WO2006028178A1 - ユニバーサルジョイント - Google Patents

Abstract

　十字軸のトラニオンを支持する軸受カップにキー部が一体形成され、そのキー部がヨークのキー溝に嵌まり込んだ状態でボルトにより軸受カップをヨークに接合固定したブロックタイプのユニバーサルジョイントにおいて、キー部の両側面に、ＷＣ－Ｎｉ－Ｃｒ溶射皮膜を形成することにより、キー部の耐食性を向上させ、圧延機の駆動系等に長期にわたって使用しても、キー部の腐食に起因するキー溝との間の隙間の発生を防止し、軸受寿命の向上とボルトに対する過大な曲げ荷重の作用を防止して、長期にわたって安定した性能を維持することのできるユニバーサルジョイントを得る。    

Description

明 細 書

ュニノ ーサノレジョイント

技術分野

[0001] 本発明はユニバーサルジョイントに関し、特に、圧延機などの高負荷が作用する駆 動系に用いるのに適したユニバーサルジョイントに関する。

背景技術

[0002] 例えば圧延機のロールの駆動機構には、駆動用モータとロールの間にュニバーサ ルジョイントが設けられる。この種のユニバーサルジョイントとして、図 3に要部分解斜 視図を、図 4にそのトラニオン部分の軸直交断面図を、図 5にはその A— A断面図を それぞれ示すような、ブロックタイプと称されるものが知られている（例えば特許文献 1 参照)。

[0003] このブロックタイプのユニバーサルジョイントは、十字軸 1の各トラ-オン 11をローラ 2を介してそれぞれ軸受カップ 3で支持し、その各軸受カップ 3をヨーク 4に対してボ ルト 5で接合固定した構造を採る。軸受カップ 3には、そのヨーク 4に対する接合面に 、ヨーク 4側に突出するキー部 31がー体に形成されており、このキー部 31がヨーク 4 に形成されているキー溝 41に嵌まり込むことにより、ボルト 5と共働してトルクを伝達 する。すなわち、一方のヨーク 4の回転動力は、十字軸 1のトラ-オン 11を介して図 4 に矢印で示す位置の負荷として軸受カップ 3に伝達され、ボルト 5の軸力とキー部 31 〜キー溝 41間の面圧よつて他方のヨーク 4に伝達される。軸受カップ 3の材質には、 軸受の軌道輪としての耐衝撃荷重性等を考慮して例えば SNCMなどの浸炭焼入れ 鋼が用いられる。

[0004] このようなブロックタイプのユニバーサルジョイントは、円筒形の軸受カップを別部材 の軸受ホルダと称される部材によりヨークに固定するラウンドタイプをはじめとする他 のタイプのユニバーサルジョイントに比して、部品点数が少なぐまた、その構造上、 軸受カップのクリープが生じな 、と 、つた利点がある。

特許文献 1 :特開 2002— 181069号公報

発明の開示 発明が解決しょうとする課題

[0005] ところで、以上のようなブロックタイプのユニバーサルジョイントを圧延機のロールの 駆動系に用いる場合、キー部 31の側面とキー溝 41の内壁面との間に高い面圧が作 用すると同時に、これらは冷却水に曝される関係上、腐食しやすいという問題がある 。キー溝 41には、ステンレス鋼の肉盛りを施すことによって腐食の発生を防止するこ とができる力 軸受ブロック 3が浸炭焼入れ鋼であるが故に、このようなステンレス鋼の 肉盛りを施すことができず、長期の使用によって腐食して、キー溝 41との間に隙間が 生じる場合がある。このような隙間が発生すると、トラ-オン 11を支持する軸受の寿命 に影響を及ぼすとともに、ボルト 5に過大な曲げ応力が作用して破損してしまう可能 性もある。

[0006] 本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、圧延機の駆動系など高負荷が 作用し、かつ、腐食しやすい環境下で用いても軸受カップのキー部が腐食せず、もつ て長期にわたって安定した性能を発揮することのできるブロックタイプのュ-バーサ ルジョイントを提供することをその課題として 、る。

課題を解決するための手段

[0007] 上記の課題を解決するため、本発明のユニバーサルジョイントは、十字軸の各トラ ユオンを針状ころを介してそれぞれ支持する軸受カップが、それぞれ浸炭焼入れ鋼 により形成され、かつ、ボルトによりヨークに接合固定されているとともに、この各軸受 カップのヨークに対する接合面には、ヨーク側に向けて突出するキー部が形成され、 ヨークにはそのキー部が嵌まり込むキー溝が形成されてなるユニバーサルジョイント において、上記キー部の両側面が、 WC— Ni— Cr溶射皮膜で覆われていることによ つて特徴づけられる (請求項 1)。

[0008] ここで、本発明のユニバーサルジョイントにおいては、上記 WC—Ni—Cr溶射皮膜 に、シリカ系榭脂を用いた封孔処理を施した構成 (請求項 2)を好適に採用することが できる。

[0009] また、本発明のユニバーサルジョイントにおいては、上記ヨークのキー溝の内面に、 ステンレス合金カゝらなる肉盛り層を形成する構成 (請求項 3)を採用することが望まし い。 [0010] 本発明は、浸炭焼入れ鋼の表面を覆って耐食性を向上させるとともに、高い面圧の 作用によっても剥がれることのな ヽ溶射材料を鋭意研究した結果としてなされたもの であり、 WC—Ni— Cr (タングステンカーバイト—ニッケル—クロム)溶射皮膜は、後 述する塩水噴霧試験により耐腐食性に優れていることが確かめられ、し力も、 SNCM などの浸炭焼入れ鋼の表面に溶射して高い面圧を負荷しても、内部クラックの発生 や剥がれが発生しにくぐ圧延機ローラの駆動系等に用いて優れた耐久性を示すこ とが、同じく後述する静的面圧負荷試験により確かめられた。

[0011] そして、請求項 2に係る発明のように、 WC—Ni—Cr溶射皮膜に対してシリカ系榭 脂を用いた封孔処理を施すことにより、当該溶射皮膜に形成されている微細孔を塞 ぎ、その微細孔カ の水等の侵入を抑制して長期にわたって上記した性能を発揮す ることがでさる。

[0012] また、ヨーク側に形成されるキー溝については、請求項 3に係る発明のように、その 内面をステンレス合金力もなる肉盛り層で覆うことによって、キー溝側の腐食を防止 することができ、キー部側の WC—Ni— Cr溶射皮膜との関係についても特に問題は ない。

発明の効果

[0013] 本発明によれば、部品点数が少な 、ブロックタイプのユニバーサルジョイントにお!/ヽ て、浸炭焼入れ鋼力もなる軸受カップに形成されているキー部の両側面に WC— Ni Cr溶射皮膜を形成しているので、圧延機の駆動系等の高負荷で水等に曝される 過酷な環境下等で用いても、キー部が腐食することを防止することができ、また、その 溶射皮膜にクラックが発生したり剥がれが発生する等の不具合も生じず、長期にわた つて安定した性能を発揮することができる。

図面の簡単な説明

[0014] [図 1]本発明の実施の形態のトラニオンおよび軸受カップの軸直交断面図である。

[図 2]図 2における軸受カップのキー部の一側面の拡大図である。

[図 3]ブロックタイプのユニバーサルジョイントの要部分解斜視図である。

[図 4]従来のトラ-オン 11および軸受カップ 3の近傍の軸直交断面図である。

[図 5]軸受カップ 3とボルト 5との断面図にころ 2と十字軸 1のトラ-オン 11とを装着した 図である。

発明を実施するための最良の形態

[0015] 以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。

図 1は本発明の実施の形態のトラ-オンおよび軸受カップの軸直交断面図であり、 図 2はその軸受カップのキー部の一側面の拡大図である。

[0016] この実施の形態の全体的な基本構成は、図 3〜図 5に示した従来のものと同等であ る。すなわち、十字軸 1の各トラ-オン 11がローラ 2を介して浸炭焼入れ鋼製の軸受 カップ 3に支持されているとともに、その軸受カップ 3が、ヨーク 4に対してボルト 5で接 合固定され、軸受カップ 3のヨーク 4に対する接合面にキー部 31がー体に形成され、 ヨーク 4にはそのキー部 31が嵌まり込むキー溝 41が形成されている。軸受カップ 3の 材質は例えば日本工業規格 (JIS)で SNCM815と表記されるニッケル ·クロム ·モリ ブデン鋼製であり、ヨーク 4の材質は例えば SCM440と表記されるクロム'モリブデン 鋼、あるいは SNCM439と表記されるニッケル ·クロム ·モリブデン鋼製ある。

[0017] この実施の形態の特徴は、軸受カップ 3のキー部 31の両側面に、 WC—Ni—Cr溶 射皮膜 6が形成されている点であり、また、ヨーク 4のキー溝 41の内面にはステンレス 鋼（例えば 13%クロム系ステンレス鋼）を用いた肉盛り層 7が形成されている。

[0018] WC— Ni— Cr溶射皮膜 6は、例えば WC— 27NiCr (基本成分が WCであり、 NiCr を 27%含有)を好適に用いることができ、その膜厚 tは 0. 1から 0. 3mm程度とするこ とが好ましい。また、この WC— Ni— Cr溶射皮膜 6に対し、シリカ系榭脂により封孔処 理を施し、皮膜中の微細孔を封じることが、長期にわたり耐食性を維持するうえで望 ましい。更に、 WC— Ni-Cr溶射皮膜 6は、その膜厚を高精度に制御できることから 、溶射後の後加工を行うことによる母材に対する密着性の低下を防止する観点から、 後加工を行わな 、ことが望ま 、。

[0019] 以上のような溶射皮膜 6を形成することにより、圧延機の駆動系等の過酷な環境下 で長期にわたって用いても、溶射皮膜 6にクラックが発生したり剥がれるといった不具 合は生じず、キー部 31が腐食することがない。また、キー溝 41の内面にステンレス鋼 による肉盛り層 7が形成されているため、キー溝 41側の腐食も発生いない。従って長 期の使用によってもキー部 31とキー溝 41の間に隙間が発生することを抑制すること ができ、トラ-オン 11の軸受寿命が向上するとともに、ボルト 5に過大な曲げ応力が 作用することもなぐ長期にわたってユニバーサルジョイントとしての性能を維持する ことができる。

[0020] 圧延機の駆動系の実機に用いたフィールドテストの結果、軸受カップ 3のキー部 31 の両側面に WC— Ni— Cr溶射皮膜 6 (WC- 27NiCr)を施した本発明の実施の形 態のユニバーサルジョイントでは、 20力月にわたる使用によってもキー部 31の幅寸 法の変化が見られな力つた。これに対し、 WC— Ni— Cr溶射皮膜 6を有さない従来 のユニバーサルジョイントでは、 13力月にわたる使用によりキー部 31の幅寸法力 腐 食性摩耗により 1. 52mmだけ減少していた。

[0021] また、以上の¹\^じー^ー0: (¹^じー27^0:)溶射皮膜にっぃて、その耐食性と耐 面圧性能のベンチテストを比較例とともに行った結果を以下に示す。

[0022] 耐食性については、以下に示す塩水噴霧試験を行った。

試験片は直径 80mmの SNCM815製プレートを浸炭焼入れしたものを用いて、そ の表面に WC - 27NiCrを用 、た WC— Ni— Cr溶射皮膜を膜厚 0. 1mmで形成し たもの（実施例）のほか、同じプレートの表面に Ni溶射皮膜を膜厚 0. 2mmで形成し たもの (比較例 1)、および表面に何も皮膜を形成しな 、もの（比較例 2)を用意した。

[0023] 試験条件は、試験機内湿度 98%、試験機内温度を 35°C、塩水濃度 5%、試験面 の角度を水平面に対して 45° として、 200時間の連続試験を行った。その結果を [ 表 1]に示す。

[0024] [表 1]

[0025] この [表 1]において Xは腐食大、〇は腐食なしを表している。この [表 1]から明らか なように、 WC— Ni— Cr溶射皮膜および Ni溶射皮膜については、皮膜なしの場合に 比していずれも耐食性が良好であることが判る。

[0026] 次に、耐食性に優れた実施例および比較例 1につ 、て、以下に示す耐面圧試験を 行った。 試験片は直径 61mmの SNCM815製プレートに浸炭焼入れしたものを用いて、上 記と同様の厚さ 0. 1mmの WC— Ni— Cr溶射皮膜を形成したもの（実施例）と、同じ く厚さ 0. 2mmの Ni溶射皮膜を形成したもの (比較例 1)を用意した。

[0027] 試験条件は、ァムスラー試験機を用いて、静的面圧が 392MPaの高面圧にてそれ ぞれ 30秒間負荷し、皮膜の剥がれ状況を観察した。なお、ユニバーサルジョイントと して静的面圧 392MPa以上は高負荷条件であり、ここでは静的面圧 392MPaで試 験を実施した。その結果を [表 2]に示す。

[0028] [表 2]

この [表 2]において Xは剥がれ発生、〇は剥がれなしを表している。この [表 2]力も 明らかなように、 WC— Ni— Cr溶射皮膜は 392MPaの高面圧において全く剥がれ が生じな力つたのに対し、 Ni溶射皮膜は剥がれが発生し、 WC— Ni— Cr溶射皮膜 の浸炭焼入れ鋼に対する密着性が良好であることが確かめられた。

Claims

請求の範囲

[1] 十字軸の各トラ-オンを針状ころを介してそれぞれ支持する軸受カップが、それぞ れ浸炭焼入れ鋼により形成され、かつ、ボルトによりヨークに接合固定されているとと もに、この各軸受カップのヨークに対する接合面には、ヨーク側に向けて突出するキ 一部が形成され、ヨークにはそのキー部が嵌まり込むキー溝が形成されてなるュ-バ ーサルジョイントにお 、て、

上記キー部の両側面力 WC—Ni— Cr溶射皮膜で覆われていることを特徴とする ユニバーサルジョイント。

[2] 上記 WC— Ni— Cr溶射皮膜に、シリカ系榭脂を用いた封孔処理が施されているこ とを特徴とする請求項 1に記載のユニバーサルジョイント。

[3] 上記ヨークのキー溝の内面が、ステンレス合金力もなる肉盛り層で覆われていること を特徴とする請求項 1または 2に記載のユニバーサルジョイント。