JP5658934B2 - 浸炭焼入方法 - Google Patents
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Description
ここで、浸炭は材料に対して外部から炭素を供給し固溶、拡散させることで行われるため、処理温度を上げれば、炭素の拡散速度が上昇し、短時間で必要な炭素量を被処理部材に固溶、拡散させることができ、浸炭処理の処理時間を短縮することができる。その一方で、処理温度を高めると、処理中において高温保持されることにより被処理部材のオーステナイト結晶粒が粗大化し、被処理部材の焼入後の機械的特性を低下させてしまうとともに、オーステナイト結晶粒の粗大化によって焼入時に被処理部材の表面及び内部に微細なクラックが発生するおそれがあるという問題が生じる。
これに対して、NbやTiが添加されることで高温保持によるオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制可能な鋼材を用いることも考えられる。しかし、このような鋼材によるオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する効果は実用上1050℃程度であるとともに、特殊な鋼材を用いることは、コストの観点から好ましくない。
また、1050℃から1350℃といった高温で保持された被処理部材の金属組織においてはオーステナイト結晶粒の粗大化が生じ、その後に行われる焼入によって微細クラックが生じるおそれがある。この点、本発明では、拡散層の炭素濃度が0.6wt%以下とされるので、その後の一次焼入工程の際に、オーステナイト結晶粒の粗大化に起因して生じるおそれのある微細クラックを抑制することができる。
また、一次焼入工程の後、保持工程によって前記被処理部材を1000℃以下かつA3線又はAcm線より高い温度で保持するので、被処理部材の組織におけるオーステナイト結晶粒は微細化される。これにより、二次焼入後において、旧オーステナイト結晶粒の粗大化に起因する機械的特性の低下を防止することができる。
以上により、本発明によれば、特殊な鋼材を用いずとも、微細クラックや機械的特性の低下を生じさせることなく高温で浸炭処理を行うことができ、浸炭焼入の処理時間を短縮することができる。
この場合、浸炭処理工程では、被処理部材表面の炭素濃度が0.6wt%を超えてより高濃度となるように調整したとしても、その後の拡散処理工程によって、被処理部材表面に浸炭された炭素を当該被処理部材の内部に拡散させ、必要な浸炭深さを確保しつつ拡散層の炭素濃度を0.6wt%以下とすることができる。このため、一次焼入工程によって生じるおそれのある微細クラックを抑制しつつ、浸炭処理工程では、より多くの炭素を被処理部材に固溶させることができ、より短時間で浸炭処理を終えることができる。
この場合、保持工程において、被処理部材表面の炭素濃度が現状の炭素濃度である0.6wt%以下より高い炭素濃度となるように浸炭雰囲気を調整される。ここで、被処理部材表面の炭素濃度を0.6wt%以上としたとしても、保持工程によりオーステナイト結晶粒が微細化されるので、上述の微細クラックの発生は抑制される。
このように、保持工程における雰囲気を調整することで、被処理部材に必要な表面硬さに調整することができる。
本浸炭焼入方法では、はだ焼鋼を用いて形成された被処理部材に対して処理を行う。ここではだ焼鋼とは、機械構造用炭素鋼及び機械構造用合金鋼の内、炭素濃度0.1〜0.2wt%程度の低炭素鋼を指す。具体的には、JISG4051、JISG4053において、主としてはだ焼用に使用される旨が記載されている鋼種(例えば、SCr415、SCr420、SCM415,420,425、S20CK等)が挙げられる。
処理温度T1にまで昇温した後、被処理部材を当該処理温度T1で保持し、炉内雰囲気を浸炭雰囲気とすることで、浸炭処理を行うとともに、浸炭処理によって炭素が拡散した範囲である拡散層の炭素濃度を0.6wt%以下にする処理を行う(浸炭工程)。
上記浸炭工程は、前記浸炭処理を行う浸炭処理工程と、浸炭処理によって被処理部材に浸炭された炭素を拡散させる拡散処理工程とを含んでいる。
上記浸炭処理工程において、処理温度T1は、1050℃〜1350℃の範囲に設定される。また炉内雰囲気は、被処理部材表面の炭素濃度がJE線未満又はAcm線未満となるように調整される。これによって、被処理部材には、処理温度T1にもよるが、表面付近の炭素濃度が最大で約2.0wt%となるように炭素を固溶させることができる。
例えば、SCM420(炭素含有量約0.2wt%)を用いた被処理部材について、処理温度T1を1200℃として処理した場合、被処理部材表面の炭素濃度は、図2に示すように変化する。すなわち、被処理部材表面の炭素濃度は、浸炭処理前は、約0.2wt%である点1に位置するが、浸炭処理工程によって、最大でJE線直近の点2(炭素濃度約1.6wt%)の位置の炭素濃度にまで上昇する。次いで、拡散処理工程によって、約0.6wt%である点3にまで低下する。
このようにオーステナイト結晶粒の粒度番号が7番未満であるような鋼材に対して焼入を行うと、焼入組織において微細クラックが生じるおそれがある。この点、本実施形態では、拡散層の炭素濃度が0.6wt%以下とすることで、その後の後述する一次焼入工程の際に、オーステナイト結晶粒の粗大化に起因して生じるおそれのある微細クラックを抑制することができる。
これにより、被処理部材の金属組織を、マルテンサイト、ベイナイト、微細パーライト、あるいは、これらの混合組織といった、局所的な炭素濃度分布が比較的均一となるような組織とすることができる。
またこのとき、一次焼入前の被処理部材は、高温保持によってオーステナイト結晶粒の粗大化が生じているが、上述のように、拡散層の炭素濃度が0.6wt%以下に調整されているので、オーステナイト結晶粒の粗大化に起因して生じるおそれのある微細クラックは抑制される。
保持温度T3で保持することで、被処理部材の組織を再度オーステナイト化する。ここで、保持工程では、浸炭工程のように高温1050℃以上といった高温にまで加熱しないので、被処理部材の組織におけるオーステナイト結晶粒は微細化される。保持温度T3をA3線又はAcm線より高く、1000℃以下の範囲とすることで、被処理部材の金属組織におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号は、7番以上に微細化されるように調整される。
これにより、後述の二次焼入後において、旧オーステナイト結晶粒の粗大化に起因する機械的特性の低下を防止することができる。
従って、被処理部材がより表面硬さが求められるような用途で用いられる場合には、保持工程における炉内雰囲気は、一次焼入工程を経た被処理部材の表面炭素濃度よりもより高い炭素濃度である0.6wt%以上となるような浸炭雰囲気に調整することができる。
またこの場合、既に、被処理部材表面近傍には拡散層が形成されているので、ごく表層についてのみ、必要な表面硬さが得られる炭素濃度に調整すればよく、処理時間をごく短時間とすることができる。
このように、本実施形態では、保持工程における浸炭雰囲気を調整することで、被処理部材に必要な表面硬さに調整することができる。
その後、被処理部材に対して焼戻処理を行ない、熱処理を終える。
図3は、被処理部材に対する浸炭焼入に用いた浸炭装置を示す図である。
この浸炭装置10は、炉内11aにワークW(被処理部材)を収納する筒状の炉体11と、炉体11の外部に配置されワークWを加熱するためのコイル12と、炉内11aでワークWを支持する支持部13とを備えている。また、浸炭装置10は、炉内11aの雰囲気を制御する制御機構(図示せず)も備えており、炉内11aの浸炭雰囲気等の調整が可能である。
支持部13は、上下方向に動作可能であり、ワークWを炉内11a上下方向に移動させることができる。これにより、支持部13は、ワークWを炉内11aコイル12の内周側で支持するとともに、炉体11下側に配置される油槽(図示せず)に投入して焼入することもできる。
再加熱時の保持工程の保持温度T3は950℃であり、保持工程の保持時間は15分として焼入れ(二次焼入)を行った。一次焼入工程、二次焼入工程では、共に油焼入を行った。
また、浸炭処理工程においては、被処理部材の最高炭素濃度(表面炭素濃度)が概ね1.5wt%(被処理部材の最大固溶炭素濃度未満)となるように浸炭雰囲気を調整した。次いで、拡散処理工程においては、炉内雰囲気を窒素(不活性ガス)雰囲気として外部雰囲気からの炭素侵入を抑止し、既に被処理部材に浸炭された炭素の内部への拡散のみを行い、被処理部材の炭素濃度が概ね0.55wt%以下となる浸炭雰囲気に調整した。保持工程においては、被処理部材の表面炭素濃度が0.8wt%となる浸炭雰囲気に調整した。
また、炭素濃度分布は、図4中、断面w1における表面w2から当該表面w2にほぼ直交する線Lに沿って、ワークWの内部に向かう方向に炭素濃度を連続的に測定することで、断面における炭素濃度分布を得た。
これに対して、図5(b)では、旧オーステナイト結晶粒は50ミクロン以下となっており、保持工程によって、オーステナイト結晶粒が微細化されていることが確認できる。この図例では、同粒度番号は8番である。
このように、浸炭工程においては、オーステナイト結晶粒に粗大化が生じるが、最終的に処理が完了する段階である二次焼入工程後においては、保持工程によってオーステナイト結晶粒は微細化され、旧オーステナイト結晶粒の粗大化に起因する機械的特性の低下を防止できることが確認できる。
なお、上記ワークWにおいて、表面近傍の断面を観察した結果、断面に微細クラックも生じていないことも確認した。
検証方法としては、上述の浸炭装置を用い、異なる複数の条件で所定の試料に対して浸炭工程を行うことで本発明に係る実施例品と、その比較対象としての比較例品を作成し、これらの一次焼入後の断面組織観察、及び断面の炭素濃度分布の測定を行った。
断面組織観察によって、微細クラックが表面からどの程度の距離の範囲で発生しているかを把握し、その把握した距離と、炭素濃度分布の測定結果とから、どの程度の炭素濃度で微細クラックが発生するかを検証した。
図に示す、浸炭工程の条件において、浸炭処理工程及び拡散処理工程の炉内雰囲気の設定は、実施例品及び比較例品で同じ設定とし、浸炭処理工程及び拡散処理工程の処理時間を調整することで、試料の炭素濃度分布を調整した。
また、処理温度T1、及び浸炭工程後の一次焼入の条件は、実施例品及び比較例品で同一とした。また、実施例品及び比較例品ともに一次焼入工程後に焼戻(160℃、90分)を行い、その後、断面組織観察及び炭素濃度分布測定に供した。断面組織観察及び炭素濃度分布測定は、実施例品及び比較例品それぞれについて試料における位置が特定可能な異なる4カ所の部分(部分1〜部分4)について行った。
実施例品においては、微細クラックの発生は認められなかった。図6にも示したように、断面の炭素濃度分布において、表面の炭素濃度が最大となるので、実施例品の拡散層の炭素濃度は、0.60wt%以下であり、この範囲では微細クラックの発生は認められないことが判る。
このように、浸炭工程(拡散処理工程)により拡散層の炭素濃度を0.6wt%以下とすれば、微細クラックが生じるのを抑制することができることが、上記検証試験より明らかとなった。
また、上記実施形態では、一次焼入、及び二次焼入を油焼入で行う場合を例示したが、一次焼入においては、被処理部材の金属組織が、マルテンサイト、ベイナイト、微細パーライト、あるいは、これらの混合組織といった、局所的な炭素濃度分布が比較的均一となるような組織であれば、硬さが多少低くても、後に二次焼入工程を行うため問題はない。従って、油焼入以外の冷却方法、例えば、500℃程度の塩浴や、窒素ガス等で冷却してもよい。
二次焼入についても、油焼入に限らず、必要な硬さが得られる程度に焼入を行うことができれば、他の冷却方法とすることもできる。
Claims (3)
- はだ焼鋼からなる被処理部材を浸炭焼入するための浸炭焼入方法であって、
前記被処理部材を処理温度である1050℃〜1350℃まで加熱する加熱工程と、
前記被処理部材を前記処理温度で保持し、前記被処理部材表面の炭素濃度がJE線未満又はAcm線未満となるように調整された浸炭雰囲気で浸炭処理を行うとともに、前記浸炭処理によって炭素が拡散した範囲である拡散層の炭素濃度を0.6wt%以下にする浸炭工程と、
前記浸炭工程の後、所定の焼入温度に降温し、焼入れを行う一次焼入工程と、
前記一次焼入工程後の前記被処理部材を1000℃以下かつA3線又はAcm線より高い温度で保持する保持工程と、
前記保持工程の後、焼入れを行う二次焼入工程と、を備え、
前記保持工程は浸炭雰囲気で行われることを特徴とする浸炭焼入方法。 - 前記保持工程は、前記被処理部材表面の炭素濃度が0.6wt%以上となるように調整された浸炭雰囲気で行われる請求項1に記載の浸炭焼入方法。
- 前記浸炭工程は、前記被処理部材を前記処理温度で保持し、前記被処理部材表面の炭素濃度が0.6wt%より大きくかつJE線未満又はAcm線未満となるように調整された浸炭雰囲気で浸炭処理を行う浸炭処理工程と、
浸炭処理工程により前記被処理部材に浸炭された炭素を拡散させ、前記拡散層の炭素濃度を0.6wt%以下にする拡散処理工程と、を含んでいる請求項1に記載の浸炭焼入方法。
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