JPWO2020031502A1 - 手術用光学レンズ - Google Patents
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Abstract
偏光性フィルタが一体に設けられ、可視光線波長域380〜780nmの平均透過率が40%以上のレンズ素材であり、前記平均過率に対する波長域580〜600nmの最小透過率の割合が18〜50%であるように特定波長吸収色素を含有する生体組織観察用レンズとする。波長域580〜600nmの黄色系の光が所定割合だけカットされることにより、特に橙色及び赤色と他の色とのコントラストが強く認識され、また橙色及び赤色の血液の色と他の色との境目が判別しやすくなる。
Description
この発明は、手術を行なう際に、施術者等が生体組織を観察するために用いる手術用眼鏡レンズや手術用顕微鏡等に用いる手術用光学レンズに関するものである。
高照度で比較的反射光の多い屋外などの環境で用いられることを想定した偏光眼鏡用レンズは、反射光の眩しさによる目の疲れを少なくするために、偏光フィルターで眩しさの原因となる波長の光をカットしまたは減衰させる機能を有している。
例えば、可視光線波長域380〜780nmの透過率が30%以上の偏光素子を用いた眼鏡用偏光レンズが周知であり、必要な偏光機能をある程度残しながら、眼鏡レンズの明るさを優先することにより、日常的に装着できる眼鏡用レンズ((株)タレックス 登録商標:モアイレンズ)が知られている。
一方、手術の際に用いられる眼鏡として、生体組織である術部を拡大して観察しながら手術を行なうマイクロサージェリー用の顕微鏡が知られており、また光路を分割して左右の目に互いに異なる振動方向の偏光成分を入射させて術部を立体的に観察するために、偏光手段を備えた手術用顕微鏡が知られている(特許文献1)。
さらにまた、生体組織のリンパ組織、血管等を可視化するためのシステムとして、蛍光や燐光または発光性のある染料(ダイ)を術部の組織に注入し、ダイを刺激することによって励起した光のうち、特定波長の光を除去、阻害、吸収、反射または偏向する能力を有する光フィルターで除去して見やすくした手術用眼鏡を用いたシステムが知られている(特許文献2)。
しかし、上記した特許文献2に記載される手術用の眼鏡レンズは、発光性の染料から励起した光によって生体組織を観察する場合に刺激光を偏光フィルターによって除去するが、発光性染料を用いないで、通常の手術を行なう場合には、見やすくできる偏光性について開示されたものではない。
また、特許文献1に記載される眼鏡は、手術部を立体的に観察するために、偏光レンズを備えた手術用顕微鏡であるが、顕微鏡のモニター画面において観察者に立体画像を観察させるものであって、特に生体の組織や血管、血液等の特定の部位の出血を、眼鏡を通して直接に見分けられるものではない。
このように上記した従来の手術用眼鏡レンズは、いずれも通常の手術室内の照明下で、血管内の血液と血管外の出血の境界域の判別を正確にできるものではない。
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、生体組織を観察する際に用いられる手術用光学レンズについて、通常の手術室内の照明下で、生体組織中に毛細血管から漏れ出た血液、すなわち微細な出血箇所等を見出すことが可能であるようにし、例えば手術用眼鏡レンズまたは手術用顕微鏡用レンズとして適用できる手術用光学レンズとすることである。
上記の課題を解決するために、この発明は、手術室内の照明下で使用する手術用光学レンズにおいて、偏光性フィルタがレンズ素材と一体に設けられ、可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値が40%以上の偏光性レンズからなり、前記レンズ素材またはそれと一体の層内に前記可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値に対する波長域580〜600nmの最小透過率の割合が18〜50%であるように特定波長域吸収色素を含有する手術用光学レンズとしたのである。
上記したように構成されるこの発明の手術用光学レンズは、偏光性フィルタがレンズ素材と一体に設けられたことにより、生体組織の表面が細胞外に存在する体液で濡れた状態で室内の照明光からの乱反射光を含む雑光を偏光性フィルタによってカットできるので、生体の組織表面を反射光がないクリーンな視界が得られ、毛細血管やその周辺組織の微細な部分まで明瞭に観察できる。
前記眼鏡レンズ素材は、偏光度15〜40%のものを採用することが、可視光線波長域380〜780nmの透過率をできるだけ大きくして見やすく明るい眼鏡レンズとし、しかもある程度までは散乱する光をカットして、コントラストを向上させることができるので好ましい。
また、この光学レンズは、可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値が40%以上(%値の小数点第1位以下は四捨五入されている。%の数値について、以下同じ。)のレンズ素材であるので、前記偏光性フィルタを使用する場合でも明るい視界が得られ、解像度も高められる。
眼鏡レンズの前記透過率の平均値が所定値未満に低すぎる場合には、視界が暗くなって生体組織中の毛細血管の輪郭や、そのような血管から漏れ出た血液の量や色は視認し難くなるので好ましくない。また、透過率があまり高すぎても、反射光を含む雑光を充分に偏光性フィルタによってカットできない状態になる可能性があり、上記した毛細血管の輪郭等を視認し難くなる可能性がある。そのような可能性をできるだけ低くするために、より好ましい眼鏡レンズの380〜780nmの可視光線波長域の透過率の平均値は、45〜75%であり、さらに好ましくは50〜75%である。
そして、この発明の手術用光学レンズは、特定波長吸収色素を含有することにより、可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値に対する波長域580〜600nmの最小透過率の割合が18〜50%に制限されており、波長域580〜600nmの黄色系の光が通常の可視光線の透過光量の上記割合以下にカットされる。そのため、この光学レンズは、橙色から赤色と、緑色の光を選択的に透過するレンズとなり、特に橙色及び赤色と緑色を含む他の色とのコントラストが強く認識できるものとなるので、橙色や赤色系の血液色と他の色との境目が判別しやすくなる。
したがって、この発明の手術用光学レンズは、生体組織中に血管から漏れ出た血液や出血箇所を視覚的に認識しやすくなり、微細な出血箇所を見つけ出すことを可及的に容易にできる医療用の眼鏡となり、特に手術用眼鏡に適用できる手術用光学レンズになる。
上記波長域580〜600nmの最小透過率の上記所定割合が下限値(18%)未満では、コントラストは強くなるが、鮮やかになりすぎて目が疲れやすくなり、また明るさの感じられる黄色系が薄くなって視界が暗くなり、却って組織や細い血管を判別し難くなるので好ましくない。
また、上記の最小透過率の所定割合が、上記所定範囲の上限値(50%)を超えると、橙色及び赤色と他の色とのコントラストが低下し、目に優しく疲れ難くなるが、所期した程度に毛細血管やその周辺組織の微細な部分を明瞭に観察できなくなるので、好ましくない。
上記の理由から、上記波長域580〜600nmの最小透過率の所定割合は、18〜50%であり、好ましくは20〜50%であり、より好ましくは30〜50%である。
なお、この発明の手術用光学レンズは、通常の生活で使用する眼鏡用レンズではないので、一般的な眼鏡用レンズを対象とする透過率の規格のJIS規格や国際規格を満足させる必要はない。
また、上記の最小透過率の所定割合が、上記所定範囲の上限値(50%)を超えると、橙色及び赤色と他の色とのコントラストが低下し、目に優しく疲れ難くなるが、所期した程度に毛細血管やその周辺組織の微細な部分を明瞭に観察できなくなるので、好ましくない。
上記の理由から、上記波長域580〜600nmの最小透過率の所定割合は、18〜50%であり、好ましくは20〜50%であり、より好ましくは30〜50%である。
なお、この発明の手術用光学レンズは、通常の生活で使用する眼鏡用レンズではないので、一般的な眼鏡用レンズを対象とする透過率の規格のJIS規格や国際規格を満足させる必要はない。
波長域580〜600nmの最小透過率の割合を18〜50%程度に調整可能な特定波長吸収色素の代表例としては、テトラアザポルフィリン化合物が挙げられ、このものは主吸収ピークが565〜605nmの範囲に存在する色素であることから好ましい。
上記のような手術用光学レンズをフレームに装着すれば、手術用眼鏡として、生体組織中に血管から漏れ出た血液、すなわち出血箇所を特定しやすいものになる。
この発明は、所要偏光度の弱い偏光性を有する眼鏡レンズ素材において、可視光線波長域の透過率を所定割合以上に高くし、かつ特定波長吸収色素を含有させて波長域580〜600nm透過率を上記所定割合に制限したので、生体組織中に血管から漏れ出た血液、すなわち出血箇所を特定しやすくし、微細な出血箇所を見出すことが可能な医療用眼鏡、特に手術用眼鏡として適用できる手術用光学レンズに適用でき、またはそのような機能を有する手術用眼鏡となる利点がある。
この発明の実施形態の手術用光学レンズの眼鏡レンズ素材は、偏光性フィルタが一体に設けられ、可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値が40%以上のものである。
偏光性フィルタは、周知製法に従って偏光フィルムとして得られるが、例えばポリビニルアルコール(PVA)製フィルムにヨウ素もしくはヨウ素化合物含浸等によって含ませ、さらに必要に応じて染料を添加して一軸延伸したものを採用することが好ましい。
偏光性フィルタは、周知製法に従って偏光フィルムとして得られるが、例えばポリビニルアルコール(PVA)製フィルムにヨウ素もしくはヨウ素化合物含浸等によって含ませ、さらに必要に応じて染料を添加して一軸延伸したものを採用することが好ましい。
偏光フィルムは、その材質がPVAに限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはPVA製フィルムにトリアセチルセルロースやポリカーボネートなどからなるフィルムを張り合わせた複合フィルムを用いることもできる。
一軸延伸されたPVA製などの偏光フィルムは、メニスカス型の光学レンズの大きさに合わせてカットされた後、周知の加圧成形(プレス成形)によって、レンズのカーブ(曲率半径)に沿うように球面形の湾曲面を成形したものとし、レンズ成型用のモールドを用いたインサート成型を行なう。
上記偏光フィルムは、青紫色、紫色または赤紫色に染色されたバイオレット系の偏光フィルムを選択することが、グレー系やブラウン系の偏光フィルムを選択することに比べて好ましい。前記バイオレット系の偏光フィルムは、600nm以下の波長域のうち595nm付近に透過率の極小値を有する分光チャートを示すことから、緑色や黄色の光をカットして橙色や赤色の長波長の光を見えやすくするからである。
この発明に用いる偏光フィルムを所定の色調で染色する場合、例えば染料を添加せずにヨウ素のみで偏光フィルムを作製すれば、グレー色のものに仕上がる。このようにして得られるグレー色を基本色とし、必要に応じて染料を添加して偏光フィルムを着色する。例えば、ヨウ素を含有する偏光フィルムに赤色系または黄色系の染料を添加すると、ブラウン系の色調となり、紫色系の染料を添加するとバイオレット系の色調になる。
偏光フィルムを作製する際に用いる染料は、水溶性染料であり、細分すると塩基性染料、酸性染料、直接染料、酸性媒染染料、可溶性建染め染料などが挙げられるが、特に限定せずに周知の染料を使用可能である。
水溶性染料の具体例としては、ブラックGGN、バイオレットBBN、ブルーBGR、ブラウン5GS、グリーン3GSN、レッドG3B、イエローGCなどが挙げられる。
水溶性染料の具体例としては、ブラックGGN、バイオレットBBN、ブルーBGR、ブラウン5GS、グリーン3GSN、レッドG3B、イエローGCなどが挙げられる。
表1に示すように、バイオレット系(V)、グレー系(G)またはブラウン系(B)の偏光性フィルタを選択する場合の目安として、波長域280〜495nmでの最大透過率/最小透過率の比(特性評価比)で吸収特性を評価することができる。
表1に示すように、橙色や赤色の長波長の光を見えやすくする特性評価比は、バイオレット系、グレー系、ブラウン系の順に大きい。これらのことからバイオレット系の偏光フィルムを採用することによっても、前述したレンズ素材に対する前記特定波長吸収色素の添加作用をより高めることができるので、橙色及び赤色の血液の色をより判別しやすい手術用光学レンズになる。
レンズ素材を形成する材料は、合成樹脂、無機質のガラスのいずれであってもよく、必要に応じてレンズ素材と一体に接着剤層やコーティング層を設けてもよい。
上記合成樹脂の種類としては、眼鏡レンズ等の光学レンズの注型(キャスト)成形可能な樹脂を広く使用可能である。例えば、熱可塑性樹脂として透明性に優れるMMA(メチルメタアクリレート樹脂)やPC(ポリカーボネート樹脂)、注型タイプの熱硬化性樹脂の代表的な樹脂であるCR−39や中屈折率樹脂(例えば、日本油脂製:コーポレックス、屈折率1.56)は、その成分としてアリルジグリコールカーボネートが含まれ、またイソシアネートとポリチオールを化合させた周知の高屈折率樹脂(例えば、三井化学社製:チオウレタン系樹脂MR−7、屈折率1.67)であるチオウレタン樹脂やウレタン樹脂も代表例として挙げられる。
レンズ素材またはそれと一体の層内に前記可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値に対する波長域580〜600nmの最小透過率の割合が18〜50%であるように特定波長吸収色素を配合するには、レンズ材料または層間接着に用いる接着剤もしくはレンズ表面や層表面に対するコーティング材料に、例えばテトラアザポルフィリン化合物を含む有機系色素を配合し、さらに重合開始剤として10時間半減期温度が90〜110℃のパーオキシエステル系過酸化物またはパーオキシケタール系過酸化物を配合する。
例えば、レンズ材料としてエチレングリコールビスアリルカーボネート等を用いてプラスチックレンズを製造する際の代表的な重合方法としては、注型重合法が挙げられる。
注型重合法でレンズ素材を作製するには、樹脂レンズ材料および有機系色素その他所要の添加物からなる樹脂原料組成物を、眼鏡レンズを製造するためにガスケットあるいはテープを介して配列された2枚のガラス型あるいは金属型のモールド内に注入した後、所定の重合条件で重合硬化させ、次いでガラス型あるいは金属型から離型して、硬化したプラスチックレンズ素材を得る。
重合硬化するには、レンズ注型用鋳型に注入し、このレンズ注型用鋳型をオーブンまたは水中等で所定の温度プログラムにて数時間から数十時間かけて加熱し、重合硬化反応を行なって眼鏡レンズを成型する。
重合硬化は、樹脂原料の組成、触媒、モールドの形状等に応じて温度調整されるが、20〜100℃程度の温度で1〜48時間かけて加熱する処理であり、硬化成形終了後は、レンズ注型用鋳型からレンズを取り出せばプラスチック眼鏡レンズ素材を得ることができる。
重合硬化は、樹脂原料の組成、触媒、モールドの形状等に応じて温度調整されるが、20〜100℃程度の温度で1〜48時間かけて加熱する処理であり、硬化成形終了後は、レンズ注型用鋳型からレンズを取り出せばプラスチック眼鏡レンズ素材を得ることができる。
この発明に用いる特定波長吸収色素の代表例であるテトラアザポルフィリン化合物は、下記の化1の式で示される周知なものであり、さらに化2の式で示されるものの市販品として、山本化成社製:PD−311S、山田化学工業社製:TAP−2、TAP−9などを採用することができる。
[化1の式中、Z1〜Z8は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、炭素数1〜20の直鎖、分岐又は環状のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のモノアルキルアミノ基、炭素数2〜20のジアルキルアミノ基、炭素数7〜20のジアルキルアミノ基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜20のアリール基、ヘテロアリール基、炭素数6〜20のアルキルチオ基、炭素数6〜20のアリールチオ基を表し、連結基を介して芳香族環を除く環を形成しても良く、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、2価の1置換金属原子、4価の2置換金属原子、又はオキシ金属原子を表す。]
[化2の式中、Cuは2価の銅を、C4H9(t)はターシャリーブチル基を表し、その4個の置換基の置換位置は化1におけるそれぞれZ1とZ2、Z3とZ4、Z5とZ6及びZ7とZ8のいずれかひとつの位置に置換されている位置異性体構造を表す。]
また、この発明に用いる重合開始剤は、10時間半減期温度が90〜110℃のパーオキシエステル系過酸化物またはパーオキシケタール系過酸化物である。
このようなパーオキシエステル系過酸化物の具体例としては、t-ヘキシル パーオキシベンゾエート、t-ブチル パーオキシベンゾエート、t-へキシル パーオキシイソプロピルモノカーボネートまたはt-ブチル パーオキシアセテートが挙げられる。また、同様にパーオキシケタール系過酸化物は、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが挙げられる。
このような重合開始剤によって、色素としてテトラアザポルフィリン化合物を含むアリルジグリコールカーボネート樹脂製レンズであっても、テトラアザポルフィリン化合物の有機系色素としての特性が充分に発揮されて波長565nm〜605nmに可視光分光透過率の主吸収ピークを充分な吸収率(透過率に同じ)で有する光学レンズになる。
また、この発明の手術用光学レンズに、ハードコート処理をしてもよい。例えば、シリコン系化合物などを含む溶液にレンズを浸漬することにより、強化被膜を形成させて表面硬度を向上させることができる。また、防曇処理、反射防止処理、耐薬品性処理、帯電防止処理、ミラー処理などを施して更に性能を向上させることもできる。
[実施例1]
エチレングリコールビスアリルカーボネートのモノマー(商品名:CR39)100質量部に対し、重合開始剤(日本油脂社製:商品名パーブチルZ)を3質量部添加し、波長域580〜600nmに吸収性のある有機色素(山本化成社製:PD−311S、最大吸収波長585nm)を0.0056質量部添加したレンズ成形用樹脂材料を用いた。
また、偏光フィルムは、ポリビニルアルコール(PVA)製フィルムに、水溶性染料(バイオレット)を含浸等によって含ませ、一軸延伸したフィルムを用いた。
エチレングリコールビスアリルカーボネートのモノマー(商品名:CR39)100質量部に対し、重合開始剤(日本油脂社製:商品名パーブチルZ)を3質量部添加し、波長域580〜600nmに吸収性のある有機色素(山本化成社製:PD−311S、最大吸収波長585nm)を0.0056質量部添加したレンズ成形用樹脂材料を用いた。
また、偏光フィルムは、ポリビニルアルコール(PVA)製フィルムに、水溶性染料(バイオレット)を含浸等によって含ませ、一軸延伸したフィルムを用いた。
そして、シリコーン樹脂で形成された円筒状のガスケットの内周面に設けられた環状凸部の側面に、円形状の偏光フィルムの周縁部を係止し、さらにその周縁部にガスケットの内周面に押入れて係止された係止用リングを重ねることにより、係止用リングと環状凸部の間に偏光フィルムの縁部を挟んで保持した。
このように偏光フィルムを保持したガスケットを、手術用眼鏡レンズの形状に合わせた凹型面と凸型面が対向配置できる一対のモールドの間に配置して液密に嵌め合わせ、前記偏光フィルムとモールドが適当な間隔を空けることによって形成されたキャビティーに、前記調製された樹脂材料を脱気処理してから注入し、100℃に加熱して硬化させ、その後に緩やかに降温させ、全工程を48時間かけて完了させた後、脱型して手術用光学レンズを得た。
得られた手術用光学レンズについて、分光透過率を日立製作所社製:U−2000スペクトロフォトメーターで測定した。測定された波長(nm)と透過率(%)の関係を図1に示した。
また、実施例1のレンズ素材についての波長600、595、590、585、580nmにおける分光透過率、波長380〜780nmの分光透過率の平均値を表2中に示した。また、コントラスト特性を示す前記可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値Bに対する波長域580〜600nmの最小透過率Aの割合(A/Bの百分率)を、以下の数式(1)に表2中の測定値を代入して算出し、その値である18.80[%]を表2中に併記した。
また、実施例1のレンズ素材についての波長600、595、590、585、580nmにおける分光透過率、波長380〜780nmの分光透過率の平均値を表2中に示した。また、コントラスト特性を示す前記可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値Bに対する波長域580〜600nmの最小透過率Aの割合(A/Bの百分率)を、以下の数式(1)に表2中の測定値を代入して算出し、その値である18.80[%]を表2中に併記した。
数式(1):
(A/B)・100[%]=(波長580-600nmの最小透過率/波長380−780nmの分光透過率の平均値)×100
(A/B)・100[%]=(波長580-600nmの最小透過率/波長380−780nmの分光透過率の平均値)×100
[実施例2]
実施例1において、偏光フィルムとして、ポリビニルアルコール(PVA)製フィルムに、ヨウ素を含浸等によって含ませて一軸延伸したグレー系色調の偏光フィルムを用いたこと以外は、全く同様にして手術用光学レンズを製造した。
実施例1において、偏光フィルムとして、ポリビニルアルコール(PVA)製フィルムに、ヨウ素を含浸等によって含ませて一軸延伸したグレー系色調の偏光フィルムを用いたこと以外は、全く同様にして手術用光学レンズを製造した。
得られた手術用光学レンズについて、実施例1と同様に分光透過率を測定し、波長と透過率の関係を図2(分光透過率曲線)に示し、また測定値等を表2中に併記した。このレンズの数式(1)の(A/B)・100[%]=18.99であり、実施例1と同様にコントラスト性の優れた手術用眼鏡であった。
[実施例3]
実施例1において、偏光フィルムとして、ポリビニルアルコール(PVA)製フィルムに、水溶性染料(赤色系)を含浸等によって含ませ、一軸延伸したブラウン系の偏光フィルムを用いたこと以外は、全く同様にして手術用光学レンズを製造した。
実施例1において、偏光フィルムとして、ポリビニルアルコール(PVA)製フィルムに、水溶性染料(赤色系)を含浸等によって含ませ、一軸延伸したブラウン系の偏光フィルムを用いたこと以外は、全く同様にして手術用光学レンズを製造した。
得られた手術用光学レンズについて、実施例1と同様に分光透過率を測定し、波長と透過率の関係を図3(分光透過率曲線)に示し、また測定値等を表2中に併記した。このレンズの数式(1)の(A/B)・100[%]=19.11であり、実施例1と同様にコントラスト性の優れた手術用眼鏡であった。
[実施例4]
実施例1において、有機色素(山本化成社製:PD−311S、最大吸収波長585nm)を0.0056質量部添加することに代えて、同有機色素を0.0040質量部添加したレンズ成形用樹脂材料を用いたこと以外は、全く同様にして手術用光学レンズを製造した。
得られた手術用光学レンズについて、実施例1と同様に分光透過率を測定し、波長と透過率の関係を図4(分光透過率曲線)に示し、また測定値等を表2中に併記した。このレンズの数式(1)の(A/B)・100[%]=40.61であり、実施例1と同様にコントラスト性に優れた手術用眼鏡であった。
実施例1において、有機色素(山本化成社製:PD−311S、最大吸収波長585nm)を0.0056質量部添加することに代えて、同有機色素を0.0040質量部添加したレンズ成形用樹脂材料を用いたこと以外は、全く同様にして手術用光学レンズを製造した。
得られた手術用光学レンズについて、実施例1と同様に分光透過率を測定し、波長と透過率の関係を図4(分光透過率曲線)に示し、また測定値等を表2中に併記した。このレンズの数式(1)の(A/B)・100[%]=40.61であり、実施例1と同様にコントラスト性に優れた手術用眼鏡であった。
このようにして得られた実施例1−4の手術用光学レンズを、眼鏡フレームに装着した眼鏡を医療関係者が着用し、手術時の微小な血管からの出血の有無の見分け易さをアンケート調査した。
その結果、ヒト生体組織の直径1mm以下の微小な血管からの出血が、極めて見分けやすくなり、優れた手術等の医療用眼鏡であるという優れた評価が、過半数の調査対象者から得られた。
その結果、ヒト生体組織の直径1mm以下の微小な血管からの出血が、極めて見分けやすくなり、優れた手術等の医療用眼鏡であるという優れた評価が、過半数の調査対象者から得られた。
[参考例1]
実施例1において、偏光フィルムを用いなかったこと及び波長域580〜600nmに吸収性のある有機色素(山本化成社製:PD−311S、最大吸収波長585nm)を0.0074質量部添加したレンズ成形用樹脂材料を用いたこと以外は、全く同様にして光学レンズ(参考例1)を製造した。
実施例1において、偏光フィルムを用いなかったこと及び波長域580〜600nmに吸収性のある有機色素(山本化成社製:PD−311S、最大吸収波長585nm)を0.0074質量部添加したレンズ成形用樹脂材料を用いたこと以外は、全く同様にして光学レンズ(参考例1)を製造した。
得られた光学レンズについて、実施例1と同様にして分光透過率を測定すると共に、Lab表色系の値を測定し、これらの測定値を表3、4中に示し、波長と透過率の関係を図5(分光透過率曲線)に示した。また、このレンズの数式(1)の(A/B)・100[%]=19.25であり、偏光フィルムを用いていない光学レンズであるが、所期したコントラスト性を得るための特定波長域吸収色素の配合量の参考とした。参考例1では、コントラスト性は良好であるが、偏光性フィルタを一体化すると、少し視界が暗くなり過ぎる可能性がある。
[参考例2]
実施例1において、偏光フィルムを用いなかったこと以外は、全く同様にして光学レンズ(参考例2)を製造した。
実施例1において、偏光フィルムを用いなかったこと以外は、全く同様にして光学レンズ(参考例2)を製造した。
得られた手術用光学レンズについて、参考例1と同様に体分光透過率を測定すると共に、Lab表色系の値も測定し、波長と透過率の関係を図5(分光透過率曲線)に示し、測定値等を表3、4中に併記した。また、このレンズの数式(1)の(A/B)・100[%]=30.99であり、偏光フィルムを用いない実施例1のコントラスト性を得るための特定波長域吸収色素の配合量として適量と考えられる参考値であった。
[参考例3−5]
参考例1において、波長域580〜600nmに吸収性のある有機色素(山本化成社製:PD331S、最大吸収波長585nm)をレンズ成形用樹脂材料100質量部に対して、0.0037質量部(参考例3)、0.0019質量部(参考例4)、0.0007質量部(参考例5)を添加したこと以外は、全く同様にして参考例3−5の光学レンズを製造した。
参考例1において、波長域580〜600nmに吸収性のある有機色素(山本化成社製:PD331S、最大吸収波長585nm)をレンズ成形用樹脂材料100質量部に対して、0.0037質量部(参考例3)、0.0019質量部(参考例4)、0.0007質量部(参考例5)を添加したこと以外は、全く同様にして参考例3−5の光学レンズを製造した。
得られた手術用光学レンズについて、参考例1と同様に分光透過率を測定すると共に、Lab表色系の値も測定し、波長と透過率の関係を図5(分光透過率曲線)に示し、測定値等を表3、4中に併記した。
これら参考例3、4、5のレンズの数式(1)の(A/B)・100[%]の値は、それぞれ48.65、72.58、95.73であり、偏光フィルムを用いない光学レンズにおける所期したコントラスト性を得るための特定波長域吸収色素の配合量の参考となる値であった。
すなわち、参考例3では、実施例1と同様のコントラスト性を得るための特定波長域吸収色素の配合量として適量と考えられる参考値であった。また、参考例4、5については、波長380−780nmの分光透過率の平均値が70%以上になり、偏光フィルムと一体化しても反射光を含む雑光を偏光度を低めに調整した偏光性フィルタでは充分にカットできない状態になる可能性が想定された。
すなわち、参考例3では、実施例1と同様のコントラスト性を得るための特定波長域吸収色素の配合量として適量と考えられる参考値であった。また、参考例4、5については、波長380−780nmの分光透過率の平均値が70%以上になり、偏光フィルムと一体化しても反射光を含む雑光を偏光度を低めに調整した偏光性フィルタでは充分にカットできない状態になる可能性が想定された。
[実施例5]
実施例1において、レンズ成形用樹脂材料を、ポリウレタン材料のポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物を反応させたプレポリマーと、硬化剤として4,4'-メチレンビス(2-クロロアニリン)であるMOCAとを等量比で混合し、さらに山田化学工業のTAP2(595nmが最大吸収波長)を0.0040部添加したものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、偏光性フィルタを一体に設けた赤色強調の偏光性を有する光学レンズを得た。
実施例1において、レンズ成形用樹脂材料を、ポリウレタン材料のポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物を反応させたプレポリマーと、硬化剤として4,4'-メチレンビス(2-クロロアニリン)であるMOCAとを等量比で混合し、さらに山田化学工業のTAP2(595nmが最大吸収波長)を0.0040部添加したものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、偏光性フィルタを一体に設けた赤色強調の偏光性を有する光学レンズを得た。
得られた手術用光学レンズについて、実施例1に対して行なった分光透過率の測定と同様に、波長600、595、590、585、580nmにおける分光透過率、波長380〜780nmの分光透過率の平均値を調べたが、実施例1とほぼ同様の数分光透過率であり、また実施例1と同様のコントラスト性を有する優れた手術用眼鏡が得られた。
[実施例6]
実施例1において、レンズ素材の材料のエチレングリコールビスアリルカーボネートに代えて、チオウレタン樹脂(三井化学のMR20)100部に対して、有機色素(山田化学工業社製:TAP2(5957nmが最大吸収波長))を0.0040部を添加したものをレンズ素材としたこと以外は同様にして、偏光性フィルタを一体に設けて赤色の強調された高屈折性で偏光性のある手術用光学レンズを得た。
実施例1において、レンズ素材の材料のエチレングリコールビスアリルカーボネートに代えて、チオウレタン樹脂(三井化学のMR20)100部に対して、有機色素(山田化学工業社製:TAP2(5957nmが最大吸収波長))を0.0040部を添加したものをレンズ素材としたこと以外は同様にして、偏光性フィルタを一体に設けて赤色の強調された高屈折性で偏光性のある手術用光学レンズを得た。
上記同様に、波長600、595、590、585、580nmにおける分光透過率、波長380〜780nmの分光透過率の平均値を調べたが、実施例1とほぼ同様の数値であり、実施例1と同様のコントラスト性を有する優れた手術用眼鏡が得られた。
[実施例7]
2枚のガラス製レンズ素材の対向面間に、接着剤を塗布し、接着剤層の間に実施例1で用いた偏光フィルムを挿入して積層した。このとき用いた接着剤には、波長域580〜600nmに吸収性のある有機色素(山本化成社製:PD331S、最大吸収波長585nm)を0.0080部添加したものであり、前記積層による全層一体化により、赤色が強調して見える偏光性を有する手術用光学レンズを製造した。
2枚のガラス製レンズ素材の対向面間に、接着剤を塗布し、接着剤層の間に実施例1で用いた偏光フィルムを挿入して積層した。このとき用いた接着剤には、波長域580〜600nmに吸収性のある有機色素(山本化成社製:PD331S、最大吸収波長585nm)を0.0080部添加したものであり、前記積層による全層一体化により、赤色が強調して見える偏光性を有する手術用光学レンズを製造した。
上記同様に、波長600、595、590、585、580nmにおける分光透過率、波長380〜780nmの分光透過率の平均値を調べたが、実施例1とほぼ同様の数値であり、実施例1と同様に所要のコントラスト性を有する優れた手術用眼鏡が得られた。
[比較例1]
実施例1において、偏光度が99%以上の偏光フィルムを使用したこと以外は、全く同様にして光学レンズを製造した。
得られた光学レンズは、平均透過率は約35%と低いものであり、この光学レンズは、手術用光学レンズとして用いると、可視光域の透過率が低くて手術域の陰影の判別が難しいことは明らかであった。
実施例1において、偏光度が99%以上の偏光フィルムを使用したこと以外は、全く同様にして光学レンズを製造した。
得られた光学レンズは、平均透過率は約35%と低いものであり、この光学レンズは、手術用光学レンズとして用いると、可視光域の透過率が低くて手術域の陰影の判別が難しいことは明らかであった。
[比較例2]
レンズ材料として、ポリウレタンのプレポリマー/モカを等量比で混合する中に、有機染料として山田化学工業のTAP2(595nmが最大吸収波長)を0.0080部添加して赤色強調の偏光性を有するレンズを製造したが、可視光域波長380−780nmの平均透過率は約15%であった。
従って、このような光学レンズは、手術用光学レンズとして使用しても可視光域の透過率が低すぎて、陰影部の判別が難しいことは明らかであった。
レンズ材料として、ポリウレタンのプレポリマー/モカを等量比で混合する中に、有機染料として山田化学工業のTAP2(595nmが最大吸収波長)を0.0080部添加して赤色強調の偏光性を有するレンズを製造したが、可視光域波長380−780nmの平均透過率は約15%であった。
従って、このような光学レンズは、手術用光学レンズとして使用しても可視光域の透過率が低すぎて、陰影部の判別が難しいことは明らかであった。
[比較例3]
実施例1において、偏光フィルムを使用せず、波長域580〜600nmに吸収性のある有機色素(山本化成社製:PD331S、最大吸収波長585nm)染料のみを添加して光学レンズを作製した。
このような光学レンズは、手術用の照明下で反射光や刺激光を除去できないものであり、細かい陰影部の判別が難しいものであった。
実施例1において、偏光フィルムを使用せず、波長域580〜600nmに吸収性のある有機色素(山本化成社製:PD331S、最大吸収波長585nm)染料のみを添加して光学レンズを作製した。
このような光学レンズは、手術用の照明下で反射光や刺激光を除去できないものであり、細かい陰影部の判別が難しいものであった。
以上の実施例および比較例の結果からも明らかなように、この発明の手術用光学レンズは、可視光線波長域の透過率の平均値が40%以上の偏光性レンズであり、特定波長域吸収色素を所定量含有して、前記可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値に対する波長域580〜600nmの最小透過率の割合が18〜50%であるように調製されていることにより、生体組織中に血管から漏れ出た血液を特定しやすいコントラスト性を備えたものであった。
この発明は、人または動物に対して治療、診断、検査などの目的で手術を行なう際に用いられる手術用光学レンズであって、例えば臓器や眼等の生体組織の観察に用いられる手術用眼鏡レンズ、手術用顕微鏡(ルーペ)用レンズ、胃カメラ等の内視鏡用レンズなどの医療産業用のレンズとして適用できるものである。
Claims (6)
- 偏光性フィルタがレンズ素材と一体に設けられ、可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値が40%以上の偏光性レンズからなり、前記レンズ素材またはそれと一体の層内に前記可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値に対する波長域580〜600nmの最小透過率の割合が18〜50%であるように特定波長域吸収色素を含有する手術用光学レンズ。
- 前記偏光性レンズが、偏光度15〜40%の偏光性レンズである請求項1に記載の手術用光学レンズ。
- 前記可視光線波長域380〜780nmの透過率の平均値が、45〜75%である請求項1または2に記載の手術用光学レンズ。
- 前記特定波長域吸収色素が、テトラアザポルフィリン化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の手術用光学レンズ。
- 前記偏光性フィルタが、青紫色、紫色または赤紫色に染色された偏光性フィルタである請求項1または4に記載の手術用光学レンズ。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の手術用光学レンズからなる手術用眼鏡レンズ。
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