明細書
転が り軸受 技術分野
本発明は、 転が り軸受に関する 。 具体的に、 この転がり軸受 は、 例えば、 2サイ クルエンジンおよびケロシンエンジンのク ラ ンク ジャーナル周辺、 船舶関連、 4サイ クルエンジンのシ リ ンダヘッ ド回 り 、 ターボチャージャなどの過袷機、 油圧式サス ペンシ ョ ンの油圧制御用ァクチユエ一タ内部など、 潤滑条件が 厳しい用途に好適に使用する こ とができ る 。 もちろん、 この他 にも 、 種々な軸受部分に使用する こ と ができ る 。 背景技術
一般的な転が り軸受では、 例えば内 · 外輪の軌道面や転動体 の表面を各種の熱硬化処理を施すよ う に している 。
一般的な転が り軸受と は、 通常、 内 · 外輪や転動体を例えば J I S規格 S U J系の軸受鋼と した ものを言い、 これらに対し て通常 9 0 0〜 9 3 0 °Cから 、 適当な温度に下げて焼入れを行 い、 さ らに使用環境での雰囲気温度を考慮して通常 1 6 0〜 1 8 0 °Cで焼き戻しを行う 。
と ころで、 上記従来例における転が り軸受への焼入れ処理に おいては、 金属組織をマルテンサイ トからオーステナイ トへ変 態させる こ と 、 および処理時の温度変化が大き いこ と によ り 、 母材の歪みが大き く なつて寸法変化が大き く な りやすい。 その ため、 熱処理後に研磨処理と超仕上げ処理と を施さなければな らなく な り 、 製造工程が多く なるなど、 製造コス ト増を もた ら す結果になっている 。 また、 焼き戻し温度は、 使用雰囲気温度 での寸法変化や硬度低下を考慮して残留オーステナイ ト量を適 量とする必要があるために、 あま り高く 設定する こ と ができず
、 結果的に転が り軸受の使用は通常 1 7 0 aC程度までと される ちなみに、 J I S規格 S U J系の軸受鐧に比べてかな り高価 な A I S I 規格 M 5 0 、 J I S規格 S K H 4などの高温用軸受 鐧を用いて高グレー ド化すれば、 転が り軸受の使用は 4 0 0 °C く らいまで可能と なるが、 転がり軸受そのものの単価が高く な り 、 特殊な用途での使用に限られる 。
この他、 表面に硬質ク ロームメ ツキを施すこ と も行われるが 、 その場合、 特に軌道輪の軌道面においてメ ツキ膜が剥離しや すいこ とが指摘される 。
したがって 、 本発明は、 一般的な従来品に比べて安価であ り ながら 、 高グレー ドな従来品と 同等レベルの雰囲気温度での使 用が可能な転がり軸受の提供を 目的と している 。 発明の開示
[構成 ]
( 1 ) 本発明第 1 の転が り軸受は、 軸受構成要素の少なく と も いずれか一つが窒素と の親和力が強い合金元素を含む金属材 で形成され、 その表面部分に窒化層が形成されている 。
( 2 ) 本発明第 2の転が り軸受は、 上記請求項 1 において 、 前記金属材が、 浸炭鋼または窒化鋼と される 。
( 3 ) 本発明第 3 の転が り軸受は、 上記請求項 2 において 、 前記窒化層が、 浸炭鋼または窒化鐧の表面の酸化物が除去され た状態で形成される ものである 。
( 4 ) 本発明第 4の転が り軸受は、 上記請求項 1 において 、 前記金属材が、 ステンレス鋼と され、 前記窒化層が、 ステンレ ス鐧の表面の酸化物層が除去された状態で形成される ものであ る 。
( 5 ) 本発明第 5 の転が り軸受は、 上記請求項 1 において 、 前記窒化層は、 その形成対象部材の表面側に膜状に形成される
化合物層、 それよ り も下方に窒素が拡散されてなる拡散層を含 むものである 。
( 6 ) 本発明第 6の転が り軸受は、 上記請求項 1 において 、 前記窒化層上に酸化膜が形成されている 。
[作用 ]
要する に、 上記本発明では、 一般的に低グレー ド と呼ばれる 金属材を用いながら も 、 窒化層を形成して表面を硬質化する こ と によ り 、 一般的な従来品 ( J I S規格 S U J系の軸受鋼に対 して硬化処理したもの) または高グレー ド品 ( A I S I 規格 M 5 0 、 J I S規格 S K H 4などの高温用軸受鋼) の代替品と し て利用でき る よ う に している 。 なお、 窒化層の形成対象と なる 金属材、 つま り窒素との親和力が強い合金元素を含む金属材と しては、 浸炭鋼 ( J I S規格 S C M系など) 、 窒化鋼 ( J I S 規格 S A C M系など ) 、 ステンレス鋼 ( J I S規格 S U S系な ど ) が挙げられる 。
前述の浸炭鋼ゃ窒化鋼に対して窒化層を形成する と 、 その表 面硬度が、 一般的な従来品 ( J I S規格 S U J系の軸受鋼に対 して熱硬化処理を施した もの ) と 同等にな り 、 また、 前述のス テンレス鋼に対してその表面に存在する酸化物を除去して窒化 層を形成する と 、 その表面硬度が、 超高グレー ド品 (例えば窒 化けい素を主成分とする焼結品からなるセラ ミ ッ クス材) と遜 色ない程度になる 。
しかも 、 窒化層の形成対象を上述したよ う に窒素と の親和力 が強い合金元素を含む金属材とすれば、 窒化層の形成条件を 、 低温、 短時間で行え る よ う にな り 、 母材の熱歪みが発生しにく く なる 。 これによ り 、 一般的な従来品において必要であった研 磨などの後処理を省略でき る よ う になって 、 製造コス トの低減 が可能になる 。 なお、 第 3 、 第 4の転がり軸受のよ う に、 窒化 層の形成対象となる金属材の表面に存在する酸化物を除去して
窒化層を形成している場合、 窒素の拡散速度が速く な り 、 さ ら なる時間短縮が可能になる 。
このよ う に、 本発明では、 金属母材が従来品に比べて低グレ ー ドで安価なものであ り ながら 、 一般的な従来品ある いは高グ レー ドな従来品と 同等ある いは遜色ない程度の硬度にでき る よ う にな り 、 さ らに、 硬化処理全体と して従来例に比べて工程を 少なく でき る こ とで、 さ らなる コス ト低減が可能になる 。
この他、 第 6 の転が り軸受のよ う に、 窒化層の上に酸化物を 形成している と 、 表面の耐食性がよ り一層高ま る こ と になる 。
[効果 ]
本発明では、 転が り軸受の構成要素のいずれかを 、 一般的な 従来品や高グレー ドな従来品の代わ り に、 価格的および特性的 に低グレー ドな金属母材に窒化層を形成する構造とする こ と に よ り 、 一般的な従来品や高グレー ドな従来品と 同等の特性にま で高める よ う にしている 。 これによ り 、 転がり軸受と しては、 安価であ り ながら 、 耐摩耗性、 耐熱性、 耐食性など特性の優れ た ものと なって条件の厳しい用途に好適に使用でき る よ う にな る 。
しかも 、 窒化層を形成する処理については、 一般的な従来品 のよ う な熱硬化処理に比べて低温、 短時間で比較的深い位置に まで形成させやすく なるので、 母材の熱歪みが発生しにく く な り 、 従来では必要であった研磨などの後処理を省略でき る よ う になるなど、 製造コス ト を低減でき る よ う になる 。
特に、 第 3 、 第 4の転が り軸受のよ う に、 金属材表面に存在 する酸化物を除去して窒化層を形成していれば、 窒化層を形成 する と き に窒素の拡散速度を速く でき るので、 処理時間の短縮 が可能とな り 、 窒化層を緻密かつ平滑にと高品位化でき る よ う になる 。
また、 第 6 の転が り軸受のよ う に、 窒化層の上に酸化物を形
成すれば、 耐食性を よ り一層向上でき る よ う にな り 、 腐食環境 での使用に適したものにでき る 。 図面の簡単な説明
図 1 は、 本発明の一実施形態の転が り軸受の上半分の断面図 である 。
図 2は、 窒化層の拡大断面図である 。
図 3は、 窒化層を形成した金属母材の表面からの深さ位置に おける硬度を示す図表である 。
図 4は、 ステンレス鋼を金属母材と した例で、 図 3対応の図 表である 。
図 5 は、 本発明の転が り軸受の使用対象の一例を示す要部の 断面図である 。 発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明の詳細を添付した図面に示す最良の各実施形態 に基づいて説明する 。
図 1 ない し図 3は本発明の一実施形態である 。 図中、 1 は転 が り軸受の全体を示している 。 この転が り軸受 1 は、 内輪 2 、 外輪 3 、 複数の球状の転動体 4 ならびに保持器 5 を備えている 内輪 2の外周面および外輪 3の內周面には、 転動体 4の軌道 となる軌道搆 (符号省略) が形成されている 。 保持器 5は、 2 枚の波形環状板を軸方向で抱き合わせて結合した、 いわゆる波 形保持器と 呼ばれる ものである 。
そ して 、 この実施形態では、 内 · 外輪 2 , 3の表面および転 動体 4 の表面の全体に窒化層 6 を形成する ものとする 。 そこで 、 窒化層 6の形成対象とする内 , 外輪 2 , 3 および転動体 4 と しては、 窒素と の親和力が強い合金元素を含む金属材、 例えば 浸炭鐧 (例えば J I S規格 S C M系など ) 、 窒化鋼 (例えば J
I S規格 S A C M系など 〉 、 ステンレス鋼 ( J I S規格 S U S 系など ) を用いて製作する ものとする 。
次に、 上記転が り軸受 1 の構成要素 ( 内 · 外輪 2 , 3 および 転動体 4 ) に対する窒化層 6 の形成方法を説明する 。
まず、 窒化層 6 を形成すべき対象品を用意する 。 この対象品 は、 上述した浸炭鋼、 窒化鐧、 ある いはステンレス鋼のいずれ かを素材と したものである 。 対象品を内 ■ 外輪 2 , 3 とする場 合は、 鍛造、 旋削、 生研、 ロール成形などを経て外形が整え ら れたものとする 。 対象品を転動体 4 とする場合も外形が整え ら れたものとする 。
この対象品に対する窒化層 6 の形成に先立ち、 用意した対象 品の表面を浄化する 。 この浄化は、 対象品を 、 3ふつ化窒素 ( N F ) , 窒素等の混合気中に、 所要温度 T , (例えば 3 0 0 で〜 4 0 CTC ) に所要時間 (例えば 1 0分〜 1 2 0分) 保持す る 。 これによ り 、 対象品の表面の酸化物等は、 除去されて浄化 される と 同時に、 金属ふつ化膜に置き換え られる 。 この際に、 表面に形成される金属ふつ化膜は、 不働態膜であるので、 表面 への酸素の吸着や酸化作用を防止し、 次の窒化処理まで酸化物 の生成を阻止する 。 なお、 ふつ化ガス と しては、 N F 3 、 B F 、 C F 4 、 H F 、 S F 6 、 F の単独も し く は混合物からな る弗素源成分を N 2 等の不活性ガス中に合有させたガスが好適 に用いられる 。 なかでも 、 安全性、 反応性、 コ ン ト ロール性、 取扱性等の点で N F 3 が最も優れてお り 、 実用的である 。 この よ う なふつ素系ガスでは、 効果の点から 、 N F 3 等のふつ素源 成分が 0 . 0 5 %〜 2 0 % (重量基準、 以下同 じ ) 、 好ま し く は 3 %〜 5 %の範囲内の濃度に設定される 。
この後、 窒化処理を行う 。 こ こでは、 ふつ化処理された対象 品を 、 所定の反応ガス、 例えば N H 3 単体からなる ガスまたは N H と炭素源とからなる混合ガス (例えば R Xガス ) 中に、 所要温度 T 2 (例えば 4 8 0 :〜 7 0 0 °C ) で、 所要時間 ( 例
えば 0 . 5時間〜 5時間) 保持する 。 これによ り 、 窒化層 6 が 形成される 。 このと き 、 前述のふつ化処理での温度 T , から窒 化処理での温度 T 2 に、 昇温する過程では、 対象品の表面の金 属ふつ化膜が活性化膜と なる と と も に、 対象品の素材を 、 浸炭 鐧、 窒化鋼あるいはステンレス鋼など、 窒素との親和力が強い 合金元素を含む金属材に選定しているため、 窒化処理において 窒素が金属内部に速やかに深く浸透、 拡散しやすく なる 。 その 後、 所要時間をかけて冷却される 。 対象品は、 冷却終了まで、 窒素ガス中に保持されているから 、 表面に酸化物が生成されな い
このよ う に して得られる窒化層 6 は、 母材となる鋼の表面か ら内側に向かって C r N 、 F e 2 N 、 F e 3 N 、 F e 4 N等の 窒化物を含有する超硬質な化合物層 7 と 、 それに続く 内部に N 原子の拡散層 8 と から構成される 。
なお、 上述した方法によ り得られる窒化層 6 の深さは、 窒化 処理において時間をかければ 1 m m程度まで深く でき るが、 軸 受の場合、 軌道面にかかる最大せん断応力は、 表面から 0 . 0 1 〜 0 . 0 8 m mが多く 、 その 8倍以上で窒化層深さがあれば 寿命確保ができ るので、 窒化層の深さは、 少なく と も この範囲 とすればよ く 、 窒化層 6 の深さ等に応じて 、 窒化処理での温度 T 2 及び保持時間を適宜設定すればよ い。 前述の温度 T 2 につ いては、 窒化処理の前段にふつ化処理を行っているために、 通 常の窒化処理に比べて低く 設定でき る よ う になる 。 このよ う に 温度を低く でき る こ と によ り 、 母材の熱歪みの発生が抑制され る こ と になる 。 ちなみに、 上記窒化層 6の表面粗さは、 それを 形成する前の対象品の表面粗さ とほとんど同 じに維持される 。 さ らに、 この窒化層 6 の断面を電子顕微鏡 (機種 : オ リ ンパス P M G 3 、 倍率 4 0 0倍) で観察する と 、 平均粒子径が 1 m 以下で、 緻密にかつ平滑に形成されていた。
このよ う に、 窒化層 6 を形成する過程で熱歪みによ る寸法変
化の発生を抑制でき るから 、 この処理の後で表面に対して研磨 を施す必要がなく なる 。 したがって 、 上記転が り軸受 1 の例え ば内 · 外輪 2 , 3 を製造する場合では、 外形加工工程 (毅造、 旋削、 生研、 ロール成形) と 、 窒化層 6の形成工程 (ふつ化処 理、 窒化処理) と 、 超仕上げ工程と を行えばよ く なる 。 ちなみ に、 従来の熱硬化処理を行う 場合では、 外形加工工程 (鍛造、 旋削、 生研、 ロール成形) と 、 熱硬化処理工程 (焼入れ、 焼き 戻し ) と 、 研磨工程と 、 超仕上げ工程と を行う ので、 これに比 ベる と 、 実施形態では、 研磨工程を省略でき る よ う にな り 、 製 造コス ト を低減でき る よ う になる 。
こ こで、 上述したよ う な方法で浸炭鋼ゃ窒化鋼に対して窒化 層 6 を形成した場合についての表面硬度を図 3 に示す。
図中、 実施品 1 は、 J I S規格 S C M 4 1 5 の浸炭鋼を母材 と し 、 上記ふつ化処理後の窒化処理を 5 7 0でで 1 2時間と し たもの、 実施品 2は、 J I S規格 S C M 4 3 5の浸炭鋼を母材 と し、 上記ふつ化処理後の窒化処理を 5 7 0 °Cで 4 8時間と し た も の 、 実施品 3は、 J I S規格 S A C M 6 4 5の窒化鋼を母 材と し、 上記ふつ化処理後の窒化処理を 5 7 0 °Cで 4 8時間と した もの、 従来品 1 は、 J I S規格 S U J — 2 の軸受鋼を金属 母材と し、 焼入れ、 焼戻し処理を施した もので、 従来品 2は、 J I S規格 S C r 4 1 5 の軸受鋼を金属母材と し 、 浸炭処理を 施したものである 。 結果的に、 実施品 1 の最表面の硬度はビ ッ カース硬さ H v (測定荷重 5 0 g i ) で 7 3 1 、 実施品 2の最 表面の硬度はビッ カース硬さ H V (測定荷重 5 0 g ί ) で 7 6 3 、 実施品 2の最表面の硬度はビッカース硬さ Η V (測定荷重 5 0 g f ) で 1 0 3 6 と な り 、 実施品 1 , 2では従来品 1 , 2 と 同等レベルに、 実施品 3 では従来品 1 , 2 よ り も遥かに高い レベルになる 。 このよ う な硬度からする と 、 実施品 1 〜 3 につ いては、 一般的な従来品 ( J I S規格 S U J系の軸受鋼に対し て熱硬化処理を施した もの ) や高グレー ドな従来品 ( A I S I
規格 M 5 0 、 J I S規格 S K H 4などの高温用軸受鋼〉 の代替 品とする こ とができ る 。
と こ ろで、 金属材を浸炭鋼ゃ窒化鋼とする場合に限っては、 ふつ化処理をせずにいわゆる タ フ ト ライ ド処理ある いはガス軟 窒化処理のみを施して窒化層 6 を得る よ う に して も よ い。 この 場合の表面粗さは、 ふつ化処理を施した場合に比べて悪化する 。 ちなみに、 本実施形態の窒化層 6 と 、 ふつ化処理をせずにタ フ ト ライ ド処理のみを施した窒化層と についての摩擦係数は、 無潤滑状態で、 それぞれ 0 . 2 4 、 0 . 5 4 と な り 、 やは りふ つ化処理を施した場合のほ う が 2分の 1 以下と優れた ものにな る 。 なお、 実験は、 H R I D O N式摩耗試験機にて 、 試験片 ( 表面に窒化層 6 を形成した S C M 4 1 5材) にボール ( S U J 2材) を荷重 2 0 0 g ί , 速度 1 0 0 m m /秒、 距離 2 0 m m で 1 0往復させ、 その際の動摩擦係数を測定し、 各測定値の最 大値の平均値を求めた。 さ らに、 窒化層 6の硬さは、 本実施形 態の窒化層 6 と 、 ふつ化処理をせずにタ フ ト ライ ド処理のみを 施した窒化層 6 とのいずれも 、 ピ ツ カ一ス硬さ H v (測定荷重 5 0 g f ) で 4 5 0〜 1 0 0 0 と 、 一般的な従来品に比べて も 遜色ない程度になる 。
また、 金属母材と してステンレス鋼 ( J I S規格 S U S系な ど ) とする場合について説明する 。 通常、 ステンレス鋼には、 その表面の酸化物の存在によ り 、 いわゆる タ フ ト ライ ド処理あ る いはガス軟窒化処理のみを施すだけでは窒化層 6 を形成する こ とができ ないので、 このステンレス鋼に窒化層 6 を形成する 場合は、 窒化処理の前段で必ずふつ化処理を行わなければなら ない。 ちなみに、 内輪 2や外輪 3 を 1 3規格 3 し' 3 4 4 0 。 と し 、 上述したふつ化処理後に 5 7 0 で 1 2時間の窒化処理 によ り窒化層 6 を形成した場合、 図 4の ( a ) で示すよ う に、 最表面の硬度がビッカース硬さ H V ( 測定荷重 5 0 g f ) で 「 1 0 3 1 」 になる 。 この硬度からする と 、 超高グレー ド品 (窒
化けい素を主成分とする焼結品からなるセラ ミ ッ ク ス ) の代替 品とする こ とができ 、 価格的には遥かに安く て済む。
さ らに、 上記ステ ン レス鋼からなる金属母材に、 窒化層 6 を 形成する前に、 金属母材にずぶ焼きなどの硬化処理を施せば、 母材の内部深く の硬度や表面硬度を さ らに高める こ とができ る 。 但し、 この場合、 硬化処理によ って表面が歪むこ とが避けら れないので、 窒化層 6 を形成する前に研磨処理を施す必要があ る 。 ちなみに、 内輪 2や外輪 3 を J I S規格 S U S 4 4 0 C と し、 焼入れ、 焼戻し処理を施して 、 窒化処理を 5 0 0 で 3時 間行う こ と によ り窒化層 6 を形成した場合、 図 5の ( b ) で示 すよ う に、 最表面の硬度がピツ カ一ス硬さ H v (測定荷重 5 0 g ί ) で 「 1 1 5 6 」 にな り 、 内部の硬度が 「 6 0 0 」 以上に 高められる 。 この例では、 窒化処理時間が 3 時間と短いので、 窒化層 6が薄く なつているが、 時間を長くすれば窒化層 6の特 に拡散層 8 を深く でき る 。 この場合、 窒化層 6の形成前に硬化 処理と研磨処理と を行う ので、 コス ト増は避けられないが、 そ れでも 、 超高グレー ド品 (窒化けい素を主成分とする焼結品か らなるセラ ミ ッ ク ス ) の代替品とするな らば、 価格的には遥か に安く て済む結果と なる 。
以上、 本実施形態では、 緻密かつ平滑で、 しかも 、 金属母材 の表面硬度を高める こ とができ る窒化層 ら を得る こ と ができ る から 、 軸受構成要素の耐摩耗性、 耐熱性、 耐食性などの特性が 向上する 。 また、 この軸受構成要素は、 高グレー ドな従来品 ( A I S I 規格 M 5 0 、 J I S規格 S K H 4などの高温用軸受鋼 ) と 同等に高い雰囲気温度でも硬度低下や寸法変化が生じなく なるので、 転が り軸受 1 と しては、 高温雰囲気での使用用途に 適した ものとなる 。 さ らに、 母材を価格的に低グレー ドなもの に特定しているから 、 材料コス ト を低減でき る 。 また、 上述し たよ う な手法によ り窒化層 6 を形成する場合、 転が り軸受 1 の 最大せん断応力がかかる深さ まで形成して も熟歪みの発生を抑
制でき る よ う にな り 、 後の研磨処理が不要になるなど製造コス ト を低減でき る よ う になる 。 これらの点よ り 、 一般的な従来品
( J I s規格 S U J系の軸受鐧に対して熟硬化処理を施したも の ) に比べて安価であ りながら 、 高グレー ドな従来品 ( A I S
I 規格 M 5 0 、 J I S規格 S K H 4などの高温用軸受鐧) また は超高グレー ド品 (窒化けい素を主成分とする焼結品からなる セラ ミ ッ クス ) と 同様の使用が可能となる 。
なお、 本発明は上記実施形態のみに限定される ものではなく 、 種々な応用や変形が考え られる 。
( 1 ) 上記実施形態の転が り軸受 1 は、 例えば、 2サイ クル エンジンおよびケロシンエンジンのク ラ ンク ジャーナル周辺、 船舶関連、 4サイ クルエンジンのシ リ ンダヘッ ド回 り 、 ターボ チヤ一ジャなどの過給機、 油圧式サスペンシ ョ ンの油圧制御用 ァクチユエ一タ内部など、 潤滑条件が厳しい用途に好適に使用 する こ と ができ る 。 も ちろん、 この他にも 、 種々な軸受部分に 使用する こ とができ る 。 具体的に、 2サイ クルエンジンの場合 、 図 5 に示すよ う に、 ク ラ ンク軸 Aのコネクテ ィ ングロ ッ ド B の軸方向両端をケース C に対して支持する軸受 D を 、 上記実施 形態の転がり軸受 1 とする 。 なお、 転がり軸受 1 において 、 保 持器 5以外の構成要素に窒化層 6 を形成する場合、 この保持器 5 については S P C Cなどの炭素鋼板ある いは J I S規格 S U S 3 0 4などのステンレス鋼で形成する こ とができ る 。
( 2 ) 上記実施形態では、 深溝型玉軸受を例に挙げているが 、 例えば円筒ころ軸受、 円すいころ軸受、 球面こ ろ軸受、 針状 こ ろ軸受など種々な軸受形式のものに本発明を適用する こ とが でき る 。 同様に、 軌道輪を回転軸やハウジングなどと一体に形 成された形式のものにも本発明を適用する こ とができ る 。
( 3 ) 上記実施形態では、 窒化層 6 を内 · 外輪 2 , 3 と転動 体 4 に形成した例を挙げているが、 転が り軸受 Aの構成要素 ( 内輪 2 、 外輪 3 、 転動体 4 、 保持器 5 ) の少なく と も いずれか
一つに窒化層 6 を形成した ものであれば本発明に含まれる 。 さ らに、 内 ' 外輪 2 , 3 に窒化層 6 を形成する場合、 その表面全 体に形成する必要はなく 、 少なく と も軌道面にのみ形成すれば よ い。 また、 軸受構成要素の う ち、 窒化層 6 を形成しない要素 については、 軸受使用用途に応じて 、 例えばセラ ミ ッ クスや軸 受鋼など種々な材料で形成し、 複合組み合わせ構造とする こ と ができ る 。
( 4 ) 上記実施形態において、 窒化層 6 を形成した上部に図 示しないが酸化物を被覆する こ とができ る 。 この場合、 耐食性 がよ り 向上する こ と にな り 、 真空環境または腐食環境での使用 にも十分耐え得る ものにでき る 。