センサやアクチュエータ、モータなどの機器に使用する永久磁石は、エネルギー積の強いものが求められている。また、近年の磁石は様々な用途に用いられ、用途に応じた特性が求められている。たとえば、センサやアクチュエータなどでは特定の方向に強い磁場を発生する必要があるため、面内方向または面直方向などの所定の方向に異方性を有し、保磁力が必要十分に大きく、残留磁束密度(磁石性能としての残留磁化)が大きい薄膜磁石が求められている。
上述のように、センサやアクチュエータ、モータなどの機器に使用する永久磁石は、エネルギー積の強い永久磁石が求められている。また、機器を使用する環境も年々苛酷となり、これらの機器に使用される永久磁石には、高い耐熱性や信頼性が求められている。
一般に、エネルギー積の強い永久磁石として知られているのは、ネオジム磁石である。しかしながら、ネオジム磁石は、高い耐熱性を与えるために埋蔵量の少ない重金属類のDy(ディスプロシウム)を添加する必要があり、高価なものとなる。そこで、ネオジム磁石以外の永久磁石も求められている。
例えば、R(希土類元素)−Co(コバルト)材料の一つであるSmxCoyを用いた永久磁石は、比較的大きなエネルギー積を有し、且つ、耐熱性が高く温度特性や腐食性の面で優れた磁石である。エネルギー積が高い永久磁石は、同一のエネルギーを得るために必要なそれ自身の体積を小型にすることが可能となり、これを用いる電子機器等の小型化を図ることができる。このような点から、SmxCoyを用いた永久磁石が注目されている。
永久磁石の特性としては、B(磁束密度)−H(磁界)特性の残留磁束密度と保磁力とがある。残留磁束密度は、磁石として発生する磁力の強さに関係する。保磁力は、外部磁界による磁石の磁極の反転し難さに関係する。一般に、永久磁石としては、残留磁束密度および保磁力の両方が大きくそのJ(磁化)−H(磁界)特性の角形性が高いことが好ましい。薄膜磁石についても、残留磁束密度および保磁力の両方を大きくすることに視点をおいた開発がなされている。
永久磁石は様々な用途に用いられ、用途に応じた特性が求められている。たとえば、センサやアクチュエータなどに使用される永久磁石は、特定の方向に強い磁場を発生する必要がある。磁石に対するこのような要求に対して、従来技術のように残留磁束密度および保磁力の両方を大きくするだけではなく、用途に応じた特性を備えた磁石が開発されている。
具体的には、磁石を構成する結晶材料の所定の結晶方向に強い異方性を有する、いわゆる強い結晶磁気異方性を有し、保磁力が必要十分に大きいと共に残留磁束密度が大きく、磁化と磁界との関係を示すJ−H曲線が角形となるR(希土類元素)−Co(コバルト)化合物薄膜磁石の開発が行われている。
また、センサやアクチュエータなどに使用される永久磁石は、X方向、Y方向、Z方向など、任意の単一方向もしくは複数の特定方向に磁化方向を揃えることが求められる。この場合、前述の結晶磁気異方性の大きいR(希土類元素)−Co(コバルト)を用いる場合、結晶の配向方向を三次元的に等方とした多結晶とすることで任意の方向に磁化を揃えるいわゆる着磁処理が可能である。しかしながら、この場合、磁化の強い結晶方位が三次元的に等方的に配置されているため、各所望の軸方向では磁化が小さくなり、結果として必要な磁界を生成することが出来ない場合がある。このため、結晶の配向方向を特定に方向に揃える取り組みが有効であり、これにより材料性能を効率良く発揮することができる。しかし、任意の複数の方向に磁化が大きい薄膜磁石を形成するためには高価な単結晶基板を用いたり、基板材料と格子定数差を緩衝するためのバッファ層を形成し結晶配向を制御したりする必要がある。一般的に上述の手段を用いる場合、薄膜の結晶成長と同時に結晶化する手法が用いられるため高温雰囲気で結晶成長させる必要があり、設備コストの増大とスループットの低下のためコストがかかる。また同一の基板に異なる結晶配向方向に成長した異なる方向に結晶磁気異方性を有した薄膜を形成することは難しく、このような薄膜磁石を形成するとしてもコストがかかる。
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。図面、特に断面図においては、構造を理解しやすくするために、薄膜磁石の実際の寸法と図面での長さとの比は縦と横の方向で互いに異なる。
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置、接続形態、ステップ及びステップの順序などは一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
なお、以下の実施の形態において、六方細密充填構造の結晶を、単に六方晶と呼んでいる。また、面心立方構造の結晶および体心立方構造の結晶は、これらを区別する必要のない場合には、単に立方晶と呼んでいる。
(実施の形態1)
[1−1.薄膜磁石の構成]
図1Aは実施の形態1にかかる薄膜磁石1の断面図である。薄膜磁石1の基本構成は、基板10と、酸化抑制層20aと、酸化抑制層20bと、酸化抑制層20a、20bの間に設けられた磁性体30とを備えている。具体的には、酸化抑制層20aは基板10の上面810上に設けられている。磁性体30は酸化抑制層20aの上面820a上に設けられている。酸化抑制層20bは磁性体30の上面830上に設けられている。基板10と酸化抑制層20aと磁性体30と酸化抑制層20bとはこの順に、基板10の上面810と直角の積層方向D1に積層されている。磁性体30は、酸化抑制層20aの上面820a上に設けられた磁性体層31と、磁性体層31の上面831上に設けられた中間層32と、中間層32の上面832上に設けられた磁性体層33とを有している。磁性体層31と中間層32と磁性体層33とはこの順に積層方向D1に積層されている。磁性体層33の上面833は磁性体30の上面830を構成する。積層方向D1における酸化抑制層20aと磁性体30と酸化抑制層20bの厚さはそれぞれ500nm程度である。
基板10は、例えば、絶縁体であるSiO2よりなる熱酸化膜が形成された表面を有するSi基板である。基板10は、Si基板に限らず、後の熱処理に耐え得る基板であれば特に制限はない。基板10は、例えば、耐熱ガラス、サファイア基板、もしくはMgO基板などの単結晶基板、セラミック(Al2O3またはZrO2またはMgOを主成分としたもの)基板、またはセラミック基板上に耐熱ガラスグレーズを形成したものであってもよい。
酸化抑制層20aおよび酸化抑制層20bは、例えば、高融点金属であるTaを含むアモルファス層で構成されている。なお、酸化抑制層20aおよび酸化抑制層20bに含まれる金属は、Taに限らず、Ta、Nb、W、およびMoの少なくとも一つを含む構成であってもよい。
磁性体層31および磁性体層33はR(希土類元素)を含んでいる。具体的にはSmである。例えば、磁性体層31および磁性体層33は、六方晶の構成を有するSmCo5で構成されている。積層方向D1における磁性体層31および磁性体層33の厚さはそれぞれ250nm程度である。なお、磁性体層31および磁性体層33は、SmCo5に代えて菱面体晶の構成を有するSm2Co17で構成されていてもよい。なお、実施の形態において、SmCo5とSm2Co17とを区別する必要のない場合には、正の数x、yを用いて単にSmxCoyと示している。
中間層32は、磁性体層31よりも低い保磁力を有してかつ高い残留磁化を有する金属粒子32pを含んでいる。積層方向D1において中間層32の厚さは、磁性体層31および磁性体層33の厚さに対して十分薄く、例えば、1nm〜10nm程度である。また、中間層32は、磁性体層31および中間層32の形成後に形成される磁性体層33の形成時に、磁性体層31および磁性体層33がアモルファス状態を維持することができるように、磁性体層31および磁性体層33よりも結晶化温度が低い材料により形成されている。
一例として、中間層32は、CoまたはCuの金属粒子32pを含む層で構成されている。中間層32を構成するCoは、(110)方向に配向した面心立方構造、すなわち立方晶の結晶である。また、中間層32を構成するCuは、(111)方向に配向した面心立方構造、すなわち立方晶の結晶である。
中間層32がCoを含む層で構成されている場合には、磁性体層31および磁性体層33は、結晶化後に六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(11−20)方向に配向する。したがって、磁性体層31および磁性体層33は、基板10の上面810に対して平行な面が六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(11−20)面となるように配向した構成となっている。これにより、磁性体層31および磁性体層33は、基板10の上面810に対して平行である面内方向D10aに結晶磁気異方性を有する。また、磁性体層31および磁性体層33には、Coよりなる金属粒子32pが拡散している。拡散したCoよりなる金属粒子32pの濃度は、中間層32から遠ざかるにつれて減少する構成となっている。
図1Bは実施の形態1にかかる他の薄膜磁石1aの断面図である。図1Bにおいて、図1Aに示す薄膜磁石1と同じ部分には同じ参照番号を付す。図1Aに示す薄膜磁石1の中間層32は必ずしも単一の層であるとは限らない。特に、中間層32にCuを用いた場合には、中間層32は少なくとも3つの層よりなることが好ましい。図1Bに示す薄膜磁石1aでは、中間層32は、下層32b、中央層32a、上層32cとの3つの三層からなる。具体的には、下層32bは磁性体層31の上面831上に設けられている。中央層32aは下層32bの上面832b上に設けられている。上層32cは中央層32aの上面832a上に設けられている。上層32cの上面832cは中間層32の上面832を構成する。中央層32aの主成分は磁性体層31、32の成分でもあるCoである。上層32bおよび下層32cの主成分はCuである。上層32bおよび下層32cは、(111)方向に配向した立方晶構造もしくは拡散したCuと希土類元素Smとから構成される(0001)方向に配向した六方晶構造を有する。中央層32aの主成分がCoであるのは、元々中央層32aに位置したCu原子が製造過程において、磁性体層31、32に存在しているCo原子の一部と置換したからと推測できる。このような現象は、中間層32に、Ti(チタン)やZr(ジルコニウム)を用いた場合にも生じる。
磁性体層31、32の結晶磁気異方性に影響を与えるのは、中間層32における磁性体層31または磁性体層32との境界部の結晶の配向の方向である。従って、中間層32が3つの層からなる場合には、磁性体層31の結晶磁気異方性に影響を与えるのは下層32bの結晶配向の方向であり、磁性体層32の結晶磁気異方性に影響を与えるのは上層32cの結晶配向の方向である。
以下、本開示において、中間層32が単層である場合と多層からなる場合を特に区別せず説明する。中間層32の組成や結晶配向に言及するときは、中間層32と隣接する磁性体層31、32との境界の部分を対象としている。
ここで、薄膜磁石1の磁化について説明する。
図2は、Coよりなる金属粒子32pを含有する中間層32を備えた薄膜磁石1の磁化曲線を示す。図2において、横軸は磁界の強さを示し、縦軸は磁化の強さを示す。図2は、薄膜磁石1の面内方向D10aの磁化曲線M1aと、面内方向D10aに直角の面直方向D10b(積層方向D1)の磁化曲線M1bを示している。
図2に示すように、中間層32にCoを用いた場合には、薄膜磁石1は、積層方向D1の磁化曲線M1bよりも面内方向D10aの磁化曲線M1aのほうが大きな磁化を示している。したがって、中間層32に(110)方向に配向したCoを用いることにより、薄膜磁石1は、面内方向D10aに結晶磁気異方性を有し、面内方向D10aに強い磁界を発生させる。
また、中間層32の金属粒子32pがCuよりなる場合には、磁性体層31および磁性体層33は、結晶化後に六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(0001)方向に配向する。したがって、磁性体層31および磁性体層33は、基板10の面810に対して六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(0001)面が平行となるように配向した構成となっている。これにより、磁性体層31および磁性体層33は、基板10の面810に対して垂直である面直方向D10bに結晶磁気異方性を有する。また、磁性体層31および磁性体層33には、Cuよりなる金属粒子32pが拡散している。磁性体層31、33中の拡散したCuよりなる金属粒子32pの濃度は、中間層32から離れるにつれて減少する構成となっている。
中間層32に(111)方向に配向したCuよりなる金属粒子32pを用いた場合、熱処理後の薄膜磁石1において、磁性体層31および磁性体層33は、面直方向D10bに結晶磁気異方性を有し、面直方向D10bに強い磁界を発生させる。
次に、実施の形態1にかかる薄膜磁石100の構成について説明する。図3は、実施の形態1にかかる薄膜磁石100の断面図である。図3において、図1Aに示す薄膜磁石1と同じ部分には同じ参照番号を付す。
薄膜磁石100は、上述した薄膜磁石1における磁性体層31、中間層32および磁性体層33でそれぞれ構成される複数の磁性体30が積層された構成を有している。より詳細には、薄膜磁石100は、上述した薄膜磁石1の酸化抑制層20b上に、磁性体30と同様の構成である磁性体40と、酸化抑制層20cとをさらに積層した構成を有している。
詳細には、図3に示すように、薄膜磁石100は、基板10と、酸化抑制層20a、酸化抑制層20bと、酸化抑制層20cと、酸化抑制層20a、20bの間に設けられた磁性体30と、酸化抑制層20b、20cの間に設けられた磁性体40とを備えている。具体的には、薄膜磁石100は、基板10と、基板10の上面810上に設けられた酸化抑制層20aと、酸化抑制層20aの上面820a上に設けられた磁性体30と、磁性体30の上面830上に設けられた酸化抑制層20bと、酸化抑制層20bの上面820b上に設けられた磁性体40と、磁性体40の上面840上に設けられた酸化抑制層20cとを備える。
酸化抑制層20a、20b、20cは同様の成分よりなる。
磁性体40は、上述した薄膜磁石1における磁性体30と同様の構成であり、酸化抑制層20bの上面820b上に設けられた磁性体層41と、磁性体層41の上面841上に設けられた中間層42と、中間層42の842上に設けられた磁性体層43とを有している。磁性体層43の上面843は磁性体40の上面840を構成する。磁性体40は、上述した薄膜磁石1の基本構成における磁性体30の構成と同様である。磁性体層41、中間層42および磁性体層43は、それぞれ、上述した薄膜磁石1の基本構成における磁性体30の磁性体層31、中間層32および磁性体層33に相当する。
磁性体40(磁性体層43)の上面840(上面843)上には酸化抑制層20cが設けられている。
ここで、中間層32は、例えば、Coよりなる金属粒子32pを含む。これにより、上述したように、磁性体層31および磁性体層33は、基板10の面810に対して六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(11−20)面と平行となるように配向する。したがって、磁性体層31および磁性体層33は、基板10の面810に対して平行である面内方向D10aに結晶磁気異方性を有する。
また、中間層42は、例えば、Cuよりなる金属粒子42pを含む。これにより、磁性体層41および磁性体層43は、基板10の面810に六方晶または菱面体晶のSmxCoのy(0001)面が平行となるように配向する。したがって、磁性体層41および磁性体層43は、基板10の面810に対して垂直である面直方向D10bに結晶磁気異方性を有する。
尚、実施の形態1ではR(希土類元素)−Co(コバルト)化合物の具体例としてSmxCoyを示したが、希土類元素としてPr、Nd、Y、La、Gdを用いても良い。
[1−2.薄膜磁石の製造方法]
以下、本実施の形態にかかる薄膜磁石100の製造方法について説明する。図4Aから図4Hは薄膜磁石100の製造工程を示す断面図である。
薄膜磁石100の製造では、まず、基板10を用意する。基板10には、例えば、上述したように、絶縁体であるSiO2よりなる熱酸化膜が形成された表面を有するSi基板を用いる。
次に、図4Aに示すように、基板10の面810に酸化抑制層20aを薄膜工法により形成する。酸化抑制層20aは、Taをスパッタリングにより着膜したものである。このとき、基板10の上面810上に着膜した酸化抑制層20aはアモルファス状態である。なお、酸化抑制層20a、後に説明する酸化抑制層20bおよび酸化抑制層20cに含まれる金属は、Taに限らず、Ta、Nb、W、およびMoの少なくとも一つを含む構成であってもよい。
次に、図4Bに示すように、酸化抑制層20aの上面820a上に磁性体層31を薄膜工法により形成する。磁性体層31は、SmxCoyをスパッタリングにより着膜したものである。磁性体層31を形成するときには、基板10の上面810の表面温度を400℃以下に設定する。基板10の表面温度を400℃以下とするのは、磁性体層31をアモルファス状態とするために、SmxCoyの結晶化温度未満で磁性体層31を形成する必要があるからである。
なお、基板10の表面温度の設定は、同一の熱容量を有した別の基板に熱電対を埋め込み、基板の温度を事前に測定した結果に基づいて行う。基板10の温度の下限は、スパッタリングの反応速度および冷却能力を考慮するが、室温としてもよい。また、冷却能力を有する装置を用いる場合には、基板10の温度の下限を室温より低温としてもよい。
このように、基板10の表面温度をSmxCoyの結晶化温度未満に設定することにより、SmxCoyをスパッタリングで着膜した直後の磁性体層31の結晶構造は、アモルファス状態となる。
尚、SmxCoyの着膜には組成調整された合金を用いてもよいし、単体のSm金属と単体のCo金属をそれぞれの電力の比率を調整し同時スパッタ(コ・スパッタ)し組成制御された合金を用いてもよいし、単体のSm金属と単体のCo金属を厚みの比率を変えて組成制御する超格子構造とした合金を用いてもよい。尚、超格子構造とする場合は、Sm金属層、Co金属層からなる超格子層がアモルファス状態となるように形成する必要があり、1nm以下の超格子構造とすることが好ましい。
次に、図4Cに示すように、磁性体層31の上面831上に中間層32を薄膜工法で形成する。中間層32は、Coをスパッタリングにより着膜したものである。中間層32を形成するときも、磁性体層31を形成するときと同様に、基板10の温度を400℃以下にする。これにより、磁性体層31の結晶化を抑制し、磁性体層31をアモルファス状態で維持することができる。なお、中間層32を構成するCoよりなる金属粒子32pは結晶化し、(110)方向に配向している。Coを(110)方向に配向するように金属粒子32pを結晶化させるには、スパッタリングの形成条件を制御することでできる。
次に、図4Dに示すように、中間層32の上面832上に磁性体層33を薄膜工法で形成する。磁性体層33は、SmxCoyをスパッタリングにより着膜したものである。磁性体層33を形成するときも、磁性体層31を形成するときと同様、基板10の温度は400℃以下にする。これにより、SmxCoyをスパッタリングで着膜した直後の磁性体層33の結晶構造は、アモルファス状態となる。
なお、一例として、磁性体層31、中間層32および磁性体層33を形成する際の温度は室温であり、これらの層を形成し始める時の基板10の表面温度は16℃〜25℃であってもよい。
次に、図4Eに示すように、磁性体層33の上面833上に酸化抑制層20bを薄膜工法で形成する。酸化抑制層20bは、酸化抑制層20aと同様、Taをスパッタリングにより着膜したものである。このとき、磁性体層33上に着膜した酸化抑制層20bは、アモルファス状態である。
次に、図4Fに示すように、酸化抑制層20bの上面820b上に磁性体層41を薄膜工法により形成する。磁性体層41は、磁性体層31と同様、SmxCoyをスパッタリングにより着膜したものである。磁性体層41を形成するときには、基板10の表面温度を400℃以下に設定する。これにより、磁性体層41は、アモルファス状態に形成される。
次に、図4Gに示すように、磁性体層41の上面841上に中間層42を薄膜工法で形成する。中間層42は、Cuをスパッタリングにより着膜したものである。中間層42を形成するときも、基板10の温度は400℃以下である。これにより、磁性体層41の結晶化を抑制し、磁性体層41をアモルファス状態で維持することができる。なお、中間層32を構成するCuよりなる金属粒子42pは結晶化し、(111)方向に配向している。
次に、図4Hに示すように、中間層42の上面842上に磁性体層43を薄膜工法で形成する。磁性体層43は、SmxCoyをスパッタリングにより着膜したものである。磁性体層43を形成するときも、基板10の温度は400℃以下である。これにより、SmxCoyをスパッタリングで着膜した直後の磁性体層43の結晶構造は、アモルファス状態となる。
なお、磁性体層41、中間層42および磁性体層43を形成する際の温度は室温であり、これらの層の形成の開始時の基板10の表面温度は16℃〜25℃であってもよい。
続けて、磁性体層43の上面843上に酸化抑制層20cを薄膜工法で形成する。酸化抑制層20cは、酸化抑制層20bと同様、Taをスパッタリングにより着膜したものである。このとき、磁性体層43上に着膜した酸化抑制層20cは、アモルファス状態である。
次に、酸化抑制層20aと磁性体層31と中間層32と磁性体層33と酸化抑制層20bと磁性体層41と中間層42と磁性体層43と酸化抑制層20cが形成された基板10を熱処理により結晶化する。熱処理は、真空雰囲気もしくは還元雰囲気もしくは非酸化雰囲気で行うことが好ましい。真空雰囲気については、残留酸素や残留水分を十分に除去した超高真空もしくは超々高真空雰囲気が好ましい。還元雰囲気については、超々高真空に背圧を真空排気した後に水素を導入した雰囲気が好ましく、非酸素雰囲気については超々高真空に排気した後にAr(アルゴン)ガスを導入した雰囲気が好ましい。
熱処理の温度は、基板10の表面温度が500℃以上となるように設定する。熱処理の基板10の温度の上限は特にないが、装置からの脱離ガスなどが磁性体30中に拡散して磁性体層31および磁性体層33が酸化されない範囲であればよい。また、熱処理の温度は、酸化抑制層20aと酸化抑制層20bと酸化抑制層20cとがアモルファス状態を維持できるように、酸化抑制層20aと酸化抑制層20bと酸化抑制層20cの結晶化温度よりも低い温度とすることが好ましい。
一例として、熱処理による結晶化は、基板10の表面温度が500℃以上700℃以下の真空中において行ってもよい。また、加熱開始前の装置の背圧を10−4Pa以下、加熱時の圧力を5×10−4Pa以下としてもよい。
なお、熱処理を行うときの基板10の温度および真空条件は、これらの条件に限らず、脱離ガスの磁性体30中への拡散により磁性体層31および磁性体層33が酸化されるのを抑制することができる雰囲気であればよい。例えば、熱処理時の真空度は、10−3Pa以下としてもよい。
熱処理を行うことにより、中間層32を構成するCoの金属粒子32pは、磁性体層31および磁性体層33へ拡散する。また、磁性体層31および磁性体層33は結晶化し、このとき、中間層32の配向に応じて配向する。上述のように、(110)方向に配向したCoよりなる金属粒子32pを中間層32に用いた場合、熱処理後の薄膜磁石100において、磁性体層31および磁性体層33は、六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(11−20)面が基板10の基板10の面810に対して平行となるように配向する。したがって、磁性体層31および磁性体層33は、面内方向D10aに結晶磁気異方性を有することとなる。なお、酸化抑制層20aおよび酸化抑制層20bは熱処理中においてもアモルファス状態であるので、磁性体層31および磁性体層33は、中間層32と磁性体層31および磁性体層33の両界面を結晶成長の起点として面内方向D10aに配向して結晶化する。
また、熱処理を行うことにより、中間層42を構成するCuの金属粒子42pは、磁性体層41および磁性体層43へ拡散する。また、磁性体層41および磁性体層43は結晶化し、このとき、中間層42の配向に応じて配向する。上述のように、(111)方向に配向したCuよりなる金属粒子42pを中間層42に用いた場合、熱処理後の薄膜磁石100において、磁性体層41および磁性体層43は、六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(0001)面が基板10の基板10の面810に対して平行となるように配向する。したがって、磁性体層41および磁性体層43は、面直方向D10bに結晶磁気異方性を有することとなる。なお、酸化抑制層20cおよび酸化抑制層20dは熱処理中においてもアモルファス状態であるので、磁性体層41および磁性体層43は、中間層42と磁性体層31および磁性体層33の両界面を結晶成長の起点として面直方向D10bに配向して結晶化する。
なお、上述した中間層32と中間層42の結晶化は、同一の熱処理において同時に行われる。
以上のように、熱処理を行う工程により、磁性体層31と中間層32と磁性体層33とは磁性体30を構成し、磁性体層41と中間層42と磁性体層43とは磁性体40を構成する。そして、磁性体30は、基板10の面810に対して平行である面内方向D10aに結晶磁気異方性を有し、磁性体40は、基板10の面810に対して垂直である面直方向D10bに結晶磁気異方性を有する。
その後、磁性体30および磁性体40の着磁を行う。着磁の方法は、磁化の方向と平行に磁束が磁性体30、40を貫通するように、磁性体30、40に対して磁界を印加する。
一般的に磁性体の磁化困難軸方向への磁気飽和に必要な磁界は容易軸方向と比較し十分大きいため、例えば面内磁気異方性を持つ磁性体30の困難軸方向(面直方向D10b)の磁気飽和に必要な磁界は、面直磁気異方性を持つ磁性体40の容易軸方向(面直方向D10b)の磁気飽和に必要な磁界より十分大きく、磁性体40の困難軸方向(面内方向D10a)の磁気飽和に必要な磁界は、磁性体30の容易軸方向(面内方向D10a)の磁気飽和に必要な磁界より十分大きい。従って、磁性体30および磁性体40のそれぞれの磁化容易軸方向の保磁力を比較し、保磁力が大きい方の磁性体の容易軸方向から着磁すれば良い。また、磁性体30の容易軸方向(面内方向D10a)と磁性体40の容易軸方向(面直方向D10b)の保磁力が等しい場合は、磁性体40の方が反磁界の影響で飽和に必要な磁界が大きくなるため、磁性体40から着磁すれば良い。
上述の製造方法により、磁性体30は面内方向D10aに磁界を発生し、磁性体40は面直方向D10bに磁界を発生する。
なお、磁気飽和に必要な磁界の大小関係は、SmとCoとの組成比率や、結晶配向性、粒子径、添加物などの様々な条件やその組み合わせによって、面内方向D10aと面直方向D10bとで上述した順序とは逆になるが、そのときは着磁の順序も逆にしてもよい。
なお、実施の例では熱処理と磁化処理を別々に行ったが、熱処理と着磁処理を同時に行うこともできる。
[1−3.効果等]
以上、実施の形態1にかかる薄膜磁石100では、エネルギー積の高いSmxCoyを磁性体層31、33、41、43に使用し、中間層32および中間層42としてそれぞれCoおよびCuを使用することにより、面内方向D10aおよび面直方向D10bに結晶磁気異方性を有し、エネルギー積が高く、保磁力が必要十分に大きいと共に残留磁束密度が大きい薄膜磁石100を形成することができる。また、配向の異なる磁性体30および磁性体40が積層されるので、面内方向D10aおよび面直方向D10bに磁気異方性を有する磁性体30、40が同時に形成された薄膜磁石100が得られる。
なお、磁性体30の複数の結晶粒子のc軸すなわちSmxCoyの(0001)方向の軸は概ね面内方向D10aを向いているが、実施の形態1における磁性体30は多結晶構造であり結晶分散を有しているため、全ての結晶粒子のc軸が完全に面内に同一の方向を向いているという意味ではない。例えば、中間層としてCoを用いた場合、磁性体30は面内方向D10aに結晶磁気異方性を有するが、これは、磁性体30の複数の結晶粒子のc軸は概ね面内方向D10aを向いているが、全ての結晶粒子のc軸が完全に面内方向D10aを向いているという意味ではない。実施の形態1における磁性体30は、c軸方向が全体として面内方向D10aを向いていればよく、面内方向D10aに対し0°以上45°未満の角度を成すc軸を有する結晶粒子の数が、面内方向D10aに対し45°以上90°以下の角度を成すc軸を有する結晶粒子の数より多ければ、効果の大小はあるものの同様の効果を得ることができる。
また、面内方向D10aの結晶磁気異方性については、実施の形態1では、磁性体30は面内方向D10aにおいて等方に結晶磁気異方性を生じている。これにより、同一の基板10において、面内方向D10aおよび面直方向D10bの任意の方向に保磁力の大きい薄膜磁石を同時に形成することができるとともに、面内方向D10aにおいては、任意の方向に着磁することができる。
なお、面内方向D10aの面内での磁気異方性については、等方的であるため、面内方向D10aにおいて互いに略90°異なる2つの方向に磁界を生ずるように着磁されても良い。これにより、同一の基板10において、例えばX方向、Y方向およびZ方向の3方向に磁界を効率良く発生させることが出来る薄膜磁石100を同時に形成することができる。
また、実施の形態1にかかる磁性体層31、磁性体層33、磁性体層41および磁性体層43は、SmxCoyで構成されているが、これに限られない。たとえば、Coとの一部をCuとFeに置き換え、材料としての磁化や保磁力をさらに上げることも可能である。また、Coと他の元素との置換の効果を上げるために、添加物としてZrなどを混入させてもよい。また、磁性体層31、33、41、43は、SmxCoyのCoとFeを置換させ、さらに、侵入型の材料であるNを含んだSm2Fe17N3としてもよい。Sm2Fe17N3は菱面体晶である。この場合、結晶化の際に窒素置換した雰囲気を用いることで結晶化することで窒素を侵入させることで磁性体層31、33、41、43を作製してもよい。また、磁性体層31、33、41、43に中間層32に窒化物材料を含む材料を用いてもよい。
尚、この場合Sm−Fe−Nは650℃以上の温度で分解することが知られているため、600℃以下の温度で磁性体層31、33、41、43を結晶化することが望ましい。
詳細には、SmFeNのターゲットをArガスとN2ガスの混合雰囲気中で低温スパッタし、基板10の上方にアモルファス状態のSmFeNの層を形成してもよいし、SmFeのターゲットをArガスとN2ガスの混合雰囲気中で低温スパッタし、基板10の上方にアモルファス状態のSmFeNの層を形成してもよい。そして、その後、基板10の上方に形成されたSmFeNの層を真空雰囲気もしくは超々高真空に背圧を真空引きした後に減圧調整した高純度窒素中で熱処理する。これにより、SmFeNを結晶化する。
また、上述した実施の形態1では、磁性体30が面内方向D10aの結晶磁気異方性を有し、磁性体40が面直方向D10bの結晶磁気異方性を有するとしたが、磁性体30の結晶磁気異方性が面直方向D10bであり、磁性体40の結晶磁気異方性が面内方向D10aであってもよい。より詳細には、中間層32を(111)方向に配向したCuで構成し、中間層42を(110)方向に配向したCoで構成してもよい。
また、上述した中間層32は、Coに代えて、基板10の面810に平行に(110)面が結晶配向した立方晶のFeを用いてもよい。同様に、Coに代えて、基板10の面810に対して平行に(110)面が結晶配向した立方晶のCoFeを用いてもよい。また、中間層42として、Cuに代えて、(111)面が結晶配向したNiを用いてもよい。または、中間層32として、Cuに代えて、(0001)面が結晶配向した六方晶の金属粒子32pを用いてもよい。この六方晶の金属粒子32pとして、Ti、Co、Zr、MgまたはHfを用いてもよい。特に、Tiは格子不整合が少ないので好ましい。なお、六方晶のCoはスパッタリングの形成条件を制御することで得る。また、中間層32と中間層42とを構成する材料を入れ替えてもよい。
また、酸化抑制層20a、酸化抑制層20bおよび酸化抑制層20cは、Taの代わりに、Nb、WまたはMoを含んでいてもよい。酸化抑制層20a、酸化抑制層20bおよび酸化抑制層20cは、非磁性体で高融点であることが求められる。特に、磁性体層31、磁性体層33、磁性体層41および磁性体層43のSmCo5膜が結晶化する熱処理温度の3倍以上の融点を有していることが好ましい。これにより、磁性体層31、磁性体層33、磁性体層41および磁性体層43を結晶化する際に、酸化抑制層20a、酸化抑制層20bおよび酸化抑制層20cが再結晶化することを効果的に抑制できる。なお、酸化抑制層20a、酸化抑制層20bおよび酸化抑制層20cは、Ta、Nb、WおよびMoの少なくとも一つを含んでいればよい。
酸化抑制層20a、酸化抑制層20bおよび酸化抑制層20cは、特に同一材料である必要はないが、本実施の形態では使用材料の削減の観点で同一材料としている。
なお、中間層32および中間層42は、基板10の面内方向D10aで連続である必要はなく、一部島状となったり途切れていたりしても機能上なんら問題はない。すなわち、実施の形態1において、「中間層」とは、複数の磁性体層の間に配置される層であれば、基板10の面内方向D10aにおいて連続である場合だけでなく、一部島状となったり途切れていたりする構成も含む。
中間層32、42の存在を確認する方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡で観測することにより確認する方法がある。また、透過型電子顕微鏡で観測する以外には、中間層32、42をそれぞれ構成する金属粒子32p、42pの濃度を測定し、金属粒子32p、42pの分布濃度が局部的に高い領域を中間層32、42と判断する方法もある。
また、中間層32および中間層42の積層方向D1での厚みについては、1nm〜30nmまで変化させた場合でも同様の効果があることを確認している。走査型透過電子顕微鏡によって、磁性体30において、中間層32が磁性体層31および磁性体層33と拡散し一部島状となっている構造も確認しており、上述のように厚みを変えても同一の効果があることを確認している。
(実施の形態1の変形例)
次に、実施の形態1の変形例について説明する。図5は、実施の形態1にかかるさらに他の薄膜磁石200の断面図である。図5において、図3に示す薄膜磁石100と同じ部分には同じ参照番号を付す。
図5に示すように、薄膜磁石200は、薄膜磁石100と同様、磁性体30が面内方向D10aの結晶磁気異方性を有し、磁性体40が面直方向D10bの結晶磁気異方性を有している。
図3に示す薄膜磁石100では、磁性体40が面直方向D10bと平行な1つの方向に磁化されている。図5に示す薄膜磁石200では、磁性体40が、面直方向D10bと平行な上方向D810bに磁化されている領域40bと面直方向D10bと平行で下方向D910bに磁化されている領域40aとを有する。
より詳細には、薄膜磁石200では、図5に示すように、磁性体40は、磁化の方向が面直方向D10bと平行な下方向D910bすなわち酸化抑制層20cから酸化抑制層20bの方向に磁化された領域40aと、面直方向D10bと平行な上方向D810bすなわち酸化抑制層20bから酸化抑制層20cの方向に磁化された領域40bとを有している。
一般に、面直方向の結晶磁気異方性を有する薄膜磁石では、薄膜の厚さ方向に膜厚に反比例した反磁界が発生するため、磁化の大きさは、薄膜の厚さに大きく依存する。すなわち、膜厚が薄いほど薄膜磁石の磁化の大きさは小さくなる。そのため、磁性体40から外部へ発生する磁束密度が低下しやすくなったり、磁化方向と反対の磁場での磁化反転が生じやすくなったりなどの性能の低下を招きやすい。
薄膜磁石200では、磁性体40での面直方向D10bの磁化の方向が領域40aと領域40bとで反対となっているため、面直方向D10bのうちの下方向D910bに領域40aを貫通した磁束は、面内方向D10aに結晶磁気異方性を有する磁性体30において面内方向D10aに貫通し、さらに、面直方向D10bのうちの上方向D810bに領域40bを貫通する。したがって、磁束が通る磁路長が長くなり反磁界の影響が小さくなるため、磁化は大きくなる。よって、薄膜磁石200において、面直方向D10bの磁化は大きくなるので、磁性体40における磁化の方向は安定したものとなる。磁性体30の代わりに軟磁性層を備えた構成でも磁性体40における磁化の方向の安定は得られるが、熱処理の際に軟磁性層にその表面性の劣化、相互拡散による合金化、または粒子成長などに伴う磁気特性の劣化が生じる。これに対して、上述した薄膜磁石200は、このような問題が生じない。
なお、一例として、磁性体40において、磁性体層41および磁性体層43の積層方向D1(面直方向D10b)での厚さはそれぞれ250nm程度であり、中間層42の積層方向D1(面直方向D10b)での厚さは5〜100nm程度である。また、領域40aおよび領域40bの面内方向D10aでの幅は、例えば、数μm程度である。
(実施の形態2)
[2−1.薄膜磁石の製造方法]
図6は、実施の形態2にかかる薄膜磁石300の断面図である。図6において、図3に示す実施の形態1における薄膜磁石100と同じ部分には同じ参照番号を付す。
図3に示す実施の形態1にかかる薄膜磁石100では、磁性体30の上方に磁性体40が積層されている。図6に示す実施の形態2にかかる薄膜磁石300では、磁性体330と磁性体340とが基板10の同一の上面810上に形成されている。
図6に示すように、実施の形態2にかかる薄膜磁石300では、1つの基板10の上面810上に、面内方向D10aに結晶磁気異方性を有する薄膜磁石300aと、面直方向D10bに結晶磁気異方性を有する薄膜磁石300bとが設けられている。
薄膜磁石300aは、基板10の上面810上に設けられた酸化抑制層320aと、酸化抑制層320aの上面8320a上に設けられた磁性体330と、磁性体330の上面8330上に設けられた酸化抑制層320bとを有している。基板10と酸化抑制層320aと磁性体330と酸化抑制層320bとはこの順で積層方向D1に積層されている。磁性体330は、酸化抑制層320aの上面8320a上に設けられた磁性体層331と、磁性体層331の上面8331上に設けられた中間層332と、中間層332の上面8332上に設けられた磁性体層333とを有している。磁性体層331と中間層332と磁性体層333とはこの順で積層方向D1に積層されている。磁性体層333の上面8333は磁性体330の上面8330を構成する。磁性体330は、面内方向D10aに結晶磁気異方性を有している。
中間層332は、磁性体層331よりも低い保磁力を有してかつ高い残留磁化を有する金属粒子332pを含んでいる。磁性体層331および磁性体層333には金属粒子332pが拡散している。拡散した金属粒子332pの濃度は、中間層332から遠ざかるにつれて減少する。
薄膜磁石300bは、基板10の上面810上に設けられた酸化抑制層320cと、酸化抑制層320cの上面8320cに設けられた磁性体340と、磁性体340の上面8340に設けられた酸化抑制層320dとを有している。基板10と酸化抑制層320cと磁性体340と酸化抑制層320dとはこの順で積層方向D1に積層されている。磁性体340は、酸化抑制層320cの上面8320cに設けられた磁性体層341と、磁性体層341の上面8341上に設けられた中間層342と、中間層342の上面8342に設けられた磁性体層343とを有している。磁性体層341と中間層342と磁性体層343とはこの順で積層方向D1に積層されている。磁性体層343の上面8343は磁性体340の上面8340を構成する。磁性体340は、面直方向D10bに結晶磁気異方性を有している。
中間層342は、磁性体層341よりも低い保磁力を有してかつ高い残留磁化を有する金属粒子342pを含んでいる。磁性体層341および磁性体層343には金属粒子342pが拡散している。拡散した金属粒子342pの濃度は、中間層342から遠ざかるにつれて減少する。
このような構成により、配向の異なる磁性体330および磁性体340が1回の製造工程において同一面内に形成されるので、面内方向D10aおよび面直方向D10bに結晶磁気異方性を有する薄膜磁石300を同時に提供することができる。
[2−2.薄膜磁石の製造方法]
以下、薄膜磁石300の製造方法について説明する。図7Aから図7Jは薄膜磁石300の製造工程を示す断面図である。
薄膜磁石300の製造では、実施の形態1にかかる薄膜磁石100の製造と同様、まず、基板10を用意する。基板10には、例えば、上述したように絶縁体であるSiO2よりなる熱酸化膜が設けられた表面を有するSi基板を用いる。
次に、図7Aに示すように、基板10の上面810に酸化抑制層320aおよび酸化抑制層320cとなる酸化抑制層420aを薄膜工法により形成する。酸化抑制層320aと酸化抑制層320cとは、同一の材料および工法により酸化抑制層420aとして同時に一体に形成される。
酸化抑制層420aは、Taをスパッタリングにより着膜したものである。このとき、基板10の上面810上に着膜した酸化抑制層420aは、アモルファス状態である。なお、酸化抑制層320a(420a)と酸化抑制層320bと酸化抑制層320c(420a)と酸化抑制層320dに含まれる金属は、Taに限らず、Ta、Nb、W、およびMoの少なくとも一つを含む構成であってもよい。
続けて、酸化抑制層420aの上面8420a上に、磁性体層331および磁性体層341となる磁性体層431を薄膜工法により形成する。磁性体層331と磁性体層341とは、同一の材料および同一の工法により磁性体層431として同時に一体に形成される。
磁性体層431は、SmxCoyをスパッタリングにより着膜したものである。磁性体層431を形成するときには、基板10の表面温度を400℃以下に設定する。これにより、磁性体層431は、アモルファス状態で維持される。
尚、SmxCoyの着膜には組成調整された合金を用いてもよいし、単体のSm金属と単体のCo金属をそれぞれの電力の比率を調整し同時スパッタ(コ・スパッタ)し組成制御された合金を用いてもよいし、単体のSm金属と単体のCo金属を厚みの比率を変えて組成制御する超格子構造とした合金を用いてもよい。尚、超格子構造とする場合は、Sm金属層、Co金属層からなる超格子層がアモルファス状態となるように形成する必要があり、1nm以下の超格子構造とすることが好ましい。
次に、図7Bに示すように、薄膜磁石300bが形成される領域における磁性体層431の上面8431の部分8431b上に、メタルマスク350を配置する。そして、図7Cに示すように、メタルマスク350が配置されていない磁性体層431の上面8431の部分8431a上に、中間層332となる中間層432を薄膜工法で形成する。中間層432は、Coをスパッタリングにより着膜したものである。
中間層432を形成するときも、磁性体層431を形成するときと同様に、基板10の温度は400℃以下にする。これにより、磁性体層431の結晶化を抑制し、磁性体層431をアモルファス状態で維持することができる。さらに低温で形成することで高温でのメタルマスク350の構成材料と基板10との熱膨張の差によるマスクのズレやメタルマスク350の温度反りによるパターン精度低下の影響を最小化できる。なお、中間層432を構成するCoは結晶化し、(110)方向に配向している。
次に、図7Dに示すように、メタルマスク350を除去した後、薄膜磁石300aが形成される領域である中間層432の上面8432上にメタルマスク360を配置する。そして、図7Eに示すように、メタルマスク360が配置されていない磁性体層431の上面8431の部分8431b上に中間層342となる中間層442を薄膜工法で形成する。中間層442は、Cuをスパッタリングにより着膜したものである。図では中間層432、442は境界部分P300において互いに隣り合っているが間隔をあけても良いし一部中間層が重なっても良い。
中間層442を形成するときも、磁性体層431を形成するときと同様に、基板10の温度は400℃以下にする。これにより、磁性体層431の結晶化を抑制し、磁性体層431をアモルファス状態で維持することができる。さらに低温で形成することでメタルマスク360と基板10間の熱膨張によるマスクのズレの影響を最小化できる。なお、中間層442を構成するCuは結晶化し、(111)方向に配向している。
次に、図7Fに示すように、メタルマスク360を除去する。その後、図7Gに示すように、中間層432の上面8432と中間層442の上面8442上に、磁性体層333および磁性体層343となる磁性体層433を薄膜工法で形成する。磁性体層333と磁性体層343とは、同一の材料および同一の工法により磁性体層433として同時に一体に形成される。
磁性体層433は、SmxCoyをスパッタリングにより着膜したものである。磁性体層433を形成するときも、磁性体層431を形成するときと同様、基板10の温度は400℃以下にする。これにより、磁性体層333の結晶構造は、アモルファス状態で維持される。
なお、一例として、磁性体層431、中間層432および磁性体層433を形成する際の温度は室温であり、これらの層の形成の開始時の基板10の表面温度は16℃〜25℃であってもよい。
次に、図7Gに示すように、磁性体層433の上面8433上に酸化抑制層320bおよび酸化抑制層320dとなる酸化抑制層420bを薄膜工法で形成する。酸化抑制層320bと酸化抑制層320dとは、同一の材料および工法により酸化抑制層420bとして同時に一体に形成される。
酸化抑制層420bは、酸化抑制層420aと同様、Taをスパッタリングにより着膜したものである。このとき、磁性体層433の上面8433上に着膜した酸化抑制層420bは、アモルファス状態である。
次に、図7Hに示すように、酸化抑制層420bの上面8420b上にレジスト370を配置する。レジスト370は、中間層432と中間層442との境界部分P300を含まない領域、すなわち、薄膜磁石300aおよび薄膜磁石300bが最終的に形成される領域の酸化抑制層420bの上面8420b上に配置される。レジスト370から酸化抑制層420bの上面8420bの部分8420eが露出する。
続けて、図7Iに示すように、レジスト370が配置されなかった領域すなわちレジスト370から露出する酸化抑制層420bの上面8420bの部分8420eから、中間層432と中間層442の境界部分P300を含むように、酸化抑制層420aと磁性体層431と中間層432と中間層442と磁性体層433と酸化抑制層420bとを貫通して基板10の上面810まで達する孔380をエッチングにより形成する。孔380により、酸化抑制層420aは酸化抑制層320a、320cに分離し、磁性体層431は磁性体層331、341に分離し、中間層432、442は互いに離れてそれぞれ中間層332、342となり、磁性体層433は磁性体層333、343に分離し、酸化抑制層420bは酸化抑制層320b、320dに分離する。これにより、酸化抑制層320aと磁性体層331と中間層332と磁性体層333と酸化抑制層320bとを有する薄膜磁石300aが、酸化抑制層320bと磁性体層341と中間層342と磁性体層343と酸化抑制層320dとを有する薄膜磁石300bから分離される。このときのエッチングは、ウェットエッチングを用いてもよいし、反応性イオンエッチング、イオンミリングなどのドライエッチングを用いてもよい。
次に、図7Jに示すように、レジスト370をレジスト剥離剤やアッシングなどにより酸化抑制層320b、320dの上面8320b、8320dから剥離する。これにより、薄膜磁石300aにおいては、基板10上に、酸化抑制層20aと、磁性体層331と、中間層332と、磁性体層333と、酸化抑制層20bとが積層された構成が形成される。また、薄膜磁石300bにおいては、基板10上に、酸化抑制層320cと、磁性体層341と、中間層342と、磁性体層343と、酸化抑制層320dとが積層された構成が形成される。
次に、上述のように薄膜磁石300aと薄膜磁石300bとが形成された基板10を、熱処理により結晶化する。熱処理の条件は、上述した実施の形態1にかかる薄膜磁石100の熱処理の条件と同様であるため、詳細な説明は省略する。
尚、レジスト370は感光性の有機レジストを前提として記載しているが、非磁性体の金属材料や酸化物材料等の無機材料をマスク蒸着などによりパターニング形成し、この無機材料をレジストの代替として用いることも可能である。このようにすれば、パターニング後にレジストを剥離する行程を省くことが可能となり、薄膜形成、パターニング、熱処理工程を真空雰囲気を破ることなく工程を進めることができ、磁石330と磁石340間の孔380の側面に露出した磁石330、340の酸化を抑制することが出来るためより好ましい。
非磁性体の金属材料として例えば、TaやW、非磁性体の酸化物としてSiO2などを用いることが出来るが、後の行程であるエッチング時の選択性を考慮して材料を選定すればよい。尚、非磁性体の金属材料として酸化抑制層320b、320dと同一材料を用いることもできるが、この場合、エッチング後にも320b、320dが酸化抑制層として機能するだけの膜厚が残る必要がある。
熱処理を行うことにより、中間層332を構成するCoの金属粒子は、磁性体層331および磁性体層333へ拡散する。また、磁性体層331および磁性体層333は結晶化し、このとき、中間層332の配向に応じて配向する。上述のように、(110)方向に配向したCoを中間層332に用いた場合、熱処理後の薄膜磁石100において、磁性体層331および磁性体層333は、六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(11−20)面が基板10の基板面に対して平行となるように配向する。したがって、磁性体層331および磁性体層333は、面内方向に結晶磁気異方性を有することとなる。
また、熱処理を行うことにより、中間層342を構成するCuの金属粒子は、磁性体層341および磁性体層343へ拡散する。また、磁性体層341および磁性体層343は結晶化し、このとき、中間層342の配向に応じて配向する。上述のように、(111)方向に配向したCuを中間層342に用いた場合、熱処理後の薄膜磁石100において、磁性体層341および磁性体層343は、六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(0001)面が基板10の基板面に対して平行となるように配向する。したがって、磁性体層341および磁性体層343は、面直方向に結晶磁気異方性を有することとなる。
以上のように、熱処理を行う工程により、中間層332の下方に形成された磁性体層331と、中間層332と、中間層332の上方に形成された磁性体層333とは、磁性体330を構成し、中間層342の下方に形成された磁性体層341と、中間層342と、中間層342の上方に形成された磁性体層343とは、磁性体340を構成する。磁性体330は、基板10の面810に対して平行である面内方向D10aに結晶磁気異方性を有し、磁性体340は、基板10の面810に対して垂直である面直方向D10bに結晶磁気異方性を有する。
その後、磁性体330および磁性体340の着磁を行う。着磁の方法は、磁化の方向と平行に磁性体330、340中を磁束が貫通するように、磁性体330、340に対して磁界を印加する。
一般的に磁性体の磁化が困難な軸方向への磁気飽和に必要な磁界は磁化が容易な軸方向と比較し十分大きいため、例えば面内磁気異方性を持つ磁性体330の磁化が困難な軸方向(面直方向D10b)の磁気飽和に必要な磁界は、面直磁気異方性を持つ磁性体340の磁化が容易な軸方向(面直方向D10b)の磁気飽和に必要な磁界より十分大きく、磁性体40の磁化が困難な軸方向(面内方向D10a)の磁気飽和に必要な磁界は、磁性体30の磁化が容易な軸方向(面内方向D10a)の磁気飽和に必要な磁界より十分大きい。従って、磁性体330および磁性体340のそれぞれの磁化が容易な軸方向の保磁力を比較し、保磁力が大きい方の磁性体の磁化が容易な軸方向から着磁すれば良い。また磁性体330の磁化が容易な軸方向(面内方向D10a)と磁性体340の磁化が容易な軸方向(面直方向D10b)の保磁力が等しい場合は、磁性体340の方が反磁界の影響で飽和に必要な磁界が大きくなるため、磁性体340から着磁すれば良い。
また、磁性体330に対して着磁を行う場合は、磁性体330の磁気飽和に必要な磁界以上で且つ磁性体340の保磁力よりも小さい磁束で着磁を行う方が好ましい。
上述の製造方法により、磁性体330は面内方向D10aに磁界を発生し、磁性体340は面直方向D10bに磁界を発生する。
なお、磁気飽和に必要な磁界の大小関係は、SmとCoとの組成比率や、結晶配向性、粒子径、添加物などの様々な条件やその組み合わせによって、面内方向D10aと面直方向D10bとで上述した順序とは逆になるが、そのときは着磁の順序も逆にしてもよい。
なお、実施の形態1では熱処理と磁化処理を別々に行うが、熱処理と着磁処理を同時に行ってもよい。
[2−3.効果等]
以上、実施の形態2にかかる薄膜磁石300では、配向の異なる磁性体330および磁性体340が同一面810内に形成されるので、面内方向D10aおよび面直方向D10bに結晶磁気異方性を有する薄膜磁石300を同時に得ることができる。
(実施の形態3)
図8は実施の形態3にかかる電子デバイス1001の概略図である。電子デバイス1001は実施の形態1、2における薄膜磁石100(200、300)を備える。電子デバイス1001は、例えば、センサ、アクチュエータ、モータである。
以上、本開示の実施の形態に係る薄膜磁石について説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。
例えば、上述した実施の形態では、磁性体層を構成する材料としてR(希土類元素)−Co(コバルト)化合物の具体例としてSmxCoyを用いたが、磁性体層を構成する材料はこれに限られず、希土類元素としてPr、Nd、Y、La、Gdを用いても良い。また、SmxCoyのCoとの一部をCuとFeに置き換えた材料を用いてもよいし、添加物としてZrなどを混入させた材料を用いてもよい。また、Coとの代わりにFeを用い、Sm2Fe17N3としてもよい。
また、酸化抑制層は、上述したようにTaを含む材料に限らず、Taの代わりに、Nb、WまたはMoを含んでいてもよい。また、全ての酸化抑制層に同一の材料を使用してもよいし、互いに異なる材料を使用してもよい。
また、基板は、SiO2よりなる熱酸化膜が形成された表面を有するSi基板に限らず、例えば、耐熱ガラス、サファイア基板、もしくはMgO基板などの単結晶基板、セラミック(Al2O3やZrO2、MgOを主成分としたもの)基板、またはセラミック基板上に耐熱ガラスグレーズを形成したものであってもよい。
また、酸化抑制層と磁性体層中間層は、上述した実施の形態に示したようにスパッタリングにより形成されてもよいし、他の方法により形成されてもよい。また、熱処理の温度は、上述した温度に限らず、材料に応じて適宜変更してもよい。
また、実施の形態1、2では、薄膜磁石すなわち磁性材料を例として上述した構成および製造方法について説明したが、磁性材料に限らず、例えば、圧電材料などの他の材料についても、上述した構成および製造方法を適用してもよい。
また、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
上述のように、実施の形態1にかかる薄膜磁石100は、基板10と、基板10上に形成されたアモルファス状態の酸化抑制層20aと、酸化抑制層20a上に形成された磁性体30と、磁性体30上に形成されたアモルファス状態の酸化抑制層20bと、酸化抑制層20b上に形成された磁性体40と、磁性体40上に形成されたアモルファス状態の酸化抑制層20cとを備える。磁性体30は、酸化抑制層20a上に形成された磁性体層31と、磁性体層31上に形成された中間層32と、中間層32上に形成された磁性体層33とを有する。中間層32は金属粒子32pを含む。磁性体40は、酸化抑制層20b上に形成された磁性体層41と、磁性体層41上に形成された中間層42と、中間層42上に形成された磁性体層43とを有する。中間層42は金属粒子42pを含む。磁性体30と磁性体40のうちの一方の磁性体は、基板10の面810に対して平行である面内方向D10aに結晶磁気異方性を有する。磁性体30と磁性体40のうちの他方の磁性体は、基板10の面810に対して垂直である面直方向D10bに結晶磁気異方性を有している。
この構成によれば、配向の異なる磁性体30および磁性体40が1回の製造工程において積層されるので、面内方向D10aおよび面直方向D10bに結晶磁気異方性をそれぞれ有する磁性体30、40が同一の基板10に積層された薄膜磁石100を形成することができる。また、エネルギー積が高く、保磁力が必要十分に大きいと共に残留磁束密度が大きい薄膜磁石100を形成することができる。
また、酸化抑制層20a、20b、20cは、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、W(タングステン)、およびMo(モリブデン)の少なくとも一つを含んでいてもよい。
この構成によれば、酸化抑制機能の高い酸化抑制層20a、20b、20cを形成することができる。
実施の形態2にかかる薄膜磁石300は、基板10と、基板10上に形成されたアモルファス状態の酸化抑制層320aと、酸化抑制層320a上に形成された磁性体330と、磁性体330上に形成されたアモルファス状態の酸化抑制層321bと、基板10上に形成されたアモルファス状態の酸化抑制層320cと、酸化抑制層320c上に形成された磁性体340と、磁性体340上に形成されたアモルファス状態の酸化抑制層320dとを備える。磁性体330は、酸化抑制層320a上に形成された磁性体層331と、磁性体層331上に形成された中間層332と、中間層332上に形成された磁性体層333とを有する。中間層332は金属粒子332pを含む。磁性体340は、酸化抑制層320c上に形成された磁性体層341と、磁性体層341上に形成された中間層342と、中間層342上に形成された磁性体層343とを有する。中間層342は金属粒子342pを含む。磁性体330および磁性体340のうちの一方の磁性体は、基板10の面810に対して平行である面内方向D10aに結晶磁気異方性を有する。磁性体330と磁性体340のうちの他方の磁性体は、基板10の面810に対して垂直である面直方向D10bに結晶磁気異方性を有している。
この構成によれば、配向の異なる磁性体330および磁性体340が1回の製造工程において同一の面内に形成されるので、面内方向D10aおよび面直方向D10bに結晶磁気異方性を有する薄膜磁石300を1回の製造工程において形成することができる。
また、酸化抑制層320a、320b、320c、320dは、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、W(タングステン)、およびMo(モリブデン)の少なくとも一つを含んでいてもよい。
この構成によれば、酸化抑制機能の高い酸化抑制層320a、320b、320c、320dを形成することができる。
また、中間層32(332)と中間層42(342)のうちの一方は、(110)方向に配向した立方晶構造の結晶または(11−20)方向に配向した六方晶構造の結晶で構成されていてもよく、中間層32(332)と中間層42(342)のうちの他方は、(111)方向に配向した立方晶構造の結晶または(0001)方向に配向した六方晶構造の結晶で構成されてもよい。
この構成によれば、中間層32、42(332、342)の配向に応じて、磁性体層31、33、41、43(331、333、341、343)の配向を面内方向D10aまたは面直方向D10bに容易に制御することができる。
また、上記(110)方向に配向した立方晶構造の結晶または(11−20)方向に配向した六方晶構造の結晶は、Co(コバルト)およびFe(鉄)の少なくともいずれかを含む結晶であり、上記(111)方向に配向した立方晶構造または(0001)方向に配向した六方晶構造の結晶は、Ti(チタン)またはZr(ジルコニウム)を含む結晶であってもよい。
この構成によれば、中間層32、42(332、342)にCoを用いることにより、磁性体層31、33、41、43(331、333、341、343)の配向を面内方向D10aに容易に制御することができる。また、中間層32、42(332、342)にCuを用いることにより、磁性体層31、33、41、43(331、333、341、343)の配向を面直方向D10bに容易に制御することができる。
また、金属粒子32p(332p)は、磁性体層31(331)中と磁性体層33、(333)中とに拡散しており、磁性体層31(331)中と磁性体層33、(333)中とでの金属粒子32p(332p)の濃度は中間層32(332)から遠ざかるにつれて減少していてもよい。さらに、金属粒子42p(342p)は、磁性体層41(341)中と磁性体層43(343)中とに拡散しており、磁性体層41(341)中と磁性体層43(343)中とでの金属粒子42p(342p)の濃度は中間層42(342)から遠ざかるにつれて減少していてもよい。
この構成によれば、中間層32、42(332、342)を構成する金属粒子32p、42p(332p、342p)の拡散により、中間層32、42(332、342)の配向に応じて、磁性体層31、33、41、43(331、333、341、343)の配向を面内方向D10aまたは面直方向D10bに容易に制御することができる。
また、磁性体30(330)と磁性体40(340)のうちの上記一方の磁性体は、面内方向D10aにおいて等方に結晶磁気異方性を生じるように結晶が配置されていてもよい。
この構成によれば、同一の基板10において、面内方向D10aおよび面直方向D10bの任意の方向に保磁力の大きい薄膜磁石100(300)を同時に形成することができる。
また、中間層32(332)は、磁性体層31(331)よりも結晶化温度が低く、中間層42、(342)は、磁性体層41(341)よりも結晶化温度が低くてもよい。
この構成によれば、中間層32、42(332、342)を結晶化しても、磁性体層31、41(331、341)をアモルファス状態で維持することができる。
また、磁性体層31、33、41、43(331、333、341、343)はSm、Pr、Nd、Y、La、Gd内の1つと、Coとを含んでいてもよい。
この構成によれば、Smを含む材料、例えば、SmxCoyを磁性体層31、33、41、43(331、333、341、343)に使用することにより、エネルギー積の高い薄膜磁石を提供することができる。
また、薄膜磁石100は以下の方法で作成することができる。まず、基板10上に、アモルファス状態の酸化抑制層20aを形成する。酸化抑制層20a上に、アモルファス状態の磁性体層31を形成する。磁性体層31上に、金属粒子32pを含む中間層32を形成する。中間層32上に、アモルファス状態の磁性体層33を形成する。磁性体層33上に、アモルファス状態の酸化抑制層20bを形成する。酸化抑制層20b上に、アモルファス状態の磁性体層41を形成する。磁性体層41上に、金属粒子42pを含む中間層42を形成する。中間層42上に、アモルファス状態の磁性体層43を形成する。磁性体層43の上に、アモルファス状態の酸化抑制層20cを形成する。酸化抑制層20a、20b、20cと磁性体層31、33、42、43と中間層32、42に熱処理を行う。熱処理により、磁性体層31、33と中間層32とは磁性体30を構成する。磁性体層41、43と中間層42とは磁性体40を構成する。磁性体30と磁性体40ののうちの一方の磁性体は基板10の面810に対して平行である面内方向D10aに結晶磁気異方性を有しする。磁性体30と磁性体40のうちの他方の磁性体は、基板10の面810に対して垂直である面直方向D10bに結晶磁気異方性を有する。
この構成によれば、配向の異なる磁性体30、40が1回の製造工程において積層されるので、面内方向D10aおよび面直方向D10bに磁気異方性を有する磁性体30、40が同一の基板10に積層された薄膜磁石100を形成することができる。また、エネルギー積が高く、保磁力が必要十分に大きいと共に残留磁束密度が大きい薄膜磁石100を形成することができる。
また、中間層32と中間層42のうちの一方の中間層を、(110)方向に配向した立方晶構造の結晶または(11−20)方向に配向した六方晶構造の結晶で形成してもよく、中間層32と中間層42のうちの他方の中間層を、(111)方向に配向した立方晶構造の結晶または(0001)方向に配向した六方晶構造の結晶で形成してもよい。
この構成によれば、中間層32、42の配向に応じて、磁性体層31、33、41、43の配向を面内方向D10aまたは面直方向D10bに容易に制御することができる。
また、磁性体層31、33、41、43を形成する工程において、磁性体層31、33、41、43はSm、Pr、Nd、Y、La、Gdの内の少なくとも1つと、Coとを含む材料で形成されてもよい。
この構成によれば、Smを含む材料、例えば、SmxCoyを磁性体層31、33、41、43に使用することにより、エネルギー積の高い薄膜磁石100を得ることができる。
また、磁性体層31、33、41、43を形成する工程において、磁性体層31、33、41、43をアモルファス状態に形成し、中間層32、42を形成する工程において、中間層32、42を結晶化させて形成し、熱処理により磁性体層31、33、41、43を結晶化させてもよい。
この構成によれば、中間層32、42の配向に応じて、磁性体層31、33、41、43の配向を容易に制御することができる。
また、磁性体層31、33、41、43を形成する工程において、基板10の表面温度を400℃以下として磁性体層31、33、41、43を形成してもよく、中間層32、42を形成する工程において、基板10の表面温度を400℃以下として中間層32、42を形成してもよく、熱処理において、基板10の表面温度を500℃以上として酸化抑制層20a、20b、20cと磁性体層31、33、41、43と中間層32、42に熱処理を行ってもよい。
この構成によれば、中間層32を形成するときに、中間層32を結晶化し、磁性体層31をアモルファス状態で維持することができる。また、中間層42を形成するときに、中間層42を結晶化し、磁性体層41をアモルファス状態で維持することができる。したがって、中間層32の配向に応じて、磁性体層31、33の配向を容易に制御することができる。また、中間層42の配向に応じて、磁性体層41、43の配向を容易に制御することができる。
また、薄膜磁石300は以下の方法で作製することができる。基板10上に、アモルファス状態の酸化抑制層420aを形成する。酸化抑制層420a上に、アモルファス状態の磁性体層431を形成する。磁性体層431上の一部に、金属粒子332pを含む中間層432を形成する。磁性体層431上に、金属粒子342pを含む中間層442を形成する。中間層432、442上に、アモルファス状態の磁性体層433を形成する。磁性体層433上に、アモルファス状態の酸化抑制層420bを形成する。酸化抑制層420a、420bと磁性体層431、433とを貫通する孔380を形成する。孔380を形成した後、酸化抑制層420a、420bと磁性体層431、433と中間層432、442に熱処理を行う。熱処理により、中間層332の下方に位置する磁性体層431の部分(磁性体層331)と、中間層332と、中間層332の上方に位置する磁性体層433の部分(磁性体層333)とは磁性体330を構成する。中間層342の下方に位置する磁性体層431の部分(磁性体層341)と、中間層342と、中間層342の上方に位置する磁性体層433の部分(磁性体層343)とは磁性体340を構成する。磁性体330、340のうちの一方の磁性体は、基板10の面810に対して平行である面内方向D10aに結晶磁気異方性を有する。磁性体330、340のうちの他方の磁性体は、基板10の面810に対して垂直である面直方向D10bに結晶磁気異方性を有する。
この構成によれば、配向の異なる磁性体330、340が1回の製造工程において同一面内に形成されるので、面内方向D10aおよび面直方向D10bに磁気異方性を有する薄膜磁石300を1回の製造工程において形成することができる。
また、中間層332、342のうちの一方の中間層を、(110)方向に配向した立方晶構造の結晶または(11−20)方向に配向した六方晶構造の結晶で形成してもよく、中間層332、342のうちの他方の中間層を、(111)方向に配向した立方晶構造の結晶または(0001)方向に配向した六方晶構造の結晶で形成してもよい。
この構成によれば、中間層332、342の配向に応じて、磁性体層331、333、341、343の配向を面内方向D10aまたは面直方向D10bに容易に制御することができる。
また、磁性体層431、433を形成する工程において、磁性体層431、433は、Sm、Pr、Nd、Y、La、Gdの内の少なくとも1つと、Coとを含む材料で形成されてもよい。
この構成によれば、Sm、Pr、Nd、Y、La、Gdの内の少なくとも1つと、Coとを含む材料、例えば、SmxCoyを磁性体層431、433に使用することにより、エネルギー積の高い薄膜磁石300を提供することができる。
中間層432、442を形成する工程において、中間層432、442を結晶化させて形成し、熱処理により磁性体層331、333、341、343を結晶化させてもよい。
この構成によれば、中間層332、342の配向に応じて、磁性体層331、333、341、343の配向を容易に制御することができる。
また、磁性体層431、433を形成する工程において、基板10の表面温度を400℃以下として磁性体層431、433を形成してもよく、中間層432、442を形成する工程において、基板10の表面温度を400℃以下として中間層432、442を形成してもよい。熱処理を行う工程において、基板10の表面温度を500℃以上として酸化抑制層320a〜320dと磁性体層331、333、341、343と中間層332、342とに熱処理を行ってもよい。
この構成によれば、中間層332、342を形成するときに、中間層332、342を結晶化し、磁性体層331と磁性体層333をアモルファス状態で維持することができる。中間層332、342の配向に応じて、磁性体層331、333、341、343の配向を容易に制御することができる。
また、中間層442は中間層432に境界部分P300で隣り合っていてもよい。この場合、孔380は、境界部分P300を含むように、酸化抑制層420a、420bと磁性体層431、433と中間層432、442とを貫通してもよい。
(実施の形態4)
[4−1.薄膜磁石の構成]
図9は実施の形態4にかかる薄膜磁石100aの断面図である。図9において、図1Aに示す実施の形態1にかかる薄膜磁石1と同じ部分には同じ参照番号を付す。薄膜磁石100aは図1Aに示す実施の形態1における薄膜磁石1と同じ構成を有する。
[4−2.薄膜磁石の製造方法]
以下、実施の形態4にかかる薄膜磁石100aの製造方法について説明する。図10は薄膜磁石100aの製造工程を示すフローチャートである。
図10に示すように、薄膜磁石100aの製造では、まず、基板10を用意する(ステップS10)。基板10には、例えば、上述したようにSiO2よりなる熱酸化膜が形成された表面を有するSi基板を用いる。
次に、基板10の上面810上に酸化抑制層20aを薄膜工法により形成する(ステップS11)。酸化抑制層20aは、Taをスパッタリングにより着膜したものである。このとき、基板10の上面810上に着膜した酸化抑制層20aは、アモルファス状態である。なお、酸化抑制層20aおよび酸化抑制層20bに含まれる金属は、Taに限らず、Ta、Nb、W、およびMoの少なくとも一つを含む構成であってもよい。
次に、酸化抑制層20aの上面820a上に磁性体層31を薄膜工法により形成する(ステップS12)。磁性体層31は、SmxCoyをスパッタリングにより着膜したものである。磁性体層31を形成するときには、基板10の表面温度を400℃以下に設定する。基板10の表面温度を400℃以下とするのは、磁性体層31をアモルファス状態とするために、SmxCoyの結晶化温度未満の温度で磁性体層31を形成する必要があるからである。
なお、基板10の表面温度は、同一の熱容量を有した基板に熱電対を埋め込み基板の温度を事前に測定した結果に基づいて設定する。基板10の温度の下限は、スパッタリングの反応速度、および冷却能力を考慮して室温としてもよい。また、冷却能力を有する装置を用いる場合には、基板10の温度の下限を室温より低温としてもよい。
このように、基板10の温度をSmxCoyの結晶化温度未満に設定することにより、SmxCoyをスパッタリングで着膜した直後の磁性体層31の結晶構造は、アモルファス状態となる。
次に、磁性体層31の上面831上に中間層32を薄膜工法で形成する(ステップS13)。中間層32は、Coをスパッタリングにより着膜したものである。中間層32を形成するときも、磁性体層31を形成するときと同様に、基板10の温度は400℃以下にする。これにより、磁性体層31の結晶化を抑制し、磁性体層31をアモルファス状態に維持することができる。なお、中間層32を構成するCoは結晶化し、(110)方向に配向している。Coを(110)方向に配向するようにCoを結晶化させるには、スパッタリングの形成条件を制御することでできる。
次に、中間層32の上面832上に磁性体層33を薄膜工法で形成する(ステップS14)。磁性体層33は、SmxCoyをスパッタリングにより着膜したものである。磁性体層33を形成するときも、磁性体層31を形成するときと同様、基板10の温度は400℃以下にする。これにより、SmxCoyをスパッタリングで着膜した直後の磁性体層33の結晶構造は、アモルファス状態となる。
なお、一例として、磁性体層31、中間層32、および磁性体層33を形成する際の温度は室温であり、これらの層の形成開始時の基板10の表面温度は16℃〜25℃であってもよい。
次に、磁性体層33の上面833上に酸化抑制層20bを薄膜工法で形成する(ステップS15)。酸化抑制層20bは、酸化抑制層20aと同様、Taをスパッタリングにより着膜したものである。このとき、磁性体層33の上面833上に着膜した酸化抑制層20bは、アモルファス状態である。
次に、酸化抑制層20a、磁性体層31、中間層32、磁性体層33、および酸化抑制層20bが形成された基板10を熱処理により結晶化する(ステップS16)。熱処理は、真空雰囲気もしくは還元雰囲気もしくは非酸化雰囲気で行うことが好ましい。真空雰囲気については、残留酸素や残留水分を十分に除去した超高真空もしくは超々高真空雰囲気が好ましい。還元雰囲気については、超々高真空に排気した後に水素で置換した水素雰囲気が好ましく、非酸化雰囲気では超々高真空に排気した後にAr(アルゴン)で置換した雰囲気などが好ましい。
熱処理の温度は、基板10の表面温度が500℃以上となるように設定する。熱処理の基板10の温度の上限は特にないが、熱処理の装置からの脱離ガスなどが磁性体30中に拡散して磁性体層31および磁性体層33が酸化されない範囲であればよい。また、熱処理の温度は、酸化抑制層20aおよび酸化抑制層20bがアモルファス状態を維持できるように、酸化抑制層20aおよび酸化抑制層20bの結晶化温度よりも低い温度とすることが好ましい。
一例として、熱処理による結晶化は、基板10の表面温度が500℃以上700℃以下の真空中において行ってもよい。また、加熱開始前の装置の背圧を10−4Pa以下、加熱時の圧力を5×10−4Pa以下としてもよい。
なお、熱処理を行うときの基板10の温度および真空条件は、これらの条件に限らず、脱離ガスの磁性体30中への拡散により磁性体層31および磁性体層33が酸化されるのを抑制することができる雰囲気であればよい。例えば、熱処理時の真空度は、10−3Pa以下としてもよい。
熱処理を行うことにより、中間層32を構成するCoの金属粒子32pは、磁性体層31および磁性体層33へ拡散する。また、磁性体層31および磁性体層33は結晶化し、このとき、中間層32の配向に応じて配向する。上述のように、(110)方向に配向したCoを中間層32に用いた場合、熱処理後の薄膜磁石100aにおいて、磁性体層31および磁性体層33は、六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(11−20)面が基板10の面810に対して平行となるように配向する。したがって、磁性体層31および磁性体層33は、面内方向D10aに結晶磁気異方性を有することとなる。
なお、上述した中間層32の製造工程において、中間層32を、(110)方向に配向したCoに代えて(111)方向に配向したCuで形成した場合、熱処理後の薄膜磁石100aにおいて、磁性体層31および磁性体層33は、六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(0001)面が基板10の面810に対して平行となるように配向する。したがって、磁性体層31および磁性体層33は、面直方向D10bに結晶磁気異方性を有することとなる。
上記製造方法により製造した薄膜磁石100aの結晶構造および磁気特性について、以下のような評価を行った。
[4−3.薄膜磁石の結晶構造の評価]
はじめに、薄膜磁石100aの結晶構造の評価を行った。
まず、(110)方向に配向したCoを中間層32に用いた場合の、薄膜磁石100aの結晶構造について説明する。図11は、実施の形態4にかかる熱処理後の薄膜磁石100aの走査型透過電子顕微鏡像の写真図である。図12は薄膜磁石100aの熱処理後の結晶構造を示すグラフである。
図11に示すように、薄膜磁石100aにおいて、磁性体層31および磁性体層33では、結晶の形状が、積層方向D1の中央に位置する中間層32から紙面の上下方向に配置された酸化抑制層20aおよび酸化抑制層20bの方向に、即ち、積層方向D1に延びた構造を有している。
図12は薄膜磁石100aのX線回折の2θ/θ法による回折像である。図12に示すように、薄膜磁石100aは(11−20)面を示すピークのみを有する。即ち、薄膜磁石100aは、基板10の面810に対して概平行に六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(11−20)面が優先的に配向している。
図13は、熱処理を行う前の薄膜磁石100aの結晶構造を示すグラフである。図13は薄膜磁石100aのX線回折の2θ/θ法による回折像である。
熱処理を行う前の薄膜磁石100aは、図13に示すように、結晶化を示す回折がない。この理由は、薄膜磁石100aの体積のほとんどを占めている磁性体層31および磁性体層33が結晶化していないためであり、磁性体層31および磁性体層33がアモルファス構造であることを示している。なお、走査型透過電子顕微鏡の電子線回折により、熱処理前の薄膜磁石100aにおいて、中間層32の結晶は立方晶のCoであり、基板10の面810と平行方向に配向している面は(110)面であることが確認されている。また、熱処理前の薄膜磁石100aにおいて、酸化抑制層20aおよび酸化抑制層20bについても、アモルファス状態であることが確認されている。
図13において、中間層32を構成する立方晶のCo(110)の回折ピークが確認されていない理由としては、中間層32は、磁性体層31ならびに磁性体層33と比較し十分に薄い膜であることと、中間層32上に配置されたアモルファス状態の磁性体層33により回折が散乱されていることが考えられる。
従って、熱処理前には磁性体層31と磁性体層33は結晶化されておらず、中間層32の結晶構造は立方晶であり、中間層32は基板10の面810に対して平行方向にCoの(110)面が結晶配向していることが分かる。また、熱処理によって熱処理前の中間層32を起点として磁性体層31と磁性体層33の結晶化が行われることが分かる。さらに、結晶化によって中間層32に含まれるCoの金属粒子32pは、磁性体層31および磁性体層33中に拡散してSmCo5やSm2Co17の結晶を形成する。かつ、SmCo5やSm2Co17の結晶の(110)面である六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(11−20)面が基板10の面810と平行方向に結晶配向することも確認している。なお、酸化抑制層20a、20bは、アモルファス状態であることを確認している。
中間層32を備えていないこと以外は実施の形態4における薄膜磁石100aと同様の構成を有する比較例の薄膜磁石を準備した。図14は、中間層32を備えていない比較例の薄膜磁石の走査型透過電子顕微鏡像の写真図である。図15は、比較例の薄膜磁石の結晶構造を示すグラフであり、X線回折の2θ/θ法による回折像である。
図14に示すように、中間層32を備えていない比較例の薄膜磁石の結晶は、結晶の成長方向に規則性はみられない。
また、図15に示すように、比較例の薄膜磁石の結晶は、(110)面以外の回折ピークが複数確認されており、その強度比からも特定方向への結晶配向を有していないことが分かる。したがって、中間層32を設けることによって、磁性体層31と磁性体層33は特定方向に結晶配向することが分かる。
図16は、実施の形態4にかかる薄膜磁石100aの熱処理後の走査型透過電子顕微鏡像の写真図である。図17は、図16に示す薄膜磁石100aの組成比を示す。
図16は、薄膜磁石100aの基板10を除く断面を示す。図17は薄膜磁石100aの11箇所の点A〜Kにおける組成の測定結果を示している。図16の紙面の下方は基板10の側である。図16は、11箇所の点A〜KにおけるCoの原子の数を折れ線51で示し、Smの原子の数を折れ線52、Taの原子の数を折れ線53によって示している。図16に示す折れ線51、52、53は、紙面の縦方向は、点A〜Kに対応し、紙面の横方向は各元素の原子の数の割合に対応している。折れ線51、52、53は、紙面の右方向に行くほど割合が多いことを示している。
図17は、11箇所の点A〜Kにおける成分のエネルギー分散型X線分析による測定結果を示している。図17に示す数値は、各元素の原子の数の割合を百分率で示している。
図16および図17より、薄膜磁石100aの点Aおよび点Kでは、Taの成分が周囲に比べ局部的に多いことが分かる。点Aは酸化抑制層20b、点Kは酸化抑制層20aに該当する位置である。点Aと点Kの結果から、酸化抑制層20aと磁性体層31ならびに酸化抑制層20bと磁性体層33は互いの界面で原子が相互に拡散しており、酸化抑制層20aならびに酸化抑制層20bへ磁性体層31、磁性体層33からそれぞれ磁性体粒子のCoが拡散していることが分かる。
しかしながら、Coの拡散は、酸化抑制層のTaの体積に依存することが分かっており、酸化抑制層20aと酸化抑制層20bの厚みを薄くすることで限定的とすることができる。
なお、磁性体層31および磁性体層33から酸化抑制層20aおよび酸化抑制層20bへと磁性体粒子のCoが拡散することで、酸化抑制層20aと磁性体層31との境界付近では、酸化抑制層20aに含まれる磁性体粒子のCoと磁性体層31に含まれるTaとが合金を形成する。同様に、磁性体層33と酸化抑制層20bとの境界付近では、酸化抑制層20bに含まれる磁性体粒子のCoと酸化抑制層20bに含まれるTaとが合金を形成する。これらの合金も、アモルファス状態であることを確認している。
また、酸化抑制層20aにより、基板10の構成材料であるSiO2から磁性体層31中への酸素の拡散を抑制できる。また、酸化抑制層20bにより、外部から磁性体層33中へ酸素が侵入するのを抑制することができる。本実施の形態では、Taを含む層、すなわち、酸化抑制層20aおよび酸化抑制層20bの積層方向D1での厚みはそれぞれ約10nmとしているが、上述した機能を果たす厚みであれば、より薄くすることもできる。
図16及び図17において、点B〜Eおよび点G〜Jでは、Coの含まれる割合は約83%前後であり、Smの含まれる割合は約17%前後である。この構成は、走査型透過電子顕微鏡による電子線回折の結果から、SmCo5と同一の結晶構造であることを確認している。なお、点B〜Eは磁性体層33、点G〜Jは磁性体層31に該当する位置である。
一方、点Fでは、Coの含まれる割合が約90%であり、Smの含まれる割合は約10%である。この構成は、Sm2Co17と同様の結晶構造であることを確認している。中間層32の厚みの異なる膜では、この他にSmCo5などの結晶構造も確認している。また、薄膜磁石100aの形成時に、中間層32の主成分であるCoの厚みが大きい場合は、中間層32として、結晶構造のものの他に熱処理前の立方晶Coの結晶が存在することも分かっている。なお、点Fは中間層32に該当する位置であり、Co単体または磁性体層31、磁性体層33と同一の構成元素を含み、Co単体または磁性体層31、磁性体層33とは異なる組成と異なる結晶構造を有した相である。この相は、磁気特性として磁性体層31、磁性体層33より残留磁束密度が高く保磁力の小さい相である。
中間層32に該当する点Fが、Coの含まれる割合が100%でなく、Smが検出され、その分Coの濃度も約90%になっているのは、磁性体層31および磁性体層33の中間層32との境界部に位置するSmが熱処理工程で拡散したためである。
[4−4.薄膜磁石の磁気特性の評価]
次に、薄膜磁石100aの磁気特性について評価を行った。
まず、(110)方向に配向したCoを中間層32に用いた場合の、薄膜磁石100aの結晶構造について説明する。図18は、実施の形態4にかかる薄膜磁石100aと、中間層32を設けない比較例の薄膜磁石の磁化曲線を示す。図19は、実施の形態4にかかる薄膜磁石100aと比較例の薄膜磁石のB−H曲線の第二象限を示す。
図18は、薄膜磁石100aの面内方向D10aでの磁化曲線61と、比較例の薄膜磁石の磁化曲線63を示している。薄膜磁石100aの面内方向D10aでの磁化曲線61は、比較例の薄膜磁石の磁化曲線63に比べて横軸方向の値が小さく縦軸方向の値が大きく示されていることから、薄膜磁石100aは、保磁力は小さいものの残留磁束密度は大きく、角形性も高いことが分かる。
図19は、実施の形態4にかかる薄膜磁石100aの面内方向D10aのB−H曲線64と、中間層32を設けない比較例の薄膜磁石の面内方向D10aのB−H曲線65との第二象限を示している。
実施の形態4にかかる薄膜磁石100aのB−H曲線64で囲まれる面積は、比較例の薄膜磁石のB−H曲線65で囲まれる面積と比較して大きいことから、磁石のエネルギーを示すBH積は、薄膜磁石100aの方が比較例の薄膜磁石より大きいことが分かる。また、このことから、磁石の重要な性能の一つである最大エネルギー積が大きいことも分かる。
磁性体30を構成するSmCo5の結晶は六方晶であり、およびSm2Co17の結晶は菱面体晶であり、実施の形態にかかる薄膜磁石100aの磁性体30は六方晶または菱面体晶のSmxCoyの(11−20)方向に配向しているので、磁性体30の結晶のc軸は面内方向D10aに平行である。SmCo5の結晶磁気異方性はc軸方向にあるため、磁性体30は面内方向D10aに結晶磁気異方性を有している。
図20は、実施の形態4にかかる薄膜磁石100aの磁化曲線を示す。図20では、薄膜磁石100aの面内方向D10aの磁化曲線61と、面内方向D10aと垂直な積層方向D1の磁化曲線62とを示す。
図20に示すように、上述したように中間層32にCoを用いた場合には、薄膜磁石100aは、積層方向D1の磁化曲線62よりも面内方向D10aの磁化曲線61のほうが大きな磁化を示している。したがって、中間層32に(110)方向に配向したCoを用いることにより、薄膜磁石100aは、面内方向D10aに磁気異方性を有し、面内方向D10aに強い磁界を発生させる。
次に、中間層32を、(110)方向に配向したCoに代えて(111)方向に配向したCuで形成した場合、熱処理後の薄膜磁石100aにおいて、磁性体層31および磁性体層33は、面直方向D10bに結晶磁気異方性を有し、面直方向D10bに強い磁界を発生させる。
以上、実施の形態4にかかる薄膜磁石100aでは、エネルギー積の高いSmxCoyを磁性体層31、33に使用し、中間層32としてCoまたはCuを使用することにより、所定の方向、例えば、面内方向D10aまたは面直方向D10bに磁気異方性を有し、エネルギー積が高く、保磁力が必要十分に大きいと共に残留磁束密度が大きい薄膜磁石100aを形成することができる。
なお、磁性体30の複数の結晶粒子のc軸は概ね面内方向D10aを向いているが、実施の形態4における磁性体30は多結晶構造であり結晶分散を有しているため、全ての結晶粒子のc軸が完全に同一の方向を向いているという意味ではない。例えば、中間層42としてCoを用いた場合、磁性体30は面内方向D10aに磁気異方性を有する。これは、磁性体30の複数の結晶粒子のc軸は概ね面内方向D10aを向いているが、全ての結晶粒子のc軸が完全に面内方向D10aを向いているという意味ではない。実施の形態4における磁性体30は、結晶方向が全体としてc軸方向を向いていればよく、面内方向D10aとc軸が0°以上45°未満の角度を成す結晶粒子の数が、面内方向D10aと45°以上90°以下の角度を成す結晶粒子の数より多ければ、効果の大小はあるものの同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態4にかかる磁性体層31および磁性体層33は、SmxCoyで構成されているが、これに限られない。たとえば、Coとの一部をFeとCuに置き換え、材料としての磁化をさらに上げることも可能である。また、Coと他の元素との置換の効果を上げるために、添加物としてZrなどを磁性体層31、33に混入させてもよい。また、磁性体層31および磁性体層33は、SmxCoyのCoとFeを置換させ、さらに、侵入型の材料であるNを含んだSm2Fe14N3としてもよい。この場合、結晶化の際に窒素置換した雰囲気を用いることで結晶化し窒化処理を行うことで窒素を侵入させたりすることで磁性体層31、33を作製してもよい。詳細には、SmaFebNcのターゲットをArガスとN2ガスの混合雰囲気中で低温スパッタし、基板10の上方にアモルファス状態のSmxFeyNzの層を形成してもよいし、SmFeのターゲットをArガスとN2ガスの混合雰囲気中で低温スパッタし、基板10の上方にアモルファス状態のSmxFeyNzの層を形成してもよい。そして、その後、基板10の上方に形成されたSmFeNの層を真空雰囲気もしくは超々高真空に背圧を真空引きした後に置換した高純度窒素中で熱処理する。これにより、Sm2Fe14N3を結晶化する。
また、中間層32は、Coに代えて、基板10の面810と平行に(110)面が結晶配向した立方晶のFeを用いてもよい。同様に、Coに代えて、基板10の面810と平行に(110)面が結晶配向した立方晶のCoFeを用いてもよい。また、中間層32として、Cuに代えて、(111)面が結晶配向したNiを用いてもよい。または、中間層32として、Cuに代えて、(0001)面が結晶配向した六方晶の金属粒子32pを用いてもよい。この六方晶の金属粒子32pとして、Ti、Co、Zr、Mg、Hfを用いてもよい。特に、Tiは格子不整合が少ないので好ましい。なお、六方晶のCoはスパッタリングの形成条件を制御することで得られる。
また、酸化抑制層20aは、Taの代わりに、Nb、WまたはMoを含んでいてもよい。酸化抑制層20aは、非磁性体で高融点であることが求められる。特に、酸化抑制層20aは、磁性体層31および磁性体層33のSmCo5膜が結晶化する熱処理温度の3倍以上の融点を有していることが好ましい。これにより、磁性体層31および磁性体層33を結晶化する際に酸化抑制層20aが再結晶化することを効果的に抑制できる。なお、酸化抑制層20aは、Ta、Nb、WおよびMoの少なくとも一つを含んでいる。
酸化抑制層20bについても、酸化抑制層20aと同様である。
酸化抑制層20aと酸化抑制層20bは、特に同一材料である必要はないが、本実施の形態では使用材料の削減の観点で同一材料としている。
なお、中間層32は基板10の面内方向D10aで連続体である必要はなく、一部島状となったり途切れていたりしても機能上なんら問題はない。すなわち、実施の形態において、「中間層」とは、複数の磁性体層の間に配置される層であれば、基板10の面内方向D10aにおいて連続体である場合だけでなく、一部島状となったり途切れていたりする構成も含むこととする。つまり、磁性体層において、金属粒子32pの分布濃度が周りよりも高い領域を「中間層」と呼ぶ。
中間層32の存在を確認する方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡で観測することにより確認する方法がある。また、透過型電子顕微鏡で観測する以外には、中間層32を構成する金属粒子32pの濃度を測定し、周りよりも金属粒子32pの分布濃度が局部的に高い領域を中間層32と判断する方法もある。
また、中間層32の積層方向D1での厚みは1nm〜30nmまで変化させた場合でも同様の効果があることを確認している。走査型透過電子顕微鏡によって、中間層32が磁性体層31および磁性体層33と拡散し一部島状となっている構造も確認しており、上述のように厚みを変えても同一の効果があることを確認している。
(実施の形態5)
図21は、実施の形態5にかかる薄膜磁石200aの断面図である。図21において、図9に示す実施の形態4にかかる薄膜磁石100aと同じ部分には同じ参照番号を付す。
実施の形態5にかかる薄膜磁石200aは実施の形態4にかかる薄膜磁石100aと、磁性体層の構造が異なる。薄膜磁石200aは、図9に示す薄膜磁石100aの磁性体30の代わりに、酸化抑制層20aの上面820a上に設けられた磁性体230を備える。酸化抑制層20bは磁性体230の上面8230上に設けられている。
図21に示すように、実施の形態5にかかる薄膜磁石200aの磁性体230は、磁性体層231、中間層232、磁性体層233、中間層234および磁性体層235がこの順で積層方向D1に積層された構成を有している。具体的には、磁性体230は、酸化抑制層20aの上面820a上に設けられた磁性体層231と、磁性体層231の上面8231上に設けられた中間層232と、中間層232の上面8232上に設けられた磁性体層233と、磁性体層233の上面8233上に設けられた中間層234と、中間層234の上面8234上に設けられた磁性体層235とを有する。
すなわち、実施の形態5における磁性体230において、磁性体層231および磁性体層233は、実施の形態4における磁性体30における磁性体層31および磁性体層33に対応する。また、実施の形態5における中間層232は、実施の形態4における中間層32に対応する。そして、実施の形態5にかかる磁性体230は、実施の形態4にかかる薄膜磁石100aにおける磁性体層33の上に、中間層234および磁性体層235を積層したものである。磁性体層235は、磁性体層31および磁性体層33と同じ組成であり、磁性体層31および磁性体層33と同様の製造工程によって得られる。中間層234は、中間層32と同じ組成で同様の製造工程によって得られる。
本実施の形態における薄膜磁石200aも、実施の形態4にかかる薄膜磁石100aと同様の作用効果を有する。また、複数の中間層232、234および複数の磁性体層231、233、235を積層するので、薄膜磁石200aは粒子の連続的な成長を抑制する効果で保磁力の改善が見込まれる。
以上、本開示の実施の形態に係る薄膜磁石について説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。
例えば、叙述した実施の形態では、磁性体層31、33、231、233、235を構成する材料としてSmxCoyを用いたが、磁性体層31、33、231、233、235を構成する材料はこれに限られず、Coとの一部をFeとCuに置き換えた材料を用いてもよいし、添加物としてZrなどを混入させた材料を用いてもよい。例えば、Sm2Fe14N3としてもよい。
また、酸化抑制層20a、20bは、上述したようにTaを含む材料に限らず、Taの代わりに、Nb、WまたはMoを含んでいてもよい。また、酸化抑制層20a、20bに同一の材料を使用してもよいし、異なる材料を私用してもよい。
また、酸化抑制層20a、20bと磁性体層31、33、231、233、235と中間層32、232、234は、上述した実施の形態に示したようにスパッタリングにより形成されてもよいし、他の方法により形成されてもよい。また、熱処理の温度は、上述した温度に限らず、材料に応じて適宜変更してもよい。
また、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
上述のように、薄膜磁石100a(200a)は、基板10と、基板の上面810上に形成されたアモルファス状態の酸化抑制層20aと、酸化抑制層20a上に形成された磁性体層31(231)と、磁性体層31(231)上に形成された中間層32(232)と、中間層32(232)上に形成された磁性体層33(233)と、磁性体層33(233)の上方に形成されたアモルファス状態の酸化抑制層20bとを備える。中間層32は金属粒子32pを含む。金属粒子32pは、磁性体層31、33(231、233)中に拡散しており、磁性体層31、33(231、233)中での金属粒子32pの濃度は中間層32(232)から遠ざかるにつれて減少している。
この構成によれば、所定の方向、例えば、面内方向D10aまたは面直方向D10bに磁気異方性を有し、エネルギー積が高く、保磁力が必要十分に大きいと共に残留磁束密度が大きい薄膜磁石100a(200a)を形成することができる。
また、磁性体層31、33(231、233)は、基板10の上面810に対して平行である面内方向D10aに結晶磁気異方性を有してもよい。
この構成によれば、磁性体層31、33(231、233)の配向方向が面内方向D10aとなるように磁性体層31、33(231、233)が形成されるので、面内方向D10aに磁気異方性を有する薄膜磁石100aが得られる。
また、中間層32(232)は、(110)方向に配向した立方晶構造の結晶、または、(11−20)方向に配向した六方晶構造の結晶で構成されていてもよい。
この構成によれば、中間層32(232)の配向方向に応じて、磁性体層31、33(231、233)の配向方向を面内方向D10aに容易に制御することができる。
また、中間層32(232)は、Co(コバルト)とFe(鉄)の少なくとも一方を含んでもよい。
この構成によれば、中間層32(232)にCoを用いることにより、磁性体層31、33(231、233)の配向方向を面内方向D10aに容易に制御することができる。
また、磁性体層31、33(231、233)は、基板10の上面810に対して垂直である面直方向D10bに結晶磁気異方性を有してもよい。
この構成によれば、磁性体層31、33(231、233)の配向方向が面直方向D10bとなるように磁性体層31、33(231、233)が形成されるので、面直方向D10bに磁気異方性を有する薄膜磁石100a(200a)を得ることができる。
また、中間層32(232)は、(111)方向に配向した立方晶構造の結晶で構成されていてもよい。
この構成によれば、中間層32(232)の配向方向に応じて、磁性体層31、33(231、233)の配向方向を面直方向D10bに容易に制御することができる。
また、中間層32(232)は、Cu(銅)を含んでもよい。
この構成によれば、中間層32(232)にCuを用いることにより、磁性体層31、33(231、233)の配向方向を面直方向D10bに容易に制御することができる。
また、中間層32(232)は、(0001)方向に配向した六方晶構造の結晶で構成されていてもよい。
この構成によれば、中間層32(232)の配向方向に応じて、磁性体層31、33(231、233)の配向方向を面直方向D10bに容易に制御することができる。
また、中間層32(232)は、Ti(チタン)またはZr(ジルコニウム)を含んでもよい。
この構成によれば、中間層32(232)にTi、Zrを用いることにより、磁性体層31、33(231、233)の配向方向を面直方向D10bに容易に制御することができる。
また、中間層32(232)は、磁性体層31、33(231、233)よりも結晶化温度が低くてもよい。
この構成によれば、中間層32(232)を結晶化しても、磁性体層31(231)をアモルファス状態に維持することができる。
また、磁性体層31、33(231、233)は、Sm(サマリウム)を含んでもよい。
この構成によれば、Sm、Pr、Nd、Y、La、Gdの内の少なくとも1つと、Coとを含む材料、例えば、SmxCoyを磁性体層31、33(231、233)に使用することにより、エネルギー積の高い薄膜磁石100a(200a)を得ることができる。
また、酸化抑制層20a、20bは、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、W(タングステン)、およびMo(モリブデン)の少なくとも一つを含んでもよい。
この構成によれば、酸化抑制機能の高い酸化抑制層20a、20bを形成することができる。
薄膜磁石200aは、磁性体層233上に形成された中間層234と、中間層234上に形成された磁性体層235とをさらに備えてもよい。中間層234は金属粒子234pを含む。金属粒子234pは、磁性体層233、235中に拡散しており、磁性体層233、235中での金属粒子234pの濃度は中間層234から遠ざかるにつれて減少していてもよい。
磁性体層235は、基板10の上面810に対して平行である面内方向D10aに結晶磁気異方性を有していてもよい。
中間層234は、(110)方向に配向した立方晶構造の結晶、または、(11−20)方向に配向した六方晶構造の結晶で構成されていてもよい。
中間層234は、Co(コバルト)とFe(鉄)とのうちの少なくとも一方を含んでいてもよい。
磁性体層235は、基板10の上面810に対して垂直である面直方向D10bに結晶磁気異方性を有していてもよい。
中間層234は、(111)方向に配向した立方晶構造の結晶で構成されていてもよい。
中間層234は、Cu(銅)を含んでいてもよい。
中間層234は、(0001)方向に配向した六方晶構造の結晶で構成されていてもよい。
中間層234は、Ti(チタン)またはZr(ルテニウム)を含んでいてもよい。
中間層232、234は、磁性体層231、233、235よりも結晶化温度が低くてもよい。
磁性体層231、233、235は、Sm、Pr、Nd、Y、La、Gdの内の少なくとも1つと、Coとを含む材料で形成されてもよい。
また、薄膜磁石100a(200a)は以下の方法で作製することができる。基板10の上面810上にアモルファス状態の酸化抑制層20aを形成する。酸化抑制層20a上に磁性体層31(231)を形成する。磁性体層31(231)上に、金属粒子32pを含む中間層32を形成する。中間層32上に磁性体層33(233)を形成する。磁性体層33(233の上方にアモルファス状態の酸化抑制層20bを形成する。酸化抑制層20a、20bと磁性体層31、33(231、233)と中間層32に熱処理を行う。
この構成によれば、所定の方向、例えば、面内方向D10aまたは面直方向D10bに磁気異方性を有し、エネルギー積が高く、保磁力が必要十分に大きいと共に残留磁束密度が大きい薄膜磁石100a(200a)を形成することができる。
また、磁性体層31、33(231、233)を形成する工程において、磁性体層31、33(231、233)をアモルファス状態に形成してもよい。中間層32(232)を形成する工程において、中間層32(232)を結晶化させて形成してもよく、熱処理において、磁性体層31、33(231、233)を結晶化させてもよい。
この構成によれば、中間層32(232)の配向方向に応じて、磁性体層31、33(231、233)の配向方向を容易に制御することができる。
また、磁性体層31、33(231、233)を形成する工程において、磁性体層31、33(231、233)は、Sm、Pr、Nd、Y、La、Gdの内の少なくとも1つと、Coとを含む材料で形成されてもよい。
この構成によれば、Smを含む材料、例えば、SmxCoyを磁性体層31、33(231、233)に使用することにより、エネルギー積の高い薄膜磁石100a(200a)を形成することができる。
また、磁性体層31、33(231、233)を形成する工程において、基板10の表面温度を400℃以下として磁性体層31、33(231、233)を形成してもよい。中間層32(232)を形成する工程において、基板10の表面温度を400℃以下として中間層32(232)を形成してもよい。熱処理において、基板10の表面温度を500℃以上として酸化抑制層20a、20bと磁性体層31、33(231、233)と中間層32(232)とに熱処理を行ってもよい。
この構成によれば、中間層32(232)を形成するときに、中間層32(232)を結晶化し、磁性体層31(231)をアモルファス状態とすることができる。中間層32(232)の配向方向に応じて、磁性体層31、33(231、233)の配向方向を容易に制御することができる。
また、酸化抑制層20a、20bを形成する工程において、酸化抑制層20a、20bを、Ta、Nb、W、およびMoの少なくとも一つを含む材料により形成してもよい。
この構成によれば、酸化抑制機能の高い酸化抑制層20a、20bを形成することができる。
実施の形態において、「上面」「上方」「下方」等の方向を示す用語は薄膜磁石の構成部材の相対的な位置関係で決まる相対的な方向を示し、鉛直方向等の絶対的な方向を示すものではない。