明 細 書
電気電子部品用銅合金板
技術分野
[0001] 本発明は、(1)高強度で、かつ、パッケージ 'クラックや剥離の問題に対処するため に、酸化膜密着性を向上させた Cu-Fe-P系の銅合金板、(2)高強度で優れた曲げ 加工性を備えた Cu-Fe-P系の銅合金板、(3)高強度で、かつ、スタンビング加工の 際のプレス打ち抜き性に優れた Cu-Fe-P系の銅合金板、及び、(4)高強度で、かつ 、メツキ性に優れた Cu— Fe— P系の銅合金板に関する。本発明の銅合金板は、半 導体装置用リードフレームの素材として好適で、半導体装置用リードフレーム以外に も、その他の半導体部品、プリント配線板等の電気 ·電子部品材料、開閉器部品、ブ スバー、端子'コネクタ等の機構部品など様々な電気電子部品用として好適に使用さ れる。ただ、以下の説明では、代表的な用途例として、半導体部品であるリードフレ ームに使用する場合を中心に説明を進める。
背景技術
[0002] 半導体リードフレーム用銅合金としては、従来より、 Feと Pとを含有する、 Cu-Fe-P 系の銅合金が一般に用いられている。これら Cu-Fe-P系の銅合金としては、例えば 、 Fe : 0. 05—0. 15%、P : 0. 025—0. 040%を含有する銅合金(C19210合金) や、 Fe : 2. 1— 2. 6%、P : 0. 015—0. 15%、Zn : 0. 05—0. 20%を含有する銅合 金(CDA194合金)が例示される。これらの Cu-Fe-P系の銅合金は、銅母相中に Fe 又は Fe-P等の金属間化合物を析出させると、銅合金の中でも、強度、導電性および 熱伝導性に優れていることから、国際標準合金として汎用されている。
[0003] 近年、電子機器に用いられる半導体装置の大容量化、小型化、高機能化に伴い、 半導体装置に使用されるリードフレームの小断面積化が進み、より一層の強度、導電 性、熱伝導性が要求されている。これに伴い、これら半導体装置に使用されるリード フレームに用いられる銅合金板にも、より一層の高強度化、熱伝導性が求められてい
[0004] 一方、半導体デバイスのプラスチックパッケージは、熱硬化性樹脂によって半導体
チップを封止するパッケージ力 経済性と量産性に優れることから、主流となっている 。これらパッケージは、最近の電子部品の小型化の要求に伴って、益々薄肉化され ている。
[0005] これらのパッケージの糸且み立てにおいて、リードフレームに半導体チップを Agぺー ストなどを用いて加熱接着する力、、あるいは Au、 Agなどのめっき層を介してはんだ 付けもしくは Agろう付けする。そして、その後樹脂封止を行い、樹脂封止を行ったあ とに、アウターリードに電気めつきによる外装を行うのが一般的である。
[0006] これらのパッケージの信頼性に関する最大の課題は、表面実装時に発生するパッ ケージ ·クラックや剥離の問題である。パッケージの剥離は、半導体パッケージを組み 立てた後、樹脂とダイパッド(リードフレームの半導体チップを載せる部分)との密着 性が低い場合、後の熱処理時の熱応力によって生じる。
[0007] これに対して、パッケージ 'クラックは、半導体パッケージを組み立てた後、モールド 樹脂が大気より吸湿するため、後の表面実装での加熱において水分が気化し、パッ ケージ内部にクラックがあると、剥離面に水蒸気が印加されて内圧として作用する。こ の内圧によりパッケージに膨れを生じたり、樹脂が内圧に耐えられずクラックを生じた りする。表面実装後のパッケージにクラックが発生すると水分や不純物が侵入しチッ プを腐食させるため、半導体としての機能を害する。また、ノ ンケージが膨れることで 外観不良となり商品価値が失われる。このようなパッケージ 'クラックや剥離の問題は 、近年、上記パッケージの薄型の進展に伴って顕著となっている。
[0008] ここで、パッケージ 'クラックや剥離の問題は、樹脂とダイパットとの密着性不良に起 因する力 樹脂とダイパットとの密着性に最も大きな影響を及ぼしているの力 リード フレーム母材の酸化膜である。リードフレーム母材は、板の製造やリードフレーム製 作のために、種々の加熱工程を経ている。このため、 Agなどのめっき前に、母材の 表面には、数十〜数百 nmの厚さの酸化膜が形成されている。ダイパット表面では、 この酸化膜を介して銅合金と樹脂とが接しているため、この酸化膜のリードフレーム 母材との剥離は、もろに樹脂とダイパットとの剥離へとつながり、リードフレーム母材へ の樹脂の密着性を著しく低下させる。
[0009] したがって、パッケージ 'クラックや剥離の問題は、この酸化膜のリードフレーム母材
との密着性に力、かっている。このため、リードフレーム母材としての、前記高強度化し た Cu-Fe-P系の銅合金板には、種々の加熱工程を経て表面に形成された酸化膜 の密着性が高!/、ことが要求される。
[0010] しかも、銅合金板やリードフレームの製作のための種々の上記加熱工程における 加熱温度は、生産性向上や効率化のために、益々高温化している。例えば、リードフ レーム製作工程において、プレス加工後等における加熱処理をより高温.短時間で 行うことが求められている。このような加熱温度が高温になるにした力 Sい、リードフレー ム母材に生成している酸化膜は、疎密化などの問題により、低温の加熱で生成する 以前の酸化膜よりも、リードフレーム母材とより剥離しやすいという、新たな問題を有し ている。
[0011] 酸化膜密着性を向上させることは、数は少ないものの、以前からも提案されている。
例えば、特許文献 1では、銅合金極表層の結晶配向を制御することで、が提案され ている。即ち、特許文献 1では、リードフレーム母材銅合金の XRDの薄膜法にて評価 される極表面の結晶配向にお!/、て、 { 111 }ピーク強度に対する { 100 }ピーク強度比 を 0. 04以下として、酸化膜密着性を向上させることが提案されている。なお、この特 許文献 1では、あらゆるリードフレーム母材銅合金を含む力 S、実質的に例示している Cu-Fe-P系銅合金は、 Feの含有量が 2. 4%以上と多い Cu-Fe-P系銅合金のみで ある。
[0012] また、特許文献 2、 3では、 Cu-Fe-P系銅合金板の表面粗さに着目し、表面粗さ測 定における中心線平均粗さ Raが 0· 2 111以下、最大高さ1¾11& が1. 5 111以下とす ることによって、酸化膜密着性を向上させることが提案されている。より具体的に、こ の特許文献 2、 3では、これら表面粗さの制御を冷間圧延の圧延ロールの種類 (表面 粗さ)によって制御している。
[0013] また近年、 Cu-Fe-P系の銅合金の用途拡大や、電気、電子機器の軽量化、薄肉 化、小型化などに伴い、これら銅合金にも、一段と高い強度や、電導性、優れた曲げ 加工性が求められている。このような曲げ加工性としては、密着曲げあるいはノッチン グ後の 90° 曲げなどの厳しい曲げ加工ができる特性が要求される。
[0014] これに対して、従来から、結晶粒を微細化したり、晶 '析出物の分散状態を制御す
ることによって、曲げ加工性をある程度向上できることは知られている(特許文献 4、 5 参照)。
[0015] また、 Cu-Fe-P系合金において、曲げ加工性などの諸特性を向上させるために、 集合組織を制御することも提案されている。より具体的には、銅合金板の、(200)面 の X線回折強度 1 (200)と、(220)面の X線回折強度 1 (220)との比、 1 (200) /1 (22 0)が 0. 5以上 10以下であること力、、または、 Cube方位の方位密度: D (Cube方位) 力 以上 50以下であること、あるいは、 Cube方位の方位密度: D (Cube方位)と S方 位の方位密度: D (S方位)との比: D (Cube方位) /D (S方位)が 0. 1以上 5以下で あることが提案されて!/、る(特許文献 6参照)。
[0016] 更に、銅合金板の、(200)面の X線回折強度 1 (200)と(311)面の X線回折強度 1 ( 311)との和と、 (220)面の X線回折強度 1 (220)との比、〔1 (200) +1 (311)〕/1 (2 20)が 0. 4以上であることが提案されて!/、る (特許文献 7参照)。
[0017] 一方、これら高強度化した銅合金板には、前記小断面積化したリードフレームへの 加工性も求められる。具体的には、銅合金板はリードフレームへスタンビング加工さ れるために、銅合金板には、優れたプレス打ち抜き性が求められる。この要求は、リ ードフレーム以外の用途でも、銅合金板がプレス打ち抜きされて加工される用途では
| BJしでめる。
[0018] Cu-Fe-P系銅合金板において、プレス打ち抜き性を向上させる手段は、従来から 、 Pb、 Caなどの微量添加や、破断の起点となる化合物を分散させるなどの化学成分 を制御する手段や、結晶粒径などを制御する手段が汎用されてきた。
[0019] しかし、これらの手段は、制御自体が困難であったり、他の特性を劣化させたり、ま た、それゆえに製造コストの上昇につながるなどの問題を有していた。
[0020] これに対して、 Cu-Fe-P系銅合金板の組織に着目して、プレス打ち抜き性や曲げ 加工性を向上させることが提案されている。例えば、特許文献 8では、 Fe : 0. 005〜 0. 5wt%、P : 0. 005—0. 2wt%を含み、必要に応じてさらに Ζη : 0· 01~10wt% 、 Sn : 0. 0;!〜 5wt%のいずれか一方又は双方を含み、残部 Cuと不可避不純物から なる Cu-Fe-P系銅合金板が開示されている。そして、特許文献 8では、この銅合金 板の結晶方位の集積度を制御することにより、プレス打抜き性を向上させている(特
許文献 8参照)。
[0021] より具体的に、特許文献 8では、この集積度制御を、銅合金板が再結晶し、組織の 結晶粒径が大きくなるにしたがって、板表面への { 200}、 { 311 }面の集積割合が増 し、圧延すると { 220}面の集積割合が増してくることを利用して行なっている。そして 、特徴的には、 { 200}、 { 311 }面に対して、板表面への { 220}面の集積割合を増し てプレス打抜き性を向上させようとしている。より具体的には、この板表面における { 2 00 }面からの X線回折強度を 1[200] 、 { 311 }面からの X線回折強度を 1[311] 、 { 22 0}面からの X線回折強度を 1[220] としたとき、 [1[200] +1[311] ]/1[220] < 0. 4 の式を満たすこととしてレ、る。
[0022] また、前記の特許文献 6及び 7においても、プレス打ち抜き性を向上させた銅合金 板が記載されている(特許文献 6、 7参照)。
[0023] 更に、特許文献 9では、 Cu-Fe-P系銅合金板の屈曲性を向上させるために、 1 (20 0) /I (110)を 1. 5以下とすることが提案されて!/、る (特許文献 9参照)。
[0024] また、他の銅合金系ではある力 Cu-Ni-Si系銅合金(コルソン合金)板の曲げカロ ェ性を向上させるために、銅合金板の引張特性のうちの均一伸びと全伸びとの比を 0. 5以上とすることは公知である(特許文献 10参照)。
[0025] また、これら高強度化した銅合金板は、プレス打ち抜き加工 (スタンビング加工)、曲 げ加工などを施した後に、 Agなどのメツキが施され、半導体リードフレームとされる。
[0026] ただ、この Agなどのメツキ表面に、部分的に(局部的に)、図 3 (図面代用の SEM写 真、 500倍)に矢印で示す点のような、顕微鏡にてメツキ層の突起として観察される、 メツキの異常析出などが起こる場合がある。このメツキの異常析出が起こると、ボンデ イング不良を招くなどして、半導体リードフレームとして使用できなくなる。
[0027] このメツキの異常析出は、メツキ表面に全面的に起こるわけでも、製作される半導体 リードフレーム毎に多量に生じるわけでもない。しかし、半導体リードフレームの高効 率の大量生産ラインにとって、製作される半導体リードフレームに、例え、発生個数が わずかな ppmオーダーであっても、メツキの異常析出が発生した場合には、ラインの 生産速度や生産効率への重大な影響が避けがたい。
[0028] このメツキの異常析出は、現在では、铸造 '溶解工程で生成した粗大な介在物(酸
化物ゃ晶出物)の最終製品板表面への残存や、水素に起因する粗大なポアなどの 表面欠陥が原因であると推測される。メツキが異常析出したメツキ部分直下の最終製 品板表面には、多くの場合に、粗大な介在物(酸化物ゃ晶出物)あるいは水素に起 因する粗大なポアなどの表面欠陥が、存在、残存しているからである。
[0029] Cu— Fe— P系銅合金では、铸造 ·溶解工程の段階で、水素や酸素などをある程度 含有することが避けがたぐ溶解 ·铸造工程で生成した粗大な介在物(酸化物ゃ晶出 物)が最終製品板まで残存し、また水素に起因するポアが表面欠陥として現れること が避けがたい。
[0030] 半導体リードフレーム用銅合金の、高強度化や、プレス打ち抜き性、曲げ加工性な どの高成形性化のための提案は、従来から数多く提案されている。しかし、半導体リ ードフレーム用銅合金のメツキ性、特に、 Cu— Fe— P系の銅合金におけるメツキ性、 それも、上記メツキの異常析出を改善する技術はあまり提案されていない。
[0031] そんな中で、銅合金板に、 Fe : l . 5〜2· 3重量%あるいは Ρ : 0· 015—0. 045重 量%と、 Fe、 Pを比較的多量に含有させて、メツキ性を向上させることが提案されてい る(特許文献 11)。また、特許文献 11では、 Cを 10〜100ppmと、これも比較的多量 に含有させて、粒界割れを防止することも提案されてレ、る。
[0032] 特許文献 1 : :特開 2001 — 244400号公報
特許文献 2 : :特開平 2— 122035号公報
特許文献 3 : :特開平 2— 145734号公報
特許文献 4 : :特開平 6— 235035号公報
特許文献 5 : :特開 2001 — 279347号公報
特許文献 6 : :特開 2002 — 339028号公報
特許文献 7 : :特開 2000 — 328157号公報
特許文献 8 : :特開 2000 — 328158号公報
特許文献 9 : :特開 2006 — 63431号公幸
特許文献 10 :特開 2002— 266042号公報
特許文献 11 :特許 2962139号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0033] しかし、これらの従来技術では、本発明で意図する高レベルの酸化膜密着性を保 障するまでには至らない。即ち、高温になる加熱温度下で生成した、リードフレーム 母材表面の酸化膜の、リードフレーム母材とより剥離しやすいという新たな問題に対 しては総じて対応できな!/、。
[0034] 先ず、特許文献 1における Cu-Fe-P系銅合金の実質的な Feの含有量は、前記し た通り、最低でも 2. 4質量%を超えて多い。この点で、特許文献 1の技術は、確かに Feの含有量が多い Cu-Fe-P系銅合金の酸化膜密着性向上には有効力、もしれない 。実際に、特許文献 1では Feの含有量が 2. 41 %である実施例 1の Cu-Fe-P系銅合 金の酸化膜密着性は、酸化膜の剥離限界温度で 633K (360°C)まで向上している。
[0035] しかし、 Feの含有量が 2. 4質量%を超えて多くなると、高温になる加熱温度下で生 成したリードフレーム母材表面の酸化膜が、リードフレーム母材とより剥離しやすくな る。また、導電率などの材料特性だけでなぐ铸造性などの生産性が著しく低下する という別の問題も生じる。
[0036] また、導電率を無理に増加させるために、例えば、上記析出粒子の析出量を増や そうとすると、析出粒子の成長 ·粗大化を招き、強度や耐熱性が低下する問題がある 。言い換えると、特許文献 1の技術では、 Cu-Fe-P系銅合金に要求される高強度と 酸化膜密着性とを兼備させることができなレ、。
[0037] したがって、この特許文献 1の技術を、 Feの含有量を実質的に 0. 5%以下と低減し た組成によって、高強度化した Cu-Fe-P系銅合金にそのまま適用しても、前記したリ ードフレーム等に要求される酸化膜密着性を得ることはできない。
[0038] また、特許文献 2、 3のように、前記中心線平均粗さ Raが 0. 2 m以下、最大高さ R maxが 1. 5 m以下とした場合には、確力、に、これよりも表面粗さが粗い Cu-Fe-P 系銅合金板に比べれば、酸化膜密着性は向上する。
[0039] しかし、本発明者らが知見したところによれば、前記した本発明で目的とするより高 温下の加熱で生成する酸化膜の酸化膜密着性に対しては、後述する通り、同じく(等 しく)中心線平均粗さ Raを 0· 2 111以下ぉょび最大高さ1¾11& を1. 5 111以下とした 場合にでも、意外にも酸化膜密着性能に大きな差が生じた。
[0040] これは、中心線平均粗さ Raや最大高さ Rmax以外の要素(要因)が、大きく関与し ていることを示している。そして、このことは、この要素(要因)を制御しない限り、本発 明で目的とするより高温下の加熱で生成する酸化膜の酸化膜密着性を向上させられ ないことを意味している。
[0041] また、これまでの銅合金高強度化の手段である、 Snや Mgの固溶強化元素の添カロ や、冷間圧延の加工率増加による強加工による加工硬化量増大では、必然的に曲 げ加工性の劣化を伴い、必要な強度と曲げ加工性を両立させることは困難である。し 力、しながら、近年の電気、電子部品の前記軽薄短小化に対応できるような、引張強 度 500MPa以上の高強度 Cu-Fe-P系合金を得るためには、このような冷間圧延の 強加工による加工硬化量の増大が必須となる。
[0042] このような高強度 Cu-Fe-P系合金に対しては、上記特許文献 4、 5などの結晶粒微 細化や、晶 ·析出物の分散状態制御などの組織制御手段、更には、上記特許文献 6 、 7などの集合組織の制御手段だけでは、前記密着曲げあるいはノッチング後の 90 ° 曲げなどの厳しい曲げ加工に対し、曲げ加工性を十分に向上させることができな い。
[0043] また、前記した特許文献 6や 8では、板表面への { 220}面や { 200}面の集積割合 を増して、プレス打ち抜き性を向上させている。これらの特定面の集積割合を増すこ とによって、確かに、 Cu-Fe-P系銅合金板のプレス打ち抜き性は向上する。
[0044] し力、し、前記リードフレームの小断面積化は、益々進み、リード幅(0. 5mm→0. 3 mm)や板厚(0· 25mm→0. 15mm)も益々小さくなつて、高強度化した Cu-Fe-P 系銅合金板への、スタンビング加工時のプレス打ち抜き性向上の要求はより厳しくな つている。このため、前記した特許文献 6や 8のような組織の集積割合制御によるプレ ス打ち抜き性向上効果では、この要求されるプレス打ち抜き性を満たさなくなつてい
[0045] また、前記した特許文献 10のような銅合金板の曲げ加工性の向上手段では、要求 されるプレス打ち抜き性を向上させることはできない。特許文献 10で対象とするのは 、 0.2%耐カカ 00MPaレベル、導電率が 40%IACS レベルの Cu-Ni-Si系銅合金(コ ルソン合金)であり、本発明の Cu-Fe-P系銅合金とは、合金系や特性が全く異なる。
また、曲げ加工性とプレス打ち抜き性とは、メカニズムが全く異なる特性であり、特許 文献 10のように均一伸びと全伸びとの比を 0. 5以上とした場合は、後述する通り、本 発明の Cu-Fe-P系銅合金のプレス打ち抜き性は低下する。
[0046] また、特許文献 11のように、 Fe、 Pを比較的多量に含有させた場合には、铸造 '溶 解工程で生成する粗大な介在物(酸化物ゃ晶出物)の量も多くなり、最終製品板表 面へ、これらが多量に残存するために、却って、前記したメツキの異常析出を誘発す ることとなる。
[0047] また、特許文献 11では、前記したメツキの異常析出の原因となる、水素に起因する ポアなどの表面欠陥を問題としておらず、これに起因するメツキの異常析出を防止で きない。
[0048] 更に、特許文献 11では、銅板の製造工程で、溶湯流に Fe— C母合金を添加して、 Cを 10〜; !OOppm多量に含有させようとしている。しかし、 Cは非常に飛散しやすぐ 溶湯に添加した瞬間に飛散するために、通常では、溶湯に Cを lOppm以上含有さ せることは非常に困難である。また、本発明者らの知見によれば、 Cu— Fe— P系の 銅合金では、後述する通り、 Cを多量に含有させた場合には、却ってメツキの異常析 出を促進する。
[0049] したがって、前記したメツキの異常析出を防止するのに有効な技術は、これまであま り提案されていない。このため、前記したメツキの異常析出を防止するためには、 Cu — Fe— P系銅合金を含めて、一般的には、铸造 ·溶解工程などにおいて、メツキの異 常析出の原因となる、水素や酸素などの含有量を、更に積極的に低減するようにす
[0050] しかし、銅板の製造工程、特に铸造 '溶解工程などで、水素や酸素などの含有量を 、更に積極的に、極く微量まで低減することは、銅板の製造工程にとっても、製造コス トを押し上げる、生産効率を低下させる大きな原因となる。このため、 Cu— Fe— P系 銅合金では、铸造 '溶解工程の段階で、水素や酸素などをある程度含有することが 避けがたい。
[0051] したがって、 Cu— Fe— P系銅合金では、溶解 '铸造工程で生成した粗大な介在物
(酸化物ゃ晶出物)が最終製品板まで残存し、また水素に起因するポアが表面欠陥
として現れることあ避け力 Sたレヽ。
[0052] このため、铸造 '溶解工程の段階で、水素や酸素などをある程度含有していても、 前記したメツキの異常析出を防止できるような Cu— Fe— P系銅合金板が求められて いる。
[0053] 本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、高 強度化と、より高温下の加熱で生成する酸化膜の優れた酸化膜密着性とを両立させ た Cu-Fe-P系銅合金板を提供することである。
また、本発明の別の目的は、高強度および優れた曲げ加工性を兼備した Cu-Fe- P系銅合金板を提供することである。
また、本発明の別の目的は、高強度化と優れたプレス打ち抜き性とを両立させた C u-Fe-P系銅合金板を提供することである。
さらに、本発明の別の目的は、高強度化と、メツキの異常析出を防止する優れため つき性とを両立させた Cu— Fe— P系銅合金板を提供することである。
課題を解決するための手段
[0054] 上記目的を達成するために、本発明の電気電子部品用銅合金板の要旨は、質量 %で、 Fe : 0. 01—0. 50%、 P : 0. O l—O. 15%を各々含有し、残部 Cuおよび不可 避的不純物からなる銅合金板であって、この銅合金板の JIS B0601法に準じた表 面粗さ測定における中心線平均粗さ Raが 0. 2 111以下、最大高さ1¾11£«が1. 5 μ m以下であり、かつ、粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuが 5. 0以下であることとする
〇
[0055] 本発明の電気電子部品用銅合金板は、前記銅合金板の圧延方向に対して平行方 向の 直が 0. 3以上であることが好ましい。
[0056] 本発明の電気電子部品用銅合金板は、前記銅合金板が、圧延方向に対して直交 する板幅方向を長手方向として採取した試験片の引張試験により求められる、引張 弾性率が 120GPaを超えるとともに、均一伸びと全伸びとの比、均一伸び/全伸び が 0. 50未満であることが好ましい。
[0057] 本発明の電気電子部品用銅合金板は、前記銅合金板が、更に、じ:3〜15 111を 含有し、 O : 40ppm以下、 H : l . Oppm以下に各々規制することが好ましい。
[0058] 本発明銅合金板は、高強度を達成するために、更に、質量%で 0. 005〜5. 0% の Snを、あるいは、はんだ及び Snめっきの耐熱剥離性改善のために、更に、質量% で 0. 005〜3. 0%の Znを、各々含有しても良い。
[0059] 本発明銅合金板は、更に、 S : 20ppm以下、 Pb: 20ppm以下に各々規制すること が好ましい。
[0060] 本発明銅合金板は、引張強度が 500MPa以上、硬さが 150Hv以上であることが 好ましい。
[0061] 本発明銅合金板は、更に、質量%で、 Mn、 Mg、 Caのうち 1種又は 2種以上を合計 で 0. 0001-1. 0%含有しても良い。
[0062] 本発明銅合金板は、更に、質量%で、 Zr、 Ag、 Cr、 Cd、 Be、 Ti、 Co、 Ni、 Au、 Pt のうち 1種又は 2種以上を合計で 0. 001 -1. 0%含有しても良い。
[0063] 本発明銅合金板は、更に、質量%で、 Mn、 Mg、 Caのうち 1種又は 2種以上を合計 で 0. 0001— 1. 0%と、 Zr、 Ag、 Cr、 Cd、 Be、 Ti、 Co、 Ni、 Au、 Ptのうち 1種又は 2 種以上を合計で 0. 001〜; 1. 0%とを各々含有するとともに、これら含有する元素の 合計含有量を 1. 0%以下として、含有しても良い。
[0064] 本発明銅合金板は、更に、 Hf、 Th、 Li、 Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 S、 Si、 C、 Nb、 Al、
V、 Y、 Mo、 Pb、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、ミッシュメタノレの含有量を、これら の元素全体の合計で 0. 1質量%以下とすることが好ましい。
[0065] また、上記目的を達成するために、本発明の電気電子部品用銅合金板の要旨は、 質量%で、 Fe : 0. 01—0. 50%、P : 0. 01—0. 15%を各々含有し、残部 Cuおよび 不可避的不純物からなる銅合金板であって、引張強度が 500MPa以上、硬さが 150
Hv以上であり、銅合金板の圧延方向に対して平行方向の r値が 0. 3以上であること とする。
[0066] また、上記目的を達成するために、本発明の電気電子部品用銅合金板の要旨は、 質量%で、 Fe : 0. 01—0. 50%、P : 0. 01—0. 15%を各々含有し、残部 Cuおよび 不可避的不純物からなり、圧延方向に対して直交する板幅方向を長手方向として採 取した試験片の引張試験により求められる、引張弾性率が 120GPaを超えるとともに 、均一伸びと全伸びとの比、均一伸び/全伸びが 0. 50未満であることとする。
[0067] また、上記目的を達成するために、本発明の電気電子部品用銅合金板の要旨は、 質量0 /oで、 Fe : 0. 01—0. 50%、P : 0. 01—0. 15%、 C: 3〜; 15ppmを各々含有し 、 O : 40ppm以下、 H : l . Oppm以下に各々規制したことである。
[0068] 本発明の銅合金板は、様々な電気電子部品用に適用可能であるが、特に、半導体 部品である半導体リードフレーム用途に使用されることが好ましい。
発明の効果
[0069] 本発明銅合金板は、高強度化の目安として、引張強度が 500MPa以上、硬さが 15 OHv以上とする。なお、銅合金板における導電率は板の強度に相関するものであり、 本発明でも、高強度になるほど導電率は必然的に低くなるものの、実用化に支障は 無い。したがって、本発明で言う高導電率とは、高強度な割りには導電率が比較的 高いという程度の意味である。
[0070] 本発明では、高強度で、より高温下の加熱で生成した酸化膜を有する Cu-Fe-P系 銅合金板の粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuを制御して、酸化膜密着性を向上さ せる。
[0071] 粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuは、後述する数式に示すように、表面粗さ測定 の JIS B0601に定義された、公知なものであり、表面粗さの凹凸(転がり円うねり曲 線 Z (X)の曲線)の尖り具合を示して!/、る。
[0072] 例えば、図 1 (a)に示すように、 Rkuが 5. 0を超えて大きい場合には、表面粗さの凹 凸曲線 (転がり円うねり曲線 Z (X)の曲線)が尖って!/、る、あるいは急峻な曲線となつ ている。これに対して、図 1 (b)に示す通り、本発明のように、 Rkuが 5. 0以下の小さ い場合には、表面粗さの凹凸曲線 (転がり円うねり曲線 Z (x)の曲線)が比較的丸まつ ている、あるいは滑らかな曲線となっている。
[0073] 本発明者らの知見によれば、このように、 Rkuを 5. 0以下として、表面粗さの凹凸曲 線 (転がり円うねり曲線 Z (X)の曲線)が比較的丸まって!/、る、あるいは滑らかな曲線と なっている方が、 Cu-Fe-P系銅合金板のより高温下の加熱で生成した酸化膜の酸 化膜密着性を向上できる。
[0074] ここでは、むしろ、 Rkuが 5. 0を超えた図 1 (a)のような、表面粗さの凹凸が尖ってい る、あるいは急峻な曲線となっている場合の方がアンカー効果が発揮されて、酸化膜
密着性を向上させるようにも思える。この点、なぜ、図 1 (b)に示す、表面粗さの凹凸 が比較的丸まっている、あるいは滑らかな曲線となっている方力 Cu-Fe-P系銅合 金板のより高温下の加熱で生成した酸化膜の酸化膜密着性を向上できるのかは、現 時点では不明である。
[0075] ただ、本発明では、従来技術のように、 Feの含有量を多くして他の問題を生じさせ ずとも、 Cu-Fe-P系組成を有する銅合金板の粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuを 制御するという簡便な手段で、 Cu-Fe-P系銅合金板のより高温下の加熱で生成した 酸化膜の酸化膜密着性を向上できる。
[0076] なお、本発明における銅合金板の粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuは、中心線平 均粗さ Raや最大高さ Rmaxとは独立した技術的な要素である。即ち前記した従来の 特許文献 2、 3のように、中心線平均粗さ Raを 0. 2 m以下および最大高さ Rmaxを 1. 5 in以下として、銅合金板表面を平滑化した場合でも、 Rkuが 5. 0を超える場 合もあれば、 Rkuが 5. 0以下になる場合もある。
[0077] 言い換えると、中心線平均粗さ Raを 0. 2 m以下および最大高さ Rmaxを 1. 5 μ m以下に、銅合金板表面を平滑化した場合でも、決して必然的には、 Rkuは 5. 0以 下にならず、外れる乃至これより大きくなる可能性も高い。したがって、中心線平均粗 さ Raを 0. 2 m以下および最大高さ Rmaxを 1 · 5 m以下とした場合でも、銅合金 板表面の Rkuが 5. 0以下になっているか否かは、実際に Rkuを測定してみなければ 一切不明である。
[0078] この事実は、後述する通り、中心線平均粗さ Raと最大高さ Rmaxとが同じでも、粗さ 曲線のクルトシス(尖り度) Rkuによって、 Cu-Fe-P系銅合金板のより高温下の加熱 で生成した酸化膜の酸化膜密着性に大きな差が生じる事実によって裏付けられる。 また、後述する通り、前記した従来の特許文献 2、 3のような圧延ロールの表面粗さ制 御のような物理的な処理レベルでは、 Rkuは 5. 0以下に制御できず、化学的エッチ イングを伴う洗浄処理を行って初めて制御可能である事実力、らも裏付けられる。
[0079] また、本発明によれば、 Cu-Fe-P系銅合金板の圧延方向に対して平行方向の r値 を上記 0. 3以上の一定値以上として、引張強度が 500MPa以上の高強度銅合金板 であっても、曲げ加工性を向上させることができる。
[0080] ここで、銅以外の、鋼板やアルミニウム合金板の分野において、 r値を向上させて、 高強度な鋼板やアルミニウム合金板であつても、曲げ加ェ性を向上させることは公知 である。しかし、銅合金、特に Cu-Fe-P系銅合金板では、 r値に着目して、曲げ加工 性を向上させることは必ずしも公知ではなかった。
[0081] この理由は、前記した従来技術のように、 Cu-Fe-P系銅合金板分野では、曲げカロ ェ性向上のために、結晶粒微細化や、晶'析出物の分散状態制御、そして、集合組 織の制御など銅合金板の結晶方位分布密度の制御などが主流であったためと推考 される。また、 Cu-Fe-P系銅合金板においては、曲げ加工性向上のためには、 r値 以外の要素の影響が大きぐ r値は曲げ加工性向上にあまり効かない、との常識があ つたためとも推考される。
[0082] 前記した通り、他のコルソン合金などと違い、固溶強化元素の含有量に大きな限界 がある Cu-Fe-P系銅合金板では、高強度化は、必然的に、冷間圧延の加工率増加 による強加工による加工硬化量増大にて行わざるを得ない。
[0083] この冷間圧延の強加工では、当然、結晶粒径が圧延方向に大きく(長く)伸長した 結晶方位の大きな異方性を有するようになる。このため、特に、圧延方向に対して平 行方向の曲げ加工性が著しく低下することが知られている。したがって、この曲げカロ ェ性を向上させるために、当然、曲げ加工性低下の大きな原因となっている上記結 晶方位の大きな異方性、即ち、銅合金板の結晶方位分布密度を制御することが、当 業者の間で大きな関心事となる。
[0084] しかしながら、このような銅合金板の結晶方位分布密度制御は、所望の曲げ加工性 を得るために、各結晶方位を所望の分布密度に制御すること、即ち、実際に製造す ることが非常に難しい。
[0085] これに対して、本発明では、 Cu-Fe-P系銅合金板の r値を向上させて、高強度銅 合金板であっても曲げ加工性を向上させる。 r値は、塑性ひずみ比とも呼ばれ、 Cu- Fe-P系銅合金板などの材料の引張試験における、材料の板幅と板厚の減少の割合 を示して!/、る。材料の板幅の減少に対する板厚の減少の割合が小さ!/、と r値は大きく なる。この点、曲げ加工性の方も、材料の板幅の減少に対する板厚の減少の割合が 小さいほど良くなるので、 Cu-Fe-P系銅合金板などの材料としては、 r値が大きいほ
ど、破断しにくぐ曲げ加工性が向上することとなる。
[0086] このような曲げ加工性と r値との相関乃至帰結は、他方で、 r値が公知のように塑性 異方性を表す指標であって、上記結晶方位分布密度と密接な関係を有することから も裏付けられる。
[0087] ただ、このように、 Cu-Fe-P系銅合金板において、曲げ加工性と r値との相関が例 えあったとしても、前記した通り、 r値に曲げ加工性を実際に向上させるだけの効果が あるか否かは、全く別の問題となる。また、この r値を、曲げ加工性を向上させるだけ、 向上させることができるか否かも、全く別の問題となる。即ち、 Cu-Fe-P系銅合金板 において、 r値を向上させて、曲げ加工性を向上させることは、実際にやってみないと 分からない課題である。
[0088] この点、本発明では、後述する通り、冷間圧延後の低温焼鈍を連続焼鈍にて行い 、この際に適切な張力を通板中の板に加えるという特別な方法(手段)などによって、 Cu-Fe-P系銅合金板の圧延方向に対して平行方向の r値を上記 0. 3以上の一定値 以上とする。そして、引張強度力 ^OOMPa以上の高強度銅合金板であっても、曲げ 加工性を向上させる。
[0089] また、本発明では、引張強度が 500MPa以上に高強度化した Cu-Fe-P系銅合金 板では、特許文献 6や 8などの集合組織制御ではなぐ引張試験により求められる、 引張弾性率や、均一伸びと全伸びとの比などの引張特性力 プレス打ち抜き性に大 きく影響することを知見した。
[0090] 引張試験により求められる、引張弾性率が大きいほど、プレス打ち抜き性が向上す る。また、均一伸びと全伸びとの比が小さいほど、プレス打ち抜き性が向上する。ただ 、本発明で規定する、これら引張特性は、現時点では、 Cu-Fe-P系銅合金板の組 織、即ち、析出物の状態 (析出物量や析出物の大きさなど)あるいは集合組織などと の明瞭な相関関係が不明である。したがって、本発明では、プレス打ち抜き性を向上 させる要件として、 Cu-Fe-P系銅合金板の組織は、定性的にも定量的にも規定しに くい。
[0091] また、本発明で規定する、これら引張特性は、当然、 Cu-Fe-P系銅合金板の成分 組成によって大きな影響を受けるが、製造方法や条件によっても大きく影響され、成
分組成だけでは決まらない。即ち、本発明で規定する、これら引張特性は、後述する 通り、 Cu-Fe-P系銅合金板の、熱延前の均質化熱処理あるいは加熱処理、熱間圧 延後の水冷開始温度、中間焼鈍温度、最終連続焼鈍時の通板速度などの製造方法 や条件によって、大きく影響される。
[0092] しかも、本発明で規定する、これら引張特性は、バッチ式の最終焼鈍では得られが たぐ板(コイル)を連続的に炉内に通板しつつ処理するような連続焼鈍でなければ 得られがたい。
[0093] このため、本発明では、 Cu-Fe-P系銅合金板の良好なプレス打ち抜き性を保証す るために、成分組成とともに、上記のように、引張弾性率や均一伸びと全伸びとの比 などの引張特性で、 Cu-Fe-P系銅合金板を規定する。
[0094] 本発明は、 Cu— Fe— P系銅合金板に、自然に混入される量以上の含有量だが、 絶対量としてはごく微量の炭素(C)を含有させることを、最大の特徴とする。
[0095] 本発明では、この含有炭素の働きによって、 Cu— Fe— P系銅合金板中に存在する 、酸素(〇)、水素(H)の凝集を抑制し、介在物やポアの起点を増加させる。そして、 生成する介在物やポアのサイズを微細化させて、これら介在物やポアが、前記したメ ツキの異常析出の起点(原因)となるのを防止する。その結果、 Cu— Fe— P系銅合 金板における、高強度化と、メツキの異常析出を防止する優れためつき性とを両立さ せる。
[0096] ただ、この Cの作用効果を保証するために、 Cの含有量とともに、 Cu— Fe— P系銅 合金板の 0、 Hの含有量の上限を、前提として規定する。
図面の簡単な説明
[0097] [図 1]本発明で規定する、銅合金板表面粗さにおける、粗さ曲線のクルトシス(尖り度 ) Rkuを示す説明図である。
[図 2]せん断面率の測定方法を示す説明図である。
[図 3]メツキの異常析出を示す銅合金板表面の図面代用写真である。
符号の説明
[0098] 1 :銅合金板、 2 :打ち抜き穴、 3 :切断箇所
発明を実施するための最良の形態
[0099] 以下に、半導体リードフレーム用などとして、必要な特性を満たすための、本発明 C u-Fe-P系銅合金板における各要件の意義や実施態様を具体的に説明する。
[0100] <第一実施形態:高強度で、かつ、パッケージ 'クラックや剥離の問題に対処するた めに、酸化膜密着性を向上させた Cu-Fe-P系の銅合金板〉
(表面粗さ)
本発明では、 Cu-Fe-P系銅合金板の表面粗さの前提的な要件として、 JIS B0 6 01法に準じた表面粗さ測定における、中心線平均粗さ Raが 0. 2 111以下、および 最大高さ Rmaxが 1. 5 m以下であることとする。好ましくは、中心線平均粗さ Raが 0 . l〃m以下、および最大高さ Rmaxが 1. O ^ m以下である。
[0101] 中心線平均粗さ Raが 0· 2 mを超える力、、最大高さ Rmaxが 1 · 5 111を超えると、 Cu-Fe-P系銅合金板の表面が平滑ではなく粗すぎ、リードフレームに要求される基 本特性を阻害する。即ち、リードフレーム半導体チップへの Agペーストなどの加熱接 着あるいは Au、Agなどのめっき処理やはんだ付け若しくは Agろう付けなどを阻害す る。また、化学的エッチイングを伴う洗浄処理によっても、 Cu-Fe-P系銅合金板表面 の Rkuを 5. 0以下とする制御が困難となる。
[0102] (Rku)
本発明では、以上の前提に基づいて、 Cu-Fe-P系銅合金板のより高温下の加熱 で生成した酸化膜の酸化膜密着性を向上させるために、 JIS B0601法に準じた表 面粗さ測定における、粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuが 5. 0以下であることとする 。 Rkuが 5. 0を超えた場合、 Cu-Fe-P系銅合金板のより高温下の加熱で生成した 酸化膜の酸化膜密着性を向上させることができない。好ましくは、 Rkuは 4. 5以下で ある。
[0103] 粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuは、 JIS B0601において、下記数式に示すよう に、測定対象物表面の基準長さ lrにおける、転がり円うねり曲線 Z (x)の四乗平均を、 二乗平均平方根 Rqの四乗で割ったものと定義される。
[0104] この Rkuは、図 1に示すように、表面粗さの凹凸曲線 (転がり円うねり曲線 Z (x) )の 高さ方向の特徴の平均パラメータを表している。
[0105] この高さ方向の特徴が尖り度であり、 Rkuが 5. 0を超えて大きい場合には、図 1 (a) に示すように、表面粗さの凹凸曲線 (転がり円うねり曲線 Z (x)の曲線)が尖っている、 あるいは急峻な曲線となっている。これに対して、図 1 (b)に示す通り、本発明のよう に、 Rkuが 5. 0以下の小さな場合には、表面粗さの凹凸曲線が比較的丸まっている 、あるいは滑らかな曲線となっている。
[0106] これに対して、表面粗さの指標として汎用される、前記中心線平均粗さ Raは、図 1 の表面粗さの凹凸曲線で言うと、高さ方向の振幅の高さの平均パラメータ、前記最大 高さ Rmaxは高さ方向の振幅の最大高さのパラメータである。したがって、本発明の Rku力 これら中心線平均粗さ Raや最大高さ Rmaxにかかわらない独立した値であ り、図 1 (a)、 (b)に示す通り、例え Raや Rmaxが同じでも、 Rkuが大きく異なること力 S 理解される。
[0107] また、 JIS B0601において、この高さ方向の特徴の平均パラメータを表すものとし ては、 Rku以外に、 Pku :断面曲線のクルトシス(尖り度)、 Wku :うねり曲線のクルトシ ス(尖り度)などがある。し力、し、これら Pku、 Wkuは、本発明の Rkuほどには、 Cu_Fe -P系銅合金板のより高温下の加熱で生成した酸化膜の酸化膜密着性との相関性が 深くない。このため、本発明では、表面粗さ(曲線)の高さ方向の特徴の平均パラメ一 タの内から、 Rkuを選択して規定する。
[0108] 本発明において、 Cu-Fe-P系銅合金板表面の制御は、先ず、圧延ロールの表面 粗さ制御のような物理的な処理レベルで、中心線平均粗さ Raを 0. 2 111以下および 最大高さ Rmaxを 1. 5 111以下に制御する。その上で、 Rkuは、後述する通り、化学 的エッチイングを伴う洗浄処理によって、 Rkuを 5. 0以下とする。
[0109]
また、本発明においては、銅合金板の圧延方向に対して平行方向の r値が 0. 3以 上であることが好ましい。このように r値が 0. 3以上であることにより、上記特性に加え て、さらに曲げ加工性が優れた銅合金板が得られる。 r値の測定方法等については 後述する。
[0110] (引張弾性率'均一伸び/全伸び)
また、本発明においては、銅合金板が、圧延方向に対して直交する板幅方向を長 手方向として採取した試験片の引張試験により求められる、引張弾性率が 120GPa を超えるとともに、均一伸びと全伸びとの比、均一伸び/全伸びが 0. 50未満である ことが好ましい。このような特徴をさらに備えることにより、上記特性に加えて、さらにプ レス打ち抜き性に優れた銅合金版が得られる。引張弾性率'均一伸び/全伸びに関 する詳細事項につ!/、ては後述する。
[0111] (銅合金板の成分組成)
本発明では、半導体リードフレーム用などとして、引張強度が 500MPa以上の高強 度や、硬さが 150Hv以上などの基本特性を有することが好ましい。そして、これらの 基本特性を満足した上で、あるいは、これらの基本特性を低下させないことを前提に 、メツキの異常析出を防止する優れためつき性を有する。このために、 Cu-Fe-P系銅 合金板として、質量%で、 Feの含有量が 0. 01-0. 50%の範囲、 Pの含有量が 0. 0 ;!〜 0. 15%の範囲とした、残部 Cuおよび不可避的不純物からなる基本組成とする。
[0112] この基本組成に対し、後述する Zn、 Snなどの元素を、更に選択的に含有させても 良い。また、記載する以外の元素(不純物元素)も、本発明の特性を阻害しない範囲 での含有を許容する。なお、これら合金元素や不純物元素の含有量の表示%は全 て質量%の意味である。
(Fe)
Feは、 Fe又は Fe基金属間化合物として析出し、銅合金の強度や耐熱性を向上さ せる主要元素である。 Feの含有量が少なすぎると、化合物の析出が不十分であるた め、強度向上への寄与が不足し、導電率の向上は満たされるものの、最終冷間圧延 を強加工側で行っても、強度が不足する。一方、 Feの含有量が多すぎると導電率が 低下する。さらに、強度も耐熱性も却って低下する。したがって、 Feの含有量は 0. 0
1~0. 50%、好ましくは 0. 15〜0. 35%の範囲とする。
[0113] (P)
Pは、脱酸作用がある他、 Feと化合物を形成して、銅合金の高強度化させる主要元 素である。 P含有量が少なすぎると、化合物の析出が不十分であるため、強度向上へ の寄与が不足し、導電率の向上は満たされるものの、最終冷間圧延を強加工側で行 つても、強度が不足する。一方、 P含有量が多すぎると、導電性が低下するだけでな ぐ熱間加工性が低下し、割れが生じやすくなる。したがって、 Pの含有量は 0. 0;!〜 0. 15%、好ましくは 0. 05-0. 12%の範囲とする。
[0114] (C、〇、H)
また、本発明においては、更に、 C : 3〜15ppmを含有し、 O : 40ppm以下、 H : l . Oppm以下に各々規制することが好ましい。 C、 0、及び Hを前記範囲とすることによ り、上記特性に加えて、さらにメツキ性に優れた銅合金版が得られる。 C、 0、及び H 量に関する詳細事項については後述する。
[0115] (Zn)
Znは、リードフレームなどに必要な、銅合金のはんだ及び Snめっきの耐熱剥離性 を改善し、これらの効果が必要な場合の選択的な添加元素である。 Znの含有量が 0 . 005%未満の場合は所望の効果が得られない。一方、 3. 0%を超えるとはんだ濡 れ性が低下するだけでなぐ導電率の低下も大きくなる。したがって、選択的に含有 させる場合の Znの含有量は、用途に要求される導電率とはんだ及び Snめっきの耐 熱剥離性とのバランスに応じて (バランスを考慮して)、 0. 005-3. 0%の範囲から 選択的に含有させることとする。
[0116] (Sn)
Snは、銅合金の強度向上に寄与し、これらの効果が必要な場合の選択的な添カロ 元素である。 Snの含有量が 0. 001 %未満の場合は高強度化に寄与しない。一方、 Snの含有量が多くなると、その効果が飽和し、逆に、導電率の低下を招く。したがつ て、選択的に含有させる場合の Sn含有量は、用途に要求される強度 (硬さ)と導電率 のバランスに応じて(バランスを考慮して)、 0· 001-5. 0%の範囲から選択的に含 有させることとする。
[0117] (S、Pb)
本発明銅合金板では、更に、 S : 20ppm以下、 Pb : 20ppm以下に各々規制するこ とが好ましい。 S、 Pbは、半導体リードフレーム用などとしての強度、硬さ、導電率など の基本特性を阻害するとともに、 Agメツキ性なども阻害する。
[0118] (Mn、Mg、 Ca量)
Mn、 Mg、 Caは、銅合金の熱間加工性の向上に寄与するので、これらの効果が必 要な場合に選択的に含有される。 Mn、 Mg、 Caの 1種又は 2種以上の含有量が合計 で 0. 0001 %未満の場合、所望の効果が得られない。一方、その含有量が合計で 1 . 0%を越えると、粗大な晶出物や酸化物が生成して強度や耐熱性を低下させるだ けでなぐ導電率の低下も激しくなる。従って、これらの元素の含有量は総量で 0. 00 01〜; 1. 0%の範囲で選択的に含有させる。
[0119] (Zr、 Ag、 Cr、 Cd、 Be、 Ti、 Co、 Ni、 Au、 Pt量)
これらの成分は銅合金の強度を向上させる効果があるので、これらの効果が必要な 場合に選択的に含有される。これらの成分の 1種又は 2種以上の含有量が合計で 0. 001 %未満の場合、所望の効果か得られない。一方、その含有量が合計で 1. 0%を 越えると、粗大な晶出物や酸化物が生成して、強度や耐熱性を低下させるだけでな ぐ導電率の低下も激しぐ好ましくない。従って、これらの元素の含有量は合計で 0. 001-1. 0%の範囲で選択的に含有させる。なお、これらの成分を、上記 Mn、 Mg、 Caと共に含有する場合、これら含有する元素の合計含有量は 1. 0%以下とする。
[0120] (Hf、 Th、 Li、 Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 Si、 Nb、 Al、 V、 Y、 Mo、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、ミッシュメタル)
これらの成分は不純物元素であり、これらの元素の含有量の合計が 0. 1 %を越え た場合、粗大な晶出物や酸化物が生成して強度や耐熱性を低下させる。従って、こ れらの元素の含有量は合計で 0. 1 %以下とすることが好まし!/、。
[0121] (製造条件)
次に、銅合金板組織を上記本発明規定の組織とするための、好ましい製造条件に ついて以下に説明する。本発明銅合金板は、上記表面の Ra、 Rmax、 Rkuを制御す るための、後述する好ましい冷延ゃ洗浄条件を除き、通常の製造工程自体を大きく
変えることは不要で、常法と同じ工程で製造できる。
[0122] 即ち、先ず、上記好ましい成分組成に調整した銅合金溶湯を铸造する。そして、 m 塊を面削後、加熱または均質化熱処理した後に熱間圧延し、熱延後の板を水冷する
。この熱間圧延は通常の条件で良い。
[0123] その後、中延べと言われる一次冷間圧延して、焼鈍、洗浄後、更に仕上げ (最終) 冷間圧延、低温焼鈍 (最終焼鈍、仕上げ焼鈍)して、製品板厚の銅合金板などとする
。これら焼鈍と冷間圧延を繰返し行ってもよい。例えば、リードフレーム等の半導体用 材料に用いられる銅合金板の場合は、製品板厚が 0. ;!〜 0. 4mm程度である。
[0124] なお、一次冷間圧延の前に銅合金板の溶体化処理および水冷による焼き入れ処 理を行なっても良い。この際、溶体化処理温度は、例えば 750〜; 1000°Cの範囲から 選択される。
[0125] (最終冷間圧延)
最終冷間圧延も常法による。固溶強化元素の含有量に大きな限界がある Cu-Fe-
P系銅合金板で、引張強度が 500MPa以上、硬さが 150Hv以上である高強度を得 るために、それまでの冷間圧延の加工率との関係で、最終冷間圧延の加工率を強加 ェ側に決定する。
[0126] なお、最終冷間圧延の 1パスあたりの最小圧下率 (冷延率)を 20%以上とすること が好ましい。最終冷間圧延の 1パスあたりの最小圧下率が 20%より低いと、板厚ひず みが大きくなり、曲げ加工性が低下する。
[0127] 但し、この最終冷間圧延際には、 Cu-Fe-P系銅合金板表面の中心線平均粗さ Ra を 0· 2 111以下ぉょび最大高さ1¾11& を1. 5 m以下に制御するために、使用する 圧延ロールの表面粗さを制御する。
[0128] 具体的には、圧延ロール表面粗さを、圧延後の銅合金板表面と同じぐ中心線平 均粗さ Ra : 0. 2 111以下ぉょび最大高さ1¾11& : 1. 5 m以下に細かくした、ブライト ロール(表面研磨ロール)などを使用する。
[0129] (最終焼鈍)
最終冷間圧延によって、中心線平均粗さ Raを 0. 2 111以下ぉょび最大高さ1¾11£« を 1. 5 m以下に表面が制御された Cu-Fe-P系銅合金板は、低温での最終焼鈍を
連続的な熱処理炉にて行なうことが好ましレ、。この連続的な熱処理炉での最終焼鈍 条件は、 100〜400°Cで 0. 2分以上 300分以下の低温条件とすることが好ましい。 通常のリードフレームに用いられる銅合金板の製造方法では、強度が低下するため 、歪み取りのための焼鈍(350°C X 20秒程度)を除き、最終冷間圧延後に最終焼鈍 はしない。しかし、本発明では、前記冷間圧延条件によって、また、最終焼鈍の低温 化によって、この強度低下が抑制される。そして、最終焼鈍を低温で行なうことにより 、曲げ加工性などが向上する。
[0130] 焼鈍温度が 100°Cよりも低い温度や、焼鈍時間が 0. 2分未満の時間条件、あるい は、この低温焼鈍をしない条件では、銅合金板の組織'特性は、最終冷延後の状態 力もほとんど変化しない可能性が高い。逆に、焼鈍温度が 400°Cを超える温度や、 焼鈍時間が 300分を超える時間で焼鈍を行うと、再結晶が生じ、転位の再配列や回 復現象が過度に生じ、析出物も粗大化するため、プレス打ち抜き性や強度が低下す る可能性が高い。
[0131] (洗浄処理)
この最終焼鈍後に、 Cu-Fe-P系銅合金板は、化学的エッチイングを伴う洗浄処理 によって、 Rkuを 5. 0以下と表面制御される。この洗浄処理は、 Rkuを 5. 0以下とで きる、化学的エッチイングを伴う洗浄処理であれば、市販の洗浄剤が適宜使用できる
〇
[0132] ただ、確実に Rkuを 5. 0以下とできる手段として、濃度が 5〜50質量%の硫酸水溶 液(室温)に、;!〜 60秒間、銅合金板を浸漬する、酸エッチイングを伴う洗浄処理が好 ましい。硫酸濃度が 5質量%未満、浸漬時間が 1秒未満では、母相表面の洗浄乃至 エッチイングが不十分となり、 Rkuを 5. 0以下とできない可能性が高い。一方、硫酸 濃度が 50質量%、浸漬時間が 60秒を超えても、母相表面の洗浄乃至エッチイング が不均一となり、やはり Rkuを 5. 0以下とできない可能性が高い。
[0133] く第二実施形態:高強度で優れた曲げ加工性を備えた Cu-Fe-P系の銅合金板〉
(r値)
本発明では、上記した通り、引張強度が 500MPa以上、硬さが 150Hv以上の Cu- Fe-P系銅合金板の曲げ加工性を向上させるために、銅合金板の圧延方向に対して
平行方向の r値を 0. 3以上とする。 r値は、好ましくは 0. 35以上 0. 5以下である。
[0134] 上記した通り、冷間圧延の加工率増加による強加工による加工硬化量増大にて高 強度化を行う Cu-Fe-P系銅合金板では、結晶粒径が圧延方向に大きく(長く)伸長 した結晶方位の大きな異方性を有する。
[0135] この結果、冷間圧延後の Cu-Fe-P系銅合金板では、圧延方向に対して平行方向 の 直よりも、圧延方向に対して直角方向の 直の方が必然的に高くなる。
[0136] 本発明の Cu-Fe-P系銅合金板の前記したリードフレーム等の用途では、その曲げ 加工は、もっぱら、圧延方向に対して平行方向の曲げ加工、即ち Good Way (曲げ軸 が圧延方向に直角)曲げが行われる。
[0137] したがって、本発明では、主として、この Good Way曲げを向上させるために、 直が 必然的に低くなる、銅合金板の圧延方向に対して平行方向側の r値を規定する。言 い換えると、前記高強度化ための冷間圧延によって、必然的に低くなる側の r値 (銅 合金板の圧延方向に対して平行方向)を高くしてやれば、同じく必然的に高くなる側 の 直 (圧延方向に対して直角方向)は、より高くなる。
[0138] 例えば、銅合金板の圧延方向に対して平行方向の r値を 0. 3以上としてやれば、圧 延方向に対して直角方向の r値は概ね 0. 4以上と必然的に高くなる。
[0139] (r値測定)
銅合金板の圧延方向に対して平行方向の r値は、圧延方向に対して平行となる方 向が、試験片の長手方向となるように JIS5号試験片を作成して引張試験を行う。引 張試験は、再現性のために、 JIS5号試験片を引張試験機に固定してから、伸び計を 取り付け、引張速度 10mm/min—定で行う。
[0140] r値は、塑性ひずみ比として、 0点力、ら 0. 5%ひずみ間における材料の板幅と板厚 の減少の割合から求めるために、縦方向弾性ゲージ値 L (初期値 L )と、横方向弾性
0
ゲージ値 w (初期値 w )などを用いて、次式にて算出する。
0
r値 In (W/W ) / [In (L/L ) -In (W/W ) ]
0 0 0
[0141] (銅合金板の成分組成)
本発明では、半導体リードフレーム用などとして、引張強度が 500MPa以上の高強 度や、硬さが 150Hv以上などの基本特性を有する必要がある。そして、これらの基
本特性を満足した上で、あるいは、これらの基本特性を低下させないことを前提に、メ ツキの異常析出を防止する優れためつき性を有する。このために、 Cu-Fe-P系銅合 金板として、質量%で、 Feの含有量が 0. 01-0. 50%の範囲、 Pの含有量が 0. 01 〜0. 15%の範囲とした、残部 Cuおよび不可避的不純物からなる基本組成とする。
[0142] この基本組成に対し、後述する Zn、 Snなどの元素を、更に選択的に含有させても 良い。また、記載する以外の元素(不純物元素)も、本発明の特性を阻害しない範囲 での含有を許容する。なお、これら合金元素や不純物元素の含有量の表示%は全 て質量%の意味である。
[0143] (Fe)
Feは、 Fe又は Fe基金属間化合物として析出し、銅合金の強度や耐熱性を向上さ せる主要元素である。 Feの含有量が少なすぎると、強度向上への寄与が不足し、導 電率の向上は満たされるものの、最終冷間圧延を強加工側で行っても、強度が不足 する。一方、 Feの含有量が多すぎると導電率が低下する。さらに、晶出物量が増えて 破断の起点となるため、強度や耐熱性も却って低下し、強度の割には曲げ加工性が 低くなる。したカつて、 Feの含有量 (ま 0. 01-0. 500/0、好ましく (ま 0. 15-0. 35% の範囲とする。
[0144] (P)
Pは、脱酸作用がある他、 Feと化合物を形成して、銅合金の高強度化させる主要元 素である。 P含有量が少なすぎると、化合物の析出が不十分であるため、強度向上へ の寄与が不足し、導電率の向上は満たされるものの、最終冷間圧延を強加工側で行 つても、強度が不足する。一方、 P含有量が多すぎると、導電性が低下するだけでな ぐ熱間加工性が低下し、割れが生じやすくなる。したがって、 Pの含有量は 0. 0;!〜 0. 15%、好ましくは 0. 05-0. 12%の範囲とする。
[0145] (その他の元素)
Zn、 Sn、 Mn、 Mg、 Ca、 Zr、 Ag、 Cr、 Cd、 Be、 Ti、 Co、 Ni、 Au、 Pt、 S、 Pb、 Hf 、 Th、 U、 Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 Si、 Nb、 Al、 V、 Y、 Mo、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、ミッシュメタルの含有量等については、前記第一実施形態と同様とすることが できる。
[0146] (製造条件)
次に、銅合金板組織を上記本発明規定の組織とするための、好ましい製造条件に ついて以下に説明する。本発明銅合金板は、上記 r値を制御するための、後述する 好ましい最終低温連続焼鈍条件を除き、通常の製造工程自体を大きく変えることは 不要で、常法と同じ工程で製造できる。
[0147] 即ち、先ず、上記好ましい成分組成に調整した銅合金溶湯を铸造する。そして、 m 塊を面削後、加熱または均質化熱処理した後に熱間圧延し、熱延後の板を水冷する 。この熱間圧延は通常の条件で良い。
[0148] その後、中延べと言われる一次冷間圧延して、焼鈍、洗浄後、更に仕上げ (最終) 冷間圧延、低温焼鈍 (最終焼鈍、仕上げ焼鈍)して、製品板厚の銅合金板などとする 。これら焼鈍と冷間圧延を繰返し行ってもよい。例えば、リードフレーム等の半導体用 材料に用いられる銅合金板の場合は、製品板厚が 0.;!〜 0. 4mm程度である。
[0149] なお、一次冷間圧延の前に銅合金板の溶体化処理および水冷による焼き入れ処 理を行なっても良い。この際、溶体化処理温度は、例えば 750〜; 1000°Cの範囲から 選択される。
[0150] (最終冷間圧延)
最終冷間圧延も常法による。但し、前記した通り、固溶強化元素の含有量に大きな 限界がある Cu-Fe-P系銅合金板で、引張強度が 500MPa以上、硬さ力 50Hv以 上である高強度を得るために、それまでの冷間圧延の加工率との関係で、最終冷間 圧延の加工率を強加工側に決定する。
[0151] なお、最終冷間圧延の 1パスあたりの最小圧下率 (冷延率)を 20%以上とすること が好ましい。この最終冷間圧延の 1パスあたりの最小圧下率が 20%より低いと、板の 幅方向に生じる圧縮力が小さいため、板厚ひずみが大きくなり、 直が増加しない。
[0152] (最終焼鈍)
最終冷間圧延後の最終低温焼鈍条件は、 Cu-Fe-P系銅合金板の圧延方向に対 して平行方向の r値に大きく影響する。この点、本発明では、 Cu-Fe-P系銅合金板 の圧延方向に対して平行方向の r値を制御し、上記 0. 3以上とするために、この低温 焼鈍を連続焼鈍にて行い、この際に、 0. ;!〜 8kgf /mm2の範囲の適切な張力を通
板中の板に加える。これにより、板厚変化の小さい引張圧縮変形が与えられる。その 塑性変形によって、板の r値が増加する。
[0153] この張力が小さすぎ、 0. lkgf/mm2未満では、設備条件や板厚にもよるが、板に 負荷する張力が不足し、 Cu-Fe-P系銅合金板の圧延方向に対して平行方向の r値 が 0. 3以上とならない。また、張力が大きすぎ、 8kgf/mm2を超えた場合には、設備 条件や板厚にもよるが、前記 0. ;!〜 0. 4mmの薄い製品板厚範囲では、通板中の板 が破断しやすくなる。
[0154] この最終低温連続焼鈍条件は、この r値の他、強度、伸びなどの基本特性にも大き く影響する。この点、本発明では、伸びなどの特性を得るために、この連続的な熱処 理炉での最終連続焼鈍条件は、 100〜400°Cで 0. 2分以上 300分以下の低温条件 とすることが好ましい。通常のリードフレームに用いられる銅合金板の製造方法では、 強度が低下するため、歪み取りのための焼鈍(350°C X 20秒程度)を除き、最終冷 間圧延後に最終焼鈍はしない。しかし、本発明では、最終焼鈍の低温化によって、こ の強度低下が抑制される。そして、最終焼鈍を低温で行なうことにより、曲げ加工性 などが向上する。
[0155] 連続焼鈍温度が 100°Cよりも低い温度や、焼鈍時間が 0. 2分未満の時間条件、あ るいは、この低温焼鈍をしない条件では、銅合金板の組織'特性は、最終冷延後の 状態からほとんど変化しない可能性が高い。逆に、焼鈍温度が 400°Cを超える温度 や、焼鈍時間力 ¾00分を超える時間で焼鈍を行うと、再結晶が生じ、転位の再配列 や回復現象が過度に生じ、析出物も粗大化するため、プレス打ち抜き性や強度が低 下する可能性が高い。
[0156] また、連続焼鈍における通板速度を 10〜100m/minの範囲に制御することが好 ましい。この通板速度が遅すぎると、材料の回復 ·再結晶が進行しすぎる。このため、 強度、伸びが低下する。但し、連続焼鈍炉における設備的な制約(能力限界)や、板 切れの可能性から、この通板速度を 100m/minを超えて速くする必要はない。
[0157] これに対して、バッチ式の最終焼鈍では、焼鈍中に張力を板に加えられず、 Cu-F e-P系銅合金板の圧延方向に対して平行方向の r値が向上しない。また、連続焼鈍 における通板速度が遅すぎるのと同じ理由で、強度、伸びなどの基本特性が得られ
ない。
[0158] <第三実施形態:高強度で、かつ、スタンビング加工の際のプレス打ち抜き性に優れ た Cu-Fe-P系の銅合金板〉
以下に、半導体リードフレーム用などとして、必要な特性を満たすための、本発明 C u-Fe-P系銅合金板における各要件の意義や実施態様を具体的に説明する。
[0159] (銅合金板の成分組成)
本発明では、半導体リードフレーム用などとして、引張強度が 500MPa以上の高強 度や、硬さが 150Hv以上などの基本特性を有することが好ましい。そして、これらの 基本特性を満足した上で、あるいは、これらの基本特性を低下させないことを前提に 、良好なプレス打ち抜き性を達成する。このために、 Cu-Fe-P系銅合金板として、質 量%で、 Feの含有量が 0. 01—0. 50%の範囲、 Pの含有量が 0. 01—0. 15%の 範囲とした、残部 Cuおよび不可避的不純物からなる基本組成とする。
[0160] 本発明では、この基本組成に対し、後述する Zn、 Snなどの元素を、更に選択的に 含有させても良い。また、記載する以外の元素(不純物元素)も、本発明の特性を阻 害しない範囲での含有を許容する。なお、これら合金元素や不純物元素の含有量の 表示%は全て質量%の意味である。
[0161] (Fe)
Feは、 Fe又は Fe基金属間化合物として析出し、銅合金の強度や耐熱性を向上さ せる主要元素である。 Feの含有量が少なすぎると、製造条件によっては、上記析出 粒子の生成量が少なぐ導電率の向上は満たされるものの、強度向上への寄与が不 足し、強度が不足する。一方、 Feの含有量が多すぎると、導電率や Agメツキ性が低 下する。そこで、導電率を無理に増加させるために、上記析出粒子の析出量を増や そうとすると、析出粒子の成長'粗大化を招く。このため、強度と、本発明で規定する 引張特性を満足しなくなり、プレス打ち抜き性が低下する。したがって、 Feの含有量 は 0. 01—0. 50%、好ましくは 0. 15—0. 35%の範囲とする。
[0162] (P)
Pは、脱酸作用がある他、 Feと化合物を形成して、銅合金の高強度化させる主要元 素である。 P含有量が少なすぎると、製造条件によっては、化合物の析出が不十分で
あるため、所望の強度が得られない。一方、 P含有量が多すぎると、導電性が低下す るだけでなぐ本発明で規定する引張特性を満足しなくなり、熱間加工性やプレス打 ち抜き性が低下する。したがって、 Pの含有量は 0. 01-0. 15%、好ましくは 0. 05 〜0· 12%の範囲とする。
[0163] (その他の元素)
Zn、 Sn、 Mn、 Mg、 Ca、 Zr、 Ag、 Cr、 Cd、 Be、 Ti、 Co、 Ni、 Au、 Pt、 S、 Pb、 Hf 、 Th、 U、 Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 Si、 Nb、 Al、 V、 Y、 Mo、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、ミッシュメタルの含有量等については、前記第一実施形態と同様とすることが できる。
[0164] (板の引張特性)
本発明では、以上のような成分組成を前提に、 Cu-Fe-P系銅合金板の圧延方向 に対して直交する板幅方向(直角方向)を長手方向として採取した試験片の引張試 験により求められる、引張弾性率や、均一伸びと全伸びとの比などの引張特性を上 記のように規定し、 Cu-Fe-P系銅合金板の良好なプレス打ち抜き性を保証する。
[0165] (引張弾性率)
まず、 Cu-Fe-P系銅合金板の、引張試験により求められる引張弾性率 (ヤング率) を 120GPaを超えるものとする。引張弾性率(ヤング率)は、 125GPa以上であること 力 S好ましい。引張弾性率が大きいほど、プレス打ち抜き時に、板に負荷される応力に 対する蓄積歪み量が小さくなる。このため、プレス打ち抜き時に、早期に打ち抜きの 破断が生じて、せん断面率が小さくなり、プレス打ち抜き性が向上する。
[0166] 一方、この引張弾性率が 120GPa以下と低いと、プレス打ち抜き時に、板に負荷さ れる応力に対する蓄積歪み量が大きくなり、打ち抜きの破断が生じずに、せん断面 率が大きくなり、プレス打ち抜き性が低下する。
[0167] この引張弾性率が 120GPa以下と低くなる理由は、他にも理由は考えられるものの 、特に、 Cu-Fe-P系銅合金板においては、後述する熱延前の均質化熱処理あるい は加熱処理時に、板組織の均質化が不十分 (板組織が不均一)であることや、熱延 終了後の水冷開始温度が低く過ぎる、あるいはバッチで最終焼鈍をしている乃至連 続で最終焼鈍しても通板速度が遅い場合などが主として挙げられる。
[0168] (均一伸び/全伸び)
次に、 Cu-Fe-P系銅合金板の、引張試験により求められる、均一伸びと全伸びと の比、均一伸び/全伸びを 0. 50未満とする。均一伸び/全伸びは、 0. 45未満と することが好ましい。均一伸び/全伸びが 0. 50以上に大きくなるほど、言い換えると 、全伸びに対する均一伸びの割合が大きいほど、プレス打ち抜き時に板 (材料)が延 性変形する。このため、打ち抜きの破断に至るまでの板の変形量が大きくなり、せん 断面率が大きくなつて、プレス打ち抜き性が低下する。これに対して、均一伸び/全 伸びが 0. 50未満では、プレス打ち抜き時に、早期に打ち抜きの破断が生じて、せん 断面率が小さくなり、プレス打ち抜き性が向上する。
[0169] この均一伸び/全伸びが 0. 50以上に大きくなる理由は、 Cu-Fe-P系銅合金板で は、特に、熱間圧延後の水冷開始温度が高すぎて板組織中の析出物量が不足する 、中間焼鈍温度が高すぎて材料の回復 ·再結晶が進行しすぎる、中間焼鈍時間が短 すぎて板組織中の析出物量が不足する、バッチで最終焼鈍をしている乃至連続で 最終焼鈍しても通板速度が遅レ \などが挙げられる。
[0170] (引張試験)
これら規定される引張弾性率や均一伸びと全伸びとの比を求める(測定する)引張 試験条件は、再現性のために、以下の試験条件で行う。試験片は JIS5号引張試験 片とし、得られた (製造された) Cu-Fe-P系銅合金板より、圧延方向に対して直角の 方向をその長手方向とした引張試験片を採取する。この試験片を試験機に固定して 力、ら伸び計を取り付け、引張速度 10. Omm/min (試験片が破断するまで一定の速 度)で引張試験を行う。試験機は、 5882型インストロン社製万能試験機を用いること が好ましい。
[0171] 引張強さは、試験機の計測で得られた数値より求め、全伸びは試験後に試験片を 突合せて評点間距離を測定して求める。また、引張弾性率と均一伸びは、上記伸び 計で得られた数値から求める。
[0172] (製造方法)
次に、銅合金板を上記本発明規定範囲内とするための、好ましい製造条件につい て以下に説明する。前記した通り、本発明で規定する引張弾性率や、均一伸びと全
伸びとの比は、当然、 Cu-Fe-P系銅合金板の成分組成によって大きな影響を受ける 、製造方法や条件によっても大きく影響され、成分組成だけでは決まらない。この 点、本発明で上記のように規定する引張弾性率や、均一伸びと全伸びとの比などの 引張特性を得るためには、 Cu-Fe-P系銅合金板の、均質化熱処理、熱間圧延後の 水冷開始温度、中間焼鈍温度、最終連続焼鈍時の通板速度などの製造方法ゃ条 件を以下に記載する通り制御する。
[0173] 即ち、先ず、上記本発明成分組成に調整した銅合金溶湯を铸造する。溶解 '铸造 は、連続铸造、半連続铸造などの通常の方法によって行うが、前記した S、 Pbを規制 するために、 S、 Pb含有量の少ない銅溶解原料を使用することが好ましい。铸塊の均 質化熱処理あるいは加熱処理の前に、常法により面削を行う。
[0174] (均質化熱処理あるいは加熱処理)
熱延前の铸塊の均質化熱処理時あるいは加熱処理時に、組織の均質化が不十分 (板組織が不均一)であると、最終的に得られる Cu-Fe-P系銅合金板組織も不均一 となって、強度が低下するだけでなぐ引張弾性率が 120GPa以下と低くなる。このた め、铸塊の均質化熱処理あるいは加熱処理は、铸塊の厚みや大きさに応じて、少な くとも、 900°C以上の温度で、 2時間以上行うことが好ましい。
[0175] (熱間圧延)
熱延は 900°C以上の温度で開始し、熱延終了後に、 700〜800°Cの温度範囲から 熱延板の水冷を開始する。この熱延終了後の水冷開始温度が 800°Cよりも高!/、と、 水冷開始温度が高すぎて板組織中の析出物が生成せず、析出物量が不足する。こ のため、全伸びに対する均一伸びの割合が大きくなり、均一伸びと全伸びとの比が 0 . 50未満とならない。
[0176] 一方、熱延終了後の水冷開始温度が 700°Cよりも低くても、結晶粒が微細化しすぎ 、引張弾性率が低下するだけでなぐ全伸びに対する均一伸びの割合が大きくなり、 やはり、均一伸びと全伸びとの比が 0. 50未満とならない。また、粗大な析出物が生 成するため、強度が低下する。
[0177] 熱延終了後水冷された板を、更に、中延べと言われる一次冷間圧延して、焼鈍、洗 浄後、更に仕上げ (最終)冷間圧延、最終焼鈍 (低温焼鈍、仕上げ焼鈍)して、製品
板厚の銅合金板などとする。これら焼鈍と冷間圧延を繰返し行ってもよい。例えば、リ ードフレーム等の半導体用材料に用いられる銅合金板の場合は、製品板厚が 0. 1 〜0. 4mm程度である。
[0178] (中間焼鈍)
上記工程において、中間焼鈍条件も均一伸び/全伸びに大きく影響する。均一伸 びと全伸びとの比を 0. 50未満とする好適な中間焼鈍条件は、 430°C以下の温度で 5時間以上行う。この中間焼鈍温度が高すぎると、材料の回復'再結晶が進行しすぎ て強度が低下するばかりか、全伸びに対する均一伸びの割合が大きくなり、均一伸 びと全伸びとの比が 0. 50未満とならない。この中間焼鈍時間が短すぎると、板組織 中の析出物量が不足して導電率が低下する。
[0179] (最終焼鈍)
上記工程において、最終焼鈍条件も引張弾性率や均一伸び/全伸びに大きく影 響する。 Cu-Fe-P系銅合金板の、引張弾性率が 120GPaを超え、均一伸びと全伸 びとの比が 0. 50未満の特性を得るためには、板(コイル)を連続的に炉内に通板し つつ処理する連続焼鈍を行う必要がある。
[0180] し力、も、この特性を得るためには、連続焼鈍における通板速度を 10〜; 100m/min の範囲に制御する必要がある。この通板速度が遅すぎると、材料の回復'再結晶が 進行しすぎる。このため、強度が低下するだけでなぐ全伸びに対する均一伸びの割 合が大きくなり、均一伸びと全伸びとの比が 0. 50未満とならない。また、引張弾性率 も 120GPaを超えることができない。但し、連続焼鈍炉における設備的な制約(能力 限界)や、板切れの可能性から、この通板速度を 100m/minを超えて速くする必要 はない。
[0181] これに対して、バッチ式の最終焼鈍では、連続焼鈍における通板速度が遅すぎる のと同じ理由で、本発明で上記のように規定する I張試験における I張弾性率や、 均一伸びと全伸びとの比は得られなレ、。
[0182] <第四実施形態:高強度で、かつ、メツキ性に優れた Cu— Fe— P系の銅合金板〉 以下に、半導体リードフレーム用などとして、必要な特性を満たすための、本発明 C u— Fe— P系銅合金板における各要件の意義や実施態様を具体的に説明する。
[0183] (銅合金板の成分組成)
本発明では、半導体リードフレーム用などとして、引張強度が 500MPa以上の高強 度や、硬さが 150Hv以上などの基本特性を有することが好ましい。そして、これらの 基本特性を満足した上で、あるいは、これらの基本特性を低下させないことを前提に 、メツキの異常析出を防止する優れためつき性を有する。このために、 Cu— Fe— P系 銅合金板として、質量%で、 Feの含有量が 0. 01-0. 50%の範囲、 Pの含有量が 0 . 01-0. 15%の範囲とした、残部 Cuおよび不可避的不純物からなる基本組成とす
[0184] 本発明では、この基本組成に対し、 C : 3〜15ppmを含有し、 O : 40ppm以下、 H :
0. 7ppm以下に各々規制する、成分組成を特徴とする。
[0185] このような成分組成に対し、後述する Zn、 Snなどの元素を、更に選択的に含有させ ても良い。また、記載する以外の元素(不純物元素)も、本発明の特性を阻害しない 範囲での含有を許容する。なお、これら合金元素や不純物元素の含有量の表示% は全て質量%の意味である。
[0186] (Fe)
Feは、 Fe又は Fe基金属間化合物として析出し、銅合金の強度や耐熱性を向上さ せる主要元素である。 Feの含有量が少なすぎると、製造条件によっては、上記析出 粒子の生成量が少なぐ導電率の向上は満たされるものの、強度向上への寄与が不 足し、強度が不足する。一方、 Feの含有量が多すぎると、導電率が低下する。そこで 、導電率を無理に増加させるために、上記析出粒子の析出量を増やそうとすると、析 出粒子が成長 ·粗大化して、 Agメツキ性が低下する。さらに、強度も耐熱性も低下す る。したカつて、 Feの含有量 (ま 0. 01—0. 500/0、好ましく (ま 0. 15—0. 350/0の範囲 とする。
[0187] (P)
Pは、脱酸作用がある他、 Feと化合物を形成して、銅合金の高強度化させる主要元 素である。 P含有量が少なすぎると、製造条件によっては、化合物の析出が不十分で あるため、所望の強度が得られない。一方、 P含有量が多すぎると、導電性が低下す るだけでなぐ熱間加工性が低下する。したがって、 Pの含有量は 0. 01-0. 15%、
好ましくは 0. 05-0. 12%の範囲とする。
[0188] (C)
Cu— Fe— P系銅合金板中に必然的に一定量存在する 0、 Hは、介在物やポアの 起点となる。これら 0、 Hは凝集しやすぐ凝集した場合には、生成する介在物やポア が粗大となって、前記 Agメツキなどの異常析出の起点(原因)となる。 Cu— Fe— P系 銅合金板表面には、通常でも、介在物やポアが存在するが、これらは特別に粗大化 しない限り、通常のサイズ乃至微細化されたサイズでは、前記 Agメツキなどの異常析 出の起点とならない。
[0189] Cは、 Cu— Fe— P系銅合金板中に必然的に一定量存在する 0、 Hの凝集を抑制 し、介在物やポアの起点を増加させ、生成する介在物やポアのサイズを、通常のサイ ズ乃至微細化されたサイズとする。これによつて、生成する介在物やポアが特別に粗 大化するのを防止して、これら介在物やポアが、前記 Agメツキなどの異常析出の起 点となるのを防止する。
[0190] Cの上記機能を発揮させるためには、 Cを 3ppm以上含有させる。 C含有量が 3pp m未満では、自然に混入される C含有量と大差なくなり、 Cの Agメツキなどの異常析 出を防止する上記機能が発揮されない。
[0191] 一方、 Cの含有量が 15ppm、より厳しくは lOppmを超えた場合には、粗大な炭化 物が生成するため、却って前記 Agメツキなどの異常析出の起点(原因)となる。また、 前記した通り、 Cは飛散しやすいために、特許文献 11のように、溶湯流に Fe— C母 合金を添加しても、 Cを 15ppmを超えて含有させることは、非常に困難である。
[0192] したがって、 Cの含有量は 3〜15ppmの範囲、好ましくは 3〜10ppmの範囲とする 。なお、 Cの含有量は、 JIS Z 2615に従い、酸素雰囲気中で加熱して試料中の炭 素を抽出し、燃焼赤外線吸収法にて分析する。
[0193] (0、 H)
本発明では、上記した Cの作用効果を保証するために、介在物やポアの起点となる 〇、 Hの含有量を規制する。具体的には、 O : 40ppm以下、好ましくは 20ppm以下、 H : l . Oppm以下、好ましくは 0. 5ppm以下に各々規制する。 Oが多すぎる力、、およ び/または、 Hが多すぎる場合、 Cを上記範囲で含有していても、 Cが作用しない〇、
Hの量が多すぎて、これら 0、 Hが凝集し、生成する介在物やポアが粗大となって、 前記 Agメツキなどの異常析出の起点(原因)となる。
[0194] 但し、本発明で規定する、この〇、 Hの含有量の上限値は、従来技術に比して、特 別に低い(少ない)数値ではなぐまた、特別に高い(多い)数値でもない。言わば、 C u— Fe— P系銅合金にとっては、通常の濃度レベルである。即ち、この〇、 Hの含有 量の上限値は、本発明の、铸造 '溶解工程の段階で、水素や酸素などをある程度含 有していても、前記メツキの異常析出を防止する(防止できる)目的に合致した規定で ある。
[0195] なお、 Oは、 JISZ2613に従い、不活性ガス融解法にて試料中の酸素を抽出し、赤 外線吸収法にて分析を行う。また、 Hは、 JISZ2614に従い、不活性ガス融解法にて 試料中の水素を抽出し、熱伝導度法にて分析を行う。
[0196] (その他の元素)
Zn、 Sn、 Mn、 Mg、 Ca、 Zr、 Ag、 Cr、 Cd、 Be、 Ti、 Co、 Ni、 Au、 Pt、 S、 Pb、 Hf 、 Th、 U、 Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 Si、 Nb、 Al、 V、 Y、 Mo、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、ミッシュメタルの含有量等については、前記第一実施形態と同様とすることが できる。
[0197] (製造方法)
次に、銅合金板を上記本発明規定範囲内とするための、好ましい製造条件につい て以下に説明する。本発明銅合金板は、上記 C、 H、 O含有量の制御をするための 好ましい条件を除き、通常の製造工程自体を大きく変えることは不要で、常法と同じ 工程で製造できる。
[0198] 先ず、上記本発明成分組成に調整した銅合金溶湯を铸造する。溶解 '铸造は、連 続铸造、半連続铸造などの通常の方法によって行う。この際、前記した S、 Pbは銅溶 解原料から混入するために、これら S、 Pbを規制するためには、 S、 Pb含有量の少な Vヽ銅溶解原料を使用することが好ましレヽ。
[0199] (C含有量制御)
Cの溶湯への固溶 (溶解)源は、通常の大気溶解炉での溶解 '铸造工程では、炉壁 耐火物からや、大気溶解炉の溶湯上に載置する大気遮蔽用の炭材などからである。
また、真空溶解炉では炉壁耐火物からである。本発明では、 Fe— C母合金添加など の意図的な C添加手段を使用せずとも、銅合金溶湯温度 (溶解温度)を制御すれば 、これら C固溶源からの溶湯への Cの固溶量を制御できる。この銅合金溶湯温度制 御として、本発明では、大気溶解炉や真空溶解炉での銅合金溶湯温度 (溶解温度) を、通常の溶解工程での銅合金溶湯温度が 1200°C程度以下であるのに対して、 13 00°C以上の比較的高温とする。なお、炭素製ルツボの使用や Fe— C母合金添加な どの意図的な C添加手段を、前記銅合金溶湯温度制御と組み合わせて、前記した本 発明の C含有量範囲内としても勿論よい。
[0200] 銅合金溶湯温度を、このような高温とすることで、前記した C固溶源からの溶湯への C溶解量 (C含有量)を増加させ、前記した本発明の C含有量範囲内とする。銅合金 溶湯温度が 1300°C未満の低温となると、常法と変わらず、 Cの溶解量が不足して、 最終 Cu— Fe— P系銅合金板における C量が 3ppm未満にしかならない。なお、大気 溶解炉や真空溶解炉の場合は、铸造開始から 600°Cまでの平均冷却速度 (凝固速 度)が遅いと、途中で溶湯中の Cが飛散し、 Cの溶解量が不足する可能性があるので 、この平均冷却速度は 5. 0°C/秒超の高めとすることが好ましい。
[0201] (Oと Hの含有量制御)
Oと Hの含有量増加を抑制するためには、溶解 ·铸造過程で銅の溶湯と大気の接 触をできるだけ抑えることが肝要である。例えば、真空炉(Cの固溶源は炉壁耐火物) 、大気炉の場合は铸造開始から 600°Cまでの平均冷却速度 (凝固速度)を 5. 0°C/ 秒超とする。この平均冷却速度制御は、上記した通り、 C含有量の制御にも有効であ る。また、下工程において、焼鈍炉の雰囲気を制御することも、 Oと H量の低下には 有効である。
[0202] その後、得た铸塊を面削後、加熱または均質化熱処理した後に熱間圧延し、熱延 後の板を水冷する。更に、中延べと言われる一次冷間圧延して、焼鈍、洗浄後、更に 仕上げ (最終)冷間圧延、低温焼鈍 (最終焼鈍、仕上げ焼鈍)して、製品板厚の銅合 金板などとする。これら焼鈍と冷間圧延を繰返し行ってもよい。例えば、リードフレー ム等の半導体用材料に用いられる銅合金板の場合は、製品板厚が 0. ;!〜 0. 4mm 程度である。
[0203] なお、一次冷間圧延の前に銅合金板の溶体化処理および水冷による焼き入れ処 理を行なっても良い。この際、溶体化処理温度は、例えば 750〜; 1000°Cの範囲から 選択される。
最終冷間圧延後に、冷間圧延まま最終製品板としてもよいが、低温での歪み取りの ための焼鈍を行なってもよ!/、。
実施例
[0204] 〔実施例 1〕
以下に本発明の実施例を説明する。表 1に示す各化学成分組成の Cu-Fe-P系銅 合金薄板を、表 2に示す通り、最終焼鈍後の化学的エッチイングを伴う洗浄処理条件 だけを種々変えて製造した。そして、これら各銅合金薄板の酸化皮膜の密着性 (酸 化皮膜の剥離温度)を評価した。これらの結果を表 2に示す。
[0205] 具体的には、表 1に示す各化学成分組成の銅合金をそれぞれコアレス炉にて溶製 した後、半連続铸造法で造塊して、厚さ 70mm X幅 200mm X長さ 500mmの铸塊 を得た。各铸塊を表面を面削して加熱後、 950°Cの温度で熱間圧延を行って厚さ 16 mmの板とし、 750°C以上の温度から水中に急冷した。次に、酸化スケールを除去し た後、一次冷間圧延(中延べ)を行った。この板を面削後、中間焼鈍を入れながら冷 間圧延を 4パス行なう最終冷間圧延を行!/、、次!/、で 350°Cで 20秒の低温条件で最 終連続焼鈍を行って、リードフレームの薄板化に対応した厚さ 0. 15mmの銅合金板 を得た。
[0206] この際に、上記最終冷間圧延は、各例とも共通して、 1パスあたりの最小圧下率を 3 0%とし、ロール表面を中心線平均粗さ Ra : 0. 2 111以下ぉょび最大高さ1¾11& :1. 5 m以下に細力、くしたブライトロール (表面研磨ロール)を使用した。
[0207] また、上記最終連続焼鈍後に、 Cu-Fe-P系銅合金板を、表 2に示す条件にて、硫 酸水溶液(室温)に浸漬する、酸エッチイングを伴う洗浄処理を行い、 Cu-Fe-P系銅 合金板表面の Rkuを制御した。
[0208] なお、表 1に示す各銅合金とも、記載元素量を除いた残部組成は Cuであり、その 他の不純物元素として、 Hf、 Th、 Li, Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 S、 Si、 C、 Nb、 Al、 V、 Y 、 Mo、 Pb、 In, Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、ミッシュメタノレの含有量は、これらの元
素全体の合計で 0. 1質量%以下であった。
[0209] また、 Mn、 Mg、 Caのうち 1種又は 2種以上を含む場合は、合計量を 0· 0001-1.
0質量%の範囲とし、 Zr、 Ag、 Cr、 Cd、 Be、 Ti、 Co、 Ni、 Au、 Ptのうち 1種又は 2種 以上を含む場合は、合計量を 0. 001-1. 0質量%の範囲とし、更に、これらの元素 全体の合計量も 1. 0質量%以下とした。
[0210] 上記のようにして得られた各銅合金板に対して、各例とも、銅合金板から試料を切り 出し、これら各銅合金薄板の引張強さ、硬さ、導電率などの特性や、 JIS B0601法 に準じた表面粗さ測定における中心線平均粗さ Ra、最大高さ Rmax、粗さ曲線のク ノレトシス(尖り度) Rkuを測定した。これらの結果を表 2に各々示す。
[0211] (表面粗さの測定)
株式会社東京精密製の表面粗さ測定機 (製品名:サーフコム 1400D)を用いて、 上記得られた銅合金板の試験片表面の中心線平均粗さ Ra m)、最大高さ Rmax m)、粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuを、 JIS B0601法に準じて測定した。測 定は試験片の任意の 3点(3箇所)について 4. Omm長さづっ行い、この結果を平均 化した。
[0212] (硬さ測定)
上記得られた銅合金板から 10 X 10mmの試験片を切出し、松沢精機社製のマイク ロビッカース硬度計(商品名「微小硬度計」)を用いて 0. 5kgの荷重を加えて 4箇所 硬さ測定を行レ \硬さはそれらの平均値とした。
[0213] (導電率測定)
銅合金板試料の導電率は、ミーリングにより、幅 lOmmX長さ 30mmの短冊状の試 験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面 積法により算出した。
[0214] (酸化膜密着性)
また各供試材の酸化膜密着性試験は、テープピーリング試験により、酸化膜が剥 離する限界温度で評価した。テープピーリング試験は、上記のようにして得られた銅 合金板から 10 X 30mmの試験片を切出し、大気中所定温度で 5分間加熱した後、 酸化膜の生成した試験片表面に、市販のテープ (商品名:住友スリーェム製メンディ
ングテープ)を張り付け、引き剥がした。この時、加熱温度を 10°C刻みで上昇変化さ せた時に、酸化膜の剥離の生じる最も低い上記所定温度を求め、これを酸化膜剥離 /乂どレた〇
[0215] この酸化膜剥離温度は、 350°C以上あることで、銅合金板やリードフレームの製作 のための加熱工程における加熱温度の高温化での必要な(十分な)酸化膜密着性 であると言える。
[0216] なお、本発明の上記大気中での 5分間の加熱は、比較的加熱時間が長ぐ特許文 献 2、 3のような、 200〜500°Cで 3分間の比較的短時間の加熱を行う、酸化膜密着 性の評価試験条件よりも厳しいと言える。言い換えると、本発明の比較的加熱時間が 長い酸化膜密着性試験は、銅合金板やリードフレームの製作のための加熱工程に おける加熱温度の高温化での酸化膜密着性に対応 (相関)している。
[0217] これに対して、特許文献 2、 3のような、上記 3分間の比較的短時間の加熱を行う酸 化膜密着性の評価試験条件では、銅合金板やリードフレームの製作のための加熱 工程における加熱温度の高温化での酸化膜密着性への対応(相関)は不十分であ ると言える。即ち、特許文献 2、 3の酸化膜密着性の評価試験条件で結果が良くても 、銅合金板やリードフレームの製作のための加熱工程における加熱温度の高温化で の酸化膜密着性が良いとは限らない。
[0218] 表 1、 2から明らかな通り、本発明組成内の銅合金である発明例 1〜13は、引張強 さが 500MPa以上、硬さ力 50Hv以上の高強度である。また、この銅合金板の JIS B0601法に準じた表面粗さ測定における中心線平均粗さ Raが 0. 2 111以下、最大 高さ Rmax力 δ πι以下である。
[0219] その上で、発明例 1〜13は、最終連続焼鈍後に好ましい条件で硫酸水溶液による 洗浄処理を行っているため、粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuが 5. 0以下である。 この結果、酸化膜剥離温度が 350°C以上である優れた酸化膜密着性を有する。した がって、発明例 1〜13は、半導体母材として、半導体パッケージの組み立てに際して の樹脂とダイパッドとの密着性が高ぐパッケージの信頼性が高い。
[0220] これに対して、比較例 14、 15は、最終連続焼鈍後に好ましい条件で硫酸水溶液に よる洗浄処理を行っていない。比較例 16は、この硫酸水溶液による洗浄処理の硫酸
濃度が低すぎる。比較例 17は、この硫酸水溶液による洗浄処理の硫酸濃度が高す ぎる。比較例 18は、この硫酸水溶液による洗浄処理の浸漬時間が長すぎる。これら の結果、比較例 14〜; 18は粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuが 5. 0を超えている。
[0221] 一方、比較例 14〜18は、本発明組成内の銅合金であり、引張強さが 500MPa以 上、硬さが 150Hv以上の高強度であり、表面粗さ測定における中心線平均粗さ Ra が 0· 2 111以下、最大高さ1¾11& が1. 5 111以下である。にもかかわらず、比較例 1 4〜; 18は粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuが 5. 0を超えているために、酸化膜剥離 温度が 350°C未満で、酸化膜密着性に劣る。したがって、比較例 14〜; 18は、半導 体母材として、半導体パッケージの組み立てに際しての樹脂とダイパッドとの密着性 が低ぐパッケージの信頼性も低い。
[0222] 比較例 19〜22は、最終連続焼鈍後に好まし!/、条件で硫酸水溶液による洗浄処理 を行っているため、粗さ曲線のクルトシス(尖り度) Rkuは 5. 0以下であり、優れた酸 化膜密着性を有する。
[0223] にもかかわらず、比較例 19は、 Feの含有量が下限 0. 01 %を低めに外れ、強度レ ベルが低ぐ半導体母材として使用できない。
[0224] 比較例 20は、 Feの含有量が上限 5. 0%を高めに外れ、導電率が著しく低ぐ半導 体母材として使用できない。
[0225] 比較例 21は、 Pの含有量が下限 0. 01 %を低めに外れ、強度レベルが低ぐ半導 体母材として使用できない。
[0226] 比較例 22は、 Pの含有量が上限 0. 15%を高めに外れ、熱間圧延中に割れを生じ たため、その時点で試作を中断した。
[0227] 以上の結果から、高強度化させた上で、優れた酸化膜密着性を有するための、本 発明銅合金板の成分組成、表面粗さ規定の臨界的な意義や、この表面粗さを得るた めの好ましい製造条件の意義が裏付けられる。
[0228] [表 1]
区 番 銅合金板の化学成分組成 (残部 Cuおよび不純物) 口
分
Fe P Sn Zn その他
1 0.28 0.12 0.11 0.31
2 0.28 0.12 0.11 0.31 ―
3 0.28 0.12 0.11 0.31 一
発 4 0.030 0.010 0.10 0.29 ―
5 0.49 0.14 0.11 0.30 一
6 0.29 0.11 ― ― 一
明 7 0.27 0.10 0.005 ―
8 0.28 0.11 ― 0005 ―
9 0.25 0.084 5.0 ― Mg: 0.005
例 10 0.26 0.086 3.0 Co:0.10
11 0.26 0.085 0.020 0.25 Mn: 0.003 、Νί: 0.025
12 0.27 0.084 0.022 0.26 Ca: 0.002 、 S:0.003
13 0.26 0.085 0.019 0.25 Zr: 0.020 、 B:0,005
14 0.28 0.12 0.78 0.28
15 0.49 0.14 0.11 0.30 一
比 16 0.28 0.12 0.11 0.31 ―
17 0.28 0.12 0.11 0.31 ―
較 18 0.28 0.12 0.11 0.31
19 0.004 0.01 0.10 0.30 一
例 20 0.60 0.14 0.11 0.32 ―
21 0.02 0.004 0.10 0.31 ―
22 0.48 0.16 0.12 0.33
*各元素の含有量の表示において、—は検出限界以下であることを示す。 2]
区 番 洗浄処理 銅合金金板表面特性 銅合金板特性 分 硫酸 浸溃 Ra Rmax Rku 引張 硬さ 導電率 酸化膜 κ> 時間 尖り度 強さ 剥離 質量% 秒 m μ. m MPa Hv %IACS °C
1 20 10 0.068 0.43 2.6 580 175 75 400
2 5 10 0.050 0.53 4.8 580 175 75 350
3 50 10 0.070 0.51 4.7 580 175 75 350 発 4 20 10 0.045 0.42 2.5 520 155 88 400
5 20 10 0.067 0.45 2.7 595 180 73 400
6 20 10 0.049 0.42 2.6 540 160 85 400 明 7 20 10 0.076 0.45 3.0 565 170 80 390
8 20 10 0.050 0.40 2.5 550 165 83 400
9 10 40 0.071 0.48 3.9 770 235 32 370 例 10 20 30 0.043 0.41 2.2 630 195 67 410
11 30 10 0.048 0.43 3.1 565 170 78 390
12 30 20 0.073 0.47 3.4 600 180 フ 1 380
13 40 5 0.070 0.52 4.3 570 170 77 360
14 ― 0.044 0.64 7.3 670 205 53 290
15 ― ― 0.056 0.63 7.4 595 180 フ 3 290 比 16 3 10 0.050 0.55 5.3 580 175 フ 5 330
17 60 10 0.048 0.60 5.6 580 175 75 320 較 18 20 80 0.072 0.59 5.7 580 175 75 320
19 20 10 0.055 0.44 2.6 470 135 91 400 例 20 20 10 0.068 0.47 2.9 555 165 67 390
21 20 10 0.077 0.43 2.5 495 145 90 400
22
― ―
〔実施例 2〕
以下に本発明の実施例を説明する。表 3に示す各化学成分組成の Cu-Fe-P系銅 合金薄板を、表 4に示す通り、最終低温焼鈍時の板の張力条件だけを種々変えて製 造した。そして、これら各銅合金薄板の圧延方向に対して平行方向の r値と曲げ加工 性を評価した。これらの結果を表 4に示す。
[0231] 具体的には、表 3に示す各化学成分組成の銅合金をそれぞれコアレス炉にて溶製 した後、半連続铸造法で造塊して、厚さ 70mm X幅 200mm X長さ 500mmの铸塊 を得た。各铸塊の表面を面削して加熱後、熱間圧延を行って厚さ 16mmの板とし、 6 50°C以上の温度から水中に急冷した。次に、酸化スケールを除去した後、一次冷間 圧延(中延べ)を行った。この板を面削後、中間焼鈍を入れながら冷間圧延を行い、 次いで 400°Cで最終低温焼鈍を行って、リードフレームの薄板化に対応した厚さ 0. 15mmの銅合金板を得た。
[0232] 最終冷間圧延での 1パスあたりの最小圧下率および最終低温焼鈍時の板へ負荷さ れた張力を表 4に示す。このように、最終冷間圧延での 1パスあたりの最小圧下率お よび最終低温焼鈍時の板の張力条件だけを種々変えて、各銅合金薄板の圧延方向 に対して平行方向の r値を制御した。
[0233] なお、表 3に示す各銅合金とも、記載元素量を除いた残部組成は Cuであり、その 他の不純物元素として、 Hf、 Th、 Li, Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 S、 Si、 C、 Nb、 Al、 V、 Y 、 Mo、 Pb、 In, Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、ミッシュメタノレの含有量は、これらの元 素全体の合計で 0. 1質量%以下であった。
[0234] また、 Mn、 Mg、 Caのうち 1種又は 2種以上を含む場合は、合計量を 0· 0001-1.
0質量%の範囲とし、 Zr、 Ag、 Cr、 Cd、 Be、 Ti、 Co、 Ni、 Au、 Ptのうち 1種又は 2種 以上を含む場合は、合計量を 0. 001-1. 0質量%の範囲とし、更に、これらの元素 全体の合計量も 1. 0質量%以下とした。
[0235] また、各例とも、得た銅合金板から試料を切り出し、引張試験、導電率測定、曲げ 試験を行った。これらの結果も表 4に示す。
[0236] (引張試験)
引張試験は、前記した r値測定の条件にて、 5882型インストロン社製万能試験機 により、室温、試験速度 10. 0mm/min、 GL= 50mmの条件で、引張強度、 0. 2 %耐力、 r値を測定した。
[0237] (導電率測定)
銅合金板試料の導電率は、ミーリングにより、幅 lOmmX長さ 300mmの短冊状の 試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断
面積法により算出した。
[0238] (曲げ加工性の評価試験)
銅合金板試料の曲げ試験は、 日本伸銅協会技術標準に従って行った。板材を幅 1 Omm X長さ 30mmに切出し、 Good Way (曲げ軸が圧延方向に直角)の曲げを行い ながら、曲げ部における割れの有無を 50倍の光学顕微鏡で観察した。そして、割れ が生じない最小曲げ半径 Rと、銅合金板の板厚 t (0. 15mm)との比 R/tを求めた。 この R/tが小さい方が曲げ加工性に優れている。ただし、強度が高いほど必然的に 曲げ加工性が低下するため、リードフレーム等の半導体用材料に用いられる銅合金 板の場合は、硬さが 150〜200Hvでは R/tが 1. 5未満、 200Hv以上では 2. 0未 満であること力 S求められる。因みに 150Hv未満は、本発明の対象外の低硬度(低強 度)であるが、 150Hv未満では R/tが 0. 5未満であることが求められる。
[0239] 表 3、 4から明らかな通り、本発明組成内の銅合金である発明例 3;!〜 43は、引張強 さが 500MPa以上、硬さ力 50Hv以上の高強度である。その上で、発明例 3;!〜 43 は、最終連続焼鈍時に好ましい張力を板に負荷しているために、銅合金薄板の圧延 方向に対して平行方向の r値が 0. 3以上である。したがって、発明例 3;!〜 43は、半 導体母材としての曲げ加ェ性に優れる。
[0240] これに対して、比較例 44、 45は、最終連続焼鈍時に張力を板に負荷して!/、な!/、。
この結果、比較例 44、 45は、本発明組成内の銅合金であり、引張強さが 500MPa 以上、硬さが 150Hv以上の高強度であるにもかかわらず、銅合金薄板の圧延方向 に対して平行方向の r値が 0. 3未満である。したがって、比較例 44、 45は、半導体母 材としての曲げ加工性が劣る。
[0241] 比較例 46は、 Feの含有量が下限 0. 01 %を低めに外れ、強度レベルが低ぐこの 点で、銅合金薄板の圧延方向に対して平行方向の r値が 0. 3以上であるものの、半 導体母材として使用できない。
[0242] 比較例 47は、 Feの含有量が上限 5. 0%を高めに外れ、強度の割りには、曲げカロ ェ性が劣る。また、発明例の同じ強度レベル例と比較しても、強度の割りには導電率 が著しく低いこともあり、半導体母材として使用できない。
[0243] 比較例 48は、 Pの含有量が下限 0. 01 %を低めに外れ、強度レベルが低ぐこの点
で、銅合金薄板の圧延方向に対して平行方向の r値が 0. 3以上であるものの、半導 体母材として使用できない。
[0244] 比較例 49は、 Pの含有量が上限 0. 15%を高めに外れ、熱間圧延中に割れを生じ たため、その時点で試作を中断した。
[0245] 比較例 50は、最終冷間圧延の 1パスあたりの最小圧下率が 20%未満である。この ため、本発明組成内の銅合金であるにもかかわらず、銅合金薄板の圧延方向に対し て平行方向の r値が 0. 3未満であり、曲げ加工性が劣る。
[0246] 以上の結果から、高強度させた上で、曲げ加工性にも優れさせるための、本発明銅 合金板の成分組成、 r値規定の臨界的な意義や、更には、この r値や高強度を得るた めの好ましい製造条件の意義が裏付けられる。
[0247] [表 3]
区 番 銅合金板の化学成分組成 (残部 Cuおよび不純物) 分
Fe P Sn Zn その他
31 0.17 0.056 0.022 0.030
32 0.16 0.056 0.63 0.058 一
33 0.030 0.010 一 ― 一
34 0.49 0.14 ― ―
発 35 0.17 0.059 0005 ― ―
36 0.10 0.034 5.0 ― ―
37 0.17 0.060 0 0.005 ―
明 38 0.15 0.051 0 3.0 一
39 0.18 0.058 0.020 0.028 Mn: 0.003
40 0.17 0.060 0.024 0.030 Cr:0.005
例 41 0.17 0.057 0.022 0.033 Ca:0.001 Ti:0.010
42 0.18 0.060 0.025 0.025 Mg:0.050 AI:0.003
43 0.25 0.080 N 0.10 Si:0.002
44 0.17 0.056 0.022 0.030
比 45 0.16 0.056 0.63 0.058 ―
46 0.004 0.010 ― ― ―
較 47 0.60 0.14 ― ― ―
48 0.020 0.004 ― ― ―
例 49 0.48 0.16 ― ― ―
50 0.17 0.056 0.022 0.030 —
*各元素の含有量の表示において、一は検出限界以下であることを示す
〔実施例 3〕
以下に本発明の実施例を説明する。均質化熱処理、熱間圧延後の水冷開始温度 、中間焼鈍温度、最終連続焼鈍時の通板速度などの製造条件を種々変えて、 Cu-F e-P系銅合金薄板を製造した。そして、これら各銅合金薄板の引張弾性率や均一伸
びと全伸びとの比などの引張特性、あるいは引張強さ、硬さ、導電率、せん断面率な どの特性を評価した。これらの結果を表 5に示す。
[0250] 具体的には、表 5に示す各化学成分組成の銅合金溶湯を、大気溶解炉であるコア レス炉を用いて溶製し、半連続铸造法で厚さ 70mm X幅 200mm X長さ 500mmの 铸塊を得た。
[0251] これら各铸塊を表面を面削して、表 6に示す条件 (温度 X時間)で加熱 ·均熱後、 9 50°Cの温度で熱間圧延を行って厚さ 16mmの板とし、表 6に示す開始温度から水中 に急冷した。次に、酸化スケールを除去した後、一次冷間圧延(中延べ)を行った。こ の板を面削後、表 6に示す温度で 10時間処理する中間焼鈍を入れながら冷間圧延 を 4パス行なう最終冷間圧延を行い、リードフレームの薄板化に対応した厚さ 0. 15m mの銅合金板を得た。この銅合金板を、 350°Cの温度で表 6に示す通板速度にて連 続焼鈍を行う最終焼鈍を行って、製品銅合金板とした。
[0252] なお、表 5に示す各銅合金とも、記載元素量を除いた残部組成は Cuであり、その 他の不純物元素として、 Hf、 Th、 Li、 Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 Si、 Nb、 Al、 V、 Y、 Mo、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、ミッシュメタルの含有量は、これらの元素全体の合 計で 0. 1質量%以下であった。
[0253] また、 Mn、 Mg、 Caのうち 1種又は 2種以上を含む場合は、合計量を 0· 0001— 1.
0質量%の範囲とし、 Zr、 Ag、 Cr、 Cd、 Be、 Ti、 Co、 Ni、 Au、 Ptのうち 1種又は 2種 以上を場合は、合計量を 0. 001-1. 0質量%の範囲とし、更に、これらの元素全体 の合計量も 1. 0質量%以下とした。
[0254] このようにして得た銅合金板に対して、各例とも、銅合金板から圧延方向に対して 直交する板幅方向を長手方向として試験片 (試料)を切り出し、各試料の引張弾性率 や均一伸びと全伸びとの比、あるいは引張強さ、硬さ、導電率、せん断面率などの特 性を評価した。これらの結果を表 6に各々示す。
[0255] (せん断面率測定)
銅合金板のリード打ち抜きを模擬したプレス打ち抜きによって設けたリード断面の せん断面率(せん断面比率)によって、プレス打ち抜き性を評価する。このせん断面 率が 75%以下であれば、プレス打ち抜き性が良いと評価できる。このせん断面率に
よる評価は、銅合金板にリードを打抜き、その際のばり高さを測定するプレス打ち抜き 性の評価試験よりも、要求されるプレス打ち抜き性を正確に評価できる。
[0256] プレス打ち抜き試験は、打ち抜きプレス(クリアランス: 5%)により、図 2に示すように 、幅 Imm X長さ 10mmのリードを、 日本工作油製 G-6316の潤滑油を用いて、銅合 金板 (試験片) 1を、矢印で示す圧延方向に対して直交する板幅方向を長手方向とし た打抜き穴 2として順次打抜く。
[0257] これによつて、打抜き穴 2の中心を長さ方向に沿って切断し (切断箇所を破線 3で示 す)、打抜き穴 2の切断面を矢印 4の方向力も観察し、光学式マイクロスコープを用い た切断面の表面写真から画像解析で求めた。せん断率は切断面におけるせん断面 の面積比率(せん断面の面積/切断面の面積)であり、切断面の面積は銅合金板の 板厚 0. 15mm X測定幅 0. 5mmとし、せん断面の面積は測定幅 0. 5mmの範囲内 のせん断面の面積とした。 1試料につき穴を 3箇所打ち抜き、各穴で 3箇所ずつ測定 し (合計 9箇所)、その平均値を求めた。
[0258] (硬さ測定)
銅合金板試料の硬さ測定は、マイクロビッカース硬度計にて、 0. 5kgの荷重を加え て、試料の任意の 3箇所について行い、硬さはそれらの平均値として算出した。
[0259] (導電率測定)
銅合金板試料の導電率は、ミーリングにより、幅 lOmm X長さ 300mmの短冊状の 試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断 面積法により算出した。
[0260] 表 5、 6から明らかな通り、本発明組成内の銅合金である発明例 5;!〜 61は、その成 分組成が本発明範囲内であり、かつ、均質化熱処理、熱間圧延後の水冷開始温度 、最終連続焼鈍時の通板速度などの製造条件が好ましい範囲内で製造されている。 このため、発明例 5;!〜 61は、引張弾性率が 120GPaを超えるとともに、均一伸び/ 全伸びが 0. 50未満である引張特性を有する。
[0261] この結果、発明例 5;!〜 61は、引張強さが 500MPa以上、硬さが 150Hv以上の高 強度な割りには、比較的高導電率であって、また、せん断面率が 75%以下であり、 プレス打ち抜き性にも優れて!/、る。
[0262] ただ、 Feの含有量が下限近!/、発明例 53や、 Pの含有量が下限近!/、発明例 55は、 他の発明例 51、 52などに比して、強度が比較的低い。また、 Feの含有量が上限近 い発明例 54や、 Pの含有量が上限近い発明例 56は、他の発明例 51、 52などに比し て、せん断面率が比較的高ぐ導電率も比較的低い。
[0263] これに対して、比較例 62〜67は、発明例 1と同じ本発明組成内の銅合金であるも のの、均質化熱処理、熱間圧延後の水冷開始温度、最終連続焼鈍時の通板速度な どの製造条件が、好ましい範囲を外れる。このため、比較例 62〜67は、引張弾性率 力 S l 20GPa以下と低すぎる力、、均一伸び/全伸びが 0. 50以上と高すぎる。この結 果、比較例 62〜67は、せん断面率が 75%を超え、プレス打ち抜き性が著しく劣る。
[0264] 比較例 62は均質化熱処理時の時間が短すぎる。比較例 63は均質化熱処理時の 温度が低すぎる。比較例 64は熱間圧延後の水冷開始温度が高すぎる。比較例 65 は熱間圧延後の水冷開始温度が低すぎる。比較例 66は中間焼鈍温度が高すぎる。 比較例 67は最終連続焼鈍時の通板速度が遅すぎる。
[0265] 比較例 68〜71の銅合金は、製造方法は好ましい条件内で製造されているものの、 その成分組成が本発明範囲から外れる。このため、比較例 68〜71は、引張弾性率 力 S l 20GPa以下と低すぎる力、、均一伸び/全伸びが 0. 50以上と高すぎる。この結 果、比較例 68〜71は、せん断面率が 75%を超え、プレス打ち抜き性が著しく劣る。
[0266] 比較例 68は Feの含有量が下限 0. 01 %を低めに外れている。このため、せん断面 率が高ぐプレス打ち抜き性が劣り、高強度化も達成できていない。
[0267] 比較例 69は Feの含有量が上限 5. 0%を高めに外れている。このため、せん断面 率が高ぐプレス打ち抜き性が劣り、高強度化も達成できていない。
[0268] 比較例 70の銅合金は Pの含有量が下限 0. 01 %を低めに外れている。このため、 せん断面率が高ぐプレス打ち抜き性が劣り、また高強度化も達成できていない。
[0269] 比較例 71の銅合金は Pの含有量が上限 0. 15%を高めに外れている。このため、 熱間圧延中に割れが生じた。
[0270] 以上の結果から、高強度化させた上で、プレス打ち抜き性にも優れさせるための、 本発明銅合金板の成分組成、引張弾性率、均一伸び/全伸びなどの引張特性の臨 界的な意義および、このような引張特性を得るための好ましい製造条件の意義が裏
付けられる。
[0271] [表 5]
*各元素の含有量の表示において、一は検出限界以下であることを示す。
[0272] [表 6]
区 番 銅合金板の製造条件 引張特性 銅合金板特性 口
分 熱延前の 熱延後 中間 最終 弾性率 均一 引張 硬さ 導電率 せん断 均熱条件 水冷 焼鈍 焼鈍 伸び 強さ 面率 開始 皿 通板 /
;皿 速度 全伸び
°C h 。C °C m/ mm GPa Pa Hv %1ACS %
51 950 °Cx4h 780 400 50 128 0.28 560 165 82 73
52 950 °C 4h 750 380 50 146 0.16 670 205 52 65 発 53 920 °Cx4h 720 420 30 122 0.45 510 150 88 75
54 950 °C 4h 750 400 50 124 0.20 600 180 74 70 明 55 950 °Cx4h 750 400 50 128 0.26 575 170 79 72
56 950 °C 4h 750 400 50 135 0.23 585 175 77 71 例 5フ 950 °C 4h 750 380 80 158 0.16 700 220 51 64
58 950 °C 4h 750 400 80 150 0.24 610 185 69 70
59 950 °Cx4h 750 420 50 145 0.40 530 155 85 フ 4
60 920 °C 8h 720 400 50 125 0.25 570 170 80 フ 2
61 950 °Cx4h 750 380 50 141 0.18 640 195 62 67
62 950 °CX 1h 780 420 50 115 0.42 485 140 88 フ 7
63 880 °C 8h 720 400 50 104 0.36 490 145 87 76 比 64 970 °C 4h 820 400 50 125 0.55 545 160 80 76
65 920 °C 4h 680 400 50 117 0.52 480 140 88 フ 8 較 66 950 °CX4h 750 450 50 133 0.58 485 140 87 フ 7
67 950 °C 4h 750 400 5 116 0.54 475 135 88 フ 8 例 68 950 °CX4h 750 400 50 116 0.53 480 140 85 77
69 950 °Cx4 フ 50 400 50 118 0.38 495 145 83 76
70 950 °CX4h フ 50 400 50 115 0.35 490 145 85 76
71 950 °Cx h 750 400 50
〔実施例 4〕
以下に本発明の実施例を説明する。特に、大気溶解炉での溶解温度と铸造開始 から 600°Cまでの平均冷却速度(凝固速度:。 C/秒)とを変えて、種々の C、 0、 Hの 含有量を有する銅合金薄板を製造した。そして、これら各銅合金薄板の引張強さ、
硬さ、導電率、メツキ性などの特性を評価した。これらの結果を表 8に示す。
[0274] 具体的には、表 7に示す各化学成分組成の銅合金を、表 8に示すように、それぞれ の溶解温度と、铸造開始から 600°Cまでの平均冷却速度を変えて造塊した。溶解は 、大気溶解炉であるコアレス炉を用い、半連続铸造法で厚さ 70mm X幅 200mm X 長さ 500mmの铸塊を得た。
[0275] これら各铸塊を表面を面削して加熱後、 950°Cの温度で熱間圧延を行って厚さ 16 mmの板とし、 750°C以上の温度から水中に急冷した。次に、酸化スケールを除去し た後、一次冷間圧延(中延べ)を行った。この板を面削後、中間焼鈍を入れながら冷 間圧延を 4パス行なう最終冷間圧延を行!/、、次!/、で 350°Cで 20秒の低温条件で最 終焼鈍を行って、リードフレームの薄板化に対応した厚さ 0. 15mmの銅合金板を得 た。
[0276] なお、表 7に示す各銅合金とも、記載元素量を除いた残部組成は Cuであり、その 他の不純物元素として、 Hf、 Th、 Li、 Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 Si、 Nb、 Al、 V、 Y、 Mo、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、ミッシュメタルの含有量は、これらの元素全体の合 計で 0. 1質量%以下であった。
[0277] また、 Mn、 Mg、 Caのうち 1種又は 2種以上を含む場合は、合計量を 0. 0001-1.
0質量%の範囲とし、 Zr、 Ag、 Cr、 Cd、 Be、 Ti、 Co、 Ni、 Au、 Ptのうち 1種又は 2種 以上を場合は、合計量を 0. 001-1. 0質量%の範囲とし、更に、これらの元素全体 の合計量も 1. 0質量%以下とした。
[0278] 酸素(O)の含有量は、堀場製作所製 EMGA— 650A型装置を用いて、 JIS Z 2 613に従い、不活性ガス融解法にて試料中の酸素を抽出し、赤外線吸収法にて分 析を行った。水素(H)の含有量は、 LECO社製 RH— 402型装置を用いて、 JIS Z 2614に従い、不活性ガス融解法にて試料中の水素を抽出し、熱伝導度法にて分析 を行った。炭素(C)の含有量は、堀場製作所製 EMIA610型装置を用いて、 JIS Z 2615に従い、酸素雰囲気中で加熱して試料中の酸素を抽出し、燃焼赤外線吸収 法にて分析を行った。
[0279] このようにして得た銅合金板に対して、各例とも、銅合金板から試料を切り出し、各 試料の引張強さ、硬さ、導電率、メツキ性などの特性を評価した。これらの結果を表 8
に各々示す。
[0280] (メツキ性の評価)
銅合金板試料について、上記得られた銅合金板から 25mm X 60mmの試料を切り 出した後、実際のリードフレームにおけるメツキ工程を模擬した Agメツキを施し、メツキ 面の表裏面を、 V、ずれも試料中央部付近の 10cm2の範囲で実体顕微鏡( X 40)で 観察した。そして、この測定部位における、図 3に示すようなメツキ層の突起として観 察される、メツキの異常析出(突起)発生数を測定した。発生個数が 2個 /cm2未満 の場合は〇、 2個/ cm2以上の場合は、ボンディング不良を招くなどして、半導体リー ドフレームとして使用できなくなるとして、 Xと評価した。上記 Agメツキは、電解脱脂、 酸洗、水洗などの前処理を施した試料の表裏面に、市販の Cuめっき液浴にて Cu下 地電気めつきを施した後に、市販の Agめっき液浴にて純 Ag電気メツキを施して行つ た。 Cu下地めつきは、温度 60〜65°C、電流密度 5A/dm2、処理時間 10秒の条件 で、純 Ag電気メツキは、温度 60〜65°C、電流密度 7A/dm2、処理時間 60秒の条 件で各々行った。
[0281] (硬さ測定)
銅合金板試料の硬さ測定は、マイクロビッカース硬度計にて、 0. 5kgの荷重を加え て 3箇所行い、硬さはそれらの平均値とした。
[0282] (導電率測定)
銅合金板試料の導電率は、ミーリングにより、幅 lOmmX長さ 300mmの短冊状の 試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断 面積法により算出した。
[0283] 表 7、 8から明らかな通り、本発明組成内の銅合金である発明例 8;!〜 95は、大気溶 解炉での溶湯の溶解温度と、铸造開始から 600°Cまでの平均冷却速度が適切に製 造されている。このため、発明例 8;!〜 95は、 Fe、 Pとともに、 C含有量が本発明範囲 内である。
[0284] この結果、発明例 8;!〜 95は、〇、 Hがある程度存在しても、引張強さが 500MPa 以上、硬さが 150Hv以上の高強度な割りには、比較的高導電率であって、また、メッ キ性にも優れている。
[0285] これに対して、比較例 96、 97は、大気溶解炉での溶解温度が低すぎるか、铸造開 始から 600°Cまでの平均冷却速度が小さすぎ、 C含有量が少なすぎる。この結果、 O 、 H含有量は、〇、 H含有量は本発明範囲内であるものの、発明例に比して、メツキ 十生が劣っている。
[0286] 比較例 98、 99は、〇、 H含有量が高すぎる。この結果、 C含有量が多いにも関わら ず、同様に〇、 H含有量が高いが、上限レベルである発明例 84、 85に比して、強度 ゃメツキ性が著しく劣って!/、る。
[0287] 比較例 100は Feの含有量が少なすぎる。このため、 C含有量が本発明範囲内であり
、メツキ性には優れているものの、強度や硬さが低い。
[0288] 比較例 101の銅合金は、 Feの含有量が多すぎる。このため、 C含有量が本発明範 囲内であるものの、強度や硬さ、導電率が低い。
[0289] 比較例 102の銅合金は、 Pの含有量が少なすぎる。このため、 C含有量が本発明範 囲内でありメツキ性には優れているものの、強度や硬さ、導電率が低い。
[0290] 比較例 103の銅合金は、 Pの含有量が多すぎる。このため、熱延中に板端部に割 れが生じた。
[0291] 比較例 104は、大気溶解炉での溶解温度が高ぐ C含有量が多すぎる。この結果、 O 、 H含有量は本発明範囲内であるものの、発明例に比して、メツキ性が劣っている。
[0292] 以上の結果から、高強度化と、メツキの異常析出を防止する優れためつき性とを両 立させるための、 C含有量などの臨界的な意義および、このような組織を得るための 好まし!/、製造条件の意義が裏付けられる。
[0293] [表 7]
SU D¾¾924
区 ム口 口 溶解錶造条件 銅合金板特性
分 金 金
番 番
口
溶解温度 錶造開始 引張 硬さ 導電率 メツキ
から 600 強さ 性
表 °Cまでの
1 平均冷却 MPa Hv %IACS
速度
。C 。C/s
81 81 1320 5.5 540 160 80 〇
82 82 1330 6.0 570 170 75 〇
83 83 1330 6.0 690 210 51 〇
84 84 1360 5.5 550 165 78 〇
発 85 85 1360 6.0 675 205 50 〇
86 86 1320 6.0 525 155 84 〇
明 87 87 1320 6.0 580 175 73 〇
88 88 1320 6.0 510 150 86 〇
例 89 89 1320 6.0 595 180 70 o
90 90 1330 6.0 575 175 75 〇
91 91 1330 6.0 565 170 77 〇
92 92 1330 6.0 580 175 73 〇
93 93 1330 6.0 585 180 72 o
94 94 1330 6.0 570 170 76 〇
95 95 1380 6.0 625 190 65 〇
96 96 1250 6.0 570 170 75 X
97 97 1310 4.0 560 165 77 X
比 98 98 1360 3.5 480 140 87 X
99 99 1360 4.0 490 145 85 X
ί父 100 100 1330 6.0 470 140 88 〇
101 101 1330 6.0 490 145 84 X
例 102 102 1330 6.0 460 135 89 〇
103 103 1330 6.0 ― ― ― ―
104 104 1400 6.0 610 185 68 X
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲 を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明ら 力、である。本出願 (ま、 2006年 10月 2曰出願の曰本特許出願(特願 2006— 270918
)、 2006年 10月 5曰出願の曰本特許出願(特願 2006— 274309)、 2006年 11月 1 7日出願の日本特許出願(特願 2006— 311899)、及び 2006年 11月 17日出願の 日本特許出願(特願 2006— 311900)に基づくものであり、その内容はここに参照と して取り込まれる。
産業上の利用可能性
[0296] 以上説明したように、本発明によれば、高強度化させた上で、酸化膜密着性にも優 れ、これら特性を両立 (兼備)させた Cu-Fe-P系銅合金板を提供することができる。こ の結果、半導体パッケージの組み立てに際しての樹脂とダイパッドとの密着性が高く 、ノ ンケージの信頼性が高い半導体母材を提供できる。したがって、小型化及び軽 量化した電気電子部品用として、半導体装置用リードフレーム以外にも、リードフレー ム、コネクタ、端子、スィッチ、リレーなどの、高強度化と、酸化膜密着性 =パッケージ の信頼性が要求される用途に適用することができる。
[0297] また、本発明によれば、高強度化させた上で、曲げ加工性にも優れ、これら特性を 両立 (兼備)させた Cu-Fe-P系銅合金板を提供することができる。この結果、信頼性 が高い半導体母材を提供できる。したがって、小型化及び軽量化した電気電子部品 用として、半導体装置用リードフレーム以外にも、リードフレーム、コネクタ、端子、スィ ツチ、リレーなどの、高強度化と、曲げ加工性が要求される用途に適用することができ
[0298] また、本発明によれば、高強度化させた上で、プレス打ち抜き性にも優れ、これら特 性を両立 (兼備)させた Cu-Fe-P系銅合金板を提供することができる。この結果、小 型化及び軽量化した電気電子部品用として、半導体装置用リードフレーム以外にも、 リードフレーム、コネクタ、端子、スィッチ、リレーなどの、高強度化と、厳しい曲げカロェ 性が要求される用途に適用することができる。
[0299] さらに、本発明によれば、高強度化させた上で、メツキ性にも優れ、これら特性を両 立 (兼備)させた Cu— Fe— P系銅合金板を提供することができる。この結果、小型化 及び軽量化した電気電子部品用として、半導体装置用リードフレーム以外にも、リー ドフレーム、コネクタ、端子、スィッチ、リレーなどの、高強度化と、厳しい曲げ加工性 が要求される用途に適用することができる。