WO2012114466A1

WO2012114466A1 - 温熱治療装置

Info

Publication number: WO2012114466A1
Application number: PCT/JP2011/053954
Authority: WO
Inventors: 貴彦大石; 智代子奴久妻; 正夫服部; 金治笹原
Original assignee: 株式会社Ｇｍｉ
Priority date: 2011-02-23
Filing date: 2011-02-23
Publication date: 2012-08-30

Abstract

　患者の頭部以外のほぼ全身を温水に浸漬して治療を行う温熱治療装置において、患者がうつ熱状態に陥った場合に、それを検出して体温暴走の恐れがあることを治療従事者に知らせる。温熱治療装置は、温水の温度を制御するコントローラと、第１の温度センサで測定された温水の温度および第２の温度センサで測定された患者の体温に基づき、患者の体温があらかじめ設定した所定の曲線を描きながら昇温、保温および降温するようにコントローラに制御指令を与えるコンピュータとを備えている。コンピュータは、第２の温度センサで測定された体温および計測プローブで測定された心拍数の経時的な変化を解析し、時間の経過に対して体温が上昇しているが心拍数がほぼ一定であるとき、患者がうつ熱状態にあると判断して警告を行う。

Description

温熱治療装置

　本発明は、患者の頭部以外のほぼ全身を温水に浸漬して治療を行う温熱治療装置に関する。

　近年、正常細胞と癌細胞やウィルスの温度感受性の差を利用して、患部を３９℃～４３℃に加温し、正常細胞を守りながら癌細胞やウィルスを死滅させる温熱治療方法（ハイパーサーミア）が、非侵襲的治療方法として注目されている。

　風邪などの場合に人体が発熱するのは、体内で産生される発熱物質の量が一定の値を超えるとスイッチが入って発熱するためと考えられ、体内の環境が大きく変化して免疫機能が働き始める。これに対し温熱治療方法は、生体の温度上昇を人工的に引き起こすことにより発熱と同じ環境を誘導することで、免疫機能の始動を促すものである。

　温熱治療方法は加温の方法により複数種類に分類され、患部に高周波や超音波を照射する方法や、体外循環によって血液を加温する方法等がある。その一つとして、患者の頭部以外のほぼ全身を温水に浸漬させて体温を上昇させる全身浸漬温熱療法が提案され、それを実現するための治療装置が開発されている（例えば、特許文献１参照）。

　全身浸漬温熱療法は、患者を直接温水に浸漬させることから熱伝導性が飛躍的に高まり、患者を必要以上の高温に晒すことなく全身の体温を短時間に治療温度に上昇できるので、患者の肉体的負担が抑えられ、長時間の治療が可能となる。

特開２００３－１２６１３５号公報

　全身浸漬温熱療法においては、体温を３９℃以上に上げて人工的にうつ熱状態を作り出している。ここで「うつ熱」とは、身体の熱の放散が妨げられて、体温が上昇することをいう。うつ熱状態になった患者は、温熱治療装置のコントローラによって温水の温度を上昇させることにより、体温が設定された治療温度まで上昇する。この際、患者の体温（具体的には直腸温）、心拍数および酸素飽和度（ＳｐＯ₂）を測定しながら、患者に負担がかからない程度のレートで体温を上昇させる。

　しかし、原因は不明であるが、患者によっては、想定した以上のレートで体温が上昇することがある。体温が想定した以上のレートで上昇すると体温の制御が難しくなり、「体温の暴走」が生じる危険性が高まる。体温の暴走が生じた場合、脱水症状と血圧の低下の急激な進行によって、頭痛やめまい、吐き気や脱力感を生じ、更に症状が進むと、熱射病と同様に意識障害が発生する。

　このような事態を避けるため、従来の温熱治療装置では、体温の上昇を常にチェックし、急激な上昇が生じた場合には、患者の胸部を水面より出すと共に、浴槽温を下げることによって体温を低下させていた。具体的には、急激な体温の低下を避けるため、浴槽温を体温より０．５℃下げながら体温が下降するのを待ち、下降が始まり次第、患者を浴槽から脱出させていた。

　しかし、上述の方法を実行するためには、治療に従事する者（以降、「治療従事者」という）が患者の体温を注意深く監視する必要があり、治療従事者の負担が大きい。このため、うつ熱状態を検出して体温の暴走に備えるための対策が望まれていた。

　本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、患者がうつ熱状態に陥った場合に、それを検出して体温の暴走に備えることができる温熱治療装置を提供することを目的とする。

　上記目的を達成するため本発明にかかる温熱治療装置は、患者の頭部以外のほぼ全身を温水に浸漬させて温熱治療を施す温熱治療装置であって、
　前記温水の温度を測定する第１の温度センサと、
　患者の体温を測定する第２の温度センサと、
　患者の心拍数を測定する計測プローブと、
　前記温水の温度を制御するコントローラと、
　前記第１の温度センサで測定された温水の温度および前記第２の温度センサで測定された患者の体温に基づき、患者の体温があらかじめ設定した所定の曲線を描きながら昇温、保温および降温するように前記コントローラに制御指令を与えるコンピュータと、
　患者の状態について、視覚および聴覚の少なくとも一方の感覚を通じて警告を行う警告手段と、を備え、
　前記コンピュータは、前記第２の温度センサで測定された体温および前記計測プローブで測定された心拍数の経時的な変化を解析し、時間の経過に対して体温が上昇しているが心拍数がほぼ一定であるとき、患者がうつ熱状態にあると判断して、前記警告手段により第１の警告を行うことを特徴とする。

　ここで、前記第１の警告として、前記警告手段は、黄色のライトを点灯もしくは点滅させることが好ましい。

　本発明にかかる温熱治療装置において、前記コンピュータは、時間の経過に対する体温の昇温レートが所定の値を超えたとき、体温が暴走する可能性が高いと判断して、前記警告手段による第２の警告を行うことが好ましい。

　ここで、前記第２の警告として、前記警告手段は、赤色のライトを点灯もしくは点滅させることが好ましい。また前記第２の温度センサは、患者の体温として直腸温を測定することが好ましい。

　本発明の温熱治療装置では、うつ熱状態を検出すると共に、治療従事者に警告を行うことによって体温の暴走に備えることができるため、温熱治療の安全性を飛躍的に高めることができる。

図１は、温熱治療のため、患者が治療槽に浸かった状態を示す断面図である。図２は、治療中の患者の体温と心拍数の経時的な変化を示すグラフである。図３は、温熱治療における患者の体温と心拍数の経時的変化を抽象化して示したグラフである。図４は、体温の暴走が発生した患者の体温（直腸温）と心拍数の測定例を示すグラフである。図５は、本発明の実施の形態にかかる温熱治療装置のうち制御系を除くシステムの構成を示す図である。図６は、本発明の実施の形態にかかる温熱治療装置の制御系の構成を示すブロック図である。図７は、図６のディスプレイに表示されたモニタ用画面の一例を示す図である。図８は、実施の形態にかかる温熱治療装置における温熱治療の流れを示すフローチャートである。

　以下、本発明の実施の形態にかかる温熱治療装置について、図面を参照して説明する。

　＜温熱治療における体温の制御＞
　温熱治療装置の構成および動作について説明する前に、図１および図２を参照して、温熱治療における体温の制御について説明する。図１は患者が治療槽に浸漬した状態を示し、図２は治療中の患者の体温と心拍数の時間的な変化を示す。

　治療槽１０は、上方が開放されたほぼ箱状に形成されており、配管１１を通して加温された温水Ｗが浴槽に注入され、かつ配管１２を通して排出される。温水Ｗは、後述のコントローラによって温度が制御され、治療槽１０を含む循環ラインを循環する。なお、煩雑さを避けるため、治療槽１０内の配管は省略している。治療を行う際、治療槽１０の上面は、患者Ｐの首から上の部分を除いて図示しない蓋で覆われ、温水Ｗの熱が外部に逃げることを防止している。

　患者Ｐは、乗せ部材１３に乗せられた状態で、車輪付きのリフト（図示せず）により治療槽１０まで搬送される。患者Ｐを温水Ｗに浸漬する際は、リフトを用いて乗せ部材１３を上下方向に移動させる。なお、リフトの代わりに車輪のついた乗せ部材を用い、治療槽１０の側壁の一部を開いて、そこから乗せ部材１３を搬入するようにしてもよい。

　患者Ｐを乗せ部材１３に乗せ、治療槽１０まで搬送した後、患者Ｐの核心温を測定するために温度センサを直腸に挿入し、また心拍数と血液中の酸素飽和度を測定するために計測プローブを患者の耳介や指に取り付ける。

　次に、図示しないリフトを下降させて、患者を治療槽１０内の温水Ｗに浸漬し、治療槽１０の上面を蓋で覆った後、温熱治療を開始する。図１に示すように、患者Ｐは、温水Ｗに浸漬した状態では、腕置き１３１に腕を置き、足受け１３２に足裏を付けて姿勢を安定にする。また気道を十分確保するためにあごの位置を調整し、さらに血流を促進するために膝を曲げた状態に保つ。

　図２のグラフの上半分に治療槽１０内の温水Ｗの温度（破線）と患者Ｐの直腸温（実線）の時間的変化を示し、下半分に心拍数の時間的変化を示す。

　体温の制御は、昇温処理、保温処理および降温処理の３つのステップで構成されている。最初に患者の体温（核心温）を上げる昇温処理を行う。患者を温水Ｗに浸漬させた状態で温水Ｗの温度を体温より３～３．５℃高い値に設定しながら上昇させ、患者の体温を上げる。温水Ｗの昇温カーブは、予め測定した標準的な体温の上昇率に基づいて設定されており、コントローラによって温水Ｗの温度が図２の破線のカーブを描くように制御される。

　図２の治療例では、後の保温処理において患者の体温が３９．５℃に保持される。昇温処理において温水Ｗの温度を上げ続けると体温が３９．５℃を超えてしまうため、昇温処理の途中で温水Ｗの温度を直腸温より０．３～０．５℃低い温度まで下げ、保温処理の開始時点で体温が３９．５℃になるように制御する。

　保温処理において患者の体温が治療温度（３９．５℃）になったら、所定の治療カロリーになるまで患者の体温（直腸温）を保持する。この状態では、温水Ｗの温度（破線）は体温（実線）より若干低い値に保持される。

　温熱治療において心拍数をモニタする理由を説明する。すなわち、外部から供給される熱は、主として血液によって全身に運ばれ、かつ心拍数は血流量に比例するので、心拍数と体温の上昇率との間に相関関係があるためである。図２の下半分に示すように、患者の心拍数は、昇温処理において体温の上昇と共に上昇する。心拍数が一定の値（約１１５回／分）になると、上昇が止まって一旦下降し、その後、保温処理が終了するまで、ほぼ一定の値を保つ。

　所定の治療時間が経過したら降温処理に移り、温水Ｗの温度を低下させて患者の体温を下げる。患者の体温が治療槽１０からの脱出体温以下になったら、リフト（図示せず）により患者を治療槽１０から脱出させる。最後に、治療槽１０の排水と洗浄を行い、温熱治療を終了する。

　図２に示すカーブに沿って温水Ｗの温度制御を行えば、体温がオーバーシュートすることなく、設定された治療温度まで昇温できる。また、体温を設定されたレートで昇温できるので、患者の負担も少ない。治療時においても、高い精度で体温を保持できる。さらに降温時も、体温を設定された降温レートで降温できるので、患者のへ負担が少ない。

　＜うつ熱状態の検出と警告＞
　次に、図３のグラフを参照して、うつ熱状態の検出と、それに伴って行われる警告について説明する。図３は、温熱治療における患者の体温と心拍数の経時的な変化を示したものであり、説明を分かりやすくするため抽象化した曲線で示している。

　図２でも説明したが、矢印Ａで示す昇温処理の前半においては、体温と心拍数は共に上昇する。しかし矢印Ｂで示す昇温処理の後半においては、体温が所定の値に到達すると、その後は、心拍数はほとんど変化しない。矢印Ｂで示す領域は、患者がうつ熱状態にあることを示している。

　すなわちうつ熱状態においては、矢印Ａで示すような体温と心拍数が共に上昇する状態とは異なり、体温が上昇しているにもかかわらず、心拍数がほぼ一定となる。逆に言えば、この状態を抽出すれば、うつ熱状態を検出することができる。

　昇温処理において更に体温の上昇が進むと、予め設定された治療温度Ｔｃに到達し、その後は保温処理により、直線Ｃ１で示すように治療温度Ｔｃに保持される。

　しかし、前述したように、患者によっては上昇率が予想した以上に大きく、直線Ｃ２で示すように体温が上がり続けて体温が暴走する場合がある。体温暴走の原因は、体温調節の機能が低下するか、もしくは不全になることによると考えられる。

　図４に、体温の暴走が発生した患者の体温（直腸温）と心拍数の測定例を示す。治療温度Ｔｃは３９．５℃に設定されている。図に示すように、脈拍数は治療開始後３２分を経過した時点で低下し、その後はほぼ一定の値（約１６０回／分）を保っている。これに対し、体温は治療温度である３９．５℃を超えても上昇を続けており、体温の暴走が発生していることがわかる。

　上述したように、うつ熱状態に入った後に体温の暴走が発生する場合がある。従って、医師等の治療従事者に患者がうつ熱状態に入ったことを知らせることにより、体温暴走の可能性を予知できるようになり、体温の暴走に備えることができる。本発明では、昇温処理における体温と心拍数の経時的な変化、すなわち上昇率の違いを解析することによって、うつ熱状態に入ったことを検出し、治療従事者に警告を行う。具体的には、黄色のライトを点灯させ、もしくはライトを点滅させることで、治療従事者の注意を喚起する。

　本発明では、更に、体温の上昇率から体温の暴走が発生する恐れが高いことを予見し、治療従事者に緊急対応の必要性を知らせるようにしている。

　図２に示したカーブに基づいて体温を制御する場合、身体への負担を軽減するため、体温が０．２℃～０．３℃／５分のレートで昇温するように制御される。しかし、体温の暴走が発生した場合には、上述のレートを超える上昇率（例えば０．５℃／５分）で昇温する。従って、うつ熱状態における体温の上昇率を解析すれば、体温の暴走を予見できる。

　上述したように体温の暴走が発生する場合、体温の上昇率が設定された値よりも高い。従って、体温が治療温度に近づいたときの上昇率を解析し、その値が上述の設定値よりも高いときには、体温の暴走が発生する可能性が高いと判断し、警告手段を用いて警告を行う。具体的には、赤色のライトを点灯または点滅させることにより、体温の暴走が発生する可能性が高いことを治療従事者に知らせ、更に必要であれば、直接音声で治療従事者に呼びかける。

　このように、治療従事者に体温の暴走が発生する可能性が高いことを、視覚および聴覚の少なくとも一方の感覚を通じて知らせることにより、体温の低下などの処置を迅速に行うことができ、結果として、意識障害等の発生を未然に回避できる。

　＜温熱治療装置の構成と機能＞
　次に、図５および図６を参照して、本実施の形態にかかる温熱治療装置の構成と各構成部材の機能を説明する。図５は温熱治療装置１のうち制御系を除くシステムの構成を示し、図６は温熱治療装置１の制御系の構成を示す。

　温熱治療装置１は、基本的に治療槽１０、温水Ｗの循環ライン２０、加熱用のヒータ３０、給水ライン４０、排水ライン５０（以上、図５参照）、コントローラ６０および制御用のコンピュータ９０（以上、図６参照）で構成されている。最初に図５に基づき、温熱治療装置１のうち制御系を除くシステムの構成と機能について説明する。

　治療槽１０の構造については図１の説明を参照されたい。治療槽１０には温水Ｗの温度を測定する温度センサ８３が設置されている。また治療槽１０には８つの温水吐出ノズル１５と連結管１６～１８が取り付けられている。図では、配管の連結状態を分かり易く示すため、浴槽内にノズルおよび配管を配置しているが、実際にはこれらのノズルおよび配管は壁の中に収納されている。

　隣接する２つのノズル１５は第１の連結管１６で連結され、また隣接する２つの第１の連結管１６は第２の連結管１７に連結され、さらに隣接する２つの第２の連結管１７は第３の連結管１８に連結されている。このような構成とすることにより、配管１１から注入された温水は、第３の連結管１８を介して第２の連結管１７に分配され、さらに第１の連結管１６に分配されるので、温度が均一に調整された温水を治療槽１０に供給できる。

　循環ライン２０は治療槽１０とヒータ３０との間で温水Ｗを強制循環させる配管で、途中に温水を加熱するヒータ３０、温水を循環させるポンプ２１、温水に含まれるゴミを取り除くストレーナ２２および逆止弁２３が配置されている。

　ヒータ３０で加熱された温水Ｗはポンプ２１の圧力により治療槽１０に送出され、温水吐出ノズル１５から拡散噴射される。治療槽１０から排出された温水Ｗは、ストレーナ２２でゴミが取り除かれた後、ポンプ２１から送出されて循環ライン２０の配管内を循環する。

　給水ライン４０は、温水Ｗの温度を下げるために水道水を温水Ｗに注入する配管で、途中に、水道水の供給を遮断するモータ弁４１、水道水の流量を測定する流量計８９、水道水の温度を測定する温度センサ８５、および逆止弁４２が設置されている。モータ弁４１を開くと、給水ライン４０を介して水道水が循環ライン２０に注入され、温水Ｗと混合される。

　排水ライン５０は、治療槽１０、循環ライン２０およびヒータ３０から温水Ｗを排水する配管で、治療槽１０からはモータ弁５１を介して、循環ライン２０からはモータ弁５２を介して、ヒータ３０からはモータ弁５３を介して、それぞれ温水Ｗが排水溝に排出される。

　次に、図６に基づき、温熱治療装置１の制御系について説明する。制御系は、温度センサで測定した温度、および計測プローブで測定した患者の生体情報に基づいて、ポンプや弁、ヒータ等の動作を制御するコントローラ６０と、治療装置１や患者Ｐの状態をモニタすると共に、コントローラ６０に制御指令を与えるコンピュータ９０で構成されている。

　コントローラ６０は、制御部７０、モニタ部８０および不揮発性メモリ６１を含む。制御部７０はコンピュータ９０からの指令信号に基づいて、ポンプ２１、モータ弁４１ならびに５１～５３、ヒータ３０（以上、図５参照）および警告灯７１の動作を制御する。

　モニタ部８０は、流量計８９で測定した水道水の流量を制御部７０に送信し、モータ弁４１の制御に利用する。またモニタ部８０は、温度モニタ８１と生体モニタ８２とを含んでいる。温度モニタ８１は、温度センサ８３、８４および８５で測定された治療槽１０の浴槽の温度（浴槽温）、患者Ｐの直腸温および給水ライン４０の水温（給水温）をモニタし、その値をコンピュータ９０に送信する。

　生体モニタ８２は、計測プローブ８６、８７および８８で測定された患者の心拍数、血圧および血液中の酸素飽和度をモニタし、その値をコンピュータ９０に送信する。前述したように、温熱治療においては、体温を３９℃以上に強制的に昇温してうつ熱状態に保持するため、生体モニタ８２により生体の状態を常時監視している。

　生体モニタ８２でモニタされた治療中の患者の心拍数、血圧および血液中の酸素飽和度のデータはコンピュータ９０に送信され、制御指令作成の基礎データとして使用される。例えば、心拍数が所定の値を超えたときは、コンピュータ９０は、昇温のレートを下げたり昇温を中止する制御指令をコントローラ６０に発信し、また緊急時には、体温を一定の値まで降温させる制御指令を発信する。

　不揮発性メモリ６１には、ポンプ２１等を制御する際に必要となるパラメータや、モニタ部８０から得られるデータ等が保存される。

　情報処理手段であるコンピュータ９０は、市販のパーソナルコンピュータ等で構成され、演算装置であるＣＰＵ９１、記憶装置であるハードディスクドライブ（以降、「ＨＤＤ」という）９２、キーボード等の入力部９３および液晶表示装置等のディスプレイ９４を備えている。

　コンピュータ９０は、ＨＤＤ９２に格納された治療装置制御用のプログラムを読み出してＣＰＵ９１で実行させることにより、コントローラ６０のモニタ部８０から受信したデータをディスプレイ９４に表示し、治療従事者に対してガイダンスを与える。またコンピュータ９０は、入力部９３から入力された治療条件に基づき、コントローラ６０に対して制御指令を与え、一連の治療処理を行う。

　図７に、ディスプレイ９４に表示されたモニタ用の画面の一例を示す。画面Ｄ１には、中央のグラフＤ２に、モニタされる患者Ｐの直腸温の時間経過に対する変化が表示されている。また画面Ｄ１には、患者名Ｄ３、設定温度Ｄ４、現在時刻Ｄ５等の患者をモニタする上で必要な情報がグラフＤ２と共に表示される。

　温熱治療装置１の運転は、画面に表示された運転開始のボタンＤ６や運転終了のボタンＤ７を指で触れることにより操作できる。設定温度を変えるときは、設定温度変更Ｄ８の温度を変更し、治療装置１の使用を終了するときは、終了ボタンＤ９を指で触れる。図示しないが、画面Ｄ１には、これ以外に呼び出しボタンや保存ボタンが表示され、これらのボタンを操作することによって治療槽１０の浴槽温や治療装置１の動作状態などのモニタ情報の呼び出しや保存ができる。

　次に、コントローラ６０による温水Ｗの温度制御について説明する。コントローラ６０はコンピュータ９０からの指令信号により、図２に示した温度カーブを実現するように制御される。温度センサ８３で測定した浴槽温が設定した温度より低いときは、ヒータ３０をオンにして温水Ｗを加熱する。一方、治療槽１０の浴槽温が設定した温度より高いときは、モータ弁４１を開いて水道水を循環ライン２０に注入し、温水Ｗの温度を下げる。

　このように、現在の浴槽温と設定温度の差に応じて、ヒータ３０による加熱、または水道水の注入による冷却を行うことにより、浴槽温を設定温度に対して高い精度（例えば０．０５℃以内）で保持できる。

　＜温熱治療装置の動作＞
　次に、図８のフローチャートを参照して、温水治療装置１における温熱治療の流れを説明する。

　図示しないリフトを用いて、乗せ部材１３（図１参照）に乗せられた状態の患者を治療槽１０内に下ろし、温水Ｗに漬ける（ステップＳ１）。その後、コントローラ６０はコンピュータ９０からの制御指令に従い、図２で説明した昇温処理を行う（ステップＳ２）。

　昇温処理（ステップＳ２）の開始後、コンピュータ９０は、温度センサ８４で測定した直腸温の上昇率および計測プローブ８６で計測した心拍数の上昇率に基づいて、患者Ｐがうつ熱状態に入ったかどうかを解析し（ステップＳ３）、うつ熱状態に入ったと判断した場合は（Ｓ３でＹｅｓ）、コントローラ６０に指示して警告灯７１を動作させて第１の警告を行う（ステップＳ４）。具体的には、黄色のライトを点灯または点滅させる。

　次に、コンピュータ９０は、直腸温の上昇率を解析して体温が異常に上昇しているか否かを判断する（ステップＳ５）。体温が異常に上昇していると判断した場合（Ｓ５でＹｅｓ）は、ステップＳ６の処理に進み、コントローラ６０に指示して警告灯７１を動作させ、第２の警告を行う。具体的には、赤色のライトを点灯または点滅させる。

　第２の警告に引き続いて、コンピュータ９０は、コントローラ６０に指示して温水Ｗの温度を下げる（ステップＳ７）。具体的には、モータ弁４１を開き、循環ライン２０に水道水を注入して治療槽１０の浴槽温を低下させる。

　前述したように、患者によっては、うつ熱状態における体温の上昇率が異常に高く、体温の暴走が発生する場合がある。このため体温の暴走が発生する可能性が高い場合には、治療を中止して体温を低下させる処置を行う。

　引き続きコンピュータ９０は、温度センサ８４の測定値から、患者Ｐの体温（直腸温）が治療槽１０の脱出温度まで低下した否かを判断し（ステップＳ８）、脱出温度まで低下した場合は（Ｓ８でＹｅｓ）、ステップＳ１４の処理に進んで患者を治療槽１０から脱出させ、そうでない場合は（Ｓ８でＮｏ）、ステップＳ７の処理に戻る。

　ステップＳ５において体温が異常に上昇していないと判断した場合（Ｎｏ）は、ステップＳ９の処理に進む。ステップＳ９において、コンピュータ９０は、患者Ｐの体温（直腸温）が設定した治療温度に到達したか否かを判断し、治療温度に到達した場合（Ｓ９でＹｅｓ）は、図２で説明したように、所定の治療カロリーとなるまで患者の体温を保持する保温処理を行う（ステップＳ１０）。ステップＳ９において、治療温度に到達していない場合（Ｎｏ）は、ステップＳ２の昇温処理に戻る。

　次にステップＳ１１において、コンピュータ９０は、あらかじめ設定した治療時間が経過したか否かを判断し、設定した治療時間が経過した場合（Ｙｅｓ）は、図２で説明した患者の体温を下げる降温処理を行い（ステップＳ１２）、そうでない場合（Ｎｏ）はステップＳ１０の保温処理に戻る。

　ステップＳ１２の降温処理の後、コンピュータ９０は、患者Ｐの体温（直腸温）が治療槽１０の脱出温度まで低下した否かを判断する（ステップＳ１３）。脱出温度まで低下した場合は（Ｓ１３でＹｅｓ）、ステップＳ１４の処理に進んで患者を治療槽１０から脱出させ、そうでない場合は（Ｓ１３でＮｏ）、ステップＳ１２の降温処理に戻る。以上で温熱治療を終了する。

　上述したように、本実施の形態にかかる温熱治療装置１では、患者Ｐがうつ熱状態に入ったことを検知したとき、治療従事者に対して警告灯７１により警告を行うため、体温の暴走に備えて対策を講ずることができる。更に、体温の暴走の可能性が高い場合にも、警告灯７１を用いて、更には音声によりその事実を治療従事者に知らせるため、体温を低下させるための処置を迅速に行うことができる。究極的には、このような警告を通じて、温熱治療の安全性を飛躍的に高めることができる。

　なお、上述の実施の形態では、第１の警告として黄色のライトを用いて警告を行ったが、コンピュータ９０に内蔵されたスピーカを用い、うつ熱状態が発生したことを音声により、聴覚を通じて治療従事者に知らせるようにしてもよい。

　また、上述の実施の形態では、温水を加熱する手段としてヒータを用いたが、これに限定されず、ボイラを用いても良い。更に、循環ライン２０上に熱交換器を設けて温液体によって熱交換する方法等、あらゆる加熱手段が適用でき、同様の効果を実現できる。

　また上述の実施の形態では、温水を冷却する手段として水道水を循環ラインに注入する方法を採用したが、これに限定されず、治療槽に冷却水を直接注入するようにしても良い。更に、循環ライン２０上に熱交換器を設けて冷却液と熱交換する方法等、あらゆる冷却手段が適用でき、同様の効果を実現できる。

　　１　温熱治療装置
　１０　治療槽
　１１、１２　配管
　１３　乗せ部材
　１５　温水吐出ノズル
　１６、１７、１８　連結管
　２０　循環ライン
　２１　ポンプ
　２２　ストレーナ
　２３、４２　逆止弁
　３０　ヒータ
　４０　給水ライン
　４１、５１、５２、５３　モータ弁
　５０　排水ライン
　６０　コントローラ
　６１　不揮発性メモリ
　７０　制御部
　７１　警告灯
　８０　モニタ部
　８１　温度モニタ
　８２　生体モニタ
　８３、８４、８５　温度センサ
　８６、８７、８８　計測プローブ
　８９　流量計
　９０　コンピュータ

Claims

　患者の頭部以外のほぼ全身を温水に浸漬させて温熱治療を施す温熱治療装置であって、
　前記温水の温度を測定する第１の温度センサと、
　患者の体温を測定する第２の温度センサと、
　患者の心拍数を測定する計測プローブと、
　前記温水の温度を制御するコントローラと、
　前記第１の温度センサで測定された温水の温度および前記第２の温度センサで測定された患者の体温に基づき、患者の体温があらかじめ設定した所定の曲線を描きながら昇温、保温および降温するように前記コントローラに制御指令を与えるコンピュータと、
　患者の状態について、視覚および聴覚の少なくとも一方の感覚を通じて警告を行う警告手段と、を備え、
　前記コンピュータは、前記第２の温度センサで測定された体温および前記計測プローブで測定された心拍数の経時的な変化を解析し、時間の経過に対して体温が上昇しているが心拍数がほぼ一定であるとき、患者がうつ熱状態にあると判断して、前記警告手段により第１の警告を行うことを特徴とする温熱治療装置。
　前記第１の警告として、前記警告手段は、黄色のライトを点灯もしくは点滅させることを特徴とする、請求項１に記載の温熱治療装置。
　前記コンピュータは、時間の経過に対する体温の昇温レートが所定の値を超えたとき、体温が暴走する可能性が高いと判断して、前記警告手段による第２の警告を行うことを特徴とする、請求項１に記載の温熱治療装置。
　前記第２の警告として、前記警告手段は、赤色のライトを点灯もしくは点滅させることを特徴とする、請求項３に記載の温熱治療装置。
　前記第２の温度センサは、患者の体温として直腸温を測定することを特徴とする、請求項１に記載の温熱治療装置。