JPWO2017168972A1 - クロム基二相合金および該二相合金を用いた製造物 - Google Patents

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Abstract

従来技術と同等以上の高い耐食性と良好な機械的特性を有しかつ低コストのCr基二相合金および該二相合金を用いた製造物を提供する。本発明に係るCr基二相合金は、フェライト相およびオーステナイト相の二相が混在するCr基二相合金であって、前記Cr基二相合金の化学組成は、主要成分と副成分と不純物と第一随意副成分と第二随意副成分とからなり、前記主要成分は、33〜61質量%Crと、18〜40質量%Niと、10〜33質量%Feとからなり、前記Niと前記Feとの合計含有率が37質量%以上65質量%以下であり、前記副成分は、0.1〜2質量%Mnと、0.1〜1質量%Siと、0.005〜0.05質量%Alと、0.02〜0.3質量%Snとからなり、前記不純物は、0.04質量%以下のPと、0.01質量%以下のSと、0.03質量%以下のCと、0.04質量%以下のNと、0.05質量%以下のOとを含むことを特徴とする。

Description

本発明は、高耐食性・高強度合金の技術に関し、特に、オーステナイト相とフェライト相との二相が混在するクロム基二相合金および該二相合金を用いた製造物に関するものである。
原油や天然ガス等の掘削に使用される油井用機器の材料として、かつては炭素鋼と腐食抑制剤(インヒビター)とを併用することが一般的であった。近年では、油井掘削における高深度化の進展に伴う掘削環境の変化のため、以前よりも高い耐食性や機械的特性(例えば、硬さ)が油井用機器材料に求められるようになり、耐食性に優れる鋼材(合金鋼)が用いられるようになった。例えば、クロム(Cr)の添加は鉄(Fe)の耐食性を著しく向上させるため、金属腐食成分を含む油井ではCrを13質量%含有したマルテンサイト系ステンレス鋼(例えば、SUS420)が多く用いられてきた。
ただし、塩化物と酸性ガス(例えば、炭酸ガスや硫化水素)を含む環境下では、SUS420は応力腐食割れ(SCC)を起こし易いという弱点がある。そのため、そのような厳しい腐食環境下で油井掘削する場合、従来は高価なニッケル(Ni)基合金(例えば、Niを40質量%以上含有する合金)を用いることが多く、材料コスト(ひいては掘削コスト)が大幅に上昇してしまうという問題があった。
一方、Ni基合金に比して安価な耐食・耐熱合金としてCr基合金があり、種々のCr基合金が提案されている。例えば、特許文献1(特開平04-301048)には、Cr:65〜80%,Co:10〜15%,残部Feおよび不純分からなり、所望によりN:0.1〜1.5%を含む化学組成を有するCr−Fe系耐熱合金が開示され、特許文献2(特開平04-301049)には、Cr:70〜95%,N:0.1〜1.5%,残部Feおよび不純分からなる化学組成を有する耐熱合金が開示されている。特許文献1,2によると、高温雰囲気炉中における圧縮変形抵抗性、耐酸化性等に優れており、被加熱鋼材支持面部材としての耐久性の向上、メンテナンスの軽減、それに伴う操炉効率の向上に大きくに寄与するとされている。
特許文献3(特開平08-291355)には、質量%で、Cr:95%超え、N:0.1〜2.0%を含有し、残部Fe、NiおよびCoの一種または二種以上と不可避的不純物からなり、所望によりTi、Al、Zr、Nb、B、Vの内の一種または二種以上を合計で0.3%以上さらに含有するCr基耐熱合金が開示されている。特許文献3によると、超高温下で強度、延性および耐食性が必要な部材(例えば、加熱炉内の被加熱鋼材支持部材)に使用される高温強度に優れたCr基耐熱合金を提供できるとされている。
また、特許文献4(特開平07-258801)には、Cr:15〜50%、Ni:6.1〜50%、O+P+S:200 ppm以下で残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、結晶粒度番号:8以上であり、所望によりC+N:400〜1200 ppmであることを特徴とする加工部分の耐食性に優れたFe-Cr-Ni合金が開示されている。特許文献4によると、加工性を低下させることなく耐食性を向上させ、かつ、加工されても耐食性の低下しないFe-Cr-Ni合金を提供できるとされている。
特開平04−301048号公報 特開平04−301049号公報 特開平08−291355号公報 特開平07−258801号公報
特許文献1〜3に記載されたような高Cr基合金(Crの含有率が高い合金)は、1300℃以上の高温環境下での使用を目的とするものであり、該高温環境下でも優れた耐食性と機械的特性とを有するとされている。しかしながら、そのような高Cr基合金は、油井環境の温度域(室温〜350℃程度)において脆性を示す(靭性が不十分である)ため、油井用機器材料としては適していないと考えられる。
また、特許文献4に記載されたFe-Cr-Ni合金は、オーステナイト系ステンレス鋼を意図したものであるが、オーステナイト系ステンレス鋼は、塩化物を含む高温高圧環境下で水素脆化による応力腐食割れ(SCC)を起こし易いことが知られており、高Cr基合金と同様に、油井用機器材料としては適していないと考えられる。
前述したように、油井掘削における高深度化の進展により、従来と同等以上に高い耐食性や機械的特性を有する材料で、かつNi基合金よりも低コストの金属材料が強く求められている。なお、油井用機器材料の機械的特性としては、硬さや機械的強度に加えて、耐久性の観点から延性・靱性の確保が重要である。また、機器の摺動部材料として用いる場合には、耐摩耗性も重要な機械的特性である。
したがって、本発明の目的は、油井のような温度域・高腐食環境下においても好適に利用できる金属材料であり、従来と同等以上の高い耐食性と良好な機械的特性を有しかつ低コストのCr基二相合金、および該二相合金を用いた製造物を提供することにある。
(I)本発明の一態様は、フェライト相およびオーステナイト相の二相が混在するCr基二相合金であって、
前記Cr基二相合金の化学組成は、主要成分と副成分と不純物と第一随意副成分と第二随意副成分とからなり、
前記主要成分は、33質量%以上61質量%以下のCrと、18質量%以上40質量%以下のNi(ニッケル)と、10質量%以上33質量%以下のFe(鉄)とからなり、前記Niと前記Feとの合計含有率が37質量%以上65質量%以下であり、
前記副成分は、0.1質量%以上2質量%以下のMn(マンガン)と、0.1質量%以上1質量%以下のSi(ケイ素)と、0.005質量%以上0.05質量%以下のAl(アルミニウム)と、0.02質量%以上0.3質量%以下のSn(スズ)とからなり、
前記不純物は、0質量%超0.04質量%以下のP(リン)と、0質量%超0.01質量%以下のS(硫黄)と、0質量%超0.03質量%以下のC(炭素)と、0質量%超0.04質量%以下のN(窒素)と、0質量%超0.05質量%以下のO(酸素)とを含むことを特徴とするCr基二相合金を提供するものである。
なお、本発明において、第一随意副成分と第二随意副成分とは、添加してもよいし添加しなくてもよい成分を意味する。
本発明は、上記の本発明に係るCr基二相合金(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記Cr基二相合金が前記第一随意副成分を含有する場合、該第一随意副成分は、0.1質量%以上3質量%以下のMo(モリブデン)および/または0.1質量%以上5質量%以下のCu(銅)である。
(ii)前記第二随意副成分は、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)およびTi(チタン)のうちの少なくとも一種からなり、
前記Cr基二相合金が該第二随意副成分を含有する場合、前記V、Nb、TaおよびTiの合計原子含有率が、前記C、NおよびOの合計原子含有率の0.8倍以上2倍以下の範囲である。
(iii)前記フェライト相の占有率が10%以上95%以下である。
(II)本発明の他の一態様は、二相合金を用いた製造物であって、前記二相合金が、上記のCr基二相合金であることを特徴とする二相合金製造物を提供するものである。
本発明は、上記の本発明に係る二相合金製造物(II)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(iv)前記製造物が鋳造組織を有する成形体である。
(v)前記製造物が鍛造組織を有する成形体である。
(vi)前記製造物が粉体である。
(vii)前記製造物は、基材上に前記二相合金の被覆層が形成された複合体であり、前記被覆層が急冷凝固組織を有する。
本発明によれば、油井のような温度域・高腐食環境下においても好適に利用できるような金属材料として、従来と同等以上の高い耐食性と良好な機械的特性とを有しかつ低コストのCr基二相合金、および該二相合金を用いた製造物を提供することができる。
本発明に係る二相合金製造物の一例で、普通鋳造により得られた試料の金属組織例を示す光学顕微鏡写真である。 本発明に係る二相合金製造物の他の一例で、熱間鍛造により得られた試料の金属組織例を示す光学顕微鏡写真である。 本発明に係る二相合金製造物の他の一例で、急冷凝固により得られた試料の金属組織例を示す光学顕微鏡写真である。 本発明に係る二相合金製造物の製造方法の例(鋳造品の製造方法)を示す工程図である。 本発明に係る二相合金製造物の製造方法の他の例(鍛造品の製造方法)を示す工程図である。 本発明に係る二相合金製造物の製造方法の他の例(粉体の製造方法)を示す工程図である。 基材上に肉盛溶接の被覆層を形成した複合体の例を示す断面模式図である。
本発明者等は、Cr、NiおよびFeを主要成分とするCr-Ni-Fe系合金、特にCrを33質量%以上含むCr-Ni-Fe系合金およびその製造物において、化学組成、金属組織形態、機械的特性、および耐食性の関係について鋭意調査検討し、本発明を完成させた。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。ただし、本発明は、ここで取り挙げた実施形態に限定されるものではなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
(本発明のCr基二相合金の化学組成)
前述したように、本発明に係る二相合金は、Cr、NiおよびFeを主要成分とするCr-Ni-Fe系合金であり、副成分としてMn、Si、AlおよびSnを少なくとも含み、不純物を含む。随意的にMoおよび/またはCuを含んでもよい。また、随意的にV、Nb、TaおよびTiのうちの少なくとも一種を更に含むことが好ましい。以下、本発明に係る二相合金の組成(各成分)について説明する。
Cr:33質量%以上61質量%以下
Cr成分は、本Cr基二相合金の主要成分の1つであり、高強度のフェライト相を形成すると共に、オーステナイト相に固溶して耐食性の向上に寄与する成分である。Cr成分の含有率は、33質量%以上61質量%以下が好ましい。Cr含有率が33質量%未満になると、Cr基二相合金の機械的強度が低下する。一方、Cr含有率が61質量%超になると、Cr基二相合金の延性・靱性が低下する。なお、耐食性と材料コストとの観点から、主要3成分(Cr、Ni、Fe)のうちでCr成分が最大含有率であることが好ましい。
Ni:18〜40質量%
Ni成分は、本二相合金の主要成分の1つであり、オーステナイト相を安定化させて合金の二相状態の維持に寄与する(例えば、溶体化処理を施しても二相状態の維持が可能)と共に、二相合金に延性と靱性を付与する成分である。Ni成分の含有率は、18質量%以上40質量%以下が好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。Ni含有率が18質量%未満になると、オーステナイト相の占有率が5%未満(フェライト率が95%超)となり、二相合金の延性・靱性が低下する。一方、Ni含有率が40質量%超になると、フェライト率が10%未満(オーステナイト相の占有率が90%超)となり、二相合金の機械的強度が低下する。
Fe:10〜33質量%
Fe成分も、本二相合金の主要成分の1つであり、機械的強度を確保するための基本成分である。Fe成分の含有率は、10質量%以上33質量%以下が好ましい。Fe含有率が10質量%未満になると、二相合金の延性・靱性が低下する。一方、Fe含有率が33質量%超になると、800℃近傍の温度域で金属間化合物のσ相が生成し易くなり、二相合金の延性・靱性が著しく低下する(いわゆる、σ相脆化)。言い換えると、Feの含有率を10〜33質量%の範囲に制御することにより、二相合金の機械的強度を確保しながらσ相の生成を抑制して合金の延性・靱性の低下を抑制することができる。
Ni+Fe:37〜65質量%
Ni成分とFe成分との合計含有率は、37質量%以上65質量%以下が好ましい。該合計含有率が37質量%未満になると、二相合金の延性・靱性が不十分になる。一方、該合計含有率が65質量%超になると、合金の機械的強度が大きく低下する。
Mn:0.1〜2質量%
Mn成分は、本二相合金において脱硫・脱酸の役割を担い、機械的強度・靱性の向上および耐炭酸ガス腐食性の向上に寄与する副成分である。Mn成分の含有率は、0.1質量%以上2質量%以下が好ましく、0.3質量%以上1.8質量%以下がより好ましい。Mn含有率が0.1質量%未満になると、Mn成分による作用効果が十分に得られない。また、Mn含有率が2質量%超になると、硫化物(例えば、MnS)の粗大粒子を形成して合金の耐食性や機械的強度の劣化要因になる。
Si:0.1〜1質量%
Si成分は、本二相合金において脱酸の役割を担い、機械的強度・靱性の向上に寄与する副成分である。Si成分の含有率は、0.1質量%以上1質量%以下が好ましく、0.3質量%以上0.8質量%以下がより好ましい。Si含有率が0.1質量%未満になると、Si成分による作用効果が十分に得られない。また、Si含有率が1質量%超になると、酸化物(例えば、SiO2)の粗大粒子を形成して合金の延性・靱靱性の低下要因になる。
Al:0.005〜0.05質量%
Al成分は、本二相合金において脱酸・脱窒素の役割を担い、機械的強度・靱性の向上に寄与する副成分である。Al成分の含有率は、0.005質量%以上0.05質量%以下が好ましく、0.008質量%以上0.04質量%以下がより好ましい。Al含有率が0.005質量%未満になると、Al成分による作用効果が十分に得られない。また、Al含有率が0.05質量%超になると、酸化物や窒化物(例えば、Al2O3、AlN)の粗大粒子を形成して合金の延性・靱靱性の低下要因になる。
Sn:0.02〜0.3質量%
Sn成分は、本二相合金において不動態皮膜強化の役割を担い、耐食性・耐摩耗性の向上に寄与する副成分である。Sn成分の含有率は、0.02質量%以上0.3質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.3質量%以下がより好ましい。Sn含有率が0.02質量%未満になると、Sn成分による作用効果が十分に得られない。また、Sn含有率が0.3質量%超になると、Sn成分の粒界偏析を生じさせて合金の延性・靱性の低下要因になる。
不純物
本二相合金における不純物としては、P、S、C、NおよびOが挙げられる。以下、これら不純物について説明する。
P:0質量%超0.04質量%以下
P成分は、二相合金の結晶粒界に偏析し易く、合金の靱性や粒界の耐食性を低下させる不純物成分である。P成分の含有率を0.04質量%以下に制御することで、それらの負の影響を抑制することができる。P含有率は、0.03質量%以下がより好ましい。
S:0質量%超0.01質量%以下
S成分は、本二相合金の構成成分と化合して比較的低融点の硫化物(例えば、Fe硫化物)を生成し易く、合金の靱性や耐孔食性を低下させる不純物成分である。S成分の含有率を0.01質量%以下に制御することで、それらの負の影響を抑制することができる。S含有率は、0.003質量%以下がより好ましい。
C:0質量%超0.03質量%以下
C成分は、固溶することによって合金を硬化させる作用効果がある一方、本二相合金の構成成分と化合して炭化物(例えば、Cr炭化物)を生成・粒界析出し易く、合金の耐食性や靱性を低下させる不純物成分でもある。C成分の含有率を0.03質量%以下に制御することで、それらの負の影響を抑制することができる。C含有率は、0.02質量%以下がより好ましい。
N:0質量%超0.04質量%以下
N成分は、本Cr基二相合金に固溶することによって機械的特性(例えば、硬さ)を向上させる作用効果がある。N成分の含有率は、0質量%超0.04質量%以下が好ましく、0質量%超0.03質量%以下がより好ましく、0質量%超0.02質量%以下が更に好ましい。N成分を添加しなければ、その作用効果は得られない。また、N含有率が0.04質量%超になると、Cr基二相合金の構成成分と化合して窒化物(例えば、Cr窒化物)を生成・析出し、Cr基二相合金の延性・靱性が低下する。
O:0質量%超0.05質量%以下
O成分は、本二相合金の構成成分と化合して酸化物(例えば、Fe酸化物)を生成・析出し易く、合金の靱性を低下させる不純物成分である。O成分の含有率を0.05質量%以下に制御することで、その負の影響を抑制することができる。O含有率は、0.03質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下が更に好ましい。
第一随意副成分
本二相合金は、第一随意副成分として、Moおよび/またはCuを更に含むことが好ましい。以下、第一随意副成分について説明する。なお、前述したように第一随意副成分は、添加してもよいし添加しなくてもよい成分を意味する。
Mo:0.1〜3質量%
Mo成分は、本二相合金において耐食性の向上に寄与する随意副成分である。Mo成分を添加する場合、その含有率は、0.1質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。Mo含有率が0.1質量%未満になると、Mo成分による作用効果が十分に得られない。また、Mo含有率が3質量%超になると、合金の延性・靭性が低下する。
Cu:0.1〜5質量%
Cu成分は、本二相合金において耐食性の向上に寄与する随意副成分である。Cu成分を添加する場合、その含有率は、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.3質量%以上3質量%以下がより好ましい。Cu含有率が0.1質量%未満になると、Cu成分による作用効果が十分に得られない。また、Cu含有率が5質量%超になると、合金の延性・靭性が低下する。
第二随意副成分
本二相合金は、第二随意副成分として、V、Nb、TaおよびTiのうちの少なくとも一種を更に含むことが好ましい。以下、第二随意副成分について説明する。なお、前述したように第二随意副成分も、添加してもよいし添加しなくてもよい成分を意味する。
V成分、Nb成分、Ta成分、およびTi成分は、それぞれ本二相合金において脱炭・脱窒素・脱酸の役割を担う成分である。C、NおよびOの不純物成分との化合物を形成し、該不純物成分を集合化・安定化することにより、合金の靱性を改善する(靱性低下を抑制する)ことができる。
また、V成分の少量添加は、合金の機械的特性(例えば、硬さ)を向上させる副次的な作用効果がある。Nb成分の少量添加も、合金の機械的特性(例えば、靱性)を向上させる副次的な作用効果がある。Ta成分やTi成分の少量添加は、合金の耐食性を向上させる副次的な作用効果がある。
上記の第二随意副成分の合計原子含有率(原子%)は、不純物成分のC、NおよびOの合計原子含有率(原子%)の0.8倍以上2倍以下の範囲となるように制御することが好ましく、0.8倍以上1.5倍以下の範囲がより好ましい。第二随意副成分の合計含有率が、C、NおよびOの合計原子含有率の0.8倍未満になると、上記の作用効果が十分に得られない。一方、第二随意副成分の合計原子含有率が、C、NおよびOの合計原子含有率の2倍超になると、合金の延性・靭性が低下する。
(本発明のCr基二相合金製造物の金属組織)
次に、本発明に係るCr基二相合金製造物の金属組織(微細組織)について説明する。
本発明の合金は、主要成分としてCr、NiおよびFeを含むCr-Ni-Fe系合金である。主要成分にFeを含む合金の金属組織は、通常、体心立方格子の結晶構造を有するフェライト組織(フェライト相、α相とも言う)と、面心立方格子の結晶構造を有するオーステナイト組織(オーステナイト相、γ相とも言う)と、ひずんだ体心立方格子の結晶構造を有するマルテンサイト組織(マルテンサイト相、α’相とも言う)とに大別される。
一般的に、フェライト相は、耐食性(例えば、耐SCC性)に優れ、高い機械的強度(例えば、0.2%耐力)を有するが、オーステナイト相に比して延性・靭性が相対的に低いとされている。オーステナイト相は、フェライト相に比して相対的に高い延性・靭性を有するが、機械的強度が相対的に低いとされている。また、通常環境において高い耐食性を示すが、腐食環境が厳しくなると耐SCC性が急激に低下するとされている。マルテンサイト
相は、高い機械的強度(例えば、硬さ)を有するが、耐食性が比較的低いとされている。
一方、本発明に係る二相合金は、相構成としてオーステナイト相およびフェライト相の二相が混在する合金である。二相合金は、オーステナイト相の利点(優れた延性・靭性)とフェライト相の利点(高い機械的強度、耐SCC性を含む優れた耐食性)とを兼ね備える特徴がある。また、本二相合金は、その特徴的な化学組成から、良好な延性と耐摩耗性とを併せ持つ利点がある。さらに、Niよりも安価なCrを主要成分とすることから、Niを最大成分とするNi基合金よりも材料コストを低減できる利点がある。
本発明の二相合金は、フェライト相の占有率(以下、単純に「フェライト率」と称する場合がある)が10%以上95%以下であり、残部(すなわち90%以下5%以上)がオーステナイト相となるように制御することが好ましい。本発明における相の占有率とは、合金バルク試料の研磨面に対して、後方散乱電子回折像(EBSP)解析を行ったときの当該相の含有率(単位:%)と定義する。
フェライト率が10%以上95%以下の範囲を外れると、二相合金としての利点がほとんど得られない(フェライト相単相の弱点またはオーステナイト相単相の弱点が明確に現れる)。該フェライト率は、15%以上85%以下に制御することがより好ましく、20%以上70%以下に制御することが更に好ましい。
また、本発明の二相合金製造物の金属組織(微細組織)は、鋳造組織であってもよいし、鍛造組織であってもよいし、急冷凝固組織であってもよい。言い換えると、該製造物は、本発明の二相合金を用いて鋳造や鍛造や急冷凝固により成形・造形することができる。なお、成形・造形した後に、溶体化熱処理を施した金属組織であってもよいし、更にその後に、時効熱処理を施した金属組織であってもよい。
機械的特性および耐食性の観点からは、結晶粒径が小さい金属組織(例えば、鍛造組織、急冷凝固組織)を有することが好ましい。言い換えると、機械的特性や耐食性の確保を優先する場合、鍛造や急冷凝固により二相合金製造物を成形・造形することが好ましい。一方、複雑な形状を有する製造物を製造する場合やコストを優先する場合は、鋳造により二相合金製造物を成形・造形することが好ましい。
図1は、本発明に係る二相合金製造物の一例で、普通鋳造により得られた試料の金属組織例を示す光学顕微鏡写真である。図1に示したように、明色のオーステナイト相P1と暗色のフェライト相P2とが互いに分散混合した金属組織を有していることが確認される。また、図1の試料は、普通鋳造による成形体であることから、鋳造凝固特有の樹枝状晶(デンドライト)が晶出した組織(いわゆる、鋳造組織)が確認される。
図2は、本発明に係る二相合金製造物の他の一例で、熱間鍛造により得られた試料の金属組織例を示す光学顕微鏡写真である。図1と同様に、明色のオーステナイト相P1と暗色のフェライト相P2とが互いに分散混合した金属組織を有していることが確認される。また、図2の試料は、熱間鍛造による成形体であることから、鋳造組織が破壊され少なくとも一部に等軸晶状の結晶粒が見られる組織(いわゆる、鍛造組織)が確認される。
図3は、本発明に係る二相合金製造物の他の一例で、急冷凝固により得られた試料の金属組織例を示す光学顕微鏡写真である。図3では、本発明の二相合金を用いて肉盛溶接を行った溶接金属の表面を示した。図1〜2と同様に、明色のオーステナイト相P1と暗色のフェライト相P2とが互いに分散混合した金属組織を有していることが確認される。また、図3の試料は、急冷凝固による試料であることから、平均結晶粒径が小さく、デンドライトの芽のような組織(デンドライトになり始めの組織、いわゆる、急冷凝固組織)が確認される。なお、アトマイズ法により製造した二相合金粉末も、図3と同様の金属組織を有していることを別途確認した。
(本発明のCr基二相合金製造物の製造方法)
次に、本発明の二相合金製造物の製造方法について説明する。図4は、本発明に係る二相合金製造物の製造方法の例(鋳造品の製造方法)を示す工程図である。
図4に示したように、この製造方法では、まず、所望の組成(主要成分+副成分+必要に応じて第一・第二随意副成分)となるように二相合金の原料を混合・溶解して溶湯10を形成する原料混合溶解工程(ステップ1:S1)を行う。原料の混合方法や溶解方法に特段の限定はなく、高耐食性・高強度合金の製造における従前の方法を利用できる。例えば、溶解方法として真空溶解を好適に利用できる。また、真空炭素脱酸法などを併用して、溶湯10を精錬することが好ましい。原料混合溶解工程S1では、その工程の最後に溶湯10を一旦凝固させて原料合金塊を形成する。
次に、合金中の不純物成分(P、S、C、NおよびO)の含有率を制御する(合金の清浄度を高める)ための再溶解工程(ステップ2:S2)を行う。合金の清浄度を高められる限り再溶解方法に特段の限定はないが、例えば、真空アーク再溶解(VAR)やエレクトロスラグ再溶解(ESR)を好ましく利用できる。本工程により清浄化溶湯11を用意する。
次に、清浄化溶湯11を所望の鋳型に注入して鋳塊20を形成する鋳造工程を行う(ステップ3:S3)。ここで、凝固時の結晶粒粗大化(粗大な鋳造凝固組織)を抑制できる冷却速度が確保でき、高い寸法精度でほぼ最終形状に鋳造できる場合(溶湯鍛造による鋳造を含む)、本鋳造工程による鋳塊20をもって本発明に係る二相合金製造物としてもよい。
鋳造工程S3の後、必要に応じて、鋳塊20に対して溶体化処理を施すための溶体化熱処理工程(ステップ4:S4)を行ってもよい。溶体化熱処理の温度は、1050〜1300℃の範囲が望ましく、1100〜1250℃の範囲がより望ましい。溶体化処理を施すことにより、オーステナイト相およびフェライト相の各相内で化学的組成を均質化することができる。
加えて、溶体化熱処理工程S4の後に、時効熱処理工程(ステップ5:S5)を行うことは好ましい。時効熱処理の温度は、800〜1000℃の範囲が望ましく、900℃前後がより望ましい。熱処理時間としては、0.5〜6時間保持の範囲で適宜調整すればよい。時効熱処理を施すことにより、二相の相比調整(フェライト率調整)を行うことができる。
例えば、配合組成から予定されるフェライト率よりもフェライト相が過剰な場合、本時効熱処理を施すことにより、フェライト相の一部をオーステナイト相に相変態させて、製造物の延性・靱性を調整することができる。反対に、配合組成から予定されるフェライト率よりもフェライト相が過少(オーステナイト相が過剰)な場合、オーステナイト相の一部をフェライト相に相変態させて、製造物の機械的強度を調整することができる。
また、二相合金が第二随意副成分を含有する場合、本時効熱処理を施すことにより、上記の相比調整と同時に、第二随意副成分と不純物成分(C、N、O)との化合物形成が促進されて該不純物成分をより集合化・安定化することができる。その結果、製造物の延性・靱性をより改善する(延性・靱性の低下をより抑制する)ことができる。
図5は、本発明に係る二相合金製造物の製造方法の他の例(鍛造品の製造方法)を示す工程図である。図5に示したように、鍛造品の製造方法は、図4の鋳造品の製造方法における鋳造工程S3と溶体化熱処理工程S4との間に熱間鍛造成形工程(ステップ6:S6)を有する点で異なり、他の工程を同じとするものである。そこで、熱間鍛造成形工程S6についてのみ説明する。
鍛造品の製造方法では、鋳造工程S3で得られた鋳塊20に対して、熱間鍛造を施してほぼ最終形状に成形する熱間鍛造成形工程S6を行う。熱間鍛造・成形方法に特段の限定はなく、従前の方法を利用できるが、本熱間鍛造成形工程は900〜1300℃の温度範囲内で行うことが好ましい。該温度範囲内で熱間鍛造を施す(熱間鍛造中に該温度範囲を外れない)ことにより、鋳塊20の鋳造欠陥を消失させると共に鋳造凝固組織を壊して、鋳造組織よりも結晶粒径が小さい鍛造組織を有する二相合金の成形体30を得ることができる。
図6は、本発明に係る二相合金製造物の製造方法の他の例(粉体の製造方法)を示す工程図である。図6に示したように、粉体の製造方法は、原料混合溶解工程S1〜再溶解工程S2を図4〜5の製造方法と同じとし、鋳造工程S3の代わりにアトマイズ工程(ステップ7:S7)と分級工程(ステップ8:S8)とを行う点で異なる。そこで、アトマイズ工程S7と分級工程S8とについて説明する。
粉体の製造方法では、清浄化溶湯11から合金粉末40を形成するアトマイズ工程S7を行う。アトマイズ方法に特段の限定はなく、従前のアトマイズ方法を利用できる。例えば、高清浄・均質組成・球形状粒子が得られるガスアトマイズ法を好ましく用いることができる。
アトマイズ工程S7の後、必要に応じて、合金粉末40に対して、所望の粒径に揃えるための分級工程S8を行ってもよい。分級する粒径に特段の限定はないが、ハンドリング性の観点から、例えば、10μm以上200μm以下の平均粒径となるように合金粉末40を分級することが好ましい。得られた合金粉末40は、例えば、溶接材料、粉末冶金用材料、積層造形用材料として好適に用いることができる。
上記のようにして製造した二相合金製造物は、Niに比して安価なCrを主要成分とする二相合金からなることから、従来と同等以上の高い耐食性・機械的特性を有しながら、Ni基合金からなる製造物よりも低コスト化を図ることができる。その結果、本発明に係るCr基二相合金製造物は、厳しい腐食環境下において用いられる油井用機器部材(例えば、圧縮機部材、ポンプ部材)や海水環境機器部材(例えば、海水淡水化プラント機器部材、アンビリカルケーブル)や化学プラント機器部材(例えば、液化天然ガス気化装置部材)として好適に利用できる。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実験1]
(実施例1〜26および比較例1〜5の合金製造物の作製)
表1に示す化学組成を有する合金A1〜A25を用いて合金製造物(実施例1〜26および比較例1〜5)を作製した。各成分の含有率(単位:質量%)は、表1に記載の化学組成の総和が100質量%となるように換算してある。なお、合金A25は、スーパー二相鋼と称される市販の二相ステンレス鋼である。
Figure 2017168972
各合金製造物の作製は、図5に示した製造方法に沿って行った。まず、各合金の原料を混合し、高周波真空溶解炉を用いて真空溶解(2×10-3 Pa以下、1700℃以上)を行った後、一旦凝固させて原料合金塊を形成した。次に、真空アーク再溶解炉を用いて原料合金塊の再溶解工程を行って、清浄化溶湯を用意した。次に、所定の鋳型を用いて清浄化溶湯を鋳造し、各合金の鋳塊を作製した。
次に、上記の各鋳塊に対して、所定の形状となるように熱間鍛造による成形を行った。熱間鍛造条件としては、鍛造温度:1050〜1300℃、ひずみ速度:8 mm/s以下、鍛造1回あたりの圧下量:10 mm以下、鍛造回数:6回以上とした。
なお、鍛造温度の範囲は、次のようにして決定したものである。フェライト率調整熱処理を施した各実施例の鋳塊から引張試験用の試験片を別途切り出し加工して、該試験片に対してグリーブル試験機を用いて高温引張試験(試験温度:800〜1350℃、引張速度:10 mm/s)を行った。高温引張試験の結果、絞りが60%以上となる温度範囲を鍛造温度範囲とした。
次に、熱間鍛造成形を行った各合金試料に対して、溶体化熱処理(1100〜1250℃で1時間保持後、水冷)を施した。その後、一部の試料に対しては、時効熱処理(900〜1000℃で1時間保持後、水冷)を施した。以上の工程により、試験・評価用の合金製造物(実施例1〜26および比較例1〜5)を作製した。
(実施例1〜26および比較例1〜5の合金製造物に対する試験・評価)
(1)微細組織評価
各合金製造物から組織観察用の試験片を採取した後、該試験片の表面を鏡面研磨し、シュウ酸水溶液中で電界エッチングを行った。該研磨表面を光学顕微鏡で観察した。先に示した図2は、実施例6の金属組織の光学顕微鏡写真である。他の実施例も同様の金属組織を有することを別途確認した。
次に、微細組織評価の他の一つとして、フェライト率測定を行った。上記の組織観察用試験片の研磨表面に対して後方散乱電子回折像(EBSP)解析を行い、フェライト相の占有率(フェライト率、単位:%)を測定した。該測定には、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査型電子顕微鏡(S-4300SE)に株式会社TSLソリューションズ製の結晶方位測定装置を付加した装置を用いた。結果を後述する表2に記す。
(2)機械的特性評価
機械的特性評価の一つとして、先の組織観察用試験片に対してビッカース硬度計を用いてビッカース硬さ試験(荷重:500 g、荷重付加時間:20 s)を行った。ビッカース硬さは5測定の平均値として求めた。結果を表2に併記する。
次に、用意した各合金製造物から引張試験用の試験片(直径:4 mm、平行部長さ:20 mm)を採取した。他の機械的特性評価として、各試験片に対して引張試験機を用いて室温引張試験(ひずみ速度:3×10-4 s-1)を行い、0.2%耐力、引張強さ、破断伸びを測定した。なお、明確な引張強さが測定される前に試験片が破断した場合は、破断応力を測定した。これら引張試験の結果は3測定の平均値として求めた。
破断伸びの測定の結果、15%以上をAランクと評価し、5%以上15%未満をBランクと評価し、2%以上5%未満をCランクと評価し、2%未満をDランクと評価した。Cランク以上を合格と判定し、Dランクを不合格と判定した。室温引張試験の結果を表2に併記する。
次に、用意した各合金製造物から摩耗試験用の試験片(直径:10 mm、長さ:20 mm)を採取した。他の機械的特性評価として、各試験片に対してPin-on-Disk型摩擦摩耗試験機を用いて耐摩耗性を評価した。
摩擦摩耗試験方法は、以下のとおりである。ディスクに粒度240番の耐水研磨紙を取り付け、回転数200 rpmでディスクを回転させ、室温・大気環境下でピンとなる試験片を荷重4 kgfで耐水研磨紙に押し付けて、耐水研磨紙の最外周(最外径156 mm)から中心に向けて移動させた(ピンの合計移動距離=約6 m)。摩擦摩耗試験の結果は、ピンの長さ変化量を摩耗量として測定し、2測定の平均値で求めた。
耐摩耗性評価の基準試料としては、耐摩耗性・耐食性に優れるとされる市販のコバルト基合金(ステライト(登録商標)、化学組成 59.5Co- 29.2Cr- 4.2W- 2.9Fe- 1.7Ni- 1.2Si- 1.17C- 0.027N- 0.003O- 0.028P- 0.0025S:質量%)を用いた。摩擦摩耗試験の結果、該基準試料の摩耗量は0.087 mmであった。これを100%として、各合金製造物の摩耗量の比率を算出した。耐摩耗性評価の結果を表2に併記する。
(3)耐食性評価
耐食性評価の一種として耐硫酸性試験を行った。用意した各合金製造物から耐硫酸性試験用の試験片(幅13 mm×長さ40 mm×厚さ3 mm)を採取し、JIS G0591(2000)に準拠して、硫酸中の腐食速度により評価した。具体的には、沸騰した5%硫酸中に試験片を6時間浸漬する試験を行った。試験前後の各試験片の質量を測定し、腐食による平均質量減少速度m(単位:g/(m2・h))を測定した。
平均質量減少速度の測定の結果、「m<0.1」をAランクと評価し、「0.1≦m<0.3」をBランクと評価し、「0.3≦m<0.5」をCランクと評価し、「0.5≦m」をDランクと評価した。Aランクを合格と判定し、Bランク以下を不合格と判定した。耐食性評価の結果を表2に併記する。
耐食性評価の他の一種として孔食試験を行った。実施例の各合金製造物から孔食試験用の分極試験片を採取した。孔食試験は、各分極試験片に対してJIS G0577(2005)に準拠して行った。具体的には、分極試験片にすきま腐食防止電極を装着し、参照電極として飽和カロメル電極を用い、分極試験片のアノード分極曲線を測定して、電流密度100μA/cm2に対応する孔食発生電位を求めた。アノード分極曲線測定後、光学顕微鏡を用いて孔食の発生の有無を調査した。
各実施例に対する孔食試験の結果、電流密度100μA/cm2に対応する孔食発生電位は1.0 V(vs. SHE)以上であり、該孔食発生電位以上の領域では、過不動態域における酸素発生となった。また、それら全ての試料において、孔食発生は認められなかった。
Figure 2017168972
表2に示したように、比較例1〜5は、合金の化学組成が本発明の規定を外れており、機械的特性(機械的強度、延性、耐摩耗性)および耐食性のいずれかに難点があった。より具体的には、比較例3〜4は、フェライト率が本発明の規定を外れているため、フェライト相単相またはオーステナイト相単相の弱点が明確に現れた。また、Sn成分を含まない比較例1〜2および市販の二相ステンレス鋼からなる比較例5は、フェライト率は本発明の範囲内であったが、耐食性が不十分であった。
なお、上記耐摩耗性評価の基準試料(市販のコバルト基合金)に対して、耐食性評価を行ったところ、耐硫酸性試験結果がDランクであり、孔食発生電位測定において電位400 mV(vs. SHE)で腐食電流密度が100μA/cm2を超えた。
これら比較例に対し、本発明に係る実施例は、いずれもフェライト率が10〜95%の範囲内にある二相合金であり、優れた機械的特性(例えば、250 Hv以上のビッカース硬さ、500 MPa以上の0.2%耐力、850 MPa以上の引張強さ/破断応力、2%以上の破断伸び)と優れた耐食性とを兼ね備えていることが確認された。また、フェライト率はCr含有率の増加に伴って増加する傾向にあり、フェライト率の増加に伴ってビッカース硬さと0.2%耐力とが増加する傾向が確認された。
(4)組織安定性評価
次に、合金製造物の長期信頼性の観点から、組織安定性試験を行った。各実施例の合金製造物から組織安定性試験用の試験片を採取した後、800℃で60分間保持する熱処理を施した。各試験片の表面に対してX線回折測定を行い、金属間化合物のσ相の生成の有無を調査した。調査の結果、本発明に係る実施例は、いずれもσ相が検出されず、σ相が生成し難いことが確認された。
[実験2]
(実施例27〜44の合金製造物の作製)
表3に示す化学組成を有する合金B1〜B16を用いて合金製造物(実施例27〜44)を作製した。各合金製造物の作製は、実験1と同様に、図5に示した製造方法に沿って行った。
表3において、各成分の含有率(単位:質量%)は、表3に記載の化学組成の総和が100質量%となるように換算してある。なお、表3中のV、Nb、TaおよびTiにおける( )内の数値は、C、NおよびOの合計原子含有率(原子%)に対する比(原子%の比)を意味する。
Figure 2017168972
(実施例27〜44の合金製造物に対する試験・評価)
実験1と同様に、実施例27〜44の合金製造物に対して、微細組織評価、機械的特性評価、耐食性評価、および組織安定性評価を行った。結果を表4に記す。
Figure 2017168972
表4に示したように、本発明に係る実施例27〜44は、いずれもフェライト率が10〜95%の範囲内にある二相合金であり、優れた機械的特性(例えば、250 Hv以上のビッカース硬さ、500 MPa以上の0.2%耐力、850 MPa以上の引張強さ/破断応力、2%以上の破断伸び)と優れた耐食性とを兼ね備えていることが確認された。
また、組織安定性評価において、本発明に係る実施例27〜44は、いずれもσ相が検出されず、σ相が生成し難いことが確認された。
[実験3]
(実施例45〜62および比較例6〜10の合金製造物の作製)
表5に示す化学組成を有する合金C1〜C23を用いて合金製造物(実施例45〜62および比較例6〜10)を作製した。各成分の含有率(単位:質量%)は、表5に記載の化学組成の総和が100質量%となるように換算してある。なお、表5中のV、Nb、TaおよびTiにおける( )内の数値は、C、NおよびOの合計原子含有率(原子%)に対する比(原子%の比)を意味する。
Figure 2017168972
実施例45〜54および比較例6〜7の合金製造物の作製は、図4に示した製造方法に沿って行った。
一方、実施例55〜62および比較例8〜10の合金製造物の作製では、図6に示した製造方法に沿って合金粉末を作製した後、該合金粉末を用いた肉盛溶接によって基材上に合金被覆層を形成した複合体を作製した。
図7は、基材上に肉盛溶接の被覆層を形成した複合体の例を示す断面模式図である。図7に示したように、複合体50は、市販のSUS304鋼製の基材51上に、合計厚さが約5 mmとなるように合金被覆層52〜54を粉末プラズマ肉盛溶接法により形成したものである。溶接条件は、アーク電流120 A、電圧25 V、溶接速度9 cm/分とした。
(実施例45〜62および比較例6〜10の合金製造物に対する試験・評価)
実験1と同様に、実施例45〜62および比較例6〜10の合金製造物に対して、微細組織評価、機械的特性評価、耐食性評価、および組織安定性評価を行った。結果を表6に記す。なお、先に示した図1は実施例45の金属組織の光学顕微鏡写真であり、図3は実施例58の金属組織の光学顕微鏡写真である。他の実施例もそれぞれ同様の金属組織を有することを別途確認した。
Figure 2017168972
表6に示したように、比較例6〜10は、合金の化学組成が本発明の規定を外れており、機械的特性(延性、耐摩耗性)および耐食性のいずれかに難点があった。より具体的には、Sn成分を含まない比較例6,9は、フェライト率は本発明の範囲内であったが、耐食性が不十分であった。比較例7,8,10は、フェライト率が本発明の規定を外れているため、フェライト相単相またはオーステナイト相単相の弱点が明確に現れた。
これら比較例に対し、本発明に係る実施例は、いずれもフェライト率が10〜95%の範囲内にある二相合金であり、優れた機械的特性(例えば、250 Hv以上のビッカース硬さ、500 MPa以上の0.2%耐力、850 MPa以上の引張強さ/破断応力、2%以上の破断伸び)と優れた耐食性とを兼ね備えていることが確認された。
以上のような試験・評価結果から、本発明に係る実施例は、従来材と同等以上の良好な機械的特性と優秀な耐食性とを兼ね備えることが確認された。さらに、Cr成分の含有率が高いことから、従来のNi基合金材よりも低コスト化が可能と言える。
上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
P1…オーステナイト相、P2…フェライト相、10…溶湯、11…清浄化溶湯、20…鋳塊、30…成形体、40…合金粉末、50…複合体、51…基材、52〜54…合金被覆層。

Claims (9)

  1. フェライト相およびオーステナイト相の二相が混在するCr基二相合金であって、
    前記Cr基二相合金の化学組成は、主要成分と副成分と不純物と第一随意副成分と第二随意副成分とからなり、
    前記主要成分は、33質量%以上61質量%以下のCrと、18質量%以上40質量%以下のNiと、10質量%以上33質量%以下のFeとからなり、前記Niと前記Feとの合計含有率が37質量%以上65質量%以下であり、
    前記副成分は、0.1質量%以上2質量%以下のMnと、0.1質量%以上1質量%以下のSiと、0.005質量%以上0.05質量%以下のAlと、0.02質量%以上0.3質量%以下のSnとからなり、
    前記不純物は、0質量%超0.04質量%以下のPと、0質量%超0.01質量%以下のSと、0質量%超0.03質量%以下のCと、0質量%超0.04質量%以下のNと、0質量%超0.05質量%以下のOとを含むことを特徴とするCr基二相合金。
  2. 請求項1に記載のCr基二相合金において、
    前記Cr基二相合金が前記第一随意副成分を含有する場合、該第一随意副成分は、0.1質量%以上3質量%以下のMoおよび/または0.1質量%以上5質量%以下のCuであることを特徴とするCr基二相合金。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のCr基二相合金において、
    前記第二随意副成分は、V、Nb、TaおよびTiのうちの少なくとも一種からなり、
    前記Cr基二相合金が該第二随意副成分を含有する場合、前記V、Nb、TaおよびTiの合計原子含有率が、前記C、NおよびOの合計原子含有率の0.8倍以上2倍以下の範囲であることを特徴とするCr基二相合金。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のCr基二相合金において、
    前記フェライト相の占有率が10%以上95%以下であることを特徴とするCr基二相合金。
  5. 二相合金を用いた製造物であって、
    前記二相合金が、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のCr基二相合金であることを特徴とする二相合金製造物。
  6. 請求項5に記載の二相合金製造物において、
    前記製造物が鋳造組織を有する成形体であることを特徴とする二相合金製造物。
  7. 請求項5に記載の二相合金製造物において、
    前記製造物が鍛造組織を有する成形体であることを特徴とする二相合金製造物。
  8. 請求項5に記載の二相合金製造物において、
    前記製造物が粉体であることを特徴とする二相合金製造物。
  9. 請求項5に記載の二相合金製造物において、
    前記製造物は、基材上に前記二相合金の被覆層が形成された複合体であり、
    前記被覆層が急冷凝固組織を有することを特徴とする二相合金製造物。
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