JPWO2019182140A1 - 真空浸炭処理方法及び浸炭部品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

本実施形態による真空浸炭処理方法では、拡散方程式を用いた拡散シミュレーションで得られた鋼材の表層の炭素の拡散流束により算出された浸炭ガスの流量を、理論浸炭ガス流量(FT)と定義し、浸炭工程の開始後、実際浸炭ガス流量が、理論浸炭ガス流量と等しくなる時間を交差時間teと定義し、浸炭工程の開始から完了までの時間を浸炭時間taと定義し、浸炭時間の1/5の時間を基準時間ta/5と定義したとき、浸炭工程の開始から交差時間teまでの前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量(FR)を、浸炭工程の開始から基準時間ta/5時点での理論浸炭ガス流量(FT(te))以上、かつ、浸炭工程の開始から20秒時点での理論浸炭ガス流量(FT(20s))以下とし、交差時間teから浸炭時間taまでの後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量(FR)を、理論浸炭ガス流量(FT)の1.00〜1.20倍の範囲内とする。

Description

本発明は、真空浸炭処理方法及び浸炭部品の製造方法に関する。
高い面疲労強度が求められる鋼部品は、鋼材に対して表面硬化処理を実施して製造される。表面硬化処理方法の一つに、真空浸炭処理方法がある。真空浸炭処理方法は、浸炭工程と拡散工程とを備える。浸炭工程では、炭化水素ガスである浸炭ガスを導入して、浸炭温度に加熱された鋼材の表面の炭素濃度を高める。炭化水素ガスはたとえば、アセチレンやプロパン等である。拡散工程では、浸炭工程後、浸炭ガスの導入を停止して、鋼材の表層の深さ方向に炭素を拡散させる。浸炭工程及び拡散工程の時間等を調整することにより、鋼材の表層の炭素濃度を制御する。
しかしながら、浸炭ガスである炭化水素ガスは熱力学的に不安定である。そのため、浸炭温度が高い場合、浸炭ガスは炭素及び水素等に分解しやすい。浸炭温度が高い場合さらに、浸炭ガス分子は活発に運動する。活発な運動により、浸炭ガス分子同士が高速で衝突し、浸炭ガスが分解する。浸炭ガスの分解により、煤やタールが発生する。この場合、表面炭素濃度及び浸炭深さがばらつく。そのため、浸炭部品の表層を一定の品質に保つことができない。そのため、真空浸炭処理方法には、浸炭部品の表面の炭素濃度のばらつき、及び、表層の浸炭深さのばらつきの抑制が求められる。以降の説明では、浸炭部品における表面の炭素濃度のばらつき、及び、浸炭部品の表層の浸炭深さのばらつきを「浸炭ばらつき」という。
浸炭ばらつきを抑制する技術が、特開平8−325701号公報(特許文献1)、特開2016−148091号公報(特許文献2)、特開2002−173759号公報(特許文献3)、及び、特開2005−350729号公報(特許文献4)に提案されている。
特許文献1に記載された真空浸炭処理方法は、鋼材からなるワークを、真空浸炭炉の加熱室内で真空加熱するとともに、加熱室内に浸炭ガスを供給して浸炭処理を行なう。この真空浸炭処理方法では、浸炭ガスとしてガス状の鎖式不飽和炭化水素を使用する。そして、加熱室内を1kPa以下の真空状態として浸炭処理を実施する。これにより、煤の発生を抑えつつ、均一に浸炭できる、と特許文献1には記載されている。
特許文献2に記載された真空浸炭処理方法では、減圧した雰囲気の浸炭室に浸炭ガスを噴射することにより、浸炭室に配置した被処理物を浸炭する。この真空浸炭処理方法では、浸炭室へ噴射する浸炭ガスのガス噴射量を、被処理物の浸炭室における荷姿状態での容積と、浸炭室の体積と、被処理物の総表面積と、浸炭ガスの種類に基づき設定される定数と、に基づいて算出する。そして、算出されたガス噴射量の浸炭ガスを、浸炭室に噴射する。これにより、スポット状の過剰浸炭の発生を防ぐことができる、と特許文献2には記載されている。
特許文献3に記載された真空浸炭雰囲気ガス制御システムでは、プロパンガスを浸炭ガスとする。この制御システムでは、被浸炭処理材がセットされる真空浸炭炉内に浸炭ガスを供給する。そして、浸炭ガスの熱分解反応によって生じるカーボンが被浸炭処理材中へ固溶及び拡散することにより、被浸炭処理材の浸炭処理を行う。この制御システムでは、この熱分解反応により発生する水素ガスの分圧を浸炭処理中常時計測する。そして、その計測値に基づいて炉内に供給される浸炭ガス量をリアルタイムで調整制御する。これにより、高品質の浸炭鋼を安定的に生産できる、と特許文献3には記載されている。
特許文献4に記載された真空浸炭処理方法では、浸炭処理に必要な浸炭ガスの理論流量Vと浸炭時間tとの関係V=f(t)を、浸炭深さと表面炭素濃度とにより、材料の内部拡散に基づいて算出する。そして、浸炭工程の浸炭前期において、理論流量Vよりも十分多くかつスーティングの発生しない浸炭時流量V1を供給する。さらに、浸炭前期に引続く浸炭後期において、理論流量Vよりも少ない拡散時流量V2を供給する。これにより、煤の発生を防止しつつセメンタイトの残存を低減できる、と特許文献4には記載されている。
特開平8−325701号公報 特開2016−148091号公報 特開2002−173759号公報 特開2005−350729号公報
しかしながら、特許文献1〜特許文献4の真空浸炭処理方法と異なる他の方法により、浸炭ばらつきを抑制できてもよい。
本開示の目的は、浸炭ばらつきを抑制可能な真空浸炭処理方法及び浸炭部品の製造方法を提供することである。
本開示による真空浸炭処理方法は、
真空浸炭炉内で鋼材に対して真空浸炭処理を実施する真空浸炭処理方法であって、
前記鋼材を浸炭温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後、前記鋼材を前記浸炭温度で均熱する均熱工程と、
前記均熱工程後、アセチレンガスである浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する浸炭工程と、
前記浸炭工程後、前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する拡散工程と、
前記拡散工程後の前記鋼材に対して焼入れを実施する焼入れ工程と、
を備え、
前記浸炭工程において、
実際の前記浸炭ガスの流量を、実際浸炭ガス流量と定義し、
拡散方程式を用いた拡散シミュレーションで得られた前記鋼材の表層の炭素の拡散流束により算出された、前記鋼材の前記真空浸炭処理に必要な前記浸炭ガスの流量を、理論浸炭ガス流量と定義し、
前記浸炭工程の開始後、前記実際浸炭ガス流量が、前記理論浸炭ガス流量と等しくなる時間を交差時間teと定義し、
前記浸炭工程の開始から完了までの時間を浸炭時間taと定義し、
前記浸炭時間taの1/5の時間を基準時間ta/5と定義したとき、
前記浸炭工程は、
前記浸炭工程の開始から前記交差時間teまでの前期浸炭工程と、
前記交差時間teから前記浸炭時間taまでの後期浸炭工程と、
を含み、
前記前期浸炭工程では、
前記実際浸炭ガス流量を、前記浸炭工程の開始から前記基準時間ta/5時点での前記理論浸炭ガス流量以上、かつ、前記浸炭工程の開始から20秒時点での前記理論浸炭ガス流量以下とし、
前記後期浸炭工程では、
前記実際浸炭ガス流量を、前記理論浸炭ガス流量の1.00〜1.20倍の範囲内とする。
本開示による浸炭部品の製造方法は、
前記鋼材に対して、上述の真空浸炭処理方法を実施する工程を備える。
本開示の真空浸炭処理方法は、浸炭ばらつきを抑制できる。本開示の浸炭部品の製造方法は、浸炭ばらつきが抑制された浸炭部品を製造できる。
図1は、拡散方程式を用いた拡散シミュレーションで得られた鋼材の表層の炭素の拡散流束により算出された、理論浸炭ガス流量と時間との関係の一例を示す図である。 図2は、従来の浸炭工程における実際浸炭ガス流量の経時変化と、理論浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。 図3は、前期浸炭工程開始時に導入する実際浸炭ガス流量と、浸炭工程開始から浸炭時間taの1/5の時間ta/5時点における理論浸炭ガス流量との差ΔF(NL/分)と、浸炭部品の表面の炭素濃度差(質量%)との関係を示す図である。 図4は、本実施形態による真空浸炭処理方法の浸炭工程における、実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。 図5は、本実施形態の真空浸炭処理方法において、後期浸炭工程での実際浸炭ガス流量FRの調整方法を説明するための模式図である。 図6は、本実施形態の真空浸炭処理方法のヒートパターンの一例を示す図である。 図7は、実施例中の、試験番号1〜試験番号8の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。 図8は、実施例中の、試験番号9の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。 図9は、実施例中の、試験番号10の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。 図10は、実施例中の、試験番号11及び試験番号12の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。 図11は、実施例中の、試験番号13及び試験番号14の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。 図12は、実施例中の、試験番号15の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。 図13は、実施例中の、試験番号16の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。 図14は、実施例中の、試験番号17の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。
本発明者らは、真空浸炭処理方法における浸炭部品での浸炭ばらつきを抑制する方法について検討を行った。本発明者らはまず、真空浸炭処理中の浸炭工程において、鋼材の真空浸炭処理に必要な浸炭ガス流量があることに着目した。浸炭工程における最適な浸炭ガス流量は、拡散方程式を用いた拡散シミュレーションに基づいて、理論浸炭ガス流量として算出できる。
[理論浸炭ガス流量について]
本実施形態の真空浸炭処理方法では、浸炭ガスとしてアセチレンを用いる。アセチレンの分解は、浸炭対象となる鋼材の表面での炭素の拡散により律速される。つまり、鋼材表面から鋼材内部に侵入する炭素の拡散流束が大きいほど、アセチレンの分解量が多くなる。
真空浸炭処理では、鋼材中を炭素が拡散する、つまり、Fickの第1法則が成立している。この場合、真空浸炭処理により、鋼材の表面から所定の深さ位置での炭素濃度を所望の濃度にするために必要な浸炭ガス(アセチレンガス)のガス流量を、理論浸炭ガス流量FTと定義する。
理論浸炭ガス流量FTは、鋼材表面から侵入する炭素の拡散流束J(mm・質量%/s)と、単位時間当たりの炭素濃度の変化量(∂C/∂t)とを、拡散方程式を用いた周知の拡散シミュレーションに基づいて計算することにより、算出可能である。具体的には、理論浸炭ガス流量は、次の方法で求めることができる。
拡散が起こる場合(つまり、Fickの第1法則が成立している場合)、鋼材表面から侵入する炭素の拡散流束Jは式(1)で定義され、単位時間当たりの炭素濃度の変化量(∂C/∂t)は式(2)で定義される。
J=−D(∂C/∂z) (1)
∂C/∂t=−∂J/∂z (2)
ここで、Dは鋼材中の炭素の拡散係数(mm2/s)であり、Cは炭素の質量濃度(質量%)であり、zは鋼材表面からの深さ方向への変位(mm)であり、tは浸炭工程を開始してからの時間(秒)である。∂は偏微分記号である。
炭素濃度の変化量を化学ポテンシャルの勾配に基づいて計算すれば、炭素の拡散駆動力を厳密に取り扱うことになる。この場合、炭素の拡散流束J(mm・mol%/s)は式(3)で定義され、炭素濃度の時間変化は式(4)で定義される。
J=−mx(∂μ/∂z) (3)
∂x/∂t=−∂J/∂z (4)
ここでmは炭素の易動度(mm2・mol/J・s)であり、xは炭素のモル濃度(mol%)であり、μは炭素の化学ポテンシャル(J/mol)であり、zは深さ方向への変位(mm)、tは時間(秒)である。∂は偏微分記号である。
ここで、炭素の拡散の駆動力は式(3)中の(∂μ/∂z)の部分である。また、真空浸炭処理におけるオーステナイト(γ)中の炭素濃度は2%以下と小さく、モル濃度と質量濃度とはほぼ比例関係にある。したがって、式(3)を質量濃度(質量%)で表記してもよい。式(3)を質量%で表記する場合、炭素の拡散流束J(mm・質量%/s)は式(5)で定義され、炭素濃度の時間変化は式(2)で定義される。
J=−mC(∂μ/∂z) (5)
式(5)中のCは、炭素濃度(質量%)である。
上記のFickの第1法則(式(1)、(3)及び式(5))、及び、Fickの第2法則(式(2)及び式(4))を用いて、理論浸炭ガス流量FTを算出するための拡散シミュレーションを、次の方法で行う。
浸炭ガスにアセチレンを用いた真空浸炭処理では、鋼材の表面において、浸炭ガスの分解により、鋼材の表面から炭素が侵入する。浸炭工程時の鋼材表面では、黒鉛と平衡するまで鋼材中の炭素濃度が上昇すると仮定する。そこで、真空浸炭処理での鋼材表面の炭素の拡散シミュレーションでの境界条件を、「鋼材表面の炭素濃度が黒鉛と平衡する」と定義する。以上の前提にて次のとおり拡散シミュレーションを実施する。
[拡散シミュレーションでの計算方法]
始めに、真空浸炭処理の対象となる鋼材の表層を複数のセルで区分したメッシュデータを作成する。各セルのサイズは周知のサイズで足りる。セルのサイズはたとえば、1〜500μmである。セルのサイズは鋼材の表面から深さ方向に徐々に拡大してもよい。その場合、隣り合うセルのサイズの比は0.80〜1.25であり、好ましくは0.90〜1.10である。ただし、セルのサイズはこれに限定されない。拡散シミュレーションを行う対象は一次元としてよい。鋼材の形状が丸棒又は円筒である場合、メッシュデータを円筒座標系とすることで一次元として取り扱うことが出来る。さらに、鋼材(丸棒又は円筒)の直径が拡散距離の50倍以上であれば、平面と同じ取扱いをしてよい。ここでいう拡散距離とは√Dtである。拡散係数Dは鋼材の炭素濃度と浸炭温度とから計算する。時間t(秒)は浸炭時間である。真空浸炭処理において、浸炭工程と拡散工程を2回ずつ以上行う場合、時間tは、最初の浸炭工程を開始してから最後の浸炭工程が終了するまでの時間(浸炭工程が1回のみの場合、浸炭工程の開始から完了までの時間)である。たとえば、JIS G 4053(2008)に規定されたSCM415を用い、浸炭温度が950℃で浸炭時間が51分の場合、拡散距離√Dtは0.20mmとなる。この場合、鋼材の直径が10mm以上であれば、平面と同じ取扱いをしてよい。なお、JIS G 4053(2008)に規定されたSCM420を用い、浸炭温度が950℃で浸炭時間が51分の場合、拡散距離√Dtは0.21mmとなる。また、拡散シミュレーションの解析時間(ステップ時間)を設定する。ステップ時間は特に限定されないが、たとえば、0.001〜1.0秒とする。
上述のとおり、鋼材表面においては、黒鉛と平衡状態であるとする。そこで、真空浸炭処理の対象となる鋼材の化学組成に基づいて、浸炭温度における、黒鉛と平衡状態での平衡相及び平衡組成を、周知の熱力学計算により求める。真空浸炭処理の対象となる鋼材の化学組成は、C濃度の増加によって希釈されることを考慮した上で、黒鉛が平衡相として現れるまでC濃度を増加させて熱力学計算を行なう。たとえば、C濃度が7質量%増加すると、鋼材自体の重量が1.07倍になる。そのため、C以外の他の元素の濃度は1/1.07倍とした化学組成に基づいて熱力学計算を行なう。熱力学計算により求めた平衡相及び平衡組成により、鋼材中のC含有量、Cの化学ポテンシャル、及び、オーステナイト中に固溶する固溶C濃度を特定できる。熱力学計算には周知の熱力学計算ソフトを用いることができる。周知の熱力学計算ソフトとはたとえば、商品名Pandat(商標)である。
同様に、鋼材表面以外の鋼材内部においては、真空浸炭の場合、セメンタイト(θ)が析出する場合がある。この場合、鋼材中の炭素が、セメンタイトとオーステナイトとに分配される。そこで、浸炭温度における、鋼材表面以外の鋼材内部の平衡相及び平衡組成を、上述の熱力学計算により求める。鋼材表面と同様に、鋼材内部においても、平衡相、平衡組成、鋼材中のC含有量、Cの化学ポテンシャル、及び、オーステナイト中に固溶する固溶C濃度を特定できる。
鋼材中のオーステナイト中の炭素の拡散係数Dは、真空浸炭処理の対象となる鋼材を用いて予め実験により求めた数値を利用してもよいし、実験データとして報告されているデータを用いてもよい。たとえば、オーステナイト中のCの拡散係数(m2/s)として、Gray G.Tibbettsらにより提唱されたものを参考に、以下の式を用いてもよい。
D=4.7×10-5×exp(−1.6×C−(37000−6600×C)/1.987/T)
ここで、式中の「C」はオーステナイト中の固溶C濃度(質量%)であり、Tは浸炭温度(K)である。
鋼材中のオーステナイト中の炭素の易動度m(m2/s)は、拡散係数Dと熱力学計算とから求めることができる。これを定式化したものが以下の式である。
m=1.54×10-15exp(−1.61×C−(17300−2920×C)/T)
次に、真空浸炭処理により得られる表層のC濃度を設定する。具体的には、最表面のセルでの目標とする炭素濃度と、所定深さでの目標とする炭素濃度とを設定する。さらに、初期値として、全てのセルでの固溶C濃度=鋼材(芯部)の化学組成のC濃度(C0)とし、全てのセルにおいてセメンタイト析出量を0とする。
以上の前提条件に基づいて、ステップ時間ごとに、次の計算を実施する。
(A)各セルでの炭素濃度と、熱力学計算結果とに基づいて、浸炭温度での各セルでのオーステナイト中の固溶C濃度(つまり、拡散するCの濃度)を特定する。このとき、セメンタイト中のCは固定され、オーステナイト中の固溶Cのみが拡散すると仮定する。
(B)各セルにおいて、特定した固溶C濃度に基づいて、式(1)、式(3)又は式(5)を用いて、差分法により、各セルでの拡散流束Jを求める。このとき、上述のとおり、鋼材表面の固溶炭素濃度は、黒鉛と平衡状態時の固溶限界の固溶炭素濃度(Csat)とする。鋼材表面からの拡散流束J0に基づいて、浸炭効率を100%として、アセチレン流量を求める。求めたアセチレン流量を、そのステップ時間での理論浸炭ガス流量と定義する。
(C)求めた各セルでの拡散流束Jに基づいて、そのステップ時間経過時点での各セルのC濃度を決定する。
(D)熱力学計算結果に基づいて、平衡相としてセメンタイトが生成するか判断する。なお、セメンタイトの生成に必要な時間は無視する(つまり、次のステップ時間での(A)を決定する)。
(E)浸炭工程を2回以上行う場合、浸炭工程の間の拡散工程のシミュレーションを行ない、その後浸炭工程のシミュレーションを行う。拡散工程においては、鋼材表面からの拡散流束J0をゼロとして、(A)〜(D)の計算を行なう。
以上の計算をステップ時間ごとに求め、浸炭工程時における理論浸炭ガス流量FTを求める。「理論浸炭ガス流量」FTは、横軸を浸炭開始時からの経過時間(浸炭時間)とし、縦軸を理論浸炭ガス流量FTとする図において、各浸炭時間における理論浸炭ガス流量FTをプロットすることにより、理論浸炭ガス流量曲線として表すことができる。図1は、上述の拡散シミュレーションで得られた鋼材の表層の炭素の拡散流束により算出された、理論浸炭ガス流量と時間との関係の一例を示す図である。図1中の●は、各時間における理論浸炭ガス流量FTを示す。図1中の曲線C1.00は、理論浸炭ガス流量曲線を示す。
なお、理論浸炭ガス流量曲線C1.00の近似式は、式(6)で表すことができる。
F=A/√t (6)
ここで、Aは、式(7)で定義される1m2あたりの浸炭ガス流量(NL/分)であり、tは浸炭開始時からの時間(分)を示す。
A=a×T2+b×T+c (7)
式(6)中のa、b及びcは鋼材の化学組成によって決まる定数であり、Tは浸炭温度(℃)である。たとえば、JIS G 4053(2008)に規定されたSCM420の場合、上述の拡散シミュレーションで求めると、a=8.52×10-5であり、b=−0.140であり、c=58.2である。JIS G 4053(2008)に規定されたSCM415の場合、上述の拡散シミュレーションで求めると、a=8.64×10-5であり、b=−0.141、c=59.0である。
したがって、近似式である式(6)に基づいて、実際の浸炭工程において、各浸炭時間における理論浸炭ガス流量FTを計算することもできる。
[本実施の形態の真空浸炭処理方法について]
真空浸炭処理時における実際の浸炭ガスの流量を「実際浸炭ガス流量」FRと定義する。本発明者らは、図1に示すような、浸炭時間における理論浸炭ガス流量FTの関係から大きく外れた実際浸炭ガス流量FRを用いた場合に想定される事象について、調査及び検討を行った。
図2は、従来の浸炭工程における実際浸炭ガス流量FRの経時変化と、理論浸炭ガス流量FTの経時変化を示す図である。図2の縦軸は浸炭ガス流量(NL/分)を示し、横軸は浸炭工程開始からの時間(分)を示す。図2の実線FRは、上述のとおり、従来の浸炭工程における実際浸炭ガス流量FRを示す。図2の破線C1.00は、上述のとおり、理論浸炭ガス流量FTを示す。
図2を参照して、浸炭工程開始から浸炭工程が完了するまでの時間を浸炭時間taと定義する(つまり、浸炭工程開始から時間ta時点で浸炭工程が終了する)。また、実際浸炭ガス流量FRが最初に理論浸炭ガス流量FTと等しくなる時間を、交差時間teと定義する。浸炭工程開始から交差時間teまでの期間を、前期浸炭工程(S1)と定義する。さらに、交差時間teから浸炭時間taまでの時間を後期浸炭工程(S2)と定義する。
前期浸炭工程(S1)では、実際浸炭ガス流量FRは、理論浸炭ガス流量FT(曲線C1.00)よりも低い。そのため、従来の真空浸炭処理方法の浸炭工程では、前期浸炭工程(S1)における実際浸炭ガス流量FRが足りず、鋼材表面の浸炭ばらつきが大きくなる。一方、後期浸炭工程(S2)では、実際浸炭ガス流量FRは、理論浸炭ガス流量FT(曲線C1.00)よりも高い。そのため、後期浸炭工程S2では、実際浸炭ガス流量FRが過剰となり、真空浸炭炉内に残留する。その結果、後期浸炭工程(S2)では、残留した浸炭ガスにより煤やタールが発生し、鋼材表面の浸炭ばらつきが大きくなる。
以上の調査結果に基づいて、本発明者らは、浸炭工程中において、理論浸炭ガス流量曲線C1.00に合わせて、実際浸炭ガス流量FRを制御することを考えた。
しかしながら、図2に示すとおり、前期浸炭工程(S1)では、後期浸炭工程(S2)と比較して、理論浸炭ガス流量曲線C1.00の傾きが急峻である。そのため、実際の操業において、この理論浸炭ガス流量曲線C1.00の傾きに合わせて実際浸炭ガス流量FRを調整することは非常に困難である。
さらに、前期浸炭工程(S1)において、浸炭工程開始時(t=0)では、上記の式(5)からも分かるとおり、理論浸炭ガス流量FTは無限大になる。そのため、理論浸炭ガス流量FTと等しい実際浸炭ガス流量FRを、前期浸炭工程(S1)の初期に導入することは極めて困難である。
そこで、本発明者らは、前期浸炭工程(S1)においては、実際浸炭ガス流量FRを理論浸炭ガス流量FTに合わせて設定するのではなく、異なる方法により、前期浸炭工程(S1)での浸炭ばらつきを抑制することを検討した。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
上述のとおり、浸炭工程(前期浸炭工程(S1)+後期浸炭工程(S2))において、真空浸炭炉に供給する実際浸炭ガス流量をFRと定義し、理論浸炭ガス流量をFTと定義する。浸炭工程に要する時間(つまり、浸炭時間ta)のうち、浸炭工程の開始から1/5に相当する時間を基準時間ta/5と定義する。基準時間ta/5での理論浸炭ガス流量FTを、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)と定義する。さらに、実際浸炭ガス流量FRから理論浸炭ガス流量FT(ta/5)を差し引いた値を、流量差ΔFと定義する。流量差ΔFは次式で示される。
流量差ΔF=FR−FT(ta/5)
本発明者らは、浸炭工程の初期段階では、実際浸炭ガス流量FRと理論浸炭ガス流量FTとの流量差がある程度存在しても、浸炭時間ta経過後の鋼材での浸炭ばらつきを抑えることができるのではないかと考えた。そこで、基準時間ta/5時点での流量差ΔFと、鋼材表面の炭素濃度差(質量%)との関係を調査し、図3を得た。図3は、前期浸炭工程開始時に導入する実際浸炭ガス流量と、浸炭工程開始から浸炭時間taの1/5の時間(基準時間)ta/5時点における理論浸炭ガス流量との差ΔF(NL/分)と、浸炭部品の表層炭素濃度差(質量%)との関係を示す図である。図3は後述の実施例の結果に基づいて作成されたものである。鋼材の表層炭素濃度差は、鋼材の表層の炭素濃度のばらつき、つまり、浸炭ばらつきを示す指標の一例である。
図3を参照して、基準時間ta/5時点での流量差ΔFが0.0NL/分以上の場合、流量差ΔFが0.0NL/分未満の場合と比較して、鋼材の表層炭素濃度差が顕著に小さくなり、ΔFが増加しても、表層炭素濃度差はそれほど変化しない。つまり、図3のグラフでは、基準時間ta/5時点での流量差ΔF=0.0NL/分近傍に、変曲点が存在する。
図3の結果に基づいて、前期浸炭工程(S1)においては、つまり、浸炭工程において理論浸炭ガス流量FTが実際浸炭ガス流量FRを超えている期間である浸炭工程初期においては、実際浸炭ガス流量FRを理論浸炭ガス流量FTに合わせるのではなく、実際浸炭ガス流量FRを、基準時間ta/5における理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上とすれば、浸炭ばらつきを十分に抑制できることを本発明者らは見出した。
図4は、本実施形態による真空浸炭処理方法の浸炭工程における、実際浸炭ガス流量FRの経時変化を示す図である。図4の縦軸は浸炭ガス流量(NL/分)を示し、横軸は浸炭時間(分)を示す。図中の破線FTは理論浸炭ガス流量FTを示す。実線FRは、実際浸炭ガス流量FRを示す。
図4を参照して、本実施の形態による真空浸炭処理方法では、前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRを、基準時間ta/5での理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上にする。この場合、図3に示したとおり、真空浸炭処理後の鋼材の浸炭ばらつきを十分に抑えることができる。
一方、前期浸炭工程(S1)における実際浸炭ガス流量FRが浸炭工程開始から20秒時点での理論浸炭ガス流量FT(20s)よりも過剰に多くなれば、後期浸炭工程(S2)の初期において、実際浸炭ガス流量FRが理論浸炭ガス流量FTよりも過剰に多い状態となってしまう。この場合、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRを理論浸炭ガス流量FTまで低減するのに過度に時間がかかってしまう。そのため、過剰な浸炭ガスが真空浸炭炉内に残存する。過剰な浸炭ガスは鋼材表面に煤を発生する。その結果、鋼材の浸炭ばらつきが大きくなってしまう。したがって、前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRを、基準時間ta/5での理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上にするものの、前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRの上限も考慮する必要がある。そこで、本実施形態では、前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRを、基準時間ta/5での理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上とし、かつ、浸炭工程開始から20秒時点での理論浸炭ガス流量FT(20s)以下とする。この場合、後期浸炭工程(S2)において後述の調整を行うことを条件として、過剰な浸炭ガスが真空浸炭炉内に残存するのを抑制することができ、浸炭部品(鋼材)の浸炭ばらつきを抑制できる。
なお、図4では、浸炭工程開始時(t=0)から、実際浸炭ガス流量FRが理論浸炭ガス流量FTと最初に等しくなる交差時間te(つまり、前期浸炭工程(S1)の完了時)までの実際浸炭ガス流量FRを一定に保持している。この場合、前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRの調整が容易である。しかしながら、前期浸炭工程(S1)(時間t=0〜te)での実際浸炭ガス流量FRは一定でなくてもよい。前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRは、基準時間ta/5での理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上、かつ、浸炭工程開始から20秒時点での理論浸炭ガス流量FT(20s)以下、とすれば、前期浸炭工程(S1)中の実際浸炭ガス流量FRの経時変化は特に限定されない。たとえば、前期浸炭工程(S1)中での実際浸炭ガス流量FRは、時間の経過とともに増加してもよいし、減少してもよい。さらに、前期浸炭工程(S1)中での実際浸炭ガス流量FRは、時間の経過とともに増加と減少とを繰り返してもよい。
本実施形態では、前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量FRは、基準時間ta/5での理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上とし、かつ、浸炭工程開始から20秒時点での理論浸炭ガス流量FT(20s)以下とする。一方、前期浸炭工程(S1)後の後期浸炭工程(S2)では、実際浸炭ガス流量FRを、理論浸炭ガス流量FTに合わせるように制御することはそれほど困難ではない。そこで、後期浸炭工程(S2)(t=te〜ta)では、理論浸炭ガス流量FTに沿うように、実際浸炭ガス流量FRを制御する。これにより、過剰な浸炭ガスが真空浸炭炉内に残存するのを抑制できる。その結果、煤やタールの発生を低減でき、鋼材の浸炭ばらつきを抑制できる。
しかしながら、実際の操業においては、実際浸炭ガス流量FRを、理論浸炭ガス流量曲線C1.00のとおりに誤差無く制御するのは困難である。そこで、本発明者らは後期浸炭工程(S2)での実際浸炭ガス流量FRと、理論浸炭ガス流量FTと、浸炭ばらつきとの関係について検討を行った。その結果、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRを、理論浸炭ガス流量FTに対し1.00〜1.20倍の範囲で保持することにより、浸炭ばらつきを抑制できることを見出した。
図5は、本実施形態の真空浸炭処理方法において、後期浸炭工程(S2)での実際浸炭ガス流量FRの調整方法を説明するための模式図である。図5中の曲線C1.20は、理論浸炭ガス流量FTの1.20倍の浸炭ガス流量の変化を示す曲線である。以下、曲線C1.20を、「理論浸炭ガス流量曲線」C1.20という。図5中の理論浸炭ガス流量曲線C1.00は、理論浸炭ガス流量FTの1.00倍の浸炭ガス流量の変化を示す曲線である。後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRは、図5の理論浸炭ガス流量曲線C1.00と理論浸炭ガス流量曲線C1.20との範囲内、つまり、図5のハッチング部分の範囲内であればよい。
後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが理論浸炭ガス流量FTの1.00倍未満であれば、真空浸炭処理に必要な炭素供給量が不足する。この場合、鋼材表面のうち、浸炭ガスノズルに近い領域は浸炭されやすく、浸炭ガスノズルから遠い領域では浸炭ガスが十分供給されず浸炭されにくくなる。その結果、浸炭ばらつきが大きくなる。
一方、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが理論浸炭ガス流量FTに対し1.20倍を超えれば、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが過剰に多すぎる。この場合、煤が発生して、浸炭ばらつきが大きくなる。より具体的には、次のとおりである。
気体分子の平均速度は、質量の平方根に逆比例する。アセチレンを浸炭ガスとして使用する場合、分子量が2の水素は、分子量が26のアセチレンの3.6倍の速度になる。このように、水素の拡散速度はアセチレンの拡散速度よりも速いため、真空浸炭炉内の雰囲気を均一にしやすい。その結果、浸炭ばらつきが小さくなる。したがって、浸炭ばらつきを小さくするためには、真空浸炭炉内雰囲気において、アセチレンの割合を減らし、水素の割合を多くすることが有効である。
実際浸炭ガス流量FRが理論浸炭ガス流量FTの1.20倍を超える場合、真空浸炭炉内雰囲気において、浸炭ガス(アセチレン)の割合が大きくなり、水素の割合が小さくなる。この場合、炉内雰囲気の均一性が低下し、水素による浸炭ばらつきを抑制する効果が十分に得られない。実際浸炭ガス流量FRが理論浸炭ガス流量FTの1.20倍を超える場合はさらに、アセチレン分子同士が衝突する頻度が多くなる。アセチレン分子同士の衝突は煤を発生する。その結果、鋼材の浸炭ばらつきが大きくなる。
したがって、本実施形態の真空浸炭処理方法では、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRを理論浸炭ガス流量FTに対し1.00〜1.20倍の範囲内に調整(制御)する。
以上の知見に基づいて完成した本実施の形態による真空浸炭処理方法は、次の構成を備える。
[1]の真空浸炭処理方法は、
真空浸炭炉内で鋼材に対して真空浸炭処理を実施する真空浸炭処理方法であって、
前記鋼材を浸炭温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後、前記鋼材を前記浸炭温度で均熱する均熱工程と、
前記均熱工程後、アセチレンガスである浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する浸炭工程と、
前記浸炭工程後、前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する拡散工程と、
前記拡散工程後の前記鋼材に対して焼入れを実施する焼入れ工程と、
を備え、
前記浸炭工程において、
実際の前記浸炭ガスの流量を、実際浸炭ガス流量と定義し、
拡散方程式を用いた拡散シミュレーションで得られた前記鋼材の表層の炭素の拡散流束により算出された、前記鋼材の前記真空浸炭処理に必要な前記浸炭ガスの流量を、理論浸炭ガス流量と定義し、
前記浸炭工程の開始後、前記実際浸炭ガス流量が、前記理論浸炭ガス流量と等しくなる時間を交差時間teと定義し、
前記浸炭工程の開始から完了までの時間を浸炭時間taと定義し、
前記浸炭時間taの1/5の時間を基準時間ta/5と定義したとき、
前記浸炭工程は、
前記浸炭工程の開始から前記交差時間teまでの前期浸炭工程と、
前記交差時間teから前記浸炭時間taまでの後期浸炭工程と、
を含み、
前記前期浸炭工程では、
前記実際浸炭ガス流量を、前記浸炭工程の開始から前記基準時間ta/5時点での前記理論浸炭ガス流量以上、かつ、前記浸炭工程の開始から20秒時点での前記理論浸炭ガス流量以下とし、
前記後期浸炭工程では、
前記実際浸炭ガス流量を、前記理論浸炭ガス流量の1.00〜1.20倍の範囲内とする。
[2]の真空浸炭処理方法は、[1]に記載の真空浸炭処理方法であって、
前記前期浸炭工程では、
前記浸炭時間taの1/10の時間を時間ta/10と定義したとき、
前記実際浸炭ガス流量を、前記浸炭工程の開始から前記時間ta/10時点での理論浸炭ガス流量以上とする。
[3]の真空浸炭処理方法は、[2]に記載の真空浸炭処理方法であって、
前記前期浸炭工程では、
前記浸炭時間taの1/30の時間を時間ta/30と定義したとき、
前記実際浸炭ガス流量を、前記浸炭工程の開始から前記時間ta/30時点での理論浸炭ガス流量以上とする。
[4]の真空浸炭処理方法は、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の真空浸炭処理方法であって、
前記前期浸炭工程では、
前記実際浸炭ガス流量を一定とする。
[5]の浸炭部品の製造方法は、
鋼材に対して、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の真空浸炭処理方法を実施する工程を備える。
以下、本実施形態による真空浸炭処理方法及び浸炭部品の製造方法について詳述する。
[真空浸炭処理方法]
図6は、本実施形態の真空浸炭処理方法のヒートパターンの一例を示す図である。図6を参照して、本実施形態の真空浸炭処理方法は、加熱工程(S10)と、均熱工程(S20)と、浸炭工程(S30)と、拡散工程(S40)と、焼入れ工程(S50)とを備える。以下、各工程の詳細を説明する。
[加熱工程(S10)]
加熱工程(S10)では、鋼材を浸炭温度で加熱する。真空浸炭処理の対象となる鋼材は、第三者から提供されたものであってもよいし、真空浸炭処理方法を実施する者が製造したものであってもよい。鋼材の化学組成は特に限定されない。浸炭処理が実施される周知の鋼材を用いれば足りる。鋼材はたとえば、JIS G 4053(2008)で規定された、機械構造用合金鋼鋼材である。より具体的には、JIS G 4053(2008)で規定された、SCr415、SCr420及びSCM415等である。
準備される鋼材は熱間加工された鋼材であってもよいし、冷間加工された鋼材であってもよい。熱間加工はたとえば、熱間圧延、熱間押出、熱間鍛造等である。冷間加工はたとえば、冷間圧延、冷間抽伸、冷間鍛造等である。鋼材は、熱間加工又は冷間加工された後、切削加工に代表される機械加工を施されたものであってもよい。
加熱工程(S10)では、真空浸炭炉内に鋼材を挿入して、鋼材を浸炭温度Tcまで加熱する。加熱工程(S10)は、真空浸炭処理方法では周知の工程である。浸炭温度Tcは周知の温度で足りる。浸炭温度TcはAc3変態点以上である。浸炭温度Tcの好ましい範囲は、900〜1130℃である。浸炭温度Tcが900℃以上であれば、輻射による熱伝達が高くなり、真空浸炭炉内の温度が均一になりやすい。その結果、鋼材の浸炭ばらつきが小さくなりやすい。浸炭温度が1130℃以下であれば、鋼材の結晶粒径が粗大になるのを防ぐことができ、鋼材の強度の低下を抑制できる。浸炭温度Tcのさらに好ましい下限は910℃であり、さらに好ましくは920℃である。浸炭温度Tcのさらに好ましい上限は1100℃であり、さらに好ましくは1080℃である。
[均熱工程(S20)]
均熱工程(S20)では、浸炭温度Tcで鋼材を所定時間保持する。以下、均熱工程(S20)での保持時間を均熱時間ともいう。均熱工程(S20)は、真空浸炭処理方法では周知の工程である。均熱時間は、鋼材の形状及び/又はサイズにより、適宜調整可能である。好ましくは、均熱時間は10分以上である。より具体的には、鋼材の長手方向に垂直な断面を円に換算した場合、好ましい均熱時間は、円相当径25mm当たり30分以上である。たとえば、円相当径が30mmである場合、均熱時間は36分以上が好ましい。均熱時間の好ましい上限は、好ましくは120分であり、さらに好ましくは60分である。
加熱工程(S10)及び均熱工程(S20)における炉内の圧力は、特に限定されない。加熱工程(S10)及び均熱工程(S20)における炉内の圧力は、100Pa以下であってもよい。加熱工程(S10)及び/又は均熱工程(S20)において、窒素ガスの導入と真空ポンプによる真空排気とを行なって、1000Pa以下の窒素雰囲気としてもよい。
[浸炭工程(S30)]
浸炭工程(S30)では、浸炭開始前に、予め真空浸炭炉内を低圧又は真空とする。低圧又は真空とはたとえば、10Pa以下である。真空浸炭炉内が低圧であれば、浸炭ガスの分子同士が衝突する頻度が少なくなる。つまり、雰囲気で浸炭ガスが分解する頻度が少なくなる。したがって、低圧でなるべく早く鋼材表面に噴射すれば、煤やタールの発生を抑制できる。その結果、鋼材の表面炭素濃度を迅速に上昇させることができる。なお浸炭開始から浸炭終了(時間ta)までの浸炭中においては、炉内を1〜1000Paとする。
浸炭工程(S30)では、真空浸炭炉内に浸炭ガスを導入し、浸炭温度Tcで所定時間鋼材を保持する。
[浸炭ガス]
本実施形態では、真空浸炭処理方法の浸炭工程にて使用する浸炭ガスは、アセチレンガスである。
従前の真空浸炭処理においては、プロパンガスが用いられることが多い。しかしながら、プロパンガスは、浸炭反応以外に、メタン、エチレン、アセチレン、水素等への分解反応も起こす。分解反応により生じるメタン及びエチレンの多くは、浸炭反応に寄与せず、真空浸炭炉から排気される。したがって、プロパンガスを用いた場合、拡散方程式により求めた炭素の拡散流束を利用した拡散シミュレーションにより理論浸炭ガス流量FTを計算することができない。一方、アセチレンは、浸炭以外の反応が起こり難い。そのため、拡散方程式により求めた炭素の拡散流束を利用した拡散シミュレーションにより理論浸炭ガス流量FTを算出可能である。
本実施形態において、浸炭ガスであるアセチレンの純度は98%以上であればよい。アセチレンは、たとえば、アセトンに溶解したアセチレンや、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解したアセチレンを浸炭ガスとして用いてもよい。好ましくは、浸炭ガスとして、DMFに溶解したアセチレンを用いる。この場合、炉内雰囲気への溶媒の混入を抑制することができる。真空浸炭炉へのアセチレンへの供給源をボンベとする場合、ボンベからアセチレンを真空浸炭炉内の供給するときの一次圧は、好ましくは、0.5MPa以上である。真空浸炭炉に供給する場合、好ましくは、減圧弁を用いて、0.20MPa以下に減圧して供給する。
[浸炭工程(S30)の詳細]
浸炭工程(S30)は、上述のとおり、前期浸炭工程(S1)と、後期浸炭工程(S2)とを含む。前期浸炭工程(S1)は、浸炭工程開始(t=0)から、交差時間t=teまでの期間での工程である。後期浸炭工程(S2)は、交差時間teから浸炭時間taまでの期間での工程である。
[事前準備]
真空浸炭処理方法を実施する前に、事前準備として、上述の拡散方程式を用いた拡散シミュレーションを実施して、対象となる鋼材に応じた理論浸炭ガス流量FTを算出し、図1に示すような、浸炭工程(S30)の浸炭時間taでの理論浸炭ガス流量FTの経時変化を求めておく。
[前期浸炭工程(S1)]
図5に示すとおり、前期浸炭工程(S1)では、実際浸炭ガス流量FRを、浸炭工程の開始(t=0)から基準時間(ta/5)時点での理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上とし、かつ、浸炭工程の開始(t=0)から20秒時点での理論浸炭ガス流量FT(20s)以下とする。
前期浸炭工程(S1)中の実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)未満であれば、前期浸炭工程(S1)において、浸炭ガスの供給が不足し過ぎている。この場合、真空浸炭処理方法を実施した鋼材(浸炭部品)において、浸炭ばらつきが大きくなる。一方、前期浸炭工程(S1)中の実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(20s)を超えれば、実際浸炭ガス流量FRが多すぎる。この場合、交差時間te経過後、実際浸炭ガス流量FRを理論浸炭ガス流量FTの1.00〜1.20倍の範囲内に調整するまでに時間が掛かる。そのため、後期浸炭工程(S2)において、真空浸炭炉内に浸炭ガスが過剰に残存してしまい、煤が発生しやすくなる。その結果、真空浸炭処理方法を実施して製造された浸炭部品(鋼材)において、浸炭ばらつきが大きくなる。
前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量FRを、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上とし、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下とすれば、後述の後期浸炭工程(S2)での実際浸炭ガス流量FRの条件を満たすことを前提として、真空浸炭処理後の浸炭部品(鋼材)の浸炭ばらつきを十分に抑制できる。前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRの調整は、周知の方法で可能である。たとえば、真空浸炭炉に供給される浸炭ガスの流量を供給弁により調整して、実際浸炭ガス流量FRを調整してもよいし、他の周知の方法により、実際浸炭ガス流量FRを調整してもよい。実際浸炭ガス流量の調整は、真空浸炭炉の周知の制御装置により実施してもよい。制御装置はたとえば、上述の供給弁の開度を調整することにより、実際浸炭ガス流量FRを調整する。
浸炭工程(S30)の開始から完了までの浸炭時間taの1/30の時間をta/30と定義する。浸炭工程(S30)の開始(t=0)から時間ta/30時点での理論浸炭ガス流量をFT(ta/30)と定義する。また、浸炭時間taの1/10の時間をta/10と定義する。浸炭工程(S30)の開始(t=0)から時間ta/10時点での理論浸炭ガス流量をFT(ta/10)と定義する。時間ta/10が20秒以上である場合、前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRの好ましい下限は、理論浸炭ガス流量FT(ta/10)である。時間ta/30が20秒以上である場合、前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRのさらに好ましい下限は、理論浸炭ガス流量FT(ta/30)である。この場合、浸炭ばらつきがさらに低減する。
上述のとおり、拡散方程式に基づく拡散シミュレーションにより算出された理論浸炭ガス流量FTは、時間の経過に伴いガス流量が順次低下する曲線であり、式(5)で近似される曲線である。浸炭時間taは特に限定されないが、20秒よりも長く、たとえば、3分〜120分である。
好ましくは、前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRは一定である。ここでいう「実際浸炭ガス流量FRは一定である」とは、実際浸炭ガス流量FRが±5.0%変動する範囲を含む。つまり、実際浸炭ガス流量FRがX(NL/分)である場合、本明細書でいう「実際浸炭ガス流量FRは一定である」とは、実際浸炭ガス流量FRがX±5.0%(NL/分)の範囲内であることを意味する。実際浸炭ガス流量FRを一定とする場合、制御装置が、浸炭ガスの流量を一定に制御する。このとき、制御装置が供給弁の開度等を調整する。制御装置の応答速度や制御誤差等により、±5.0%の範囲で流量が変動する場合がある。したがって、上記のとおり、「実際浸炭ガス流量FRは一定である」とは、実際浸炭ガス流量FRが±5.0%変動する範囲を含む。浸炭ガスの流量を調整する制御装置の応答速度は、98%応答で5秒以下が好ましい。制御誤差は、±5.0%以内であることが好ましい。
前期浸炭工程(S1)での実際浸炭ガス流量FRを一定とすれば、実際浸炭ガス流量FRの調整(制御)が容易となる。
なお、上述のとおり、前期浸炭工程(S1)中の実際浸炭ガス流量FRは一定でなくてもよく、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下であれば、変動してもよい。つまり、前期浸炭工程(S1)中の実際浸炭ガス流量FRは、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下の範囲内で時間の経過とともに増加してもよく、時間の経過とともに減少してもよく、時間の経過とともに増減してもよい。
[後期浸炭工程(S2)]
後期浸炭工程(S2)では、実際浸炭ガス流量FRを、理論浸炭ガス流量FTの1.00〜1.20倍の範囲内とする。図5に示すとおり、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量曲線C1.00と理論浸炭ガス流量曲線C1.20との間の範囲内に位置するように、実際浸炭ガス流量FRを調整する。これにより、後期浸炭工程(S2)において、過剰な浸炭ガスが真空浸炭炉内に残存するのを抑制することができる。その結果、煤やタールの発生を低減でき、真空浸炭処理方法を実施した後の浸炭部品(鋼材)の浸炭ばらつきを抑制できる。
後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが理論浸炭ガス流量FTに対し1.00倍未満であれば、ガス流量が不足する。そのため、真空浸炭炉内で浸炭ガスの分布にばらつきが生じる。たとえば、浸炭ガスの供給ノズル近傍では、浸炭ガスの濃度が高く、供給ノズルから離れた領域では、浸炭ガスの濃度が低い。その結果、真空浸炭処理工程後の鋼材において、浸炭ばらつきが大きくなる。
一方、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが理論浸炭ガス流量FTの1.20倍を超えれば、浸炭ガスが過剰に供給されている。この場合、真空浸炭処理方法を実施した後の浸炭部品(鋼材)の浸炭ばらつきが大きくなる。
したがって、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRを理論浸炭ガス流量FTの1.00〜1.20倍の範囲内とする。なお、上述のとおり、浸炭ガスの流量を調整する制御装置の応答速度は、98%応答で5秒以下が好ましい。制御誤差は、±5.0%以内であることが好ましい。
後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRの好ましい上限は理論浸炭ガス流量FTの1.18倍であり、さらに好ましくは1.15倍である。この場合、真空浸炭処理工程後の鋼材において、浸炭ばらつきをさらに抑制できる。
[浸炭工程(S30)における浸炭ガス圧]
浸炭工程(S30)における浸炭ガスの圧力(浸炭ガス圧)は特に限定されない。好ましくは、前期浸炭工程(S1)での浸炭ガス圧を、後期浸炭工程(S2)での浸炭ガス圧よりも高くする。この場合、後期浸炭工程(S2)において、煤の発生がさらに抑制される。さらに好ましくは、後期浸炭工程(S2)での浸炭ガス圧を、時間の経過にともない低下する。浸炭工程(S30)での好ましい浸炭ガス圧は1kPa以下である。
[浸炭工程(S30)の浸炭時間ta]
浸炭工程(S30)の開始(t=0)から完了するまでの時間である浸炭時間taは、真空浸炭処理工程後の鋼材の表層の目標とする炭素濃度に応じて適宜設定される。浸炭時間taは、拡散方程式を用いた上述の拡散シミュレーションにより決定してもよい。浸炭時間taは、事前に真空拡散処理試験を実施して、実験データから決定してもよい。浸炭時間taは長い方が好ましい。浸炭時間taが長い方が、理論浸炭ガス流量FTの曲線C1.00の傾きが緩やかになる。そのため、実際浸炭ガス流量FRの調整が容易になる。上述のとおり、浸炭時間taの好ましい下限は3分であり、さらに好ましくは3.5分である。浸炭時間taの好ましい上限は120分であり、さらに好ましくは60分である。
[拡散工程(S40)]
拡散工程(S40)は、真空浸炭処理方法において周知の工程である。拡散工程(S40)では、真空浸炭炉への浸炭ガスの供給を停止し、浸炭温度Tcで鋼材を所定時間保持する。拡散工程(S40)では、浸炭工程により鋼材に侵入した炭素を、鋼材内部に拡散させる。これにより、浸炭工程で高くなった表層の炭素濃度が低下し、所定の深さの炭素濃度が上昇する。拡散工程(S40)においても、真空浸炭炉内を窒素ガスの導入と真空ポンプによる真空排気とを行なって、1000Pa以下の窒素雰囲気としてもよいし、又は真空とする。真空とはたとえば、10Pa以下である。真空浸炭炉内を1000Pa以下の窒素雰囲気又は真空状態とすることにより、鋼材表面からの炭素の侵入かつ脱離を抑制する。
なお、拡散工程(S40)での保持時間は、真空浸炭処理工程後の鋼材の表層の目標とする炭素濃度に応じて適宜設定される。したがって、拡散工程(S40)での保持時間は特に限定されない。
[焼入れ工程(S50)]
焼入れ工程(S50)では、浸炭工程(S30)及び拡散工程(S40)が完了した鋼材を、焼入れ温度(Ts)で所定時間保持し、その後、急冷(焼入れ)する。これにより、C濃度が高まった鋼材表層部分がマルテンサイトに変態して硬化層を形成する。焼入れ工程(S50)は、真空浸炭処理方法で周知の工程である。
図6に示すとおり、焼入れ温度Tsが浸炭温度Tcよりも低い場合、拡散工程(S40)後の鋼材を、焼入れ温度Tsまで冷却する。この場合の冷却速度は特に限定されない。真空浸炭処理工程の処理時間を考慮すれば、冷却速度は速い方が好ましい。好ましい冷却速度は、0.02〜30.00℃/秒である。ここでいう冷却速度とは、浸炭温度Tcと焼入れ温度Tsとの温度差を冷却時間で割ったものである。
焼入れ温度Tsを浸炭温度Tc未満とする場合の鋼材の冷却方法は、公知の冷却方法を用いれば足りる。たとえば、真空下で鋼材を放冷して冷却してもよいし、ガス冷却により鋼材を冷却してもよい。真空下での鋼材を放冷する場合、100Pa以下の圧力で放冷することが好ましい。冷却においてガス冷却を用いて鋼材を冷却する場合、冷却ガスとして不活性ガスを用いることが好ましい。不活性ガスとしては、たとえば、窒素ガス及び/又はヘリウムガスを用いることが好ましい。不活性ガスとしては、特に、安価で入手可能な窒素ガスを用いることが好ましい。冷却ガスとして不活性ガスを用いることで、鋼材の酸化を防ぐことができる。
焼入れ温度Tsで鋼材を所定時間保持した後、鋼材を急冷する。焼入れ温度TsはA3変態点(Ar3変態点)以上であれば特に限定されない。焼入れ温度Tsの好ましい下限は800℃であり、さらに好ましくは820℃であり、さらに好ましくは850℃である。焼入れ温度Tsの好ましい上限は1130℃であり、さらに好ましくは1100℃であり、さらに好ましくは950℃であり、さらに好ましくは900℃であり、さらに好ましくは880℃である。
焼入れ工程(S50)における急冷方法としては、公知の急冷方法を用いる。急冷方法はたとえば、水冷、油冷である。
以上の真空浸炭処理方法を実施して、鋼材を浸炭部品とする。本実施形態の真空浸炭処理方法では、拡散方程式に基づく拡散シミュレーションを実施して、真空浸炭処理の対象となる鋼材に対する、理論浸炭ガス流量FTを算出する。そして、浸炭工程(S30)を前期浸炭工程(S1)と後期浸炭工程(S2)とに区分する。そして、前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量FRを、浸炭工程(S30)の開始(t=0)から基準時間(ta/5)を経過した時点での理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上とし、かつ、浸炭工程(S30)の開始(t=0)から20秒経過した時点での理論浸炭ガス流量FT(20s)以下にする。さらに、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRを、理論浸炭ガス流量FTの1.00〜1.20倍の範囲内に調整する。これにより、真空浸炭処理工程後の鋼材において、浸炭ばらつきが発生するのを抑制することができる。
なお、上述の真空浸炭処理方法はさらに、他の工程を含んでもよい。たとえば、真空浸炭処理方法は、焼入れ工程(S50)後に焼戻し工程を実施してもよい。焼戻し工程は、周知の条件で実施すれば足りる。たとえば、焼戻し工程では、Ac1変態点以下の温度で鋼材を所定時間保持し、その後、冷却する。
[浸炭部品の製造方法]
本実施形態の浸炭部品の製造方法は、鋼材に対して、上述の真空浸炭処理方法を実施して浸炭部品を製造する工程を備える。以上の工程により製造された浸炭部品では、浸炭ばらつきを抑制することができる。
以下、実施例により本実施形態の真空浸炭処理方法の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の真空浸炭処理方法の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の真空浸炭処理方法はこの一条件例に限定されない。
JIS G 4053(2008)に規定されたSCM415に相当する化学組成を有する機械構造用鋼管(以下、鋼管という)、及び、SCM415に相当する丸棒を準備した。各試験番号の鋼管及び丸棒のC含有量はいずれも0.15質量%であった。鋼管の直径は34mmであり、肉厚は4.5mmであり、長さは110mmであった。丸棒の直径は26mmであり、長さは70mmであった。真空浸炭処理の評価は丸棒で行い、鋼管は、丸棒が真空浸炭炉内での配置位置による浸炭ばらつきを調査するための、ダミー材として使用した。
各試験番号で真空浸炭処理された丸棒及び鋼管の総表面積(m2)を、鋼材表面積(m2)と定義した。鋼材表面積は次の式により求めた。
鋼材表面積=鋼管1個あたりの表面積×鋼管個数+丸棒1個あたりの表面積×丸棒個数
得られた鋼材表面積を表1に示す。試験番号1〜4、9〜13、16及び17では、248本の鋼管と、3本の丸棒とを用いた。試験番号5では、496本の鋼管と、3本の丸棒とを用いた。試験番号6及び7では、124本の鋼管と、3本の丸棒とを用いた。試験番号8、14及び15では、62本の鋼管と、3本の丸棒とを用いた。
Figure 2019182140
始めに、拡散方程式を用いた拡散シミュレーションを実施して、理論浸炭ガス流量を求めた。具体的には、丸棒及び鋼管の厚み方向に2μm以上の複数のセルに区分した。また、拡散シミュレーションでのステップ時間を0.002〜0.02秒とした。鋼管及び丸棒の化学組成(SCM415)において、浸炭温度での表面における黒鉛との平衡状態での平衡組成を熱力学計算により求めた。さらに、浸炭温度での鋼材内部の平衡組成、炭素の化学ポテンシャル、及び炭素の易動度を求めた。熱力学計算は商品名Pandat(商標)を用いた。さらに、データベースはPanFeを用いた。また、炭素の易動度(m2/s)には、以下の式を用いた。
m=1.54×10-15exp(−1.61×C−(17300−2920×C)/T)
ここで、式中のCはオーステナイト中の固溶C濃度(質量%)であり、Tは浸炭温度(K)である。
鋼管及び丸棒の表面での炭素濃度の目標値を0.7質量%とし、表面から深さ1.0mmでの炭素濃度の目標値を0.40質量%とした。以上を前提条件として、ステップ時間ごとに、上述の(A)〜(D)の拡散シミュレーションを実施して、各ステップ時間ごとの理論浸炭ガス流量FTを求めた。
理論浸炭ガス流量FTを算出した結果、理論浸炭ガス流量FTは次の式に近似可能であった。
FT=A/√t (6)
ここで、Aは、式(7)で定義される1m2あたりの浸炭ガス流量(NL/分)であり、tは浸炭開始時からの時間(分)を示す。
A=a×T2+b×T+c (7)
本実施例(SCM415)の場合、a=8.64×10-5であり、b=−0.141であり、c=59.0であった。
理論浸炭ガス流量FTを算出した後、実際の真空浸炭処理を次の方法で実施した。始めに、十分に浸炭処理されたステンレス鋼材(JIS G 4303(2012)に規定のSUS316)からなるかごを準備した。かごに上述の本数の鋼管を均等に並べ、さらに、3個の丸棒を、かご中央、かご左手前、かご右奥に配置した。上述のとおり、丸棒を試験材とし、鋼管は、丸棒の配置場所に起因した浸炭ばらつきの発生を確認するためのダミー材とした。
鋼材(鋼管及び丸棒)を配置したかごを真空浸炭炉に挿入して、真空浸炭処理を実施した。そして、試験番号1〜17の浸炭部品を得た。真空浸炭処理での条件は、表1に示すとおりとした。
具体的には、各試験番号において、次のとおり真空浸炭処理を実施した。各試験番号での真空浸炭処理は、炉内の圧力を10Pa以下に保持した。加熱工程では、各試験番号の丸棒を、表1に示す浸炭温度Tcに加熱した。加熱工程後、均熱工程を実施した。均熱工程では、浸炭温度Tcで鋼材(丸棒)を60分保持した。
均熱工程後、浸炭工程を実施した。浸炭工程では、真空浸炭炉内に、浸炭ガスとして、アセチレンを供給した。浸炭工程での浸炭ガス圧は1kPa以下に保持した。浸炭工程での浸炭時間ta(分)は表1に記載のとおりであった。
浸炭工程での浸炭時間taと、上述のとおり、丸棒の1.0mm深さにおける炭素濃度が0.40質量%とすることを目標として、浸炭工程での浸炭時間と拡散工程での拡散時間とを調整した。実際浸炭ガス流量は、次の図7〜図14に示すとおりとした。以下、試験番号1〜17の実際浸炭ガス流量FRの設定値について、図7〜図14を用いて説明する。
図7は、試験番号1〜試験番号8の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。図7中のFRは各試験番号1〜8の実際浸炭ガス流量を示す。C1.00は、理論浸炭ガス流量FTの曲線(理論浸炭ガス流量曲線C1.00)である。C1.20は、理論浸炭ガス流量FTの1.20倍の浸炭ガス流量を示す曲線(理論浸炭ガス流量曲線C1.20)である。試験番号1〜試験番号8では、実際浸炭ガス流量FRが、前期浸炭工程(S1)において、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上であり、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下であった。試験番号1〜試験番号8ではさらに、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRは、理論浸炭ガス流量曲線C1.00と浸炭ガス流量曲線C1.20との間の範囲内であった。実際浸炭ガス流量の調整及び測定は、流量計(コフロック株式会社製、商品名:マスフローコントローラーD3665)を用いて測定した。
図8は、試験番号9の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。図8を参照して、試験番号9では、前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)未満であった。なお、後期浸炭工程(S2)においては、実際浸炭ガス流量FRは、理論浸炭ガス流量曲線C1.00と浸炭ガス流量曲線C1.20との間の範囲内であった。
図9は、試験番号10の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。図9を参照して、試験番号10では、実際浸炭ガス流量FRは、前期浸炭工程(S1)において、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下であった。しかしながら、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量曲線C1.00未満となる領域が存在した。
図10は、試験番号11及び試験番号12の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。図10を参照して、試験番号11及び試験番号12では、実際浸炭ガス流量FRが、前期浸炭工程(S1)において、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下であった。しかしながら、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが、浸炭ガス流量曲線C1.20を超える領域が存在した。
図11は、試験番号13及び試験番号14の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。図11を参照して、試験番号13及び試験番号14では、前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下であった。しかしながら、後期浸炭工程(S2)の初期において、実際浸炭ガス流量FRが、浸炭ガス流量曲線C1.20を超えた。
図12は、試験番号15の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。図12を参照して、試験番号15では、前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(20s)を超えた。そのため、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが、浸炭ガス流量曲線C1.20を超えた。
図13は、試験番号16の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。図13を参照して、試験番号16では、浸炭工程の全工程において、実際浸炭ガス流量FRが一定であった。
図14は、試験番号17の浸炭工程での実際浸炭ガス流量の経時変化を示す図である。試験番号17では、前期浸炭工程(S1)の後期において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)未満であった。つまり、実際浸炭ガス流量FRの漸減が早すぎた。
浸炭工程後、表1に示す拡散時間(分)で丸棒に対して拡散工程を実施して、丸棒に侵入した炭素を丸棒中に拡散させた。拡散工程は、浸炭温度を維持した状態で10Pa以下の炉内の圧力で実施した。拡散工程での処理条件は、表1に示すとおりであった。
なお、表1中の「FT(20s)」欄には、浸炭工程開始から20秒時点での理論浸炭ガス流量(NL/分)が記載されている。「FT(ta/5)」欄には、浸炭工程開始から基準時間(=ta/5)経過時点での理論浸炭ガス流量(NL/分)が記載されている。「交差時間te」欄には、実際浸炭ガス流量FRが最初に理論浸炭ガス流量FTと等しくなる時間(分)が記載されている。「teでのFR」欄には、交差時間teでの実際浸炭ガス流量(NL/分)が記載されている。「初期ガス流量」欄には、浸炭工程開始時間t=0での実際浸炭ガス流量(NL/分)が記載されている。「最終ガス流量」欄には、浸炭時間taでの実際浸炭ガス流量(NL/分)が記載されている。
さらに、表1中の「後期浸炭工程」欄の「最大ガス流量比」は、後期浸炭工程の各時間において、次式の流量比を求めたときの最大値を示す。
流量比=実際浸炭ガス流量/理論浸炭ガス流量
表1中の「後期浸炭工程」欄の「最小ガス流量比」は、後期浸炭工程の各時間において、上記式で求めた流量比の最小値を示す。要するに、最大ガス流量比が1.20以下であり、最小ガス流量比が1.00以上であれば、後期浸炭工程において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量の1.00〜1.20倍の範囲内にあったことを意味する。
拡散工程後、丸棒を860℃まで冷却した。そして、焼入れ温度(860℃)で30分保持した。保持した後、丸棒を120℃の油に浸漬して、油焼入れを実施した。焼入れ後の丸棒に対して焼戻しを実施した。焼戻し温度を170℃とし、焼戻し温度での保持時間を2時間とした。
以上の製造工程により、真空浸炭処理を実施して、浸炭部品(丸棒)を製造した。
[評価試験]
各試験番号の浸炭部品(丸棒)の表層の炭素濃度と、炭素濃度が0.40質量%となる深さ(以下、浸炭深さという)とを測定して、浸炭ばらつきを評価した。
[浸炭部品の表層の炭素濃度測定試験]
真空浸炭炉に挿入した状態の各試験番号の浸炭部品(丸棒)において、上端面から浸炭部品の長手方向に20mmの範囲、及び、下端面から浸炭部品の長手方向に5mmの範囲を切断した。以下、上端面から20mmの範囲を「上端面試験片」と称し、下端面から5mm範囲の部分を「下端部分」という。
上端面試験片及び下端部分が切断された残りの部分(以下、本体部分という)の円周面に対して、旋削加工を実施した。旋削加工では、丸棒の表面から0.30mm深さまでの表層部分の切粉を、0.05mm深さピッチごとに採取した。採取された0.05mmピッチの各深さ位置での切粉の炭素濃度を測定した。以上の工程により、各試験番号の3つの浸炭部品(かごの中央位置、かごの左手前位置、及び、かご右奥位置)において、表面から0.30mm深さまでの表層領域において、0.05mmピッチでの炭素濃度を求めた。かご中央位置に配置された浸炭部品の表面から0.30mmまでの6つの炭素濃度を、表面から順に、炭素濃度A1〜A6(質量%)と定義した。かご左手前位置に配置された浸炭部品の表面から0.30mmまでの6つの炭素濃度を、表面から順に、炭素濃度B1〜B6(質量%)と定義した。かご右奥位置に配置された浸炭部品の表面から0.30mmまでの6つの炭素濃度を、表面から順に、炭素濃度C1〜C6(質量%)と定義した。そして、3つの浸炭部品において、同じ深さ位置で得られた炭素濃度の最大値と最小値との差を求めた。具体的には、表面から0.05mm深さ位置まで領域の炭素濃度A1、B1、C1のうち、最大値と最小値を選択し、その炭素濃度の差分値をΔ1と定義した。同様に、表面から0.05mm〜0.10mm深さ位置までの領域の炭素濃度A2、B2、C2のうち、最大値と最小値を選択し、その炭素濃度の差分値をΔ2と定義した。以上の工程により、Δ1〜Δ6を求め、Δ1〜Δ6の算術平均値を、「表層炭素濃度差」(質量%)と定義した。得られた結果を表1の「表層炭素濃度差(質量%)」欄に記載する。
[浸炭深さ測定試験]
上述の上端面試験片を用いて、円周面の表層部の炭素濃度を測定した。具体的には、上端面試験片の上端面から20mm位置の横断面(上端面試験片の長手方向に垂直な断面)の炭素濃度を、表面から2mm深さ位置から表面に向かって径方向に測定した。具体的には、EPMA(電子線マイク口アナライザ)による線分析を実施して、径方向(深さ方向)の炭素濃度を測定した。測定結果に基づいて、3つの上端面試験片のそれぞれについて、炭素濃度が0.40質量%以上となる領域の深さ(以下、浸炭深さという)を求めた。各上端面試験片で得られた浸炭深さの最大値と最小値との差の平均を、「0.40質量%深さ差」(mm)と定義した。得られた結果を表1の「0.40質量%深さ差(mm)」欄に記載する。
[評価結果]
表1を参照して、表層炭素濃度差が0.030質量%以下、かつ、炭素濃度が0.40質量%深さ差が0.05mm以下であるものを、浸炭ばらつきが小さい真空浸炭処理方法として優れていると評価した。
表1及び図7〜図14を参照して、試験番号1〜試験番号8(図7)では、前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上であり、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下であった。試験番号1〜試験番号8ではさらに、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRは、理論浸炭ガス流量曲線C1.00と浸炭ガス流量曲線C1.20との間の範囲内であった。その結果、表層炭素濃度差が0.030質量%以下であり、かつ、0.40質量%深さ差が0.05mm以下であった。つまり、浸炭部品の浸炭ばらつきが小さかった。
なお、試験番号1〜3、5、6及び8では、前期浸炭工程(S1)における実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/10)以上であった。そのため、前期浸炭工程(S1)における実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/10)未満である試験番号4及び7と比較して、表層炭素濃度差及び0.40質量%深さ差が同等以下であった。
さらに、試験番号1及び5では、前期浸炭工程(S1)における実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/30)以上であった。そのため、前期浸炭工程(S1)における実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/30)未満である試験番号2〜4及び6〜8と比較して、表層炭素濃度差が低く、かつ、0.40質量%深さ差が低かった。
一方、試験番号9(図8)では、前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)未満であった。そのため、表層炭素濃度差が0.030質量%を超え、かつ、0.40質量%深さ差が0.05mmを超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
試験番号10(図9)では、実際浸炭ガス流量FRは、前期浸炭工程(S1)において、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下であった。しかしながら、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量曲線C1.00未満となる領域が存在した。そのため、表層炭素濃度差が0.030質量%を超え、かつ、0.40質量%深さ差が0.05mmを超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
試験番号11及び試験番号12(図10)では、実際浸炭ガス流量FRが、前期浸炭工程(S1)において、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下であった。しかしながら、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが、浸炭ガス流量曲線C1.20を超える領域が存在した。そのため、少なくとも、表層炭素濃度差が0.030質量%を超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
試験番号13及び試験番号14(図11)では、前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)以上、かつ、理論浸炭ガス流量FT(20s)以下であった。しかしながら、後期浸炭工程(S2)の初期において、実際浸炭ガス流量FRが、浸炭ガス流量曲線C1.20を超えた。そのため、少なくとも、表層炭素濃度差が0.030質量%を超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
試験番号15(図12)では、前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(20s)を超えた。そのため、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが、浸炭ガス流量曲線C1.20を超えた。前期浸炭工程(S1)において、実際浸炭ガス流量が多過ぎ、その結果、後期浸炭工程(S2)の初期において、実際浸炭ガス流量FRを、浸炭ガス流量曲線C1.20以下に低減できなかったためであった。そのため、表層炭素濃度差が0.030質量%を超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
試験番号16(図13)では、全浸炭工程において実際浸炭ガス流量が一定であった。そのため、後期浸炭工程(S2)において、実際浸炭ガス流量FRが浸炭ガス流量曲線C1.20を超えた。そのため、0.40質量%深さ差が0.05mmを超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
試験番号17(図14)では、前期浸炭工程(S1)の後期において、実際浸炭ガス流量FRが、理論浸炭ガス流量FT(ta/5)未満であった。さらに、後期浸炭工程(S2)の後期において、実際浸炭ガス流量FRが、浸炭ガス流量曲線C1.00未満であった。そのため、表層炭素濃度差が0.030質量%を超え、かつ、0.40質量%深さ差が0.05mmを超え、浸炭部品の浸炭ばらつきが大きかった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上記した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上記した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上記した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (5)

  1. 真空浸炭炉内で鋼材に対して真空浸炭処理を実施する真空浸炭処理方法であって、
    前記鋼材を浸炭温度で加熱する加熱工程と、
    前記加熱工程後、前記鋼材を前記浸炭温度で均熱する均熱工程と、
    前記均熱工程後、アセチレンガスである浸炭ガスを前記真空浸炭炉内に供給しながら、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する浸炭工程と、
    前記浸炭工程後、前記真空浸炭炉内への前記浸炭ガスの供給を停止し、前記鋼材を前記浸炭温度で保持する拡散工程と、
    前記拡散工程後の前記鋼材に対して焼入れを実施する焼入れ工程と、
    を備え、
    前記浸炭工程において、
    実際の前記浸炭ガスの流量を、実際浸炭ガス流量と定義し、
    拡散方程式を用いた拡散シミュレーションで得られた前記鋼材の表層の炭素の拡散流束により算出された、前記鋼材の前記真空浸炭処理に必要な前記浸炭ガスの流量を、理論浸炭ガス流量と定義し、
    前記浸炭工程の開始後、前記実際浸炭ガス流量が、前記理論浸炭ガス流量と等しくなる時間を交差時間teと定義し、
    前記浸炭工程の開始から完了までの時間を浸炭時間taと定義し、
    前記浸炭時間taの1/5の時間を基準時間ta/5と定義したとき、
    前記浸炭工程は、
    前記浸炭工程の開始から前記交差時間teまでの前期浸炭工程と、
    前記交差時間teから前記浸炭時間taまでの後期浸炭工程と、
    を含み、
    前記前期浸炭工程では、
    前記実際浸炭ガス流量を、前記浸炭工程の開始から前記基準時間ta/5時点での前記理論浸炭ガス流量以上、かつ、前記浸炭工程の開始から20秒時点での前記理論浸炭ガス流量以下とし、
    前記後期浸炭工程では、
    前記実際浸炭ガス流量を、前記理論浸炭ガス流量の1.00〜1.20倍の範囲内とする、
    真空浸炭処理方法。
  2. 請求項1に記載の真空浸炭処理方法であって、
    前記前期浸炭工程では、
    前記浸炭時間taの1/10の時間を時間ta/10と定義したとき、
    前記実際浸炭ガス流量を、前記浸炭工程の開始から前記時間ta/10時点での理論浸炭ガス流量以上とする、
    真空浸炭処理方法。
  3. 請求項2に記載の真空浸炭処理方法であって、
    前記前期浸炭工程では、
    前記浸炭時間taの1/30の時間を時間ta/30と定義したとき、
    前記実際浸炭ガス流量を、前記浸炭工程の開始から前記時間ta/30時点での理論浸炭ガス流量以上とする、
    真空浸炭処理方法。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の真空浸炭処理方法であって、
    前記前期浸炭工程では、
    前記実際浸炭ガス流量を一定とする、
    真空浸炭処理方法。
  5. 浸炭部品の製造方法であって、
    鋼材に対して、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の真空浸炭処理方法を実施する工程を備える、
    浸炭部品の製造方法。
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