JPWO2014192807A1 - 癒着防止材 - Google Patents

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Abstract

本発明の目的は、投与時には流動性が高いゲル状を示し、切開・縫合した部位に投与した後には流動性が低いゲル状を示すように、経時的に流動性が変化するように設計された癒着防止材を提供することである。使用時に水性溶媒と混合して使用される粉末状の癒着防止材であって、アルギン酸及び/又はその塩を含有し、且つ水性溶媒との混合後5分間の時点では37℃での粘度が70mPas・s以下であり、混合後60分間の時点では37℃での粘度が120mPas・s以上になるように水性溶媒と混合して使用されるように設定された癒着防止材は、臨床現場で使用時に水性溶媒と混合すると、投与する際には流動性が高い状態を保持し、切開・縫合した部位に投与した後には流動性が低くなり、優れた操作性と癒着防止効果を両立できる。

Description

本発明は、使用時に水と混合して使用される粉末状の癒着防止材であって、医療現場での操作性に優れ、しかも生体組織の癒着防止効果が優れている癒着防止材に関する。
癒着とは、本来互いに近接して存在するが、遊離している臓器間又は組織間に連続性が生ずる状態を言う。手術後の縫合部癒着は人工的に生じさせた炎症性癒着の一種であり、程度の差はあるにせよ手術により高い確率で引き起こされる合併症である。癒着は何も症状がない場合は問題とはならないが、時に、腹痛、腸閉塞(イレウス)、不妊症等の原因となり得ることから、癒着防止のためにこれまで様々な手段が講じられている。
従来、癒着防止には、フィルム状、ゲル状等の癒着防止材で切開・縫合した部位を覆う方法が用いられている。特に、ゲル状の癒着防止材は、フィルム状に比べて、切開・縫合した部位に密着させ易く、剥がれ難いという利点があり、臨床現場での手技を簡易にすることができる。従来、ゲル状の癒着防止材として、アルギン酸等の多糖類、カルボン酸基含有化合物および水を含有する組成物(特許文献1参照)等が報告されている。
ゲル状の癒着防止材は、臨床現場の操作性を考慮すると、切開・縫合した部位に投与する際には流動性が高いことが望ましいが、癒着防止効果の観点からは流動性が低いことが望ましい。このように、臨床現場での操作性と癒着防止効果は相反する流動性が要求されるのに対して、従来報告されているゲル状の癒着防止材は、ゲル化剤を予め水混合してゲル化させた一定の流動性を備える状態で提供されるため、臨床現場での操作性と癒着防止効果の双方を十分に満足させることができない。
このような従来技術を背景として、投与時には流動性が高いゲル状になり、切開・縫合した部位に投与した後には流動性が低いゲル状になるように、経時的に流動性が変化するように設計された癒着防止材の開発が切望されている。
特開2003−153999号公報
本発明の目的は、投与時には流動性が高いゲル状を示し、切開・縫合した部位に投与した後には流動性が低いゲル状を示すように、経時的に流動性が変化するように設計された癒着防止材を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、使用時に水性溶媒と混合して使用される粉末状の癒着防止材であって、アルギン酸及び/又はその塩を含有し、且つ水性溶媒との混合後5分の時点では37℃での粘度が70mPas・s以下であり、混合後60分間の時点では37℃での粘度が120mPas・s以上になるように水性溶媒と混合して使用されるように設定された癒着防止材は、臨床現場で使用時に水性溶媒と混合すると、投与する際には流動性が高い状態を保持し、切開・縫合した部位に投与した後には流動性が低くなり、優れた操作性と癒着防止効果を両立できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 使用時に水性溶媒と混合して使用される粉末状の癒着防止材であり、
アルギン酸及び/又はその塩を含み、
水性溶媒との混合後10分の時点では5分の時点では37℃での粘度が70mPas・s以下であり、水性溶媒との混合後60分の時点では37℃での粘度が120mPas・s以上になるように、水性溶媒と混合して使用される、
ことを特徴とする、癒着防止材。
項2. 更に、有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩を含む、項1に記載の癒着防止材。
項3. 更に、ポリエチレングリコールを含む、項1又は2に記載の癒着防止材。
項4. 更に、有機酸及び/又はそのアルカリ金属塩を含む、項1〜3のいずれかに記載の癒着防止材。
項5. 前記有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩が、有機酸及び/又は無機酸のカルシウム塩である、項2に記載の癒着防止材。
項6. 前記有機酸及び/又はそのアルカリ金属塩が、グルコノ-δ-ラクトン、グルコン酸、及びグルコン酸のアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項4に記載の癒着防止材。
項7. 使用時に、癒着防止材に含まれるアルギン酸及び/又はその塩が1〜4重量%となるように水性溶媒と混合されるように設定されている、項1〜6のいずれかに記載の癒着防止材。
項8. 項1〜7のいずれかに記載の癒着防止材がシリンジ内に収容されてなる、癒着防止用ゲル製造キット。
項9. 粉末状の癒着防止材と水性溶媒とを含み、使用時に粉末状の癒着防止材と水性溶媒を混合して癒着防止用ゲルを得るための癒着防止用ゲル製造キットであって、
前記粉末状の癒着防止材が、アルギン酸及び/又はその塩を含み、
粉末状の癒着防止材と水性溶媒を混合すると、混合後5分の時点では癒着防止用ゲルの37℃での粘度が70mPas・s以下であり、混合後60分間の時点では癒着防止用ゲルの37℃での粘度が120mPas・s以上になるように設定されている、
ことを特徴とする、癒着防止用ゲル製造キット。
項10. 粉末状の癒着防止材を収容したシリンジと、水性溶媒を収容した容器とを含む、項9に記載の癒着防止用ゲル製造キット。
項11. 連通可能な仕切り手段で仕切られた2つの収容室を有している容器において、粉末状の癒着防止材と水性溶媒が各収容室に分離された状態で収容されている、項9に記載の癒着防止用ゲル製造キット。
項12. 項1〜7のいずれかに記載の癒着防止材を水性溶媒と混合し、癒着防止が必要とされる患部に適用する工程を含む、癒着防止方法。
項13. アルギン酸及び/又はその塩を含む粉末剤の使用であって、水性溶媒との混合後5分の時点では37℃での粘度が70mPas・s以下であり、水性溶媒との混合後60分の時点では37℃での粘度が120mPas・s以上になるように、水性溶媒と混合して使用される粉末状の癒着防止材の製造のための使用。
本発明の癒着防止材は、粉末状で提供され、使用時に臨床現場で水性溶媒と混合し、癒着防止用ゲルにして癒着防止が求められる切開・縫合部位に投与される。本発明の癒着防止材を水と混合して得られた癒着防止用ゲルは、調製後(水性溶媒との混合後)5分の時点では流動性が高いゲルになるため、投与時点では切開・縫合部位に投与し易い状態になっており、臨床現場での操作性に優れている。更に、本発明の癒着防止材を水と混合して得られた癒着防止用ゲルは、調製後(水性溶媒との混合後)60分の時点では、流動性が低いゲルになるため、投与された切開・縫合部位で安定に定着し、優れた癒着防止効果を奏することができる。
また、本発明の癒着防止材において、アルギン酸及び/又はその塩以外に、有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩と、ポリエチンレングリコールと、有機酸及び/又はそのアルカリ金属塩とを組み合わせて含有する場合には、水性溶媒と混合した際に、ダマを生じることなく均質なゲルを調製することも可能になるため、臨床現場でゲルを調製ための攪拌装置を要せず、簡易に使用することができる。
また、本発明の癒着防止材は粉末状で提供されて保存されるため、通常の保存状態では温度等の影響を受けにくく、保存安定性の点でも優れている。
更に、本発明の癒着防止用ゲル製造キットを使用することによって、粉末状の癒着防止材と水の混合による癒着防止用ゲルの調製を簡易に行うことができる。とりわけ、粉末状の癒着防止材をシリンジ内に収容した癒着防止用ゲル製造キットによれば、癒着防止用ゲルの調製が簡易に行うことができるだけでなく、当該癒着防止用ゲルの切開・縫合部位への投与を簡便に行うことも可能になり、粉末状の癒着防止材を使用する上での利便性を高めることができる。
本発明のゲル製造キットに使用されるシリンジの一態様を示す図である。 試験例1において、水性溶媒として水を使用した場合において、癒着防止用ゲルの粘度を経時的に測定した結果を示す図である。 試験例1において、水性溶媒として生理食塩水又は乳酸リンゲル液を使用した場合において、癒着防止用ゲルの粘度を経時的に測定した結果を示す図である。 試験例1において、水性溶媒として生理食塩水又は乳酸リンゲル液を使用した場合において、癒着防止用ゲルの粘度を経時的に測定した結果を示す図である。 試験例1において、水性溶媒として生理食塩水又は乳酸リンゲル液を使用した場合において、癒着防止用ゲルの粘度を経時的に測定した結果を示す図である。 試験例2において、各群の術部の指節間関節の可動域(負荷前後の屈折角度の差)を測定した結果を示す図である。
本発明の癒着防止材は、使用時に水と混合して使用される粉末状の癒着防止材であり、アルギン酸及び/又はその塩を含み、且つ水性溶媒との混合後5分間の時点では37℃での粘度が70mPas・s以下であり、水性溶媒との混合後60分間の時点では37℃での粘度が120mPas・s以上になるように水性溶媒と混合して使用されることを特徴とする。以下、本発明の癒着防止材について詳述する。
<粘度特性>
本発明の癒着防止材は、粉末状であり、使用時に水性溶媒と混合することによって癒着防止用ゲルにして使用される。なお、本明細書において、「癒着防止用ゲル」とは、本発明の癒着防止材を水性溶媒と混合することにより得られるゲル状物を指す。
本発明の癒着防止材から調製された癒着防止用ゲルは、調製直後は流動性が高く、所定時間経過後には流動性が低くなるように設定されているため、優れた操作性と癒着防止効果の双方を備えることができている。以下、本発明の癒着防止材が備える粘度特性について説明する。
本発明の癒着防止材は、所定量の水性溶媒と混合すると、経時的に粘度の上昇が生じる。本発明の癒着防止材では、所定量の水性溶媒との混合後5分の時点では癒着防止用ゲルの37℃での粘度が70mPas・s以下になるように設定される。このように水性溶媒との混合後5分までは低粘度で高い流動性を呈することにより、癒着防止用ゲルを切開・縫合部位に投与し易く、しかも切開・縫合部位の全体を均一に覆うことも容易になり、臨床現場での優れた操作性を備えることができる。
臨床現場での操作性をより一層向上させるという観点から、水性溶媒との混合後5分間の時点での37℃での粘度として、好ましくは5〜70mPas・sが挙げられる。特に、整形の分野で使用する場合であれば、当該粘度として、より好ましくは5〜70mPas・s、更に好ましくは10〜60mPas・s、特に好ましくは15〜50mPas・sが挙げられる。また、消化器の分野で使用する場合であれば、当該粘度として、より好ましくは20〜70mPas・s、更に好ましくは30〜70mPas・s、特に好ましくは50〜70mPas・sが挙げられる。
また、本発明の癒着防止材は、所定量の水性溶媒との混合後60分の時点では37℃での粘度が120mPas・s以上になるように設定される。このように水性溶媒との混合後60分の時点では高粘度になり低い流動性を呈することにより、切開・縫合部位に投与された癒着防止用ゲルが安定に定着し、優れた癒着防止効果を奏することができる。
癒着防止効果をより一層向上させるという観点から、水性溶媒との混合後60分の時点での37℃での粘度は、整形及び消化器のいずれの分野で使用する場合であっても、好ましくは300mPas・s以上、更に好ましくは1000mPas・s以上が挙げられる。なお、水性溶媒との混合後60分の時点での37℃での粘度の上限値については、特に制限されないが、例えば150000mPas・sが挙げられる。
更に、癒着防止効果をより一層向上させるという観点から、水性溶媒との混合後5分及び60分の時点での粘度が前記範囲を備えることに加えて、更に水性溶媒との混合後30分の時点での癒着防止用ゲルの37℃での粘度が、20000mPas・s以下、好ましくは10〜10000mPas・s、更に好ましくは50〜5000mPas・sを備えていることが望ましい。
また、本発明の癒着防止材は、水性溶媒との混合後5分及び60分の時点での粘度が前記範囲を充足するように設定されていればよいが、投与された癒着防止用ゲルを切開・縫合部位の隅々まで行きわたらせるための流動性と、切開・縫合部位における癒着防止用ゲルの定着による優れた癒着防止効果とをより一層良好に両立させるという観点から、水性溶媒との混合後60分の時点での37℃での粘度が、水性溶媒との混合後5分の時点での37℃での粘度に対して、通常5倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは20倍以上、更に好ましくは50倍以上であることが望ましい。なお、水性溶媒との混合後5分の時点での37℃での粘度に対する、混合後60分の時点での当該粘度の比率の上限値については、特に制限されないが、例えば、10000倍以下、好ましくは5000倍以下、より好ましくは2500倍以下、更に好ましくは1000倍以下であることが望ましい。
また、本発明の癒着防止材は、水性溶媒との混合後5分及び60分の時点での粘度が前記範囲を充足するように設定されていればよいが、投与前の癒着防止用ゲルの流動性と投与後の癒着防止効果とをより一層良好に両立させるという観点から、粘度の上昇速度の最大値が、水性溶媒との混合後30分以降、好ましくは35〜60分、更に好ましくは45〜60分に到達するように設定されていることが望ましい。
なお、本発明において、前記粘度は以下の測定条件にて測定される。
(1)10ml容のガラス製試験管に、粉末状の癒着防止材と水性溶媒を定められた混合比、且つ水性溶媒の量が5mLとなるように設定して添加し、ボルテックスミキサーを用いて20秒間撹拌し、癒着防止用ゲルを調製する。本操作は37℃の温度条件で行う。
(2)撹拌終了後を0分として、37℃の温度条件にて癒着防止用ゲルを静置し、所定時間でサンプリングして下記測定条件にて37℃での粘度を測定する。
装置:粘度・粘弾性測定装置(レオメーター)
温度制御ユニット:ペルチェプレート
測定ジオメトリー:直径35mmのパラレルプレート
ギャップ:1mm
サンプル量:1mL
印加応力:11.90Pa
周波数:0.5000Hz
角速度:3.142rad/s
また、前述する粘度の上昇速度は、前記条件にて経時的に粘度を測定し、水性溶媒混合後から5分間毎の粘度の上昇値を算出することによって求められる。
前述する癒着防止用ゲルの粘度特性は、本発明の癒着防止材において、ゲル化剤としてアルギン酸及び/又はその塩を含有させ、その含有量、及び他の配合成分を適宜設定し、且つ使用時の水性溶媒との混合比を適宜設定することにより備えさせることができる。
<含有成分>
アルギン酸及び/又はその塩
本発明の癒着防止材は、ゲル化剤として、アルギン酸及び/又はその塩(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。
アルギン酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、たとえな、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
アルギン酸及び/又はその塩の重量平均分子量については、前述する粘度特性を備える限り、特に制限されないが、例えば、5万〜60万、好ましくは5万〜50万、更に好ましくは8〜50万が挙げられる。
アルギン酸及び/又はその塩は、商業的に入手可能である。アルギン酸及び/又はその塩の市販品としては、例えば、キミカアルギンHigh・Gシリーズ IL−6G(1w/v%水溶液、20℃での粘度50〜80mPa・s;重量平均分子量約68万)、I−1G(1w/v%水溶液、20℃での粘度100〜200mPa・s;重量平均分子量約72万)、I−3G(1w/v%水溶液、20℃での粘度300〜400mPa・s;重量平均分子量約80万)等;キミカアルギンIシリーズ IL−6(1w/v%水溶液、20℃での粘度50〜80mPa・s;重量平均分子量約69万)、I−1(1w/v%水溶液、20℃での粘度80〜200mPa・s;重量平均分子量約86万)、I−3(1w/v%水溶液、20℃での粘度300〜400mPa・s;重量平均分子量約77万)、I−5(1w/v%水溶液、20℃での粘度500〜600mPa・s;重量平均分子量約80万)、I−8(1w/v%水溶液、20℃での粘度800〜900mPa・s;重量平均分子量約79万)、IL−1(1w/v%水溶液、20℃での粘度15mPa・s程度;重量平均分子量約26万)、IL−2(1w/v%水溶液、20℃での粘度20〜50mPa・s;重量平均分子量約58万)等;キミカアルギンULVシリーズ ULV−5(10w/v%水溶液、20℃での粘度500〜600mPa・s;1w/v%水溶液、20℃での粘度4mPa・s程度;重量平均分子量約8万)、ULV−10(1w/v%水溶液、20℃での粘度7mPa・s程度;重量平均分子量約9万)、ULV−20(1w/v%水溶液、20℃での粘度10mPa・s程度;重量平均分子量約20万)等(いずれも株式会社キミカ製)が挙げられる。これらの中でも、好ましくはI−1G、I−3G、I−1、IL−1、ULV−5、ULV−10、ULV−20等が挙げられる。
本発明の癒着防止材は、アルギン酸及びその塩の中から1種を選択し単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。アルギン酸及びその塩の中でも、臨床現場での操作性と癒着防止効果の双方をより一層向上させるという観点から、好ましくはアルギン酸及びそのアルカリ金属塩、更に好ましくはアルギン酸のナトリウム塩が挙げられる。
本発明の癒着防止材における(A)成分の含有量は、前述する粘度特性を備えるように適宜設定すればよいが、例えば1〜50重量%が挙げられる。前述する粘度特性をより好適に備えさせ、臨床現場での操作性と癒着防止効果の双方をより一層向上させるという観点から、(A)成分の含有量として、好ましくは5〜25重量%が挙げられる。
有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩
本発明の癒着防止材には、有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩(以下、単に(B)成分と表記することもある)が含まれていてもよい。このように有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩を含む場合には、前述する粘度特性を充足させつつ、臨床現場での操作性と癒着防止効果の双方をより一層向上させることが可能になる。
本発明に使用される有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩としては、薬学的に許容される限り、特に制限されない。当該塩を構成する酸としては、例えば、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸等の有機酸;硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。また、当該塩を構成する2価の金属としては、バリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄等が挙げられる。これらの2価の金属の中でも、好ましくはカルシウムが挙げられる。
有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩として、具体的には、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム(リン酸一水素カルシウム・2水和物)等が挙げられる。これらの中でも、前述する粘度特性をより好適な範囲に備えさせるという観点から、水難溶性の塩が好適である。水難溶性の塩としては、具体的には、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム・2水和物、炭酸カルシウム等が挙げられる。本明細書において、「水難溶性」とは、第一六改正日本薬局法に規定される「溶けにくい」から「ほとんど溶けない」に対応するものである。すなわち、溶質(有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩)1gを溶かすのに100mL以上の溶媒を必要とすることを指す。
有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩として、前述する粘度特性を備えさせる上で、好ましくは第2リン酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム・2水和物、及び炭酸カルシウムが挙げられる。
これらの有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の癒着防止材における有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩の含有量としては、例えば、0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは1〜10重量%が挙げられる。
本発明の癒着防止材において、前記(A)成分と(B)成分との比率については、特に制限されないが、(A)成分に対する(B)成分の比率が高くなる程、ゲル化速度が速くなり、ゲル強度が強くなる傾向を示すので、これらの挙動を考慮した上で、前述する粘度特性を備えるように適宜設定される。例えば、(A)成分1重量部当たり、(B)成分が1重量部以下となる比率を充足させればよい。特に、前述する粘度特性をより好適な範囲に備えさせ、臨床現場での操作性と癒着防止効果の双方をより一層向上させるという観点から、(A)成分1重量部当たり、(B)成分が、好ましくは0.01〜1重量部、更に好ましくは0.02〜1重量部、特に好ましくは0.03〜0.3重量部が挙げられる。
ポリエチレングリコール
本発明の癒着防止材には、ポリエチレングリコール(以下、単に(C)成分と表記することもある)が含まれていてもよい。本発明の癒着防止材において、前記(A)成分及び(B)成分と共に、ポリエチレングリコールを含むことによって、前述する粘度特性を充足させつつ、水性溶媒と混合した際にダマを生じることなく均質な癒着防止用ゲルを調製することが可能になる。
本発明で使用されるポリエチレングリコールは、常温で固形状を呈することが望ましく、その平均分子量としては、例えば、1000以上程度、好ましくは3000以上程度が挙げられ、具体的には約1000〜約20000、好ましくは約4000〜約20000程度が挙げられる。ポリエチレングリコールの平均分子量が1000を下回ると常温で固体にならず、平均分子量が20000を超えると粘度が大きくなるため製造の際に扱いづらくなる。ここで、ポリエチレングリコールの平均分子量は、第一六改正日本薬局法「マクロゴール400」平均分子量法によって測定される値である。
ポリエチレングリコールとしては、具体的には、第一六改正日本薬局方及び医薬品添加物に製材原料として収載される、マクロゴール1000、マクロゴール1500、マクロゴール1540、マクロゴール3000、マクロゴール3350、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール8000、マクロゴール20000等が挙げられる。これらの中でも、前述する粘度特性をより好適な範囲に備えさせ、臨床現場での操作性と癒着防止効果の双方をより一層向上させるという観点から、好ましくはマクロゴール3350、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000が挙げられ、更に好ましくはマクロゴール3350やマクロゴール4000が挙げられる。
これらのポリエチレングリコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本発明の癒着防止材において、ポリエチレングリコールは、マトリックス基材として、又は他の含有成分を被覆(コーティング)する形態で含まれていることが好ましい。このようにマトリックス基材又は他の含有成分を被覆する形態で含まれていると、水と混合した際にダマを生じるのをより一層有効に抑制でき、しかもポリエチレングリコール自体の溶解速度を利用して他の成分の溶解速度をコントロールして、前述する粘度特性をより一層好適な範囲に備えさせることが可能になる。
本発明の癒着防止材における(C)成分の含有量としては、例えば、1〜99重量%、好ましくは20〜99重量%、更に好ましくは50〜80重量%が挙げられる。
有機酸及び/又はそのアルカリ金属塩
更に、本発明の癒着防止材には、有機酸及び/又はそのアルカリ金属塩(以下、単に(D)成分と表記することもある)が含まれていてもよい。本発明の癒着防止材において、有機酸及び/又はそのアルカリ金属塩を含有することにより、前述する粘度特性をより好適な範囲に備えさせることができ、臨床現場での操作性と癒着防止効果の双方をより一層向上させることが可能になる。
本発明で使用される有機酸としては特に限定されないが、例えば、グルコノ-δ-ラクトン、グルコン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸等が挙げられる。また、有機酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。これらの中でも、前述する粘度特性をより好適な範囲に備えさせつつ、臨床現場での操作性と癒着防止効果の双方をより一層向上させるという観点から、好ましくはグルコノ-δ-ラクトン、グルコン酸、グルコン酸のアルカリ金属塩、更に好ましくはグルコン酸ナトリウム、グルコノ-δ-ラクトンが挙げられる。なお、グルコノ-δ-ラクトンは、水と接触すると、グルコン酸に加水分解されて酸性を呈する化合物である。
これらの有機酸及びそのアルカリ金属塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の癒着防止材における(D)成分の含有量としては、例えば、1〜60重量%、好ましくは2〜50重量%、更に好ましくは3〜15重量%が挙げられる。
また、本発明の癒着防止材が(B)成分と(D)成分を含む場合、これらの配合比率については、特に制限されないが、前述する粘度特性をより好適な範囲に備えさせ、臨床現場での操作性と癒着防止効果の双方をより一層向上させるという観点から、(B)成分1重量部に対して、(D)成分が0.01〜80重量部、好ましくは2〜50重量部、更に好ましくは3〜30重量部が挙げられる。
他の配合成分
本発明の癒着防止材は、上記成分の他に、必要に応じて、治療効果の促進や細菌感染の防止等を目的として、抗菌剤、抗生剤、抗炎症剤、血行改善剤、ステロイド剤、酵素阻害剤、増殖因子、各種ビタミン等の薬理成分を含んでいてもよい。本発明の癒着防止材は、適用される切開・縫合部位において一定期間留まることから、上記薬理成分を含有することによって、薬理成分の徐放を目的とするドラッグデリバリーシステムの一種として利用することもできる。
更に、本発明の癒着防止材には、必要に応じて、賦形剤、結合剤、滑沢剤、pH調整剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、防湿剤等の添加剤を含んでいてもよい。
好適な配合成分の組み合わせ
本発明の癒着防止材は、前記(A)成分を含み、前述する粘度特性が発現されるように製材処方及び使用態様が設定されていることを限度として、前記(A)成分以外の配合成分については、特に制限されないが、前述する粘度特性を充足させる上での好適な配合成分の組み合わせとして、前記(A)〜(C)成分を含む態様、更に好ましくは前記(A)〜(D)成分を含む態様が挙げられる。
形状
本発明の癒着防止材は、粉末状である限り、その粒子径については、特に制限されないが、水性溶媒との混合時の溶解性を良好にするという観点から、例えば、篩分け法によって測定される粒子径として、約200〜2000μm、好ましくは約355〜1000μmが挙げられる。
調製方法
本発明の癒着防止材は、前記(A)成分、必要に応じて配合される前記(B)〜(D)成分及び他の薬理成分や添加剤を混合して、粉末状に製材化することによって調製される。具体的には、本発明の癒着防止材が前記(C)成分を含む場合であれば、以下の調製方法の好適な例として、以下の方法が挙げられる。
(C)成分を溶解させる第1工程、
第1工程で得られた(C)成分の溶解液に、(A)成分、必要に応じて(B)成分、(D)成分及び他の薬理成分や添加剤を添加して混合する第2工程、及び
第2工程で得られた混合物を固化させて、粉末状に成型する第3工程。
前記第1工程における(C)成分の溶解は、例えば、加熱溶解させる方法や、溶媒に溶解させる方法によって行うことができる。(C)成分を加熱溶解させる場合、その温度条件については、使用する(C)成分の種類に応じて適宜設定されるが、例えば、50〜90℃、好ましくは60〜80℃が挙げられる。また、(C)成分を溶媒に溶解させる場合、例えば、90〜99容量%のエタノール水溶液等の溶媒に対して、(C)成分を5〜20重量%程度となるように混合すればよい。本発明の医薬組成物における(C)成分の含有量が比較的多い場合(例えば、癒着防止用の医用材料として使用する場合)、上記第1工程は加熱溶解によって行うことが好ましく、また、(C)成分の含有量が比較的少ない場合(例えば、止血剤として使用する場合)、前記第1工程は溶媒への溶解によって行うことが好ましい。
前記第1工程において(C)成分を溶媒に溶解させた場合には、前記第2工程における混合時又は混合後に、当該溶媒が除去される。前記第3工程における所望の形状への成型は、粉砕、造粒等の公知の成型方法によって行うことができる。
本発明の癒着防止材は、生体に適用されることから、滅菌処理に供されることが望ましい。滅菌方法としては特に制限されないが、例えば、EOG滅菌、電子線滅菌、γ線滅菌、紫外線照射等が挙げられ、アルギン酸及び/又はその塩の安定性を保持する観点から、好ましくは電子線滅菌、EOG滅菌やγ線滅菌が挙げられる。
使用態様
本発明の癒着防止材は、粉末状で提供され、使用時に臨床現場において水性溶媒と混合し、癒着防止用ゲルにして使用される。
本発明の癒着防止材を癒着防止用ゲルにする際に使用される水性溶媒は、水を溶媒として含む液剤であって薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、精製水、生理食塩水、リンゲル液、乳酸リンゲル液等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは精製水が挙げられる。
本発明の癒着防止材と水性溶媒との混合比としては、前述する粘度特性を備えるように適宜設定すればよいが、具体的には、調製される癒着防止用ゲル中で本発明の癒着防止材に含まれる前記(A)成分の濃度が、通常1〜4重量%、好ましくは1〜3重量%となるように、本発明の癒着防止材が水性溶媒と混合されるように設定すればよい。より具体的には、整形の分野で使用する場合であれば、前記(A)成分の濃度が、好ましくは1〜3重量%、より好ましくは1.5〜3重量%、特に好ましくは1.5〜2.5重量%となるように本発明の癒着防止材が水性溶媒と混合されるように設定すればよく、また消化器の分野で使用する場合であれば、前記(A)成分の濃度が、好ましくは3〜4重量%となるように本発明の癒着防止材が水性溶媒と混合されるように設定すればよい。
また、本発明の癒着防止材が前記(A)成分〜(C)成分を含む場合、又は(A)成分〜(D)成分を含む場合であれば、前述する粘度特性を備えるために、調製される癒着防止用ゲル中で本発明の癒着防止材の濃度が、通常5〜20重量%、好ましくは5〜15重量%となるように本発明の癒着防止材が水性溶媒と混合されるように設定すればよい。より具体的には、本発明の癒着防止材が前記(A)成分〜(C)成分を含む場合、又は(A)成分〜(D)成分を含む場合、本発明の癒着防止材の濃度が、整形の分野であれば、好ましくは5〜15重量%、更に好ましくは6〜15重量%又は7.5〜15重量%、特に好ましくは6〜12.5重量%又は7.5〜12.5重量%;消化器の分野であれば、好ましくは10〜20重量%、更に好ましくは15〜20重量%となるように本発明の癒着防止材が水性溶媒と混合されるように設定すればよい。
本発明の癒着防止材は、水と混合して癒着防止用ゲルを調製した後、癒着防止が必要とされる患部(切開・縫合部位)に投与される。本発明の癒着防止材を水性溶媒と混合して得られる癒着防止用ゲルは、調製後(水性溶媒との混合後)5分は流動性が高いゲル状を呈するので、調製後5分以内に患部に投与することが望ましい。本発明の癒着防止材から調製された癒着防止用ゲルを投与する方法については、特に制限されず、例えば、シリンジ、刷毛等で患部に適用すればよい。
本発明の癒着防止材から調製された癒着防止用ゲルの投与量は、患部の状態に応じて適宜設定すればよいが、例えば、癒着防止が求められる患部1cm2当たり、当該癒着防止用ゲルが0.005〜0.1g程度となる範囲が挙げられる。
また、本発明の癒着防止材が適用される身体部位については、癒着防止が必要とされることを限度として特に制限されず、例えば、腹腔内臓器等の消化器部分野であってもよく、また腱、神経、関節等の整形分野であってもよい。特に、腱、神経、関節等の整形分野では、組織構造が微細であり、従来の癒着防止材の使用では当該組織の隅々まで適用することが困難であったが、本発明の癒着防止材を使用して調製した癒着防止用ゲルでは、投与時の粘性が低く流動性が高いため、このような微細な組織構造の部位に対しても隅々まで適用することができるという利点がある。
<癒着防止用ゲル製造キット−1>
前記癒着防止材は、シリンジ内に収容されて、使用時にシリンジ内で水と混合できる形態で提供することによって、臨床現場で簡便に癒着防止用ゲルを調製できる。即ち、本発明は、前記癒着防止材がシリンジ内に収容されてなるゲル製造キットを提供する。
本発明のゲル製造キットにおいて使用されるシリンジについては、特に制限されないが、例えば、先端部にノズルを有するシリンジ本体と、当該シリンジ本体内に挿入されシリンジ本体の軸方向に摺動可能なガスケットと、当該ガスケットを移動操作するプランジャとを備えているものが挙げられる。また、シリンジ本体の容積については、少なくとも1投与分に相当する量の癒着防止用ゲルを収容できる大きさであればよく、例えば1〜20ml、好ましくは2〜10mlが挙げられる。
また、本発明のゲル製造キットは、シリンジ内に前記癒着防止材が収容され、使用時に所定量の水性溶媒をシリンジ内に挿入させて癒着防止用ゲルを調製できるように設定されていてもよく、また、シリンジ内に2つの異なる区画が設けられ、それぞれに前記癒着防止材と水性溶媒が異なる区画に所定量収容され、使用時にシリンジ内でこれらが混合できるように設定されていてもよい。後者の場合、具体的には、シリンジ内に、前記癒着防止材を収容した癒着防止材室と、水性溶媒を収容した水性溶媒室とが相互に分離した状態で含まれており、使用時に当該癒着防止材と水性溶媒が混合できるように構成されていればよい。このように2つの異なる区画が分離して設けられ、使用時に当該2つの区画内の収容物が混合するように設計されているシリンジは、例えば、特開2001−104482号公報等に開示されており公知である。また、シリンジ内で癒着防止材と水性溶媒を混合するには、シリンジ内で癒着防止材と水性溶媒を接触した状態にして前後又は左右に振ることによって行うことができる。
本発明のゲル製造キットにおいて、シリンジ内に収容される前記癒着防止材の量については、少なくとも1投与分に相当する量であればよいが、具体的には0.1〜20g又は0.1〜2g、好ましくは0.2〜10g又は0.2〜1gが挙げられる。また、シリンジ内に前記癒着防止材と水性溶媒を異なる区画に収容する場合であれば、シリンジ内に収容される水性溶媒の量については、前述する癒着防止材と水性溶媒との混合比を勘案して、所望の粘度特性を充足できるように適宜設定すればよい。
また、本発明のゲル製造キットにおいて、シリンジ本体の先端のノズルには、患部に癒着防止用ゲルを吐出させるためのアプリケーター(チューブ状のニードル)が装着されていてもよく、また当該アプリケーターを装着できるように構成されていてもよい。当該アプリケーターの構造については、シリンジ内の癒着防止用ゲルを患部に吐出できることを限度として特に制限されないが、患部への投与簡便性の観点から、樹脂製で弾性がある素材で形成されていることが好ましい。また、このように、アプリケーターが樹脂製で弾性がある素材で形成されている場合、その形状については特に制限されないが、患部への投与簡便性をより高めるという観点から、口径が0.1〜5mm程度で長さが1〜10cm程度であることが好ましい。
本発明のゲル製造キットに使用されるシリンジの一態様を図1に示す。図1に示すシリンジでは、先端部にノズル1を有するシリンジ本体2と、当該シリンジ本体2内に挿入されシリンジ本体の軸方向に摺動可能なガスケット3と、当該ガスケットを移動操作するプランジャ4とを備え、ノズル1に弾性がある樹脂製のアプリケーター5が装着されている。当該アプリケーター5は、ノズル1から取り外された状態で提供され、使用時にノズル1に装着して使用されるようになっていてもよい。
<癒着防止用ゲル製造キット−2>
また、本発明は、前記癒着防止材と水性溶媒とを含み、使用時に粉末状の癒着防止材と水性溶媒を混合して癒着防止用ゲルを得るための癒着防止用ゲル製造キットをも提供する。
当該癒着防止用ゲル製造キットにおける癒着防止材及び水性溶媒の組成、癒着防止材と水性溶媒の比率等については、前記の通りである。
また、当該癒着防止用ゲル製造キットは、前記癒着防止材と水性溶媒が非混合状態で供給され、使用時に前記癒着防止材と水性溶媒が混合されて使用されることを限度として、特に制限されないが、具体的には、前記シリンジに収容されている癒着防止材と、前記シリンジとは別の容器に収容されている水性溶媒とを含む態様(態様例1);連通可能な仕切り手段で仕切られた2つの収容室を有している容器において、癒着防止材と水性溶媒が各収容室に収容されている態様(態様例2)等が挙げられる。
前記態様例1で使用されるシリンジの構造等については、前記の通りである。
また、前記態様例2で使用される容器については、連通可能な仕切り手段で仕切られた2つの収容室を有しており、使用時に押圧、折り曲げ等の外部からに力によって、2つの収容室が連通するように設計されている容器であればよい。このような容器の構造については公知であり、バック形状、バイアル形状等のものが知られている。具体的には、バック形状の容器については特開平4−364851号公報等に開示されており、バイアル形状の容器については、特開2005−6945号公報等に開示されている。また、バイアル形状の容器としては、特開平10−277133公報等に開示されている両頭針を用いて、バイアル形状の容器同士を接続したようにした形状のものも知られている。このようなバック形状の容器及びバイアル形状の容器は、癒着防止材を0.1〜20g、好ましくは0.2〜10g収容することができるので、シリンジ等には収容できない量の癒着防止剤を使用する場合に好適である。また、前記態様例2では、癒着防止材と水性溶媒が予め1つの容器に収容された状態で提供されるので、臨床現場で簡便に癒着防止用ゲルを調製できる点でも利点がある。
以下に、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
試験例1.粘度特性の評価
癒着防止材の調製
約70℃で融解させたマクロゴール4000(三洋化成工業(株)製)に、アルギン酸ナトリウム、リン酸水素カルシウム・2水和物(和光純薬工業(株)製)およびグルコノ−δ-ラクトン(Spectrum Chenmical Mfg.Corp.USP製)を加え、攪拌子を用いて十分に混合した後、自然冷却した。その後、混合物を粉砕し、日本薬局方ふるい番号22号(ふるい目710μm)の篩にかけて、当該篩を通過した粉末状の癒着防止材を得た。各成分の配合量は下表1の通りである。
水との混合後の粘度の測定
上記で得られた各癒着防止材について、精製水との混合後の粘度変化を測定した。具体的には、精製水5mlを入れた10ml容の試験管に、各癒着防止材を表2に示す濃度となるように添加し、ボルテックスミキサーを用いて20秒間撹拌し、癒着防止用ゲルを調製した(処方1〜6)。撹拌終了後を0分として、37℃の温度条件にて癒着防止用ゲルを60分間静置し、経時的に下記測定条件にて37℃での粘度を測定した。なお、本測定における全ての操作は37℃での温度条件下で行った。
装置:粘度・粘弾性測定装置(レオメーター)
温度制御ユニット:ペルチェプレート
測定ジオメトリー:直径35mmのパラレルプレート
ギャップ:1mm
サンプル量:1mL
印加応力:11.90Pa
周波数:0.5000Hz
角速度:3.142rad/s
得られた結果を表2、図2及び3に示す。なお、図2及び3は、同一の実験結果について、縦軸(粘度)のスケールを変えて表示したものである。なお、本試験において、いずれの癒着防止材でも、精製水への溶解性が良好であり、精製水と混合しても、ダマを生じることなく均質なゲルを形成できることも確認された。
また、処方2〜5で調製された癒着防止用ゲルは、調製後5分の時点では、シリンジから吐出させるのに適しており、適用部位の隅々までいきわたらせるための流動性を備えていることが確認された。また、処方2〜5で調製された癒着防止用ゲルは、調製後60分の時点では適用部位で定着し易い低流動性のゲル状になることも確認された。
生理食塩水又は乳酸リンゲル液との混合後の粘度の測定
上記で得られた各癒着防止材について、生理食塩水または乳酸リンゲル液との混合後の粘度変化を測定した。具体的には、生理食塩水又は乳酸リンゲル液(大塚製薬工場製「ラクテック注」)5mlを入れた10ml容の試験管に、各癒着防止材を表3に示す濃度となるように添加し、ボルテックスミキサーを用いて20秒間撹拌し、癒着防止用ゲルを調製した(処方7〜10)。撹拌終了後を0分として、37℃の温度条件にて癒着防止用ゲルを60分間静置し、前記と同様に測定条件にて37℃での粘度を測定した。なお、本測定における全ての操作は37℃での温度条件下で行った。
得られた結果を表3、4及び5に示す。図4及び5は、同一の実験結果について、縦軸(粘度)のスケールを変えて表示したものである。なお、本試験において、いずれの癒着防止材でも、生理食塩水又は乳酸リンゲル液への溶解性が良好であり、生理食塩水又は乳酸リンゲル液と混合しても、ダマを生じることなく均質なゲルを形成できることも確認された。
また、処方7〜10で調製された癒着防止用ゲルは、調製後5分の時点では、シリンジから吐出させるのに適しており、適用部位の隅々までいきわたらせるための流動性を備えていることが確認された。また、処方7〜10で調製された癒着防止用ゲルは、調製後60分の時点では適用部位で定着し易い低流動性のゲル状になることも確認された。
試験例2.腱癒着防止効果
雄性ラット(Crlj:WI)(日本チャールス・リバー株式会社より入手)を用いて、腱の癒着防止効果を評価した。具体的には、まず、ラットの足底部の膜性腱鞘を縦切開後、深趾屈筋腱を露出させ半切りすることにより、腱損傷モデルラットを作製した。別途、精製水に、表1に示す組成の癒着防止材を2.5重量%(処方1)、5重量%(処方2)、10重量%(処方4)、15重量%(処方5)、及び25重量%(処方6)となるように添加してしっかり振って、癒着防止用ゲルを調製し、撹拌終了時点から1分以内に、当該癒着防止用ゲル50μLを、腱損傷モデルラットの半切りした術部及びその周辺に投与した。なお、半切りした腱が、ラット自身の運動により断裂するのを避けるために、坐骨神経を切断して、自動運動を制限した状態で、4週間飼育した。4週間後に、各ラットの長趾屈筋のみをつけた状態で足を足首から切り離した。切り離した足の長趾屈筋に60gの荷重を負荷し、負荷前後の第2趾の中足指節関節(MTP)及び近位指節間関節(PIP)の角度を測定した。下記式に従って、負荷前後の屈折角度の差を算出した。また、比較のために、癒着防止用ゲルの代わりに生理食塩水を投与した場合についても同様に測定した。
得られた結果を図6に示す。この結果から、本発明の癒着防止材から得られた癒着防止用ゲルを投与した場合には、指節間関節の可動域が広がっており、術後の癒着が有効に抑制されていることが確認できた。また、癒着防止材を5〜15重量%となるように精製水に混合して得られた癒着防止用ゲルは、卓越した癒着防止効果が奏されることも明らかとなった。
試験例3.腹膜-盲腸癒着防止効果
雄性ラット(Crlj:WI)(日本チャールス・リバー株式会社より入手)を用いて、Side-wallと盲腸の癒着防止効果を評価した。具体的には、まず、ラット右腹膜外腹斜筋及び内腹斜筋の1×4cmの筋片を切除し、Side-wallを作製した。次いで、Side-wall内をガーゼで擦過した。また、ラットから盲腸を摘出し、全域をガーゼで擦過し、その後、20分間、空気中に曝露した状態で室温にて静置した。その後、生理食塩液(株式会社大塚製薬工場社製)で盲腸を洗浄した。別途、精製水に、表1に示す組成の癒着防止材を15重量%(処方5)となるように添加してしっかり振って、癒着防止用ゲルを調製し、撹拌終了時点から1分以内に、前記洗浄後の盲腸の全域を被覆するように投与した。次いで、Side-wall部分に上記で処理した盲腸を充てて腹腔内に戻して閉腹し、1週間飼育した。1週間後に開腹し、Side-wallと盲腸の癒着の状態を観察した。癒着の状態は、下記に示す判定基準に従って、癒着部位スコアと癒着程度スコアを求め、これらの合計スコアを総癒着スコアとして算出した。なお、本試験では、コントロールとして、癒着防止用ゲルの代わりに生理食塩水を投与した場合についても、同様に試験を行った。
<癒着部位スコア>
スコア:状態
0:癒着なし
1:Side-wall切離部位にのみ癒着が認められる。
2:Side-wall切離部位とSide-wall内の双方に癒着が認められる。
<癒着程度スコア>
スコア:状態
1:軽度癒着;手指で容易に癒着剥離可能な癒着
2:中等度癒着;鈍的な剥離を必要とし、癒着剥離可能な癒着
3:重度癒着;鋭的な剥離を必要とし、組織障害なしでは剥離不可能な癒着
得られた結果を表4に示す。この結果から、癒着防止材を用いて得られた癒着防止用ゲルは、消化器分野においても卓越した癒着防止効果が奏されることが確認された。

Claims (13)

  1. 使用時に水性溶媒と混合して使用される粉末状の癒着防止材であり、
    アルギン酸及び/又はその塩を含み、
    水性溶媒との混合後5分の時点では37℃での粘度が70mPas・s以下であり、水性溶媒との混合後60分の時点では37℃での粘度が120mPas・s以上になるように、水性溶媒と混合して使用される、
    ことを特徴とする、癒着防止材。
  2. 更に、有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩を含む、請求項1に記載の癒着防止材。
  3. 更に、ポリエチレングリコールを含む、請求項1又は2に記載の癒着防止材。
  4. 更に、有機酸及び/又はそのアルカリ金属塩を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の癒着防止材。
  5. 前記有機酸及び/又は無機酸と2価の金属との塩が、有機酸及び/又は無機酸のカルシウム塩である、請求項2に記載の癒着防止材。
  6. 前記有機酸及び/又はそのアルカリ金属塩が、グルコノ-δ-ラクトン、グルコン酸、及びグルコン酸のアルカリ金属塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の癒着防止材。
  7. 使用時に、癒着防止材に含まれるアルギン酸及び/又はその塩が1〜4重量%となるように水性溶媒と混合されるように設定されている、請求項1〜6のいずれかに記載の癒着防止材。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の癒着防止材がシリンジ内に収容されてなる、癒着防止用ゲル製造キット。
  9. 粉末状の癒着防止材と水性溶媒とを含み、使用時に粉末状の癒着防止材と水性溶媒を混合して癒着防止用ゲルを得るための癒着防止用ゲル製造キットであって、
    前記粉末状の癒着防止材が、アルギン酸及び/又はその塩を含み、
    粉末状の癒着防止材と水性溶媒を混合すると、混合後5分間の時点では癒着防止用ゲルの37℃での粘度が70mPas・s以下であり、混合後60分間の時点では癒着防止用ゲルの37℃での粘度が120mPas・s以上になるように設定されている、
    ことを特徴とする、癒着防止用ゲル製造キット。
  10. 粉末状の癒着防止材を収容したシリンジと、水性溶媒を収容した容器とを含む、請求項9に記載の癒着防止用ゲル製造キット。
  11. 連通可能な仕切り手段で仕切られた2つの収容室を有している容器において、粉末状の癒着防止材と水性溶媒が各収容室に分離された状態で収容されている、請求項9に記載の癒着防止用ゲル製造キット。
  12. 請求項1〜7のいずれかに記載の癒着防止材を水性溶媒と混合し、癒着防止が必要とされる患部に適用する工程を含む、癒着防止方法。
  13. アルギン酸及び/又はその塩を含む粉末剤の使用であって、水性溶媒との混合後5分の時点では37℃での粘度が70mPas・s以下であり、水性溶媒との混合後60分の時点では37℃での粘度が120mPas・s以上になるように、水性溶媒と混合して使用される粉末状の癒着防止材の製造のための使用。
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