JP4483166B2 - 永久磁石薄膜 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロモータやマイクロアクチュエータ、磁気記録媒体などに好適に用いられる永久磁石薄膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種電気機器の小型化が進む中で、永久磁石薄膜を用いたマイクロモータやマイクロアクチュエータなどの開発が進められている。この種のデバイスのサイズや性能は、永久磁石薄膜の磁気特性に左右される。このため、永久磁石薄膜材料の候補として、粉末冶金製法で既に商用化され、高い最大エネルギー積が実現している希土類金属間化合物に注目が集まっている。
【0003】
希土類永久磁石材料の中では、正方晶Nd2Fe14B化合物を基礎とするNd−Fe−B系永久磁石材料が最も広く知られている。正方晶Nd2Fe14B化合物は飽和磁化が高く、粉末冶金法で製作した焼結磁石は、粉末成型時に磁化容易軸を磁界配向させることで、実用永久磁石としては最高の400kJ/m3を越える最大エネルギー積が得られている。そのため、薄膜においてもNd−Fe−B系材料に対する関心は高く、容易磁化方向(C軸)が薄膜の面に対して垂直に配向する傾向が強い性質と相まって、高性能垂直磁化膜としての応用が期待されている。Nd−Fe−B系材料を用いた永久磁石薄膜については、特許文献1などに記載されている。
【0004】
一方、Nd−Fe−B系と共に、高性能希土類永久磁石材料を代表するものとしてSm−Co金属間化合物が知られている。Sm−Co系の焼結磁石は最初に実用化された希土類永久磁石であり、後に開発された上記Nd−Fe−B系焼結磁石と比べて最大エネルギー積は低いものの、キュリー温度が高いために磁気特性の熱安定性に優れ、また耐候性が比較的良好であることから、特に高温環境下での使用や信頼性が要求される機器において、現在も多くの需要がある。
【0005】
Sm−Co系薄膜は、上記焼結磁石の有する優れた熱安定性と耐候性を継承する薄膜材料として、高い精度と信頼性が要求されるデバイスへの応用が期待されている。また、Sm−Co系の薄膜は外部磁界中でスパッタ形成することにより、任意の方向に磁気的な異方性を誘導することができるため、多様なデバイスの高特性化に寄与するものとして盛んに研究開発が行われている(例えば、特許文献2などに記載されている)。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−237119号公報
【特許文献2】
F.J.Cadieu、in Physics of Thin Films, ed. M.H. Francombe and J.L. Vossen(Academic Press, Boston, 1992) p.145
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
永久磁石薄膜は、マイクロモータやマイクロアクチュエータなど精密部品に応用されることが多いため、高い磁気特性や熱安定性、耐候性といったバルク磁石の場合と同様の要求がなされると同時に、しばしば内部応力の低減が強く求められる。
【0008】
図2に示すように、Sm−Co系合金の薄膜4を単結晶シリコン基板1上に直接堆積した場合、成膜方法や成膜条件によって程度の差はあるが、Sm−Co系合金薄膜4に引っ張り応力が通常発生する。そのため単結晶シリコン基板1は、Sm−Co系合金薄膜4が付着された面が凹状となるように反ってしまう。Sm−Co系合金薄膜4の引っ張り応力の絶対値がさらに大きくなると、Sm−Co合金薄膜4が単結晶シリコン基板1から剥離したり、単結晶シリコン基板1の薄膜付着部近傍にクラックが生じることもある。
【0009】
薄膜の内部応力を低減するための試みは、多くの材料系で古くからしばしば取り上げられてきた。それにも関わらず、Sm−Co合金薄膜の場合は、従来、磁気特性と内部応力の絶対値の低減を両立させる技術が確立しておらず、このことが、Sm−Co合金膜を各種デバイスに応用していくにあたっての大きな障害となっていた。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは優れた磁気特性を保ちながら、しかも内部応力の絶対値が小さいSm−Co合金系の永久磁石薄膜を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の永久磁石薄膜は、単結晶シリコン基板に支持された積層構造を備える永久磁石薄膜であって、前記積層構造は、アルミニウム酸化物層と、前記アルミニウム酸化物層と接するように配置された、SmおよびCoを主要構成元素とする希土類合金磁性層とを含み、前記積層構造の断面に生じている垂直応力の前記断面にわたる平均の絶対値が5×108Pa以下に調節されている。
【0012】
好ましい実施形態において、前記アルミニウム酸化物層は、片面が前記単結晶シリコン基板の表面に接触するように堆積されており、前記アルミニウム酸化物層の前記片面に対向する他の面に接触するように前記希土類合金磁性層が堆積されている。
【0013】
好ましい実施形態において、前記アルミニウム酸化物層の厚さは、前記希土類合金磁性層の厚さの1/30以上1/3以下である。
【0014】
好ましい実施形態において、前記積層構造は、更に他のアルミニウム酸化物層、および希土類合金磁性層を含み、この希土類磁性合金層もSmとCoを主要構成元素として含有している。
【0015】
好ましい実施形態において、前記希土類合金磁性層は磁気異方性を有している。
【0016】
本発明のマイクロマシーンは、上記いずれかの永久磁石薄膜を備えていることを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の永久磁石薄膜は、単結晶シリコン基板に支持された積層構造を備えており、この積層構造中にSm−Co系合金磁性層だけではなく、アルミニウム酸化物層を配置することにより、単結晶シリコン基板の反りや撓みを抑制する。このアルミニウム酸化物層は、結晶質若しくは非晶質、または、結晶質および非晶質が混在した組織を有している。本発明者らは、上記のような膜構造を採用することによって、優れた永久磁石特性を発揮し、しかも内部応力の著しく小さい永久磁石薄膜が実現することを見出した。
【0018】
以下、図1を参照しながら本発明の永久磁石薄膜について、その好ましい実施形態の詳細を説明する。
【0019】
図1は、本実施形態における永久磁石薄膜の断面構成を示している。図示されるように、磁性を担う希土類合金磁性層3が単結晶シリコン基板1に支持されている。この希土類合金磁性層3と単結晶シリコン基板1とは接しておらず、両者の間には、適切な範囲内に厚さを有するアルミニウム酸化物層2が配置されている。
【0020】
本永久磁石薄膜においては、希土類合金磁性層3を構成しているSmおよびCoを主要元素とする磁性合金が磁気的性質を主として担っている。希土類金属と遷移金属からなる磁性材料にあって、SmおよびCoの組み合わせからなる合金、あるいは金属間化合物は、高い飽和磁化と強い磁気異方性を併せ持ち、さらにキュリー点が高いので、残留磁束密度や保磁力の温度変化が小さいことが知られている。この性質は薄膜の形態にあっても保たれるので、マイクロデバイス等にこのような薄膜が応用された場合、高性能でかつ信頼性の高い製品が期待できる。
【0021】
なお、本永久磁石薄膜を用いるデバイスの機能や製造工程等の違いによっては、Coの一部が他の遷移金属に置換されたり、Smの一部が他の軽希土類金属と置換されていてもよい。特に、より高い残留磁束密度を得るために、Coの一部がFeに置換されていることが好ましい。また、保磁力を向上させるために、Coの一部がCuやZrで置換されていることが望ましい。
【0022】
遷移金属や軽希土類金属以外の元素であっても、本永久磁石薄膜の磁気特性や本永久磁石薄膜を備えたデバイスの諸特性に著しい悪影響を及ぼさない限り、不純物として混入することは差しつかえない。
【0023】
SmおよびCoを主要元素とする磁性合金膜の形成方法は特に限定されないが、薄膜の組成の均一性と再現性に優れたスパッタ法が望ましい。薄膜形成時に磁性合金膜を堆積する面が加熱されていることが望ましい。好ましい堆積面の加熱温度は200℃以上700℃以下の温度である。さらに好ましい堆積面の加熱温度は250℃以上600℃以下の温度である。
【0024】
SmおよびCoを主要元素とする永久磁石材料は、結晶のc軸方向が磁化容易方向である。この結晶のc軸が特定方向に揃った結晶配向組織を形成すると、c軸配向方向の最大エネルギー積が、無配向で等方的な場合と比較して著しく向上する。従って、希土類合金磁性層3を形成する際に、形成後に着磁する方向と平行な外部磁界を印加し、SmおよびCoを主要元素とする金属間化合物に結晶配向組織を誘導することが望ましい。外部磁界の発生には、電磁石や空心コイル、または永久磁石を使った磁気回路等を用いることができる。
【0025】
一方、単結晶シリコン基板1と希土類合金磁性層3との間に配置されるアルミニウム酸化物層2は、単結晶シリコン基板1と希土類合金磁性層3と間の化学反応を抑え、磁気特性の向上をもたらす。さらに、アルミニウム酸化物層2は、単結晶シリコン基板1に対する希土類合金層3の付着強度を高めると同時に、堆積した薄膜の平均内部応力の絶対値を低減する効果を発揮し、単結晶シリコン基板1の反りや撓みの抑制に寄与する。なお、本明細書における「積層構造の断面に生じている垂直応力の前記断面にわたる平均」とは、内部応力(基板表面に平行な垂直応力)が薄膜の厚さ方向に分布を持つ場合において、厚さ方向に沿って変化する内部応力の積層構造断面全体にわたる平均の大きさを意味するものとする。なお、簡単のため、このような平均の値を「平均内部応力」と称することとする。
【0026】
本発明では、単結晶シリコン基板上に堆積した積層構造の平均内部応力の絶対値を低減する効果は、単結晶シリコン基板1に対して希土類合金磁性層3を単独で形成した場合に生ずる引っ張り応力と、アルミニウム酸化物層2を単独で形成した場合に生ずる圧縮応力の競合によって発揮される。
【0027】
単結晶シリコン基板1と希土類合金磁性層3との間の界面近傍における剥離や破断の発生を回避し、単結晶シリコン基板1の機械的精度を保つには、単結晶シリコン基板1の上部に形成される薄膜の平均内部応力の絶対値をある値以下に抑えることが好ましい。このためには、本発明におけるアルミニウム酸化物層2の厚さを希土類合金磁性層3の厚さの1/30以上1/3以下に限定することが好ましい。このような構成を採用することにより、単結晶シリコン基板1上に形成されたアルミニウム酸化物層2と希土類合金磁性層3の内部応力の平均値の絶対値を5×108Pa以下に抑制することができる。
【0028】
アルミニウム酸化物層2は、そり堆積方法および堆積条件により、非晶質または結晶質の結晶構造をとり得るが、いずれの状態であっても、単結晶シリコン基板1への付着力の強化と薄膜内部応力の低減による単結晶シリコン基板1の反りや撓みの抑制において同様の効果を示す。従って、アルミニウム酸化物層2の結晶的な形態および状態は特に限定されない。
【0029】
本発明では、アルミニウム酸化物層2と希土類合金層3の内部応力の競合によって薄膜内部応力の絶対値の低下を実現するため、薄膜の合計厚さを大きくしたい場合には、内部応力分布の平滑化という観点から、希土類合金磁性層3の上部に、アルミニウム酸化物膜とSmとCoを主要元素とする希土類合金磁性膜との積層構造を形成することが望ましい。
【0030】
なお、単結晶シリコン基板1において、アルミニウム酸化物層2と接触する面(主面)の結晶方位は任意に選択され得る。ただし、通常の半導体デバイスに用いられる(100)面や(110)面、あるいは(111)面を主面として選択することにより、半導体デバイス製造技術を応用して本発明の永久磁石薄膜を備えたデバイスを生産性良く、高精度に製作することが可能となる。なお、本発明の永久磁石薄膜を用いたデバイスとその周辺回路を同一シリコン基板上にモノリシックに集積する場合、回路要素であるトランジスタなどの特性はシリコン基板の面方位に依存する。トランジスタ特性の向上という観点からも、シリコン基板の主面は(100)や(110)、あるいは(111)の結晶面方位を持つことが好ましい。
【0031】
以下、本発明による永久磁石薄膜の製造方法を説明する。
【0032】
まず、本発明による永久磁石薄膜と単結晶シリコン基板とが十分な強度で接合するように、単結晶シリコン基板1の表面をポリッシングした後、その表面を洗浄する。このような清浄化方法としては、純水や有機溶剤による洗浄に加え、紫外線の照射洗浄、酸素プラズマ洗浄、逆スパッタリング等が有効であり、さらにこれらの方法を組み合わせれば、より高い効果が得られる。
【0033】
次に、シリコン基板1の表面にアルミニウム酸化物層2を形成する。アルミニウム酸化物層2の堆積工程は、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、レーザアブレーション法など任意の堆積手段を用いて行うことが可能である。例えばスパッタリング法で成膜する場合は、アルミニウム酸化物をターゲットに用い、アルゴンガスのみを容器内に導入してスパッタリングを行う通常の方法でもよいし、金属アルミニウムまたはアルミニウム酸化物をターゲットに用い、アルゴンと酸素の混合ガスを容器内に導入してスパッタリングを行う、いわゆる反応性スパッタ法を採用してもよい。
【0034】
次に、希土類合金磁性層3をアルミニウム酸化物層2の上に形成する。希土類合金磁性層3の堆積もスパッタリング法や電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、レーザアブレーション法など任意の堆積手段を用いて行うことが可能であるが、SmとCoの組成比の制御が比較的容易なスパッタリング法が好適に用いられる。この場合スパッタリング法を用いて作製したSm−Co合金膜は、形成時に基板の温度が低いと、しばしば非晶質となる。この非晶質状態においては、保磁力の起源である磁気異方性が小さく、永久磁石薄膜として十分な磁気特性が得られない。従って本発明の永久磁石薄膜においては、希土類合金磁性層3は少なくとも部分的に結晶化している必要があり、そのため製造過程において希土類磁性合金層の形成時に基板が加熱されているか、あるいは薄膜を形成した後に熱処理が施される。希土類磁性合金層の形成時に基板を加熱する場合の加熱方法は任意であり、例えばシースヒータや赤外線ランプヒータによって直接または間接的に基板を加熱してもよい。加熱温度は200℃から700℃の範囲であることが望ましい。さらに望ましい加熱温度は250℃から600℃の範囲である。薄膜形成後に行う加熱処理は、希土類合金磁性層が酸化しないように真空中または不活性ガス雰囲気中で実行することが望ましい。この加熱処理の時間は、熱処理温度によっても異なるが、例えば、熱処理温度が500℃のとき、0.2〜2時間程度であることが好ましい。
【0035】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0036】
(実施例1)
本実施例では、主面の面方位が(100)の単結晶シリコン基板(長さ10mm、幅2mm、厚み0.1mmの短冊状)を用意した。次に、マグネトロンスパッタリング装置を用いて上記単結晶シリコン基板上に種類の異なる下地膜を高周波スパッタリング法で厚さ70nm堆積させた。その後、基板を500℃に加熱・保持し、下地膜の上にSm−Co合金層をマグネトロンスパッタリング法で厚さ400nmに形成した。スパッタ装置内で室温まで冷却した後、取り出した薄膜の内部応力および磁気特性を測定した。測定結果を下記の表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
ここで、試料No.2は本発明の実施例であり、試料No.1および試料No.3〜試料No.6は比較例である。また、比較例である試料No.1および試料No.6は、それぞれ、単結晶シリコン基板上にSm−Co膜およびアルミニウム酸化物膜をそれぞれ単独で形成したものである。
【0039】
表1において、「AlOx」は「アルミニウム酸化物」を意味している。本発明で用いるアルミニウム酸化物は、理想的にはAl2O3であるが、スパッタや蒸着などの薄膜堆積方法で基板上に堆積されたアルミニウム酸化物は、必ずしも化学量論的な組成比を持つとは限らない。このため、本発明で用いるアルミニウム酸化物の化学式は、Al原子の数密度に対するO原子の数密度の比率xを用いて、「AlOx」と標記することができる。ここで、比率xの好ましい範囲は、1.0〜1.5である。
【0040】
アルミニウム酸化物層の形成は、酸化アルミニウム(Al2O3)の焼結体ターゲットを用いた高周波スパッタリング法により、投入電力12W/cm2、Ar圧力0.7Pa、堆積速度0.5nm/sの条件で行った。その他の基板とSm−Co合金層との間に挿入された中間膜の形成は、純金属ターゲットを用いた高周波スパッタリング法により、投入電力2〜6W/cm2、Ar圧力0.7Pa、堆積速度0.2〜0.6nm/sの条件で行った。Sm−Co合金層の形成は、ターゲットに原子比でSm11Co89の組成比を有する鋳造合金を用いて、DCスパッタリング法により投入電力2W/cm2、Ar圧力0.7Pa、堆積速度0.5nm/sの条件で行った。
【0041】
試料は、スパッタ装置のチャンバー内で冷却した後、取り出して、触針式段差計を使って基板の反り量を測定した。その値をもとに、金原粲、藤原英夫著「応用物理学選書3.薄膜」(1979年、裳華房)p.129に記載されている近似式を使って、薄膜の内部応力を算出した。
【0042】
さらに、試料No.6を除くすべての試料について、試料振動型磁力計(VSM)で膜面内方向と膜面に垂直な方向の磁化曲線を測定した。そのデータをもとに、Sm−Co合金層のみが一様に磁化されるものと仮定して特性値を計算し、それによって得た残留磁束密度Brと保磁力HcJを内部応力と共に表1に示している。ここで、内部応力の負号は、薄膜に働いているのが引っ張り応力であり、正号は圧縮応力であることを表している。
【0043】
表1からわかるように、実施例(試料No.2)の薄膜の内部応力の絶対値は、比較例であるシリコン基板上に直接堆積したSm−Co合金膜(試料No.1)や他の中間膜を介してSm−Co合金膜が形成された試料(試料No.3〜試料No.5)の内部応力の絶対値と比べて著しく小さい値に抑えられていた。また単結晶シリコン基板上に直接アルミニウム酸化物膜を形成した試料No.6には、非常に大きな圧縮応力が生じており、実施例(試料No.2)における内部応力の絶対値の減少が、Sm−Co合金膜が単独で形成された場合に発生する引っ張り応力との競合による効果であることを示した。
【0044】
試料No.1〜試料No.5までの試料は、いずれも形状異方性のために、残留磁束密度が膜面に垂直な方向よりも膜面内方向により高くなっているが、実施例の試料では、保磁力HcJおよび残留磁束密度Brのいずれについても比較例の試料よりも優れた特性が得られた。
【0045】
試料No.1および試料No.5の比較例の磁化曲線をそれぞれ図3および図4に示し、試料No.2の実施例の磁化曲線を図5に示す。これらの磁化曲線を比較すると明らかなように、膜面内方向の磁化曲線の角型性は、比較例の試料よりも実施例の試料のほうが良好であって、磁気エネルギー積の高い永久磁石薄膜が得られた。
【0046】
アルミニウム酸化物層だけを単結晶シリコン基板上に堆積すると、基板の薄膜堆積側が凸状に湾曲するように応力が発生した。また、希土類合金磁性層だけを単結晶シリコン基板上に堆積すると、基板の薄膜堆積側が凹状に湾曲するように応力が発生した。しかし、本発明の構成を採用した場合は、基板の湾曲が著しく抑えられていた。
【0047】
(実施例2)
本実施例では、主面の面方位が(100)の単結晶シリコン基板(長さ10mm、幅2mm、厚み0.1mmの短冊状)を用意した。次に、この単結晶シリコン基板上にアルミニウム酸化物層を高周波スパッタリング法により堆積させ、その後、基板を400℃に加熱・保持し、アルミニウム酸化物層の上にCuを添加したSm−Co合金層(希土類合金磁性層)を厚さ400nmに堆積させた。こうして作製した各試料の積層構造および熱処理条件を下記の表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
ここで、試料No.2〜No.4が本発明の実施例であり、No.1およびNo.5が比較例である。
【0050】
アルミニウム酸化物層の形成は、酸化アルミニウム(Al2O3)の焼結体ターゲットを用いた高周波スパッタリング法により、投入電力12W/cm2、Ar圧力0.7Pa、堆積速度0.5nm/sの条件で行った。Sm−Co合金層の形成は、ターゲットに原子比でSm11Co80Cu9の組成比を有する鋳造合金を用いてDCスパッタリング法により、投入電力2W/cm2、Ar圧力0.7Pa、堆積速度0.5nm/sの条件で行った。
【0051】
その後、触針式段差計を使って基板の反り量を測定した。そのデータを基に、前述の近似式を使って、膜の内部応力を算出した。
【0052】
なお、表2における「膜構造」の欄に記載されている「基板/[AlOx(10nm)/Sm- (Co,Cu)(100nm)]×4」の標記は、「厚さ10nmのアルミニウム酸化物層と厚さ100nmのSm−Co合金層を交互に積層した構造が基板上に形成されており、その積層構造中に含まれるアルミニウム酸化物層およびSm−Co合金層の層数が何れも4である」ということを示している。
さらに、すべての試料について試料振動型磁力計(VSM)で膜面内方向と膜面に垂直な方向の磁化曲線を測定した。そのデータをもとに、Sm−Co合金層のみが一様に磁化されるものと仮定して特性値を計算し、それによって得た残留磁束密度Brと保磁力HcJを内部応力と共に表2に示している。ここで、内部応力の負号は、薄膜に働いているのが引っ張り応力であり、正号は圧縮応力であることを表している。
【0053】
表2からわかるように、アルミニウム酸化物層とSm−Co磁性合金層が適切な膜厚比で堆積された実施例(試料No.2〜4)では、薄膜の内部応力が比較例(試料No.1、No.5)の内部応力に比べて格段に小さい。この例では、比較例と実施例の試料共に形状異方性のため、残留磁束密度が膜面に垂直な方向よりも膜面内方向により高くなっているが、保磁力HcJおよび残留磁束密度Brのいずれについても、実施例の試料は比較例の試料と同等かあるいは上回る特性が得られた。
【0054】
以上説明してきた本発明の実施形態および実施例では、いずれも、アルミニウム酸化物層をシリコン基板の主面上に直接堆積しているが、本発明は、このような形態に限定されない。本発明による応力緩和の効果は、アルミニウム酸化物層とSm−Co磁性合金層とが積層されていれば得られるので、アルミニウム酸化物層およびSm−Co磁性合金層の積層順序は任意である。また、アルミニウム酸化物層およびSm−Co磁性合金層の積層体とシリコン基板との間にアルミニウム酸化物層以外の絶縁性や金属層が挿入されていても良い。ただし、アルミニウム酸化物層は、その上に堆積したSm−Co磁性合金層の磁気特性を優れたものとするので、シリコン基板の上にアルミニウム酸化物層を介してSm−Co磁性合金層を堆積することが最も好ましい。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、集積回路を形成しやすいシリコン単結晶基板を支持基板として用い、Sm−Co金属間化合物を主体とする永久磁石薄膜の優れた磁気特性を損なうことなく、積層構造中に発生する平均内部応力の絶対値を著しく低減させることが可能となる。その結果、永久磁石薄膜を支持する単結晶シリコン基板に反りの少ない、機械精度に優れたマイクロアクチュエータやマイクロデバイス、磁気記録媒体等を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態における永久磁石薄膜を示す断面図である。
【図2】従来の永久磁石薄膜を示す断面図である。
【図3】表1における試料No.1の比較例の磁化曲線を示すグラフである。横軸が外部磁界の大きさを示し、縦軸が磁化強度を示している。
【図4】表1における試料No.5の比較例の磁化曲線を示すグラフである。横軸が外部磁界の大きさを示し、縦軸が磁化強度を示している。
【図5】表1における試料No.2の実施例の磁化曲線を示すグラフである。横軸が外部磁界の大きさを示し、縦軸が磁化強度を示している。
【符号の説明】
1 単結晶シリコン基板
2 アルミニウム酸化物層
3 希土類合金磁性層
4 希土類合金磁性層
Claims (4)
- 単結晶シリコン基板に支持された積層構造を備える永久磁石薄膜であって、
前記積層構造は、
前記単結晶シリコン基板上に形成されたアルミニウム酸化物層と、
前記アルミニウム酸化物層上に形成された、SmおよびCoを主要構成元素とし、かつ、少なくとも部分的に結晶化している希土類合金磁性層と、
からなり、
前記アルミニウム酸化物層の厚さは、前記希土類合金磁性層の厚さの1/30以上1/3以下であり、
内部応力の絶対値が5×108Pa以下に調節されており、
保磁力Hcjが112kA/m以上である、永久磁石薄膜。 - 前記積層構造は、更に他のアルミニウム酸化物層および希土類合金磁性層を含み、この希土類磁性合金層もSmとCoを主要構成元素とする、請求項1に記載の永久磁石薄膜。
- 前記希土類合金磁性層が磁気異方性を有している請求項1または2のいずれかに記載の永久磁石薄膜。
- 請求項1から3のいずれかに記載の永久磁石薄膜を備えたマイクロマシーン。
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