明 細 書
軌道部材の製造方法、動弁装置の製造方法および軌道部材
技術分野
[0001] 本発明は軌道部材の製造方法、動弁装置の製造方法および軌道部材に関し、より 特定的には、その一部が塑性変形することにより隣接する部材に対して固定される 軌道部材とその製造方法、および当該軌道部材を有するカムフォロアを備えた動弁 装置の製造方法に関するものである。
背景技術
[0002] 一般に、転がり軸受は、外輪、内輪などの軌道部材と、当該軌道部材に接触して配 置される玉、ころなどの転動体とを備えている。そして、転がり軸受は、軌道部材であ る内輪および外輪の少なくともいずれか一方が、当該軌道部材に隣接する他の部材 に対して固定されて使用される。ここで、軌道部材の固定は、当該軌道部材を隣接 する他の部材に対して嵌め込むことにより行なわれるほか、たとえば力 め加工のよう に当該軌道部材の一部の領域を塑性変形させることにより行なわれる場合もある。
[0003] このような塑性変形を利用した軌道部材の固定は、嵌め込みによる固定に比べて、 固定のための新たな部材を必要としないため、低コスト化およびコンパクトィ匕が可能 であることなどの利点を有している。一方、塑性変形を利用した軌道部材の固定を行 なうためには、軌道部材における硬度分布に十分留意する必要がある。すなわち、 塑性変形を利用した固定を行なう場合、軌道部材において塑性変形される領域は、 塑性変形時の割れの発生を抑制する観点から、比較的低硬度、たとえば 300HV以 下の硬度を有する必要がある。これに対し、軌道部材において、転動体と接触する 表面である転走面は、十分な転動疲労寿命を確保する観点から、高硬度、たとえは 6 53HV (58HRC)以上の硬度を有する必要がある。
[0004] 塑性変形を利用した軌道部材の固定は、上述のような利点を有していることから、 近年広く採用されている。たとえば、転がり軸受の一種である総ころタイプ (保持器を 有さないタイプ)のラジアルころ軸受が、エンジンの給排気弁を動作させる動弁装置 のローラ付きカムフォロアとして採用される場合がある。このローラ付きカムフォロアの
取り付けにおいても、当該カムフォロアを構成する軌道部材の一部の領域を塑性変 形させて保持部材に対して固定することにより、カムフォロアを保持部材に取り付ける こと力 Sできる。そのため、ローラ付きカムフォロアとして使用可能な転がり軸受に関して は、寿命向上等に関する多くの検討がなされると同時に(特開 2000— 38907号公 報 (特許文献 1)、特開平 10— 47334号公報 (特許文献 2)、特開平 10— 103339号 公報(特許文献 3)、特開平 10— 110720号公報(特許文献 4)、特開 2000— 3890 6号公報(特許文献 5)、特開 2000— 205284号公報(特許文献 6)、特開 2002— 3 1212号公報 (特許文献 7)、実開昭 63— 185917号公報 (特許文献 8)および特開 2 002— 194438号公報 (特許文献 9) )、寿命向上と塑性変形を利用した固定とを両 立することに関する提案がなされている (特開平 5— 321616号公報 (特許文献 10) 、特開昭 62— 7908号公報(特許文献 11)および特開 2005— 299914号公報(特 許文献 12) )。
特許文献 1 特開 2000- - 38907号公幸
特許文献 2 特開平 10 - 47334号公幸艮
特許文献 3 特開平 10 - 103339号公報
特許文献 4 特開平 10 - 110720号公報
特許文献 5 特開 2000- - 38906号公幸
特許文献 6 特開 2000- - 205284号公報
特許文献 7 特開 2002- - 31212号公幸
特許文献 8 実開昭 63 - 185917号公報
特許文献 9 特開 2002- - 194438号公報
特許文献 10 :特開平 5— 321616号公報
特許文献 11 :特開昭 62— 7908号公報
特許文献 12 :特開 2005— 299914号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
上述のように、一部の領域が塑性変形することにより、他の部材に対して固定される 軌道部材においては、転走面を含む領域が十分な硬度を有していると同時に、塑性
変形する領域が割れ等を発生することなく塑性変形可能な硬度を有していることが要 求される。し力しながら、上述の特許文献 10〜: 12に記載されているように、単に塑性 変形する領域が焼入硬化されてレ、なレ、のみでは、塑性変形する領域の硬度が十分 に制御されない。そのため、軌道部材の形状や同時に熱処理される数量などによつ て塑性変形する領域の硬度がばらつき、当該領域の硬度を安定して好ましい範囲と することができなレ、。その結果、実際の量産工程において、塑性変形を利用した固定 が困難となる場合がある。一方、特許文献 12に記載されているように、軌道部材全体 を焼入硬化した後、高温焼戻を実施すれば、塑性変形する領域の硬度を十分に制 御すること力 Sできる。しかし、この場合、熱処理の工程数が増加し、軌道部材の製造 コストが上昇するという問題がある。
[0006] そこで、本発明の目的は、製造コストの上昇を抑制しつつ、転走面を含む領域の硬 度を十分に高くして十分な転動疲労寿命を確保するとともに、塑性変形する領域の 硬度を安定して制御可能な軌道部材の製造方法を提供することである。また、本発 明の他の目的は、製造コストの上昇を抑制しつつ、十分な耐久性を有しているととも に、塑性変形を利用したカムフォロアの取り付けが容易な動弁装置の製造方法を提 供することである。また、本発明のさらに他の目的は、製造コストの上昇が抑制されつ つ、転走面を含む領域の硬度が十分に高ぐ十分な転動疲労寿命が確保されている とともに、塑性変形する領域の硬度が安定して制御された軌道部材を提供することで ある。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明に従った軌道部材の製造方法は、鋼からなり、軌道部材の概略形状に成形 された部材である鋼製部材が準備される鋼製部材準備工程と、鋼製部材が熱処理さ れる熱処理工程と、熱処理工程において熱処理された鋼製部材カ 仕上げ加工され る仕上げカ卩ェ工程とを備えている。熱処理工程は、浸炭窒化工程と、温度保持工程 と、高周波焼入工程とを含んでいる。浸炭窒化工程では、鋼製部材が、 A点以上の
1 温度である浸炭窒化温度に加熱されて浸炭窒化される。温度保持工程では、浸炭 窒化工程において浸炭窒化された鋼製部材が、浸炭窒化温度から、 A点よりも 100
1
°C低い温度以上 A点未満の温度域に冷却されて、当該温度域に 60分間以上 180
分間以下の時間保持される。高周波焼入工程では、温度保持工程よりも後で、鋼製 部材におレ、て、軌道部材の転走面となるべき領域を含む高硬度領域以外の領域で ある低硬度領域が焼入硬化されることなぐ高硬度領域が高周波焼入される。
[0008] 浸炭窒化された鋼製部材が直ちに焼入硬化されない場合、鋼製部材は連続的に 冷却されるのが一般的である。しかし、その場合、同じ熱処理設備を使用した場合で も、鋼製部材の形状、大きさ、同時に処理される鋼製部材の量などに依存して、鋼製 部材の冷却速度は変化する。また、鋼製部材の形状によっては、鋼製部材の部位に よって冷却速度が異なる場合もある。
[0009] A点以上の温度に加熱された鋼製部材が焼入硬化されずに冷却される場合、鋼
1
製部材を構成する鋼の組織は、基本的にはパーライト変態する。このとき、パーライト 組織(ひ鉄であるフェライト相と鉄の炭化物とからなる鋼組織)を構成する鉄の炭化物
(セメンタイト; Fe C;以下、炭化物とレ、う)を粗大化、凝集化させることにより、鋼製部
3
材の硬度を抑制する、たとえば 300HV以下の硬度とすることができる。ここで、炭化 物を粗大化、凝集化させるためには、鋼製部材が冷却される際の冷却速度(単位時 間あたりの温度低下)を小さくすることが有効である。
[0010] しかし、上述のように、鋼製部材の形状等に起因した冷却速度の変化や、鋼製部 材内の部位による冷却速度の相違を考慮すると、鋼製部材の形状等によって必要な 冷却条件が変化するため、軌道部材において塑性変形する領域の硬度を安定して 制御することは容易ではない。また、冷却速度を無制限に小さくすれば、塑性変形す る領域の硬度を安定して抑制することができる力 熱処理に要する時間が長くなるた め生産効率が低下し、製造コストが上昇するという問題がある。
[0011] これに対し、本発明者は浸炭窒化後の鋼製部材の硬度を、鋼製部材の形状、大き さ、同時に処理される鋼製部材の量などによらず安定させるための熱処理履歴に関 して詳細に検討した。その結果、以下の知見を得た。
[0012] すなわち、浸炭窒化された鋼製部材を A点未満の温度に冷却する際、 A点よりも 100°C低い温度よりも低い温度域に鋼製部材が短時間で冷却されると、炭化物の粗 大化、凝集化が不十分となり、鋼製部材の形状等によっては割れを発生させること無 く塑性変形させることが困難となる場合がある。また、 A点よりも 100°C低い温度以上
へ点未満の温度域に保持される時間が 60分間未満では、鋼のパーライト変態が完 了せず、その後の冷却速度によっては微細な炭化物や層状の炭化物が鋼中に析出 して硬度が上昇し、割れを発生させること無く塑性変形させることが困難となる。一方 、当該温度域においては、 180分間以内には鋼のパーライト変態はほぼ完了し、そ の後の冷却速度によらず割れを発生させること無く塑性変形させることが可能となる。 そのため、 180分間を超えて当該温度域に保持する利点は小さぐむしろ軌道部材 の生産効率を低下させる結果となる。
[0013] 以上より、本発明の軌道部材の製造方法によれば、熱処理工程の浸炭窒化工程に おいて浸炭窒化された鋼製部材が、温度保持工程において A点よりも 100°C低い 温度以上 A点未満の温度域に冷却されて、当該温度域に 60分間以上 180分間以 下の時間保持される。そのため、鋼製部材が適切な温度域に必要かつ十分な時間 保持され、鋼製部材を構成する鋼が恒温変態、あるいは冷却速度が非常に小さい状 態でパーライト変態し、当該変態がほぼ完了するとともに炭化物が粗大化、凝集化す る。その結果、鋼製部材は、安定して、割れを発生させることなく塑性変形させること が可能な硬度を有する。そして、高周波焼入工程において、軌道部材の転走面とな る領域を含む領域である高硬度領域を高周波焼入して部分的に硬化することにより 、焼入硬化されない領域の塑性加工の容易性と軌道部材の転走面における転動疲 労寿命とを両立することができる。その結果、本発明の軌道部材の製造方法によれ ば、製造コストの上昇を抑制しつつ、転走面を含む領域の硬度を十分に高くして十 分な転動疲労寿命を確保するとともに、塑性変形する領域の硬度を安定して制御す ること力 Sできる。
[0014] 本発明に従った動弁装置の製造方法は、カムフォロアと、カムフォロアを保持する 保持部材とを有し、エンジンの給気弁および排気弁の少なくともいずれか一方を動 作させる動弁装置の製造方法である。この動弁装置の製造方法は、カムフォロアを 製造するカムフォロア製造工程と、保持部材を準備する保持部材製造工程と、カムフ ォロアを、保持部材に取り付ける取り付け工程とを備えている。そして、カムフォロア製 造工程においては、カムフォロアを構成する軌道部材が、上述の軌道部材の製造方 法により製造される。また、取り付け工程においては、低硬度領域が塑性加工される
ことにより、軌道部材が保持部材に対して固定されて、カムフォロアが保持部材に取 り付けられる。
[0015] 本発明の動弁装置の製造方法によれば、カムフォロアを構成する軌道部材が、上 述の軌道部材の製造方法により製造されるため、当該軌道部材の製造コストの上昇 を抑制しつつ、転走面を含む領域の硬度を十分に高くして十分な転動疲労寿命を 確保するとともに、塑性変形する領域の硬度を安定して制御することができる。そして 、硬度が安定して制御された軌道部材の低硬度領域が塑性カ卩ェされることにより、軌 道部材が保持部材に対して固定され、カムフォロアが保持部材に取り付けられる。そ のため、製造コストの上昇を抑制しつつ、軌道部材が十分な転動疲労寿命を有して レ、ることにより十分な耐久性を有しているとともに、塑性変形を利用したカムフォロア の取り付けが容易な動弁装置の製造方法を提供することができる。
[0016] 本発明に従った軌道部材は、上述の軌道部材の製造方法により製造されている。
本発明の軌道部材によれば、上述の本発明の軌道部材の製造方法により製造され ていることにより、製造コストの上昇が抑制されつつ、転走面を含む領域の硬度が高 ぐ十分な転動疲労寿命を確保されているとともに、塑性変形する領域の硬度が安定 して制御された軌道部材を提供することができる。
発明の効果
[0017] 以上の説明から明らかなように、本発明の軌道部材の製造方法によれば、製造コス トの上昇を抑制しつつ、転走面を含む領域の硬度を十分に高くして十分な転動疲労 寿命を確保するとともに、塑性変形する領域の硬度を安定して制御可能な軌道部材 の製造方法を提供することができる。また、本発明の動弁装置の製造方法によれば、 製造コストの上昇を抑制しつつ、十分な耐久性を有しているとともに、塑性変形を利 用したカムフォロアの取り付けが容易な動弁装置の製造方法を提供することができる 。また、本発明の軌道部材によれば、製造コストの上昇を抑制されつつ、転走面を含 む領域の硬度が十分に高ぐ十分な転動疲労寿命を確保されているとともに、塑性 変形する領域の硬度が安定して制御された軌道部材を提供することができる。
図面の簡単な説明
[0018] [図 1]実施の形態 1における軌道部材を含むカムフォロアを備えた動弁装置の構成を
示す概略図である。
[図 2]図 1の線分 II IIに沿う概略断面図である。
[図 3]図 2のカムフォロア付近を拡大して示した概略部分断面図である。
[図 4]実施の形態 1におけるカムフォロアの軸の製造方法の概略を示す図である。
[図 5]実施の形態 1におけるカムフォロアの軸の製造方法に含まれる熱処理工程を示 す図である。
[図 6]実施の形態 1における動弁装置 10の製造方法の概略を示す図である。
[図 7]実施の形態 2における軌道部材を含むカムフォロアを備えた動弁装置の構成を 示す概略図である。
[図 8]実施の形態 3における軌道部材を含むカムフォロアを備えた動弁装置の構成を 示す概略図である。
[図 9]図 8のカムフォロア周辺を拡大して示した概略図である。
[図 10]試験片の硬度の測定位置を示す図である。
[図 11]実施例 2の試験に用いられた転動疲労寿命試験機の主要部を示す概略図で ある。
符号の説明
[0019] 1 カムフォロア、 2 ロッカーアーム、 2B —方の端部、 2C 他方の端部、 2D 貫 通穴、 3 ロッカーアーム軸、 4 軸受メタル、 5 カム、 5A カムシャフト、 5B 外周面 、 6 バルブ、 7 ばね、 8 ロックナット、 9 アジャストねじ、 10 動弁装置、 11 ローラ 、 11A ローラ転走面、 12 軸、 12A 軸転走面、 12B 高硬度領域、 12C 低硬度 領域、 13 ころ、 13A ころ転走面、 21 側壁、 21A 貫通穴、 21B テーパー部、 2 2 ピボット当接部、 30 カムフォロアの軸、 31 転走面、 32 高硬度領域、 40 転動 疲労寿命試験機、 41 回転軸、 42 駆動ローラ、 42A 外周面、 43 外輪、 44 ころ 、45 軸受、 80 アジャストねじ、 81 連結咅材、 82 ロックナット、 90 プッシュロッド 発明を実施するための最良の形態
[0020] 以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面におい て同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
[0021] (実施の形態 1)
まず、図 1〜図 3を参照して、実施の形態 1における軌道部材を含むカムフォロアを 備えた動弁装置について説明する。
[0022] 図 1および図 2を参照して、動弁装置 10は、総ころタイプのラジアルころ軸受である カムフォロア 1と、カムフォロア 1を一方の端部 2Bにおいて保持する保持部材としての ロッカーアーム 2と、カムフォロア 1の外輪としてのローラ 11の外周面に、外周面 5Bに おいて接触するように配置されたカム 5と、ロッカーアーム 2の他方の端部 2Cに形成 された貫通穴 2Dに揷入され、ロックナット 8によりロッカーアーム 2に固定されたアジャ ストねじ 9と、アジャストねじ 9の一方の端部に、一方の端部において連結されたェン ジンの給気または排気用の弁であるバルブ 6とを備えている。
[0023] カムフォロア 1は、外輪としての円環状のローラ 11と、ローラ 11を貫通する中空円筒 状の軸 12と、ローラ 11および軸 12の間に配置される複数のころ 13を含んでいる。口 ッカーアーム 2は、中央部において軸受メタル 4などを介してロッカーアーム軸 3に保 持されており、ロッカーアーム軸 3を支点として回動自在となっている。バルブ 6は、ば ね 7の弾性力により矢印 7Aの向きに付勢されている。そのため、カムフォロア 1はアジ ャストねじ 9、ロッカーアーム 2を介してばね 7の弾性力により、常にカム 5の外周面 5B に押し付けられている。カム 5は、カムフォロア 1の内輪である軸 12の軸方向に垂直 な断面において、卵形の断面形状を有している。そして、カム 5はカムシャフト 5Aと一 体に形成されており、カムシャフト 5Aを軸として回転可能に構成されている。
[0024] 図 2を参照して、ロッカーアーム 2の一方の端部 2B側は、 1対の側壁 21が形成され た二股状の形状を有している。 1対の側壁 21のそれぞれには同軸の円柱状の貫通 穴 21Aが形成されている。そして、 1対の側壁 21の両方の貫通穴 21Aを貫通するよ うにカムフォロア 1の軸 12が嵌め込まれている。軸 12の外周面には軸転走面 12Aが 形成されており、軸転走面 12Aに外周面であるころ転走面 13Aにおいて接触するよ うに、複数のころ 13が配置されている。さらに、ローラ 11は、 1対の側壁 21の間に配 置され、かつローラ 11の内周面には、軸転走面 12Aに対向するようにローラ転走面 11Aが形成されている。そして、ころ 13は、ころ転走面 13Aにおいて、ローラ転走面 11 Aと接触するように配置されている。これにより、ローラ 11は軸 12に対して回転自
在に保持されている。
[0025] さらに、図 3を参照して、貫通穴 21Aのそれぞれの外壁側開口付近には、軸 12の 軸方向に垂直な断面における直径が徐々に大きくなるテーパー部 21Bが形成されて いる。そして、軸 12の両端部は、 300HV以下の硬度を有する低硬度領域 12Cとな つており、塑性カ卩ェであるかしめ加工されることによりテーパー部 21Bに沿うように変 形されている。これにより、軌道部材としての軸 12は、保持部材としてのロッカーァー ム 2に対して固定されている。一方、軸 12の軸転走面 12Aを含む環状の領域は、高 周波焼入され、 653HV以上の硬度を有する高硬度領域 12Bとなっている。
[0026] なお、図 1〜図 3においては、軽量ィ匕のため中空状の軸 12が採用された場合を示 しているが、強度および剛性などを重視して中実の軸 12を採用してもよい。
[0027] 次に、実施の形態 1における動弁装置 10の動作について説明する。図 1を参照し て、カム 5がカムシャフト 5Aとともにカムシャフト 5Aを軸として回転すると、カムシャフト 5Aからカム 5とカムフォロア 1との接触部までの距離が周期的に変化する。そのため 、ロッカーアーム 2はロッカーアーム軸 3を支点として揺動する。その結果、アジャスト ねじ 9を介してバルブ 6が往復運動する。これにより、エンジンの吸気弁または排気弁 が開閉する。
[0028] 次に、実施の形態 1における軌道部材としてのカムフォロア 1の軸 12および動弁装 置 10の製造方法について説明する。
[0029] 図 4を参照して、実施の形態 1におけるカムフォロアの軸の製造方法においては、ま ず鋼からなり、軌道部材としての軸 12の概略形状に成形された部材である鋼製部材 が準備される鋼製部材準備工程が実施される。具体的には、たとえば JIS規格 SUJ2 などの軸受鋼、 SCM420などのクロムモリブデン鋼、 SCr420などのクロム鋼など力 らなる鋼材が鍛造、切削等により加工されて、鋼製部材が作製される。
[0030] 次に、鋼製部材準備工程において準備された鋼製部材が熱処理される熱処理ェ 程が実施される。熱処理工程は、浸炭窒化工程と、温度保持工程と、高周波焼入ェ 程と、焼戻工程とを含んでいる。この熱処理工程の詳細については、後述する。
[0031] そして、熱処理工程にぉレ、て熱処理された鋼製部材カ 仕上げカ卩ェされる仕上げ 加工工程が実施される。具体的には、熱処理が完了した鋼製部材に対して研削加
ェ、超仕上げ加工などの仕上げ加工が施されることにより、カムフォロア 1の軸 12が 完成する。
[0032] 次に、実施の形態 1におけるカムフォロアの軸の製造方法に含まれる熱処理工程 の詳細について説明する。図 5において、横方向は時間を示しており右に行くほど時 間が経過していることを示している。また、図 5において、縦方向は温度を示しており 上に行くほど温度が高レ、ことを示してレ、る。
[0033] 図 5を参照して、熱処理工程においては、まず、鋼製部材力 A点以上の温度であ る浸炭窒化温度に加熱されて浸炭窒化される浸炭窒化工程が実施される。具体的 には、鋼製部材準備工程において準備された鋼製部材は、 A点以上の温度である 800°C以上 1000°C以下の温度、たとえば 850°Cに加熱され、 60分間以上 300分間 以下の時間、たとえば 150分間保持される。このとき、 RXガスにアンモニア(NH )を
3 添加した雰囲気において加熱されることにより、鋼製部材の表層部の炭素濃度およ び窒素濃度が所望の濃度に調整される。
[0034] 次に、浸炭窒化工程において浸炭窒化された鋼製部材が、浸炭窒化温度から、 A
1 点よりも 100°C低い温度以上 A点未満の温度域に冷却されて当該温度域に 60分間 以上 180分間以下の時間保持される温度保持工程が実施される。
[0035] このとき、鋼製部材を構成する鋼は、 A変態点未満の温度に冷却されることにより パーライト変態を開始する。パーライト変態は、時間が経過すれば、温度を下げなく ても進行する。そのため上述のように 60分間以上 180分間以下の時間、上記温度域 で保持されることにより、鋼製部材を構成する鋼の変態は、恒温変態の状態あるいは 冷却速度が非常に小さい状態が確保されつつ、ほぼ完了する。その結果、当該鋼中 の炭化物が十分に粗大化、凝集化して硬度が抑制される。
[0036] また、パーライト変態が進行する期間において、鋼製部材の温度が上記温度範囲 に保持されるため、鋼製部材の形状、大きさ、同時に処理される鋼製部材の量などに 関わらず、一定の状態に炭化物を粗大化、凝集化させることができる。さらに、鋼製 部材の部位によって冷却速度が大きく異なることもないため、部位によらず、一定の 状態に炭化物を粗大化、凝集ィ匕させること力 Sできる。その結果、軸 12における低硬 度領域 12Cの硬度を安定して制御することが可能となり、割れを発生させることなく
塑性加工することが可能な低硬度領域 12Cを有する軸 12を安定して製造することが できる。また、浸炭窒化を実施した後、焼入を実施し、さらに高温焼戻を実施する従 来の工程に比べて、熱処理工程を簡略化できるため、製造コストの上昇を抑制するこ とができる。
[0037] ここで、温度保持工程において、鋼製部材が保持されるべき温度は、炭化物の粗 大化、凝集化を十分に進行させる観点から、具体的には、 650°C以上 720°C以下と されることが好ましい。また、より詳細には、鋼製部材が保持されることが好ましい温 度は、鋼製部材を構成する鋼の種類によっても多少異なり、たとえば JIS SUJ2の場 合 650°C以上 700°C以下、 SCM420の場合 670°C以上 700°C以下であることが好 ましレ、。さらに、温度保持工程において、鋼製部材が上述の温度域に保持される時 間は、生産効率の向上とパーライト変態の十分な進行および冷却速度のばらつき抑 制とを両立させる観点から、 60分間以上 120分間以下とされることが好ましい。
[0038] 次に、図 5を参照して、温度保持工程が実施された鋼製部材は、取り扱いが容易な 温度、たとえば室温まで冷却される。このとき、前述のように温度保持工程において、 鋼製部材を構成する鋼のパーライト変態はほぼ完了しているため、冷却速度は鋼製 部材の硬度にほとんど影響を与えない。したがって、生産効率を向上させるため、油 冷、水冷などを実施して、鋼製部材を急冷することができる。
[0039] 次に、鋼製部材において、軌道部材としての軸 12の軸転走面 12Aとなるべき領域 を含む高硬度領域 12B以外の領域である低硬度領域 12C (両端部)が焼入硬化さ れることなぐ高硬度領域 12Bが高周波焼入される高周波焼入工程が実施される。 具体的には、高硬度領域 12Bの表面が誘導コイルに対向するように鋼製部材が高 周波焼入装置にセットされ、当該誘導コイルに高周波電流が流されることにより高硬 度領域 12Bが A点以上の温度である 800°C以上 1000°C以下の温度、たとえば 90
1
0°Cに誘導加熱される。その後、 A点以上の温度域から M点未満の温度まで、たと
1 S
えば油冷または水冷されることにより急冷される。これにより、低硬度領域 12Cが焼入 硬化されることなぐ高硬度領域 12Bが焼入硬化される。ここで、高硬度領域 12Bを 含む鋼製部材の表層部は浸炭窒化工程において浸炭窒化されている。そのため、 高周波焼入工程において高硬度領域 12Bが高周波焼入れされることにより、軸転走
面 12Aは転動疲労に対する抵抗性の高い領域となり、軸 12に優れた転動疲労寿命 特性を付与することができる。
[0040] また、軸転走面 12A直下の表層部は、浸炭窒化された後、高周波焼入れされるこ とにより、 10体積%以上 50体積%以下、あるいはより好ましい範囲である 15体積% 以上 35体積%以下の残留オーステナイト量を含むとともに、オーステナイト結晶粒度 が 11番以上(旧オーステナイト結晶粒の粒度番号; JIS G 0551)の鋼組織とされる 。そのため、軸 12の転動疲労寿命特性は、一層向上する。なお、表層部とは、転走 面からの距離が 0. 2mm以内の領域をいう。
[0041] ここで、高周波焼入工程における上記誘導加熱は、被処理物である軸 12の内部に 発生するうず電流によるジュール熱とヒステリシス損失による仕事量に相当する熱の 発生により実現されるため、誘導コイルに流される高周波電流の周波数、電源の出 力、加熱時間などを制御することにより、軸 12のうち所望部分のみを局所的に加熱 すること力 Sできる。そのため、容易に、低硬度領域 12Cを焼入硬化することなぐ高硬 度領域 12Bを焼入硬化することができる。
[0042] 次に、図 5を参照して、焼戻工程が実施される。具体的には、高周波焼入工程が実 施された鋼製部材が、 A点未満の温度である 150°C以上 350°C以下の温度、たとえ ば 180°Cに加熱され、 30分間以上 240分間以下の時間、たとえば 120分間保持さ れて、その後室温の空気中で冷却される(空冷)。以上の手順により、実施の形態 1 における軌道部材の製造工程に含まれる熱処理工程は完了する。
[0043] 上記実施の形態 1における軌道部材としての軸 12の製造方法によれば、製造コス トの上昇を抑制しつつ、浸炭窒化された転走面 12Aを含む高硬度領域 12Bの硬度 を十分に高くして、転走面 12Aに優れた転動疲労寿命特性を付与するとともに、軸 1 2の両端部である低硬度領域 12Cの硬度を安定して制御して抑制することにより、軸 12の両端部(低硬度領域 12C)を割れの発生を回避しながら塑性変形可能とし、塑 性変形による固定が容易な軸 12を製造することができる。
[0044] そして、上記実施の形態 1における軌道部材の製造方法により製造された本発明 に実施の形態 1における軌道部材としての軸 12は、製造コストの上昇が抑制されつ つ、転走面を含む領域の硬度が高ぐ十分な転動疲労寿命を確保されているととも
に、塑性変形する領域の硬度が安定して制御された軌道部材となっている。
[0045] ここで、八ェ点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに 変態を開始する温度に相当する点をいう。また、 M点とはオーステナイト化した鋼が
S
冷却される際に、マルテンサイトイ匕を開始する温度に相当する点をいう。
[0046] 次に、実施の形態 1における動弁装置 10の製造方法について説明する。
図 1および図 6を参照して、実施の形態 1における動弁装置 10の製造方法は、カム フォロア 1と、カムフォロア 1を保持する保持部材としてのロッカーアーム 2とを有し、ェ ンジン(図示しなレ、)の給気弁または排気弁であるバルブ 6を動作させる動弁装置の 製造方法である。当該動弁装置 10の製造方法は、カムフォロア 1を製造するカムフォ ロア製造工程と、保持部材としてのロッカーアーム 2を製造する保持部材製造工程と 、カムフォロア 1を、保持部材としてのロッカーアーム 2に取り付ける取り付け工程と、 カムフォロアが取り付けられたロッカーアーム 2と、別途準備されたカム 5、バルブ 6、 ばね 7などとを組み合わせて動弁装置 10を組立てる組立て工程とを備えている。
[0047] ここで、カムフォロア製造工程においては、カムフォロア 1を構成する軌道部材とし ての軸 12が、上述の実施の形態 1における軌道部材の製造方法により製造される。
[0048] また、取り付け工程においては、図 3を参照して、軸 12の両端部である低硬度領域 12Cが塑性加工されることにより、軸 12がロッカーアーム 2に対して固定されて、カム フォロア 1がロッカーアーム 2に取り付けられる。より詳細に説明すると、ローラ 11と口 ーラ 11のローラ転走面 11Aに接触するように配置された複数のころ 13がロッカーァ ーム 2の一方の端部 2B側に形成された 1対の側壁 21の間に挿入される。その後、 1 対の側壁 21のそれぞれに形成された貫通穴 21Aを同時に貫通し、かつ軸転走面 1 2Aが複数のころ 13に接触するように、軸 12が揷入される。そして、軸 12の両端部で ある低硬度領域 12Cが塑性カ卩ェであるかしめ加工されることにより、軸 12がロッカー アーム 2に対して固定され、カムフォロア 1がロッカーアーム 2に取り付けられる。
[0049] 実施の形態 1における動弁装置 10の製造方法においては、軸 12が、上述の実施 の形態 1における軌道部材の製造方法により製造され、当該軸 12がかしめ加工され ることにより軸 12がロッカーアーム 2に対して固定され、カムフォロア 1がロッカーァー ム 2に取り付けられる。そのため、実施の形態 1における動弁装置 10の製造方法によ
れは、製造コストの上昇を抑制しつつ、軌道部材としての軸 12が十分な転動疲労寿 命を有していることにより十分な耐久性を有しているとともに、塑性変形を利用した力 ムフォロアの取り付けを容易に実施することができる動弁装置 10の製造方法を提供 すること力 Sできる。
[0050] (実施の形態 2)
次に、図 7を参照して、実施の形態 2における軌道部材を含むカムフォロアを備えた 動弁装置およびその製造方法について説明する。
[0051] 図 7を参照して、実施の形態 2における動弁装置 10は、上述の実施の形態 1にお ける動弁装置 10と基本的には同様の構成を有している。しかし、実施の形態 2にお ける動弁装置 10は、ロッカーアーム 2の回動の支点がロッカーアーム 2の一方の端部 2Bとなる点において、実施の形態 1の動弁装置 10とは異なっている。
[0052] すなわち、実施の形態 2における動弁装置 10においては、ロッカーアーム 2の一方 の端部 2B側に図示しないピボットが当接するピボット当接部 22が形成されている。そ して、ロッカーアーム 2は、ピボット当接部 22を支点として回動自在に保持されている
[0053] カム 5がカムシャフト 5Aとともにカムシャフト 5Aを軸として回転すると、カムシャフト 5 Aからカム 5とカムフォロア 1との接触部までの距離が周期的に変化する。そのため、 ロッカーアーム 2はピボット当接部 22を支点として揺動する。その結果、バルブ 6が往 復運動して、エンジンの吸気弁または排気弁が開閉する。
[0054] なお、実施の形態 2における軌道部材としての軸 12および動弁装置 10は、上述の ように実施の形態 1における軸 12および動弁装置 10と基本的には同様の構成を有 しており、同様の製造方法により製造することができる。
[0055] (実施の形態 3)
次に、図 8および図 9を参照して、実施の形態 3における軌道部材を含むカムフォロ ァを備えた動弁装置およびその製造方法について説明する。
[0056] 図 8および図 9を参照して、実施の形態 3における動弁装置 10は、上述の実施の形 態 1における動弁装置 10と基本的には同様の構成を有している。しかし、実施の形 態 3における動弁装置 10は、ロッカーアーム 2に直接カムフォロア 1が取り付けられる
のではなぐロッカーアーム 2とカムフォロア 1との間にプッシュロッド 90が介在し、カム フォロア 1がプッシュロッド 90に取り付けられている点において、実施の形態 1の動弁 装置 10とは異なっている。
[0057] すなわち、ロッカーアーム 2の一方の端部 2Bには、ロックナット 82によりロッカーァ ーム 2に対して固定されたアジャストねじ 80および連結部材 81を介して、棒状の形状 を有するプッシュロッド 90が連結されている。保持部材としてのプッシュロッド 90にお いて、ロッカーアーム 2と連結されている側とは反対側の端部には、カムフォロア 1が 取り付けられている。そして、カム 5は、外周面 5Bにおいてカムフォロア 1のローラ 11 の外周面と接触するように配置されている。
[0058] カム 5がカムシャフト 5Aとともにカムシャフト 5Aを軸として回転すると、カムシャフト 5 Aからカム 5とカムフォロア 1との接触部までの距離が周期的に変化する。そのため、 ロッカーアーム 2はプッシュロッド 90により一方の端部 2Bが押されることにより、ロッカ 一アーム軸 3を支点として揺動する。その結果、バルブ 6が往復運動して、エンジンの 吸気弁または排気弁が開閉する。
[0059] なお、実施の形態 3における軌道部材としての軸 12および動弁装置 10は、上述の ように実施の形態 1における軸 12および動弁装置 10と基本的には同様の構成を有 しており、同様の製造方法により製造することができる。
[0060] (実施例 1)
以下、本発明の実施例 1について説明する。本発明の軌道部材の製造方法により 製造した軌道部材の特性を評価する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりで ある。
[0061] まず、試験の対象となる試験片の作製方法について説明する。本発明の実施例と して、素材として軸受鋼である JIS SUJ2を採用し、図 4および図 5に基づいて説明し た実施の形態 1における軌道部材としての軸 12の製造方法と同様の製造方法により 、外径 14. 6mm、長さ 17. 3mmの中実円柱状の試験片(カムフォロアの軸)を作製 した。熱処理工程においては、図 5を参照して、 A点以上の温度である 850°Cに加 熱して浸炭窒化した後(浸炭窒化工程)、 A点よりも 100°C低い温度以上 A点未満
1 1 の温度である 650°Cまで冷却し、 120分間 650°Cに保持した(温度保持工程)。その
後、油中に浸漬することにより冷却(油冷)した。さらに、転走面となるべき領域を含む 領域を焼入硬化する高周波焼入を実施した後(高周波焼入工程)、 180°Cに加熱し て 120分間保持することにより焼戻を行ない (焼戻工程)、熱処理工程を終了した (実 施例 A、 B)。
[0062] 一方、本発明の範囲外の比較例として、上記試験片と同様の工程において、熱処 理工程の浸炭窒化工程および温度保持工程を省略し、高周波焼入工程および焼戻 工程のみを行なった試験片も作製した(比較例 A、 B)。
[0063] 次に、特性評価の方法について説明する。上記試験片の外周面の硬度、転走面 における残留オーステナイト量およびオーステナイト結晶粒度番号を調査した。図 10 を参照して、試験片としてのカムフォロアの軸 30の外周面の硬度は、外周面の端部 から長手方向にそれぞれ 8. 65mm, 5. Omm、 2. Ommおよび 1. Omm離れた位置 である測定位置 A、 B、 Cおよび Dを、ビッカース硬度計により測定した。ここで、測定 位置 Aおよび Bは高硬度領域 32の表面である転走面 31に含まれる位置、測定位置 Cおよび Dは転走面 31以外の領域に含まれる位置である。
[0064] 転走面 31における残留オーステナイト量は、 X線回折計 (XRD)を用いて、当該部 位のマルテンサイト α (211)面とオーステナイト γ (220)面との回折強度とを測定す ることにより、算出した。また、オーステナイト結晶粒度番号は、 JIS G 0551に記載 された旧オーステナイト結晶粒の粒度番号の測定方法により測定した。
[0065] [表 1]
表 1に、特性評価の結果を示す。表 1を参照して、本発明の実施例の製造方法によ り作製された実施例 Aおよび実施例 Bは、転走面 31に含まれる測定位置 Aおよび B
における硬度が 790〜805HVとなっており、転動疲労寿命の向上が期待できる硬 度となっている。また、転走面 31以外の領域である測定位置 Cおよび Dにおける硬 度は、 220〜235HVとなっており、力 め加工などの塑性加工を、割れを発生させる ことなく実施できる硬度範囲である 300HV以下となっている。
[0067] 一方、本発明の範囲外である従来の製造方法により作製された比較例 Aおよび B は、転走面 31に含まれる測定位置 Aおよび Bにおける硬度が 735〜780HVとなつ ている。実施例 Aおよび Bに比べて硬度が低くなつているのは、比較例 Aおよび Bの 試験片が浸炭窒化されていないことに起因していると考えられる。また、転走面 31以 外の領域である測定位置 Cおよび Dにおける硬度は、 200〜220HVとなってレヽる。
[0068] また、実施例 Aおよび実施例 Bは、転走面 31における残留オーステナイト量が 31.
5〜32. 5体積%となっている。これは、転動疲労寿命、特に硬質の異物が潤滑剤に 混入する異物混入環境等における転動疲労寿命の向上と、寸法安定性とを両立す るために好ましい範囲である 10体積%以上 50体積%以下、特に好ましい範囲であ る 15体積%以上 35体積%以下に含まれる。
[0069] 一方、比較例 Aおよび比較例 Bは、転走面 31における残留オーステナイト量が 7.
5〜8. 5体積%となっている。実施例 Aおよび Bに比べて残留オーステナイト量が少 なくなっているのは、比較例 Aおよび Bの試験片が浸炭窒化されていないことに起因 していると考えられる。その結果、比較例 Aおよび Bの残留オーステナイト量は、転動 疲労寿命、特に異物混入環境等における転動疲労寿命の向上と、寸法安定性とを 両立するために好ましい範囲である 10体積%以上 50体積%以下の範囲外となって いる。
[0070] また、実施例 Aおよび実施例 Bは、転走面 31におけるオーステナイト結晶粒の粒度 番号が 12となっており、転動疲労寿命、靭性等を向上させるために好ましい範囲で ある 11以上となっている。
[0071] 一方、比較例 Aおよび比較例 Bは、転走面 31におけるオーステナイト結晶粒の粒 度番号が 10. 5〜: 11となっている。実施例 Aおよび Bに比べて粒度番号が小さく(旧 オーステナイト結晶粒が大きく)なっているのは、比較例 Aおよび Bの試験片が浸炭 窒化されていないため、高周波焼入の際にオーステナイト結晶粒の生成サイトとなる
炭化物の数密度が実施例 Aおよび Bに比べて少なくなつていることに起因していると 考えられる。
[0072] 以上より、本発明の軌道部材の製造方法により作製された軌道部材は、従来の軌 道部材に比べて転走面の硬度およびオーステナイト結晶粒度番号が大きぐ残留ォ ーステナイト量が好ましい範囲となっているとともに、塑性加工が容易な領域が形成 されている。そのため、本発明の軌道部材の製造方法により作製された軌道部材は 、転走面の転動疲労寿命が優れているとともに、力 め加工などの塑性カ卩ェを利用 した軌道部材の固定が容易となっていることが確認された。
[0073] (実施例 2)
以下、本発明の実施例 2について説明する。本発明の軌道部材の製造方法により 製造した軌道部材の転動疲労寿命を調査する試験を行なった。試験の手順は以下 のとおりである。
[0074] 上述の実施例 1において作製された図 10に示す試験片であるカムフォロアの軸を 内輪として、外輪回転型転動疲労寿命試験を実施した。図 11を参照して、実施例 2 の転動疲労寿命試験の試験方法について説明する。
[0075] 図 11を参照して、転動疲労寿命試験機 40は、図示しない動力源に接続された回 転軸 41と、中心を含む領域を回転軸 41が貫通し、回転軸 41と一体に回転可能に構 成された円盤状の駆動ローラ 42と、回転軸 41を軸周りに回転自在に支持する 1対の 軸受 45とを備えている。
[0076] そして、駆動ローラの外周面 42Aに対して外周面において接触するように円環状 の外輪 43が配置され、外輪 43の内周面に対して外周面において接触するように複 数のころ 44が配置される。さらに、図 10および図 11を参照して、外輪 43を貫通し、 転走面 31においてころ 44に接触するように、試験片としてのカムフォロアの軸 30が 固定されて配置される。
[0077] 図示しない動力源により回転軸 41が軸周りに回転すると、回転軸 41と一体に駆動 ローラ 42が回転する。そして、駆動ローラ 42により駆動されて、外輪 43が回転する。 その結果、固定されたカムフォロアの軸 30の転走面 31をころ 44が転走する。ここで、 カムフォロアの軸 30に負荷される荷重は 2200N、外輪 43の回転速度は 7000回転
/分、潤滑油はエンジンオイル(SAE粘度規格: 10W— 30)、油温は 100°Cの条件 の下で、試験を実施した。この条件によれば、試験中に表面損傷または内部起点剥 離のいずれかが発生する。したがって、本試験により、表面損傷および内部起点剥 離の両方の寿命を確認することができる。そして、カムフォロアの軸 30に剥離が発生 するまでの時間(転動疲労寿命)を調査した。さらに、実験の結果得られた転動疲労 寿命を統計的に解析し、 10%の試験片が剥離するまでの時間(L10寿命)を算出し た。表 2に試験結果を示す。
[表 2]
[0079] 表 2においては、比較例 Aの L10寿命を 1とした場合の、各試験片の寿命比が示さ れている。表 2を参照して、本発明の実施例である実施例 Aおよび Bのカムフォロアの 軸は、従来のカムフォロアの軸である比較例 Aおよび Bに対して 3倍程度の転動疲労 寿命を有している。これは、実施例 Aおよび Bにおいては、浸炭窒化処理が実施され ることにより、前述のように、オーステナイト結晶粒度が小さぐかつ残留オーステナイ ト量が好ましい範囲とされていることに起因していると考えられる。
[0080] 以上の実施例 1および 2の結果より、本発明の軌道部材の製造方法によれば、熱処 理工程の工程数を増加させないことにより製造コストの上昇を抑制しつつ、浸炭窒化 および高周波焼入により転走面を含む領域を硬度が十分に高ぐかつ転動疲労に 対する抵抗の大きい材質にするとともに、転走面以外の領域の硬度を安定して制御 して抑制し、当該領域の塑性変形を利用した軌道部材の固定が容易な軌道部材を 製造することができることが確認された。
[0081] 今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的な ものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求 の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更 が含まれることが意図される。
産業上の利用可能性
本発明の軌道部材および軌道部材の製造方法は、その一部が塑性変形すること により隣接する部材に対して固定される軌道部材およびその製造方法に、特に有利 に適用され得る。また、本発明の動弁装置の製造方法は、その一部が塑性変形する ことにより隣接する部材に対して固定される軌道部材を有するカムフォロアを備えた 動弁装置の製造方法に、特に有利に適用され得る。