JPWO2020044864A1 - 溶射皮膜の形成方法 - Google Patents

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Abstract

高速フレーム溶射法によって、非酸化物セラミックス材料を基材上に衝突させて成膜する溶射皮膜の形成方法である。平均粒子径が0.1〜5.0μmであり、粉末材料の粒度分布における0.1μm以上、1.0μm未満の範囲、及び1.0μm以上、10.0μm未満の範囲のそれぞれに一以上のピークが存在する非酸化物セラミックス材料を溶媒に分散させてスラリー11とし、このスラリー11を、溶射ガン2から噴出させるフレーム10に外部から供給して、緻密な溶射皮膜の皮膜組織を形成する。

Description

本発明は、高速フレーム溶射法により非酸化物セラミックス材料で緻密な溶射皮膜を基材上に成膜する溶射皮膜の形成方法に関するものである。
構造物表面の機能性を向上させるために、構成部材の表面に各種の溶射皮膜を形成することが広く行われている。溶射法は金属、セラミックス、サーメットなどの溶射材料を、燃焼ガスやプラズマアークなどにより生成したフレーム中に供給し、これらを軟化又は溶融した状態にして、被溶射体の表面に高速で吹き付けることにより、その表面に溶射皮膜をコーティングする表面処理技術である。
溶射では多彩な材料を用いることが可能であるが、一方で、高温での加熱溶融プロセスを経るため、プロセス中で溶射材料の蒸発、酸化が起こることがあり、使用する材料に合わせて溶射条件の選定を十分に行わないと良質な皮膜が得られない。特に、窒化アルミニウムなどの非酸化物セラミックスは、一般には他の材料と比べて溶射条件の選定が難しいとされており、従来から種々の検討がなされてきた。
特許文献1には、燃焼筒と、燃料ガス等を供給するガス供給手段と、燃料ガスの混合気に点火を行う点火手段と、粉体供給手段とを有する爆発溶射装置を用いて、基材に窒化アルミニウム皮膜を形成する皮膜製造方法が記載されている。この文献では供給粉体に関し、平均粒子径が1μm〜5μmの窒化アルミニウム粉体を、20μm〜60μmの造粒粉としたものを用いている。
特許文献2には、窒化アルミニウム粉末の温度及び飛行速度を調整して、大気圧プラズマ溶射法により窒化アルミニウム溶射皮膜を基材上に形成する成膜方法が記載されている。
特許文献3には、半導体製造装置用部品に対し、窒化物の粉末粒子を溶融せずに基板に連続堆積させる被膜の形成方法が記載されている。
特許文献4には、昇華性を備え、溶融相を持たない金属窒化物の粒子を主成分とする原料粉末を、有機溶媒に分散させてスラリーを調製し、当該スラリーを所定の溶射条件でフレーム溶射し、基材の表面に皮膜を形成する方法が記載されている。
特開2017−71835号公報 特開2009−235558号公報 国際公開第2010/027073号 特開2014−198898号公報
上記文献1〜4に共通する問題点として、溶射材料のサイズが大きすぎると粒子が未溶融となり成膜しにくく、成膜できたとしても緻密な膜や基材に対して十分な密着力を有する膜が得られにくい点が挙げられる。また、溶射材料のサイズが小さすぎると、粒子の酸化が過度に進行し、要求される組成の皮膜を得ることが難しい。
平均粒径を調整した窒化アルミニウム粉体を爆発溶射装置によって成膜する特許文献1に記載の方法では、使用する材料の平均粒径が大きいため、十分に溶けず成膜できないか、成膜できたとしても緻密な膜とならない。
窒化アルミニウムを大気プラズマ溶射法で成膜する特許文献2の成膜方法では、プラズマ熱源によるフレームの温度が非常に高く、窒化アルミニウムが昇華してしまう。また、緻密さを向上させるために希土類金属セラミックスの添加を必須としている。
特許文献3では、形成された溶射被膜における窒化物の粉末粒子が未溶融で90%以上堆積しているとされており、これを超高速フレーム溶射設備の溶射ノズルの改造により実現したとの記載があるが、具体的にどのような改造をしたのか記載されていない。
特許文献4では、金属窒化物粒子の粒子径が0.5〜3μm程度の粉末が用いられており、溶射条件を非常に高精度に設定しないと、上記のように、粒子の酸化が過度に進行し、要求される組成の皮膜を得ることが難しい。
本発明は従来技術の問題点に鑑み、非酸化物セラミックスを材料として使用する場合であっても、緻密かつ密着力の高い皮膜が得られる溶射皮膜の形成方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、非酸化物セラミックス材料を基材上に衝突させて成膜する溶射皮膜の形成方法を検討したところ、所定の平均粒径と粒度分布を有する材料を用いた高速フレーム溶射法を採用することで、緻密かつ密着力の高い皮膜を形成することに成功し、これにより課題を解決するに至った。
即ち本発明の溶射皮膜の形成方法は、高速フレーム溶射法によって、非酸化物セラミックス材料を基材上に衝突させて成膜する溶射皮膜の形成方法であって、前記非酸化物セラミックス材料の平均粒子径は0.1〜5.0μmであり、前記非酸化物セラミックス材料の粒度分布は、0.1μm以上、1.0μm未満の範囲、及び1.0μm以上、10.0μm未満の範囲のそれぞれに一以上のピークを有しているものである。
本発明では高速フレーム溶射法を採用しているので、非酸化物セラミックス材料が溶射の過程で過度に酸化することを防ぎ、非酸化物セラミックスを主体とする溶射皮膜を得ることができる。ここで、「非酸化物セラミックスを主体とする」とは、溶射皮膜の構成成分のうち、質量単位で非酸化物セラミックスが最も多いことを意味する。本発明ではさらに、非酸化物セラミックス材料が、一般的な溶射材料よりも平均粒子径が小さく、かつ、その中でも比較的大きいサイズの粒子群と比較的小さいサイズの粒子群を含むようにしている。具体的には、非酸化物セラミックス材料の平均粒子径は0.1〜5.0μmであり、非酸化物セラミックス材料の粒度分布は、0.1μm以上、1.0μm未満の範囲、及び1.0μm以上、10.0μm未満の範囲のそれぞれに一以上のピークを有している。高速フレーム溶射法を採用したとしても、酸素を含む環境(例えば大気中)で溶射を行ったときには、粒子の外周側から若干の酸化が進行する。このとき、0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の粒子は溶射の過程で大部分が酸化されるのに対し、1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の粒子は一部のみが酸化され、全体は酸化されにくい。そして、これらの材料が皮膜となったときには、0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の粒子が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の粒子同士をつなぐバインダーとなる。すなわち、平均粒子径が小さい非酸化物セラミックス材料を使用するときに、比較的サイズが大きい粒子と比較的サイズが小さい粒子とをそれぞれ一定量含ませることで、比較的サイズの小さい粒子が、比較的サイズが大きい粒子同士をつなぐバインダーとして機能し、その結果、緻密かつ密着力の高い皮膜を得ることができる。
前記非酸化物セラミックス材料における、粒径が0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は、60%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以下である。この場合、より緻密かつ密着力の高い皮膜を得ることができる。
前記非酸化物セラミックス材料は、溶媒に分散した懸濁液としてフレームに供給されることが好ましい。このようなサスペンション高速フレーム溶射法によって成膜することで、溶射材料の搬送中における材料同士の凝集が抑制され、緻密な皮膜をより確実に形成することができる。
前記懸濁液は、溶射ノズルの先端から噴射するフレームに供給されることが好ましい。内部供給方式の高速フレーム溶射法であれば、溶射材料がノズル内で堆積し、堆積物が固まりとなって吐出されるスピッティングが発生し易くなる。これに対し、懸濁液を溶射ノズルの先端から噴射するフレームに供給する外部供給方式とすることで、スピッティングの発生を防止できる。
前記非酸化物セラミックス材料は、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、及び硼化物セラミックスからなる群より選択される一以上のセラミックスを含む材料からなるものとすることができる。これらの非酸化物セラミックスは酸化物セラミックスよりも硬質な材料であるが、一般的に溶射で形成することは難しい。本発明の溶射皮膜の形成方法によれば、これらの材料であっても緻密かつ密着力の高い皮膜を形成することができるので、硬質かつ良質な皮膜を得ることができる。
本発明のように、非酸化物セラミックスからなる溶射材料として、平均粒子径を0.1〜5.0μm、粒度分布を、1.0μmを境としてこれより粒度の小さい所定範囲、及び粒度の大きい所定範囲のそれぞれに一以上のピークを有している材料を使用し、これを高速フレーム溶射することで、粒度の小さい所定範囲の粒子が粒度の大きい所定範囲の粒子同士をつなぐバインダーとなり、緻密かつ密着力の高い皮膜を得ることができる。
溶射皮膜の形成方法に使用する高速フレーム溶射法を実施するための溶射装置の要部概略図である。 一山型と二山型の粒度分布を有する炭化チタン粉末の粒度分布を示すグラフである。 成膜性の結果を表す写真図である。 二山型の粒度分布を有する窒化アルミニウム粉末の粒度分布を示すグラフである。 基材の表面粗さと密着力の関係を表す表である。 断面組織観察の映像と皮膜成分を表す表である。 皮膜中の粒子間の結合状態を表す断面組織観察の映像である。
本発明の実施の形態について説明する。本実施形態の溶射皮膜の形成方法には、高速フレーム(HVOF)溶射法が用いられる。高速フレーム溶射法によって溶射粉末を基材上に衝突させて溶射皮膜を成膜する。高速フレーム溶射法は、燃焼ガスの燃焼エネルギーを熱源とする溶射法であり、燃焼室の圧力を高めることによって超音速フレームを発生させ、超音速フレームジェット流の中心に溶射粉末を供給して加速させ、溶融又は半溶融状態にし、高速度で連続噴射する溶射法である。
溶融した溶射粒子が超音速度で基材に衝突するため、緻密で高密着力を有する溶射皮膜を形成することができ、特に連続的に溶射皮膜が形成されるので、均質な溶射皮膜を得ることができる。熱源として用いる燃焼ガスには、水素や、炭素と水素を主成分とするアセチレン、エチレン、プロパンなどの可燃性ガスと、酸素を含む支燃性ガスが使用される。可燃性ガスの代わりに灯油(ケロシン)などの液体燃料を用いてもよい。
具体的には、燃焼ガスとして、酸素/プロパン、酸素/プロピレン、酸素/天然ガス、酸素/エチレン、酸素/水素などの混合ガスを用い、フレーム速度が900〜2500m/秒、フレーム温度が1800〜3800℃の超音速フレームを発生させ、溶射距離は100〜350mmに保持し、溶射中の基材温度を200℃以下に制御して溶射を行なうことができる。
基材は限定されず金属、セラミック、高分子材料などが挙げられる。金属素材の具体例として、例えばFe、Cr、Ni、Al、Ti、Mgから選ばれる金属単体、又はFe、Cr、Ni、Al、Ti、Mgから選ばれる元素を1種以上含む合金が挙げられる。このような金属素材は、押出成形、切削加工、塑性加工、鍛造によって成形される。金属素材上に溶接肉盛、めっき、溶射でコーティングを形成した基材であってもよい。基材と溶射皮膜との間にアンダーコートを設けてもよい。
溶射材料として非酸化物セラミックス材料を用いる。非酸化物セラミックス材料は、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、及び硼化物セラミックスからなる群より選択される一以上のセラミックスを含む材料からなる。
具体的には、Ni、Cr、Co、Al、Ta、Y、W、Nb、V、Ti、B、Si、Mo、Zr、Fe、Hf、Laの群から選択される元素の1種以上を含む炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、硼化物セラミックス、これらの混合物が挙げられる。
炭化物セラミックスとしては、TiC、WC、TaC、BC、SiC、HfC、ZrC、VC、Crが挙げられる。窒化物セラミックスとしては、TiN、CrN、Cr2N、TaN、AlN、BN、Si、HfN、NbN、YN、ZrN、Mg、Caが挙げられる。硼化物セラミックスとしては、TiB、ZrB、HfB、VB、TaB、NbB、W、CrB、LaBが挙げられる。
図1は本実施形態の溶射皮膜の形成方法に使用する高速フレーム溶射法を実施するための溶射装置1の要部概略図である。この溶射装置1は、溶射材料を外部からスラリー(懸濁液)で供給するサスペンションHVOF溶射用の装置として構成されたものである。溶射装置1は、溶射粉末を溶媒に分散させたスラリーとして、これを外部から供給する外部供給式のものであり、溶射ガン2及びスラリー供給用ノズル3を備えている。
溶射ガン2は、燃焼室4を形成する燃焼容器部5、当該燃焼容器部5に連続する溶射ノズル6、及び着火装置7を有している。高圧の酸素及び燃料を含むガスが燃焼室4に供給されるようになっており、当該ガスが着火装置7により着火される。そして、燃焼室4で発生させたフレームが溶射ノズル6によって一旦絞られ、その後、膨張されて超音速フレーム化し、溶射ノズル6の先端から高速で噴射される。噴射されたフレーム10に対して、スラリー供給用ノズル3からスラリー11が供給される。スラリー11中の溶射粉末が溶融又は半溶融状体となると共に、フレーム10によって加速され、基材100上に高速で衝突することで、基材100上に溶射皮膜が形成される。
スラリー11は、溶射粉末を水、又はアルコールからなる分散媒及び有機系分散剤を含む有機溶媒に分散させたものである。スラリー11中には、溶射粉末の粒子が5〜40%の質量比で含まれる。スラリー11は、溶射ノズル6の先端から噴射するフレーム10に供給される。
スラリーを溶射ノズルの内部で供給する内部供給方式であれば、溶射材料がノズル管内で堆積し、それが固まりとなって吐出されるスピッティングが生じるおそれがある。これに対し、本実施形態では図1のとおり、スラリー11を外部からフレーム10に供給する外部供給方式としており、スピッティングの発生を防止できる。
溶射粉末である非酸化物セラミックス材料の平均粒子径を0.1〜5.0μmとし、当該非酸化物セラミックス材料の粒度分布を、0.1μm以上、1.0μm未満の範囲、及び1.0μm以上、10.0μm未満の範囲のそれぞれに一以上のピークを有するものとしている。即ち、0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の粒度分布に山型の形状が1つ以上存在し、かつ1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の粒度分布に山型の形状が1つ以上存在している。粒子の平均粒子径は、レーザ回析・散乱法(マイクロトラック法)によって粒度分布を測定したときに累積値が50%となる粒径(メジアン径)として定義される。
0.1μm以上、1.0μm未満の範囲、及び1.0μm以上、10.0μm未満の範囲のそれぞれに2つ、又は3以上のピークが存在していてもよい。典型的な例としては、0.1μm以上、1.0μm未満の範囲に1つのピークが存在し、かつ1.0μm以上、10.0μm未満の範囲に1つのピークが存在している非酸化物セラミックス材料が挙げられる。その他の例としては、例えば0.1μm以上、1.0μm未満の範囲に複数のピークが存在し、かつ1.0μm以上、10.0μm未満の範囲にも複数のピークが存在している非酸化物セラミックス材料が挙げられる。
非酸化物セラミックス材料の粒子が、粒径で0.1μm以上、1.0μm未満の範囲に相当数あり、かつ1.0μm以上、10.0μm未満の範囲にも相当数あることが必要である。更に非酸化物セラミックス材料における、粒径が0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は、60%以上とするのが好ましく、より好ましくは、90%以下である。
粒径で0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の粒子は、非常に小さいものであることから、溶射時に大気と触れることで酸化が進行し、その多くは酸化物となる。非酸化物セラミックス材料からなる溶射粉末の平均粒子径を0.1〜5.0μmとし、粒度分布を、1.0μmを境として、これより粒度の小さい所定範囲、及び粒度の大きい所定範囲のそれぞれに一以上のピークを有しているものとすることで、多くが酸化物となる粒度の小さい所定範囲の粒子に、粒度の大きい所定範囲の粒子同士をつなぐバインダー機能をもたせる。粒度の小さい粒子で粒度の大きい粒子の隙間を埋めて繋ぎ合わせるようにする。これにより、非常に緻密な皮膜を得ることが可能となる。
また非酸化物セラミックス材料における、粒径が0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比を60%以上、好ましくは90%以下とすれば、粒子間結合力が格段に上がるため、より緻密かつ密着力の高い皮膜を形成できる。これらの体積比は、レーザ回析・散乱法(マイクロトラック法)によって測定したときのそれぞれの粒度分布の面積を比較することで算出することができる。
一般に、粒径で0.1〜1.0μm程度の粉末が相当数あれば、溶射粉末の流動性が低下して、安定した供給ができなくなるおそれがある。これに対して本実施形態ではスラリーで溶射材料を供給するサスペンション高速フレーム溶射法で成膜するため、溶射粉末の凝集を抑制した状態で搬送でき、溶射粉末の安定供給が可能となっている。一般に、非酸化物セラミックスを溶射する場合、粒径で10.0μmに近い粒子が多量に含まれていれば、過度に多孔質化されて膜質が低下するおそれがあるが、本実施形態では小さい粒径の粒子がバインダーとなるため、高品質の緻密な溶射皮膜を成膜できる。
上述の溶射皮膜の形成方法で得られる溶射皮膜の厚みは50〜2000μmの範囲が好適であり、その厚みは使用目的に応じて適宜設定される。一般に厚みを50μm以上とすれば、皮膜の均一性が維持されて皮膜機能を十分に発揮でき、2000μm以下とすれば、皮膜内部の残留応力の影響による機械的強度の低下を防ぐことができる。
セラミックス溶射皮膜の気孔率は0.1〜5%程度であればよいが、本実施形態の溶射皮膜の形成方法で得られる溶射皮膜の気孔率は、溶射粉末の粒度分布にもよるが、さらに0.1%未満のものを得ることもできる。気孔率が大きくなれば、機械的強度の低下に繋がることや、例えばガス雰囲気で用いられる場合にガスが皮膜内へ侵入し易くなるおそれがある。なお成膜条件は、基材、原料粉末、膜厚、製造環境などに応じて適宜設定すればよい。
以下に、本発明に基づき実際に皮膜を形成した実施例について述べる。
材料粉末のサイズと成膜性の関係を、異なる粒度分布を有する2種類の炭化チタン粉末を用いて調査した。図2に示す粒度分布に調整された2種類(材料A、材料B)の炭化チタン粉末を用いた。一方の炭化チタン(材料A)は1〜10μmの範囲に1つのピークのみを有し、他方の炭化チタン(材料B)は0.1〜1.0μmの範囲に1つ、及び1.0〜10.0μmの範囲に1つのピークを有している。
材料Aの平均粒子径は3.7μmであり、材料Bの平均粒子径は2.4μmである。材料Aにおける、粒径が0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は、100%である。材料Bにおける、粒径が0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は、74%である。
それぞれの炭化チタン粉末を水に懸濁してスラリーとし、この材料を、サスペンションHVOF溶射によってステンレス基材上に成膜する試験を行った。図3は成膜性の結果を表す写真図である。表中のSDは溶射距離(mm)である。同程度の平均粒子径を有する粉末を用いたとしても、一山型の粒度分布を持つ材料Aではほとんど成膜されなかったのに対し、二山型の粒度分布を持つ材料Bを用いた場合は成膜できることがわかった。
次に、図4に示す、それぞれ二山型の粒度分布を有する2種類(材料C、D)の窒化アルミニウム粉末を用いて、材料粉末のサイズと成膜性の関係を調査した。材料Cの平均粒子径は1.8μm、材料Dの平均粒子径は1.4μmである。材料Cにおける、粒径が0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は83%であり、材料Dにおける、粒径が0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は70%である。
それぞれの窒化アルミニウム粉末をアルコールに懸濁してスラリーとし、この材料を、サスペンションHVOF溶射によってステンレス基材上に成膜する試験を行ったところ、いずれの材料も成膜が可能であった。そこで、材料Cを用いて改めて皮膜サンプルを作製し、基材の表面粗さと密着力の関係を調べるための引張り試験、断面組織観察、気孔率測定、皮膜の成分分析、電気特性調査などの皮膜評価を実施した。
基材の表面粗さと密着力の関係を調べるために、引張り試験ではブラスト処理によって任意の表面粗さに調整した複数のステンレス基材を用意した。図5は、基材の表面粗さと密着力の関係を表す表である。基材の表面粗さRaの大きさに関係なく、また、前処理としてのブラスト処理の有無に関係なく、いずれのサンプルも充分な密着力を有していた。また、これらのいくつかは、表面粗さRaが1.0μm以下の非常に滑らかな表面状態の皮膜であった。
図6はそのうちの一つの断面組織観察の映像と、皮膜成分を表す表である。皮膜中の各成分の存在比(質量%)は、N:23.52、O:17.58、Al:58.89であり、窒化物と酸化物がバランスよく存在していることがわかった。また、皮膜硬さはHv472、熱伝導率は7.4W/m・K、気孔率は0.1%、絶縁破壊電圧は135kV/mm、体積抵抗率は5.2×1013Ω・cmであった。これにより、本実施例によって形成された溶射皮膜は緻密な皮膜組織を有することが認められ、高い電気絶縁性を示した。
その皮膜組織をFE−SEMを用いて拡大観察した。FE−SEMでの断面組織観察の映像を図7に示す。窒化アルミニウム粒子の境界に酸化物層が形成されており、これが接着層になっている。すなわち、窒化物を主体としつつも、窒化物と酸化物が大きな偏りなく均一かつランダムに存在することが、緻密かつ密着力の高い溶射皮膜を形成する上で重要な要因となっていることがわかる。
上記実施形態及び実施例の溶射皮膜の形成方法は例示であって制限的なものではない。溶射皮膜を成膜する対象物、施工態様に応じて、溶射皮膜の形成方法に他の工程が含まれていてもよい。上記実施形態で説明した構成及び工程は本発明の効果を損なわない限りにおいて変更可能であり、必要に応じて設けられる他の構成及び工程の形態も限定しない。
1 溶射装置
2 溶射ガン
3 スラリー供給用ノズル
4 燃焼室
5 燃焼容器部
6 溶射ノズル
7 着火装置
10 フレーム
11 スラリー
100 基材
前記非酸化物セラミックス材料における、粒径が0.1μm以上、10.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は、60%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以下である。この場合、より緻密かつ密着力の高い皮膜を得ることができる。
非酸化物セラミックス材料の粒子が、粒径で0.1μm以上、1.0μm未満の範囲に相当数あり、かつ1.0μm以上、10.0μm未満の範囲にも相当数あることが必要である。更に非酸化物セラミックス材料における、粒径が0.1μm以上、10.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は、60%以上とするのが好ましく、より好ましくは、90%以下である。
また非酸化物セラミックス材料における、粒径が0.1μm以上、10.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比を60%以上、好ましくは90%以下とすれば、粒子間結合力が格段に上がるため、より緻密かつ密着力の高い皮膜を形成できる。これらの体積比は、レーザ回析・散乱法(マイクロトラック法)によって測定したときのそれぞれの粒度分布の面積を比較することで算出することができる。
材料Aの平均粒子径は3.7μmであり、材料Bの平均粒子径は2.4μmである。材料Aにおける、粒径が0.1μm以上、10.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は、100%である。材料Bにおける、粒径が0.1μm以上、10.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は、74%である。
次に、図4に示す、それぞれ二山型の粒度分布を有する2種類(材料C、D)の窒化アルミニウム粉末を用いて、材料粉末のサイズと成膜性の関係を調査した。材料Cの平均粒子径は1.8μm、材料Dの平均粒子径は1.4μmである。材料Cにおける、粒径が0.1μm以上、10.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は83%であり、材料Dにおける、粒径が0.1μm以上、10.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は70%である。


Claims (5)

  1. 高速フレーム溶射法によって、非酸化物セラミックス材料を基材上に衝突させて成膜する溶射皮膜の形成方法であって、
    前記非酸化物セラミックス材料の平均粒子径は0.1〜5.0μmであり、
    前記非酸化物セラミックス材料の粒度分布は、0.1μm以上、1.0μm未満の範囲、及び1.0μm以上、10.0μm未満の範囲のそれぞれに一以上のピークを有している溶射皮膜の形成方法。
  2. 前記非酸化物セラミックス材料における、粒径が0.1μm以上、1.0μm未満の範囲の材料に対する、粒径が1.0μm以上、10.0μm未満の範囲の材料の体積比は、60%以上である請求項1に記載の溶射皮膜の形成方法。
  3. 前記非酸化物セラミックス材料は、溶媒に分散された懸濁液となってフレームに供給される請求項1又は2に記載の溶射皮膜の形成方法。
  4. 前記懸濁液は、溶射ノズルの先端から噴射するフレームに供給される請求項3に記載の溶射皮膜の形成方法。
  5. 前記非酸化物セラミックス材料は、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、及び硼化物セラミックスからなる群より選択される一以上のセラミックスを含む材料からなる請求項1〜4のいずれかに記載の溶射皮膜の形成方法。
















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