以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る光ポンピング磁力計を示す概略構成図であり、図2は、図1の光ポンピング磁力計におけるガラスセルを示す概略斜視図である。図1,2に示すように、本実施形態の光ポンピング磁力計1は、光ポンピング(スピン偏極)を利用して微弱な磁場源(計測対象)Pの磁場を計測するものであり、例えば脳磁計やMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置に高感度磁力計として用いられている。
脳磁計は、脳活動に伴って脳から発生される極めて微弱な磁場を脳外から非接触で検出することにより、脳内の活動部位や脳の働き(機能)等を測定する装置である。MRI装置は、核磁気共鳴現象を利用して人体構成物質の大部分を占める水素原子核(プロトン)の空間分布状態を検出することにより、体内の画像を非接触で撮影する装置である。このMRI装置は、核磁気共鳴画像法装置とも称される。
この光ポンピング磁力計1は、ガラスセル(セル)2、レーザ光光源3、検出器(検出部)4、高周波電源(高周波電圧印加部)5、及びコントローラ6を備えている。
ガラスセル2は、内部空間2aを有する中空体であり、例えば厚さ2~3mm、縦40mm、横40mm、高さ40mmの立方体外形を呈している。このガラスセル2は、耐熱ガラスで形成されており、これにより、ガラスセル2は、光透過性及び耐熱性を有する非磁性のものとされている。ガラスセル2の内部空間2aには、アルカリ金属10及びバッファガス11が少なくとも封入されて外部に対し気密になるよう封止されている。
アルカリ金属10としては、カリウム、ルビジウム又はセシウム等が挙げられる。ここでは、好ましいとしてアルカリ金属10にルビジウムが用いられている。このアルカリ金属10は、常温時では固形又は半固形状とされ、所定温度(例えば、約200℃)以上のときに気化する。バッファガス11としては、ヘリウム等の希ガスが用いられている。なお、ガラスセル2の内部空間2aには、窒素等のクエンチガスを封入する場合もある。
このガラスセル2は、断熱材Dで覆われており、その熱が外部へ放熱されないように構成されている。断熱材Dにおいてレーザ光L1(後述)の光路上には、開口部Daが形成されており、この開口部Daにより、断熱材Dでレーザ光L1が遮られないよう構成されている。
レーザ光光源3は、ガラスセル2内のアルカリ金属10を光ポンピングする所謂ポンプ光をガラスセル2に向けて照射するものである。このレーザ光光源3は、アルカリ金属10をポンピング可能な波長を有するレーザ光L0を出射する。
このレーザ光光源3から出射されたレーザ光L0の光路上には、レーザ光L0の偏光方向を制御してレーザ光Lとするラムダ板7が配置されている。レーザ光Lの光路上には、レーザ光Lをガラスセル2向けてレーザ光L1として反射させると共に、レーザ光L2としてそのまま透過させて進行させるハーフミラー8が配置されている。
また、レーザ光L1の光路上においてガラスセル2の下流側には、ガラスセル2を透過したレーザ光L1を適宜反射させて検出器4に入射させるミラ-9aが配置されている。一方、レーザ光L2の光路上には、レーザ光L2を適宜反射させて検出器4に入射させるミラー9b,9cが配置されている。
検出器4は、磁場源Pの磁場に関する検出信号を検出するものであり、受光部4a,4bを含んでいる。受光部4aは、ガラスセル2を透過した透過レーザ光としてのレーザ光L1を受光する。受光部4bは、ガラスセル2を透過しない参照レーザ光としてのレーザ光L2を受光する。これら受光部4a,4bとしては、例えばフォトダイオードが用いられている。また検出器4は、コントローラ6に接続されており、当該コントローラ6によりその動作が制御される。
このように構成された検出器4は、受光したレーザ光L1,L2の光強度差からガラスセル2の透過前後におけるレーザ光L1の光強度変化を検出し、この光強度変化に基づき磁場源Pの磁場の強度を測定する。そして、検出器4は、測定した磁場の強度を、検出信号としてコントローラ6へ出力する。
高周波電源5は、ガラスセル2に設けられた一対の電極(印加部)12に高周波電圧を印加し、ガラスセル2を誘電加熱によって加熱するものである。また高周波電源5は、コントローラ6に接続されており、当該コントローラ6によりその動作が制御される。
コントローラ6は、光ポンピング磁力計1を制御するものであり、例えばCPU、ROM、及びRAM等から構成されている。このコントローラ6は、制御装置(制御部)6a及び記憶装置6bを含んでいる。制御装置6aは、検出器4から入力された検出信号を記憶装置6bへ格納する。また、制御装置6aは、検出器4及び高周波電源5の動作を制御する。
ここで、図2に示すように、本実施形態のガラスセル2において、レーザ光L1の光路と交差せず且つ互いに対合する一対の側面21,22には、上記電極12としての第1電極12a及び第2電極12bがそれぞれ設けられている。つまり、電極12a,12bは、レーザ光L1を遮らないようにガラスセル2の外面に設けられている。
第1電極12aは、側面(一の外面)21の全域に広がるように当該側面21に電気的に固定されている。第2電極12bは、側面(他の外面)22の全域に広がるように当該側面22に電気的に固定されている。これら第1及び第2電極12a,12bは、非磁性の金属で形成され、薄板状を呈している。また、第1及び第2電極12a,12bは、白金等からなるリード線5aを介して高周波電源5(図1参照)に電気的に接続されている。
また、ガラスセル2において、レーザ光L1の光路と交差せず且つ側面21,22以外の側面23には、製造時に内部空間2aを封止する際に形成される封止跡として、外側に凸状の封止切24が設けられている。つまり、電極12a,12bは、封止切24が存在しない側面21,22に設けられている。
図1に戻り、本実施形態の光ポンピング磁力計1は、計測時に外部磁場を遮蔽するためのものとして、磁気シールド13及びヘルムホルツコイル14を備えている。磁気シールド13は、磁場源P、ガラスセル2及び断熱材Dを覆う板状の部材であり、例えば高い透磁率を有するパーマロイ等で形成されている。この磁気シールド13においてレーザ光L1の光路上には、開口部13aが形成されている。この開口部13aにより、磁気シールド13でレーザ光L1が遮られることが防止されている。
ヘルムホルツコイル14は、磁場源P、ガラスセル2、断熱材D及び磁気シールド13を覆うように、すなわち、これらがコイル内に配置されるように設けられている。このヘルムホルツコイル14には、例えば直流電源等のヘルムホルツコイル用電源15が接続されている。
以上のように構成された光ポンピング磁力計1では、初期状態において、ガラスセル2内のアルカリ金属10が固形又は半固形状で存在している。そして、磁場源Pの磁場を計測する場合、まず、制御装置6aにより高周波電源5を作動させ、第1及び第2電極12a,bに高周波電圧を印加し、ガラスセル2自体が熱源となるようにして当該ガラスセル2を誘電加熱によって所定温度まで加熱(昇温)する。これにより、ガラスセル2内のアルカリ金属10を気化させる。
続いて、制御装置6aにより高周波電源5を制御して第1及び第2電極12a,bに印加する高周波電圧をオンオフ制御等し、例えばガラスセル2が所定温度で一定になるよう温度制御する。この状態で、レーザ光光源3からレーザ光L0を出射する。出射したレーザ光L0は、ラムダ板7によりレーザ光Lとされた後、ハーフミラー8によって、ガラスセル2向けて反射されるレーザ光L1と、そのまま進行するレーザ光L2と、に分岐される。
レーザ光L1は、ガラスセル2に入射されて透過される。このとき、ガラスセル2内のアルカリ金属10の電子がレーザ光L1により選択的に励起され、電子スピンの向きが揃えられる(光ポンピング)。これと共に、揃えられた電子スピンの向きが磁場源Pの影響によりずれるため、レーザ光L1は、当該ずれが元に戻ろうとする際に磁場源Pの磁場の大きさに応じて光吸収される。
ガラスセル2を透過したレーザ光L1は、ミラ-9aにより反射されて検出器4の受光部4aに入射される。一方、レーザ光L2は、ミラー9b,9cにより反射されて検出器4の受光部4bに直接入射される。
続いて、制御装置6aにより高周波電源5の作動を停止させ、第1及び第2電極12a,bに高周波電圧を印加しない状態する。この状態で、検出器4により、ガラスセル2を透過したレーザ光L2の光強度を測定すると共に、レーザ光L2の光強度を測定する。
続いて、検出器4により、レーザ光L1,L2の光強度差を算出し、これにより、ガラスセル2の透過前後におけるレーザ光L1の光強度変化を検出して磁場源Pの磁場の強度を測定する。そして、測定した磁場源Pの磁場の強度を、検出信号として制御装置6aを介して記憶装置6bに伝送し、記憶装置6bに格納する。
なお、本実施形態では、磁場源Pの磁場を計測する前に、予め検出器4をキャリブレーション(計測校正)する場合がある。具体的には、高周波電源5の作動前でアルカリ金属10が気化していない状態において、レーザ光光源3からレーザ光L0を出射して検出器4によりレーザ光L1,L2の光強度差を算出し、このときの光強度差を0に校正する場合がある。
以上、本実施形態の光ポンピング磁力計1では、高周波電源5により電極12a,12bを介してガラスセル2に高周波電圧を印加することで、ガラスセル2を誘電加熱によって加熱することができる。すなわち、ガラスセル2の誘電損失によってガラスセル2そのものを発熱させて、当該ガラスセル2を均一に加熱することができる。従って、ガラスセル2を簡便に均等加熱することが可能となり、磁場源Pの磁場計測の感度を簡便に高めることができる。
また、光ポンピング磁力計1では、SQUIDセンサで必要とされる冷却機能を不要にでき、ランニングコストを削減することも可能となる。
また、本実施形態では、上述したように、ガラスセル2の対向する側面21,22のそれぞれに対し、第1電極12a及び第2電極12bが全域に拡がるよう電気的に接続されている。これにより、ガラスセル2の誘電損失をガラスセル2全体にて均一に生じさせることで、ガラスセル2を一層精度よく均等加熱することが可能となる。
また、本実施形態では、制御装置6aにより、検出信号を検出器4で検出するとき及び記憶装置6bに記憶するとき、高周波電源5による高周波電圧の印加を停止させている。これにより、高周波電源5の作動で発生してしまう磁場(例えば、リード線5aから発生する磁場)等による悪影響が、磁場源Pの磁場計測に及ぶのを抑制することが可能となる。
また、本実施形態では、上述したように、磁場源P及びガラスセル2が磁気シールド13及びへルムホルツコイル14で覆われており、外部からの磁気的ノイズが遮断(キャンセル)されている。よって、外部磁場による悪影響が磁場源Pの磁場計測に及ぶのを抑制することが可能となる。
また、本実施形態では、上述したように、レーザ光L0の偏光方向を制御して成るレーザ光Lを、光強度変化するレーザ光L1と、参照レーザ光としてのレーザ光L2とにハーフミラー8で分光して検出部4で検出している。そして、検出器4では、レーザ光L1,L2の光強度差から、ガラスセル2の透過前後におけるレーザ光L1の光強度変化を検出している。よって、出射されるレーザ光L0の光強度が安定せずに微変動する場合でも、当該微変動に追従するようにしてレーザ光L1の光強度変化を検出することができ、磁場測定を精度よく行うことができる。
また、本実施形態では、ガラスセル2の周囲に断熱材Dが設置されているため、外部に対しガラスセル2の熱を逃げないよう遮断することが可能となる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
例えば、上記実施形態の光ポンピング磁力計1は、ガラスセル2の外面にグラファイト等の導電物質を直接塗布し、この導電物質を印加部として高周波電源5から高周波電圧を印加してもよい。また、この印加部は、光透過性を有していてもよく、例えば図3に示すように、電極12a,12b(図2参照)に代えて、光透過性を有するITO等の透明導電膜12a’,12b’を備えていてもよい。
また、上記実施形態では、ガラスセル2を透過したレーザ光L1を透過レーザ光として受光し、ガラスセル2の透過前後におけるレーザ光Lの光強度変化に基づき磁場源Pの磁場の強度を測定したが、本発明にあっては、このような光の吸収による磁場源Pの磁場測定に限定されるものではなく、例えばファラデー回転を利用した磁場源Pの磁場測定を採用することもできる。
具体的には、例えば図3に示すように、レーザ光光源3とは別の他のレーザ光光源(不図示)により、ガラスセル2内でレーザ光L1と交差するように、所謂プローブ光である直線偏光レーザ光L’をガラスセル2に向けて別途に照射する。これと共に、ガラスセル2を透過した直線偏光レーザ光Lを透過レーザ光として受光する。そして、ガラスセル2の透過前後における直線偏光レーザ光L’の偏光状態変化(偏光方向の変化)に基づいて、磁場源Pの磁場の強度としての検出信号を検出してもよい。これは、レーザ光L1で光ポンピングされたアルカリ金属10中に直線偏光レーザ光L’を入射すると、透過した直線偏光レーザ光L’においては、ファラデー回転による磁気光学効果のために偏光方向が磁場の大きさに応じた角度だけ回転することによるものである。
なお、このように直線偏光レーザ光L’をガラスセル2に照射する場合、直線偏光レーザ光L’の光路は封止切24を通らないよう構成することが好ましい。これにより、封止切24の存在で直線偏光レーザ光L’の偏光状態に悪影響が及ぶのを抑制できる。さらに、この場合、印加部が光透過性を有することが好ましく、例えば図示するように、光透過性を有するITO等の透明導電膜12a’,12b’を印加部とすることが好ましい。これにより、直線偏光レーザ光L’の光路上に印加部が設けられる場合でも、当該印加部による磁場計測の精度悪化を抑制することができる。
また、上記実施形態では、電極12a,12bを側面21,22にそれぞれ固定したが、電極12a,12bを側面21,22に単に載せる等の場合もあり、要は、電極12a,12bを側面21,22に電気的接続できればよい。また、上記実施形態では、磁場源Pが複数存在する場合、これら複数の磁場源Pに近接するようにガラスセル2に複数のレーザ光L1を照射してもよい。
また、レーザ光L,L1,L2の光路に係る構成は、上記に限定されず、例えば光ポンピング磁力計1の他の部位との配置関係に応じて、適宜構成することができる。また、上記ガラスセル2は、立方体外形を呈しているが、これに限定されず、多面体外径、球体外形を呈していてもよい。
また、上記実施形態では、互いに対向する側面21,22全域に電極12a,12bを印加部として設けているが、側面21,22の一部に設けてもよい。セルを好適に均等加熱する際には、セルが有する複数の外面のうち互いに最も離れた一対の外面に印加部が設けられていればよく、要は、セルの外面において対向するように設けられていればよい。上記において、レーザ光光源3及びラムダ板7がレーザ光照射部を構成し、磁気シールド13及びへルムホルツコイル14が外部磁場遮蔽部を構成する。なお、例えば上記作用効果を奏するため、上記レーザ光Lは円偏光又は直線偏光のレーザ光であることが好ましい。