JP2013253277A - マルエージング鋼 - Google Patents
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Abstract
【課題】従来と比較して、疲労強度が高く、引張強さ、硬度、靭性および延性が十分に高いマルエージング鋼の提供。
【解決手段】Feを主成分とし、Ni、CoおよびMoを含むマルエージング鋼であって、Co含有率が7.0質量%以上であり、C含有率が0.05質量%未満であり、さらにWを含み、実質的にTiを含まない、マルエージング鋼で、さらにTa、Vを含有する。質量%表示で、Niを10.0〜30.0%、および/または、Coを7.0〜20.0%、および/または、Moを1.0〜10.0%、および/または、Wを0.05〜10.0%、および/または、Taを0〜5.0%、および/または、Vを0〜5.0%、および/または、Alを0〜3.0%含有する。
【選択図】なし
【解決手段】Feを主成分とし、Ni、CoおよびMoを含むマルエージング鋼であって、Co含有率が7.0質量%以上であり、C含有率が0.05質量%未満であり、さらにWを含み、実質的にTiを含まない、マルエージング鋼で、さらにTa、Vを含有する。質量%表示で、Niを10.0〜30.0%、および/または、Coを7.0〜20.0%、および/または、Moを1.0〜10.0%、および/または、Wを0.05〜10.0%、および/または、Taを0〜5.0%、および/または、Vを0〜5.0%、および/または、Alを0〜3.0%含有する。
【選択図】なし
Description
本発明はマルエージング鋼に関する。
マルエージング鋼はNiを含み、さらに強化元素としてCo、Mo、Ti等を含む時効硬化型の高合金鋼であり、強度が高く、靭性に優れ、塑性加工時の加工硬化が小さく、時効処理によるひずみの発生が少ない等の優れた特性を有する。このような特性を活かし、現在、マルエージング鋼は航空機エンジンの構造材、ロケット用部品、遠心分離機用部材、自動車エンジンの無段変速機用部品、金型、ゴルフクラブヘッドの素材等として用いられている。
マルエージング鋼は、靭性に富んだbccマルテンサイトの基質にNi3MoおよびNi3Tiが微細に析出して高強度化したものである。また、時効硬化機構について、時効過程における硬化の80%は時効初期に出現するTiの関与した短範囲規則格子の形成にかかるものであり、ついでNi3Ti(およびNi3Al)の析出による硬化が起こるが、時効後期にはさらにFe2Moが析出して軟化を防いでいるとの報告もある(非特許文献1参照)。さらに、マルエージング鋼に含まれる各合金元素の硬度に対する効果をMoのそれと比較すると、Niは0.6、Coは0.4、Tiは6、Alは10となること、すなわちTiの硬度への影響が非常に大きいことを示す報告もある(非特許文献2参照)。
このようにマルエージング鋼の優れた特性には、Tiが大きく関与していると考えられる。
このようにマルエージング鋼の優れた特性には、Tiが大きく関与していると考えられる。
一方、マルエージング鋼は上記のような優れた特性を有するものの、疲労強度のばらつきが大きく、この原因は、マルエージング鋼の内部のTiN(またはTi(C、N))の形態の介在物が起点となって疲労破壊が起こるためと考えられている。
したがって、Tiを低減すればTiNを低減できるので高位で安定した疲労強度を有するマルエージング鋼が得られるものの、一方で引張強さや硬度が低下する可能性がある。また、TiNを低減するにはTiではなくNを低減することも有効であると考えられるが、極端なNの低減は量産溶解設備では限界があり、製造コストも増大してしまう。
そこでTiを低減することで疲労強度が高く、かつ従来と同等の引張強さ、硬度、靭性等を備えるマルエージング鋼が、従来、いくつか提案された。
例えば特許文献1には、C、Si、Mn、P、S、Al、NおよびOの含有率が特定値以下であり、NiおよびMoを特定量含み、Co含有率が7.0質量%未満であり、Ti含有率が0.1質量%以下であり、残部は実質的にFeからなることを特徴とする高疲労強度を有するマルエージング鋼が記載されている。そしてこのようなマルエージング鋼は、疲労強度向上に有害な介在物TiN低減のためにTi、Nをともに低く抑え、かつ安価にするためにCoを低くしたマルエージング鋼であり、TiおよびCo低減による引張強度低下をSi、Mn、Al等の少量添加等によって補ったものであると記載されている。また、引張強度、疲労強度を向上させるため、結晶粒微細化が有効であり、Bの微量添加およびBとともにNb、Ta、W等を同時に適量添加することによって、Si、Mn、Mo等の析出強化元素を含む低Ti、低Coマルエージング鋼の結晶粒を微細化できると記載されている。また、TaおよびWは2.0質量%を超えて添加すると靭性が低下するので、Nb、Ta、Wの1種または2種以上を合計で0.5%以下とすべき旨が記載されている。
また、特許文献2には、P、S、NおよびOの含有率が特定値以下であり、Ni、Mo、Co、AlおよびCrを特定量含み、Cを0.05〜0.15重量%含有し、Ti含有率が0.10%以下であり、残部がFeおよび不可避の不純物からなる合金組成を有する曲げ疲労特性にすぐれた薄帯用鋼が記載されている。そして、このようなマルエージング鋼からなる薄帯用鋼は、Cを積極的に添加するものであり、薄帯に加工したものに窒化処理を施した製品が、繰り返し曲げ応力の加わる用途に向けたとき、すぐれた曲げ疲労特性を発揮し、引張り強度や靱性は、従来のマルエージング鋼のそれに、まさるとも劣らないと記載されている。
さらに、例えば特許文献3〜5には、Ti含有率を低減することで疲労破壊の起点となるTiNを低減したマルエージング鋼が記載されている。
佐藤、外3名、「18%Niマルエイジング鋼の時効過程における析出と変態」、川崎製鉄技報Vol.1(1969) No.2、p.148-159
佐藤、外2名、「ロケットチャンバー用18%Niマルエイジング鋼の強度と靭性」、川崎製鉄技報Vol.4(1972) No.1、p.60-73
しかしながら、特許文献1に記載のマルエージング鋼はCo含有率が低いため、高い引張強さを確保し難い。また、引張強さを確保するためにSi、Mnを加えているが、このために靭性および延性が低下するものと考えられる。また、BとともにTa、Wを添加することによって性能を向上することができる旨が記載されており、表1に、鋼No11としてBとTaとを含む実施例が、鋼No15としてBとWとを含む実施例が記載されているが、いずれの場合も引張強さは1000〜1500N/mm2と低位であり、加えて硬度、靭性および延性も低い。また、特許文献1にはBを含まずWを含む場合については記載されていない。さらに、WとTaとを同時に含む場合についても記載されていない。
また、特許文献2に記載のマルエージング鋼はC含有率が高いため、焼入時に既に硬く、延性が悪い。
さらに、特許文献3〜6に記載のマルエージング鋼はWを含むものではなく、また、引張強さは1000〜1500N/mm2と低位であり、硬度、靭性および延性も低い。
また、特許文献2に記載のマルエージング鋼はC含有率が高いため、焼入時に既に硬く、延性が悪い。
さらに、特許文献3〜6に記載のマルエージング鋼はWを含むものではなく、また、引張強さは1000〜1500N/mm2と低位であり、硬度、靭性および延性も低い。
このように、従来においては、Tiを含まず疲労強度が高位で安定しており、かつ、引張強さ、硬度および延性が十分に高いマルエージング鋼は提案されていなかった。
本発明は上記の課題を解決することを目的としている。
すなわち、本発明の目的は、従来と比較して、疲労強度が高位で安定しており、引張強さ、硬度、靭性および延性が十分に高いマルエージング鋼を提供することにある。
すなわち、本発明の目的は、従来と比較して、疲労強度が高位で安定しており、引張強さ、硬度、靭性および延性が十分に高いマルエージング鋼を提供することにある。
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)〜(5)である。
(1)Feを主成分とし、Ni、CoおよびMoを含むマルエージング鋼であって、
Co含有率が7.0質量%以上であり、
C含有率が0.05質量%未満であり、
さらにWを含み、実質的にTiを含まない、マルエージング鋼。
(2)さらにTaを含む、上記(1)に記載のマルエージング鋼。
(3)さらにVを含む、上記(1)または(2)に記載のマルエージング鋼。
(4)質量%表示で、
Niを10.0〜30.0%、および/または、
Coを7.0〜20.0%、および/または、
Moを1.0〜10.0%、および/または、
Wを0.05〜10.0%、および/または、
Taを0〜5.0%、および/または、
Vを0〜5.0%、および/または、
Alを0〜3.0%含有し、
残部Fe及び不可避的不純物からなる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のマルエージング鋼。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のマルエージング鋼を主成分とする部分を含む高強度部材。
本発明は以下の(1)〜(5)である。
(1)Feを主成分とし、Ni、CoおよびMoを含むマルエージング鋼であって、
Co含有率が7.0質量%以上であり、
C含有率が0.05質量%未満であり、
さらにWを含み、実質的にTiを含まない、マルエージング鋼。
(2)さらにTaを含む、上記(1)に記載のマルエージング鋼。
(3)さらにVを含む、上記(1)または(2)に記載のマルエージング鋼。
(4)質量%表示で、
Niを10.0〜30.0%、および/または、
Coを7.0〜20.0%、および/または、
Moを1.0〜10.0%、および/または、
Wを0.05〜10.0%、および/または、
Taを0〜5.0%、および/または、
Vを0〜5.0%、および/または、
Alを0〜3.0%含有し、
残部Fe及び不可避的不純物からなる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のマルエージング鋼。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のマルエージング鋼を主成分とする部分を含む高強度部材。
本発明によれば、従来と比較して、疲労強度が高位で安定しており、引張強さ、硬度、靭性および延性が十分に高いマルエージング鋼を提供することができる。
本発明について説明する。
本発明は、Feを主成分とし、Ni、CoおよびMoを含むマルエージング鋼であって、Co含有率が7.0質量%以上であり、C含有率が0.05質量%未満であり、さらにWを含み、実質的にTiを含まない、マルエージング鋼である。
このようなマルエージング鋼を、以下では「本発明のマルエージング鋼」ともいう。
本発明は、Feを主成分とし、Ni、CoおよびMoを含むマルエージング鋼であって、Co含有率が7.0質量%以上であり、C含有率が0.05質量%未満であり、さらにWを含み、実質的にTiを含まない、マルエージング鋼である。
このようなマルエージング鋼を、以下では「本発明のマルエージング鋼」ともいう。
本発明のマルエージング鋼の各成分について説明する。
以下、特に断りがない限り、含有率の単位を表す「%」は「質量%」を意味するものとする。
なお、本発明のマルエージング鋼のC含有率およびS含有率は高周波燃焼−赤外線吸収法によって測定して得た値とし、Si含有率は二酸化ケイ素重量法によって測定して得た値とし、O含有率は赤外線吸収法によって測定して得た値とし、N含有率は熱伝導度法によって測定して得た値とし、その他の成分の含有率はICP−AES法によって測定して得た値とする。
以下、特に断りがない限り、含有率の単位を表す「%」は「質量%」を意味するものとする。
なお、本発明のマルエージング鋼のC含有率およびS含有率は高周波燃焼−赤外線吸収法によって測定して得た値とし、Si含有率は二酸化ケイ素重量法によって測定して得た値とし、O含有率は赤外線吸収法によって測定して得た値とし、N含有率は熱伝導度法によって測定して得た値とし、その他の成分の含有率はICP−AES法によって測定して得た値とする。
<W>
本発明のマルエージング鋼はWを含む。
本発明のマルエージング鋼は実質的にTiを含まず、その代わりにWを含むので、疲労強度が高く、引張強さ、硬度、靭性および延性が十分に高い。本発明者は、Tiを含む場合の組織写真に表れるTiNの部分が、TiをWに置換した場合の組織写真には表れないことを確認した。
Tiの代わりにNb等をTiと同量(原子%)含む場合、疲労強度、引張強さ、硬度、靭性および延性は高くならない。
本発明のマルエージング鋼におけるWの含有率は特に限定されないものの、0.05〜10.0%であることが好ましい。ここでW含有率の上限は、7.0%であることがより好ましく、6.0%であることがより好ましく、5.4%であることが好ましく、4.0%であることがより好ましく、3.0%であることがより好ましく、2.0%であることがより好ましく、1.5%であることがより好ましく、1.0%であることがより好ましく、0.5%であることがさらに好ましい。また、W含有率の下限は、0.1%であることがより好ましく、0.2%であることがより好ましく、0.3%であることがさらに好ましい。
W含有率が高すぎると、硬度が低下する場合がある。
本発明のマルエージング鋼はWを含む。
本発明のマルエージング鋼は実質的にTiを含まず、その代わりにWを含むので、疲労強度が高く、引張強さ、硬度、靭性および延性が十分に高い。本発明者は、Tiを含む場合の組織写真に表れるTiNの部分が、TiをWに置換した場合の組織写真には表れないことを確認した。
Tiの代わりにNb等をTiと同量(原子%)含む場合、疲労強度、引張強さ、硬度、靭性および延性は高くならない。
本発明のマルエージング鋼におけるWの含有率は特に限定されないものの、0.05〜10.0%であることが好ましい。ここでW含有率の上限は、7.0%であることがより好ましく、6.0%であることがより好ましく、5.4%であることが好ましく、4.0%であることがより好ましく、3.0%であることがより好ましく、2.0%であることがより好ましく、1.5%であることがより好ましく、1.0%であることがより好ましく、0.5%であることがさらに好ましい。また、W含有率の下限は、0.1%であることがより好ましく、0.2%であることがより好ましく、0.3%であることがさらに好ましい。
W含有率が高すぎると、硬度が低下する場合がある。
<Ta>
本発明のマルエージング鋼はTaを含まなくてもよいが、Taを含むことが好ましい。
本発明のマルエージング鋼はWに加えてTaを含むと、さらに引張強さが向上する傾向がある。Wを含まずTaのみを含む場合、引張強さが向上し難いことを、本発明者は見出した。
本発明のマルエージング鋼におけるTaの含有率は特に限定されないものの、0〜5.0%であることが好ましい。ここでTa含有率の上限は、3.0%であることがより好ましく、2.0%であることがより好ましく、1.5%であることがより好ましく、1.2%であることがより好ましく、1.0%であることがさらに好ましい。また、Ta含有率の下限は、0.1%であることがより好ましく、0.2%であることがより好ましく、0.3%であることがさらに好ましい。
Ta含有率が高すぎると、マルテンサイト組織が消滅して、引張強さが低下する傾向がある。
本発明のマルエージング鋼はTaを含まなくてもよいが、Taを含むことが好ましい。
本発明のマルエージング鋼はWに加えてTaを含むと、さらに引張強さが向上する傾向がある。Wを含まずTaのみを含む場合、引張強さが向上し難いことを、本発明者は見出した。
本発明のマルエージング鋼におけるTaの含有率は特に限定されないものの、0〜5.0%であることが好ましい。ここでTa含有率の上限は、3.0%であることがより好ましく、2.0%であることがより好ましく、1.5%であることがより好ましく、1.2%であることがより好ましく、1.0%であることがさらに好ましい。また、Ta含有率の下限は、0.1%であることがより好ましく、0.2%であることがより好ましく、0.3%であることがさらに好ましい。
Ta含有率が高すぎると、マルテンサイト組織が消滅して、引張強さが低下する傾向がある。
<V>
本発明のマルエージング鋼はVを含まなくてもよいが、Vを含むことが好ましい。
本発明のマルエージング鋼はWに加えてVを含むと、硬度および延性が向上する傾向がある。特に延性が顕著に向上することを、本発明者は見出した。
本発明のマルエージング鋼におけるVの含有率は特に限定されないものの、0〜5.0%であることが好ましい。ここでV含有率の上限は、4.0%であることがより好ましく、3.0%であることがより好ましく、2.0%であることがさらに好ましい。また、V含有率の下限は、0.5%であることがより好ましく、1.0%であることがより好ましく、1.3%であることがさらに好ましい。
本発明のマルエージング鋼はVを含まなくてもよいが、Vを含むことが好ましい。
本発明のマルエージング鋼はWに加えてVを含むと、硬度および延性が向上する傾向がある。特に延性が顕著に向上することを、本発明者は見出した。
本発明のマルエージング鋼におけるVの含有率は特に限定されないものの、0〜5.0%であることが好ましい。ここでV含有率の上限は、4.0%であることがより好ましく、3.0%であることがより好ましく、2.0%であることがさらに好ましい。また、V含有率の下限は、0.5%であることがより好ましく、1.0%であることがより好ましく、1.3%であることがさらに好ましい。
<W、Ta、Vについて>
W、TaおよびVは、各々、上記に示した範囲の含有率であることが好ましいが、W、TaおよびVの全てを含有する場合、各々が好ましい範囲の含有率でない場合でも性能が向上する場合があることを、本発明者は見出した。本発明者は、W、TaおよびVの全てを含有する場合、W、TaおよびVの各成分は相互に作用し、相乗効果を発揮していると推定している。
W、TaおよびVは、各々、上記に示した範囲の含有率であることが好ましいが、W、TaおよびVの全てを含有する場合、各々が好ましい範囲の含有率でない場合でも性能が向上する場合があることを、本発明者は見出した。本発明者は、W、TaおよびVの全てを含有する場合、W、TaおよびVの各成分は相互に作用し、相乗効果を発揮していると推定している。
<Ti>
本発明のマルエージング鋼はTiを実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、不可避的不純物として含む場合はあるが、意図的には添加しないことを意味する。通常、不可避的不純物として、Tiは0.05%程度含む場合がある。Ti含有率は、0.05%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましく、0.005%以下であることがさらに好ましい。
本発明のマルエージング鋼は実質的にTiを含まないので、TiNやTiC等の非金属介在物をほとんど含まず、そのために疲労強度が高位で安定する。
本発明のマルエージング鋼はTiを実質的に含まない。「実質的に含まない」とは、不可避的不純物として含む場合はあるが、意図的には添加しないことを意味する。通常、不可避的不純物として、Tiは0.05%程度含む場合がある。Ti含有率は、0.05%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましく、0.005%以下であることがさらに好ましい。
本発明のマルエージング鋼は実質的にTiを含まないので、TiNやTiC等の非金属介在物をほとんど含まず、そのために疲労強度が高位で安定する。
<Ni>
本発明のマルエージング鋼はNiを含む。
Niは、マトリクスをオーステナイト組織にし、それを固溶化熱処理温度から室温まで放冷することによりマルテンサイト組織に変えることによって引張強さおよび靱性を向上させ、延性・靱性遷移温度を高くする成分である。また、それとともに、時効によりMoおよびAlと金属間化合物を形成し、それが析出して二次硬化を引き起こす。
Niがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はNiを10〜30%含有することが好ましい。ここでNi含有率の上限は27.0%であることがより好ましく、24.0%であることがより好ましく、21.0%であることがさらに好ましい。また、Ni含有率の下限は、12.0%であることがより好ましく、14.0%であることがより好ましく、16.0%であることがさらに好ましい。
Ni含有率が高すぎると放冷をしてもオーステナイトが残ってしまい、全体をマルテンサイトにすることができなくなる。Ni含有率が低すぎると引張強さおよび靭性が低下する傾向がある。
本発明のマルエージング鋼はNiを含む。
Niは、マトリクスをオーステナイト組織にし、それを固溶化熱処理温度から室温まで放冷することによりマルテンサイト組織に変えることによって引張強さおよび靱性を向上させ、延性・靱性遷移温度を高くする成分である。また、それとともに、時効によりMoおよびAlと金属間化合物を形成し、それが析出して二次硬化を引き起こす。
Niがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はNiを10〜30%含有することが好ましい。ここでNi含有率の上限は27.0%であることがより好ましく、24.0%であることがより好ましく、21.0%であることがさらに好ましい。また、Ni含有率の下限は、12.0%であることがより好ましく、14.0%であることがより好ましく、16.0%であることがさらに好ましい。
Ni含有率が高すぎると放冷をしてもオーステナイトが残ってしまい、全体をマルテンサイトにすることができなくなる。Ni含有率が低すぎると引張強さおよび靭性が低下する傾向がある。
<Co>
本発明のマルエージング鋼はCoを含む。
Coは、時効析出温度域でのMoの固溶度を低下させることによって微細なMoを含む金属間化合物の析出を促進し、時効硬化特性を高めて引張強さを向上させるとともに、マルテンサイト変態温度を高めてマルテンサイトへの変態を容易にする。
Coがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はCoを7.0%以上含有し、7.0〜20.0%含有することが好ましい。ここでCo含有率の上限は18.0%であることがより好ましく、16.0%であることがより好ましく、15.0%であることがさらに好ましい。また、Co含有率の下限は、8.0%であることがより好ましく、9.0%であることがより好ましく、10.0%であることがより好ましく、11.0%であることがさらに好ましい。
Co含有率が高すぎると靭性が低下し、Co含有率が低すぎると引張強さが低下する傾向がある。
本発明のマルエージング鋼はCoを含む。
Coは、時効析出温度域でのMoの固溶度を低下させることによって微細なMoを含む金属間化合物の析出を促進し、時効硬化特性を高めて引張強さを向上させるとともに、マルテンサイト変態温度を高めてマルテンサイトへの変態を容易にする。
Coがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はCoを7.0%以上含有し、7.0〜20.0%含有することが好ましい。ここでCo含有率の上限は18.0%であることがより好ましく、16.0%であることがより好ましく、15.0%であることがさらに好ましい。また、Co含有率の下限は、8.0%であることがより好ましく、9.0%であることがより好ましく、10.0%であることがより好ましく、11.0%であることがさらに好ましい。
Co含有率が高すぎると靭性が低下し、Co含有率が低すぎると引張強さが低下する傾向がある。
<Mo>
本発明のマルエージング鋼はMoを含む。
Moは、時効によりNiと化合して金属間化合物Ni3Moを析出させる。また、Cと結合して炭化物を析出させ、それら析出物が二次硬化を引き起こす。
Moがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はMoを1〜10%含有することが好ましい。ここでMo含有率の上限は9.0%であることがより好ましく、8.0%であることがより好ましく、7.0%であることがさらに好ましい。また、Mo含有率の下限は、2.0%であることがより好ましく、2.5%であることがより好ましく、3.0%であることがさらに好ましい。
Mo含有率が高すぎると延性および靭性が低下する傾向がある。Mo含有率が低すぎると引張強さが低下する傾向がある。
本発明のマルエージング鋼はMoを含む。
Moは、時効によりNiと化合して金属間化合物Ni3Moを析出させる。また、Cと結合して炭化物を析出させ、それら析出物が二次硬化を引き起こす。
Moがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はMoを1〜10%含有することが好ましい。ここでMo含有率の上限は9.0%であることがより好ましく、8.0%であることがより好ましく、7.0%であることがさらに好ましい。また、Mo含有率の下限は、2.0%であることがより好ましく、2.5%であることがより好ましく、3.0%であることがさらに好ましい。
Mo含有率が高すぎると延性および靭性が低下する傾向がある。Mo含有率が低すぎると引張強さが低下する傾向がある。
<Al>
本発明のマルエージング鋼はAlを含まなくてもよいが、Alを含むことが好ましい。
Alは、溶製時の脱酸剤であるとともに、時効によりNiと結合して金属間化合物を析出させ(NiAlなど)、二次硬化による強度向上の効果をもたらす。
Alがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はAlを0〜3.0%含有することが好ましい。ここでAl含有率の上限は1.5%であることがより好ましく、0.5%であることがより好ましく、0.1%であることがさらに好ましい。また、Al含有率の下限は、0.01%であることがより好ましく、0.03%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。
Al含有率が高すぎると延性、靭性および耐久性が低下する傾向がある。
本発明のマルエージング鋼はAlを含まなくてもよいが、Alを含むことが好ましい。
Alは、溶製時の脱酸剤であるとともに、時効によりNiと結合して金属間化合物を析出させ(NiAlなど)、二次硬化による強度向上の効果をもたらす。
Alがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はAlを0〜3.0%含有することが好ましい。ここでAl含有率の上限は1.5%であることがより好ましく、0.5%であることがより好ましく、0.1%であることがさらに好ましい。また、Al含有率の下限は、0.01%であることがより好ましく、0.03%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。
Al含有率が高すぎると延性、靭性および耐久性が低下する傾向がある。
<B>
本発明のマルエージング鋼はBを含むことが好ましい。
Bは、疲労強度の向上に効果があり、また、熱間加工性を向上させる上でも有効な元素である。
Bがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はBを0.0001〜0.050%含有することが好ましい。ここでBの含有率の上限は0.040%であることがより好ましく、0.030%であることがより好ましく、0.020%であることがさらに好ましい。また、Bの含有率の下限は、0.001%であることがより好ましく、0.003%であることがより好ましく、0.005%であることがさらに好ましい。
B含有率が高すぎると低融点のホウ化物が粒界に析出したり、酸化物が形成したりするため、鋼の清浄度が低下し、熱間加工性や冷間加工性を低下させる上、疲労強度の低下をも招くおそれがある。
本発明のマルエージング鋼はBを含むことが好ましい。
Bは、疲労強度の向上に効果があり、また、熱間加工性を向上させる上でも有効な元素である。
Bがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はBを0.0001〜0.050%含有することが好ましい。ここでBの含有率の上限は0.040%であることがより好ましく、0.030%であることがより好ましく、0.020%であることがさらに好ましい。また、Bの含有率の下限は、0.001%であることがより好ましく、0.003%であることがより好ましく、0.005%であることがさらに好ましい。
B含有率が高すぎると低融点のホウ化物が粒界に析出したり、酸化物が形成したりするため、鋼の清浄度が低下し、熱間加工性や冷間加工性を低下させる上、疲労強度の低下をも招くおそれがある。
<CaおよびMg>
本発明のマルエージング鋼はCa、Mgを含むことができる。
Ca、Mgは、疲労強度の向上に効果があり、また、熱間加工性を向上させる上でも有効な元素である。
CaまたはMgがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はCaおよびMgを合計で0.0001〜0.030%含有することが好ましい。ここでCaおよびMgの合計含有率の上限は0.025%であることがより好ましく、0.020%であることがより好ましく、0.010%であることがさらに好ましい。また、CaおよびMgの合計含有率の下限は、0.0005%であることがより好ましく、0.001%であることがより好ましく、0.003%であることがさらに好ましい。
Caおよび/またはMgの含有率が高すぎると酸化物が形成され、鋼の清浄度が低下し、熱間加工性や冷間加工性を低下させる上、疲労強度の低下をも招くおそれがある。
本発明のマルエージング鋼はCa、Mgを含むことができる。
Ca、Mgは、疲労強度の向上に効果があり、また、熱間加工性を向上させる上でも有効な元素である。
CaまたはMgがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はCaおよびMgを合計で0.0001〜0.030%含有することが好ましい。ここでCaおよびMgの合計含有率の上限は0.025%であることがより好ましく、0.020%であることがより好ましく、0.010%であることがさらに好ましい。また、CaおよびMgの合計含有率の下限は、0.0005%であることがより好ましく、0.001%であることがより好ましく、0.003%であることがさらに好ましい。
Caおよび/またはMgの含有率が高すぎると酸化物が形成され、鋼の清浄度が低下し、熱間加工性や冷間加工性を低下させる上、疲労強度の低下をも招くおそれがある。
<Cr>
本発明のマルエージング鋼はCrを含むことができる。
Crは、炭化物を析出させて二次硬化を引き起こすとともに耐食性を高める。
Crがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はCrを0〜5.0%含有することが好ましい。ここでCr含有率の上限は4.0%であることがより好ましく、3.0%であることがより好ましく、2.5%であることがより好ましく、2.0%であることがさらに好ましい。また、Cr含有率の下限は、0.5%であることがより好ましく、1.0%であることがより好ましく、2.0%であることがさらに好ましい。
Cr含有率が高すぎると引張強さ、延性および靭性が低下する傾向がある。
本発明のマルエージング鋼はCrを含むことができる。
Crは、炭化物を析出させて二次硬化を引き起こすとともに耐食性を高める。
Crがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はCrを0〜5.0%含有することが好ましい。ここでCr含有率の上限は4.0%であることがより好ましく、3.0%であることがより好ましく、2.5%であることがより好ましく、2.0%であることがさらに好ましい。また、Cr含有率の下限は、0.5%であることがより好ましく、1.0%であることがより好ましく、2.0%であることがさらに好ましい。
Cr含有率が高すぎると引張強さ、延性および靭性が低下する傾向がある。
<Zr>
本発明のマルエージング鋼はZrを含むことができる。
ZrはTiCの生成を抑制して疲労強度を高める。また、熱処理後の結晶粒を微細化し、限界圧縮率を増大させ、冷間加工性を向上させる。
Zrがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はZrを0.002〜0.040%含有することが好ましい。ここでZr含有率の上限は0.030%であることがより好ましく、0.020%であることがより好ましく、0.010%であることがさらに好ましい。また、Zr含有率の下限は、0.005%であることがより好ましく、0.007%であることがより好ましく、0.010%であることがさらに好ましい。
Zr含有率が高すぎると偏析が多くなって靱性が損なわれるおそれがある。
本発明のマルエージング鋼はZrを含むことができる。
ZrはTiCの生成を抑制して疲労強度を高める。また、熱処理後の結晶粒を微細化し、限界圧縮率を増大させ、冷間加工性を向上させる。
Zrがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はZrを0.002〜0.040%含有することが好ましい。ここでZr含有率の上限は0.030%であることがより好ましく、0.020%であることがより好ましく、0.010%であることがさらに好ましい。また、Zr含有率の下限は、0.005%であることがより好ましく、0.007%であることがより好ましく、0.010%であることがさらに好ましい。
Zr含有率が高すぎると偏析が多くなって靱性が損なわれるおそれがある。
<Nb>
本発明のマルエージング鋼はNbを含むことができる。
Nbは微細な化合物を形成することにより、冷間加工後に固溶化処理を行ったときの旧オーステナイト結晶粒を微細化して強化に寄与するとともに表面肌荒れを抑制する効果をもつ元素である。
Nbがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はNbを0.01〜5.0%含有することが好ましい。ここでNb含有率の上限は3.0%であることがより好ましく、2.0%であることがより好ましく、1.0%であることがさらに好ましい。また、Nb含有率の下限は、0.02%であることがより好ましく、0.03%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。
Nb含有率が高すぎると靱性が損なわれるおそれがある。
本発明のマルエージング鋼はNbを含むことができる。
Nbは微細な化合物を形成することにより、冷間加工後に固溶化処理を行ったときの旧オーステナイト結晶粒を微細化して強化に寄与するとともに表面肌荒れを抑制する効果をもつ元素である。
Nbがこのような効果をもたらすために、本発明のマルエージング鋼はNbを0.01〜5.0%含有することが好ましい。ここでNb含有率の上限は3.0%であることがより好ましく、2.0%であることがより好ましく、1.0%であることがさらに好ましい。また、Nb含有率の下限は、0.02%であることがより好ましく、0.03%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。
Nb含有率が高すぎると靱性が損なわれるおそれがある。
<Fe>
本発明のマルエージング鋼はFeを主成分として含む。「主成分」とは30%以上の含有率であることを意味するものとする。本発明のマルエージング鋼は、Feを40%以上含むことが好ましく、45%以上含むことがより好ましく、50%以上含むことがより好ましく、55%以上含むことがさらに好ましい。
また、本発明のマルエージング鋼は、上記の各成分を含み、その他は不可避的不純物およびFeからなることが好ましい。不可避的不純物とは、意図的に添加しなくても原料や製造工程等から混入する可能性がある成分を意味する。
本発明のマルエージング鋼はFeを主成分として含む。「主成分」とは30%以上の含有率であることを意味するものとする。本発明のマルエージング鋼は、Feを40%以上含むことが好ましく、45%以上含むことがより好ましく、50%以上含むことがより好ましく、55%以上含むことがさらに好ましい。
また、本発明のマルエージング鋼は、上記の各成分を含み、その他は不可避的不純物およびFeからなることが好ましい。不可避的不純物とは、意図的に添加しなくても原料や製造工程等から混入する可能性がある成分を意味する。
次に、本発明にマルエージング鋼における不純物成分について説明する。
本発明のマルエージング鋼において、C、Si、Mn、P、S、NおよびOは不純物成分である。これらの含有率は低いほど好ましい。
本発明のマルエージング鋼において、C、Si、Mn、P、S、NおよびOは不純物成分である。これらの含有率は低いほど好ましい。
<C>
本発明のマルエージング鋼において、C含有率は0.05%未満であり、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましい。
Cは引張強さおよび硬度を高めるが、高すぎるとMo2C等の炭化物を粒界に析出させ靭性、疲労強度および溶接性が低下する傾向がある。
本発明のマルエージング鋼において、C含有率は0.05%未満であり、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましい。
Cは引張強さおよび硬度を高めるが、高すぎるとMo2C等の炭化物を粒界に析出させ靭性、疲労強度および溶接性が低下する傾向がある。
<Si>
本発明のマルエージング鋼において、Si含有率は0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることがさらに好ましい。
Siは時効処理時に析出する金属間化合物を微細化したり、Niとともに金属間化合物を形成したりして引張強さを向上させる。しかし、Si含有率が高すぎるとSiO2等の介在物を形成し、疲労強度および靭性が低下する傾向がある。
本発明のマルエージング鋼において、Si含有率は0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることがさらに好ましい。
Siは時効処理時に析出する金属間化合物を微細化したり、Niとともに金属間化合物を形成したりして引張強さを向上させる。しかし、Si含有率が高すぎるとSiO2等の介在物を形成し、疲労強度および靭性が低下する傾向がある。
<Mn>
本発明のマルエージング鋼において、Mn含有率は0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることがさらに好ましい。
Mnは時効処理時にNiとともに金属間化合物を形成し、時効効果に寄与する。しかし、Mn含有率が高すぎると、MnS、MnO等の介在物を形成し、疲労強度および靭性が低下する傾向がある。
本発明のマルエージング鋼において、Mn含有率は0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることがさらに好ましい。
Mnは時効処理時にNiとともに金属間化合物を形成し、時効効果に寄与する。しかし、Mn含有率が高すぎると、MnS、MnO等の介在物を形成し、疲労強度および靭性が低下する傾向がある。
<P>
本発明のマルエージング鋼において、P含有率は0.03%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましく、0.005%以下であることがさらに好ましい。
P含有率が高すぎると、粒界脆化や介在物形成のために疲労強度および靱性が低下する傾向がある。
本発明のマルエージング鋼において、P含有率は0.03%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましく、0.005%以下であることがさらに好ましい。
P含有率が高すぎると、粒界脆化や介在物形成のために疲労強度および靱性が低下する傾向がある。
<S>
本発明のマルエージング鋼において、S含有率は0.003%以下であることが好ましく、0.002%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることがさらに好ましい。
SはMnSを形成し被削性を高めるが、靱性および疲労強度を低下させる傾向がある。
本発明のマルエージング鋼において、S含有率は0.003%以下であることが好ましく、0.002%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることがさらに好ましい。
SはMnSを形成し被削性を高めるが、靱性および疲労強度を低下させる傾向がある。
<N>
本発明のマルエージング鋼において、N含有率は0.03%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることがさらに好ましい。
本発明のマルエージング鋼はTiを実質的に含まないため、N含有率について極端に制限する必要はないが、N含有率が高すぎるとTi以外の元素との間で窒化物を形成し、靭性および疲労特性を低下させるおそれがある。
本発明のマルエージング鋼において、N含有率は0.03%以下であることが好ましく、0.01%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることがさらに好ましい。
本発明のマルエージング鋼はTiを実質的に含まないため、N含有率について極端に制限する必要はないが、N含有率が高すぎるとTi以外の元素との間で窒化物を形成し、靭性および疲労特性を低下させるおそれがある。
<O>
本発明のマルエージング鋼において、O含有率は0.03%以下であることが好ましく、0.02%以下であることがより好ましく、0.01%以下であることがさらに好ましい。
OはSiO2、Al2O3などの非金属介在物を形成し、疲労強度を低下させる要因と成り得る。
本発明のマルエージング鋼において、O含有率は0.03%以下であることが好ましく、0.02%以下であることがより好ましく、0.01%以下であることがさらに好ましい。
OはSiO2、Al2O3などの非金属介在物を形成し、疲労強度を低下させる要因と成り得る。
<製造方法>
本発明のマルエージング鋼の製造方法は特に限定されない。
例えば、初めに、不純物の少ない原料を真空誘導炉で溶解し、鋳造してインゴットを得る。または、スクラップおよび合金元素などの溶解原料をエルー式アーク炉で溶解および精錬し、得られた溶鋼を加熱装置および真空装置の付いた取鍋精錬炉に移して真空精錬し、鋳造してインゴットを得る。
次に、得られたインゴットを、エレクトロスラグ再溶解法または真空アーク再溶解法により再溶解させて均質化処理し、凝固させて再溶解インゴットを得ることが好ましい。
次に、得られたインゴットまたは再溶解インゴットを約1000〜1300℃の範囲の温度に6〜72時間程度加熱するソーキングを行い、空冷することが好ましい。
次に、得られたインゴット、再溶解インゴット、またはこれらのソーキング後のものを、熱間加工や冷間加工により所望の製品形状に加工する。
次に、800〜1000℃の温度に約1〜60分間加熱して溶体化処理し、空冷する。その後、さらに研磨して、表面スケールを除去し、表面品質を均質化することが好ましい。
そして、450〜500℃で1〜24時間保持する時効処理を施すことで、本発明のマルエージング鋼を得ることができる。
本発明のマルエージング鋼の製造方法は特に限定されない。
例えば、初めに、不純物の少ない原料を真空誘導炉で溶解し、鋳造してインゴットを得る。または、スクラップおよび合金元素などの溶解原料をエルー式アーク炉で溶解および精錬し、得られた溶鋼を加熱装置および真空装置の付いた取鍋精錬炉に移して真空精錬し、鋳造してインゴットを得る。
次に、得られたインゴットを、エレクトロスラグ再溶解法または真空アーク再溶解法により再溶解させて均質化処理し、凝固させて再溶解インゴットを得ることが好ましい。
次に、得られたインゴットまたは再溶解インゴットを約1000〜1300℃の範囲の温度に6〜72時間程度加熱するソーキングを行い、空冷することが好ましい。
次に、得られたインゴット、再溶解インゴット、またはこれらのソーキング後のものを、熱間加工や冷間加工により所望の製品形状に加工する。
次に、800〜1000℃の温度に約1〜60分間加熱して溶体化処理し、空冷する。その後、さらに研磨して、表面スケールを除去し、表面品質を均質化することが好ましい。
そして、450〜500℃で1〜24時間保持する時効処理を施すことで、本発明のマルエージング鋼を得ることができる。
<窒化処理>
本発明のマルエージング鋼は、窒化を阻害する可能性のある安定な酸化膜を表面に形成するTiを実質的に含まないため、通常のガス窒化、ガス軟窒化、浸硫窒化、イオン窒化、塩浴窒化等の種々の窒化処理を容易に施すことができる。例えば、本発明のマルエージング鋼を航空機エンジンの構造材に適用できるように所望の形状の部材とし、本発明のマルエージング鋼からなる当該部材に適当な条件で窒化処理を行うと、窒化物をほとんど形成することなく表面に20〜40μm程度の薄い窒化層を形成でき、表面に大きな圧縮残留応力を付与でき、十分な疲労強度を付与することができる。なお、表面の圧縮残留応力は高い方が好ましいが、そのコントロールは窒化層の厚みを適宜調整することで可能である。
本発明のマルエージング鋼は、窒化を阻害する可能性のある安定な酸化膜を表面に形成するTiを実質的に含まないため、通常のガス窒化、ガス軟窒化、浸硫窒化、イオン窒化、塩浴窒化等の種々の窒化処理を容易に施すことができる。例えば、本発明のマルエージング鋼を航空機エンジンの構造材に適用できるように所望の形状の部材とし、本発明のマルエージング鋼からなる当該部材に適当な条件で窒化処理を行うと、窒化物をほとんど形成することなく表面に20〜40μm程度の薄い窒化層を形成でき、表面に大きな圧縮残留応力を付与でき、十分な疲労強度を付与することができる。なお、表面の圧縮残留応力は高い方が好ましいが、そのコントロールは窒化層の厚みを適宜調整することで可能である。
本発明のマルエージング鋼は、疲労強度が高位で安定しており、引張強さ、硬度、靭性および延性が十分に高いので、本発明のマルエージング鋼を主成分とする部分を含む高強度部材は、航空機エンジンの構造材、ロケット用部品、ミサイル用部品、人工衛星用部品、遠心分離機用部材、自動車エンジンの無段変速機用部品、金型、ゴルフクラブヘッドの素材等として、好ましく用いることができる。
なお、本発明のマルエージング鋼を主成分とする部分を含む高強度部材とは、本発明のマルエージング鋼を50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%)含む材料からなる部品または部分を、一部または全部として含む部材を意味するものとする。
なお、本発明のマルエージング鋼を主成分とする部分を含む高強度部材とは、本発明のマルエージング鋼を50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%)含む材料からなる部品または部分を、一部または全部として含む部材を意味するものとする。
本発明のマルエージング鋼の10の5乗サイクルの疲労強度は、下限が700MPa程度であり、下限が750MPaであることが好ましく、下限が800MPaであることがより好ましい。ここで、疲労強度は室温におけるひずみ制御(R=0)の試験により測定した値とする。
また、本発明のマルエージング鋼の引張強さは1800〜2500N/mm2程度であり、2100〜2500N/mm2であることが好ましく、2200〜2500N/mm2であることがより好ましい。ここで引張強さは、ASTM−E8Mの金属の引張試験方法に準じ、平行部径6mm試験片、標点距離を25mmとし、0.2%耐力までは0.5%/min、0.2%耐力以降は5.0%/minで引いて行う試験によって得た値とする。
また、本発明のマルエージング鋼の硬度(ビッカース硬さ)は550〜750Hv程度であり、600〜750Hvであることが好ましく、650〜750Hvであることがより好ましい。ここで硬度は、JIS Z 2244のビッカース硬さ試験方法に準じ、ビッカース硬度計を用いて100Nの荷重で硬さを測定して、10点の測定結果の平均値とする。
また、本発明のマルエージング鋼の靭性は35〜55MPa・m(1/2)程度であり、40〜55MPa・m(1/2)であることが好ましく、45〜55MPa・m(1/2)であることがより好ましい。ここで靭性は、ASTM E23 TypeAの衝撃試験(室温)に則り得た値とする。
さらに、本発明のマルエージング鋼の延性(伸び)は5〜11%程度であり、6〜11%であることが好ましく、8〜11%であることがより好ましい。ここで延性は、上記の引張強さと同じ試験によって得た値とする。
また、本発明のマルエージング鋼の引張強さは1800〜2500N/mm2程度であり、2100〜2500N/mm2であることが好ましく、2200〜2500N/mm2であることがより好ましい。ここで引張強さは、ASTM−E8Mの金属の引張試験方法に準じ、平行部径6mm試験片、標点距離を25mmとし、0.2%耐力までは0.5%/min、0.2%耐力以降は5.0%/minで引いて行う試験によって得た値とする。
また、本発明のマルエージング鋼の硬度(ビッカース硬さ)は550〜750Hv程度であり、600〜750Hvであることが好ましく、650〜750Hvであることがより好ましい。ここで硬度は、JIS Z 2244のビッカース硬さ試験方法に準じ、ビッカース硬度計を用いて100Nの荷重で硬さを測定して、10点の測定結果の平均値とする。
また、本発明のマルエージング鋼の靭性は35〜55MPa・m(1/2)程度であり、40〜55MPa・m(1/2)であることが好ましく、45〜55MPa・m(1/2)であることがより好ましい。ここで靭性は、ASTM E23 TypeAの衝撃試験(室温)に則り得た値とする。
さらに、本発明のマルエージング鋼の延性(伸び)は5〜11%程度であり、6〜11%であることが好ましく、8〜11%であることがより好ましい。ここで延性は、上記の引張強さと同じ試験によって得た値とする。
次に、本発明の実施例および比較例を説明する。
各実施例および各比較例について、第1a表、第2a表、第3a表、第4a表および第5a表に示す組成となるように合金(700g)を非消耗電極式アーク溶解炉を用いて溶解し、インゴットとした後、真空炉を用いて1200℃、24h保持することで均質化処理した。
各実施例および各比較例について、第1a表、第2a表、第3a表、第4a表および第5a表に示す組成となるように合金(700g)を非消耗電極式アーク溶解炉を用いて溶解し、インゴットとした後、真空炉を用いて1200℃、24h保持することで均質化処理した。
次に、均質化処理して得られたインゴットを熱間圧延機を用いて1000℃で熱間圧延(圧下率50%)して厚さ13mmに加工し鋼板とした。
次に、熱間圧延して得た鋼板を電気炉を用いて900℃で0.5h溶体化処理した後、鋼板のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さは、JIS Z 2244のビッカース硬さ試験方法に準じ、ビッカース硬度計を用いて100Nの荷重で測定して、10点の測定結果の平均値とした。
測定結果を第1b表、第2b表、第3b表、第4b表および第5b表に示す。
次に、熱間圧延して得た鋼板を電気炉を用いて900℃で0.5h溶体化処理した後、鋼板のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さは、JIS Z 2244のビッカース硬さ試験方法に準じ、ビッカース硬度計を用いて100Nの荷重で測定して、10点の測定結果の平均値とした。
測定結果を第1b表、第2b表、第3b表、第4b表および第5b表に示す。
次に、溶体化処理して得た鋼板を、さらに電気炉を用いて時効処理した後、鋼板のビッカース硬さを測定し、加えて引張試験および衝撃試験に供した。各実施例および各比較例における時効処理の条件(温度および時間)を第1a表、第2a表、第3a表、第4a表および第5a表に示す。
ここでのビッカース硬さ試験は、上記の溶体化処理後に行ったビッカース硬さ試験と同様とした。
また、引張試験はASTM−E8Mの金属の引張試験方法に準じて行った。具体的には、平行部径6mm試験片、標点距離を25mmとし、0.2%耐力までは0.5%/min、0.2%耐力以降は5.0%/minで引いて試験を行った。
また、衝撃試験はASTM E23 TypeAに則り、室温にて行った。
さらに、比較例1、実施例1、実施例2および実施例3について、光学顕微鏡を用いて組織写真を得た。各組織写真を図1(a)、図1(b)、図2(a)および図2(b)に示す。
ビッカース硬さ、引張試験結果および衝撃試験結果を、第1b表、第2b表、第3b表、第4b表および第5b表に示す。
ここでのビッカース硬さ試験は、上記の溶体化処理後に行ったビッカース硬さ試験と同様とした。
また、引張試験はASTM−E8Mの金属の引張試験方法に準じて行った。具体的には、平行部径6mm試験片、標点距離を25mmとし、0.2%耐力までは0.5%/min、0.2%耐力以降は5.0%/minで引いて試験を行った。
また、衝撃試験はASTM E23 TypeAに則り、室温にて行った。
さらに、比較例1、実施例1、実施例2および実施例3について、光学顕微鏡を用いて組織写真を得た。各組織写真を図1(a)、図1(b)、図2(a)および図2(b)に示す。
ビッカース硬さ、引張試験結果および衝撃試験結果を、第1b表、第2b表、第3b表、第4b表および第5b表に示す。
なお、全ての実施例および比較例における時効処理後の鋼板のC含有率は0.004%、Si含有率は0.001%未満、P含有率は0.002%未満、S含有率は0.001%未満、N含有率は0.001%未満、O含有率は0.02%以下であった。ここで、C含有率およびS含有率は高周波燃焼−赤外線吸収法によって測定し、Si含有率は二酸化ケイ素重量法によって測定し、P含有率はICP−AES法によって測定し、N含有率は熱伝導度法よって測定し、O含有率は赤外線吸収法によって測定して求めた。
<TiとWとの置換について>
第1a表に示すように、実施例1と比較例1とは類似する組成であり、時効処理条件も同一であるが、実施例1はWを含みTiを含まず、比較例1は逆にTiを含みWを含まないものである。第1b表から、実施例1と比較例1とは、ビッカース硬さおよび引張試験結果に大きな差がないことがわかる。
しかしながら、比較例1の組織写真である図1(a)にはTiNが黒点として表れているのに対して、実施例1の組織写真である図1(b)には、この黒点がほとんど表れていないことが分かる。これより、比較例1と比較して実施例1の場合は、介在物が少ないことにより疲労強度が高いものと考えられる。
なお、比較例2〜4も実施例1および比較例1と類似する組成であり、時効処理条件も同一であるが、いずれもWを含まない。これらの場合、ビッカース硬さおよび引張試験結果は、実施例1と比較して劣る結果となった。
このような結果より、Tiを含まず、代わりにWを含む組成であれば、ビッカース硬さ、引張強さを高位に維持しつつ、疲労強度を高めることができることがわかる。また、Tiの代わりにWを含む場合、Tiの代わりにNbやVを含む組成の場合と比較して品質が優れることがわかった。
第1a表に示すように、実施例1と比較例1とは類似する組成であり、時効処理条件も同一であるが、実施例1はWを含みTiを含まず、比較例1は逆にTiを含みWを含まないものである。第1b表から、実施例1と比較例1とは、ビッカース硬さおよび引張試験結果に大きな差がないことがわかる。
しかしながら、比較例1の組織写真である図1(a)にはTiNが黒点として表れているのに対して、実施例1の組織写真である図1(b)には、この黒点がほとんど表れていないことが分かる。これより、比較例1と比較して実施例1の場合は、介在物が少ないことにより疲労強度が高いものと考えられる。
なお、比較例2〜4も実施例1および比較例1と類似する組成であり、時効処理条件も同一であるが、いずれもWを含まない。これらの場合、ビッカース硬さおよび引張試験結果は、実施例1と比較して劣る結果となった。
このような結果より、Tiを含まず、代わりにWを含む組成であれば、ビッカース硬さ、引張強さを高位に維持しつつ、疲労強度を高めることができることがわかる。また、Tiの代わりにWを含む場合、Tiの代わりにNbやVを含む組成の場合と比較して品質が優れることがわかった。
<Wに加えてTaを含有することの効果について>
第2a表に示すように、実施例1、実施例2および実施例3は類似する組成であるが、Ta含有率が異なる。すなわち、W含有率はほぼ一定であり、Ta含有率は、実施例1は0%、実施例4は0.3%、実施例2は1.5%である。
このような実施例1、実施例2および実施例3の性能を対比すると、第2b表に示すように、Taを0.3%含む実施例2は、Taを含まない実施例1に対して引張強さが向上することがわかる。しかしながら、Taを1.5%含む実施例3の場合はかえって引張強さは低下することがわかる。また、実施例2の組織写真である図2(a)と、実施例3の組織写真である図2(b)とを比較すると、図2(a)ではマルテンサイト組織が表れているものの、図2(b)ではマルテンサイト組織は表れていないことがわかる。
このような結果より、Wを含有し、さらにTaを少量含有すると引張強さが向上するものの、Taの含有率が高すぎるとマルテンサイト組織が消滅し、かえって引張強さが低下するものと考えられる。
第2a表に示すように、実施例1、実施例2および実施例3は類似する組成であるが、Ta含有率が異なる。すなわち、W含有率はほぼ一定であり、Ta含有率は、実施例1は0%、実施例4は0.3%、実施例2は1.5%である。
このような実施例1、実施例2および実施例3の性能を対比すると、第2b表に示すように、Taを0.3%含む実施例2は、Taを含まない実施例1に対して引張強さが向上することがわかる。しかしながら、Taを1.5%含む実施例3の場合はかえって引張強さは低下することがわかる。また、実施例2の組織写真である図2(a)と、実施例3の組織写真である図2(b)とを比較すると、図2(a)ではマルテンサイト組織が表れているものの、図2(b)ではマルテンサイト組織は表れていないことがわかる。
このような結果より、Wを含有し、さらにTaを少量含有すると引張強さが向上するものの、Taの含有率が高すぎるとマルテンサイト組織が消滅し、かえって引張強さが低下するものと考えられる。
<Wに加えてVを含有することの効果について>
第3a表に示すように、実施例2、実施例4および比較例4は類似する組成であるが、V含有率が異なる。V含有率は、実施例2は0%であり、実施例4は1.4%であり、比較例4は2.0%である。
このような実施例2、実施例4および比較例4の性能を対比すると、第3b表に示すように、V含有率の増加に伴って、延性(伸び)が良好になっていることがわかる。ただし、Wを含まない比較例4の引張強さは低位であることがわかる。
このような結果より、Wを含有し、さらにVを含有すると、引張強さが向上することがわかる。
第3a表に示すように、実施例2、実施例4および比較例4は類似する組成であるが、V含有率が異なる。V含有率は、実施例2は0%であり、実施例4は1.4%であり、比較例4は2.0%である。
このような実施例2、実施例4および比較例4の性能を対比すると、第3b表に示すように、V含有率の増加に伴って、延性(伸び)が良好になっていることがわかる。ただし、Wを含まない比較例4の引張強さは低位であることがわかる。
このような結果より、Wを含有し、さらにVを含有すると、引張強さが向上することがわかる。
<W、TaおよびVを含有することの効果について>
第4a表に示すように、実施例4、実施例5および比較例5は類似する組成であるが、W含有率、V含有率およびTa含有率が異なる。
実施例4はW含有率が0.3%、Ta含有率が0.3%であるが、W含有率が0%、Ta含有率が1.5%の比較例5よりもビッカース硬さが向上した。これより、Ta含有率が高くてもWを含まないと性能は向上しないことがわかる。
しかしながら、TaおよびV含有率が同様である実施例5と比較例5とを対比すると、Wを1.6%含む実施例5の場合、むしろビッカース硬さは低下した。
このような結果より、Wが高すぎるとビッカース硬さが低下することがわかる。また、実施例4、実施例5および比較例5の対比により、W、TaおよびVの全てを含有する場合、W、TaおよびVの各成分は相互に作用し、相乗効果を発揮している可能性があると推定できる。
第4a表に示すように、実施例4、実施例5および比較例5は類似する組成であるが、W含有率、V含有率およびTa含有率が異なる。
実施例4はW含有率が0.3%、Ta含有率が0.3%であるが、W含有率が0%、Ta含有率が1.5%の比較例5よりもビッカース硬さが向上した。これより、Ta含有率が高くてもWを含まないと性能は向上しないことがわかる。
しかしながら、TaおよびV含有率が同様である実施例5と比較例5とを対比すると、Wを1.6%含む実施例5の場合、むしろビッカース硬さは低下した。
このような結果より、Wが高すぎるとビッカース硬さが低下することがわかる。また、実施例4、実施例5および比較例5の対比により、W、TaおよびVの全てを含有する場合、W、TaおよびVの各成分は相互に作用し、相乗効果を発揮している可能性があると推定できる。
<NiおよびMo含有率の性能への影響>
第5a表に示すように、実施例4と実施例6とは類似する組成であるが、Ni含有率が異なる。第5b表に示すように、Ni含有率が低い実施例6の方が実施例4よりも、ビッカース硬さ、引張強さおよび伸びが高まり、衝撃試験結果も良好になった。これはNi含有率が低いため残留オーステナイト組織が減少したためと考えられる。
また、第5a表に示すように、実施例6と実施例7とは類似する組成であるが、Mo含有率が異なる。第5b表に示すように、Mo含有率が高い実施例7の方が実施例6よりも引張強さが向上した。
第5a表に示すように、実施例4と実施例6とは類似する組成であるが、Ni含有率が異なる。第5b表に示すように、Ni含有率が低い実施例6の方が実施例4よりも、ビッカース硬さ、引張強さおよび伸びが高まり、衝撃試験結果も良好になった。これはNi含有率が低いため残留オーステナイト組織が減少したためと考えられる。
また、第5a表に示すように、実施例6と実施例7とは類似する組成であるが、Mo含有率が異なる。第5b表に示すように、Mo含有率が高い実施例7の方が実施例6よりも引張強さが向上した。
Claims (5)
- Feを主成分とし、Ni、CoおよびMoを含むマルエージング鋼であって、
Co含有率が7.0質量%以上であり、
C含有率が0.05質量%未満であり、
さらにWを含み、実質的にTiを含まない、マルエージング鋼。 - さらにTaを含む、請求項1に記載のマルエージング鋼。
- さらにVを含む、請求項1または2に記載のマルエージング鋼。
- 質量%表示で、
Niを10.0〜30.0%、および/または、
Coを7.0〜20.0%、および/または、
Moを1.0〜10.0%、および/または、
Wを0.05〜10.0%、および/または、
Taを0〜5.0%、および/または、
Vを0〜5.0%、および/または、
Alを0〜3.0%含有し、
残部Fe及び不可避的不純物からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のマルエージング鋼。 - 請求項1〜4のいずれかに記載のマルエージング鋼を主成分とする部分を含む高強度部材。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2012128501A JP2013253277A (ja) | 2012-06-06 | 2012-06-06 | マルエージング鋼 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
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2012
- 2012-06-06 JP JP2012128501A patent/JP2013253277A/ja active Pending
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