ）と、（ａ）のＤ－Ｄ断面図（ｂ）と、拡大断面図（ｃ）である。 第８～９態様の第１実施形態に係るボールねじ装置を示す図であって、（ａ）はナットを軸方向に切断した断面とねじ軸の側面を示しており、（ｂ）は防塵部品にタッピングねじを螺入した状態をナットの軸方向外側から見た平面図であり、（ｃ）は防塵部品にタッピングねじを螺入した状態をナットの軸方向内側から見た平面図である。 第８～９態様の第１実施形態に係るボールねじ装置に用いる防塵部品を示す平面図（ａ）と、（ａ）のＡ－Ａ断面図（ｂ）と、拡大断面図（ｃ）である。 第８～９態様の第１実施形態に係るボールねじ装置の防塵部品を組付ける工程を示す断面図であって、（ａ）はナットの端部に防塵部品を嵌め込む工程を示しており、（ｂ）はタッピングねじによって防塵部品をナットに固定する工程を示しており、（ｃ）はノギスによってタッピングねじの固定状態を確認する工程を示している。 第８～９態様の第１実施形態に係るボールねじ装置において、ナットのインロー部と防塵部品との間に軸方向に開いた隙間を示す断面図である。 第８～９態様の第２実施形態に係るボールねじ装置に用いる防塵部品を示す平面図（ａ）と、（ａ）のＢ－Ｂ断面図（ｂ）と、拡大断面図（ｃ）である。 シールを備えたボールねじの従来例を示す部分断面図である。 図２４のボールねじのシール固定方法を説明する図である。 （ａ）はナットの肉厚が薄い場合の貫通孔の断面図であり、（ｂ）はナットの肉厚が厚い場合の貫通孔の断面図である。 シールの外周面に下穴を形成する方法（従来法）を説明する図である。

　以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明はこの実施形態に限定されない。
［第１～３態様の実施形態］
　この実施形態のボールねじは、図１に示すように、ねじ軸１と、ナット２と、ボール３と、リング状のシール（防塵部品）４と、シール４をナット２に固定するタッピングねじ（頭部を有するねじ）５と、で構成されている。
　ねじ軸１の外周面に螺旋溝１１が形成され、ナット２の内周面に螺旋溝２１が形成されている。ボール３は、ねじ軸１の螺旋溝１１とナット２の螺旋溝２１で形成される軌道の間に配置されている。

　ナット２の軸方向一端部にフランジ２２が形成されている。
　ナット２の内周面の径は、軸方向両端部で螺旋溝２１が形成されている部分より大きく形成されている。この拡径された内周面２３が形成されている部分が、ナット２のシール取付部２４になっている。各シール取付部２４には、外周面から内周面まで径方向に貫通する貫通穴２５が２個ずつ形成されている。２個の貫通穴２５は、シール取付部２４の内周面２３で互いに対向する位置（中心角が１８０°となる位置）に形成されている。

　図２（ａ）に示すように、タッピングねじ５は、皿状の頭部５１を有する。頭部５１をなす円錐の斜面とタッピングねじ５の軸に垂直な線とのなす角度（斜面角度）θ５は３０°である。
　図２（ａ）に示すように、シール取付部２４に設けた貫通穴２５は、外周側の大径部２５ａと、内周側の小径部２５ｂと、これらを連通させる円錐部２５ｃとからなる。大径部２５ａの直径はタッピングねじ５の頭部５１の直径より大きい。小径部２５ｂの直径は、タッピングねじ５の雄ねじ部の外径より大きい。円錐部２５ｃの斜面と貫通穴２５の軸に垂直な線とのなす角度（斜面角度）θ２は３０°である。円錐部２５ｃの斜面が、タッピングねじ５の頭部５１を受ける座面である。

　貫通穴２５は、例えば、小径部２５ｂの直径の貫通穴をドリルで形成した後、その貫通穴の外周側に大径部２５ａの直径の穴をドリルで形成する方法によって、容易に形成することができる。
　図３に示すように、シール４の内周面に、ねじ軸１の螺旋溝１１に対応させた突起部４１が形成されている。なお、シール４の外周面には、後述のように、シール４がナット２のシール取付部２４に配置された後に、シール取付部２４の貫通穴２５の位置に径方向に延びる凹部（下穴、取付穴）４２が形成される。この凹部４２を図３（ａ）に二点鎖線で示す。

　この実施形態では、このボールねじを以下の方法で組み立てる。
　先ず、ナット２にボール３とねじ軸１を組み込む。次に、ねじ軸１の軸方向端部にシール４を嵌め、シール４をねじ軸１の軸方向に押しながら回転させる。これにより、シール４を移動させて、ナット２のシール取付部２４の内周面２３内に入れる。そして、ねじ溝１１とシール４の突起４１を合わせた後、ねじ軸１とシール４との接触を防止するために、シール取付部２４の軸方向端面２４ａからシール４を少し離す。

　次に、後述の図７～１０に示す方法で、各シール４の外周面の全ての貫通穴２５の位置に、径方向に延びる断面が円形の凹部４２を形成する。図２（ａ）はこの状態を示す。この状態でシール取付部２４の内周面２３とシール４との間に隙間が存在する。凹部４２の直径はタッピングねじ５の雄ねじ部の谷径より小さい。

　次に、タッピングねじ５を貫通穴２５に入れて、その先端をシール４の凹部４２に接触させ、ドライバでタッピングねじ５を回転する。これにより、タッピングねじ５は、雄ねじ部で凹部４２の周囲をねじ切りしながら、シール４内に進入する。その際に、頭部５１の斜面が貫通穴２５の斜面（座面）２５ｃに接触した後は、頭部５１の斜面が貫通穴２５の斜面２５ｃを押圧する力でシール４に径方向外向きの力が生じる。その結果、シール４がタッピングねじ５でナット２のシール取付部２４に固定される。図２（ｂ）はこの状態を示す。この状態で、シール４がシール取付部２４の内周面２３に接触し、シール４とねじ軸１との間に隙間が生じる。

　このようにして組み立てられたボールねじは、シール４がナット２に固定された状態で、シール４にねじ軸１から離れる方向の力が付与されているため、シール４はねじ軸１に押し付けられず、シール４とねじ軸１との摩擦に伴う発熱が防止される。
　また、頭部５１の斜面が貫通穴２５の斜面２５ｃに接触する前後でタッピングねじ５の締め付けトルクが変化するため、締め付けトルクを管理することで、タッピングねじ５によるシール４のナット２への固定完了時点が分かる。 つまり、タッピングねじ５の締め付けを締め付けトルクが変化するまで行えば、シール４がナット２に確実に固定された状態になる。よって、シール４がナット２に確実に固定された状態になっているかどうかが容易に分かり、固定状態の確認のために貫通穴２５内のねじ上端までの深さをノギス等で測定する必要がない。

　また、この実施形態の方法では、タッピングねじ５の頭部５１の斜面角度θ５が３０°であるため、斜面角度θ５が４５°であるタッピングねじを使用した場合と比較して、上述の締め付けトルクの管理を容易に行うことができる。なお、タッピングねじ５の締め付けの回転方向と、貫通穴２５の斜面（座面）２５ｃを形成する際のドリルの回転方向が同じであるため、頭部５１の斜面および貫通穴２５の斜面２５ｃの表面粗さを小さくしなくても、タッピングねじ５の締め付けトルクの管理を問題なく行うことができる。

　シール４の凹部（下穴）４２は、図２（ｂ）の状態で、タッピングねじ５の先端より先に隙間４２ａができる深さに形成することが好ましい。これにより、上述の締め付けトルクの管理を容易に行うことができる。凹部４２の深さは深いほど好ましい。また、シール４の下穴を外周面から内周面に至る貫通穴としてもよい。

　図４に示す例では、タッピングねじ５の代わりにドリルねじ６を使用している。ドリルねじ６は、タッピングねじの先端に切り刃６２が形成されたものであり、タッピングねじ５の頭部５１と同様に、斜面角度θ６が３０°である頭部６１を有する。この場合は、図２に示す例のようにシール４に凹部４２を形成する必要がないため、製造コストが低減できる。
　また、この実施形態の方法では、頭部を有するねじであるタッピングねじ５またはドリルねじ６で、シール４をナット２に固定しているため、軸部の径の小さいねじを使用することにより、薄い（軸方向寸法が小さい）シール４の固定に対応できる。

　なお、この実施形態では、シール４の外周部に雌ねじの形成を行わず、タッピングねじ５またはドリルねじ６の雄ねじ部でシール４がねじ切りされて、雄ねじ部がシール４に係合することにより、シール４に径方向外向きの力が生じて、シール４がナット２に固定されている。しかし、シール４の外周部に雌ねじを形成して、頭部を有するねじの雄ねじ部を螺合させることで、シール４に径方向外向きの力を生じさせて、シール４をナット２に固定してもよい。

　また、この実施形態では、固定部材として頭部を有するねじを使用しているが、第１態様の方法の固定部材は、「シール取付部の貫通穴に通してシールの外周部に係合することにより、シールに径方向外向きの力を生じさせることができるもの」であれば、「頭部を有するねじ」以外のものであってもよい。

［第４～５態様の実施形態］
　図５は本実施形態に係るボールねじ装置をねじ軸の径方向から見た状態の部分断面図である。また、図６（ａ）、（ｂ）、（ｃ）はそれぞれ、防塵部品をねじ軸の軸方向から見た状態の外観図、ねじ軸の径方向から見た状態の断面図、（ｂ）の部分拡大図である。
　図５に示すように、本実施形態に係るボールねじ装置１０１は、断面が円形のねじ軸１０４と、該ねじ軸１０４が貫通して配置されるナット１０７とを備えている。ねじ軸１０４の外周面には螺旋状のねじ溝１１０が形成され、ナット１０７の内周面には前記ねじ溝１１０と対向する溝１１３が螺旋状に形成されている。

　ねじ軸１０４の外周面のねじ溝１１０とナット１０７の内周面の溝１１３とで転動体であるボール１１６の転走路を形成している。ナット１０７は、転走路を転走する多数のボール１１６を介してねじ軸１０４と係合している。ナット１０７の両端部のそれぞれには、ナット１０７とねじ軸１０４との間隙をシールするための防塵部品１１９が備えられている。防塵部品１１９は、図６（ａ）および（ｂ）に示すように、環状のシール部材である。

　本実施形態に係るボールねじ装置１０１に用いられているナット１０７は、一方側の端部にフランジ部１２２が形成されている。従ってナット１０７の肉厚は、フランジ部１２２が形成された一方側の端部とフランジ部１２２が形成されていない他方側の端部とでは異なっている。ナット１０７は両端部の内径が拡大されており、内周面のそれぞれの端部近傍に環状の段部１２５が形成されている。拡大された両端部の内径は同じ径寸法に形成されている。内径が拡大された部分の内周面と環状の段部１２５とで防塵部品１１９の収容部１２８を形成している。

　防塵部品１１９は、図５に示すように、内周面の両端部の収容部１２８に嵌め込まれて配置され、防塵部品１１９の外周面は収容部１２８の内周面に対向して接触している。防塵部品１１９の内周面は、ねじ軸１０４の表面形状と雌雄関係の形状となっている。具体的には、図６（ｂ）、（ｃ）に示すように、防塵部品１１９の内周面には、ねじ軸１０４の表面に形成されたねじ溝１１０の形状に対応する突起部１３１が形成されている。これにより、ねじ軸１０４とナット１０７との隙間を確実にシールして、塵等の異物の混入を防止している。

　ナット１０７の両端部にはそれぞれ、ナット１０７の外周面と収容部１２８の内周面とを貫通して径方向に延在する複数の貫通孔１３４が形成されている。貫通孔１３４は各端部にそれぞれ周方向に沿って複数が設けられ、両端部とも同数（本実施形態では２つずつ）が設けられている。
　各貫通孔１３４は、図５に示すように、ナット１０７の外周面側から収容部１２８の内周面の近傍まで延在する、径の大きい孔（以後「大径部１３７」という。）と、大径部１３７の底部からナット１０７の内周面まで延在する径の小さい孔（以後「小径部１４３」という。）とから形成された２段孔となっている。

　貫通孔１３４の内壁には、大径部１３７と小径部１４３とによって段部１４０が形成されている。大径部１３７の径は、後述する加工用ドリルのシャンク部よりも僅かに大きく形成されている。また、小径部１４３の径は、該シャンク部よりも小さく形成され、かつ加工用ドリルの刃先部の径よりも大きく形成されている。小径部１４３の内周面にはタップ加工が施され、雌ねじ（図示省略）が形成されている。

　また、本実施形態では、フランジ部１２２側の端部に形成された貫通孔１３４と、フランジ部１２２が形成されていない側の端部に形成された貫通孔１３４とは、ナット１０７の中心軸から貫通孔１３４の段部１４０までの径方向の距離は等しく形成されている。つまり、ナット１０７の中心軸から各貫通孔１３４の段部１４０までの距離は、何れも同じである。また、ナット１０７の両端部とも、収容部１２８の内周面から貫通孔１３４の段部１４０までの肉厚、すなわち径方向の距離は、同じである。言い換えると、各貫通孔１３４の小径部１４３の深さ寸法は、何れも同じである。

　ナット１０７の各収容部１２８に嵌合された防塵部品１１９の外周面側には、ナット１０７の両端部に形成された貫通孔１３４のそれぞれと対応する位置に、ねじ固定穴１４６が設けられている。ねじ固定穴１４６の内周面にはタップ加工により雌ねじ（図示省略）が形成されている。貫通孔１３４にはナット１０７の外周面側から締結部材１４９がねじ込まれている。

　本実施形態では、締結部材１４９はねじ部材である。大径部１３７は締結部材１４９の径よりも大きい径を有し、締結部材１４９をねじ込む際のガイドとなっている。締結部材１４９の軸部が貫通孔１３４の小径部１４３の雌ねじに係合し、先端部が防塵部品１１９のねじ固定穴１４６に係合している。これらの係合により、防塵部品１１９はナット１０７の収容部１２８に固定されている。

　次に、本実施形態に係るボールねじ装置１０１の製造に用いられる工具について説明する。図７は本実施形態に係るボールねじ装置１０１の製造に用いられるドリル１５２の外観図である。ドリル１５２は、具体的には、防塵部品１１９の外周面側にねじ固定穴１４６を形成するためのタップ加工用下穴１５５（図６（ａ）、（ｂ）、および（ｃ）参照）の加工形成に用いられる。

　図７に示すように、ドリル１５２は、シャンク１５８とシャンク１５８の先端に取付けられた刃先部６１とから構成されている。シャンク１５８の径ＤＳは刃先部６１の径ＤＢに比べて大きく形成されている。当該ドリル１５２による加工は、シャンク１５８を加工装置（図示省略）の回転駆動部６４（図９参照）に取付けて行われる。
　シャンク１５８の径ＤＳはナット１０７に形成された貫通孔１３４の小径部１４３の径よりも大きく、大径部１３７の径ＤＨ（図９参照）よりも僅かに小さく形成されている。具体的には、貫通孔１３４の大径部１３７の径（ｍｍ）よりも０．２～０．３（ｍｍ）小さく形成されている。

　また、刃先部６１の径ＤＢは、防塵部品１１９のねじ固定穴１４６の内径、すなわち、ねじ固定穴１４６の内周面に形成された雌ねじの内径と同じ寸法である。刃先部６１の長さＬＢは、形成されるねじ固定穴１４６の深さ寸法と貫通孔１３４の小径部１４３の深さ寸法とを合計した寸法となっている。また、シャンク１５８はナット１０７の肉厚に比べて充分な長さを有している。

　次に、このような構成のドリル１５２を用いた、本実施形態に係るボールねじ装置１０１の製造方法について説明する。図８は、製造中のボールねじ装置１６７の要部の部分断面図である。ここで製造中のボールねじ装置１６７とは、ナット１０７の収容部１２８に防塵部品２８が嵌合されている状態をいう。まずこの状態から、ナット１０７の両端部に貫通孔１３４を形成する。

　貫通孔１３４はボール盤等の加工装置（図示省略）で公知のドリルを用いて形成する。貫通孔１３４は、締結部材１４９の径よりも大きな径を有する大径部１３７と、締結部材１４９が係合する小径部１４３と、大径部１３７と小径部１４３との間の段部１４０とからなるように形成する。本実施形態においては、ナット１０７の収容部１２８の内周面から段部１４０までの肉厚、すなわち径方向の距離は、全ての貫通孔１３４において同じ寸法となるようにする。言い換えると、小径部１４３の深さ寸法を全ての貫通孔１３４において等しくなるようにする。

　このように小径部１４３の深さ寸法を全て等しくするために、例えば次のように貫通孔１３４を形成する。予めナット１０７のフランジ部１２２側の端部およびフランジ部１２２が形成されていない側の端部の肉厚寸法、すなわち収容部１２８の内周面からナット１０７の外周面までの寸法を測定しておく。そして、これらの肉厚寸法と小径部１４３の深さ寸法との差分を、ナット１０７のそれぞれの端部において、ナット１０７の外周面側から大径部１３７形成用の公知のドリルでそれぞれドリル加工する。そうすると、当該ドリル加工後には、ナット１０７の内周面側には小径部１４３の深さ寸法分の肉厚が残る。

　その後、各大径部１３７の底部から、小径部１４３形成用の公知のドリルで残った肉厚部分をそれぞれドリル加工する。図９は、このようにしてナット１０７に各貫通孔１３４が形成された状態を示している。また、図９には、次の工程であるタップ加工用下穴１５５の加工に用いるドリル１５２を示している。当該ドリル１５２を用いたタップ加工用下穴１５５の加工は以下のように行う。

　ドリル１５２および製造中のボールねじ装置１６７をそれぞれボール盤等の加工装置（図示省略）にセットする。ドリル１５２を回転駆動させ、刃先部６１をナット１０７の外径側から貫通孔１３４に挿入する。貫通孔１３４に挿入されたドリル１５２は、シャンク１５８が大径部１３７に沿ってナット１０７の径方向内方に進み、刃先部６１の先端が貫通孔１３４の小径部１４３に達する。

　さらにドリル１５２が進行すると、刃先部６１の先端が小径部１４３を通過し、収容部１２８の内周面、すなわち該内周面に接触している防塵部品１１９の外周面に達する。この状態において、シャンク１５８の先端部１５９はまだ大径部１３７の底部すなわち段部１４０には達していない。さらにドリル１５２が進行すると、刃先部６１は防塵部品１１９を外周面側から削孔し、ナット１０７の径方向で内方に延在する穴を形成する。

　そしてドリル１５２は、シャンク１５８の先端部１５９が貫通孔１３４の段部１４０に達すると、シャンク１５８の径ＤＳは小径部１４３の径よりも大きいので、そこで進行が規制される。つまり、貫通孔１３４の段部１４０はドリル１５２のストッパとなっている。ドリル１５２をこの状態まで進行させたら、ドリル１５２を大径部１３７から引き抜く。すると、防塵部品１１９の外周面側に所定の深さの凹部が形成される。この凹部がすなわち、図６（ａ）、（ｂ）および（ｃ）に示すタップ加工用の下穴１５５である。

　同様の作業を他の全ての貫通孔１３４でも行う。図６は、図５の状態から全てのタップ加工用下穴１５５が形成された状態のボールねじ装置１６７の要部の部分断面図である。上述したように、ナット１０７の両端部において収容部１２８の内周面から貫通孔１３４の段部１４０までの肉厚の寸法（図９および図１０において、αで示す）は同じ寸法である。言い換えると小径部１４３の深さ寸法は何れの貫通孔１３４でも同じである。

　そうすると、ドリル１５２のシャンク１５８の先端部１５９が、貫通孔１３４の段部１４０に当接するまで、貫通孔１３４に差し込まれることによって、防塵部品１１９の外周面側に形成されるタップ加工用下穴１５５の深さは、どの貫通孔１３４における加工でも全て同じ深さ寸法となる。つまり、貫通孔１３４の段部１４０は、各タップ加工用下穴１５５の深さが同一となるようにドリル１５２の防塵部品１１９に対する加工距離を規定している。

　防塵部品１１９へのタップ加工用下穴１５５の加工形成が終了したら、貫通孔１３４の小径部１４３と当該下穴１５５とにタップ加工を施し、それぞれに雌ねじ（図示省略）を形成する。こうして下穴１５５をねじ固定穴１４６に成形する。その後、貫通孔１３４に防塵部品１１９とナット１０７とを締結するための締結部材１４９をねじ込む。その際、貫通孔１３４の大径部１３７は締結部材１４９を締結位置までガイドする。締結部材１４９は軸部が貫通孔１３４の小径部１４３の雌ねじに係合し、先端部が防塵部品１１９のねじ固定穴１４６に係合する。これらの係合によって防塵部品１１９がナット１０７の収容部１２８に固定される。

　このように、本実施形態では、ドリル１５２を回転駆動させてシャンク１５８の先端部１５９が貫通孔１３４の段部１４０に達するまで貫通孔１３４に差し込みさえすれば、防塵部品１１９に深さの等しいタップ加工用下穴１５５を形成することが出来る。
　また、ナット１０７は、フランジ部１２２およびフランジ部１２２以外の部分の外径を顧客の要求に合わせて製作しているため、ナット１０７の肉厚は用いるナット１０７ごとに寸法が異なっている。

　このような様々な肉厚のナット１０７について、何れのナット１０７についても、防塵部品１１９の収容部１２８の内周面から貫通孔１３４の段部１４０までの肉厚寸法を、例えば本実施形態と同じαに固定し、本実施形態に係るドリル１５２を用いて加工を行えば、収容部１２８の内周面からナット１０７の外周面までの肉厚の寸法に関わりなく、防塵部品１１９の外周面側に同じ深さのタップ加工用下穴１５５を形成することが出来る。

　すなわち、従来様々な寸法の肉厚のナットごとに行い、手間の掛かっていたタップ加工用下穴の深さ管理を容易に行うことが可能となる。
　その結果、ゲージと、ドリルに取付けるタイプのストッパとを用いた従来の加工方法よりも防塵部品の取付けに要する時間を短縮することが出来る。実際には、背景技術の欄で説明したような従来の加工方法による防塵部品の取付け作業に比べ、所要時間を半分以下まで短縮することが可能である。さらに、従来のようにベテラン作業員が行わなくとも誰でも簡単、迅速に確実な防塵部品のナットへの取付け、固定が可能となる。

［第６～９態様の課題の説明］
　ナット２にシール４を固定する工程で、シール取付部２４に設けた貫通穴２５に合わせて、シール４に下穴４２を形成する方法は、第４～５態様の実施形態で説明した方法であっても多くの手間がかかる。第６～９態様が解決しようとする課題は、この手間を軽減することである。

　ナットのシール取付部に設けた貫通穴に合わせてシールに形成する下穴の位置を決め、その位置に下穴を形成した後に、シールをナットに固定する方法の一例を、図１１と１２を用いて説明する。
　まず初めに、図１１（ａ）に示すように、ドーナツ状の防塵部品２０２の内部にねじ軸２０３の端部を通し、防塵部品２０２を回転させることにより、防塵部品２０２をナット２０１に向けてねじ軸２０３上で移動させ、ナット２０１の端部に形成されたインロー部に嵌め込む。

　そして、防塵部品２０２とねじ軸２０３の位相（周方向の位置）を合わせた後に、図１１（ｂ）に示すように、ナット２０１にあらかじめ径方向に穿設したねじ用穴部２０４から、任意の深さで止められるように特殊工具（ストッパー）を取り付けたドリル２０５を挿入し、防塵部品２０２の外周面から径方向内方に向けてドリル穴を穿設する。
　このように、現場合わせによってドリル穴の位置を決めることで、部品の製造段階で生じる部品ごとのわずかな寸法のばらつきに拘わらず、精度の高いシール性能を得られるようにする。

　さらにその後、図１１（ｃ）に示すように、ナット２０１、防塵部品２０２、ねじ軸２０３を分解し、図１２（ａ）に示すように、エアブロワ２０６を用いてエアブローによってナット２０１及び防塵部品２０２から穿設の際に生じた削り屑を吹き飛ばす。そして、図１２（ｂ）に示すように、ナット２０１、防塵部品２０２及びねじ軸２０３を再度組み立て、ねじ用穴部２０４からタッピングねじ７を挿入して防塵部品２０２に穿設したドリル穴に螺入することで、防塵部品２０２をナット２０１に固定する。
　最後に、図１２（ｃ）に示すように、ノギス２０８により、ナット２０１の外周面からタッピングねじ７までの深さを測定し、タッピングねじ７による固定状態を確認して組付け作業が完了する。
　上記の方法では、防塵部品の組付けに多くの手間がかかる。

［第６～７態様の実施形態］
（第１実施形態）
　以下、第６～７態様の実施形態について図１３ないし図１５を参照しつつ説明する。図１３は、この実施形態に係るボールねじ装置２１１を示しており、ナット２１２を軸方向に切断した断面とねじ軸２１３の側面を示している。
　この実施形態に係るボールねじ装置２１１は、ナット２１２と、ナット２１２に挿通したねじ軸２１３と、ナット２１２とねじ軸２１３との間に介装された多数のボール２２１と、から構成されている。
　ナット２１２は、円筒状をした金属製の円筒部２１４と、円筒部２１４と一体に金属から形成され、円筒部の軸方向の端部で円筒部よりも外径寸法の大きいフランジ２１５とを有している。

　円筒部２１４の内周面には螺旋状の外側転動面２１６が形成され、フランジ２１５と反対側の端部には、インロー部２１７ａが形成されている。外側転動面２１６の断面形状はゴシックアーク形状をしている。インロー部２１７ａは、軸方向と平行な円柱面状の内周面と、ナット内側に形成された軸方向に対して垂直な環状面とから構成されている。
　インロー部２１７ａの内周面を形成する円筒状の部分には径方向に貫通したねじ用穴部２１８ａが形成されている。ねじ用穴部２１８ａは、径方向の対向する位置に２ヶ所設けられている。ねじ用穴部２１８ａは、径方向外側に形成された座繰り部と、座繰り部よりも径方向内側において形成された雌ねじ部とから形成されている。

　インロー部２１７ａには、エラストマーから形成されたドーナツ状の防塵部品２１９ａが嵌め込まれ、タッピングねじ２２０ａによって円筒部２１４に固定されている。タッピングねじ２２０ａは防塵部品２１９ａに螺入してあり、タッピングねじ２２０ａの雄ねじ部と防塵部品２１９とが密着して、雄ねじ部のせん断抵抗によって防塵部品２１９ａが軸方向にずれるのを防いでいる。

　フランジ２１５の外側の端部にもインロー部２１７ｂが形成してある。インロー部２１７ｂは、軸方向と平行な円柱面状の内周面と、ナット内側に形成された軸方向に対して垂直な環状面とから構成されている。インロー部２１７ｂの径方向外側の部分を構成するドーナツ状の円筒状部分には、径方向に貫通したねじ用穴部２１８ｂが穿設されている。ねじ用穴部２１８ｂは、径方向の対向する位置に２ヶ所設けられている。ねじ用穴部２１８ｂは、径方向外側において形成された座繰り部と、座繰り部よりも径方向内側において形成された雌ねじ部とから形成されている。ねじ用穴部２１８ｂにおいては、フランジ２１５の径方向の厚みの分、ねじ用穴部２１８ａよりも径方向に深い座繰り部が形成されている。なお、ねじ用穴部２１８ａ、２１８ｂはそれぞれ２ヶ所ずつに限らず、必要に応じて３ヶ所以上設けても良い。

　インロー部２１７ｂには、エラストマーから形成されたドーナツ状の防塵部品２１９ｂが嵌め込まれ、タッピングねじ２２０ｂによってインロー部２１７ｂに固定されている。インロー部２１７ａと２１７ｂの形状及び大きさを同一のものとすることで、防塵部品２１９ａ、２１９ｂを同じ形状及び大きさのものを製造して、両インロー部２１７ａ、２１７ｂに用いることができる。なお、防塵部品２１９ａ及び２１９ｂは、エラストマー以外の弾性体から形成されていも良い。また、防塵部品２１９ａ及び２１９ｂは、形状を保持し、強度を上げるため、芯金を備えていてもよい。

　ねじ軸２１３の外周面には、円筒部２１４の内周面に形成された外側転動面２１６に対向する螺旋状の内側転動面２２２が形成されている。内側転動面２２２の断面形状は、略円弧状であり、底部に逃げ溝（不図示）を配した形状をしている。なお、シール性能を高めるため、逃げ溝の無い構成とすることも可能である。
　円筒部２１４の内周面に形成された外側転動面２１６と、ねじ軸２１３に形成された内側転動面２２２とで転動路が形成され、該転動路にはボール２２１が介装されている。図１においては、ねじ軸２１３の図面手前側に介装されたボール２２１の表示を省略している。ボール２２１は、ナット２１２をねじ軸２１３に支持しており、ねじ軸２１３がナット２１２に対して相対回転することにより、転動路内を転動してナット２１２を軸方向に移動させる。

　ボール２２１は、螺旋運動をしながら、ナット２１２がねじ軸２１３に対して相対移動する向きとは逆の向きに、ナット２１２に対して相対移動し、転動路の終端に達すると、ナット２１２に備えられた不図示のボール循環機構によって転動路の螺旋軌道から逸れてボール循環路（不図示）に入る。ボール２２１は、ボール循環路内で後続のボール２２１に押されて、ナット２１２がねじ軸２１３に対して相対移動している向きと同じ向きにナット２１２に対して相対移動し、再度転動路に戻って転動路内を転動するという循環が繰り返される。循環機構の方式としては、エンドデフレクタ式、チューブ式、こま式、エンドキャップ式等を用いることができる。
　ナット２１２には、転動路に潤滑剤を供給する潤滑剤供給機構（不図示）が設けられている。
　ナット２１２、ねじ軸２１３及びボール２２１の間には適切な予圧が与えられることが好ましい。予圧の方式としては、オーバーボール予圧、インテグラル予圧、ダブルナット予圧等を用いることができる。

　図１４は、防塵部品２１９ｂを示す平面図及び断面図である。図１４（ａ）は、本第１実施形態に係るボールねじ装置に用いる防塵部品２１９ｂの平面図を示しており、本体２２３の外周面を破線で示している。図１４（ｂ）は、図１４（ａ）に記すＡ－Ａ断面を示す断面図である。図１４（ｃ）は、防塵部品２１９ｂの拡大断面図である。
　図１４に示すように、防塵部品２１９ｂは、径方向内側に形成されたドーナツ状の本体２２３と、本体２２３の内周側に形成されたシールリップ２２５と、本体２２３の外周面から径方向外側に突出し円周方向に延びる一対のねじ受け用突起部２２４ａ、２２４ｂとから構成されている。防塵部品２１９ｂは、軸方向の寸法がナット２１２に形成されたインロー部２１７ｂの軸方向の深さよりも小さく、外径寸法はインロー部２１７ｂの内径寸法よりも僅かに小さい。

　シールリップ２２５は、ねじ軸２１３の内側転動面２２２の螺旋軌道に対応して径方向内方に螺旋状に突出した部分であり、本体２２３と一体的に形成されている。シールリップ２２５は、内側転動面２２２に対応した形状となっていて、内側転動面２２２からのナット２１２への異物の侵入やナット２１２から外部への潤滑材の漏出を防止する。本体２２３の内周面のうちシールリップ２２５以外の部分は、ねじ軸２１３の内側転動面２２２以外の外周面に対応した形状となっていて、異物の侵入や潤滑材の漏出を防止する。

　ねじ受け用突起部２２４ａ及び２４ｂは、図１４（ｃ）に示すように、本体２２３の外周面において、互いに隙間を空けて軸方向に並べて配置されている。これにより、タッピングねじ２２０ｂがねじ受け用突起部２２４ａ、２２４ｂの間の隙間に螺入され防塵部品２１９ｂがナット２１２に固定される。
　図１４（ａ）に示すように、本体２２３の外周面の全周にわたって一対のねじ受け用突起部が形成さることにより、後述のように現場合わせによってシールリップ２２５をねじ軸２１３の内側転動面２２２の螺旋軌道に合わせて固定することが可能となる。図１４（ｃ）に示すように、ねじ受け用突起部２２４ａ及び２２４ｂの軸方向の寸法は同一であり、その間に形成される隙間は防塵部品２１９ｂの軸方向の中央に形成されている。なお、ねじ受け用突起部２２４ａ及び２２４ｂの軸方向の寸法は異なっていても良く、その間に形成される隙間が防塵部品２１９ｂの軸方向の中央に形成されていなくても良い。

　図１４（ｃ）に示すねじ受け用突起部２２４ａと２２４ｂとの間の隙間の軸方向の幅αは、タッピングねじ２２０ｂの雄ねじ部の谷の径以下とすることが好ましい。これにより、十分な固定力を得ることが可能となる。
　ねじ受け用突起部２２４ａ、２２４ｂは、タッピングねじ２２０ｂの固定に用いられるだけでなく、本体２２３とインロー部２１７ｂとの間の隙間を埋めてナット２１２内に異物　防塵部品２１９ｂのナット２１２中心側の面は、本体２２３とねじ受け用突起部２２４ａとで軸方向に対して垂直な面を構成しており、防塵部品２１９ｂのナット２１２中心側と反対側の面も、本体２２３とねじ受け用突起部２２４ｂとで軸方向に対して垂直な面を構成している。

　また、防塵部品２１９ｂの外周面は、ねじ受け用突起部２２４ａ、２２４ｂが軸方向と平行な円柱面を構成している。防塵部品２１９ｂは、射出成形等の樹脂成形や削り出しによって製造することができる。樹脂成形においては、ねじ受け用突起部２２４ａ、２２４ｂの間の隙間を成形する部分を型に設けることで、コストアップさせることなく製造が可能となる。また、削り出しの場合においても、防塵部材１９ｂの製造過程で溝を設けることで、ボールねじ装置全体の組立工程時に下穴加工を行うよりコストを抑えた製作が可能となる。
　以上、防塵部品２１９ｂについて説明したが、防塵部品２１９ａも同一の構成をしており、同一の作用及び効果を奏するものである。

　次に、図１５を参照しつつ本第１実施形態に係るボールねじ装置２１１の製造における防塵部品２１９ｂのナット２１２への組付けについて説明する。
　まず初めに、図１５（ａ）に示すように、防塵部品２１９ｂの内部にねじ軸２１３の端部を通し、防塵部品２１９ｂをねじ軸２１３の軸方向に押し付けながら回転させることにより、ねじ軸２１３上をナット２１２に向けて移動させ、防塵部品２１９ｂをインロー部２１７ｂに嵌め込む。

　次に、図１５（ｂ）に示すように、タッピングねじ２２０ｂをフランジ２１５に形成されたねじ用穴部２１８ｂから挿入して防塵部品２１９ｂのねじ受け用突起部２２４ａ、２２４ｂの間の隙間に螺入する。
　最後に、図１５（ｃ）に示すように、ノギス２２７によってフランジ２１５の外周面からタッピングねじ２２０ｂまでの深さを測定し、タッピングねじ２２０ｂによる固定状態を確認して組付け作業が完了する。このように、本発明によれば、タッピングねじを螺入するための下穴加工を施す必要が無く、また、下穴加工に伴う削り屑が発生しないため、その除去をする必要も無く、下穴とタッピングねじの間に削り屑が侵入する危険性も排除することができる。

（第２実施形態）
　次に、図１６を参照しつつ第６～７態様の第２実施形態に係る防塵部材について説明する。この実施形態に係る防塵部材を用いるボールねじ装置は、第６～７態様の第１実施形態と同様の構成である。
　図１６（ａ）は、本第２実施形態に係る防塵部品２３０ｂの平面図を示しており、防塵部品２３０ｂの本体３１の外周面と縮径段部２３２ａ、２３２ｂを破線で示している。図１６（ｂ）は、図１６（ａ）に記すＢ－Ｂ断面を示す断面図である。図１６（ｃ）は、防塵部品２３０ｂの拡大断面図である。

　この実施形態に係る防塵部品２３０ｂにおいては、図１６（ｃ）に示すように、一対のねじ受け用突起部２３３ａ、２３３ｂの互いに対向する面の径方向外側の端部において、防塵部品２３０ｂの外周面から縮径した縮径段部２３２ａ、２３２ｂがそれぞれ形成されている。これにより、タッピングねじの挿入口が軸方向に広くなり、タッピングねじが食い付き易くなり、より容易に防塵部品を組付けることができるようになる。

　タッピングねじの雄ねじ部の外径をｄ１、タッピングねじの雄ねじ部の谷の径をｄ２、ねじ受け用突起部２３３ａと２３３ｂとの間に形成された隙間のうち、径方向内側に形成された幅の狭い方の軸方向の幅をα、径方向外方に形成された幅の広い方の軸方向の幅をβとした場合、以下の条件式(1) および(2) を満足することが望ましい。
　α≦ｄ２…(1)
　ｄ２＜β≦ｄ１…(2)
　これにより、タッピングねじの食い付きを良くして、かつ、タッピングねじによる十分な固定力を得ることができる。

（第３実施形態）
　次に、図１７を参照しつつ第６～７態様の第３実施形態に係る防塵部材について説明する。この実施形態に係る防塵部材を用いるボールねじ装置は、第６～７態様の第１実施形態と同様の構成である。
　図１７（ａ）は、この実施形態に係る防塵部品２４０ｂの平面図を示しており、防塵部品２４０ｂの本体４１の外周面を破線で示している。図１７（ｂ）は、図１７（ａ）に記すＣ－Ｃ断面を示す断面図である。図１７（ｃ）は、防塵部品２４０ｂの拡大断面図である。

　この実施形態に係る防塵部品２４０ｂにおいては、図１７（ｃ）に示すように、一対のねじ受け用突起部２４３ａ、２４３ｂの互いに対向する面の径方向外側の端部に、径方向外側の隙間が広くなるように円弧状に形成されたアール部２４２ａ、２４２ｂが形成されている。これにより、タッピングねじの挿入口が軸方向に広くなり、タッピングねじが食い付き易くなり、より容易に防塵部品２４０ｂを組付けることができるようになる。

　タッピングねじの雄ねじ部の外径をｄ１、タッピングねじの雄ねじ部の谷の径をｄ２、ねじ受け用突起部２４３ａと２４３ｂとの間に形成された隙間のうち、径方向内側に形成された幅の狭い部分の軸方向の幅をα、径方向で最も外側に形成された最も幅の広い部分の軸方向の幅をβとした場合、以下の条件式(1) と(2) を満足することが望ましい。
　α≦ｄ２…(1)
　ｄ２＜β≦ｄ１…(2)
　これにより、タッピングねじの食い付きを良くして、かつ、タッピングねじによる十分な固定力を得ることができる。

（第４実施形態）
　次に、図１８を参照しつつ第６～７態様の第４実施形態に係る防塵部材について説明する。この実施形態に係る防塵部材を用いるボールねじ装置は、第６～７態様の第１実施形態と同様の構成である。
　図１８（ａ）は、この実施形態に係るボールねじ装置に用いる防塵部品５０ｂの平面図を示しており、ねじ受け用突起部２５２ａと本体２５１との境界を破線で示している。図１８（ｂ）は、図１８（ａ）に記すＤ－Ｄ断面を示す断面図である。図１８（ｃ）は、図１８（ａ）に記すＥ－Ｅ断面を示す断面図である。

　この実施形態に係る防塵部品２５０ｂにおいては、図１８（ａ）に示すように、ねじ受け用突起部２５２ａ、２５２ｂが本体２５１の外周面の一部にのみ配置されている。ねじ受け用突起部２５２ａ、２５２ｂが配置されていない部分は、図１８（ｂ）に示すように、径方向外側の面がねじ受け用突起部２５２ａ、２５２ｂの径方向外側の面と同一円周上に形成されるように本体２３１を径方向外方へ延在させている。

　このように、ねじ受け用突起部２５２ａ、２５２ｂを全周にわたって配置しなくても、設計の時点で防塵部品２５０ｂの取付け向きと製造の精度を考慮して、設計上ねじが螺入される部分の前後に必要な範囲だけねじ受け用突起部２５２ａ、２５２ｂを配置しても良い。この場合も、第６～７態様の第１ないし第３実施形態と同様に、容易に防塵部品の組付けを行うことができる。

［第８～９態様の実施形態］
（第１実施形態）
　以下、第８～９態様の第１実施形態について図１９ないし図２２を参照しつつ説明する。図１９（ａ）は、この実施形態に係るボールねじ装置３１１を示している。ナット３１２を軸方向に切断した断面とねじ軸３１３の側面を示している。
　この実施形態に係るボールねじ装置３１１は、ナット３１２と、ナット３１２に挿通したねじ軸３１３と、ナット３１２とねじ軸３１３との間に介装された多数のボール３２１と、から構成されている。
　ナット３１２は、円筒状をした金属製の円筒部３１４と、円筒部３１４と一体に金属から形成され、円筒部の軸方向の端部で円筒部よりも外径寸法の大きいフランジ３１５とを有している。

　円筒部３１４の内周面には螺旋状の外側転動面３１６が形成され、フランジ３１５と反対側の端部には、インロー部３１７ａが形成されている。外側転動面３１６の断面形状はゴシックアーク形状をしている。インロー部３１７ａは、軸方向と平行な円柱面状の内周面と、ナット内側に形成された軸方向に対して垂直な面とから構成されている。
　円筒部３１４のフランジ３１５とは反対側の端部でインロー部３１７ａの内周面を形成する円筒状の部分には径方向に貫通したねじ用穴部３１８ａが形成されている。ねじ用穴部３１８ａは、径方向の対向する位置に２ヶ所設けられている。ねじ用穴部３１８ａは、径方向外側において形成された座繰り部と、座繰り部よりも径方向内側において形成された雌ねじ部とから形成されている。

　インロー部３１７ａには、エラストマーから形成されたドーナツ状の防塵部品３１９ａが嵌め込まれ、タッピングねじ３２０ａによって円筒部３１４に固定されている。
　フランジ３１５の軸方向端部にもインロー部３１７ｂが形成してある。インロー部３１７ｂは、軸方向と平行な円柱面状の円周面と、ナット内側に形成された軸方向に対して垂直な面とから構成されている。インロー部３１７ｂの径方向外側の部分を構成するドーナツ状の円筒状部分には、径方向に貫通したねじ用穴部３１８ｂが穿設されている。ねじ用穴部３１８ｂは、径方向の対向する位置に２ヶ所設けられている。

　ねじ用穴部３１８ｂは、径方向外側において形成された座繰り部と、座繰り部よりも径方向内側において形成された雌ねじ部とから形成されている。ねじ用穴部３１８ｂにおいては、フランジ３１５の径方向の厚みの分、ねじ用穴部３１８ａよりも径方向に深い座繰り部が形成されている。なお、ねじ用穴部３１８ａ、３１８ｂはそれぞれ２ヶ所ずつ限らず、必要に応じて３箇所以上設けても良い。

　インロー部３１７ｂには、エラストマーから形成されたドーナツ状の防塵部品３１９ｂが嵌め込まれ、タッピングねじ３２０ｂによってインロー部３１７ｂに固定されている。インロー部３１７ａと３１７ｂの形状及び大きさを同一のものとすることで、防塵部品３１９ａ及び３１９ｂを同じ形状及び大きさのものを製造し、組付け向きを反転させて両インロー部３１７ａ、３１７ｂに用いることができる。なお、本発明において、防塵部品３１９ａ及び３１９ｂは、エラストマー以外の弾性体から形成されていも良い。また、防塵部品３１９ａ及び３１９ｂは、形状を保持し、強度を上げるため、芯金を備えていてもよい。

　ねじ軸３１３の外周面には、円筒部３１４の内周面に形成された外側転動面３１６に対向する螺旋状の内側転動面３２２が形成されている。内側転動面３２２の断面形状は、略円弧状であり、底部に逃げ溝（不図示）を配した形状をしている。なお、シール性能を高めるため、逃げ溝を廃した構成とすることも可能である。
　円筒部３１４の内周面に形成された外側転動面３１６と、ねじ軸３１３に形成された内側転動面３２２とで転動路が形成され、該転動路にはボール３２１が介装されている。図１９（ａ）においては、ねじ軸３１３の図面手前側に介装されたボール３２１の表示を省略している。ボール３２１は、ナット３１２をねじ軸３１３に支持しており、ねじ軸３１３がナット３１２に対して相対回転することにより、転動路内を転動してナット３１２を軸方向に移動させる。

　ボール３２１は、螺旋運動をしながら、ナット３１２がねじ軸３１３に対して相対移動する向きとは逆の向きに、ナット３１２に対して相対移動し、転動路の終端に達すると、ナット３１２に備えられた不図示のボール循環機構によって転動路の螺旋軌道から逸れてボール循環路（不図示）に入る。ボール３２１は、ボール循環路内で後続のボール３３３２１に押されて、ナット３１２がねじ軸３１３に対して相対移動している向きと同じ向きにナット３１２に対して相対移動し、再度転動路に戻って転動路内を転動するという循環が繰り返される。循環機構の方式としては、エンドデフレクタ式、チューブ式、こま式、エンドキャップ式等を用いることができる。
　ナット３１２には、転動路に潤滑剤を供給する潤滑剤供給機構（不図示）が設けられている。
　ナット３１２、ねじ軸３１３及びボール３２１の間には適切な予圧が与えられることが好ましい。予圧の方式としては、オーバーボール予圧、インテグラル予圧、ダブルナット予圧等を用いることができる。

　図１９（ｂ）は、本第１実施形態に係る防塵部品３１９ｂにタッピングねじ３２０ｂを螺入した状態をナット３１２の軸方向外側から見た平面図である。ナット３１２の軸方向外側の面は環状の平滑な面であり、この面の図１９（ｂ）奥側で上下からタッピングねじ３２０ｂが螺入されている。
　図１９（ｃ）は、この実施形態に係る防塵部品３１９ｂにタッピングねじを螺入した状態をナット３１２の軸方向内側から見た平面図である。タッピングねじ３２０ａ、２０ｂは、防塵部品３１９ａの径方向外側に放射状に形成されたねじ受け用突起部３２４間の隙間に螺入されている。

　図２０は、防塵部品３１９ｂを示す平面図及び断面図である。図２０（ａ）は、平滑な側の面を示す平面図である。図の奥側に形成されているねじ受け用突起部３２４を破線で示している。図２０（ｂ）は、図２０（ａ）に記すＡ－Ａ断面を示す断面図である。図２０（ｃ）は、ねじ受け用突起部３２４が形成された側の面を示す平面図である。

　図２０に示すように、防塵部品３１９ｂは、径方向内側に形成されたドーナツ状の本体３２６と、本体３２６の内周側に形成されたシールリップ３２３と、本体３２６の外周面から径方向外方に突出し軸方向に延びる多数のねじ受け用突起部３２４と、本体３２６の外周面から径方向外方に突出し、円周方向に延び、ねじ受け用突起部３２４及びねじ受け用突起部３２４の間の隙間の端部に配置された遮蔽部３２５とから構成されている。防塵部品３１９ｂは、軸方向の寸法がナット３１２に形成されたインロー部３１７ｂの軸方向の深さよりも小さく、外径寸法はインロー部よりも僅かに小さい。

　シールリップ３２３は、ねじ軸３１３の内側転動面３２２の螺旋軌道に対応して径方向内方に螺旋状に突出した部分であり、本体３２６と一体的に形成されている。シールリップ３２３は、内側転動面３２２に対応した形状となっていて、内側転動面３２２からのナット３１２への異物の侵入やナット３１２から外部への潤滑材の漏出を防止する。本体３２６の内周面のうちシールリップ３２３以外の部分は、ねじ軸３１３の内側転動面３２２以外の外周面に対応した形状となっていて、異物の侵入や潤滑材の漏出を防止する。

　ねじ受け用突起部３２４は、図２０（ｃ）に示すように、互いに隙間を空けて本体３２６の外周面に多数配置されている。これにより、タッピングねじ３２０ｂがねじ受け用突起部３２４の間の隙間に螺入され防塵部品３１９ｂがナット３１２に固定される。図２０（ｃ）に示すように、本体３２６の外周面に、ねじ受け用突起部３２４を多数設け、その間に隙間が多数形成されていることにより、後述のように、現場合わせによってシールリップ３２３をねじ軸３１３の内側転動面３２２の螺旋軌道に合わせて配置することが可能となる。なお、ねじ受け用突起部３２４の数及び寸法は、図２０（ｃ）に記載したものに限らず、防塵部品３１９ｂのサイズや材料、タッピングねじ３２０ｂのサイズ等に応じて適切な数及び寸法とすることができる。

　図２０（ｃ）に示すねじ受け用突起部３２４間の隙間の円周方向の寸法αは、タッピングねじ３２０ｂの雄ねじ部の谷の径以下とすることが好ましい。これにより、十分な固定力を得ることが可能となる。また、本第１実施形態のように、径方向に対向する位置でねじ止めする場合、ねじ受け用突起部３２４は、それぞれが径方向に対向するように設けることが好ましい。これにより、ねじ受け用突起部３２４の間の隙間も径方向に対向することとなり、径方向に対向する位置でねじ止めし易くなる。

　遮蔽部３２５は、本体３２６の外周面からねじ受け用突起部３２４と同じ径方向寸法で径方向外方に突出しており、ねじ受け用突起部３２４及びねじ受け用突起部３２４の間の隙間の軸方向端部を覆っている。これにより、ねじ受け用突起部３２４の間の隙間からナット３１２内に異物が侵入することを防止する。
　また、遮蔽部３２５は、ねじ受け用突起部３２４と一体的に形成されており、ねじ受け用突起部３２４の間の隙間にタッピングねじが螺入された際に、タッピングねじの両側のねじ受け用突起部３２４が互いに離反するように弾性変形するのを抑制し、タッピングねじ３２０ｂによる十分な固定力を得られるようにしている。

　防塵部品３１９ｂの、ナット３１２の中心部に面する側は、本体３２６とねじ受け用突起部３２４とで軸方向に対して垂直な面を構成しており、防塵部品３１９ｂのナット３１２の中心部側と反対側の面は、本体３２６と遮蔽部３２５とで軸方向に対して垂直な面を構成している。また、防塵部品３１９ｂの外周面は、ねじ受け用突起部２と遮蔽部３２５とで軸方向と平行な面を構成している。防塵部品３１９ｂは、エラストマーを射出成形することによって製造することができる。
　以上、防塵部品３１９ｂについて説明したが、防塵部品３１９ａも同一の形状をしており、同一の作用及び効果を奏するものである。

　次に、図２１を参照しつつ、この実施形態に係るボールねじ装置３１１の製造における防塵部品３１９ｂのナット３１２への組付けについて説明する。
　まず初めに、図２１（ａ）に示すように、防塵部品３１９ｂの内部にねじ軸３１３の端部を通し、防塵部品３１９ｂをねじ軸３１３の軸方向に押し付けながら回転させることによりねじ軸３１３上をナット３１２に向けて移動させ、防塵部品３１９ｂをインロー部３１７ｂに嵌め込む。

　次に、図２１（ｂ）に示すように、タッピングねじ３２０ｂをフランジ３１５に形成されたねじ用穴部３１８ｂから挿入して防塵部品３１９ｂのねじ受け用突起部３２４の間の隙間に螺入する。
　最後に、図２１（ｃ）に示すように、ノギス３２７によってフランジ３１５の外周面からタッピングねじ３２０ｂまでの深さを測定し、タッピングねじ３２０ｂによる固定状態を確認して組付け作業が完了する。このように、本発明によれば、タッピングねじを螺入するための下穴加工を施す必要が無く、また、下穴加工に伴う削り屑が発生しないため、その除去をする必要も無く、下穴とタッピングねじの間に削り屑が侵入する危険性も排除することができる。

　タッピングねじ３２０ｂをねじ受け用突起部３２４の間の隙間に螺入する際に、タッピングねじ３２０ｂの先端がねじ受け用突起部３２４の径方向外側の面に当接して螺入することが出来ない場合には、防塵部品３１９ｂをナット３１２に対して円周方向に相対回転させれば良い。これにより、タッピングねじ３２０ｂの先端がねじ受け用突起部３２４の径方向外側の面を避けて、ねじ受け用突起部３２４の間の隙間に螺入することが可能となる。

　このように防塵部品３１９ｂを回転させた場合、防塵部品３１９ｂがナット３１２に対して軸方向に相対移動する。特に、インロー部３１７ｂの軸方向と垂直な面に接するまで防塵部品３１９ｂを嵌め込んだ後に回転させる場合、インロー部３１７ｂの軸方向と垂直な面と、防塵部品３１９ｂとの間に隙間が生じることとなる。しかし、その場合であっても、図２２に示すようにその移動量βに対して、防塵部品３１９の軸方向の寸法は、インロー部３１７ｂの軸方向の深さよりも十分に小さいものとして、防塵部品３１９ｂがナット５の端面から突出しないようにしている。また、タッピングねじ３２０ｂが螺入されるねじ受け用突起部３２４の隙間も軸方向に長さをとって、軸方向の移動を許容できるようにしている。

（第２実施形態）
　次に、図２３を参照しつつ、第８～９態様の第２実施形態に係る防塵部材について説明する。この実施形態に係る防塵部材を用いるボールねじ装置は、第８～９態様の第１実施形態と同様の構成をしている。
　図２３（ａ）は、この実施形態に係るボールねじ装置に用いる防塵部品３３０ｂの平滑な側の面を示す平面図である。図の奥側に形成されているねじ受け用突起部３３２を破線で示している。図２３（ｂ）は、図２３（ａ）に記すＢ－Ｂ断面を示す断面図である。図２３（ｃ）は、ねじ受け用突起部３３２が形成された側の面を示す平面図である。

　この実施形態に係る防塵部品３３０ｂにおいては、図２３（ａ）に示すように、ねじ受け用突起部３３２及び遮蔽部３３３が本体３３１の外周面の一部にのみ配置されている。ねじ受け用突起部３３２が配置されていない部分は、図２３（ｂ）、（ｃ）に示すように、その径方向外側の面がねじ受け用突起部３３２の径方向外側の面と同一円周上に形成されるように本体３３１を径方向外側へ延在させている。

　このように、ねじ受け用突起部３３２を全周にわたって配置しなくても、設計の時点で防塵部品３３０の取付け向きと製造の精度を考慮して、設計上ねじが螺入される部分の前後に必要な範囲だけねじ受け用突起部３３２を配置してもよい。この場合も、第８～９態様の１実施形態と同様に防塵部品の組付けが容易になる。

　１　ねじ軸
　１１　ねじ軸の螺旋溝
　２　ナット
　２１　ナットの螺旋溝
　２２　ナットのフランジ
　２３　シール取付部の内周面
　２４　シール取付部
　２５　シール取付部の貫通穴
　２５ａ　貫通穴の大径部
　２５ｂ　貫通穴の小径部
　２５ｃ　貫通穴の円錐部（座面）
　３　ボール
　４　シール（防塵部品）
　４２　凹部（下穴、取付穴）
　５　タッピングねじ（頭部を有するねじ）
　５１　頭部
　６　ドリルねじ（頭部を有するねじ）
　６１　頭部

Claims (7)

1. 　ボールねじのナットの軸方向端部に設けた取付部に、固定部材を使用してリング状のシールを固定するシール固定工程を有し、
   　前記取付部は、前記ナットの螺旋溝が形成されている内周面より径が大きな内周面を有し、
   　前記取付部に外周面から内周面まで径方向に貫通する貫通穴を設け、
   　前記シール固定工程では、
   　前記固定部材を前記貫通穴に通して前記シールの外周部に係合することにより前記シールに径方向外向きの力を生じさせて、前記シールを前記ナットに固定するボールねじの製造方法。
2. 　ボールねじのナットの軸方向端部に設けた取付部に、固定部材を使用してリング状のシールを固定するシール固定工程を有し、
   　前記取付部は、前記ナットの螺旋溝が形成されている内周面より径が大きな内周面を有し、
   　前記固定部材として、頭部を有するねじを用い、
   　前記取付部に外周面から内周面まで径方向に貫通する貫通穴を設け、前記貫通穴は前記ねじの頭部を受ける座面を有し、
   　前記シール固定工程では、
   　前記ねじを前記貫通穴に通して前記シールの外周部に係合することにより、前記頭部が前記座面を押圧する力で前記シールに径方向外向きの力を生じさせて、前記シールを前記ナットに固定するボールねじの製造方法。
3. 　前記シールに外周面から径方向に延びる取付穴を設け、
   　前記シール固定工程で、前記取付穴と前記貫通穴を合わせて、前記ねじを前記貫通穴に通して前記取付穴に係合する請求項２記載のボールねじの製造方法。
4. 　請求項３記載のボールねじの製造方法において、
   　前記取付穴は、前記シールの外周面から径方向に延びる凹部であり、
   　前記貫通穴は、外周側の大径部と、内周側の小径部と、これらを連通させる円錐部とからなり、前記大径部の直径は前記ねじの頭部の直径より大きく、前記小径部の直径は前記ねじの雄ねじ部の外径より大きく、前記円錐部の斜面が前記頭部を受ける座面であり、
   　前記シールを前記取付部に配置し、
   　シャンク部の先端に刃部を有し、前記刃部の直径は前記シャンク部の直径よりも小さく、前記シャンク部の直径は前記貫通穴の前記小径部の直径よりも大きくかつ前記大径部の直径よりも小さく、前記シャンク部の前記刃部との境界部に前記貫通穴の前記斜面に対応する斜面を有するドリルを使用して、
   　前記シャンク部の前記斜面が前記貫通穴の前記斜面に当接する位置まで、前記ドリルを前記貫通穴に挿入することで、前記シールに前記凹部を形成する工程を有するボールねじの製造方法。
5. 　内周面に螺旋溝が形成されたナットと、
   　外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、
   　前記ナットの螺旋溝と前記ねじ軸の螺旋溝とで形成される軌道の間に配置されたボールと、
   　前記ナットの軸方向端部に設けた取付部に固定されたリング状のシールと、
   　頭部を有するねじと、を有し、
   　前記取付部は、前記ナットの螺旋溝が形成されている内周面より径が大きな内周面を有し、
   　前記取付部は、外周面から内周面まで径方向に貫通する貫通穴を有し、前記貫通穴は前記ねじの頭部を受ける座面を有し、
   　前記ねじを前記貫通穴に通して前記シールの外周部に係合することにより、前記頭部が前記座面を押圧する力で前記シールに径方向外向きの力を生じさせて、前記シールが前記ナットに固定されているボールねじ。
6. 　前記ねじはタッピングねじであり、
   　前記シールは、外周面から径方向に延びる取付穴を前記貫通穴に対応する位置に有し、
   　前記取付穴は、穴径が前記タッピングねじの雄ねじ部の谷径以下で、雌ねじが形成されていない下穴であり、
   　前記貫通穴を通った前記タッピングねじの雄ねじ部が、前記シールの前記下穴の位置にねじ切り状態で結合されている請求項５記載のボールねじ。
7. 　前記ねじはドリルねじであり、
   　前記貫通穴を通った前記ドリルねじの雄ねじ部が、前記シールの外周部にねじ切り状態で結合されている請求項５記載のボールねじ。

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