明 細 書
低炭素硫黄快削鋼
技術分野
[0001] 本発明は、低炭素硫黄快削鋼に関し、詳しくは、 Pbを添加しない場合であっても、 従来の鉛快削鋼(以下、「Pb快削鋼」という。)及び、 Pbと S、 Pなど他の快削元素を 複合添加した複合快削鋼 (以下、「Pb添加複合快削鋼」という。)と同等以上の良好 な被削性を有する低炭素硫黄快削鋼に関する。より詳細には、高速度鋼工具を用い て切削を行った際の良好な被削性を有するとともに浸炭性に優れ、しかも、連続铸造 性に優れるため安価に大量生産することができる Pb非添加の低炭素硫黄快削鋼に 関する。
背景技術
[0002] 従来、軟質の小物部品、例えば、自動車用のブレーキパーツ、ノ ソコン周辺機器 部品及び電気機器部品など軟質の小物部品の素材には、生産性向上のために被 削性に優れた鋼である所謂「快削鋼」が用いられてきた。
[0003] こうした軟質小物部品の切削加工は、工業的には、主として lOOmZ分以下の比較 的低速領域で行われ、また、切削加工の際の工具には、コーティング処理が施され ていない高速度鋼工具 (以下、「HSS工具」という。)が使用されることが多い。そして 、このような切削加工条件の場合、素材鋼の「被削性」としては、長い工具寿命の確 保に加えて、加工精度の観点から、切削加工後の鋼材表面の仕上げ面粗度の小さ いことが要求され、更に、切り屑が細力べ分断する性質 (以下、「切り屑処理性」という 。;)に優れることも重要視される。特に、良好な切り屑処理性は加工ラインの自動化に 欠かせないものであって、生産性の向上のために必須とされる特性である。
[0004] 快削鋼としては、 Sを多量に添加して MnSにより被削性を改善した硫黄快削鋼(以 下、「S快削鋼」という。)、 Pbを添加した Pb快削鋼及び Pb添加複合快削鋼などがよく 知られている。
[0005] 上記の快削鋼のうちでも、 Pb快削鋼及び Pb添加複合快削鋼は、切り屑処理性に 優れ、工具寿命も長ぐ加工後の鋼材表面の仕上げ面粗度に優れるといった特性を
有している。
[0006] したがって、これらの Pbを添カ卩した快削鋼は、切削加工によって前記した自動車用 のブレーキパーツ、ノ ソコン周辺機器部品及び電気機器部品など軟質の各種小物 部品形状に加工され、最終製品として使用されている。なお、切削加工後の各種小 物部品に強度を確保させる目的力 表面硬化のための浸炭処理を施し、表面硬度 を増加させた上で最終製品として使用される場合もある。
[0007] しかし、近年の地球環境問題に対する高まりから、 Pb含有量を低減した快削鋼や P bを全く含まない快削鋼に対する要望が極めて大きくなつており、例えば欧州では、 R oHS {On tne restriction of the use of certain hazardous suostances in electrical and electronic equipment)指令や ELV (End of Life Vehicle)指令によって、鋼材に含ま れる Pb含有量が質量%で、 0. 35%以下に制限されるなど、 Pbの含有量をできる限 り低減させることが望まれて 、る。
[0008] なお、 Pbは融点が低ぐし力も鋼中にほとんど固溶しないため、大量の Pbを含有し た鋼は圧延時に割れを生じやすい。したがって、鋼の安定製造という面からも、 Pbの 含有量を低減した快削鋼や Pbを全く含まな 、快削鋼に対する要望が大き!/、。
[0009] こうした要望に応えるベぐ特許文献 1〜10に、 Pb快削鋼及び Pb添加複合快削鋼 に替わる種々の快削鋼が提案されて 、る。
[0010] 最もよく知られているものは、特許文献 1〜4のように、 Pbを添加する替わりに S量を 増量させて、被削性を改善した低炭素硫黄快削鋼である。
[0011] また、特許文献 5〜10のように、被削性改善を目的として S快削鋼に Bや Tiなどを 添加することによって鋼中の介在物形態を制御した快削鋼も数多く提案されている。
[0012] 具体的には、特許文献 1に、 0. 4%を超える Sを含有させて MnSを増量した、 Pbを 添加しな 、「低炭素硫黄系快削鋼」が提案されて 、る。
[0013] 特許文献 2には、 0. 50%を超える Sを含有させて MnSを増量することによって、被 削性の改善を図った「快削鋼」が提案されて 、る。
[0014] 特許文献 3には、 0. 4%以上の Sを含有させ、更に、 Snを添加することによって、被 削性改善を図った「低炭素ィォゥ快削鋼」が提案されている。
[0015] 特許文献 4には、硫ィ匕物の平均幅とともに、線材の降伏比を調整することによって
被削性を改善した「低炭素硫黄系快削鋼およびその製造方法」が開示されている。
[0016] 特許文献 5には、 Ti、 A1及び Zrを適切な量添加することによって硫ィ匕物系介在物 を微細化し、被削性を改善した「高硫黄快削鋼」が開示されている。
[0017] 特許文献 6には、脱酸剤である A1を実質的に添加せず、硫化物系介在物をォキシ 硫ィ匕物とすることによって被削性を改善した「硫黄含有快削鋼、その快削鋼の製造 方法、および快削鋼の機械加工方法」が開示されている。
[0018] 特許文献 7〜9には、鋼の成分組成を調整して、ミクロ組織の調整を行うことによつ て、或いは、微細な MnSを分散させることによって、被削性改善を図った「被削性に 優れる鋼およびその製造方法」或いは「被削性に優れる鋼」が開示されて 、る。
[0019] 特許文献 10には、本発明者らが提案した、特定量の C、 Mn、 S、 Ti、 Si、 P、 Al、 O 及び Nを含有し、 Tiと Sの含有量が下記の (i)式を満たすとともに、 Mnと Sの原子比が 下記の GO式を満たし、且つ、 Ti硫ィ匕物又は Z及び Ti炭硫ィ匕物が内在する MnSを含 有することを特徴とする「低炭素快削鋼」が開示されて!ヽる。
Ti (質量%) ZS (質量%)く 1 · · ·©、
Mn/S≥l - - -(ii)0
特許文献 1 特開 2000— 319753号公報
特許文献 2特開 2000— 160284号公報
特許文献 3特開 2002— 249848号公報
特許文献 4特開 2003— 253390号公報
特許文献 5特開 2004 - 269912号公報
特許文献 6特開 2002— 363691号公報
特許文献 7特開 2004 - 169051号公報
特許文献 8特開 2004 - 169052号公報
特許文献 9特開 2004 - 169054号公報
特許文献 10:特開 2003 - 226933号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
前述の特許文献 1で開示された「低炭素硫黄系快削鋼」は、 Mn、 S、 O及び N等の
成分組成を十分に考慮せず、単に S量を増加させただけである。このため、 lOOmZ 分以下の比較的低速領域で HSS工具を用いて切削したときに、仕上げ面粗さと切り 屑処理性を同時に改善することのできる好ましい介在物が得られず、したがって、所 望の良好な被削性を確保することができな力つた。
[0021] 特許文献 2で開示された「快削鋼」の場合には、確かに HSS工具における被削性 の改善が認められる。しかし、単に S量のみを増大させたもので硫ィ匕物の形態に配慮 力 Sなされていないため、仕上げ面粗さが大きくなつて所望の小さな仕上げ面粗さが得 られない場合があった。
[0022] 特許文献 3で開示された「低炭素ィォゥ快削鋼」には、 O量を高めることが MnS形 態に影響を及ぼし、被削性を改善することが示されている。確かに、高い量の Sを含 有する鋼にぉ 、ても MnSの形態を最適化するために O量を高めることが重要である 。しかし、単に O量を高めるだけでは粗大な硫ィ匕物が多く生成するために切り屑処理 性が劣化する。なお、この特許文献 3で開示された技術は、酸化物組成までも同時 に最適化するものではない。このため、 lOOmZ分以下の比較的低速領域で HSS 工具を用いる切削において、所望の良好な被削性を確保することができな力つた。
[0023] 特許文献 4で開示された「低炭素硫黄系快削鋼」は、鋼線材の直径を dとして、外周 面下 0. 1mmから dZ8までの領域における硫化物形態を制御するだけのものであつ て、それより深い領域における硫ィ匕物形態、例えば、鋼線材中心部における硫ィ匕物 形態には配慮がなされていない。このため、 HSSドリルを用いたカ卩ェなどのように表 面部分以外を切削する場合には、優れた切り屑処理性と長い工具寿命を兼備させる ことができな力 た。
[0024] 特許文献 5で開示された「高硫黄快削鋼」には、 HSS工具を用いた切削に好ましく ない形態の硫化物や酸化物が生成する。このため、 lOOmZ分以下の比較的低速 領域で HSS工具を用いる切削にお 、て、所望の小さ!/、仕上げ面粗さを得ることがで きなかった。
[0025] 特許文献 6で開示された「硫黄含有快削鋼」は、ォキシ硫化物を存在させることで 被削性改善を図って ヽるものの、鋼の成分組成が精緻に考慮されたものではな 、。 このため、 lOOmZ分以下の比較的低速領域で HSS工具を用いた切削に対して好
適な形態を有する硫化物及び酸化物が得られず、所望の良好な被削性を確保する ことができな力 た。
[0026] 特許文献 7〜9で開示された「被削性に優れる鋼」は、成分組成が十分に考慮され たものではなぐ Al、 Ti及び Zr等の MnS形態に大きな影響を及ぼす成分元素の添 加をしてもよいとしている。この場合、 HSS工具を用いた切削に対して好適な形態を 有する硫化物及び酸化物が得られず、切り屑処理性及び仕上げ面粗さが劣化して、 所望の良好な被削性を確保することができな力つた。
[0027] 特許文献 10で開示された「低炭素快削鋼」は、確かに超硬工具を用いた高速切削 時における工具寿命が Pb快削鋼に比べて優れており、且つ、優れた切り屑処理性 力 S得られるものである。しかし、 lOOmZ分以下の比較的低速領域で HSS工具を用 V、た切削の場合には、硫ィ匕物形態が被削性を改善するのに好適なものではな 、た めに、仕上げ面粗さが大きくなつて所望の小さな仕上げ面粗さが得られない場合が あることが判明した。
[0028] 上述のように、従来提案された快削鋼は、自動車用のブレーキパーツ、パソコン周 辺機器部品及び電気機器部品など軟質の小物部品の素材として必要な被削性の諸 特性、つまり、 lOOmZ分以下の比較的低速領域で HSS工具を用いた切削におけ る工具寿命、切り屑処理性及び仕上げ面粗さのうち少なくともいずれか一つの特性 について、 Pb快削鋼及び Pb添加複合快削鋼に比べて劣るものであった。すなわち 、従来提案されたいずれの快削鋼も、 lOOmZ分以下の比較的低速領域で HSSェ 具を用いた切削における被削性は、大量の Pbを含有する Pb快削鋼及び Pb添加複 合快削鋼と完全に同等とは 、えな 、ものであった。
[0029] し力も、前記の従来提案された快削鋼は、安価に大量生産するために製造段階で 要求される良好な連続铸造性や製品として要求される熱処理特性までも備えている というものではな力つた。すなわち、切削加工後の各種小物部品に強度を確保させる 目的から浸炭処理を施し、表面硬度を増加させた上で最終製品として使用する場合 、良好な「浸炭性」が要求される。し力しながら、前記の従来提案された快削鋼は、必 ずしも「浸炭性」に優れるものではな力つた。また、安価に大量生産するために製造 段階で要求される「連続铸造性」にも必ずしも優れるというものではなカゝつた。
[0030] そこで、本発明の目的は、 Pbを添加しない場合であっても、 lOOmZ分以下の比較 的低速領域で HSS工具を用いて切削を行った際の被削性が従来の Pb快削鋼及び Pb添加複合快削鋼と同等以上で、しかも、浸炭性に優れるとともに連続铸造による 大量生産にも適した低炭素硫黄快削鋼を提供することである。
課題を解決するための手段
[0031] 本発明者らは、先ず、 Pbを含まない S快削鋼を用いて、 lOOmZ分以下の比較的 低速領域で HSS工具を用いた切削における被削性について調査した。
[0032] その結果、下記(a)の知見を得た。なお、以下の説明における「Mn系硫ィ匕物」には 、特に断らない限り、 MnS並びに、 Mn (S、 Te)、 Mn(S、 Se)、 Mn(S、 O)及び Mn (S、 Se、 O)等のように、 Xを S以外で Mnと結合する元素である Te、 Se及び Oとして 、 Mn(S、 X)の化学式によって表記される Mnの複合化合物を含むこととする。
[0033] (a) S快削鋼の場合、鋼中の 0 (酸素)量を高めることで、粗大な Mn系硫化物が生 成して被削性が向上するといわれている。しかし、前記の切削速度領域での HSSェ 具を用いた切削においては、単に O量を増量して Mn系硫ィ匕物を粗大化させただけ では、被削性、特に、切り屑処理性を高めることが困難である。
[0034] そこで次に、前記切削速度領域での HSS工具を用いた切削における Mn系硫ィ匕 物の形態と被削性の関連について詳細に検討した。その結果、仕上げ面粗さ及び 切り屑処理性には、 Mn系硫ィ匕物の大きさだけでなぐ分散形態が大きな影響を及ぼ すことが明らかとなり、下記 (b)〜 (d)の知見を得た。
[0035] (b)鋼中の O量を高めて Mn系硫ィ匕物を粗大に晶出させた場合には、仕上げ面粗 さは小さくなつて改善される力 切り屑処理性が劣化する。すなわち、粗大な Mn系硫 化物は、切削中に切り屑として塑性変形を受ける際に、応力集中点として作用し、 M n系硫ィ匕物を起点としたクラックを発生させ、これによつて、構成刃先の成長が抑制さ れて仕上げ面粗さが小さくなつて改善されたり、切り屑剪断域での抵抗力が弱められ て切削抵抗が低減することで工具寿命が長くなる。一方、 Mn系硫ィ匕物が粗大化した 場合、クラックは切り屑内部で効率的に伝播しないので切り屑の破断に至らず、この ため、切り屑処理性が劣化する。
[0036] (c) Mn系硫ィ匕物が微細な形態で晶出した場合、切り屑処理性は改善するが、仕上
げ面粗さは大きくなつて劣化する。すなわち、凝固時に共晶反応によって晶出した多 数の微細な Mn系硫ィ匕物は、変形能が高いので、鍛造や圧延によって長く延伸した 状態で、或いは、長く延伸したものが更に圧延によって分断されて微細になった状態 で、観察される。これらの微細晶出した Mn系硫ィ匕物は、切削中に切り屑として塑性 変形を受ける際に変形しやすいので、切り屑変形時に剪断応力が力かった場合にも 変形する。そして、この変形した Mn系硫ィ匕物を起点として切り屑が脆化破断に至り、 切り屑処理性が改善される。一方、構成刃先周辺の 2次剪断域は更に強加工される ので、上記の Mn系硫化物は、一層分断されて微細化し、構成刃先と切り屑を分断 するのに有効なクラックを発生させずに構成刃先内部に取り込まれる。その結果、構 成刃先の成長を抑制できないので、仕上げ面粗さが大きくなつて劣化する。
[0037] (d)上記 (b)及び (c)の知見から、仕上げ面粗さを小さくして改善するには、構成刃 先と切り屑を分断させるために十分に大きいクラックを発生させる作用を持つ Mn系 硫化物、つまり、 2次剪断域で強加工を受けても分断することがないような、切削前の 状態にお 、て幅が大き 、Mn系硫ィ匕物が分散して 、る必要があることがわかる。そし て、仕上げ面粗さの改善にカ卩えて切り屑処理性も改善するには、 Mn系硫化物を起 点に発生したクラックを効率的に伝播させるために、粗大なクラックを生じさせる幅の 大き 、Mn系硫ィ匕物の分布密度を増大させる必要がある。
[0038] そこで更に、幅の大き!/、Mn系硫化物の分布密度を増大させて、仕上げ面粗さと切 り屑処理性の両特性を高めるための条件について詳細な検討を行った。その結果、 下記 (e)〜(i)の知見を得、また、工具寿命について下記 (j)の知見を得た。
[0039] (e)幅の大き!/、Mn系硫ィ匕物の分布密度を増大させるためには、 Mn系硫ィ匕物の絶 対量を増大させる必要があり、そのためには、 Sを 0. 4%を超える範囲で含有させな ければならない。
[0040] (f)幅の大きい Mn系硫ィ匕物について、最近接する Mn系硫化物との平均距離であ る「最短平均粒子間距離」が小さい場合には、クラックが効率よく伝播して切り屑の分 断が助長され、 Pbを含まな 、場合でも Pb快削鋼及び Pbを含む複合快削鋼と同等の 切り屑処理性が得られる。
[0041] (g)幅の大き!/、Mn系硫ィ匕物の分布密度を増大させるためには、凝固段階で Mn系
硫ィ匕物の生成核としての Mn系酸ィ匕物を S量に応じて多数分散させる必要があり、こ のためには、単に S量や O量を増大させるだけではなぐ鋼の成分組成、特に、 Mn、 S及び Oの含有量バランス、並びに、 Al、 Siの含有量と不純物中の Ca、 Mg、 Ti、 Zr 及び REMの含有量の適正化の必要がある。なお、 Mn系酸化物の生成頻度には、 Mnと Oの濃度積、つまり、「MnXO」が関係する。
[0042] (h)凝固の早!、段階で生成する Mn系酸化物を十分な数密度で分布させ、これを 生成核として Mn系硫ィ匕物を偏晶反応によって生成させることによって、幅が大きく最 短平均粒子間距離の小さい Mn系硫化物を大きな分布密度で存在させることができ る。
[0043] (i) Nは、被削性を改善するのに好適な Mn系硫化物の形態及び酸化物組成に影 響することがなぐフェライト中に固溶して切り屑処理性を高めるので、十分な量を含 有させるのがよい。
[0044] (j)微細な Mn系酸ィ匕物がフェライト粒内に多数分散しておれば、工具寿命が改善 されて長くなる。
[0045] 本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜
(4)に示す低炭素硫黄快削鋼にある。
[0046] (1)質量0 /0で、 C:0.05%以上 0.20%未満、 Si:0.02%未満、 Mn:0.7〜2.2 %、 P:0.005〜0.25%、 S:0.40%を超えて 0.60%以下、 A1:0.003%未満、 0:0.0090〜0.0280%、 N:0.0030〜0.0250%を含有し、残部は Fe及び不純 物からなり、不純物中の Ca、 Mg、 Ti、 Zr及び REMが、 Ca:0.001%未満、 Mg:0. 001%未満、 Ti:0.002%未満、 Zr:0.002%未満及び REM: 0.001%未満であ つて、かつ、下記 (1)式及び (2)式を満たすことを特徴とする低炭素硫黄快削鋼。
ΜηΧΟ>0.018···(1)、
2.5<Mn/(S + 0)<3.5···(2)0
但し、(1)式及び (2)式中の元素記号は、その元素の質量%での鋼中含有量を表す。
[0047] (2) Νの含有量が、質量%で、 Ν:0.0060〜0.0250%である上記(1)に記載の 低炭素硫黄快削鋼。
[0048] (3) Feの一部に代えて、 Te:0.0005〜0.03%、 Sn:0.001%以上 0.50%未
満及び Se : 0. 0005%以上 0. 30%未満のうちの 1種以上を含有する上記(1)又は(
2)に記載の低炭素硫黄快削鋼。
[0049] (4) Feの一部に代えて、 Cu: 0. 01〜: L . 0%、 Ni: 0. 01〜: L 0%、 Cr: 0. 01〜1
. 0%及び Mo : 0. 01〜0. 5%のうちの 1種以上を含有する上記(1)から(3)までの
Vヽずれかに記載の低炭素硫黄快削鋼。
[0050] 以下、上記(1)〜 (4)の低炭素硫黄快削鋼に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)
」〜「本発明(4)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
[0051] なお、本発明でいう「REM」は、 Sc、 Y及びランタノイドの合計 17元素の総称であり
、 REMの含有量は上記元素の合計含有量を指す。
発明の効果
[0052] 本発明の鋼は Pb非添カ卩の「地球環境に優しい快削鋼」であるにも拘わらず、 100m Z分以下の比較的低速領域で HSS工具を用いた切削の際に、従来の Pb快削鋼、 及び Pbと S、Pなど他の快削元素を複合添加した Pb添加複合快削鋼と同等以上の 良好な被削性、つまり、長い工具寿命、良好な切り屑処理性及び小さい仕上げ面粗 さを有するとともに浸炭性に優れ、しかも、連続铸造性に優れるため安価に大量生産 することができる。したがって、自動車用のブレーキパーツ、パソコン周辺機器部品及 び電気機器部品など軟質の小物部品の素材として利用することができる。
発明を実施するための最良の形態
[0053] 先ず、本発明の低炭素硫黄快削鋼における化学組成とその限定理由について述 ベる。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味 する。
[0054] C : 0. 05%以上 0. 20%未満
Cは、被削性に大きな影響を及ぼす重要な元素である。被削性が重要視される用 途の鋼の場合、 Cを 0. 20%以上含有させると、鋼の強度が高くなつて被削性が劣化 する。しかし、その含有量が 0. 05%未満の場合には、鋼が軟質になり過ぎ、切削中 にむしれを生じて却って工具摩耗が促進するし、仕上げ面粗さも大きくなつて劣化す る。したがって、 Cの含有量を 0. 05%以上 0. 20%未満とした。なお、一層良好な被 削性を得るために、 Cの含有量は 0. 06〜0. 18%とすることが好ましい。
[0055] Si: 0. 02%未満
Siは、 0 (酸素)と親和性が強い強力な脱酸元素であり、 0. 02%以上含有される場 合には、被削性を改善するのに好適な Mn系硫ィ匕物の形態及び酸ィ匕物組成を得る ことができないので、 lOOmZ分以下の比較的低速領域での HSS工具による被削性 が劣化する。したがって、 Siの含有量を 0. 02%未満とした。なお、 Siは Mn系硫ィ匕物 の形態及び酸化物組成に大きな影響を及ぼすので、添加しないだけではなぐ精鍊 時になるベく除去する必要がある。より優れた被削性を得るために、 Siの含有量は 0 . 01%未満とすることが好ましい。
[0056] Mn: 0. 7〜2. 2%
Mnは、 Sとともに Mn系硫ィ匕物を形成して被削性に大きな影響を及ぼす重要な元 素である。その含有量が 0. 7%未満では、 Mn系硫化物の絶対量が不足して所望の 良好な被削性を得ることができな 、ことにカ卩えて熱間加工性が劣化する。 Mnには浸 炭性を高める作用もあるので、良好な浸炭性を得た 、場合には Mnの含有量を高め ればよいが、 Mnは Mn系硫ィ匕物形成元素であることにカ卩えて脱酸にも寄与するため 、浸炭性の改善だけを目的に単純に Mnの含有量を高めても所望の介在物形態を 得ることができない。所望の介在物形態を得るためには、 Sや 0 (酸素)との質量バラ ンスを十分に配慮した上で Mnを添加する必要がある。しかし、そうした場合であって も、 Mnの含有量が 2. 2%を超えると、所望の介在物形態が得られず、被削性が劣 化する。したがって、 Mnの含有量を 0. 7〜2. 2%とした。なお、所望の良好な被削 性と良好な浸炭性の兼備のために、 Mnの含有量は 1. 2〜1. 8%とすることが望まし い。
[0057] なお、上記の「Mn系硫化物」とは、 MnS並びに、 Mn(S、 Te)、 Mn (S、 Se)、 Mn ( S、 O)及び Mn(S、 Se、 O)等のように、 Xを S以外で Mnと結合する元素である Te、 S e及び Oとして、 Mn(S、 X)の化学式によって表記される Mnの複合化合物を指す。
[0058] P : 0. 005〜0. 25%
Pは、粒界の強度を弱め、被削性を高める作用を有する。前記の効果を得るために は、 Pの含有量を 0. 005%以上とする必要がある。一方、 Pの含有量が過度になると 、鋼の強度が高くなつて却って被削性の低下をきたし、特に、 Pの含有量が 0. 25%
を超えると強度が高くなりすぎて被削性の低下が著しくなる。更に、 Pの含有量が 0. 2 5%を超える場合には、鋼塊の偏祈が助長されるため熱間加工性の低下も生じる。し たがって、 Pの含有量を 0. 005-0. 25%とした。より優れた被削性を安定して得る ために、 Pの含有量は 0. 03-0. 15%とすることが好ましい。
[0059] S : 0. 40%を超えて 0. 60%以下
Sは、 Mnとともに Mn系硫ィ匕物を形成して被削性を高めるために必須の元素である 。 Mn系硫ィ匕物による被削性向上効果は、その生成量ばかりではなく形態及び分散 状態に応じて変化する。そのために、 Sの含有量と Mn及び 0 (酸素)の含有量とのバ ランスが重要になるが、 Sの含有量が 0. 40%以下では、たとえ Mn及び 0 (酸素)の 含有量とのバランスを適正化しても、十分な量の Mn系硫ィ匕物が得られず、所望の良 好な被削性を得るための Mn系硫ィ匕物の分散形態を得ることができない。なお、通常 の場合には Sの含有量が 0. 35%を超えると熱間加工性が低下するため、铸片内部 における所謂「内部割れ」の要因となるが、 Mn及び O (酸素)の含有量とのバランスを 適正化することで、 Sの含有量が 0. 35%を超える場合にも内部割れを引き起こすこ となぐ被削性を高めることができる。しかし、 Sの含有量が 0. 60%を超える場合には 、熱間延性の劣化を生じないように Mnを多量に含有させる必要がある力 Mnが脱 酸元素として作用するために十分な酸素量を確保することができないので、 Mn系硫 化物の形態が損なわれ、実質的に、所望する Mn系硫化物の形態及び分散状態を 得ることが困難となる。更に、含有量で 0. 60%を超える過剰な Sの添カ卩は歩留まりの 悪ィ匕によるコスト上昇に繋がる。したがって、 Sの含有量を 0. 40%を超えて 0. 60% 以下とした。なお、より安定して優れた被削性を確保するとともに、製造性を劣化させ ることなく所望の Mn系硫ィ匕物の形態を得るためには、 S含有量は 0. 45-0. 55%と することが望ましい。
[0060] A1: 0. 003%未満
A1は、 0 (酸素)と親和性が強い強力な脱酸元素であり、 0. 003%以上含有される 場合には、被削性を改善するのに好適な Mn系硫ィ匕物の形態及び酸ィ匕物組成を得 ることができな 、ので、 lOOmZ分以下の比較的低速領域での HSS工具による被削 性が劣化する。したがって、 A1の含有量を 0. 003%未満とした。なお、 A1は Mn系硫
化物の形態及び酸化物組成に大きな影響を及ぼすので、添加しな ヽだけではなぐ 精鍊時になるベく除去する必要がある。より優れた被削性を得るために、 A1の含有量 は 0. 002%未満とすることが好ましい。
[0061] 0 : 0. 0090〜0. 0280%
Mn及び Sの含有量とのバランスを適正化したうえで、 O (酸素)の含有量を高めるこ とによって Mn系硫ィ匕物の形態を変化させ、被削性を改善することができる。しかし、 Oの含有量が 0. 0090%未満では、所望の良好な被削性を得るための介在物形態 を得ることができず、十分な被削性を確保できない。一方、 Oの含有量が 0. 0280% を超えると、所望の介在物形態を得ることができないば力りでなぐ粗大な酸化物が 生成し、圧延時に割れを誘発する。したがって、 Oの含有量を 0. 0090-0. 0280% とした。なお、 Oの含有量は、所望の介在物形態や分散状態を安定して確保するた めに、 0. 0100〜0. 0200%とすること力望まし!/、。
[0062] N: 0. 0030〜0. 0250%
Nの含有量を高めても、被削性を改善するのに好適な Mn系硫ィヒ物の形態及び酸 化物組成に影響することがなぐしかも、 A1や Tiを実質的に含有しない本発明におい ては、硬質の A1や Tiの窒化物がほとんど形成されないので、 Nは、フェライト中に固 溶した状態で存在する。上記フェライト中に固溶した Nは、切り屑処理性を高める作 用を有する。しかし、 Nの含有量が 0. 0030%未満の場合には、十分な切り屑処理 性を高める効果が得られない。一方、 Nの含有量が 0. 0250%を超えても前記の効 果が飽和するば力りでなぐ製造コストの上昇をきたす。したがって、 Nの含有量を 0. 0030-0. 0250%とした。なお、良好な被肖 IJ'性を得た ヽ場合には、 Nは 0. 0060% 以上、また、より効果的に良好な被削性を得たい場合には、 Nは 0. 0080%以上含 有させることが好ましい。
[0063] 本発明に係る低炭素硫黄快削鋼においては、不純物中の Ca、 Mg、 Ti、 Zr及び R EMの含有量を下記のとおりに制限する。
[0064] Ca: 0. 001%未満、 Mg : 0. 001%未満、 Ti: 0. 002%未満、 Zr: 0. 002%未満 及び REM : 0. 001%未満
通常の快削鋼においては、 Ca、 Mg、 Ti、 Zr及び REMは、いずれも、被削性を改
善するために添加される元素である。し力し、上記の Caから REMまでの元素は、い ずれも、 Mn系硫化物の形態や酸化物組成及びこれら介在物の分散状態に悪影響 を及ぼし、 lOOmZ分以下の比較的低速領域での HSS工具での切削における被削 性を低下させてしまう。特に、不純物中に上記の Ca、 Mg、 Ti、 Zr及び REMについ て、 Ca、 Mg及び REMのいずれかが 0.001%以上、 Ti及び Zrのいずれかが 0.00 2%以上含有される場合には、前記の切削速度領域での HSS工具を用いた切削に おける被削性の低下が著しくなる。したがって、 Ca、 Mg、 Ti、 Zr及び REMの不純物 中の含有量は、 Ca:0.001%未満、 Mg:0.001%未満、 Ti:0.002%未満、 Zr:0 .002%未満及び REM: 0.001%未満とする必要がある。不純物中の上記 Ca、 Mg 、 Ti、 Zr及び REMは、いずれも、 0.0005%以下であることが好ましい。
[0065] なお、既に述べたように、「REM」は、 Sc、 Y及びランタノイドの合計 17元素の総称 であり、 REMの含有量は上記元素の合計含有量を指す。
[0066] Mnと Oの濃度積(MnXO) :0.018を超えること
上述した範囲の C力 Nまでの元素を含有し、残部は Fe及び不純物からなり、不純 物中の Ca、 Mg、 Ti、 Zr及び REMが、 Ca:0.001%未満、 Mg:0.001%未満、 Ti: 0.002%未満、 Zr:0.002%未満及び REM: 0.001%未満である鋼は、その Mn と Oの濃度積の値、つまり、「MnXO」の値が 0.018を超える場合に、 lOOmZ分以 下の比較的低速領域での HSS工具での切削で所望の優れた被削性を確保すること ができる。
[0067] したがって、 Mnと Oの濃度積である MnXOの値は 0.018を超える、つまり、前記( 1)式を満たす必要がある。なお、上記の式「MnXO」中の元素記号は、その元素の 質量%での鋼中含有量を表し、 MnXOの値の上限は 0.030であることが好ましい。 MnXOの値が0.030を超えた場合には、幅の大きい Mn系硫化物の分布密度があ まり高くならず、良好な仕上げ面粗さと切り屑処理性を得ることが困難となる場合があ る。
[0068] Mn/(S + 0) :2.5を超えて 3.5未満であること
上述した範囲の C力 Nまでの元素を含有し、残部は Fe及び不純物からなり、不純 物中の Ca、 Mg、 Ti、 Zr及び REMが、 Ca:0.001%未満、 Mg:0.001%未満、 Ti:
0. 002%未満、 Zr: 0. 002%未満及び REM : 0. 001%未満である鋼は、 Mn/ (S + 0)の値が 2. 5を超える場合に、凝固段階で Mn系硫ィ匕物の生成核としての Mn系 酸ィ匕物を多数分散させることができ、幅の大き 、Mn系硫ィ匕物の分布密度を増大さ せることが可能になるので、所望の良好な被削性を得ることができる。なお、 MnZ (S + 0)の値が 2. 5以下の場合には、連続铸造によって製造した場合に、铸片内部で 割れが生ずるなど、熱間加工性の低下が生じる力 MnZ (S + 0)の値が 2. 5を超え る場合には、工業的な規模での大量生産に適した十分な熱間加工性も確保できる。
[0069] 一方、 MnZ (S + 0)の値が 3. 5以上である場合には、含有される Sや Oに対して 過剰な Mnが含まれ、組織中に固溶する Mn量が過剰となって被削性、なかでも工具 寿命が劣化する。更に、実質的に Al、 Si、 Ca、 Mg、 Ti、 Zr及び REMを含有しない 本発明においては、 Mnは脱酸元素としても作用するために、 Mnを過剰に含有する と、被削性を改善するのに好適な Mn系硫ィ匕物の形態を得るための十分な O量を得 ることができないので、切り屑処理性が低下するとともに仕上げ面粗さが大きくなつて しまう。
[0070] したがって、 MnZ (S + 0)の値は 2. 5を超えて 3. 5未満、つまり、前記 (2)式を満た す必要がある。なお、上記の式「MnZ (S + 0)」中の元素記号は、その元素の質量 %での鋼中含有量を表す。
[0071] 上記の理由から、本発明(1)に係る低炭素硫黄快削鋼の化学組成は、上述した範 囲の Cから Nまでの元素を含有し、残部は Fe及び不純物からなり、不純物中の Ca、 Mg、 Ti、 Zr及び REM力 Ca: 0. 001%未満、 Mg : 0. 001%未満、 Ti: 0. 002% 未満、 Zr: 0. 002%未満及び REM : 0. 001%未満で、かつ、前記の (1)式及び (2)式 を満たすことと規定した。
[0072] また、本発明(2)に係る低炭素硫黄快削鋼の化学組成は、本発明(1)に係る低炭 素硫黄快削鋼のうちで、 Nの含有量が、 N : 0. 0060-0. 0250%であるものと規定 した。
[0073] 本発明に係る低炭素硫黄快削鋼には、必要に応じて、 Feの一部に代えて、後述す る第 1群力 選択される 1種以上の元素及び第 2群力 選択される 1種以上の元素の うち一方又は両方を任意添加元素として添加し、含有させてもょ ヽ。
[0074] 以下、上記第 1群及び第 2群の任意添加元素に関して説明する。
[0075] 第 1群: Te : 0. 0005〜0. 03%、 Sn: 0. 001%以上 0. 50%未満及び Se : 0. 000 5%以上 0. 30%未満
Te、 Sn及び Seは、いずれも、被削性を改善するのに好適な介在物形態を損なうこ となぐ被削性を高める作用を有する。このため、 lOOmZ分以下の比較的低速領域 で HSS工具を用いた際に、より優れた被削性を得たい場合には以下の範囲で含有 してちよい。
[0076] Te : 0. 0005〜0. 03%、
Teは、 Mnとともに Mn(S、 Te)を生成し、この Mn (S、 Te)が切削中に擬似的な潤 滑効果の役割を果たす。そして、 Teを添加しても、幅の大きい Mn系硫ィ匕物の割合 が増加するだけで酸ィ匕物形態には影響がないので、前記の切削速度領域での HSS 工具を用いた切削における被削性が向上する。し力しながら、その含有量が 0. 000 5%未満では添加効果に乏しい。一方、 Teを 0. 03%を超えて含有させてもその効 果が飽和してコストが嵩むし、熱間加工性も劣化する。したがって、添加する場合の T eの含有量を 0. 0005〜0. 03%とした。なお、より安定して良好な熱間加工性と良 好な被削性を兼備させるために、 Teの含有量は 0. 003〜0. 02%とすることが好ま しく、更に 0. 003〜0. 01%とすること力より好まし!/、。
[0077] Sn: 0. 001%以上 0. 50%未満
Snは、鋼の被削性を改善する作用を有する。これはマトリックスを脆ィ匕する効果を 有するためであると考えられる。し力しながら、その含有量が 0. 001%未満では添カロ 効果に乏しい。一方、 Snを 0. 50%以上含有させてもその効果が飽和するし、熱間 加工性も劣化する。したがって、添加する場合の Snの含有量を 0. 001%以上 0. 50 %未満とした。なお、良好な熱間加工性と良好な被削性を兼備させるために、 Snの 含有量は 0. 03%以上 0. 30%以下であることが好ましい。
[0078] Se : 0. 0005%以上 0. 30%未満
Seは、 Mnとともに Mn (S、 Se)を生成し、この Mn (S、 Se)が切削中に擬似的な潤 滑効果の役割を果たす。そして、 Seを添加しても、幅の大きい Mn系硫化物の割合 が増加するだけで酸ィ匕物形態には影響がないので、前記の切削速度領域での HSS
工具を用いた切削における被削性が向上する。し力しながら、その含有量が 0. 000 5%未満では添加効果に乏しい。一方、 Seを 0. 30%以上含有させてもその効果が 飽和してコストが嵩むし、熱間加工性も劣化する。したがって、添加する場合の Seの 含有量を 0. 0005%以上 0. 30%未満とした。なお、より安定して良好な熱間加工性 と良好な被削性を兼備させるために、 Seの含有量は 0. 005%以上 0. 15%以下と することが好ましい。
[0079] 上記の Te、 Sn及び Seは、 V、ずれ力 1種のみ、或いは 2種以上の複合で添加するこ とがでさる。
[0080] 第 2群: Cu: 0. 01〜: L 0%、 Ni: 0. 01〜: L 0%、 Cr: 0. 01〜: L 0%及び Mo : 0.
01〜0. 5%
Cu、 Ni、 Cr及び Moは、いずれも、鋼の強度を高める作用を有する。このため、製 品強度を高めた!/、場合には以下の範囲で含有してもよ 、。
[0081] Cu: 0. 01〜: L 0%
Cuは、析出強化によって鋼の強度を高める作用を有する。し力しながら、その含有 量が 0. 01%未満では添加効果に乏しい。一方、 Cuの含有量が 1. 0%を超えると、 熱間加工性の劣化を招き、更に、 Cuの析出物が粗大化するため、前記の効果が飽 和するば力りでなぐ被削性の低下を招く。したがって、添加する場合の Cuの含有量 を 0. 01〜: L 0%とした。なお、良好な強度と良好な熱間加工性を安定して兼備させ るためには、 Cuの含有量を 0. 03-0. 50%とすることが好ましぐ一層良好な強度と 良好な熱間加工性を安定して兼備させるためには、 Cuの含有量を 0. 05-0. 50% とすることがより好ましい。
[0082] Ni: 0. 01〜: L . 0%
Niは、固溶強化によって鋼の強度を高める作用を有する。しかしながら、その含有 量が 0. 01%未満では添加効果に乏しい。一方、 Niの含有量が 1. 0%を超えると、 被削性の劣化を招くとともに熱間加工性も劣化する。したがって、添加する場合の Ni の含有量を 0. 01〜: L 0%とした。なお、良好な、強度、被削性及び熱間加工性を安 定して具備させるために、 Niの含有量は 0. 03〜0. 50%とすることが好ましい。
[0083] Cr: 0. 01〜: L 0%
Crは、鋼の強度を高める作用を有する。 Crには、鋼の焼入れ性を高めて浸炭性を 改善する作用もある。し力しながら、その含有量が 0. 01%未満では添加効果に乏し い。一方、 Crを 1. 0%を超えて含有させても、前記の効果が飽和してコストが嵩む上 に、被削性が低下する。したがって、添加する場合の Crの含有量を 0. 01〜1. 0%と した。なお、良好な、強度、焼入れ性及び被削性を安定して具備させるためには、 Cr の含有量を 0. 02〜0. 5%とすることが好ましぐ一層良好な、強度、焼入れ性及び 被削性を安定して具備させるためには、 Crの含有量を 0. 03-0. 5%とすることがよ り好ましい。
[0084] Mo : 0. 01〜0. 5%
Moは、鋼の強度を高める作用を有する。 Moには、鋼の焼入れ性を高めて浸炭性 を改善する作用及び組織を微細化して靱性を高める作用もある。しかしながら、その 含有量が 0. 01%未満では添加効果に乏しい。一方、 Moを 0. 5%を超えて含有さ せても、前記の効果が飽和してコストが嵩む上に、被削性が低下する。したがって、 添加する場合の Moの含有量を 0. 01-0. 5%とした。なお、良好な、強度、焼入れ 性、靱性及び被削性を安定して具備させるためには、 Moの含有量は 0. 05〜0. 5 %とすることが好ましい。また、製造コストを低く抑えた上で、良好な、強度、焼入れ性 、靱性及び被削性を具備させるためには、 Moの含有量は 0. 02-0. 3%とすること が好ましい。
[0085] 上記の Cu、 Ni、 Cr及び Moは、 V、ずれ力 1種のみ、或 、は 2種以上の複合で添カロ することができる。
[0086] 上述の理由から、本発明(3)に係る低炭素硫黄快削鋼の化学組成を、本発明(1) 又は本発明(2)に係る低炭素硫黄快削鋼の Feの一部に代えて、 Te : 0. 0005-0. 03%、 Sn: 0. 001%以上 0. 50%未満及び Se : 0. 0005%以上 0. 30%未満のうち の 1種以上を含有するものと規定した。
[0087] また、本発明 (4)に係る低炭素硫黄快削鋼の化学組成を、本発明(1)から本発明( 3)までのいずれかに係る低炭素硫黄快削鋼の Feの一部に代えて、 Cu: 0. 01〜: L 0%、 Ni: 0. 01〜: L 0%、 Cr: 0. 01〜: L 0%及び Mo : 0. 01〜0. 5%のうちの 1種 以上を含有するものと規定した。
[0088] なお、 Mn系硫化物の分散形態や酸化物組成は凝固速度や製造条件に左右され ることがある。このため、本発明に係る低炭素硫黄快削鋼は、例えば、次のようにして 工業的に大量生産するのがよい。
[0089] 先ず、本発明に係る低炭素硫黄快削鋼を連続铸造法によって製造する場合に、転 炉などの製鋼炉から取鍋への出鋼段階及び取鍋でのスラグ精練段階での状態を調 整する。
[0090] 具体的には、取鍋精鍊開始時に溶鋼中に含有される Mn量を 1. 5%未満、好ましく は 1. 2%未満に調整する。この段階で 1. 5%以上の Mnを溶鋼中に含有させても、 最終的に前記した範囲内に調整することは可能であるが、適切な酸化物及び Mn系 硫ィ匕物の形態を得るために、精鍊開始時における Mnの含有量を上記のように調整 しておくのがよい。この Mn含有量の調整と同時に、精鍊開始時におけるスラグ中の MnOの含有量を適切な範囲、具体的には 25〜40%の範囲に調整すると一層よい 。そして、精練の後半から末期に、合金鉄を添加することによって所定の Mn含有量 にすればよい。
[0091] 次に、適切な Mn系硫化物の形態を得るために、铸造時の冷却速度を調整する。
[0092] すなわち、铸片の冷却速度は、表皮及び中心部で大きな差があるので、幅が大きく 最短平均粒子間距離の小さい Mn系硫化物を大きな分布密度で安定して存在させ るために、中心部における冷却速度を少なくとも 1°CZ分以上として、より好ましくは 2 °CZ分以上として冷却するのがよ 、。
[0093] なお、造塊法で鋼塊を製造する場合は、小型のインゴットに铸造する場合のように、 冷却速度が速い場合には、鋼塊中心部の冷却速度で 20°CZ分以下になるようにす ればよい。逆に、巨大なインゴットに铸造する場合のように、冷却速度が遅い場合に は、中心部の冷却速度が 1°CZ分以上になるように铸型を工夫すればよい。
[0094] 以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
実施例
[0095] 高周波誘導炉を用いて、表 1〜3に示す化学組成を有する鋼 1〜57を溶製し、直 径カ S約 220mmの 150〜 180kg鋼塊を作製した。
[0096] 表 1中の鋼 1〜23は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼(以下、「本発
明例の鋼」という。)である。一方、表 2中の鋼 24〜41及び表 3中の鋼 42〜57は、化 学組成が本発明で規定する条件力 外れた比較例の鋼である。なお、比較例の鋼 のうち鋼 55〜57は従来の Pb快削鋼に相当する鋼である。
[0097] 上記の各鋼のうちで、本発明例の鋼である鋼 1〜23並びに比較例の鋼のうち鋼 29 、鋼 30、鋼 34、鋼 36及び鋼 50〜57は、溶製段階での溶存酸素量及び凝固速度を 制御して鋼塊を作製した。つまり、原料鉄が溶け落ちた後、副原料を添加した段階で 鉄箔に包んだ状態で市販されている MnO粉末を溶鋼内に添加し、その後、成分の 調整を実施し、 1600°C前後の温度で铸型に出鋼した。なお、鋼の凝固速度を調節 するために砂で囲ったセラミックス製の坩堝に出鋼して凝固速度が適切な速度となる ように調整した。
[0098] 一方、比較例の鋼のうち鋼 24〜28、鋼 31〜33、鋼 35及び鋼 37〜49については 、上記の様な特別な手段を講じないで溶製を行った。つまり、副原料添加後に MnO 粉体を装入しないか、或いは、砂で囲ったセラミックス製の坩堝ではなぐ通常の铸 型に铸造した。
[0099] [表 1]
表 2
化 学 組 成 :質量%) 残部: F eおよび不純物 Mn/ (S+0) 鋼 C S i Mn P S AI N 0 Ca g T i Zr REM その他 の値
24 0. 09 0. 004 1. 03 0. 032 *0. 29 0. 001 0. 0070 *0. 0080 0. 0002 0. 0002 0. 0002 0. 0002 0. 0002 - *0. 008 3. 46
25 0. 07 0. 015 0. 99 0. 026 *0. 24 0. 001 0. 0061 *0. 0048 0. 0001 0. 0004 0. 0002 0. 0003 0. 0004 - *0. 005 * 4. 04
26 0. 08 0. 008 1. 23 0. 061 *0. 34 0. 002 0. 0065 0. 0168 0. 0003 0. 0002 0. 0001 0. 0004 0. 0003 - 0. 021 3. 45
27 0. 09 0. 007 1. 27 0. 058 *0. 35 0 001 0. 0086 0. 0188 0. 0003 0. 0001 0. 0007 0. 0005 0. 0004 - 0. 024 3. 44
28 0. 09 0. 008 1. 90 0. 049 *0. 72 0. 002 0. 0110 0. 0148 0. 0004 0. 0001 0. 0007 0. 0002 0. 0004 - 0. 028 2. 59
29 #0. 04 0. 004 1. 58 0. 072 0. 51 0 002 0. 0110 0.0134 0. 0003 0. 0005 0. 0002 0. 0002 0. 0003 - 0. 021 3. 02
30 *0. 23 0. 004 1. 68 0. 075 0. 50 0 002 0. 0127 0. 0120 0. 0001 0. 0005 0. 0002 0. 0003 0. 0003 - 0. 020 3. 30
31 0. 10 *0. 250 1. 35 0. 096 0. 52 0. 002 0. 0085 *0. 0042 0. 0003 0. 0001 0. 0001 0. 0005 0. 0004 - *0. 006 2. 56
32 0. 09 0. 009 *2. 55 0. 087 0. 52 0. 002 0.0079 0. 0101 0. 0003 0. 0004 0. 0003 0. 0001 0. 0004 - 0. 026 * 4. 81
33 0. 06 0. 004 *0. 55 0. 041 0. 51 0. 002 0.0085 0.0182 0. 0002 0. 0002 0. 0002 0. 0002 0. 0002 - *0. 010 * 1. 04
34 0. 08 0. 004 1. 53 *0. 320 0. 49 0. 002 0.0133 0.0160 0. 0005 0. 0002 0. 0004 0. 0002 0. 0005 - 0. 024 3. 02
35 0. 07 0. 007 1. 80 0. 129 0. 52 *0 015 0. 0098 *0.0034 0. 0005 0. 0003 0. 0004 0. 0004 0. 0002 - *0. 006 3. 44
36 0. 09 0. 003 1. 23 0. 064 0. 46 0. 002 *0. 0020 0.0187 0. 0002 0. 0005 0. 0004 0. 0004 0. 0003 - 0. 023 2. 57
37 0. 08 0. 006 1 34 0. 027 0. 42 0 001 0. 0061 0. 0099 0. 0002 0. 0003 0. 0005 0. 0004 0 0005 一 *0. 013 3. 12
38 0. 12 0. 004 1. 07 0. 032 0. 41 0 001 0. 0064 0. 0134 0. 0003 0. 0003 0. 0003 0. 0002 0. 0005 - *0. 014 2. 53
39 0. 08 0. 005 1. 51 0. 070 0. 50 0 001 0. 0070 0. 0108 0. 0003 0. 0004 0. 0004 0. 0003 0. 0005 - *0. 016 2. 96
40 0. 10 0. 009 0. 95 0. 068 0. 41 0 002 0. 0115 *0. 0295 0. 0002 0. 0004 0. 0005 0. 0002 0. 0001 - 0. 028 * 2. 16
41 0. 09 0. 009 1. 17 0. 095 0. 53 0 001 0. 0104 0. 0162 0. 0005 0. 0002 0. 0002 0. 0005 0. 0003 - 0. 019 * 2. 14
*印は本発明で規定する条件から外れていることを示す。
上記各鋼の鋼塊の表面部に近レ、DiZ8部(但し、「Di」は鋼塊の直径である。 )の位 置を中心として、鋼塊高さ方向から直径 10mm、長さ 130mmの高温引張試験片を
採取し、熱間加工性を調査した。すなわち、熱間加工再現試験装置を用いて、大気 中で 1250°Cに高周波加熱して 5分間保持した後、 10°CZ分の速度で 900°Cまで冷 却し、 10秒保持した後、歪速度を 10秒—1として 900°Cで高温引張試験を行い、熱間 加工性を調査した。なお、上記棒状試験片の加熱領域は、長さ方向の中央部約 20 mmとし、高温引張試験後は直ちに急冷した。上記において、高温引張試験の温度 として 900°Cを選定したのは、一般に低炭素快削鋼の場合には、 900°Cで高温引張 の絞り値が極小点になる力 である。
[0103] 熱間加工性は上記の高温引張試験における絞り(%)で評価した。なお、熱間加工 性の目標は、上記高温引張試験で 40%以上の絞り値を有することとした。なお、この 場合には、 0. 4%を超えるような高い S量を含有させた鋼であっても、連続铸造時に 内部割れを生じることなく安定して铸片の製造が可能である。
[0104] また、次に述べる方法で各鋼の被削性及び浸炭性を調査した。
[0105] すなわち、各鋼の上記直径が約 220mmの鋼塊の残部を 1200°Cまで加熱して 2時 間以上保持した後、仕上げ温度が 1000°C以上となるように熱間鍛造し、鍛造後に空 冷を行って直径 40mmの丸棒を作製した。次いで、上記の各丸棒を 950°Cに加熱し て 1時間保持した後空冷して焼準を行った。なお、鋼 33は熱間鍛造で割れを生じた ため、以下の調査は行わな力つた。
[0106] 次いで、上記の直径 40mmの丸棒の一部をピーリングして直径 3 lmmの丸棒とし、 これに冷間引き抜き加工を施して、直径が 28mmの丸棒に仕上げた。
[0107] このようにして得た直径が 28mmの丸棒を供試材として、コーティング処理が施され ていない HSS工具、具体的には、 SKH4 QIS G 4403(2000))の旋削用チップを用い て下記の条件で旋削し、被削性を調査した。
'切削速度: 100mZmin、
'送り量: 0. 05mm/rev.、
•切り込み深さ: 0. 5mm,
•潤滑:水溶性潤滑油を用いた湿式潤滑。
[0108] すなわち、上記条件で 1分間連続して旋削した後、触針式の粗さ計を用いて最大 高さ粗さ Rzを測定して仕上げ面粗さを評価した。
[0109] また、切り屑処理性は上記の 1分間に排出された切り屑を採取し、長い切り屑から 順に 20個の質量を測定し、その質量にて評価を行った。この質量が小さい値である ほど切り屑処理性は良好であると判断できる。なお、切り屑処理性が悪ぐ長い切り屑 が排出された結果、 20個の切り屑が得られな力つたものについては、その個数と質 量力も 20個当たりの質量に換算した。
[0110] 更に、工具摩耗は上記と同じ条件で 30分切削した後の先端摩耗量を測定すること で評価した。
[0111] 上記の仕上げ面粗さ、切り屑処理性及び工具摩耗量は、それぞれ、従来の Pb快 削鋼に相当する鋼 55〜57が有する各特性のうちで最も劣るものを評価基準とした。 すなわち、仕上げ面粗さは、鋼 56の Rzで 7. 8 μ mを評価の基準値、工具摩耗量は 鋼 57の、 175 mを評価の基準値とし、また、切り屑処理性は鋼 55の切り屑質量 2. 7gを評価の基準値とした。そして、仕上げ面粗さが Rzで 7. 以下、工具摩耗量 力 ^75 /ζ πι以下及び切り屑質量が 2. 7g以下である場合に、 Pb快削鋼と同等以上の 被削性を有するものとした。
[0112] 更に、焼準した前記直径 40mmの各丸棒の残部から、直径が 24mmで長さが 50m mの円柱状の試験片を採取し浸炭性を調査した。
[0113] すなわち、上記の直径が 24mmで長さが 50mmの円柱状の試験片を、 900°Cに加 熱して浸炭処理した後 850°Cで拡散処理し、その後、 80°Cの油中に冷却することに よって焼入れ処理を施した。次いで、上記の試験片を 190°Cに加熱して 60分保持し た後空冷して焼戻し処理を施した。なお、上記浸炭時の炭素ポテンシャル値は 0. 8 %で処理時間は 75分とした。また、拡散時の炭素ポテンシャル値は 0. 7%で処理時 間は 20分とした。
[0114] 上記の浸炭焼入れ 焼戻し処理した試験片の端から 25mmの位置、つまり、試験 片の長さ方向の中央位置の横断面で、表面から内部へ、試験力を 2. 94Nとしてビッ カース硬さ分布を測定し、ビッカース硬さが 550となる表面からの位置を「有効硬化 層深さ」として、浸炭性を評価した。
[0115] なお、浸炭性についても、従来の Pb快削鋼に相当する鋼 55〜57の浸炭性のうち で最も劣るものを評価基準とした。すなわち、鋼 57の有効硬化層深さである 0. 15m
mを評価の基準値とした。そして、有効硬化層深さが 0. 15±0. 05mm,つまり、 0. 10-0. 20mmの場合に、 Pb快削鋼と同等の浸炭性を有するものとした。
[0116] 表 4及び表 5に、上記の各試験結果をまとめて示す。表 4及び表 5における浸炭性 欄の「◎」は有効硬化層深さが 0. 20mmを超えて Pb快削鋼に勝る浸炭性を有するこ とを、「〇」は有効硬化層深さが 0. 10-0. 20mmで Pb快削鋼と同等の浸炭性を有 することを、そして、「X」は有効硬化層深さが 0. 10mmを下回って Pb快削鋼より劣 る浸炭性を有することを示す。なお、表 5中の鋼 33における「一」は、熱間鍛造できな 力つたため調査して 、な 、ことを示す。
[0117] [表 4]
表 4
*印は本発明で規定する条件から外れていることを示す。 浸炭性の欄における 「◎」 、 「〇」 、 「X」 は、 有効硬化 層深さが、 それぞれ、 「0. 2 Omm超」 、 「0. 1 0 ~ 0. 20mm」 、 「0. 1 0 mm未満」 であることを示す。 ]
表 5
表 4及び表 5から、鋼 1〜23の本発明に係る低炭素硫黄快削鋼は、 Pbを含まない にも拘わらず、長い工具寿命、良好な切り屑処理性及び小さい仕上げ面粗さを有す
るとともに浸炭性にも優れていることが明らかである。更に、その熱間加工性は従来 の Pb快削鋼よりも優れており、工業的な大量生産を行う場合に何ら問題のないもの であることち明らかである。
[0120] これに対して、本発明で規定する条件力も外れた比較例の鋼は、工具寿命、切り屑 処理性、仕上げ面粗さ、浸炭性及び熱間加工性のうち少なくとも一つが劣っている。
[0121] なお、前述の冷間引き抜き加工して、直径が 28mmに仕上げた丸棒の各々につい て、 DfZ4(但し、「Df」は丸棒の直径である。)の部位の縦断面方向力もミクロ観察 用試験片を切り出し、 Mn系硫ィ匕物の調査を行った。すなわち、前記の試験片を榭 脂に埋め込んで鏡面研磨し、画像解析ソフトが導入された自動画像解析装置を用い て、被検面積 5. 2mm2の視野に存在する Mn系硫ィ匕物の幅、最短平均粒子間距離 及び分布密度を測定した。なお、「最短平均粒子間距離」とは、観察された個々の M n系硫ィ匕物の中心座標カゝら最も近い距離にある Mn系硫ィ匕物の中心座標間の距離 を各々の Mn系硫化物について求め、これらを平均化した値である。
[0122] その結果、鋼 1〜23の本発明に係る低炭素硫黄快削鋼の場合には、幅が大きく最 短平均粒子間距離の小さ ヽ Mn系硫ィ匕物が大きな分布密度で存在して ヽること、具 体的には、幅力 μ m以上で最短平均粒子間距離が 50 μ m以下の Mn系硫ィヒ物が 、 80個 Zmm2以上という大きな分布密度で存在していることが判明した。
[0123] 以上、実施例によって本発明を具体的に説明したが、本発明はこれらの実施例に 限定されるものではない。実施例として開示のないものも本発明の要件を満たしさえ すれば当然に本発明に含まれる。
産業上の利用可能性
[0124] 本発明の鋼は Pb非添カ卩の「地球環境に優しい快削鋼」であるにも拘わらず、 100m Z分以下の比較的低速領域で HSS工具を用いた切削の際に、従来の Pb快削鋼及 び Pb添加複合快削鋼と同等以上の良好な被削性、つまり、長い工具寿命、良好な 切り屑処理性及び小さい仕上げ面粗さを有するとともに浸炭性に優れ、しかも、連続 铸造性に優れるため安価に大量生産することができる。したがって、自動車用のブレ ーキパーツ、パソコン周辺機器部品及び電気機器部品など軟質の小物部品の素材 として用いることができる。