明 細 書
多能性幹細胞を増殖させる方法
技術の分野
本発明は、 多能性幹細胞を増殖させる方法、 ラミニン 5の細胞支持材料と しての使用、 及び多能性幹細胞の培養用キッ トに関する。
本出願は、 2 0 0 8年 3月 3 1 日に提出された日本特許出願 特願 2 0 0 8— 9 3 3 5 0および 2 0 0 8年 9月 3日に提出された日本特許出願 2 0 0 8 - 2 2 5 6 8 6号を基礎とする優先権主張出願である。
背景技術
多能性幹細胞の増殖方法
あらゆる組織の細胞へと分化する能力 (分化多能性) を有する幹細胞であ る。 多能性幹細胞としては、 現在、 胚性幹細胞 (E S細胞)、 体細胞に特定 の因子の組み合わせ (例えば、 O c t 3 / 4 , S o X 2 , K 1 f 4および c 一 My cの組み合わせ) を導入 ·発現させることにより作製される人工多能 性幹細胞 ( i P S細胞)、 始原生殖細胞より作製される胚性生殖幹細胞 (E G細胞)、 精巣の生殖細胞より作製される生殖幹細胞 (G S細胞) 等などが 知られている。
胚性幹細胞 (Emb r y o n i c S t em c e 1 1 s : E S細胞) は 、 発生初期の胚盤胞内部細胞塊 ( I CM) より樹立された多能性幹細胞であ る (N a t u r e . 2 9 2 , 1 5 4— 1 5 6, 1 9 8 1、 P r o c . N a t 1 . A c a d. S c i . U S A. 7 8 , 7 6 3 4 - 7 6 3 8 , 1 9 8 1、 S c i e n c e . 2 8 2 , 1 1 4 5— 1 1 4 7, 1 9 9 8)。 マウス E S細胞 は白血病抑制因子 (L I F) の存在下で、 その多能性を維持することが出来 る (N a t u r e . 3 3 6 , 6 8 4 - 6 8 7 , 1 9 8 8、 N a t u r e . 3 3 6 , 6 8 8 - 6 9 0 , 1 9 8 8 )。 通常、 維持培養には L I Fを産生する 細胞株やマウス胎仔線維芽細胞 (ME F) を支持細胞 (フィーダ一細胞) と して用いるか、 或いは L I Fを添加した培地と適切な支持材料が用いられる
マウス E S細胞の培養において支持細胞は、 細胞接着の足場を提供したり 、 E S細胞の成長因子と L I Fを供給する役割を担っている。 なお支持細胞 から供給される L I Fに加えて、 更に培養液に L I Fを添加してもよい。 L I Fを添加する態様として L I Fそのものを培養液へ添加してもよいし、 L I F産生細胞株の培養上清を培養液に添加してもよい。 一方支持細胞を用い ない系では、 ゼラチンなどの各種細胞外マトリックスを支持材料として、 培 養液へ L I Fを添加することによりマウス E S細胞の培養を行う。
一方、 ヒト E S細胞の培養では多能性維持には、 塩基性線維芽細胞増殖因 子 (F G F 2 ) の存在が必要であり (D e v B i o l . 2 2 7 , 2 7 1 - 2 7 8 , 2 0 0 0 )、 更には ME Fから供給される因子も必要である。 ヒト E S細胞は F GF 2存在下において、 ME Fを支持細胞として用いるか、 或 いは ME Fの培養上清と適切な支持材料を用いることで、 多能性を保った状 態で維持培養することができる (N a t u r e B i o t e c h. 1 9 , 9 7 1— 9 74, 2 0 0 1 )。
具体的にはヒト E S細胞を、 F GF 2に加えて血清存在下で培養すること ができ、 あるいは無血清の培地で培養することもできる。 現在では無血清培 地でヒト E S細胞を培養する方が一般的であり、 血清代替物として例えば I n V i t r o g e n社のノックァゥ TM血清代替添加物(KS R) などが用 いられている。 一般的なヒト E S細胞の培養系としては、 ME Fを支持細胞 として用いて培養液へ F G F 2を添加した系や、 マトリゲルなどの各種細胞 外マトリックスタンパク質を支持材料として F GF 2を添加した ME F培 養上清中で培養する系が用いられている。 なお支持細胞としてマウス線維芽 細胞のみならず、 ヒト線維芽細胞を用いることもできる。
さらに、 近年マウスとヒトにおいて、 体細胞から胚性幹細胞に良く似た性 質を持つ人工多能性幹細胞 ( i n d u c e d P l u r i p o t e n t S t e m c e 1 1 s : i P S細胞) が榭立されたことが報告された (C e 1 1. 1 2 6 , 6 6 3 - 6 7 2 , 2 0 0 6、 C e l l . 1 3 1 , 8 6 1— 8 7
2 , 2 0 0 7、 S c i e n c e . 3 1 8, 1 9 1 7 - 1 9 2 0 , 2 0 0 7、
国際公開 WO 2 0 0 7/0 6 9 6 6 6)。 i P S細胞は、 体細胞に〇 c t 3 4、 S o x 2、 K 1 f 4、 c—My c等の因子を導入して樹立された体細 胞由来の多能性幹細胞である。 一般的には i P S細胞の維持培養においても 、 E S細胞と同様に支持細胞の存在が必要とされる。
i P S細胞は、 E S細胞と同様の方法により培養することができる。 マウ ス i P S細胞を、 S TO細胞 (L I Fを安定的に産生する S I Mマウス線維 芽細胞株) 上で L I F産生細胞の培養上清を用いて維持培養することができ る。 また支持細胞を使用しない系としては、 L I Fを培地に添加することに よりゼラチンコートしたプレート上で、 マウス i P S細胞を維持培養するこ とができる。 なお、 S TO細胞は、 マウス由来の E S細胞、 EG細胞、 E C 細胞を安定的に維持するために有効であることが知られている。
ヒト i P S細胞もまた、 マウス線維芽細胞を支持細胞として利用し、 F G F 2を添加した系で培養することができる。 なお京都大学山中伸弥らのダル ープでは、 S NL細胞 (マウス線維芽細胞株で L I Fと G4 1 8耐性遺伝子 を共発現している株) を用いて培養を行っている (C e l l . 1 3 1, 8 6 1 - 8 7 2 , 2 0 0 7)。 支持細胞を使用しない系でヒト i P S細胞を維持 培養する場合には、 マトリゲルを支持材料として用い、 ME Fの培養上清に F G F 2を添加した系が採用されている。
体細胞由来の i P S細胞は初期胚由来の胚性幹細胞に比べて倫理的な問 題が少なく、 また、 患者本人の細胞から調製できるため免疫拒絶の問題もな レ 再生医療への応用が期待されている。
胚性生殖幹細胞 (Emb r y o n i c G e rm c e 1 1 s : E G細胞 ) は、 始原生殖細胞を S t e e l F a c t o r (K i t— L i g a n d) 、 L I F、 F G F 2の存在下で培養して樹立された細胞であり、 E S細胞と ほぼ同じ性質を有することがマウスの実験で知られている。 E G細胞の維持 培養には E S細胞と同様の培養方法を用いることができる。 すなわち、 ME Fや S TO細胞などの支持細胞の存在下、 L I Fを添加した系で E G細胞を 培養することができる。 (C e l l 7 0 : 8 4 1— 84 7 , 1 9 9 2、 D e
v e 1 o p m e n t 1 2 0 , 3 1 9 7— 3 1 2 0 , 1 9 9 4)。 精巣の生殖細胞より作製される生殖幹細胞(G e rm l i n e S t em c e 1 1 s : G S細胞) は、 少なくとも GDNF (G l i a l c e l l — l i n e d e r i v e d n e u r o t r o p h i c g r ow t h f a c t o r) を含有する培養条件下で培養することで、 精原幹細胞 (精子 幹細胞) を体外で培養できるようにした細胞株であり、 精巣の精細管内に注 入することで精子を形成できる。 G S細胞の長期的な培養は、 支持細胞であ る ME F上で、 GDNF、 F GF 2、 EG F (e p i d e rm a l g r o w t h f a c t o r) 及び L I Fを添加した培地を用いることにより行う ことができる。 支持細胞がない系で G S細胞を培養したことも報告されてお り、 ラミニンにてコートしたプレートで培養することにより、 G S細胞を維 持することができる (B i o l o g y o f R e p r o d u c t i o n 6 9 : 6 1 2— 6 1 6, 2 0 0 3、 B i o l o g y o f R e p r o d u c t i o n 7 2 : 9 8 5— 9 9 1 , 2 0 0 5)。
GS細胞のうち特に、 mG S細胞 (mu l t i p o t e n t g e r m 1 i n e s t em c e l l ) は、 E S細胞と同様の性質を有し、 分化多能 性も有する。 mG S細胞は樹立された G S細胞を更に E S細胞の培養系にて 多能性幹細胞に変化させることにより、 樹立される。 樹立された mG S細胞 も E S細胞と同様の方法で培養することが可能であり、 支持細胞存在下で L I Fを添加した培地を用いた系で培養することができる。 (C e 1 1 1 1 9 : 1 0 0 1— 1 0 1 2 , 2 0 04、 N a t u r e 440 : 1 1 9 9— 1 2 0 3 , 2 0 0 6 )。
上記のような多能性細胞は、 再生医療などの応用が期待されている。 しか し、 特に臨床に応用するためには、 免疫拒絶の問題や未知のウィルス混入等 の潜在的な危険性を避ける必要があり、 動物由来の物質を一切使わない維持 培養系の開発が必要であると言われている。 即ち、 ヒトには存在しない動物 由来のシアル酸がヒト E S細胞や i P S細胞に取り込まれると、 これらのシ アル酸の有する抗原性が問題となり、 再生された組織に免疫拒絶が起こるこ
とが予想される。 また、 例えヒトタンパク質を用いても、 胎盤などの組織か ら調製した天然型タンパク質にはエイズウイルス (H I V)、 C型肝炎ウイ ルス (HCV) など以外にも未知のウィルス混入等の潜在的な危険性がある そこでヒト E S細胞や i P S細胞などの多能性幹細胞の多能性を維持し つつ、 該細胞の増殖を支える培養液組成や ME Fに代わる適切な支持材料の 探査がなされている (N a t u r e B i o t e c h. 24, 1 8 5— 1 8 7 , 2 0 0 6、 S t em C e l l . 24, 2 649 - 2 6 6 0 , 2 0 0 6 )。 しかし、 ME Fを支持細胞 (フィーダ一細胞) として使用した場合であ つても、 細胞接着効率はわずか数%しか得られず、 現在検討されている支持 細胞を使用しない系ではさらに低くなる。 多能性幹細胞の維持培養において 、 動物由来の物質を一切使わない系の開発が望まれるが、 上述した細胞接着 効率の低さが大きな問題の 1つとなっている。 多能性を維持しつつ効果的な 接着活性を示すヒ卜由来の支持材料が求められており、 かかる支持材料は、 再生医療等の臨床に利用し得る細胞材料の確保に有用なツールとなり得る。
ラミニン 5
ラミニンは様々な組織の基底膜に主として局在し、 組織構造の維持及び細 胞機能の制御において重要な役割を果たす細胞外マトリックスタンパク質 である (M a t r i x B i o l ., 1 8 : 1 9 - 2 8 , 1 9 9 9、 D e v. D y n., 2 1 8 : 2 1 3 - 2 34, 2 0 0 0)。
ラミニンの構造としては、 ひ鎖、 )3鎖、 ァ鎖がそれぞれジスルフイ ド結合 で連結されたへテロ 3量体分子であり、 特徴的な十字架構造をとる。 各鎖は 複数のドメインからなり、 ドメイン Iおよび I Iはトリプルへリックスを形 成している。 本出願前に、 ラミニン分子は 5種類の α鎖 (α ΐないし α 5) 、 3種類の;3鎖 ( ]3 1ないし)3 3 )、 3種類のァ鎖 (ァ 1ないしァ 3 ) の異 なる組み合わせによって、 少なくとも 1 5種類が同定されており、 実際には その数倍の種類が存在することが示唆されている (宮崎ら、 実験医学 V o 1. 1 6 N o. 1 6 (増刊) 1 9 9 8年、 第 1 1 4— 1 1 9頁、 D e v.
D y n . , 2 1 8 : 2 1 3 - 2 3 4 , 2 0 0 0、 J . N e u r o s c i . , 2 0 : 6 5 1 7 - 6 5 2 8 , 2 0 0 0、 P h y s i o l R e v . 8 5 , 9 7 9 一 1 0 0 0, 2 0 0 5)。 これら α、 β、 ァ鎖はそれぞれ異なる遺伝子に よってコ一ドされており、 それぞれのラミニンァイソフォームは特有の存在 部位や機能があり、 主に細胞膜受容体インテグリンを介して細胞接着、 増殖 、 運動、 分化などを調節している (D e V, _ D y n . 2 1 8, 2 1 3 - 2 3 4 , 2 0 0 0、 P h y s i o し R e v . 8 5 , 9 7 9 - 1 0 0 0 , 2 0 0 5 )o
表 1に 1 5種類のラミニン分子種とそのサブュニッ ト構成を示す。
表 1 ラミニン分子種とサブユニッ ト構成
フ 二ン 1 1 β 1 r 1 E H Sラミニン
ラ 二ン 2 a 1 β 1 r 1 メロシン
ラ 二ン 3 a 1 β 2 r 1 S—ラミニン
ラ 二ン 4 a 2 β 2 r 1 S—メロシン
ラ 二ン 5 a 3 β 3 r 2 ラドシン/ェピ
力リニン ナイ
ラ 二ン 6 a 3 β 1 r 1 K—ラミニン
ラ 二ン 7 a 3 β 2 r 1 K S—ラミニン
ラ 二ン 8 a 4 β 1 r 1
ラ 二ン 9 a 4 β 2 r 1
ラ 二ン 1 0 a 5 β 1 r 1
ラ 二ン 1 1 a 5 β 2 r 1
ラ 二ン 1 2 a 2 β 1 r 3
ラ 二ン 1 3 a 3 β 2 r 3
ラ 二ン 1 4 a 4 β 2 r 3
ラ 二ン 1 5 a 5 β 2 r 3
ラミニン分子は、 3本鎖のアミノ (N) 末端部分 (短腕) で互いに会合し
たり、 他のマトリックス分子と会合して、 基底膜を構築する。 一方ひ鎖の力 ルポキシ (C) 末端には 5つの相同な球状ドメイン (G 1— G 5 ドメインま たは L G 1— L G 5) が存在し、 主にこの部分でインテグリンやその他のリ セプ夕一と結合する。
ラミニン 5 (カリニン、 ェピリグリン、 ナイセイン、 ラドシンとも呼ばれ る) は α 3鎖、 )3 3鎖、 ァ 2鎖からなるラミニンァイソフォームの一つであ り、 複数の研究機関で別々の経緯で発見された ( J . C e l l B i o l . 1 1 4, 5 6 7 - 5 7 6 , 1 9 9 1 , C e l l 6 5 , 5 9 9 - 6 1 0 , 1 9 9 1、 J . I n v e s t D e rma t o l . 1 0 1 , 7 3 8 - 7 43, 1 9 9 3、 P r o c . N a t l . A c a d. S c i . US A. 9 0, 1 1 7 6 7 - 1 1 7 7 1 , 1 9 9 3 )。
ラミニン 5は各種細胞に対して強い細胞接着活性、 細胞分散活性、 細胞増 殖活性等を示すことが報告されている (P r o c . N a t 1. A c a d. S c i . USA. 9 0, 1 1 7 6 7 - 1 1 7 7 1 , 1 9 9 3、 J . B i o c h em. 1 1 6, 8 6 2— 8 6 9, 1 9 94、 J . C e l l B i o l . 1 2 5, 2 0 5 - 2 1 4, 1 9 94, Mo l . B i o l . C e l l . 1 6 , 8 8 1— 8 9 0, 2 0 0 5、 S t em C e l l . 24, 2 346 - 2 3 54, 2 0 0 6)。 国際公開 WO 2 0 0 7 0 2 3 8 7 5は、 ラミニン 5を 利用した間葉系幹細胞の培養技術を記載している。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献 1]
国際公開 WO 2 0 0 7/0 6 9 6 6 6
[特許文献 2 ]
国際公開 WO 2 0 0 7 0 2 38 7 5
[特許文献 3 ]
特開 2 0 0 1— 1 7 2 1 9 6号公報
[非特許文献]
[非特許文献 1 ]
N a t u r e . 2 9 2 , 1 5 4 - 1 5 6 , 1 9 8 1
[非特許文献 2 ]
P r o c . N a t l . A c a d. S c i . US A. 7 8, 7 6 34 - 7 6 3 8 , 1 9 8 1
[非特許文献 3]
S c i e n c e . 2 8 2 , 1 1 4 5— 1 1 47, 1 9 9 8
[非特許文献 4]
N a t u r e . 3 3 6 , 6 84— 6 8 7, 1 9 8 8
[非特許文献 5]
N a t u r e . 3 3 6, 6 8 8— 6 9 0, 1 9 88
[非特許文献 6 ]
D e v. B i o l . 2 2 7 , 2 7 1— 2 7 8, 2 0 0 0
[非特許文献 7 ]
N a t u r e B i o t e c h. 1 9, 9 7 1 - 9 74, 2 0 0 1
[非特許文献 8]
C e l l . 1 2 6 , 6 6 3 - 6 7 2 , 2 0 0 6
[非特許文献 9 ]
S c i e n c e . 3 1 8, 1 9 1 7— 1 9 2 0, 2 0 0 7
[非特許文献 1 0]
N a t u r e B i o t e c h. 24, 1 8 5 - 1 8 7 , 2 0 0 6
[非特許文献 1 1 ]
S t em C e l l . 24, 2 6 49 - 2 6 6 0 , 2 0 0 6
[非特許文献 1 2]
M a t r i x B i o l ., 1 8 : 1 9— 2 8, 1 9 9 9
[非特許文献 1 3]
D e v. D y n . , 2 1 8 : 2 1 3 - 2 34, 2 0 0 0
[非特許文献 1 4]
宮崎ら、 実験医学 Vo l . 1 6 N o. 1 6 (増刊) 1 9 9 8年第 1 1 4 一 1 1 9頁
[非特許文献 1 5]
J . N e u r o s c i ., 2 0 : 6 5 1 7 - 6 5 2 8 , 2 0 0 0
[非特許文献 1 6]
P h y s i o l . R e v. 8 5 , 9 7 9— 1 0 0 0, 2 0 0 5
[非特許文献 1 7]
J . C e l l B i o l . 1 1 4, 5 6 7 - 5 7 6 , 1 9 9 1
[非特許文献 1 8]
C e l l . 6 5, 5 9 9 - 6 1 0 , 1 9 9 1
[非特許文献 1 9]
J . I n v e s t D e rma t o l . 1 0 1, 7 38— 743, 1 9 9 3
[非特許文献 2 0]
P r o c . N a t l . A c a d. S c i . USA. 9 0, 1 1 7 6 7 - 1 1 7 7 1, 1 9 9 3
[非特許文献 2 1 ]
J . B i o c h em. 1 1 6, 8 6 2 - 8 6 9 , 1 9 94
[非特許文献 2 2 ]
J . C e l l B i ( 2 5, 2 0 5 - 2 1 4,
[非特許文献 2 3]
M o 1. B i o l . 1. 1 6 , 8 8 1 - 8 9 0
[非特許文献 2 4]
S t em C e l l . 2 346 - 2 3 54, 2 0
[非特許文献 2 5]
D e v. B i o l . 1 p . 2 8 8 - 2 9 2 , 1 9
[非特許文献 2 6]
D e v. B i o l . 1 p . 2 2 4 - 2 2 7 , 1 9
[非特許文献 2 7 ]
R e p r o d. F e r t i 1. D e v. 6 : p . 5 6 3 - 5 6 8, 1 9 94
[非特許文献 2 8]
R e p r o d. F e r t i l . D e v. 6 : p . 5 5 3— 5 6 2、 1 9 94 [非特許文献 2 9 ]
P r o c . N a t l . A c a d. S c i . US A 9 2 : p. 7 844 - 7 848 , 1 9 9 5
[非特許文献 3 0]
P r o c . N a t 1. A c a d. S c i . U SA 9 5 : 1 3 7 2 6 - 1 3 7 3 1 , 1 9 9 8
[非特許文献 3 1 ]
N a t u r e B i o t e c h., 1 8, p. 3 9 9 - 404, 2 0 0 0
[非特許文献 3 2 ]
N a t u r e 43 9 : 2 1 6 - 2 1 9 , 2 0 0 6
[非特許文献 3 3]
C e l l S t em C e l l 2 : 1 1 3— 1 1 7、 2 0 0 8
[非特許文献 34]
S t em C e l l s 24 : 2 6 6 9— 2 6 7 6、 2 0 0 6
[非特許文献 3 5]
C u r r . B i o l ., 1 1 : p . 1 5 5 3— 1 5 5 8, 2 0 0 1
[非特許文献 3 6]
N a t u r e B i o t e c h n o l 2 6 : 1 0 1— 1 0 6 , 2 0 0 8
[非特許文献 3 7 ]
C e l l S t em C e l l 2 : 1 0— 1 2 , 2 0 0 8
[非特許文献 3 8 ]
C e l l 1 3 1 : 8 6 1 - 8 7 2 , 2 0 0 7
[非特許文献 3 9 ]
高橋および山中、 細胞工学, V o l . 2 7、 N o. 3, 2 5 2 - 2 5 3 , 2
0 0 8
[非特許文献 40 ]
J . B i o l . C h e m. , 2 8 0 (2 0 0 5), 1 43 7 0— 1 4 3 7 7 [非特許文献 4 1 ]
J . B i o l . C h em. 2 6 9 : p . 2 2 7 7 9— 2 2 7 8 7 , 1 9 94 [非特許文献 42 ]
J . B i o l . C h em. 2 6 9 : p . 1 1 0 7 3— 1 1 0 8 0、 1 9 94
[非特許文献 43]
J . C e l l . B i o l . 1 1 9 : p. 6 7 9— 6 9 3、 1 9 9 2
[非特許文献 44]
u c l e i c A c i d s R e s . 2 5 : 3 38 9— 340 2、 1 9 9 7
[非特許文献 4 5 ]
J . Mo l . B i o l . 2 1 5 : 40 3— 4 1 0、 1 9 9 0
[非特許文献 46 ]
J . Mo l . B i o l . 1 4 7 : 1 9 5— 1 9 7、 1 9 8 1
[非特許文献 4 7 ]
C e l l 7 0 : 84 1 - 84 7 , 1 9 9 2
[非特許文献 48]
D e v e l o pme n t 1 2 0 , 3 1 9 7 - 3 1 2 0 , 1 9 94
[非特許文献 49 ]
B i o l o g y o f R e p r o d u c t i o n 6 9 : 6 1 2— 6 1 6 , 2 0 0 3
[非特許文献 5 0 ]
B i o l o g y o f R e p r o d u c t i o n 7 2 : 9 8 5 - 9 9 1 , 2 0 0 5
[非特許文献 5 1 ]
C e l l 1 1 9 : 1 0 0 1— 1 0 1 2、 2 0 0 4
[非特許文献 5 2]
N a t u r e 440 : 1 1 9 9 - 1 2 0 3 , 2 0 0 6
[非特許文献 5 3]
Mo l . R e p r o d. D e v. 3 6 : p. 42 4 - 43 3 , 1 9 9 3 [非特許文献 54]
N a t u r e 4 54 : 646 - 6 5 0 , 2 0 0 8
[非特許文献 5 5]
C e l l 1 3 6 : 4 1 1 - 4 1 9 , 2 0 0 9
[非特許文献 5 6]
C e l l S t em C e l l 3 : 5 6 8 - 5 74, 2 0 0 8
[非特許文献 5 7]
S c i e n c e 3 2 2 : 94 5 - 949 , 2 0 0 8
[非特許文献 5 8]
S c i e n c e 3 2 2 : 949 - 9 5 3 , 2 0 0 8 発明の概要
本発明は、 支持細胞や血清などの動物性材料を用いない系で、 多能性幹細 胞を効率よく増殖させる技術を提供することを目的とする。
本発明者らは、 上記課題を解決するために鋭意研究に努めた結果、 本発明 者らは細胞外マトリックス分子であるラミニン 5を利用することにより、 支 持細胞や血清を用いなくても、 多能性幹細胞を未分化状態のままで増殖させ ることができることを見出し、 本発明を完成させるに至った。
よって本発明は、 上記課題を解決するべく、 多能性幹細胞を増殖させる方 法であって、 支持細胞も血清も含まない培地中で、 かつラミニン 5を含んだ 系で該多能性幹細胞を培養することを含む、 前記方法を提供する。
本発明はまた、 ラミニン 5の、 多能性幹細胞を増殖させるための細胞支持 材料としての使用を提供する。
本発明は更に、 ラミニン 5で処理した培養容器と、 血清代替添加物とを含
む、 多能性幹細胞の培養用キッ トを提供する。
本発明は、 好ましい態様として以下の態様を含む。
[態様 1 ]
多能性幹細胞を増殖させる方法であって、 支持細胞も血清も含まない培地 中で、 かつラミニン 5を含んだ系で該多能性幹細胞を培養することを含む、 刖記方 0
[態様 2 ]
前記多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、 態様 1 に記載の方法。
[態様 3 ]
前記人工多能性幹細胞がヒ卜の人工多能性幹細胞である、 態様 1または 2 に記載の方法。
[態様 4 ]
前記多能性幹細胞が、 胚性幹細胞、 胚性生殖細胞、 及び生殖幹細胞からな る群から選択された細胞である、 態様 1記載の方法。
[態様 5 ]
前記多能性幹細胞が胚性幹細胞である、 態様 4に記載の方法。
[態様 6 ]
培養培地に、 血清代替添加物を含む、 態様 1ないし態様 5のいずれか 1つ に記載の方法。
[態様 7 ]
前記血清代替添加物が、 グリシン、 ヒスチジン、 イソロイシン、 メチォ二 ン、 フエ二ルァラニン、 プロリン、 ヒドロキシプロリン、 セリン、 トレオニ ン、 トリブトファン、 チロシン、 及びパリンからなる群から選択される 1ま たはそれより多くのアミノ酸、 チアミン及びノ又はァスコルビン酸からなる ビタミン、 銀、 アルミニウム、 バリウム、 カ ドミウム、 コバルト、 クロム、 ゲルマニウム、 マンガン、 ゲイ素、 バナジウム、 モリブデン、 ニッケル、 ル ビジゥム、 スズ、 及びジルコニウムからなる群から選択される 1またはそれ より多くの微量金属元素、 臭素、 ヨウ素、 及びフッ素からなる群から選択さ
れる 1 またはそれより多くのハロゲン元素、 並びに、 アルブミン、 還元型グ ル夕チオン、 トランスフェリン、 インスリン、 及び亜セレン酸ナトリウムか らなる群から選択される 1またはそれより多くの成分、 を含む添加物である 、 態様 6に記載の方法。
[態様 8 ]
ラミニン 5に加えて更に他の細胞外マトリックスタンパク質を含んだ系 で前記多能性幹細胞を培養する、 態様 1ないし態様 7のいずれか 1つに記載 の方法。
[態様 9 ]
前記他の細胞外マトリックスタンパク質がコラーゲンである、 態様 8に記 載の方法。
[態様 1 0 ]
ラミニン 5で処理した培養容器中で前記多能性幹細胞を培養する、 態様 1 ないし態様 9のいずれか 1つに記載の方法。
[態様 1 1 ]
前記ラミニン 5がヒ トラミニン 5である、 態様 1 0に記載の方法。
[態様 1 2 ]
前記多能性幹細胞が培養中に分化しない、 態様 1から態様 1 1のいずれか 1つに記載の方法。
[態様 1 3 ]
ラミニン 5の、 多能性幹細胞を増殖させるための細胞支持材料としての使 用。
[態様 1 4 ]
ラミニン 5で処理した培養容器と、 血清代替添加物とを含む、 多能性幹細 胞の培養用キッ ト。
発明の効果
本発明により、 支持細胞や血清を用いなくても、 多能性幹細胞を未分化状 態を維持したままで効率よく増殖させることが可能となった。
面の簡単な説明
図 1は、 精製した組換えヒトラミニン 5を S D Sポリアクリルアミ ドゲル にて電気泳動した図である。 なお図 1の右のレーンが、 1 gの組換えヒト ラミニン 5を電気泳動した結果である。
図 2は、 組換えヒトラミニン 5と様々な細胞外マ卜リックスタンパク質が 、 E S細胞に対する接着効果に及ぼす効果を比較した図である。 図 2 Aは、 3 0分培養後接着アツセィを行った結果、 図 2 Bは、 6 0分培養後接着アツ セィを行った結果を示す。
図 3は、 支持細胞の非存在下、 細胞外マトリックスタンパク質が E S細胞 の増殖に及ぼす効果を比較した図である。 図 3は増殖アツセィの結果であり 、 丸印は S +G 1を示し、 菱形印は K + Lm 5— 4を示し、 バッ印は K + L m 5— 2を示し、 アスタリスクマークは K + Lm— M i xを示し、 小さな黒 四角印は K + M gを示す。
図 4は、 支持細胞の非存在下、 細胞外マトリックスタンパク質が E S細胞 の長期継代培養に及ぼす効果を比較した図である。 図 4は増殖アツセィの結 果であり、 丸印は S + G 1を示し、 菱形印は K + Lm 5— 4を示し、 バッ印 は K + Lm 5 _ 2を示し、 三角印は K + Lm 5— 4→S + G 1を示す。 図 5は、 組換えヒトラミニン 5を固層化したプレートにて無血清培地で長 期継代培養された E S細胞の形態、 及びそれをゼラチン固層化プレートにて 血清培地での培養に戻した時の細胞の形態を示した図である。 図 5は上から S + G 1の結果、 K + Lm 5 _ 4の結果、 K + L m 5— 4→ S + G 1の結果 を、 それぞれ示す。
図 6は、 K S Rを添加した培地で E S細胞を培養した際において、 各培養 条件で種々の未分化マーカーの発現を比較した R T— P C Rの図である。 図 7は、 K S Rを添加した培地で培養した E S細胞を、 L I Fを含まない 維持培地中で培養を行った時の胚様体の様子を示した図である。 図 7のスケ 一ルバ一は 2 5 0; amである。
図 8は、 ゼラチン固層化プレートにて血清培地の培養系 (S + G 1 ) にお
いて E S細胞の分化能を検討した結果を示す図である (実施例 5)。 図 8の 上段は S +G l (L I F +) の結果であり、 下段は S + G 1 (L I F—) の 結果である。 図 8においてスケールバ一は 1 0 0 ; mであるが、 1つのァス 夕リスクマークはスケ一ルバ一が 5 0 mであることを示し、 2つのァス夕 リスクマークはスケールバーが 2 5; mであることを示す。
図 9は、 ゼラチン固層化プレートにて K S Rを添加した無血清培地の培養 系 (K + G 1 ) で培養した後に、 血清培地での培養系 (S + G 1 ) に戻し、 E S細胞の分化能を検討した結果を示す図である (実施例 6)。 図 9の上段 は K+ G 1→S +G 1 (L I F +) の結果であり、 下段は K + G 1→ S + G 1 (L I F—) の結果である。 図 9においてスケールバーは 1 0 0 であ るが、 2つのァス夕リスクマークはスケールバーが 2 5 zmであることを示 す。
図 1 0は、 4 g/m 1の組換えヒトラミニン 5を固層化したプレートに て K S Rを添加した無血清培地の培養系 (K+ Lm 5— 4) で培養した後に 、 血清培地での培養系 (S +G 1 ) に戻し、 E S細胞の分化能を検討した結 果を示す図である。 図 1 0の上段は K+ Lm 5 _ 4 S + G 1 (L I F+) の結果であり、 下段は K + Lm 5— 4→S + G 1 (L I F—) の結果である 。 図 1 0においてスケールバーは 1 0 0 mであるが、 2つのアスタリスク マークはスケールバーが 2 5 mであることを示す。
図 1 1は、 2 μ g/m 1の組換えヒトラミニン 5を固層化したプレートに て K S Rを添加した無血清培地の培養系 (K + Lm 5— 2 ) で培養した後に 、 血清培地での培養系 (S +G 1 ) に戻し、 E S細胞の分化能を検討した結 果を示す図である。 図 1 1の上段は K + Lm 5 - 2→ S + G 1 (L I F+) の結果であり、 下段は K + Lm 5 - 2→ S + G 1 (L I F -) の結果である 。 図 1 1においてスケールバ一は 1 0 0 zmであるが、 1つのアスタリスク マークはスケールバーが 5 0 mであることを示し、 2つのアスタリスクマ ークはスケールバ一が 2 5 zmであることを示す。
図 1 2は、 支持細胞の非存在下で実施例 6記載の血清代替物を添加した培
地 (培地 Y) を用いて E S細胞の長期継代培養を行った際に、 細胞外マトリ ックスタンパク質が及ぼす効果を比較した図である。 図 1 2は増殖アツセィ の結果であり、 三角印は Y + G 1を示し、 バッ印は Y + Lm 5— 4を示し、 アスタリスクマークは Y + Lm 5— 2を示し、 丸印は K + Lm— M i xを示 し、 +は Y+Mgを示す。
図 1 3は、 培地 Yで E S細胞を培養した際において、 各培養条件で種々の 未分化マーカーの発現を比較した RT— P C Rの図である。
図 1 4は、 培地 Yで E S細胞を培養した後に、 L I Fを含まない維持培地 中で培養を行った時の胚様体の様子を示した図である。 図 1 4のスケールバ —は 2 5 0 /mである。
図 1 5は、 ゼラチン固層化プレートにて血清培地の培養系 (S + G 1 ) に おいて E S細胞の分化能を検討した結果を示す図である (実施例 7)。 図 1 5の上段は S +G l (L I F +) の結果であり、 下段は S + G 1 (L I F— ) の結果である。 図 1 5においてスケールバーは 1 0 0 /xmであるが、 2つ のアスタリスクマークはスケールバ一が 2 5 zmであることを示す。
図 1 6は、 ゼラチン固層化プレートにて K S Rを添加した無血清培地の培 養系 (K + G 1 ) で培養した後に、 血清培地での培養系 (S + G 1 ) に戻し 、 E S細胞の分化能を検討した結果を示す図である (実施例 7)。 図 1 6の 上段は K + G 1→ S + G 1 (L I F+) の結果であり、 下段は K + G 1→ S +G 1 (L I F— ) の結果である。 図 1 6においてスケールバ一は 1 0 0 mであるが、 2つのァスタリスクマ一クはスケールバーが 2 5 zmであるこ とを示す。
図 1 7は、 ゼラチン固層化プレートにて培地 Yの培養系 (Y + G 1 ) で培 養した後に、 血清培地での培養系 (S +G 1 ) に戻し、 E S細胞の分化能を 検討した結果を示す図である。 図 1 7の上段は Y + G 1→ S + G 1 (L I F + ) の結果であり、 下段は Y + G 1→S + G 1 (L I F—) の結果である。 図 1 7においてスケールバーは l O O wmであるが、 2つのアスタリスクマ ークはスケールバーが 2 5; mであることを示す。
図 1 8は、 4 /1 g/m 1の組換えヒトラミニン 5を固層化したプレートに て培地 Yの培養系 (Y + Lm 5— 4) で培養した後に、 血清培地での培養系 (S +G 1 ) に戻し、 E S細胞の分化能を検討した結果を示す図である。 図 1 8の上段は Y + Lm 5 - 4→S + G 1 (L I F +) の結果であり、 下段は Y + Lm 5 - 4→S + G 1 ( L I F— ) の結果である。 図 1 8においてスケ 一ルバ一は 1 0 0; mであるが、 * *はスケールバーが 2 5 j mであること を示す。
図 1 9は、 2 g/m 1の組換えヒトラミニン 5を固層化したプレートに て培地 Yの培養系 (Y + Lm 5— 2) で培養した後に、 血清培地での培養系 (S + G 1 ) に戻し、 E S細胞の分化能を検討した結果を示す図である。 図 1 9の上段は Y + Lm 5 - 2→ S + G 1 (L I F+) の結果であり、 下段は Y + Lm5 - 2→S + G 1 (L I F— ) の結果である。 図 1 9においてスケ 一ルバ一は 1 0 0 zmであるが、 2つのァスタリスクマークはスケールバー が 2 5; mであることを示す。
図 2 0は、 Lm— M i xにて培地 Yの培養系 (Y + Lm— M i x) で培養 した後に、 血清培地での培養系 (S +G 1 ) に戻し、 E S細胞の分化能を検 討した結果を示す図である。 図 2 0の上段は Y + Lm— M i x→S + G 1 ( L I F +) の結果であり、 下段は Y + Lm— M i x→ S + G 1 (L I F—) の結果である。 図 2 0においてスケールバーは 1 0 0 mであるが、 2つの ァスタリスクマークはスケールバーが 2 5 /mであることを示す。
図 2 1は、 Mgにて培地 Yの培養系 (Y + Mg) で培養した後に、 血清培 地での培養系 (S + G 1 ) に戻し、 E S細胞の分化能を検討した結果を示す 図である。 図 2 1の上段は Y + M g→ S + G 1 (L I F +) の結果であり、 下段は Y + M g→ S + G 1 (L I F -) の結果である。 図 2 1においてスケ 一ルバ一は 1 0 0 mであるが、 2つのアスタリスクマークはスケールバー が 2 5 xmであることを示す。
図 2 2は、 フィーダ一細胞上でのヒト i P S細胞の形態を示す図である。 図 2 2の左側は 2 0 1 B 2の形態を示し、 右側は 2 0 1 B 7の形態を示す。
図 2 2のスケールバ一は 1 mmである。
図 2 3は、 組換えヒトラミニン 5と様々な細胞外マトリックスタンパク質 が、 ヒト i P S細胞に対する接着効果に及ぼす影響を比較した、 接着アツセ ィの結果を示す図である。
図 24は、 接着アツセィにおいて、 組換えヒトラミニン 5と様々な細胞外 マトリックスタンパク質がヒト i P S細胞に対する接着効果に及ぼす影響 を比較した際の、 細胞の接着形態を示した図である。 図 24のスケ一ルバ一 は 2 5 0 mである。
図 2 5は、 組換えヒトラミニン 5と様々な細胞外マトリックスタンパク質 が、 ヒト i P S細胞のコロニー形成に対する効果を比較した、 コロニーアツ セィの結果を示す図である。 図 2 5の上段は S i n g l eの結果であり、 下 段は C 1 umpの結果である。
図 2 6 Aは、 組換えヒトラミニン 5と様々な細胞外マトリックスタンパク 質上で単一細胞から形成されたヒト i P S細胞のコロニーにっき、 未分化性 を維持しているかを検討した結果を示す図である。 図 2 6 Aは、 S i n g l eでコロニーアツセィを行った際の免疫染色の結果であり、 スケールバ一は 2 5 0 mである。
図 2 6 Bは、 組換えヒトラミニン 5と様々な細胞外マトリックスタンパク 質上で細胞塊より形成されたヒト i P S細胞のコロニーにっき、 未分化性を 維持しているかを検討した結果を示す図である。 図 2 6 Bは、 C l umpで コロニーアツセィを行った際の免疫染色の結果であり、 スケールバーは 2 5 0 mでめる。
図 2 7は、 組換えヒトラミニン 5と様々な細胞外マトリックスタンパク質 上で形成されたヒト i P S細胞の長期継代培養を行った際の、 培養 5週にお けるヒト i P S細胞の形態を示す図である。 スケールバーは各々の細胞外マ トリックスについて、 左側が l mmであり、 右側が 1 0 0 mである。 図 2 8は、 組換えヒトラミニン 5と様々な細胞外マトリックスタンパク質 の存在下でヒ卜 i P S細胞を培養した際の、 種々の未分化マーカーの発現を
検討した結果を示す図である。
図 2 9は、 組換えヒトラミニン 5と様々な細胞外マドリックスタンパク質 の存在下で培養したヒト i P S細胞を分化誘導した際の、 ヒト i P S細胞の 形態を示す図である。 図 2 9のスケールバーは 1 mmである。
図 3 0は、 組換えヒトラミニン 5と様々な細胞外マトリックスタンパク質 の存在下で培養したヒト i P S細胞を分化誘導した際の、 種々の分化マーカ 一の発現を検討した結果を示す図である。
発明を実施するための形態
以下、 本発明の詳細、 並びにその他の特徴および利点について、 形態に基 づいて詳しく説明する。
1 . 多能性幹細胞を増殖させる方法
本発明は、 多能性幹細胞を増殖させる方法を提供する。 本発明の方法は、 支持細胞も血清も含まない培地中で、 かつラミニン 5を含んだ系で該多能性 幹細胞を培養することを含む。
多能性幹細胞
本発明において 「多能性幹細胞」 とは、 あらゆる組織の細胞へと分化する 能力 (分化多能性) を有する幹細胞の総称することを意図する。 本明細書に おいて後述する実施例では E S細胞を用いて検討を行っているが、 本発明の 方法で増殖させることができる多能性幹細胞には、 胚性幹細胞のみに限らず 、 哺乳動物の成体臓器や組織の細胞、 骨髄細胞、 血液細胞、 更には胚ゃ胎児 の細胞等に由来する、 胚性幹細胞に類似した形質を有する全ての多能性幹細 胞が含まれる。 この場合、 胚性幹細胞と類似の形質とは、 胚性幹細胞に特異 的な表面 (抗原) マーカ一の存在や胚性幹細胞特異的な遺伝子の発現、 又は テラトーマ ( t e r a t o m a ) 形成能といった、 胚性幹細胞に特異的な細 胞生物学的性質をもって定義することができる。
限定されるわけではないが、 本発明の方法で増殖させることができる細胞 の具体例としては、 例えば、 胚性幹細胞 (E S細胞)、 人工多能性幹細胞 ( i P S細胞)、 胚性生殖幹細胞 (E G細胞)、 生殖幹細胞 (G S細胞) 等が挙
げられる。 なお本発明における多能性幹細胞として、 E S細胞と i P S細胞 が好ましい。 i P S細胞は倫理的な問題もない等の理由により特に好ましい 本明細書における、 「E S細胞」 とは、 発生初期に存在する個体を構成す るすべての組織細胞に分化する能力を有する多能性幹細胞を取り出し、 イン ビトロで培養できるように株化したものを意味する。 E S細胞は、 初期胚中 の多能性幹細胞と同様に個体を構成するすべての細胞に分化する能力を保 持したまま事実上無制限に増やすことができる。
具体的には、 E S細胞はマウスのものが 1 9 8 1年に初めて記載された ( P r o c . N a t l . A c a d. S c i . US A 7 8, 7 6 34 - 7 6 3 8 , 1 9 8 1 , N a t u r e 2 9 2 , 1 54 - 1 5 6 , 1 9 8 1 )。 E S 細胞は多分化能を有し、 個体を構成するすべての組織および細胞タイプを発 生させうる。
ラット ( I a n n a c o n n s e t a 1. , D e v. B i o l . 1 6 3, 2 8 8 - 2 9 2 , 1 9 94)、 ハムスター (D e v. B i o l . 1 2 7 , 2 24 - 2 2 7 , 1 9 8 8)、 ゥサギ (Mo l . R e p r o d. D e v. 3 6 , 424 - 43 3 , 1 9 9 3)、 鳥類、 魚類、 ブ夕 (R e p r o d. F e r t i 1. D e v. 6 , 5 6 3 - 5 6 8 , 1 9 94)、 ゥシ (R e p r o d . F e r t i 1. D e v. 6 , 5 5 3 - 5 6 2 , 1 9 94)、 ならびに霊 長類 (P r o c . N a t l . A c a d. S c に US A 9 2 , 7 844 一 7 848, 1 9 9 5 ) を包含する多種多様な種から多分化能胚性幹細胞が 単離されている。
胚性ヒト組織からの E S細胞および E S細胞様幹細胞の単離についても いくつかの研究チームが、 成功している。 初期の成功例は以下のようなもの である。 (S c i e n c e 2 8 2 , 1 1 4 5— 1 1 47 , 1 9 9 8、 P r o c . N a t l . A c a d. S c i . U S A 9 5, 1 3 7 2 6 - 1 3 7 3 1 , 1 9 9 8、 a t u r e B i o t e c h., 1 8, 3 9 9— 4 04, 2 0 0 0 )。 これらの E S細胞株は、 胚盤胞から分離した I CMをフ
ィ一ダ一細胞上で培養することで樹立されている。 他の最近の研究は、 胚ぉ よび成熟哺乳動物細胞由来の核を脱核卵母細胞中に移植することにより胚 および胚性細胞を得ることが可能であることを示している。
2 0 0 6年に Ad v a n c e d C e l l T e c h n o l o g y社の R o b e r t L a n z aらのグループは、 マウスおよびヒトにおいて、 胚 盤において、 胚盤胞期以前の卵割期の胚の単一割球のみを用いて、 胚の発生 能を損なうことなく、 E S細胞を樹立することに成功した (N a t u r e 43 9 : 2 1 6 - 2 1 9 , 2 0 0 6 , C e l l S t em C e l l 2 , 1 1 3— 1 1 7, 2 0 0 8)。 この技術開発により受精卵を破壊せずに E S 細胞の樹立を行うことが可能になった。 同年、 ニューキャッスル大学の M i o d r a g S t o j k o v i c らのグループが、 発生停止したヒトの胚か ら E S細胞を樹立することに成功した (S t e m C e l l s 24, 2 6 6 9 - 2 6 7 6 , 2 0 0 6)。 これにより、 不妊により、 治療において廃棄 されていた過剰な卵を用いることが可能になった。
また、 2 0 0 4年にシカゴ生殖遺伝学研究所のユーリー ·バーリンスキー らのグループは、 遺伝病を持つヒトの胚から 2 0の E S細胞株を樹立するこ とに成功した。 これらは深刻な遺伝病の治療研究に使用可能な初の E S細胞 である。 ユーリー ·バーリンスキーは現在、 他に遺伝子の異なる 2 0 0株以 上の E S細胞を保有しており、 これらは医薬品のスクリーニング (選別) な どへの使用が可能である。
本発明の方法においては、 任意の樹立された E S細胞株を使用可能である 。 あるいは、 本発明の方法によって作成された E S細胞を個体に適用した場 合の免疫拒絶反応を防ぐためには、 個体の体細胞を用いてクローン胚を作成 しそこから E S細胞株を樹立する方法が有効である。 この方法を用いれば個 体と同一の遺伝的要素をもった E S細胞を樹立することが可能である。
あるいは、 体細胞クローンの作成では卵子に導入された体細胞の核が受精 卵の核と同じような状態に変化する、 「初期化」 と呼ばれる現象が起きると 考えられている。 卵子のもつこのような活性に類似した活性を E S細胞もも
つことが報告されている (C u r r . B i o l ., 1 1 , 1 5 5 3 - 1 5 5 8, 2 0 0 1 )。 つまり、 個体の体細胞と E S細胞を融合することで、 体細 胞を E S細胞のような細胞に変換できることが期待される。 E S細胞はィン ビトロで遺伝子操作を行うことができるので、 MHC遺伝子群などの免疫拒 絶に関与する因子をあらかじめ操作した E S細胞でこれを行うことで、 体細 胞クローン胚作成などの手法を用いることなく拒絶反応を回避できること が期待される。
本発明において、 「E S細胞」 は好ましくはヒトの E S細胞である、 現在 、 樹立されたヒト E S細胞株は、 例えば京都大学再生医科学研究所より入手 可能である。
あるいは、 E S細胞は、 本明細書において上述した種々の文献の記載に従 つて作成することが可能である。
本明細書における 「 i P S細胞」 とは、 体細胞へ 0 c t 3Z4、 S o X 2 、 K l f 4、 c一 My cなどの転写因子の遺伝子を導入することにより得ら れた、 E S細胞に似た分化多能性を有する細胞を意味するものである。 よつ て i P S細胞も E S細胞と同様に、 分化多能性を保持したまま無制限に増や すことができる。
京都大学山中伸弥らのグループは、 体細胞から E S様細胞に変化した細胞 だけを単離するために、 E S細胞のみで発現しているが、 E S細胞の分化多 能性維持には必要でない F b X 1 5という遺伝子に着目した。 この遺伝子部 位に相同組換え技術を用いてネオマイシン耐性遺伝子を導入し、 培地中にこ の耐性遺伝子によって無毒化される G 4 1 8を添加することによって、 F b X 1 5を発現する E S様細胞のみ G 4 1 8耐性を獲得して生き残り、 F b x 1 5を通常発現していない体細胞は死滅するという実験系を構築した。 この 実験系を用いて、 i P S細胞を樹立するには、 O c t 3 4、 S o x 2、 K 1 f 4、 c -My c 4遺伝子で十分であることを突き止めた (C e 1 に 1 2 6 , 6 6 3 - 6 7 2 , 2 0 0 6 )。
更に同グループは、 マウス i P S細胞樹立で使用されたマウス遺伝子のヒ
ト相同遺伝子である OCT 3 4、 S OX 2、 KL F 4、 C—MYCを用い て、 線維芽細胞からヒト i P S細胞の樹立にも成功した (C e l l . 1 3 1 , 8 6 1 - 8 7 2 , 2 0 0 7)。
時を同じくして、 世界で初めてヒト E S細胞を樹立したジエームズ · トム スン ( J ame s T h o m s o n ) らのグループは、 京都大学山中伸弥ら がマウス i P S細胞樹立に成功した時と同じ戦略を用い、 ヒト E S細胞で特 異的に発現している遺伝子の中から、 OCT 3ノ 4、 S OX 2、 NANOG 、 L I N 2 8の 4遺伝子を胎児肺由来の線維芽細胞や新生児包皮由来の線維 芽細胞へ導入することで、 ヒト i P S細胞の樹立に成功した (S c i e n c e 3 1 8 : 1 9 1 7— 1 9 2 0 , 2 0 0 7)。
また、 2 0 0 7年 1 2月には京都大学山中伸弥らのグループによって、 c -My cの遺伝子導入をせずに O c t— 4、 S o x 2、 K 1 f 4の 3因子だ けでも、 マウスおよびヒトにおいて i P S細胞の樹立が可能であることを示 し、 i P S細胞が癌細胞に変化するのを抑えるのに成功した (N a t . B i o t e c h n o l . 2 6 : 1 0 1— 1 0 6, 2 0 0 8)。 これは、 ほぼ同 時にマサチューセッツ工科大学のルドルフ ·ャニッシュ (R u d o 1 f J a e n i s c h) らのグループも同様の実験にマウスで成功している (C e 1 1 S t em C e l l 2 : 1 0— 1 2, 2 0 0 8)。
なお発癌などのリスクを回避するために、 導入する因子を更に減らす試み がなされている。 その結果マックスプランク研究所のハンス · シェ一ラー ( H a n s R S c h o 1 e r ) らは成体マウスの神経幹細胞に 2つの遺伝 子、 即ち O c t 4と K l f 4又は 0じ 1; 4と( -^1 。のいずれかを導入す ることにより、 i P S細胞を樹立することに成功している (N a t u r e 4 54 : 646 - 6 5 0 , 2 0 0 8)。 更に最近ハンス · シェ一ラ一 (H a n s R S c h o 1 e r ) らは、 神経幹細胞から i P S細胞を作製するに は、 O c t 4を単独で導入するだけでも充分であることを報告している (C e l l 1 3 6 : 4 1 1— 4 1 9, 2 0 0 9 )。
また、 S h e n g D i n gらは i P S細胞を誘導するにあたり、 一部の
遺伝子を低分子で補完できることを報告している (C e l l S t em C e l l 3, 5 6 8 - 5 74, 2 0 0 8 )。 B I Xや B a y Kといつだ低分 子を利用することで、 マウス胎仔性線維芽細胞に〇 c t 4と K l f 4の 2つ の遺伝子を導入するだけで、 i P S細胞が誘導できることを示した。
さらに、 i P S細胞の誘導にあたって遺伝子導入方法を改善する試みもな されている。 現在、 レトロウイルスのように導入遺伝子が染色体に組み込ま れる可能性の高いウィルスが広く使われているが、 組み込まれる可能性の低 いとされるアデノウイルス (S c i e n c e 3 2 2 , 94 5 - 949 , 2 0 0 8) や、 プラスミ ドベクタ一 (S c i e n c e 3 2 2 , 949— 9 5 3 , 2 0 0 8 ) を使用した方法が報告されている。
本発明において、 「 i P S細胞」 は好ましくはヒトの i P S細胞である、 現在、 樹立されたヒト i P S細胞株は、 例えば京都大学、 理化学研究所バイ オリソースセンターより入手可能である。
あるいは、 i P S細胞を以下の文献の記載を参考にして作製してもよい。 例えば人工多能性幹細胞は京都大学山中伸弥教授のグループに係る文献(C e l l 1 3 1 , 8 6 1— 8 7 2, 2 0 0 7、 N a t . B i o t e c h n o 1. 2 6 , 1 0 1— 1 0 6 , 2 0 0 8) や、 W i s c o n s i n大学の T h o m s o nのグループに係る文献 ( S c i e n c e 3 1 8, 1 9 1 7 - 1 9 2 0 , 2 0 0 7 ) に記載された方法に従って作製することができる。 具体的には、 任意の体細胞に対して O c t 3Z4、 S o x 2、 c— My c 、 K 1 f 4、 N a n o g、 L I N 2 8の内、 少なくとも一つ以上の遺伝子を 導入し、 多能性幹細胞に特異的な遺伝子やタンパク質の発現を検出し、 これ らを選別することによって作製することができる。
この様にして作製した i P S細胞は、 E S細胞と同様に、 増殖不活性化し たマウス線維芽細胞やこれを代替出来る細胞存在下で、 塩基性線維芽細胞増 殖因子と共に培養することができ、 E S細胞と同様に多能性幹細胞として利 用することができる。
この i P S細胞は、 種々の組織への分化の特徴や細胞内での遺伝子発現の
特徴に関して、 E S細胞と同様の性状を有していることがこれまでに明らか になっており(C e l 1 . 1 2 6 , 6 6 3 — 6 7 2, 2 0 0 6、 C e l 1 1
3 1 : 8 6 1 - 8 7 2 , 2 0 0 7、 S c i e n c e 3 1 8 , 1 9 1 7 - 1 9 2 0, 2 0 0 7 )、 E S細胞の培養条件や E S細胞から種々の組織へ分化 誘導する条件を、 i P S細胞に対してそのまま適用することができる (高橋 および山中、 細胞工学, V o l . 2 7、 N o . 3, 2 5 2 - 2 5 3 , 2 0 0 8)。
本明細書における 「E G細胞」 は始原生殖細胞から作製される任意の胚性 生殖幹細胞を意味し、 その起原等は特に限定されない。
また本明細書における 「G S細胞」 は、 精巣の生殖細胞より作製される生 殖幹細胞で、 精原幹細胞 (精子幹細胞) を体外で培養できるようにした細胞 株である(C e l l . 1 1 9 , 1 0 0 1 — 1 0 1 2, 2 0 0 4)。 G S細胞の うち特に E S細胞と同様の性質を有し、 分化多能性も有する、 mG S細胞 ( mu l t i p o t e n t g e r m l i n e s t e m c e l l カ好 しい。 本明細書において 「G S細胞」 と記載した場合、 文意により mG S細 胞を意味する。
ラミニン 5
本発明の方法は、 多能性幹細胞の培養にあたり、 ラミニン 5を含んだ系で 該多能性幹細胞を培養することを、 最も顕著な特徴とする。
ラミニン 5は、 多くの細胞種に対して、 他のラミニンァイソフォームを含 めた各種細胞外マトリックスタンパク質と比べて強い接着活性を示すこと が報告されている ( J . B i o c h e m. 1 1 6 , 8 6 2 — 8 6 9, 1 9 9 4、 J . C e l l B i o l . 1 2 5 , 2 0 5 - 2 1 4 , 1 9 9 4、 M o l B i o l C e l l . 1 6, 8 8 1 — 8 9 0, 2 0 0 5)。
表 1に示されるようにラミニン 5は、 α 3鎖、 3 3鎖、 ァ 2鎖からなるラ ミニン分子であり、 表皮の真皮への結合に中心的な役割を果たしており、 殆 どの細胞においてィンテグリン α 3 /3 1に優先的に結合するが、 細胞によつ てはインテグリン α 6 ]3 1、 6 β 4にも結合する。 ラミニン 5における α
3鎖 G 2 ドメインの a 3 G 2 A配列 (RE R FN I S T P AF RGCMKN L KKT S ) や G 3 ドメインの KRD配列がィンテグリンに対する主要な結 合部位であることが解明されている。
またラミニン 5は 3量体として分泌された後、 プロテアーゼによる限定分 解を受けて α 3鎖の C末端に存在する G 4および G 5 ドメインが除去され、 1 9 0 k D a (非切断型) から 1 6 0 kD a (切断型) へ変換されることが 知られている。 通常の方法で単離されるラミニン 5には G 4、 G 5 ドメイン が存在しない。 このような α 3鎖切断型ラミニン 5は非切断型ラミニン 5に 比べて高い細胞接着促進活性、 運動促進活性、 および神経再生促進活性を有 することが知られている ( J . B i o l . C h em., 2 8 0 ( 2 0 0 5 ), 1 4 3 7 0— 1 4 3 7 7 )。
本発明のラミニン 5は、 特に限定されず、 G 4及び G 5 ドメインを含むま まの非切断型であってもよく、 あるいはあるいは G 4及び G 5 ドメイン全体 あるいはその一部が除去された切断型であってもよい。
また、 ラミニン 5タンパク質は天然型であっても、 あるいはその生物学的 活性、 特に細胞接着促進活性保持したまま 1又はそれ以上のアミノ酸残基が 修飾された修飾型であってもよい。 また、 本発明におけるラミニン— 5タン パク質は本明細書に記載した特徴を有する限り、 その起源、 製法などは限定 されない。 即ち、 本発明のラミニン— 5タンパク質は、 天然産のタンパク質 、 遺伝子工学的手法により組換え DNAから発現させたタンパク質、 あるい は化学合成夕ンパク質の何れでもよい。
ラミニン 5タンパク質の由来は特に、 限定されないが、 好ましくは、 ヒト 由来のものである。再生医療の材料を得る目的などでヒト多能性幹細胞を培 養する場合には、 他の動物に由来する材料の使用を避けるという意味で、 ヒ ト由来のラミニン 5を用いることが好適である。
本明細書中の配列表の配列番号 1 — 6は、 ヒトラミニン 5の α 3鎖、 /3 3 鎖及びァ 2鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示す。 本発明で使用するラミニ ン 5タンパク質は、 好ましくは、 配列番号 2のアミノ酸配列、 またはこの配
列において 1 またはそれ以上のアミノ酸が欠失、 付加、 または置換されてい るアミノ酸配列を有する a 3鎖 (アミノ酸残基 N o . 1— N o . 1 7 1 3 ) ( J . B i o l . C h em. 2 6 9 , 2 2 7 7 9— 2 2 7 8 7 , 1 9 9 4 ) 、 配列番号 4のアミノ酸配列、 またはこの配列において 1またはそれ以上の アミノ酸が欠失、 付加、 または置換されているアミノ酸配列を有する /3 3鎖 (ァミノ酸残基 N o . 1— N o. 1 1 7 0) ( J . B i o l . C h em. 2 6 9 , 1 1 0 7 3— 1 1 0 8 0、 1 9 9 4)、 及び配列番号 6のアミノ酸配 列、 またはこの配列において 1またはそれ以上のアミノ酸が欠失、 付加、 ま たは置換されているアミノ酸配列を有するァ 2鎖 (アミノ酸残基 N o. 1— N o . 1 1 9 3 ) ( J . C e l l . B i o l . 1 1 9, 6 7 9— 6 9 3、 1 9 9 2 ) の各サブユニッ トからなるタンパク質である。
3鎖の球状ドメイン (G 1— G 5 ドメイン) はそれぞれ、 配列番号 1の ァミノ酸残基 N o . 7 9 4— N o . 9 7 0、 N o . 9 7 1— N o. 1 1 3 9 、 N o. 1 1 4 0— N o. 1 3 5 3、 N o. 1 3 5 4— N o. 1 5 2 9およ び N o. 1 5 3 0— N o . 1 7 1 3に相当する。
ラミニン 5の各鎖は、 対応する配列番号で示されるアミノ酸配列において 、 1またはそれ以上のアミノ酸残基が欠失、 付加、 または置換されているァ ミノ酸配列を有するものであってもよい。 このような天然のタンパク質と相 同なアミノ酸配列を有するタンパク質も、 本発明において使用可能である。 変更可能なアミノ酸数は、 a 3鎖、 j3 3鎖及びァ 2鎖の各アミノ酸配列にお いて、 限定されるわけではないが、 好ましくは 1ないし 3 0 0アミノ酸残基 、 1ないし 2 0 0アミノ酸残基、 1ないし 1 5 0アミノ酸残基、 1ないし 1 2 0アミノ酸残基、 1ないし 1 0 0アミノ酸残基、 1ないし 8 0アミノ酸残 基、 1ないし 5 0アミノ酸残基、 1ないし 3 0アミノ酸残基、 1ないし 2 0 アミノ酸残基、 1ないし 1 5アミノ酸残基、 1ないし 1 0アミノ酸残基、 1 ないし 5アミノ酸残基である。 公知の部位特異的突然変異法で修飾可能な数 のアミノ酸残基、 例えば、 1ないし 1 0アミノ酸残基、 1ないし 5アミノ酸 残基がより好ましい。
アミノ酸の保存的置換を行って元の機能を保持しているタンパク質また はポリぺプチドを得ることができることは、 当技術分野においてよく知られ ている。 そのような置換には、 アミノ酸を類似の物理化学的特性を有する残 基で置き換えること、 例えば、 1つの脂肪酸残基 ( I l e、 V a l、 L e u または A 1 a) を別なもので、 または塩基性残基 L y s と A r g、 酸性残基 G l uと A s p、 アミ ド残基 G I nと A s n、 ヒドロキシル残基 S e rと T y r、 または芳香族残基 P h eと T y rの間で置換することが含まれる。 また、 本発明で用いるラミニン 5は、 配列番号 2、 4、 6に記載されるァ ミノ酸配列と、 少なくとも 8 0 %、 8 5 %、 9 0 %、 9 5 %、 9 8 %または 9 9 %の同一性を有し、 かつ細胞接着活性を促進することができるタンパク 質であってもよい。 ラミニン 5の構成サブュニッ 卜の構造をラミニン 1と比 較すると、 各サブュニット間のアミノ酸配列の相同性は 5 0 %以下である。 特に、 上述の α鎖の Gドメインの相同性は低く、 約 2 5 %である。
同一性は、 同一である残基の数を、 既知の配列または既知の配列のドメイ ン中の残基の総数で割り、 1 0 0を乗ずることにより計算する。 標準的なパ ラメ一夕一を用いて配列の同一性を決定するためのコンピュータ一プログ ラムは、 例えば、 G a p p e d B LAS T P S I— B LAS T (N u c l e i c A c i d s R e s . 2 5, 3 3 8 9— 340 , 1 9 9 7)、 B LAS T ( J . M o 1. B i o l . 2 1 5 : 40 3— 4 1 0 , 1 9 9 0)、 および S m i t h— W a t e rm a n ( J . Mo l . B i o l . 1 47 : 1 9 5— 1 9 7 , 1 9 8 1 ) が利用可能である。 好ましくは、 これらのプログ ラムのデフォルト設定を用いるが、 所望によりこれらの設定を変更してもよ い。
本発明におけるラミニン 5タンパク質は本明細書に記載した特徴を有す る限り、 その起源、 製法などは限定されない。 即ち、 本発明のラミニン 5夕 ンパク質は、 ラミニン 5を分泌するヒト或いは動物細胞の培養液上清、 ある いはそこから精製した天然型ラミニン 5夕ンパク質であってもよい。 しかし ラミニン 5は、 当該技術分野において知られる組換え D N A技術を用いて各
サブユニットを発現させることにより遺伝子組換えタンパク質として効果 的に製造することができる。 しかし不必要な動物性の因子を避けるという意 味から、 ラミニン 5をヒト組換えタンパク質として得ることは特に好ましい ラミニン 5の α 3鎖をコードする、 配列番号 1の核酸残基 N o . 1— N o . 5 1 3 9を含む DN A配列、 3鎖をコードする配列番号 3の核酸残基 N o . 1 2 1— N o. 3 6 3 0及びァ 2鎖をコードする配列番号 5の核酸残基 N o. 1 1 8— No. 3 6 9 6の塩基配列に基づいてプライマ一を設計し、 適切な c DNAライブラリーをテンプレートとして、 ポリメラ一ゼ連鎖反応 (P C R) により目的とする配列を増幅することにより製造することができ る。 このような P C R手法は、 当該技術分野においてよく知られており、 例 えば、 " P C R P r o t o c o l s , A Gu i d e t o M e t h o d s a n d Ap p l i c a t i o n s ", A c a d em i c P r e s s , M i c h a e l , e t a 1. , 1 9 9 0に記載されている。
ラミニン 5の各鎖遺伝子をコードする DNAを、 適当なベクター中に組み 込み、 これを真核生物または原核生物細胞のいずれかに、 各々の宿主で発現 可能な発現べクタ一を用いて導入し、 それぞれの鎖を発現させることにより 所望のタンパク質を得ることができる。 ラミニン 5を発現させるために用い ることができる宿主細胞は特に限定されるものではなく、 大腸菌、 枯草菌等 の原核宿主細胞、 および酵母、 真菌、 昆虫細胞、 哺乳動物細胞等の真核生物 宿主が挙げられる。 なお下記の実施例で使用しているヒト胎児腎細胞株 HE K 2 9 3は宿主細胞として特に好ましい。
ラミニン 5を発現するように構築したベクタ一を、 トランスフォーメーシ ヨン、 トランスフエクシヨン、 コンジユゲーシヨン、 プロトプラスト融合、 エレク ト口ポレーシヨン、 粒子銃技術、 リン酸カルシウム沈殿、 直接マイク 口インジェクション等により、 上記の宿主細胞中に導入することができる。 ベクターを含む細胞を適当な培地中で成長させて、 本発明で使用するラミ二 ン 5タンパク質を産生させ、 細胞または培地から精製することにより、 ラミ
ニン 5タンパク質を得ることができる。 精製はサイズ排除クロマトグラフィ ―、 H P L C、 イオン交換クロマトグラフィー、 および免疫ァフィ二ティー クロマトグラフィ一等を用いて行うことができる。
ラミニン 5については、 特開 2 0 0 1— 1 7 2 1 9 6に詳細な記載があり 、 本明細書中に援用する。
多能性幹細胞を増殖させる方法
本発明においては、 ラミニン 5を含んだ系で多能性幹細胞を培養する。 本 発明で 「ラミニン 5を含んだ系」 とは、 多能性幹細胞の培養システム中に何 らかの形でラミニン 5を含むことを意味するものであり、 その態様は特に限 定されない。
本発明において、 ラミニン 5を含んだ系で多能性幹細胞を培養するのに、 ラミニン 5で処理した培養容器を用いることは好適な態様である。 しかしそ れに限定されるものではなく、 本発明の 「ラミニン 5を含んだ系」 には、 多 能性幹細胞を培養するために培地中にラミニン 5を添加するという態様な ども含まれる。
また本発明において 「ラミニン 5で処理した培養容器」 とは、 その表面に ラミニン 5を固層化するなどの処理がなされた培養容器を意味する。 また本 発明における 「培養容器」 は特に限定されるものではなく、 細菌の混入を防 ぐために滅菌処理され、 かつ細胞を培養するのに適した任意の材料、 任意の 形状の容器を用いることができる。 そのような培養容器の例として、 本技術 分野で一般的に用いられている培養用ディッシュ、 培養用フラスコ、 培養用 シャーレ、 9 6ゥエル、 4 8ゥエル、 1 2ゥエル、 6ゥエル、 4ゥエル等の 培養用プレート、 培養用ボトルなどを挙げることができるが、 それらに限定 されるものではない。 培養容器の表面にラミニンを固層化する処理技術は本 技術分野で公知であり、 当業者は本発明の目的に応じて任意の培養容器を採 用して該容器をラミニン 5で処理し、 ラミニン 5処理された該容器を本発明 の方法で多能性幹細胞を培養するのに用いることができる。
培養容器を処理に使用されるラミニン 5の量は特に限定されされない。好
ましくは、 0. 0 5 gZm 1以上、 好ましくは 0. 5〜 1 5 // gZm l、 より好ましくは 3. 7 5 g/m 1 — 1 5 g/m 1のラミニン 5溶液で処 理した場合、 良好な結果が得られる。
本明細書において後述する下記の実施例に示すように、 本発明者らは組換 ぇヒトラミニン 5がマウス E S細胞に対してマトリゲルやラミニン混合物 や他の細胞外マトリックスタンパク質に比べ、 強い接着活性を示すことを見 出し、 本発明に至った。 さらに本発明において、 マウス E S細胞は、 組換え ヒトラミニン 5にて固層化したプレートで L I Fおよび無血清培地にて M E F非存在下で維持培養できることが見出された。 ME F非存在下でのマウ ス E S細胞の培養は従来、 ゼラチンで固層化したプレートで牛胎児血清 (F B S) 存在下で行われてきた。 本発明の方法で培養した場合、 マウス E S細 胞は、 ME Fも F B Sも存在しない条件でも通常法と同等の増殖を示し、 さ らに未分化性も維持していることが確認できた。 加えて本発明の方法で培養 した場合、 多分化能も維持していた。
またヒト i P S細胞における検討も行ったところ、 下記の実施例に示すよ うに、 組換えヒトラミニン 5はヒト i P S細胞に対しても強い接着活性を示 した。 加えてヒト i P S細胞を、 組換えヒトラミニン 5にて固層化したプレ 一卜で培養すると無血清の条件下でコロニーを形成し、 維持培養することが 可能であった。 更には本発明の方法により培養したヒト i P S細胞は未分化 性を維持していた。
よって、 本願発明の方法は、 支持細胞も血清も含まない培地中で多能性細 胞を培養することを含む。 より好ましくは、 ヒト以外の動物性由来の物質を 含まない培地中で培養する。
ヒト E S細胞に関しては過去に ME Fに代わる支持材料として、 マトリゲ ル、 フイブロネクチン、 ラミニン 1、 1型コラーゲン、 4型コラーゲンなど 様々な細胞外マトリックスタンパク質が試されているが、 いずれも接着活性 は数%以下であった (S t em C e l l . 2 4, 2 649 - 2 6 6 0 , 2 0 0 6 )。 本発明では、 ラミニン 5の強い接着活性を、 細胞接着効率の極め
て悪い、 多能性幹細胞、 例えばヒト E S細胞ゃヒト i P S細胞の維持培養に 利用することにより、 ME F非存在下での接着効率と増殖効率が改善するこ とができる。 また、 ヒト E S細胞ゃヒト i P S細胞を再生医療に利用するた めの完全に動物由来の物質を含まない培養系を構築する材料として組換え ヒトラミニン 5は有用である。
このように、 本発明ではラミニン 5で処理することにより培養容器に対す る多能性幹細胞の細胞接着効率が向上し、 通常では多能性幹細胞の培養に必 要な支持細胞を用いなくても、 該細胞を効率良く増殖させることができる。 本明細書中における 「支持細胞 (フィーダ一細胞)」 とは、 増殖や分化を 起こさせようとする目的の多能性幹細胞の培養条件を整えるために用いら れ、 補助役を果たす他の細胞を意味する。 E S細胞や i P S細胞などの多能 性細胞の場合、 従来の一般的な方法では、 マウス由来の初代培養線維芽細胞 を支持細胞として用いることにより、 該支持細胞により多能性細胞に成長因 子などの栄養物が供給されるので、 細胞の培養が可能となる。 本発明によれ ばラミニン 5の強力な接着効率により、 かかる支持細胞を使用せずに、 E S 細胞や i P S細胞など多能性幹細胞の培養が可能となった。
また本発明において 「支持材料」 とは細胞の増殖を助けるために用いられ るタンパク質性の因子を意味するが、 本発明では支持材料としてラミニン 5 を用いる。 下記の実施例において示すように、 種々の細胞外マトリックスと 比べてラミニン 5は高い接着能を有し、 多能性幹細胞の支持材料として優れ ている。
また本発明において多能性幹細胞の 「分化」 とは、 全ての組織に分化する 潜在的能力を有するという分化多能性を失い、 特定の組織を構成する細胞と しての形質を有するようになる変化をいう。 例えば E c a t l、 E R a s、 N a n o g、 O c t 4、 R e x l、 S o x 2、 U t f lなどの多能性幹細胞 の未分化マーカーを測定することにより、 培養中に多能性幹細胞が分化して いないか評価することができる。 下記の実施例 3, 4に示すように、 本発明 の方法により培養した E S細胞の継代による分化を評価したところ、 1 0回
以上継代培養しても分化することはなく未分化状態を保っていた。 更に下記 の実施例 5で示すように、 本発明の方法により培養した E S細胞の継代によ る多分化能の維持を評価したところ、 やはり継代しても多分化能を維持して いた。
更に下記の実施例 1 1に示すように、 本発明の方法により培養したヒ卜 i P S細胞も、 5週間継代培養しても分化することはなく未分化状態を保って いた。 更には下記の実施例 1 2に示すように、 本発明により培養したヒト i P S細胞を、 分化誘導することも可能であった。
本発明の一態様において、 培養容器の内部表面にラミニン 5を塗布した後 に乾燥するなどして培養容器をラミニン 5で処理してもよい。 ラミニン 5処 理した培養容器に G M E Mや D M E Mなどの多能性幹細胞の培養に一般的 に使用される培地を入れ、 その培地中に多能性幹細胞を添加する。 次いで、 公知の適切な培養条件下、 例えば限定するわけではないが 3 7で、 5 %二酸 化炭素気層条件下などで該多能性幹細胞の培養を行う。
本発明の好ましい一態様において、 ラミニン 5を含んだ系に加えて、 適切 な添加物を培養培地に加えるとさらに好ましい。 添加物は、 好ましくは血清 以外のものであり、 より好ましくはヒト以外の動物由来の物質を含まない。 限定されるわけではないが、 添加物の一例は、 血清代替添加物である。 血 清代替添加物とは、 血清と類似した成分を含むように構成された人工的な液 体組成物であって、 それを添加することにより、 血清が存在しなくても細胞 の増殖が可能となる。 なお血清代替添加物の一例として、 各種アミノ酸、 無 機塩類、 ビタミン、 アルブミン、 インスリン、 トランスフェリン、 抗酸化成 分を加えたものを使用することができる。 各種アミノ酸とは、 例えば、 グリ シン、 Lーァラニン、 L—ァスパラギン、 L —システィン、 L—ァスパラギ ン酸、 L —グルタミン酸、 L 一フエ二ルァラニン、 L —ヒスチジン、 L—ィ ソロイシン、 L—リジン、 L —ロイシン、 L—グルタミン、 L—アルギニン 、 L —メチォニン、 L—プロリン、 L—ヒ ドロキシプロリン、 L—セリン、 L—スレオニン、 L—トリブトファン、 L—チロシン、 L—パリン等が含ま
れる。 無機塩類とは、 例えば、 A gN〇 3、 A 1 C 1 3 ' 6 H2〇、 B a (C 2H 302 ) 2、 C d S〇4 ' 8 H20、 C o C l 2 ' 6 H2〇、 C r 2 (S〇 4) 3 - 1 H2〇、 G e 02、 N a 2 S e O 3 , H2 S e 03、 KB r、 K I、 M n C 1 2 · 4 H 2 O, N a F、 N a 2 S i 03 ' 9 H2〇、 N a V03、 (NH4 ) 6Μο 7024 · 4 Η2〇、 N i S〇4 ' 6 H20、 R b C l、 S n C l 2、 Z r〇 C 1 2 · 8 H2 Oおよび亜セレン酸ナトリゥム等が含まれる。 ビタミン とは、 例えばチアミン、 ァスコルビン酸等が含まれる。 抗酸化成分とは例え ば還元型ダル夕チオンなどが含まれる。
またノックァゥ TM血清代替添加物 (KS R) とは、 I n v i t r o g e n社が市販している E S細胞用の血清代替添加物である。 下記の実施例 3と 実施例 4のように培地に K S Rを 1 0 %程度添加した培地中で多能性幹細 胞を培養することは本発明の好適な態様である。
更に、 下記の実施例 6に示した組成の血清代替添加物を用いることもまた 、 本発明の好適な態様である。 実施例 6において、 グリシン、 ヒスチジン、 イソロイシン、 メチォニン、 フエ二ルァラニン、 プロリン、 ヒドロキシプロ リン、 セリン、 トレォニン、 トリブトファン、 チロシン、 ノ リンなどのアミ ノ酸、 チアミン、 ァスコルビン酸などのビタミン、 銀、 アルミニウム、 バリ ゥム、 カ ドミウム、 コバルト、 クロム、 ゲルマニウム、 マンガン、 ケィ素、 バナジウム、 モリブデン、 ニッケル、 ルビジウム、 スズ、 ジルコニウムなど の微量金属元素、 臭素、 ヨウ素、 及びフッ素などのハロゲン元素、 及び、 ァ ルブミン、 還元型ダル夕チオン、 トランスフェリン、 インスリン、 亜セレン 酸ナトリゥムなどの成分を含む血清代替添加物の組成を開示している。 しか し本発明の血清代替添加物を構成する成分はこれらに限定されるものでな く、 類似する他の成分で置換するなど、 種々の改変を加えることができる。 また血清代替添加物に含まれる各成分の含量も、 実施例 6に記載されたもの に限定されるものではなく、 細胞の性質や実験の目的により適宜調整するこ とができる。
添加物としては K S Rと同様の成分及び 同様の機能を奏するものであ
ればよい。
2. ラミニン 5の細胞支持材料としての使用
本発明はまた、 ラミニン 5の、 多能性幹細胞を増殖させるための細胞支持 材料としての使用である。 これまで述べてきたように、 ラミニン 5は細胞接 着において強力な作用を有するので、 支持細胞も血清も含まない培地中で多 能性幹細胞を培養するのに、 ラミニン 5は有用である。
3. 多能性幹細胞の培養用キット
本発明はさらに、 ラミニン 5で処理した培養容器と、 血清代替添加物とを 含む、 多能性幹細胞の培養用キッ トである。 血清代替添加物は、 好ましくは ノックアウト TM血清代替添加物 (K S R) である。 あるいは、 実施例 6に示 した組成の血清代替添加物も利用可能である。
該キットはその他に、 GMEMや DMEMなど多能性幹細胞の培養用の培 地を含むことができる。 またもし必要ならば、 該キッ トは更に、 細胞培養に 必要なその他の添加物や、 培養するべき多能性幹細胞を含むこともできる。 かかる添加物の例として、 非必須アミノ酸、 ピルビン酸ナトリウム、 メルカ ブトエタノールや抗生物質を挙げることができる。 そのようなキットを 1つ のパッケージとしてキッ トを構成することもできるし、 あるいは低温に保存 する必要がある多能性幹細胞のみを別個のパッケージとした複数のパッケ ージとしてキッ トを構成することもできる。
実施例
以下、 実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、 本発明はこれらの実 施例に限定されるものではない。
実施例 1 組換えヒ トラミニン 5 ( r Lm 5 ) の調製
本実施例では、 公知の方法に従って組み換えヒトラミニン 5タンパク質を 調製した。
ひ 3鎖 (配列番号 1 )、 3 3鎖 (配列番号 3)、 ァ 2鎖 (配列番号 3) の じ DN Aを導入したヒト胎児腎細胞株 HE K 2 9 3 (Lm 5 -HEK 2 9 3) から回収した無血清培養上清を 4 :、 3 0 0 0 r pmで 5分遠心した。 ヒト
胎児腎細胞株 H E K 2 9 3は、 J . B i o c h em. 1 3 2, 6 0 7— 6 1 2 ( 2 0 0 2 ) に従って得た。 次いで、 H e p a r i n s e p h a r o s e C L - 6 B (G E h e a l t h c a r e) にかけ、 溶出した。 マ ウス抗 Lm_ a 3 (抗ラミニン α 3) モノクローナル抗体 (B G 5) を P r o t e i n A s e p h a r o s e C L— 6 B ( G E h e a l t h c a r e ) に共有結合させた抗体カラムに r Lm 5含有画分を通し、 次いで溶出 した。 なお、 モノクローナル抗体 B G 5はラミニン α 3 B鎖 N末端断片を抗 原として公知のモノクローナル抗体作成方法に従って、 本発明者らが作成し た抗体である。
1 gの精製 r Lm 5を還元条件にて変性した後、 5 _ 2 0 %ゲルを用い S D Sポリアクリルアミ ドゲル電気泳動にて α 3鎖、 )3 3鎖、 ァ 2鎖のサイ ズ、 純度を確認したところ、 それぞれ 1 6 0 k D a、 1 3 5 kD a、 1 0 5 k D aのバンドが確認できた。 図 1に精製 r Lm 5について S D Sポリアク リルアミ ドゲル電気泳動を行った結果の写真を示す。
C S— An a l y z e rを用いて解析した結果、 精製 r Lm 5の純度は約 9 8 %であった。 このようにして調製した r Lm 5を以下の実施例において使 用した。
実施例 2 マウス E S細胞株 E B 3を用いた接着アツセィ
本実施例では、 各種細胞支持材料を使用した場合におけるマウス E S細胞 株 E B 3を用いた接着アツセィの結果を示す。
1 0 %ゥシ胎児血清 (F B S)、 0. 1 mM非必須アミノ酸 (G i b c o )、 I mMピルビン酸ナトリウム (G i b c o)、 1 0 0 0 U/m 1 E S G R O (C h em i c o n)、 及び 1 0 _4M 2—メルカプトェタノ一ル (W AKO) を添加した GM EM ( S I GM A) を、 マウス E S細胞株である E B 3細胞の維持培地として用いた。 E B 3細胞は、 大阪大学医学系研究科 未来医療開発専攻 G 6 分子治療学講座 幹細胞制御分野から提供を受け た。
接着アツセィでは、 維持培地と同様の組成であるが F B Sは添加していな
い無血清培地を用いた。 細胞支持材料としては、 ゥシゼラチン (S I GMA )、 r Lm 5、 マトリゲル (登録商標、 BD)、 ヒトビトロネクチン (S I G MA)、 ヒ卜 I V型コラーゲン (BD)、 ヒトフイブロネクチン (BD)、 ヒ トラミニン 2 (C h em i c o n) 及びヒトラミニン (S I GMA) を用い た。 そして下記のように各々の細胞支持材料で処理を行ったプレートを作製 し、 各細胞支持材料について接着アツセィを行った。
濃度調製した各種の細胞外マトリックスタンパク質で 9 6ゥエルプレ一 ト (C o r n i n g) を処理し、 1. 2 %B S A (S I GMA) 溶液にて 3 7でで 1時間ブロッキング処理を行った。 各種細胞外マトリックスタンパク 質を、 1. 5 m gZm 1のゼラチン (G 1 )、 3. 7 5 x gZm lのラミニ ン 2 (Lm2)、 3. 7 5 z gZm 1のラミニン混合物 (Lm— M i x)、 1 5 0 g/m 1のマトリゲル (M g)、 1 5 g/m 1のコラーゲン (C o )、 1 5 g/m 1のフイブロネクチン (F n)、 1 5 g Zm 1のビトロネ クチン (V n) の濃度に調製した。 また、 r Lm 5 ( L m 5 ) は 3. 7 5 g/m l、 7. 5 gZm 1及び 1 5 g/m 1の 3段階の 2倍希釈系列に 調製した。
E B 3細胞を無血清培地にて洗浄した後、 3 0 0 0 0個 Zゥエルでプレー 卜に播種し、 3 7 、 5 % C02、 9 5 %空気の気層条件下で 3 0分間、 お よび 6 0分間培養を行った。 培養後、 ボルテックスミキサーで軽く震動させ て接着の弱い細胞をプレート表面から浮遊させ、 パ一コール (G E h e a 1 t h c a r e ) 処理にて該細胞を除いた。 接着した細胞を 2 5 %グルダル アルデヒド (N a c a 1 a i ) で固定化し、 2. 5 %クリス夕ルバイオレツ ト (N a c a 1 a i ) にて染色して相対細胞数を比較した。
図 2に、 3 0分間、 および 6 0分間培養を行った後、 OD 5 9 5を測定す ることにより、 種々の細胞外マトリックスタンパク質が E B 3細胞の接着に 及ぼす影響を評価した結果を示す。 図 2の結果から、 r Lm 5は Lm— M i Xを含む他の各種細胞外マトリックスタンパク質に比べて、 E B 3細胞に対 して強い接着活性を示すことが分かった。
なお接着効率の悪いヒト E S細胞では、 EH S由来ラミニンを用いた場合 の接着効率は 1 %未満であり、 現在最も広く用いられているマ卜リゲル ( 5 0〜6 0 %EH S由来ラミニン、 3 0 % I V型コラーゲン、 1 0 %ェンタク チン) でも、 接着効率はわずか 3 %であると言われている。 本実施例におい て、 マウス E S細胞を用いた場合、 EHSラミニンを主要な構成成分とする マトリゲル、 ラミニン 2、 ラミニン 1 0 1 1が多く含まれると思われる胎 盤由来のラミニン (Lm— M i X ) と比べて強い接着活性を見出した。 これ は本発明で用いるラミニン 5の顕著な効果であると認められる。
実施例 3 マウス E S細胞株 E B 3を用いた増殖アツセィ
本実施例では、 各種細胞支持材料を使用した場合におけるマウス E S細胞 株 E B 3を用いた増殖アツセィの結果を示す。
E B 3細胞の維持培地は実施例 2と同じものを用いた。 増殖アツセィでは 1 0 % F B Sの代わりに、 1 0 %ノックアウト TM血清代替添加物 (KS R) ( I n v i t r o g e n) を添加した培地 (KS R— GMEM) を用いた。 濃度調製した各種細胞外マトリックスタンパク質にて処理した 1 2ゥエル プレート (NUNC) に、 E B 3細胞を 40 0 0 0個 ウエルで播種した。 3 7で、 5 %C02、 9 5 %空気の気層条件下で 2日間培養後、 酵素処理に より細胞を回収し、 血球計算盤にて細胞数を計測した。
再び、 濃度調製した各種細胞外マトリックスタンパク質にて処理した 1 2 ゥエルプレートに E B 3細胞を 40 0 0 0個 ウエルで播種した。 この操作 を繰り返すことで、 E B 3細胞に対する各種細胞外マトリックスの増殖効果 を比較した。 培養培地として、 維持培地 (S) および KS R— GMEM (K ) を用いた。 細胞支持材料は、 1 m gZm 1の G 1、 4 g/m 1の r Lm 5 (Lm 5— 4)、 2 gZm lの r Lm 5 (Lm 5— 2)、 4 g/m lの Lm— M i x、 1 5 0 gZm lの Mgに、 それぞれ調製した。 またこの実 験区では、 予め K S R— GMEMで数代継代培養して馴化させた E B 3細胞 を用いた。
図 3に、 支持細胞の非存在下で、 維持培地 (S) 又は KS R— GMEM (
K) 中で培養した際に、 Ε Β 3細胞の増殖に対する各種細胞外マトリックス が及ぼす効果を検討した結果を示す。 図 3の結果から、 はじめの 2〜 3回の 継代では、 K + Lm— M i xおよび K + Mgは他の実験区に比べて増殖が遅
-' \ いことが認められた。
そのため、 K + Lm— M i Xおよび K + M g以外の実験区について、 さら に継代を続けた。 支持細胞の非存在下で、 E B 3細胞の長期継代培養時の細 胞増殖に対して、 細胞外マトリックスが及ぼす効果を検討した。 図 4に、 理 論上、 最終的に何倍に細胞が増殖したかを算出した結果を示す。 図 4の結果 から、 従来より E S細胞の維持培養系として広く用いられている対照区 (S +G 1 ) と同等に、 r Lm 5は E B 3細胞に対して増殖効果を示すことが分 かった。
図 5に、 維持培養の系 (S +G 1 )、 r Lm 5の系 (K + Lm 5)、 及び r Lm 5から維持培養の系に戻した系 (K + Lm 5— 4— S + G 1 ) において 、 長期継代培養した E B 3細胞の形態を示す。 図 5に示されるように、 K + Lm 5の実験区は形態が徐々に上皮細胞様に変化したが、 通常の維持培養の 系に戻すと (K + Lm 5— 4→S +G 1 ) 再びコロニー形成が認められるよ うになつた。 一般的に、 未分化な E S細胞はコロニーを形成することが知ら れているが、 上記の結果から、 K + Lm 5の実験条件で長期継代培養するこ とにより EB 3細胞の形態が上皮細胞様に変化しても、 未分化性を保ってい ることが示唆された。
実施例 4 未分化性マ一力一の検出
本実施例では、 マウス E S細胞の未分化マーカーとして知られる E c a t 1、 E R a s、 N a n o g、 〇 c t 4、 R e x l、 S o x 2、 U t f lの遺 伝子に関して RT— P C Rを行ってそれらの未分化マーカーを測定するこ とにより、 r Lm 5が E B 3細胞に対して未分化性を維持する効果を有して いるか検討した。
実施例 3にて 1 0回以上継代培養した E B 3細胞から T R I Z O L ( I n V i t r o g e n ) を用いて全 R N Aを抽出した。 抽出後、 T h e r m o S
c r i p t R T - P C R S y s t em ( I n v i t r o g e n) を用い て逆転写反応により c DNA合成を行った。 合成した c DN Aを铸型として 表 2に示すプライマ一を用いて P C R反応を行った。 各遺伝子の変性反応は 9 4で 3 0秒、 アニーリング反応は 3 0秒、 伸長反応は 7 2 2 0秒で 行った。 ァニ一リング反応は E c a t 1が 6 4 、 E R a s、 O c t 4、 U t f lは 6 1 T:、 R e x lは 5 9ΐ:、 N a n o g、 S o x 2は 5 4 の温度 で行った。
図 6に各種の未分化マーカーの発現を、 各培養下で検討した結果を示す。 その結果、 通常維持される実験条件 (S + G 1 ) と同等に、 r Lm 5を固層 化して K S Rにて培養した実験条件下 (K + Lm 5— 4、 K + L m 5 - 2 ) でも、 E B 3細胞は解析した全ての未分化マーカーを発現していることが分 かった。 また、 通常の維持培養の系に戻すと (K + Lm 5— 4→S + G 1 ) 、 これらの未分化マーカーの発現は、 通常の維持培養系 (S +G 1 ) で培養 しつづけた場合と区別できないくらいに元に戻ることが分かった。 以上から 、 K + Lm 5にて 1 0回以上継代培養しても E B 3細胞は未分化性を維持す ることが示唆された。 表 2 RT— P C R プライマ一
E c a t 丄
5 ' -TGTGGGGCCCTGAAAGGCGAGCTGAGAT- 3 ' (配列番号 7 )
5 ' -ATGGGCCGCCATACGACGACGCTCAACT- 3 ' (配列番号 8 )
E R a s
5, - ACTGCCCCTCATCAGACTGCTACT- 3, (配列番号 9 )
5 ' - CACTGCCTTGTACTCGGGTAGCTG- 3, (配列番号 1 0 )
N a η ο g
5, -AAGCAGAAGATGCGGACTGT- 3 ' (配列番号 1 1 )
5 ' - ACCACTGGTTTTTCTGCCAC- 3, (配列番号 1 2 )
0 c t 4
5 ' - TCTTTCCACCAGGCCCCCGGCTC- 3, (配列番号 1 3)
5 ' - TGCGGGCGGACATGGGGAGATCC- 3 ' (配列番号 1 4)
R e x 1
5 ' -ACGAGTGGCAGTTTCTTCTTGGGA- 3 (配列番号 1 5)
5 ' -TATGACTCACTTCCAGGGGGCACT- 3 (配列番号 1 6)
S o x 2
5, -TAGAGCTAGACTCCGGGCGATGA- 3 ' (配列番号 1 7)
5 ' -TTGCCTTAAACAAGACCACGAAA- 3 ' (配列番号 1 8)
U t f 1
5 ' -GGATGTCCCGGTGACTACGTCTG- 3 ' (配列番号 1 9)
5 ' -GGCGGATCTGGTTATCGAAGGGT- 3 ' (配列番号 2 0)
G a p d h
5 ' -CACCATGGAGAAGGCCGGGG- 3 ' (配列番号 2 1 )
5, -GACGGACACATTGGGGGTAG- 3 ' (配列番号 2 2)
実施例 5 3胚葉系への分化能の検討
本実施例では、 各種細胞支持材料を使用してマウス細胞株 E B 3を培養し た場合における分化能の維持を検討した結果を示す。
実施例 3にて K S Rを添加した無血清条件化で E B 3細胞を培養した後 に、 維持培養 (S + G 1 ) の条件でさらに 5代継代して血清条件下に馴化し 直したうえで、 分化誘導試験を行った。 無血清培地での培養条件として、 ゼ ラチン固層化プレー卜の系 (K+G 1 ) と、 組換えヒトラミニン 5固層化プ レートの系 (K + Lm 5— 4、 K + Lm 5 - 2 ) を用いた。 これらを血清条 件下に馴化した実験区を、 K + G 1→S + G し K + Lm5 - 4→S +G 1 、 K+ Lm 5— 2→ S + G 1 と表記する。
分化誘導は以下の手順で行った。 L I F (E S GRO) を含まない維持培 地中に細胞を縣濁して 1 0 0 0個/ドロップのハンギングドロップを作製 し、 胚様体を 2日間形成させた。 形成させた胚様体を細菌培養プレー卜に移 し、 L I Fを含まない維持培地中でさらに 5日間浮遊培養を行った。 その時
の胚様体の様子を図 7に示す。
浮遊培養した胚様体を、 1 mgZm 1の G 1でコートしたチャンバースラ イ ド (NUNC) に移して 3日間接着培養を行った後、 免疫染色にて分化マ 一力一を検出することで、 E S細胞の分化能への分化 (内胚葉系、 中胚葉系 、 外胚葉系の細胞への分化) を検討した。
この際に、 内胚葉系の細胞のマーカーとして α—フエトプロテイン (AF Ρ) を、 中胚葉系の細胞のマーカーとして α—平滑筋ァクチン (α— SMA ) を、 外胚葉系の細胞のマーカ一として) 3— IIIチューブリン ( t u b u 1 i n) を用いた。 免疫染色は、 細胞を 4 %ホルムアルデヒドで固定化した後 、 0. 1 %トライ トン一X 1 0 0 (N a c a 1 a i ) を添加した 5 % F B S 溶液でブロッキングを行うことにより実施した。 ブロッキングの後に、 1次 抗体と 2次抗体で処理し、 更に DAP I (N a c a 1 a i ) 染色を行い、 V E CTASH I E LD (VE CTOR L a b o r a t o r i e s ) にて封 入して蛍光顕微鏡にて観察することにより、 マ一力一の発現を検出した。 免疫染色において 1次抗体として、 α—フエトプロテイン検出には抗 AF Ρポリクローナル抗体 (DAKO) を、 α—平滑筋ァクチンの検出には抗 α — S MAモノク口一ナル抗体 (DAKO) を、 )3—111 t u b u 1 i nの 検出には抗; 3 - III t u b u l i nモノクローナル抗体 (C h em i c o n) を、 それぞれ用いた。 2次抗体には抗ゥサギ I g Gポリクローナル抗体 (S a n t a C r u z B i o t e c h n o l o g y) および抗マウス I g Gポリクロ一ナル抗体( S a n t a C r u z B i o t e c h n o l o g y ) を用いた。
また、 S +G 1、 K + G 1→S +G 1、 K + Lm 5— 4→S +G 1、 K + Lm 5 - 2→S +G lの実験区について上記の手順で分化誘導する一方で、 ネガティブコントロールを作製した。 ネガティブコントロールは、 S +G 1 、 K + G 1→S +G 1、 K+Lm 5 - 4→S +G U K+Lm 5 - 2→S + G 1の実験区について、 胚様体形成など一連の分化誘導操作をせずに L I F 存在下の通常の維持培養系 (S + G 1 ) にて培養し、 同様に免疫染色を行つ
たものである。
4つの実験区について、 分化誘導操作を行った実験区と、 分化誘導操作を 行わなかったネガティブコントロールの実験区の間で、 分化マーカ一である AF P、 a— SMA、 /3 - 111 t u b u 1 i nの発現を比較した結果を示 す (図 8から図 1 1 )。 なお図 8は S +G 1の実験区における結果を、 図 9 は K+ G 1→ S + G 1 の実験区における結果を、 図 1 0は K + Lm 5— 4→ S + G 1 の実験区における結果を、 図 1 1は K + Lm 5— 2→S +G 1 の実 験区における結果を、 それぞれ示す。
その結果全ての実験区について、 分化誘導操作を行った実験区では A F P 、 a - S UA, )3 -111 t u b u 1 i nの 3つのシグナルが全て認められ た (図 8下段、 図 9下段、 図 1 0下段、 図 1 1下段)。 一方通常の維持培養 系にて培養したネガティブコントロールの実験区では、 A F P、 - SUA , β - III t u b u l i nの 3つのシグナルが認められず、 細胞の分化の 誘導は起こっていなかった(図 8上段、 図 9上段、 図 1 0上段、 図 1 1上段) 。
この結果は一連の分化誘導操作によってはじめて細胞の分化が誘導され、 E B 3細胞が、 A F P、 a S MA, /3 - 111 t u b u l i nなどのマーカ —を発現する 3胚葉系の分化細胞となったことを意味する。 実施例 4の結果 と本実施例の結果から、 Lm 5にて維持した E S細胞は未分化状態を維持し ていると同時に、 誘導により多様な細胞に分化する多分化能も維持している ことが示唆された。
実施例 6 K S Rとは異なる他の組成の血清代替添加物の調製
上記の K S Rとは異なる他の組成の血清代替添加物を調製した。 本実施例 の血清代替添加物の組成を表 3に示す。 表 3 組成が既知である血清代替添加物の組成
グリシン (N a c a l a i ) 1 5 0 m g / 1
ヒスチジン (N a c a l a i ) 9 4 0 m g / 1
イソロイシン (N a c a l a i ) 340 0 m g / 1
メチォニン (N a c a 1 a i ) 9 0 m g / 1
フエ二ルァラ二ン (N a c a 1 a i ) 1 8 0 0 m g
プロリン (N a c a 1 a i ) 4 0 0 0 m g/ 1
ヒ ドロキシプロ Uン (N a c a 1 a i ) 1 0 0 m g
セリン ( N a c a 1 a i ) 8 0 0 m g / 1
卜レオニン (N a c a 1 a i ) 2 2 0 0 m g / 1
卜リブトフアン (N a c a 1 a i ) 4 4 0 m g / 1
チロシン (S I GM A) 7 7 m g / 1
バリン ( N a c a 1 a i ) 2 4 0 0 m g / 1
チアミン (N a c a 1 a i ) 3 3 m g / 1
ァスコルビン酸 (S I GM A) 3 3 0 m g/ 1
還元型ダル夕チオン ( S I GMA) 1 0 m g/ 1
ヒト トランスフェリン (N a c a l a i ) 5 5 m g / 1
ゥシインスリン (S I GMA) l O Omg/ 1
亜セレン酸ナトリウム (S I GMA) 0. 0 7 m g/ 1
B SA ( I n v i t r o g e n) 8 3 0 0 0mg/ l
A g N O 3 (Me d i a t e c h I n c .) 0. 0 0 1 7 m g/ 1 A 1 C 1 6 H 9 O (Me d i a t e c h I n c .) 0. 0 1 2mgZ
1
B a (C 2H 302 ) 2 (Me d i a t e c h I n c .) 0. 0 2 5 5 m g / 1
C d C 1 2 (M e d i a t e c h I n c .) 0. 0 2 2 8 m g / 1 C o C 1 2 · 6 H 2 O (M e d i a t e c h I n c .) 0. 0 2 3 8 m g / 1
C r 2 C 1 3 (M e d i a t e c h I n c .) 0. 0 0 3 2 m g / 1 G e O 2 (M e d i a t e c h I n c .) 0. 0 0 5 3 m g / 1
KB r (Me d i a t e c h I n c .) 0. 0 0 1 2 m g / 1
K I (M e d i a t e c h I n c .) 0. 0 0 1 7 m g / 1 M n S O 4 - H 2 O (Me d i a t e c h :1 n c . ) 0. 0 0 1 7 m g / 1
N a F (Me d i a t e c h I n c .) 0. 042 m g / 1
N a 2 S i 03 - 9 H20 (M e d i a t e c h I n c .) 1. 4 m g / 1
NH4 VO 3 (Me d i a t e c h I n c .) 0. 0 0 6 5 m g / 1 (NH4) 6Μο 7024 · 4H20 (M e d i a t e c h I n c .) 0. 0 1 24 m g/ 1
N i S 04 - 6 H20 (Me d i a t e c h I n c .) 0. 0 0 1 3 m g / 1
R b C 1 (M e d i a t e c h I n c .) 0. 0 1 2 1 m g / 1
S n C l 2 (M e d i a t e c h I n c .) 0. 0 0 1 2mg/ l Z r OC l 2 - 8 H20 (M e d i a t e c h I n c .) 0. 0 3 2 2 m g / 1 蒸留水に表 3に記載した各種アミノ酸 (グリシン、 ヒスチジン、 イソロイ シン、 メチォニン、 フエ二ルァラニン、 メチォニン、 フエ二ルァラニン、 プ 口リン、 ヒドロキシプロリン、 セリン、 卜レオニン、 トリプ卜ファン、 チロ シン、 パリン) を 3倍濃度となるように溶解し、 3倍濃縮アミノ酸溶液を調 製した。 この 3倍濃縮アミノ酸溶液に、 チアミン、 ァスコルビン酸、 還元型 ダル夕チオンを、 3倍濃度となるのに必要な量を加えた。 この溶液を溶液 A とする。 次に、 蒸留水に 2倍濃度となるようにヒト トランスフェリンおよび B SAを溶解し、 2倍濃縮 B S A溶液を調製した。 この溶液を溶液 Bとする 。 更に蒸留水に必要量亜セレン酸ナトリウムを溶解し、 7 %亜セレン酸ナト リウム溶液を調製した。 この溶液を溶液 Cとする。 調製された溶液 A、 B、 じに、 ゥシインスリン溶液 ( S I GM A) と微量金属元素を添加して、 本実 施例の血清代替添加物を調製した。 なおここで添加した微量金属元素は、 組
成が既知の市販の T r a c e E l eme n t Bおよび C (M e d i a t e c h I n c .) である。 本実施例で調製した血清代替添加物は市販品では なく、 組成が既知である。
実施例 7 実施例 6の血清代替添加物を添加した培地を用いた検討 本実施例においては、 実施例 6で調製した血清代替添加物を、 KS Rと同 様に血清の代替物として GMEMに加えて、 維持培地としてマウス E S細胞 の培養に用いた。 そのようにして調製した培地を以下で培地 Yとする。 そし て培地 Yを用いて、 実施例 3に準じて増殖アツセィを行った。 更に実施例 4 に準じて未分化マ一カーの検出を行った。更に実施例 5に準じて 3胚葉系へ の分化能の検討を行った。
( 1 ) 増殖アツセィ
培地 Yを用いた増殖アツセィの結果を図 1 2に示す。 維持培地として培地 Yを用いた以外は全て実施例 3と同様に実験を行った。 マウス E S細胞株 E B 3を用いた増殖ァッセィの結果、 r Lm 5を固相化して培地 Yにて培養を 行った実験区 (Y + Lm 5— 4、 Y + Lm 5 - 2 ) は、 マウス E S細胞に対 して増殖効果を示すことが分かった。 また Lm 5を用いた場合には、 他の細 胞外マトリックス (G l、 Lm— M i x、 M g) を用いた実験区と比べて、 より良い増殖が認められた。
(2) 未分化マーカ一の検出
上記の増殖アツセィを行った後、 各実験区における未分化マーカーの発現 を RT— P C Rにて検討した。 維持培地として培地 Yを用いた以外は全て実 施例 4と同様に実験を行った。 実施例 4と同様に 7種の未分化マーカーを検 出した結果を図 1 3に示す。 培地 Yを用いてマウス E S細胞を培養した場合 でも、 r Lm 5を固相化した実験区 (Y + Lm 5) において全ての未分化マ 一力一の発現が確認された。 よって培地 Yを用いて r Lm 5の系を 1 0回以 上継代培養しても、 E B 3細胞は未分化性を維持することが示唆された。
(3) 3胚葉系への分化能の検討
また、 維持培地として培地 Yを用いた以外は全て実施例 5と同じ方法にて
分化誘導試験を行った。 分化誘導操作を行った全ての実験区について、 対照 区 (S + G 1 ) と形態的に酷似した胚様体が形成された。 その結果を図 1 4 に示す。
分化誘導を行った後に 3胚葉系への分化のマーカー (A F P、 α - S MA 、 )3 - 111 t u b u l i n) を検出した。 S + G l (図 1 5 )、 K+ G 1 → S + G l (図 1 6 )、 Y + G 1→ S + G 1 (図 1 7 )、 Y + L m 5 — 4→ S + G 1 (図 1 8 )、 Y + Lm 5 - 2→ S + G 1 (図 1 9 )、 Y + Lm-M i x→ S + G l (図 2 0 )、 Y + M g→ S + G 1 (図 2 1 ) の実験区について、 分 化誘導操を行った実験区 (下段、 L I F—) と、 分化誘導操作を行わなかつ たネガティブコントロールの実験区 (上段、 L I F +) の間で、 分化マーカ —の発現を検討した結果を示す。
図 1 5から図 2 1の下段 (L I F -) に見られるように、 分化誘導後に免 疫染色した系については、 全ての実験区において A F P、 - S MA, β— III t u b u 1 i nの 3つのマ一力一が全て発現していた。 一方、 分化誘 導を行わない通常の維持培養系にて培養したネガティブコントロールの実 験区では、 図 1 5から図 2 1の上段 (L I F +) に見られるように、 A F P 、 ひ— S MA、 /3 - III t u b u 1 i nの発現が認められず、 細胞の分化 の誘導は起こっていなかった。
以上より、 培地 Yを用いた際にも r Lm 5はマウス E S細胞の増殖を支え ると共に、 増殖したマウス E S細胞は未分化性を保っていることが示唆され た。 このことから、 r Lm 5はフィーダ一細胞と血清が存在しない条件下に おいて、 マウス E S細胞の有用な支持材料となり得ることが分かった。
実施例 8 ヒト i P S細胞を用いた接着アツセィ
本実施例では、 各種細胞支持材料を使用した場合におけるヒト i P S細胞 を用いた接着アツセィの結果を示す。
ヒト i P S細胞は、 京都大学 再生医科学研究所 再生誘導研究分野にて 樹立された細胞株 2 0 1 B 2または 2 0 1 B 7を用いた。 図 2 2において、 左側に細胞株 2 0 1 B 2の形態を、 右側に細胞株 2 0 1 B 7の形態を示す。
ヒト i P S細胞をディッシュから剥離する前に Ι Ο ^Μ Y— 2 7 6 3 2 (WAKO) 存在下にて 1時間培養し、 その上でヒト i P S細胞を実験に 用いた。 なお実施例 8以降のヒト i P S細胞における実験においても、 同様 の処理を行った。
ヒト i P S細胞の維持には、 DMEMZF 1 2に 2 0 %KS R、 2 mMグ ル夕ミン、 1 %非必須アミノ酸、 及び 1 0— 4M 2 _メルカプトエタノール を添加した培地で調製したマウス胎仔性線維芽細胞の培養上清に 4 n g, m l b FGF (WAKO) を添加したものを維持培地 (ME F— CM) と して用いた。
細胞支持材料にはマイ トマイシン C処理を行った S NLフィーダ一細胞 (F d)、 または各種の細胞外マトリックス (G l、 Lm 5、 Mg、 Vn、 C o、 F n、 Lm2、 Lm— M i x) を用いた。 そして下記に示すように各 々の細胞支持材料で処理を行ったプレートを作製し、 各細胞支持材料につい てヒト i P S細胞株 2 0 1 B 7を用いて接着アツセィを行った。
濃度調製した各種の細胞外マトリックスタンパク質で 9 6ゥエルプレー ト (C o r n i n g) を処理し、 1. 2 % B S A (S I GMA) 溶液にて 3 7でで 1時間ブロッキング処理を行った。 各種細胞外マトリックスタンパク 質の濃度を以下の濃度に調製した。 即ち G 1 を 5mgZm 1及び 1. 2 5m g/m 1 に調製した。 Lm2を 5 0 g/m 1及び 1 2. 5 i g/m l に調 製した。 Lm— M i xを 5 0 g/m 1及び 1 2. 5 g/m 1 に調製した 。 M gを 5 0 0 g/m 1及び 1 2 5 gZm l に調製した。 C oを 5 0 g/m 1及び 1 2. 5 A gZm 1 に調製した。 F nを 5 0 z g Zm 1及び 1 2. 5 gZm 1 に調製した。 V nを 5 0 gZm 1及び 1 2. 5 g /m 1 に調製した。 r Lm 5を、 5 0 z gZm l、 2 5 g /m 1 , 1 2. 5 g/m l、 6. 2 5 jU gZm l及び 3. 1 2 5 ; g Zm 1 という 5段階の 2 倍希釈系列に調製した。 また、 2 5 gZm 1の Lm 5と 5 0 μ g/m 1の C oにて同時に処理した実験区 (Lm 5 + C o) も調製した。
ヒ卜 i P S細胞をトリプシンで処理し、 単一細胞になるまで分散させ、 2
0 0 0 0個 ゥエルでプレートに播種し、 3 7 、 5 % C〇2、 9 5 %空気 の気層条件下で 6 0分間培養を行った。 培養後、 軽いタツビングで接着の弱 い細胞をプレート表面から浮遊させ、 パ一コール (G E h e a l t h c a r e ) 処理にて該細胞を除いた。 接着した細胞を 2 5 %グルタルアルデヒド (N a c a 1 a i ) で固定化し、 2. 5 %クリスタルバイオレツ ト (N a c a 1 a i ) にて染色して相対細胞数を比較した。
図 2 3に、 6 0分間培養を行った後、 OD 5 9 5を測定することにより、 種々の細胞外マ卜リックスタンパク質がヒト i P S細胞の接着に及ぼす影 響を評価した結果を示す。 更に図 2 4に各実験区におけるアツセィを行った 後の細胞の形態を示す。
図 2 3において、 r Lm 5の実験区は他の細胞外マトリックスタンパク質 の実験区と比較して高い OD 5 9 5の値を示し、 ヒト i P S細胞に対して強 い接着活性を示すことが分かった。 図 2 4においても、 r Lm 5の実験区で は多くの細胞の接着が観察された。 また、 r Lm 5は C oと組み合わせるこ とにより ( r Lm 5 + C o)、 r L m 5単独よりもさらに強い接着活性を示 すことが分かった。
実施例 9 ヒト i P S細胞を用いたコロニーアツセィ.
本実施例では、 ヒト i P S細胞株 2 0 1 B 2を用いて、 各種細胞支持材料 を使用してコロニーアツセィを行った結果を示す。
細胞支持材料としては、 G し Lm 5、 M g、 V n、 C o、 F n、 Lm 2 及び Lm— M i xを用いた。 そして下記のように各々の細胞支持材料で処理 を行った 6 0 mmディッシュ ( I WAK I ) を作製し、 各細胞支持材料につ いてコロニーアツセィを行った。
各種細胞外マトリックスタンパク質の濃度を以下の濃度に調製した。 即ち G 1 を l m gZm l に調製した。 Lm 5を S O z gZm l , 1 5 g /m 1 、 811 g / 1 , 4 _i gZm 1及び 2 gZm 1 に調製した。 Lm 2を 3 0 g /m 1 1 5 g /m 8 j g "m l 、 4 g /m 1 ^ Z 2 g/m 1 に調製した。 し111ー 11 1 を 3 0 ^ ノ111 1 、 1 5 g / m. 1 , 8 ^ g /
m l 、 A gZm l及び 2 gZm l に調製した。 Mgを 3 0 0 gZm l に調製した。 C oを 3 0 gZm 1 に調製した。 F nを 3 0 gZm 1 に調 製した。 Vnを 1 0 gZm 1 に調製した。
本実施例ではヒト i P S細胞を、 卜リプシン処理でコロニーをシングルセ ルまで分散させた状態 (以下、 s i n g l eと称する) と、 軽いピベッティ ングにより分散を抑えて細胞塊の状態 (以下、 c 1 umpと称する) に調製 し、 両者でアツセィを行った。 即ち、 ヒト i P S細胞を s i n g l eまたは c 1 umpで、 1 0 0 0偭相当 6 0 mmディッシュで播種した。 3 7 、 5 %C〇2、 9 5 %空気の気層条件下で s i n g 1 eは 1 3日間、 c l um pは 6日間培養を行った。 培養後、 形成されたコロニー数をカウントした。 その結果を図 2 5に示す。 図 2 5.において上段は s i n g 1 eにおける結 果を、 下段は c 1 umpにおける結果を示す。
s 1 118 1 6では 1"し1115、 Lm— M i x、 Vn、 Mgの実験区でコロニ 一形成が認められ、 8 g 1 Lm 5、 及び 3 0 gZm 1 Lm— M i xの実験区では、 陽性コントロールである S NLフィーダ一細胞 (F d) が存在する実験区に近いコロニー数が形成された。 一方、 c 1 umpでは r Lm 5、 Lm2、 Lm— M i x、 Vn、 Mg、 C oの実験区でコロニ一形成 が認められ、 r Lm 5の実験区では F dと比べて同等以上のコロニー形成が 認められた。
また、 形成されたコロニーについて免疫染色を行ってヒト多能性幹細胞マ —カーを検出することで、 培養されたヒト i P S細胞が未分化状態であるか を評価した。 ここでヒト多能性幹細胞のマーカ一として、 細胞表面抗原マ一 カーである S S EA 3を用いた。
免疫染色は、 細胞を 4 %ホルムアルデヒドで固定化した後、 1 % B S Aを 添加した P B Sでブロッキングを行うことにより実施した。 ブロッキングの 後に、 1次抗体と 2次抗体で処理し、 更に H o e c h i s t 3 3 342 ( I n V i t r o g e n) で染色を行い、 蛍光顕微鏡にて観察することにより、 マーカーの発現を検出した。 免疫染色において 1次抗体には抗 S S E A 3モ
ノク口一ナル抗体を、 2次抗体には抗ラッ ト I g M抗体 ( J a c k s o n I mmu n o R e s e a r c h を用レ た。
免疫染色の結果を図 2 6に示す。 図 2 6 Aは s i n g l eの結果であり、 図 2 6 Bは c 1 umpの結果である。 s i n g 1 eから形成されたコロニー でも、 c 1 umpから形成されたコロニーでも共に、 E S細胞マ一力一であ る S S E A 3が検出された。 このことから、 ヒト i P S細胞から形成された コロニーは未分化性を維持していることが示唆された。
以上の結果から、 r Lm 5は他の細胞外マトリックスと比べて同等または それ以上にヒ卜 i P S細胞のコロニー形成を支えると同時に、 形成されたコ ロニーは未分化性を保っていることが示唆された。
実施例 1 0 ヒト i P S細胞を用いた維持培養試験
本実施例では、 各種細胞支持材料を使用した場合におけるヒト i P S細胞 株 2 0 1 B 7を用いた維持培養試験の結果を示す。
細胞支持材料としては、 G l、 Lm 5、 Lm2、 Vn、 C o、 及び F nを 用いた。 そして下記のように各々の細胞支持材料で処理を行った 6ゥエルプ レート (F a l c o n) を作製し、 各細胞支持材料についてコロニーアツセ ィを行った。 維持培地としては、 実施例 8に記載した ME F _ CMを用いた 各種細胞外マトリックスタンパク質の濃度は、 l mgZm lの G l、 2 gZm lの Lm 5、 3 0 gZm lの Lm2、 3 0 gZm lの C o、 3 0 / gZm lの F n、 1 0 g 1の V nに調製した。
本実施例ではヒト i P S細胞は c l umpの状態でのみアツセィを行つ た。 細胞は 1週間に 1度、 全細胞の 9分の 1量を各種細胞外マトリックスで 処理し、 新たに準備した 6ゥエルプレートに撒き直した。 細胞は 3 7 、 5 %C〇2、 9 5 %空気の気層条件下で 5週間培養を行った。 5週間培養した 細胞の形態を図 2 7に示す。
その結果、 検討した各種細胞外マ卜リックスタンパク質の実験区において 、 継代後 1週間の培養で陽性コントロールである S NLフィーダ一細胞 (F
d) の実験区と同等程度の細胞増殖が観察された。 図 2 7に示すように 5週 間の培養後においてもこの傾向が観察された。 この結果から、 r Lm 5は F dとほぼ同等にヒト i P S細胞の増殖を支えることができることが分かつ た。 なお、 Lm 2は培養中にコロニー形成が認められなくなった。
実施例 1 1 ヒト i P S細胞における未分化マーカーの検出
本実施例では、 ヒト多能性幹細胞の未分化マーカーとして知られる NAN 〇G、 O CT 4、 S OX 2の遺伝子に関して RT— P C Rを行ってそれらの 未分化マーカ一を検出することにより、 r Lm 5がヒト i P S細胞に対して 未分化性を維持する効果を有しているか検討した。
実施例 1 0にて 5週間継代培養したヒト i P S細胞から T R I Z 0 L ( I n V i t r o g e n) を用いて全 RNAを抽出した。 抽出後、 T h e r mo S c r i p t R T - P C R S y s t em ( I n v i t r o g e n) を用 いて逆転写反応により c DN A合成を行った。 合成した c DNAを踌型とし て表 4に示すプライマーを用いて P C R反応を行った。 各遺伝子の変性反応 は 9 4 1 0秒、 アニーリング反応は 1 5秒、 伸長反応は 7 2で 3 0秒 で行った。 アニーリング反応は O C T 4と G A P D Hは 6 0で、 NANOG と S OX 2は 5 5 の温度で行った。 表 4 RT— P C R プライマ一
O C T 4
5, -GACAGGGGGAGGGGAGGAGCTAGG- 3 ' (配列番号 2 3 )
5 ' 一 CTTCCCTCCAACCAGTTGCCCCAAAC - 3 (配列番号 2 4)
N AN O G
5 ' -CAGCCCTGATTCTTCCACCAGTCCC- 3 ' (配列番号 2 5)
5 ' -TGGAAGGTTCCCAGTCGGGTTCACC- 3 ' (配列番号 2 6 )
S O X 2
5 ' -GGGAAATGGGAGGGGTGCAAAAGAGG- 3 (配列番号 2 7 )
5 ' -TTGCGTGAGTGTGGATGGGATTGGTG- 3 (配列番号 2 8 )
G A P D H
5 ' -GTGGACCTGACCTGCCGTCT- 3, (配列番号 2 9 )
5 ' - GGAGGAGTGGGTGTCGCTGT - 3, (配列番号 3 0 ) R T - P C Rの結果を図 2 8に示す。 全ての実験区で検討した 3因子の発 現が認められた。 このことから、 細胞支持材料として r Lm 5を用いてヒト i P S細胞を培養したところ、 ヒト i P S細胞は未分化性を維持しているこ とが示唆された。
実施例 1 2 ヒト i P S細胞における分化誘導試験
本実施例では、 各種細胞支持材料を使用してヒト i P S細胞を培養した場 合における分化能の維持を検討した結果を示す。 分化誘導を行ったヒト i P S細胞より RT— P C Rにて分化マーカーを検出することにより、 各種細胞 支持材料を使用して培養されたヒト i P S細胞が分化能を維持しているか 検討した。
実施例 1 0にて 3週間培養した後、 すなわち 3回目の継代の際に一部の細 胞を採取し、 それを用いて分化誘導試験を行った。 分化誘導は以下の手順で 行った。
培養中のヒト i P S細胞をプレートより剥離して作製した c 1 umpを、 低吸着プレート (NUNC) を用いて、 DMEMZF 1 2に 2 0 %K S R、 2 mMグルタミン、 1 %非必須アミノ酸、 及び 1 0— 4M 2—メルカプトェ タノ一ルを添加して調製した培地中で 8日間浮遊培養を行った。 これにより 形成された胚様体を 1 mgZm 1の G 1でコートした 6ゥエルプレート (F a 1 c o n) に撒き直し、 さらに 8日間接着培養を行った。
接着培養後の細胞の形態を図 2 9に示す。 b F G Fが存在しない培地中で 分化誘導を行った後の細胞は様々な形態の細胞が混在しており、 これは細胞 が分化していることを示唆している。 ここでの細胞形態は、 図 2 7のように b F G F存在下で通常の維持培養を行った場合とは明らかに異なっている。 分化誘導操作を行ったヒト i P S細胞から、 実施例 1 1 と同じ手順により
、 RNA抽出、 及び c DNA合成を行い、 合成した c D N Aを铸型として、 表 5に示すプライマーを用いて P C R反応を行った。 内胚葉マーカ一として S OX 1 7と AF Pを、 中胚葉マーカーとして B RACHYURYと MS X 1を、 外胚葉マ一カーとして PAX 6を、 栄養外胚葉マーカーとして CDX 2を、 それぞれ用いた。 各遺伝子の変性反応は 9 4 1 0秒、 ァニ一リン グ反応は 1 0秒、 伸長反応は 7 2 3 0秒で行った。 アニーリング反応は
S〇X 1 7、 B RACHYURY, MS X 1、 PAX 6は 6 3 、 A F Pは
6 5 、 C D X 2は 5 5での温度で行った。 また、 CDX 2のみ伸長反応は
7 2 、 1 5秒で行った。
RT— P C Rの結果を図 3 0に示す。 r Lm 5の実験区では陽性コント口 —ルである F dの実験区と同様に、 検討した 6因子の全てが発現しているこ とが認められた。 よって r Lm 5はヒ卜 i P S細胞に対して多分化能を維持 する効果を有していることが示唆された。 一方で、 r Lm 5以外の幾つかの 細胞外マトリックス (Vn、 C oなど) の実験区では、 中胚葉マーカ一であ る M S X 1の発現が非常に弱いことが分かった。 このことから、 これらの細 胞外マトリックスについてはヒト i P S細胞の分化能が一部失われている、 或いは分化に対して抵抗性が生じてきている可能性があることが分かった。 表 5 RT— P C R—プライマ一
S O X 1 7
5 ' - CGCTTTCATGGTGTGGGCTAAGGACG-3 ' (配列番号 3 1 )
5 ' - TAGTTGGGGTGGTCCTGCATGTGCTG- 3 ' (配列番号 3 2 )
A F P
5, - GAATGCTGCAAACTGACCACGCTGGAAC-3 ' (配列番号 3 3)
5 ' -TGGCATTCAAGAGGGTTTTCAGTCTGGA- 3 (配列番号 3 4)
B RACHYUR Y
5 ' - GCCCTCTCCCTCCCCTCCACGCACAG- 3 ' (配列番号 3 5 )
5 ' - CGGCGCCGTTGCTCACAGACCACAGG- 3 ' (配列番号 3 6 )
M S X 1
5 ' -CGAGAGGACCCCGTGGATGCAGAG- 3 (配列番号 3 7 )
5, -GGCGGCCATCTTCAGCTTCTCCAG- 3 (配列番号 3 8 )
P AX 6
5, -ACCCATTATCCAGATGTGTTTGCCCGAG- 3 ' (配列番号 3 9 )
5 ' - ATGGTGAAGCTGGGCATAGGCGGCAG- 3, (配列番号 4 0 )
C D X 2
5, - GCAGAGCAAAGGAGAGGAAA- 3, (配列番号 4 1 )
5, - CAGGGACAGAGCCAGACACT- 3 ' (配列番号 4 2 ) 本発明により、 細胞外マトリックス分子であるラミニン 5を含んだ系で培 養することにより、 支持細胞と血清を用いなくても、 多能性幹細胞を未分化 状態のままで増殖させることが可能となった。 本発明の方法によれば支持細 胞ゃ血清などの動物由来の材料を用いることなく多能性幹細胞を培養でき るので、 免疫拒絶やウィルス感染などの危険性がない。 ヒト由来の多能性幹 細胞はその分化全能性から再生医療における細胞材料として大きな利用可 能性を有しており、 特にヒト人工多能性幹細胞 ( i P S細胞) は倫理的な問 題もなくまた患者本人の細胞から調製できるため免疫拒絶の問題もない。
[配列表フリーテキスト]
<配列番号 1 >
配列番号 1は、 ヒトラミニン α 3鎖の塩基配列を示す。
<配列番号 2 >
配列番号 2は、 ヒ卜ラミニン α 3鎖のアミノ酸配列を示す。
<配列番号 3 >
配列番号 3は、 ヒトラミニン ]3 3鎖の塩基配列を示す。
ぐ配列番号 4 >
配列番号 4は、 ヒトラミニン j3 3鎖のアミノ酸配列を示す。
<配列番号 5 >
配列番号 5は、 ヒトラミニンァ 2鎖の塩基配列を示す。
ぐ配列番号 6 >
配列番号 6は、 ヒトラミニンァ 2鎖のアミノ酸配列を示す。
ぐ配列番号 7 - 2 2>
配列番号 7 _ 2 2は、 E S細胞における未分化性マーカー検出のための、 R T— P C R用プライマーの塩基配列を示す。
<配列番号 2 3 - 3 0 >
配列番号 2 3— 3 0は、 ヒト i P S細胞における未分化性マーカー検出の ための、 RT— P C R用プライマ一の塩基配列を示す。
<配列番号 3 1 - 42>
配列番号 3 1— 42は、 ヒト i P S細胞における分化マーカ一検出のため の、 RT— P C R用プライマ一の塩基配列を示す。
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