JP6037330B2 - 11c−標識チアミン及びその誘導体、11c−標識フルスルチアミン、チアミン前駆体、並びにpet用プローブ及びそれらを用いたイメージング方法 - Google Patents

11c−標識チアミン及びその誘導体、11c−標識フルスルチアミン、チアミン前駆体、並びにpet用プローブ及びそれらを用いたイメージング方法 Download PDF

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Description

本発明は11C標識チアミン及びその誘導体、11C標識フルスルチアミン、チアミン前駆体、並びにPET用プローブ及びそれらを用いたイメージング方法に関する。
ビタミン研究の歴史は、1910年に、当時、理化学研究所の主任研究員でもあった鈴木梅太郎博士により米ぬかから発見されたオリザニン(チアミン・ビタミンB1)に端を発する。一方、武田薬品グループでは、このチアミン(thiamine)が持つ潜在的な生物活性に着目して、1951年に京都大学の藤原元典博士らと共同で世界初のビタミンB1誘導体であるアリチアミン(allithiamine)の創製・商品化に成功し、その後の研究により安定性および体内吸収性を大きく改善したフルスルチアミン(fursultiamine)を開発した(1961年より国内外で販売開始)。
フルスルチアミン製剤(商品名 アリナミン(登録商標))に関しては、疲労に対する有効性や運動能力の向上が確認された希有な製剤である。しかしながら、動物におけるチアミンとフルスルチアミンの腸管吸収や臓器分布の違いについては、過去の古いデータが存在するものの、ヒトにおける腸管吸収および各臓器(脳、骨格筋、肝臓等)への取り込み・分布については、データが存在していなかった。その原因は、これまで人に対してチアミンやフルスルチアミン製剤の体内動態を調べる研究手法が、血液中の動態データ以外になかったからである。
こうした問題を解決するため、陽電子放射断層撮像(以下「PET」という)法によって動物やヒトの体内動態を調べることが考えられる。PET法とは、11Cや18Fなどのポジトロンを放出する短寿命放射性核種で標識されたトレーサーを生体内に投与し、トレーサーにより発生するγ線をPETカメラ(ガンマ線シンチレーターと光電子増倍管からなる検出器)によって計測して、その体内分布をコンピューターにより画像化する方法であり、小動物からヒトまで含めた生体での薬剤の薬物挙動や標的部位への到達度を、非侵襲的かつ定量的に追跡することができる。
しかし、技術活用の鍵となるPETプローブの合成は、分子に組み込む放射性核種の寿命が短いために困難を伴う。すなわち、PET法で使用される短寿命放射核種としては11Cや18Fなどが用いられ、これらの放射性核種で標識された化合物がトレーサーとして用いられる。これらの中でも11Cは有機化合物中に存在している炭素原子を利用しているため適用範囲が極めて広く、理想的な放射性核種といえる。しかしながら、11Cは半減期が20分と短く、合成からPET法での測定までを極めて短時間で行なわなければならないため、合成に与えられる時間はごくわずかとなってしまう。
さらには、サイクロトロンで製造できる11C核種は超微量(数十から数百nmolレベル;12Cの混入を考慮した値)であり、超希薄な11C核種の化合物と化学反応させるために、大過剰の被標識基質の存在下という特殊な条件下で行われる。このため、いかに短時間で効率良く生物活性有機化合物や創薬候補化合物をPET分子プローブ化できるかということが最重要課題となっている。
こうした状況下、本発明者の鈴木・土居らは、[11C]CH3Iを用いた炭素母核上への[11C]メチル化について開発を行ってきた。すなわち、有機スズ化合物を中間原料として、これにStille型カップリング反応を適用することにより、芳香環上への高速C-[11C]メチル化のみならず、オレフィンやアルキンやヘテロ芳香環上への高速C-[11C]メチル化も可能としてきた(特許文献1、2及び非特許文献1〜3)。そしてさらには、従来の有機スズ化合物への高速C-[11C]メチル化と相補的に、新たに有機ホウ素化合物を用いた高速C-[11C]メチル化反応も開発している(特許文献3、非特許文献4)。
こうした炭素母核上への[11C]メチル化の新規合成法の開発にもかかわらず、チアミンやフルスルチアミンやそれらの誘導体についての[11C]標識化されたPETプローブは従来合成されていなかった。
WO/2007/046258 WO/2010/074272 WO2008/023780 特開昭57-156463号公報
Suzuki, M., et al., Chem. Eur. J., 3, 2039-2042 (1997). Hosoya, T., et al., Org. Biomol. Chem., 4, 410-415 (2006). Hosoya, T., et al., Org. Biomol. Chem., 2, 24-27 (2004).
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、チアミンやフルスルチアミンやそれらの誘導体に存在するメチル基が[11C]で標識化された化合物及びその製造方法並びにチアミンやフルスルチアミンやそれらの誘導体に存在するメチル基が[11C]で標識化された化合物を製造するのに好適に用いることのできる前駆体を提供し、PET法に適用可能とすることを解決すべき課題としている。
高速メチル化法(特許文献1、2及び非特許文献1〜3)は、これらの課題を解決するための強力なツールとなる方法ではあるが、完全なる汎用方法ではない。なぜならば、メチル化される基質に存在する官能基が反応を阻害したりする場合があるからである。
このことは、チアミンやフルスルチアミンやそれらの誘導体に存在するメチル基が11Cで標識化された化合物を合成する場合にもいえる。すなわち、これらの化合物の合成のためには、チアゾール環やピリミジン環という、塩基性を有する複雑な複素環の所定の炭素に[11C]メチル基を結合させる必要がある。また、チアミンやフルスルチアミンやそれらの誘導体は、塩の形態で水溶性の化合物として得られるため、分離精製に困難を伴う。さらには、最終段階で上記高速メチル化法による[11C]メチル基を導入してチアミンやフルスルチアミンやそれらの誘導体の炭素骨格を形成しようとしても、それらの前駆体に存在するアミノ基やアルデヒド基が目的炭素への[11C]メチル基の結合を邪魔するおそれがある。
本発明者らは、これらの困難を克服すべく鋭意研究を行った結果、メチル基が11Cで標識化されたチアミンやフルスルチアミンの合成に成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の局面は、下記化学構造式(1)又は(2)で示される11C標識チアミンである(ここで、X-は対アニオンを示す)。X-としては、例えば塩素イオン、臭素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の無機アニオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、マレイン酸イオン、フマル酸イオン、コハク酸イオン、乳酸イオン、リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、アスコルビン酸イオン、マロン酸イオン、シュウ酸イオン、グリコール酸イオン、フタル酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン等の有機アニオンが挙げられる。
また、本発明の第2の局面は、11Cで標識化された下記一般式(3)又は(4)で示される[11C]標識チアミン誘導体又はその塩である。
具体的な化合物としては、11Cで標識化されたプロスルチアミン、フルスルチアミン、オクトチアミン、アリチアミン、チアミンジスルフィド、O−ベンゾイルチアミンジスルフィド、チアミンモノホスフェートジスルフィド、O,S−ジベンゾイルチアミン、S−ベンゾイルチアミン、ベンフォチアミン、ジセチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン等が挙げられる。また、本発明の第3の局面として、シコチアミン又はその塩が挙げられる。
本発明の第1の局面及び第2の局面の化合物における「塩」について特に限定はないが、酸付加塩(例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩、グリコール酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等の有機酸塩)等が挙げられる。
本発明の第1の局面の化合物は、チアミンの部分構造を有する下記有機スズ化合物あるいは有機ホウ素化合物の高速[11C]メチル化を経由して合成することができる(下記化合物(5)〜(8)参照)。
下記一般式(5)で示されるチアミン前駆体(ただし、R,R,及びRは同一又は異なっていてもよいアルキル基であり、R及びRは同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R10はアルキレン基であり、R11及びR12は水素又は同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R 13 はアルキレン基を示す。)。
置換基 〜R 13 は高速[11C]メチル化反応を阻害しない置換基であれば特に限定はない。置換基R,R,及びRの炭素数は1以上20以下であることが好ましく、さらに好ましいのは1以上8以下であり、最も好ましいのは4である。 〜R 13 としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基等が挙げられる。また、Aがホウ素含有置換基の場合において、好ましいのは環状のボロン酸基及び環状のボロン酸エステル基(特に好ましいのはピナコールエステル基)である。
Aがホウ素に直接炭素が結合した置換基である場合の具体例として、例えば、9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン基等が挙げられる。
下記一般式(6)で示されるチアミン前駆体(ただし、R,R,及びRは同一又は異なっていてもよいアルキル基であり、R及びRは同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R10はアルキレン基であり、R11及びR12は水素又は同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R 13 はアルキレン基を示す。)。
置換基 〜R 13 は高速[11C]メチル化反応を阻害しない置換基であれば特に限定はない。置換基R,R,及びRの炭素数は1以上20以下であることが好ましく、さらに好ましいのは1以上8以下であり、最も好ましいのは4である。 〜R 13 としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基等が挙げられる。また、Aがホウ素含有置換基の場合において、好ましいのは環状のボロン酸基及び環状のボロン酸エステル基(特に好ましいのはピナコールエステル基)である。また、図13に記載されているような、ホウ素原子に窒素原子の電子が配位して安定化しているボロン酸エステルであることも好ましい。
Aがホウ素に直接炭素が結合した置換基である場合の具体例として、例えば、9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン基等が挙げられる。
また、アニオン脱離基としては、Cl、Br、I、トシル基、メシル基、トリフラート基等が挙げられる。
下記一般式(7)で示されるチアミン前駆体(ただし、R,R,及びRは同一又は異なっていてもよいアルキル基であり、R及びRは同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R10はアルキレン基であり、R11及びR12は水素又は同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R 13 はアルキレン基を示す。)。
置換基R〜R13は高速[11C]メチル化反応を阻害しない置換基であれば特に限定はない。置換基R,R,及びRの炭素数は1以上20以下であることが好ましく、さらに好ましいのは1以上8以下であり、最も好ましいのは4である。R〜R13としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基等が挙げられる。また、Aがホウ素含有置換基の場合において、好ましいのは環状のボロン酸基及び環状のボロン酸エステル基(特に好ましいのはピナコールエステル基)である。また、図13に記載されているような、ホウ素原子に窒素原子の電子が配位して安定化しているボロン酸エステルであることも好ましい。
Aがホウ素に直接炭素が結合した置換基である場合の具体例として、例えば、9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン基等が挙げられる。
このチアミン前駆体(7)を0価のパラジウム錯体、ホスフィンリガンド、ハロゲン化第1銅及びフッ化物等の塩基の存在下[11C]ヨウ化メチルを吹き込み、クロスカップリングさせることにより、ピリミジン環の2位の炭素に[11C]メチル基が導入され、本発明の[11C]標識チアミン(2)が得られる。
下記一般式(8)で示されるチアミン前駆体又はその塩(ただし、R,R,及びRは同一又は異なっていてもよいアルキル基であり、R及びRは同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R10はアルキレン基であり、R11及びR12は水素又は同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R 13 はアルキレン基を示す。)。
置換基 〜R 13 は高速[11C]メチル化反応を阻害しない置換基であれば特に限定はない。置換基R,R,及びRの炭素数は1以上20以下であることが好ましく、さらに好ましいのは1以上8以下であり、最も好ましいのは4である。R〜R13としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基等が挙げられる。また、Aがホウ素含有置換基の場合において、好ましいのは環状のボロン酸基及び環状のボロン酸エステル基(特に好ましいのはピナコールエステル基)である。また、図13に記載されているような、ホウ素原子に窒素原子の電子が配位して安定化しているボロン酸エステルであることも好ましい。
Aがホウ素に直接炭素が結合した置換基である場合の具体例として、例えば、9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン基等が挙げられる。
このチアミン前駆体(8)を0価のパラジウム錯体、ホスフィンリガンド、ハロゲン化第1銅及びフッ化物等の塩基の存在下[11C]ヨウ化メチルを吹き込み、クロスカップリングさせることにより、チアゾール環の4位の炭素に[11C]メチル基が導入され、本発明の[11C]標識チアミン(1)が得られる。
本発明の11C標識チアミン、11C標識チアミン誘導体及び11C標識フルスルチアミンは、PET用分子プローブとして好適に用いることができる。本発明者らは、これらのPET用分子プローブを用いてPET法によるイメージングに成功している。さらには、PET用分子プローブとともにクエン酸若しくはその塩を共存させると、11Cに基づくPET用分子プローブの放射性分解が抑制されることを確認している。
実施例1における[11C]ヨウ化メチル吹込み後の反応混合液のHPLCのチャートであり、矢印は[11C]チアミンのピークである。 実施例1における反応混合液のHPLC分取後のHPLCのチャートである。 実施例1における反応混合液をHPLCによって2回分取を行った場合のHPLCのチャートである。 実施例1における反応混合液をHPLCによって2回分取を行った場合(図3と異なる分析条件)のHPLCのチャートである。 実施例2における[11C]ヨウ化メチル吹込み後の反応混合液のHPLCのチャートであり、矢印は[11C]チアミンのピークである。 実施例2における反応混合液のHPLC分取後のHPLCのチャートである。 実施例2における反応混合液をHPLCによって2回分取を行った場合のHPLCのチャートである。 [11C]標識フルスルチアミン5を含む調剤溶液のHPLCのチャートである。 [11C]標識チアミン4(74MBq)を6週令の雄性SDラット(日本クレア社製)の尾静脈より投与し、90分間のPETスキャンを行った場合の各断層におけるPET画像である。 [11C]標識チアミン4及び[11C]標識フルスルチアミンをラットの尾静脈から投与した場合のPET画像である。 [11C]標識チアミン4をラットに経口投与した場合のPET画像である。 [11C]標識フルスルチアミンをラットに経口投与した場合のPET画像である。 ホウ素原子に窒素原子の電子が配位して安定化しているボロン酸エステルの例である。
(実施例1)
[11C]標識チアミン4の合成
[11C]標識チアミン4は次のルートで合成した。すなわち、トリブチルスズ化合物2を出発原料として、Pd0触媒を用いた高速C-[11C]メチル化反応により[11C]メチル化体3を合成し、続いて、ハロゲン化メチルピリミジンを用いた高速ベンジル化反応により、目的の[11C]標識チアミン4をワンポットで合成した。なお、トリブチルスズ化合物2の替りにピナコールホウ素化合物1を用いても、同様の合成ルートによって目的の[11C]標識チアミン4をワンポットで合成することができる。
以下、トリブチルスズ化合物2を出発原料とし11C-標識チアミンの合成について詳細に説明する。
11Cの製造は住友重機械工業社製サイクロトロンCYPRIS HM-12Sを使用し、14N(p,α)11Cの核反応により製造した。[11C]ヨウ化メチルの合成は専用の標識合成装置を用いて、11CO2ガスを出発物質として、11CO211CH3OH→11CH3Iの順に変換して合成した。
一方、トリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(1.1 mg, 1.2 μmol)および、トリ-o-トリルホスフィン(5.8 mg, 19.1 μmol)のNMP溶液(200 μL)を標識合成装置の反応容器に準備し、室温に設置した。反応容器中の溶液は、[11C]ヨウ化メチルを吹き込む10-20分前に設置した。続いて反応容器に[11C]ヨウ化メチルを60-80 mL/minのガス流量で吹き込み、そこにスズ前駆体2(5.0 mg, 11.9 μmol)、CuBr(0.9 mg, 5.9 μmol)およびCsF(2.3 mg, 14.9 μmol)のNMP溶液(100 μL)を加え、100℃で3分間加熱した。続いて4-アミノ-5-(ブロモメチル)-2-メチルピリミジン臭素酸塩(50 mg, 176.7 μmol)のDMF溶液(100 μL)を加え、20 mL/minの流量で窒素ガスを吹き込みながら150℃で7分間加熱した。得られた反応溶液を1.2 mLの洗浄液(アセトニトリル:水=1:1)で希釈した後、フィルターを用いてろ過した。ろ液を分取HPLCに供し(図1参照)、分取した11C-標識チアミン4を含むフラクションをエバポレーターにて減圧濃縮した。濃縮液をフィルターろ過し、得られたろ液を再び分取HPLCに供した(図2参照)。分取した11C-標識チアミン4を含むフラクションをエバポレーターにて減圧濃縮し、得られた濃縮液をメンブレンフィルターに通して無菌バイアルに入れた。
本溶液の一部(20 μL)を分析HPLCに供して(図3参照)、目的化合物の同定、純度検定および比放射能の算出を行った。なお11C-標識チアミンの同定はチアミン塩酸塩の非標識体を用いて行った。結果及び分析条件は以下のとおりである。
11C-標識チアミンの総放射能:113 MBq、合成時間:67分、放射化学的純度:99%以上、化学的純度:99%以上、比放射能:48 GBq/μmol
分取条件(図1):分取用カラムはナカライテスク社製COSMOSIL-HILIC 20×250 mm(5 μm)、ガードカラムはナカライテスク社製COSMOSIL-HILIC 20×20 mm(5 μm)を使用した。流量は8.0 mL/minで、移動相はCH3CN(5% H2O添加):50 mM CH3COONH4=40:60を使用した。UV検出波長267 nmおよびγ線検出器で測定した結果、11C-標識チアミン4の保持時間は約7.7分であった。
分取条件(図2):分取用カラムはナカライテスク社製COSMOSIL-AR-II 10×250 mm(5 μm)、ガードカラムはナカライテスク社製COSMOSIL-AR-II 10×20 mm(5 μm)を使用した。流量は測定開始後10分までは5.0 mL/min、11分からは6.5 mL/minとした。移動相はCH3CN(5% H2O添加):5 mM Sodium 1‐Hexanesulfonate(1% H3PO4添加)=5:95を使用した。UV検出波長267 nmおよびγ線検出器で測定した結果、11C-標識チアミン4の保持時間は約19.7分であった。
分析条件(図3):分析にはポストカラム蛍光誘導体化法を適用した。カラムはナカライテスク社製COSMOSIL-AR-II 4.6×250 nm(5 μm)、ガードカラムはナカライテスク社製COSMOSIL-AR-II 4.6×10 nm(5 μm)を使用した。流量は1.0 mL/minで、カラムオーブンにより40℃を維持した。移動相はCH3OH:10 mM NaH2PO4、150 mM NaClO4(過塩素酸にてpH 2.2に調整)=2:98を使用し、反応液として0.01% K3[Fe(CN)6]を含む15% 水酸化ナトリウム水溶液を用いた。また蛍光検出器は励起波長375 nm、蛍光波長440 nmに設定した。UV検出波長350 nm、蛍光検出器およびγ線検出器で測定した結果、11C-標識チアミン4の放射化学的純度および化学的純度はどちらも99%以上であった。
さらに、同様の合成を繰り返し、分析条件を以下のように替え、11C-標識チアミンを含む調剤溶液のHPLC純度分析を行った。
分析条件:分析にはポストカラム蛍光誘導体化法を適用した。カラムはナカライテスク社製COSMOSIL-AR-II 4.6×250 nm(5 μm)、ガードカラムはナカライテスク社製COSMOSIL-AR- II 4.6×10 nm(5 μm)を使用した。流量は1.0 mL/minで、カラムオーブンにより40℃を維持した。移動相はCH3OH:10 mM NaH2PO4、150 mM NaClO4(過塩素酸にてpH 2.2に調整)=2:98を使用し、反応液として0.01% K3[Fe(CN)6]を含む15% 水酸化ナトリウム水溶液を用いた。また蛍光検出器は励起波長375 nm、蛍光波長440 nmに設定した。UV検出波長350 nm、蛍光検出器およびγ線検出器で測定した。
その結果、11C-標識チアミンを含む調剤溶液の放射能:417 MBq、合成時間:65分、放射化学的純度:99%以上、化学的純度:99%以上、比放射能:80 GBq/μmolとなった(図4参照)。
(最適条件の探索:トリブチルスズ化合物2の高速C-[11C]メチル化反応)
上記化9におけるトリブチルスズ化合物2のPd0触媒を用いた高速C-[11C]メチル化反応の最適条件を見出すために、NMP溶媒中で、Pd0触媒、リガンド、添加金属塩、仕込み比及び温度について下記表1に示す様々な条件で反応を行い、反応液をHPLCで分離し、得られた[11C]メチル化体3の放射能の量を測定した。その結果、[11C]ヨウ化メチルとアルケニルトリブチルスタナンとを0価のパラジウム錯体と、ホスフィンリガンドと、ハロゲン化第1銅と、フッ化物の存在下でクロスカップリングさせることが好ましいことが分かった。フッ化物としては、フッ化セシウムが特に好ましかった。また、ホスフィンリガンドはトリ−o−トリルホスフィンが好ましかった。さらに、ハロゲン化第一銅としては臭化第一銅が好ましかった。また、ホスフィンリガンドは0価のパラジウム錯体に対してモル比で16倍以上とされていることが好ましい。
(最適溶媒の探索:[11C]メチル化体3のベンジル化による11C-標識チアミン4の合成)
[11C]メチル化体3のベンジル化による11C-標識チアミン4の合成において、最適な溶媒を見出すために、非放射性の条件下で(すなわち、通常の12Cのヨウ化メチルを用いた高速メチル化で)下記表2及び表3に示す様々な条件で反応を行い、収率を調べた。その結果、表2及び表3に示すように、ジメチルホルムアミド(DMF)やN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒が好ましく、NMPとDMFとの混合溶媒が特に好ましかった。
以上のことから、上記のNMP溶媒を用いた高速C-[11C]メチル化反応に続くベンジル化反応においては、DMF溶媒を添加してNMPとDMFの混合溶媒とすることでベンジル化反応の高速化が可能であると判断した。実際に本発明の11C-標識チアミンの合成では10分以内の短時間でベンジル化反応を行っている。
(実施例2)
[11C]標識フルスルチアミン5の合成
上述の方法で合成した[11C]標識チアミン4(図5及び図6参照)をブンテ塩溶液(武田薬品工業株式会社ヘルスケアカンパニーより譲渡)(2 mL)および30%水酸化ナトリウム水溶液(160 μL)を含む反応容器(B)に添加した。続いて、400 mL/minの流量で窒素ガスを吹き込みながら室温で3分間反応させた後、SPEカートリッジを用いた固相抽出法にて簡易精製を行い、[11C]標識フルスルチアミン5を含むろ液をバイアルに入れた。また、[11C]標識フルスルチアミン5の放射線分解を防ぐため、クエン酸水溶液(250 mg/mL)200 μLをバイアルに加えた。本溶液の一部(20 μL)を分析HPLCに供して(図7参照)、目的化合物の同定、純度検定および比放射能の算出を行った。なお[11C]標識フルスルチアミン5の同定はフルスルチアミン塩酸塩の非標識体を用いて行った。結果及び分析条件は以下のとおりである。
[11C]標識フルスルチアミン5の総放射能:116 MBq、合成時間:70分、放射化学的純度:99%以上、化学的純度:3%
分取条件(図5):分取用カラムはナカライテスク社製COSMOSIL-HILIC 20×250 mm(5 μm)、ガードカラムはナカライテスク社製COSMOSIL-HILIC 20×20 mm(5 μm)を使用した。流量は8.0 mL/minで、移動相はCH3CN(5% H2O添加):50 mM CH3COONH4=50:50を使用した。UV検出波長267 nmおよびγ線検出器で測定した結果、[11C]標識フルスルチアミン5の保持時間は約7.4分であった。
分取条件(図6):分取用カラムはナカライテスク社製COSMOSIL-AR-II 10×250 mm(5 μm)、ガードカラムはナカライテスク社製COSMOSIL-AR-II 10×20 mm(5 μm)を使用した。流量は測定開始後10分までは5.0 mL/min、11分からは6.5 mL/minとした。移動相はCH3CN(5% H2O添加):5 mM Sodium 1‐Hexanesulfonate(1% H3PO4添加)=5:95を使用した。UV検出波長267 nmおよびγ線検出器で測定した結果、[11C]標識フルスルチアミン5の保持時間は約19.7分であった。
分析条件(図7):カラムは関東化学社製Mightysil RP-18 GP 4.6×150 nm(5 μm)を使用した。流量は1.0 mL/minで、カラムオーブンにより40℃を維持した。移動相はCH3CN(0.3% Heptafluorobutyric Acid添加):H2O(0.3% Heptafluorobutyric Acid添加)=22:78を使用した。UV検出波長241 nmおよびγ線検出器で測定した結果、11C-標識フルスルチアミンの放射化学的純度は99%以上、化学的純度は2%であった。なお、この合成法は動物投与用としてのものである。カラムによる分離精製において区分分けを厳格化する等によって化学的純度を向上させれば、ヒト臨床投与用のPETブローブとすることも可能である。
固相抽出:SPEカラムはWaters社製Sep-Pak(登録商標) Plus C18 cartridgeを用いた。CH3OH(5 mL)、H2O(5 mL)の順にコンディショニングを行った。反応溶液を通液させた後H2O(10 mL)で洗浄し、回収液(生理食塩水:プロピレングリコール=30:70)(5 mL)を用いて目的化合物を溶出させた。
<実験装置、実験方法および使用した試薬>
標識合成装置は、理化学研究所分子イメージング科学研究センターに設置してある標準型標識用合成装置を用いた。化学薬品は市販のものをそのまま用いた。脱水N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)(関東化学社製)、脱水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(ナカライテスク社製)、トリスジベンジリデンアセトンジパラジウム(0)(Aldrich社製)、トリ-o-トリルホスフィン(Aldrich社製)、臭化銅(CuBr)(ナカライテスク社製)、フッ化セシウム(CsF)(ナカライテスク社製)、4-アミノ-5-(ブロモメチル)-2-メチルピリミジン臭素酸塩(Santa Cruz Biotechnology社製)、水酸化ナトリウム(ナカライテスク社製)を使用した。
(実施例2の変形例)
上記実施例2の反応条件を次のように変更して、[11C]標識フルスルチアミン5の合成を行った。
<ブンテ塩の前処理>
11C-標識チアミンを11C-標識フルスルチアミンに化学変換する際に用いるブンテ塩は、使用直前に下記の手順でSPEカートリッジを用いた固相抽出法にて簡易精製を行った。
3個連結したSPEカラム(Waters社製Sep-Pak(登録商標)Plus C18 Short cartridge)をCH3OH(10 mL)、H2O(15 mL)の順に洗い流して前処理を行ったあと、入手したブンテ塩溶液(1 mL)を通液させて簡易精製した。
<[11C]標識フルスルチアミン5の精製から調剤までの手順の改良>
[11C]標識フルスルチアミン5の精製に用いるSPEカラムはWaters社製Sep-Pak(登録商標) Plus C18 cartridgeを選択し、回収量の向上のためにカラムサイズをShortタイプからLightタイプへと変更した。また、反応系中の不純物を除去するために通液後の洗浄液を生理食塩水:プロピレングリコール=90:10(10 mL)に変更し、アスコルビン酸水溶液(250 mg/mL)200 μLを含む回収液(生理食塩水:プロピレングリコール=70:30)(2 mL)を用いて目的化合物を溶出させた。
すなわち、[11C]標識チアミン4を、前述した固相抽出法によって前処理を行ったブンテ塩溶液(武田薬品工業株式会社ヘルスケアカンパニーより譲渡)(1 mL)および30%水酸化ナトリウム水溶液(400 μL)を含む反応容器(B)に添加した。続いて、400 mL/minの流量で窒素ガスを吹き込みながら室温で3分間反応させた後、前述したSPEカートリッジによる固相抽出法によって簡易精製を行い、[11C]標識フルスルチアミン5を含むろ液をバイアルに入れた。本溶液の一部(20 μL)を分析HPLCに供して、目的化合物の同定、純度検定および比放射能の算出を行った。図8に[11C]標識フルスルチアミン5を含む調剤溶液のHPLC純度分析結果の例を示す。なお[11C]標識フルスルチアミン5の同定はフルスルチアミン塩酸塩の非標識体を用いて行った。
[11C]標識フルスルチアミン5を含む調剤溶液の総放射能:126 MBq、合成時間:64分、放射化学的純度:92%、化学的純度:92%、比放射能:17 GBq/μmol
HPLC分析条件:カラムは関東化学社製Mightysil RP-18 GP 4.6×150 nm(5 μm)を使用した。流量は1.0 mL/minで、カラムオーブンにより40℃を維持した。移動相はCH3CN(0.3% Heptafluorobutyric Acid添加):H2O(0.3% Heptafluorobutyric Acid添加)=22:78を使用した。UV検出波長241 nmおよびγ線検出器で測定した。
<チアミン誘導体の合成>
前述した実施例2及び実施例2の変形例では[11C]標識フルスルチアミン5を合成したが、同様の方法で該当する所定のブンテ塩を用いてジスルフィド結合(S-S結合)を形成させれば、他のチアミン誘導体を合成することができる。また、末端のOH基に置換基Rを導入させたい場合には、11C-標識反応に先立って前もって置換機Rを導入しておくか、あるいは、上記のジスルフィド結合形成後にOH基に置換基Rを導入することもできる。
11C-標識フルスルチアミン(5)における放射線分解の抑制について
11C-標識フルスルチアミンは放射線分解によって時間の経過とともに11C-標識チアミンへと分解されてしまう傾向が見られたため、放射線分解を抑制するための抗酸化剤について検討した。抗酸化剤にはアスコルビン酸ナトリウム水溶液(250 mg/mL)、グルタチオン、クエン酸水溶液(250 mg/mL)の三種類を用い、合成直後を0分後、合成直後にバイアル中に存在した[11C]標識フルスルチアミン5を100%とし、時間の経過に伴う[11C]標識フルスルチアミン5の残存率を分析条件として図7のHPLC測定と同様の条件で測定した(表4)。その結果、グルタチオンの添加は放射線分解の抑制には特に影響がなく、またアスコルビン酸ナトリウム水溶液は放射線分解の抑制に効果がないだけでなく、放射線分解の有無に関わらず11C-標識フルスルチアミンが分解してしまうことがわかった。これに対しクエン酸水溶液を添加すると、放射線分解を抑制出来ることが明らかとなった。
また、放射線分解を防ぐための抗酸化剤として、アスコルビン酸水溶液の使用を検討した。[11C]標識フルスルチアミン5の合成直後にアスコルビン酸水溶液(250 mg/mL)を添加して、合成直後を0分として時間経過に伴う[11C]標識フルスルチアミン5の残存率をHPLC(HPLC分析条件は下記参照)にて測定した(表5参照)。その結果、アスコルビン酸水溶液はクエン酸水溶液と同等の放射線分解抑制効果があることが明らかとなった。
HPLC分析条件:カラムは関東化学社製Mightysil RP-18 GP 4.6×150 nm(5 μm)を使用した。流量は1.0 mL/minで、カラムオーブンにより40℃を維持した。移動相はCH3CN(0.3% Heptafluorobutyric Acid添加):H2O(0.3% Heptafluorobutyric Acid添加)=22:78を使用した。UV検出波長241 nmおよびγ線検出器で測定した。
(実施例3)
有機スズ前駆体(トリブチルスズ化合物(2))の合成
前述した[11C]標識チアミン4の合成のための前駆体となる、有機スズ前駆体(トリブチルスズ化合物(2))は、以下のようにして合成した。
2-トリイソプロピルシリルチアゾール(7)の合成
アルゴン雰囲気下、n-ブチルリチウム(1.65 Mヘキサン溶液、20.3 mL, 33.4 mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(90 mL)を-78℃に冷却し、これに2-ブロモチアゾール6(5.00 g, 30.4 mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(10 mL)を加えて45分間撹拌した。次に塩化トリイソプロピルシリル(8.39 mL, 39.5 mmol)を加えた後、-78℃で15分間撹拌した。反応溶液を室温に戻し飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止した後、酢酸エチルにて抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥させた。この溶液を綿栓でろ過し、ろ液は減圧下ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=100:0→70:30)にて精製し、目的の2-トリイソプロピルチアゾール7(2.84 g, 11.7 mmol, 黄色油状物)を39%収率で得た。
TLC Rf 0.5(ヘキサン:酢酸エチル=10:1); 1H NMR 400 MHz, CDCl3) δ8.17(d, 1H, J5,4 = 2.8 Hz, H-5), 7.55(d, 1H, J4,5 = 2.8 Hz, H-4), 1.47(sept, 3H, J = 7.2 Hz), 1.14(d, 18H, J = 7.6 Hz, CH3×6).
5-(2-tert-ブチルジフェニルシリル)オキシエチル-2-トリイソプロピルシリルチアゾール(8)の合成
アルゴン雰囲気下、n-ブチルリチウム(1.65 Mヘキサン溶液、20.3 mL, 33.4 mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(90 mL)を-40℃に冷却し、これに2-トリイソプロピルシリルチアゾール7(500 mg, 2.07 mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(2.5 mL)を加えて50分間撹拌した。次に、2-ブロモエトキシ-tert-ブチルジフェニルシラン(1.13 g, 3.10 mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(2.5 mL)を加えた後、室温で一昼夜撹拌した。22時間後、反応溶液に塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止した後、酢酸エチルにて抽出し、有機層を飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥させた。この溶液を綿栓でろ過し、ろ液は減圧下ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=100:0→10:90)にて精製し、目的の5-(2-tert-ブチルジフェニルシリル)オキシエチル-2-トリイソプロピルシリルチアゾール8(489 mg, 0.93 mmol, 黄色油状物)を49%収率で得た。
TLC Rf 0.28(ヘキサン:酢酸エチル=10:1); 1H NMR 400 MHz, CDCl3) δ7.85(s, 1H, H-4), 7.63-7.60(m, 4H, Ar-H), 7.42-7.34(m, 6H, Ar-H), 3.85(t, 2H, J = 6.0 Hz, O-CH2), 3.12(t, 2H, J = 6.0 Hz, CH2), 1.44(sept, 3H, J = 7.2 Hz), 1.14(d, 18H, J = 7.2 Hz, CH3×6), 1.03(s, 9H, Si- CH3×3).
5-(2-tert-ブチルジフェニルシリル)オキシエチル-4-トリブチルスタニル-2-トリイソプロピルシリルチアゾール(9) の合成
アルゴン雰囲気下、5-(2-tert-ブチルジフェニルシリル)オキシエチル-2-トリイソプロピルシリルチアゾール8(100 mg, 0.19 mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(1 mL)を-78℃に冷却し、これにn-ブチルリチウム(1.65 Mヘキサン溶液、185 μL, 0.31 mmol)を加えた後、0℃に昇温して30分間撹拌した。次に塩化トリブチルスズ(165 μL, 0.57 mmol)を加えた後、室温に昇温して2時間撹拌した。反応溶液に塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止した後、酢酸エチルにて抽出し、有機層を飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥させた。この溶液を綿栓でろ過し、ろ液は減圧下ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。得られた残渣をアミン修飾シリカゲル(Chromatorex社製、DU3050、30-50μm)を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=100:0→50:1)にて精製し、目的の5-(2-tert-ブチルジフェニルシリル)オキシエチル-4-トリブチルスタニル-2-トリイソプロピルシリルチアゾール9(9.8 mg, 12.1 μmol, 黄色油状物)を6%収率で得た。
TLC Rf 0.63(ヘキサン:酢酸エチル=30:1); 1H NMR 400 MHz, CDCl3) δ7.63-7.61(m, 4H, Ar-H), 7.43-7.33(m, 6H, Ar-H), 3.81(t, 2H, J = 6.4 Hz, O-CH2), 3.15(t, 2H, J = 6.4 Hz, CH2), 1.15-1.23(m, 15H, Sn-(CH2)3×2, TIPS-H), 1.11(d, 18H, J = 7.2 Hz, CH3×6), 1.08-1.04(m, 15H, Sn-(CH2)3, Si- CH3×3), 0.83(t, J = 7.6 Hz, Sn-(CH2)3CH3×3).
5-ヒドロキシエチル-4-トリブチルスタニルチアゾール(2) の合成
アルゴン雰囲気下、5-(2-tert-ブチルジフェニルシリル)オキシエチル-4-トリブチルスズ-2-トリイソプロピルシリルチアゾール9(300 mg, 0.37 mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液(2 mL)を0℃に冷却し、これに1.0 M テトラブチルアンモニウムフルオリド テトラヒロドフラン溶液(1.85 mL, 1.85 mmol)を加えた後、室温に昇温して1時間撹拌した。反応溶液に酢酸エチルを加えた後、飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥させた。この溶液を綿栓でろ過し、ろ液は減圧下ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。得られた残渣をアミン修飾シリカゲル(Chromatorex社製、DU3050、30-50μm)を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)にて精製し、さらにアミン修飾シリカゲル(富士シリシア化学社製、20×20 cm)の分取薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1 (4回))にて精製し、目的の5-ヒドロキシエチル-4-トリブチルスタニルチアゾール(2)(84.0 mg, 0.20 mmol, 黄色油状物)を55%収率で得た。
TLC Rf 0.35(ヘキサン:酢酸エチル=3:1); 1H NMR 400 MHz, DMSO) δ9.02(s, 1H, Ar-H), 4.93(t, 1H, J = 5.2 Hz, CH2-OH), 3.55(q, 2H, J = 5.2 Hz, 6.8 Hz, CH2), 2.96(t, 2H, J = 6.4 Hz, CH2), 1.55-1.47(m, 6H, Sn-(CH2)3), 1.32-1.23(m, 6H, Sn-(CH2)3), 1.11-1.07(m, 6H, Sn-(CH2)3), 0.84(t, J = 6.8 Hz, Sn-(CH2)3CH3×3).
<PET撮影>
・[11C]標識チアミン4のラットへの尾静脈投与によるPET撮影
[11C]標識チアミン4(74MBq)を6週令の雄性SDラット(日本クレア社製)の尾静脈より投与し、1.5%イソフルラン吸入麻酔下において90分間のPETスキャンを行った。PETスキャンにはmicroPET fucus220(シーメンス社製)を用いた。血流の影響を除去するためスキャン開始45分後から90分後の45分間のデータで画像再構成を行いデータ解析を行った。
その結果、図9に示すように、[11C]標識チアミン4は大半が肝臓に集積し、その他に顎下腺、脳下垂体、褐色脂肪組織、精巣などに比較的高い集積が認められた。これらの事実から、[11C]標識チアミン4を用いることで、動物体内でのチアミンの動態及びその集積部位から想定される疾患診断のPETイメージングが可能であることが世界で初めて立証された。
・[11C]標識チアミン4及び[11C]標識フルスルチアミン5のラットへの尾静脈投与によるPET撮影
[11C]標識チアミン4(14.1MBq)及び[11C]標識フルスルチアミン5(16.6MBq)を用い、上記と同様の手法によりラットへの尾静脈投与を行い、PET撮影を行った。
その結果、図10に示すように、ラット尾静脈から投与された[11C]標識フルスルチアミン5(図10上段写真)は投与直後(投与0-3分後)には心臓に強い集積が認められ、投与4分以降は経時的に肝臓に集積するとともに膀胱へ排泄される様子が観察された。一方、[11C]標識チアミン4(図10下段写真)は[11C]標識フルスルチアミン5と比較し心臓への強い集積は認められず、投与直後より経時的に肝臓に集積、また腎臓を介して膀胱へ排泄される様子が観察された。
・[11C]標識チアミン4のラットへの経口投与によるPET撮影
無麻酔のラットへ[11C]標識チアミン4を経口投与により投与し、PET撮影を行った。その結果、図11に示すように、投与後10分以内に[11C]標識チアミン4は上部消化管で吸収されていることが判明した。さらに、投与15分以降は経時的に肝臓への集積が観察された。以上の結果から、PETを用いて[11C]標識チアミン4の消化管吸収および臓器集積を観察することが可能であることが判明した。
・[11C]標識フルスルチアミン5のラットへの経口投与によるPET撮影
無麻酔のラットへの[11C]標識フルスルチアミン5を経口投与により投与し、PET撮影を行った。その結果、図12に示すように、投与後15分以内に [11C]標識フルスルチアミン5は上部消化管で吸収されていることが判明した。さらに、投与25分以降は経時的に肝臓への集積が観察された。以上の結果から、PETを用いて[11C]標識フルスルチアミン5の消化管吸収および臓器集積を観察することが可能であることが判明した。
以上の結果から、本発明の[11C]標識チアミン4、[11C]標識フルスルチアミン5及びその誘導体をラットやサルへの投与によるin vivo動態イメージング研究を行ったり、ヒトPET臨床試験を目的とし、生体内における腸管吸収や各臓器(脳、骨格筋、肝臓等)における取込み・分布に関する定量的解析を行うことができる。こうした解析を通じて、疲労度と吸収量の関係やアルコール飲用時や消耗性疾患時の肝臓中等のビタミンB1量バランス変化を定量することができる。
また、[11C]標識チアミン4は肝臓、顎下腺、脳下垂体、褐色脂肪組織、精巣などエネルギー産生の活発な細胞・組織に比較的高い集積が認められたことから、同様にエネルギー生産が活発ながん細胞の研究や、抗がん剤の開発等にも用いることができる。
<その他の前駆体及びその合成ルート>
[11C]標識チアミン4を合成するための前駆体としては、5-ヒドロキシエチル-4-トリブチルスタニルチアゾール(2)以外に、下記の前駆体(5)〜(8)を用いてもよい(ただし、SnR3はトリアルキルスズ基を示し、BR2は有機基置換ホウ素化合物基、ボロン酸基及びボロン酸エステル基のいずれかを示す。また、X-は対アニオンを示す)。
このチアミン前駆体(5)を0価のパラジウム錯体、ホスフィンリガンド、ハロゲン化第1銅及びフッ化物等の塩基の存在下[11C]ヨウ化メチルを吹き込み、クロスカップリングさせることにより、チアゾール環の4位の炭素に[11C]メチル基が導入される。そして、さらには、該当する所定のピリミジン環骨格部分をチアゾール環のチッソに結合させることにより、本発明の[11C]標識チアミン(1)を得ることができる。
また、チアミン前駆体(6)を0価のパラジウム錯体、ホスフィンリガンド、ハロゲン化第1銅及びフッ化物等の塩基の存在下[11C]ヨウ化メチルを吹き込み、クロスカップリングさせることにより、ピリミジン環の2位の炭素に[11C]メチル基が導入される。そして、さらには、該当する所定のチアゾール環骨格のチッソとピリミジン環のベンジル炭素とを結合させることにより、本発明の[11C]標識チアミン(2)を得ることができる。
さらに、チアミン前駆体(7)を0価のパラジウム錯体、ホスフィンリガンド、ハロゲン化第1銅及びフッ化物等の塩基の存在下[11C]ヨウ化メチルを吹き込み、クロスカップリングさせることにより、ピリミジン環の2位の炭素に[11C]メチル基が導入され、本発明の[11C]標識チアミン(2)を得ることができる。
また、このチアミン前駆体(8)を0価のパラジウム錯体、ホスフィンリガンド、ハロゲン化第1銅及びフッ化物等の塩基の存在下[11C]ヨウ化メチルを吹き込み、クロスカップリングさせることにより、チアゾール環の4位の炭素に[11C]メチル基が導入され、本発明の[11C]標識チアミン(1)を得ることができる。
上記前駆体(5)〜(8)は以下の合成ルートによって合成することができる。
(前駆体(5)の合成ルート)
前駆体(5)は一般的な有機ホウ素化合物の合成法に従って合成することができる。例えば、チアゾール環の4位にヨウ素や臭素などのハロゲン原子が置換した化合物に対してジボランを用いたPd触媒によるクロスカップリグ法などで合成が可能である。
(前駆体(6)の合成ルート)
前駆体(6)は一般的な有機スズ化合物および有機ホウ素化合物の合成法に従って合成することができる。例えば、ピリミジン環の2位にヨウ素や臭素などのハロゲン原子が置換した化合物に対してジスタナンあるいはジボランを用いたPd触媒によるクロスカップリグ法などで合成が可能である。
(前駆体(7)の合成ルート)
前駆体(7)は、上記の(6)と4-メチル-5-ヒドロキシエチルチアゾールとの一般的なベンジル化反応により合成することができる。
(前駆体(8)の合成ルート)
前駆体(8)は、上記の(2)あるいは(5)と4-アミノ-5-(ブロモメチル)-2-メチルピリミジンとの一般的なベンジル化反応により合成することができる。
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本発明は、PET用分子プローブとして、医薬産業などにおいて利用することができる。

Claims (10)

  1. 下記化学構造式(1)又は(2)で示される[11C]標識チアミン(ここで、X-は対アニオンを示す)。
  2. 11Cで標識化された下記一般式(3)又は(4)で示される[11C]標識チアミン誘導体又はその塩。
  3. 11Cで標識化されたプロスルチアミン、フルスルチアミン、オクトチアミン、アリチアミン、チアミンジスルフィド、O−ベンゾイルチアミンジスルフィド、チアミンモノホスフェートジスルフィド、O,S−ジベンゾイルチアミン、S−ベンゾイルチアミン、ベンフォチアミン、ジセチアミン、ビスイブチアミン及びビスベンチアミンのいずれか又はその塩である請求項2に記載の[ 11 C]標識チアミン誘導体又はその塩。
  4. 下記化学式(a)で示される 11 Cで標識化されたシコチアミン又はその塩。
  5. 下記一般式(5)で示されるチアミン前駆体(ただし、R,R,及びRは同一又は異なっていてもよいアルキル基であり、R及びRは同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R10はアルキレン基であり、R11及びR12は水素又は同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R 13 はアルキレン基を示す。)。
  6. 下記一般式(6)で示されるチアミン前駆体(ただし、R,R,及びRは同一又は異なっていてもよいアルキル基であり、R及びRは同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R10はアルキレン基であり、R11及びR12は水素又は同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R 13 はアルキレン基を示す。)。
  7. 下記一般式(7)で示されるチアミン前駆体(ただし、R,R,及びRは同一又は異なっていてもよいアルキル基であり、R及びRは同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R10はアルキレン基であり、R11及びR12は水素又は同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R 13 はアルキレン基を示す。)。
  8. 下記一般式(8)で示されるチアミン前駆体又はその塩(ただし、R,R,及びRは同一又は異なっていてもよいアルキル基であり、R及びRは同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R10はアルキレン基であり、R11及びR12は水素又は同一若しくは異なっていてもよいアルキル基であり、R 13 はアルキレン基を示す。)。
  9. 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の[11C]標識化合物を含有することを特徴とするPET用分子プローブ。
  10. PET用分子プローブとともにクエン酸若しくはその塩を含有することを特徴とする請求項に記載のPET用分子プローブ。
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