JP2001295091A - 表面処理方法および磁石の製造方法 - Google Patents

表面処理方法および磁石の製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 密着性に優れた保護膜が成膜され、耐食性お
よび耐熱性に優れた磁石を製造する方法と、たとえば希
土類磁石などのように、保護膜の形成が困難な素材の表
面に、密着性に優れた保護膜を形成するための表面処理
方法とを提供すること。 【解決手段】 希土類を含む磁石の表面に、銅塩化合
物、リン化合物、脂肪族ホスホン酸化合物、水酸化塩を
少なくとも含む銅メッキ液を用いて電解メッキを行い、
銅被膜から成る第1保護膜を成膜する工程と、前記第1
保護膜の表面に、第2保護膜を成膜する工程とを有する
永久磁石の製造方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表面処理方法およ
び磁石の製造方法に係り、さらに詳しくは、密着性に優
れた保護膜が成膜され、耐食性および耐熱性に優れた磁
石を製造する方法と、たとえば希土類磁石などのよう
に、保護膜の形成が困難な素材の表面に、密着性に優れ
た保護膜を形成するための表面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】高性能な永久磁石として、粉末冶金法に
よるSm−Co系希土類永久磁石が量産されている。し
かしながら、この永久磁石は、原料として高価なSmお
よびCoを使用することから、高価であるという課題を
有する。
【0003】希土類の中では、原子量が小さい希土類元
素、たとえばセリウム(Se)、プラセオジム(P
r)、ネオジム(Nd)は、サマリウム(Sm)よりも
豊富に存在し、価格が比較的安い。また、鉄(Fe)も
安価である。
【0004】そこで、近年、比較的安価な原料を用い、
Sm−Co系希土類永久磁石と同等以上の磁気性能を有
するNd−Fe−B系希土類永久磁石が開発され、実用
化されている。
【0005】ところが、この永久磁石は、主成分として
酸化され易い希土類元素と鉄とを含有するために、耐食
性が比較的低く、性能の劣化およびばらつきなどが課題
となっている。
【0006】そこで、この種の希土類(R)永久磁石の
耐食性を改善するために、種々の方法が提案されてい
る。たとえば特開昭60−54406号公報では、R−
Fe−B系永久磁石の表面に耐酸化性のメッキ被膜を施
すことで、表面に生成する酸化物を抑制している。この
公報に示す技術では、具体的には、Cu+Niメッキが
用いられ、Cu下地として青化銅液を使用している。こ
のような処理を行った永久磁石は、耐酸化性に優れ、磁
気回路等に組み込んだ場合に、出力特性の安定化および
信頼性の向上にきわめて有効である。
【0007】また、特開平1−286407号公報で
は、R−Fe−B系永久磁石に、溶存酸素を抜いた水溶
液を用いたアルカリ性浴中(具体的には、ピロリン酸銅
メッキを使用)にて電解メッキを行い、磁石の表面にメ
ッキを行っている。この場合、磁石表面に密着性の良い
メッキ膜が形成され、耐食性に優れ、且つ磁気特性にお
いても劣らない磁石を得ることが可能である。
【0008】さらに、特開平8−3763号公報では、
磁石の表面に無電解Cuメッキ、電気Cuメッキ、電気
Ni・P合金メッキを順次行い、メッキ被膜を多層膜に
することで、R−Fe−B系永久磁石の耐食性を著しく
向上させることができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】メッキ浴として、上述
した特開昭60−54406号公報では青化銅を用い、
特開平1−286407号公報ではピロリン酸銅を使用
している。ピロリン酸銅を用いたメッキは、特にバレル
メッキ法において、Cuよりイオン化傾向の大きいR−
Fe−B系永久磁石が浸漬により溶解し、代わってメッ
キ液中の銅イオンが還元されてしまう。このため、R−
Fe−B系磁石の表面に金属として析出する置換析出反
応により銅が膜として成膜しない。
【0010】また、青化銅を用いたメッキでは、成膜は
するが膜と素体との密着性が弱い。従って、青化銅の電
解Cuメッキ上に金属メッキを施したCu+金属メッキ
では、素体とメッキ膜の密着性の悪い被膜となる。ま
た、青化銅メッキ液は、何らかの防止策を図らなけれ
ば、環境に悪影響を与えるおそれがある。
【0011】また、特開平8−3763号公報では、無
電界Cuメッキを用いているが、無電解Cuメッキは、
メッキ中に水素が発生する。Nd−Fe−B系永久磁石
は、水素により脆化する性質があり、メッキ中に発生す
る水素ガスによって素材の破壊が起こり、封孔性の良い
メッキ膜を得ることができない。また、同様な理由によ
り膜の密着性が弱い。従って、無電解Cuメッキ上に金
属メッキを施した場合も、耐食性に課題があると共に、
素体とメッキ膜との密着性の良い被膜を得ることはでき
ない。
【0012】さらに、Nd−Fe−B系永久磁石は、他
の永久磁石と異なり、C軸と垂直な方向に負の膨張係数
を持ち、温度の上昇と共に収縮する傾向にある。このた
めに、従来方法で成膜されたメッキ膜で被覆された永久
磁石は、磁石とメッキ膜の膨張係数の違いから、温度変
化により磁気特性の劣化を引き起こし耐熱性に問題があ
った。
【0013】本発明は、このような実状に鑑みてなさ
れ、密着性に優れた保護膜が成膜され、耐食性および耐
熱性に優れた磁石を製造する方法と、たとえば希土類磁
石などのように、保護膜の形成が困難な素材の表面に、
密着性に優れた保護膜を形成するための表面処理方法と
を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、密着性に
優れた保護膜が成膜され、耐食性および耐熱性に優れた
磁石について鋭意検討した結果、特定組成のメッキ浴を
用いて電解メッキを行うことにより、保護膜の形成が困
難な磁石などの素材の表面に、密着性に優れた保護膜を
形成することができることを見出し、本発明を完成させ
るに至った。
【0015】すなわち、本発明に係る磁石の表面処理方
法は、希土類を含む磁石の表面に、銅塩化合物、リン化
合物、脂肪族ホスホン酸化合物、水酸化塩を少なくとも
含む銅メッキ液を用いて電解メッキを行い、銅被膜から
成る第1保護膜を成膜することを特徴とする。
【0016】また、本発明に係る素材の表面処理方法
は、所定方向に負の膨張係数を持つ素材の表面に、銅塩
化合物、リン化合物、脂肪族ホスホン酸化合物、水酸化
塩を少なくとも含む銅メッキ液を用いて電解メッキを行
い、銅被膜から成る第1保護膜を成膜することを特徴と
する。
【0017】本発明に係る素材の表面処理方法が適用さ
れる素材としては、特に限定されないが、R−Fe−B
系永久磁石の場合に効果が大きい。また、Tb−Fe系
磁歪材などにも適用が可能である。
【0018】本発明の第1の観点に係る磁石の製造方法
は、希土類を含む磁石の表面に、銅塩化合物、リン化合
物、脂肪族ホスホン酸化合物、水酸化塩を少なくとも含
む銅メッキ液を用いて電解メッキを行い、銅被膜から成
る第1保護膜を成膜する工程と、前記第1保護膜の表面
に、第2保護膜を成膜する工程とを有する。
【0019】本発明の第2の観点に係る磁石の製造方法
は、所定方向に負の膨張係数を持つ磁石の表面に、銅塩
化合物、リン化合物、脂肪族ホスホン酸化合物、水酸化
塩を少なくとも含む銅メッキ液を用いて電解メッキを行
い、銅被膜から成る第1保護膜を成膜する工程と、前記
第1保護膜の表面に、第2保護膜を成膜する工程とを有
する。
【0020】前記第2保護膜としては、特に限定され
ず、金属メッキ膜であっても良い。または、第2保護膜
は、前記第1保護膜の上に、硫酸銅メッキ浴、ピロリン
酸銅メッキ浴または青化銅メッキ浴により形成された銅
被膜でも良い。さらにまた、第2保護膜は、前記第1保
護膜の上に、硫酸銅メッキ浴、ピロリン酸銅メッキ浴ま
たは青化銅メッキ浴により、他の銅被膜を形成し、この
銅被膜の表面に金属メッキ膜を形成した多層膜でも良
い。さらにまた、第2保護膜は、樹脂被膜でも良い。
【0021】本発明の方法が適用される磁石としては、
特に限定されないが、R(ただし、RはYを含む希土類
元素の一種以上)、FeおよびBを含むR−Fe−B系
希土類磁石である場合に、特に効果が大きい。R−Fe
−B系希土類磁石の代表例が、Nd−Fe−B系希土類
磁石である。
【0022】本発明の方法において、第1保護膜を形成
するための銅メッキ浴は、銅として10〜20g/リッ
トルを含有し、リンとして2〜6g/リットルを含有し
ている銅メッキ浴が望ましい。
【0023】本発明の製造方法により得られる永久磁石
の具体的な用途としては、特に限定されないが、自動車
・産業機械などの、使用条件として耐熱性および耐温度
変化性を要求される部品、または部品の製造過程で耐熱
性を要求される(例えば磁石を樹脂モールディングする
等)部品などとして好適に用いられる。また、本発明の
製造方法により得られる永久磁石は、形状が特に薄い
等、重量に対する比表面積が大きい場合でも、良好な磁
気特性を有する。
【0024】
【発明の実施の形態】以下、本発明を、実施形態に基づ
き説明する。本実施形態では、耐食性および耐熱性に優
れた永久磁石の製造方法について説明する。
【0025】永久磁石 本実施形態において、保護膜が表面に形成される永久磁
石は、R(ただし、RはYを含む希土類元素の一種以
上)、FeおよびBを含むR−Fe−B系希土類磁石で
ある。
【0026】R、FeおよびBの含有量は、5.5原子
%≦R≦30原子%、42原子%≦Fe≦90原子%、
2原子%≦B≦28原子%、であることが好ましい。
【0027】特に永久磁石体を焼結法により製造する場
合、下記の組成であることが好ましい。希土類元素Rと
しては、Nd,Pr,Ho,Tbのうち少なくとも1
種、あるいはさらに、La,Sm,Ce,Gd,Er,
Eu,Pm,Tm,Yb,Yのうち1種以上を含むもの
が好ましい。なお、Rとして2種以上の元素を用いる場
合、原料としてミッシュメタル等の混合物を用いること
もできる。
【0028】Rの含有量は、5.5〜30原子%である
ことが好ましい。Rの含有量が少なすぎると、磁石の結
晶構造がα−鉄と同一構造の立方晶組織となるため、高
い保持力(iHc)が得られず、多すぎると、Rリッチ
な非磁性相が多くなり、残留磁束密度(Br)が低下す
る。
【0029】Feの含有量は42〜90原子%であるこ
とが好ましい。Feの含有量が少なすぎると、Brが低
下し、多すぎると、iHcが低下する。
【0030】Bの含有量は、2〜28原子%であること
が好ましい。Bの含有量が少なすぎると、磁石の結晶構
造が菱面体組織となるためiHcが不十分であり、多す
ぎると、Bリッチな非磁性相が多くなるため、Brが低
下する。
【0031】なお、Feの一部をCoで置換することに
より、磁気特性を損うことなく温度特性を改善すること
ができる。この場合、Co置換量がFeの50%を超え
ると磁気特性が劣化するため、Co置換量は50%以下
とすることが好ましい。
【0032】また、R、FeおよびBの他、不可避的不
純物として、Ni,Si,Al,Cu,Ca等が全体の
3原子%以下含有されていてもよい。
【0033】さらに、Bの一部を、C,P,S,Cuの
うちの1種以上で置換することにより、生産性の向上お
よび低コスト化が実現できる。この場合、置換量は全体
の4原子%以下であることが好ましい。また、保磁力の
向上、生産性の向上、低コスト化のために、Al,T
i,V,Cr,Mn,Bi,Nb,Ta,Mo,W,S
b,Ge,Sn,Zr,Ni,Si,Hf等の1種以上
を添加してもよい。この場合、添加量は総計で10原子
%以下とすることが好ましい。
【0034】本実施形態における永久磁石は、実質的に
正方晶系の結晶構造の主相を有する。この主相の粒径
は、1〜100μm程度であることが好ましい。そし
て、通常、体積比で1〜50%の非磁性相を含むもので
ある。
【0035】上記のような永久磁石体は、以下に述べる
ような焼結法により製造されることが好ましい。まず、
所望の組成の合金を鋳造し、インゴットを得る。得られ
たインゴットをスタンプミル等により粒径10〜100
μm程度に粗粉砕し、次いで、ボールミル等により0.
5〜5μm程度の粒径に微粉砕する。
【0036】得られた粉末を、好ましくは磁場中にて成
形する。この場合、磁場強度は790kA/m以上、成
形圧力は、100〜500MPa程度であることが好ま
しい。
【0037】得られた成形体を、1000〜1200℃
で0.5〜5時間焼結し、急冷する。なお、焼結雰囲気
は、Arガス等の不活性ガス雰囲気であることが好まし
い。その後、好ましくは不活性ガス雰囲気中で、500
〜900℃にて1〜5時間、熱処理(時効処理)を行
う。このようにして製造された永久磁石は、たとえばR
がNdである場合に、特に磁気特性に優れるが、C軸と
垂直な方向に負の膨張係数を有することが知られてい
る。この永久磁石の表面に、以下に示す方法により保護
膜を形成する。
【0038】保護膜の形成 まず、磁石の表面に、銅塩化合物、リン化合物、脂肪族
ホスホン酸化合物、水酸化塩を少なくとも含む銅メッキ
液を用いて電解メッキを行い、銅被膜から成る第1保護
膜を成膜する。
【0039】銅塩化合物としては、特に限定されない
が、たとえば硫酸銅、ピロリン酸銅、塩化銅、ホスホン
酸銅などが例示される。リン化合物としては、特に限定
されないが、たとえばリン酸銅、ピロリン酸カリウム、
リン酸ナトリウム、リン酸カルシウムなどが例示され
る。脂肪族ホスホン酸化合物としては、特に限定されな
いが、たとえばホスホン酸有機化合物、ホスホン酸アル
カリ金属化合物、ホスホン酸遷移金属化合物が例示され
る。水酸化塩としては、特に限定されないが、たとえば
水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム
などが例示される。
【0040】第1保護膜を形成するための銅メッキ浴
は、銅として10〜20g/リットルを含有し、リンと
して2〜6g/リットルを含有している水溶液が望まし
い。また、この銅メッキ浴は、脂肪族ホスホン酸化合物
として10〜20g/リットルを含有し、水酸化塩とし
て50〜100g/リットルを含有する。また、この銅
メッキ浴には、光沢剤が、0〜10ミリリットル/リッ
トルの範囲で含まれていても良い。光沢剤としては、特
に限定されないが、たとえば有機化合物、アミノ酸化合
物、ホスホン酸化合物などが例示される。
【0041】この銅メッキ浴のペーハは、好ましくは8
〜12、さらに好ましくは9.5〜10.5である。ま
た、メッキ浴の温度は、好ましくは55〜65℃であ
る。メッキの手法は、特に限定されないが、バレルメッ
キ法が好ましい。メッキ時の電流密度は、特に限定され
ないが、0〜5A/dm程度が好ましく、この銅メ
ッキにより成膜される第1保護膜の厚みは、0.1〜1
5.0μm程度が好ましい。第1保護膜の厚みが小さす
ぎると、本発明の作用効果が小さく、厚すぎると、経済
的でない。このようにして形成された第1保護膜は、メ
ッキ時に磁石素材に対して置換反応が起こりにくく、密
着性の良い膜である。
【0042】第1保護膜が形成された永久磁石の表面に
は、次に、第2保護膜が形成される。第2保護膜として
は、特に限定されないが、本実施形態では、電解ニッケ
ルメッキ膜、またはピロリン酸銅メッキ膜および電解ニ
ッケルメッキ膜との多層膜で構成される。
【0043】電解ニッケルメッキ膜を形成する場合に
は、バレルメッキ法を用いることが好ましく、そのメッ
キ浴としては、下記の組成のメッキ浴を用いることが好
ましい。このメッキ浴には、スルファミン酸ニッケルを
150〜500g/リットル、臭化ニッケルを1〜10
g/リットル、硼酸を30〜50g/リットル、光沢剤
を0〜6ミリリットル/リットル含むことが好ましい。
このメッキ浴のペーハは、好ましくは3.5〜6.0さ
らに好ましくは4.0〜5.0であり、その温度は、好
ましくは40〜50℃である。
【0044】ピロリン酸銅メッキ膜を形成する場合に
は、バレルメッキ法を用いることが好ましく、そのメッ
キ浴としては、下記の組成のメッキ浴を用いることが好
ましい。このメッキ浴には、ピロリン酸銅3水和物を6
0〜110g/リットル、ピロリン酸カリウムを200
〜500g/リットル、アンモニアを1〜7g/リット
ル、光沢剤を0〜5ミリリットル/リットル含むことが
好ましい。このメッキ浴のペーハは、好ましくは8.0
〜11.0さらに好ましくは8.5〜9.5であり、そ
の温度は、好ましくは50〜60℃である。
【0045】第2保護膜の膜厚は、第1保護膜の厚みの
0.1〜15倍程度であることが好ましい。
【0046】第1保護膜および第2保護膜が形成された
本実施形態に係る永久磁石は、保護膜の密着性に優れ、
耐食性および耐熱性が向上する。
【0047】なお、本発明は、上述した実施形態に限定
されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変する
ことができる。たとえば、本発明では、第2保護膜とし
ては、上述したメッキ膜に限らず、樹脂膜や塗装膜など
であっても良い。
【0048】
【実施例】以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づ
き説明するが、本発明は、これら実施例に限定されな
い。
【0049】実施例1 粉末冶金法によって作成した14Nd−1Dy−7B−
78Fe(数字は原子比)の組成をもつ焼結体を、Ar
雰囲気中で600℃にて2時間、熱処理を施し、56×
40×8(mm)の大きさに加工し、さらにバレル研磨
処理により面取りを行なって永久磁石素体を得た。
【0050】次いでこの永久磁石素体のサンプルを、ア
ルカリ性脱脂液で洗浄後、硝酸溶液にて表面の活性化を
行い、良く水洗した後、以下の様にメッキを行い、ま
ず、永久磁石素体の表面に第1保護膜を形成した。
【0051】第1保護膜を形成するためのメッキ浴とし
ては、下記の表1に示す特殊調合メッキ浴を用いた。銅
塩化合物としては、塩化銅を用い、リン化合物として
は、リン酸カリウムを用い、脂肪族ホスホン酸化合物と
してはホスホン酸有機化合物を用い、光沢剤としては有
機化合物を用いた。メッキ電流密度は、平均して1A/
dm以下であった。得られた第1保護膜の膜厚は5
μmであった。
【0052】次に、第1保護膜の表面に、第2保護膜と
して、電解ニッケルメッキ膜を形成した。電解ニッケル
メッキ膜は、表1に示す電解ニッケルメッキ浴を用いて
行った。電解ニッケルメッキ膜の膜厚は、5μmであっ
た。
【0053】
【表1】
【0054】このようにして得られた実施例1に係るN
d−Fe−B系磁石を、300℃の恒温槽に1時間以上
放置し加熱した後、室温まで自然冷却した。こうして一
度加熱した磁石と、全く加熱していない磁石との双方
を、飽和状態まで着磁し総磁束を測定し、総磁束の低下
率(特性低下率)を調べた。特性低下率は、下記の表2
に示すように、0.01%であった。
【0055】また、実施例1に係るNd−Fe−B系磁
石の表面に、10mmの幅で深さ30〜40μm、長さ
20〜30mmの切れ目を2本平行にいれて、切れ目の
片端を同様の深さの切れ目で結んで、その部分から垂直
にメッキ膜のみを引き剥がした場合の引き剥がし力を測
定した。引き剥がし力は、表2に示すように、50MP
a以上であった。
【0056】さらに、実施例1に係るNd−Fe−B系
磁石を、P.C.T.(プレッシャークッカーテスト:
120℃、100%RH、2atm)にて耐食性テスト
をしたところ、表2に示すように、20個のサンプルに
ついて、サビまたはフクレなどの発生はなかった。
【0057】
【表2】
【0058】実施例2 第1保護膜の膜厚を10μmとした以外は、実施例1と
同様にして保護膜を持つ永久磁石を製造し、同様な試験
を行った。結果を表2に示す。
【0059】実施例3 第1保護膜の膜厚を1μmとし、その表面に第2保護膜
として、4μmのピロリン酸銅メッキ膜と5μmの電解
ニッケルメッキ膜との多層膜を形成した以外は、実施例
1と同様にして保護膜を持つ永久磁石を製造し、同様な
試験を行った。結果を表2に示す。なお、ピロリン酸銅
メッキ膜を形成するためのメッキ浴は、表1に示すピロ
リン酸銅メッキ浴を用いた。
【0060】実施例4 4μmのピロリン酸銅メッキ膜を9μmのピロリン酸銅
メッキ膜とした以外は、実施例3と同様にして保護膜を
持つ永久磁石を製造し、同様な試験を行った。結果を表
2に示す。
【0061】比較例1 第1保護膜を形成するためのメッキ浴として、表1に示
す青化銅メッキ浴を用い、5μmの青化銅メッキ膜を形
成し、その表面に、第2保護膜として5μmの電解ニッ
ケルメッキ膜を形成した以外は、実施例1と同様にして
保護膜を持つ永久磁石を製造し、同様な試験を行った。
結果を表2に示す。
【0062】比較例2 5μmの青化銅メッキ膜の代わりに10μmの青化銅メ
ッキ膜を形成した以外は、比較例1と同様にして保護膜
を持つ永久磁石を製造し、同様な試験を行った。結果を
表2に示す。
【0063】比較例3 永久磁石素体の表面に電解ニッケルメッキ膜を単独で1
5μmの厚みで形成した以外は、実施例1と同様にして
保護膜を持つ永久磁石を製造し、同様な試験を行った。
結果を表2に示す。
【0064】評価 表2に示すように、比較例1〜3に比較して、実施例1
〜4では、300℃加熱後の総磁束の低下がほとんど無
い。これは、比較例では、磁石素体とメッキ被膜との熱
膨張の差により、加熱した際に、素体とメッキ膜との界
面でストレスによる素体の歪みが発生し、磁気特性が低
下すると考えられる。
【0065】また、表2に示すように、比較例に比較し
て、実施例では、引き剥がし力が大きく、密着力が強い
ことが確認できた。さらに、表2に示すように、実施例
では、サビまたはフクレなどの発生はないことが確認で
きた。また、実施例3および4の結果から、本発明に係
る特殊メッキ浴を用いたメッキ膜は、厚みが1μmでも
効果があることが確認できた。
【0066】
【発明の効果】以上説明してきたように、本発明によれ
ば、密着性に優れた保護膜が成膜され、耐食性および耐
熱性に優れた磁石を製造する方法を実現することができ
る。また、たとえば希土類磁石などのように、保護膜の
形成が困難な素材の表面に、密着性に優れた保護膜を形
成するための表面処理方法を提供することができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) H01F 41/02 H01F 41/02 G Fターム(参考) 4K023 AA12 AA19 BA06 BA08 BA11 BA12 BA25 CB07 DA02 4K024 AA03 AA09 AB02 BA02 BB14 CA01 GA01 GA04 4K044 AA02 AB08 BA06 BB03 BC02 BC05 BC11 CA18 5E040 AA04 BC01 BC08 BD01 CA01 HB14 5E062 CC03 CD04 CE04 CF01 CG07

Claims (9)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 希土類を含む磁石の表面に、銅塩化合
    物、リン化合物、脂肪族ホスホン酸化合物、水酸化塩を
    少なくとも含む銅メッキ液を用いて電解メッキを行い、
    銅被膜から成る第1保護膜を成膜することを特徴とする
    磁石の表面処理方法。
  2. 【請求項2】 所定方向に負の膨張係数を持つ素材の表
    面に、銅塩化合物、リン化合物、脂肪族ホスホン酸化合
    物、水酸化塩を少なくとも含む銅メッキ液を用いて電解
    メッキを行い、銅被膜から成る第1保護膜を成膜するこ
    とを特徴とする素材の表面処理方法。
  3. 【請求項3】 希土類を含む磁石の表面に、銅塩化合
    物、リン化合物、脂肪族ホスホン酸化合物、水酸化塩を
    少なくとも含む銅メッキ液を用いて電解メッキを行い、
    銅被膜から成る第1保護膜を成膜する工程と、 前記第1保護膜の表面に、第2保護膜を成膜する工程と
    を有する磁石の製造方法。
  4. 【請求項4】 所定方向に負の膨張係数を持つ磁石の表
    面に、銅塩化合物、リン化合物、脂肪族ホスホン酸化合
    物、水酸化塩を少なくとも含む銅メッキ液を用いて電解
    メッキを行い、銅被膜から成る第1保護膜を成膜する工
    程と、 前記第1保護膜の表面に、第2保護膜を成膜する工程と
    を有する磁石の製造方法。
  5. 【請求項5】 前記第2保護膜が、金属メッキ膜である
    請求項3または4に記載の磁石の製造方法。
  6. 【請求項6】 前記第1保護膜の上に、ピロリン酸銅メ
    ッキ浴または青化銅メッキ浴により、銅被膜を形成する
    ことにより、前記第2保護膜を成膜する請求項3または
    4に記載の磁石の製造方法。
  7. 【請求項7】 前記第1保護膜の上に、ピロリン酸銅メ
    ッキ浴または青化銅メッキ浴により、他の銅被膜を形成
    し、この銅被膜の表面に金属メッキ膜を形成することに
    より、前記第2保護膜を成膜する請求項3または4に記
    載の磁石の製造方法。
  8. 【請求項8】 前記第2保護膜は、樹脂被膜である請求
    項3または4に記載の磁石の製造方法。
  9. 【請求項9】 前記磁石が、R(ただし、RはYを含む
    希土類元素の一種以上)、FeおよびBを含むR−Fe
    −B系希土類磁石である請求項3〜8のいずれかに記載
    の磁石の製造方法。
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