JP5408465B2 - 鋼の浸炭処理方法 - Google Patents
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Description
この技術は、鋼の結晶粒界或いは粒内に微細な炭窒化物を多数形成して、鋼の疲労強度や衝撃強度及び歯車を形成した際のピッチング強度を向上させるための技術である。
具体的には、鋼を熱処理する際に、炭化系ガスを含有する雰囲気、例えば、雰囲気中の炭素の割合であるカーボンポテンシャル(CP)を0.75%に設定した雰囲気中で、鋼をオーステナイト域である例えば900〜950℃に昇温させ、数時間保持して浸炭処理を行う。これに続き、鋼をマルテンサイト域の温度まで急冷する1次焼入れを行う。
また、2次焼入れでの炭化系ガスとアンモニアガスの作用により、鋼中に炭素及び窒素が浸入拡散し、結晶粒界或いは粒内に微細な炭窒化物を多数形成させて鋼の強度を向上させることができる。
ただし、浸炭処理した鋼の場合、その表面領域では、心部に比べて炭素濃度が高い。炭素濃度の高い金属組織の強度を高めるには、一般に結晶粒は小さい方がよい。そのためには上記1次焼入れの温度は、炭素濃度の高い金属組織にとっては高過ぎることとなる。そこで、A1点よりは高い温度であって前記1次焼入れの温度よりも低い温度に鋼を再加熱し、2次焼入れを行う。これにより、当該2次焼入れの効果を最も顕著に受ける表面領域の組織は、増大した炭素濃度に適したより微細な組織となる。
これらの処理により、表面領域は硬く、心部領域は粘りを有する鋼を得ることができる。
尚、A1点は、鋼を加熱した場合に、組織がフェライトからオーステナイトに変態し始める温度である。
しかしながら、従来の浸炭処理方法においては、このような浸炭処理に際しての局所的な温度管理について触れた技術はなく、被処理品の全体に亘って均一な表面炭素濃度を得るためには未だ改善すべき点がある。
ここで、カーボンポテンシャルとは、鋼を加熱した際の浸炭能力を示す値であり、浸炭脱炭反応が平衡に達し、鋼が含有する炭素濃度が一定となったときの、鋼が含有する炭素濃度を示す。CP値が高いほど鋼に対する浸炭能力が高い。雰囲気ガスのカーボンポテンシャルは、雰囲気ガスの温度と雰囲気ガスの組成とによって決定され、例えば、(CO/CO2)の値に基づいて算出することができる。
特に、本発明は、一旦、浸炭した被処理品を再加熱して焼入れする際の浸炭方法を規定するものである。当該焼入れによって被処理品の表面処理状態はほぼ確定する。このように実質的に最終の工程で緻密な浸炭処理を行うことで、表面全体に亘って均等な炭素濃度を有する被処理品を得ることができるようになった。
しかし、本構成のごとく、CP値の変更を繰り返すことで、再び第1CP値に戻った際に、被処理品のうち過剰浸炭されている箇所では雰囲気炭素濃度が相対的に低下する。この結果、当該過剰浸炭部分については脱炭作用が働く。よって、当初のCP値の変更で生じた浸炭程度の誤差が解消され、続くCP値の変更でより安定した浸炭処理を行うことができる。
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明は、表面炭素濃度が0.7〜0.9質量%に浸炭された被処理品を再加熱焼入れ処理して表面炭素濃度を目標表面炭素濃度に設定する技術である。鋼中の炭素濃度が0.8%の鋼、即ち共析組成を有する鋼は、オーステナイト域であるA1点より高い温度から焼入れしたときに、浸炭層の表面部に炭化物が析出し難い。また、この焼入れ効果と、鋼組織中に炭素原子を混入させる浸炭処理、あるいは、窒素原子を混入させる窒化処理によって高強度を得ることができるため、歯車等の各種機械部品に広く用いられる。
本発明で被処理品として用いる鋼材は、2次焼入れを開始する時点で鋼表面の炭素濃度がおよそ0.8%に調整されている。このような鋼は、例えば、当初、鋼の炭素濃度が0.2%であったものに、浸炭処理を施し、鋼表面の炭素濃度を0.7〜1.0%に調整したものである。その際には、例えば、950℃程度の高温で数時間保持しつつ浸炭処理が行われる。当該処理を施すことにより、被処理品の表面近傍の炭素濃度を高めて、焼入れによって非常に硬いマルテンサイト組織を形成し、硬度の高い耐摩耗性を有する被処理品を得ることができる。
一方、心部の炭素濃度は表面に比べて低いため、硬度はそれほど高くはない。しかし、粘りのある組織を得ることができる。この結果、機械的強度と耐摩耗性等を備えた被処理品を得ることができる。
本発明における再加熱処理、即ち2次焼入れは、図1および図2に示す態様で行う。加熱目標温度は例えば、800〜850度である。図示は省略するが、この温度は即ち加熱室の温度である。本実施形態では、この温度を第2浸炭温度T2と称する。この温度は、0.8%程度の炭素濃度を有する鋼材に適した加熱温度である。つまり、0.8%の炭素濃度を有する鋼材、即ち共析組成を有する鋼材では、組織がオーステナイトになる温度はA1点(723℃)である。よって、この温度よりも約100℃高い温度を第2浸炭温度T2と設定する。この温度が過大であると、オーステナイト結晶粒度が粗大化して焼入れしたのちに得られるマルテンサイト組織も過大なものとなる。よって、2次焼入れの温度は、組織がオーステナイトに変態し、かつ、できるだけ低い温度が好ましい。
本実施形態では、最適な浸炭処理を行うべく、これらガスにより決定されるCP値を制御する。
第1浸炭温度T1を設定したのは、この温度に至るまでは、加熱室の内部の雰囲気ガスのCP値をある程度低く保持しておき、浸炭処理の進行を抑制するためである。浸炭の進行は、雰囲気ガスのCP値、被処理品の表面炭素濃度、温度、保持時間等によって変化する。被処理品の形状は様々であり、加熱に際しては、各部位の昇温速度は一定ではない。このため、仮に、昇温過程で雰囲気ガスのCP値を高く設定しておくと、先に昇温した部位によっては過浸炭となり、その後の2次焼入れに際して炭化物が多量に析出する部位が生じる。当該部位は硬く脆い組織になり易く、機械的強度を下げる要因となる。例えば、炭素濃度の高い領域が生じると、当該部分が過共析成分となる。そのため、その後の焼入れ処理に際してセメンタイトの析出割合が増大し、当該部位が脆い組織となる。被処理品を各種の歯車等に用いる場合には、例えば、歯先部などが高温になり易く、この部分の炭素濃度が上がり易い。その結果、焼入れ処理したのちのマルテンサイト組織の硬度が高まり過ぎ、じん性に乏しい素材となってしまう。これを防止するために、本実施形態では、被処理品の温度が一様に第2浸炭温度T2に達するまでは雰囲気ガスのCP値を低く保持しておく。
第1浸炭温度T1と第2浸炭温度T2との温度差が20℃以下程度であれば、実際の浸炭程度には影響しない。尚、この温度差をいくらに設定するかは、被処理品の形状などによっても変更可能である。表面形状の出入りが少なく全体が簡単な形状の被処理品ほど、各部位での浸炭程度に差が生じ難い。よって、その場合には上記温度差を大きく設定することができる。
尚、浸炭処理の過程で生じる反応は以下の通りである。
CO2+CH4→2CO+2H2
2CO→〈C〉+CO2
ここで〈C〉は、鋼中の炭素である。
本件発明に係る浸炭処理の例を以下に示す。
本実施例では、孔径25mmΦの貫通孔を備えた外径45mmΦ・高さ40mmの円筒形状の試験片を用いた。試験片は予め浸炭処理が施され、表面炭素濃度が0.7〜0.9質量%に設定されたものを用いた。
2次焼入れの目標温度である第2浸炭温度T2は820℃とした。CP値を変化させる第1浸炭温度T1は800℃とした。
実施例1〜3は、CP値制御に際して全てCO2濃度を0.54%から0.47%に下げることでCP値を同幅だけ上昇させた。比較例1〜4のCO2濃度は全て0.54%のまま一定とした。何れの実験でも加熱室の内部には、N2,H2,CO,CO2を混合した浸炭ガス、および、CH4,C3H8,C4H10のうち少なくとも一つを含むエンリッチガスの他に、アンモニアガスNH3を混入させた。制御総時間は実施例では1.0〜1.3、比較例では1.0〜1.6の間で変化させた。制御総時間とは、例えば、ロット総重量1.0の被処理品を処理するのに加熱炉の温度を2次焼入れの目標温度である第2浸炭温度T2に保持する時間と、現実に加熱炉を第2浸炭温度T2に保持した時間との比をいう。例えば、図2において温度T2に保持された水平部分の時間どうしを比べた値である。表1に示したごとく、ロット総重量の多い例については制御総時間を延長し、被処理品に対する加熱条件の整合を図った。
以上の条件で浸炭処理を行ったのち、油冷により2次焼入れを行った。
図5は、被処理品の重量と炭素濃度差との関係を示すものであるが、実施例と比較例とでは、炭素濃度差の大小が、実施例の方が明らかに少ない。つまり、実施例では浸炭程度にバラつきが少ないことが明瞭にわかる。
また、図6は、炭素濃度と析出物数との関係を示す図である。一般に鋼中に炭化物・窒化物・炭窒化物などを析出させると、硬さや軟化抵抗が向上する。これにより、部品使用時の磨耗などを抑制する効果が得られる。図6に示すごとく、本実施例の処理によれば、従来の比較例に比べて金属組織中の析出物数量が増加していることがわかる。このように、当該結果からも、本発明の浸炭処理方法によれば被処理品の強度を向上させ得ることが明らかとなった。
CP2 第2CP値
T1 第1浸炭温度
T2 第2浸炭温度
Claims (2)
- 表面炭素濃度が0. 7〜0. 9質量%に浸炭された被処理品を再加熱焼入れ処理して表面炭素濃度を目標表面炭素濃度に設定すべく、
前記被処理品を加熱室の内部に配置し、
当該加熱室に、N2,H2,CO,CO2を混合した浸炭ガス、および、CH4,C3H8,C4 H10のうち少なくとも一つを含むエンリッチガスを充填すると共に、
前記被処理品を加熱し、
前記被処理品の温度が炭素鋼のA1点以上であって前記被処理品の浸炭処理に最適な温度として予め設定した第2浸炭温度との差が20℃以内に設定された第1浸炭温度に至るまでは、前記加熱室の内部のカーボンポテンシャル(CP値)を、前記目標表面炭素濃度よりも低い第1CP値に設定しておき、
前記被処理品の温度が前記第1浸炭温度に達したとき、前記CP値を前記目標表面炭素濃度に等しい第2CP値に高めて、前記被処理品への浸炭処理を行い、
前記被処理品を焼入れ処理する鋼の浸炭処理方法。 - 前記第1CP値から前記第2CP値への変更ののち、両CP値間の濃度変更を少なくとも一回行う請求項1に記載の鋼の浸炭処理方法。
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