明 細 書
銅めつき被膜を表面に有する希土類系永久磁石の製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、新規な電気銅めつき処理用めつき液を使用した、密着性に優れた銅め つき被膜を表面に有する希土類系永久磁石の製造方法に関する。
背景技術
[0002] Nd-Fe- B系永久磁石に代表される R— Fe— B系永久磁石や Sm— Fe— N系永 久磁石に代表される R— Fe— N系永久磁石などの希土類系永久磁石は、資源的に 豊富で安価な材料が用いられ、かつ、高い磁気特性を有していることから、特に R— Fe— B系永久磁石は今日様々な分野で使用されている。し力しながら、希土類系永 久磁石は反応性の高い希土類金属: Rを含むため、大気中で酸ィ匕腐食されやすぐ 何の表面処理をも行わずに使用した場合には、わずかな酸やアルカリや水分などの 存在によって表面力 腐食が進行して鲭が発生し、それに伴って、磁石特性の劣化 やばらつきを招く。さらに、鲭が発生した磁石を磁気回路などの装置に組み込んだ場 合、鲭が飛散して周辺部品を汚染する恐れがある。以上の点に鑑み、希土類系永久 磁石の表面に優れた耐食性を有する被膜として銅めつき被膜を形成する方法が従 来力 採用されている。
一般に、銅めつき被膜を形成する方法は、電気銅めつき処理と無電解銅めつき処 理に大別される力 無電解銅めつき処理によって希土類系永久磁石の表面に銅めつ き被膜を形成する場合には、磁石の構成金属である希土類金属や鉄がめっき液中 に溶出してめっき液に含まれている還元剤と反応し、めっき液中に溶出した希土類 金属や鉄の表面に銅めつき被膜の形成が進行するといつた問題を防ぐためのめっき 液の管理が重要である。しかしながら、これは必ずしも容易なことではない。また、無 電解銅めつき処理用めつき液は一般に高価である。従って、希土類系永久磁石の表 面に銅めつき被膜を形成する場合には、通常、簡易で低コストな電気銅めつき処理 が採用される。
電気銅めつき処理により希土類系永久磁石の表面に銅めつき被膜を形成する場合
、希土類系永久磁石の酸性条件下での強い腐食性に鑑みれば、使用するめつき液 はアルカリ性であることが望まし 、ことから、これまでシアン化銅を含むめっき液 (シァ ン化銅浴)が汎用されてきた。しカゝしながら、シアン化銅浴は形成される銅めつき被膜 の特性に優れるとともに、めっき液の管理が容易であるといったことから利用価値が 高 、ものの、毒性の強 、シアンを含むので環境への影響を無視することができな!/、。 そこで、近年では、ピロリン酸銅を含むめっき液 (ピロリン酸銅浴)がシアン化銅浴に 替わって使用されることが多いが、ピロリン酸銅浴は浴中に遊離銅イオンを多く含む ため、ピロリン酸銅浴を使用して希土類系永久磁石の表面に直接に銅めつき被膜を 形成しょうとすると、磁石の表面を構成する鉄などの電気的に卑な金属と、電気的に 貴な金属である銅との間で置換めつき反応が起こることで、磁石の表面に銅が置換 析出するといつた要因などにより、密着性に優れた銅めつき被膜を形成することがで きないという問題がある。
上記の点に鑑み、本発明者は、特許文献 1において、硫酸銅を 0. 03molZL〜0 . 5molZL、エチレンジァミン四酢酸を 0. 05molZL〜0. 7mol/L,硫酸ナトリウム を 0. 02molZL〜l. OmolZL、酒石酸塩およびクェン酸塩から選ばれる少なくとも 1種を 0. lmol/L〜l. Omol/L含有し、 pHが 11. 0〜13. 0に調整されためつき 液を使用して電気銅めつき処理により、希土類系永久磁石の表面に銅めつき被膜を 形成する方法を提案した。この方法によれば、ピロリン酸銅浴を使用して電気銅めつ き処理を行う場合に比較して格段に密着性に優れた銅めつき被膜を希土類系永久 磁石の表面に形成することができる。し力しながら、この方法をもってしても、過酷環 境において使用される希土類系永久磁石に必要とされる高耐食性を、十分に確保 することができるだけの密着性に優れた銅めつき被膜を希土類系永久磁石の表面に 形成することは困難であると言わざるを得ないのが実情である。
この場合、銅めつき被膜の密着性を補う方法としては、特許文献 1にも記載したよう に、希土類系永久磁石の表面にストライクニッケルめっき被膜を形成した後、銅めつ き被膜を形成する方法がある(希土類系永久磁石の表面にストライクニッケルめっき 被膜を形成する方法は、例えば、特許文献 2を参照のこと)。しカゝしながら、この方法 は、希土類系永久磁石の表面に非常に密着性に優れた積層被膜を形成することが
できるものの、ニッケルめっき被膜は電気めつき処理中に水素を共析する性質がある ので、希土類系永久磁石の表面にストライクニッケルめっき被膜を形成する際、共析 した水素が磁石の脆ィ匕を招き、ひいては磁石の磁気特性の劣化を引き起こす恐れが ある。従って、電気銅めつき処理によって希土類系永久磁石の表面に直接に密着性 に優れた銅めつき被膜を形成することができる新規な方法の開発が待ち望まれてい る。
[0004] このような背景のもと、特許文献 3では、電気銅めつき処理によって希土類系永久 磁石の表面に密着性に優れた銅めつき被膜を形成するための方法として、「希土類 を含む磁石の表面に、銅塩化合物、リン化合物、脂肪族ホスホン酸化合物、水酸ィ匕 塩を少なくとも含む銅メツキ液を用いて電解メツキを行 ヽ、銅被膜から成る第 1保護膜 を成膜することを特徴とする磁石の表面処理方法。」が提案されている。しかしながら 、特許文献 3には、めっき液の構成成分である脂肪族ホスホン酸ィ匕合物について、ホ スホン酸アルカリ金属化合物やホスホン酸遷移金属化合物が例示されると段落番号 0039にて記載されているのみであり、具体的な化合物が例示されていないことから、 残念ながらその実体を理解することができな 、。
特許文献 1 :特開 2004— 137533号公報
特許文献 2 :特開平 6— 13218号公報
特許文献 3 :特開 2001— 295091号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] そこで本発明は、希土類系永久磁石の表面に密着性に優れた銅めつき被膜を形 成することができる、新規な電気銅めつき処理用めつき液を使用した、銅めつき被膜 を表面に有する希土類系永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0006] 上記の点に鑑み、本発明者は、電気銅めつき処理によって希土類系永久磁石の表 面に銅めつき被膜を形成するに当たり、磁石の表面を構成する鉄などの電気的に卑 な金属と、電気的に貴な金属である銅との間で置換めつき反応が起こることで、磁石 の表面に銅が置換析出することがな 、ように、 Cu2+イオンとのキレート安定度定数が
高いキレート剤を使用するとともに、アルカリ性に調整しためっき液を使用することを 基本方針とし、キレート剤として、 1—ヒドロキシェチリデン一 1, 1—ジホスホン酸 (以 下「HEDP」と称する)、アミノトリメチレンホスホン酸(以下「ATMP」と称する)などの ような、リン原子数が 2以上の有機リン酸および Zまたはその塩を使用することとした。 このうち、 HEDPは古くから知られているキレート剤であり、特開昭 59— 136491号 公報には、 Cu2+イオンと HEDPを含有するめつき液を使用して電気銅めつき処理を 行う方法が記載されて 、ることから (但し、被めつき物として希土類系永久磁石は記 載されていない)、この方法によれば、希土類系永久磁石の表面に密着性に優れた 銅めつき被膜を形成することができるものと考えられた。しカゝしながら、形成された銅 めっき被膜は、予想に反して JIS K5400に準拠したクロスカット剥離試験を行うと、 磁石の表面力 容易に剥離するような密着性に劣るものであった。
そこで本発明者は、特開昭 59— 136491号公報に記載された方法で、希土類系 永久磁石の表面に密着性に優れた銅めつき被膜を形成することができない原因を追 求した結果、希土類系永久磁石の腐食を抑制するためにアルカリ性に調整しためつ き液に磁石を浸漬すると、磁石の構成金属である鉄の水酸化物などからなる不働態 被膜が磁石の表面に生成することで磁石の表面変質を引き起こし、銅めつき被膜は 磁石の変質表面に形成されることから、結果として、磁石の表面に対する銅めつき被 膜の密着性が低下することを突き止めた。そして、希土類系永久磁石の表面にこの ような不働態被膜が生成することを抑制するために、めっき液に Feイオンとのキレート 安定度定数が高いキレート剤としてダルコン酸および Zまたはその塩を配合すること で、希土類系永久磁石の表面に密着性に優れた銅めつき被膜を形成することができ ることを見出した。
上記の知見に基づいてなされた本発明の銅めつき被膜を表面に有する希土類系 永久磁石の製造方法は、請求項 1記載の通り、 pHが 9. 0〜11. 5に調整され、(1) Cu2+イオン、(2)リン原子数が 2以上の有機リン酸および Zまたはその塩、(3)ダルコ ン酸および Zまたはその塩、(4)硫酸塩および Zまたは硝酸塩、(5)シユウ酸、酒石 酸、クェン酸、マロン酸、リンゴ酸カゝら選ばれる少なくとも 1つの有機カルボン酸および Zまたはその塩を少なくとも含有する {ただし (2)〜(5)の成分力も銅塩は除く }めつ
き液を使用して、電気銅めつき処理により、希土類系永久磁石の表面に銅めつき被 膜を形成することを特徴とする。
また、請求項 2記載の製造方法は、請求項 1記載の製造方法において、(2)の成分 として、 HEDPおよび Zまたはその塩、 ATMPおよび Zまたはその塩の少なくとも 1 つを使用することを特徴とする。
また、請求項 3記載の製造方法は、請求項 1記載の製造方法において、(3)の成分 として、ダルコン酸ナトリウムを使用することを特徴とする。
また、請求項 4記載の製造方法は、請求項 1記載の製造方法において、(4)の成分 として、硫酸ナトリウムを使用することを特徴とする。
また、請求項 5記載の製造方法は、請求項 1記載の製造方法において、(5)の成分 として、酒石酸ナトリウムを使用することを特徴とする。
また、請求項 6記載の製造方法は、請求項 1記載の製造方法において、 pHが 9. 0 〜: L1. 5に調整され、(l) Cu2+イオンを 0. 02molZL〜0. 15mol/L, (2)リン原子 数が 2以上の有機リン酸および Zまたはその塩を 0. lmolZL〜0. 5mol/L, (3) ダルコン酸および Zまたはその塩を 0. 005molZL〜0. 5mol/L, (4)硫酸塩およ び Zまたは硝酸塩を 0. 01molZL〜5. Omol/L, (5)シユウ酸、酒石酸、クェン酸 、マロン酸、リンゴ酸力 選ばれる少なくとも 1つの有機カルボン酸および Zまたはそ の塩を 0. 01molZL〜0. 5molZL少なくとも含有する {ただし(2)〜(5)の成分から 銅塩は除く }めっき液を使用することを特徴とする。
また、請求項 7記載の製造方法は、請求項 1記載の製造方法において、めっき液の 浴温が 40°C〜70°Cの状態で電気銅めつき処理を行うことを特徴とする。
また、本発明の銅めつき被膜を表面に有する希土類系永久磁石は、請求項 8記載 の通り、請求項 1記載の製造方法によって製造されてなることを特徴とする。
また、本発明の電気銅めつき処理用めつき液は、請求項 9記載の通り、 pHが 9. 0 〜: L1. 5に調整され、(l) Cu2+イオンを 0. 02molZL〜0. 15mol/L, (2)リン原子 数が 2以上の有機リン酸および Zまたはその塩を 0. lmolZL〜0. 5mol/L, (3) ダルコン酸および Zまたはその塩を 0. 005molZL〜0. 5mol/L, (4)硫酸塩およ び Zまたは硝酸塩を 0. 01molZL〜5. Omol/L, (5)シユウ酸、酒石酸、クェン酸
、マロン酸、リンゴ酸力 選ばれる少なくとも 1つの有機カルボン酸および Zまたはそ の塩を 0. 01molZL〜0. 5molZL少なくとも含有してなる {ただし(2)〜(5)の成分 から銅塩は除くにとを特徴とする。
発明の効果
[0008] 本発明によれば、希土類系永久磁石の表面に密着性に優れた銅めつき被膜を形 成することができる、新規な電気銅めつき処理用めつき液を使用した、銅めつき被膜 を表面に有する希土類系永久磁石の製造方法を提供することができる。
図面の簡単な説明
[0009] [図 1]実施例における実施例 1において磁石の表面に形成された銅めつき被膜の表 面の SEM写真である。
[図 2]同、比較例 3において磁石の表面に形成された銅めつき被膜の表面の SEM写 真である。
[図 3]同、試験例 1における硫酸ナトリウムのめっき液の限界電流密度を向上させる効 果を示すグラフである。
発明を実施するための最良の形態
[0010] 本発明の銅めつき被膜を表面に有する希土類系永久磁石の製造方法は、 pHが 9 . 0〜11. 5に調整され、(l) Cu2+イオン、(2)リン原子数が 2以上の有機リン酸およ び Zまたはその塩、(3)ダルコン酸および Zまたはその塩、(4)硫酸塩および Zまた は硝酸塩、(5)シユウ酸、酒石酸、クェン酸、マロン酸、リンゴ酸カゝら選ばれる少なくと も 1つの有機カルボン酸および Zまたはその塩を少なくとも含有する {ただし(2)〜(5 )の成分から銅塩は除く }めっき液を使用して、電気銅めつき処理により、希土類系永 久磁石の表面に銅めつき被膜を形成することを特徴とするものである。
[0011] 本発明において、電気銅めつき処理用めつき液を構成する Cu2+イオンの供給源と しては、特に限定されるものではなぐ例えば、硫酸銅、塩化第二銅、ピロリン酸銅、 水酸化第二銅、硝酸銅、炭酸銅などを使用することができる。
[0012] リン原子数が 2以上の有機リン酸および Zまたはその塩は、 Cu2+イオンとのキレー ト安定度定数が高いキレート剤として使用する。リン原子数が 2以上の有機リン酸とし ては、前出の HEDP、 ATMPなどを挙げることができる。その塩としては、ナトリウム
塩やカリウム塩などを挙げることができる。
[0013] ダルコン酸および Zまたはその塩は、 Feイオンとのキレート安定度定数が高いキレ ート剤として使用する。ダルコン酸塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などを挙げる ことができる。
[0014] 硫酸塩および Zまたは硝酸塩は、めっき液の限界電流密度を大きくして磁石の表 面に良好な銅めつき被膜を形成することができる電流値の範囲を拡大するために使 用する。好適には硫酸ナトリウムを挙げることができる。硫酸ナトリウムを使用すること で、めっき効率をよくして生産性の向上を図ることができる他、磁石の表面に形成さ れる銅めつき被膜の緻密性の向上を図ることもできる。
[0015] シユウ酸、酒石酸、クェン酸、マロン酸、リンゴ酸カゝら選ばれる少なくとも 1つの有機 カルボン酸および Zまたはその塩は、磁石の表面に形成される銅めつき被膜の緻密 性や平滑性を向上させるためや、陽極の不働体ィ匕を抑制して銅の溶出を促すため などに使用する。これらの有機カルボン酸塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などを 挙げることができ、好適には酒石酸ナトリウムを挙げることができる。
[0016] 電気銅めつき処理用めつき液の pHを 9. 0〜: L1. 5と規定するのは、 pHが 9. 0を下 回ると、銅イオンと錯体を形成させるためにめつき液に配合したキレート剤のキレート 力が低下することで、めっき液中に遊離の銅イオンが増加し、磁石の表面に銅が置 換析出する恐れがある一方、 pHが 11. 5を上回ると、電気銅めつき処理を行うに際に 陽極の不働態化が起こりやすぐ浴管理が困難になる恐れや、めっき液中に銅のヒド ロキシル錯体などが生成することで、磁石の表面に形成される銅めつき被膜の膜質 に悪影響を及ぼす恐れがある力もである。キレート剤として機能する(2)の成分と (3) の成分の好適な組み合わせとしては、 HEDPとダルコン酸ナトリウムの組み合わせを 挙げることができる。この組み合わせを採用した場合、電析粒子が微細で非常に緻 密な膜質の銅めつき被膜を優れた密着性のもとに磁石の表面に形成することができ る。
[0017] 好適な電気銅めつき処理用めつき液としては、 pHが 9. 0〜11. 5に調整され、(1) Cu2+イオンを 0. 02molZL〜0. 15mol/L, (2)リン原子数が 2以上の有機リン酸 および Zまたはその塩を 0. lmolZL〜0. 5molZL、(3)ダルコン酸および Zまた
はその塩を 0. 005molZL〜0. 5mol/L, (4)硫酸塩および Zまたは硝酸塩を 0. 01molZL〜5. Omol/L, (5)シユウ酸、酒石酸、クェン酸、マロン酸、リンゴ酸から 選ばれる少なくとも 1つの有機カルボン酸および Zまたはその塩を 0. 01molZL〜0 . 5molZL少なくとも含有する {ただし (2)〜(5)の成分から銅塩は除く }めっき液が 挙げられる。ここで、 Cu2+イオンの含有量を 0. 02mol/L〜0. 15molZLと規定す るのは、 0. 02molZLを下回ると、限界電流密度が著しく低下する恐れがある一方、 0. 15molZLを上回ると、めっき液中に遊離の銅イオンが増加し、磁石の表面に銅 が置換析出する恐れがある力 である。リン原子数が 2以上の有機リン酸および Zま たはその塩の含有量を 0. lmolZL〜0. 5molZLと規定するのは、 0. ImolZLを 下回ると、めっき液中にぉ ヽて銅イオンを十分にキレートすることができな 、恐れがあ る一方、 0. 5molZLを上回っても、効果の上昇は期待できず、コストの上昇を招来 するだけであるからである。ダルコン酸および Zまたはその塩の含有量を 0. 005mol ZL〜0. 5molZLと規定するのは、 0. 005molZLを下回ると、磁石の構成金属で ある鉄の水酸ィ匕物など力 なる不働態被膜が磁石の表面に生成することで引き起こ される磁石の表面変質を抑制することが困難になる恐れや、十分な電流効率を確保 することができない恐れがある一方、 0. 5molZLを上回ると、磁石の表面からの磁 石の構成金属である鉄などの溶出が激しく起こり、銅めつき被膜が形成されない恐れ がある力 である。硫酸塩および Zまたは硝酸塩の含有量を 0. 01molZL〜5. Om olZLと規定するのは、 0. OlmolZLを下回ると、めっき液の導電率が低下すること で銅の析出効率が悪くなる恐れがある一方、 5. OmolZLを上回っても、効果の上昇 は期待できず、コストの上昇を招来するだけであるからである。なお、硫酸塩および Zまたは硝酸塩の含有量の上限は 0. 5molZLとすることが望ましい。硫酸塩および Zまたは硝酸塩の含有量が 0. 5molZLを上回るとその時点で効果の上昇が少なく なる力 である。し力しながら、量産の現場において大型バレルを用いた処理を行う 場合や小型磁石を一度に大量処理する場合、バレル内部への磁石の充填率が高 ヽ とバレル中心部の電流密度が低下してめっきむらが発生することがある力 めっき液 に硫酸塩および Zまたは硝酸塩を過剰に含有させることで、このような事態を防ぐこ とができる。シユウ酸、酒石酸、クェン酸、マロン酸、リンゴ酸力 選ばれる少なくとも 1
つの有機カルボン酸および/またはその塩の含有量を 0. 01mol/L〜0. 5mol/ Lと規定するのは、 0. OlmolZLを下回ると、めっき被膜の緻密性や平滑性を向上さ せる効果や、陽極の不働体化を抑制して銅の溶出を促す効果が十分に発揮されな い恐れがある一方、 0. 5molZLを上回ると、陰極の電流効率が低下することで銅の 析出効率が悪くなる恐れがあるからである。なお、 pHの調整は、必要に応じて水酸 化ナトリウムなどを使用して行えばよい。
[0018] なお、電気銅めつき処理用めつき液には、陽極の復極剤や導電性剤などとして、ァ ミノアルコール類や亜硫酸塩などの公知の成分を配合してもよい。
[0019] 電気銅めつき処理は、基本的に、通常行われる電気銅めつき処理の条件に従って 行えばよいが、めっき液の浴温は 40°C〜70°Cとすることが望ましい。 40°Cを下回ると 、限界電流が著しく低下する恐れがある一方、 70°Cを上回ると、陽極との遊離銅の不 均化反応が生じやすぐ浴管理が困難になる恐れがあるからである。めっき様式は、 ラックめつきでもバレルめつきでも 、ずれの様式であってもよ 、。陰極電流密度は 0. 05AZdm2〜4. OAZdm2とすることが望ましい。 0. 05AZdm2を下回ると、被膜の 形成効率が悪ぐ場合によってはめつき析出電位に到達せずに被膜が形成されない 恐れがある一方、 4. OAZdm2を上回ると、水素発生が激しく起こり、形成された銅め つき被膜の表面にピットや焼けが発生する恐れがあるからである。
[0020] 本発明によれば、希土類系永久磁石の表面に、例えば、 JIS K5400に準拠したク ロスカット剥離試験を行っても被膜剥離を起こすと!、つたことがな 、ほどの剥離強度 を示す、密着性に優れた銅めつき被膜を形成することができる。また、本発明によつ て希土類系永久磁石の表面に形成された銅めつき被膜は、光沢性に優れ、また、非 常に緻密かつ平滑なものである。なお、希土類系永久磁石の表面に形成する銅めつ き被膜の膜厚は、 0. 5 m〜30 mとすることが望ましい。 0. 5 mを下回ると、磁 石に対して十分な耐食性を付与することができない恐れがある一方、 30 mを上回 ると、磁石の有効体積の確保が困難になる恐れや生産効率が低下する恐れがあるか らである。希土類系永久磁石の表面に形成する銅めつき被膜の表面にさらに金属め つき被膜に例示される耐食性被膜などを積層形成してもよい。
実施例
[0021] 以下、本発明を実施例と比較例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに 限定して解釈されるものではない。なお、以下の実施例と比較例は、出発原料として 、電解鉄、フエロボロン、 Rとしての Ndを所要の磁石組成に配合し、溶解铸造後、機 械的粉砕法にて粗粉砕して力ゝら微粉砕することで粒度が 3 m〜10 mの微粉末を 得、これを lOkOeの磁界中で成形してからアルゴン雰囲気中で 1100°C X 1時間の 焼結を行った後、得られた焼結体に対して 600°C X 2時間の時効処理を行うことによ つて製造した、 15Nd— 7B— 78Fe組成(at%)の磁石体から切り出した、 3mm X 20 mm X 40mm寸法の試験片(以下「試験片八」と称する)と、 1mm X I . 5mm X 2mm 寸法の試験片(以下「試験片 」と称する)と、 4mm X 2. 9mm X 2. 9mm寸法の試 験片(以下「試験片 と称する)を、 0. ImolZLの硝酸溶液にて表面活性ィ匕を行つ た後、水洗して力も用いて行った。
[0022] 実施例 1 :
(1)硫酸銅 · 5水和物を 0. 06molZL、(2)HEDPを 0. 15mol/L, (3)ダルコン 酸ナトリウムを 0. Olmol/L, (4)硫酸ナトリウムを 0. lmol/L, (5)酒石酸ナトリウ ムを 0. lmol/L含有し、水酸ィ匕ナトリウムで pHを 11. 0に調整した電気銅めつき処 理用めっき液を使用し、めっき液の浴温を 60°Cにして、陰極電流密度が 0. 3A/dm 2で、試験片 Aに対し、 40分間バレル様式によって電気銅めつき処理を行い、試験片 Aの表面に銅めつき被膜を形成した。試験片 Aの表面に形成された銅めつき被膜の 膜厚は 4. であった(n= 10の平均値)。この銅めつき被膜は、 JIS K5400に 準拠したクロスカット剥離試験を行っても被膜剥離を起こすことがな 、、密着性に優 れたものであった (n= 10にて評価)。また、この銅めつき被膜は、光沢性に優れ、ま た、非常に緻密かつ平滑なものであった (表面 SEM観察による:図 1参照)。
[0023] 比較例 1 :
(1)硫酸銅 · 5水和物を 0. 16molZL、(2)ホスホノブタノトリカルボン酸(pHが 9. 0 〜11. 5の時の Cu2+イオンとのキレート安定度定数が 10. 0未満のキレート剤)を 0. 07molZL、(3)リン酸二水素ナトリウム · 2水和物を 0. ImolZL含有し、水酸化ナト リウムで pHを 10. 0に調整した電気銅めつき処理用めつき液を使用し、めっき液の浴 温を 60°Cにして、陰極電流密度が 1. OAZdm2で、試験片 Aと試験片 Bに対し、 30
分間バレル様式によって電気銅めつき処理を行った力 めっき液中に水酸化銅の沈 殿が生成してしまい、いずれの試験片に対しても、その表面に銅めつき被膜を形成 することができな力つた。
[0024] 比較例 2:
(1)硫酸銅' 5水和物を0. 30molZL、(2)ホスホノブタノトリカルボン酸を 0. 07mo 1ZL、(3)ピロリン酸カリウムを 0. 05molZL含有し、水酸化ナトリウムで pHを 10. 0 に調整した電気銅めつき処理用めつき液を使用し、めっき液の浴温を 60°Cにして、 陰極電流密度が 1. OAZdm2で、試験片 Aと試験片 Bに対し、 30分間バレル様式に よって電気銅めつき処理を行った力 めっき液中に水酸化銅の沈殿が生成してしま い、いずれの試験片に対しても、その表面に銅めつき被膜を形成することができなか つた o
[0025] 比較例 3 :
酒石酸ナトリウムを含有しな ヽこと以外は実施例 1にお ヽて使用した電気銅めつき 処理用めつき液と同じ電気銅めつき処理用めつき液を使用し、実施例 1と同じ条件で 電気銅めつき処理を行い、試験片 Aの表面に銅めつき被膜を形成したところ、試験片 Aの表面に形成された銅めつき被膜は緻密性と平滑性に劣るものであった (表面 SE M観察による:図 2参照)。よって、実施例 1と比較例 3から、酒石酸ナトリウムの磁石 の表面に形成される銅めつき被膜の緻密性と平滑性を向上させる効果を確認するこ とができた。
[0026] 実施例 2:
酒石酸ナトリウムのかわりにシユウ酸ナトリウムを含有すること以外は実施例 1にお ヽ て使用した電気銅めつき処理用めつき液と同じ電気銅めつき処理用めつき液を使用 し、実施例 1と同じ条件で電気銅めつき処理を行い、試験片 Aの表面に銅めつき被膜 を形成したところ、試験片 Aの表面に形成された銅めつき被膜は、光沢性に優れ、ま た、非常に緻密かつ平滑なものであった (表面 SEM観察による)。
[0027] 実施例 3 :
酒石酸ナトリウムのかわりにクェン酸ナトリウムを含有すること以外は実施例 1にお ヽ て使用した電気銅めつき処理用めつき液と同じ電気銅めつき処理用めつき液を使用
し、実施例 1と同じ条件で電気銅めつき処理を行い、試験片 Aの表面に銅めつき被膜 を形成したところ、試験片 Aの表面に形成された銅めつき被膜は、光沢性に優れ、ま た、非常に緻密かつ平滑なものであった (表面 SEM観察による)。
[0028] 実施例 4 :
酒石酸ナトリウムのかわりにマロン酸ナトリウムを含有すること以外は実施例 1にお ヽ て使用した電気銅めつき処理用めつき液と同じ電気銅めつき処理用めつき液を使用 し、実施例 1と同じ条件で電気銅めつき処理を行い、試験片 Aの表面に銅めつき被膜 を形成したところ、試験片 Aの表面に形成された銅めつき被膜は、光沢性に優れ、ま た、非常に緻密かつ平滑なものであった (表面 SEM観察による)。
[0029] 実施例 5 :
酒石酸ナトリウムのかわりにリンゴ酸ナトリウムを含有すること以外は実施例 1にお ヽ て使用した電気銅めつき処理用めつき液と同じ電気銅めつき処理用めつき液を使用 し、実施例 1と同じ条件で電気銅めつき処理を行い、試験片 Aの表面に銅めつき被膜 を形成したところ、試験片 Aの表面に形成された銅めつき被膜は、光沢性に優れ、ま た、非常に緻密かつ平滑なものであった (表面 SEM観察による)。
[0030] 実施例 6 :
実施例 1において使用した電気銅めつき処理用めつき液と同じ電気銅めつき処理 用めつき液を使用し、実施例 1と同じ条件で電気銅めつき処理を行い、試験片 Aと試 験片 Cの表面に銅めつき被膜を形成した。試験片 Aと試験片 Cの表面に形成された 銅めつき被膜の膜厚は 4. 6 mであった (n= 5の平均値)。この銅めつき被膜は、光 沢性に優れ、また、非常に緻密かつ平滑なものであった (表面 SEM観察による)。次 に、この表面に銅めつき被膜を有する試験片 Aと試験片 Cに対し、慣用的なワット-ッ ケルめっき液を使用し、めっき液の浴温を 50°Cにして、陰極電流密度が 0. 3A/dm 2で、 30分間バレル様式によって電気ニッケルめっき処理を行い、銅めつき被膜の表 面にニッケルめっき被膜を形成した。銅めつき被膜の表面に形成されたニッケルめつ き被膜の膜厚は 4. O /z mであった (n= 5の平均値)。こうして得られたニッケルめっき 被膜と銅めつき被膜からなる積層被膜を表面に有する試験片 Aと試験片 Cを 450°C で 10分間加熱したところ、積層被膜の膨れ、割れ、剥れなどの現象は見られず、試
験片 Aと試験片 Cの表面に対する積層被膜の密着性は優れたものであることがわか つた (n=3にて評価)。また、ニッケルめっき被膜と銅めつき被膜からなる積層被膜を 表面に有する試験片 Aに対して JIS K5400に準拠したクロスカット剥離試験を行つ ても積層被膜の剥離は起こらな力つた (n=2にて評価)。また、ニッケルめっき被膜と 銅めつき被膜からなる積層被膜を表面に有する試験片 Cの磁気特性を評価したとこ ろ、 Bは 1. 36T (試験片 C自体: 1. 38T)、H は 1191. 6kAZm (同: 1181. 8kA r cj
Zm)、Hは 1168. 2kAZm (同: 1154. 6kAZm)、角型性(H /H )は 0. 980 (
k k c]
同: 0. 977)であり(n= 5の平均値)、試験片 C自体の磁気特性と遜色がな 、優れた 磁気特性を有していた。
[0031] 実施例 7:
(1)硫酸銅 · 5水和物を 0. 08molZL、(2)HEDPを 0. 15mol/L, (3)ダルコン 酸ナトリウムを 0. 05molZL、(4)硫酸ナトリウムを 2. Omol/L, (5)酒石酸ナトリウ ムを 0. lmol/L含有し、水酸ィ匕ナトリウムで pHを 11. 0に調整した電気銅めつき処 理用めっき液を使用し、実施例 6と同じ条件で電気銅めつき処理を行った後、さら〖こ 実施例 6と同じ条件で電気ニッケルめっき処理を行い、試験片 Aと試験片 Cの表面に ニッケルめっき被膜と銅めつき被膜からなる積層被膜を形成した。試験片の表面に形 成された銅めつき被膜の性状、試験片の表面に対する積層被膜の密着性、積層被 膜を表面に有する試験片の磁気特性について、実施例 6と同じ評価を行ったところ、 実施例 6において得られた評価結果と同等の結果が得られた。
[0032] 試験例 1 :
(1)硫酸銅 · 5水和物を 0. 06molZL、(2)HEDPを 0. 15mol/L, (3)ダルコン 酸ナトリウムを 0. 05molZL、(4)硫酸ナトリウムを 0. lmol/L, (5)酒石酸ナトリウ ムを 0. lmol/L含有し、水酸化ナトリウムで pHを 10. 0、 10. 5、 11. 0にそれぞれ 調整した電気銅めつき処理用めつき液の限界電流密度を測定した。
また、硫酸ナトリウムを含有しないこと以外は上記の電気銅めつき処理用めつき液と 同じ電気銅めつき処理用めつき液の限界電流密度を測定した。
結果を図 3に示す。図 3から、硫酸ナトリウムのめっき液の限界電流密度を向上させ る効果を確認することができた。
産業上の利用可能性
本発明は、希土類系永久磁石の表面に密着性に優れた銅めつき被膜を形成する ことができる、新規な電気銅めつき処理用めつき液を使用した、銅めつき被膜を表面 に有する希土類系永久磁石の製造方法を提供することができる点において産業上 の利用可能性を有する。