明 細 書
Toll因子のトランスポザーゼ及びそれを用いた DNA導入システム 技術分野
[0001] 本発明はトランスポゾンの転移を触媒する酵素(以下、トランスポザーゼ)及びその 利用に関する。詳しくは、本発明はメダカ由来のトランスポゾン Toll因子(Transposab le element of Oryzias latipes, no. 1)のトランスポザーゼ及びそれをコードするポリヌク レオチド、当該トランスポザーゼを利用した DNA導入システム及び DNA導入法、並 びに当該システムなどに用いられる DNA導入キット等に関する。
背景技術
[0002] DNA型転移因子は、生物のゲノムを構成する反復配列の一種であり、脊椎動物の ゲノムにも大量に存在する。ただし、脊椎動物の DNA型転移因子は、転移活性を失 つて残骸となったものがほとんどである。転移の直接の証明がなされている、脊椎動 物の DNA型転移因子は、ゼブラフィッシュの Tzf因子(Lam WL, Lee TS, Gilbert W (1996) Proc Natl Acad Sci USA 93: 10870-10875·)とメダカの Tol2因子(Transposa ble element of Oryzias latipes, no. 2) (Koga A, Suzuki , inagaki H, Bessho Y, Hori H. (1996) Transposable element in fish. Nature 383: 30)のみである。
[0003] Toll因子は、メダカのゲノムに 100〜200コピー存在する DNA型因子である(Koga A, Sakaizumi M, Hori H (2002) Zoolog Sci 19: 1-6· (非特許文献 1) )。この因子は、 完全なアルビノの体色を示す突然変異体のチロシナーゼ遺伝子に揷入している断 片として発見された (Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H (1995) Mol Gen Genet 24 9: 400-405. (非特許文献 2) )。チロシナーゼは、黒色素メラニンの生合成に必須の酵 素である。その後にみつ力、つた Tol2では、転移活性は容易に証明された。これとは 異なり、 Toll因子は、ェクシジョンやインサーシヨンを直接検出することができなかつ たため、すでに転移活性を失った因子であると当初は考えられた。最初にチロシナ ーゼ遺伝子の中で見つかったコピーに加えて、他のコピーも単離して調べたが、遺 伝子とみられる構造はなかった(Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H (1995) Mol G en Genet 249: 400-405. (非特許文献 2) )。このことも、すでに転移活性を失った因子
であると考えられた理由である。
2001年、アルビノのサブ系統の一つとして、体に部分的に着色のある個体、すな わちモザイク着色の個体が見出された。この個体を分析した結果、 Toll因子が体細 胞でその揷入部位から抜け出すことが証明された(Tsutsumi M, Imai S, yono-Ham aguchi Y, Hamaguchi S, Koga A, Hori H (2006) Pigment Cell Res 19: 243-247· (非 特許文献 3) )。抜けるという現象が起こることは、 Tollは転移活性を失っていない D NA型転移因子であることを意味する。しかしながら、この因子の染色体への de novo 揷入が観察されたことはない。また、転移酵素(トランスポザーゼ)も見つかつていな い。
ところで、転移因子は遺伝子工学的手法や分子学的手法に利用される。例えば、 突然変異誘発、遺伝子、プロモーター、ェンノヽンサ一等のトラッピング、遺伝子治療 等への転移因子の利用 '応用が期待されている。メダカのゲノムに存在する因子とし てみつかった Tol2因子は、このような応用にすでに供されている(Koga A, Hori H, S akaizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11. (非特許文献 4)、 Johnson Hamlet MR, Yergeau DA, uliyev E, Takeda M, Taira M, awakami , Mead PE (2006) Genesis 44: 438-445. (非特許文献 5)、 Choo BG, ondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, orzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5. (非特許文献 6)、特開 2001— 21 8588号公報(特許文献 1) )。 Tol2因子の他にも、サケのゲノムにある残骸から人工 的に再構築した Slewing Beauty因子(Ivies Z, Hackett PB, Plasterk RH, Izsvak Z (1 997) Cell 91 : 501-510. (非特許文献 7)、特表 2001— 523450号公報(特許文献 2) )、力エルから同様に再構築した Frog Prince因子(Miskey C, Izsvak Z, Plasterk RH, Ivies Z (2003) Nucleic Acids Res 31 : 6873-6881. (非特許文献 8)、特表 2005— 52 7216号公報(特許文献 3) )、昆虫力も単離した piggyBac因子(Wu SC, Meir YJ, Coa tes CJ, Handler AM, Pelczar P, Moisyadi S, aminski JM (2006) Proc Natl Acad Sci USA 103: 15008 ? 15013. (非特許文献 9) )が遺伝子導入等へ利用されている。これ らの因子は転移頻度が高いという特徴をもつ。この特徴は、遺伝子工学的手法や分 子生物学的手法への利用 ·応用を考えた場合、極めて重要である。 Tollについても 、本発明者らが発見したメダカでは着色している細胞の数が多いため、転移頻度が
高いと推測される。
特許文献 1 :特開 2001— 218588号公報
特許文献 2:特表 2001— 523450号公報
特許文献 3 :特表 2005— 527216号公報
非特許文献 1: Koga A, Sakaizumi M, Hori H (2002) Zoolog Sci 19: 1-6·
非特許文献 2 : Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H (1995) Mol Gen Genet 249: 40
0-405.
非特許文献 3: Tsutsumi M, Imai S, Kyono-Hamaguchi Y, Hamaguchi S, Koga A, Hor i H (2006) Pigment Cell Res 19: 243-247.
非特許文献 4 : Koga A, Hori H, Sakaizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11 · 非特許文献 5 : Johnson Hamlet MR, Yergeau DA, Kuliyev E, Take da M, Taira M, Ka wakami , Mead PE (2006) Genesis 44: 438—445.
非特許文献 6 : Choo BG, Kondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, Ko rzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5.
非特許文献 7 : Ivies Z, Hackett PB, Plasterk RH, Izsvak Z (1997) Cell 91 : 501-510· 非特許文献 8 : Miskey C, Izsvak Z, Plasterk RH, Ivies Z (2003) Nucleic Acids Res 31 : 6873-6881.
非特許文献 9 : Wu SC, Meir YJ, Coates CJ, Handler AM, Pelczar P, Moisyadi S, Ka minski JM (2006) Proc Natl Acad Sci USA 103: 15008-15013.
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
新規な転写因子としてその利用 '応用が大いに期待される Toll因子ではある力 こ れまでにみつかっている Toll因子は全て内部が欠失したコピーであり、完全長のコ ピーがもっと考えられるトランスポザーゼ及びその遺伝子は同定されて!/、なレ、。
遺伝子工学的手法や分子生物学的手法に転移因子を利用するためには、ベクタ 一となる因子に加えて、それを転移させる要素であるトランスポザーゼが必要である。 そこで本発明は、遺伝子工学的手法などに Toll因子を利用するため、 Toll因子 のトランスポザーゼを提供することを目的とする。また、 Toll因子の用途 (DNA導入
システムや DNA導入法など)を提供することも目的とする。
課題を解決するための手段
本発明者らは、上記のモザイク着色の個体 (メダカ)を実験材料として用い Toll因 子のトランスポザーゼ遺伝子を同定することを試みた。まず、データベースの検索を 繰り返し行うことによって、トランスポザーゼ遺伝子の塩基配列であると予想される配 列を組み上げた。続いて、モザイク着色の個体の mRNAを分析することなどを通して 、 2.9 kbの cDNAを同定することに成功した。この cDNAの配列を調べた結果、 851 アミノ酸に相当する配列が内部に存在することが判明した。一方、この cDNAがコー ドするタンパク質は、ヒト細胞及びマウス細胞の両者で Tollの転移を引き起こすこと が確認された。また、転移頻度を調べた結果、 Tol2に匹敵する高い値を示した。この ことは、 Toll因子がトランスポゾンとして Το12因子と同様の利用価値及び将来性を 有することを意味する。 Toll因子は Το12因子の代替手段となり得る点でもその利用 価値が高い。即ち、 Το12因子によっては十分な転移頻度が得られない細胞系列や 生物種に対して Toll因子が有効に作用する可能性がある。
更なる検討の結果、 Tollと Tol2は、相互の転移を誘発することがない(即ち、 Toll のトランスポザーゼカ STol2の転移を誘発せず、その逆も同様であること)という、注目 すべき知見も得られた。この知見に基づけば、 Toll因子と Tol2因子の両者を利用し て標的細胞に 2種類の DNAを続けて導入することが可能といえる。また、このように して 2種類の DNAを導入した後、片方の因子に対応するトランスポザーゼを供給す ることによって、いずれかの DNAのみを特異的に転移させることができる。このように 、 Toll因子と Το12因子が互いの転移に影響しないという事実は Toll因子の有用性 •利用価値を格段に高める。
更に検討を進めた結果、 18kbや 20kbの長さの Toll因子の存在が明らかとなった。 このことは、サイズの大きな DNA断片の導入手段(運搬手段)として Toll因子が有 用であることを示唆する。この点に注目して 2種類の実験を施行した。第 1の実験とし て、チロシナーゼ遺伝子に揷入した断片として発見された Toll因子 (Toll—tyr、 1, 855塩基対、配列番号 10)において、転移に不要な内部領域の除去を試みた。その 結果、左端(5'末端部分) 157bpと右端(3'末端部分) 106bpの部分さえあれば、 Toll
因子は転移効率を損なうことなく転移することが判明した。第 2の実験として、上記の 通り内部領域を欠失させた短い Toll因子に様々なサイズの DNA断片を揷入した場 合の転移効率を測定した。その結果、揷入する DNA断片のサイズが大きいほど(即 ち Toll因子の左端から右端までの距離が長いほど)転移頻度が低下した。しかしな がら、揷入する DNA断片のサイズが最大であり、 Toll因子の左端から右端までの距 離が 22. Ikbとなる場合であっても、依然としてその転移頻度は、転移によらないランダ ムな染色体への組込みの頻度より有意に高いものであった。哺乳類で使用されてい る DNA型転移因子は複数存在するが、 22.1kbという因子の長さはこれまでの報告の 中では最長となる。以上のように、本発明者らの検討の結果、 Toll因子はその積載 能力に優れ、サイズの大きな DNA断片の導入手段(運搬手段)として極めて有用で あることが証明された。
更なる検討の結果、脊椎動物の遺伝および発生の研究のモデルとして重要なァフ リカツメガエル(Xenopus laevis)においても Toll因子のェクシジョンが起こることが判 明し、 Toll因子がアフリカッメガエルの細胞内でも転移因子として機能することが示 唆された。このことは、 Toll因子の汎用性の高さを裏付ける重要な知見といえる。 一方、 Toll因子が昆虫においても機能することを確認した。まず、 Toll因子の非 自律的コピーを含むドナープラスミドを、 Toll因子の転移酵素をコードする RNAとと もに、カイコの受精卵に注入した。それを保温して発生を進行させた後、胚からプラス ミド DNAを回収した。続いて、その構造を PCRで分析した。その結果、 Toll因子の 部分が抜け出している分子があることがわかった。また、胚からゲノム DNAを抽出し 、逆向き PCRの手法で分析した。これから、 Toll因子が染色体に入り込んでいること が判明した。このように、転移反応の 2つの段階であるェクシジョンとインサーシヨンの 両方がカイコで起こっていた。この結果には、つぎの 3つの意義がある。 (l)Toll因 子の転移反応には、ホスト (宿主)の生物からの要因を必要としないか、必要とするに しても、それは旧口動物と新口動物の生物種が共通にもつものである。 (2)カイコで 利用できる遺伝子導入 ·遺伝子トラップ ·突然変異誘発等の系を、 Toll因子を利用し て構築できる。 (3)広い範囲の動物で利用できる同様の系を構築できる。
以上のように、 Toll因子のトランスポザーゼの同定に成功するとともに、遺伝子ェ
学的手法に利用される転移因子として好ましい性質を Toll因子が備えることが明ら 力、となった。本発明は当該成果に基づくものであり、以下のトランスポザーゼゃ DNA 導入システム等を提供する。
[1]以下の(a)〜(c)力もなる群より選択されるレ、ずれかのタンパク質からなる、 Tol 1因子のトランスポザーゼ:
ω配列番号 1で示される塩基配列がコードするアミノ酸配列を有するタンパク質;
(b)配列番号 2で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質;
(c)配列番号 2で示されるアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を有し、且つ Toll因子 を転移させる酵素活性を有するタンパク質。
[2]以下の(a)〜(c)からなる群より選択される!/ヽずれかの塩基配列からなる、 Toll 因子のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド:
(a)配列番号 2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列;
(b)配列番号 1、配列番号 3又は配列番号 4で示される塩基配列;
(c) (b)の塩基配列と相同な塩基配列であって、且つ Toll因子を転移させる酵素 活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
[3] [2]に記載のポリヌクレオチドを含む発現コンストラクト。
[4]前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを更に含む、 [3]に記 載の発現コンストラクト。
[5]下流側で前記ポリヌクレオチドに連結したポリ A付加シグナル配列又はポリ A配 列を更に含む、 [3]又は [4]に記載の発現コンストラクト。
[6] (a)トランスポザーゼ遺伝子を欠損した Toll因子に目的の DNAが揷入された 構造のドナー要素と、
(b) [1]に記載のトランスポザーゼ、又は [2]に記載のポリヌクレオチドを含むヘル ノ 一要素と、
を含む、 DNA導入システム。
[7]前記 Toll因子が、配列番号 5で示される逆方向反復配列を 5'側末端部に備 え、且つ配列番号 6で示される逆方向反復配列を 3'側末端部に備える、 [6]に記載 の DNA導入システム。
[8]前記 Toll因子が、以下の(a)又は(b)の DNAからなる、 [6]に記載の DNA導 入システム:
(a)配列番号 10〜; 12の!/ヽずれかで示される塩基配列からなる DNA;
(b)配列番号 10〜; 12のいずれかで示される塩基配列と相同な塩基配列からなり、 且つ配列番号 1で示されるアミノ酸配列を有するトランスポザーゼが末端に結合する DNA。
[9]前記 Toll因子が、配列番号 10で示される塩基配列の内、 5'末端から数えて 1 58番目の塩基から 1749番目の塩基までを少なくとも欠失させることによって得られ る、 5'末端側 DNA及び 3'末端側 DNAからなる、 [6]に記載の DNA導入システム。
[10]前記 Toll因子が、配列番号 21で示される塩基配列からなる DNAと、配列番 号 22で示される塩基配列からなる DNAとからなる、 [6]に記載の DNA導入システム
〇
[11]前記 Toll因子の 5 '末端及び 3 '末端に標的部位重複配列が連結されてレ、る 、 [8]〜[; 10]の!/、ずれかに記載の DNA導入システム。
[12]前記標的部位重複配列が配列番号 13〜; 15のいずれかで示される配列から なる、 [11]に記載の DNA導入システム。
[13]前記目的の DNAが遺伝子である、 [6]〜[; 12]の!/、ずれかに記載の DNA導 入システム。
[14]前記ドナー要素が、トランスポザーゼ遺伝子を欠損した Toll因子に目的の D NAが揷入されたベクターであり、
前記ヘルパー要素が、 [2]に記載のポリヌクレオチドを含むベクターである、 [6]〜
[13]の!/、ずれかに記載の DNA導入システム。
[15]ヘルパー要素である前記ベクター力 前記ポリヌクレオチドに作動可能に連 結したプロモーターを更に含む、 [14]に記載の DNA導入システム。
[16]ヘルパー要素である前記ベクターが、下流側で前記ポリヌクレオチドに連結し たポリ A付加シグナル配列又はポリ A配列を更に含む、 [14]又は [15]に記載の DN A導入システム。
[17]脊椎動物細胞からなる標的細胞に対して、 [6]〜[; 16]のいずれかに記載の
DNA導入システムを導入するステップを含む、 DNA導入法。
[18]前記標的細胞が、ヒト個体を構成した状態の細胞以外の脊椎動物細胞である 、 [17]に記載の DNA導入法。
[ 19]前記 DNA導入システムによって導入される前記目的の DNAと異なる DNA を、 Tol2因子を利用して前記標的細胞に導入するステップを更に含む、 [17]又は [ 18]に記載の DNA導入法。
[20] [19]に記載の DNA導入法を用いて遺伝子操作された細胞に対して、 Toll 因子又は Tol2因子に対応したトランスポザーゼを供給するステップを含む、ゲノム D ΝΑ上の特定 DNA部位を転移させる方法。
[21]トランスポザーゼ遺伝子を欠損した Toll因子をゲノム DNA上に保有する細 胞に、 [1]に記載のトランスポザーゼ、又は [2]に記載のポリヌクレオチドを導入する ステップを含む、ゲノム DNA上の特定 DNA部位を転移させる方法。
[22]前記 Toll因子に他のポリヌクレオチド配列が揷入されている、 [21]に記載の 方法。
[23] [6]〜[; 16]の!/、ずれかに記載の DNA導入システム、 [17]〜[; 19]の!/、ずれ かに記載の DNA導入法、又は [20]〜 [22]の!/、ずれかに記載の方法によって遺伝 子操作された細胞。
[24]トランスポザーゼ遺伝子を欠損し且つ揷入部位を有する Toll因子を含む発 現コンストラクトからなるドナー要素と、
[1]に記載のトランスポザーゼ、又は [2]に記載のポリヌクレオチドを含む発現コン ストラタトからなるヘルパー要素と、
を含む DNA導入用キット。
[25]前記 Toll因子が、配列番号 10で示される塩基配列の内、 5'末端から数えて 158番目の塩基から 1749番目の塩基までを少なくとも欠失させることによって得られ る、 5 '末端側 DNA及び 3 '末端側 DNAの間に揷入部位が形成された構造からなる 、 [24]に記載の DNA導入用キット。
[26]前記 Toll因子が、配列番号 21で示される塩基配列からなる DNAと、配列番 号 22で示される塩基配列からなる DNAとの間に揷入部位が形成された構造からな
る、 [24]に記載の DNA導入用キット。
[27]前記揷入部位が、種類の異なる複数の制限酵素認識部位からなる、 [24]〜[ 26]の!/、ずれかに記載の DNA導入用キット。
[28]前記ドナー要素が、トランスポザーゼ遺伝子を欠損し且つ揷入部位を有する Toll因子を含むベクターであり、
前記ヘルパー要素力 S [2]に記載のポリヌクレオチドを含むベクターである、 [24]〜
[27]の!/、ずれかに記載の DNA導入用キット。
[29]ヘルパー要素である前記ベクター力 前記ポリヌクレオチドに作動可能に連 結したプロモーターを更に含む、 [28]に記載の DNA導入用キット。
[30]ヘルパー要素である前記ベクターが、下流側で前記ポリヌクレオチドに連結し たポリ A付加シグナル配列又はポリ A配列を更に含む、 [28]又は [29]に記載の DN A導入用キット。
[31]トランスポザーゼ遺伝子を欠損した Toll因子に対して、 [2]に記載のポリヌク レオチドが揷入された構造を有する、再構築されたトランスポゾン。
[32]前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを含む、 [31]に記 載のトランスポゾン。
[33]下流側で前記ポリヌクレオチドに連結したポリ A付加シグナル配列又はポリ A 配列を含む、 [31]又は [32]に記載のトランスポゾン。
[34] [3;!]〜 [33]のいずれかに記載のトランスポゾンを含む、 DNA導入システム。 図面の簡単な説明
[図 1]モザイク着色のあるさかな。パネル A〜Cは同一のさかなである。片方の目が黒 でもう一方が赤のさかな 1匹を右側(パネル A)、正面(パネル B)、左側(パネル C)か ら撮影した。パネル Dのさかなは、 目に広範囲の着色があり、背中の皮膚にも着色し た点が多数ある。背中の点を三角で示した。パネル Eは、 目にスポーク状の着色のあ る個体である。パネル Fは腹膜である。腹膜は、野生型のさかなでは密に着色してお り、アルビノのさかなでは着色は認められな!/、。
[図 2]Tollの非自律的コピーと自律的コピーの構造。 Toll— tyrは、最初に見つかつ た Tollの非自律的コピーであり、さかな Aのチロシナーゼ遺伝子に揷入されていた。
Toll— LIは今回同定に成功した完全型の自律的コピーであり、機能のあるトランス ポザーゼ遺伝子を内部に有する。さかな Bのゲノム DNAを剪断して 36-48 kbの断片 を取り出し、これをフォスミドベクター pCClFOSに揷入してゲノムライブラリ一とした。こ のライブラリーをスクリーニングして Toll—L1が得られた。内部のトランスポザーゼ遺 伝子(ェクソン)を棒状に示した。この遺伝子の開始コドン (ATG)と終止コドン (TAG)も 示してある。下線をつけて a〜eと記してある部分は、ハイブリダィゼーシヨンのプロ一 ブを作製するために使用した部分である。 Xと yは、 3'RACEのプライマーと 5'RACEの プライマーの位置を示す。これらのプライマーの配歹 IJ (プライマー X:配列番号 16、プ ライマー y :配列番号 17)は、 DDBJ/EMBL/GeneBankにァクセッション番号 AB26411 2で登録された塩基配列(配列番号 3)の塩基 152-181の位置と、 457-332の位置に相 当する。
[図 3]RACE解析の結果。さかな Aとさかな Bの受精後 7日の胚から RNAを抽出し、ォ リゴー dTプライマーからの cDNAl本鎖の合成を行った。次に、プライマー Xと、 RAC Eキットに含まれている 3'アダプタープライマーを使って、この cDNAl本鎖の 3' RAC Eを行った。 PCR産物を 1.0%のァガロースゲルで電気泳動し、ナイロン膜に転写した 後、プローブ bとのハイブリダィゼーシヨンを行った。左のパネルは電気泳動直後の写 真で、右のパネルはハイブリダィゼーシヨンの結果の写真である。シグナルとしてのバ ンドが、さかな Bでのみ 1本出ていることがわかる。続いて、ゲルのシグナルに相当す る部分を切り出し、その中に含まれる DNA断片を回収し、その DNA断片をプラスミド ベクターに連結し、プローブ bが結合するクローンをコロニーハイブリダィゼーシヨンで 単離した。 5' RACEはさかな Bの RNAについてのみ行った。使ったプライマーは yと、 キットに含まれている 5'アダプタープライマーである。 PCR以降の操作は、ハイブリダ ィゼーシヨンのプローブに eを使用したことを除いて 3'RACEの場合と同一とした。ハイ ブリダィゼーシヨンの結果バンドが 1本現れ、それを同様の方法で単離した。
[図 4]Tollとその他の hATファミリーのトランスポザーゼの一部を Clustal Xプログラム で照合した結果。 hATファミリーの因子には、アミノ酸配列が保存された領域がいくつ かあることが知られている。その領域は A〜Fと表記されている (引用文献 27)。 A〜F のうち D〜Fは比較的短い領域内に位置しており、タンパク質の二量体化に関係する
と考えられている。 hATファミリ一として登録されている因子 (GenBankァクセッション番 ^•PF05699、 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/inaex.html)力、ら、 Tollとの相 | 性の高い因子を、いろいろなホスト生物種が含まれるようにとの観点から選び、配列 の照合を行った。その結果を示す。個々の因子の名前として、 UniProtKBで記号化さ れた名称を使用した。名前には、ホスト生物種を示す 5文字を付加している。また、照 合に使った部分のアミノ酸を、その位置を示す番号で示してある。アミノ酸の色づけ は、 Clustal Xのデフォルトの方式をそのまま採用したものである。
[図 5]メダカのゲノムに含まれる Tollのコピーのサザンブロット分析。さかな A、さかな B、 HM、 Hd-rRの各 1匹からゲノム DNAを抽出した。 HMと Hd-rRは、メダカの研究で よく使われる近交系である。ゲノム DNAを各さかなにつき 8.0 ;^用意し、制限酵素 Pv ullで完全に切断し、 1.0%のァガロースゲルで電気泳動し、ナイロン膜に転写した後、 プローブ a〜d (位置については図 2を参照)とのハイブリダィゼーシヨンに供した。写 真の左側に大きさが既知の DNA断片(分子量マーカー)の位置を示した。ここで示 した結果より、メダカのゲノムにある Tollのコピーのほとんどに内部欠失が認められる こと力 sゎカゝる。
[図 6]転移頻度測定に用いたプラスミド。 Toll— tyr (GenBankァクセッション番号 D42 062、配列番号 10)を、隣接する 8 bpの TSD (CCTTTAGC (配列番号 13) )とともに、さ かな Aのゲノム DNAから増幅し、プラスミド pUC19に入れてクローンとした。続いて、 プラスミド pCMV-Taglの一部(GenBankァクセッション番号 AF025668の塩基配列の 塩基 1,675-3,474、配列番号 18)を PCRで増幅して、 Toll— tyrに 1か所ある Sailの認 識部位(GenBankァクセッション番号 D42062の塩基配列の塩基 706-711)に揷入した 。 pCMV-Taglのこの部分にはネオマイシン耐性遺伝子が含まれている。このようにし て作製したプラスミドをドナーとして用いた。ヘルパーは、 Toll cDNA (GenBankァク セッション番号 AB264112の塩基酉己列、配列番号 3)の塩基 31_2,817 (配列番号 19)を プラスミド pCIのマルチクローニングサイトに揷入することによって作製した。このマル チタローニングサイトは、 CMVプロモーターとポリ A付加シグナルの間にある。欠損型 ヘルパーは、ヘルパーの塩基配列に PCRで修正を加えることによって作製した。へ ルパーの塩基 996- 1,001は ATGAAAであり、これはアミノ酸のメチォニンとリジンに対
応する。この配列を TAGTAAに変更した。この変更の結果、トランスポザーゼの ORF の中ほどに終止コドンが 2個続けて生じる。フィラープラスミドは、 2.8 kbのえ DNAの 断片を、トランスポザーゼ cDNAの代わりにプラスミド pCIに揷入することによって作製 した。
[図 7]哺乳類細胞での Tollの転移。 HeLa細胞と MH/3T3細胞に、ドナーとヘルパー 、ドナーと欠損型ヘルパー、又はドナーのみを取り込ませた。ただし、必要に応じてフ イラ一を加えた。続いて G418での選抜を施した。ギムザ染色液で染色した 60 mmディ ッシュの写真を示す。ドナーとヘルパーを取り込ませた場合のみ、多数の G418耐性 のコロニーが生じている。
園 8]揷入された Tollコピーの揷入点の塩基配歹 IJ。ドナーとヘルパーを導入して得 た G418耐性の細胞力もゲノム DNAを抽出し、 EcoRIまたは Pstlで切断した。当該二 つの制限酵素はドナーを切断しない。続いて、 1.0%のァガロースゲルで電気泳動し た後、 3.7-9.0 kbの大きさの DNA断片をゲルから回収し、低 DNA濃度の状態 (500 n も I 2.0 ml)で T4 DNAリガーゼを使って末端を結合させた。得られた DNAに対してィ ンバース PCRを実施した。ここで用いたプライマーは、丁011— の端部½6118&^ ァクセッション番号 D42062の塩基配列(配列番号 10)の塩基 162-133 (配列番号 20) )である。 PCR産物を電気泳動すると、反応 1つあたり 10以上のバンドが生じた。 PC R産物をプラスミドに入れてクローンとし、インバース PCRのプライマーと同じプライマ 一を使ってその塩基配列を調べた。これらのゲノム DNAクローンの揷入点付近の塩 基配列を示した。参考のために、ドナープラスミドの対応する領域の配歹 IJも示した。す
[図 9]HeLa細胞での Tollと Tol2の転移頻度。ドナーとヘルパーの量を様々な組合 せにし、 Toll (左のパネル)と Tol2 (右のパネル)につ!/、て、転移頻度の測定を行つ た。 Το12のドナープラスミドは、 Tollのドナープラスミドをもとにして作製した。具体的 には、 Tollのドナープラスミドにおいて Tollの左腕を Tol2の塩基配列(GenBankァ クセッシヨン番号 D84375、 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/index.htmU酉己歹 IJ 番号 9)の塩基 1-755で、また右腕を同 4, 147-4,682で置き換えた。 Tol2のヘルパー プラスミドは、引用文献 33の pHel03を使用した。各測定において、プラスミド DNAの
全量を 1,000 ngとした。ドナープラスミドとヘルパープラスミドの量をグラフの下に示し た。 1,000 ngからの不足分はフイラ一プラスミドで補った(フイラ一プラスミドの量の記 載は省略した)。 3つの独立した測定から求めたコロニー数の平均値(土標準誤差)を グラフに示した。
[図 10]Tollと Tol2の相互の影響に関する HeLa細胞を使った試験。プラスミド DNA を組み合わせて、転移頻度の測定を行った。グラフの下に記す 6種類の組合せを用 意した。各測定でのプラスミド DNAの全量は 1,000 ngとした。フィラープラスミドの量 の記載は省略した。グラフより、 Tollのトランスポザーゼと Tol2のトランスポザーゼは それぞれ対応する因子のみを転移させることがわかる。
[図 1 l]Tollトランスポザーゼの cDNA (全長 2,900bp)の塩基配列(DDBJ/EMBL/Ge nBankでのァクセッション番号 AB264112、配列番号 3)、及び推定アミノ酸配列(全長 851aa、配列番号 2)。
[図 12]図 11の続き。
[図 13]図 12の続き。
[図 14]自然に存在する Toll因子の長さの変異。 Tollの両方の末端部とハイブリダィ ズするゲノム DNAのクローン 130個につき、内部の Tollの部分を増幅するための PC Rを行った。使ったプライマーは、 Tollの左端の 30 bp(l〜30番塩基)と右端の 30 bp( 1855〜1826番塩基)で、铸型にはバクテリアのコロニーのかけらを用いた。 PCRの条 件は次の通りである。 [94。C, 2分]、 30 X [94。C, 20秒; 64。C, 20秒; 72。C, 2分], [72。C, 5分]。 PCR後の反応液を 1.0%ァガロースゲルで電気泳動し、増幅が起こっていたク ローンについて、産物の長さを記録した。続いて、増幅が起こっていなかったクローン について、伸長反応の部分を長く(前回 2分のところを 8分)して、 PCRを行った。そし て 0.8%ァガロースゲルで電気泳動して、産物の長さを記録した。同様に、 3回目の PC Rとして、伸長反応をさらに長く(20分)して行い、 0.6%ァガロースゲルで電気泳動し た。このようにして、計 114個の Toll因子についてその長さを明らかにし、その分布を 図示した。
[図 15]ドナープラスミドおよびへルパープラスミド。 a :短いドナープラスミドの作製の手 順。 pDonl855は、 pUC19をベクターとし、 Toll—tyr因子の全域と 8 bpの標的部位重
複 (塩基配列は CCTTTAGC)を含むクローンである。これを铸型にして、短いドナー を作るための PCRを行った。プライマーは、 Tollの端部の配列に合致し、互いに外 側を向き、 5'末端に Sailの切断部位をもつように設計した。産物の DNA断片を Sailで 切断し、両端を T4 DNAライゲースで連結し、いったん環状のプラスミドとした。そのプ ラスミドの Sailサイトにネオマイシン耐性遺伝子を揷入した。ネオマイシン耐性遺伝子 は、プラスミド pCMV-Taglの一部(DDBJファイル AF025668の 1675〜3474番塩基)を 、 Sailサイトをつけたプライマーで増幅して得られたものである。図中の黒い三角は末 端逆向き反復配列、白い三角は標的部位重複、灰色の三角は PCRプライマーを示 す。 b :ヘルパープラスミド。 pHel851aaは完全型のヘルパーである。 Toll転移酵素を コードする配列の全域(851アミノ酸(配列番号 2)、 DDBJファイル AB264112の 31-281 7番塩基)を、プラスミド pCI(Promega Corp., Madison, WI, USA)の CMVプロモーター とポリ A付加シグナルの間に挿入して作製した。 pHel316aaは欠損型のヘルパーであ る。 pHel851aaの塩基配列の一部に PCRで改変を加えて、作製した。 AB264112の 99 6〜1001番塩基の部分の配列はATGAAAで、これは転移酵素中のアミノ酸メチォ二 ンとリジンに対応する。この部分を TAGTAAにして、転移酵素の読み枠の途中に終 止コドンが 2個入るようにした。
園 16]内部が欠失した Toll因子の転移頻度。調べた Toll因子に関して、 Tollの腕 の部分のみを左端に図示してある。ただし、縮尺は全域で統一しているわけではな い。これらをドナーとし、完全型ヘルパー pHel851aa (網かけ長方形)又は欠損型ヘル パー pHel316aa (白の長方形)とともに細胞に導入して転移頻度を調べた。 3回の測 定での平均のコロニー数をグラフで示した。グラフ中の横線は、平均値の標準誤差で ある。
[図 17]異なる長さの Toll因子をもつドナープラスミド。最下部に示す pDon263Mcsは 、クローニング部位をもつ基本のベクターである。 pUC19が本来もっている制限酵素 サイトすベてを予め取り除いてある。ただし、 Hindlllサイトだけは残した。 Tollの左腕 と右腕の結合部には、図に示すように 6種類の制限酵素サイトを設けた。以上の改変 はすべて、各段階の目的を達成できるように 5'末端を修飾したプライマーを準備し、 P CRで行った。中断に示す pDon263McsNeoは、 pDon263Mcsの Kpnlサイトと Pstlサイト
にネオマイシン耐性遺伝子を揷入したものである。上段に示す長方形は、長い Toll 因子を作るために詰め込んだ DNA断片を示す。これらの断片は、バタテリオファー ジ λ (DDBJファイル J02459)の様々な部分を PCRで増幅して作製した。長方形の下 にある数字は、増幅した部分のヌクレオチドの番号である。増幅に使った PCRプライ マーにはその 5'末端に EcoRほたは Hindlllサイトを設けておいた。増幅産物を EcoRI または Hindlllで切断した後、 pDon263McsNeoの各サイトに揷入した。
[図 18]長!/、Toll因子の転移頻度。完全型ヘルパー pHel851aa (網かけ長方形)を組 み合わせた場合と、欠損型ヘルパー pHel316aa (白の長方形)を組み合わせた場合 について転移頻度を測定した。ドナーは、 ExHyの形式で、長方形の下部に示す。 3 回の測定での平均のコロニー数をグラフで示す。縦線は、平均値の標準誤差である
〇
[図 19]揷入点の近辺の塩基配歹 IJ。ネオマイシン耐性となった 2つのコロニー(N1と N2 )に由来する系統から、ゲノム DNAを抽出し、それを Hindlllで消化した。ドナープラス ミドの Toll因子の内部には、 Hindlllサイトがないため、 Toll因子が分断されることは ないと考えられる。消化した DNAを 0.8%ァガロースゲルで電気泳動し、 10〜30 kbに 相当する部分の DNA断片を回収した後、低濃度の状態 (100 r g/500 ^ 1)で T4 DNA ライゲースで末端を結合させた。この DNAを铸型として逆向き PCRを行った。用いた プライマーは、 Tollの各腕の一部に相当する部分 (D42062の 130〜101番塩基と 175 8〜1787番塩基)である。 PCRの条件は次の通りとした。 [94°C, 2分], 36 x [94°C, 20 秒; 64°C, 20秒; 72°C, 5分], [72°C, 5分]。 PCR産物をプラスミドにいったんクロー二 ングして、逆向き PCRのプライマーと同じプライマーで、塩基配列を調べた。揷入点 の近辺の塩基配列を示した。また、ドナープラスミドの対応する部分の塩基配列を、 参照のために並べて示した。ホストの揷入点には、 8 bpの標的部位重複が形成され ていることがわかる。枠で囲んだ部分は、後に行った Toll因子の解析(図 20に詳細 を記す)で PCRプライマーとして用いた部分である。
[図 20]取り込まれた Toll因子の解析。 a :Toll因子の増幅。 PCRの铸型として用い た DNAは、 PDon263McsNeoE20(pDon),および 2つ形質転換体系統(N1と N2)のゲ ノム DNAである。図 19に枠で囲んで示した部分をプライマーに使用した(P0はプラス
ミド pDon、 PIは細胞系統 Nl、 P2は細胞系統 N2に対応する配列を表す)。電気泳動の レーンの上部に記す組合せで、 PCRを行った。 PCRの条件は次の通りとした。 [94°C , 2分], 30 X [98。C, 10秒; 68。C, 20分], [68。C, 10分]。電気泳動は 0.8%ァガロースゲ ルで行い、 20 μ 1の反応液のうちの 2 H 1を流した。 PCR産物としての DNA断片は、 铸型とプライマーの正しい組合せの場合にのみ生じた。 b :制限酵素切断パターンの 比較。 PCR産物をエタノールで沈殿させた後、最終 DNA濃度がほぼ同じになるよう に計算した量の蒸留水に溶解させた。これを制限酵素 BamHIと Kpnlで切断し、 1.0% ァガロースゲルで電気泳動した。 pDon263McsNeoE20は全域の塩基配列がわかって おり、 BamHIと Kpnlで切断すると、 1.5 kbから 11.7 kbの間の 5つの断片が生じる。形質 転換体の細胞系統からの PCR産物でみられた切断パターンは、ドナープラスミドの 場合と同じものであった。
[図 21]インディケ一ターとヘルパーの構成。 pInd263GFPはインディケ一ターであり、 最初にみつ力、つた Toll因子 (Toll—tyr、 1855 bp、配列番号 10)の両末端の部分と 、その間に挿入した GFP遺伝子から成る。これらを保持しているプラスミドは pUC19で ある。 pHel851aaは完全型ヘルパーで、 Toll転移酵素 (851アミノ酸、配列番号 2)をコ ードする配列を、プラスミド pCI(Promega, Madison, WI, USA)の CMVプロモーターとポ リ A付加シグナルとの間に挿入して作製した。 pHel316aaは、 PCRで一部のヌクレオ チドを変更して作った欠損型ヘルパーである。 996〜1,001番塩基の部分の配列は A TGAAAで、これは転移酵素のアミノ酸メチォニンとリジンに対応する。この配列を TA GTAAに変え、転移酵素の ORFの途中で終止コドンが 2個現れるようにした。図では、 プラスミドを構成して!/、る各部に、 GenBankファイルを示す略号とヌクレオチドの番号 を説明として加えてある。略号は次の通りである。 [Toll] D84375 (Toll—tyr因子)、 [TPase] AB264112 (転移酵素遺伝子)、 [pEGFP] U55763(プラスミド pEGFP-Cl; Clon tech Laboratories, Mountain View, CA, USA)。 TSDは標的部位重複を示しており、 その配列は CCTTTAGCである P は CMVプロモーター、 PAはポリ A付加シグナル
CMV
を表す。右端がとがった太線は、完全型および欠損型ヘルパーに含まれる読み枠で ある。黒い三角は、 Toll— tyr因子にある末端逆向き反復配列を示す。小さい白い 三角は、ェクシジョンの検出に用いた PCRプライマーの位置と向きを示す。
[図 22]X.laevisの胚で起こったェクシジョンの PCRでの検出。 A1-12は、 PCR解析に 使用した、 Aのセットからの 12個の胚である。 B1-12は同様に Bのセットからの 12個の 胚である。上段は、 Toll因子の全域を増幅する PCRを行った後、反応液を電気泳 動した結果である。 PCRの条件は次の通りとした。 [94°C, 120秒], 33x [94°C, 20秒; 6 4°C, 20秒; 68°C, 150秒], [68°C, 60秒]。 20 1の反応液の内 5 1を電気泳動に供し た。ァガロースの濃度は 1.0%である。 Aと Bのすベてのサンプルで 2.4 kbのバンドがみ られる。下段は、ェクシジョンの産物を効率よく増幅する PCRの結果である。伸長反 応の部分の時間を 40秒に縮めたこと以外、条件は 1回目の PCRと同じである。尚、電 気泳動におけるァガロースの濃度は 2.0%とした。 535 bpに近い大きさのバンド力 SA1-1 2のサンプルに認められる。 B1-12のサンプルには同バンドは認められない。
園 23]ェクシジョンの切断点付近の塩基配歹 IJ。最上段の plndは、参照のために示す p Ind263GFPの配列である。 TSDは標的部位重複を示す。これは pInd263GFPに始めか ら含まれていたものである。枠で囲んだヌクレオチドは、 pInd263GFPにはなかったヌ クレオチドである。図に入りきれないために長さのみを [ ]で示した部分もある。該当 する部分の配列は次の通りである。 [60 bp], L09137 (pUC19)の 504〜445番塩基、 [3 0 bp], D84375 (To卜 tyr)の 1,821〜1,850番塩基。
[図 24]動物界の系統樹。門または亜門を単位とした標準的な系統樹を図示した。
[図 25]実験の全体の流れ。途中から 2つの経路に分かれている。左側がェクシジョン の検出、右側がインサーシヨンの検出である。
[図 26]RNA合成の铸型としたプラスミド。プラスミド pTem851aaは、 SP64 Poly(A) Vec tor (Promega corp.)に、 Toll転移酵素をコードする配列(DDBJのファイル AB031079 の nt 31-2,817)をはさんで作製した。「Pro」は SP6プロモーター、「An」はポリ (A)配列 を示す。 pTem851aaを铸型として RNA合成の反応を行うと、約 2,900ヌクレオチドから なる RNA(mRNA851aa)が作られる。この RNAは完全長の転移酵素をコードする。途 中の 6塩基の部分 (ATGAAA)は、アミノ酸のメチォニンとリジンに対応する。プラスミド pTem316aaは、 6塩基の部分を 2個の終止コドン (TAGTAA)に変更したものである。こ のプラスミドからは、同じ長さの RNA(mRNA316aa)が作られ、その RNAは、終止コド ンの直前までのアミノ酸をコードする。
[図 27]ドナープラスミド。 白い部分は、メダカのチロシナーゼ遺伝子(DDBJのファイル AB010101)の一部である。黒い部分は、 Toll因子(DDBJのファイル D84375)である 。三角形は、ェクシジョンを検出するためのプライマーの位置と向きを示す。塩基配 列は、つぎの通りである。 Pexl:AB010101の 3,594- 3,623; Pex2:AB010101の 3,866-3, 895; Pinl:D84375の 1,758-1,787; Pex2:D84375の 101-130。
[図 28]ェクシジョンを検出する PCR。それぞれのレーンに記す DNAを铸型として PC Rを行った。铸型の DNA量は、ドナープラスミドは 10 pg、胚から回収した DNAは胚 1 個に相当する分とした。プライマーは、 Pexlと Pex2である。上段は、ドナープラスミドが 回収されていることを確認するための PCRである。条件は [94°Cで 120秒]、 25 x [94°C で 20秒; 64°Cで 20秒; 72°Cで 150秒]、 [72°Cで 150秒]とした。下段は、ェクシジョンを 検出するための PCRである。条件は、 [94°Cで 120秒]、 40 x [94°Cで 20秒; 64°Cで 20 秒; 72°Cで 20秒]、 [72°Cで 20秒]とした。
[図 29]ェクシジョン検出の PCR産物の塩基配歹 IJ。 「ドナー」は、ドナープラスミド上で の、 Toll因子の両端部およびそれに続く部分の塩基配列である。「Toll」は Toll因 子、「チロシナーゼ」はメダカのチロシナーゼ遺伝子に由来する部分、「TSD」は標的 部位重複を示す。「A1」、「A2」、「A3」は、それぞれの処理区の PCR産物である。 3つ のサンプルとも、 Toll因子の全域が消失しており、その部分に別の配列が入ってい る。図中にその長さを記し、それぞれの塩基配列を下部に示している。
園 30]インサーシヨンとして検出されたクローンの塩基配歹 IJ。「ドナー」は、ドナーブラ スミド上での Toll因子の両端部及びそれに続く部分の塩基配列である。「クローン 1」 と「クローン 2」は、逆向き PCRの手法で得た 2個のクローンの、対応する部分の塩基 配列である。 Toll因子の部分を白抜きの文字で示す。
発明を実施するための最良の形態
説明の便宜上、本明細書中で使用する用語の一部についてその定義 ·意味を以 下にまとめて記す。
本明細書にお!/、て用語「〜を含む」又「〜含んでなる」等の包括的な表現は、「〜か らなる」や「〜である」の意味をも含む表現として使用される。
本発明において「アミノ酸配列をコードする塩基配列」とは、当該塩基配列からなる
ポリヌクレオチドを発現させた場合に当該アミノ酸配列を有するタンパク質が得られる ことになる塩基配列をいう。従って、アミノ酸配列に対応する配列を有する限り、ァミノ 酸配列に対応しない配列部分を有する塩基配列であってもよい。また、コドンの縮重 も当然に考慮される。尚、「塩基配列がコードするアミノ酸配列」との表現においても 当然にコドンの縮重が考慮される。
用語「ポリヌクレオチド」は、 DNA及び PNA(p印 tide nucleic acid)、 RNA等、任意 の形態のポリヌクレオチドをいう。本発明でのポリヌクレオチドは好ましくは DNA又は mRNAである。
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。本 発明のトランスポザーゼに関して使用する場合の「単離された」とは、本発明のトラン スポザーゼが天然材料に由来する場合、当該天然材料の中で当該酵素以外の成分 を実質的に含まな!/、(特に夾雑タンパク質を実質的に含まな!/、)状態をレ、う。具体的 には例えば、本発明の単離されたトランスポザーゼでは、夾雑タンパク質の含有量は 重量換算で全体の約 20%未満、好ましくは約 10%未満、更に好ましくは約 5%未満、 より一層好ましくは約 1%未満である。一方、本発明のトランスポザーゼが遺伝子工学 的手法によって調製されたものである場合の用語「単離された」とは、使用された宿 主細胞に由来する他の成分や培養液等を実質的に含まない状態をいう。具体的に は例えば、本発明の単離されたトランスポザーゼでは夾雑成分の含有量は重量換算 で全体の約 20%未満、好ましくは約 10%未満、更に好ましくは約 5%未満、より一層 好ましくは約 1%未満である。尚、それと異なる意味を表すことが明らかでない限り、 本明細書において単に「トランスポザーゼ」と記載した場合は「単離された状態のトラ ンスポザーゼ」を意味する。トランスポザーゼの代わりに使用される用語「酵素」につ いても同様である。
ポリヌクレオチドについて使用する場合の「単離された」とは、もともと天然に存在し ているポリヌクレオチドの場合、典型的には、天然状態において共存するその他の核 酸力 分離された状態であることをいう。但し、天然状態において隣接する核酸配列 (例えばプロモーター領域の配列やターミネータ一配列など)など一部の他の核酸成 分を含んでいてもよい。例えばゲノム DNAの場合の「単離された」状態では、好ましく
は、天然状態において共存する他の DNA成分を実質的に含まない。一方、 cDNA 分子など遺伝子工学的手法によって調製される DNAの場合の「単離された」状態で は、好ましくは、細胞成分や培養液などを実質的に含まない。同様に、化学合成によ つて調製される DNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、 dNTPなどの前 駆体 (原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない。尚、それと 異なる意味を表すことが明らかでない限り、本明細書において単に「ポリヌクレオチド 」と記載した場合には単離された状態のポリヌクレオチドを意味する。
本明細書において用語「DNA導入」は、 目的の如何を問わず、標的細胞中へ DN Aを導入することを意味する。従って、遺伝子改変(突然変異誘発や遺伝子ターゲッ ティングなど)も DNA導入の概念に含まれる。
(Toll因子のトランスポザーゼ)
本発明の第 1の局面は、 Toll因子のトランスポザーゼの同定に成功したという成果 に基づき、 Toll因子のトランスポザーゼを提供する。「Toll因子のトランスポザーゼ」 とは、メダカより見出されたトランスポゾンである Toll因子を転移させ得る酵素をいう。 尚、以下では、特に言及しない場合の用語「トランスポザーゼ」は「Toll因子のトラン スポザーゼ」を意味する。
一態様において本発明のトランスポザーゼは、配列番号 1で示される塩基配列がコ ードするアミノ酸配列を有する。後述の実施例で示す通り、当該塩基配歹 I]は Toll因 子のトランスポザーゼをコードする ORF (オープン 'リーディング.フレーム)の塩基配 歹 IJ (終止コドンを含む)である。この ORFがコードする推定アミノ酸配列として、配列番 号 2で示されるアミノ酸配列(851アミノ酸)が得られた。この事実に基づき本発明の他 の一態様は、配列番号 2のアミノ酸配歹 IJ (図;!;!〜 13)を有するタンパク質からなる。尚 、当該アミノ酸配列に対応する cDNA配列(ポリ Aを含む、図;!;!〜 13、配列番号 3) はァクセッション番号 AB264112で DDBJ/EMBL/GenBankに登録されて!/、る(2006年 12月 13日の時点では未公開)。
本発明のトランスポザーゼは、基質 DNAの塩基配列に関する特異性特異性が高く 、 Toll因子と同様にメダカより見出されたトランスポゾンである Tol2因子に対しては 実質的な作用を有しない。
[0009] 一般に、あるタンパク質のアミノ酸配列の一部に改変を施した場合において改変後 のタンパク質が改変前のタンパク質と同等の機能を有することがある。即ちアミノ酸配 歹 IJの改変がタンパク質の機能に対して実質的な影響を与えず、タンパク質の機能が 改変前後において維持されることがある。そこで本発明は他の態様として、配列番号
2で示されるアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を有し、 Toll因子を転移させる酵素 活性を有するタンパク質(以下、「相同タンパク質」ともいう)を提供する。ここでの「相 同なアミノ酸配歹 IJ」とは、配列番号 2で示されるアミノ酸配列と一部で相違する力 当 該相違がタンパク質の機能(ここでは Toll因子を転移させる酵素活性)に実質的な 影響を与えて!/、な!/、アミノ酸配列のことを!/、う。
「アミノ酸配列の一部の相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する 1〜数個 のアミノ酸の欠失、置換、若しくは 1〜数個のアミノ酸の付カロ、揷入、又はこれらの組 合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じて!/、ることを!/、う。ここでのアミノ酸配列 の相違は、 Toll因子を転移させる酵素活性が保持される限り許容される(活性の多 少の変動があってもょレ、)。この条件を満たす限りアミノ酸配列が相違する位置は特 に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの複数とは例えば 全アミノ酸の約 30%未満に相当する数であり、好ましくは約 20%未満に相当する数で あり、さらに好ましくは約 10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約 5%未満 に相当する数であり、最も好ましくは約 1%未満に相当する数である。即ち相同タンパ ク質は、配列番号 2のアミノ酸配列と例えば約 70%以上、好ましくは約 80%以上、さらに 好ましくは約 90%以上、より一層好ましくは約 95%以上、最も好ましくは約 99%以上の 同一性を有する。
[0010] 好ましくは、 Toll因子を転移させる酵素活性に必須でないアミノ酸残基において保 存的アミノ酸置換を生じさせることによって相同タンパク質を得る。ここでの「保存的ァ ミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置 換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖 (例えばリシン、アル ギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばァスパルギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性 側鎖(例えばグリシン、ァスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システ イン)、非極性側鎖(例えばァラニン、ノ リン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フエ二
ルァラニン、メチォニン、トリプトファン)、 β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソ ロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フエ二ルァラニン、トリプトファン、ヒスチジン )のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、 同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの塩基配列(以下、これらを含む用語として
「二つの配列」を使用する)の同一性(% )は例えば以下の手順で決定することができ る。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギヤッ プを導入して第二の配列とのァライメントを最適化してもよレ、)。第一の配列の特定位 置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)力 第二の配列における対応する位置の 分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。二つの配列の同一性 は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、同一性(%)
=同一位置の数/位置の総数 X 100)、好ましくは、ァライメントの最適化に要した ギャップの数およびサイズも考慮に入れる。
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能で ある。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、 Karlinおよび Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、 Karlinおよび Alt schul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたァルゴリズ ムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、 Altschulら (1990 ) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載の NBLASTプログラムおよび XBLASTプログラム(バ 一ジョン 2.0)に組み込まれている。特定のアミノ酸配列に相同的なアミノ酸配列を得 るには例えば、 XBLASTプログラムで score = 50、 wordlength = 3として BLASTポリぺ プチド検索を行えばょレ、。特定の塩基配列に相同的な塩基配列を得るには例えば、 NBLASTプログラムで score = 100、 wordlength = 12として BLASTヌクレオチド検索を 行えばよい。比較のためのギャップァライメントを得るためには、 Altschulら(1997) Am ino Acids Research 25(17):3389_3402に記載の Gapped BLASTが利用可能である。 B LASTおよび Gapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えば XBLAS Tおよび NBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくは http:〃 ww w.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的ァルゴリズ
ムの例としては、 Myersおよび Miller (1988) Comput Appl Biosci. 4: 11-17に記載のァ ルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えば GENESTREAMネットワークサー バー(IGH Montpellier,フランス)または ISRECサーバーで利用可能な ALIGNプログ ラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較に ALIGNプログラムを利用する場合は 例えば、 PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ = 12、ギャップペナル ティ =4とすることができる。
二つのアミノ酸配列の同一性を、 GCGソフトウェアパッケージの GAPプログラムを用 いて、 Blossom 62マトリックスまたは PAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重 = 12、 10、 8、 6、又は 4、ギャップ長加重 =2、 3、又は 4として決定すること力 Sできる。また、二 つの核酸配列の相同度を、 GCGソフトウェアパッケージ(http:〃 www.gcg.comで利用 可能)の GAPプログラムを用いて、ギャップ加重 = 50、ギャップ長加重 =3として決定 すること力 Sでさる。
本発明のトランスポザーゼは、遺伝子工学的手法によって容易に調製することがで きる。例えば、本発明のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドで適当な宿主 細胞(例えば大腸菌)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収 することにより調製すること力 Sできる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜精製 される。このように組換えタンパク質として本発明のトランスポザーゼを得ることにすれ ば種々の修飾が可能である。例えば、本発明のトランスポザーゼをコードする DNAと 他の適当な DNAとを同じベクターに揷入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク 質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質 からなるトランスポザーゼを得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、 あるいは N末端若しくは C末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。 以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機 能の付加等が可能である。
尚、本発明のトランスポザーゼの調製法は遺伝子工学的手法によるものに限られな い。例えば天然に存在するものであれば、天然材料から標準的な手法 (破砕、抽出、 精製など)によって本発明のトランスポザーゼを調製することもできる。尚、本発明のト ランスポザーゼは、通常、単離された状態に調製される。
[0013] (Toll因子のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド)
本発明の第 2の局面は本発明のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを提 供する。一態様において本発明のポリヌクレオチドは、配列番号 2で示されるアミノ酸 配列をコードする塩基配列からなる。当該塩基配列の具体例を配列番号 1、配列番 号 3及び配列番号 4に示す。配列番号 1の塩基配列は、 Toll因子のトランスポザー ゼをコードする ORFとして見出された配列である。また、配列番号 3の塩基配列は、 T oil因子のトランスポザーゼをコードする全長 cDNAとして見出された配列に相当す る。配列番号 4の塩基配列は、当該全長 cDNAに対するゲノム DNA配列(4,355塩 基対、標的部位重複配列 (TSD)を含まない)に相当する。
[0014] ここで、一般に、あるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの一部に改変を施した 場合において、改変後のポリヌクレオチドがコードするタンパク質力 改変前のポリヌ クレオチドがコードするタンパク質と同等の機能を有することがある。即ち塩基配列の 改変が、コードするタンパク質の機能に実質的に影響を与えず、コードするタンパク 質の機能が改変前後において維持されることがある。そこで本発明は他の態様として 、配列番号 1、配列番号 3及び配列番号 4のいずれかで示される塩基配列と相同な 塩基配列であって、 Toll因子を転移させる酵素活性を有するタンパク質をコードす る塩基配列からなるポリヌクレオチド(以下、「相同ポリヌクレオチド」ともいう)を提供す る。ここでの「相同な塩基配歹 IJ」とは、配列番号 1、配列番号 3及び配列番号 4のいず れかで示される塩基配列と一部で相違する力 S、当該相違によってそれがコードするタ ンパク質の機能 (ここでは Toll因子を転移させる酵素活性)が実質的な影響を受け て!/、な!/、塩基配列のことを!/、う。
[0015] 相同ポリヌクレオチドの具体例は、配列番号 1、配列番号 3及び配列番号 4のいず れかで示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリ ンジェントな条件下でハイブリダィズするポリヌクレオチドである。ここでの「ストリンジェ ントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッド が形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であつ て例 は丄 loiecularし loning (Third ition, し old Spring Harbor Laboratory Press, N ew York)やし urrent protocols in molecular biology (edited by Frederick M. Ausubel
et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、 ハイブリダィゼーシヨン液(50%ホルムアミド、 10 X SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium ci trate, pH 7.0), 5 X Denhardt溶液、 1 % SDS、 10%デキストラン硫酸、 lO g/mlの変 性サケ精子 DNA、 50mMリン酸バッファー (ρΗ7·5))を用いて約 42°C〜約 50°Cでイン キュベーシヨンし、その後 0.1 X SSC、 0.1 % SDSを用いて約 65°C〜約 70°Cで洗浄する 条件を挙げること力 Sできる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイプリ ダイゼーシヨン液として 50%ホルムアミド、 5 X SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate , pH 7.0), I X Denhardt溶液、 1 %SDS、 10%デキストラン硫酸、 10 g/mlの変性サケ 精子 DNA、 50mMリン酸バッファー (ρΗ7·5))を用いる条件を挙げることができる。 相同ポリヌクレオチドの他の具体例として、配列番号 1、配列番号 3及び配列番号 4 のいずれかで示される塩基配列を基準として 1若しくは複数の塩基の置換、欠失、揷 入、付カロ、又は逆位を含む塩基配列からなり、 Toll因子を転移させる酵素活性を有 するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。塩基の置換や欠 失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該ポリヌクレオチド 力 Sコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異 なるが例えば 2〜40塩基、好ましくは 2〜20塩基、より好ましくは 2〜; 10塩基である。 以上のような相同ポリヌクレオチドは例えば、制限酵素処理、ェキソヌクレアーゼゃ D NAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edi tion, Cnapter ,Cold Spring riarbor Laboratory Press, New Yorkノゃフノタム突然 変異 ¾人法 (Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13,Cold Spring Harbor Lab oratory Press, New York)による変異の導入などを利用して、塩基の置換、欠失、揷 入、付力 P、及び/又は逆位を含むように配列番号 1、配列番号 3及び配列番号 4のい ずれかで示される塩基配列を有するポリヌクレオチドを改変することによって得ること 力 Sできる。また、紫外線照射など他の方法によっても相同ポリヌクレオチドを得ること ができる。
相同ポリヌクレオチドの更に他の例として、 SNP (—塩基多型)に代表される多型に 起因して上記のごとき塩基の相違が認められるポリヌクレオチドを挙げることができる
[0017] 本発明のポリヌクレオチドは、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を 参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを 用いることによって単離された状態に調製することができる。具体的には、メダカ(Ory zias latipes)ゲノム DNAライブラリー又は cDNAライブラリー、或はメダカの細胞抽出 液から、本発明のポリヌクレオチドに対して特異的にハイブリダィズ可能なオリゴヌク レオチドプローブ ·プライマーを適宜利用して調製することができる。オリゴヌクレオチ ドプローブ ·プライマーは、市販の自動化 DNA合成装置などを用いて容易に合成す ること力 Sできる。尚、本発明のポリヌクレオチドを調製するために用いるライブラリーの 作製方法については、例えば Molecular Cloning, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを麥照でき ·ο。
例えば、配列番号 3で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドであれば、当該塩 基配列又はその相補配列の全体又は一部をプローブとしたハイブリダィゼーシヨン 法を利用してメダカ cDNAライブラリーより単離することができる。また、当該塩基配 列の一部に特異的にハイブリダィズするようにデザインされた合成オリゴヌクレオチド プライマーを用いた核酸増幅反応(例えば PCR)を利用して増幅及び単離することが できる。
[0018] (Toll因子のトランスポザーゼを含む発現コンストラクト)
本発明のさらなる局面は本発明のポリヌクレオチドを含む発現コンストラクトに関す る。好ましくは、本発明の発現コンストラクトにはプロモーターが組み込まれる。但し、 発現コンストラクトが含有するポリヌクレオチドが本来的にプロモーター領域を有して
V、る場合には、プロモーターを省略することができる。
プロモーターは、本発明のポリヌクレオチドに作動可能に連結している。当該構成 の発現コンストラクトではプロモーターの作用によって、本発明のポリヌクレオチドを標 的細胞内で強制発現させることが可能となる。ここで、 「プロモーターが特定のポリヌ クレオチド配列に作動可能に連結している」とは、「プロモーターの制御下に特定の ポリヌクレオチド配列が配置されている」ことと同義であり、通常、プロモーターの 3'末 端側に直接又は他の配列を介して特定のポリヌクレオチド配列が連結されることにな
[0019] プロモーターには、 CMV-IE (サイトメガロウィルス初期遺伝子由来プロモーター)、 S V40ori、レトロウイノレス LTP、 SR a、 EF1 α、 βァクチンプロモーター等を使用可能で ある。アセチルコリンレセプタープロモーター、エノラーゼプロモーター、 L7プロモー ター、ネスチンプロモーター、ァノレブミンプロモーター、ァノレファフエトプロテインプロ モーター、ケラチンプロモーター、インスリンプロモーター等、哺乳動物組織特異的 プロモーターを使用してもよい。
[0020] 本発明の発現コンストラクト内にポリ Α付加シグナル酉己列、ポリ A配列、ェンハンサ 一配列、選択マーカー配列等を配置することもできる。ポリ A付加シグナル配列又は ポリ A配列の使用によって、発現コンストラクトから生ずる mRNAの安定性が向上す る。ポリ A付加シグナル配列又はポリ A配列は、下流側にお!/ヽて本発明のポリヌクレ ォチドに連結される。一方、ェンハンサー配列の使用によって発現効率の向上が図 られる。また、選択マーカー配列を含有する発現コンストラクトを使用すれば、選択マ 一力一を利用して発現コンストラクトの導入の有無 (及びその程度)を確認することが できる。
[0021] 尚、プロモーター、本発明のポリヌクレオチド酉己列、ェンハンサー配列(必要な場合 )、及び選択マーカー配列(必要な場合)の揷入操作等は、制限酵素及び DNAリガ ーゼを用いた方法等、標準的な組換え DNA技術(例えば、 Molecular Cloning, Thir d dition, 1.84, し old Spring Harbor Laboratory Press, New forkを参照する^と力 きる)によって fiうことができる。
[0022] 本発明の発現コンストラクトは、本発明のポリヌクレオチド配列を標的細胞内へ導入 するために使用することができる。このような目的に使用可能な限り発現コンストラクト の形態は特に限定されないが、好ましくは発現ベクターの形態をとる。ここでの「発現 ベクター」とは、それに揷入されたポリヌクレオチドを目的の細胞 (標的細胞)内に導 入し且つ当該細胞内にぉレ、て発現させることが可能な核酸性分子を!/、い、ウィルス ベクター及び非ウィルスベクターを含む。ウィルスベクターを用いた遺伝子導入法は 、ウィルスが細胞へと感染する現象を巧みに利用するものであり、高い遺伝子導入効 率が得られる。ウィルスベクターとしてアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウィルスべ クタ一. レトロウイノレスベタター、レンチウイノレスベクター、へノレぺスゥイノレスベクター.
センダイウィルスベクター等が開発されている。この中でアデノ随伴ウィルスベクター 、レトロウイルスベクター、レンチウィルスベクターではベクターに組み込んだ外来遺 伝子が宿主染色体へと組み込まれ、安定かつ長期的な発現が期待できる。レトロウイ ノレスベクターの場合はウィルスゲノムの宿主染色体への組み込みには細胞の分裂が 必要であることから非分裂細胞への遺伝子導入には適さない。一方、レンチウィルス ベクターやアデノ随伴ウィルスベクターは非分裂細胞においても感染後に外来遺伝 子の宿主染色体への組み込みが生ずる。従って、これらのベクターは神経細胞や肝 細胞などの非分裂細胞において安定かつ長期的に外来遺伝子を発現させるために 有効である。
[0023] 各ウィルスベクターは既報の方法に従い又は市販される専用のキットを用いて作製 すること力 Sできる。例えば、アデノウイルスベクターの作製は COS-TPC法や完全長 D NA導入法などで行うことができる。 COS-TPC法は、 目的の cDNA又は発現カセットを 組み込んだ組換えコスミドと、親ウィルス DNA-末端タンパク質複合体(DNA-TPC)を 293細胞に同時トランスフエクシヨンし、 293細胞内でおこる相同組換えを利用して組 換えアデノウイルスを作製する方法である(Miyake,S., Makimura,M., anegae,Y., Ha rada,S., TaKamori, . , Tokuda,C, and Saito,I. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93 , 1320.)。一方、完全長 DNA導入法は、 目的の遺伝子を揷入した組換えコスミドを制 限消化処理した後、 293細胞にトランスフエクシヨンすることによって組換えアデノウィ ルスを作製する方法である(寺島美保、近藤小貴、鐘ケ江裕美、斎藤泉 (2003)実験 医学 21 (7) 931·)。 COS- TPC法は Adenovirus Expression Vector Kit (Dual Version) ( タカラバイオ株式会社)、 Adenovirus genome DNA-TPC (タカラバイオ株式会社)を 禾 IJ用して行うこと力できる。また、完全長 DNA導入法は、 Adenovirus Expression Vect or Kit (Dual Version) (タカラバイオ株式会社)を利用して行うことができる。
[0024] 一方、レトロウイルスベクターは以下の手順で作製することができる。まず、ウィルス ゲノムの両端に存在する LTR (Long Terminal R印 eat)の間のパッケージングシグナ ル配列以外のウィルスゲノム(gag、 pol、 env遺伝子)を取り除き、そこへ目的の遺伝子 を揷入する。このようにして構築したウィルス DNAを、 gag、 pol、 env遺伝子を構成的に 発現するパッケージング細胞に導入する。これによつて、パッケージングシグナル配
列をもつベクター RNAのみがウィルス粒子に組み込まれ、レトロウイルスベクターが産 生される。
[0025] アデノベクターを応用ないし改良したベクターとして、ファイバータンパク質の改変 により特異性を向上させたもの(特異的感染ベクター)や目的遺伝子の発現効率向 上が期待できる guttedベクター(ヘルパー依存性型ベクター)などが開発されてレ、る。 本発明の発現ベクターをこのようなウィルスベクターとして構築してもよい。
[0026] 非ウィルスベクターとしてリボソーム、正電荷型リボソーム(Feigner, P丄., Gadek, T.
R., Holm, M. et al. , Proc. Natl. Acad. Sci., 84:7413-7417, 1987)、 HVJ(Hemagglutin ating virus of Japan)—リボソーム (Dzau, V.J., Mann, M., Morishita, R. et al., Proc. N atl. Acad. Sci., 93: 11421-11425, 1996、 aneda, Υ·, Saeki, Y. & Morishita, R., Mole cular Med. Today, 5:298-303, 1999)等が開発されている。本発明の発現ベクターを このような非ウィルス性ベクターとして構築してもよい。
[0027] (Toll因子を利用した DNA導入システム)
本発明の他の局面は、 Toll因子を利用した DNA導入システムに関する。本発明 の DNA導入システムは標的細胞へ特定の DNAを導入することに利用される。換言 すれば、本発明の DNA導入システムを用いれば標的細胞のゲノム DNA内へ特定 の DNAを導入することができる。このように本発明の DNA導入システムは、遺伝子 導入や遺伝子改変等、遺伝子操作の手段として利用される。
本発明の DNA導入システムはドナー要素とヘルパー要素を含む。ドナー要素とへ ノレパー要素は、好ましくは別の構成要素としてシステム中に存在する。即ち、ドナー 要素とヘルパー要素が物理的に分離された状態であることが好ましい。但し、ドナー 要素とヘルパー要素を単一の構成体中に併存させることにしてもよい。
ドナー要素は標的細胞内へ目的の DNAを供給するものであり、トランスポザーゼ 遺伝子を欠損した Toll因子に目的の DNAが揷入された構造を有する。
「標的細胞」とは、本発明の DNA導入システムが適用される細胞、即ち本発明の D NA導入システムを用いた遺伝子操作の対象となる細胞を!/、う。ここでの「標的細胞」 は脊椎動物細胞であり、具体的には例えば哺乳動物(ヒト、サル、ゥシ、ゥマ、ゥサギ 、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等)、鳥類 (ニヮトリ、ゥズラ等)、魚類 (メダカ、
ゼブラフィッシュ等)、両生類 (力エルなど)等の各種細胞、例えば心筋細胞、平滑筋 細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、骨細胞、軟骨細胞、破骨細胞、実質細胞、表皮角化 細胞(ケラチノサイト)、上皮細胞(皮膚表皮細胞、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、 口 腔粘膜上皮、毛包上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、腸管粘膜上 皮細胞など)、内皮細胞(角膜内皮細胞、血管内皮細胞など)、神経細胞、グリア細 胞、脾細胞、勝臓 /3細胞、メサンギゥム細胞、ランゲルノヽンス細胞、肝細胞、又はこれ らの前駆細胞、或いは間葉系幹細胞(MSC)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細 胞(EG細胞)、成体幹細胞、受精卵などを使用することができる。また、正常細胞の 他、癌細胞など何らかの異常を来した細胞、或いは HeLa細胞、 CHO細胞、 Vero細 胞、 HEK293細胞、 HepG2細胞、 COS— 7細胞、 NIH3T3細胞、 Sf 9細胞などの 株化された細胞等を標的細胞として使用することができる。
単離された状態の標的細胞、又は生物個体を構成した状態の標的細胞に対して 本発明の DNA導入システムが適用される。従って、 in vitro, in vivo及び ex vivoのい ずれの環境下でも本発明を実施することが可能である。ここでの「単離された」とは、 その本来の環境 (例えば生物個体を構成した状態)から取り出された状態にあること をいう。従って通常は、単離された標的細胞は培養容器内又は保存容器内に存在し 、それへの in vitroでの人為的操作が可能である。具体的には、生体から分離され、 生体外で培養状態にある細胞 (株化された細胞を含む)は、単離された標的細胞とし ての適格を有する。尚、上記の意味において単離された状態にある限り、組織体を 形成した状態であっても単離された細胞である。
「単離された標的細胞」は生物個体より調製することができる。一方、独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター、独立行政法人製品評価技術基盤機構、 AT じし (American T ype し ulture し oliection)、 DMV Z (German Collection or icroorganis ms and Cell Cultures)などより入手した細胞を、単離された標的細胞として使用する ことあでさる。
本発明の一態様では、ヒト個体を構成した状態の細胞以外の脊椎動物細胞に対し て本発明の DNA導入システムが適用される。つまり、この態様では、 DNA導入シス テムを実施する際、ヒト個体から単離された状態にある細胞、又はヒト以外の脊椎動
物の細胞(個体を構成した状態であるか否かを問わな!/、)が標的細胞となる。
ドナー要素に用いられる Toll因子はトランスポザーゼ遺伝子を欠損している。「トラ ンスポザーゼ遺伝子を欠損している」とは、機能的なトランスポザーゼ遺伝子が含ま れないことを意味し、トランスポザーゼ遺伝子が完全に欠失している状態に限らず、 遺伝子としての機能を発揮しない限りにおいてトランスポザーゼ遺伝子が部分的に 残存している状態をも含む。即ち、配列の一部が変更された結果、その機能は失つ ているものの、変更に係る部分以外の配列は残存した状態のトランスポザーゼ遺伝 子が存在する状態も「トランスポザーゼ遺伝子を欠損して!/、る」とレ、える。
Toll因子はメダカのゲノム中に 100〜200コピー程度存在する DNA型因子であり ( oga A, Sakaizumi M, Hori H (2002) Zoolog Sci 19: 1-6· (引用文献 10) )、チロシナ ーゼ遺伝子に揷入した断片として発見された(Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H (1995) Mol Gen Genet 249: 400-405· (引用文献 11) )。この断片(Toll— tyr、 1 ,855 塩基対、標的部位重複配列 (TSD)を含まな!/、)の配列(配列番号 10)は、ァクセッシ ヨン番号 D42062で GenBankに登録されている。 Toll—tyrの解析から、 Toll因子に 特徴的な逆方向反復配列が同定された(Koga A, Sakaizumi M, Hori H (2002) Zoolo g Sci 19: 1-6. (引用文献 10) )。この知見に鑑み、本発明の好ましい一態様では、配 列番号 5で示される逆方向反復配列を 5 '側末端部に備え、且つ配列番号 6で示され る逆方向反復配列を 3 '側末端部に備える Toll因子が用いられる。即ちこの態様の Toll因子では、そのセンス鎖の 5 '末端部に 5'-cagtagcggttcta-3' (配列番号 5)から なる配列が存在し、同様にセンス鎖の 3 '末端部に 5'-tagaaccgccactg-3' (配列番号 6 )からなる配列が存在する。尚、 Toll—tyrを含め、これまでに報告された Toll因子 は全てトランスポザーゼ遺伝子を欠損しており、本発明における Toll因子としての適 格を有する。本発明で使用可能な Toll因子の具体的な例としてその塩基配列を配 列番号 10〜; 12に示す。尚、配列番号 1 1で示す塩基配列は、 Toll— tyrの内部 886 塩基対を取り除レ、たクローンの配列(969塩基対)であり、 Toll tyrと同様に転移す ることを確認できている。また、配列番号 12で示す塩基配列は、 Toll— tyrの内部 1, 576塩基対を取り除き、他の DNA断片を揷入するための制限酵素 6種の認識配列を 加えたクローンの配列(297塩基対)であり、 Toll tyrと同様に転移することを確認
できている。
これらの中のいずれかの改変体を用いることもできる。ここでの「改変体」とは、配列 番号 10〜; 12のいずれかで示される塩基配列と相同な塩基配列からなり、改変前の ポリヌクレオチド分子と同様にトランスポゾンとして機能するポリヌクレオチド分子をい う。改変体の末端には、配列番号 2で示されるアミノ酸配列を有するトランスポザーゼ が結合し得る。尚、用語「相同」については、上記の「Toll因子のトランスポザーゼを コードするポリヌクレオチド」の欄における説明が援用される。
[0030] 後述の実施例に示す通り、本発明者らの更なる検討によって、 Toll— tyrの内部 1,
592塩基対(5 '末端から数えて 158番目の塩基から 1749番目の塩基まで)を欠失させ た場合においても、転移効率を損なわないことが判明した。この知見に基づき本発明 の一態様では、 Toll— tyrの塩基配列(配列番号 10で示される塩基配列)の内、 5 ' 末端から数えて 158番目の塩基から 1749番目の塩基まで(1592塩基対)を少なくとも 欠失させることによって得られる、 5 '末端側 DNA及び 3 '末端側 DNAからなる Toll 因子を用いる。換言すれば、配列番号 10で示される塩基配列の 5 '末端部(最長 157 塩基対)の DNAと、配列番号 10で示される塩基配列の 3 '末端部(最長 106塩基対) の DNAの間に目的の DNAが揷入された構造のドナー要素が使用されることになる 。転移能に不要な内部領域を可能な限り欠失させることによって、搭載可能な DNAの サイズの最大化が図られる。上記の通り内部領域 1592塩基対を欠失させた場合、 20 kbを越えるサイズの DNAを導入可能であることが示された(後述の実施例)。尚、ここ での 5 '末端側 DNAの具体例は、配列番号 21で示される塩基配列からなる DNA ( 1 57塩基対)であり、 3 '末端側 DNAの具体例は、配列番号 22で示される塩基配列か らなる DNA ( 106塩基対)である。
[0031] Toll因子は、メダカゲノム DNAを铸型とし、 Toll因子に特異的なプライマー(後述 の実施例を参照)を用いた PCR等によって容易に調製することができる。調製法の詳 細については後述の実施例や、 oga A, Sakaizumi M, Hori H (2002) Zoolog Sci 19: 1-6·、 Tsutsumi M, Imai S, Kyono-Hamaguchi Y, Hamaguchi S, Koga A, Hori H (20 06) Pigment Cell Res 19: 243-247·等を参考にすることができる。
[0032] ドナー要素に含まれる「目的の DNA」とは、本発明の DNA導入システムによって
標的細胞のゲノム DNAに導入される DNAをいう。本発明の DNA導入システムは、 遺伝子の機能解析、特定機能の改善ないし回復(治療)、新たな形質の付加、分化 誘導、有用タンパク質 (インターフェロン、インスリン、エリスロポエチン、抗体など)の 産生、トランスジエニック動物の作出等を目的とした遺伝子導入用のツールとして利 用すること力 Sできる。本発明の DNA導入システムを当該ツールとして利用する場合 には、「目的の DNA」として特定の遺伝子が用いられる。ここでの遺伝子の例として、 アデノシンデァミナーゼ (ADA)遺伝子、第 IX因子遺伝子、顆粒球 マクロファージ コロニー刺激因子(GM— CSF)遺伝子、 p53癌抑制遺伝子、単純へルぺスウィルス チミジンキナーゼ(HSV— tk)遺伝子、血管内皮成長因子 (VEGF)遺伝子、肝細胞 成長因子(HGF)等の遺伝子疾患関連遺伝子、インスリン、エリスロポエチン等のホ ルモンをコードする遺伝子、インターフェロン、インスリン様成長因子、上皮成長因子 (EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インターロイキン類等の増殖因子をコードす る遺伝子、抗体(治療用、診断用、検出用など)をコードする遺伝子、緑色蛍光タン パク質(GFP)遺伝子、 /3ガラクトシダーゼ (lacZ)遺伝子、クロラムフエ二コール耐性 (CAT)遺伝子、ルシフェラーゼ(LUC)遺伝子等のマーカー遺伝子、及び機能未知 の遺伝子などを挙げることができる。天然に存在する遺伝子の他、人為的操作の結 果得られた遺伝子(人工遺伝子)を用いることもできる。また、使用する遺伝子は標的 細胞に対して同種であっても異種であってもよい。 目的の DNAとして二種類以上の 遺伝子をコードするものを採用してもよい。
遺伝子改変を目的とする場合には「目的の DNA」として、例えば標的遺伝子の改 変体など、標的遺伝子を破壊なレ、し不活化し得る任意の DNAが用いられる。
[0033] 「目的の DNA」の揷入位置は、 Toll因子のトランスポゾンとしての機能(転移機能) に影響を与えない限り、特に限定されるものではない。つまり、トランスポザーゼの作 用部位である両末端以外の位置に「目的の DNA」を揷入すればよい。具体的には 例えば、 Toll因子において両末端以外の領域に存在する内在性の制限酵素認識 部位 (例えば Sail)を揷入部位として利用すればよ!/、。内在性の制限酵素認識部位を 利用するのではなぐ人工的に揷入用の部位を形成することにしてもよい。
[0034] 本発明の好ましい一態様では、 Toll因子の 5'末端及び 3'末端に標的部位重複
配列が連結されている。「標的部位重複配列」、即ち TSD (Target site duplication)と は、転移の際に形成される直列反復配列である。トランスポゾンが揷入の際、二本鎖 DNAを異なる位置で切断することからその間の配列が重複し、その結果 TSDが形 成される。 Toll因子の場合、片側 8bpの TSDが形成されることになる。本発明では 例えば、配列番号 13〜; 15のいずれかで示される配列の TSDを用いることができる。 尚、配列番号 13の配列は Toll— tyrの TSDに、配列番号 14の配列は Toll— L1の TSDに、配列番号 15の配列は Toll—L2の TSDにそれぞれ相当する。
[0035] 高い導入効率を達成するため、好ましくは、 目的の DNA、 Toll因子等を発現カセ ットとして組み込んだベクターをドナー要素として用いる。ここでのベクターの種類は 特に限定されない。尚、ベクターの種類、作製法などについては上記の説明(本発 明の発現コンストラクトの欄)が援用される。
[0036] ヘルパー要素は、標的細胞内へトランスポザーゼを供給するものであり、本発明の トランスポザーゼ(即ち Toll因子のトランスポザーゼ)又は本発明のポリヌクレオチド( 即ち Toll因子のトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド)を含む。本発明の D NA導入システムを標的細胞内へ導入すれば、ヘルパー要素によって供給されたト ランスポザーゼが、ドナー要素によって供給された Toll因子に作用する。その結果、 Toll因子に揷入された目的の DNAが標的細胞のゲノム DNA内へと組み込まれる ことになる。
[0037] ドナー要素と同様、高い導入効率を達成するため、ヘルパー要素もベクターとして 構築することが好ましい。即ち、 Toll因子のトランスポザーゼをコードするポリヌクレ ォチドを含む発現カセットを組み込んだベクターをヘルパー要素として用いることが 好ましい。
[0038] 標的細胞へのドナー要素及びヘルパー要素の導入は、標的細胞の種類、ドナー 要素及びヘルパー要素の形態などを考慮して、リン酸カルシウム共沈殿法、リポフエ クシヨン (Feigner, Pi. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1984》、 H VJリボソーム法、 DEAEデキストラン法、エレクト口ポーレーシヨン (Potter, Η· et al., Pro c. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984》、マイクロインジェクション (Graessma ηη,Μ. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366-370(1976))、遺伝子
銃法、超音波遺伝子導入法等によって実施することができる。発現コンストラクトとし てウィルスベクターを使用する場合には感染によって標的細胞への導入が行われる
〇
ドナー要素及びヘルパー要素は、必ずしも同時に標的細胞へ導入される必要はな い。但し、操作性ゃ両要素の相互作用の観点から、両要素を同時に共導入すること が好ましいといえる。
[0039] 本発明は更に、本発明の DNA導入システムの用途を提供する。当該用途の一つ は、 DNA導入法である。本発明の DNA導入法では、脊椎動物細胞からなる標的細 胞に対して、本発明の DNA導入システムを導入するステップが実施される。また、 T oil因子と Tol2因子は互!/、の転移に影響しな!/、と!/、う知見に基づき、次のステップ、 即ち、 Toll因子を利用して導入される、 目的の DNAと異なる DNAを、 Tol2因子を 利用して前記標的細胞に導入するステップを更に含むことを特徴とする DNA導入法 が提供される。 Το12因子を利用した DNA導入法については Koga A, Hori H, Sakaiz umi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11· (引用文献 13)、 Johnson Hamlet MR, Yergea u DA, uliyev E, Take da M, Taira M, awakami , Mead PE (2006) Genesis 44: 43 8-445. (引用文献 14)、 Choo BG, ondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, Toh WC, orzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5. (引用文献 15)等を参考にして実施するこ と力できる。尚、引用文献 13は Tol2因子を利用した遺伝子導入について、引用文献 14は Το12を利用した突然変異誘発について、引用文献 15は Το12を利用した遺伝子 やプロモーター或いはェンハンサ一のトラップにつレ、てそれぞれ報告してレ、る。
[0040] トランスジエニックフィッシュやトランスジエニックマウス、又はノックアウトマウスなど、 遺伝子改変動物を作製する目的で本発明の DNA導入システムを使用することもで きる。例えば、ゼブラフィッシュゃメダカ等の受精卵の細胞質や卵黄或いは核にマイ クロインジェクション等の方法で本発明の DNA導入システムを導入し、トランスジェニ ックフィッシュを発生させることができる。
一方、本発明の DNA導入システムを用いることによって、特定の遺伝子が導入さ れた受精卵母細胞又は胚性幹細胞を作製し、これからトランスジエニック非ヒト哺乳 動物を発生させることができる。トランスジエニック非ヒト哺乳動物は、受精卵の前核に
直接 DNAの注入を行うマイクロインジェクション法、レトロウイルスベクターを利用す る方法、 ES細胞を利用する方法などを用いて作製することができる。以下、トランスジ エニック非ヒト哺乳動物の作製方法の一例として、マイクロインジヱクシヨン法を利用し た方法を説明する。
マイクロインジェクション法では、まず交尾が確認された雌マウスの卵管より受精卵 を採取し、そして培養した後にその前核に本発明の DNA導入システムを導入する。 導入操作を終了した受精卵を偽妊娠マウスの卵管に移植し、移植後のマウスを所定 期間飼育して仔マウス(F0)を得る。仔マウスの染色体に導入遺伝子が適切に組込ま れていることを確認するために、仔マウスの尾などから DNAを抽出し、導入遺伝子に 特異的なプライマーを用いた PCR法や導入遺伝子に特異的なプローブを用いたドッ トハイブリダィゼーシヨン法等を行う。本明細書における「トランスジエニック非ヒト哺乳 動物」の種は特に限定されないが、好ましくはマウス、ラットなどの齧歯類である。 (ゲノム DNA上の特定 DNA部位を転移させる方法)
本発明の更に他の局面は、本発明のトランスポザーゼ又はそれをコードするポリヌ クレオチドを用いることによって、標的細胞のゲノム DNA上の特定 DNA部位を移転 させる方法を提供する。この局面の一態様では、トランスポザーゼをコードするポリヌ クレオチドを欠損した Toll因子をゲノム DNA上に保有する細胞(標的細胞)に、本 発明のトランスポザーゼ又は本発明のポリヌクレオチドが導入される。導入されたトラ ンスポザーゼ(又は導入されたポリヌクレオチドから発現したトランスポザーゼ)が標的 細胞の保有する Toll因子に作用し、転移を生じさせる。人為的な操作によって Toll 因子を保有するようになった細胞に限らず、本来的に(即ち内在性因子として) Toll 因子を保有する細胞をここでの「標的細胞」として用いることができる。つまり、本発明 の方法が適用可能な細胞は、 Toll因子の導入操作を経た後の細胞に限られるもの ではない。
他のポリヌクレオチド配列が揷入された Toll因子に対して本発明の方法を適用す れば、当該ポリヌクレオチド配列が転移することによる影響 ·効果を調べることができ、 当該ポリヌクレオチド配列の機能に関する有益な情報が得られる。このように本発明 の方法は、遺伝子を始め様々なポリヌクレオチドの機能の解析に有用である。一方、
他のポリヌクレオチド配列が揷入されていない Toll因子に対して本発明の方法を適 用した場合、 Toll因子自体の機能や、それが揷入されることによる影響などを調べる こと力 Sできる。このように、本発明の方法は Toll因子の研究においても有用である。
[0042] Toll因子と Tol2因子を利用して 2種類の DNAが導入された細胞では Toll因子 又は Tol2因子のいずれかに対応したトランスポザーゼによって、当該 2種類の DNA の片方を選択的に転移させることが可能である。つまり、 2種類の導入 DNAを独立し て制御することが可能となる。そこで本発明は、 Toll因子及び Το12因子を利用した DNA導入法を用いて遺伝子操作された細胞に対して、 Toll因子又は Το12因子に 対応したトランスポザーゼを供給するステップを含む、ゲノム DNA上の特定 DNA部 位を転移させる方法を提供する。トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを標 的細胞に導入することによって、標的細胞内でトランスポザーゼを強制発現させるこ とにしてもよい。 Το12因子のトランスポザーゼの導入については Koga A, Hori H, Sak aizumi M (2002) Mar Biotechnol 4: 6-11. (引用文献 13)、 Johnson Hamlet MR, Yerg eau DA, uliyev E, Takeda M, Taira M, awakami , Mead PE (2006) Genesis 44: 438-445. (引用文献 14)、 Choo BG, ondrichin I, Parinov S, Emelyanov A, Go W, T oh WC, orzh V (2006) BMC Dev Biol 6: 5. (引用文献 15)等が参考になる。 Tol2因 子のトランスポザーゼのアミノ酸配列を配列番号 7に示す。また、当該トランスポザー ゼをコードする cDNA配列(ポリ Aを含まな!/、)及びゲノム DNA配列(TSDを含まな V、)をそれぞれ配列番号 8及び配列番号 9に示す。
[0043] (遺伝子操作された細胞)
本発明の DNA導入システム又は DNA導入法を実施すれば、遺伝子操作された 細胞が生ずる。そこで本発明は、このようにして得られる遺伝子操作された細胞をも 提供する。本発明の細胞は、遺伝子操作の結果として新たな形質や機能を発揮する こと力 Sできる。このような細胞は、導入された DNAに応じて、特定の物質の生産ゃ特 定の疾患の治療等へその利用が図られる。また、導入された DNAの機能を調べるた めの研究材料としても当該細胞は有用である。
[0044] (DNA導入用キット)
本発明は更に、本発明の DNA導入用システムや DNA導入法などに用いられる D
NA導入用キットを提供する。 DNA導入用キットは、 目的の DNAの運搬体としてのド ナ一要素と、トランスポザーゼ源としてのヘルパー要素を必須の構成要素とする。具 体的にはドナー要素は、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠損し、且 っ揷入部位を有する Toll因子を含む発現コンストラクトからなる。他方のヘルパー要 素は、本発明のトランスポザーゼ又はそれをコードするポリヌクレオチドを含む発現コ ンストラタトからなる。ここでの「揷入部位」とは、導入目的の DNAが揷入される部位 である。 Toll因子に内在する制限酵素認識部位を「揷入部位」として禾 IJ用すること力 S できる。例えば、配列番号 10の塩基配列で示される Toll因子(Toll—tyr、 1,855塩 基対、 TSDを含まない)は Sailサイトを有し、当該制限酵素認識部位を揷入部位とし て利用できる。遺伝子工学的手法によって、制限酵素認識部位や、組換え反応のた めの塩基配列を作製し、これを揷入部位として利用してもよい。組換え反応のための 塩基配列とは、例えば Gateway (登録商標、インビトロジェン社)テクノロジーで使用さ れる attR配列を指す。
揷入部位として、種類の異なる複数の制限酵素認識部位を形成することにしてもよ い。即ち、マルチクローニングサイト(MCS)を有するドナー要素を用いることにしても ょレ、。マルチクローニングサイトを構成する各制限酵素認識部位の種類は特に限定 されないが、 Hindlll, BamHI、 EcoRI等、頻用される制限酵素認識部位を採用すること が好ましい。汎用性の高いキットを構築するためである。尚、後述の実施例に示すド ナ一要素(pDon253Mcs)は、 BamHI、 EcoRI, EcoRV、 pnl, Pstl、 Xbalからなるマル チタローニングサイトを有する。
上記の通り、 Toll tyrの内部 1,592塩基対(5'末端から数えて 158番目の塩基か ら 1749番目の塩基まで)を取り除!/、た場合にお!/、ても、転移効率を損なわな!/、こと力 S 判明した。この知見に基づき本発明の一態様では、 Toll— tyrの塩基配列(配列番 号 10で示される塩基配列)の内、 5'末端から数えて 158番目の塩基から 1749番目の 塩基までを少なくとも取り除くことによって得られる、 5'末端側 DNA及び 3'末端側 D NAの間に揷入部位が形成された構造の Toll因子を用いる。換言すれば、配列番 号 10で示される塩基配列の 5 '末端部(最長 157塩基対)の DNAと、配列番号 10で 示される塩基配列の 3'末端部(最長 106塩基対)の DNAの間に目的の DNAが揷入
された構造のドナー要素が使用されることになる。ここでの 5 '末端側 DNAの具体例 は、配列番号 21で示される塩基配列からなる DNA (157塩基対)であり、 3 '末端側 D NAの具体例は、配列番号 22で示される塩基配列からなる DNA (106塩基対)である
〇
[0046] 好ましい態様では、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠損し、且つ揷 入部位を有する Toll因子を含むベクターをドナー要素とし、トランスポザーゼをコ一 ドするポリヌクレオチド(本発明のポリヌクレオチド)を含むベクターをヘルパー要素と する。このようなキットは利便性が高ぐ且つその使用によって高い DNA導入効率を 期待できる。この場合のヘルパー要素は、好ましくは、トランスポザーゼをコードする ポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーター、及び/又は下流側で当該ポリ ヌクレオチドに連結したポリ A付加シグナル配列又はポリ A配列を更に含む。
[0047] (再構築されたトランスポゾン)
本発明の更なる局面は、再構築されたトランスポゾンを提供する。本発明の再構築 されたトランスポゾンは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを欠損した Tol 1因子に対して、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(即ち本発明のポリヌク レオチド)が揷入された構造を有する。好ましくは、トランスポザーゼをコードするポリ ヌクレオチドに作動可能に連結するようにプロモーターも揷入されている。もっとも、 プロモーターの揷入は必須ではなぐ揷入される「トランスポザーゼをコードするポリヌ クレオチド」がプロモーター領域の配列を含み、それ自体で十分な転写活性が得ら れる場合にはプロモーターの揷入を省略することができる。一方、転写産物(mRNA )の安定性を高めるためにポリ A付加シグナル配列又はポリ A配歹 IJも揷入されて!/、る ことが好ましい。即ち、本発明の再構築されたトランスポゾンの好ましい一態様では、 トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの下流側にポリ A付加シグナル配列又 はポリ A配列が連結されて!/、る。
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド等の揷入操作は常法(Molecular Clon ing (Third Edition, Cola Spring Harbor Laboratory Press, New ork)、 し urrent proto cols in molecular biology (edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)等を参照)に 従えばよい。また、「作動可能に連結した」や「プロモーター」等の各用語については
、上記の説明(Toll因子のトランスポザーゼを含む発現コンストラクトの欄)が援用さ れる。
再構築されたトランスポゾンの具体的な例は、配列番号 10〜; 12のいずれかで示す 塩基配列に、配列番号 3又は配列番号 4で示す塩基配列が揷入された配列を有す 再構築されたトランスポゾンは、標的細胞内で発現可能な状態でトランスポザーゼ を含み、自律性転移因子として機能する。従って、単独で DNA導入用のツールとし て使用され得る。このように本発明は、再構築されたトランスポゾンを用いた DNA導 入システムをも提供する。ここでの「単独で」とは、別に用意したトランスポザーゼを併 用する必要がな!/、ことを意味し、再構築されたトランスポゾンの機能を発揮させるため に必要な成分'要素(例えばベクター骨格、試薬など)の併用を排除するものではな い。
[0048] 本明細書で特に言及しない事項(条件、操作方法など)については常法に従えば よく、 列 xJiMolecular uloning (Third dition, し old spring Harbor Laooratory Press, New York)、 Current protocols in molecular biology (edited by FredencK M. Ausubel et al., 1987)等を参考にすることができる。
実施例 1
[0049] 1.材料と方法
(1)魚
完全アルビノの表現型のメダカは、商業用に繁殖している集団から 30年以上前に 見つかったものである (引用文献 27)。この個体から系統を確立し、実験室で維持して いる。このアルビノ突然変異体ではチロシナーゼ遺伝子の第 1ェクソンに 1.9 kbの To 11因子の揷入がある (引用文献 11)。 2001年、新潟大学で維持していたサブ系統の中 にモザイク着色を示す個体が現れた。名古屋大学で維持していた本来の系統では、 着色は起こっていない。本来の系統を i LTomita 着色のあるサブ系統を i ^Niigataと 呼ぶことにした (引用文献 12)。ここでは簡略化してそれぞれをサブ系統 A及びサブ系 統 Bと記す。どちらのサブ系統についても、これまでに他の系統と交配をしたことはな い。
[0050] (2)データベース
公共の利用に供されている下記のデータベースを使用した。完全長の Toll因子と 考えられる塩基配列を組み上げるために使用したデータベース:メダカのゲノムプロ ンェクト (http://shigeruab.nig.ac.jp/ medaka/genome/)。モテーフを検索する/こめに 使用したデータベース: MOTIF (http:〃 motif. genome.jp/)。 hATファミリーの転移酵 素の配列を集めるために使用したデータベース: Pfam (http://www.sanger.ac.uk/Sof tware/Pfam/)。アミノ酸配列の照合をするために使用したデータベース: Clustal X (ht tp:/ /bips. u-strasbg.fr/ fr/Documentation/し lustalX/)。
[0051] (3)試薬及びキット
下記の分子生物学用の試薬やキットを、製造会社の説明書に従って使用した。 PC Rでの DNA増幅: PCR enzyme ExTaq (Takara Bio Inc. , Otsu, Japan)Dゲノムライブラ リーの作製:フォスミドベクター pCC lFOS (EPICENTRE Biotechnologies, Madison, U SA)。プローブの標識とハイブリダィゼーシヨン分析: AlkPhos Direct Labelling and Hy bridization System (GE Healthcare, Chalfont St. Giles, U )D RNAの抽出: RNeasy k it (QIAGEN GmbH, Hilden, Germany)0 RACE分析: FirstChoice RLM-RACE Kit (A mbion, Austin, USA)。細胞への DNAの取り込み: PolyFect Transfection Reagent (Q IAGEN GmbH)。 G418耐性細胞の選抜: G418 (Invitrogen Corp. , Carlsbad, USA)。尚 、個々の実験条件は実験結果の欄や図面の説明の欄に記載した。
[0052] (4)哺乳類培養細胞での転移の分析
ヒトの HeLa細胞と、マウスの MH/3T3細胞を用いた。細胞の維持は、 10%ゥシ血清と 抗生物質を含む DMEM培養液を用いて 37°C、 5.0% COの恒温器で行った。
35 mmのディッシュに、 1枚あたり 1 x 105個の細胞を播種し、 24時間保温した。プラ スミド DNAの混合物を、ディッシュ 1枚あたり 1 ,000 ngとなるように調整し、 PolyFect試 薬を用いて、細胞に取り込ませた。さらに 24時間保温した後、細胞を PBSで 2回洗浄 し、プラスミド DNAや取り込み試薬を含まない新しい培養液を加えて保温した。 24時 間後、トリプシン処理で細胞をディッシュ底面から剥離し、 2.0 mlの培養液に懸濁した 。その懸濁液 100 1ずつを、異なる大きさ(35 mm、 60 mm、 90 mm)のディッシュに移 した。培養液には SOO ^ g/mlとなるように G418を加えた。 G418での選抜を 12日間続け
た後、 20%ホルマリンで細胞を固定して、ギムザ染色液で染色した。コロニーの数が 10 0に最も近いディッシュを選び、コロニーを数えた。その結果から、最初に播種した細 胞 105個あたりのコロニー数を推定した。以上の分析は全て、個々の測定系を同時に 3組作って行った。
[0053] 2.実験結果
(1)材料とする魚の改良
2001年に発見したときのモザイク着色の系統では、全個体のうちでの着色のある個 体の割合、すなわち着色の浸透度はおよそ 20%であった。分子レベルでの分析に適 した材料に改良するために、着色の濃レ、雌と雄各 1匹を選抜して交配するとレ、う作業 を、 5世代にわたって行った。その結果、浸透度は 90%以上となり、黒い斑点も大きく なった(図 1)。
[0054] (2)完全長の Toll因子と考えられる配列の、データ解析からの組み立て
チロシナーゼ遺伝子の内部への揷入として最初に単離された Tollのコピー (Toll — tyr)は、長さが 1.9 kb (配列番号 10、 TSDを含まない)である。丁011—1 の5 '側 末端及び 3'側末端にはそれぞれ逆方向反復配列が存在する。尚、センス鎖の 5'末 端部における逆方向反復配列の配列(5'末端から 3'末端方向)を配列番号 5で示し 、同様にセンス鎖の 3'末端部における逆方向反復配列(5'末端から 3 '末端方向)を 配列番号 6で示す。 DNA型因子では、内部が欠失することで非自律的コピーが形 成されることが多い (引用文献 19)。これを考慮して、 Toll— tyrをもとに、より長いコピ 一を塩基配列データベースから探すとレ、う作業を繰り返し行った。各回の検索では、 もとにした配列と新たに加わった配列を合わせたものがデータベースに複数みられた ときに、それは完全長の Tollの一部であるとみなした。そしてそれをもとにして、次の 回の検索を行った。この作業を繰り返しているうちに、 Toll—tyrにはなかった部分 がしだいに伸び、最終的に 4.3 kbの配列となった。その後あらためて、この 4.3 kbの 配列をデータベースと照合した。そして、 4.3 kbの個々の塩基の場所につき、出現頻 度の最も高い塩基を採用した。その結果、 2.3 kbのオープンリーディングフレーム (O RF)をもつ 4.3 kbの配列が得られた。これを Toll— L0と記すことにした。
[0055] (3)自律的な Toll因子の同定
Toll— LOの配列の内部 1.2 kbの部分(図 2の bの部分)を、モザイク着色のサブ系 統(さかな Bと表記)のゲノム DNAから PCRで増幅する作業を行った。増幅で得られ た断片をプローブとして、さかな Bのゲノムライブラリーに対するコロニーハイブリダィ ゼーシヨンを行い、 2つのクローンを得た。これらを Toll— Ll、Tol:i-L2とよぶ。この 2つはどちらも 4.3 kbで、 5種類の制限酵素を用いて作成した制限酵素地図に違いは みられな力、つた(データは省略)。このため Toll—L1のみを用いて、塩基配列を調 ベた。その結果、 Toll— L1の塩基配歹 IJ (配列番号 4)及び構造が決定された(図 2) 。以降に記述するさらなる解析からの情報、及び Toll—L1と Toll—tyrの構造に関 する比較も図 2に示す。
[0056] (4)Tollのトランスポザーゼをコードすると考えられる完全長 cDNAの同定
着色のな!/、アルビノ系統(さかな A)及びモザイク着色のサブ系統(さかな B)から抽 出した RNAを用いて、 Tollのトランスポザーゼ遺伝子からの転写産物を同定するた めの 3'RACE (rapid amplification of cDNA ends)を行った。増幅産物をサザンブロット で分析したところ、さかな Bではシグナルが 1つ認められ、さかな Aではシグナルが認 められなかった(図 3)。この結果は、 ORFからの Toll転写産物がさかな Bには存在 する力 さかな Aには存在しないか、存在するとしてもきわめて少量であることを示す 。続いて、さかな Bの 5'RACEを行い、シグナルが 1つ出ることを確認した(図 3)。これ らのシグナルをもたらしている RACE産物のクローンを得て塩基配列を調べたところ、 ORF (配列番号 1)をもつ 2.9 kbの cDNA配列(配列番号 3)が得られた(図;!;!〜 13) 。この配列を DDBJ/EMBL/GenBankに登録した。ァクセッション番号は AB264112で ある。この完全長 cDNAの配列と Toll— L1の配列(配列番号 4)を比較することで、 Tollトランスポザーゼ遺伝子は 3つのエタソンからなることが判明した(図 2)。
[0057] Toll ORFから推定されたアミノ酸配歹 IJ (配列番号 2、図 11〜13)を用いて BLAST 検索を行ったところ、主に hATファミリーの転移因子からなるリストが作成された。リスト アップされた配列の中で類似性が最も高力、つたものはイネとァラビドプシスの hATファ ミリ一の因子である(データは省略)。さらに、アミノ酸配列のモチーフの検索を行った ところ、 Pfamデータベースに登録されている hATファミリーの二量体化ドメイン (PF0569 9)の存在が予測された。また、 Toll及び種々の生物種の hAT因子のアミノ酸配列を
照合して、このファミリーで保存されているアミノ酸ブロック力 SToll ORFにあることを 確認した(図 4)。 Tol2に対するアミノ酸配列の類似性は、図 4に含めた因子との類似 性よりは低!/、ものであった(データは省略)。
[0058] (5)メダカのゲノムに存在する Tollのコピーの構成
先に行ったデータベース検索は、メダカのゲノム中では Tollの内部の領域の存在 頻度が端部の領域のそれよりも少ないことを示唆するものであった。このことは、数種 類のメダカ系統のサザンブロット分析によって確認された。用いたプローブは、完全 長の Toll— L1の様々な部分に対応するものである。端部領域に対するプローブを 使用した場合は 100個以上のバンドが現れたのに対して、中央領域に対するプロ一 ブを使用した場合のバンドの数は 0から 5個であった(図 5)。このような現象は、トウモ 口コシの Activator因子 (引用文献 19)や、ショウジヨウバエの P因子 (引用文献 20)、その 他の DNA型因子についても共通して見られる。この現象について広く受け入れられ ている説明は、内部の欠失が、自律的因子から非自律的因子が生じるための中心的 な機構である、というものである (引用文献 19、 20)。この説明は Tollの場合にも妥当と 思われ o〇
[0059] (6)哺乳類細胞での Tollの転移の証明
Toll ORFがトランスポザーゼをコードし、そして当該トランスポザーゼが Toll因子 の転移を介在する機能をもっかどうかを調べるために、まず、ドナープラスミド(以下、 「ドナー」ともいう)とへルパープラスミド(以下、「ヘルパー」ともいう)を作製した。ドナ 一プラスミドは、 1.9 kbの Toll— tyrを有し、 Toll—tyrの内部にはネオマイシン耐性 遺伝子が組み込まれている。ヘルパープラスミドは Toll ORFを有する。当該 ORF の上流側には、制御のための CMVプロモーターが連結され、同様に下流側には安 定化のためのポリ A付加シグナルが連結されている(図 6)。また、陰性対照(ネガティ ブ.コントロール)のための欠損型へルパープラスミドを作製した。これは、 ORFの内 部の 2つのコドンを終止コドンに改変したものである。さらに、 Toll ORFと同じ長さの 無関係な DNA断片をもつフィラープラスミドを作製した。フィラープラスミドは、遺伝 子導入実験にぉレ、て、全 DNA量を一定にすることで DNAの取り込み効率を一定に するために使用されものである。これらのプラスミドを組み合わせて、ヒトの HeLa細胞
およびマウスの MH/3T3細胞に導入し、 G418耐性を獲得した細胞の選抜を行った。 ドナーとヘルパーを導入した細胞では、ドナーと欠損型ヘルパーを導入した場合や ドナーとフィラーを導入した場合と比較して、 G418耐性のコロニーが多数生じた(図 7 )。耐性の獲得が宿主細胞のゲノム DNAへの Tollの転移 (組み込み)の結果である ことを確認するために、ドナーとヘルパーを導入した場合に得られた耐性獲得細胞 から、 Tollを含む DNA断片をクローユングし、 Tollの端部とそれに隣接する部分の 塩基配列を調べた。 8個のクローンを調べたところ、隣接部分の配列はすべて異なる ものであった(図 8)。 8 bpの標的部位重複(Target site duplication = TSD)も全てのク ローンで見つかった。これは、ドナープラスミドの Tollの部分が染色体に組み込まれ たのは転移反応の結果であることを示す。以上の結果より、 Toll ORFが機能型 Tol 1トランスポザーゼをコードしていることが証明された。
[0060] (7) Tollと Tol2の転移頻度の比較
Tollと Το12の転移頻度を HeLa細胞を用いて調べた。対応するドナーとヘルパー をそれぞれ用意し、所定の導入量で HeLa細胞へ共導入した。ドナーとヘルパーの量 の比は、 1 :0.5〜1 :9の範囲(ドナー 100 ngの場合)、及び 1 :0.5〜1 :4の範囲(ドナー 20 0 ngの場合)とした。これらの範囲内では、どちらの因子についても転移頻度はヘル パーの量と正の相関を示した(図 9)。「正味のコロニー数」は、「コロニー数の観察値」 から「ヘルパーがないときのコロニー数」を差し引くことで求められる。最大の「正味の コロニー数」は、 Tollでは 3,780 - 120 = 3,660 (ドナー 200 ng、ヘルパー 800 ngのとき )、 Tol2では 3,393 - 287 = 3, 106 (ドナー 200 ng、ヘルパー 400 ngのとき)であった。 最大値の比(Tollの最大値/ Tol2の最大値)は 1.18である。このように、転移頻度 の最大値は Tollと Το12で同等であった。
[0061] (8) Tollと Το12の転移誘発に関する不干渉
Tollと Το12は、どちらも hATファミリーの因子であり、しかも同じ魚種のゲノムに存 在する因子である。そこで、 Tollのトランスポザーゼが Tol2の転移を、また Το12のト ランスポザーゼカ STollの転移を誘発するかどうかを調べることにした。この実験では 、ドナーとヘルパーの比を 1 :4にして HeLa細胞に導入することにした。尚、当該量比 は、高レ、頻度で転移を生じさせることが過去の実験によって示されたものである。
実験の結果は、 Tollのトランスポザーゼは Το12の転移を誘発せず、また Το12のト ランスポザーゼは Tollの転移を誘発しな!/、ことを明確に示すものであった(図 10)。 このように、これら 2種類のトランスポザーゼはそれぞれ、対応する因子に特化した機 能を有することが明らかとなった。
[0062] 3.考察
従来、脊椎動物のゲノム中に存在し且つ転移活性を保持している転移因子として 2 種類の転写因子が知られていた。ゼブラフィッシュの Tzf因子とメダカの Tol2因子で ある。 Toll因子はメダカのアルビノ系統(サブ系統 Α)の突然変異の原因となってい る揷入として、これら二つの因子よりも先に見つかつたもの (引用文献 21)である力 発 見当時その転移の直接の証明はできなかった。その理由は、当時見つかったコピー 及びゲノムに存在するであろう他のコピーのほとんど全てに内部の崩壊や欠失が生 じていることにあると推測される。本発明者らは今回、データベースの解析、及びモザ イク着色という独特の形質をもつサブ系統 (サブ系統 B)の分析を通して、高頻度の 転移を引き起こすことのできる完全型の Toll因子が存在することを証明した。
[0063] Tollと Tol2はどちらも hATファミリーに属する。し力、し、分子レベルでの構造や種間 での分布には大きな違いがみられる。 Tollの多くのコピーには様々な大きさの内部 欠失があり、 Tollに相同性のある反復配列はメダカ属に広く分布している (引用文献 10)。これとは対照的に Tol2のコピーは塩基配列のレベルでも構造が均一で、メダカ (0. latipes)とその近縁種 (0. curvinotus)のみでみられる (引用文献 23)。このような状 況から、 Tollはメダカ属に古く力、ら存在する因子であり、一方の Tol2はメダカにつな 力 ¾系列に最近侵入した因子であると本発明者らは推測している (引用文献 23)。この 2つの因子は現在のメダカに偶然共存しているだけで、それまでに十分に長い時間 が経過し、そのため今では別々の転移反応の系を確立して!/、るものであると考えられ
[0064] Toll— tyrのェクシジョンで引き起こされるモザイク着色は、本発明者らが別の対立 遺伝子で最近みつけた不安定な体色突然変異の現象 (引用文献 9)と類似している。 不安定な体色突然変異を示す系統では、チロシナーゼ遺伝子からの Tol2のェクシ ジョンが高頻度で起こるうえに、ゲノムのいろいろな場所に Το12の揷入もある。転移
因子が突然活発な転移を始めること、すなわちトランスポジションバーストは脊椎動物 以外のモデル生物でよくみられることである力 上記のメダカの Το12の現象は脊椎動 物で初のトランスポジションバーストの例となった。 Tollにつ!/、て揷入を調べることは 今のところ難しい。 Tollのメダカのゲノム中でのコピー数は Tol2に比較してはるかに 多ぐこのために現在の解析方法の限界を超えるためである。もし Tollでもトランスポ ジシヨンバーストが起きて!/、るのであれば、 DNA型因子が脊椎動物のゲノム進化へ 大きな影響を与えている可能性があり、したがってその影響の程度について再検討 を要することになる。
[0065] モザイク着色のメダカ個体が発見されるまでは Tollはすでに機能を失った因子で あると考えられていた。 100を超える数の Tollのコピーを調べたにもかかわらず遺伝 子と思われる構造が見つからなかったためである (引用文献 10)。ヒトやその他のゲノ ムプロジェクトの結果から、脊椎動物のゲノムにはかなりの量の DNA型転移因子が 存在することが明らかとなった。但し、そのほとんどは転移活性を失っている (引用文 献 4)。本発明者らの今回の結果は、それらのうちに再び活性化され得るものがあるか どうかという疑問を提示するものである。とくに、さかな Aに潜在的な自律的コピーが あるとレ、ぅサザンブロットの結果のもつ意義は大きレ、。
[0066] Tollと Tol2の転移頻度の比較実験では、導入するドナーとヘルパーの量を変化さ せた。このときに設定したプラスミド量は重量ベースであった。結果として、 Tollと Tol 2の導入に用いたプラスミドのモル数の比、すなわち分子数の比は同一とならない。 ドナー中の転移因子の大きさや、ヘルパー中の cDNAの大きさ力 2つの因子の間 で異なるからである。ドナープラスミドの場合、ネオマイシン耐性遺伝子を含んだ因子 全体の大きさは Tollで 3.7 kb、 Tol2で 3.1 kbである。ヘルパープラスミドでのコード 領域の大きさは Tollで 2.8 kb、 Tol2で 2.0 kbである(詳細は図 5と図 9の説明を参照) 。このような違いはあるものの、実験結果力 Tollと Tol2の相対的な転移効率を読 み取ることはできる。とくに重要な点として、 Tollの転移頻度の最大値は Το12の最大 値と同等であった。 Το12は遺伝子導入 (引用文献 13)、突然変異誘発 (引用文献 14)、 遺伝子やプロモーター或いはェンハンサ一のトラップ (引用文献 15)といった遺伝子 改変系を脊椎動物用に開発することに最近活用されている因子である。したがって、
Tollも同様な可能性を秘めていると思われる。ここで、 2種類の因子が互いの転移に 影響しなレ、と!/、う事実は極めて重要である。独立した制御が可能な二つの DNA導入 系が二つ存在することは、 1つの細胞株や個体に 2種類の DNAを続けて導入するこ とが必要な状況において特に有益である。これら二つの DNA導入系の利用形態の 一つとして、導入済みの 2種類の DNAのうちの一方を、それに対応する因子のトラン スポザーゼを供給することで移動させるということも想定される。
[0067] Tollと Tol2がどちらも hATファミリーの因子であるのに対して、 DNA分子の加工で 再構築した Slewing Beautyと Frog Princeは、 mariner/Telファミリーに属する。昆虫に 由来する piggyBacは更に別のタイプである。これらの転位因子グループ間に認めら れる顕著な相違点として因子の大きさがある。 mariner/Telファミリーの因子はほとん どが 1-2 kbであり、 piggyBacは 2.5 kbである。これに対して hATファミリーの完全長の 因子は典型的なもので 4-6 kbである。因子の大きさと転移頻度の間には負の相関が 存在することが多い (引用文献 24)ため、 hATファミリーに属する因子のサイズが大きい ことは、大きな DNA断片を移動させるのに有利な性質であると考えられる。実際に T ol2は 9.0 kbもの大きさでも転移できることを本発明者らは報告している (引用文献 13) 。因子のサイズ以外にも転移因子グループ間に認められる相違点として重要なもの がある。「発現過多に伴う抑制」の現れ方である。トランスポザーゼの存在量が過大で あると転移頻度が減少することが Slewing Beauty (引用文献 24)、ショウジヨウバエの m ariner (引用文献 25)、 piggyBac (引用文献 25)で知られている。し力、し、 Tollと Tol2に 関する今回の実験ではそのような現象は現れなかった。また、 Το12に関する別の研 究においても同様に認められていない (引用文献 26)。独立して機能し、そして転移頻 度の高い hATファミリーの因子を 2つ使用できるようになったことは、脊椎動物を対象 とした遺伝子操作技術の拡張 '発展につながる。
[0068] 引用文献
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実施例 2
いまや、 Toll因子の自律的コピー(Tol— Ll、長さ 4355 bp、 DDBJ AB288091、酉己 列番号 4)と転移酵素遺伝子 (長さ 2900 bp、 DDBJ AB264112、配列番号 3)は、クロー ンとして手中にある(実施例 1)。従って、哺乳類に適用可能な遺伝学的ツールとして Toll因子を利用可能な状態といえる。
因子の大きさが増加すると転移頻度が低下するのは、転移因子に共通の特徴であ る。このため、使用する因子を選ぶ際、「積載能力」が重視されることになる。ここで積 載能力とは、「因子が運ぶことのできる DNA断片の最大長」を意味する。 Toll因子 は、この点で有用性が高いと期待される。その第 1の理由は Toll因子が hATファミリ 一に属していることである。 hATファミリーとは、ショウジヨウバエの hobo因子、トウモロ コシの Activator因子、金魚草の Tam3因子に代表される転移因子のグループである( 引用文献 2、 16)。このファミリーの際だった特徴として、他の主要なファミリーと比較し て完全型コピーが長いことが挙げられる。具体的には、 hATファミリーの因子は 4〜6 k bの長さがあるのに対して、 mariner/Telファミリ一はほとんど力 S l〜2 kb、 piggyBAac因 子は 2.5 kbであり、比較的短い。第 2の理由は、本研究に先立つ本発明者らの予備 調査の結果による。即ち、メダカのゲノムには 15 kbを超える Toll因子が存在すること が示唆された。これらの知見に基づき本発明者らは、 Toll因子は全長が 15 kbを超
えても転移すると推察した。 Το12因子もまた hATファミリーの因子である (引用文献 7)。 しかし、この因子はコピー間に構造の違いがなぐほぼ全てのコピーが 4.7 kbである。 本発明者らはこれまでに、自然に存在する Tol2因子について大規模な調査をしたが 、 4.7 kbを超えるものは見つかっていない(引用文献 7、 8)。
本研究では、まず、 自然界に存在する Toll因子の長さ調査した。その結果、約 18 kbと約 20 kbの長さのコピーが存在することが判明した。次に、本研究の主な目的で ある「長!/、DNAを染色体に組み込む能力をもつ遺伝子導入ベクターの開発」を行つ た。まず、 1.9 kbの因子から転移反応に不要な内部領域を除去して、全長 0.3 kbの短 いベクターを作製した。次に、基本となるこのベクターに、別の DNA断片を揷入し、 様々な長さの Toll因子を作製した。そして、各 Toll因子をリポフエクシヨン法で細胞 に取り込ませた。続いて抗生物質 G418で選択培養を行った後、残存コロニー数を計 測し、転移頻度を算出した (実験手法については実施例 1を参照)。ただし、リポフエ クシヨン法での DNAの取り込み効率が最終の結果に影響を与えることが懸念された ことから、取り込み効率の影響を排除するための対策を講じた。即ち、 Toll因子の長 さが異なっていてもプラスミド全体の大きさは揃うようにした上で比較する、という対策 である。得られた結果から、 Toll因子は全長が 22.1 kbと長くても効率よく転移するこ とが明らかになった。この長さは、哺乳類で使われている他の DNA型転移因子と比 ベて、報告されている値としては最長である。
[0070] 1.材料と方法
(1)ゲノムライブラリー
以前の研究で、メダカのゲノムライブラリーを作製した(引用文献 10)。本研究では、 Toll因子を含むゲノム DNAのクローンを得るために当該ライブラリーを使用した。ラ イブラリーのもとになつたメダカのゲノム DNAは、皮膚と目に部分的なメラニン沈着の あるアルビノメダカから抽出したものである。ベクターはフォスミド pCClFOS(EPICENT RE Biotechnologies, Madison, WI, USA)であり、 33 kb〜48 kbの機械的な剪断をかけ た DNAが内部に含まれている。
[0071] (2)プラスミド
2種類のプラスミド、即ちドナーとヘルパーを使用した。細胞内では、ヘルパーから
作られた転移酵素の作用によって、 Toll因子がドナーから切り出されて染色体に入 り込むことになる。
今回使ったドナーの構成を、図 15と図 17に示す。ヘルパーは、上記実施例 1で使 用したものと同じであり、基本的な構造を図 15に示した。完全型ヘルパーのほか、欠 損型ヘルパーを用意した。これは、転移酵素の作用に関する対象区としての役割を 果たす。
[0072] (3)転移頻度測定系
ヒトの HeLa細胞と、マウスの MH/3T3細胞を、 10% FBSを含む DMEM培地で培養し た。培養温度は 37°C、 CO濃度は 5.0%とした。
12穴プレート(直径 22 mm)に、 1穴あたり 2xl05個の細胞を播種した。 24時間後に、 ドナー 100 ngとへノレノヽー 900 ngを、 Lipofectamine LTX式薬 (Invitrogen Corp., Carlsb ad, NM, USA)を使って、細胞に取り込ませた。 8時間後に、細胞を PBSで 2回洗って新 しい培地に替えた。 24時間後に、トリプシンで細胞をディッシュからはがして、 2.0 ml の培地に懸濁した。異なる大きさのディッシュ (35 mm, 60 mm, and 90 mm)に、濃度 50 0〃 g/mrCG418を含む培地を入れ、続いて懸濁液 400 1を入れた。ここからが G418 で選択するための培養である。 12日間の選択培養の後、細胞を 20%ホルマリンで固定 し、ギムザ染色液で染色した。 3種類の大きさのディッシュのうちで、コロニー数が 100 に最も近いものを選び、コロニー数を数えた。その数と希釈率を基に、最初に播種し た細胞 105個あたりのコロニー数を求めた。以上が 1回の試行の過程である。この試行 を、ドナーとヘルパーの各組合せにつき 3回ずつ行った。
[0073] (4)分子レベルの操作の手法
本研究は、上記実施例 1に示した研究の延長である。ゲノム DNAの調整、 PCR、 P CR産物のクローニング、塩基配列の決定、コロニーハイブリダィゼーシヨンについて は同様の方法 '手順で行った。ただし、 PCR用の酵素には、前回の Ex Taq(Takara B io Inc., Otsu, Japan)ではなぐ長い DNAの増幅を高率的に行う LA Taq(Takara Bio I nc.)を使用した。 PCRの条件は、該当する箇所に記す。
[0074] 2.実験結果
( l ) Tollのコピーにみられる長さの変異
メダカのゲノムには、 100〜200コピーの Tollが存在し、長さは一様ではない (引用 文献 9)。長さの変異の程度を知るために、また長いコピーを同定することに特に注意 をして、ゲノムライブラリーのスクリーニングを行った。スクリーニングでは 2回のハイブ リダィゼーシヨンを行い、 Tollの両方の末端部を含む染色体断片を回収した。 1回目 のスクリーニングでは、 Toll— tyrの左端の領域(配列番号 10の 1〜500番塩基)とハ イブリダィズするクローンを選んだ。スクリーニングの対象としたコロニーの数は 4 X 104 (半数体ゲノムの約 2倍の DNA量に相当)であり、プローブはアルカリフォスファタ一 ゼでラベルしたものを用いた。このスクリーニングでは、 161個の陽性シグナルを検出 した。続いて、それぞれの陽性シグナルに対応するコロニーを対象として、 2回目のス クリーニングを行った。このときのプローブに使用した領域は、 Toll—tyrの右端の部 分 (配列番号 10の 1356〜1855番塩基)である。このスクリーニングで、 161個のコロニ 一のうちの 130個が選抜された。
スクリーニングで得たクローンに対して、 Tollの両端の部分をプライマーとする PC Rを行った。個々のクローンに含まれる Toll部分を増幅するためである。 130個のクロ ーンのうちの 114個で増幅が認められた。因子の長さの分布は、ほぼ山型で、 l〜2kb に鋭いピークがある(図 16)。特筆すべきことに、 18 kbと 20 kbのクローンが見つかつ た。後に示すように、 Toll因子は、末端部をもってさえいれば、内部の塩基配列には 関わりなく転移する。したがって、今回見つ力、つた 2つの長い Tollも、転移能を有す ると予想、される。
(2) Tollの短いクローンの転移活性
DNA型転移因子では、内部が部分的に欠けても、転移酵素が存在する限りはそ の因子は転移活性を失わないという現象が頻繁に観察される (引用文献 15)。これは Tollにも当てはまると考えられる。 1.9 kbの Toll— tyr因子は、 4.4 kbの Toll— L1 因子の内部が欠けた構造をしており、その Toll— tyr因子は、転移酵素の供給によ つて転移する (引用文献 10)力、らである。メダカのゲノムには 1.9 kbより短い因子も多 数存在する(図 16)ことから、この 1.9 kbの因子には転移に不要な部分が未だ存在す ると考えられる。この推測に基づき、より短いクローンを多数作製し、それぞれの転移 活性を調べた。方法は、上記実施例 1と同様、形成されたコロニーの数を計測する方
法である。短い因子の作製には、 Toll -tyrの端部に外向きになるように設計した プライマーを使用した。まず PCRで Tollの腕部分とそれを保持しているプラスミドを、 ひとつながりの断片として増幅し、その断片の両端をつないだ。続いて、その結合部 分に、ネオマイシン耐性遺伝子を組み込んだ(図 15)。このようにして得られたドナー プラスミドを、完全型又は欠損型のヘルパー(図 15)とともに、マウスの培養細胞に取 り込ませた。その結果、 157 bpの左腕と 106 bpの右腕からなるクローンが Toll— tyrと 同等あるいはそれ以上の転移頻度を示したと!/、う、重要な知見が得られた(図 16)。 このクローンのどちらかの腕をさらに削って 26 bpにした場合は、転移活性の極端な 低下、場合によっては転移活性の喪失、という事態になった(図 16)。
[0076] (3)クローニング部位をもつ短!/、ベクターの作製
これまでの実験の結果に基づ!/、て新たなクローンを作製した。新たなクローン pDon 263Mcsは、 Toll因子の 157 bpの左腕と 106 bpの右腕をもつ。両腕の間には、頻用さ れる 6種類の制限酵素 (BamHI, EcoRI, EcoRV, pnl, Pstl, Xbal)に対応するクロー二 ング部位 (multiple cloning site, MCS)がある(図 17)。 Toll因子のすぐ外側には Hindi IIサイトがある。このサイトは、以降に記載するように、転移頻度の正確な測定に利用 するためのものである。
[0077] (4)全長は一定で内部に異なる大きさの Toll因子をもつプラスミドの作製
PCRを利用して、長さが X kb(x = 0, 5, 10, 15, 20)の DNA断片と、 y kb(y = 20- x)の 別の断片を作製した。そして前者を pDon263McsNeoの EcoRIサイト(Tollの内部)に 、後者を Hindlllサイト(Tollの外部)に揷入した(図 17)。このようにしてできたクロー ンを pDon263McsNeoExHyと名付けた。各部の長さは、 Tollの腕が 0.3 kb、ネオマイ シン耐性遺伝子力 kb、プラスミドベクターの部分力 ¾.7 kbである。したがって、 pDo n263McsNeoExHyでの Tollの左端から右端までの距離は、(x + 2.1) kbである。プラ スミド全体の大きさは、 Xの値に関わらず 24.8 kbとなる。
リポフエクシヨン法での DNAの取り込みの際、プラスミドの大きさが取り込み効率に 影響することが知られている。 Tollの内部に加えて外部にも DNA断片を揷入し、プ ラスミド全体の大きさを揃えることにし、大きさの影響を排除した。これによつて、異な る大きさのドナーの間での転移頻度の正確な比較が可能になる。
[0078] (5)転移頻度の比較
5種類のドナーのそれぞれにつ!/、て、完全型のヘルパー又は欠損型のヘルパーと 組み合わせて、転移頻度を測定した(図 18)。ヒト細胞とマウス細胞のいずれでも、因 子の大きさと転移頻度は負の相関関係であった。完全型のヘルパーとともに取り込ま せた場合における、最も長!/、因子 (pDon263McsNeoE20)と最も短!/、因子 (pDon263Mc sNeoH20)の転移頻度の比は、ヒト細胞で 0.21、マウス細胞で 0.28であった。ヒト細胞 では、最も長い因子を使用した場合、完全型のヘルパーを組み合わせたときの転移 頻度は、欠損型ヘルパーのそれの 8倍であった(マウス細胞では 10倍)。
[0079] (6)転移の証明
次に、 Toll因子の染色体への取り込みが転移反応によるものであることの証明を 試みた。まず、最も長い因子 (pDon263McsNeoE20)での試行で得られたマウス細胞 のコロニーを 2個単離し、系統を確立した。これらの系統(N1と N2。ここで Nは、ネオマ イシン耐性形質転換体を意味する)をそれぞれ増殖させ、ゲノム DNAを抽出した。得 られた DNAを铸型にして、 Tollの端部とそれに隣接する染色体領域を増幅した。増 幅は逆向き PCRで行った。そして、得られた DNA断片の塩基配列を調べた。得られ た塩基配列から、 2つの細胞系統のどちらの場合も、 8 bpの標的部位重複が生じて いることがわかった(図 19)。標的部位重複が生じたことは、ドナーが DNAに組み込 まれた反応が転移反応であったことを意味する。マウスの塩基配列データベースに 対する BLAST検索より、組み込まれた場所は 15番染色体と 5番染色体であることが 判明した。
このように、転移によって染色体に組み込まれたことが確認された。しかし、これらの 結果からは、内部の DNA断片も含めた Toll因子全体が、部分的な欠失や崩壊を起 こすことなく染色体に組み込まれたかどうかは不明である。そこで、更なる検討のため 、 Tollの端部と隣接する染色体領域にまたがるプライマーを用意し、 PCRを行った。 ここで、培養細胞は 2倍体であり、 Tollの揷入は 2本の相同染色体のうちの片方のみ に起こったと考えられることに注意した。上記のように設計したプライマーでは、組み 込まれた Toll因子は増幅される。そしてもう一方の染色体の対応する部位が増幅さ れることは、ない。プライマーが Toll因子の一部の塩基配列をその 3'末端にもち、こ
れがその部位には適合しないためである。 PCRでは、細胞系統とプライマーの正し い組合せのときにのみ増幅がみられた(図 20)。増幅産物の長さは期待されるとおり( 22.1 kb)であり、それを制限酵素で切断して得られる電気泳動パターンも、期待通り であった(図 20)。これらの結果から、 22.1 kbの Toll因子の全域が、欠失や崩壊を 起こすことなぐ転移反応によって染色体へ組み込まれたことが証明された。
[0080] 3.考察
(l)Toll因子の長さの変異
本研究では、最初に Toll因子の長さの変異を調べ、メダカのゲノムに約 18 kbと約 2 0 kbのコピーが存在することを、見いだした。この結果は、 Toll因子は 15 kbを超えて いても転移するという本発明者らの推察を間接的に支持するものである。
長さの変異を調べるために用いた方法は、 2回にわたるゲノムライブラリーのスクリ 一二ングと、個々のクローンを対象とした 3回の PCRである。他に考えられる方法とし ては、(1)メダカの塩基配列データベースの解析、(2)ゲノム DNAをそのまま用いた P CR、の 2つがある。しかし、本発明者らはこれらの方法を採用しなかった。メダカの塩 基配列データベースは年々充実の度を増している。しかし、転移因子のような長い散 在反復配列については未だに、正確に取り込まれているとはいえない。コンテイダや スカホールドといった連続配列は、コンピュータで編集して作るものである力 これら が長い反復配列の内部で途切れていることは多く経験されるところである。実際に、 本発明者らが以前の研究 (引用文献 10)で同定した 4.4 kbの自律的 Toll因子は、い まだに、ひとつながりの配列としてはデータベースに現れていない(2007年 8月に公 開の version 4b; 0
ゲノム DNAをそのまま用いた PCRを利用する方法も有用と言えない。 Tollでは、 1 〜2 kbという小さいコピーが、長いコピーよりはるかに数が多ぐその短いコピーが PC Rでは優先的に増幅されるからである。本研究では、大量のクローユングと、それに 続く個々のクローンの PCR解析力 唯一の可能な手段であった。
[0081] (2)不要な内部領域の除去
本発明者らは、 157 bpの左腕と 106 bpの右腕からなる基本的な Tollベクターを構 築した。そしてこのベクターは、元の因子(1855 bp)と同等の高い効率で転移した。こ
のように本発明者らは、内部の 1592 bpの領域を除去することに成功した。この改変に よって、内部に DNA断片を搭載するための余地が増大したといえる。また、搭載した DNAやホストの細胞に影響を与える可能性のあるシグナルや、シグナルに類似する 配列の除去と!/、う面でも、この改変の意義は大き!/、。
さらなる詳細な解析を行えば、ベクターの腕をより短く切り詰めることが可能と考えら れる。今回の研究では、そのような解析は行わなかった。その理由の一つは、どちら かの腕を 26 bpにすると転移頻度が極端に減少する(図 16)ことを考慮すれば、積載 能力の大幅な増大は望めないと判断したからである(増加分は、最大でも(157-26) + (106-26) = 211 bpとなる)。もう 1つの理由は、ある程度の長さの腕を残しておけば、 転移で取り込まれた因子の解析にそれを利用することができるからである。多くの場 合、そのような解析の最初の作業は、隣接する染色体領域のクローニングである。そ してその主たる手法は逆向き PCRであり、それには腕の一部をプライマーの領域とし て使用する必要がある。さらに、ときには、 2回以上の入れ子形式の PCRが必要なこ ともあり、その場合は、腕の中の異なる部分をプライマーとして使うことになる。このよう な事態を考慮して、本発明者らは、 PCRプライマーに使うことのできる部分を残した。 基本のベクターの腕の長さ(157 bpと 106 bp)は、このような考慮に基づいて決定し たものである。
(3)因子の大きさの転移頻度への影響
完全型ヘルパーと欠損型ヘルパーの両方の場合について転移頻度を測定した。 コロニーの形成は欠損型ヘルパーの場合でも認められた。ただし、上記実施例 1で 示した通り、欠損型ヘルパーで生じたコロニーの Toll因子は標的部位重複を伴って おらず、したがって転移ではなくランダムな揷入で生じたものである。 5種類のドナー の間で、欠損型ヘルパーの場合でのコロニーの数がほぼ同じであったことは、この説 明に符合する。またこの結果は、リポフエクシヨン法での DNA取り込み効率へのプラ スミドの大きさの影響力 本発明者らの測定法では十分に排除できていたことをも示 す。
形質転換体の細胞の解析からは、 Toll因子の全域が転移反応で染色体に取り込 まれたことが明らかになった。そして取り込みの頻度は、最も長い Toll因子 (pDon263
McsNeoE20)の場合でさえも、ランダムな取り込みの頻度に比して有意に高いもので あった。このドナープラスミドの Toll因子の長さは 22.1 kbであり、そのうちの 0.3 kbが Tollの腕である。したがって、今回作製した基本のベクター (pDon263Mcs)は、 21.8 k bまでの長さの DNAを染色体に送り込む能力がある。送り込んだ DNA断片が内部 の欠失や崩壊などを起こしていなかつたことも重要な知見である。
[0083] (4)他の転移因子との比較
Sleeping Beauty因子について、全長が 9.1 kbを超えると転移効率が消失することが 知られている (引用文献 6)。 piggyBac因子は全長を 14.3 kbとしても遺伝子導入べクタ 一として機能することがわかっている (引用文献 3)。 Tol2因子の場合、これまでに報告 されている最大の長さは 10.2 kbである (引用文献 1)。 piggyBac因子と Tol2因子に限れ ば、報告されている長さより長くても転移活性が保持される可能性はある。現在のとこ ろ、本発明者ら力 STollで今回示した 22.1 kbという値は、哺乳類で使われている DN A型転移因子の中では最大である。加えて、本発明者らが作った基本的なベクター は、 Tollの腕として使われる部分は 0.3 kbと短い。以上から、 Tollは長い DNAを哺 乳類の染色体に取り込ませるための有用な遺伝子導入ベクターであるといえる。
[0084] 引用文献
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実施例 3
上記実施例 2において、 Tollは、長い DNA断片を染色体に運び込むことができる という特性を備え、優れた遺伝学のツールであることが示された。具体的には、全長 が 22· lkbと長くても効率よく転移する点と、腕の長さが左右の計でわずか 263 bpあれ ばベクターとして機能するという点が明らかとなった。また、メダカに加えて、ヒトとマウ スでも転移することがすでに証明されている (上記実施例 1、引用文献 15)。このため、 広い範囲の脊椎動物で転移活性があることが期待できる。
DNA型転移因子は、主に「カット'アンド 'ペースト」の様式で転移する。「カット」は、 因子が現在乗っている染色体などの DNA分子から因子が抜け出す過程を指す。「 ペースト」は、抜け出した因子が同じまたは他の DNA分子に入り込むことである。ここ で「カット」が生じた場合、その検出は容易である。特定の因子に注目した PCRでの 解析で十分な情報が得られるからである。これに対して入り込むほうの証明は、どこ に入るかを事前に知ることはできず、マーカー遺伝子や複雑な検出系が必要となるこ とから、容易ではない。
本研究の目的は、 X. laevisで Toll因子のェクシジョンが起こるかどうかを調べること である。この目的のために、 Toll因子を内部に埋め込んだインディケ一タープラスミ ドと、細胞の中で転移酵素を供給するためのへルパープラスミドを作製した。そしてこ れらを発生の初期段階の力エルの胚に注入し、細胞分裂のための時間が経過した
後に胚から回収した。続いてインディケ一タープラスミドを PCR、クローニング、およ び塩基配列解読の方法で解析した。結果は、 Toll因子がプラスミドからのェクシジョ ンを起こしたことを示した。切断点には、痕跡としての多様な配歹 IJも観察された。以上 の結果より、 Toll因子がこのモデル生物においても転移能を示すことが判明するとと もに、ゲノム操作のツールとして Toll因子が汎用性に優れることが示唆された。
痕跡の配列は、魚や哺乳類でみられるものと類似していた。ただし、切断点に特定 のヌクレオチドが現れるという傾向が観察された。これについては、この力エルまたは 両生類に特有な何らかの DNA修復機構があって、それを反映した結果であると!/、う ことも考えられる。
[0086] 1.材料と方法
(1)プラスミド
2種類のプラスミドを用いた。インディケ一ターとヘルパーである。前者は非自律的 な Toll因子をもつプラスミド、後者は CMVプロモーターに制御された転移酵素遺伝 子をもつプラスミドである。細胞の中で、ヘルパーが転移酵素を供給し、それがイン ディケ一ターの中にある Toll因子の転移を触媒することが、期待される。
完全型のヘルパーに加え、転移酵素の機能の対照区とするための欠損型へルバ 一も用意した。これは、転移酵素の途中のアミノ酸にあたるコドン 2か所を、終止コドン に替えたものである。
インディケ一ター pInd263GFPは、 263 bpの Toll因子の腕及び GFP遺伝子を含む。 完全型ヘルパー pHel851aaは、 851アミノ酸からなる転移酵素をコードする。欠損型へ ルパー pHel316aaは、 316アミノ酸のみをもつ途切れたタンパクをコードする。それぞ れの構造を図 21に示した。 pInd263GFPの中の GFP遺伝子は、 CMVプロモーター、 E GFPのコーディング配歹 IJ、ポリ A付加シグナルで構成されている。この GFP遺伝子は、 胚の細胞に注入した DNAが核に取り込まれたことを確認するためのマーカー遺伝 子の役目を果たす。
[0087] (2)力エルの胚および DNAの注入
カェノレの此佳に 600ュニッ K雄に 300ユニットの chorionic gonadotropin(Aska Pharmac eutical, Tokyo, Japan)を注射し、 自然交配をさせ、受精卵を得た。 3% cystein(pH 7.9)
中でゼリー層を除き、 O. lx Steinberg's solution (引用文献 12)で洗った後、 [3% Ficoll, O. lx Steinberg's solution]に移した。 2細胞から 4細胞の胚となったときに、 5 nlのプラ スミド DNAを注入した。 DNAは、インディケ一ターの濃度が 5 μ g/ml,ヘルパーの 濃度が 50 a g/mlとなるように [88 mM NaCl, 15 mM Tris-HCl (pH 8.0)]に溶解させて おいた。注入を終えた胚は、 O. lx Steinberg's solution中で 20°Cで培養した。なお、ィ ンディケ一ターとヘルパーの比は 1 : 10である力 これは上記実施例 1の結果を参考に して決定したものである(レ、ろ!/、ろな比を設定して哺乳類培養細胞での転移頻度を 調べ、 1 :9の場合に最も高い頻度が得られた。今回の 1 : 10は、これに近い値である)。
[0088] (3) PCRでの解析
尾芽胚となったときに GFPの発光がみられる胚からプラスミド DNAを回収した。回 収は、胚を 100 μ 1の [10 mM Tris-HCl, 10 mM EDTA (pH 8.0), 200 μ g/ml proteinas e K]に入れて砕き、続いて 50°Cで 12時間以上保温するという処理で行った。そのうち の 2 1を铸型として使い、ェクシジョンを検出するための PCRを行った。使った酵素 は、 OD Plus polymerase (Toyobo, Osaka, Japan)でめる。プフイマ一は、プフスミド p UC 19の一部に相当するもので、 PlL(GenBankファイル L09137の 208〜237番塩基) と P1R(770〜741番塩基)である。 Toll因子が入っているのは、これらにはさまれた 400 〜441番塩基の場所である。 dNTPs、 MgSO、プライマーの濃度は、それぞれ 0.2 mM
4
、 2 mM、 0.5 μ Μとした。 PCRの条件は、該当する箇所に記す。
[0089] (4)クローユングと塩基配列の解読
PCRが終了した反応液を水で 1/500に希釈し、そのうちの 1 1を铸型として第 2次 PCRを行った。使ったプライマーは P2L(L01937の 338〜367番目塩基)と P2R(650〜6 21番塩基)である。この入れ子形式の PCRは、第 1次 PCRの産物のクローニングを容 易にするための処置である。第 2次 PCRの産物をプラスミド pBluescript II KS (-) (Stra tagene, La Jolla, CA, USA)の EcoRVサイトにクローユングし、 T3プライマーと T7プライ マーを使って塩基配列を調べた。装置は ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を使用した。
[0090] 2.実験結果
( 1 )プラスミドの胚への注入および回収
実験は 2つのセット Aおよび Bから成る。 Aではインディケ一ター (pInd263GFP)と完 全型ヘルパー (pHel851aa)を、 2細胞から 4細胞の時期の X.laevisの胚に注入した。 B は転移酵素の機能に関する対照区であり、完全型ヘルパーではなく欠損型へルバ 一 (pHel316aa)をインディケ一ターとともに注入した。 Aでは 154個、 Bでは 168個の胚 に DNAの注入を行い、それぞれ 112個と 136個の胚が尾芽胚まで生存した。 Aと Bの 間で生存率に明らかな差異はみられなかった(X 2=3.07, DF=1, P〉0.1)。
注入した DNAの分子が核に取り込まれることは、ェクシジョン検出の実験が成立す るための前提条件である。転写は核内で起こり、ヘルパープラスミドに乗っている転 移酵素遺伝子が転写されたときのみ、転移酵素が供給されるからである。この前提が 成り立つていることを確認するために、インディケ一タープラスミドに乗せてある GFP 遺伝子を利用した。 GFPが発現していれば、 DNA型が核に取り込まれていることに なる。 GFPが発現している胚の割合は、 Aで 57%(64/112)、 Bで 65%(88/136)であった 。これらの頻度の間に明らかな差異はない(χ 2=1·48, DF=1, Ρ〉0·4)。胚を顕微鏡で 観察したときの GFPの発現の空間パターンにも明らかな違いは認められなかった。 A の胚のうちで GFPの発現が強いものから 12個 (Al-12)、 Bの胚力、らも同様に 12個を 選び (Bl-12)、これらの計 24個の胚から個別にプラスミド DNAを回収した。
(2)回収したプラスミドの PCRでの解析
回収した DNAを铸型として 2種類の様式の PCRを行った。使用したプライマーは、 P1Lと P1R (pInd263GFPで Toll因子をはさむ位置にある)である。
最初の PCRは、インディケ一タープラスミドの DNA分子が回収されて!/、ることを確 認するためのものである。 pInd263GFPの上での 2つのプライマーの距離は、 2.4 kbで あり、すべてのサンプルで、この長さの産物が確認された(図 22、上段)。産物の量に は個々のサンプルの間で違いがあったものの、 Aと Bの間でばらつきの程度には明確 な違いはみられな力、つた。このように、インディケ一タープラスミドが回収されているこ とが確認された。 pInd263GFPから Toll因子の部分のェクシジョンが正確に起こった とすると、 535 bpの断片が PCRで増幅されるはずである力 この大きさの産物はどの サンプノレにもみられなかった。
もう 1つの PCRは、伸長反応の部分の時間を短く(1回目に 150秒であったところを、
40秒)して行った(図 22、下段)。 40秒では Toll因子の全域を増幅するには十分で はなぐこのためにェクシジョンの産物が効率よく増幅されると期待できるからである。 このような処置を施したところ、 Aのすベてのサンプル (A1-12)で、 535 bpに近い大き さの断片が観察された。 Bでは、産物としての断片はみられな力 た。以上の結果か ら、 Aの胚では pInd263GFPからの Toll因子の脱落が起きていて、 Bの胚では起きて いな力、つたことが推察される。
[0092] (3) PCR産物の塩基配列の解析
pInd263GFPに生じた DNAの変化に関して、その切断点の位置や形状を調べるた めに、 Aの 12個の胚から得られた PCR産物の塩基配列を、解析することにした。その ための準備として、まず、 PCR産物を、入れ子形式の PCRで改めて増幅した。使用 したプライマーは、 P2Lと P2Rである。続いて、この増幅で得られた断片をプラスミドに クローニングした。このとき、それぞれの胚について、生じたコロニーのうちから 1個の みを無作為に選んだ。したがって、この段階での 12個のサンプルは全てが別々のェ クシジョンで生じたものであるといえる。図 23は、これらの 12個から得られた塩基配列 をつき合わせたものである。すべてのサンプルで、 Toll因子の配列の全体またはほ とんどが消失していた。この結果から、インディケ一ターが力エルの細胞中に存在し ていた間に Toll因子のェクシジョンが起こったことが明らかとなった。 12個のサンプ ルのうちの 11個 (A1-6および 8-12)で Toll因子の全域が抜け、 TSDの一部に該当す る 1〜7ヌクレオチドが残されていた。サンプル A7では Tollの右端 39ヌクレオチドが残 り、 Tollの左側に隣接する染色体領域の 77ヌクレオチドが消失していた。この 77ヌク レオチドには TSDの 1つ分も含まれている。また、 12個のサンプルのうちの 7個で、新 しい G残基が生じていたことがわ力 た。これは、 Gが付加されたと考えることもできる し、 Gへの変更があつたと考えることもできる。
[0093] 3.考察
本研究ではインディケ一ター (pInd256GFP)を、完全型ヘルパー (pHel851aa)又は欠 損型ヘルパー (pHel316aa)とともに、 2細胞から 4細胞の時期の胚に注入した。 Aと B の間で、尾芽胚の時期での GFPの発現頻度やパターンに明らかな差異はな力、つた。 したがって、 DNAの核への取り込みの効率については Aと Bの間に明確な違いはな
いといえる。これに加えて、胚から回収したインディケ一ターの量も、 Aと Bとで同等で あった。このような状況において、ェクシジョンを検出する PCRでは Aと Bとで明確な 違いが認められた。したがって、この違いの原因は 2種類のヘルパーの塩基配列の 違いであるということができる。違いがあるのは、内部の 6ヌクレオチドの領域のみであ る。この部分は、 pHel851aaでは 317番めと 318番めのアミノ酸に対するコドンであり、 p Hel316aaでは 2個の終止コドンとなっている。以上から、インディケ一ターからの Toll の部分の脱落は pHel851aaから作られる酵素が触媒したものであり、 pHel316aaから 作られるタンパクにはその作用はない、との結論が導かれる。
上記の結論の重要な意義は、 Toll因子が X. laevisの細胞でェクシジョンを起こす ということである。 Tollの脱落に様々な痕跡が伴っていたことは、これを補強するもの となる。ェクシジョンに痕跡が伴うのは、多くの DNA型転移因子でみられるものだか らである。ショウジヨウバエの hobo (引用文献 1)、トウモロコシの Activator (引用文献 17) 、金魚草の Tam3(引用文献 4)、ショウジヨウバエの mariner (引用文献 2),線虫の Tel (引 用文献 13)など、数多くの例がある。
7つのサンプルで G残基 (もう一方の鎖では C残基)が生じて!/、たことは、興味深!/ヽ 現象である。塩基配列の解析は両方の鎖で行っているため、実験の方法等の人為 的な原因でこの現象が生じたとは考え難レ、。 7個もの別々のェクシジョンで生じて!/、る こと力、ら、この力エルもしくは両生類一般に特有の何らかの DNA修復機構があり、そ れを反映しているという可能性もある。本発明者らはこれまでに、メダカで 20以上、哺 乳類培養細胞で 20以上の PCR産物の解析をして!/、る力 このような事例が観察され たことはない。
ェクシジョンは、 DNA型転移因子の転移反応の一部でしかない。とはいえ、 hATフ アミリーの因子は非複製様式、すなわち切り出された断片そのものが別の場所に揷 入するという様式で転移するとされており (引用文献 10)、転移反応全体が X. laevisの 細胞で成立することは確実と考えられる。
調べた 12個のェクシジョンのうちで、塩基配列がもとの状態に正確に戻ったものは 、一つもなかった。だからといって、抜けた因子が染色体に入るときも同様に不正確 であると!/、うことにはならな!/、。因子は末端で正確に切り出されて新しレ、場所に入り込
む力 抜けたあとの腔所にはヌクレオチドの付加や脱落が起こるというのは、 DNA型 転移因子で頻繁にみられる現象である。その原因は、 2本鎖切断の修復で反応が中 断されること (引用文献 13)や、非相同組換え (引用文献 16)などであろうと考えられて いる。本発明者らは最近、マウスの染色体に新しく揷入した Toll因子を 2個クロー二 ングして調べた。そして、因子の最初のヌクレオチドから最後のヌクレオチドまで力 8 bpの TSDとともに正確に入って!/、ると!/、う結果が、得られて!/、る。
力エルでは、 Sleeping Beautyや Tol2など DNA型転移因子力 ゲノムの操作のツー ルとして使われている (引用文献 14、 5)。しかし、 Tollはこれらに勝る特性をもってい る。長い DNA断片を運び込むことができるという点である(実施例 2を参照)。したが つて、 Tollは力エルを対象とした遺伝子工学的手段の単なる追加ではなぐ新しい 展開への道を拓く有用なツールとして認識されるべきである。
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実施例 4
[0095] 転移反応は、 DNAの非相同組換えの一種であるとみなすことができ、エンドヌクレ ァーゼ、ポリメラーゼ、リガーゼなどの作用の組合せで進行するものと思われる。これ らの機能を転移酵素がすべてもつているかどうかは現在でも不明である。すなわち、 必要な作用の一部をホストの細胞に依存していることが、可能性として考えられる。も しそのようなホスト要因を必要とする場合、それがホストの生物種に固有のものである 力、、或いは広範囲の生物に共通するものであるかを探ることは、生物進化およびバオ テクノロジーの両方の面で意義がある。進化の面では、転移因子の種間での移動、 すなわち水平伝播がどの程度頻繁に起こり得るかをこれが規定するからである。水平 伝播は、もし頻繁であれば、生物の進化に大きく寄与する要因とみなすことが必要と なる。バオテクノロジーの観点からは、開発した遺伝子導入ベクター等が適用できる 生物種の範囲が重要である。必要なホスト要因のうち、生物種に固有のものが少ない ほど、適用できる範囲は広いことが期待できる。上で示した結果(実施例;!〜 3)より、 Tol 1因子は脊椎動物全般で転移活性をもつものと推測される。
高等動物は、図 24に示すように、進化の早い段階で 2つの大きな系統に分岐して V、る。発生初期に生じる原口やその近辺が口になる旧口動物と、肛門になる新口動 物である。脊椎動物は後者に属する。前者でも Toll因子が転移するかどうかを、昆 虫のカイコを用いて調べることにした。
[0096] 1.材料と方法
(1)方法の概略
全体の流れは図 25の通りである。用いた DNAや RNA、および各段階の詳細を、 以下に記す。
[0097] (2)転移酵素 RNA
図 26に示す 2種類のプラスミド(pTem851aaと pTem316aa)を構築した。それぞれを 鎵型にして、 RiboMAX Large Scale RNA Production System (Promega Corp., Madiso n, WI, USA)を用いて、 RNA(mRNA851aaと mRNA316aa)を合成した。 mRNA851aaは 、 851アミノ酸からなる Toll転移酵素の全域をコードする。 mRNA316aaは、先頭から 316番めまでのアミノ酸をコードする。後者は、転移酵素の機能に関するネガティブ コントロールとしての役目をもつ。この 2種類の RNAは、全長は同じである。塩基配列 は、途中の 6塩基の部分のみが異なっている。
[0098] (3)ドナープラスミド
図 27に示すプラスミドを構築した。これは、アルビノメダカのチロシナーゼ遺伝子の 一部をクローンにしたものであり、 1,855 bpの Toll因子が含まれている。カイコの細胞 内で転移酵素が作用し、 Toll因子が切り出されてそれがカイコの染色体に転移する ことを想定している。なお、この 1,855 bpの因子は、転移酵素遺伝子はもっていない( 引用文献 5)。ドナープラスミドを含むバクテリアを液体培地で増殖させ、それからブラ スミド DNAを抽出し、 QIAGEN Plasmid Maxi Kit (QIAGEN GmbH, Hilden, Germany) 用いて精製した。
[0099] (4)処理区の設定
3つの処理区 (A'B ' C)を設定した。 Αは、転移が起こることを想定するものであり、 ドナープラスミドに mRNA851aaを加えてカイコ受精卵に注入した。 Bは、転移酵素が 不完全であれば転移が起こらないことを確認するためのものであり、ドナープラスミド に mRNA316aaを加えてカイコ受精卵に注入した。 Cは、転移検出方法に関するネガ ティブコントロールである。そのために、受精卵への DNAや RNAの注入を行わなか つた。
[0100] (5)カイコへの注入
処理区 Aと Bでは、ドナープラスミドと RNAを、最終濃度が 40 ng/ 1及び 160 ng/
1となるように混合し、ガラス針を用いて、産卵後 40分以内の受精卵に注入した。 Aで は 250個、 Bでは 50個の受精卵に注入を施し、注入が終了した受精卵をプラスチック 箱 1個に収めた。処理区 Cとしては、 50個の受精卵を、注入の処理をせずに同じブラ スチック箱に収めた。続いて、プラスチック箱を 25°Cに保温し、発生を進行させた。
[0101] (6)プラスミド DNAの回収
保温開始から 5〜6時間後に、処理区 A、 B、じから、それぞれ 75個、 25個、 25個の 胚を取り分け、 25個ずつを遠心チューブに入れた。 Aからは 3組作ったため、これらを Al、 A2、 A3と称することにする。残りの胚は、そのまま 25°Cでの保温を続けた。取り 分けた計 5組の胚から、 Hirtの方法 (引用文献 3)で DNAを抽出した。この方法では、 環状の DNAが効率よく抽出される。
[0102] (7)ェクシジョンの検出
回収したドナープラスミドの DNAの分子から、 Toll因子のェクシジョンが起こって いるかどうかを PCRで調べた。ドナープラスミド上での、プライマー Pexlと Pex2の距離 は 2.2 kbである。ドナープラスミドがカイコの細胞内に存在した間に Toll因子のエタ シジョンが起こったとすると、その DNA分子では、 Pexlと Pex2の距離は小さくなる。し たがって、 PCRで 2.2 kbより短い産物が生じた場合は、ェクシジョンが起こった分子 があることが示唆される。 Toll因子の部分のみが正確に抜けた場合は、 Toll因子は 1.9 kbであるため、 PCR産物の大きさは 0.3 kbとなる。
[0103] (8)ゲノム DNAの抽出
25°Cでの保温の開始から 96〜97時間後に、処理区 Aから 100個の胚をとり、ゲノム D NAを抽出した。抽出法は、 SDSおよび Proteinase Kで処理した後に、塩析およびェ タノール沈殿法で DNAを精製するという、標準的な方法 (引用文献 7)である。得られ た DNAをインサーシヨンの検出に使用した。ェクシジョンの検出と同時ではなぐそ れより遅く DNA抽出を行ったのは、時間がたつほどドナープラスミドの崩壊が進むこ とを期待してのことである。ドナープラスミドは、インサーシヨン検出に使用する PCRプ ライマーに相当する領域をもっている。このため、インサーシヨンに由来しない PCR産 物を生じさせてしまう。したがって、ドナープラスミドの崩壊が進んでいるほど、すなわ ち、より遅い時期の胚を使うほど、インサーシヨン検出の感度が上がることが期待でき
[0104] (9)インサーシヨンの検出
逆向き PCRの手法でインサーシヨンの検出を行った。ドナープラスミドに含めた Tol 1因子には、制限酵素 EcoRIの切断部位はない。カイコの染色体に Toll因子が転移 していた場合、ゲノム DNAを EcoRIで切断すると、 Toll因子の両側に染色体領域が つながり、かつ両端に EcoRIの切断端をもつ DNA断片が生じる。これに T4 DNAリガ ーゼを作用させると、自身の両端がつながった環状 DNAが生じる。プライマー Pinlと Pin2は Toll因子の両端部に位置し、 Toll因子の外側を向いている。これらのプライ マーを用いて PCRを行うと、この環状 DNAが铸型となった場合は、含まれる染色体 部分の長さに応じた PCR産物が生じる。以上の一連の操作を行い、 Toll因子の染 色体へのインサーシヨンが起こっているかどうかを調べた。
[0105] (10)クローニングおよび塩基配列解読
ェクシジョンの検出、およびインサーシヨンの検出で得られた PCR産物は、必要な 数の DNA分子をプラスミドにクローユングし、塩基配列を解読した。クローユングに 用いたプラスミドは pT7Blue_2(Takara Bio Inc., Otsu, Japan)である。クローユングの 地点から約 100 bp上流の部分に対応する合成 1本鎖 DNAを、塩基配列解読のプラ イマ一に用いた。
[0106] (l l) PCRの条件
以上の解析で、 PCRを多用している。 DNAポリメラーゼには、 Ex Taq (Takara Bio I nc.)を使用した。温度設定等の個々の条件は、それぞれの箇所に記す。
[0107] 2.結果
(1)ェクシジョンの検出
5〜6時間保温した胚から抽出した DNAを铸型にし、ドナープラスミド上で Toll因 子をはさむように位置するプライマー(Pexlと Pex2)を用いて PCRを行った。 PCRの 後の電気泳動の結果を図 28に示す。 PCRでの伸長反応の時間は、 150秒および 20 秒の 2種類とした。 150秒は、ドナープラスミド上で Toll因子の全域を含む部分 2.2 kb を増幅するのに十分な長さの時間である。 2.2 kbの DNA断片力 処理区 Aと Bでは 生じており、処理区 Cではみられない。この結果は、 2.2 kbの DNA断片が、カイコの
ゲノム DNAではなぐ注入したドナープラスミドに由来することを示す。また、処理区 Aと Bの両方でドナープラスミドが回収されていることも示す。
伸長反応の時間を 20秒とした PCRは、ェクシジョンが起こった DNA分子からの産 物を効率よく増幅するために行ったものである。電気泳動で、処理区 Aの 3つのレー ンに、 0.3 kb付近に DNA断片が現れている。処理区 Bと Cでは、この大きさの近辺に は産物の DNA断片はみられない。この結果から、処理区 Aのみで Toll因子のエタ シジョンが起こって!/、ること力 S示唆される。
[0108] (2)ェクシジョンの確認
Al、 A2、 A3のそれぞれの DNA断片を、エタノール沈殿法で精製した後、プラスミ ドベクターに結合してクローンとした。それぞれから各 1個のクローンを無作為に選び
、その塩基配列を調べた。その結果を、対応する部分が並ぶようにまとめたものが図 29である。これからわかるように、 3つのクローンのすべてで、 Toll因子の領域は消 失している。また、両側の標的部位重複 (TSD)の領域は一部が残っている。そして、 8〜80 bpの断片が間に加わっている。新たに加わった部分の塩基配列を、 Toll因 子の全塩基配列と照合してみた力 S、一致する部分はなかった。 TSDの塩基配列は C CTTTAGCで、これに相補的な配列は GCTAAAGGとなる。新たに加わった部分の多 くで、この相補的な配列の全部または一部が連続しているように見受けられる。
PCR産物のクローニングおよび塩基配列解読から、 Toll因子の全域が消失したこ とが明確に示された。このように、ドナープラスミドからの Toll因子のェクシジョンが起 こったことが確認された。
[0109] (3)インサーシヨンの検出と確認
96〜97時間保温した処理区 Aの胚からゲノム DNAを抽出した。これに、先に記した 切断と環状化の操作を施した後、逆向き PCRを行い、その産物をプラスミドにクロー ユングした。クローンがバクテリアのコロニーとして数十個得られた段階で、無作為に 2個を選んだ。そのプラスミド DNAを抽出して塩基配列の解読を行った。その結果を 、対応する部分が並ぶようにまとめたもの力 図 30である。
3つのサンプルで、 Toll因子の部分の塩基配列は一致しており、 Toll因子の外側 の部分は異なっている。カイコからのクローンの、この部分の配列のみを取り出して、
カイコの塩基配列データベース (KAIOKOBLAST; http:〃 kaikoblast.dna.affrc.go.jp/) と照合したところ、 90%以上の相同性をもつ配列がカイコにあることが示された。なお、 TSDは作られて!/、な!/、ように思われる。
逆向き PCRの産物の塩基配列の解析から、 Toll因子の部分がカイコの染色体に つながつていることが明確に示された。このように、カイコで Toll因子のインサーショ ンが起こったことが確認された。
3.考察
高等動物は、進化の早い段階で旧口動物と新口動物の 2つの大きな系統に分岐し ている。ヒトゃメダカなどの脊椎動物は、新口動物の方に属する。 Toll因子は、メダ 力のゲノムに存在する DNA型転移因子であり、脊椎動物全般で転移活性をもつもの と推測されている。その Toll因子が旧口動物でも転移するかどうかを、カイコを材料 として、今回の研究で調べた。結果は、転移が起こることを明確に示すものであった。
Toll因子の転移を触媒する酵素は、 Toll因子の転移酵素である。しかし、転移反 応はこの酵素のみで進行するものであるの力、、あるいはホスト生物に由来する何らか の要因が必要であるのかの疑問には、答えは得られていない。今回得られた「新口 動物のヒトゃメダカで転移する Toll因子力 S、旧口動物のカイコでも転移する」という結 果は、ホスト生物からの要因に関して、答えに近づく情報をもたらすことになつた。す なわち、「Toll因子の転移反応には、ホストの生物からの要因を必要としないか、必 要とするにしても、それは旧口動物と新口動物が共通にもつものである」との知見で ある。
今回の結果は、ノ^オテクノロジーの面でも大きな意義がある。まず、 Toll因子が カイコで転移することは、「カイコで利用できる遺伝子導入 ·遺伝子トラップ '突然変異 誘発等の系を、 Toll因子を利用して構築できる」ことを意味する。また、以下に記す ように、「Toll因子を用いて開発する系は、これまでに開発されている系に勝る特性 を備えたものとなる」ことが期待できる。
カイコでは、 piggyBac因子を用いた系 (引用文献 9)と Minos因子を用いた系 (引用文 献 11)がこれまでに開発されている。この 2種類の因子はいずれも mariner/Telファミリ 一に属する因子である。 mariner/Telファミリ一は、広い範囲の生物に分布する転移
因子のグループであり、構造や転移機構などに共通性や類似性がある。ショウジヨウ バエの mariner因子と線虫の Tcl因子を代表とみなして、その名称がつけられた。転 移因子には、これとは別にもう 1つの大きなグループがある。 hATファミリーとよばれる もので、ショウジヨウバエの hobo因子、トウモロコシの Activator因子、キンギヨソゥの Ta m3因子が含まれる (引用文献 1)。今回カイコでの転移を証明した、メダカの Toll因子 は、この hATファミリーに属する因子である (引用文献 6)。 mariner/Telファミリーと比較 した場合の hATファミリーの特性として、「全長が大きくても転移する」という点がある。 たとえば、マウスの培養細胞を用いた実験で、 mariner/Telファミリーの因子である Sle eping Beauty因子は、全長が 9.1 kbを超すと転移活性をほぼ失うことが示されている( 引用文献 12)。これに対して、 Toll因子は、全長が 22.1 kbであっても、マウスの培養 細胞で高い頻度で転移する (引用文献 4)。このことから、長い DNA断片を染色体に 導入するためのベクターとしての利用が特に強く期待される。カイコやその近縁種に は、フイブ口イン遺伝子のように、産業上有用な遺伝子で全長の大きいものが知られ ている (引用文献 8)。このような遺伝子を扱う際に、 Toll因子は有力なベクターとなる こと力 S期待できる。
今回の結果の、バイオテクノロジーの面での意義は、カイコのみにとどまらない。旧 口動物のうちでカイコのみ力 Toll因子の転移に関して特殊な状況にあるとは考え にくいからである。今回の結果から、「カイコ以外の多くの旧口動物でも Toll因子は 転移するであろう」との予測が立つ。 Toll因子を用いて開発する遺伝子導入'遺伝 子トラップ ·突然変異誘発等の系は、広い範囲の生物に適用できるものとなることが 期待できる。
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産業上の利用可能性
[0112] 本発明は Toll因子のトランスポザーゼ及びそれを用いた DNA導入システムなどを 提供する。本発明は遺伝子導入、遺伝子ターグティング、突然変異誘発、遺伝子や プロモーター、ェンハンサ一等のトラッピングなどへの利用が図られる。
[0113] この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものでは ない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々 の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その 全ての内容を援用によって引用することとする。