明 細 書
高速メチル化法、 PETトレーサー調製用キット、及び PET用トレーサーの 製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、芳香族化合物やアルケニル化合物の、メチル化やフルォロメチル化を 短時間で行う、高速メチル化法に関する。本発明は、陽電子放射断層画像撮影 (以 下「PET」という)の要となる放射性トレーサーの合成に好適に用いることができる。 背景技術
[0002] PET法とは、ポジトロンを放出する、短寿命放射核で標識された標識化合物(以下 「トレーサー」という)を生体内に投与し、このトレーサーから発生する γ線を PETカメ ラ(ガンマ線シンチレ一ターと光電子増倍管からなる検出器)によって計測して、その 体内分布をコンピュータ一により画像化する方法である。この PET法は、核医学検査 法として癌細胞などの腫瘍部位の特定、アルツハイマー病や脳梗塞などの診断、さ らには鬱病などの精神疾患の診断や治療の評価や薬物の動態および薬効評価に用 いられている。
[0003] PET法で使用される短寿命放射核種としては、 UCや18 Fがよく用いられている。 11 Cで標識されたトレーサーは、全ての有機化合物中に存在している炭素原子を利用 しているため、適用範囲が極めて広ぐ理想的な放射核種となる。また、 ucで標識さ れたトレーサーを合成するための前駆体となる11 CH I た化合物
3、 uCO、 UCOといっ
2
は、調製法が充分に確立されており、精製された前駆体を安定的に入手することが できる。このため、 UCで標識されたトレーサーは、 PET法における優れたトレーサー であるということができる。
[0004] しかし、 UCの半減期は、わずか 20分程度であるため、 UCによる標識化の反応は、 合成、精製、そして生体に投与するまで 40分以内(半減期の 2倍以内)に行わなけれ ばならないといわれている。このため、 UCを用いて、短時間で PETトレーサーを合成 する方法が種々検討されて!/、る。
[0005] PETトレーサーを合成するために、以前より11 Cで標識化されたメチル基を、〇、 N、
s等のへテロ原子に導入することが試みられている。しかし、この方法では、代謝に対 して不安定な〇、 N、 S等のへテロ原子に11 Cが結合するために、生体内において標 的臓器に到達するまでに、代謝により11 Cメチル基が外れてしまう可能性がある。この ため、正確な診断、治療の評価ができないおそれがある。
[0006] これに対して、 UCで標識化されたメチル基を、有機化合物の炭素原子に直接結合 させた場合、次のような利点が得られる。
まず第 1に、メチル基は立体的に最小でありかつ無極性の官能基であるため、導入 後も親化合物の生物活性に与える影響を最小限とすることができる。
第 2に11 Cで標識化したトレーサーは半減期が 20分程度と短いため、 1日に多くの 試行実験や臨床試験の実施を可能にし、また合成反応後に生じる放射標識化され た副生成物の処理等に関しても特別な注意を施す必要がない。
第 3に、 C メチル化体は O メチル化体や N メチル化体よりも代謝過程に対し て高い安定性を示すと共に、代謝関連化合物や代謝拮抗物質等の重要化合物の炭 素母核に11 Cメチルを導入することができる。上記のように、安定な形態で炭素母核 構造を11 Cメチルで標識された代謝関連化合物や代謝拮抗物質等を用いれば、各 種疾患の診断、治療の評価をより正確に行うことができる。
[0007] UCで標識された化合物を合成する方法については、以下のような文献が存する。
すなわち、特許文献 1には、二酸化炭素と水素とを圧力下で混合して第 1の混合物 とする工程と、前記第 1の混合物を触媒の上に通してメタノールを発生させる工程と、 前記メタノールをヨウ素化試薬の上に通してヨウ化メチルとする工程とを備えた、 uc 標識化ヨウ化メチルの製造方法が開示されている。
[0008] また、特許文献 2には、 "Cメタンチオールを、 γ -シァノ- α -ァミノ酪酸合成酵素に よる酵素反応によって11 C-L-メチォニンに変換する11 C-L-メチォニンの合成方法が 開示されている。
[0009] さらに、特許文献 3には、 UCで標識された四塩化炭素から11 Cで標識化されたホス ゲンを合成する際に、酸化鉄を用いることを特徴とする11 c標識化ホスゲンの合成方 法が開示されている。
[0010] また、特許文献 4には、有機溶媒に溶解した LiAlHを細管内に導入した後、不活
性ガスを通じることにより溶媒を蒸発させ、残存する LiAlHの薄膜を細管内面内に
4
形成させ、次いで11 COガスを導入して残存する該 LiAlHと反応させ、さらにハロゲ
2 4
ン化水素酸もしくはハロゲン化水素ガスを導入して細管内で11 CH X (Xはハロゲン原
3
子を示す)を製造することを特徴とする11 C標識化ハロゲン化メチルの合成方法が開 示されている。
[0011] さらに、特許文献 5では、 110分の半減期を有する18 Fを用いて、大脳のドーパミン 代謝をモニターする PETトレーサーを迅速に合成するために、固相法を用いてフッ 素標識ドーパを得る方法が開示されている。すなわち、合成された標識化合物の精 製過程を短縮するために、固体支持体にリンカ一を介してジメチルスズで保護された ドーパにフッ素を付加して18 Fで標識された 6— L—フルォロドーパを得る方法である
〇
[0012] 上記特許文献に開示されている11 Cを用いた PETトレーサーの調整方法は、 PET トレーサーを調製するためには、未だ合成に要する時間が長ぐ収率や純度におい ても充分ではない。このため、診断や薬物動態の研究を確実に行うためには未だ十 分なものではない。このため、さらに高速な反応であって、高収率の11 C放射核の導 入方法の出現が望まれて!/、る。
[0013] こうした状況下、発明者らは、ヨウ化メチルと有機スズ化合物とを Stille型カップリン グ反応させる高速メチル化法を開発し、注目を集めている(非特許文献 1)。この方法 は、 Stille型カップリング反応において従来から困難と思われていた芳香族環の炭素 と SP3炭素とのクロスカップリングを可能としたものである。例えば、ヨウ化メチルと過剰 のトリブチルフエニルスタンナンとトリー o—トリルホスフィンと不飽和パラジウムとを銅 塩、炭酸カリウムの存在下で、 DMF溶媒中で 60°C、 5分間反応させると、メチル化が 90%以上の収率で進行する。薬剤や薬剤候補化合物には、その基本骨格に芳香 族環やアルケニル基を有しているものも多ぐ芳香族環の炭素と SP3炭素とのクロス力 ップリングを可能としたこの方法は、芳香族環に11 C標識メチル基を導入することがで きるため、生体内でのこれら薬剤や薬剤候補化合物の生体内での動態を明らかにす ること力 Sできる。実際、発明者らはこの方法をプロスタグランジン誘導体トレーサーに 応用し、人の脳内のプロスタグランジン受容体の画像化に成功する等、既にその有
用性が証明されている。
[0014] また、非特許文献 2には、有機ホウ素化合物を用いた11 C標識 PETトレーサーの合 成について報告されている。この方法は、鈴木一宮浦型反応に分類される方法であ り、ベンゼン環がホウ素原子に結合した化合物と、 UCで標識したヨウ化メチルとを、 P d (dppf) Cl及びリン酸カリウムの存在下、 DMF溶媒中でマイクロウエーブで加熱し
2
ながらクロスカップリングして、 uc標識トルエン誘導体を得ている。
[0015] 一方、 18Fの半減期(110分)は、 UCの半減期(約 20分)と比較して 5倍以上であり 、 PETトレーサー調製の時間や、 PET診断を行う時間を延ばすことができるという利 点がある。このため、芳香族化合物やアルケニル化合物を、 18F標識フルォロメチル 基とクロスカップリングする技術が望まれていた。それにもかかわらず、迅速かつ高収 率で芳香族化合物やアルケニル化合物を18 F標識フルォロメチル基によって修飾す る方法は、これまで知られていなかった。
特許文献 1:特開平 07— 165630号公報
特許文献 2:特開平 11 332589号公報
特許文献 3 :特開 2002— 308615号公報
特許文献 4:特開 2005— 53803号公報
特許文献 5:特表 2005— 502617号公報
非特許文献 1: Chem.Eur.J.1997,3(12),2039_2042
非特許文献 2 Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals 48, 629-63 4 (2005).
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0016] しかし、上記非特許文献 1に記載の高速メチル化法では、毒性の強!/、有機スズ化 合物を基質として用いるという問題があった。また、非特許文献 2に記載の高速メチ ル化法では、毒性の少ない有機ホウ素化合物を基質としているものの、マイクロゥェ ーブ装置が必要となり、条件も過酷となる。
[0017] 本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、毒性のそれほど強くない有機 ホウ素化合物を基質とし、温和な条件下で、 UC標識メチル基又は18 F標識フルォロメ
チル基で標識した芳香族化合物やアルケニル化合物を迅速かつ高収率で得ること ができる、芳香族化合物又はアルケニル化合物の高速メチル化法、それに用いる P
ETトレーサー調製用キット、及びそれを用いた PET用トレーサーの製造方法を提供 することを解決すべき課題とする。
課題を解決するための手段
[0018] 発明者らは、上記課題を解決するため、非特許文献 1に記載のヨウ化メチルと有機 スズ化合物とをカップリング反応させる高速メチル化法を、有機ホウ素化合物に応用 することができないか鋭意研究を行った。その結果、上記課題を解決できる画期的な 新たな反応条件を見出し、本発明を完成するに至った。
[0019] すなわち、本発明の芳香族化合物又はアルケニル化合物の高速メチル化法にお ける第 1の局面は、非プロトン性極性溶媒中において、ヨウ化メチル又は X-CH F (た
2 だし Xはァニオンとして容易に脱離可能な官能基)と、芳香族環又はアルケニル基が ホウ素に結合した有機ホウ素化合物とを、パラジウム(0)錯体と、ホスフィン配位子と、 塩基との存在下でクロスカップリングさせることを特徴とする。
ここで、芳香族化合物とはベンゼン及びその誘導体の他、複素環芳香族化合物も 含む概念であり、芳香族環とはベンゼン環の他、複素芳香族環も含む概念である。
[0020] 発明者らの試験結果によれば、本発明の芳香族化合物又はアルケニル化合物の 高速メチル化法によれば、 SP2— SP3炭素間のカップリング反応が円滑に進行し、芳 香族化合物やアルケニル化合物に対し、メチル基やフルォロメチル基が結合した化 合物を迅速かつ高収率で得ることができる。この反応は、次のような機構で進行する ものと推定される。
すなわち、まず、 0価のパラジウム錯体(以下「パラジウム(0)錯体」という)に、立体 的に嵩高いホスフィン配位子が不飽和的に配位し、活性な反応場を創出する。そし て、さらに、このホスフィン配位子が配位したパラジウム錯体とヨウ化メチル又は x-c
H Fとが反応して、 CH Pdl又は FCH PdXにホスフィン配位子が配位した 2価のパ
2 3 2
ラジウム錯体が形成される。
一方、芳香族環又はアルケニル基がホウ素に結合した有機ホウ素化合物のホウ素 には、塩基が配位してホウ素 炭素間の極性が高まった、ホウ素アート錯体が形成さ
れる。
そして、上記のホスフィン配位子が配位した 2価のパラジウム錯体と、ホウ素アート 錯体とが金属交換反応を起こし、さらには厂ゃ X_がァニオン脱離して、より安定なホ ゥ素アート錯体が形成される。
最後に、還元的脱離反応が起こって、メチル基やフルォロメチル基が芳香族化合 物やアルケニル化合物に結合した化合物が得られる。
上記反応は DMF等の非プロトン性極性溶媒中で行われるため、反応途上で生じ るパラジウム錯体のパラジウム原子の空位の軌道に非プロトン性極性溶媒が配位し、 それらの不安定さを軽減し、分解等の副反応を最小限とすることができる。
[0021] したがって、本発明の芳香族化合物又はアルケニル化合物の高速メチル化法にお ける第 1の局面によれば、毒性のそれほど強くない有機ホウ素化合物を基質とし、温 和な条件下で、 UC標識メチル基又は18 F標識フルォロメチル基で標識した、芳香族 化合物やアルケニル化合物を、迅速かつ高収率で得ることができる。
[0022] 本発明の第 2の局面では、ヨウ化メチルは12 C以外の炭素同位体及び/又は1 H以 外の水素同位体で標識されていることとした。こうであれば、 12c以外の炭素同位体 や1 H以外の水素同位体で標識された芳香族化合物やアルケニル化合物を得ること ができるため、これらの化合物を分子プローブとして、代謝研究や医薬品の開発研 究に有効に使用することができる。 12c以外の炭素同位体としては、例えば11 c、 13c、 14c等が挙げられ、 ¾以外の水素同位体としては、重水素等が挙げられる。特に、 11 Cは PET用のトレーサーとして有用である。
[0023] 本発明の第 3の局面では、 X-CH Fは18 Fで標識されていることとした。 18Fは半減 期が 110分と長いため、 PETトレーサー調製の時間や、 PET診断を行う時間を延ば すことができるという利点がある。また、 CH 18Fで標識された PETトレーサーについ て、さらにこれを別の化合物へ変換させる時間的余裕も生じる。このため、例えば、酵 素、抗原、抗体等の物質に、 CH 18Fで標識された PETトレーサーを、クリック反応で 結合させ、 PET撮影を行えば、クリック反応で標識化された酵素タンパクの分布ゃ抗 原の受容体の分布や抗体の分布がイメージングされる。これにより、酵素の働きや、 抗原抗体反応の解明など、生化学の研究に重要な研究ツールを与えることができる
[0024] X-CH2Fにおける Xは、上記反応機構の説明から、ァニオン脱離の容易な置換基 であれば、良いことが分かる。発明者らは、 X力 の場合に、上記反応が円滑に進行 することを見出している。このため本発明の第 4の局面では、 Xは Iとした。 X力 以外の Br、トシル基、メシル基、トリフラート基等を用いた場合においても同様の反応が円滑 に進行することは、有機化学の常識的な見知から、当然に予想される範囲である。
[0025] 本発明の第 5の局面では、芳香族環又はアルケニル基がホウ素に結合した有機ホ ゥ素化合物は芳香族ボロン酸エステル又はアルケニルボロン酸エステルとした。発明 者らは、有機ホウ素化合物として芳香族ボロン酸エステル又はアルケニルボロン酸ェ ステルを用い、芳香族化合物又はアルケニル化合物へのメチル基やフルォロメチル 基の付加を迅速かつ高収率で得ることを確認している。
芳香族ボロン酸エステル又はアルケニルボロン酸エステルとしては、ピナコールェ ステルであることが好ましい。こうであれば、本発明の芳香族化合物又はアルケニル 化合物の高速メチル化法の最終段階における還元的脱離反応において、極性の高 いピナコールボレイトが生成する。このため、逆相液体クロマトグラフ等で反応液から 目的物質を分離生成する際、極性の高いピナコールボレイトの保持時間力 目的物 質や大量に残存する出発基質の保持時間よりも短くなるため、分離をより完全に行う こと力 Sでさる。
[0026] 本発明の第 6の局面では、塩基は水を含んでもよい炭酸塩及び/又は水を含んで もよいリン酸塩とした。発明者らは、これらの塩基を用いて芳香族化合物又はアルケ ニル化合物へのメチル基やフルォロメチル基の付加を迅速かつ高収率で確実に得 られることを確言忍している。
[0027] 本発明の第 7の局面では、ホスフィン配位子はトリ一 o トリルホスフィン又は(ジ -t_ プチル)メチルホスフィンとした。発明者らは、これらのホスフィン配位子を用いること により、さらに迅速かつ高収率でメチルアルケンが得られることを確認している。この 理由は、トリ一 o トリルホスフィンや(ジ tert ブチル)メチルホスフィンの嵩高さが 活性の高い反応場を形成するためであると考えられる。また、トリー o トリルホスフィ ンは、(ジ tert—プチル)メチルホスフィンと比較して、空気中で安定な結晶化合物
で取り极レ、やす!/、と!/、う利点がある。
[0028] 本発明の第 8の局面では、パラジウム(0)錯体はトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパ ラジウム(0)とした。発明者らは、このパラジウム(0)錯体を用いることにより、迅速か つ高収率でメチル化が進行することを確認している。特に好ましいのは、パラジウム( 0)錯体はトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)であり、ホスフィン配位子は トリ— o—トリルホスフィン又は(ジ -t -ブチル)メチルホスフィンである。このため、本発 明の第 9の局面では、パラジウム(0)錯体はトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジゥ ム(0)であり、ホスフィン配位子はトリ一 o—トリルホスフィン又は(ジ- 1-ブチル)メチル ホスフィンであるとした。
[0029] 本発明の第 10の局面では、ヨウ化メチル又は X-CH Fに対して、芳香族環又はァ ルケニル基がホウ素に結合した有機ホウ素化合物、パラジウム(0)錯体、ホスフィン 配位子、及び塩基を同当量以上を用いることとした。発明者らの試験結果によれば、 X-CH Fに対して、芳香族環又はアルケニル基がホウ素に結合した有機ホウ素化合 物、ノ ラジウム(0)錯体、ホスフィン配位子、及び塩基を同当量以上に用いれば、 目 的とする化合物が高レ、収率で得られることを確認して!/、る。
特に、ホスフィン配位子はパラジウム(0)錯体に対してモル比で 4倍以上であること が好ましい。このため、本発明の第 11の局面では、ホスフィン配位子はパラジウム(0 )錯体に対してモル比で 4倍以上とした。
[0030] 本発明の高速メチル化法では、基質として芳香族環がホウ素に結合した有機ホウ 素化合物として、芳香族環の種類に特に限定はなぐ複素環を有する芳香族環とす ることもできる。このため、本発明の第 12の局面では、芳香族環は複素環を有すると した。発明者らの試験結果によれば、芳香族環がチォフエニル基ゃフラニル基のよう な複素環のみならず、ピリジル基やイソキノリニル基のように強い塩基性を有する複 素環についても高収率でメチル化が可能であり、芳香族環一般に広く適用できる。こ のような複素環を有する芳香族環としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフ ェン環、ベンゾチォフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、ォキサジァ ゾール環、インドール環、力ルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環 、ピロロピロール環、チェノビロール環、チェノチォフェン環、フロピロール環、フロフ
ラン環、チエノフラン環、ベンゾイソォキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾ イミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キ ノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ペリミジン環、キナゾリン環等が 挙げられる。医薬品には基本骨格として複素環を有する多くの化合物が知られてお り、このような化合物を製造できる本発明の高速メチル化法は、医薬品の研究を行う ための PET用トレーサーの製造方法として極めて有用な方法である。
[0031] 本発明の芳香族化合物又はアルケニル化合物の高速メチル化法に用いる試薬を あらかじめ混合したキットを用意しておき、これに非プロトン性極性溶媒を加え、さらに ヨウ化メチルや X-CH Fを導入することによって芳香族化合物やアルケニル化合物
2
のメチル化やフルォロメチル化を行うこともできる。すなわち、本発明の PETトレーサ 一調製用キットは、芳香族環又はアルケニル基がホウ素に結合した有機ホウ素化合 物と、パラジウム(0)錯体と、ホスフィン配位子と、塩基とを含むことを特徴とする。この ような、 PETトレーサー調製用キットを用意しておけば、非プロトン性極性溶媒を加え 、さらに11 Cで標識したヨウ化メチルや11 Cで標識した X-CH Fを導入するだけで、極
2
めて簡便に PET用トレーサーを合成することができる。
さらに、反応終了後の溶液から、 目的とする化合物を分離するためのカラムを備え ることも好ましい。こうであれば、別途分離カラムを準備する必要がなぐさらに利便性 に富む PETトレーサー調製用キットとすることができる。カラムとしては、 HPLC用分 離カラムが好ましぐ極性の高い化合物の分離に適した逆相カラムを用いること力 さ らに好ましい。もっとも好ましいのは、逆相プレカラムと精製用の逆相シリカゲルカラム を組み合わせてキット化することである。
極微量の11 Cで標識したヨウ化メチルや11 Cで標識した X-CH Fの 1当量に対して、 最良の収率が得られる割合で他の試薬を計量分取されたキットとすることにより、使 用に際して計量する必要がなぐその場で混合し、反応させるだけで目的とする標識 化合物が得られる。
発明の効果
[0032] 上述したように、本発明の芳香族化合物又はアルケニル化合物の高速メチル化法 によれば、毒性のそれほど強くない有機ホウ素化合物を基質とし、温和な条件下で、
UC標識メチル基又は18 F標識フルォロメチル基で標識した芳香族化合物ゃァルケ二 ル化合物を迅速かつ高収率で得ることができる。
発明を実施するための最良の形態
[0033] 以下、本発明を具体化した実施例について、比較例と比較しつつ詳述する。なお、 以下の記載において、 Pd (dba) はトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを表 している。また、 P (o— tolvl) はトリ一 o—トリノレホスフィンを、 P (t— Bu) Meは、(ジ - t-ブチル)メチルホスフィンを、 DMFは、 N, N—ジメチルホルムアミドをそれぞれ表し ている。
[0034] また、本明細書においてホスフィン配位子とは、本発明の反応を触媒する化合物で あれば特に限定されるものではなぐ例えばトリ一 o—トリルホスフィン、 (ジ -t-ブチル )メチルホスフィンの他、 P原子に結合する置換基の種類によって、配位子として電子 的、立体的効果を順次変化させた化合物すベてをいい、二配座配位子、多配座配 位子及び非対称型キレート配位子を含む概念である。
[0035] 比較例;!〜 3及び実施例;!〜 6では、下記表 1に示すフエ二ルポロン酸ピナコールェ ステル 1のヨウ化メチルによるメチル化を、各種の条件下で行った。仕込み量は、フエ 二ルポロン酸ピナコールエステル 1 (400 mol)、パラジウム錯体(10 mol)、ヨウ 化メチノレ(lO rnol)とした。詳細を以下に示す。
(比較例;!〜 3)
比較例 1〜3では、表 1に示す公知の条件によって、フエ二ルポロン酸ピナコールェ ステル 1のヨウ化メチルによるメチル化を行った。すなわち、比較例 1は、パラジウム(0 )錯体として Pd (PPh ) を用い、塩基として炭酸カリウム、溶媒として 1 , 4—ジォキサ
3 4
ンを用いた。また、比較例 2では、パラジウム(0)錯体として PdCl (PPh ) を用い、
2 3 2 塩基としてリン酸カリウム、溶媒としてジエチレングリコールジメチルエーテル/水 = 9 /1の溶媒を用いた。また、比較例 3では、パラジウム(0)錯体として PdCl (dppf) を
2 2 用い、塩基としてリン酸カリウム、溶媒としてジエチレングリコールジメチルエーテル/ 水 = 9/1の溶媒を用いた。また、反応温度は 60°Cとし、反応時間は 5分間とした。そ の結果、いずれの反応条件も収率は低力、つた(24〜39%) (表 1、比較例;!〜 3)。
[0036] (実施例;!〜 6)
一方、パラジウム(0)錯体と塩基の他に、嵩高いホスフィン配位子を加え、非プロト ン性極性溶媒として DMFを用いた、表 1の実施例 1〜6では、反応は劇的に促進さ れ、 目的とするトルエンが 87〜94%という高収率で得られた(表 1、実施例;!〜 6)。
[表 1] フエ二ルポ αン酸ピナコールエステルを用いたヨウ化メチルの高速捕捉反応
Pd(0>錯体 配位子 Pd:L [モル比 1 塩某 & 溶媒(1,0 ml) 収率 (%)c 比較例 1 Pd(PPh3)4 - - l,4-dio\ane 39 比較例 2 PdCl2(PPh - - ¾P04 DME / H20 = 9/1 24 比較例 3 PdCl2(dppf)2 - - DME / H20 = 9/1 28 実施例 1 Pd2<dba)3 P 1:2 DMF 91 実施例 2 Pd2(dba)3 P(o-CH3C 1:2 DMF/ H20 = 9/ 1 94 実施例 3 Pd2(dba)3 P (ひ- CH3C ), 1:2 Cs2C03 DMF 92 実施例 4 Pd2(dba)3 P(0-CH3QH4)3 1:2 eP04 DMF 87 実施例 5 Pd2(dba)3 1:2 CuCI/K2C03 DMF 81 支施例 Pd2(dba)3 P(«-CH3C6H4), KF DMF 81
(表 1の説明)
b:塩基は 20 mol使用した。
c:収量は GC分析を用レ、てヨウ化メチルを基準にして算出した。
DME:ジエチレングリコールジメチルエーテル、 DMF:N, N—ジメチルホルムアミド
、 dba:ジベンジリデンアセトン、 dppf :1, 1, 一ビス(ジフエニルホスフイノ)フエ口セン
[0038] ヨウ化メチルとフエ二ルポロン酸ピナコールエステル 1とのカップリング反応は、炭酸 カリウムもしくは炭酸カリウム/水の存在下においては、下記反応式に示すように次 の 4つの素反応を経由して進行すると推察される。
[0039] [化 1]
l/2Pd2(dba)3 + 2P(o-to]yl)3
CH3I + Pd{P((j-tolyl)3) CH3PdI{P(<»-tolvl)3} + P(o-tolyl)3 (式 1 )
Θ
C6HsBpin QHjBpin
K2C03 (or KOH) Z= COO (or H) (式 2 ) 1 OZ
3
CH3PdC6 (式 3 )
CHj-QHs + Pd{P(0-tolyl)3} (式 4 )
すなわち、
(1)ヨウ化メチルがパラジウム(0)錯体へ酸化的に付加し、メチルパラジウム (II)錯体 2 が形成される(式 1)。
(2)また、炭酸イオンや炭酸カリウム/水の混合系から生じた水酸化物イオン又は C OOK—が、フエ二ルポロン酸ピナコールエステル 1のホウ素原子に配位し、 B— C間 の極性が高まったホウ素アート錯体 3が形成される(式 2)。
(3)そして、メチルパラジウム (II)錯体 2とホウ素アート錯体 3とが金属交換反応し、メチ ルフエニルパラジウム (II)錯体 4が形成され、さらには、このとき生成した不安定な B—(p in) (〇Z) (I) 5 (Z = C〇OKorH)が、より安定なホウ素アート錯体である B— (pin) (〇Z ) 6と KIへ変換される(式 3)。
(4)最後にメチルフエニルパラジウム (II)錯体 4が還元的脱離反応を起こし、 目的とす るトルエンが生成する(式 4)。
このベンゼン環の炭素と SP3炭素との間のカップリング反応を促進させるためには、 反応過程において嵩高いトリ— ο—ホスフィン(円錐角が 194度)を配位子とする配位
不飽和なノ ラジウム(0)錯体及びパラジウム (II)錯体の形成が重要である。さらに、塩 基である炭酸カリウムや炭酸セシウムやリン酸カリウムは、ホウ素の活性化と金属交換 反応後の反応系を中和する相乗効果の役割を果たしているものと推察される。また、
DMFは反応系中で形成されるパラジウム中間体の安定化にも寄与しているものと推 察される。
[0041] (実施例 7〜; 19)
実施例 7〜; 19では、芳香族ボロン酸ピナコールエステルとして、下記表 2に示す、 様々な芳香族環が結合したボロン酸ピナコールエステル (400 a mol)を基質として 用い、その他の条件は、上記実施例 1と同様 (すなわち、ヨウ化メチノレ(10 mol)、ト リス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム錯体(0) (5 mol)、トリ一 o—トリルホスフィ ン(20 a mol)、炭酸カリウム(20 μ mol)、溶媒として DMF (ただし実施例 12につ!/、 ては DMF/水 = 9/1でも行った) )を用いて行った。
その結果、表 2に示す様々な芳香族環に対して、極めて高い収率でメチル基を結 合させることができた。これらの芳香族環には、実施例 7〜; 13に示される置換基の結 合したベンゼン環の他、実施例 14に示されるチオフヱ二ル基ゃ実施例 15に示される フラニル基のような複素環にも高収率で高速メチル化が可能であった。さらには、実 施例 16のピリジニル基や実施例 17のイソキノリニル基のように、強い塩基性を有する 複素環に対しても高収率でメチル化が可能であることは、特筆に値することであり、本 発明の芳香族化合物の高速メチル化は、極めて汎用性に優れていることが分かる。
[0042] さらに、ヨウ化メチルに対してパラジウム(0)錯体および炭酸カリウムを 5〜; 10当量 加えた条件での反応を検討した。 CH 1/フエ二ルポロン酸ピナコールエステル/ Pd
3
(dba) /P (o-tolyl) /K COの比を 1 : 40 : 2· 5: 10: 10あるいは 1: 40: 5: 20: 2
0として、 60°C5分間で反応を行った結果 92%および 94%の収率でトルエンが得ら れた。このように、大過剰のパラジウム(0)錯体を使用しても、メチル化は阻害される ことなく、むしろ反応を促進するものであった。このことは、実際の PET法においても 、標識化されたヨウ化メチルは極微量しか得られないため、大過剰のパラジウム(0) 錯体とならざるを得ず、好ましい結果といえる。
[0043] [表 2]
/レポロン酸ピナコールエステルの卨速メチル化反応
実施例 7 4-CH3OC6H4- 98
実施例 8 3- benzyloxyC6H4- 95
実施例 9 4- CH3C6H4- 99
実施例 10 4-PhC6H4- 91
実施例 11 4-FC6H4- 93
実施例 12 4-CH3OCOC6H4- 82, 96c
実施例 13 4-N02C6H4- 99
実施例 14 thiophen-2-yl- 92
実施例 15 furan-2-yl- 85
実施例 1 6 pyridin-4-yl- 80
実施例 1 7 isoquinolin-4-yl 85 実施例 1 8 toluene: 92% 実施例 19 o< toluene: 95%
(表 2の説明)
b:収量は GC分析によってヨウ化メチルを基準にして得た。
c:混合溶媒 (DMF: H 0 = 9 : 1)を使用した。
2
(実施例 20〜25)
実施例 20〜25では、アルケニルボロン酸ピナコールエステルとして、表 3に示す、 様々なアルケニル基が結合したボロン酸ピナコールエステル(400 ,1 mol)を基質とし て用い、その他の条件は、上記実施例 1と同様 (すなわち、ヨウ化メチル(10 mol) 、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム錯体(0) ( 5 mol)、トリ一 o—トリルホス フィン(20 H mol)、炭酸カリウム(20 μ mol)、溶媒として DMF (ただし実施例 12に つ!/、ては DMF/水 = 9/1でも行った) )を用いて行った。
その結果、表 3に示す様々なアルケニル基に対しても、極めて高収率でメチル基を 結合させること力できた。また、 cis体及び trans体のアルケニル化合物を用いた実施 例 20及び実施例 21の結果から分力、るように、本発明のアルケニル化合物の高速メ
チル化方法では、 cis体及び trans体の立体異性体にお!/、ても立体化学的構造を保 持し、 目的とするメチル化生成物が得られ、反応は完全な立体制御の下で進行する ことが確証された。
[表 3] アルケニルポロン酸ピナコールエステルによるヨウ化 チルの捕捉反応
アルケニルポロン酸
メチル化体の収率(%)b
ピナコールエステル
95
実施例 2 0
92
実施例 2 実施例 2 2 実施例 2 3 実施例 2 4 実施例 2 5
(表 3の説明)
反応は、ヨウ化メチル(10 ^ mol)、アルケニルボロン酸ピナコールエステル(400〃 mol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム錯体(0) (5 11101)、トリ一0—トリ ルホスフィン(20 μ mol)、炭酸カリウム(20 μ mol)を用いて行った。
b:収量は GC分析によってヨウ化メチルを基準にして得た。
<有機ホウ素化合物の HPLCにおける保持時間〉
標識化されたヨウ化メチルで高速メチル化を行った後、 HPLCでメチル化された目 的の化合物を単離する場合、基質となった有機ホウ素化合物の保持時間と、メチル 化された目的の化合物の保持時間とが、できるだけ離れていることが好ましい。また、 基質となった有機ホウ素化合物は大過剰で用いられるため、 目的の化合物の保持時
間力 基質となった有機ホウ素化合物の保持時間よりも短いことが好ましい。なぜなら ば、 目的化合物の保持時間が、基質となった有機ホウ素化合物よりも保持時間が長 いと、大過剰の有機ホウ素化合物のテーリングの中に目的化合物のピークが重なつ てしまうため、 目的化合物の単離が困難となるからである。
フエニル基がホウ素に結合した有機ホウ素化合物として、下記に示す化合物((a): フエ二ルポロン酸、(b)〜(d)は各種ピナコールのフエ二ルポロン酸エステル)の逆相 シリカゲルを用いた HPLCにおける保持時間を測定した。
[化 2]
[0047] その結果、それぞれの保持時間は、 (a)が 2· 1分、 (b)が 10· 0分、 (c)が 21. 5分 、(d)が 43· 1分であった。このようにボロン酸誘導体の HPLCにおける保持時間は、 ホウ素化合物の脂溶性が上昇すると共に長くなつており、脂溶性の高いボロン酸エス テルを選択することによって、トレーサーの精製をより簡便に行うことができる。本実験 において、メチル化体であるトルエンの保持時間(5. 9分)がボロン酸(a)とボロン酸 エステル(b)〜(d)との間に現れたことは、 PETトレーサーの合成において、ボロン酸 よりもボロン酸エステルが望ましいことを示している。なお化合物(a)、(c)、 (d)のメチ ル化反応も円滑に進行し、それぞれ 89、 79、 87%という高収率でメチル化体が得ら れ 。
[0048] < FCH I (フルォロヨ一ドメタン)による芳香族化合物の高速メチル化〉
[化 3]
Pd2(dba)3 P("-tolyl)3
FCH2I +
^ ~ °エ- D KMlCF°3 ► 《 /)-CH2F
_y
5 min , 60 °C
40 equiv* 57 ¾まで (平均収率 47 %) フェ二ルポロン酸ピナコ一ルエステルによるフルォロヨゥ化メチルの捕捉反応
上記反応式に示すように、 FCH 1 (フルォロヨ
2 一ドメタン)によるフエ二ルポロン酸ピ ナコールエステルの高速フルォロメチル化について試みた。その結果、 5分間の間に 高収率で反応が進行することが分かった。また、フルォロメチル化反応をより促進さ せるためには Pd: P (o-tolyl) = 1: 3の比率で反応させることが効果的であることが
3
判明した。この反応において目的物質であるべンジルフルオライドは、最高で 57% ( 平均収率 47%)の収率で得られた。なお、スズ化合物を用いて同様な反応を行った ところ、 目的物はより低収率(20— 30%)しか得られなかった。以上の結果から、 18F 標識フルォロヨ一ドメタン(18FCH I)を標識前駆体として、 18Fの初期の高い比放射能 を失うことなぐ 18F-標識 PETトレーサーの研究に適用することができることが分かつ た。
< uc標識キシレンの合成〉
PET法への応用を考慮して、実際に11 Cで標識したヨウ化メチルをメチル化剤とし て用い、 p—トリルボロン酸ピコナールエステルの高速メチル化を行った(反応条件は 実施例 1の条件 (表 1参照)と同じ条件)ところ、 UC標識キシレンが 96%という高い収 率 (HPLC分析による値)で得られた(下記反応式参照)。図 1に、 UCメチル標識キシ レンの高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を示す。また、この反応においては 、塩基として炭酸カリウムを用いた方力 KFや CsFを用いるよりも、高収率であること が分かった。以上の結果から、本発明の高速メチル化法は、 UC標識 PETトレーサー の製造用として、極めて有用であることが分かった。
高速メチル化反応による ]含有化合物の合成
[0050] 本発明にお!/、て標識化されたヨウ化メチルとしては、 Cのみならず、 "C、 i4C、 CD
等の標識化合物をも使用することができる。 UC、 13C、 14C、 CDのいずれかで標識
3 3
されたヨウ化メチルを用いることによって、標識化した分子プローブを調製することが できる。この標識化した分子プローブを用いて医薬品の代謝研究、新しい医薬品の 開発研究に有効に使用することができる。
[0051] 以下、本発明のメチル基を含有する化合物を調製するための高速メチル化法を用 いると、高い実現可能性をもってキット及び臨床用投与溶液を提供することができる ことが想定される。以下に示す実施形態は、発明者らの高度な専門的知見に基づけ ば、当然に実現可能であると判断される。
[0052] < PETトレーサー調製用キット〉
(実施形態 1)
本発明の芳香族化合物又はアルケニル化合物の高速メチル化法において、 PET トレーサー調製用キットを提供することができる。例えば、次のような PETトレーサー 調製用キットが挙げられる。すなわち、実施形態 1の PETトレーサー調製用キットは、 トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 1 · 8mg (l . 97 11101)と、トリー0—ト リノレホスフィン 2· 4mg (7. 88 mol)と、炭酸カリウム 2· 8mg (20 mol)と、 ノレゲ 二ルポロン酸ピナコールエステル(あるいは芳香族ボロン酸ピナコールエステル)(4· 5 mol)とを計量してアンプル管に封入したものである。
[0053] このキットの使用方法は、以下のとおりである。すなわち、アンプル管をガラス切りで カットし、 DMF等の非プロトン性極性溶媒を所定量加え、アンプル管内の試薬を溶 解させる。そして、さらに別途調製された11 C標識ヨウ化メチルを溶液内に導入して混
合し、 60°Cの温浴中に入れて 5分間反応させる。そして、温浴から取り出したアンプ ル管を冷却後、反応溶液を適切な固相抽出カラムでろ過し、ろ液を HPLCに供する 。こうして、分離、精製された目的の11 Cメチル標識化合物を得ることができる。
[0054] (実施形態 2)
実施形態 2の PETトレーサー調製用キットでは、実施形態 1の PETトレーサー調製 用キットに、固相抽出カラムが備えられている。こうであれば、別途前処理のための固 相抽出カラムを用意する必要がなくなる。
[0055] (実施形態 3)
実施形態 3の PETトレーサー調製用キットは、アンプル管 Aとアンプル管 Bの、 2種 類のアンプル管からなる。アンプル管 Aは容量が 0. 5mlであり、内部にトリス(ジベン ジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (1 · 97 mol)と、トリー o—トリノレホスフィン(7. 9 ^ mol)とが封入されている。一方、アンプル管 Bは容量が 1. Omlであり、内部に有 機ホウ素化合物(4· 5 mol)と、炭酸カリウム(20 μ mol)とが封入されて!/、る。
[0056] このキットの使用方法は、以下のとおりである。すなわち、アンプル管 Aをガラス切り でカットし、 DMF等の非プロトン性極性溶媒を所定量加え、アンプル管 A内の試薬を 溶解させる。同様にアンプル管 Bをガラス切りでカットし、 DMF等の非プロトン性極性 溶媒を所定量加え、アンプル管 B内の試薬を溶解させる。そして、試薬を溶解させた アンプル管 Aの中に、別途調製された11 C標識ヨウ化メチルを溶液内に導入して混合 し、 60°Cの温浴中に入れて 5分間反応させる。そして、温浴から取り出したアンプノレ 管 Aを冷却後、反応液をアンプル管 B内に入れ、さらにアンプル管 A内を 40〃 1の D MFで洗浄し、この洗浄液アンプル管 B内に入れる。そして、アンプル管 B内の混合 液を 65°Cで 5分間加熱した後、 DMF : H 0 (1: 5)溶液(300 1)を用いて反応溶液
2
を綿栓ろ過又は SPE固相抽出カラムでろ過する。さらに、ろ液中の目的の化合物を HPLCで分離 '精製する。分取した11 C標識化合物をエバポレータで濃縮した後、所 定の臨床用投与溶液とすることができる。
[0057] 本発明の高速メチル化法では、 one pot合成法のみならず、 two pot合成法を用 いることあでさる。
ここで、 one pot合成法とは、ヨウ化メチル又は X-CH F (ただし Xはァニオンとして
容易に脱離可能な官能基)と、芳香族環又はアルケニル基がホウ素に結合した有機 ホウ素化合物と、パラジウム(0)錯体と、ホスフィン配位子と、塩基とを、単一の容器内 で一度に反応させる方法をいう。
これに対して、 two pot合成法とは、ヨウ化メチル又は X-CH F (ただし Xはァニォ
2
ンとして容易に脱離可能な官能基)と、パラジウム (0)錯体と、ホスフィン配位子とを非 プロトン性極性溶媒中で反応させて Pd錯体溶液を得るパラジウム錯体調製工程と、 芳香族環又はアルケニル基がホウ素に結合した有機ホウ素化合物と、塩基とを非 プロトン性極性溶媒中で反応させてホウ素アート錯体溶液を得るホウ素アート錯体調 製工程と、
該 Pd錯体溶液と該ホウ素アート錯体溶液とを混合してクロスカップリングさせるカツ プリング工程と、を備えた芳香族化合物又はアルケニル化合物の高速メチル化法の ことをいう。
すなわち、 two pot合成法においては、パラジウム錯体調製工程を行う容器と、ホ ゥ素アート錯体調製工程を行う容器とが区別されており、各容器内の反応液 (すなわ ち、 Pd錯体溶液及びホウ素アート錯体溶液)を混合してクロスカップリングを行う方法 である。
[0058] 以下に、本発明の芳香族化合物又はアルケニル化合物の高速メチル化法につい て、さらに反応条件を詳述した実施例について説明する。本発明は、下記の実施例 によって何ら限定されるものではなぐ本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改 良変形が可能である。本発明の技術的範囲には、これらの改良変形も含まれる。
[0059] (実施例 26)
乾燥した 10mL容のシュレンク管を反応容器として用い、アルゴン雰囲気下で、トリ ス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (δ , πιοΐ) ,トリ一 ο—トリルホスフィン(20 ^ mol)及び炭酸カリウム(20 11101)を入れ、 DMF (N, N—ジメチルホルムアミド) 溶媒 0. 5mLを加えた後、混合物を室温で 5分間撹拌した。続いてフエ二ルポロン酸 ピナコールエステル(400 mol)の DMF (0 · 5mL)溶液およびヨウ化メチル( 10 mol)の DMF溶液を順次加えて、 60°Cで 5分間反応させた。反応容器を素早く氷浴 を用いて冷却して反応を停止した後、反応溶液にジェチルエーテル(lmL)を加えた
後、混合物をシリカゲル(0. 5g)のショートカラムにのせ、ジェチルエーテル(lmL) で溶出した。次に、溶出液に内部標準物質として n—ノナン(50 L、 0. 01M DM F溶液、 5· O ^ mol)をカロえ、ガスクロマトグラフィー分析を行なった。その結果、 目的 の11 C標識トルエンがヨウ化メチルを基準にして 91 %の収率で得られた。
[0060] ガスクロマトグラフィー分析条件
水素炎イオン化検出器 (FID検出器)付き
島津製 GC_2010;キヤビラリ一力ラム: GLScience社製 TC-170K長さ 60m 内径 0.25m m)
キヤリャガス:ヘリウム;流速: 0.55mL/min;線速度: 14.2cm/min
試料導入部及び検出器の温度: 280°C
カラム温度:初期温度 80°C、最終温度 200°C。 10分目から 14分目まで 5°C/分で昇 温し、 20分目から 25分目まで 20°C/分で昇温。
保持時間:トルエン(13.0min)
[0061] (実施例 27)
乾燥した 10mL容のシュレンク管を反応容器として用い、アルゴン雰囲気下で、トリ ス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (δ , πιοΐ) ,トリ一 ο—トリルホスフィン(30 ^ mol)および炭酸カリウム(20 11101)を入れ、そこへ DMF (N, N—ジメチルホルム アミド)溶媒 0· 5mLをカロえ、フエ二ルポロン酸ピナコールエステル OO ^ mol)の D MF溶液、および18 F標識フルォロヨ一ドメタン(10 mol)の DMF溶液を順次加えて 、これを混合して 60°Cで 5分間反応させた。
[0062] 反応容器を素早く氷浴を用いて冷却して反応を停止した後、反応溶液にジェチル エーテル(lmL)を加え、シリカゲル(0. 5g)のショートカラムにのせ、溶出溶媒として ジェチルエーテル(lmL)を用いて溶出した。溶出液に内部標準物質として n—ノナ ン(50〃し、 0. 10M
DMF溶液、 5. 0 mol)をカロえ、 GLC分析を行なった。その結果、 目的のベンジルフ ノレオライドがフノレオロヨ一ドメタンを基準にして 57% (平均収率 47%)の収率で得ら れ 。
[0063] ガスクロマトグラフィー分析条件
水素炎イオン化検出器 (FID検出器)付き
島津製 GC_2010;キヤビラリ一力ラム: GLScience社製 TC-170K長さ 60m 内径 0.25m m) キヤリャガス:ヘリウム;流速: 0.55mL/min;線速度: 14.2cm/min
試料導入部及び検出器の温度: 280°C
カラム温度:初期温度 70°C、最終温度 200°C。 5分目から 9分目まで 10°C/分で昇温 し、 17分目から 22分目まで 20°C/分で昇温。
[0064] (実施例 28)
乾燥した 10mL容のシュレンク管を反応容器として用い、アルゴン雰囲気下で、トリ ス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (25 i mol) ,トリ一 o—トリルホスフィン(1 00〃11101)及び炭酸カリゥム(100〃11101)を入れ、そこへ DMF (N, N—ジメチノレホ ノレムアミド)溶媒 0. 5mLをカロえ、フエ二ルポロン酸ピナコールエステル 1 (400 mol) の DMF (0. 5mL)溶液、およびヨウ化メチル(10 mol)の DMF溶液を順次加え、 これを混合して 60°Cで 5分間反応させた。
[0065] 反応容器を素早く氷浴を用いて冷却して反応を停止した後、反応溶液にジェチル エーテノレ(lmL)を加え、シリカゲノレ(0. 5g)のショートカラムにのせ、ジェチノレエーテ ル(lmL)で溶出した。溶出液に内部標準物質として内部標準物質として n—ノナン( 50〃レ 0. 01M DMF溶液、 5. O ^ mol)をカロえ、ガスクロマトグラフィー分析を行 なった。その結果、トルエンがヨウ化メチルを基準にして 92%の収率で得られた。
[0066] ガスクロマトグラフィー分析条件
水素炎イオン化検出器 (FID検出器)付き
島津製 GC_2010;キヤビラリ一力ラム: GLScience社製 TC-170K長さ 60m 内径 0.25m m) キヤリャガス:ヘリウム;流速: 0.55mL/min;線速度: 14.2cm/min
試料導入部及び検出器の温度: 280°C
カラム温度:初期温度 80°C、最終温度 200°C。 10分目から 14分目まで 5°C/分で昇 温し、 20分目から 25分目まで 20°C/分で昇温。
保持時間:トルエン(13.0min)
[0067] (実施例 29)
乾燥した 10mL容のシュレンク管を反応容器として用い、アルゴン雰囲気下で、トリ ス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) (50 11101)、トリ一 o—トリルホスフィン(2 OO ^ mol)及び炭酸カリウム(200〃11101)を入れ、そこへ DMF (N, N—ジメチノレホ ノレムアミド)溶媒 0· 5mLをカロえ、フエ二ルポロン酸ピナコールエステル(400 mol) の DMF (0. 5mL)溶液、およびヨウ化メチル(10 mol)の DMF溶液を順次加え、 これを混合して 60°Cで 5分間反応させた。反応容器を素早く氷浴を用いて冷却して 反応を停止した後、反応溶液にジェチルエーテル(lmL)を加え、その溶液をシリカ ゲノレ(0. 5g)のショートカラムにのせ、ジェチノレエーテノレ(lmL)で溶出した。
[0068] 溶出液に内部標準物質として n—ノナン(50 L、 0. 01M DMF溶液、 5. O ^ mo 1)を加え、ガスクロマトグラフィー分析を行なった。その結果、 目的のトルエンがヨウ化 メチルを基準にして 94%の収率で得られた。
[0069] ガスクロマトグラフィー分析条件
水素炎イオン化検出器 (FID検出器)付き
島津製 GC_2010;キヤビラリ一力ラム: GLScience社製 TC-170K長さ 60m 内径 0.25m m) キヤリャガス:ヘリウム;流速: 0.55mL/min;線速度: 14.2cm/min
試料導入部および検出器の温度: 280°C
カラム温度:初期温度 80°C、最終温度 200°C。 10分目から 14分目まで 5°C/分で昇 温し、 20分目から 25分目まで 20°C/分で昇温。
保持時間:トルエン(13.0min)
[0070] (実施例 30)
0. 5mL容の反応容器に、表 2の実施例 9において用いた p—トリルボロン酸ピナコ ールエステノレ(1. 7- 1. 8mg、 8. O ^ mol)と、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラ ジゥム(2· 9mg、 3. 17 mol)と、トリ一 o—トリノレホスフィン(3. 8mg、 12. 7 μ mol) と炭酸カリウム(1. Omg、 7. 2 mol)の DMF (0· 45mL)溶液とを入れ、室温に設 置した。
[0071] この反応容器に11 Cヨウ化メチルを室温で捕獲し、 1分間静置した。得られた混合溶 液を 65°Cで 5分間加熱した後、 DMF : H 0 (1 : 5)溶液(300 1)を用ぃて反応溶液 を綿栓ろ過した(あるいは SPE固相抽出カラムでろ過)。ろ液を HPLCに供し、 目的
の11 Cメチル化体の分離'精製を行った。 目的の11 Cキシレンの HPLC分析収率は 96 %であった。
[0072] (実施例 31)
本反応は前述した one pot操作でも、 two pot操作法でも合成が可能である。
[0073] 上記の11 Cメチル化体の合成は、溶液移送型合成装置、あるいはロボットアーム型 合成装置など、一般的な PETトレーサー合成装置を用いて行うことができる。また、 上記の11 Cメチル化体の合成を目的とした PETトレーサー合成キットを作製することも できる。本合成キットは、予め各反応容器に必要量の反応剤、有機ホウ素化合物、お よび、 DMF溶媒を設置し、遠隔操作でセプタム一力二ユレーシヨン方式により溶液を 移送させて目的の11 Cメチル化体の合成を行うものである。
産業上の利用可能性
[0074] 本願発明は、 PET用のトレーサーの製造方法として、医薬産業等において利用す ること力 Sでさる。
図面の簡単な説明
[0075] [図 1]UC標識キシレンの高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を示す。